国際関係論 - 国際制度と国際政治 - u-toyama.ac.jp...international relations theory,...
TRANSCRIPT
国際関係論国際制度と国際政治
伊藤 岳
富山大学 経済学部2018 年度前期
Email: [email protected]
July 26, 2018
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 1 / 41
Agenda
1 戦争の交渉モデル:整理
2 国内政治と国際紛争:政治体制の役割「民主主義の平和」:民主主義体制と紛争の蓋然性
3 国際制度同盟同盟と交渉集団安全保障
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 2 / 41
戦争の交渉モデル:整理
交渉論における戦争原因は,3つに分類できる
1 情報の問題 (information/informational problem)2 コミットメント問題 (commitment problem)3 争点の分割不可能性 (issue individuality)
それぞれの論理は,前掲の 3点に対応
▶ 武力による威嚇:武力による威嚇は,(正確に相手に伝われば) 自らの交渉上の立場を有利にすることもある
▶ 情報の問題▶ 時間の不在:時間的なパワーの変動や「奇襲必勝」は考えない
▶ コミットメント問題▶ 争点の分割可能性:争点あるいは係争対象の「パイ」(e.g., 領土) は自由に分割・配分することができると仮定
▶ 争点の分割不可能性
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 3 / 41
国内政治と国際紛争:「民主主義の平和」論
「民主主義の平和 (democratic peace)」
▶ 主要命題 (1) 民主主義国間の戦争の不在▶ 主要命題 (2) 民主主義国の不戦傾向の不在▶ 主要命題 (2a) 民主主義国と非民主主義国との戦争発生傾向▶ 関連命題:
▶ 民主主義国間の同盟形成・維持傾向▶ 民主主義国の戦勝傾向▶ (より一般的な)「政治体制の平和」
▶ IRに希有な「経験的法則性 (empirical law)」(Levy, 1988)▶ M. Doyle, B. Russetらによる先駆的研究▶ BdM, J. D. Fearon, K. N. Schultz らによるゲーム理論的解釈
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 4 / 41
理論的説明:交渉論
情報の不確実性:政党間競争と透明性 (transparency)
▶ 政党間競争 = 民主主義体制の特徴の一つ▶ 野党の反対や自由な言論空間が,武力行使への決意やコストについての私的情報の秘匿を難しくし,情報の不確実性を小さくする
▶ 野党による「開戦への支持」もある種のシグナルとして働く▶ 政府・与党 (e.g., S1) は私的情報を秘匿する誘因をもつ場合でも,野党は別の誘因をもつから
▶ 国民の支持が高いとき,あるいは与党の決意が強いとき (かつ「上手くいく」なら) ,与党に「賛成」すれば自らの得点にもなる
▶ このとき与党に反対してしまえば,外交上の業績を与党にもっていかれる=⇒ (政府・与党と) 異なる誘因をもつ国内主体の行動が,他国 (e.g., S2) にとって
はシグナルとなる
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 5 / 41
理論的説明:交渉論
情報の不確実性:(国内) 観衆費用
▶ 有権者への説明責任が求められる民主主義体制では,コミットメントの撤回に伴う (国内) 観衆費用が相対的に大きい
▶ 国内世論・有権者の動向が「制約」として働くため,コミットメントの信憑性が高くなる
▶ 観衆費用が大きいほど,コミットメントの撤回が「高くつく」から▶ Tying-hands signal▶ 事例としてのキューバ危機▶ Schelling の直感
▶ 異なる政治体制における観衆費用の「相対的な大きさ」は,(指導者の生命線を握る層への) 説明責任・撤回への懲罰がどの程度制度化されているかに依存する
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 6 / 41
情報の問題:交渉ゲーム (再掲)
Choose cH2(S2 is Sheep)
1− l
Choose cL2(S2 is Wolf )
l
1
0
Propose x
Reject
q, 1− q (現状維持)
Accept
x, 1− x (交渉による解決)
Attackp1 − c1, p2 − cL2 (戦争)
1
0
Propose x
Reject
q, 1− q (現状維持)
Accept
x, 1− x (交渉による解決)
Attackp1 − c1, p2 − cH2 (戦争)
N
S1
S1
SH2
SL2
Note: p2 = 1 − p1. N は偶然手番/自然 (nature), 点線は情報集合 (information set)Kydd. International Relations Theory, Chap. 6
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 7 / 41
情報の問題:交渉ゲーム (再掲)
SL2 との交渉可能領域
SH2 との交渉可能領域
0
Sk2 の理想点
1
S1 の理想点
p1q0 q1 q2 q3p1 − c1 p1 + cL2 p1 + cH2
S1 の戦争の期待利得
SL2 の戦争の期待利得
SH2 の戦争の期待利得
SH2 にとって交渉 ⪰ 戦争の範囲
SL2 にとって交渉 ⪰ 戦争の範囲
S1 にとって交渉 ⪰ 戦争の範囲
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 8 / 41
情報の問題:均衡クラス
1
Prob(S
2is
Wolf),
l
1
0
cH2 − cL2cH2 + c1q − p1 − cL2
q − p1 + c1
Risk of War Equilibrium
Peaceful Revision Equilibrium
Status Quo(No Revision)Equilibrium
q0 q1 q2 q3
p1p1 − c1 p1 + cL2
Status Quo, q
p1 + cH2
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 9 / 41
私的情報の信憑性のある伝達:Tying-Hands (再掲)
Send signal m
Don’t challenge
v1, 0 (現状維持)
Challenge
Don’t fight
−m1, v2 (撤回・宥和)
Fightp1v1 − c1, p2v2 − c2 (戦争)S1S1 S2
観衆費用の論理
▶ m1 が大きくなるほど,S1 にとって “Don’t fight” (威嚇の撤回) が困難になる (利得が小さくなる)
▶ m1 を「大きくしやすいかどうか」は,S1 の特徴・属性に依存する?▶ たとえば,政治体制:民主主義体制と選挙による指導者への懲罰
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 10 / 41
行動の「不自由」と民主主義体制
シェリングの直感 もし行政府が,最善の協定を自由に交渉することができるならば,固定した態度をとることができず,それゆえ争点となっている交渉について譲歩せざるをえなくなってしまう.なぜなら,相手国政府は,アメリカが交渉を打ち切るよりも譲歩しようとすることを知っている,あるいはそう固く信じるからである..... 実現可能性のある協定がある一定の幅をもって存在していること,そしてその結果が交渉に依存することを知る各国の代表者は,しばしば国際交渉において公の声明を出すことで,譲歩を許さない世論を意図的に作り出し,それが相手に明らかとなるならば,最初にとった立場を目に見えるかたちで「最終」的なものにすることができる...... 民主的な政府が世論によって自らの手を縛る力は,全体主義的な政府がそのようなコミットメントを生み出す力と同じではない......[他方で,コミットメントの信憑性を高める手段はすべて,] 交渉の行き詰まりや破綻の可能性を生み出してしまう危険性をもっている.なぜなら,相手が譲歩できる限界以上のものを絶対に譲れない要求として出してしまうかもしれないからである (シェリング 2008[1960]: 28–29).
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 11 / 41
コミットメント問題:ゲームの構造 (再掲)
Wait
2(p1 − c1),2(p2 − c2)
Attack 1
0
Propose x
Reject
2q,2(1− q)
Accept
q + x,1− q + 1− x
Attack q + p1 −∆p− c1,1−q+p2+∆p−c2
S1 S1 S2
パラメータ
▶ 外生的要因によるパワー・シフトを想定 (S2 に有利な変動)▶ ∆p ∈ (0, p1]は「パワー・シフトの大きさ/急激さ」▶ p1 は S1 の t 期の勝利確率,p2 ≡ 1 − p1 は S2 の t 期の勝利確率, ci は Si の戦争コスト, (q, q − 1)は現状の利得配分
▶ q ∈ [p1 − c1, p1 + c2]と仮定 (「今日の合意」はできている)▶ 上の例に照らすと,S1 の最初の手番が t 期,それ以降が t + 1期
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 12 / 41
コミットメント問題:均衡
1
∆p
0
No revision
Preventive war
Peaceful revision
∆p = −q + p1 + c2
∆p = q − p1 + 2c1 + c2
p1 p1 + c2p1 − c1Status Quo, q
c1 + c2
Sizeof
pow
ershift,∆p
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 13 / 41
理論的説明:交渉モデルと国内政治体制
民主主義体制と情報の問題
1 処方箋:民主主義という政治体制が,情報の不確実性を払拭する「処方箋」となり得る
2 副作用:他方で,「副作用」をも同時に高めてしまうかも知れない
民主主義体制とコミットメント問題
1 民主体制の透明性は,先制攻撃の不安から生じるコミットメント問題も緩和し得る (秘密裏の軍事行動が単純に「難しい」)
2 より一般的に,威嚇と同様に「約束のコミットメントの撤回に伴うコスト」も大きくなるならば (∆pが実質的に「目減り」するので),コミットメント問題全般も緩和し得る
いずれの「交渉の失敗」の原因も,民主主義国間では緩和される...?
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 14 / 41
政治体制と国際関係:残る疑問
Conventional wisdom
▶ 民主主義体制による平和▶ 要因としての民主主義体制,国内の政治体制 (と他の要因に着目する反論)▶ 民主主義国間の戦争の不在と制度形成・維持傾向
Remaining puzzles
▶ 国内政治体制も国際制度も,情報の問題やコミットメント問題を払拭する機能をもつ
▶ そもそもそうした効果をもつ政治体制にもかかわず,なぜ民主主義国の間で国際制度 (e.g., 同盟) が形成されるのか?
▶ 政治体制それ自体が上記の意味で「役に立つ」なら,形成・維持に追加的なコストを伴う国際制度は不要では?
▶ 民主主義体制の「情報効果」と「コミットメント効果」
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 15 / 41
国際制度と国際紛争:2つの経路
ここまでの内容
▶ 一定の選好をもつ複数の主体の間の,(戦略的) 相互作用の帰結として,戦争が生じ得る
▶ 2つの主要論理:情報の問題とコミットメント問題▶ 国内政治と国際紛争の関係も検討した▶ 「3つ目の “I”」である制度の影響は?
国際制度
▶ 国際制度は,交渉主体の選好・相互作用に制約を課す▶ その結果として,戦争・平和のような (相互作用の) 政治的帰結も変化し得る
▶ 2つの主要な経路 (武力紛争の場合)▶ 同盟 (alliances)▶ 集団安全保障 (collective security)
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 16 / 41
国際制度と国際紛争:同盟
同盟
自助努力
o 1
1
安全保障政策としての同盟
▶ 安全保障の一義的課題 (1):外部の潜在的脅威の抑止▶ 手段としての自助努力 (e.g., 自前の軍拡) と同盟による集団的自衛
(collective defense)▶ 自助努力ばかりでは資源の浪費・限界があり,同盟ばかりでも不安が生じる
(後述)
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 17 / 41
国際制度と国際紛争:同盟
同盟とは何か
▶ 定義:有事における構成員間の軍事的協力を助ける制度 (institutions thathelp their members cooperate militarily in the event of a war)
▶ 他の制度と同様に,行動の基準,あるいは特定の状況における同盟国の行動についての期待 (expectations) を明示するもの
▶ 目的:外部 (同盟国以外の国家) の抑止や,紛争の帰結を左右すること▶ 基本的に有事を想定した制度▶ しかし,平時から協力メカニズムを準備
▶ 多くの場合,明文化されたフォーマルな制度のみを指す▶ 例:日米同盟,NATO
▶ インフォーマルなものは連携 (alignment) として区別することも▶ 例:有志連合
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 18 / 41
国際制度と国際紛争:同盟
同盟の類型と対称性
▶ 類型:防御同盟 (defensive alliances), 攻撃同盟 (offensive alliances), 中立協定 (neutrality pact), 不可侵協定 (nonaggression pacts)
▶ 対称性:同盟国の勢力バランスや義務は,対称的 (symmetric) な場合も非対称的 (asymmetric) な場合もある
▶ 例:三国同盟と日米同盟,NATOと日米同盟
なぜ同盟なのか?
▶ そもそも,「共通の敵の抑止」のような共通の利益を共有しているなら,コストのかかる同盟は不要では? (あるいは,合理的でない?)
▶ 軍事協力自体は,同盟がなくても可能 (e.g., 有志連合)▶ 一般抑止・緊急抑止いずれについても,拡大抑止の効果は実証的・歴史的に不明瞭 ( ̸= 「役に立たない」)
▶ 反故にされることもある (fear of abandonment へ)▶ 望まない紛争に巻き込まれる可能性も生じる (fear of entrapment へ)
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 19 / 41
抑止の類型論
脅威の類型顕在的な脅威 潜在的な脅威
脅威の対象 自国の相手国 直接緊急抑止 直接一般抑止同盟国の相手国 拡大緊急抑止 拡大一般抑止
Source: Huth (1988: 17)
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 20 / 41
抑止の類型論DoesNot
Threaten
Status QuoCon
cedes
Appeasement
Backs
Dow
n
Not Engage
Backs
Dow
n
Status Quo Revised
S1 S2Threatens
S1Resists
S2Follows Through Fights
War
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 21 / 41
国際制度と国際紛争:同盟
同盟がない場合の交渉可能領域
同盟がある場合の S1 にとっての交渉可能領域
同盟がある場合の S3 にとっての交渉可能領域
0S2 の理想点
1S1, S3 の理想点
pAlliance1 − c1 pAlliance
1 + c2
pAlliance1 − c3
p1 − c1 p1 + c2
同盟による交渉力の向上
▶ S1と S3が共通の利益をもつとき,同盟国の勢力を合計することでより大きな交渉力を得られる
▶ 同盟を形成・維持することで,戦勝確率 p1の向上や,戦争コスト c1の減少は,S1, S3 に有利な交渉結果につながるから
▶ 例:p1 から pAlliance1 への戦勝確率の向上
▶ S2 が「挑戦する誘因」をもち,「信憑性のある威嚇」を行える範囲は減少
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 22 / 41
国際制度と国際紛争:同盟
同盟がない場合の交渉可能領域
同盟がある場合の S1 にとっての交渉可能領域
同盟がある場合の S3 にとっての交渉可能領域
0S2 の理想点
1S1, S3 の理想点
pAlliance1 − c1 pAlliance
1 + c2
pAlliance1 − c3
p1 − c1 p1 + c2
同盟による交渉力の向上とコミットメントの信憑性
▶ しかし,S1 と S3 の利益が「完全には」一致しない可能性▶ また,「一致度合い」について情報の不確実性が存在する可能性▶ S1 と S3 の利益が「完全に一致する」ことを S2 に伝達でき,S2 もそれを信用するなら,コストのかかる同盟 (制度) など不要
▶ 情報の不確実性による戦争生起の論理との論理的類似性▶ 言い換えれば,私的情報の伝達のために「コストのかかる」同盟を形成・維持する誘因が生じる
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 23 / 41
国際制度と国際紛争:同盟
同盟による交渉力の向上とコミットメントの信憑性
▶ 国際社会のアナーキー性故に,共同防衛へのコミットメントは強制されない▶ コミットメントを履行する意志と能力がなければ負担できない,何らかのコストを負担してみせなければ,コミットメントの信憑性を確保できない
▶ 同盟国には,共同防衛の約束のコミットメント▶ 敵対国には,共同防衛の威嚇のコミットメント
▶ 同盟の「不要と思われるコストの高さ」それ自体が,コミットメントの信憑性に貢献する
▶ 同盟の事前コスト:部隊の平時常時駐留のコスト,装備や共同演習のコスト▶ 同盟の事後コスト:コミットメントを撤回した場合の観衆費用▶ Schelling の「仕掛け線論」再び
▶ 「均衡としての制度」と「制度による均衡」▶ 同盟は「主体」ではなく「制度」▶ 国連のような集団安全保障体制も同様
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 24 / 41
国際制度と国際紛争:同盟
同盟がない場合の交渉可能領域
同盟がある場合の S1 にとっての交渉可能領域
同盟がある場合の S3 にとっての交渉可能領域
0S2 の理想点
1S1, S3 の理想点
pAlliance1 − c1 pAlliance
1 + c2
pAlliance1 − c3
p1 − c1 p1 + c2
同盟のジレンマ (Snyder 1984) とコスト
▶ 「巻き込まれる不安 (fear of entrapment)」:「自ら (S3) は現状の方が好ましいものの,同盟国 (S1) にとっては現状より好ましい戦争」に巻き込まれることへの不安が高まる (同盟国の control)
▶ 「見捨てられる不安 (fear of abandonment)」:巻き込まれる不安を縮減しようとして同盟の内実・義務を曖昧にしてしまえば,同盟の義務不履行への不安が高まる (同盟の信憑性)
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 25 / 41
国際制度と国際紛争:同盟
なぜ同盟なのか?
▶ 問い:同盟がなくても軍事協力は可能.しかも同盟は高コスト,歴史的にも機能不全はあった
▶ 遵守された同盟は約 70%▶ 国力・国内政治体制の変容は,合意の反故に繋がる傾向 (Leeds 2003; Leeds
and Anac 2005; FLS, 196)▶ 回答:アナーキーな国際社会において,「高コスト」という性質が同盟に交渉上の利益をもたせる
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 26 / 41
国際制度と国際紛争:同盟
なぜ同盟なのか?
▶ 「高コストであるにもかかわらず」というより,「コストが高いからこそ」同盟がコミットメントの信憑性を向上させる手段となる
▶ 「国内の基地問題というコスト」も国際政治的意味を持ち得る▶ 日米同盟と集団的自衛権?
▶ (抑止型の) 威嚇の目的は,「事̇前̇に̇抑止することであって,事̇後̇的̇に̇復讐することではない」(シェリング)
▶ 注意:コミットメントの信憑性を高めることは,「交渉の行き詰まりや破綻の可能性を生み出してしまう危険性をもっている」(シェリング)
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 27 / 41
国際制度と国際紛争:同盟
同盟は機能するのか?
1 同盟国間の共通の利益,またその認識と程度2 同盟国の選好に,「同盟義務の履行 ≻ 同盟義務の反故 (見捨てる)」となるだけの制約を課せられるか (「見捨てられる不安」の払拭)
3 敵対国に,(1) と (2) を信憑性のある形で伝達できるか4 同盟国が抱く「巻き込まる不安」を縮減できるか
冷戦期の同盟の特殊性
1 米ソという 2つの超大国の存在:国際システムにおける出来事,紛争に対する米ソの利害についての不確実性の小ささ
▶ Waltz の二極安定論2 同盟の制度化の深化:軍事・政治・経済的関係の制度化
▶ Schelling の「仕掛け線論」
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 28 / 41
国際制度と国際紛争:同盟
公然と表明
https://goo.gl/SAiQVc
連携強化
http://www.mod.go.jp/e/jdf/no60/activities.html
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 29 / 41
国際制度と国際紛争:同盟統合的意思決定
https://nationalinterest.org/node/11124
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 30 / 41
国際制度と国際紛争:同盟国内政治的コスト
https://goo.gl/5aFvk6伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 31 / 41
「抑止」力,「防衛」力,威嚇の信憑性 (再掲)
Schellingの「仕掛け線 (trip-wire)」論[トルーマン] 政権が,議会に対して米軍の欧州における平時駐留の承認を要請した際,以下のような議論が明示的になされた.すなわち,米軍兵力は優位に立つソ連軍に対して [西欧を] 防衛するために配備されるのではなく,西欧に対するいかなる攻撃に対してもアメリカが自動的に関与することを,ソ連に確信させるために配備される (Schelling 1966: 47, 訳文は中西・石田・田所: 150 修正)
[戦略的な脅しの] 目的は,事̇前̇に̇抑止することであって,事̇後̇的̇に̇復讐することではない.脅しに信憑性を付与するためには,脅しを実行しなければならないこと,またはそうするインセンティヴが自分にあること [,]もしくは実行しなければ懲罰が自分に科せられるので,そうせざるをえないことを証明しなければならない.ヨーロッパにアメリカが軍隊を「トリップ・ワイヤー (trip wire)」として駐留させているのは,(中略) ヨーロッパで戦争が起こればアメリカが必ず参戦すること,つまり,コミットメントからの逃亡が物理的に不可能であることをソ連に確信させるためである (シェリング2008[1960]: 195)
▶ 駐留米軍は,軍事的な力 (防衛力) ではなく政治的な力 (抑止力)▶ 駐留米軍という「仕掛け線」の存在が,威嚇と約束に信憑性をもたせる
▶ 同盟国に対しては,共同防衛の約束に信憑性をもたせる▶ 敵対国に対しては,共同防衛の威嚇に信憑性をもたせる
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 32 / 41
国際制度と国際紛争:集団安全保障
集団安全保障 (collective security) とは何か
▶ 集団安全保障 (体制):集団の構成員 (国家) の安全に対する侵害を,集団全体の安全を侵害する行為と捉え,集団全体の安全を維持・回復するために集団的措置をとることについて,個々の構成員が事前に確約する体制 (副教本中西・石田・田所本 178頁)
▶ 安全保障の一義的課題 (2):内部の潜在的脅威の抑制▶ 同盟が「特定の共通の脅威」を想定するのに対して,集団安全保障は広く (潜在的) 脅威一般を想定する
▶ 同盟 (e.g., 日米同盟) の場合脅威は「外」にあり,集団安全保障 (e.g., 国連) の場合脅威は「内」にある
▶ 交渉過程を自らと同盟国に有利なように変化させることを志向する同盟と,非平和的現状変更を抑止する集団安全保障
▶ 同盟と異なり,その構成員は広範▶ あるいは,国際社会 (「平和愛好国」) 全体
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 33 / 41
国際制度と国際紛争:集団安全保障
国内類推論としての集団安全保障体制
▶ 国内社会における共通の政府・公権力の存在と安定,国際社会におけるその不在
▶ 公権力が構成員の「適切な行動の範囲」を画定し,かつその実現を担保する例 武力による現状変更の抑止
▶ 公権力の「機能代替」としての集団安全保障体制
国内類推論 (domestic analogy) の国際秩序論 (復習)
▶ 国内秩序について成り立つ命題が国際秩序においても成り立つだろうと推定して国際秩序を理解しようとする思考方法
▶ 「公権力/権威の不在」という国際秩序の問題
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 34 / 41
国際制度と国際紛争:集団安全保障
交渉過程と集団安全保障体制
1 戦争・武力行使の「うまみ」の減少例 「信憑性のある威嚇」が可能な交渉状況の縮減
2 パワー・シフトに対する不安の払拭例 合意の third-party enforcement, 予防戦争の誘因の低減,シフト後の戦争への制裁コスト
3 「仕掛け線」としての平和維持部隊例 ゴラン高原における部隊の展開と奇襲優位
集団安全保障の機能不全?
▶ 集団安全保障体制は,「機能すれば」上記のような効果を持ち得る▶ しかし,そのためには課題がある
▶ 集合行為問題とただ乗りの誘因▶ 意思決定を巡る対立
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 35 / 41
信憑性の「ある」威嚇 (credible threat, 再掲)
交渉可能領域
0
S2 の理想点
1
S1 の理想点
qp1p1 − c1 p1 + c2
S1 の戦争の期待利得
S2 にとって交渉 ≻ 戦争の範囲
S2 の戦争の期待利得
S1 にとって交渉 ≻ 戦争の範囲
Case 2
▶ 状況:1 − q < p2 − c2 ⇐⇒ q > p1 + c2: S2 にとって,戦争 ≻ 現状▶ 均衡:S1 は最適提案 x∗ ≡ p1 + c2 を提案し,S2 は x ≤ p1 + c2 ならば受諾
(“Accept”), x > p1 + c2 ならば攻撃 (“Attack”)▶ 解釈:S2 に有利な現状変更が生じる.武力による威嚇 (“Attack”の選択肢)によって,S1 から譲歩を引き出せる
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 36 / 41
国際制度と国際紛争:集団安全保障
集合行為問題
▶ 集団安全保障の目的である国際社会の安定・平和は,構成員の共通の利益,あるいは公共財
▶ 共通の利益を認識する集団でさえ (あるが故に),その実現は困難 (集合行為問題)
▶ 共通の利益を認識する他者の努力・貢献に「ただ乗り」すれば,費用を負担せずに利益のみを享受できる
▶ 「弱者による強者の搾取 (exploitation of the great by the small)」(Olson) さえ生じ得る
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 37 / 41
国際制度と国際紛争:集団安全保障
意思決定を巡る対立
▶ 集団安全保障の目的を達成するには,「共通の利益の侵害」を認定することが出発点
▶ しかし,何が「国際の平和」への脅威であり,侵略行為か? 認定してしまえば,交渉による解決を放棄しなくてはならない
1 「脅威を認定する側」と「認定される側」の対立2 「脅威を認定する側」同士の対立 (e.g., 国連安保理での米ソの対立)
▶ さらに,「脅威の認定」が直ちに「脅威の縮減」を意味する訳ではない▶ 例:安保理決議とイラク (湾岸戦争~イラク戦争)
▶ 「法律家的・道徳家的アプローチ」批判 (Kennan) と現実主義者の深慮(prudence)
▶ 「平和的現状変更」の仕組み?
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 38 / 41
国際制度と国際紛争:集団安全保障
「仕掛け線」としての国連部隊?
▶ ゴラン高原における国連平和維持部隊の展開▶ 坂本義和の「中立論」(「中立日本の防衛構想」)とシェリングの「仕掛け線」論
▶ 日米同盟に替えて,中立国の部隊からなる「国連警察軍」を「平時常時駐留」▶ 「完̇全̇に̇防衛的性格のものであることが誰の眼にも明らか」な武力▶ したがって,先制攻撃に使用することはできない武力▶ しかし,日本に対する攻撃は,直ちに中立国あるいは国際社会全体に対する攻撃となる
▶ コミットメント問題との論理的接合
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 39 / 41
コミットメント問題:先制攻撃の優位 (first-strikeadvantage, 再掲)
相手国の不安を掻き立てることなく,当該国の不安を払拭することはできないのか......リアリストは,潜水艦発射弾道ミサイルのように,当時の軍事技術をもってすれば必ずしも命中精度は高くないために,「報復のための兵器を確実に破壊することはできないものの,非戦闘員には十分な損傷を与えることのできる兵器」こそがそれに該当する,という議論を展開した.というのは,そのような性格を具備した兵器は,先制攻撃を自制するという約束の信頼性を損なうことなく,攻撃に対しては反撃するという威嚇に信頼性をもたらすと考えたからである.相手国の兵器 (先制攻撃に対する反撃に使用される「第二撃」兵器) を破壊することなく,人間 (都市の住民) だけを殺傷する兵器こそが,安全保障のディレンマを深刻化させないという意味において「良い兵器 (good weapon)」だ,とする倒錯に論理があるとすればこれである (Tucker 1960: 140).
中西・石田・田所本 159頁
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 40 / 41
国際制度と国際紛争:集団安全保障
言葉と行動(キューバ危機において)「ソ連は,アメリカの要求に応じて,キューバからミサイルを引き上げた.そのことによって,ソ連は,ソ連の目的は攻撃的・侵略的ではないことを,単にことばで述べるだけではなく,ミサイルの撤去という具体的な行為によって,証示し保障したということができる.つまり,ソ連がキューバのミサイルは純防衛的なものだといかに言葉で確約してもこのミサイルはあくまでも攻撃的なものとアメリカが受取る可能性はなくならない.しかしその可能性はソ連のミサイル撤去によって消滅した.そしてそうすることによってソ連はアメリカも同じように,アメリカの政策はソ連やキューバを攻撃・侵略する目的をもたないということを,ことばだけでなく,なんらかの行為によって示すことを期待したと解釈することができよう.
坂本 (1959: 73)
▶ シェリングの議論との共通性
伊藤 岳 (Univ Toyama) 国際関係論 July 26, 2018 41 / 41
次回・補講の内容と課題文献
▶ 補講:8/1 (Thu) 14:45– (2コマ以内)▶ 国際制度の役割,内戦▶ リスケした方が場合は申し出ること▶ 落ち穂拾い▶ 課題文献 (必須)
▶ FLS (教科書) 第 6章▶ Walter, Barbara F. 2009. “Bargaining Failures and Civil War.” Annual Review
of Political Science 12: 243–261▶ 副読本・論文 (推奨)
▶ Brett Ashley Leeds. 2003. “Alliance Reliability in Times of War: Explaining StateDecisions to Violate Treaties” International Organization 57(4): 801–827.
▶ James D. Morrow. 2000. “Alliances: Why Write Them Down?” Annual Review ofPolitical Science 3: 63–83.
▶ Glenn H. Snyder. 1984. “The Security Dilemma in Alliance Politics” World Politics36(4): 461–495.