製品関与の高さに注目した広告の累積効果への影響...

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1 製品関与の高さに注目した広告の累積効果への影響 13C3143019I 武部 仁美 概要 従来の消費者行動論における広告研究では、広告による消費者のブランド認 知や態度の向上など、肯定的な機能が注目されてきた。一方で、広告によって 消費者がブランドに対し、評価が低くなるなどの否定的に働く場合の研究は、 十分になされていない。そこで本研究では、製品関与の高さに注目した広告の 累積効果の違いを調査する。はじめに、広告の累積効果に用いられる単純接触 効果の二要因モデルとウェアイン・ウェアアウトの概念を概観する。次に製品 関与と広告の累積効果についての関係を考察する。そして広告の累積効果のモ デルを作成し、製品関与の高さによる広告効果への影響を調査した。その結果、 差異があることが判明し、高関与の消費者は低関与の消費者よりも広告への飽 きから広告評価に対する負の影響が大きく、製品評価から購買意向への正の影 響が大きいことが判明した。 1 はじめに 1.1 問題意識 マーケティング活動における広告の中心的役割は、消費者のブランド認知や 態度の向上にある。そのため、従来の広告研究では、広告の肯定的な機能が注 目されてきた。たとえば、広告接触により、消費者の広告やブランドに対する 認知・態度がどのように改善するのかなどである。一方、広告接触による対象 への否定的な影響については、研究の蓄積は十分ではない。否定的な影響とは、 広告の反復提示により、メッセージに対する陳腐化や飽きが発生し、消費者の 広告やブランドに対する評価が否定的になることである(竹内 2010)。広告の 反復呈示が単調さや倦怠につながり、好感度を下げるという報告もある(Anand and Sternthal 1990)。そのため、広告接触による否定的な影響についての検討は 重要であるといえる。 広告の反復提示が広告やブランドに否定的に機能するのであれば、企業は消 費者の広告接触量を単に増加させるのではなく、効果が最大になるように接触 量を調整する必要がある。効果的な接触回数にとどめることで、広告費の削減 につながるだろう。 以上のような広告の累積的な接触による否定的な影響についての研究は、前

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製品関与の高さに注目した広告の累積効果への影響

13C3143019I 武部 仁美

概要

従来の消費者行動論における広告研究では、広告による消費者のブランド認

知や態度の向上など、肯定的な機能が注目されてきた。一方で、広告によって

消費者がブランドに対し、評価が低くなるなどの否定的に働く場合の研究は、

十分になされていない。そこで本研究では、製品関与の高さに注目した広告の

累積効果の違いを調査する。はじめに、広告の累積効果に用いられる単純接触

効果の二要因モデルとウェアイン・ウェアアウトの概念を概観する。次に製品

関与と広告の累積効果についての関係を考察する。そして広告の累積効果のモ

デルを作成し、製品関与の高さによる広告効果への影響を調査した。その結果、

差異があることが判明し、高関与の消費者は低関与の消費者よりも広告への飽

きから広告評価に対する負の影響が大きく、製品評価から購買意向への正の影

響が大きいことが判明した。

1 はじめに

1.1 問題意識

マーケティング活動における広告の中心的役割は、消費者のブランド認知や

態度の向上にある。そのため、従来の広告研究では、広告の肯定的な機能が注

目されてきた。たとえば、広告接触により、消費者の広告やブランドに対する

認知・態度がどのように改善するのかなどである。一方、広告接触による対象

への否定的な影響については、研究の蓄積は十分ではない。否定的な影響とは、

広告の反復提示により、メッセージに対する陳腐化や飽きが発生し、消費者の

広告やブランドに対する評価が否定的になることである(竹内 2010)。広告の

反復呈示が単調さや倦怠につながり、好感度を下げるという報告もある(Anand

and Sternthal 1990)。そのため、広告接触による否定的な影響についての検討は

重要であるといえる。

広告の反復提示が広告やブランドに否定的に機能するのであれば、企業は消

費者の広告接触量を単に増加させるのではなく、効果が 大になるように接触

量を調整する必要がある。効果的な接触回数にとどめることで、広告費の削減

につながるだろう。

以上のような広告の累積的な接触による否定的な影響についての研究は、前

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述した通り、多くはない。また、これまでの研究は、発信された広告自体の性

質に着目したものであり、接触した回数別や TV 広告の長さ別、製品カテゴリー

別などで、広告の接触量と効果について議論されることが中心である。しかし、

それは受け手である消費者の状況は考慮されていない。たとえば、受け手があ

る製品カテゴリーについての情報を求めていた際は、当該カテゴリーの製品の

広告を注意して見るようになると考えられる。そのため、広告に慣れてしまう

までの接触回数が、特に注意を払って見ていなかった人より少ないかもしれな

い。その際は、広告に飽きてしまい広告やブランドに対して好意的でなくなる

接触回数も少なくなるだろう。このように、製品カテゴリーに対する、消費者

の欲求の高さや価値の高さなどの関与の違いによって、適切な広告量は異なる

と考える。

また、近年はインターネットの発展などにより、一人ひとりに対して広告の

接触量を調整することが可能になりつつある。受け手である消費者の関与の高

さに応じて適切な広告接触量に変化させることができれば、益々広告効果を高

くすることができ、広告費の削減に繋がるだろう。そのため、関与の高さに注

目した広告の累積的な接触の効果(累積効果)を検討することは重要である。

1.2 課題

そこで本研究では、広告接触量に応じて、広告の効果が異なるかどうかを明

らかにする。すなわち、広告接触量が増加するにつれ、広告によってもたらさ

れる、広告やブランドに対する消費者の評価が変化することを示す。このとき、

消費者の関与水準により、広告効果が異なることに注意する。具体的な流れは、

以下の通りである。まず広告接触量について議論する際に使用される概念であ

る、単純接触効果とウェアイン・ウェアアウトの概念の関係性を明らかにする。

次に広告の累積効果についてのモデルを作成し、その妥当性を検証する。その

後、製品関与の高い消費者と低い消費者別にモデルの係数を比較することで、

製品関与の高さによって広告の累積効果が異なるかどうかを検証する。これに

より消費者の状態に適した広告量を提案することを可能にする。

2 先行研究

2.1 単純接触効果

単純接触効果とは、刺激対象への単なる繰り返しの接触が、その対象に対す

る好感度を高めることである(Zajonc 1968)。反復接触の過程で生じる受け手の

心理的反応が、説得効果に影響を及ぼす可能性について重要な知見を表してい

るとして、近年多くの研究関心が寄せられている理論である(李 2000)。

単純接触効果にはいくつかの説明理論がある。その中でも代表的なモデルは、

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対立過程(opponent-process model)モデル、覚醒(arousal model)モデル、二要

因(two-factor)モデルである(宮本・太田 2008)。

対立過程モデルとは、新奇性のある刺激に対して脅威を感じる(negative effect)

が、その刺激がなくなると、それが引き金となり、対立した反応である安堵

(positive effect)が生じるというモデルである。接触を繰り返すうちに、この一

連の反応繰り返され、刺激に対する否定的な感情が弱まり、対立する反応であ

る肯定的な感情反応が強まる(Harrison 1977)。

覚醒モデルとは、生体は適度な覚醒状態を好むという仮定に基づくモデルで

ある。適度な刺激は適度な覚醒状態を生み出すため、刺激に対し好意的になる

が、適度な覚醒状態の範囲外では不快になる。初期の接触や、過剰に接触した

際は、適度な覚醒状態の範囲外の状態であり、刺激に対して不快な感情が生じ

る(Berlyne 1966 ; Crandall 1970)。

二要因モデルとは、接触に伴い好意度を増加させる要因(positive-habituation

factor)と、接触に伴い好意度を減少させる要因(tedium factor)という二つの相

反する要因があり、どちらが優勢になるかで刺激への態度が変化するというも

のである(Berlyne 1970)。Rethans,Swasy and Marks(1986)によれば、二要因

モデルは図 1 のように表せる。初期の接触では、刺激について更に知る機会が

増加したこと(Stang 1975)や新奇性のある刺激に対し、不確実性や混乱が減る

(Berlyne 1970)ことにより、刺激に対する肯定的要因(positive effect)が増加

する。しかし、過剰に接触になると、刺激に対し退屈や押しつけに感じること、

または刺激からの新たな学習が減少したことにより、刺激に対し否定的要因

(negative effect)が増加する(Sawyer 1981)。特に Rethans,Swasy and Marks(1986)

は、否定的要因として、飽き(tedium)を想定し、接触回数に伴う飽きの増加を明

らかにした。飽きとは、もう一度その刺激に接触することに対する否定的な感

情や反応のことである。一連の反応により刺激に対する態度は逆U字になる(図

表1)。そのため二要因モデルは、反復提示と好意度の逆U字関係を説明するモ

デルとしてよく取り上げられる(宮本・太田 2008)。

以上の理由により、本研究では単純接触効果の二要因モデルを使用する。な

お、二要因モデルを用いて広告の累積効果を研究した Rethans,Swasy and Marks

(1986)では、測定した飽きから広告効果にどう影響するかについては明らか

にしておらず、関係性を改めて測定する必要があるだろう。

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図表 1:単純接触効果の二要因モデル

出典:Rethans, A. J., J. L. Swasy & L. J. Marks (1986), “Effects of Television Commercial Repetition,

Receiver Knowledge, and Commercial Length: A Test of the Two-Factor Model,” Journal of Marketing

Research, 23, 50-61.

2.2 ウェアイン・ウェアアウト

ウェアインとウェアアウトは、広告の繰り返し効果による、2つの異なる現

象である。ウェアインは広告接触で効果がある場合を指すのに対し、ウェアア

ウトは広告接触が逆効果になる場合を指す(Pechmann and Stewart 1988)。

竹内(1998)によれば、ウェアアウトは広告内容理解による情報に対する飽

き(Craig,Sternthal and Leavitt 1976)、過剰な露出による苛立ちの発生(Calder and

Aternthal 1980)といった 2 通りの定義が存在する。具体的には、Craig,Sternthal

and Leavitt(1976)によれば、「ウェアアウトは、広告に多く接触した、または

よく理解してしまったために、その内容について注意を向けなくなり、広告の

有効性を失うこと」としている。Calder and Sternthal(1980)は、「ウェアアウト

とは、過剰な露出によってイライラした感情を持ってしまうといった苛立ちの

発生である」と述べている。それを踏まえ、竹内(1998)では広告接触量の増

加により、過剰感が発生することを明らかにし、ウェアアウトを「広告露出に

伴って、広告の内容・表現そのものに対して苛立ちの感情、すなわち過剰感を

抱いてしまい、その結果、広告への態度やブランドへの態度に対して負の効果

をもたらすこと」と定義している。本研究では、従来のウェアアウトの定義を

包括的に捉えているという点で、竹内(1998)の定義を援用する。

ウェアイン・ウェアアウトの関係は、二段階の認知反応モデルである。少な

肯定的要因

否定的要因

肯定的

効果

総合評価

否定的

中立

接触回数

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い接触回数では広告に対する肯定的な認知(広告を支持)が否定的な認知(広

告を不支持)を上回るが、3 回目の接触になると、否定的な認知が肯定的な認知

を上回り、更に接触すると広告への不支持や退屈から、不平を言うことが出て

くるとしている(Pechmann and Stewart 1988)。このように、ウェアインは常にウ

ェアアウトに先行して起こるものであり、ウェアインが起こらなければ、ウェ

アアウトには至らないとされている。

2.3 単純接触効果とウェアイン・ウェアアウトの関係性

単純接触効果とウェアイン・ウェアアウトは、どちらも対象への累積的な接

触による態度について論じた理論である。特に単純接触効果の説明理論の一つ

である二要因モデルと、ウェアイン・ウェアアウトは、両理論とも、初期の接

触段階では、対象への好意度や肯定的な認知が増えるのに対し、ある一定程度

の水準を超え接触すると、徐々に対象に対しての好意度が下がる、または否定

的な認知が増える、という点が共通している。広告効果の構造について研究を

行った Vakratsas and Ambler(1999)も、二要因モデルとウェアアウトは、接触

を数回繰り返した後に、広告効果が減少し始めるという点で、同様だと提示し

ている。

しかし、ウェアイン・ウェアアウトは、対象が広告に限定されているのに対

し、単純接触効果は、広告だけでなく文字の形・音・香・味覚など様々なもの

を対象とする(宮本・太田 2008)。この点で、単純接触効果の方が、ウェアイ

ン・ウェアアウトよりも包括的な理論であり、ウェアイン・ウェアアウトは単

純接触効果の研究に内包されると捉えて良いだろう。そのため、本研究では、

ウェアイン・ウェアアウトを参考にしつつも、単純接触効果の研究として進め

る。

2.4 関与

関与とは、Krugman(1965)が重要性を指摘し、注目されるようになった。関

与とは「ある対象が個人の意識空間に占める重要度、個人と対象との結びつき

の程度(Krugman 1965)」である。また堀(1997)では、「個人的にそれに巻き

込まれた状態にいること」とも定義されている。関与は大まかに、状況(課題)

特定的関与、対象特定的関与との2つに分類される。状況(課題)特定的関与

とは、当該状況においての課題達成と消費者個人の価値体系との関わり合いの

中において規定される。対象特定的関与は、当該対象物と消費者個人の価値体

系との関わり合いの中において規定されるものを指し、永続的かつ状況横断的

な性格を持つ(青木 1987a)。

本研究は製品カテゴリーに対する、消費者の欲求の高さや価値の高さなどの

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違いによって、適切な広告量は異なるかどうかを調査したい。そのため状況に

左右されず、より消費者個人の対象物に対する関わり合いを示す対象特定的関

与を使用する。特に対象特定的関与に含まれる製品関与は、購買目標がない時

に、リスクに基づかず、製品と個人の欲求・価値・自己概念との関連の強度に

よって生じる関与である(堀 1997)。製品に限定した関与であるという点で、

本研究では対象特定関与である購買関与を採用する。また、製品関与は3つの

因子に細分化できる。感情的関与因子、認知的関与因子、ブランドコミットメ

ント因子である。感情的関与因子は、製品に対する関心、愛着、魅力といった

感情レベルの関与である。認知的関与因子とは、製品クラスについて有してい

る情報ないしは知識の程度を表している。ブランドコミットメント因子とは、

製品クラス内の特定ブランドへの関与を示している(小嶋・杉本・永野 1985)。

そのため、製品関与の高さは、消費者個人の製品に関わる感情面・認知面を含

めた総合的な欲求の高さ、価値の高さを示すものであると捉えて良いだろう。

製品関与では、高関与か低関与かで意思決定の方法も異なる。高関与の製品

の際に起こる高関与意思決定は、問題認識→情報探索→代替案評価→購買→購

買後評価といった手順を踏むのに対し、低関与の製品の際に起こる低関与意思

決定は問題認識→ブランド選択→購買後評価というプロセスを踏むことが多い

とされている。一般的に消費者は、認知的努力を低減しようと動機づけられて

いるため、自分にとって重要ではない低関与製品に関しては、情報収集のコス

トを削減している(金 2014)。また高関与の状況では、態度変容が生じた場合、

持続性があり、行動とも一貫性があるが、低関与の状況では態度変容が生じて

も、一時的であり行動との一貫性は低い(Petty,Cacioppo and Schumann 1983)。

広告効果にも差があるとされており、Petty and Cacioppo and Schumann(1983)

では、高関与の広告では、広告提示後に議論が起こったが、低関与の広告提示

後には起こらなかったことから、高関与の被験者の方が広告効果は高いとした。

しかし、この場合の広告接触は1度のみであり、複数接触した場合の累積接触

効果についても議論する必要があるだろう。

3 仮説

上記では、広告を累積接触した場合による効果を表す理論について論じ、単

純接触効果の二要因モデルを採用するとした。また製品関与の高さによる広告

に対する消費者の反応の違いについて論じた。一般的に広告評価は製品評価に

影響し、製品評価は購買意向に影響することから、先行研究を基に、広告の累

積効果のモデルを作成した。モデルの適合度についてと製品関与の高さによっ

て、広告の累積効果に差異が存在するのかを調査する。

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図表 2:広告累積接触効果の仮説モデル

先行研究より、接触回数の増加により、単純接触効果の肯定的要因が発生し、

広告評価に正の影響を与える。また接触回数から飽きに対しても、正の影響を

与えている。飽きは単純接触効果の否定的要因であるから、刺激物のである広

告の評価に対して負の影響を与える。一般的に広告評価が高いほど製品評価は

高くなり、製品評価が高いほど購買意向は高くなる。そのため以下の仮説を提

案する。

仮説 1:飽きは接触回数から影響を受ける。

仮説 2:広告評価は飽きから影響を受ける。

仮説 3:広告評価は接触回数から影響を受ける。

仮説 4:製品評価は広告評価から影響を受ける。

仮説 5:購買意向は製品評価から影響を受ける。

本研究では、製品関与の高さにより、広告の累積効果が異なると考えた。な

ぜなら低関与と高関与では、認知的努力による情報収集の積極性や態度の持続

性、行動の一貫性が異なるからである。製品に対し高関与の消費者は、情報探

索を多く行い、対象を評価しようとする。一方で、製品に対し低関与の消費者

は、情報収集のコストを削減しようとする。これらの特徴により、広告の反復

提示による、単純接触効果の作用の仕方も異なると考える。単純接触効果の肯

定的要因は、新奇の刺激に対して、知る機会が増加したことにより生じる。そ

のため製品に対し高関与の消費者は、接触を繰り返すうちに、低関与の消費者

よりも多く学習し、広告に対して肯定的に感じるようになると考える。単純接

触効果の否定的要因である飽きは、もう一度同じ刺激に接触したくないという

感情や反応により生じる。高関与の消費者は、情報探索を積極的に行い、対象

を評価しようとするため、低関与の消費者よりも、接触回数が少ない段階から、

広告に飽きると考える。高関与の消費者は態度に一貫性があるため、飽きから

広告評価への影響も大きいと推測する。また、広告評価後から購買意向までの

影響に関しては、低関与か高関与かでは意思決定方法が異なるため、差が出る

8

と考える。高関与の消費者は、情報探索をした後に、代替案の評価を行い、購

買するかどうかの意思決定を行う。一方で低関与の消費者は、問題意識に基づ

いてすぐブランド選択に移行する。そのため、低関与の消費者の方が、高関与

の消費者よりも広告評価から製品評価に対しての影響が大きいと考える。製品

評価から購買意向への影響に関しては、飽きから広告評価と同様に、高関与の

消費者は態度と行動に一貫性があるため、高評価の製品に対しては、購買意向

が高くなると推測する。これらを基に、以下の仮説を提案する。

仮説 6:高関与の消費者は低関与の消費者よりも、接触回数から飽きへの影響を

受ける。

仮説 7:高関与の消費者は低関与の消費者よりも、接触回数から広告評価に影響

を受ける。

仮説 8:高関与の消費者は低関与の消費者よりも、飽きから広告評価に影響を受

ける。

仮説 9:低関与の消費者は高関与の消費者よりも、広告評価から製品評価への影

響を受ける。

仮説 10:高関与の消費者は低関与の消費者よりも、製品評価から購買意向への

影響を受ける。

4 データと方法

4.1 データ

製品関与と広告の累積効果の関連性を明らかにするため、雑誌広告の接触に

よる調査を行う。広告の接触回数を操作するため、被験者を 3 グループに分け

て実験した。被験者は A4 サイズの 10 枚の雑誌広告を 1 枚ずつ 5 秒間連続して

見た後、質問紙上の複数の質問に回答した。この調査は、2017 年 1 月 23 日、中

央大学商学部の講義「広告論Ⅱ」の授業時間内に実施された。被験者は同講義

を受講していた学生 101 名であり、そのうち有効回答として 94 人分を得た。

4.2 変数

調査においては、被験者に実験対象となる 2 つの広告素材の製品カテゴリー

に対して、製品関与を測定した。尺度は小嶋・杉本・永野(1985)の製品関与

尺度(図表 3)を使用した。次に 2 つの実験対象となる広告素材の広告の累積効

果について測定した。広告効果を測る尺度は Rethans,Swasy and Marks(1986)

を採用した(図表 4)また単純接触効果の二要因モデルの否定的要因の増加量を

測定するため、Rethans,Swasy and Marks(1986)の飽きについての尺度を使用

した(図表 5)。

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図表 3:製品関与尺度(小嶋・杉本・永野 1985)

感情的関与

因子

私にとって関心のある製品である。

使用するのが楽しい製品である。

私の生活に役立つ製品である。

愛着のわく製品である。

魅力を感じる製品である。

商品情報を集めたい製品である。

お金があれば買いたい製品である。

認知的関与

因子

いろいろなメーカー名やブランド名を知っている製品である。

いろいろなメーカーの品質や機能の違いがわかる製品である。

友人が購入するとき,アドバイスできる知識のある製品である。

いろいろなメーカーの広告に接したことのある製品である。

いろいろなメーカーの製品を比較したことがある。

この製品に関して豊富な知識をもっている。

ブランド

コミット

メント因子

この製品の中にはお気に入りのブランドがある。

この製品を次に買うとすれば,購入したい特定のブランドがある。

買いに行った店に決めているブランドがなければ他の店に行っても同

じものを手に入れたい製品である。

※全て「1:全くあてはまらない」から「7:とてもあてはまる」の 7 段階での回答。

図表 4:広告効果測定尺度

(Rethans,Swasy and Marks, 1986 を基に著者が作成)

製品評価

その製品は とても悪い/とても良い(very bad / very good) その製品は 嫌いである/好きである(dislike / like) その製品に対して

否定的である/肯定的である(negative / positive)

広告評価

その広告は とても悪い/とても良い(very bad / very good) その広告は 嫌いである/好きである(dislike / like) その広告に対して

否定的である/肯定的である(negative / positive)

購買 意向

その製品を購入することに対して 反対である/賛成である(disagree /agree)

その製品を購入することは 間違いである/正しい(false / true)

※全て 7 段階での回答。

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図表 5:広告に対する否定的態度(飽き)の測定尺度 (Rethans,Swasy and Marks, 1986 を基に著者が作成)

その広告をもう一度 見たい/見たくない

※7 段階での回答。

4.3 提示刺激

実験の対象となった広告の製品カテゴリーは、製品関与の高さにより2つ選

出した(図表 6)。高関与の製品として、成分や訴求点などが製品ごとに異なる

エナジードリンクを使用した。低関与の製品として、購入頻度が高く低価格で

あるお茶を使用した。提示刺激として使用した雑誌広告は、ダミーも含め全て

1990 年代の広告を使い、事前に接触している可能性が低いものを使用した。実

験の対象となる広告とダミーの広告の提示回数はグループごとに操作した(図

表 7)。10 枚の広告はランダムに提示し、ダミーの広告は被験者一名につき、全

て異なるものを提示した。1 枚につき提示時間は、5 秒間である。この提示時間

は Craig,Sternthal and Leavitt(1976)を基にしている。また単純接触効果におい

て、提示時間は 2 秒間から 10 秒間では結果に変わりないとされており(Harrison

and Zajonc 1970)妥当であるとした。

図表 6:実験使用広告

製品カテゴリー ブランド名 企業

エナジードリンク リゲイン 三共

(現 第一三井ヘルスケア)

お茶 シンビーノ ジャワティ

ストレート

大塚ベバレジ

(現 大塚食品)

※出典:東京アートディレクターズクラブ(編集)(1990)『Tokyo Art Directors Club annual 1990』、

美術出版社

図表 7:グループ別提示回数(回)

広告の種類 A グループ B グループ C グループ

エナジードリンク 5 3 1

お茶 1 3 5

ダミー 4 4 4

11

4.4 方法

製品関与と広告の累積効果との関連性を見るために調査を行った。調査対象

であった 2 製品のデータを1つにまとめ、全体の傾向をみることとする。多項

目で推定された製品関与については、小嶋・杉本・永野(1985)に従い、全項

目の総和を、製品関与得点とした。製品関与得点の中央値である 69 までを低関

与の消費者、69 より大きい得点の消費者を高関与の消費者とした。本調査では、

飽きについて、ばらつきを考慮するため、標準偏差での得点で分析を行った。

4.4.1 事前調査の方法

基本統計量を出し、データの傾向を把握した。飽き、広告評価、製品評価、

購買意向の各質問項目を変数ごとに合計し、平均値を算出した。また高関与・

低関与の消費者ごとに、接触回数別の平均値を算出し、各変数の傾向を把握す

る。そして、作成モデルで隣り合う変数について、相関関係があるのかを調査

するために、変数ごとの平均点を使用して相関分析を行った。

4.4.1 本調査の方法

接触回数と飽きが広告効果に与える影響を検証するために、仮説に基づいて

共分散構造分析のモデルに当てはめた。そして消費者全体でのモデルの適合度

を確認し、係数を基にモデルの部分的評価を行った。次に関与の高さによる広

告の累積効果への影響を調査するために、高関与・低関与の消費者ごとの係数

の比較を行った。その際、多母集団パス解析のパラメーターの一対比較を行い、

有意差があるかを分析した。

5 結果

事前調査では、関与の高さ別に接触回数ごとの各変数の平均点を算出し、比

較した。また提案モデルでの隣り合う変数で相関分析を行うことで、提案モデ

ルの妥当性を検証した。本調査では、共分散構造分析のモデルに当てはめ、適

合度を確認し、モデルの部分的評価を行った。その後、高関与・低関与ごとの

係数を比較した。

5.1 事前調査結果

事前調査の広告効果についての基本統計量は図表 8 に、広告効果についての

製品関与の高さ別、回数別の基本統計量は図表 10 にまとめた。各変数の接触回

数ごとの得点の違いを、製品関与の高さ別にみる。飽きについて、低関与の消

費者の場合は接触回数が 3 回の場合に飽きが小さいのに対し、高関与の消費者

は接触回数が増加するほど、飽きが大きい傾向がある。また広告評価について

12

は、製品関与の高さに関係なく、接触回数が多いほど、広告効果は低くなる傾

向にある。しかし、どの接触回数でも高関与の消費者の方が、低関与の消費者

よりも大きい。製品評価、購買意向については、関与の高さに関係なく、接触

回数が 3 回の場合に も得点が高い。しかし、高関与の消費者の方が、接触回

数間の差は大きい。以上の結果より、広告効果に接触回数と製品関与の高さは、

何らかの関係があるといえるだろう。

また、作成したモデルで隣り合う変数間は、1%水準、または 10%水準で相関

係数が有意であった。そのため仮説 1、仮説 2、仮説 3、仮説 4、仮説 5 は支持

された(図表 9)。よって、提案モデルには妥当性があるといえるだろう。しか

し、仮説の予想とは異なり、接触回数と広告評価が負の相関関係であることが

判明した。これは相関分析では測られていない、接触回数が飽きを媒介して広

告評価に与えた影響が大きいからであると推測する。本調査では、接触回数か

ら飽きを媒介した広告評価を除いた場合の、接触回数から広告評価への影響に

ついて、注意してみる必要があるといえるだろう。なお、広告効果についての

各変数の質問項目、製品関与尺度についての質問項目の基本統計量は、図表 16

に記載した。

図表 8:基本統計量

変数 質問項目数 平均値 度数 標準偏差 クロンバックの α 飽き 1 4.112 188 1.471広告評価 3 13.809 188 3.708 0.908製品評価 3 12.771 188 2.651 0.874購買意向 2 8.713 188 1.857 0.746

図表 9:相関分析結果

変数① 変数② Pearson の相関係数 度数

接触回数 飽き 0.129* 188接触回数 広告評価 -0.132* 188

飽き 広告評価 -0.683*** 188接触回数×飽き 広告評価 -0.450*** 188

広告評価 製品評価 0.413*** 188製品評価 購買意向 0.658*** 188

***:1%水準で有意、*:10%水準で有意

13

図表 10:関与の高さ、接触回数別にみる基本統計量

変数 関与の高さ 接触回数 平均値 度数 標準偏差

飽き

低関与 1 4.152 33 1.2343 3.815 27 1.4675 4.324 37 1.561

高関与 1 3.879 33 1.3653 3.931 29 1.5525 4.517 29 1.500

広告評価

低関与 1 13.909 33 2.563

3 13.704 27 3.970

5 12.892 37 3.160

高関与 1 14.818 33 3.605

3 14.034 29 4.279

5 13.586 29 4.335

製品評価

低関与 1 12.636 33 2.144

3 12.667 27 2.828

5 12.243 37 2.376

高関与 1 12.727 33 2.666

3 13.517 29 2.686

5 13.000 29 4.335

購買意向

低関与 1 8.242 33 1.303

3 8.593 27 2.059

5 8.432 37 1.586

高関与 1 8.545 33 2.133

3 9.586 29 1.672

5 9.034 29 2.008

5.2 本調査結果

収集したデータを観測変数とし、共分散構造分析のモデルに当てはめた(図

表 11)。共分散構造分析によるモデル適合度は、χ2=116.439、p<0.001、GFI=0.897、

AGFI=0.823、CFI=0.952、RMSEA=0.066 である(図表 12)。本研究では、豊田(2007)

による基準(GFI≧0.9、AGFI≧0.9、CFI≧0.95、RMSEA≦0.05 または 0.1)に従

いモデルの適合度を評価する。同基準によると、GFI、CFI、RMSEA の値はほぼ

基準を満たしており、GFI のみ基準に満たない値が示された。しかし、本モデル

は先行研究を基に提案したものであるため、このモデルでの研究を進めること

とする。

14

まず消費者全体の推定モデルの部分的評価を行う(図表 13)。接触回数から広

告の飽きへの影響を与えるという仮説 1、接触回数から広告評価への影響を与え

るという仮説 2 は棄却された。飽きから広告評価へ、広告評価から製品評価へ、

製品評価から購買意向へ影響を与えるという仮説 3、仮説 4、仮説 5 は支持され

た。

次に、高関与・低関与で、多母集団パス解析であるパラメーターの一対比較

を行った(図表 14)。その結果、広告の飽きから広告評価への影響について、5%

水準で有意差があり、高関与の消費者の方が大きな影響があった。そのため仮

説 8 は支持された。また、製品評価から購買意向への影響について、0.1%水準

で有意差があり、高関与の消費者の方が大きな影響があった。そのため仮説 10

は支持された。仮説 6、仮説 7、仮説 9 については有意差が認められず、棄却さ

れた。しかし高関与・低関与の消費者ごとの係数を比較すると、有意ではない

ものの、それぞれの変数間において差が存在する(図表 15)。接触回数から広告

の飽きへの影響について、高関与の消費者の方が大きく、接触回数から広告評

価、広告評価から製品評価への影響について、低関与の消費者の方が大きかっ

た。そのため仮説 6、仮説 9 はただちに棄却することができず、傾向としては存

在した。また仮説 7 に関しては、仮説とは反し、低関与の消費者の方が影響の

大きい傾向にあった。

図表 11:広告累積接触効果 モデル

図表 12:モデル適合度指標

χ2 有意確率 GFI AGFI CFI RMSEA

116.439 P<0.001 0.897 0.823 0.952 0.066

15

図表 13:共分散構造分析 推定結果(消費者全体)

グループ 説明変数 被説明変数 推定値(係数)

消費者全体

接触回数 広告の飽き 0.058

広告の飽き 広告評価 -0.729***

接触回数 広告評価 -0.04

広告評価 製品評価 0.395***

製品評価 購買意向 0.97***

***:1%水準で有意

図表 14:高関与・低関与についてのパラメーターの一対比較

説明変数 被説明変数 検定統計量

接触回数 飽き -0.861飽き 広告評価 2.121接触回数 広告評価 -0.761

広告評価 製品評価 0.434

製品評価 購買意向 -3.217

※検定統計量が絶対値で 1.96 以上の場合、5%水準、2.33 以上の場合、1%水準、2.58 以上

の場合、0.1%水準で有意差があると判断される。

16

図表 15:共分散構造分析 推定結果(製品関与の高さ別)

グループ 説明変数 被説明変数 推定値(係数)

高関与

接触回数 広告の飽き 0.098

広告の飽き 広告評価 -0.701***

接触回数 広告評価 -0.006

広告評価 製品評価 0.447***

製品評価 購買意向 1.122***

低関与

接触回数 広告の飽き 0.024

広告の飽き 広告評価 -0.47***

接触回数 広告評価 -0.047

広告評価 製品評価 0.516***

製品評価 購買意向 0.594***

***:1%水準で有意

6 考察

本研究では広告の累積効果についてのモデルを作成し、接触回数が与える広

告効果の差と、製品関与の高さによる累積効果の差を調査した。

本調査において、接触回数による飽きや広告評価への影響について、高関与・

低関与の両消費者について支持されなかった。ただし、事前調査の相関分析に

おいては、接触回数は飽きや広告評価との負の相関関係が認められているため、

接触回数が飽きと広告評価に対し、無関係であるとはいえないだろう。これら

の関係が本調査において有意にならなかった要因として、飽きを引き起こす要

素が接触回数以外にもあることが推測される。例えば、広告自体に対するイメ

ージによって広告に対する過剰感1の発生量が異なる(竹内 1998)ということが

報告されている。

また接触回数から広告効果への影響について、高関与・低関与の両消費者で、

有意ではないものの、接触回数から広告評価に、負の影響が観測された。これ

は単純接触効果の二要因モデルの飽き以外の否定的要素である、押しつけに感

じることが原因で引き起こされているのではないかと考える。本研究の実験方

法では、10 枚の雑誌広告のうち、ダミーを除く 6 枚が実験対象となった広告で

1 過剰感とは、広告出稿に伴う広告表現内容に対する苛立ちの感情のことであり、「飽きる」、

「しつこい」といった項目で測定したものである(竹内 1998)。

17

あり、全体の広告の高い割合を占めていた。少ない回数の接触であっても高い

頻度で同じ広告に接触したため、押しつけであると感じ、広告評価に負の影響

を与えていたと推測する。

消費者の製品関与の高さの差が、広告の累積効果に影響を与えるという仮説

は、広告の飽きから広告評価、製品評価から購買意向への影響について、支持

された。しかし、接触効果からの飽きや、接触回数からの広告評価、広告評価

からの製品評価についても、有意な差ではないが、高関与の消費者と低関与の

消費者について係数の差は存在していた。これらの差の原因は、認知的努力の

差による情報探索の違いや、意思決定方法の違い、態度の持続性や行動との一

貫性の違いによるものであると考える。

仮説でも推測したように、高関与の消費者は積極的に広告や広告の製品を評

価しようとするため、情報の積極性や認知的努力は高い。一方で、低関与の消

費者は積極的に評価しようとはせず、情報の積極性や認知的努力は低い。その

ため高関与の消費者の方が早く広告の情報を収集してしまい、飽きてしまう。

そしてこの飽きについて、高関与の消費者は、対象に対し積極的に評価してい

る分、広告評価を厳しく行い、広告に対して低関与の消費者より低い評価をつ

けると考える。

接触回数から広告評価への影響は、接触回数の増加により、認知的努力の低

い低関与の消費者の方が、押しつけであると感じ、広告評価に対し負の影響を

与える傾向にあると考える。広告評価から製品評価、製品評価から購買意向の

影響の差については、認知的努力の差による、意思決定方法の違いで生じてい

ると考える。高関与の消費者は広告での情報収集後、代替案も考慮し製品を評

価するため、評価が厳しくなる。そのため、広告評価が製品評価に繋がりにく

い。しかし、態度の持続性や行動の一貫性があるため、製品評価が良ければ、

購買意向も高まると考える。低関与の消費者は、問題意識からすぐにブランド

選択に移ることが多いため、広告評価が製品評価に繋がりやすい。しかし態度

の持続性が一時的であり、行動の一貫性が小さいため、高関与の消費者より購

買意向は高まりにくいと考える。なお、製品評価から購買意向への影響の差に

ついては、元々の購買関与の高さによって差が生まれている可能性があること

を留意する必要があるだろう。

後に、本研究の実務的な示唆について述べる。有意になった変数間の影響

を中心に、広告の出稿戦略の導出を試みる。広告に何回も接触した場合や、何

らかの理由で広告に対する飽きが発生した場合、高関与の消費者には、広告評

価に大きな負の影響を及ぼす。そのため、高関与の消費者に対しては、広告の

出稿回数を減らすなど、広告による飽きを発生させない工夫が必要である。一

方で、低関与の消費者は、接触回数から飽き、飽きから広告評価に与える負の

18

影響は、高関与の消費者と比較して小さく、また広告評価から製品評価に与え

る正の影響は、高関与の消費者と比較して大きい。そのため、低関与の消費者

に対しては、広告の出稿回数を減らすなどの飽きを発生させる工夫よりも、低

関与の消費者の認知的努力の低さに対応し、広告を認識してもらえるように、

広告出稿を行うことが重要であるといえるだろう。このように、製品関与の高

さに応じた広告出稿の戦略を行うことで、広告効果を高めることが期待できる。

7 おわりに

従来の広告効果の研究においては、広告が否定的に働いてしまう場合につい

て、研究の蓄積が十分ではない。その中でも先行研究においては、消費者一人

ひとりの欲求の高さや価値の高さなどの違いによる、適切な広告量の差につい

ては、特に議論されてこなかった。そこで本研究では、消費者の製品に対する

欲求の高さや価値の高さを示す製品関与を使用し、消費者の状態に応じた広告

の接触回数の適切な量を検討した。その際に、広告の累積効果について議論さ

れる場合に使用される理論である、単純接触効果とウェアイン・ウェアアウト

について 2 つの理論を概観することで、より幅広く先行研究を探索することを

可能にした。

本研究では、広告の累積効果モデルを作成し、その妥当性を検証した後、製

品関与の高さによる一連の変数への影響を考察した。そこで、事前調査では相

関分析と記述統計量の比較、本調査では共分散構造分析と多母集団パス解析に

より、仮説を検証した。その結果、接触回数は広告効果に対し、影響を与える

傾向があること、製品関与の高さによって、広告効果の影響が異なることが示

された。

本研究の課題は 3 つある。一つ目はモデルの改良が挙げられる。本研究の提

案モデルは、先行研究が示す適合度の目安を下回る指標が存在していた。今後

は適合度の改善に向け、変数の追加、ラージサンプルによるデータ収集などを

図りたい。特に変数の追加については、広告の累積効果の要因を追究するため

に必要である。その中でも特に、単純接触効果の否定的要因である飽きの要素

の解明のために、変数を追加したい。本研究では製品関与によって、製品に関

わる消費者の状態の違いを測定し、その状態に対応した広告接触量を明らかに

しようとした。しかし、結果として、広告の接触回数から飽きの影響は、傾向

としては存在するものの、有意であるとは認められなかった。そのため、広告

の内容などによる、広告そのものに対する態度を考慮した上で、広告接触量を

測定する必要があるだろう。

二つ目は、実験方法の改善が挙げられる。本研究では接触回数の増加により、

単純接触効果の肯定的要因によって広告評価が高くなると想定していた。しか

19

し、本研究の実験方法では、接触回数から広告評価に対して負の影響の傾向が

出た。これは実験対象となる広告の割合が高く、被験者が押しつけであると感

じてしまったために、先行研究よりも早い接触回数で、広告に対し否定的にな

ってしまったと考える。そのため、実験対象となる広告の割合を低くすること

で、精度の高い実験を行いたい。

後に、研究対象となる広告の製品カテゴリーの追加が挙げられる。本研究

で研究対象となった広告は、どちらも 寄品であった。そのため、買回品の広

告や、サービスの広告についても同様の実験を行うことにより、より一般化し

た広告の累積効果を測りたいと考える。

これらの改良を加えることにより、より精度の高い広告の累積効果のモデル

を作成し、製品関与の高さによる広告の累積効果の違いを詳細に検討すること

が可能となるだろう。またマーケティング実務においても、より詳細な個人の

状況に応じた広告出稿戦略を作ることを実現させたい。

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21

図表 16:各質問項目の記述統計量

1.製品関与に関する項目(1.全くあてはまらない)⇔(7.とてもあてはまる) 変数 質問項目 平均 標準偏差

製品 関与

私にとって関心のある製品である。 4.78 1.756使用するのが楽しい製品である。 3.94 1.663私の生活に役立つ製品である。 4.93 1.684愛着のわく製品である。 4.3 1.72魅力を感じる製品である。 4.6 1.65商品情報を集めたい製品である。 3.89 1.727お金があれば買いたい製品である。 4.21 1.781いろいろなメーカー名やブランド名を知っている製品

である。 5.12 1.576

いろいろなメーカーの品質や機能の違いがわかる製

品である。 3.66 1.777

友人が購入するとき,アドバイスできる知識のある製

品である。 3.04 1.563

いろいろなメーカーの広告に接したことのある製品で

ある。 4.96 1.64

いろいろなメーカーの製品を比較したことがある。 4.1 1.958この製品に関して豊富な知識をもっている。 3.05 1.567この製品の中にはお気に入りのブランドがある。 4.47 2.049この製品を次に買うとすれば,購入したい特定のブラ

ンドがある。 4.3 2.06

買いに行った店に決めているブランドがなければ他

の店に行っても同じものを手に入れたい製品である。2.75 1.808

22

2.広告効果に関する項目(7 段階での回答)

変数 質問項目 平均 標準偏差

広告評価

その広告は(1.とても悪い)⇔(7.とても良い)〔A1〕 4.66 1.275その広告は

(1.嫌いである)⇔(7.好きである)〔A2〕 4.52 1.405

その広告に対して (1.否定的である)⇔(7.肯定的である)〔A3〕

4.63 1.364

製品評価

その製品は(1.とても悪い)⇔(7.とても良い)〔P1〕 4.3 1.023その製品は

(1.嫌いである)⇔(7.好きである)〔P2〕 4.03 0.964

その製品に対して (1.否定的である)⇔(7.肯定的である)〔P3〕

4.44 0.987

購買意向

その製品を購入することに対して (1.反対である)⇔(7.賛成である)〔B1〕

4.41 1.136

その製品を購入することは (1.間違いである)⇔(7.正しい)〔B2〕

4.3 0.947