東アジアの大学入試問題分析...

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16 Kawaijuku Guideline 2012.45 これまで国の枠を越えた競争は、主に企業活動について語られることが多かっ た。しかし、近年PISA調査のような学力比較や、新卒採用における外国人との競 争、東京大学の秋入学検討など、教育にも国際化の流れは着実に及んでいる。では、 今後、私たちはどのような教育をして大学に送り出すべきなのか。日本人が国際 的な競争の場で勝ち残るためには、どのような教育をしたらよいのか。 今回、その入り口である大学入試に焦点を当て、中国・韓国・台湾の大学入試(統 一試験)の、英語、数学、国語の問題内容を比較した。私たちがどのような教育 をすべきかを考える契機となれば幸いである。 C ONTENTS 分析対象とした統一試験の概要 東アジア入試問題比較をみる視点 「学力」という国家戦略 (長崎大学 井手弘人准教授) 英 語 数 学 国 語 おわりに p16 ……… p16 …………………………… p19 …………………………… p22 …………………………… p25 ………………………… p28 東アジアの大学入試問題分析 <図表> 分析対象は、2009 ~2011 年の各国の統一試験である。 中国 全国大学統一入試(北京版)   中国 全国大学統一入試(上海版)※ ※ 中国には、全国版の問題と、省・市・自治区が独自に作成する問題がある 韓国 大学修学能力試験 台湾 大学学科能力測験 日本 大学入試センター試験 分析教科は英語、数学、国語に限定した。理科、地理 歴史、公民の出題科目の指定は国によって異なり、単純 な比較ができないためである。なお、国語は、韓国では 「言語領域」という科目名である。「国語」として分析す ることに対し、純粋な韓国語能力を測定しているかにつ いて異論を挟む余地があるかもしれないが、今回は「国 語」として比較分析している。 統一試験の位置づけや出題形式は、国によって異なる。 日本では国公立大学を受験する場合、大学入試センター 試験と大学の個別(2次)試験を受験する。中国では、 全国大学統一入試(通称「高考」)の成績で決まる。韓 国では、2次試験はあるが小論文や面接、実技などが中 心のようだ。台湾の大学学科能力試験は、大学入試の第 一段階という位置づけであり、試験範囲は高校2年生ま での学習範囲である。出題形式は、日本の大学入試セン ター試験が全て客観式に対し、他の国では記述・論述問 題も出題される。中国・韓国・台湾・日本それぞれの統 一試験概要を<図表>にまとめた。教科の分析内容と合 わせて参考にしていただきたい。 このような違いを考えると、日本の個別(2次)試験 を含むべきかもしれないが、今回は各国のほとんどの受 験生が受ける統一試験の比較という観点で分析した。 試験名称/ 入試時期・受験学年 入学 時期 教科名 試験時間 (分) 配点 (点) 中国 「全国大学統一入試」 通称:高考 6月・高3 9月 英語 120 150 数学文系 120 150 数学理系 120 150 国語 150 150 韓国 「大学修学能力試験」 通称:修能 11 月・高3 3月 外国語(英語) 70 100 数学カ型(理系) 100 100 数学ナ型(文系) 100 100 言語領域(国語) 80 100 台湾 「大学学科能力測験」 通称:学測 2月・高3 9月 英語 100 100 数学 100 100 国語 120 108 日本 「大学入試センター試験」 通称:センター試験 1 月・高3 4月 英語 80 200 数学 120 200 国語 80 200 2 特 集 長崎大学教育学部 井手 弘人 准教授 東アジア入試問題比較をみる視点 ―― 「学力」という国家戦略 国境を超えはじめた「学力」と東アジア 最近「学力」という言葉が出てくるとき、OECD に よる生徒の学習到達度調査(PISA)や IEA(国際教育 到達度評価学会)が実施している国際数学・理科教育動 向調査(TIMSS)など、国際的な共通指標の結果を前 提とした分析やカリキュラム改革の方向性が打ち出され るようになった。報道の焦点はもっぱら、わが国の「学 力」が他国に比べて高い、低いといったような、「ニッ ポンの順位」にある。しかしそれよりも、我々教育に携 分析対象とした統一試験の概要 河合塾調べ

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Page 1: 東アジアの大学入試問題分析 CONTENTS全国大学統一入試(通称「高考」)の成績で決まる。韓 国では、2次試験はあるが小論文や面接、実技などが中

16 Kawaijuku Guideline 2012.4・5

 これまで国の枠を越えた競争は、主に企業活動について語られることが多かった。しかし、近年PISA調査のような学力比較や、新卒採用における外国人との競争、東京大学の秋入学検討など、教育にも国際化の流れは着実に及んでいる。では、今後、私たちはどのような教育をして大学に送り出すべきなのか。日本人が国際的な競争の場で勝ち残るためには、どのような教育をしたらよいのか。 今回、その入り口である大学入試に焦点を当て、中国・韓国・台湾の大学入試(統一試験)の、英語、数学、国語の問題内容を比較した。私たちがどのような教育をすべきかを考える契機となれば幸いである。

CONTENTS分析対象とした統一試験の概要

東アジア入試問題比較をみる視点ー「学力」という国家戦略

(長崎大学 井手弘人准教授)

英 語

数 学

国 語

おわりに

… p16

……… p16…………………………… p19…………………………… p22…………………………… p25

………………………… p28

東アジアの大学入試問題分析

<図表>

 分析対象は、2009 ~ 2011 年の各国の統一試験である。 中国 全国大学統一入試(北京版)   中国 全国大学統一入試(上海版)※       ※中国には、全国版の問題と、省・市・自治区が独自に作成する問題がある

 韓国 大学修学能力試験 台湾 大学学科能力測験 日本 大学入試センター試験 分析教科は英語、数学、国語に限定した。理科、地理歴史、公民の出題科目の指定は国によって異なり、単純な比較ができないためである。なお、国語は、韓国では

「言語領域」という科目名である。「国語」として分析することに対し、純粋な韓国語能力を測定しているかについて異論を挟む余地があるかもしれないが、今回は「国語」として比較分析している。 統一試験の位置づけや出題形式は、国によって異なる。日本では国公立大学を受験する場合、大学入試センター試験と大学の個別(2次)試験を受験する。中国では、全国大学統一入試(通称「高考」)の成績で決まる。韓国では、2次試験はあるが小論文や面接、実技などが中

心のようだ。台湾の大学学科能力試験は、大学入試の第一段階という位置づけであり、試験範囲は高校2年生までの学習範囲である。出題形式は、日本の大学入試センター試験が全て客観式に対し、他の国では記述・論述問題も出題される。中国・韓国・台湾・日本それぞれの統一試験概要を<図表>にまとめた。教科の分析内容と合わせて参考にしていただきたい。 このような違いを考えると、日本の個別(2次)試験を含むべきかもしれないが、今回は各国のほとんどの受験生が受ける統一試験の比較という観点で分析した。

試験名称/入試時期・受験学年

入学時期 教科名 試験時間

(分)配点

(点)

中国「全国大学統一入試」通称:高考6月・高3

9月

英語 120 150数学文系 120 150数学理系 120 150国語 150 150

韓国「大学修学能力試験」通称:修能11月・高3

3月

外国語(英語) 70 100数学カ型(理系) 100 100数学ナ型(文系) 100 100言語領域(国語) 80 100

台湾「大学学科能力測験」通称:学測2月・高3

9月英語 100 100数学 100 100国語 120 108

日本「大学入試センター試験」通称:センター試験1月・高3

4月英語 80 200数学 120 200国語 80 200

2特 集

長崎大学教育学部 井手 弘人 准教授

東アジア入試問題比較をみる視点 ――「学力」という国家戦略

国境を超えはじめた「学力」と東アジア

 最近「学力」という言葉が出てくるとき、OECD による生徒の学習到達度調査(PISA)や IEA(国際教育到達度評価学会)が実施している国際数学・理科教育動

向調査(TIMSS)など、国際的な共通指標の結果を前提とした分析やカリキュラム改革の方向性が打ち出されるようになった。報道の焦点はもっぱら、わが国の「学力」が他国に比べて高い、低いといったような、「ニッポンの順位」にある。しかしそれよりも、我々教育に携

分析対象とした統一試験の概要

河合塾調べ

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Kawaijuku Guideline 2012.4・5 17

東アジアの大学入試問題分析2特 集

試験名称/入試時期・受験学年

入学時期 教科名 試験時間

(分)配点

(点)

中国「全国大学統一入試」通称:高考6月・高3

9月

英語 120 150数学文系 120 150数学理系 120 150国語 150 150

韓国「大学修学能力試験」通称:修能11月・高3

3月

外国語(英語) 70 100数学カ型(理系) 100 100数学ナ型(文系) 100 100言語領域(国語) 80 100

台湾「大学学科能力測験」通称:学測2月・高3

9月英語 100 100数学 100 100国語 120 108

日本「大学入試センター試験」通称:センター試験1月・高3

4月英語 80 200数学 120 200国語 80 200

わる者にとってはある大きな転換を迫られている時期がやってきたと考えたほうが良い。つまり、我々はこれから先、「国際学力」とも言うべきグローバル・スタンダードの下で「学び」を創造し実践し続けなければならなくなった、ということである。 もちろん、このようなインパクトを受けているのはわが国だけのことではない。隣国の東アジア諸国はすでに、我々とは異なる「改革軸」を模索し、学校教育での新たな「知」の枠組みの定着に取り組んでいる。 特に東アジア各国は教育に関してある大きな文化を共有している。それが 「入試」 の存在だ。中国(台湾を含む)・韓国などは、近代国家が成立するはるか前から科挙制度を採用し、社会における「公平な階級移動装置」として試験による「選抜」の伝統を維持してきた。これに対して、教師と学生との学習過程を通して評価と選抜が行われていた中世ヨーロッパ以来の伝統をもつ欧米諸国は、 高等教育機関という組織に帰属すること自体には、東アジアほどの大きな意味をもつわけではない。その機関に所属した後、個人がいかに伸びていく能力をもっているか、のほうがはるかに重要になる。「入学選抜」ではなく「入学資格」の概念が強化され、ドイツのアビトゥーアやフランスのバカロレア、イギリスの GCSEおよび GCE(A-level)、 アメリカの SAT など、 大学で

「知」を活用できるための「思考」の基礎能力を証明するシステムが発達したと言える。それぞれの文化圏で発達した大学はこれまで、国家や文化の内側の文脈においてのみ「知」の測定をシステム化していればよかった。しかし、高等教育「市場」も国境を越える現象が起こりはじめている今、東アジアの「入試」文化圏は、自らの入試文化とグローバル化する「知」への対応策との間で、その大きなうねりに含まれつつある状況だ。

「先進国化」と「世界化」ーー 韓国の文脈

 東アジア各国のうち、内側に向いていた「知」の大転換を最も戦略的かつ劇的に進めたのは韓国である。PISA などの調査で好成績を収め続けているからか、にわかに脚光をあびている韓国だが、ここに至るまでには長い時間をかけた「助走」があったことを見逃してはならない。つまり、現在の韓国教育改革は 1995 年 5 月 31日に当時の金泳三政権が打ち出した、いわゆる「5・31教育改革」で宣言された「教育の世界化」構想がベース

になっている。この時期、OECD 加盟が現実のものになった韓国は、この機に教育を内向きの「韓国人」育成から外向きの� Korean�育成に転換を図った。入試については、1994 年よりスタートしている、日本の大学入試センター試験に相当する大学修学能力試験(以下、 「修能」 )において、 教科別出題から「言語」「数理」「外国語」

「探究(社会・科学など)」といった領域別出題方式を採用し、教科横断的な出題を行うようにした。つまり、入試の文化は維持しつつ、入試の出題内容については知識量を問うものから思考力を重視したものへと転換を図ったのである。 また近年は、修能一辺倒の入試そのものへの改革もはじまっている。英語の学力については、国家による英語能力の水準評価試験導入が進められている。この動きの特徴は、熾烈な入試を経て入学してきたにもかかわらず英語の実力が低下しつつあった学生の実態に危機感をもったいくつかの大学が、水準評価試験を実施するようになり、そこから高校生を対象にした「韓国版TOEFL」が誕生していった、という点であろう。背景には、わが国でも議論されている高校と大学との学習の

「接続」問題が密接に絡んでいる。 さらには「入学査定官」制度の導入がある。韓国で、大統領選挙の争点の一つとして大学入試問題が上がることはさほど珍しくはないが、李明博現大統領も大統領選挙公約に「入試の多様化・自律化」を掲げた。つまり、国公私立大学の別なく国家が一元管理し、機会が一度しかない修能中心の入試をあらため、大学が独自に学生を選抜する、日本で言うところの推薦・AO 入試の大規模拡大である。 しかし、日本の推薦・AO 入試とは異なり、「入学査定官」という学生の選抜を専門的に扱う言わば「スカウト」が、今後大きく伸びる可能性がある生徒を「発掘」し、大学に入学させるシステムである。入試と言っても我々が想像するようなものとは異なり、査定官自らが志願した生徒の高校に行き、本人のみならず教師や校長に対する面接や高校の学習環境も含めて視察して、志願者がどのような学習履歴や背景下で現在の自分を形成してきたのかを徹底的に審査する。制限された条件を克服している日常も「試験範囲」とみなされることになる。興味深いことは、こうした入試を積極的に推進しているのは、ソウル大や KAIST(韓国科学技術院)など、世界

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18 Kawaijuku Guideline 2012.4・5

トップ 100 に入る大学が、入学査定官制を積極的に導入し、定員枠の拡大を進めていることであろう。

都市の実験、全国への拡散 ーー 中国の文脈

 前回の PISA 調査で、初参加の「上海」がフィンランドを超えて 1 位になった、というニュースを記憶されている読者も多いことであろう。なぜ 「中国」 ではなく 「上海」なのか。中国は経済開発と同様、教育改革についても先導する地域での「実験」があり、その成果を全国へと拡大する方法を採っている。その「実験」の拠点が上海である。 上海市は 1987 年に「高級中学卒業会考」を開始し、それまで 6 ~ 7 科目の全国統一試験(普通高等学校招生全国統一試験。以下、「高考」)を受験しなければ大学入学ができなかった生徒に対し、「高級中学卒業会考」合格者に高考受験資格を与える制度をつくり、「選抜」タイプ一辺倒であった入試に「入学資格」のシステムを挟むこととした。(この「実験」はその後全国に拡大し、1995 年にはこの制度を全ての省・直轄市で実施)。 また、大学入試における地域独自問題をいちはやく開始したのもやはり上海市である。上海市は「高級中学卒業会考」開始と同じ年に独自問題の試行を開始し、その後 10 年以上の「実験」を経て 2000 年以降北京や天津、重慶などの大都市や各省も実施するようになり、「国家考試中心(センター)」による入試問題と独自入試との併用方式が拡大し、入試問題は一層多様化することとなった。 入試のみならず、上海市は初等中等教育についても「素質教育」カリキュラムという教育課程を編成し実践している。「素質教育」とは生徒の学習主体性を重視して、科目選択や学校・地域によるカリキュラム裁量権の拡大、さらに教科による細分化されたカリキュラムに 「総合実践活動」などの統合カリキュラムの要素を取り入れ、体験を重視した情報収集・処理・分析・解決およびコミュニケーションの諸能力を育成するものである。 大学入試と「素質教育」カリキュラム双方とも上海市教育局が管轄していることから、初等中等教育のカリキュラムと大学教育との「接続」をにらんだ入試のデザインが統一的に目指されている。PISA 調査の好成績も、学校間競争の環境下に基づく「素質教育」浸透による成果であると上海市は捉えており、入試内容も、少なくと

もそのような意図が垣間見えていると言える。上海・北京など都市部での「成功モデル」が具体化しつつある現在、今後の全国展開プロセスがどのようなものになるかが、ポイントとなるだろう。

入試多様化戦略に対応した 「スタンダート測定試験」ーー 台湾の文脈

 韓国の「修能」や中国の「高考」は、改革を進めているとはいえ、統一入学試験の結果がほぼそのまま大学入学に直結する強い選抜機能を維持しているが、台湾の大学入試のための共通テスト「大学学科能力測験」(以下、

「学測」)は、やや性格を異にする。 1994 年より、入学試験方式の多様化に乗り出した台湾では同年より「学測」を導入するとともに、試験による配分入学制度と大学が独自に選抜する入学制度の2つのルートを段階的に拡大した。 「学測」は試験配分入学制度の一部と、大学独自選抜制度の全てにおいて使われるが、日本の大学入試センター試験のような点数による得点方式ではなく、15 段階の「等級」で採点されるほか、受験者の得点の人数分布を基準にして「頂標」「前標」「均標」「後標」「底標」の 5 段階に分けて、成績が示される。大学独自選抜では学校推薦と個人申請の2つに分かれるが、学測の結果で第 1 段階選抜が行われたうえで大学独自の選抜試験へと進む。試験配分入学制度では、学測を用いずに独自入試のみで選抜する場合と、学測と指定科目考試(以下、「指考」)と呼ばれる入試をあわせて選抜する場合の 2 通りがある。 近年では都市と地方の教育格差を是正する制度として

「繁星計画」という新たな入試枠組みがはじまっている。これは、特定の進学校から集中して「名門」と言われる大学に入学する形を改め、1 校 1 名という限定付きで、繁星計画に参加している名門大学への入学が可能となるようにした制度である。ここでも「学測」は用いられる。 どの進学ルートであれ、「学測」は中等教育の学習内容が修得されているかを測定する試験として用いられる。一方「指考」のほうは大学側の立場から、大学での学習をするにあたって必要な能力を測定する意図が明確である。この視点は、日本の入学試験における大学入試センター試験と個別(2次)試験(私立大の独自入試も含む)との関係に対する考え方と近いと言えるだろう。

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Kawaijuku Guideline 2012.4・5 19

東アジアの大学入試問題分析2特 集

「知」の「接続」と入試

 日本・中国・韓国・台湾を入試から見てみると、以下の 2 点が浮かび上がってくる。 第一に、中国・韓国については、明確に「学力」の方向性について、グローバル社会の文脈で必要とされる人材を、国家が責任をもつ教育の枠内で養成しようとする

「国家戦略」が明確になっているという点である。ただし、中国の場合は地域間格差が大きいこともあり、先導する都市部がその牽引力を強化させている過程と言うべき状況に対し、韓国は 15 年ほどの経験を踏まえてすでに新たなステージに入っており、「突出」している状況にあると言える。これについては日本・台湾はやや曖昧な印象がある。 第二に、後期中等教育(高校)と大学との「接続」に関して、入試の役割が国家ごとに明確に性格の違いが見える点である。中国都市部や韓国は、国家の教育課程の改革方向と入試改革との連携性が明確であり、台湾の場

合は中等教育側に立つ「学測」と高等教育側に立つ「指考」の2つのテストについてそれぞれ役割分担させることにより、試験における「知」の接続を図ってきた。日本の場合、近年政策的に各大学がアドミッション・ポリシーを定めるよう推奨しており、大学側から求められる

「知」が少しずつ明らかになってきている。大学入試センター試験が中等教育側のスタンダードに立っているのか、立っているとすればどういった能力を測ろうとしているのか、それと個別大学が求める「知」との関係性はどうなっているのか。多様な入試が定着している日本の

「良さ」を大事にしつつ、世界に向けた明確な説明責任が求められる時代に突入しているように思われる。

 まず、東アジア諸国の英語教育の現状から見てみよう。 日本の新学習指導要領の改訂ポイントの1つが言語活動の充実である。英語では、小学校5・6年生に外国語活動が導入されたほか、中学校と高校の円滑な接続を図ることを狙いとして高校英語に 「 コミュニケーション英語基礎 」 が新設されるなど、コミュニケーション能力の育成を目標に、小学校から高校まで円滑な接続が強く意識された改訂になっている。また、2011 年6月に、文部科学省から 「 国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策 」 が示された。それは大学入試にも言及しており、「 聞く 」「話す」「読む」「書く」の4技能<図表1>を総合的に問う入試問題への改善が提言されている。 韓国は、1995 年の金泳三大統領の教育改革以降、コミュニケーション能力重視、運用能力重視の教育へと大

きく舵を切った。OECDによる生徒の学習到達度調査(PISA)がスタートしたことによって、その傾向はさらに強まっている。PISA型の学力観に基づき、先進国と対等に渡り合える人材を育てたいという意欲がうかがえる。しかし、4技能を統合させた活用重視の目標を打ち出しながら、現行の大学入試である 「 大学修学能力試験

(CSAT)」 は、後述する通り、すべてマークシート形式で、出題内容を見ると「読む」「聞く」能力の評価に偏っ

<図表1>言語の4技能

各国の英語教育の現状

各国ともコミュニケーション能力の育成を重視韓国では2015年度から新しい試験を導入

SpokenLanguage

WrittenLanguage

Output

Input

Writing

書く

Speaking

話す

Reading

読む

Listening

聞く

(設問数)

発信力を測る問題、受信力を測る問題が、各国でどのように出題されているかを中心に分析を行った。

英語

井手弘人准教授プロフィール 長崎大学教育学部准教授。専門は、カリキュラム論、比較教育学、教科教育学(社会科、生活科・総合学習)。現在の研究テーマは、統合的カリキュラムの日韓比較研究、歴史教育の多様化と対話に関する日韓比較研究など。中央教育審議会大学分科会大学グローバル化検討ワーキンググループの専門委員を歴任。

河合塾作成

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20 Kawaijuku Guideline 2012.4・5

ている。その反省もあってか、2015 年度からは 「 話す 」「書く」という発信力も評価できる 「 国家英語能力評価試験(NEAT)」 が導入される予定である。 中国では、経済のグローバル化の進行に伴って、国際コミュニケーション戦略を重視。小学校から大学院まで実質的に英語が必修科目になっている。2001 年度から、全国の小学校で 3 年生から、大都市部では小学校 1 年生から英語の授業が実施されている。 台湾は、1998 年度に台北市の小学校で英語が導入され、2001 年度からは全国の小学校で 5 年生から実施している(台北市は2002年度以降、小学校1年生から実施)。中学校と高校の教科書・ワークブックの分量が多いのも特色だ。後述するように、大学学科能力測験では高度な記述力も問われているが、2014 年度からは、「 聞く 」 力を重視するために、リスニング試験(高中英語聴力測定)の導入が予定されている。 

 <図表2>は、各国の 2011 年入試問題の出題形式を比較したものである。日本、中国、台湾がさまざまな形式の問題をバランスよく出題しているのに対して、韓国は偏っていることがわかる。韓国で出題されるのは、長文読解1題3設問のほかは、すべて 200 語前後の中文問題である(約 30 題)。しかも、この中文問題は1題1設

問であり、大量の文章を読ませる形式である。 そのため、入試問題の本文 word 数は韓国が圧倒的に多い。試験時間1分当たりに読まなければならないword 数を比べると、日本 51.6 語、北京 29.9 語、上海37.8 語、台湾 30.0 語に対して、韓国は 77.9 語にのぼる<図表3>。 ただし、<図表3>では、留意する点がある。それは中国、台湾では記述式の英作文が出題されていることだ。この記述に相応の時間が必要なだけ、試験時間が長くなっており(中国 120 分、台湾 100 分に対して、韓国は 70 分)、1 分当たりの word 数を比較する必要があるだろう。 次に、教科書カバー率(注)を比較したのが<図表4>

である。英語教育研究では、英文を読解する際に、知っている単語(既知語)が最低 95%あれば理解でき、さらに 98%知っていれば楽に読めるという学説が知られているが、各国とも、英語のリーダーの教科書をベースとして総語数の 95%以上をカバーしており、それほど難解な単語は出ていない。 ただし、教科書に載っていない単語について詳細に見てみると、韓国では興味深い傾向が浮かび上がる。韓国は国をあげてIT産業に力を注いでいることもあって、例えば2012年はtechnology shelfやseverance payなど、日本の大学入試ではあまり見られないようなIT関連の

<図表2>各国の入試問題出題形式比較

50

45

40

35

30

25

20

15

10

5

0日本 中国(北京版) 中国(上海版) 韓国 台湾

発音・アクセント文法・語法対話文中文長文読解英作文リスニング

7 6

13

3 3 32 2

2325

0 0 00 00 00 0 000 0000

16

43

24

15

39

20

30

1715

40

SpokenLanguage

WrittenLanguage

Output

Input

Writing

書く

Speaking

話す

Reading

読む

Listening

聞く

(設問数)

(注)河合塾が日本の中学・高校の教科書計 54 冊の英文をすべてデータ化。各国の入試問題に日本の現行課程の教科書で扱う英単語が何%出現しているかを示したもの。

<図表3>本文のword数比較

教科書カバー率(TCR) TokenTextbook Cover Ratio

国 名称 中学 英語Ⅰ 英語Ⅱ 英語R

日本 大学入試センター試験 81.4% 90.7% 94.0% 96.0%

中国全国大学統一入試(北京版) 84.4% 93.7% 96.2% 97.6%

全国大学統一入試(上海版) 80.2% 91.0% 94.6% 96.9%

韓国 大学修学能力試験 77.8% 87.9% 93.2% 96.2%

台湾 大学学科能力測験 78.8% 89.4% 93.7% 97.3%

国 名称 word 数 試験時間 word 数/分

日本 大学入試センター試験 4,128 80 分 51.6

中国全国大学統一入試(北京版) 3,587 120 分 29.9

全国大学統一入試(上海版) 4,535 120 分 37.8

韓国 大学修学能力試験 5,450 70 分 77.9

台湾 大学学科能力測験 3,001 100 分 30.0

<図表4>教科書カバー率

出題形式

200語前後の中文問題が約30題出題される韓国

※日本の大学入試センター試験のリスニングは、別時間で実施されるため、含めていない

図表 2 〜 4 は河合塾調べ

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Kawaijuku Guideline 2012.4・5 21

東アジアの大学入試問題分析2特 集

専門用語やビジネス用語を含む英文が出題されている。また、専門的な語彙を含むアカデミックな内容の英文も散見され、そのジャンルは人文社会系から自然科学系にいたるまで多岐に渡る。これは、そうした英文に慣れることによって、アメリカの共通テストである TOEFL、SAT に対応できる英語教育を目指したいという意識の表れとみることもできよう。 もう1つ、素材文の特色にも触れておこう。やはり特徴的なのは韓国で、実用的な英文が多いことである。教養主義的な素材文は少なく、語彙の抽象度もそれほど高くない。台湾や中国は、日本の共通一次試験や、初期の大学入試センター試験の素材文に近く、身辺雑記や、背景情報がなくても読める文章が中心である。一方で、日本の入試では、国公立大学の個別(2 次)試験や難関私立大で、出題されている英文の中には味わい深いものや、読みながら教養が深められるものもある。また、大学入学後の学びに関連した、その学部ならではの素材文も多い。英語によるコミュニケーション力と教養主義的な英文を読む力をバランスよく身につけることが望まれる。

 発信力(output)を測る問題として、台湾、北京では自由英作文が出題されている。台湾<問題例 1 >は4コマ漫画の4コマ目のセリフを考えさせる問題で、設問

の視点は、1997 年度の東京大学[2]� A の問題に類似している。ただし、解答に要求されているワード数は東京大学が 50 ~ 60 語だったのに対して、台湾は 120 語と、東京大学の 2 倍の記述量を求めている。そのほか、台湾では、日本の国公立大学の個別(2次)試験で出題されるような英訳問題も2題出題されている。北京版の入試問題<問題例 2 >では、学校生活の身近な出来事を、学校の刊行物に紹介する文章を書かせる問題で、要求語数は 60 語である。 これまで英作文というと、「 書く 」 力を評価する問題と考えられてきた。しかし、この台湾のような出題をすれば、自分の発言内容を記述させることで 、 「 話す 」力も同時に見ることが可能になる。4技能の測定で、最も難しいのが 「 話す 」 力であるが、その測定の代替方法として今後も自由英作文の出題は増えることが予想される。

 ここ数年、大学入試センター試験の出題内容は変化し、洗練された良問が増加している。つまり、実際に英語を使う場面を具体的に想定した問題が作られるようになっているのだ。例えば、第3問Bや第5問は、相手の話の大意を要約して適切な受け答えをいったり、状況を的確にとらえる問題が出題されている。現実の日常的なシー

<問題例2>2011年 中国(北京版)入試問題<問題例1>2010年 台湾入試問題

(状況作文は必ず解答用カードの指定場所内に書くこと)

受信力(input)を測る問題大学入試センター試験で現実の場面に即した良問が増加  発信力(output)を測る問題

台湾・中国では、日本の国立大学個別試験で出題されるような自由英作文を出題

台湾 大学入試考試中心ウェブサイト(http://www.ceec.edu.tw/)より

河合塾で独自に入手、日本語訳は河合塾

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22 Kawaijuku Guideline 2012.4・5

 理系の出題分野は日本の数学Ⅲ・数学Cに当たる分野から約 50%、大学での一般教養の分野(図表では「その他」として分類)から約 15%が出題されている。高校における履習項目の違いもあるが、とりわけ「離散数

学」を出題している点が特徴的である。韓国では 2007年の教科書改訂以降、「離散数学」という教科書は存在しないが、「数学の活用」および「数学Ⅰ」の教科書の中に組み込まれている。「離散数学」については、日本では「場合の数」程度であるが、韓国理系の大学修学能力試験では、グラフ理論、グラフの彩色といった高度な部分まで出題されている。 また理系の難易度は、非常に簡単な問題から、日本の国公立大学の個別(2次)試験レベルまで幅広く出題されていて、全体としてかなり難しい印象を受ける。解答時間内に全問を正確に解いていくのは、分量的にもかな

韓国

<図表1>韓国 ( 理系 ) 分野別配点構成比率

理系は半数が難問、文系は標準的な問題

※ 韓国(理系・文系)と台湾の図表は、2009 年から 2011 年 3 年分の統一試験の満点合計に対する配点比率を表示。※ 中国(理系・文系)の図表は、北京版と上海版 2 種類の全国大学統一入試について、2009 年から 2011 年の 3 年分の満点合計に対する配点比率を表示。

0.0% 2.0% 4.0% 6.0% 8.0% 10.0% 12.0% 14.0%

数学Ⅱ・B24.8%

設問分野を日本の範囲で分類

その他14.7%

数学Ⅲ・C49.8%

数学Ⅰ・A10.7%

0.5%0.7%1.5%1.7%2.0%3.0%3.2%3.2%3.7%4.0%4.2%4.5%5.0%5.0%5.0%

7.0%7.5%7.7%

14.7%15.9%

16.0% 18.0%

数列・関数の極限その他数列

確率と確率分布積分法確率

指数・対数関数場合の数

行列式と曲線微分法

いろいろな関数空間ベクトル

統計検定

平面ベクトル整式の微分三角関数図形と計量整式の積分

指数・対数関数

数列

数列・関数の極限

行列

確率

場合の数

確率と確率分布

統計

その他 2.3%

4.7%

7.3%

10.3%

10.7%

13.3%

13.3%

17.3%

20.7%

数学Ⅰ・A21.0%

数学Ⅱ・B42.7%

数学Ⅲ・C34.0%

その他2.3%

0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% 25.0%

設問分野を日本の範囲で分類

<図表2>韓国 ( 文系 ) 分野別配点構成比率

0.0% 2.0% 4.0% 6.0% 8.0% 10.0% 12.0% 14.0%

数学Ⅱ・B24.8%

設問分野を日本の範囲で分類

その他14.7%

数学Ⅲ・C49.8%

数学Ⅰ・A10.7%

0.5%0.7%1.5%1.7%2.0%3.0%3.2%3.2%3.7%4.0%4.2%4.5%5.0%5.0%5.0%

7.0%7.5%7.7%

14.7%15.9%

16.0% 18.0%

数列・関数の極限その他数列

確率と確率分布積分法確率

指数・対数関数場合の数

行列式と曲線微分法

いろいろな関数空間ベクトル

統計検定

平面ベクトル整式の微分三角関数図形と計量整式の積分

指数・対数関数

数列

数列・関数の極限

行列

確率

場合の数

確率と確率分布

統計

その他 2.3%

4.7%

7.3%

10.3%

10.7%

13.3%

13.3%

17.3%

20.7%

数学Ⅰ・A21.0%

数学Ⅱ・B42.7%

数学Ⅲ・C34.0%

その他2.3%

0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% 25.0%

設問分野を日本の範囲で分類

■ 図表 1 〜 5 について

出題範囲が大学入試に大きく影響する数学は、各国の統一試験の出題分野に注目し分析を行った。また、各国の出題形式・難易度については<図表 6>にまとめている。

数学

ンを再現することで、より実用的な英語力を測ることができる。今回分析対象とした国の中では、日本のみが扱っている日本独特の出題形式であると言えよう。 また、大学入試センター試験の第4問A・Bでは、与えられたグラフから、自分が必要とする情報を抽出する力を測る問題が出題されている。こちらはPISA型の問題を意識したものと言える。

 各国の英語の入試問題の特色をまとめると、まず韓国は、他分野に渡るアカデミックな英文も出題されるがPISA調査を強く意識し、軸足は実用的な側面に置いているようだ。中国・台湾は、日本の共通一次試験や初期の大学入試センター試験と類似した出題が主体で、

PISA 調査や実用的英語能力を測る出題は多く出題されているわけではない。対して日本は、大学入試センター試験では実用英語が、国公私立大学の個別(2次)試験では、深い内容に踏み込む英語の両方がバランスよく出されていると言えよう。  だが、今後の方向性を考える上で、他国の入試問題が参考になる部分もある。例えば、中国でよく出されている難度の高い文法問題が、近年の日本では減少している。 また、わが国の文部科学省の施策として、4技能の総合的な指導を通して、統合的に活用できるコミュニケーション能力の育成に重点を置いた方針が出されたが、「 話す 」 力をどのように測るかは、今後の大きな課題である。2015 年度から韓国で導入される予定のNEATでは、スピーキングの試験が実施されることになっている。その動向にも注目しておく必要があるだろう。

4技能をバランスよく測る問題が望まれる

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Kawaijuku Guideline 2012.4・5 23

東アジアの大学入試問題分析2特 集

中国

論述式問題も出題され、高いレベルも要求される

り大変である。配点は各設問2点から4点であるが、平易な設問でも2点、難問でも4点となり、日本のような難易度を考慮した傾斜配点はほとんどない。 一方、文系は「指数・対数関数」と数列分野(「数列」

「数列・関数の極限」)、「行列」、統計分野(「場合の数」「確率」「確率と確率分布」「統計」)が出題のほとんどを占めている。これらの中には日本の数学Ⅲ・数学Cの分野も含まれており、統計分野では標本平均なども扱われている。理系に比べると抽象的な問題は少なく、具体的な計算によって正答に至るという出題は、日本の傾向と同様である。 難易度も平易なものから標準的なものまでが多く、教科書をきちんと理解していれば解答可能である。配点は理系同様、設問ごとの解答に必要な時間、難易度を考慮した配点傾斜は見られない。 理系・文系ともに出題形式は選択式、客観記述式であるが、その中には正誤問題も含まれる。特に理系の正誤問題には難しいものも含まれている。なお約半数は文理共通問題である。

 中国の全国大学統一入試は、上海版と北京版の傾向が似ているため併せて、理系・文系に分けて分析した。 理系については、入試の実施時期の問題であるかもしれないが、日本の数学Ⅲ「積分法」がまったく出題されていない。それ以外の分野は頻度の差はあるものの、満遍なく出題されている。その中でも図形に関するものが多く、「立体幾何」「空間図形」に関して「三角比」「ベクトル」「幾何」等いろいろな角度から考えさせている。日本の数学C「2次曲線」からの出題も多く、平面図形に関する出題のほとんどは「2次曲線」である。 難易度は全体の 50%が平易から標準レベルであり、残りは日本の国公立大学の個別(2次)試験レベル。最後の 1 題は日本の難関国立大学の個別(2次)試験レベルであり、日本の受験生の中でも解ける人は限られるレベルの問題である。 解答形式は選択式、客観記述式、論述式と分かれ、この順に難易度が上がっている。配点については論述式の問題は 13 点前後を配してあるが、いくつかの小問に分かれており、小問を1問と考えると選択式(1問あたり

5点)と変わらず、日本のような傾斜配点は実質ない。 文系も理系同様全範囲からの出題である。図形に関する出題が多いのも同様の傾向である。「空間図形」からの出題が理系に比べて少なく、「平面図形」からの出題が多く、日本の数学C「2次曲線」の出題頻度が最も高い。線形代数学(図表では「その他」に分類)等の出題も踏まえると、日本の文系受験生には解答不能な分野が、全体の3分の1を占める。 出題形式、配点等はほとんど理系と同じである。難易度は理系より易しいが、文系受験生にとってはレベルはかなり高い。全体の3分の2は平易から標準レベルの問題であるが、論述式の問題は日本の国公立大学の個別(2次)試験レベルのものが多く、解答時間内に全問完答するのは容易ではない。理系・文系ともに日本の大学入試

<図表3>中国 ( 理系 ) 分野別配点構成比率

数学Ⅱ・B35.8%

設問分野を日本の範囲で分類

その他8.2%

数学Ⅲ・C25.6%

数学Ⅰ・A30.4%

数学Ⅱ・B41.2%

設問分野を日本の範囲で分類

その他12.8%

数学Ⅲ・C20.3%

数学Ⅰ・A25.7%

図形と計量式と曲線数列その他微分法

図形と方程式確率

三角関数証明と論理

いろいろな関数指数・対数関数複素数と方程式平面ベクトル

集合空間ベクトル場合の数統計

2次方程式・2次関数数列・関数の極限

平面図形行列

式と証明整式の微分

整数数と式不等式

式と曲線その他数列

図形と計量三角関数

図形と方程式平面ベクトル整式の微分

指数・対数関数微分法集合確率

証明と論理2次方程式・2次関数複素数と方程式

平面図形空間ベクトル

統計いろいろな関数

場合の数数列・関数の極限

行列整数

式と証明数と式

0.0% 2.0% 4.0% 6.0% 8.0% 10.0% 12.0% 14.0%

0.0% 2.0% 4.0% 6.0% 8.0% 10.0% 12.0% 14.0%

12.7%12.3%

11.4%7.7%

7.2%7.0%

5.6%3.8%3.7%3.7%

3.0%2.8%2.7%2.4%2.1%2.1%1.9%1.9%

1.4%1.1%0.9%0.6%0.6%0.6%0.6%0.4%

13.1%12.2%11.9%

9.6%5.8%5.4%

4.2%3.6%3.6%3.6%3.6%3.4%

2.9%2.4%2.3%2.1%2.0%1.9%1.9%

1.1%0.9%0.9%0.6%0.6%0.6%

<図表4>中国 ( 文系 ) 分野別配点構成比率

数学Ⅱ・B35.8%

設問分野を日本の範囲で分類

その他8.2%

数学Ⅲ・C25.6%

数学Ⅰ・A30.4%

数学Ⅱ・B41.2%

設問分野を日本の範囲で分類

その他12.8%

数学Ⅲ・C20.3%

数学Ⅰ・A25.7%

図形と計量式と曲線数列その他微分法

図形と方程式確率

三角関数証明と論理

いろいろな関数指数・対数関数複素数と方程式平面ベクトル

集合空間ベクトル場合の数統計

2次方程式・2次関数数列・関数の極限

平面図形行列

式と証明整式の微分

整数数と式不等式

式と曲線その他数列

図形と計量三角関数

図形と方程式平面ベクトル整式の微分

指数・対数関数微分法集合確率

証明と論理2次方程式・2次関数複素数と方程式

平面図形空間ベクトル

統計いろいろな関数

場合の数数列・関数の極限

行列整数

式と証明数と式

0.0% 2.0% 4.0% 6.0% 8.0% 10.0% 12.0% 14.0%

0.0% 2.0% 4.0% 6.0% 8.0% 10.0% 12.0% 14.0%

12.7%12.3%

11.4%7.7%

7.2%7.0%

5.6%3.8%3.7%3.7%

3.0%2.8%2.7%2.4%2.1%2.1%1.9%1.9%

1.4%1.1%0.9%0.6%0.6%0.6%0.6%0.4%

13.1%12.2%11.9%

9.6%5.8%5.4%

4.2%3.6%3.6%3.6%3.6%3.4%

2.9%2.4%2.3%2.1%2.0%1.9%1.9%

1.1%0.9%0.9%0.6%0.6%0.6%

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24 Kawaijuku Guideline 2012.4・5

センター試験(以下、センター試験)と国公立大学の個別(2次)試験が同時に出題されている印象を受ける。

 出題範囲が高校2年生の履習内容までということもあり、出題分野は日本のセンター試験に似通っている。日本の数学C「2次曲線」を除けばほぼ同じである。全問マークシートで、前半は選択式、後半は日本のセンター試験と同様である。難易度も日本のセンター試験と概ね同じである。 前半の選択式の中には、日本の数学の試験にはほとんど見られない正誤問題も含まれる。韓国の大学修学能力試験の問題同様、複数の正しいものを選択する形式もあり、正答に至るまでには実質複数の問題を解かなければならず、時間がかかるものもあり、結果的に難しい。 巻末の公式集も特徴のひとつである。日本では名古屋大学個別(2次)試験で公式集が存在するが、それよりも簡易なものである。

 韓国、中国では科目の内容を問う個別(2次)試験がほとんど課されないことを踏まえた上で、出題形式および内容を4カ国で比較すると、日本だけが大きく異なっているようである。

 日本では標準的な問題(大問)を誘導に従って1つずつ解答する形式、 例えば「三角比」(図形と計量)であれば、正弦定理、余弦定理、面積公式…と順に問うことで1つの大問を形成しているが、他の国ではこのような形式のものは見られなかった。原則として単問であり、1つの設問に対して1つのことしか問うておらず、その問題が解けないと次の問題が解けないというような連鎖は起きない。日本では途中の計算ミスが原因で、以下の設問がすべて解答不能になってしまった話をよく聞くが、他国ではそうしたことが起こり得ないそれぞれが独立した問題である。従って、教科書に載っているいろいろな分野を単問形式で問うことができる。また、これらの単問は平易なものも難しいものも出題形式のみによる順序で並べられており、傾斜配点はほとんど見られない。 出題内容についても、韓国・中国では日本の数学Ⅲ・数学C分野や大学での一般教養で扱う分野も数多く出題されているという違いがある。また日本のセンター試験では教科書で学習した公式を用いて「計算により求値する」問題が多いのに対して、韓国や中国では、真偽を判断する問題、提示された課題を数学的に解決する問題など、単純な反復学習では対応できないような情報処理能力や思考力が問われる問題も含まれる。 このような内容面の相違は、日本の場合、センター試験で標準的な学力を測り、個別(2次)試験で各大学のアドミッション・ポリシーを打ち出すのに対して、大学修学能力試験をもって学力能力測定がほぼ完結する韓国では、この試験に国全体としての教育方針が色濃く反映されるからと考えられる。特に、日本では出題されず韓国・中国で多く出題されている分野・問題は、急速な情

<図表5>台湾 分野別配点構成比率

数学Ⅱ・B48.3%

設問分野を日本の範囲で分類

その他6.7%

数学Ⅲ・C15.0%

数学Ⅰ・A30.0%

図形と方程式

図形と計量

複素数と方程式

確率

式と曲線

平面ベクトル

指数・対数関数

その他

三角関数

場合の数

数列

空間ベクトル

検定

1次方程式・1次関数

数列・関数の極限

統計

行列

数と式

2次方程式・2次関数0.0% 2.0% 4.0% 6.0% 8.0% 10.0% 12.0%

10.0%

10.0%

8.3%

8.3%

8.3%

8.3%

6.7%

6.7%

5.0%

5.0%

5.0%

3.3%

3.3%

3.3%

1.7%

1.7%

1.7%

1.7%

1.7%

<図表6>各国の統一試験の難易度・出題形式比較表問題数/試験時間 難易度 ( 配点比率) 出題形式(配点比率)

韓国

(理系)30 題/ 100 分

易 24.1% 客観記述 29.9%標準 9.0% 選択 70.1%難 66.9%

韓国

(文系)30 題/ 100 分

易 32.3% 客観記述 32.0%標準 25.0% 選択 68.0%難 42.7%

中国

(理系)

北京版 20 題/ 120 分

上海版 23 題/ 120 分

易 43.3% 客観記述 28.2%標準 8.8% 選択 20.0%難 47.9% 論述 51.8%

中国

(文系)

北京版 20 題/ 120 分

上海版 23 題/ 120 分

易 45.3% 客観記述 28.7%標準 18.5% 選択 19.5%難 36.2% 論述 51.8%

台湾 20 題/ 100 分易 66.7% 穴埋め 40.0%標準 20.0% 選択 60.0%難 13.3%

台湾

出題分野、形式は日本のセンター試験に類似

日本の出題との違い

情報化社会への対応と国際的な人材育成を見すえて

図表1〜6は河合塾調べ

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Kawaijuku Guideline 2012.4・5 25

東アジアの大学入試問題分析2特 集

f (x)+11

f (x)-11

x2

2- =-1 1

-1

1

x

yy=f(x)

O

5. 右の図は、座標平面で中心が原点Oであり、 半径の長さが 1の円と点(0, -1)を通る二次 関数 y=f (x) のグラフを表したものである。 方程式

 の互いに違う実根 xの個数は?[3点]

  ①2     ②3     ③4     ④5     ⑤6

 「国語」ではなく、「言語領域」という分野での出題である。解答はすべて選択式。 日本や他の国と比較すると、古典からの出題や知識問題の量はかなり少ない。そのかわり、素材となる文章のジャンルは多岐にわたっている。評論文、小説、随筆といった文章のほか、戯曲や現代詩からの出題もある。設問は、文章の主旨や情報の読み取りが中心のシンプルなものが多く、文章の内容を正しく表した図表を選ぶといった設問もある。例えば右の<問題例>にあるように、

「草食恐竜の竜脚類の足跡は楕円形か円形、四足歩行で前足が後ろ足より小さい」「草食恐竜の鳥脚類の足跡は三本指でかかとがゆるやかであり、二足歩行」「肉食恐竜の獣脚類の足跡は鋭い爪のついた三本指でかかとがとがっており、二足歩行であるが、足跡の長さが幅より長い点で鳥脚類と異なる」といった内容の説明文を読み、それと図を照合させながら答えを選ぶ(正解は①)。日本の大学入試センター試験のように抽象的な思想や観念を読み取ることよりも、文章から正確に情報収集する能

国語は、国別に入試事情と出題状況の分析を行った。各国の出題形式・内容については<図表>にまとめている。

韓国

<問題例>2009年 韓国「言語領域」設問番号35

「言語領域」として出題情報収集する能力や実用的な文章作成能力を問う言語的リテラシーを中心とした問題に特化

国語

韓国 教育課程評価院ウェブサイト(http://www.kice.re.kr/)より、 日本語訳は河合塾

報化社会に対応するとともに国際的な人材を育てることに力を入れるという意味合いが強く含まれているのではないだろうか。 最後にひとつ出題例を挙げてみよう。<問題例>2009年 韓国 ( 理系 ) 第5問

 日本の受験生だと               とおき、代入して…となりそうであるが、実は以下の方法で解答を得る問題である。 略解 与えられた方程式を変形して ,

   2つのグラフ

     の共有点に注目して , 与えられた方程式の実数解の個数はグラフから3個 .

 本問を正答できる日本の受験生がどのくらいいるであろうか。この問題が良いか悪いかではなく、日本とは異質な出題であることがわかる。

f (x) = ± 1− x 2 ( f (x) ≠ ±1, .x ≠ 0)

f (x) = ax 2 + bx −1 (a >0)

y = f (x) y = ± 1− x 2 (⇔ x 2 + y 2 =1)

f (x) = ± 1− x 2 ( f (x) ≠ ±1, .x ≠ 0)

f (x) = ax 2 + bx −1 (a >0)

y = f (x) y = ± 1− x 2 (⇔ x 2 + y 2 =1)

力を重点的に問う問題であるといえよう。 さらに特筆すべきなのは、論文の目次構成を修正する問題や、イベントの企画書を推敲する問題など、実用的

韓国 教育課程評価院ウェブサイト(http://www.kice.re.kr/)より、 日本語訳は河合塾

f (x) = ± 1− x 2 ( f (x) ≠ ±1, .x ≠ 0)

f (x) = ax 2 + bx −1 (a >0)

y = f (x) y = ± 1− x 2 (⇔ x 2 + y 2 =1)

f (x) = ± 1− x 2 ( f (x) ≠ ±1, .x ≠ 0)

f (x) = ax 2 + bx −1 (a >0)

y = f (x) y = ± 1− x 2 (⇔ x 2 + y 2 =1)

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26 Kawaijuku Guideline 2012.4・5

な文章作成能力を問う出題が多く見られる点である。また、2014 年から廃止される予定ではあるが、会話や朗読を聞いてその内容に関する選択肢を選ぶリスニング問題が出題されている。こうした言語運用能力を重視する傾向は PISA 調査の「読解力」と類似しており、韓国の大学入試が文学的伝統に根差した教養的知識よりも、言語的リテラシーを中心とした出題に特化している点は、他の国と明らかに異なる特徴であるといえる。

 上海版の全国大学統一入試(以下、「高考」)は、読解を中心とする第一部「閲読」(選択式・論述式ともにあり)と、日本の小論文に相当する第二部「作文」の二部構成である。 第一部で取りあげられている現代文は、文学論・芸術論といったさまざまなジャンルを扱った評論文、叙情的な随筆などである。文章が長く設問数も多いが、主旨や表現の特徴など基本的な問いが多い。なかには、「庭園式都市」という都市空間の理念を説明する文章を読んで

「2010 年の上海博覧会における『庭園式都市』の要素を、例をあげて説明せよ」といった時事にからめた出題もなされている。古典では、文法や語彙力に関する設問、現代語訳を求める設問などがみられる。また、古典の暗誦を前提とした「空所に詩の原文を書き入れよ」という出

題がなされている点は特筆すべきだろう。有名作品は暗誦して身につけておくという、中国の古典についての考え方が反映されているといえる。また、第二部はある論題について自分の考えを自由に述べる論述問題である。日本では「小論文」として国語とは分けて扱っているこのような設問は、日本と中国の「国語」教科観の違いを表しているといえよう。 北京版「高考」は、現代語の語彙力や古典の基本的な理解力を問う第一部(すべて選択式)と、読解力や鑑賞力、作文能力を問う第二部(選択式、一部論述あり)によって構成されている。 第一部では、漢字表記とともに拼音(ピンイン)が示され、発音の正しいものを選ぶ問題や、成語(日本の慣用句や四字熟語に該当する語句)の正しい用法を問う問題、中国あるいは世界の文学作品に関する知識を問う問題が出題されており(例えば「バルザックは 19 世紀フランスの作家であり、『人間喜劇』は当時のパリの上流社会を描いたものである」といった説明の正誤を判断する問題など)、語彙力や正確な文法的知識のみならず、幅広い文学的教養が要求されていることがわかる。 第二部は、さらに深い読解力を要求するものが多い。古典では、句読点の施されていない白文を「/」で区切らせる問題、漢詩の技法や解釈を論じる問題などが出題されている。上海版と同様、暗誦を前提とした空所補充問題もある。現代文では、芸術や科学などを論じた評論文、叙情的な随筆などが出題されているが、設問は本文の主旨を選ぶ二・三の問いや、表現技法やその意図を問

<図表>2011年 韓国・中国(上海版・北京版)・台湾の入試問題比較論説文 小説・随筆 詩 古典(古典的内容) 実用的文章 連想

韓国

・ミュージカルについて(4)・コンピュータプログラムにお

けるポンタについて(2)・暦法について(6)・韓国語における合成語につ

いて(3)・債券価格について(3)

・北朝鮮軍の捕虜となった兄弟を主題とする小説とその鑑賞文(4)

・「自画像」「女性」「木」についての詩 3 編とその鑑賞文(4)

・質素な生活についての詩 2編とそれに関する随筆や鑑賞文(5)

・子産(春秋時代の政治家)の改革について(4)

・古典小説『雲英伝』(4)

・インタビューや統計資料を正しく用いて文章を作成する

(1)・目次を見て文章の構成を修

正する(1)・廃携帯電話回収運動への

勧誘文を推敲する(2)

琴の構造やその製作過程についての文章から、

「優れた文学作品の創作」に関する内容を連想する(1)

中国(上海版)

・庭園式都市について(6) ・幼い頃見慣れていたサギが再び戻ってきたことについての感慨(6)

・月についての詩(3) ・暗誦(空所補充。8問中6問選択)

・蘇軾の文章(5)

中国(北京版)

・バイオエネルギーについて(2)

・旅先で山を見ることについて(4)

・君子の正しいふるまいについて(4)

・朱熹の文章を斜線で区切る(1)

・暗誦(6 問中 4 問選択)・張耒の詩(2)

台湾

・老人と青年について(1)・河川保護について(2)・「ショートショート」を書く難

しさ(2)・人生の意義について(1)・観察する人の立場によって知

覚される内容が異なる、という内容の文章にタイトルをつけ、その理由を説明する(2)

・詩にタイトルをつける(1)・小説のあらすじから、その

小説に付記するにふさわしい詩を選ぶ(1)

・詩の解釈として正しい文を選ぶ(1)

・歴史上の人物をよんだ詩を組み合わせたものの中から、同一人物のものを選ぶ(1)

・文意が通るよう並べ替える(1)・『聊斎志異』(2)・蘇軾『赤壁賦』(3)

中国

現代文・古典から出題され作文能力を問う問題も出題

(カッコ内の数字は小問数)

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Kawaijuku Guideline 2012.4・5 27

東アジアの大学入試問題分析2特 集

文法・語彙 小論文 表現 文学史 発音 リスニング

・動詞の用法(1)・ハングル綴字法(2)

(5)

・「すべてが過ぎ去るだろう」「すべてが過ぎ去るはずはない」という二銘文について論じる(1)

・成語が正しく用いられた文を選ぶ(1)

・文法に誤りのない文を選ぶ(1)・空所を補充して自然な文にする(1)

・卓球大会で中国チームが全種目優勝したことについての会話文を読み、任意の論題を設定して論じる(1)

・項羽、白居易、バルザック、ヘミングウェイについて正しい説明を選ぶ(1)

・漢字表記と拼音の正しいものを選ぶ(1)

・成語が正しく用いられた文を選ぶ(1)

・文法に誤りのない文を選ぶ(1)・空所を補充して自然な文にする(1)

・誤字のない文を選ぶ(1)・分数を表す表現を選ぶ(1)・成語を正しく用いた文を選ぶ(1)

・大法官の見解と台湾大学学長の意見を読み、「大学と学生の関係」について論じる(1)

・手紙の形式を説明した文のうち正しいものを選ぶ(1)

・名前とあざなの正しい組合せを選ぶ(1)

・視覚と聴覚を両方用いて表現した詩を選ぶ(1)

・思想として同じ流派と思われる組合せを選ぶ(1)

・経書についての正しい説明を選ぶ(1)

・読み方が異なる漢字を選ぶ(1)

 文章読解力と知識を選択式で問う第一部と、古典の解釈や現代語訳、小論文などを含む論述式の問いがなされる第二部によって構成されている。 第一部では、発音や文法に関する問題の出題がみられる。「次の中から反語文に属するものを選べ」など、表現技法についての問いもかなり多い。他の国には見られなかった、手紙における慣用表現を問うものや、「古人の名前とあざなは、意味のうえで関連性があったり、意味が逆であったりする。この推論にもとづいて、班固、許慎、王弼、朱熹のあざなを順に並べたものはどれか」といった、漢字文化の奥深さを感じさせる問題がみられる点は興味深い。 現代文の文章読解問題では、科学や芸術など多様なテーマの評論文や詩などが出題されているが、いずれも文章は短く、「以下の文章の主旨を答えよ」といったシンプルな設問がほとんどである。古典では有名出典の一節の解釈や文法を問う問題のほか、詩の形式や表現技法を問う問題もみられる。また、中国の上海版や北京版と同様、暗誦を前提とした古典の空所補充問題が出題されているほか、『論語』などの文学史問題もある。現代文では主旨把握、古典では知識重視の傾向がみられる。

 第二部では、現代文・古典それぞれの文章を読んで、解釈や内容をまとめる論述問題と、テーマについての自由論述が出題されている。

 韓国の大学修学能力試験の出題内容・形式をみるかぎり、PISA 型読解力として問われる「情報へのアクセス・取り出し」「統合・解釈」「熟考・評価」の3つのリテラシーを、韓国はかなり意識した作問スタンスであることがわかる。いかにも、言語を実際的に運用できるかの力量を測ろうとする意図をもつ問題が散見されるのは、前項でも触れたとおりである。ご存知のように、日本の大学入試センター試験「国語」は評論・小説・古文・漢文の 4ジャンルから各々1題を出題している。他の国に比べると圧倒的に多い分量の課題文を多角的に、ということは設問を多く立てる形式となっている。しかし、韓国も含め中国・台湾にしても、多岐にわたるジャンル (図表参照)から、比較的短めの分量の問題文を課し、少ない設問数で構成されている。PISA 調査を基準としてみたとき、その内容や形式から、「PISA ≒韓国>中国・台湾>日本」といったイメージを描くことは難しくない。

 ところで、統一試験での「文言文(日本でいうところの「古典」)の出題頻度が高く、かつその内実に際立っ

台湾

読解力や知識を選択肢古典の読解力や現代語訳は論述式 各国の統一試験の概括

「PISA型読解力」との類似性

うものなどがみられる。第二部は、上海版と同様自由論題型の小論文である。

「自文化」をめぐる地域差

河合塾調べ

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た特徴をもつのが中国である。もっとも、日本の大学入試センター試験「国語」でも古文・漢文の総得点に占める割合は 50%あり、「古典」頻度に関しては中国と大差はない。しかし、中国は「理解(文言文読解における言語面の理解力)」「分析総合(文言作品の内容と思想を分析し総合的に概括する能力)」「鑑賞評価(理解と分析総合を踏まえて、さらに作品の内容と表現、作者の考えと意図を鑑賞し、的確に評価する能力)」という3つのレベルから出題している。なかでも「鑑賞評価」にあたる問題は相当に難しい。日本でいうところの個別(2次)試験がなく、全国大学統一入試ですべてが決まる、あるいは決めるだけの難度を担保するがゆえの出題と解せる。そしてまた、台湾も前述した出題の具体例などから明らかなように、自文化の知識や教養を強く要求していることがうかがえる。いずれも知識として古典詩歌などの一節を問うなど、短期間の受験勉強ではまかない難い

出題が少なくない点に、中国、台湾ともに、初等教育からの暗唱学習が統一試験に「接続」していることを実感させられる。 ちなみに、中国の語文教育は「九年義務教育全日制初級中学語文教学大綱」(注)の下、政治や道徳と強く作用しあっていると言われているが、中国の全国大学統一入試は、まさにその語文教育から「接続」したものとして捉えることができよう。 ところで、韓国の大学修学能力試験における「古典」の扱いは他の国に比べて断然軽い。もちろん、「言語領域」試験に韓国(朝鮮)固有の文化を背景に考える問題(心情を問う問題・知識問題など)もあるにはあるが、古典知識や教養に関する出題は、まず量的に少なく、そして難度もさほど高いものではない。韓国は、中国と比すと顕著だが、教育の現場ではともかく大学入試に政治や道徳を極力持ち込まないようにしているのかもしれない。

 東京大学が「世界」状況に鑑みたとき、秋入学実施の必要性を訴えたことは各方面に少なからぬ影響をもたらしている。 東京大学のいう「世界」状況からすると、「世界」と伍す使命を自負する「リーディング・ユニバーシティ」群と「それ以外のユニバーシティ」群がそれぞれ異なった大学入試を受ける可能性もなくはないだろう。そしてその時こそ、前者の大学群がPISA的要素を多く含んだ試験を受けることになるのかもしれない……とこれも、ひとつの推測に過ぎないのだが、果たしてPISA調査という一つの指標が日本の大学入試の実際になじむのかという疑念はどうしても拭うことができない。理由はいくつかある。 ひとつは、日本では教育課程研究機能(国立教育政策研究所)と入試研究開発機能(大学入試センター)が分離している点があげられる。初中等教育との「接続」がうまくとれているとはいえない現在の大学入試を生んだ背景の一つに、そうした両者の分離があるのは明らかである。 次に、これはOECD自身が発表しているスタンスだが、

PISA調査で測ることができるのは能力の一部にすぎず、PISA調査では測りきれない能力は幾層もある。そして、わが国では、「英語」「国語」「公民」「理科」などと近接関係にありながら、それらの教科とはある一定の距離をおいた「小論文」にPISA的要素を強く感じさせる内容がすでに確認され、大学入試センター試験の中には組み込まれていないものの個別(2次)試験で一定の成果を果たしているという実情もあるからだ。 いずれにせよ、PISA調査など国際的な学力観の影響や、時代の要請のなかで、大学入試センター試験が現在の形態を取り続けるとは考えにくい。今を、大学入試センター試験としての過渡期と捉えることに異存はないが、変わる(変える)ことを前提に、いたずらに危機を煽る者もいなくはない。もちろん、そうした謂いにからめとられることなく、あくまでも冷静に、本稿に記した東アジアのみならず、比較的入手しやすいフランスのバカロレア試験をはじめとした西欧諸国の統一試験の実際も射程に入れ、教員ひとり一人が大学入試の「絵」を描いていく時期にあるのは確かなようである。

おわりに

(注)「九年義務教育全日制初級中学語文教学大綱」… 指導の過程において、生徒が祖国の言語文字を熱愛し、中華民族の優秀な伝統文化を愛する感情を育て、社会主義思想道徳と愛国主義精神を育成し、高尚な審美観と一定な審美能力を養わせ、健康な個性を発展させ、健全な人格を形成させる。