重要事項のまとめ - z会数式基礎 2 1.数の理論(Ⅰ)〜無限小数 分数 8 5...

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20 2 数式基礎 数式は数学の言語である.その数式の扱い方について,本章では大きく 数の理論,式の計算,方程式,等式と不等式 の4つに分けて,差がつきやすい処理や大切な考え方,重要な手法などを確認していく.数式というと,計 "面倒といったイメージを抱きがちだが,やみくもに式をいじることが計算ではない.この機会に基本的 な考え方や処理のコツを再確認し,日頃の演習をより効果的なものにしてほしい. 重要事項のまとめ 以下複号同順とする◆絶対値の処理 A B = , A=!BBF0 , A 2 =B 2 BF0 ◆根号の処理 A B = , A=B 2 BF0 ◆2重根号 a b ab a b 2 ! ! + = p q 2 ! に対してa+b=pab=q をみた す正の数 ab が存在するとき2 重根号をはず せる◆複素数の相等,無理数の相等 i を虚数単位としpqrs を実数とするとき p+qi=0 , p=0q=0 p+qi=r+si , p=rq=s a を無理数としpqrs を有理数とする とき p+q a =0 , p=0q=0 p+q a =r+s a , p=rq=s ◆1の虚数立方根 ~ 1 の虚数立方根を ~ とすると i 2 1 3 ! ~ = - ~ 2 +~+1=0~ 3 =1 ◆展開・因数分解などの重要公式 〈たすきがけ〉 ( x+a)( x+b)=x 2 +( a+b)x+ab ( ax+b)( cx+d)=acx 2 +( ad+bc)x+bd n 乗〉 ( a!b) 2 =a 2 !2ab+b 2 ( a!b) 3 =a 3 !3a 2 b+3ab 2 !b 3 一般に C a b a b n n k n k k k n 0 + = - = ] g ! 2 項定理n ! n 乗〉 ( a+b)( a-b)=a 2 -b 2 ( a!b)( a 2 "ab+b 2 )=a 3 !b 3 一般に n の偶奇によらず ( a-b)( a n-1 +a n-2 b++b n-1 )=a n -b n でありとくに n が奇数ならば ( a+b)( a n-1 -a n-2 b++b n-1 )=a n +b n 〈その他〉 a 3 +b 3 =( a+b) 3 -3ab( a+b) a 3 -b 3 =( a-b) 3 +3ab( a-b) a 2 +b 2 +c 2 -ab-bc-ca = 2 1 {( a-b) 2 +( b-c) 2 +( c-a) 2 } a 3 +b 3 +c 3 -3abc =( a+b+c)( a 2 +b 2 +c 2 -ab-bc-ca) ( a 2 +b 2 )( x 2 +y 2 )=( ax!by) 2 +( bx"ay) 2 ラグランジュの恒等式◆除法の原理 f( x ) g( x ) で割った商を q( x )余りを r ( x ) とすると f( x )=g( x )q( x )+r ( x ) ただしr ( x ) 0 または g( x ) より低次◆剰余定理,因数定理 f( x ) x-a で割った余りを r とすると r=f( a ) またf( x ) x-a で割り切れるための条件は f( a )=0 ◆2次方程式の解の公式 abc は実数とするax 2 +bx+c=0a]0の解は x a b D 2 ! = - D=b 2 -4acax 2 +2b’ x+c=0 a]0の解は ac - x a b D D D b 4 2 ! = - = = d n ZM1A10-22ZZ-01

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Page 1: 重要事項のまとめ - Z会数式基礎 2 1.数の理論(Ⅰ)〜無限小数 分数 8 5 を小数で表してみよう.そのためには,右図Ⅰのような筆算を実行すれ

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2章 数式基礎

 数式は数学の言語である.その数式の扱い方について,本章では大きく 数の理論,式の計算,方程式,等式と不等式の4つに分けて,差がつきやすい処理や大切な考え方,重要な手法などを確認していく.数式というと,計算"面倒といったイメージを抱きがちだが,やみくもに式をいじることが計算ではない.この機会に基本的な考え方や処理のコツを再確認し,日頃の演習をより効果的なものにしてほしい.

重要事項のまとめ

※ 以下,複号同順とする.◆絶対値の処理 A B= , A=!B,BF0

, A2=B2,BF0

◆根号の処理 A B= , A=B2,BF0

◆2重根号 a b ab a b2! !+ =

※ p q2! に対して,a+b=p,ab=q をみた

す正の数 a,b が存在するとき, 2 重根号をはずせる.◆複素数の相等,無理数の相等 i を虚数単位とし,p,q,r,s を実数とするとき p+qi=0 , p=0,q=0

p+qi=r+si , p=r,q=s

  a を無理数とし,p,q,r,s を有理数とするとき p+q a =0 , p=0,q=0

p+q a =r+s a , p=r,q=s

◆1の虚数立方根 ~  1 の虚数立方根を ~とすると

i

21 3!

~=-

~2+~+1=0,~3=1

◆展開・因数分解などの重要公式〈たすきがけ〉 (x+a)(x+b)=x2+(a+b)x+ab

(ax+b)(cx+d)=acx2+(ad+bc)x+bd

〈n乗〉 (a!b)2=a2!2ab+b2

(a!b)3=a3!3a2b+3ab2!b3

一般に

Ca b a bnn k

n k k

k

n

0+ = -

=

] g !  ( 2 項定理)

〈n乗! n乗〉 (a+b)(a-b)=a2-b2

(a!b)(a2"ab+b2)=a3!b3

一般に n の偶奇によらず (a-b)(an-1+an-2b+…+bn-1)=an-bn

であり,とくに n が奇数ならば (a+b)(an-1-an-2b+…+bn-1)=an+bn

〈その他〉 a3+b3=(a+b)3-3ab(a+b)

a3-b3=(a-b)3+3ab(a-b)

a2+b2+c2-ab-bc-ca

  =21

{(a-b)2+(b-c)2+(c-a)2}

a3+b3+c3-3abc

  =(a+b+c)(a2+b2+c2-ab-bc-ca)

(a2+b2)(x2+y2)=(ax!by)2+(bx"ay)2

(ラグランジュの恒等式) ◆除法の原理 f( x ) を g( x ) で割った商を q( x ),余りを r( x )

とすると f( x )=g( x )q( x )+r( x )

(ただし,r( x ) は 0 または g( x ) より低次) ◆剰余定理,因数定理 f( x ) を x-a で割った余りを r とすると r=f( a )

また,f( x ) が x-a で割り切れるための条件は f( a )=0

◆2次方程式の解の公式 a,b,c は実数とする.ax2+bx+c=0 (a]0)の解は

xa

b D2!

=-  (D=b2-4ac)

ax2+2b’x+c=0(a]0)の解は

ac-’ ’

’ ’xa

b DD

Db

42!

=-

= =d n

ZM1A10-22ZZ-01

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数式基礎

2

1. 数の理論(Ⅰ)〜無限小数

 分数85 を小数で表してみよう.そのためには,右図Ⅰのような筆算を実行すれ

ばよい.すると,筆算は小数第 3 位で終わって,答は 0.625 となる.

 これに対して,分数113 を小数で表そうとすると,筆算は右図Ⅱのようになり,

網かけ部分は 3,8,3,8,… と同じ数字が繰り返して登場するため,いつまでも筆算が終わらない.そこで,この小数を 0.272727…と,「…」を用いて表す.このように,特定の桁で終わらずに続いている形の小数を無限小数といい,これに対して通常の 0.625 のように特定の桁で終わっている小数を有限小数という. 無限小数のうちで,上の 0.272727… のように,同じ数字の並びが繰り返し登場するものを循環小数という.循環小数を正確に表すためには,「…」ではなく,次のように繰り返しの部分(循環節という)の最初と最後の数字に「

4

」をつけて表す. 0.38

44

"0.383838… のこと     1.230444

"1.23040404… のこと 8.2

4

"8.222… のこと     4.074

254

"4.0725725725… のこと なお,1.41421536… のように,数字の並びが繰り返しになっていない無限小数は,非循環小数とよばれる.

であり D>0 (D’ >0)のとき,異なる 2 つの実数解 D=0 (D’=0)のとき,重解(実数) D<0 (D’ <0)のとき,異なる 2 つの虚数解◆解と係数の関係  2 次方程式 ax2+bx+c=0 の解を a,bとすると

a+b=ab

- ,ab=ac

  3 次方程式 ax3+bx2+cx+d=0 の解を a,b,cとすると

a+b+c=ab

- ,ab+bc+ca=ac ,

abc=ad

-

◆共役解 実数係数の n 次方程式が虚数 p+qi(p,q は実数で q]0)を解にもつとき p-qi も解 有理数係数の n 次方程式が無理数 r s v+ (r,s,v は有理数)を解にもつとき s vr- も解

◆相加・相乗平均の関係 a,b,c を正とするとき

a b

ab2

F+  (等号成立は a=b)

a b c

abc3

3F+ +  (等号成立は a=b=c)

◆3角不等式

a b a b a b!E E- +

(等号成立は a 0= または b 0=

� または a b' ) 実数 a,b に対して a b a b a b!E E- +

(つねにどちらかの等号が成り立つ)◆コーシー・シュワルツの不等式

a b a b2 2 2

$ E_ i

(等号成立は a 0= または b 0=

� または a b' )平面のとき,成分で表すと (ap+bq)2E(a2+b2)(p2+q2)

空間のとき,成分で表すと (ap+bq+cr)2E(a2+b2+c2)( p2+q2+r2)

ZM1A10-22ZZ-02

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参考参考 循環小数は有理数であり,非循環小数は無理数であることが知られている.

例題1例題1 循環小数 0.1

4

354

を既約分数の形に直せ.

解答

 題意の循環小数を x=0.1

4

354

  ………………………………………………………①とおくと 1000x=135.1

4

354

  ………………………………………………②であるから,②-①より

999x=135   ∴ x=999135

375

=   (答)

補足補足 なお,有限小数 0.625 が 106

102

105

2 3+ + という意味であるのと同様,無限小数 0.135135135… とい

うのは,数学Ⅲで学ぶ無限級数を用いれば

10 10 10

510 10 10 10 10

31051 3 1 3 5 1

2 3 4 5 6 7 8 9 …+ + + + + + + + +

    =101

103

105

101

101

103

105

10 101

103

1051

2 3 2 3 2 33 6 …+ + + + + + + + +d d dn n n

である.すなわち,循環小数 0.14

354

とは初項10 10 10

51 32 3+ + ,公比

1013 の無限等比級数の和であり,それ

を計算すると375 となる.

2. 数の理論(Ⅱ)〜整数部分・小数部分

 実数 x を,整数 m および,0 以上 1 未満の小数 aを用いて x=m+a

と表したとき,m を x の整数部分,aを x の小数部分という. 「x の整数部分」を表すために,ガウス記号とよばれる記号 [ x ] を使うこともある.

例例 42.195 の整数部分は 42 で,小数部分は 0.195 である.例例 円周率 r(]3.14159)の整数部分は 3 で,小数部分は r-3(]0.14159) である.例例 [3.1]=3,[3.0]=3 であり,[-3.1]=-4 である.

 実数 x の整数部分を m とするとき,x の小数部分は a=x-m と表されるので,aが 0 以上 1 未満であるという条件から 0Ex-m11 が成り立つ.この式を変形すると,次の式が得られる. 0Ex-m11 , mEx1m+1

, mEx かつ x1m+1 , x-11mEx

 これらは,整数部分(ガウス記号)に関する不等式を考える際には基本になる不等式である.

0.135135135… ということ.0.135135135… ということ.

循環節が 3 桁なので,ちょうど循環節の分だけずれるよう,1000 をかけた.

循環節が 3 桁なので,ちょうど循環節の分だけずれるよう,1000 をかけた.

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数式基礎

2

3. 数の理論(Ⅲ)〜有理数と無理数

 21 や

35

414

,- =d n のように,整数 m,n(ただし,n]0)を用いてnm の形に表すことのできる数を有

理数といい,実数のうち有理数でないものを無理数という.ここで,aを有理数とするとき

nm

a=  (m,n は互いに素な整数)  ……………………………………………………①

と書くことができることに注意しよう(既約分数になるまで約分すればよい).当たり前のことではあるが,次の例題のように有理数・無理数に関する問題ではカギになることも多い重要な性質である.

有理数の既約分数表示1 有理数の既約分数表示1 有理数 aは,

nm

a= (m,nは互いに素な整数)の形に表すことができる.

例題2例題2  2 が無理数であることを証明せよ.

 実数 2 が “無理数である” とは “有理数でない” ということであり,背理法を用いて示すのがよい.すなわち, 2 が有理数と仮定することで矛盾を導けばよく,その際①の表示がポイントとなる.

解答

  2 が有理数と仮定すると,互いに素な整数 m,n を用いて

nm

2 =

と表すことができる.すると n m2 =    ∴ 2n2=m2  ………………………………②となる.これより m2 は 2 の倍数であるが, 2 は素数であるから,m は 2

の倍数となる.よって,整数 m’ を用いて m=2m’ と表せて,このとき 2n2=4m’ 2   ∴ n2=2m’ 2

となるから,②と同様に考えると n は 2 の倍数である.これは,m と n

が互いに素な整数であることに反する.すなわち, 2 が有理数であるとすると矛盾が生じるから,実数 2 は無理数である. (証終)

補足補足 一般に,p が素数のとき p が無理数であることは上と同様にして示せる.なお,「例題9」で a=0,b=-N とすれば,平方根 N が有理数となるような整数 N は平方数( N が整数)に限るとわかる.

ここから,各辺の素因数分解において素数 2 が登場する回数を比較してもよい(2n2には素数 2

が奇数回,m2には偶数回現れる).

ここから,各辺の素因数分解において素数 2 が登場する回数を比較してもよい(2n2には素数 2

が奇数回,m2には偶数回現れる).一般に,整数の積 ab が素数 p

の倍数のとき,a,b の少なくとも一方は p の倍数.

一般に,整数の積 ab が素数 p

の倍数のとき,a,b の少なくとも一方は p の倍数.

背理法( 1 集合と論理 88参照).背理法( 1 集合と論理 88参照).

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4. 式の計算(Ⅰ)〜乗法の計算(展開)

 文字式の積を計算するには

(a+b)(x+y+z)=ax+ay+az+bx+by+bz

のように分配法則を用いるか,「◆展開・因数分解などの重要公式」を利用するのが基本だが,速く正確に処理する工夫について確認しよう.

例題3例題3 次の式を計算せよ.( 1) (x+1)5+(x3-2x2+3)(2x2-3x-1)   ( 2) (x+y+z)(x-y-z)

( 1) 2 項定理や縦書きの計算をうまく利用しよう.( 2) 項の組合せを工夫して公式を活用しよう.

解答

( 1) 下図のパスカルの 3 角形から (x+1)5=x5+5x4+10x3+10x2+5x+1

 また,右下図の縦書きの計算より (x3-2x2+3)(2x2-3x-1)=2x5-7x4+5x3+8x2-9x-3

 したがって (与式)=3x5-2x4+15x3+18x2-4x-2  (答)

1   5  10 10  5   1

1   4   6   4   1

1   3   3   1

1   2   1

1   1

  

2 -4   0   6      -3   6   0 -9   

-1   2   0 -3

#)     2 -3 -1

1 -2   0   3

2 -7   5   8 -9 -3

( 2) (与式) ={x+(y+z)}{x-(y+z)}=x2-(y+z)2

=x2-y2-z2-2yz  (答)

■2項定理の利用  2 項定理は,文字式の展開に関する定理である.一般に (x+a)3=x3+3ax2+3a2x+a3

(x+a)4=x4+4ax3+6a2x2+4a3x+a4

    ……

(x+a)n= C a xn kk n k

k

n

0

-

=

!

であり,nCk は定義に戻って計算してもよいが,右図のようにパスカル

の 3 角形( 8 場合の数と確率 参照)を利用するとよい.もちろん

(x+1)5=(x+1)2(x+1)3=(x2+2x+1)(x3+3x2+3x+1)=…のように計算するのも 1 つの方法だが,やや遠回り.

パスカルの 3 角形で 5Ck の値を求める.パスカルの 3 角形で 5Ck の値を求める.

2 項定理.2 項定理.縦書きで計算するのが早い.縦書きで計算するのが早い.

ここでは丁寧に示したが,実際にはこの辺りの計算は計算用紙で行う.

ここでは丁寧に示したが,実際にはこの辺りの計算は計算用紙で行う.

項の組合せを考える. (A+B)(A-B)=A2-B2

項の組合せを考える. (A+B)(A-B)=A2-B2

 (y+z)2=y2+2yz+z2 (y+z)2=y2+2yz+z2

1   5  10 10  5   1

1   4   6   4   1

1   3   3   1

1   2   1

1   1

1   6  15 20 15  6   1

1   5  10 10  5   1

1   4   6   4   1

1   3   3   1

1   2   1

1   1

1   6  15 20 15  6   1

ZM1A10-22ZZ-05

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数式基礎

2

■縦書きの計算(乗法) (x3-2x2+3)(2x2-3x-1) のように,x の多項式の積を計算する場合,縦書きの計算(筆算)を利用するのもラク.とくに,係数のみを抜き出して計算 すると早い.

x3の係数 x2 の係数 x の係数 定数項

1 -2 0 3

#) 2 -3 -1

-1 2 0 -3

-3 6 0 -9

2 -4 0 6

2 -7 5 8 -9 -3

x5 の係数 x4 の係数 x3 の係数 x2の係数 x の係数 定数項

x3-2x2+0・x+3

2x2-3x-1

係数を抜き出す

#-1!

#! -3

# 2!

■公式の利用と項の組合せ 展開公式をそのまま利用できる case はごくわずかであり 項の組合せや置き換えによって,公式に帰着させるのがポイント.「例題3」の( 2)も丁寧にやるなら,y+z=Y と置き換えて (x+y+z)(x-y-z) =(x+Y)(x-Y)=x2-Y2

=x2-(y+z)2=…となるが,慣れてくれば直接「解答」のようにするとよい.

5. 式の計算(Ⅱ)〜除法の計算

 整式(x の多項式)が 2 つあるとき,整数と同様に除法が定義される.その定義は「◆除法の原理」にあるとおりだが,ここでは計算の方法について確認しよう.

例題4例題4 次の割り算の商と余りを求めよ.( 1)(2x4+5x3+5x2+5x+2)'(x2+2x+3)   ( 2)(x4-x2)'(x+2)

 ( 1)は係数を抜き出して計算すると早い.( 2)は組立除法を利用するとラクである.

解答

 下の計算より ( 1) 商:2x2+x-3,余り:8x+11  (答) ( 2) 商:x3-2x2+3x-6,余り:12  (答)( 1)

1 2 3 2 5 5 5 2

2 4 6

1 1 5

1 2 3

3 2 2

3 6 9

8 11

2 1 3

-

-

- - -

-g

  ( 2) ( 1)は係数を抜き出して縦書き(筆算)で計算し,( 2)は組立除法を用いる.

( 1)は係数を抜き出して縦書き(筆算)で計算し,( 2)は組立除法を用いる.

 1  0 -1  0  0

  -2  4 -6 12

 1 -2  3 -6 12

-2 1  0 -1  0  0

  -2  4 -6 12

 1 -2  3 -6 12

-2

ZM1A10-22ZZ-06

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■縦書きの計算(除法) 除法の計算は教科書で詳しく説明されているので,今さら説明する必要はないだろう.その際は,前頁の「例題4」( 1)のように乗法のときと同様,係数のみを抜き出して処理する と少しラクである.■組立除法  1 次式による割り算 は 組立除法を用いると早い. 「例題4」( 2)の場合で説明すると ・ 割られる式 x4-x2 の

係数を抜き出す ・ 割る式 x+2 を x-a

の形にして a=-2 を抜き出す

・ 縦に和をとり,斜めに #-2 (#a)を繰り返すという手順で,一番右に余り,次に右から商の定数項,x の係数,x2の係数,… が並ぶ. なお,余りだけなら, 77 の剰余定理を用いて (x4-x2を x+2 で割った余り)=(-2)4-(-2)2=12

とすると早い.また,組立除法の余りをこれと比べれば,組立除法の検算にもなる.

6. 式の計算(Ⅲ)〜因数分解

 展開の逆に,整式を積の形に直すのが因数分解である.■因数分解の方法 必ず計算できる展開とは違って,割り切れる式を探すという因数分解は個別の式に応じた工夫が必要になる.「必ずできる」というフローチャートがあるわけではないが,次のような方法を意識的に試みるとよい.

( 1) 共通因数をくくり出す( 2) 公式の利用( 3) 因数定理の利用

( 4) 置き換え( 5) 1 文字(低次の文字)について整理( 6) 項の組合せを考える(次数の等しい項など)

■見落としやすい公式〈n乗の和と差〉 n 乗の差 xn-yn は

xn-yn=(x-y)(xn-1+xn-2y+xn-3y2+…+xyn-2+yn-1)

と分解できて,n が奇数のときは y を -y に置き換えて

xn+yn=(x+y)(xn-1-xn-2y+xn-3y2-…-xyn-2+yn-1)

も成立する.n が偶数のときは xn-yn のみが因数分解できるのに対して,n が奇数のときは xn!yn が因数分解できることに注意してほしい(x2-y2 と x3!y3 の違いもそこにある).〈x3+y3+z3-3xyz〉  3 文字の相加・相乗平均の関係の元となる公式だが,形が少し複雑なので使いこなせない人も多い. x3+y3+z3-3xyz=(x+y+z)(x2+y2+z2-xy-yz-zx)   ………………………(*)

(x4-x2) (x+2)' x-aの aを抜き出す

係数を抜き出す

x4の係数 x3の係数 x2の係数 x の係数 定数項

1 0 -1 0 0

+ + + + -2 4 -6 12

#-2 #-2 #-2 #-2

1 -2 3 -6 12

x3 の係数 x2 の係数 x の係数 定数項 …

商 余り

-2

(x4-x2) (x+2)' x-aの aを抜き出す

係数を抜き出す

x4の係数 x3の係数 x2の係数 x の係数 定数項

1 0 -1 0 0

+ + + + -2 4 -6 12

#-2 #-2 #-2 #-2

1 -2 3 -6 12

x3 の係数 x2 の係数 x の係数 定数項 …

商 余り

-2

ZM1A10-22ZZ-07

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27

数式基礎

2

例題5例題5 次の式を因数分解せよ.( 1)x6-1   ( 2)x4+x2y2+y4   ( 3)x3+3xy+y3-1

( 4)x2(y-z)+y2(z-x)+z2(x-y)

解答

( 1) x6-1 =(x3)2-1=(x3+1)(x3-1)

=(x+1)(x2-x+1)(x-1)(x2+x+1)

=(x+1)(x-1)(x2-x+1)(x2+x+1)  (答)( 2) x4+x2y2+y4 =x4+2x2y2+y4-x2y2

=(x2+y2)2-(xy)2

=(x2+xy+y2)(x2-xy+y2)  (答)( 3) x3+3xy+y3-1 =x3+y3+(-1)3-3xy(-1)

=(x+y-1)(x2+y2+1-xy+y+x)

=(x+y-1)(x2-xy+y2+x+y+1)  (答)( 4) x2(y-z)+y2(z-x)+z2(x-y) =(y-z)x2-(y2-z2)x+yz(y-z)

=(y-z){x2-(y+z)x+yz}

=(y-z)(x-y)(x-z)

=-(x-y)(y-z)(z-x) (答)

7. 式の計算(Ⅳ)〜因数定理,剰余定理と除法の問題

 x の多項式 f( x ) を 1 次式 x-a で割った余りは定数 r であり,商を q( x ) とすると f( x )=(x-a)q( x )+r

とおくことができる.この等式に x=a を代入して得られる f( a )=r

という関係式が次の剰余定理と因数定理に他ならない.

剰余定理,因数定理2 剰余定理,因数定理2 xの多項式 f( x )を x-a で割った余りを rとすると r=f( a ) であり(剰余定理),f( x )が x-a で割り切れるための条件は f( a )=0 である(因数定理).

例例 x3+ax2+2 が x-1 で割り切れるとき,実数 a の値を求めよ. f( x )=x3+ax2+2 とおくと,因数定理より f( 1 )=a+3=0   ∴ a=-3

 このように因数定理,剰余定理を用いると,割り算を実行することなく,余りを求めたり割り切れるかどうかを調べることができる.つまり,数値計算で割り算を代替できる,という利点があるわけだが,すべての問題が因数定理,剰余定理のみで解決できるわけではない.やや複雑な問題を考えるときの指針は

 a3!b3=(a!b)(a2"ab+b2) a3!b3=(a!b)(a2"ab+b2)

(x2+y2)2 をつくるために,x2y2

をたしてひく.(x2+y2)2 をつくるために,x2y2

をたしてひく.

 a2-b2=(a+b)(a-b) a2-b2=(a+b)(a-b)

公式(*)で z=-1 のときとみる.公式(*)で z=-1 のときとみる.

1 文字について整理する.次数は同じなので,ひとまず x について整理した.

1 文字について整理する.次数は同じなので,ひとまず x について整理した.共通因数をくくり出す.共通因数をくくり出す.輪環の順に整理した.輪環の順に整理した.

ZM1A10-22ZZ-08

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28

「◆除法の原理」に基づいて式の形を考える  $ とくに余りの次数に注意して立式する

である.数値代入と割り算実行の 2 通りを念頭において処理しよう.

例題6例題6( 1)x の多項式 f( x ) を x-1,x-2 で割った余りはそれぞれ 3,5 である.このとき,f( x ) を

(x-1)(x-2) で割った余りを求めよ.( 2)x の多項式 f( x ) を x-1,(x+1)2 で割った余りはそれぞれ 2,x-3 である.このとき,f( x )

を (x-1)(x+1)2 で割った余りを求めよ.

解答

( 1)f( x ) を (x-1)(x-2) で割った余りは, 1 次以下だから ax+b (a,b は実数)とおけて,商を q( x ) とすると f( x )=(x-1)(x-2)q( x )+ax+b  ……………………(*)    ∴ f( 1 )=a+b,f( 2 )=2a+b

すると,与えられた条件より,f( 1 )=3,f( 2 )=5 だから a+b=3,2a+b=5

    ∴ a=2,b=1

よって,求める余りは 2x+1 である.  (答)( 2)f( x ) を (x-1)(x+1)2 で割った余りは, 2 次以下だから ax2+bx+c (a,b,c は実数)とおける.商を q( x ) とすると f( x )=(x-1)(x+1)2q( x )+ax2+bx+c  ……………(**)と表せて,剰余定理より f( 1 )=2 だから f( 1 )=a+b+c=2  …………………………………………①また,ax2+bx+c を (x+1)2=x2+2x+1 で割ると ax2+bx+c=a(x2+2x+1)+(b-2a)x+c-a

であるから     f( x )=(x+1)2{(x-1)q( x )+a}+(b-2a)x+c-a

と変形できて,f( x ) を (x+1)2 で割った余りが x-3 だから b-2a=1,c-a=-3

    ∴ b=2a+1,c=a-3  ………………………………………②②を①に代入して a+(2a+1)+(a-3)=2   ∴ a=1

よって,②より b=3,c=-2 であり,求める余りは x2+3x-2  (答)

補足補足 f( x ) を (x+1)2 で割った余りの条件を考えるために,ax2+bx+c を (x+1)2 で割って ax2+bx+c=a(x+1)2+px+q

と変形するのがポイントである.なお,あらかじめ f( x ) を (x-1)(x+1)2 で割った余りを上式の右辺の形で表しておけば条件より直ちに p=1,q=-3 がわかるので,見通しがよい(a の値を求めるだけで済む).

「◆除法の原理」より,余りの次数が定まるので,係数を文字でおく.また,商を適当にq( x ) として立式する.

「◆除法の原理」より,余りの次数が定まるので,係数を文字でおく.また,商を適当にq( x ) として立式する.

(*)に x=1,2 を代入.(*)に x=1,2 を代入.剰余定理.剰余定理.

余りは 2 次以下である.余りは 2 次以下である.

(**)を f( x )=(x+1)2Q( x )+r( x )

の形に直すために ax2+bx+c

を (x+1)2 で割る.

(**)を f( x )=(x+1)2Q( x )+r( x )

の形に直すために ax2+bx+c

を (x+1)2 で割る.

a,b,c についての連立方程式を解く.a,b,c についての連立方程式を解く.

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29

数式基礎

2

8. 式の計算(Ⅴ)〜式の値の計算(次数下げ)

 式の値を求めるときには,イキナリ代入して計算するのではなく,なるべく簡単な式に直して代入する,というのが基本である.ここでは,いわゆる “次数下げ” の手法について確認しよう.

例題7例題7

 2

1 5a=

- + のとき,次の各式の値を求めよ.

( 1)a2+a+1   ( 2)a4+3a3+4a2+3a+1

 一見すると( 1),( 2)ともにこれ以上簡単にはなりそうもない式だが,aのみたす関係式に注目すると…. ( 1) 素直に a2を計算してもよいが,2 1 5a+ = と変形して両辺を 2 乗するのもラク. ( 2) ( 1)をヒントに aのみたす関係式 a2+a-1=0 を活用するのがポイント.まずは,整式の除法から得られる恒等式を利用する方法を示そう.

解答

( 1) 2

1 5a=

- + より 2 1 5a+ = だから

4a2+4a+1=5   ∴ a2+a-1=0

したがって a2+a+1=(a2+a-1)+2=2  (答)( 2)f( x )=x4+3x3+4x2+3x+1 とおく.aは x2+x-1=0 の解であ

り,f( x ) を x2+x-1 で割ると f( x )=(x2+x-1)(x2+2x+3)+2x+4

よって,両辺に x=a を代入すると,a2+a-1=0 より f( a ) =2a+4= 53+   (答)

補足補足 無理数や虚数など,複雑な形の数 aについて次数の高い式の値 f( a ) を計算するときのカギは aのみたす関係式 $ aはどんな方程式の解か?を考えることである.たとえば aが 2 次方程式 g( x )=0 の解なら,多項式 f( x ) を 2 次式 g( x ) で割り算してできる恒等式に着目するとよい.つまり余りは 1 次以下だから商を q( x ) として f( x )=g( x )q( x )+ax+b

と表せるので,これに x=a を代入すれば g( a )=0 より f( a )=aa+b

となり,代入計算は高々 1 次の計算で済む. なお,( 2)は a2=-a+1 をくり返し用いて a3=a2・a=(-a+1)a=-a2+a=-(-a+1)+a=2a-1

a4=(a2)2=(-a+1)2=a2-2a+1=(-a+1)-2a+1=-3a+2

    ∴ a4+3a3+4a2+3a+1 =-3a+2+3(2a-1)+4(-a+1)+3a+1=2a+4

とするのも立派な方法である.しかし,次数が高くなるほど,上のように除法を利用した方が早い.

5 とそれ以外の項を両辺に分けて 2 乗すれば簡単な式が得られる.

5 とそれ以外の項を両辺に分けて 2 乗すれば簡単な式が得られる.

a2=-a+1 として計算してもよい.a2=-a+1 として計算してもよい.

割り算を実行する(☞ 55).割り算を実行する(☞ 55).

ZM1A10-22ZZ-10

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9. 方程式(Ⅰ)〜方程式の解

  99 ~ 1515では 2 次方程式, 3 次方程式を中心に n 次方程式について扱う.これらは当然 2 次関数, 3 次関数,… などとの関連も大きいが,ここではまず代数的な処理(数式の扱い)を確認する.

例題8例題8( 1) 2 次方程式 kx2+2x+k+1=0 が異なる 2 つの実数解 a,b(a1b)をもつような k の値の範囲を求めよ.また,そのとき b-a を k で表せ.

( 2) 3 次不等式 2x3-3x2-x+120 を解け.

解答

( 1)k]0 のもとで,判別式を D とすると

D4

=1-k(k+1)20   ∴ k2+k-110

これを解いて,k]0 に注意すると

k k21 5

0 021 5

< < < <,- - - +   (答)

また,このとき x

k

D1

4!

=- だから

k

k kk

D2

4 2 12

b a- = =- - +   (答)

( 2)f( x )=2x3-3x2-x+1 とおくと,

f21

0=d n であり

f( x )=(2x-1)(x2-x-1)

ここで,x2-x-1=0 の解は

x2

1 5!=

よって,求める不等式の解は

x x2

1 521

21 5

< < <,- +   (答)

■2次方程式の解

  2 次方程式 ax2+bx+c=0 には解の公式 xa

b D2!

=- がある.これを用いればつねに解が計算できる

し,判別式 D の符号から解が異なる 2 実解か重解か虚数解かがわかる.また

2 解の差が aD であることや,重解なら x

ab2

=- であること

もわかる.なお,ax2+2b’x+c=0 の形には xa

b DD

Db ac

42!

=-

= = -l l

l l]d g n を用いるとよい.

2 次方程式だから k]0 として考えることに注意.2 次方程式だから k]0 として考えることに注意.D=22-4k(k+1) を考えても

よいが, D4

の方がラク.

D=22-4k(k+1) を考えても

よいが, D4

の方がラク.

k2+k-1=0 を解くと

 k2

1 5!=

-

k2+k-1=0 を解くと

 k2

1 5!=

-

解の公式を使うのが手早い.解の公式を使うのが手早い.

k の符号によって aと bが逆になるので分母が k となる.k の符号によって aと bが逆になるので分母が k となる.

21

21 5-

21 5+

++

--21

21 5-

21 5+

++

--

因数定理を用いて因数分解.

f21

0=d n より x21

- を因数

にもつことがわかるから,2x-1 で割り算してみる.

因数定理を用いて因数分解.

f21

0=d n より x21

- を因数

にもつことがわかるから,2x-1 で割り算してみる.

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31

数式基礎

2

■3次以上の方程式の解 高校数学では 3 次以上の方程式に解の公式はない.よって, 3 次以上の方程式 f( x )=0 を解くには f( a )=0 をみたす aを見つける $ f( x ) は x-a を因数にもつ(因数定理)

$ 因数分解して低次の方程式に帰着させるというのが基本である.aを見つけるには,次の定理が役に立つことが多い.

整数係数方程式の有理数解3 整数係数方程式の有理数解3整数係数の n次方程式が有理数解をもつとき,その解は

n次の係数の約数定数項の約数

( )( ) の形に表される.

 この証明は次節で扱う.

 「例題8」の( 2)でこれを用いれば,21

121

の正の約数の正の約数

( )( )

,! ! != の 4 通りに候補が絞り込める.

参考参考 3 次方程式にはカルダノ, 4 次方程式にはフェラーリによる公式があるが(いずれも16世紀の数学者),どちらも複雑でこれらを用いて解を計算するのは簡単でない.また, 5 次以上の方程式には解の公式が存在しないこと(根号と四則演算で表せないこと)がアーベルとガロワによって証明されている. なお,因数定理を用いれば n 次方程式が高々 n 個しか解をもたないのは自明だが(仮に n+1 個以上の解をもつと n+1 次以上の方程式となる),どんな n 次方程式も複素数の範囲で考えれば n 個の解をもつことが知られている(代数学の基本定理).ただし,その証明は高校の範囲を越える.■ n次不等式の解 n 次不等式の解は n 次方程式の実数解から求められる.たとえば,f( x )=0 の実数解が x=a,b,c(a1b1c)で,f( x ) が f( x )=(x-a)(x-b)2(x-c)(x2+px+q) (p2-4q10)と因数分解できたなら,a,b,cの前後での符号変化を考えれば

x … a … b … c …x-a - 0 + + + + +

(x-b)2 + + + 0 + + +

x-c - - - - - 0 +

x2+px+q + + + + + + +

f( x ) + 0 - 0 - 0 +

のように,f( x ) の符号がわかる.また,これにより,たとえば不等式 f( x )20 の解が x1a,c1x であることもわかる.

10. 方程式(Ⅱ)〜整数係数 n次方程式の整数解・有理数解

 係数がすべて整数である n 次方程式 anxn+an-1xn-1+…+a2x2+a1x+a0=0  ………………………………………………①の有理数解について考えよう(一般には①は有理数解をもつとは限らないが,もつ場合を考えるのである).

例題9例題9 a,b を整数とする.方程式 x2+ax+b=0 が有理数解 aをもつとき,aは整数であることを示せ.

 ここでも, 互いに素な整数 p,q を用いて qp

a= と表す ことがカギであり,q=!1 を導けばよい.

++

- -

++

- -

ZM1A10-22ZZ-12

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解答

 互いに素な整数 p,q を用いて qp

a= とおくと,与式に代入して

0qp

aqp

b2

$+ + =d n    ∴ p2+apq+bq2=0

すなわち p2=-q(ap+bq)

となる.すると,q は p2 の約数だから,p2 と q の最大公約数は ;q; である.一方,p と q は互いに素だから,p2 と q も互いに素であり,p2 と q

の最大公約数は 1 である.よって q=!1 より,aは整数となる. (証終)

 一般に, 33 で述べた次のことが成り立つ.

①が有理数解 aをもつとき,qp

a= (p,q は互いに素な整数)とおくと

p は a0の約数,q は anの約数では,これを証明しよう.①に代入して

aqp

aqp

aqp

aqp

a 0n

n

n

n

1

1

2

2

1 0… $+ + + + + =-

-

d d dn n n

    ∴  0a p a p q a p q a a qpqnn

nn n nn

11

22 2

1 01…+ + + + + =-

- - -

これより a p q a p a p q a pq a qn

nn

n n n n1

122 3

12

01…=- + + + +-

- - - -] g ………………………………② a q p a q a pq a p q a pn n n

nn

nn

0 11

22

12 1…=- + + + +- -

-- -] g  ………………………………③

すると,②より q は anpn の約数であるが,いま p,q が互いに素であることより pn,q は互いに素であるから,q は anの約数である.同様に,③より p は a0の約数である.

例例 整数係数の 2 次方程式 21x2+ax+8=0 (a は整数)  ……………………………………………………………④

が有理数解 qp

a= (p,q は互いに素)をもつならば,p は 8 の約数,q は 21 の約数である.たとえば,

a=-26 とすると④は 2 つの有理数解 x74

32

,= をもつが,これらは確かに条件をみたしている.

11. 方程式(Ⅲ)〜特別な高次方程式

 高次方程式は “解を見つける” というのが基本アプローチだが,式変形で解ける形のものもある.

例例 x4-x2-2=0 を解け. これは 4 次式だが,x2=t とおけば 2 次方程式に帰着できて(このような 4 次式を複 2 次式という) t2-t-2=0   ∴ (t-2)(t+1)=0 すなわち t=2,-1

これより,x2=2,-1 だから,x=! 2,!i が解となる.

 つまり,文字の置換によって,より低次の方程式に帰着させるわけで,入試でしばしば登場するのは,次に示す係数の並びが対称な “相反方程式” とよばれるものである.

同様に,①で最高次の係数が 1

の場合,①の有理数解は整数に限られる.

同様に,①で最高次の係数が 1

の場合,①の有理数解は整数に限られる.

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33

数式基礎

2

例題10例題10 方程式 x4-5x3+6x2-5x+1=0 を解け.

 相反方程式では

+6x2 =0x4 -5x3 -5x +1

のように係数の同じところをペアにして扱うことを考えるとよい.

 与式を x2で割って t=x+x1 と置換するとよい.

解答

 x=0 は与えられた方程式の解でないから,両辺を x2で割ると

x2-5x+6-x5

+x12 =0  ……………………………………①

t=x+x1 とおくと,x2+

x12 =t2-2 より

① , t2-5t+4=0

, (t-1)(t-4)=0

, t=1 または t=4

(ⅰ)t=1 のとき

x+x1

=1   ∴ x2-x+1=0 すなわち xi

21 3!

=

(ⅱ)t=4 のとき

x+x1

=4   ∴ x2-4x+1=0 すなわち x 2 3!=

したがって,求める解は

xi

21 3

2 3,!

!=   (答)

12. 方程式(Ⅳ)〜解と係数の関係と対称式

  2 次方程式のときと同様に, 3 次方程式 ax3+bx2+cx+d=0 の 3 つの解を a,b,cとすると ax3+bx2+cx+d=a(x-a)(x-b)(x-c)

となるから,両辺の係数を比較すれば, 3 次方程式についても解と係数の関係が得られる.

解と係数の関係4 解と係数の関係4 2次方程式 ax2+bx+c=0 の2つの解を a,bとすると

ab

ac

,a b ab+ =- =

 3次方程式 ax3+bx2+cx+d=0 の3つの解を a,b,cとすると

ab

ac

ad

, ,a b c ab bc ca abc+ + =- + + = =-

x2で割るための確認.x2で割るための確認.

以下,t=1,4 に対する x の値を求める.以下,t=1,4 に対する x の値を求める.

ZM1A10-22ZZ-14

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34

 ここで,解と係数の関係で登場する ( 2 文字の場合) a+b,ab ( 3 文字の場合) a+b+c,ab+bc+ca,abcを基本対称式という.■対称式と基本対称式 一般に,a2+b2,a(b+1)+b(a+1),a2+b2+c2 のように,式の中でどの 2 文字を入れ換えても変わらない式を対称式という(上の基本対称式ももちろん対称式).対称式を扱う場合 対称式は基本対称式で表せるという事実に基づいて(証明はそう簡単でないが直観的には納得できるだろう) 対称性を活かした変形((a,b)や(a,b,c)をセットで扱う)を考えるのが基本となる.しかし,場合によっては,対称性にこだわりすぎずに 対称性を崩す変形((a,b)や(a,b,c)をセットで扱わない)を選択した方がよい case もある.

例題11例題11

( 1)x2-x+2=0 の 2 つの解を a,bとするとき, 1 1a b

+ ,a2+b2 の値をそれぞれ求めよ.

( 2)x3-2x2-3x+4=0 の 3 つの解を a,b,cとするとき,a2+b2+c2,a4+b4+c4 の値を求めよ.

 ( 1)の 1 1a b

+ ,a2+b2,( 2)の a2+b2+c2 は容易に基本対称式に表せるが,( 2)の a4+b4+c4 にな

ると少々厄介である.ここは,a4,b4,c4のそれぞれを次数下げ( 88 参照)する方がラク.

解答

( 1) 解と係数の関係より a+b=1,ab=2

だから

1 1

21

a b ab

a b+ =

+=   (答)

a2+b2=(a+b)2-2ab=12-2・2=-3  (答)( 2) 解と係数の関係より a+b+c=2,ab+bc+ca=-3,abc=-4

だから a2+b2+c2=(a+b+c)2-2(ab+bc+ca)=10  (答) 次に x4=(x3-2x2-3x+4)(x+2)+7x2+2x-8

であるから,x=a を代入すると,a3-2a2-3a+4=0 より a4=7a2+2a-8

同様にして b4=7b2+2b-8,c4=7c2+2c-8

だから a4+b4+c4 =7(a2+b2+c2)+2(a+b+c)-24

=7・10+2・2-24=50  (答)

2 次方程式の解と係数の関係.2 次方程式の解と係数の関係.

3 次方程式の解と係数の関係.符号に注意せよ.3 次方程式の解と係数の関係.符号に注意せよ.

除法を利用した次数下げ( 88 参照).除法を利用した次数下げ( 88 参照).

b,cについても同様である.b,cについても同様である.

ZM1A10-22ZZ-15

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35

数式基礎

2

 ( 2)の後半は,「解答」では除法を利用して次数下げしたが,次のようにしてもよい. a3-2a2-3a+4=0 の両辺に an(nF0)をかけると an+3=2an+2+3an+1-4an

    ∴ a4 =2a3+3a2-4a=2(2a2+3a-4)+3a2-4a

=7a2+2a-8

 また,対称性にこだわるなら (a2+b2+c2)2=a4+b4+c4+2(a2b2+b2c2+c2a2)

    ∴ a4+b4+c4=102-2(a2b2+b2c2+c2a2)

(ab+bc+ca)2=a2b2+b2c2+c2a2+2abc(a+b+c)

    ∴ a2b2+b2c2+c2a2=(-3)2-2・(-4)・2=25

のように変形して求めることもできる.これは,a4+b4+c4 を a4+b4+c4 =(a2+b2+c2)2-2(a2b2+b2c2+c2a2)

={(a+b+c)2-2(ab+bc+ca)}2-2{(ab+bc+ca)2-2abc(a+b+c)}

と基本対称式で表していることに他ならないが,a4,b4,c4を次数下げする方がラクだろう.

13. 方程式(Ⅴ)〜共役解

  2 次方程式 ax2+bx+c=0 については,解の公式 xa

b D2!

=- (D=b2-4ac)を考えれば

a,b,c が実数のとき,p+qi (q]0)が解ならば p-qi も解 a,b,c が有理数のとき, s vr+ (s]0)が解ならば s vr- も解 (p,q は実数で i は虚数単位,r,s,v は有理数で v は無理数)が成り立つことがすぐにわかると思う.これは,一般の n 次方程式でも成立する.つまり

共役解5 共役解5 n次方程式 anxn+an-1xn-1+…+a1x+a0=0 について (ⅰ)an,an-1,…,a0が実数のとき,p+qi (q]0) が解ならば p-qi も解 (ⅱ)an,an-1,…,a0が有理数のとき,r+s v (s]0)が解ならば r-s v も解 (ただし,p,qは実数で iは虚数単位,r,s,vは有理数で v は無理数)

というわけだ(このように,“aが解ならば a も必ず解” というような a のことを,aの共役解という).

参考参考 ここでは(ⅰ)について証明しておこう.証明には共役な複素数の性質を用いる.〈共役複素数〉 一般に,a=p+qi(p,q は実数)に対して,p-qi を aの共役複素数といい,a と表す. 共役複素数をとるという操作と四則演算や n 乗は順序を交換することができて

a!b=a!b (複号同順),ab=a b,aa

b b=d n , a

n na =] g   ………………(*)

が成立する(実際に確認してみよう! とくに,a b=a b を示すところでは,i2 が実数であることがポイントになっていることに注意してほしい).また,実数 k に対しては k=k が成り立つ.

ZM1A10-22ZZ-16

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36

証明証明 虚数 aが anxn+an-1xn-1+…+a1x+a0=0(an,an-1,…,a0 は実数)の解のとき

    

a a a

a a a a a a a a

a a a a

a a

a a a a

0

0

0

0

nn

nn

nn

nn

nn

nn

nn

nn

nn

nn

11

1 0 11

1 0

11

1 0

11

1 0

11

1 0

… …

(

(

(

(

a a a a a a

a a a

a a a

+ + + + = + + + + =

+ + + + =

+ + + + =

+ + + + =

--

--

--

--

--

a a

0

] ]g g

となり,a も anxn+an-1xn-1+…+a1x+a0=0 の解とわかる.つまり,共役複素数は実数係数の n 次方程式において共役解である. また, s vra= + に対して s vra= - とすれば,この形の無理数についても前頁の(*)が成立するので( v 2] g が有理数であることがポイント. v3 ではうまくいかない!),(ⅱ)も同様に証明できる.

例題12例題12 p,q は実数とする.方程式 x3+px2+qx+6=0 の 1 つの解が 1+i であるとき,p,q の値を求めよ.

解答

 係数がすべて実数だから,1-i も解である.そこでもう 1 つの解を aとすると,3 次方程式の解と係数の関係より (1+i)(1-i)a=-6   ∴ 2a=-6 すなわち a=-3

よって,再び解と係数の関係より p=-{(1+i)+(1-i)+(-3)}=1

q=(1+i)(1-i)-3(1+i)-3(1-i)=-4  (答)

補足補足 a=1+i とおけば,上の「例題12」は a3+pa2+qa+6=0 が成り立つように実数 p,q を定めるという問題である.ここで,a-1=i だから (a-1)2=-1   ∴ a2-2a+2=0  (☜ aがみたす実数係数の関係式をつくった)が成り立つ.そこで, 88 のような次数下げの手法を用いると (☜ここがポイント) a2=2a-2,a3=2a-4   ∴ a3+pa2+qa+6=(2+2p+q)a+(-2p+2)

となり,これが 0 となるように実数 p,q を定めればよいわけだ.aは虚数だから,その条件は 2p+2+q=0,-2p+2=0

であり,これを解くと p=1,q=-4 となる.

14. 方程式(Ⅵ)〜複素数係数の方程式

 高校数学では基本的に実数係数の方程式を扱うが,場合によっては複素数係数の方程式を考えることもある.その場合,たとえ 2 次方程式であっても解の公式は役に立たず,もっと基本的な方法で考察を行う.

例題13例題13 方程式 x2+(1+2i)x+k+4i=0 (k は実数)が実数解 aをもつとき,k の値と aを求めよ.

 求める実数解を aとして x=a を代入すると A+Bi=0 (A,B は実数)の形に帰着できる.

実数係数なので共役な虚数を解にもつ.実数係数なので共役な虚数を解にもつ.

値のわかっている定数項に注目した.値のわかっている定数項に注目した.

x2の係数より.x2の係数より.x の係数より.x の係数より.

ZM1A10-22ZZ-17

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37

数式基礎

2

解答

 x=a (実数)を解にもつから a2+(1+2i)a+k+4i=0

    ∴ a2+a+k+i(2a+4)=0

a2+a+k,2a+4 は実数だから

0k

2 4 0

2a a

a

+ + =

+ =)

すると,②より a=-2  (答)また,①より k=-(a2+a)=-2  (答)

 ここでは,以下の複素数,無理数の相等のうち,(ⅰ)を用いたわけである.

複素数の相等,無理数の相等6 複素数の相等,無理数の相等6 iを虚数単位とし,p,q,r,sが実数のとき (ⅰ)p+qi=0 , p=q=0

(ⅱ)p+qi=r+si , p=r,q=s

  a を無理数とし,p,q,r,sが有理数のとき (ⅲ)p+q a =0 , p=q=0

(ⅳ)p+q a =r+s a , p=r,q=s

 なお,「例題13」で k=-2 のとき,与えられた方程式は x2+x-2+2i(x+2)=0

    ∴ (x+2)(x-1+2i)=0

と変形できて,解は x=-2,1-2i とわかる.1313では共役解について紹介したが,ここでは係数が実数でないので,当然 2 解は共役複素数とは限らない.また,判別式の符号によって解が実数か虚数か判定することもできないので注意してほしい(解の公式において,b が虚数となっているので…).

15. 方程式(Ⅶ)〜1の虚数立方根 ~

 実数の世界で考えると xn=1 の解は n が奇数のとき,x=1

n が偶数のとき,x=!1

の高々 2 個だが,複素数に範囲を拡げれば n 個の解をもつ. 一般的な話は数学Ⅲで学習するが,n=3,4 といった特別な場合は

x3-1=0 , (x-1)(x2+x+1)=0   ∴ x=1, i2

1 3!-

x4-1=0 , (x2-1)(x2+1)=0   ∴ x=!1,!i

のように,具体的に解が計算できる. とくに,x3=1 の解( 1 の立方根)のうち,虚数のもの( 1 以外のもの)を 1 の虚数立方根といい,~(オメガ,ギリシア文字 Xの小文字)で表す.~は x3=1,x2+x+1=0 の解なので,次の関係式をみたす.

実部と虚部に分けて整理する.実部と虚部に分けて整理する.

………………………………………………①………………………………………………①…………………………………………………②…………………………………………………②

以下の 66 参照.以下の 66 参照.

ZM1A10-22ZZ-18

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38

1の虚数立方根 ~7 1の虚数立方根 ~7 1の虚数立方根を ~とすると ~3=1,~2+~+1=0

  1 の虚数立方根は共役な 2 つがあるので,一方を ~とすると他方はその共役複素数 ~ となるが,実は ~=~2

という関係がある.なぜなら,解と係数の関係 ~~=1 と ~3=1 より

1 2

~~

~= =

つまり,x3=1 の 3 つの解は 1,~,~2であり, 77 は ~2+~+1=0 (和は 0),~3=1 (積は 1)という 3 次方程式の解と係数の関係(x2の係数と定数項)と捉えることもできる.

例題14例題14 x2+x+1=0 の解を ~とするとき,次の値を求めよ.( 1)~10+~20+~30   ( 2)1+~+~2+…+~100

解答

( 1) ~10=(~3)3~=~,~20=(~3)6~2=~2,~30=(~3)10=1

    ∴ ~10+~20+~30=~+~2+1=0  (答)( 2) (与式) =(1+~+~2)+~3(1+~+~2)+~6(1+~+~2)

+…+~96(1+~+~2)+~99+~100

=~99+~100=(~3)33+(~3)33~

=1+~=i

21 3!   (答)

16. 等式・不等式(Ⅰ)〜恒等式

 展開や因数分解,さらには整式の除法で登場した (x+2)(x+1)=x2+3x+2,x3+8=(x+2)(x2-2x+4),x3+x+1=(x2-2x+4)(x+2)+x-7

といった等式は任意の x に対して成立する等式であり,恒等式とよばれる.それに対して,たとえば x2+3x+2=0,x3+8=0

といった等式は方程式とよばれ,ある特定の値の x に対してのみ成立する等式である. x の整式の場合,恒等式になるための条件は,すでに諸君も知っているとおり

 anxn+an-1xn-1+…+a0=0 が恒等式 , an=an-1=…=a0=0

 anxn+an-1xn-1+…+a0=bmxm+bm-1xm-1+…+b0 が恒等式, n=m で同次の項の係数がすべて等しい

  …………(*)

のように,係数の条件として読み替えられる.しかし,実際の問題では

(ⅰ) 係数比較法……上の(*)を利用する(ⅱ) 数値代入法……いくつかの値を代入して必要条件を導き,十分性を確認する

の 2 通りの方針から適したものを選ぶとよい.どちらでも対応できるようにしておこう.

~3=1 を用いる.~3=1 を用いる. ~2+~+1=0 ~2+~+1=0

1+~+~2=0 に注目して, 3

項ずつくくっていく.1+~+~2=0 に注目して, 3

項ずつくくっていく.

 1+~+~2=0 1+~+~2=0

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数式基礎

2

例題15例題15 x+y=1 をみたす任意の x,y に対して,ax2+bxy+y2=c がつねに成立するような a,b,c の値を求めよ.

解答

 まず,y=1-x より ax2+bx(1-x)+(1-x)2=c  ………………………………①〈解1:係数比較法〉 ①を整理すると (a-b+1)x2+(b-2)x+1-c=0

となるから,これが恒等式になるための条件は a-b+1=0,b-2=0,1-c=0

    ∴ a=1,b= 2,c=1  (答)〈解2:数値代入法〉

 ①に x=0,1,21 を代入すると,それぞれ

1=c,a=c, a bc

41+ +

=

    ∴ a=1,b=2,c=1  ………………………………………②が必要である. このとき,与式の両辺は (左辺)=1・x2+2x(1-x)+(1-x)2=1

(右辺)=1

となるから,恒等式である.したがって,求める値は a=1,b=2,c=1  (答)

 数値代入法で十分性を確認する場合,与式に戻って係数比較するのが基本だが,以下のように n 次以下の方程式の解は高々 n 個ということに注目する方法もある( 99 参照).〈解3:十分性の確認を方程式の解の個数から〉(②を導くところまでは〈解2〉と同じ)

 このとき,x=0,1,21 という 3 つの値に対して①が成立する.ここで,①が恒等式でないとすると, 2

次以下の方程式であり,その解は高々 2 個であるが,これは矛盾.よって,①は恒等式である. つまり n 次式が (n+1) 個以上の値で成立すれば恒等式ということである.注意注意 “f( x )=0 が恒等式” , “f( x ) の係数がすべて 0” というのは f( x ) が整式のときの話であって,一般の関数については成立しないことに注意してほしい.たとえば acos2x+bcos2x+c=0

が x の恒等式になるのは,a=b=c=0 の場合だけではない.正しくは,b=-2a,c=a のときである(左辺を変形すると (2a+b)cos2x-a+c となる).

y を消去する.y を消去する.

まず第 2 式,第 3 式より b=2,c=1

そして,第 1 式より a=b-1=1

まず第 2 式,第 3 式より b=2,c=1

そして,第 1 式より a=b-1=1

式が簡単になりそうな値を選ぶ.式が簡単になりそうな値を選ぶ.

まず第 1 式,第 2 式より a=c=1

そして,第 3 式より b=4c-(a+1)=2

まず第 1 式,第 2 式より a=c=1

そして,第 3 式より b=4c-(a+1)=2

与式の両辺を計算して十分性を確認する.与式の両辺を計算して十分性を確認する.

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17. 等式・不等式(Ⅱ)〜等式の証明

 ここでは等式の証明を中心に式の扱いを確認するが,論証とは「仮定」から「結論」を導くことであり,その間を埋めるのが証明である.したがって,等式の証明に限らず,仮定と結論の両方をにらみながら ・仮定を有効に使うにはどうすればよいか? ・結論はもっと簡単な形に言い換えられないか?の両方向から考えるのが,論証の基本的な姿勢となる.■結論を言い換えること 等式 A=B を示すには,A (B) を変形して B (A) となることを示せばよいが,これと同値な式を証明してもよい.最も基本的な読み替えは,文字を一方の辺に集める A=B , A-B=0

であるが,これ以外にも A,B が正のときの A=B , A2=B2 , A2-B2=0

といった変形も基本的だろう(これは,(A+B)(A-B)=0 を考えていることになる). また,A=B=C という形の等式は A=B かつ B=C

として処理するのが基本的だが A=B かつ A=C

のように読み替えることもできる.問題の状況に応じて,考えやすい形を利用しよう.■仮定(与えられた条件式)を活用すること 等式の証明では,たいてい複数の文字についての条件が与えられる.その場合,与えられた式について

(ⅰ) 1 文字消去(文字の数を減らす)   (ⅱ) 条件式の特徴を活かす

の 2 つが基本的アプローチとなる.地道な(ⅰ)に対して,(ⅱ)は何らかの工夫を行うわけだが

・対称式は対称性を活かす   ・比例式は「=k」とおく

などは基本的な手法である.

例題16例題16( 1)a+b+c=0 のとき,a3+b3+c3=3abc を示せ.

( 2) y z z x x y5 4 3

0]+

=+

=+ のとき,

x y zxy yz zx2 2 2+ ++ + の値を求めよ.

解答

( 1)c=-(a+b) より a3+b3+c3-3abc =a3+b3-(a+b)3+3ab(a+b)

=-3(a2b+ab2)+3ab(a+b)

=0

    ∴ a3+b3+c3=3abc (証終)

1 文字消去の方針.1 文字消去の方針.

 (a+b)3=a3+3a2b+3ab2+b3 (a+b)3=a3+3a2b+3ab2+b3

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数式基礎

2

( 2) 0y z z x x y

k5 4 3

( )]+

=+

=+

= とおくと

y+z=5k,z+x=4k,x+y=3k

3 式を加えると x+y+z=6k となるから x=k,y=2k,z=3k  ………………………………………①

    ∴ x y zxy yz zx

k k kk k k

4 92 6 3

1411

2 2 2 2 2 2

2 2 2

+ ++ +

=+ ++ +

=   (答)

 ( 1)は公式 a3+b3+c3-3abc=(a+b+c)(a2+b2+c2-ab-bc-ca)

を用いれば一発で証明できる.この問題についてはその方がうまい.対称な条件式が与えられたときには 対称性を活かしてうまく処理するか,あえて対称性をくずして 1 文字消去するかを問題に応じて選択しよう. 1 文字消去はどのような式の形にも対応できる,というよさもある. ( 2)は①から x,y,z の比がわかり,求める分数式の分母・分子がともに 2 次式であることに注目して次のようにしてもよい.

 ①より,xy

2= ,xz

3= だから

x y zxy yz zx

xy

xz

xy

xy

xz

xz

11 2 32 2 3 3

1411

2 2 2 2 2 2 2

$$

+ ++ +

=+ +

+ +=

+ ++ +

=d dn n

18. 等式・不等式(Ⅲ)〜不等式の証明

■代数的処理と関数としての見方 不等式は大小関係についての主張であるので,その証明には (ⅰ) 代数的な処理(いわゆる式変形)だけでなく (ⅱ) 関数としての見方も重要になってくる.例例 x2+2x+220 を示すには x2+2x+2=(x+1)2+1

と平方完成して,(ⅰ)なら (x+1)2F0 より,(x+1)2+1F0+120

としてもよいし,(ⅱ)なら 2 次関数 (x+1)2+1 の最小値は 1 だから,(x+1)2+1F120

と表現してもよい.  部分のようにつねに成立する不等式を絶対不等式という(恒等式の不等式版だ).上の「例」のように絶対不等式は不等式を代数的に証明する場合の根拠となるわけだが,その最も基本的なものが 実数 x に対して,x2F0 (等号が成り立つのは x=0 のとき)である.そのため,与えられた条件を利用すること以外に

(  )2 の形をつくること

が不等式証明の 1 つの定石である.

「=k」とおく.比例式に限らず,対称性を保って変形するときに有効な場面は多い.

「=k」とおく.比例式に限らず,対称性を保って変形するときに有効な場面は多い.3 式を加えると 2(x+y+z)=12k

∴ x+y+z=6k

3 式を加えると 2(x+y+z)=12k

∴ x+y+z=6k

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■結論の読み替え 等式の証明と同様,A2B を証明するのに,文字を一方の辺に集めて A2B , A-B20

とすることや,A,B が正のとき A2B , A22B2 , A2-B220

と読み替えるのは基本的な方法である.■文字の扱い方 等式の証明で解説した “ 1 文字消去”,“対称性の利用”,“比例式の扱い” に加えて,複数の文字が登場する場合 1 文字について整理するという方法が有効な case も多い.これは多変数関数(複数の文字を含む関数)とみれば,いったん他の文字を固定して “ある 1 文字についての関数として扱う” ということを意味している.

例題17例題17 次の不等式を証明せよ.( 1)x2+2y2+10F2xy+2x+4y

( 2) x x2 1F- -

 ( 1) 2 つの文字が含まれるので 1 文字について整理する. ( 2) 根号が扱いにくいので両辺を 2 乗して,(左辺)2F(右辺)2 すなわち (左辺)2-(右辺)2F0

を示す.ただし,両辺の符号に注意しよう.

解答

( 1) (左辺)-(右辺) =x2+2y2-2xy-2x-4y+10

=x2-2(y+1)x+2y2-4y+10

={x-(y+1)}2-(y+1)2+2y2-4y+10

={x-(y+1)}2+y2-6y+9

={x-(y+1)}2+(y-3)2F0

    ∴ x2+2y2+10F2xy+2x+4y (証終)( 2) x, x1- が定義されるので 0ExE1

であり,この範囲において両辺は 0 以上なので

x x x x

x x

2 1 2 1

2 1 0

2 2

2 2

,

,

F F

F

- - - -

- - -

] ]

] ]

g g

g g

そして

x x x x x

x x

x

2 1 2 2 2 1

1 2 2 2

1 2 0

2 2

2F

- - - = + - - -

= - +

= -

] ] ]

]

g g g

g

であるから 2 x x1F- - (証終)

文字を一方の辺に集める.文字を一方の辺に集める.1 文字 x について整理する.1 文字 x について整理する.x について平方完成.x について平方完成.

残った項も y について平方完成.残った項も y について平方完成.

無理式の定義域を考える.無理式の定義域を考える.xF0 かつ 1-xF0 より.xF0 かつ 1-xF0 より.ここが重要.ここが重要.

両辺を 2 乗して差をとった式を考えてよいこと(同値であること)を押さえた.

両辺を 2 乗して差をとった式を考えてよいこと(同値であること)を押さえた.

(  )2 の形をつくる. x t=

と置換して  t t t1 2 2 2 1 22 2- + = -] g

としてもよい.

(  )2 の形をつくる. x t=

と置換して  t t t1 2 2 2 1 22 2- + = -] g

としてもよい.

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43

数式基礎

2

ZM1A10-22ZZ-24

 ( 1)を関数の問題として捉えると “ 2 変数関数 P=x2+2y2-2xy-2x-4y+10 の最小値が 0 以上であることを示せ”という問題であり,「解答」の処理は x と y を同時に動かすのは難しいので,いったん y を固定して x のみを変化させるという考え方に基づいている.つまり y を固定すると P は x の 2 次関数で,その最小値は x=y+1 のとき y2-6y+9

    $ 次に y を変化させると,y2-6y+9 の最小値は y=3 のとき 0

のように, 2 段階で P の最小値を求めていることになる(実際,このような表現で答案をつくってもよい).■文字式の大小比較 文字式の大小比較では,あらかじめ具体的な数で大小関係の目星をつけるのが有効なことが多い.

例題18例題18 実数 a,b が a+b=2 をみたしているとき,4 つの数 2-ab,min(a,b),a2+b2,1 の大小を比較せよ.ただし,min(a,b) とは a と b のうち大きくない方である.

 a,b に具体的な数 a=21,b=

23 を代入してみると,これらの大小関係は

2-ab=45,min(a,b)=

21,a2+b2=

25    ∴ min(a,b)1112-ab1a2+b2

となる.そこで,この大小関係が a,b の値にかかわらず成り立つのではないかと予想し,min(a,b)11,112-ab および 2-ab1a2+b2 という不等式をそれぞれ示すことを目標にしよう. なお,a と b の「大きくない方」という表現は,a]b ならば a と b の小さい方のことであり,a=b ならば(小さい方は存在しないが)その等しい値のことである.「小さくない方」も同様である.

解答

 比較する式はすべて a,b の対称式なので,aEb として一般性を失わない.このとき,a+b=2 より aE1 であり,min(a,b)=a だから min(a,b)E1 (等号成立は a=b=1 のとき)  …………①また,b=2-a に注意すると (2-ab)-1 =1-ab=1-a(2-a)

=a2-2a+1

=(a-1)2F0

であるから 1E2-ab (等号成立は a=b=1 のとき)  ………………②さらに (a2+b2)-(2-ab) =a2+b2+ab-2=(a+b)2-ab-2

=2-ab (∵ (a+b)2=4)

20 (∵ ②より)であるから,与えられた 4 つの数の大小関係は min(a,b)E1E2-ab1a2+b2  (答)である(等号はいずれも a=b=1 のときに成立する).

補足補足 問題文に登場するとおりの順番で大小を比較すると,2-abFmin(a,b)1a2+b221 となるが,これでは大小比較の答としては不十分である(たとえば 1 と 2-ab の大小は答えられていない).答は小さい順(または大きい順)に並べる必要があり,そのために,あらかじめ目星をつけることが重要である.

a2b のときは,文中の a を b

に,b を a にそれぞれ読み替えればよい.

a2b のときは,文中の a を b

に,b を a にそれぞれ読み替えればよい.まず,min(a,b)と 1 を比較する.予想では 1 だったが,実際には等号が成立する場合もあることがわかったので,E としておく.

まず,min(a,b)と 1 を比較する.予想では 1 だったが,実際には等号が成立する場合もあることがわかったので,E としておく.次に,1 と 2-ab を比較する.次に,1 と 2-ab を比較する.

最後に,2-ab と a2+b2 を比較する.ここは,b を消去する方針でもよい(a2-2a+2 となる).

最後に,2-ab と a2+b2 を比較する.ここは,b を消去する方針でもよい(a2-2a+2 となる).

3 カ所の不等号をそれぞれ示した.3 カ所の不等号をそれぞれ示した.

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ZM1A10-22ZZ-25

19. 等式・不等式(Ⅳ)〜相加・相乗平均の関係と最大・最小

 ここでは絶対不等式の 1 つである相加・相乗平均の関係と,不等式を利用した最大・最小問題の処理について解説しよう.まず,相加・相乗平均の関係の確認から.

相加・相乗平均の関係8 相加・相乗平均の関係8〈2変数のとき〉a20,b20 のとき

a b

ab2

F+  (等号成立は a=b のとき)

〈3変数のとき〉a20,b20,c20 のとき

a b c

abc3

3F+ +  (等号成立は a=b=c のとき)

証明証明 n=3 のときを証明しておくと,x20,y20,z20 に対して x3+y3+z3-3xyz =(x+y+z)(x2+y2+z2-xy-yz-zx)

=21

(x+y+z){(x-y)2+(y-z)2+(z-x)2}F0

    ∴ x3+y3+z3F3xyz

そして,x3=a,y3=b,z3=c と置換すれば上の不等式が得られる.注意注意 一般に,変数がいくつになっても

a1,a2,…,an が正の数のとき,n

a a aa a a

nn

n1 21 2

……$ $F

+ + + (相加平均 F 相乗平均)

は成立する.その証明にはさまざまなものがあるが,どれもそう簡単ではないので,この一般形は高校数学では登場しない(誘導つきで入試問題の題材となるレベルなので,興味のある人は調べてみてほしい).■不等式と最大・最小問題 P の最小値が k であることを不等式で表すと 不等式 PFk が成立し,等号も成立するということであり,不等式を利用して最大値や最小値を求めることもできる. ただし,「例題19」のあとで確認するように

(ⅰ) 「F(定数)」あるいは「E(定数)」のように定数で押さえること(ⅱ) 等号成立条件を押さえること

の 2 点に注意しないと,とんでもない誤答を犯すことも多いので注意しよう.

例題19例題19

 x20,y20 とする. xy

yx

1 2+ +d dn n の最小値を求めよ.

解答

xy

yx

xyxy

1 22 1

2+ + = + + +d dn n

3xyxy

xy

yx

21 2= + ++ +d dn n

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45

数式基礎

2

ZM1A10-22ZZ-26

 ここで xy20 だから相加・相乗平均の関係より

xyxy

xyxy

22

22 2$F+ =

    ∴  xy

yx

1 22 2 3F+ + +d dn n

ここで,等号は

xyxy

xy2

2 0>∴ ( )= =

のときに成立するから,求める最小値は 2 2 3+   (答)

〈不等式から最大値,最小値を求めるときの注意点1〉 まず,「例題19」について,次の例を考えてみてほしい.誤答例誤答例 相加・相乗平均の関係より

xy y

x12F+  ……………………①,y

x xy2

22

F+   ……………………………②

    ∴  xy

yx y

xxy1 2

2 22

4 2$F+ + =d dn n   …………………………………………③

したがって,求める最小値は 4 2 である. 答が異なるが,どこが誤りかわかるだろうか? 実は不等式自体はどれも正しい.最後の③も不等式としては正しいが,最小値は 4 2 ではないのである.なぜか? それは等号が成立しないのである. ③の等号が成立するには,①と②の等号が同時に成立しなくてはいけないが,それぞれの等号成立条件は

①:xy1

= すなわち xy=1   ②:yx2

= すなわち xy=2

であるから,これらが同時に成立することはないのである.〈不等式から最大値,最小値を求めるときの注意点2〉 間違いやすい例は他にもある.次の例を見てほしい.

例例 2x+y=1,x20,y20 のとき,x2+y2 の最小値を求めよ.

 この問題について,次の誤答例を考えてみよう.誤答例誤答例 相加・相乗平均の関係より x y x y xy2 22 2 2 2F+ =   …………………………………………………………………④ここで,等号成立条件は x2=y2 と,x20,y20,2x+y=1 より

x y31

= =

だから,このとき x2+y2 は最小で,求める最小値は

231

31

92

$ $ =

 今度は不等式④も正しいし,等号成立条件も押さえている.しかし,ここでは

x y922 2F+

という不等式が得られたわけではないことに注意してほしい.④の右辺にのみ x=y=31 を代入して,左

辺は x,y のまま自由に動かすわけにはいかないからである.④の右辺の 2xy も変化するので,等号が成立するときに最小とは限らないのである.

定数で押さえる.定数で押さえる.

等号が成立する x,y の存在を確認する.等号が成立する x,y の存在を確認する.

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ZM1A10-22ZZ-27

  2 変数だとピンとこないかもしれないので,1 変数に直して説明しよう.④の各辺から y を消去して x2+y2=x2+(1-2x)2=5x2-4x+1

2xy=2x(1-2x)=-4x2+2x

とし,これらをそれぞれ x の関数とみてグラフをかく.2x+y=1,x20,

y20 より,x の動く範囲は x021

< < であるから,右図のようになる.

 これより,④すなわち x2+y2F2xy , 5x2-4x+1F-4x2+2x

の等号成立と,左辺の x2+y2 すなわち 5x2-4x+1 が最小になるときは別

というのは,一目瞭然である x x31

52

前者は 後者は,= =d n.

20. 等式・不等式(Ⅴ)〜図形と絶対不等式

 ここでは図形的な意味をもつ絶対不等式を 2 つ紹介しよう.■3角不等式  3 角形の成立条件に由来する不等式で,ベクトルを用いれば

a b a b a b!E E- +   ……………………………①

と表せる.これは, 0 でないベクトル a , b に対して,右図のように 2 辺が

a , b に対応するような 3 角形の成立条件を考えれば( 3 図形基礎 参照),

①から等号を除いた不等式が成り立つ.これに a b' ( a と b が同じ向きか逆向き)となって 3 角形がつぶれる場合を加えれば等号つきの①が得られる.また, a または b が 0 のとき①の等号が成立するから,任意のベクトル a , b に対して①が成立し

a と b が 1 次従属( a = 0 または b = 0 または a b' )のときに等号が成立することになる. これより,①の a , b のところを実数 a,b に変えた不等式

a b a b a b!E E- +

も成立するが,この場合つねにどちらかの等号が成立する.実際,正負の数の計算でやったように,a!b の絶対値は a と b の符号によって, a と b の和か差の絶対値になる. なお, a を固定して a の終点に b の始点をつないでみると, a + b の終点は右図のように円を描く.ここからも①の成立や等号成立条件は読み取れ

る.また,①の辺々を 2 乗すれば, a b a b a b$E E- という不等式

に帰着できるが,これは次に示すコーシー・シュワルツの不等式に他ならない.■コーシー・シュワルツの不等式  0 でない 2 つの平面(空間)ベクトル a , b のなす角を iとすると

cosa b a b$ i=    ∴  cosa b a b 22 2 2

$ i=_ i

であり, 1cos0 2E Ei であるから

a b a b2 2 2

$ E_ i   ………………………………………②

が成立する.

a

bb

a b+a b-

a

bb

a b+a b-

b

a

b

a

bb

acosb i cosb i

a

cosb i※    は符号つきの長さとし,   の向きを正とする.

bb

acosb i cosb i

a

cosb i※    は符号つきの長さとし,   の向きを正とする.

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数式基礎

2

ZM1A10-22ZZ-28

 これは a , b の一方が 0 のときも成立し,②をコーシー・シュワルツの不等式という.②の等号成立条件も a と b が 1 次従属( a = 0 または b = 0 または a b' )である.また,②を成分で表すと

(平面のとき) (ap+bq)2E(a2+b2)(p2+q2)

(空間のとき) (ap+bq+cr)2E(a2+b2+c2)(p2+q2+r2)

となる.

例題20例題20( 1) 大きさがそれぞれ 5, 3, 1 の平面ベクトル a , b , c に対して, z a b c= + + とおく.

a , b , c を動かすとき, z の最大値と最小値を求めよ. (一橋大・改)( 2)2x2+y2=1 のとき,2x+3y の最大値を求めよ.

解答

( 1) 3 角不等式より

a b a b a bE E- + +

    ∴  a b2 8E E+   ……………………………………………③

また,再び 3 角不等式より

a b c a b c a b cE E+ - + + + +   ………④

であるから,③と c 1= より

a b c1 9E E+ +   ………………………………………⑤

ここで,⑤の右側の等号が成立するのは,③,④の右側の等号が成立する a と b が同じ向きで a + b と c が同じ向きのとき

    , a と b と c が同じ向きのときまた,⑤の左側の等号が成立するのは,③,④の左側の等号が成立する a と b が逆向きで a + b と c が逆向きのとき

    , b と c が同じ向きで, a がこれと逆向きのときであるから,求める最大値と最小値は 最大値 9,最小値 1  (答)( 2) a x y b2 2 3, ,,= =] ]g g とおくと

2 3 cos

cos

x y a b a b a b

11 11

は と のなす角( )$

E

i i

i

+ = =

=

ここで,等号は cosi=1 より 3x y k2 2, ,=] ]g g (k20)かつ 2x2+y2=1

    ∴ (x,y)=11

1

11

3,d n

のときに成立するから,求める最大値は 11 である.  (答)

  5 3a b,= =  5 3a b,= =

c 1= と③より.c 1= と③より.

③と④の右側の等号が成立するとき.③と④の右側の等号が成立するとき.

③と④の左側の等号が成立するとき.③と④の左側の等号が成立するとき.

5 3a b,= = より a b+

は a と同じ向きである.5 3a b,= = より a b+

は a と同じ向きである.

結局,内積や大きさの対応を考えるので,ベクトルを用いて示すのがわかりやすい.

結局,内積や大きさの対応を考えるので,ベクトルを用いて示すのがわかりやすい.

a と b が同じ向きのとき.a と b が同じ向きのとき.

11k

1= となる.

11k

1= となる.