重力波による観測的宇宙論 -...
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重力波による観測的宇宙論�
京都大学 理学研究科 西澤篤志
2013年12月3-5日 @ 国立天文台 観測的宇宙論ワークショップ 2013
一般相対性理論により予言される、 光速で伝播する時空の歪み
連星パルサーの公転周期の変化 から間接的な証拠は得られている. (Hulse & Taylor が1993年に ノーベル賞を受賞) 未だ直接検出はされていない
重力波の初検出、 一般相対論の直接的検証 重力波天文学、重力波宇宙論
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重力波
公転周期の変化(秒)
年
3
重力波と宇宙論�
インフレーション理論の検証 ダークエネルギー探査
重力理論の精密な検証 コンパクト天体形成過程の解明
背景重力波の観測
• 重力波波形 • 重力波偏極モード • 重力子の質量 • 余剰次元の大きさ
複数のNS・BH連星 (標準音源)
• インフレーション の直接的証拠 • 量子重力理論への 示唆
NSやBHからの 重力波の観測
• 形成時期 • 質量分布 • 形成メカニズム
• 宇宙膨張率や 宇宙大規模構造 の精密測定
修正重力理論 の検証・制限
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目次
1. 標準音源としての重力波 2. 地上重力波検出器の場合 (aLIGO, aVIRGO, KAGRA) 3. 次世代地上重力波検出器の場合 (ET)
4. 次世代スペース重力波検出器の場合 (DECIGO)
5. 宇宙の非一様性を探る
1. 標準音源としての重力波
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連星からの重力波�
インスパイラル 合体 準固有振動
[ Thorne ]
NS-NS 連星や BH-BH 連星
重力波波形 [ Ohme 2012 ]
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標準音源(standard siren)(1)�[ Schutz 1986, Holz & Hughes 2005 ]
連星系からの重力波の観測データより が分かる
€
Mc =(m1 m2)
3 / 5
(m1 + m2)1/ 5
が分かる
エネルギー保存 (軌道エネルギーの減少 = 重力波のエネルギー) より
重力波振幅より光度距離が決まる
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標準音源(standard siren)(2)�
距離梯子が必要無い (振幅の大きさは解析的に計算出来る).
標準光源としての Ia 型超新星とは独立なプローブとなる.
非常にクリーンな信号が得られる (ダストによる減衰が無い).
赤方偏移は不定
重力波によるハッブル図(z, dL)が書け、宇宙膨張測定が可能
電磁波観測からホスト銀河 (赤方偏移) が同定出来れば、 も決まる
(遠くの軽い連星 or 近くの重い連星 ?)
標準音源の利点
ただし、重力波観測で測れるのは
10
標準音源として利用出来るためには (1)
LISA の場合、小さな赤方偏移(z < 0.55)までならおそらく可能
・電磁波の対応天体を観測する 赤方偏移を決定する必要がある
・重力波検出器でホスト銀河候補を1つに特定する
counterpart の観測から波源の方向や z を決定できる。 しかし、観測できるかどうかモデルに依る。不定性大きい。 (e.g. short GRB, SMBH への物質降着)
角度分解能
€
∝λd
DECIGO/BBO の場合、大きな赤方偏移まで可能 [ Arun et al. (2007) ]
[ Cutler & Holz (2009) ]
地上検出器 (aLIGO 等) の場合、候補銀河の数は ~100 at 100 Mpc になる [ Nuttall et al. (2010) ]
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標準音源として利用出来るためには (2)
観測できる距離が大きい 宇宙膨張を測るにはある程度遠方まで観測できる必要あり。 また、ダークエネルギーの時間変化を調べるには 少なくとも z~1.5 までは観測したい。
観測イベント数が多い
弱い重力レンズ効果は 光度距離の統計誤差となる。 ソースが遠くにあり、 イベント数が少ないほど 大きく寄与する。
地上検出器ネットワークでは、~300 Mpc ET, LISA, DECIGO では、z~10
LISA の場合 (SMBH @ z=1 & 3)
[ Holz & Linder 2005 ]
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標準音源と重力波検出器�
検出器
aLIGO, aVIRGO, KAGRA
LISA
DECIGO, BBO
イベント数 (対 lensing error)
観測できる 距離
NS 連星
NS 連星
€
~ 10
€
~ 106
SMBH 連星 several ~ 50
~ 300 Mpc ×
×
○ 電磁波対応天体 があれば OK
○
○ ○
ET
ホスト銀河 の特定
△
ほぼ全ての z で可
×
○
NS 連星 ○ ○ z ~ 10
z ~ 10
z ~ 60
low z のみ可 €
~ 106電磁波対応天体 があれば OK
×
2. 地上重力波検出器の場合 (advance LIGO, advanced VIRGO, KAGRA)
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14
地上重力波検出器
重力波振幅への感度 は ~10倍改善 (~250 Mpc までの NS 連星合体が見える) イベント率 ~1000倍 1年に 0.4 - 40 回の 重力波を検出.
LIGO(米) Advanced LIGO(米・独・英)
VIRGO (伊・仏) TAMA300(日) KAGRA(日)
Advanced VIRGO(伊・仏)
第1世代 第2世代
GEO600(独・英)
(2000年頃 - ) (2015年頃 - )
Frequency [Hz]
Strain [1/rHz]
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標準音源と重力波検出器�
検出器
aLIGO, aVIRGO, KAGRA
LISA
DECIGO, BBO
イベント数 (対 lensing error)
観測できる 距離
NS 連星
NS 連星
€
~ 10
€
~ 106
SMBH 連星 several ~ 50
~ 300 Mpc ×
×
○
○
○ ○
ET
ホスト銀河 の特定
△
ほぼ全ての zで可 ○
NS 連星 ○ ○ z ~ 10
z ~ 10
z ~ 60
low z のみ可 €
~ 106電磁波対応天体 があれば OK
× 電磁波対応天体 があれば OK
×
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波源の赤方偏移をどう決定するか?
波源の赤方偏移分布を統計的に扱う方法 [ Pozzo 2012 ] 完全な銀河カタログが必要だが、電磁波対応天体は不要。
電磁波対応天体として short GRB を用いる方法 [ Nissanke et al. 2013 ] NS 連星合体が SGRB の起源であることを仮定。 電磁波観測により赤方偏移が精度良く決まるとしている。
[ Taylor, Gair, Mandel 2012 ] 電磁波対応天体は不要だが、NS の質量分布の幅が小さくないといけない。
NS 質量分布で赤方偏移を制限する方法
e.g.
電磁波対応天体として SGRB を用いる方法 (1)
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[ Nissanke et al. 2013 ] NS 連星合体が SGRB の起源であり、電磁波観測により 赤方偏移が精度良く決まることを仮定.
68% CL
aLIGO×2 + aVIRGO network
重力波で観測可能な距離は ~300 Mpc => DE パラメータを制限するのは難しい => ハッブル定数のみを制限する
25 GW-EM イベント
5% 精度で H0 を決定可能
電磁波対応天体として SGRB を用いる方法 (2)�
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イベント数はそんなにあるのか?
NS 連星合体率
電磁波の放射が等方的ならば、 (afterglow, kilonova, …)
~60 イベント/yr
[ Abadie et al. 2010 ]
電磁波の放射が beamed (20° のジェット半角) ならば、 (prompt emission) ~0.6 イベント/yr
kilonova は 4-8 m 光学望遠鏡でないと、follow-up 難しい. [ Tanaka & Hotokezaka 2013 ]
10年間観測しても 6 イベント => H0 決定精度は 10 %.
GW-EM イベントはそんなに多くは期待出来ない.
観測されたチャープ質量の分布が狭ければ、 赤方偏移もある程度制限出来る.
NS 質量分布で赤方偏移を制限する方法 (1)
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重力波で測れるのは
[ Taylor, Gair, Mandel 2012 ]
[ Kiziltan et al. 2013] (95% CL)
[ Ozel et al. 2013] (95% CL)
NS 質量分布に対する prior を仮定
観測されている NS 連星全て
観測されている NS 連星 (non-recycled)
ちなみに、
(実際、 は全く決まらない)
NS 質量分布で赤方偏移を制限する方法 (2)�
20
aLIGO×2 + aVIRGO network
フリーパラメータ
100 GW イベントから H0 を 10% 精度で決める ためには でないといけない.
100 GW イベントで H0 決定精度は ~20%.
この方法の可能性は NS の質量分布次第.
波源の赤方偏移分布を統計的に扱う方法 (1)
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SDSS DR8 分光カタログ (z < 0.1, ~36 万個の銀河) を 参照して、ある GW イベント に対する z 分布を導出. (それぞれの銀河は等確率で 重み付けする)
連星の星のそれぞれの質量は 1.0 ‒ 15.0 に一様分布と仮定.
1つの GW イベントに対して、3次元体積 が決まる.
[ Del Pozzo 2012 ]
aLIGO×2 + aVIRGO network では、1 GW イベントに対して 280 個のホスト銀河候補が存在.
波源の赤方偏移分布を統計的に扱う方法 (2) �
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フリーパラメータ
実際、精度良く決められるのはハッブル定数のみ.
aLIGO×2 + aVIRGO network
10 (50) GW イベント
14.5% (5%) 精度で H0 を決定可能
ただし、完全な 銀河カタログが無いと 観測バイアスが入る.
ここまでのまとめ
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[ Planck Collaboration 2013 ] 地上重力波検出器では ハッブル定数を測れる. 現時点ではどの方法が 優れているとは結論出来ない. 精度はそこまで良くないが、 全く独立な観測手法である ことが重要. H0 を精度良く決定すれば、 他の観測と組み合わせること で宇宙論が出来る.
68% CL
3. 次世代地上重力波検出器の場合 (Einstein Telescope)
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ET (Einstein Telescope)
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ヨーロッパの次世代計画
3つの干渉計を地下に設置
アーム長 10 km
aLIGO よりも更に感度10倍向上 2026年観測開始予定
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ET で観測される中性子連星�
z~10 までの NS 連星が 個、観測可能
€
~ 106
€
z
€
104×
Number of NS binary
[ Schneider+ 2001 ] 中性子連星の合体イベント数
NS 連星さえ存在して いれば、ほとんどが DECIGO で観測される
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標準音源と重力波検出器�
検出器
aLIGO, aVIRGO, KAGRA
LISA
DECIGO, BBO
イベント数 (対 lensing error)
観測できる 距離
NS 連星
NS 連星
€
~ 10
€
~ 106
SMBH 連星 several ~ 50
~ 300 Mpc ×
×
○
○
○ ○
ET
ホスト銀河 の特定
△
ほぼ全ての zで可 ○
NS 連星 ○ ○ z ~ 10
z ~ 10
z ~ 60
low z のみ可 €
~ 106電磁波対応天体 があれば OK
× 電磁波対応天体 があれば OK
×
は 12%, 9.5% (68% CL) の精度で決められる.
電磁波対応天体として SGRB を用いる方法�
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検出される NS 連星 SGRB でも観測されるのは5年間で1000個と仮定 ソースは 0 < z < 2 に一様分布 lensing error in : 0.05 z
(z=0.5 までの 50 個のソースを用いて、 0.55% の精度で決定出来るので)
平坦宇宙, w = const. だと
[ Sathyaprakash, Schutz, Van Den Broeck 2010 ]
H0 は固定.
NS の潮汐変形を用いる方法
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NS の潮汐変形による GW 位相のずれ (5PN & 6PN)
NS の状態方程式が分かっていれば、この位相項は決まる. 質量パラメータ が z と独立に決まる.
[Hinderer et al. 2010 ]
NS の状態方程式が予め分かっていないといけない. しかも、この効果は 5 PN なのでモデル化の問題もあり.
z の決定精度: 10 - 50% for NS at z < 1
この効果はかなり小さいので ET で初めて観測可能になる.
[ Messenger & Read 2012 ]
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4. 次世代スペース重力波検出器の場合
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DECIGO 計画�
2028年- 光共振器を利用 干渉計3台 (1クラスター) アーム長: 1000 km フィネス 10
Deci-hertz Interferometer Gravitational wave Observatory�
角度分解能を 上げる
背景重力波 への上げる
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DECIGO で観測される中性子連星
Frequency [Hz]
Strain [1/rHz]
NS 連星が存在さえしていれば、 ほとんどが DECIGO で観測される
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標準音源と重力波検出器�
検出器
aLIGO, aVIRGO, KAGRA
LISA
DECIGO, BBO
イベント数 (対 lensing error)
観測できる 距離
NS 連星
NS 連星
€
~ 10
€
~ 106
SMBH 連星 several ~ 50
~ 300 Mpc ×
×
○
○
○ ○
ET
ホスト銀河 の特定
△
ほぼ全ての zで可 ○
NS 連星 ○ ○ z ~ 10
z ~ 10
z ~ 60
low z のみ可 €
~ 106電磁波対応天体 があれば OK
× 電磁波対応天体 があれば OK
×
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宇宙論パラメータ決定精度
€
h
~2%
~0.1% ~1.5%
BBO で観測される 個の連星を 用いて、宇宙論パラメータを決定する
~10%
平坦宇宙、観測時間 3yr を仮定
Ia 型超新星に比べて、非常に良い決定精度 !!
[ Cutler & Holz 2009 ]
€
~ 105
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ホスト銀河の z の同定
Hubble Ultra Deep Field BBO の場合、角度分解能 1 - 100 秒角平方
€
z
角度内の銀河の数
BBO の視野内の銀河は 1つ以下
ホスト銀河は特定でき、 z は決まると仮定
しかし、個々の銀河の赤方偏移を決めるのは時間がかかる. そもそも銀河が見えない場合もある. 本当に全ての連星の z を決めることは可能か?
[ Cutler & Holz 2009 ]
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( )
将来の銀河分光サーベイ (JDEM, WFIRST, Euclid 等) では、 0.5 < z < 2 の ~ 個の銀河を観測する.
ホスト銀河の z 同定率の見積もり
€
108
よって、赤方偏移が得られる確率は
重力波イベントに特化した分光観測は行わない
※ 簡単のため、各銀河で連星合体が起こる確率は同じとする. 赤方偏移の決定は銀河カタログを参照
ある銀河がカタログに存在している割合
HUDF の観測によると、
Follow-up の成功率
5. 宇宙の非一様性を探る (ET or DECIGO)
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摂動時空を調べる�
背景時空として考えた場合には、ほとんどの理論モデルは LCDM を特殊な場合として含んでいる.
将来的に理論モデル (e.g. ダークエネルギーと修正重力理論) を 区別するためには摂動レベルの観測データが非常に重要 (物質パワースペクトル, 重力レンズ効果, …等.)
現在の観測 (SNe + BAO + CMB + … ) は宇宙項と consistent.
• スカラー場など • 大スケールでの重力理論の修正 • 宇宙項 (真空エネルギー) • ボイドモデル
宇宙加速膨張を説明する様々な”理論”モデル
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重力波の重力レンズ効果�
• 重力波はヌル測地線に沿って 伝搬する途中で銀河や銀河団に よりレンズ効果を受ける. • ソース天体はコンパクト連星.
歪み場はイメージが小さすぎて 観測は出来ない。収束場 (重力波 の ”明るさ” の変化) は観測可能。
• 見かけの光度距離
• 増光率の全天マップが得られれば、重力波により宇宙の大規模構造を 調べることが出来る。
各連星に対して と が決まると、増光率 は宇宙論パラメータの関数として与えられる。
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増光率の角度パワースペクトル�
• を5つの 赤方偏移ビンに分ける ( )
角度パワースペクトル
重み関数
• 赤方偏移の最大値は 2
物質パワースペクトル
• トモグラフィーの手法を 用いて各 z ビン毎のパワー スペクトルを観測出来る.
[ Camera & Nishizawa 2013 ]
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ダークエネルギーへの感度�
FoM
Fraction of z identified sources [%]
観測時間 3yr, は固定 フリーパラメータ
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他の宇宙論パラメータへの制限
• 重力波によって物質のパワー スペクトルに関する情報を 得ることが出来る
• に関しては背景時空の 膨張測定の場合と同程度の 感度
• 重要なことは や , も測れるということ
• ダークエネルギーと修正重力 理論を区別するのに利用可能.
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他の方法
宇宙加速膨張による重力波の位相ずれを用いる方法 (DECIGO) [ Nishizawa et al. 2012 ] 赤方偏移は必要無い。また、NS 質量分布や EOS の仮定も必要無い。 位相ずれは小さいので、多数のソースと長時間観測が必要。
非一様宇宙モデル検証への応用 [ Yagi, Nishizawa, Yoo 2012]
DECIGO でほぼ全ての LTB モデルを棄却出来る
光度距離の双極成分を見る方法 (ET, DECIGO) [ Nishizawa, Taruya, Saito (2011) ] CMB 重心系に対して運動している観測者は光度距離の 双極成分を見ることになる。各 z での H(z) を直接測定出来る。 H(z) は z=1 まで 1.5 - 8 %の精度で決定できる。
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まとめ�
• 重力波で光度距離を測り、電磁波から赤方偏移が分かれば、 宇宙論パラメータを精度良く決めることが出来る。 (ダークエネルギー探査、宇宙の非一様性の測定)
NS連星やBH連星からの重力波は標準音源として利用出来、 次世代の宇宙論プローブとして非常に重要
• 赤方偏移を知らなくても重力波観測だけで宇宙論が出来る方法も 提案されている。 • 標準音源では重力レンズ効果はこれまで雑音として考えられてきたが、 重力波の増光・減光から宇宙の非一様性の情報が得られる。 • どの方法が感度良くて、どう組み合わせるのが良いかは現時点では 結論が出ない (観測の不定性のため)。 しかし、銀河サーベイや天文観測と協力することは重要。 まだまだ議論の余地はあるし、画期的なアイデアが必要。