幼児教育の質評価スケール - nier...2018/04/12  · 幼児教育の質評価スケール...

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幼児教育の質評価スケール Early Childhood Environment Rating Scale-3 『新・保育環境評価スケール①3歳以上』 2017.10.27 (14:00~16:15)* 文部科学省 講堂 子(同志社女子大学) 1

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幼児教育の質評価スケールEarly Childhood Environment Rating Scale-3

『新・保育環境評価スケール①3歳以上』

2017.10.27 (14:00~16:15)*

文部科学省 講堂

埋 橋 玲 子(同志社女子大学)1

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ECERS(エカーズ)-3の紹介

• ECERS=Early Childhood Environment Rating Scale

• アメリカで開発された3歳以上の集団保育の質を測定する尺度

• 初版ECERS 1980 → 改訂ECERS-R 1998 → 改訂ECERS-3 2015

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20か国以上で使用

• ECERS1998年版・ECERS-Rは学術調査、自己評価、監査あるいは査察のツー

ルとして信頼度が極めて高く、アメリカ全土にわたり数多くの調査研究、あ

るいは保育の質のモニターや保育従事者のトレーニングなどの使用実績が蓄

積されている。現在ではアメリカにとどまらず英語圏の国々、ヨーロッパ、

アジア、南米に至るまで20か国以上で使用されている。

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イギリスのEPPEプロジェクトで使用

• 1997〜2003 3000人の子どもの追跡調査

• =Effective Provision of Pre-school Education 就学前教育の効果的な実践

• ECERS-Eとともに使用=Early Years Childhood Environment Rating Scale Curricular Extension to ECERS-R

• 子どもの受けた保育プログラムについてECERS-Rによる測定結果の数

値が高い場合、イギリスのナショナル・カリキュラムの社会的相互関係の項目に関連して、その保育を受けている子どもの“自主性”と“協調性”が優る傾向にあることが示された。

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Environment Rating Scale Family 環境評価スケール・ファミリー<アメリカ>

出版社 Teachers College Press/ コロンビア大学

保育環境評価スケール①幼児版

新・保育環境評価スケール①3歳以上

保育環境評価スケール②乳児版

(学童保育)

(家庭的保育)

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スケールの相関図

ECERS-R/3

『保育環境評価スケー

ル』

ECERS-E

BASSSTEW

SPARK

OPARK

国立政策研究所・幼児教育センター

PAS

『「保育プロセスの質」評価スケール』

(運営の質評価スケール)

(家庭的保育の運営の質評価スケール)

*PAS, BAS,SSTEWのスコアリングのシ

ステムはECERSと同じ7段階評価

(シンガポール 評価スケール)

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ECERS3の内容と評定方式

• 6のサブスケールに分類された35の項目につき、各項目に含まれる10前後の指標に基づいて7段階(1~7点)で評定を行う

• 3時間程度、対象となるクラスの保育を観察し、前述した35項目それ

ぞれにつき、不適切なレベルからスタートして、指標となる質問をひとつひとつ「はい」または「いいえ」のいずれかに判定し、手続きに従って1点から7点までで評点を得る。

• 点数の意味は「1点=不適切」「3点=最低限」「5点=よい」「7点=とてもよい」であるが、総合的な平均点が5点に達すれば「質の高

い」保育であるとみなす。*7点は満点ではなく、上限でもない。

• 中間に2点、3点、4点がある。8

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サブスケール・項目・指標

• 空間と家具(1〜7)

• 養護(8〜11)

• 言葉と文字

• 活動(17〜27)

• 相互関係(28〜32)

• 保育の構造(33〜35)

• <子どもが喜んで話し、文字に出会い、知りたくなるように助ける>

• 12 語彙の拡大

• 13 話し言葉の促進

• 14 保育者による絵本の使用

• 15 絵本に親しむ環境

• 16 印刷(書かれた)文字に親しむ環境

サブスケール

項目

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• 1.1 子どもが手に取って読める本が10冊未満である。

• 1.2 しばしば時間調整のために本を読まされてほとんどの子どもは楽しんでいない。

• 1.3 手に取れる本のほとんどは内容が適切でない。

• 1.4 本を手にする場所が見当たらない。

• 3.1 観察時間中に、少なくとも25分間、子どもが手に取れる本が15冊ある。

• 3.2 子どもが手に取れる本は、フィクション(想像)とノンフィクション(事実)の両方がある。

• 3.3 手に取れる本のほとんどは状態が良く、内容が子どもにとって全体的に適切である。

• 3.4 本はまとまって置かれており、子どもが手に取りやすく、本を手にする場所がある。

• 5.1 たくさんの本があり、観察時間中に1時間は子どもが本を手に取れる。

• 5.2 子どもは手にとった本に興味を示している。

• 5.3 本は決められたコーナーに適切に置かれ、手に取りやすく、くつろいで読めるスペースがある。

• 5.4 保育者は子どもが自分で本を選ぶことに積極的な関心を示している。

• 7.1 手に取れる絵本の選択の幅が広い。

• 7.2 少なくとも5冊の本が、現在のクラスの活動に関連しており、簡単に手に取れる。

• 7.3 手に取れる本のほとんどが、子どもが親しめるように配置してある。

15 絵本に親しむ環境

指標

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6サブスケールと35項目の意味空間と家具-子どもの遊びと幼児期にふさわしい学びを支える室内空間を魅力的に構成する

• 1.室内空間 気持ちの良い生活ができる

• 2.養護・遊び・学びのための空間 安心し、楽しく過ごせる

• 3.遊びと学びのための室内構成 好きな遊びを選び、じっくり取り組む

• 4.ひとりまたはふたりのための空間 一人で落ち着く、またはともに考え深めつづける

• 5.子どもに関係する展示 自ら気づいたり、振り返ったり、他の人と興味関心を分かち合う

• 6.粗大運動遊びの空間 身体を十分動かして充実感や満足感を得る

• 7.粗大運動遊びの設備・用具 適切な活動を選び、進んで運動する

養護-子どもの安心・安全を確かなものにする

• 8.食事/間食 食べることを楽しむ

• 9.排 泄 自分で用を足せる

• 10.保健衛生 自分の身体を大切にする気持ちを持つ

• 11.安 全 安全に気を付けて行動する

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言葉と文字-子どもが喜んで話し、文字に出会い、知りたくなるように助ける

• 12.語彙の拡大 未知の言葉と出会い獲得する楽しさを感じる

• 13.言葉の使用の促進 よく聞いてもらって、話す楽しさを知る

• 14.保育者による絵本の使用 絵本を読んでもらってともに楽しんだり、うれしい気持ちになる

• 15.絵本に親しむ環境 絵本の楽しさ、探す・知る喜びを味わう

• 16.印刷(書かれた)文字に親しむ環境 文字の意味や役割、必要性がわかる

活 動-子どもがものに触れ、関わり、操り、つくり出し、夢中になることを支え、学びに向かう力を育てる。

• 17.微細運動 手や指を使い集中して遊ぶ

• 18.造形 作ったり描いたりして様々な表現を楽しむ

• 19.音楽リズム 感じたことや考えたことを音や動きで楽しむ

• 20. 積み木 構成を楽しみ思いを表現し友だちと共有する

• 21. ごっこ(見立て・つもり・ふり・役割)遊び イメージを形にして楽しみ、友だちと共有する

• 22. 自然/科学 自然に触れ、好奇心や探求心を持つ

• 23. 算 数 遊びや生活の中で数・量・形に親しむ

• 24. 日常生活の中の算数 生活の必要に応じて数量などに親しむ

• 25. 数字の経験 数字の意味に気づく

• 26. 多様性の受容 人には違うところと同じところがあることに気づく

• 27. ICTの適切な使用 テクノロジーで遊びや生活の幅を広げる

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相互関係-気持ちが受容され、伝え合いをし、新しい考えを生み出すことを支える

• 28. 粗大運動の見守り 身体を動かす様々な活動に目標を持って立ち向かう

• 29. 個別的な関わり 一人一人の特性に応じた指導

• 30. 保育者と子どもの相互関係 子どもが尊重され、認められ、支えられる

• 31. 子どもどうしの関係 他の幼児の考えや感じ方に触れる

• 32. 望ましい態度・習慣の育成 自分でしなくてはならないことを自覚して行う

保育の構造-子どものよりよい生活を支えるクラスルーム・マネージメント

• 33. 移行時間と待ち時間 子ども自身が生活の見通しを持てる

• 34. 自由遊び 活動を楽しむ中で、自分で考えたり助けを得たりして自分で行う

• 35. 遊びと学びのためのクラス集団活動 他の幼児や保育者と親しみあい、支え合う

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調査報告(1)調査方法

• 協力園 国・公・私立の幼稚園または幼保連携型認定こども園計6園

• 対象 5歳児クラス、クラス規模は27~29人(在籍)

• 調査時期 2016年2月~6月

• 評定者 プロジェクトメンバー

• 方法:午前中3時間程度、ECERS-3の日本語訳を用いて評価観察を行い協議

の上、メンバーの合意により最終評定を行った。(本調査では項目㉖多様性の受容と㉗ICTの適切な使用については割愛)*結果についてはプロフィール、指標による次の課題、総評のレポートでフィードバック

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調査報告(2) 結果(部分)

• サブスケールの評点の平均

• 養護 >保育の構造 >相互関係 >空間と家具 >言葉と文字 >活動

•• 「言葉と文字」では項目12,13に注目すると、教師自身の語彙が必ずしも豊かとはいえない状況が観察された。項目14,15に注目すると、園によって取り組

みの差があるが、教師によって必ずしも絵本の重要性が認識されていない(例:絵本の読み聞かせが毎日の日課になっていない、子どもが絵本を読みたくなるような環境が設定されていない)状況が明らかになった。16につい

ては、日本においてどのような取り組みが望ましいのかを検討する必要がある。

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まとめ

• ECERSにより保育の質をシンプルに数値化し、個別の園のレベルではその数値を手掛かりに保育の質の「底上げ」に活用できる。

• 数値の根拠につき話し合うことで保育者間に共通認識が生まれ、質の向上に向けて具体的な目標を設定できる。

• それは「環境を通しての教育」を分節的に認識し、段階的に質の向上を行うことである。

• 今回の調査では限られた標本ではあるが「言葉と文字」「活動」の評点の低さとその具体的な様相が示され、これらは今後の改善の具体的な手がかりとなるだろう。

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