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大中質量星の進化と脈動 1 大中質量星の問題点 大中質量星 (M & 4M ) は主系列星段階では、対流の起こっている中心部をもち、OB 型星で ある。特に、大質量星 (M & 10M ) は、進化の最終段階で超新星爆発を起こし、銀河の元素組 成進化に重要な役割を担っている星であるが、それらに対する理論的なモデルには多くの不確 定な問題点が存在する。大きな不確定性のひとつは、恒星内部での物質の混合の度合いに付い てである。恒星中心部では核融合反応によって、進化に伴って物質の元素組成が変化していく。 したがって、物質の混合の度合いは恒星の進化に大きな影響を及ぼす。もっとも効率の良い混 合は対流によって起こるが、恒星の対流の起こる領域についての正確な理論は存在しない。ま た、OB 型星には高速で自転しているものが多いが、自転にともなう子午面還流および不安定 性に起因する乱流によってある程度物質が混合が起こる事が期待されるが、それがどの程度起 こるかを正確に記述することは出来ていない。また、恒星内部で角運動量の輸送の速さも理論 的な記述も不十分である。さらに、進化の途中で起こる質量放出率、とくに赤色超巨星段階で の質量放出率を理論的に記述する事は出来ていない。これらの理論的不備を補うために、観測 との比較による進化モデルの検証が重要である。 2 中心部対流境界からの overshooting 中心対流層の領域は rad ( d ln T d ln P ) rad ≥∇ ad ( d ln T d ln P ) ad で決められる。ここに、rad は放射だけでエネルギーが運ばれると仮定したときに必要な温度 勾配で、ad は断熱温度勾配である。対流層内での温度勾配を ∇≡ d ln T/d ln P とかくと、あ るガスの塊に働く加速度は、周りよりも密度が小さいとき (∆ρ< 0) 外向きに働くので、 ρ dv dt ≈−gρ = ( ln ρ ln T ) p (ad −∇) d ln P dr r = g 2 ρ 2 P ( ln ρ ln T ) p (∇−∇ ad )∆r の関係がある。ここでガス塊は断熱的に運動するとした。対流層と放射層の境界は = rad = ad で与えられるが、この条件はその場所から出発するガスの塊の加速度がゼロになる条件であ り、下層から動き出したガスの運動速度がゼロの条件ではない。そのため、以前からその境界か らの対流運動のはみだし、 overshooting の存在が考えられていた。しかし、問題は overshooting がどこまで起こるかを理論的に評価する事が出来ない事である。そのため、例えば中心対流部 境界での pressure scale height Hp (= dr/d ln P ) 0.10.2 (δ OV =0.1, 0.2) とかが仮定さ れることが多い。(δ OV の代わりに α OV が使われる事もある。) 仮定された overshooting の範囲 によって、主系列段階でヘリウムに変えられる水素の量が変わり、主系列段階の寿命が変わる (下図参照)。この overshooting の範囲の仮定は観測量を使って検証する事が重要である。 1

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Page 1: 大中質量星の進化と脈動saio/komaba/evol_massive.pdf大中質量星の進化と脈動 1 大中質量星の問題点 大中質量星(M& 4M ) は主系列星段階では、対流の起こっている中心部をもち、OB型星である。特に、大質量星(M&

大中質量星の進化と脈動1 大中質量星の問題点大中質量星 (M & 4M) は主系列星段階では、対流の起こっている中心部をもち、OB型星である。特に、大質量星 (M & 10M) は、進化の最終段階で超新星爆発を起こし、銀河の元素組成進化に重要な役割を担っている星であるが、それらに対する理論的なモデルには多くの不確定な問題点が存在する。大きな不確定性のひとつは、恒星内部での物質の混合の度合いに付いてである。恒星中心部では核融合反応によって、進化に伴って物質の元素組成が変化していく。したがって、物質の混合の度合いは恒星の進化に大きな影響を及ぼす。もっとも効率の良い混合は対流によって起こるが、恒星の対流の起こる領域についての正確な理論は存在しない。また、OB型星には高速で自転しているものが多いが、自転にともなう子午面還流および不安定性に起因する乱流によってある程度物質が混合が起こる事が期待されるが、それがどの程度起こるかを正確に記述することは出来ていない。また、恒星内部で角運動量の輸送の速さも理論的な記述も不十分である。さらに、進化の途中で起こる質量放出率、とくに赤色超巨星段階での質量放出率を理論的に記述する事は出来ていない。これらの理論的不備を補うために、観測との比較による進化モデルの検証が重要である。

2 中心部対流境界からのovershooting

中心対流層の領域は∇rad ≡

(d lnT

d lnP

)rad

≥ ∇ad ≡(d lnT

d lnP

)ad

で決められる。ここに、∇rad は放射だけでエネルギーが運ばれると仮定したときに必要な温度勾配で、∇adは断熱温度勾配である。対流層内での温度勾配を∇ ≡ d lnT/d lnP とかくと、あるガスの塊に働く加速度は、周りよりも密度が小さいとき (∆ρ < 0) 外向きに働くので、

ρdv

dt≈ −g∆ρ = gρ

(− ∂ ln ρ

∂ lnT

)p

(∇ad −∇)d lnP

dr∆r =

g2ρ2

P

(− ∂ ln ρ

∂ lnT

)p

(∇−∇ad)∆r

の関係がある。ここでガス塊は断熱的に運動するとした。対流層と放射層の境界は∇ = ∇rad =

∇adで与えられるが、この条件はその場所から出発するガスの塊の加速度がゼロになる条件であり、下層から動き出したガスの運動速度がゼロの条件ではない。そのため、以前からその境界からの対流運動のはみだし、overshootingの存在が考えられていた。しかし、問題は overshooting

がどこまで起こるかを理論的に評価する事が出来ない事である。そのため、例えば中心対流部境界での pressure scale height Hp (= −dr/d lnP )の 0.1、0.2倍 (δOV = 0.1, 0.2)とかが仮定されることが多い。(δOV の代わりにαOVが使われる事もある。) 仮定された overshooting の範囲によって、主系列段階でヘリウムに変えられる水素の量が変わり、主系列段階の寿命が変わる(下図参照)。この overshootingの範囲の仮定は観測量を使って検証する事が重要である。

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Page 2: 大中質量星の進化と脈動saio/komaba/evol_massive.pdf大中質量星の進化と脈動 1 大中質量星の問題点 大中質量星(M& 4M ) は主系列星段階では、対流の起こっている中心部をもち、OB型星である。特に、大質量星(M&

対流中心部境界からの対流運動のovershootingを仮定した場合 (δOV =

0.12; 0.12Hp)としない場合の進化経路の違い。Overshootingの起こった層だけ、主系列星段階にヘリウムにかえられる水素の量が増えるので、主系列段階の寿命が長くなり、HR図上の主系列の幅が大きくなる。

Overshooting 領域の検証には脈動変光星が使われる事が多い。OB型星では、おもに鉄がつくる約 20万度での吸収係数のピークによって p

modes と g modes が励起され、前者は β Cep型変光星、後者は SPB (slowly pul-

sating B) starsとして観測される。(SPB星のなかで、主系列段階後の超巨星の SPB

星を SPBsg とよぶこともある。)

2.1 β Cep 星による overshooting 範囲の評価

右の図は、p-mode と low-order g-

mode 振動が観測される β Cep 星の一つ HD 129929 に観測された振動周波数 (およびその星の表面温度と lumi-

nosity)を再現する恒星進化モデルを表している。(このようなbestモデルは、種々のパラメータの組み合わせに対する多数のモデルを試すことによって得られる。) δOV = 0.1 の overshooting

が ふさわしいことが示されている。

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下の表は、種々の β Cep 星に対して同様の解析をして得られた overshooting の大きさ δOV

評価値を list したものである。それによると、0.1 ≤ δOV ≤ 0.44 で、overshooting の大きさは星によってまちまちである。また同じ星に対しても、解析者によって異なる場合もあることから、このような解析が難しい事を表している。

2.2 SPB星によるovershooting 範囲の評価Slowly pulsating B (SPB) 星とよばれる変光星は p-mode より周期の長い g-mode振動をしている。(振動励起機構は β Cep 星の p-mode と同様 20万度付近の鉄の吸収係数のピークでのkappa-mechanism であるが、表面温度が β Cep 型星よりも少し低いので、周期の長い g-mode

振動が励起される。)

p-mode 振動の振幅が恒星の外層で大きいのに対し、g-mode 振動は恒星内部で振幅が大きく、中心部で対流が起こっているかどうかが g-mode 振動の励起に大きな影響を及ぼす。恒星内部の g-mode の振る舞いにはBrunt-Vaisala frequency N

N2 = g

(1

Γ1

d lnP

dr− d ln ρ

dr

)=gV

r

[4 − 3β

β(∇ad −∇) + ∇µ)

]の大きさが重要である。ここに、V = −d lnP/d ln r,∇ = d lnT/d lnP , ∇µ = d lnµ/d lnP をあらわし、β = Pg/P ガス圧と全圧の比である。g-mode の振動周波数を σgと書くと g-mode 振動は

σ2g < N2

の領域で存在 (伝播)する。一般に、Brunt-Vaisala frequency N は恒星内部ほど大きい値を持ち、振幅が λgσg/ ∼ N の

波長で振動する。そのため、N が非常に大きい中心部では、その波長が非常に短くなり、熱的な緩和がはたらき g-mode は、外層で励起機構が働いても減衰してしまう。しかし、中心部に対流が起こっている場合、対流領域では N2 < 0なので g modeは中心部まで入ってこず、熱的減衰の効果をうけない。そのような場合、外層ではたらく励起機構によって g-mode が励起される。大中質量主系

列星の中心部では対流が起こっているので、比較的表面温度が低い 2.5 ∼ 7M の主系列星は

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g-mode で振動する SPB星となっている。(主系列段階の進化を終え、中心部で対流が起こらなくなった星でも、∼ 12Mよりも質量の大きな星では、H-burning shell のすぐ外側に薄い対流層が存在し、そこで g-modeが反射されてN2の大きな中心部まで侵入しないような場合が可能で、g-mode による変光が観測される。)

左は、主系列段階で中心部が対流領域になっているのでNがゼロになっていて g-mode は中心まで入ってこない。一方中央の図は主系列段階後の状態で、中心部は放射領域で収縮により密度が大きくなっているので、Brunt-Vaisala frequency N が大きくなっており、g-mode の波長が非常に短くなり、放射減衰が大きくなるので、g-modesは励起されない。また、右端の図は15 M の主系列段階後の状態を表している。このように質量が大きい場合は、H-burning shell

のすぐ外側に対流層が発生してNがゼロになるので、そこで反射されて中心部の放射減衰領域に入らない g-modes が存在でき、そのような g-modes は表面近くでおこる kappa-mechanism

によって励起される。

中心部で対流が起こっている主系列 SPB星のHR図上の分布は、HR図上での主系列の幅、つまり、overshooting の程度を表している。左下図は主系列 SPB星の分布と、overshooting を考慮した場合としない場合で期待される SPB星の分布を比較したものである。この比較では、overshooting を考慮しない (αOV ≡ δOV = 0)モデルの分布とよく合っている。これは、前述の

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β Cep 星の振動から得られた結果と異なっている。

右上の図は、SPB星と同様の質量をもち、非常に高速自転をしている Be 星の HR図上の位置をプロットしたものである。Be星も SPB星と同様 g-mode 振動による変光をしめしているので、Be星の分布も中心で対流が起こっている星の分布を表していると考えられる。この分布は、高速自転するBe星の内部の対流中心部が普通の SPB星の場合よりも広がっている事を示している。これは、自転に伴う物質混合の影響で広い領域の質量が対流中心部に持ち込まれて、主系列星段階が引き延ばされている事を示していると理解する事ができる。

3 自転する星の内部での力学平衡

遠心力が重力と comparable になると、構造は不安定になるが、それ以下だと軸対称定常な構造となることが期待される。そのような構造の力学平衡を考える。定常状態での(粘性を無視した)流体力学の momentum equation は

v · ∇v = −1

ρ∇P −∇ψ (3.1)

と表される。ここで、ψ は重力ポテンシャルで、Poisson equation

∇2ψ = 4πGρ (3.2)

を満たす。(3.1)式の左辺は v = Ω × r = Ωr sin θeφ であることをつかって、

v · ∇v = Ω2r sin θ∂eφ

∂φ= −Ω2r sin θe$

= −Ω2r sin θ(er sin θ + eθ cos θ) = −Ω2 1

2∇(r2 sin2 θ)

と書くことができる。したがって、(3.1)式は

1

ρ∇P = −∇ψ + Ω2$e$ (3.3)

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または、1

ρ∇P = −∇ψ +

1

2Ω2∇(r2 sin2 θ) (3.3′)

と書くことができる。∂Ω/∂φ = 0なので、もし

∂Ω

∂z= 0

ならば、有効ポテンシャル

Ψ ≡ ψ −∫ $

0

Ω2$′d$′ (3.4)

が定義でき、(3.3)式は

1

ρ∇P = −∇Ψ = ~geff (3.3′′)

と表される。有効重力~geffは、右上の図のように中心方向から εだけずれている。Uniform rotation

(Ω =constant)のときΨ = ψ − 12Ω2$2と書くことが出来るので、

sin ε =(geff)θ

|geff |≈ Ω2r

|geff |cos θ sin θ

のように表される。また、(3.3′′)式の rotation をとると、

(∇ρ) × (∇P ) = 0 (3.5)

が得られる。これは∇ρ と ∇P とが平行であることを示している。つまり、密度一定の面と圧力一定の面とが同じ (barotropic)で、Ψ 一定の面と共通である。この場合、構造は有効ポテンシャルΨ の関数となり、力学平衡の式は、Ψ を独立変数として

dP

dΨ= −ρ

のように書くことができる。

逆に、polytrope のように、P が常に ρ だけの関数の場合、(3.5)式はいつでも成り立っていなくてはならない。(3.3)式の rotation をとると、

− 1ρ2

(∇ρ) × (∇P ) = ∇× (Ω2$e$) = $∂Ω2

∂zeφ

となるから、この場合は常に ∂Ω/∂z = 0 となっていなくてはならない。 これは、Poincare - Wavre

theorem といわれる。

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3.1 剛体自転する星の表面の形と critical rotation

剛体自転する星の重力ポテンシャルをRoch近似 (全ての質量が中心に凝縮しているという近似)

 をつかって ψ = −GM/rとあらわすと、(3.5)式で定義される有効ポテンシャルΨは

Ψ = −GMr

− 1

2r2Ω2 sin2 θ (3.6)

のようにあらわされる。星の表面は等有効ポテンシャル面のひとつで、自転軸上 (極; θ = 0)の星の半径をRp、赤道上 (θ = π/2)の半径をReqと書くと、極でも赤道でも表面は同じ有効ポテンシャルを持つはずなので、

−GMRp

= −GMReq

− 1

2R2

eqΩ2 −→ Req

Rp

= 1 +1

2

Ω2

GM/R3eq

(3.7)

のような関係が得られる。これは、赤道半径と極半径の比の1からのずれが自転角速度Ωの二乗に比例して大きくなる事を示している。

(3.6)の形を微分する事により有効重力の r 成分と θ成分

(geff)r = −∂Ψ

∂r= −GM

r2+ rΩ2 sin2 θ; (geff)θ = − ∂Ψ

r∂θ= rΩ2 sin θ cos θ

を得る。自転角速度 Ωが大きくなるにつれ (geff)r が増加 (絶対値が減少)する。また、その効果は、赤道 (θ = π/2)で最も大きい。恒星が安定に存在できるための必要条件は (geff)r < 0 である。赤道上でちょうど臨界値 (geff)r = 0を実現する自転角速度 (臨界角速度)Ωcritは、上の式から、

Ωcrit =√GM/R3

eq

で与えられる。この関係を (3.7)に使うと、

Req

Rp

= 1 +1

2

Ω2

Ω2crit

(3.7′)

がえられ、Ω → Ωcrit でReq/Rp → 1.5になる事がわかる。

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このことから、臨界自転角速度は

Ωcrit ≈ 0.54√GM/R3

p

≈ 0.7√GM/R3

mean

のようにも表す事が出来る。右図は各自転速度をもつ恒星の表面の形を表したものである。Ω/Ωcrit . 0.5

に対しては、表面の歪みは目立たないが、その比が1に近づくにつれ歪みが大きくなり、Req/Rp ≈ 1.5 に近づいていく。

3.2 自転星内部でのエネルギー保存と Von Zeipel Paradox

ここでは、平衡状態にある自転星内部におけるエネルギー保存を、エネルギーが 放射だけで運ばれていると仮定して考える。平衡状態にある恒星内部の Energy conservation の式は

∇ · F = ρεn (3.8)

と表される。ここに、F は radiative flux で、

F = − 4ac

3κρT 3∇T (3.9)

与えられる。∂Ω/∂z = 0 で effective potential Ψ が定義できる場合を考える。このとき、P, ρ, T 共に Ψ

だけの関数として書けるので、(3.9)式は、

F = − 4ac

3κρT 3 dT

dΨ∇Ψ ≡ f(Ψ)∇Ψ (3.9′)

と表すことができる。Ψは外側に向かって大きくなるので、dT/dΨ < 0, f(Ψ) > 0で∇Ψは外側を向いている。Equi-potential surfaceは赤道で膨れているので、|∇Ψ|は赤道で minimumとなっている。したがって、星の表面輝度は、赤道近傍が暗くなっている。– Von Zeipel’s law of

gravity darkening

Energy conservation の式 (3.8)に (3.9′)式を使うと、

∇ · F =df

dΨ(∇Ψ)2 + f(Ψ)∇2Ψ = ρεn (3.10)

となる。Ψ の定義 (3.4)式から、[∇2 = 1$

∂∂$

($ ∂∂$

) + ∂2

∂z2 + 1$2

∂2

∂φ2 ]

∇2Ψ = 4πGρ− 1

$

d

d$(Ω2$2) (3.11)

なのでエネルギー保存式 (3.10)は

df

dΨ(∇Ψ)2 + f(Ψ)

[4πGρ− 1

$

d

d$(Ω2$2)

]= ρεn (3.12)

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のように表される。しかし、この式を満たすのは不可能であることが以下のように理解できる。最初に、uniform rotatin (Ω = constant) の場合を考察する。この場合 (3.12)式は

df

dΨ(∇Ψ)2 + f(Ψ)[4πGρ− 2Ω2] = ρεn (3.13)

となる。ρεnは P, T, ρの関数であるから、Ψ一定の面で一定の値を持つ。同様に、f(Ψ)[4πGρ−2Ω2]もΨ一定の面で一定の値を持つ。しかし、(∇Ψ)2 は赤道面で minimumとなっており、明らかに、Ψ一定の面で一定の値をもたない。それでも (3.13)式を満たすためには、f(Ψ)=constant

でなくてはならない。しかし、このとき εn ∝ 1−Ω2/(2πGρ) でなくてはならなくなる。このようなことは起こりえない。したがって、(3.13)式は成り立たないという結論に達する。

Ω = Ω($) の場合、d(Ω2$2)/d$ は一般には円筒面上で一定である。この面は、等ポテンシャル面とも、(∇Ψ)2一定面とも異なるので、(3.12)式を満たすことはできない。したがって、∂Ω/∂z = 0の場合、定常で輻射平衡の構造は実現しない。これを Von Zeipel

Paradox という。この paradoxを回避するには、厳密な輻射平衡ではなく、thermal timescale の流れ (merid-

ional circulation)の存在を許容するか、∂Ω/∂z 6= 0の回転を考えるかである。後者の場合には、thermal instability によって ∂Ω/∂z = 0 状態に変化していくことが知られている。したがって、自転している星では、meridional circulation の発生が予想される。

3.3 Meridional circulation (子午面還流)

ゆっくりとした流れ u が定常に存在すると仮定したとき、dS/dt = u · ∇Sなので、エネルギー保存の式は、

ρTu · ∇S = ρεn −∇ · F (3.14)

と表される。以下では簡単のため、uniform rotation (Ω=constant) を仮定する。entropy の微分は

TdS = CpdT + T

(∂S

∂P

)T

dP = Cp

[dT +

(∂T

∂S

)P

(∂S

∂P

)T

dP

]= Cp

[dT −

(∂T

∂P

)S

dP

]または、

T∇S = CpT

[d lnT

d lnP−

(∂ lnT

∂ lnP

)S

]∇ lnP =

CpT

P[∇T −∇ad]∇P

と書けるので、(3.14)式は

∇ · F = ρεn −CpρT

P(∇T −∇ad)u · ∇P (3.14′)

と書ける (放射平衡のとき∇T < ∇ad)。(3.3′′)、(3.10)、(3.11)式を使うと上の式は

df

dΨ(∇Ψ)2 + f(Ψ)[4πGρ− 2Ω2] = ρεn +

Cpρ2T

P(∇T −∇ad)u · ∇Ψ (3.15)

と表される。

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Uniform rotation の場合 barotropicな構造で、等圧面上で比べると、|∇T |は極付近に比べて赤道付近で小さい値を持ち、放射フラックスが赤道付近で不足する。それを補うためにmeridional circulation が起こってエネルギーを運ぶと考えると、放射層では∇T < ∇adなので、右図のように、赤道付近で中心に向かう流れが発生し、自転軸に近い場所では外側に向かう流れが発生すると想像される。しかし、実際にはmeridional circulation によって角運動量が輸送され、uniform rotation からスタートしたとしても、Ωの分布が一様でなくなる。Meridional circulation による角運動量の輸送により、等圧面上でΩが一定でなくなったとすると、水平方向の shear が発生することになる。しかし、水平方向の shearはKelvin-Helmholtz

instability によって、meridional circulation の timescaleよりも短い時間でならされてしまう事が予想される。そのため、定常状態では自転角速度Ωは中心から表面まで変化するが等圧面上では一定であるような shellular (differential) rotation の状態になる事が予想される。また、恒星内部では核反応の影響で中心部ほど平均分子量が大きくなっているので、meridional circulation

がさまたげられる効果もある。さらに、種々の状態のもとで起こる instabilityによってもΩ(P )

の分布が変化し、そのためmeridional circulationも変化する。下の図は、角運動量輸送、平均分子量分布等を考慮して得られた 20M進化モデル内部のmeridional circulation の一例である(Maeder 2008)。

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3.3.1 Timescale (Eddington-Sweet circulation timescale)

(3.15)式を等ポテンシャル面 (Ψ =constant)で平均すると、

df

dΨ(∇Ψ)2 + f(Ψ)[4πGρ− 2Ω2] = ρεn (3.17)

が得られる。(3.15)式から (3.17)式を差し引いて、

Cpρ2T

P(∇T −∇ad)u · ∇Ψ = − df

dΨ[(∇Ψ)2 − (∇Ψ)2] (3.18)

を得る。(∇Ψ)2は (3.4)式より、uniform rotation のもとで、

(∇Ψ)2 = (∇ψ − Ω2$e$)2 = (∇ψ)2 − Ω2r sin θ(∇ψ) · (sin θer + cos θeθ) +O(Ω4)

= (∇ψ)2 − 2Ω2∂ψ

∂rr sin2 θ +O(Ω4)

であるから、|(∇Ψ)2 − (∇Ψ)2| ∼ grΩ2 (3.19)

と評価できる。一方、(3.9′)式より、

f(Ψ) ' − F

geff

' − Lr

4πGMr

(3.20)

であるから、Ψで微分することにより、∣∣∣∣ dfdΨ∣∣∣∣ ∼ 1

4πg

d

dr

(Lr

GMr

)(3.21)

を得る。(3.19)、(3.21)式を (3.18)式に使って、

Cpρ2T

P(∇T −∇ad)|ur|g ∼ Ω2r

∣∣∣∣ ddr(

Lr

GMr

)∣∣∣∣または、

|ur| ∼ P

Cpρ2T (∇T −∇ad)

Ω2r

4πg

∣∣∣∣ ddr(

Lr

GMr

)∣∣∣∣∼ Ω2r

Gρ(∇T −∇ad)4πg

Lr

M2r

4πr2ρ =r2Lr

GM2r (∇T −∇ad)

Ω2r

g

を得る。上の関係を導く際、Lrは中心のごく近傍以外ではほぼ一定なので場所による変化を無視した。Meridional circulation の timescale τcir は星の半径を R とすると、

τcir ∼ R

|ur|∼ GM2/R

L〈∇T −∇ad〉〈

g

Ω2r〉 ∼ τK × 重力

遠心力 ∼ τMS

100× 重力遠心力

のように表される。(この timescaleは Eddington-Sweet timescaleと呼ばれる事が多い。) ここに、τK は Kelvin-Helmholtz timescale (重力収縮の timescale)、τMS は main-sequence のlifetime を表す。

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太陽では、自転周期が 26日程度であるから、Ωは

Ω ∼ 2π/(26 × 24 × 3600) s−1 ∼ 2 × 10−6 s−1

程度で、重力と遠心力の比は

重力遠心力 ∼ 3 × 104

4 × 10−12 × 7 × 1010∼ 105

なので、太陽内部全体が meridional circulationによって混合される timescaleはmain-sequence

の寿命の約千倍である。したがって太陽では、内部全体のガスの元素組成がmeridional circulation

によって均一化されることはない。しかし、小さいスケールでの部分的混合の影響はある可能性はある。早期型主系列星には、表面で遠心力が重力の1割以上になっている場合もある。内部では遠心

力/重力比は、表面の値よりも小さいが、高速自転星では、meridional circulationの timescaleが主系列段階の寿命と同程度かそれ以下になっていることが予想される。また、differential rotation

がある場合、その shear によって weak turbulence が起こされて混合を起こす可能性もある。しかし、恒星の自転によって励起される内部運動によってどの程度の混合が起こるのかは理解されていない。(中心に近いほどガスの平均分子量が大きくなっていることが予想され、混合を妨げる要因の一つである。)早期型主系列星には表面で窒素の含有量が多い星があり、それは、meridional circulation によって、CNOサイクルの影響を受けたガスが表面まで混合されて来たのではないかと推測されている。

3.4 自転を考慮した星の進化モデル大中質量主系列星は高速自転しているため、その構造は球対称からづれ、赤道がふくらんだ偏平な構造をもつ。このような軸対称構造の星の進化を計算するためには 2次元の計算をする必要があるが、そのような計算をするにはまだ現在の computer の能力が不足している。そこで、(Mrのかわりに) 各等圧面に囲まれる質量 MP を独立変数として、遠心力の効果を各等圧面上で平均化して扱い、自転によって引き起こされる恒星内部のガスの運動による物質混合の効果を考慮した恒星進化計算が行なわれている。このような計算では、様々な不安定性および子午面還流で引き起こされる乱流運動による角運動量の輸送の効果を拡散係数Dであらわし、恒星内部の角運動量分布を(

∂(r2Ω)

∂t

)MP

=4π

5

∂MP

(ρr4ΩUr) +∂

∂MP

[(4πρr3)2D

∂Ω

∂MP

]の拡散方程式を解くことによって求める。右辺の第1項は子午面還流による角運動量のadvection

の効果を表している。また、各元素の組成比Xiの分布は、乱流および子午面還流による混合を拡散として取あつ

かい、 (∂Xi

∂t

)MP

=

(∂Xi

∂t

)MP ,nucl

+∂

∂MP

[(4πr2ρ)[D +Deff ]

∂Xi

∂MP

]を解くことによって得る。ここで、Deff は子午面還流による物質混合の効果を拡散係数として表したものである。

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これらの式を使って、自転角速度と各元素の組成比の分布を各進化段階で決定しながら恒星の進化モデルを計算する。下の図は、20M の主系列段階の進化モデル内部の自転角速度分布 (左)と子午面還流の動径方向成分の分布 (右)をあらわしている。進化が進むと (中心の水素含有量Xcが減少)中心部が収縮するので角速度Ωは中心部で大きくなる。(対流の起こっている中心部では角運動量が効率的に運ばれるため、剛体回転となっている。)

右の図は 20Mの主系列中の2段階と主系列段階後の2段階モデルで、自転による混合の効果が考慮された場合 (上)とされてない場合(下)での水素含有量分布を比較したものである。主系列段階では中心部では対流が起こっているので、水素は均一に混ぜられているが、対流中心部の外側の水素の分布は、自転による混合が考慮されている場合は滑らかな分布になっており、水素の減少の影響が外側にまでおよんでいることがみてとれる。このような、水素含有量分布の違いにより、HR図上の進化経路にも自転による混合の影響が現れる。

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右図は、自転による混合を考慮した進化経路と自転を無視した場合の進化経路(点線)をHR図上で比較したものである。自転の効果を入れたモデルは、ZAMSでは遠心力の効果で半径が大きく (Teffが低く)少し暗い。しかし自転による物質混合の効果で、自転を無視したモデルに比べ主系列進化での lu-

minosityの増加が大きく、その後の進化段階での luminosityも大きい。これは、混合によって対流中心核の外側にある物質も核融合にかかわるため、主系列星段階で形成されるHe中心核の質量が自転を無視した場合に比べて大きくなることによる。

また、20M の進化では、自転を考慮したモデルでは、赤色超巨星段階の後、高温の青色超巨星領域にもどる。このように、質量の大きい星の進化は、自転による内部混合と質量放出によって、自転を考慮するか否かで、ヘリウム燃焼段階以降の進化経路が大きく変わることがある (下図参照)。

また、内部のゆっくりとした混合とwind mass loss の効果によって表面元素組成が変化る。

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上の図は、自転による内部混合を考慮したモデルと考慮していないモデルの、進化経路と表面窒素含有量 (N)を比較したものである。自転による混合を考慮してないモデル (上左図)では、表面窒素含有量は、主系列を離れて、赤色巨星になり外層の対流層が深くなって、CNO cycle

の影響を受けた物質が対流層に入ってくるまでは変化がない。それに対し、自転による混合を考慮したモデル (上右図)では、主系列星の段階から、放射外層で起こるゆっくりとした混合によって内部の物質の一部が表面まで出てくるため、主系列星の段階から表面窒素含有量がぞうかしていくのがみてとれる。大きな自転速度を持つ場合が多いB型主系列星の放射外層における混合を検証する際に、窒

素 (14N)の表面含有量とともに、ホウ素 (11B, 10B)の表面含有量がモデルと比較される。ホウ素は、T > 7 × 106Kで 107年より短い時間で proton-capture

11B(p, α)24He および 10B(p, α)7Be(e−, νγ)7Li(p, α)4He

によって壊されるので、。一方、CNO cycle による水素燃焼が起こると、もとあった炭素、窒素、酸素のほとんど全

てが窒素になるので、このような反応の起こる高温の状態のガスでは、窒素が多く炭素、酸素はなくなっている。かってこのような高温状態にあった物質の一部が、混合により表面まで出てくると、表面で

のホウ素の組成比が小さくなり、窒素が多くなる。下の図は、種々のパラメータ (恒星質量、初期自転速度、初期組成)に対して計算されたモデルの表面組成と B型星に対する観測値とを比較したものである (Frischknecht, et al. 2010, A&A, 522, A39)。

観測値はほぼ理論的結果にそったB-N関係に乗っており、恒星内部の放射層で自転によって発生したmeridional circulation とそれによって起こされた乱流によって物質の混合が起こったことを示している。ただ、数個の (番号付きの)星は理論的予想からずれているようである。下の図は、種々の質量、自転速度をもつ星の主系列進化を計算し、星の質量を Initial mass

function (IMF)に従って分布させ、また、自転軸の方向をランダムに分布させ、その集団を観測した際それらの星が V sin i vs 表面窒素含有量の図上でどのように分布すべきかを表したも

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Page 16: 大中質量星の進化と脈動saio/komaba/evol_massive.pdf大中質量星の進化と脈動 1 大中質量星の問題点 大中質量星(M& 4M ) は主系列星段階では、対流の起こっている中心部をもち、OB型星である。特に、大質量星(M&

ので、濃い色の部分ほど多くの星が分布するはずである事をあらわしている。その上に LMC

で観測され星が overplot されている (Brot et al. 2011, A&A, 530, A116)。単独星は circle で、radial velocity variablesは triangleで記されている。また、実線は種々の自転速度をもつ 13M

の進化経路を示している。

左下から右上にのびる関係は、自転が速いほど内部の混合が効率的に起き、14Nを内部から表面に運んできている事に対応し、観測値の多数はこの関係に従っているようである。しかし、あきらかにこの関係に従わないグループが存在する。左端の縦に伸びる観測値のグループは、自転がゆっくりであるにもかかわらず内部の混合が起こる星がある事が示している。また、右下の三角形に位置する星は、高速自転している星でもさほど内部混合が起きない場合があることを示唆している。これらの星の分布は、理論的予想に反するもので、原因はまだ分かっていない。

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4 大質量星の進化と脈動

明るいB-A型の超巨星には α Cygni

variablesとよばれる、比較的長周期で、半規則的な光度曲線をもつ変光星が存在する。それらは、L/M &104 のときに起こる strange-mode

instability によって励起される脈動による変光だと考えられている。しかし、左の図でわかるように、期待されるよりも暗い星でも変光している事がわかる。これは、超巨星が主系列星段階後、質量をより多く失っている必要があることを示している。

ジュネーブのグループによる計算では、とくに自転による物質混合の効果を考慮すると M & 20Mの質量をもつモデルは、いったん赤色超巨星段階に進んだ後、青色 (B-A型)超巨星となる事を示している (左図)。この進化は、赤色超巨星段階での質量放出で、かなりの質量を失うことによって起こるので、青色超巨星に戻ってきたときにはL/M

が大きくなっており、strange-mode in-

stability による脈動の励起に都合が良い。

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実際、ジュネーブのグループの 20M と 25Mの進化モデルに対して脈動解析をすると、主系列段階を終わって赤色超巨星段階へと進化しつつある段階 (上左図)のモデルでは、α Cygni

varaiableに対応する脈動はほとんど励起されてないのに対し、赤色超巨星段階で質量放出を行った後再び青色超巨星になった進化段階 (上右図)のモデルでは、多くの脈動が励起され、αCygni variable の脈動をおおよそ説明できることがわかる。このモデルには、表面のCNO元素組成に特徴的な変化が現れる。大中質量星の内部では、

CNO cycle によって、水素がヘリウムへと変えられてゆく。そこではCNO元素は全体として触媒のようなはたらきをするが、12Cはほとんど 14Nに変わり、すこし高温な領域では、16Oも14N に変えられる。このCNO 元素組成の変化は、自転にともなう混合の効果で、もともと核融合反応が起きていた場所よりも外側に広げられる。自転が速い場合には主系列星の段階でも表面でのN/C、N/O 比が大きくなる。

さらに、赤色超巨星段階での質量放出によって、かって内部深くに存在していた物質が表面まで出てくるのでN/C、N/O比がさらに大きくなる。そのような星が、ふたたび青色超巨星となり脈動して α Cygni 変光星となっているとすると、それらの星の表面N/C、N/O比は大きくなっているはずである。右図はそのような観点から、α Cygni 変光星であるRigel

とDeneb (α Cyg)の表面 N/C、N/O比が進化モデルで期待される値と比較されている。あきらかに、これらの星の N/C,N/O比は進化モデルよりも小さく、むしろそれらの値は主系列段階から赤色超巨星へと進化するモデルの値に近い。

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4.1 Schwarzschild と Ledoux criterion

このように、α Cygni 変光星である Rigel と Denebの表面 N/C, N/O 比はこれらの脈動がstrange-mode instability によって引き起こされているというモデルと矛盾する。これらの進化モデルでは、対流が起こる条件として Schwarzschild condition:

∇rad ≥ ∇ad

で使われているが (=は対流層と放射層の境界)、境界決定のもう一つの方法では Ledoux criterion

∇rad ≥ ∇ad +β

4 − 3β∇µ

で決める。(∇µ = d lnµ/d lnP は平均分子量の勾配で、βはガス圧と全圧の比を表す。) Ledoux

criterion には平均分子量の勾配 (通常+)の効果が入っているので、水素含有量が外側に向かって増加 (ヘリウム含有量が外側に向かって減少)している層では対流が起こりにくい。下の図は、初期質量 25Mの内部の対流領域 (暗影部)が進化とともにどのように変化する

かを Schwarzschild criterion を使った場合 (左図)と Ledoux criterion を使った場合 (右図)とを比較して表したものである。

主系列星段階では両者の場合もさほど変わらないが、その後水素 shell burning 段階では、対流層の場所が大きく異なる。

Schwarzschild criterionのばあい、対流層は、水素 shell burning の最も盛んな層のすぐ上から始まっている。そのため、対流層の内部では、CNO cycle の効果によってN/C, N/O 比は非常に大きくなっている。その層は、赤色超巨星段階で深い対流層に組み込まれて混合される。赤色超巨星段階での質量放出により点線の位置まで (Mr ∼ 12.5 M) 質量が失われた後に星は青色超巨星領域に戻ってくる。そのため、そのような青色超巨星モデルの表面での CNO比はN/C ∼ 60− 70, N/O ∼ 3− 4 の大きな値を持ち、Rigel や Deneb の観測値とは大きく異なる。それに対し、Ledoux criterion を使ったモデルの場合の水素 shell burning 段階の対流層

は、核融合の最も盛んな位置よりも少し距離を置いた外側に存在し、また、対流層内の質量もSchwarzschild criterion の場合よりも少ない。これは、水素含有量が外側に向かって増加する勾配がある場所では∇ν の効果によって Ledoux criterion では対流が起こりにくくなっているためである。そのため、Ledoux criterion を使った進化モデルでは、赤色超巨星段階で質量を失っ

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たあとで青色超巨星となったモデルでも、表面の N/C, N/O ひは、N/C ∼ 7、N/O ∼ 2 (下図参照)で、Schwarzschild criterion を使った場合よりも、かなり小さく、観測値に近づくが、まだRigel, Deneb の値よりも大きい。

右の図は、Schwarzschild criterionを使った場合 (赤)と Ledoux criterion を使った場合 (青)

について、初期質量 25 M の進化モデルを比較したものである。一番上の図は HR図上の進化経路、一番下の図は進化に伴う質量の変化を表している。それらの進化経路上の filled

circlesはそのモデルで radial pulsationが励起されている事を表している。主系列段階から進化して最初に青色超巨星領域を通過する際は radial pulsationは励起されないが、赤色超巨星段階で質量を失った後、青色超巨星領域に戻ってきたモデルでは radial pulsationが励起される。これは質量の減少によって、L/M がおおきくなり、strange-mode instability 機構が働くようになったためである。進化経路、質量変化はどちらの criterion を使っても大差はないが、表面N/C, N/O元素組

成比は大きく異なる。また、これらの量は自転にともなう物質混合の効率にも依存し、そのため、あまりよくわかっていない角運動量輸送による自転速度分布の進化に伴う変化にも依存する。恒星内部での、物質混合、角運動量輸送効率および、表面温度の低い星からの質量放出率などは、恒星進化理論でもっとも不確定な事項である。

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