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電力の新市場問題~原発・石炭火力に新たなお金の流れ?~
松久保 肇(原子力資料情報室)
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2020年6月18日
オンラインセミナー「原発・石炭火力を温存する新たな電力市場の問題点」
-容量市場、ベースロード電源市場、非化石価値市場を考えるー
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まとめ
旧一電は、巨大資本、既存インフラ、既存顧客、ネームバリューなどで、著しく競争上、有利な立場(とくに電源を保有している点)
新市場は、旧一電の費用を補填しようとする機能を持つ。
新市場では、多くの場合、お金が新電力(特に再エネ新電力)から旧一電に流れる形をとる
新市場は、原発・石炭火力維持を促進する。
Eg. 原発:容量市場・ベースロード市場・非化石価値取引市場
石炭火力:容量市場・ベースロード市場
新市場によって、電力システム改革の努力が無に帰すリスクも。
再エネ導入促進を核とした、電力システム改革を!
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電力自由化の現状
見えてきた限界
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電力自由化の現状
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%
新電力比率
2018年頃から16%前後で推移
一貫して旧一電の方が安価
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確保済み供給力 6
• 旧一電は、自社の発電部門や電源開発などで電源を需要以上に確保
• 一方、新電力は、供給電力量のおよそ5割を卸電力市場などで確保
新電力にとっては市場の価格変動は大きな負担
https://www.occto.or.jp/kyoukei/torimatome/files/200331_kyokei_torimatome.pdf
https://www.occto.or.jp/kyoukei/torimatome/files/200331_kyokei_torimatome.pdf
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卸電力市場の価格変動・ミッシングマネー
● 太陽光や風力などの供給が増えた結果、卸電力市場の価格が低下した
→発電所の収益性が低下し、発電所への投資が回収できなくなる可能性がある(ミッシングマネー)
● 一方で、需給ひっ迫時に価格が高騰する
→市場調達の多い新電力への影響大
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円/k
Wh
2016(平均価格:8.46)
2019(平均価格:7.93)
1 時間
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時間
取引価格の値下がり
ピーク価格の高騰
場合によっては0円近くになることも
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電力システム改革で作られる新市場8
http://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/kihon_seisaku/denryoku_kaikaku/pdf/005_07_00.pdf
これまではこの価値だけが取引 ベースロード市場
ミッシングマネー対策
電源格差対策
電源格差対策CO2対策
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容量市場
ミッシングマネー対策?原発・石炭火力への補助金?
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https://www.occto.or.jp/kaiin/oshirase/files/190227_youryou_setsumei.pdf
容量確保策の類型
これ以外にドイツなどが導入してる「戦略的予備力」という容量メカニズムもある
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112024年時点の目標調達量は1.77億kW
(予備率13%)
OCCTO(電力広域的運営推進機関)が開設4年後の容量が取引対象
売り手は、発電事業者、買い手はOCCTO費用の大半は小売事業者負担
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容量市場の価格決定方法 12
Net CONE(Cost Of New Entry):卸電力市場等の収入を引いた新規参入コスト
https://www.occto.or.jp/kaiin/oshirase/files/190227_youryou_setsumei.pdfを加筆
9,425円/kW
1.77億kW
9,425円で約定した場合、100万kW級の発電所だと年間約65~75億円 1.82億kW
1.76億kW
14,138円/kW
約定点
約定点
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石炭火力発電所の投資回収イメージ
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億円
稼働年数
資本費
変動費、売電収入で回収
政策経費
燃料費
CO2対策費
「長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告」(平成27年(2015年)5月、発電コスト検証ワーキンググループ)をもとに作成
固定費、容量市場で回収。償却期間は15年前後
(80万kW、40年稼働、設備利用率70%)
1. 石炭火力や原発はベースロード。もともと運転が前提2. 古い発電所は資本費が回収済み⇒容量市場の約定価格がいくらでも利益になるため、0円やそれに近い価格で入札して、優先的に約定することに。
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• 仮に9,425円で1.77億kWを確保する場合※※OCCTOの2024年時点目標調達量1.77億kWからFIT分の供給力0.11億kWを差し引いた
• 2018年度の販売電力量8,525億kWhで市場規模の1.56兆円を割ると、容量拠出金単価は1.83円/kWh(一般家庭(月間電力使用量400~500kWh)の年間負担額は8,784~10,980円) ※※小売事業者が電気料金に転嫁しない可能性もあるため、そのまま電気料金に反映されるわけではない
容量市場の総コスト
約1.5兆円の可能性も
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Q1. 容量は不足しないか?
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https://www.occto.or.jp/kyoukei/torimatome/files/200331_kyokei_torimatome.pdf
Q2. 供給力増加で市場価格は下がるのでは?
https://www.occto.or.jp/kyoukei/torimatome/files/200331_kyokei_torimatome.pdf
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予備率15%程度のPJMエリアでもピークは発生している。
Q3. 卸市場価格のピークは発生しない?
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米の小売電力料金比較
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2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 2015 2017
¢/kW
h
小売電力料金(全セクター)の推移
全米平均
PJM平均
テキサス平均
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資料:EIA
容量市場を導入したPJMエリア(ペンシルベニア、ニュージャージー、メリーランド等)より、導入しなかったERCOT(テキサス州)のほうが明らかに電力の小売価格が低い
2007年PJM容量市場導入
経産省/OCCTOは「平均的、中長期的に見れば、容量市場の導入後も(中略)費用負担の範囲は
変わらない」というが?
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まとめ
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容量不足問題
日本の発電容量はむしろ中期的に過剰な状況
この余剰設備を新陳代謝させないといけない状況なのに、容量市場は古い電源の生き残りにインセンティブを与える
容量格差問題
日本の発電設備の約9割は旧一電が保有。これらの多くは独占時代に作られたもの
多くの電源の資本費はすでに回収済み。容量市場の収益は棚ぼた利益
新電力は多くの場合、発電設備を持つ旧一電に容量拠出金を支払うことになる
旧一電は小売部門から発電部門に資金が移動するだけ
再エネ新電力は、旧一電の発電設備への依存が比較的低いにも関わらず、拠出金は支払わなければならなくなる
消費者負担問題
容量市場により、独占時代に電気料金で支払い済みの設備に対して、2重の負担を強いられる
旧一電と新電力の格差拡大で競争条件が悪化
電力自由化による消費者の利益は損なわれる
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非化石価値取引市場
際立つ不公平性。CO2削減につながるのか?
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非化石価値取引市場
● エネルギー供給構造高度化法に基づき、小売電気事業者は2030年に非化石比率を44%に(長期需給見通しに基づく排出係数は0.37kg-CO2/kWh))
● 非化石電源(原子力・再エネ)のもつ非化石価値の取引を可能とする
● Jクレジット(既存の非化石証書類似の仕組み)の価格(0.95円/kWh)で換算すると、100万kWの原発1基で約60億円に!
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不公平性
水力や非化石電源とされる原発は旧一電が保有/長期契
約
結果、旧一電が非化石電源比率でも優位、非化石証書の売
り手となる
新電力の負担は、FITや再エネを除く大半が旧一電に支
払われる
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※新電力の非化石需要=2018年度総需要8869億kWh*新電力シェア16%*非化石比率44%=624億kWh
0 百万kW
20 百万kW
40 百万kW
60 百万kW
水力 原発 再エネ
非化石電源設備容量
(2020. 2)
旧一電+卸発電事業者 新電力 資料:電力調査統計
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結局不足する非化石電源 222019年 2029年 長期需給見通し2030
億kWh 億kWh % 億kWh
水力 822 875 8.8~9.2% 937.2~979.8
一般水力 757 806
揚水 65 73
原子力 604 303 20~22% 2,130~2,343
新エネルギー等 937 1,504 13.2~14.8% 1,405.8~1,576.2
風力 82 237 1.7% 181.05
太陽光 634 912 7% 745.5
地熱 25 29 1.0~1.1% 106.5~117.15
バイオマス 167 305 3.7~4.6% 394.05~489.9
廃棄物 28 21
その他 114 27
火力 6,553 5,782
石炭 2,681 3,128 26% 2,769
LNG 3,594 2,403 27% 2,875.5
石油他 278 251 3% 319.5
合計 9,030 8,491 10,650
2029年の新エネ+水力+原子力=2,682億kWh
2,682億kWh÷総供給(送電端)8,491億kWh=32%
原発27基(現在9基)稼働ケース(1,700億kWh)
2029年の新エネ+水力+原子力=4,079億kWh
4,079億kWh÷8,491億kWh=48%*
*ただし、原発の供給が増えれば、再エネの出力抑制は増える
37% !?
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まとめ
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容量格差問題
日本の非化石電源の多くは、旧一電が保有もしくは契約済み
こうした電源の多くは独占時代に作られており、資本費はおおむね電気料金として回収済み
そうした電源からの非化石証書の利益も旧一電に帰属
非化石電源調達目標についても、水力や原発再稼働によって、旧一電は目標を達成しているか、比較的高いが、新電力は軒並み低い
非化石電源不足問題
2030年の非化石電源目標は44%
原発の再稼働状況によっては、目標を大幅に下回る
一方、石炭火力の発電電力量は増加が見込まれている
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ベースロード市場
新電力の望みはかなうのか?
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ベースロード市場25
日本の設備容量の84%を旧一般電気事業者等が保有
ベースロード電源(水力・石炭火力・原子力)はほぼ旧一電が独占
ベースロード電源の電気を取引する市場(ベースロード市場)を創設
• 500万kW以上の最大出力を有する事業者、そこから3分の1以上の出資を受ける事業者
切り出し対象事業者
• 全体市場供出量(kWh)=新電力等総需要 (kWh) × 全国エリア離脱率(%)) × 56%(長期需給見通ベースロード比率) × 調整係数
• 上限価格=ベースロード電源の固定費(未稼働電源含む)+燃料費を発電量で割り、容量市場収益を引く
切り出し量・上限価格
• すでに卸電力取引所に先渡市場という同趣旨の市場が存在する
• ベースロード電源の固定化を促進する
• 未稼働ベースロード電源維持費も価格に盛り込める(未稼働原発も!)
問題点
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2020年度ベースロード市場結果26
● 売り入札量は概ね想定通り
● 買い入札量は売り入札に比べて少ないもの
の、初回と考えると、入った方
● 約定量が少ないのは約定価格が高いため
● 電力ガス取引監視等委員会は2018年度エ
リアプライス比では安いので問題なしと判断
したが、ピークやミドル電源のはいった卸電
力市場の価格と比較するのはおかしい。また
足元の2019年度比では高い。
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電源開発の電源切り出し状況
● 電源開発の電源きりだしがきわめて低調
● 電源開発の販売電力量(650億kWh)を切り出せば、
新電力のニーズ(665億kWh)はほぼまかなえる
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1700万kW中、62万kWしか市場に供給されてい
ない
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まとめ
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市場自体の問題
卸電力市場には先渡し市場という長期の電力を取引する市場が存在する
ベースロード専用市場はベースロード電源の固定化(56%!)につながるが、ベースロード電源は柔軟性に欠ける
未稼働電源の維持費も含められるため、約定価格が高い
電源開発電源切り出し問題
電源開発は、もともと電源開発促進法で作られた国策会社
2004年の民営化時には分社化も検討されたが、「卸電力市場など制度改革による新たな仕組みのなかで重要な役割を果たすことが 期待されることから」、一体として民営化された
電力自由化後も電源開発の卸電力市場での役割は限定的(保有電源の3.6%しか切り出していない)。
電源開発の電気をすべて切り出せば、新電力のニーズはほぼ賄える
電源開発の電源の大半は旧一電が購入している(電源開発の有価証券報告書によれば、平均9.9円/kWh)
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必要な政策は?29
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ご清聴ありがとうございました
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原子力市民委員会 特別レポート6『原発を温存する新たな電力市場の問題点』http://www.ccnejapan.com/?p=11240
http://www.ccnejapan.com/?p=11240