すざく衛星による銀河中心領域のx線星の観測 ·...

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すざく衛星による銀河中心領域のX線星の観測 信川 正順、兵藤 義明、松本 浩典、鶴 剛、小山 勝二(京大理) 銀河中心は我々の銀河系の中心領域で、太陽 系から8.5 kpc離れた位置にある。太陽の400万倍の 質量を持つ超巨大ブラックホールや多数の超新星残 骸、電離水素(HII)領域などが密集している。さらにこ れまでに10000個以上のX線星が観測されており、そ の中には鉄輝線を持つものが数多く存在している。 X線天文衛星すざく4度×2度の銀河中心領域を 長時間観測してきた(さらに広範囲の観測も続行中)我々はいくつかのX線天体について、大有効面積・優 れたエネルギー分解能を誇るすざくの観測データを 詳細に解析し、新しい事実を発見した。本講演では鉄 輝線、及び吸収線に注目し、その中から3天体を抜粋 して報告する。 中心値 (keV) 等価幅 (eV) 6.40 (6.39-6.47) 中性鉄 140 (30-270) 6.68 (6.66-6.72) He状鉄 180 (30-350) 6.97 (6.94-7.46) H状鉄 130 (<270) SAX J1748.2-2808 Beppo-SAX衛星によって発見 (Sidoli et al. 2001)XMMによる追観 測もされた(Sidoli et al. 2006, 右図)星間吸収が大きく(N H ~10 23 cm -2 )、強 い鉄輝線(中心値~6.6 keV, 等価幅 ~600 eV)などから、銀河中心領域の 大質量X線連星系(HMXB)の可能性 が指摘された(Sidoli et al. 2006)2 5 (keV) 10 counts/s/keV Beppo-SAX すざくによる追観測結果 スペクトル: 3本の鉄輝線 すざくの最高統計スペクトルか ら、Beppo-SAXXMM-Newton では1つと考えられていた鉄輝 線が3本から成ることを解明。 6 7 (keV) 中性 HeH鉄輝線 拡大 周期変動: 593すざくの合計280キロ秒の観測デー タから、593.0±0.4秒の周期変動 を検出。 2 5 10 XMM-Newton Power spectrum Periodogram Light curve (2周期分) Background level CV(IP) HMXB 周期変動 鉄輝線(3) × SAX J1748.2-2808の正体と してHMXBと激変星(IPCV)が挙げられる。すざくが 証明した3本の鉄輝線と593 秒の周期変動からはSAX J1748.2-2808IPCVあることを示唆する。 CXOGC J174645.3-281546 1.0 0.0 359.0 0.5 0.0 -0.5 銀径(度) 銀緯(度) AX J1745.6-2901 6 7 8 9 AX J1745.6-2901 (静穏時) SAX J1748.2-2808 GXOGC J174645.3-281546 すざくによるX線スペクトル 近赤外スペクトル X線スペクトルは強い鉄輝線が 特徴で、5000万度のプラズマか らの放射であることがわかった。 これ程の高温は大質量星(Wolf- Rayet)の星風衝撃波衝突による ものであろう。近赤外線で対応 天体が見つかったが、X線とは 星間吸収量が異なっていた(X2.4x10 23 H/cm 2 IR6x10 22 H/cm 2 )。 IRの吸収量は全て天体から地 球までの星間物質によるもので、 X線の残りの吸収は天体周辺の ものだと考えられる(右図)。 k B T~1000 K A V ~31 mag N H ~6x10 22 cm -2 対応天体 CXOGC J174645.3-281546 (X-ray; Chandra) 2MASS J17474524-2815476 (NIR; 2MASS) MSX C6 G000.7036+00.1375 (NIR; MSX) k B T~5 MK N H ~2.4x10 22 cm -2 References Hyodo et al. 2008, PASJ, 60, S171 (CXOGC J174645.3-281546) Hyodo et al. 2009, PASJ, in print (AX J1745.6-2901) Nobukawa et al. 2009, PASJ, in print (SAX J1748.2-2808) 上図:すざくによるX線疑似カラーイメージ 赤:0.52.0 keV, 緑:2.05.0 keV, 青:5.08.0 keV Great Annihilator AX J1745.6-2901は あすか衛星によって発見されたdip天体 (中性子星 +伴星の低質量X線連星系)である。すざくによる観測からアウトバースト 中のAX J1745.6-2901からdipの他に蝕を初めて発見した。dip+蝕は周 期的(およそ3万秒)に生じており、このX線連星系の軌道周期に起因す る。蝕は中性子星からの放射光を伴星が隠す状態で、dipは周辺ガスに よるものであることが分かった。また、HeH状に電離した(電子が2個、 および1個残った状態)鉄とニッケルの吸収線を初めて検出した。周囲に は冷たい物質と電離したガスが存在しているのだろう。 dip バースト He-Fe Ka H-Fe Ka He-Fe Kb / He-Ni Ka H-Fe Kb 高階電離鉄、ニッケル吸収線 スペクトル 定常 定常 dip 鉄輝線 カルシウム アルゴン 周期で折りたた んだ光度曲線 1A 1742-294 1度= 500光年

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Page 1: すざく衛星による銀河中心領域のX線星の観測 · すざく衛星による銀河中心領域のX線星の観測 信川正順、兵藤義明、松本浩典、鶴剛、小山勝二(京大理)

すざく衛星による銀河中心領域のX線星の観測信川正順、兵藤義明、松本浩典、鶴剛、小山勝二(京大理)

銀河中心は我々の銀河系の中心領域で、太陽系から8.5 kpc離れた位置にある。太陽の400万倍の

質量を持つ超巨大ブラックホールや多数の超新星残骸、電離水素(HII)領域などが密集している。さらにこれまでに10000個以上のX線星が観測されており、その中には鉄輝線を持つものが数多く存在している。

X線天文衛星すざくは4度×2度の銀河中心領域を長時間観測してきた(さらに広範囲の観測も続行中)。我々はいくつかのX線天体について、大有効面積・優

れたエネルギー分解能を誇るすざくの観測データを詳細に解析し、新しい事実を発見した。本講演では鉄輝線、及び吸収線に注目し、その中から3天体を抜粋して報告する。

中心値 (keV) 等価幅 (eV)

6.40(6.39-6.47)

中性鉄 140(30-270)

6.68(6.66-6.72)

He状 鉄 180(30-350)

6.97(6.94-7.46)

H状 鉄 130(<270)

SAX J1748.2-2808

Beppo-SAX衛星によって発見(Sidoli et al. 2001)。XMMによる追観測もされた(Sidoli et al. 2006, 右図)。星間吸収が大きく(NH~1023 cm-2)、強い鉄輝線(中心値~6.6 keV, 等価幅~600 eV)などから、銀河中心領域の大質量X線連星系(HMXB)の可能性が指摘された(Sidoli et al. 2006)。

2 5 (keV) 10

counts

/s/k

eV

Beppo-SAX

すざくによる追観測結果

スペクトル: 3本の鉄輝線すざくの最高統計スペクトルから、Beppo-SAX、XMM-Newton

では1つと考えられていた鉄輝線が3本から成ることを解明。

6 7 (keV)

中性 He状 H状

鉄輝線拡大

周期変動: 593秒すざくの合計280キロ秒の観測データから、593.0±0.4秒の周期変動を検出。

2 5 10

XMM-Newton

Power spectrum

Periodogram

Light curve (2周期分)

Background level

CV(IP型) HMXB

周期変動 ○ △

鉄輝線(3本) ○ ×

SAX J1748.2-2808の正体としてHMXBと激変星(IP型CV)が挙げられる。すざくが証明した3本の鉄輝線と593

秒の周期変動からはSAX

J1748.2-2808がIP型CVであることを示唆する。

CXOGC J174645.3-281546

1.0 0.0 359.0

0.5

0.0

-0.5

銀径(度)

銀緯(度)

AX J1745.6-2901

6 7 8 9

AX J1745.6-2901

(静穏時)

SAX J1748.2-2808

GXOGC

J174645.3-281546

すざくによるX線スペクトル 近赤外スペクトル

X線スペクトルは強い鉄輝線が特徴で、5000万度のプラズマからの放射であることがわかった。これ程の高温は大質量星(Wolf-

Rayet)の星風衝撃波衝突によるものであろう。近赤外線で対応天体が見つかったが、X線とは星間吸収量が異なっていた(X:2.4x1023 H/cm2

IR:6x1022

H/cm2)。IRの吸収量は全て天体から地球までの星間物質によるもので、X線の残りの吸収は天体周辺のものだと考えられる(右図)。

kBT~1000 K

AV~31 mag

NH~6x1022 cm-2

対応天体CXOGC J174645.3-281546 (X-ray; Chandra)

2MASS J17474524-2815476 (NIR; 2MASS)

MSX C6 G000.7036+00.1375 (NIR; MSX)

kBT~5 MK

NH~2.4x1022 cm-2

References

Hyodo et al. 2008, PASJ, 60, S171

(CXOGC J174645.3-281546)

Hyodo et al. 2009, PASJ, in print (AX J1745.6-2901)

Nobukawa et al. 2009, PASJ, in print

(SAX J1748.2-2808)

上図:すざくによるX線疑似カラーイメージ赤:0.5–2.0 keV, 緑:2.0–5.0 keV, 青:5.0–8.0 keV

Great Annihilator

AX J1745.6-2901はあすか衛星によって発見されたdip天体 (中性子星+伴星の低質量X線連星系)である。すざくによる観測からアウトバースト中のAX J1745.6-2901からdipの他に蝕を初めて発見した。dip+蝕は周期的(およそ3万秒)に生じており、このX線連星系の軌道周期に起因する。蝕は中性子星からの放射光を伴星が隠す状態で、dipは周辺ガスによるものであることが分かった。また、He、H状に電離した(電子が2個、および1個残った状態)鉄とニッケルの吸収線を初めて検出した。周囲には冷たい物質と電離したガスが存在しているのだろう。

dip蝕

バースト

He

-Fe

Ka

H-F

eKa

He-F

e Kb

/ H

e-N

i Ka

H-F

e Kb

高階電離鉄、ニッケル吸収線

スペクトル

定常

定常

dip

鉄輝線カルシウムアルゴン

周期で折りたたんだ光度曲線

1A 1742-294

1度= 500光年