表面金属薄膜からウェハ ベベル・エッジ部への汚染...

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東レリサーチセンター The TRC News No.112(Jan.2011) 39 ●表面金属薄膜からウェハベベル・エッジ部への汚染評価(ICP-MS,SIMS) 1.はじめに 近年のデバイスの高集積化に伴い、半導体製造におけ る清浄度管理はますます重要になってきている。一方で、 High-kゲート絶縁膜、メタルゲートなどの導入により、 これらの材料やプロセス自体が汚染発生源となってきて いる。特に、ウェハベベル・エッジ部の、コンタミネーショ ン由来や洗浄プロセスで残留するメタル汚染はクロスコ ンタミネーションの原因になり、歩留まりに影響するこ とから、この汚染を評価することは非常に重要である ₁︶ 本稿では、 ICP-MS Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry︶及びSIMSSecondary Ion Mass Spectrometryを用いてウェハベベル・エッジ部の汚染評価を行った事例 を紹介する。 2.ICP-MSを用いたベベル・エッジ部の汚染評価 前述のように、ウェハベベル・エッジ部の金属膜を ウェット洗浄などで除去した際の除去率や周辺への汚染 の程度を把握したいというニーズが高い。ICP-MSで分 析を行う場合、気相分解(Vapor Phase Decomposition; VPD)処理を行ったのち、自動前処理装置などを用いて 特定部位の汚染成分を回収することで、ベベル・エッジ 部などの汚染評価が可能である。しかし、ベベル・エッ ジ部の金属薄膜由来の汚染を評価する場合、通常の方法 では化学的前処理において評価部位に付着している汚染 と近接する金属膜を完全に切り分けてサンプリングする ことは困難である。 今回、NiSi膜を想定し、ベアウェハ全面にNiをスパッ タ成膜したのち、ベベル・エッジ部のみを洗浄してNiを除去した模擬試料を作製して汚染評価を試みた。本検 討では、図1に示すようにNi膜を特殊なコーティング剤 でマスクして溶出を防ぎ、成膜及び洗浄におけるNi汚染 の評価を行った。ベベル・エッジ部からの回収操作は、 NAS技研製の自動前処理装置SC-2000を用いた。 今回ICP-MSで評価を行った分析部位を図2に示す。表 面端部、ベベル部、裏面端部、裏面中央部の4つの領域 について評価を行った。その結果を表1に示す。Ni成膜 側表面端部のNi検出量が最も多く、裏面に回りこむほど、 Niの検出量は減っている。このことから、表面端部にお いてはNi膜の洗浄・除去が十分で無いことが確認された。 また、裏面端部や裏面中央部で検出されたNiに関しては、 成膜及び洗浄の際の残留分であると推定される。 図2 分析部位 表1 エッジ部周辺及び裏面のNi の定量分析結果 3. D-SIMS及びTOF-SIMSを用いたベベル・エッジ部の 汚染評価 D-SIMS(Dynamic SIMS)TOF-SIMS(Time of flight SIMS)を用いてもウェハベベル・エッジ部の汚染評価 は 可能 で あ る。D-SIMSは 局所的 な 汚染量 の 定量評価 (領域:約10μmφ、測定間隔:50μm~)が可能であ 2TOF-SIMSは微小領域での元素マッピングが可能 表面金属薄膜からウェハ ベベル・エッジ部への汚染評価 (ICP-MS,SIMS) 無機分析化学研究部 二村  実 表面科学研究部 北本 克征 表面解析研究部 児島 幸子 図1 コーティング剤を用いた前処理方法

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Page 1: 表面金属薄膜からウェハ ベベル・エッジ部への汚染 …...40・東レリサーチセンター The TRC News No.112(Jan.2011) 表面金属薄膜からウェハベベル・エッジ部への汚染評価(ICP-MS,SIMS)

東レリサーチセンター The TRC News No.112(Jan.2011)・39

●表面金属薄膜からウェハベベル・エッジ部への汚染評価(ICP-MS,SIMS)

1.はじめに

 近年のデバイスの高集積化に伴い、半導体製造における清浄度管理はますます重要になってきている。一方で、High-kゲート絶縁膜、メタルゲートなどの導入により、これらの材料やプロセス自体が汚染発生源となってきている。特に、ウェハベベル・エッジ部の、コンタミネーション由来や洗浄プロセスで残留するメタル汚染はクロスコンタミネーションの原因になり、歩留まりに影響することから、この汚染を評価することは非常に重要である₁︶。 本稿では、ICP-MS(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry︶及びSIMS︵Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いてウェハベベル・エッジ部の汚染評価を行った事例を紹介する。

2.ICP-MSを用いたベベル・エッジ部の汚染評価

 前述のように、ウェハベベル・エッジ部の金属膜をウェット洗浄などで除去した際の除去率や周辺への汚染の程度を把握したいというニーズが高い。ICP-MSで分析を行う場合、気相分解(Vapor Phase Decomposition; VPD)処理を行ったのち、自動前処理装置などを用いて特定部位の汚染成分を回収することで、ベベル・エッジ部などの汚染評価が可能である。しかし、ベベル・エッジ部の金属薄膜由来の汚染を評価する場合、通常の方法では化学的前処理において評価部位に付着している汚染と近接する金属膜を完全に切り分けてサンプリングすることは困難である。 今回、NiSi膜を想定し、ベアウェハ全面にNiをスパッタ成膜したのち、ベベル・エッジ部のみを洗浄してNi膜を除去した模擬試料を作製して汚染評価を試みた。本検討では、図1に示すようにNi膜を特殊なコーティング剤でマスクして溶出を防ぎ、成膜及び洗浄におけるNi汚染の評価を行った。ベベル・エッジ部からの回収操作は、NAS技研製の自動前処理装置SC-2000を用いた。 今回ICP-MSで評価を行った分析部位を図2に示す。表面端部、ベベル部、裏面端部、裏面中央部の4つの領域について評価を行った。その結果を表1に示す。Ni成膜側表面端部のNi検出量が最も多く、裏面に回りこむほど、Niの検出量は減っている。このことから、表面端部にお

いてはNi膜の洗浄・除去が十分で無いことが確認された。また、裏面端部や裏面中央部で検出されたNiに関しては、成膜及び洗浄の際の残留分であると推定される。

図2 分析部位

表1 エッジ部周辺及び裏面のNi の定量分析結果

3.�D-SIMS及びTOF-SIMSを用いたベベル・エッジ部の汚染評価

 D-SIMS(Dynamic SIMS)やTOF-SIMS(Time of flight SIMS)を用いてもウェハベベル・エッジ部の汚染評価は可能である。D-SIMSは局所的な汚染量の定量評価 (領域:約10μmφ~、測定間隔:50μm~)が可能である2︶。TOF-SIMSは微小領域での元素マッピングが可能

表面金属薄膜からウェハベベル・エッジ部への汚染評価

(ICP-MS,SIMS)無機分析化学研究部 二村  実表面科学研究部 北本 克征表面解析研究部 児島 幸子

図1 コーティング剤を用いた前処理方法

Page 2: 表面金属薄膜からウェハ ベベル・エッジ部への汚染 …...40・東レリサーチセンター The TRC News No.112(Jan.2011) 表面金属薄膜からウェハベベル・エッジ部への汚染評価(ICP-MS,SIMS)

40・東レリサーチセンター The TRC News No.112(Jan.2011)

●表面金属薄膜からウェハベベル・エッジ部への汚染評価(ICP-MS,SIMS)

である。今回はICP-MSの分析で用いた試料と同じ処理で作製したウェハについて、図3に示した6つのポイント及び領域の分析を行った。

図3 測定箇所(D-SIMS,TOF-SIMS)

₃.1 D-SIMS分析結果 D-SIMSの分析結果を図4に示す。表面端部の3ポイント(1~3)については、全て1E+15atoms/cm2オーダーでNiが検出されており、測定ポイントによる大きな差は無い。また、ICP-MSの表面端部の結果(1.1E+15 atoms/cm2)とも良く一致している。裏面端部についても、中央部にいくほど(4⇒6)Niの検出量が減少しており、これもICP-MSの結果と良く一致している。このように、両手法の結果は良く一致しており、相関が確認できた。D-SIMSにはICP-MSでは困難な特定微小領域での評価が可能であるという特徴がある。

図4 表裏面端部のNi 汚染量算出結果

3.₂ TOF-SIMS分析結果 TOF-SIMSの分析結果を図5,6に示す。ICP-MS及びD-SIMS同様に、表面端部でNi濃度が高く、裏面端部は中央部にいくほどNi濃度が減少する傾向が得られた。また、領域①については、マッピング像で、明暗部が確認されたため、明部(領域①-A)、暗部(領域①-B)それぞれの領域を解析した結果、58Ni+/30Si+強度比に2倍程度の差が確認された。このようにTOF-SIMSでは、マッピング像を取得し、試料間で濃度を比較できるが、定量性には課題がある。

4.終わりに

 ICP-MS及びSIMSを用いてウェハベベル・エッジ部の汚染評価を行った結果、それぞれの手法で良く一致し

た結果が得られた。これらの手法にはそれぞれ分析領域の大きさ、定量性、マッピング機能などといった特徴があるため目的に応じて使い分けると様々な情報を得ることができる。

5.参考文献

1) 嶋﨑綾子,クリーンテクノロジー,Vol.18 No.12,1-6(2008).

2)山田敬一,The TRC News,104,41-44(2008).

■二村 実(ふたむら みのる) 無機分析化学研究部無機分析第2研究室 研究員  ㈱東レリサーチセンターで各種材料中の微量元素分析(ICP-MS)に従事。 趣味:テニス、ルアーフィッシング。

■北本 克征(きたもと かつゆき) 表面科学研究部表面科学第1研究室 研究員  ㈱東レリサーチセンターで各種材料中の不純物分析(D-SIMS)に従事。 趣味:体力勝負、テニス。

■児島 幸子(こじま さちこ) 表面解析研究部表面解析第1研究室  ㈱東レリサーチセンターで各種材料のTOF-SIMS分析に従事。 趣味:旅行。

図5 表裏面端部のNiマッピング像(TOF-SIMS)

図6 表裏面端部の58Ni+/30Si+強度比(TOF-SIMS)