両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する 研究課題 ·...

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要約:離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題の提示を目的に,日韓の研究に注目し た。分析文献としては日本が 15 本,韓国が 35 本であった。その結果,まず,日本の文献 からは子どもは,離婚の前後で直面する出来事によって影響をうけることと,出来事の中 で混乱しながらも,克服しようとすることが明らかになった。また,韓国の文献からは, 子どもの心理的適応,社会的適応,学校適応,問題行動に自我尊重感,明るくて変化によ く適応する子どもの気質,問題中心的対処,離婚に対する子どもの知覚,レジリエンスが 強力な因子として作用しているが,それらの先行因子は究明されていないことがわかった。 以上の結果から,離婚を経験した子どもを理解する上で,彼・彼女らが経験した出来事を 考慮することと,支援の提供にあたって彼・彼女らを「能動的存在」として認識すべきこ とを示唆できた。また,心理的適応,社会的適応,学校適応,問題行動に影響を与える因 子の先行因子を明らかにする研究の必要性を示唆できた。つまり,離婚を経験した子ども の自我尊重感と明るくて変化によく適応する子どもの気質,問題中心的対処,離婚に対す る子どもの知覚,レジリエンスの先行因子として,離婚の前後における出来事といった社 会的状況を設定した研究の必要性である。 キーワード:両親,離婚,子ども,影響 目次 1.はじめに 1-1.研究背景及び目的 1-2.研究方法 2.日本における両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究への検討 2-1.両親の離婚が子どもの発達に与える影響に関する研究 2-2.両親の離婚に対する子どもの思いに関する研究 3.韓国における両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究への検討 3-1.両親の離婚が子どもの発達に与える影響に関する研究 3-2.両親の離婚を経験した子どもの適応に影響を与える因子分析に関する研究 4.おわりに 4-1.考察 4-2.研究のまとめと課題 ──────────── 同志社大学大学院社会学研究科博士後期課程 2014 7 11 日受付,査読審査を経て 2014 9 30 日掲載決定 論文 両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する 研究課題 ──日韓の研究から得られる示唆に着目して── 民護 157

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Page 1: 両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する 研究課題 · く適応する子どもの気質,問題中心的対処,離婚に対する子どもの知覚,レジリエンスが

要約:離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題の提示を目的に,日韓の研究に注目した。分析文献としては日本が 15本,韓国が 35本であった。その結果,まず,日本の文献からは子どもは,離婚の前後で直面する出来事によって影響をうけることと,出来事の中で混乱しながらも,克服しようとすることが明らかになった。また,韓国の文献からは,子どもの心理的適応,社会的適応,学校適応,問題行動に自我尊重感,明るくて変化によく適応する子どもの気質,問題中心的対処,離婚に対する子どもの知覚,レジリエンスが強力な因子として作用しているが,それらの先行因子は究明されていないことがわかった。以上の結果から,離婚を経験した子どもを理解する上で,彼・彼女らが経験した出来事を考慮することと,支援の提供にあたって彼・彼女らを「能動的存在」として認識すべきことを示唆できた。また,心理的適応,社会的適応,学校適応,問題行動に影響を与える因子の先行因子を明らかにする研究の必要性を示唆できた。つまり,離婚を経験した子どもの自我尊重感と明るくて変化によく適応する子どもの気質,問題中心的対処,離婚に対する子どもの知覚,レジリエンスの先行因子として,離婚の前後における出来事といった社会的状況を設定した研究の必要性である。

キーワード:両親,離婚,子ども,影響

目次1.はじめに

1−1.研究背景及び目的1−2.研究方法

2.日本における両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究への検討2−1.両親の離婚が子どもの発達に与える影響に関する研究2−2.両親の離婚に対する子どもの思いに関する研究

3.韓国における両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究への検討3−1.両親の離婚が子どもの発達に与える影響に関する研究3−2.両親の離婚を経験した子どもの適応に影響を与える因子分析に関する研究

4.おわりに4−1.考察4−2.研究のまとめと課題

────────────†同志社大学大学院社会学研究科博士後期課程*2014年 7月 11日受付,査読審査を経て 2014年 9月 30日掲載決定

論文

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題──日韓の研究から得られる示唆に着目して──

姜 民護†

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1.はじめに

1−1.研究背景及び目的

日本では 2011年 6月に民法 766条を改正し,面会交流や養育費といった子どもの監

護上の必須項目が明記され,それとともに離婚届用紙に面会交流と養育費の取り決めに

関する欄が設けられた。また,2012年からは公の事業として面会交流支援事業が行わ

れている(厚生労働省 2014)。一方,韓国では 1991年 11月に国連の子どもの権利条約

を批准した際に留保された面会交流の条項が 2007年 12月の民法改正により子どもの権

利として認められた。また,2008年に離婚熟慮制度が実施され,協議離婚を希望する

夫婦は相談を受けなければならなくなった。

上記の両国の一連の動きの背景としては,子どものいる全世帯のうちひとり親世帯の

割合の急増があげられる(日本は 2012年現在約 15%,韓国は 2011年現在約 9.3

%)(1)。ひとり親家庭になる理由として,養育費や面会交流などの問題を伴う離婚によ

る場合が高い(日本は 2011年現在約 79%,韓国は 2010年現在約 33%で,韓国はそれ

ほど高いとは言えないが,1990年には 8.9%であったことを考えれば,20年ほどで 4

倍近くに増加してきた)という社会的変化の現実を直視し始めたことが考えられる(姜

2013 b;厚生労働省 2012 ; 2013,統計庁 2012)。また,2000年代から活発に行われてい

る両親の離婚を経験した子どもを対象とした研究結果を反映しつつあることも考えられ

る(2)。両国における研究結果をみると,両親の離婚を経験した子どもは寂しさや怒り,

恨みなどの心理的苦労を感じているという(野口 2006 a;小田切 2005 ; 2011)。また,

自分のせいで両親が離婚したと思い,両親の離婚をやめさせるにはどうすれば良いか悩

んでおり(中村 2010),それが登校拒否やひきこもりなどに繋がる可能性があると指摘

している(東 2002;堀田 2009;ジョン 1993;イ 1994)。

日韓,それぞれの国における両親の離婚が子どもに与える影響に関する先行研究を取

り上げ,研究現状と今後の課題について考察している姜(2012 ; 2013 a ; 2013 b)によれ

ば,両国における研究結果の類似点として両親の離婚が子どもに及ぼす否定的な影響を

指摘し,相違点として質的研究と文献研究,あるいは量的研究のように異なる研究方法

であることを指摘した(3)。より具体的にいうと,主な研究方法として質的研究と文献研

究を採用した日本の研究状況と量的研究を採用した韓国の研究状況について,研究方法

の多様性と各研究方法が持つ限界という視点から「両国における研究方法の偏り」を指

摘し,日本に関しては量的研究,韓国に関しては質的研究の必要性について考察してい

る。

以上のことから,両国における両親の離婚を経験した子どもが置かれている劣悪な社

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題158

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会的状況とそれを打開するための対策の一連の動きには社会的変化の直視と学術研究の

結果の反映が背景として存在していると指摘できるのではないだろうか。また,両国に

おける学術研究の結果に基づき,子どもが両親の離婚によって受ける影響もあまり違い

のないことが指摘できると考えられる。

つまり,両国における両親の離婚を経験した子どもを巡る社会的状況(数の増加),

対策の動き(面会交流の認定),学術研究の結果(離婚による影響を受ける子ども)に

おいて,多くの類似点がみられている。そのため,両国の研究結果から得られる示唆に

着目し,新たな今後の課題を提示することは意義があることではないだろうか。また,

前述したように,日韓における両親の離婚が子どもに与える研究の今後の課題として,

日本が量的研究,韓国が質的研究の必要性を指摘されていることは,両国の研究結果か

ら得られる示唆に着目する意義を裏付ける。こういった点を踏まえ,本研究は両親の離

婚が子どもに及ぼす影響に関する研究の課題を提示することを目的とする。

1−2.研究方法

1−2−(a).文献の検索

研究方法としては主に文献研究を採用し,検討・分析の対象となる学術論文の収集は

日韓における代表的なデータベースである「CiNii(日本,国立情報学研究所)」,「DBpia

と Kiss(韓国)」を用いる。文献の検索は「離婚」「母子家庭」「父子家庭」「ひとり親

家庭」「子ども(子供)」という主なキーワードを取り上げておこなう。その結果,日本

は,離婚が 4,182件,母子家庭が 262件,父子家庭が 81件,ひとり親家庭が 79件,子

どもが 105,859件,子供が 14,813件で,全 125,276件が検索された。また,韓国は,離

婚が 1,306件,母子家庭が 59件,父子家庭が 26件,ひとり親家庭が 98件,子ども

(子供)が 29,439件で,全 30,928件が検索された。しかし,全ての文献を検討・分析す

ることは現実的に可能ではないため,キーワードを 2つずつ組み合わせて再度検索を行

った。その結果が[表 1]と[表 2]である。

表 1 日本の文献検索にあたってキーワードを 2つずつ組み合わせて検索した結果単位:件

離婚・母子家庭 離婚・父子家庭 離婚・ひとり親家庭 母子家庭・子ども

件数 20 2 2 37

母子家庭・子供 父子家庭・子ども 父子家庭・子供 ひとり親家庭・子ども

件数 3 14 1 18

ひとり親家庭・子供 離婚・子ども 離婚・子供 合計

件数 1 171 41 310

出典:CiNii より筆者作成(2013. 11. 20)

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題 159

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[表 1]のように日本の文献検索にあたり,主なキーワードを 2つずつ組み合わせて

検索したところ,全 310件が検索された。詳細は「離婚・母子家庭」が 20件,「離婚・

父子家庭」が 2件,「離婚・ひとり親家庭」が 2件,「母子家庭・子ども」が 37件,「母

子家庭・子供」が 3件,「父子家庭・子ども」が 14件,「父子家庭・子供」が 1件,「ひ

とり親家庭・子ども」が 18件,「ひとり親家庭・子供」が 1件,「離婚・子ども」が 171

件,「離婚・子供」が 41件である。

[表 2]のように韓国の文献検索にあたり,主なキーワードを 2つずつ組み合わせて

検索したところ,全 178件が検索された。詳細は「離婚・母子家庭」が 3件,「離婚・

父子家庭」が 2件,「離婚・ひとり親家庭」が 10件,「母子家庭・子ども」が 13件,

「父子家庭・子ども」が 7件,「ひとり親家庭・子ども」が 32件,「離婚・子ども」が 111

件である。

しかし,日韓の検索結果ともに,重複検索されたものがあったり,両親の離婚が子ど

もに与える影響に関する文献ではないものがあったりしたため,文献抽出にあたって以

下のような基準を設けた。

①重複検索されたものは除外する

②学術論文ではないものは除外する

③両親の離婚が子どもに与える影響に関連がないものは除外する

上記の基準に従って文献の再整理を行った結果,最終的に日本からは 15本を,韓国

からは 35本を抽出することができた。

1−2−(b).分析の枠組み

前述した方法で抽出されたものに関して,それぞれの研究内容を分析するために以下

の枠組みを適用する。ただし,日本の文献と韓国の文献に適用する枠組みは,同様では

ない。それは,ここで取り上げる枠組みが文献の検討を通して把握できた両国の研究傾

向であること,両国の研究傾向は両国におけるそれぞれの研究の着眼点と研究方法にし

たがって異なることによると予め断っておく(姜 2013 a ; 2013 b)。

表 2 韓国の文献検索にあたってキーワードを 2つずつ組み合わせて検索した結果単位:件(DBpia+Kiss)

離婚・母子家庭 離婚・父子家庭 離婚・ひとり親家庭 母子家庭・子ども

件数 3(2+1) 2(1+1) 10(6+4) 13(3+10)

父子家庭・子ども ひとり親家庭・子ども 離婚・子ども 合計

件数 7(2+5) 32(20+12) 111(56+55) 178

出典:DBpia と Kiss より筆者作成(2013. 6. 15)

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まず,日本における両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する文献に対する枠組みで

ある。

①両親の離婚が子どもの発達に与える影響に関する研究

②両親の離婚に対する子どもの思いに関する研究

次に,韓国における両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する文献に対する枠組みで

ある。

①両親の離婚が子どもの発達に与える影響に関する研究

②両親の離婚を経験した子どもの適応に影響を与える因子分析に関する研究

本研究で取り上げた文献(日本 15本,韓国 35本)は,先述した両国における枠組み

に従って分けた上で,研究内容を分析する。

2.日本における両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究への検討

前述した方法で検索された日本における両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研

究は全 15本で,それぞれの研究は着眼した点によって大きく 2つの傾向を見せており,

その研究傾向に従って分類することができる(姜 2013 a)。それは,第一に,両親の離

婚が子どもの発達に与える影響に関する研究,第二に,両親の離婚に対する子どもの思

いに関する研究である。そこで,ここではこの 2つの分類に従って検討をおこなう(4)。

2−1.両親の離婚が子どもの発達に与える影響に関する研究

15本の中で両親の離婚が子どもの発達に与える影響に関する研究は 11本であり,そ

れぞれの研究概要を便宜上,研究対象と方法,研究内容に分けて整理したものが[表

3]である。

表 3 日本における両親の離婚が子どもの発達に与える影響に関する研究の分析概要(発表年順)

研究者(発表年)

概要対象と方法 内容及び結果

1泉ひさ(1994)

対象者なし文献研究

(先行研究の検討)

夫婦の葛藤が子どもに不安感や不信感,怒り,劣等感,自尊感情の低さ,異性問題などの悪影響を与えると指摘した。また,両親の離婚が子どもの発達段階別,性別に及ぼす影響の検討を行った。まず,発達段階別にみると,胎児期や乳児期の子どもは,離婚のストレスが伴う母親の

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題 161

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不安定な状態により,幼児期の子どもは遊びの不在が伴うストレスの不解消により,攻撃性や依存性,罪悪感のような悪影響を受けるという。児童期と青少年期の子どもは,学業問題を抱え,両親の離婚を恥だと考えながらも,喪失感や孤独感などを克服しようとするという。次は,両親の離婚による一方の親の不在が子どもの性別に与える影響である。両親の離婚によって父親不在の場合は,女児より男児の方が性役割行動や知的面,道徳性において大きく影響を受ける一方,女児は,父親像や異性像の偏りによる異性交際において不適応性が見られるという。

2野田愛子(1998)

対象者なし文献研究

(先行研究の検討)

ワラースタインの横断研究の結果を紹介し,両親の離婚は子どもに喪失感,怒り,悲しみ,恨みなどの短期的な影響だけではなく,結婚への不安感や人への不信感のような長期的な影響を与えるという。

3棚瀬一代(2004)

ひとり親家庭の児童期の子 4名質的研究(事例調査)

離婚という単発的な出来事だけではなく,離婚を巡る環境の条件に着目して悪条件,あるいは好条件によって両親の離婚が子どもに与える影響が異なると指摘した。悪条件としては離婚への無説明,面会交流の不在,監護親の不適応状態,親族や学校からのサポートの薄さなどがあり,好条件としては離婚への説明,肯定的な面会交流の実施状態,監護親の安定状態などがあるという。

4小田切紀子(2005)

母子家庭とひとり暮らしの青少年期の子 11名質的研究(面接調査)

両親の離婚を経験した子どもは悲しみや不安,怒りなどの感情表出を始め,自尊感情の低下や結婚観の変容,悲哀反応などを示しているという。また,離婚からなる転校や転居によって生じる友人関係の変化や学校問題について悩んでおり,親子関係においても変化が起きると指摘した。両親と離れて暮らすことで,心理的距離を置こうとする「早急な自立型」,親の期待や要求に添おうとして親の感情に巻き込まれる「巻き込まれ型」,子どもが親役割を担っている「親役割型」である。また,離婚の理由や説明有無,時期などによって離婚の理解ができず,両親の離婚が自分のせいだと考えてしまうという。

5野口康彦(2006 a)

母子・再婚家庭の青少年期の子 3名

質的研究(事例調査)

「思春期を生きる子どもにとって親の離婚は,大切な自己吟味の機会を親と共有できないという重大な発達上の危機に直面させられることもある」と指摘した。また,離婚による両親の葛藤や転校,転居などが子どもに怒りや不安,攻撃性などを抱えさせながら,不安と罪障感の克服が思春期の子どもの発達課題であるという。

6野口康彦(2006 b)

対象者なし文献研究(統計検討)

ひとり親家庭の中で母子家庭が占める高い割合と母子家庭がもつ経済的な苦労,夫に責任をあまり負わせない現制度の問題点を指摘し,それが子どもに寂しさや苦しさ,怒り,恨みといった悪影響を与えるという。

7野口康彦(2007)

対象者なし文献研究

(先行研究の検討)

両親の離婚が子どもの精神発達に与える影響を,短期的影響や長期的影響,年齢・性別による影響,父親不在による影響に分けて検討した。短期的影響とは,絶えない両親の喧嘩が解消することによってむしろ,子どもの成熟性や自尊感情などが離婚の前より向上することがある。このように両親の離婚は子どもに悪影響のみを与えるわけではなく,悪影響を与えるとしても短期的影響に過ぎないことを意味する。長期的影響としては,両親の離婚が子どもに悪影響を与えるということであり,これは父親不在による影響と同様に大人の男性に対するイメージの喪失などが指摘される。また,女児よりも男児が,さらに影響を受けるという。

8野口康彦(2009)

両親・ひとり親家庭の青少年期・成人期 321名量的研究(分散分析,多重比較)

両親の離婚群より両親の仲が悪い群の大学生の方が自分の将来像を否定的に捉えていることを明らかにし,大学生に限っては両親の離婚の経験より現在の両親の関係(良いか,あるいは悪いか)が将来像に深く関わっていると指摘した。

9野口康彦・櫻井しのぶ(2009)

ひとり親家庭の青少年期と成人期

31名質的研究(半構造化面接調査)

両親の離婚が子どもの精神発達にどのような影響を及ぼすのかを明らかにするため,グラウンデッド・セオリー・アプローチを利用して分析を行った結果,13のカテゴリーを抽出することができた。また,それらは一定の関連をもち,その中心に親密性への恐れが作用しているという。この親密性への恐れのサブ・カテゴリーとしては,結婚し,離婚することへの恐れ,異性と親密になることの恐れ,他者との距離感,結婚のハンディ感,シングル・マザーの選択,現在の家族の居心地の悪さが示されている。

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題162

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[表 3]から分かるように,ここに該当する 11本の研究は採用した研究対象や研究方

法によって異なる結果を出しているが,両親の離婚が子どもの発達に与える影響という

類似した視点に着眼しているため,以下のようなことがうかがえる。

第一に,両親の離婚によって子どもが抱える内面的問題と外面的問題に関することで

ある。まず,内面的問題(気持ち・感情など)をみると,両親の離婚を経験した子ども

は寂しさや苦しさ,悲しみを始め,罪悪感,自尊感情の低下,親に対する怒りや恨み,

人間関係に対する不安感や不信感,劣等感などを抱えることが分かる(泉;1994;野口

2006 a ; 2006 b;小田切 2005)。次に,外面的問題(言動・行動など)をみると,子ども

は両親の離婚によって攻撃性や依存性を始め,異性問題,結婚問題,性役割の混乱,学

業問題といった問題を抱えているという(泉 1994;野田 1998;小田切 2005)。

第二に,子どもが内面的問題と外面的問題を抱える背景に関することである。棚瀬

(2004)は子どもを巡る環境の条件が肯定的に揃っているのかどうかによって(好条件

または悪条件),離婚による影響が変わってくると指摘している。また,それとともに,

内面的・外面的問題は両親の葛藤や転居,転校,家庭形態の変化,面会交流の不在,経

済的な不安定性,遊びの不在という離婚によって直面する出来事が背景として関わって

おり,野口(2009)の研究結果が裏付けるように,両親の葛藤は最も強い背景として働

きかけていることが分かる(泉 1994;野口 2006 a ; 2006 b ; 2007;小田切 2005;棚瀬

2004)。

第三に,両親の離婚による肯定的影響に関することである。暴力や暴言,虐待のよう

な理由で離婚にいたった場合は,離婚は解放,あるいはセカンドチャンスの意味を持つ

という(堀田 2009;三島 1986)。また,泉(1994)と野口(2009)が指摘した両親の

葛藤がもたらす悪影響と野口(2007)が指摘した両親の喧嘩の解消による好影響を考え

ると,離婚の理由だけではなく,両親の葛藤や喧嘩の解消による離婚の肯定的影響も指

摘できるだろう。また,子どもは喪失感や孤独感などの悪影響を克服しようとすると指

摘からも(泉 1994),子どもは離婚によって置かれた環境にそのまま順応するわけでは

10

本田麻希子・遠藤麻貴子・中釜洋子(2011)

対象者なし文献研究

(先行研究の検討)

日本の研究は事例研究と面接研究に限られているため,研究結果の一般性が担保される縦断研究や量的研究を行う必要があると指摘した。また,援助プログラムは研究の結果に基づくべきであり,こういった援助プログラムの開発が求められると提唱した。

11野口康彦(2012)

両親・ひとり親家庭の青少年期と成人期 321名量的研究

(クラスカル・ワリス検定,マン・ホイットニーの

U 検定)

両親の非離婚群と離婚群(親の離婚時期が 0~8歳であった離婚群A,両親の離婚時期が 10~17歳であった離婚群 B)に分け,各群間における抑うつの分析を行った。その結果,両親の離婚群 B と非離婚群,そして両親の離婚群 A においては有意な差が見られ,とりわけ,両親の離婚群 A と両親の離婚群 B との項目別による U 検定の結果から,思春期以降に親の離婚を経験した子どもは,離婚による影響を受けやすい傾向が示唆されたという。

出典:筆者作成

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題 163

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なく,直面した状況を乗り越えようとすることが分かるだろう。

2−2.両親の離婚に対する子どもの思いに関する研究

15本の中で両親の離婚に対する子どもの思いに関する研究は 4本であり,それぞれ

の研究概要を便宜上,研究対象や研究方法,研究内容に分けて整理したものが[表 4]

である。

表 4 日本における両親の離婚に対する子どもの思いに関する研究概要(発表年順)

研究者(発表年)

概要対象と方法 内容及び結果

1真田壯士郎(2003)

ひとり親家庭の児童期の子 6名質的研究(事例調査)

両親の離婚によって直面した出来事に巻き込まれている子どもの思いとその背景について指摘した。まず,面会交流に対しては,決まった回数の通りにしたいという思いと自分が会いたい際に会いたいという思いのケースを紹介した。また,転居や転校に対しては,学校や友達,地域などの馴染みのある環境から離れたくないと思うケースを紹介し,その背景としては離婚紛争で子どもの状況が見えにくくなる親の側面と,親のことを気にして自分の本音で気持ちや思いが言えずに,悩んでいる子どもの側面について言及した。

2平松千枝子(2005)

ひとり親家庭の児童期・青少年期・成人期の子 96名量的・質的研究

(実態・面接調査)

両親の離婚を経験した子どもが持つ離婚への意見,離婚のプラス・マイナス面,両親に求めること,離婚の乗り越え方などを検討した。まず,子どもは両親の離婚を否定的または肯定的に思う場合があり,それは離婚の理由によるという。次に,離婚のプラス・マイナス面である。これも離婚の理由に関連しており,離婚が暴力や暴言などの激しい両親の葛藤による場合であれば,父親からの解放や母親に対する心配の解消,自立力の成長などのプラス面があるという。マイナス面としては,進学放棄や友人・対人関係に関する困難,世間の偏見が指摘された。次に,両親に求めることについてである。別居親には養育費や学費の援助と円滑な面会交流を,同居親にはしっかりとした親役割と一緒に過ごす時間を求めていた。最後に,子どもの離婚の乗り越え方としては,離婚を親の問題として認識すること,自分を大切にして責めないこと,一人で悩まずに人と相談することなどを指摘している。

3梶井祥子(2006)

ひとり親家庭の青少年期の子

16名質的研究(事例調査)

両親の離婚を経験した子どもを対象とし,家族形態と家族意識の間にある関係性を明らかにした。より具体的には,母子家庭の子どもであっても,父子家庭の子どもであっても,別居の親を家族構成員として意識している場合がある一方,そうではない場合もあるという。また,再婚家庭の子どもであっても,継父や継母を家族構成員として認める場合とそうではない場合の両方が存在することといい,このことから,家族形態と家族意識の間にはズレがあり,子どもは決して従属的な存在ではないと指摘した。

4堀田香織(2009)

ひとり親家庭の青少年期の子 6名

質的研究(半構造化面接調査)

両親の離婚を肯定的に受け入れた子どもを対象とし,離婚前・時・後における物語を分析した。具体的に,離婚前においては,父親に対して恐怖や嫌悪などの感情を,母親に対して心配やかわいそうなどの感情を持っていた。離婚時においては,母親の喪失に対する不安と母親に対する心配の消失を感じ,離婚後においては,大学への進学の困難さなどのデメリットと多様な体験や視野の拡大などのメリットを感じるという。つまり,母子家庭の子どもは,各時期において否定的な思いと肯定的な思いの両方を持つということである。また,両親の離婚を肯定的に受け入れるためには,離婚は両親の問題であり,自分とは関係ないと切り離す「外在化」が必要であると指摘した。

出典:筆者作成

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題164

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[表 4]から分かるように,ここに該当する研究は 4本で少ない状況ではあるが,両

親の離婚に対する子どもの思いを離婚によって直面する可能性がある出来事の中で検討

している。そこで,ここでは 4本の研究が指摘した両親の離婚をめぐる出来事に対する

子どもの思いから,次のことがうかがえる。

第一に,両親の葛藤や喧嘩という出来事に対する子どもの思いである(平松 2005;

堀田 2009)。子どもは両親の葛藤や喧嘩の中で,父親を恐怖と嫌悪の存在とし,母親を

かわいそうな存在として認識し,苦しんでいるという。また,こういった両親の葛藤や

喧嘩に対する不安や怖さは離婚によって解消されるため,子どもが離婚を肯定的に認識

する上で,1つの要素になることが分かる。

第二に,転居や転学という出来事に対する子どもの思いである(平松 2005;真田

2003)。子どもは両親の離婚によって転居や転学をするのではないかと心配していると

いう。離婚による転居や転学は一方の親との離別とともに,自分の馴染みの町や友人と

の離別などを招くため,子どもにとっては大きなストレスになることが分かる。

第三に,面会交流という出来事に対する子どもの思いである(平松 2005;真田

2003)。子どもは面会交流に対する思いが親とすれ違うことで,悩んでいるという。具

体的にいうと,子どもによっては決まっている面会交流の回数の通り,別居親と会いた

がる子がいる一方,回数は関係なく,会いたい時に自由に会いたがる子がいる。だが,

別居親あるいは同居親の意思や雰囲気などによって,子どもの思いや意思は反映されな

いまま,面会交流が行われたり,実施されなかったりするということである。

第四に,経済的な苦労という出来事に対する子どもの思いである(平松 2005;堀田

2009)。両親の離婚を経験した子どもは,学費がなくて大学進学を諦めたり高校卒業後

にすぐ職についたりするという指摘から,経済的な問題で苦しんでいることが分かる。

第五に,親の再婚という出来事に対する子どもの思いである(梶井 2006)。これに関

しては,再婚家庭の子どもであっても,継父や継母を家族構成員として認める場合とそ

うではない場合,両方存在するという指摘程度である(梶井 2006)。そのため,深く論

議することはできないが,前述したように両親の離婚を経験した子どもは,両親の葛藤

を始め,転居,転校,面会交流,経済的な苦労などの出来事を経ることで,相当なスト

レスを受けることを考えれば,親の再婚という出来事における子どもの苦しみが小さく

ないことも想像できるだろう。

3.韓国における両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究への検討

前述した方法で検索された韓国における両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題 165

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究は全 35本である。それぞれの研究は着眼点によって大きく 2つの傾向を見せており,

その研究傾向に従って分類することができる(姜 2013 b)。第一に,両親の離婚が子ど

もの発達に与える影響に関する研究,第二に,両親の離婚を経験した子どもの適応に影

響を与える因子分析に関する研究である。そこで,ここではこの 2つの分類に従って検

討をおこなう。

3−1.両親の離婚が子どもの発達に与える影響に関する研究

35本の中で両親の離婚が子どもの発達に与える影響に関する研究は 5本であり,そ

れぞれの研究概要を便宜上,研究対象や研究方法,研究内容に分けて整理したものが

[表 5]である。

表 5 韓国における両親の離婚が子どもの発達に与える影響に関する研究概要(発表年順)

研究者(発表年)

概要対象と方法 内容及び結果

1フォン・オクザ(1980)

両親・ひとり親・再婚家庭の

児童期の子 137名量的研究(t 検定)

両親が揃っている家庭(以下、両親家庭という)の子どもに比べ,両親の離婚を経験した子どもが日常生活において,さらに問題を抱えているという結果から,離婚は子どもに影響を与えると指摘した。また,ひとり親家庭の子どもは学校生活に,再婚家庭は対人関係について影響を受けており,男児より女児の方が深刻であるという。

2ジョン・ジンヨン(1993)

父子・母子・祖父母家庭の児童期と

青少年期の子 109名量的・質的研究(実態調査)

担任教師の視点から両親の離婚を経験した子どもが抱える問題について分析した。両親の離婚を経験した子どもは学習などの学校適応において苦しんでおり,円満な対人関係を作るにあたって問題を抱えており,情緒的に不安定な様子を見せているという。また,こういった問題は,高校生より小学生の方が多く見られたと指摘した。

3イ・ジョンスク(1994)

両親の離婚を経験した成人期 5名文献・質的研究

(先行研究の検討・事例調査)

両親の離婚を経験した子どもは,養育権と親権問題,面会交流問題,異性関係と親からの愛に関する問題を抱えており,その克服方法として親と子どものできることがそれぞれにあると指摘した。具体的に,親は再婚をする際により慎重になるべきであり,子どもに離婚の理由を説明すること,親権者の決定に子どもの意見を反映することを指摘した。子どもは両親の離婚を両親の問題として認識すること,自分の人生に一般化させないことが重要であるという。

4キム・オク,イ・ウァンジョン(2001)

母子・父子・再婚家庭の児童期の子 79名量的研究

(頻度分析,t 検定,要因分析,f 検定,

Duncan 法)

子どもの性別,離婚の経過期間,再婚の有無という変数を投入し,両親の離婚が子どもに与える影響を分析した。その結果,女児より男児が,離婚後の経過期間として 2年未満グループより 2年以上のグループが,再婚家庭の子どもより父子家庭の子どもが,それぞれ友達関係による問題を抱えることが把握できた。

5ホン・スンヘ,キム・ウンヨン(2005)

両親・ひとり親家庭の青少年期の子

1,042名量的研究(t 検定)

両親の葛藤が子どもの心理・社会的適応(社会的・全般的・家族自我尊重感,不安・憂鬱,攻撃性,社会的萎縮)に与える影響を分析した。その結果,高葛藤の両親家庭の子どもとひとり親家庭の子どもの間では,統計的な有意差が見られなかったが,低葛藤の両親家庭の子どもに比べれば,全般的・家族自我尊重感は低く,不安・憂鬱,攻撃性,社会的萎縮が高いことが把握できた。

出典:姜(2013 b)より引用(一部修正)

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題166

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[表 5]から分かるように,ここに該当する 5本の研究では,両親の離婚が子どもの

発達に与える影響について分析している。また,主な研究方法として量的研究(アンケ

ート調査)が用いられたため,両親の離婚が子どもに影響を与える上で,影響力を持つ

変数について指摘されている。詳細としては,両親の離婚を経験した子どもは両親が揃

っている子どもに比べ,不安や萎縮などの情緒的な苦労を始め,学校生活や対人関係,

異性問題などの問題を抱えているという(ホン・キム 2005;フォン 1980;ジョン

1993;イ 1994)。だが,ホン・キム(2005)によれば,両親の離婚経験がなくても,両

親の葛藤が激しい場合は,離婚を経験した子どもに準ずる悪影響があることが分かる。

そして,両親の離婚が子どもに与える影響に関わる有効な変数としては,現在の家族形

態や性別,現在の年齢,離婚の経過期間などが指摘された(フォン 1980;ジョン

1993;キム・イ 2001)。また,性別においては,フォン(1980)は男児より女児が,キ

ム・イ(2001)は女児より男児が,離婚の影響を強く受けると分析したことから,2つ

の結果が対立することが分かる。これに関しては再検証する必要があると言えるだろ

う。

3−2.両親の離婚を経験した子どもの適応に影響を与える因子分析に関する研究

35本の中で両親の離婚を経験した子どもの適応に影響を与える因子分析に関する研

究は 30本であり,それぞれの研究を,さらに 3つに分けることができる(姜 2013 b)。

それは,第一に,離婚を経験した子どもの適応に影響を与える補償因子の分析に関する

研究,第二に,離婚を経験した子どもの適応に影響を与えるリスク因子の分析に関する

研究,第三に,離婚を経験した子どもの適応に影響を与える因子間のプロセス分析に関

する研究である。そこで,ここではこの 3つの分類に従って検討をおこなう。予め断っ

ておきたいのは,各研究では従属変数として心理・社会的適応や学校適応,問題行動の

ように同様の用語を用いてはいるが,実際に使った測定尺度の違いなどによって,従属

変数を構成している因子が異なる場合があるということである。

3−2−(a).離婚を経験した子どもの適応に影響を与える補償因子の分析に関する研究

30本の中で離婚を経験した子どもの適応に影響を与える補償因子の分析に関する研

究は 15本であり,それぞれの研究概要を便宜上,研究対象や研究方法,研究内容に分

けて整理したものが[表 6]である。

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題 167

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表 6 韓国における離婚を経験した子どもの適応に影響を与える補償因子の分析に関する研究概要(発表年順)

研究者(発表年)

概要対象と方法 内容及び結果

心理・社会的的適応

1ジョン・ヒョンスク(1993)

父子・母子・再婚家庭の児童期・青少年期・成人期の子 158名

量的研究(線形判別分析,斜交回転,f 検定,階層的回帰分析)

離婚前における家族の心理・構造的な特徴,離婚後の構造的な特徴,個人的資源,家族の資源が子どもの適応に与える影響を分析したところ,離婚後の経過期間,自分で解決する方法,親権者との肯定的なコミュニケーション,面会交流,これらが多ければ多いほどよく適応すると指摘した。

2イ・ギョンウン,ジュ・ソヒ(2005)

ひとり親・祖父母家庭の児童期の子 402名

量的研究(記述統計,

t 検定回帰分析)

ひとり親家庭の子どもの心理適応に兄弟の有無,現在の年齢,分離不安,日常生活の変化が影響を与え,行動適応には分離不安,親子関係,教師・公的支持,日常生活の変化が影響を与えるという。また,祖父母家庭の子どもの心理適応には性別,離婚への説明の有無,自己非難,計画性,祖父母との関係,教師支持,日常生活の変化が影響を与えており,行動適応には離婚に対する説明有無,内的統制,教師支持,日常生活の変化が影響を与えると指摘した。

3ハン・ジュンア,パク・ギョンザ(2008)

父子・母子家庭の児童期の子 126名と

その養育者140名量的研究

(2要因の分散分析重回帰分析)

能力という自我知覚には肯定的対処方法の使用が多く,否定的対処方法と親の養育ストレスが低いほど向上するという。また,自我適切性という自我知覚は友達と教師からの支持が高く,肯定的対処方法の使用が多く,否定的対処方法が少ないほど向上するという。問題行動という自我知覚は親の養育ストレスが高く,友達からの支持が低いほど増加し,親の養育態度は自我知覚と問題行動に有意な影響を与えていないと指摘した。

4ソク・ソヒョン,シン・ソンヒ(2010)

両親・ひとり親家庭の児童期の子 692名

量的研究(x2検定,t 検定,共分散分析,

Pearson 相関関係,逐次重回帰分析)

自我尊重感に関して両親家庭の子どもは内的統制性や問題行動,学校成績,親子のコミュニケーションが,またひとり親家庭の子どもには社会的支持,家族強靭性,問題行動,学校成績,親子のコミュニケーションが,それぞれ影響を与えていると指摘した。また両集団とともに経済状態に対する子どもの知覚は自我尊重感に影響を与える因子ではなかったという。

学校適応

5ジャン・ドクヒ,フォン・ドンソプ(2010)

父子家庭の児童期の子105名量的研究(頻度分析,重回帰分析)

親子関係,家族からの支持,家族のコミュニケーション,家族凝集力が父子家庭の子どもの学校適応(学校への興味,規範遵守,学業成績)に与える影響を分析したところ,学校への興味に家族凝集力と家族コミュニケーションが,規範遵守と学業成績には家族凝集力が影響を与えることが把握できた。

6イ・スク,ジ・ソンレ(2010)

ひとり親家庭の児童期の子 165名量的研究

(Pearson 相関関係階層的重回帰分析)

子どもの学校適応(学校への興味,学業成績,規範遵守,友達関係)に個人因子と家族因子が及ぼす影響を分析した。その結果,自我尊重感と憂鬱という個人因子は学校への興味,学業成績,友達関係に影響を与え,男児より女児が学校の規範をよく守り,円満な友達関係を作ると報告した。また,学年が低いほど学校への興味,学校成績,規範遵守をよく守るという。愛情的養育態度という家族因子は,規範遵守と友達関係に肯定的な影響を与えるが,経済状態は学校適応に有意な影響を及ぼさないと指摘した。

7ナム・ヨンオク(2010)

両親・ひとり親家庭の児童期と青少年期の子

553名量的研究

(頻度分析,t 検定,記述統計,重回帰分析)

学校適応において,両親家庭とひとり親家庭の子どもの間には差異が見られなかったが,学校適応に心理・社会的特性が与える影響には差異があったという。具体的には,ひとり親家庭の子どもは仲間集団の親社会的特性や教師支持,自我尊重感,肯定的養育態度を,両親家庭の子どもは仲間集団の親社会的特性や教師支持,肯定的養育態度を高く認識するほど学校適応が向上すると指摘した。

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題168

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学校適応

8チェ・ソンミ,イ・ヨンスン(2011)

両親・ひとり親家庭の青少年期の子 418名

量的研究(t 検定,相関分析階層的回帰分析)

両親家庭とひとり親家庭の子どもの情緒及び自我の強さ,社会的支持,学校生活の適応において差異があるか検討したところ,ひとり親家庭の子どもは情緒や自我の強さ,社会的支持,学校生活の適応において低い水準であったという。また,ひとり親家庭の子どもの学校生活の適応には社会的支持や情緒が有効な影響を与えており,自我の強さは影響を与えていないと指摘した。

9

キム・ミンカン,イ・ヒヨン,チェ・テジン(2012)

両親・父子・母子家庭の児童期の子 531名

量的研究(t 検定,判別分析)

学校適応柔軟性(学校への興味,学習態度,規範遵守)と8つの補償因子(一般的・社会的自己効力感,対人関係技術,父・母の養育態度,家族・友達・教師支持)は正の関係にあると報告した。一般的自己効力感は家庭形態関係なく学校適応柔軟性に最大の影響を与える因子であるという。また,教師からの支持をみると,父子家庭の子どもは学校への興味に,母子家庭の子どもは学校への興味や学習態度,規範遵守に影響を与えるという。だが,親の養育態度はあまり影響力を持たないと指摘した。

問題行動

10

ユ・アンジン,イ・ジョムスク,ソ・ジュヒョン(2004)

両親・ひとり親家庭青少年期の子 356名

量的研究(記述統計,t 検定,

重回帰分析,3要因の分散分析)

両親家庭に比べてひとり親家庭の子どもが憂鬱や親の養育態度,友達関係を否定的に知覚すると指摘した。また,親の穏和的養育態度,親からの依存の少なさ,円満な友達関係がひとり親家庭の子どもの憂鬱を減少させる因子であるという。

11

イ・スンヒョン,イ・オクギョン,キム・ジヒョン(2005)

父子・母子家庭の児童期の子 101名

量的研究(pearson 相関関係頻度分析,判別分析)

ひとり親家庭の子どもの憂鬱は自己効力感及び仲間依存,親子の開放的なコミュニケーションと負の関係にあると指摘した。また,不安は,親子の開放的なコミュニケーション及び自己効力感と負の関係にあるが,仲間依存とは有意な関係にないという。

12シン・ソンヒ,イ・スク(2009)

ひとり親家庭の児童期の子 219名量的研究

(x2検定,t 検定,重回帰分析)

男児が女児より両親の離婚を否定的に知覚し,両親の離婚に対する知覚(遺棄不安,自己非難)に影響を及ぼす因子は性別によって違うと報告した。男児は,日常生活の変化のみが遺棄不安,自己非難と正の関係にあり,女児は,家族・友達支持が遺棄不安,自己非難と負の関係にあるという。また,日常生活の変化は遺棄不安,自己非難と正の関係に,経済状態の変化は遺棄不安と正の関係にあり,教師支持は有効な影響を及ぼさないと指摘した。

13キム・ソンア(2011)

両親・ひとり親家庭で児童期から青少年期に成長・発達した

2,316名量的研究

(頻度分析,記述統計,linear latent

growth model)

対外的攻撃性においてひとり親家庭の子どもは学年が高いほど増加するが,両親家庭の子どもは調査 4年次までは増加し,5年次からは変化がないことを指摘した。また,内面問題において両者とも,調査 3年次から変化が始まる傾向が見られたという。さらに,ひとり親家庭の子どもの対外的攻撃性には自我統制感と自我尊重感が,内面問題には自我尊重感と教師との関係が補償因子として作用すると指摘した。

14ジ・ソンレ,イ・スク(2012 a)

母子・父子家庭の児童期の子 266名

量的研究(Pearson 相関関係階層的回帰分析,重回帰分析,t 検定)

ひとり親家庭において女児より男児がストレスをより感じ,問題行動を引き起こすと報告した。また,男児は,ストレスと社会的支持の相互作用により,女児はストレスと自己調節能力の相互作用により問題行動を減らすことができると指摘した。

15ジ・ソンレ,イ・スク(2012 b)

母子・父子・祖父母家庭の児童期の子 310名

量的研究(x2検定,1要因の

分散分析,Pearson 相関関係,階層的重回帰分析)

現在の家庭形態による子どもの憂鬱に関しては有意な差異が見られないが,憂鬱に影響を与える因子が異なると指摘した。具体的に,母子家庭の子どもの憂鬱には離婚に対する知覚,養育態度,社会的支持,自己調節能力,主観的経済水準という順で,父子家庭の子どもには養育態度,自己調節能力という順で,祖父母家庭の子どもには養育態度,離婚に対する知覚という順で,それぞれ有効な影響を与えると指摘した。

出典:姜(2013 b)より引用(一部修正)

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題 169

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[表 6]から分かるように,離婚を経験した子どもの適応に影響を与える補償因子の

分析に関する研究は,各研究が取り上げた従属変数に従って大きく 3つに分かれる(心

理・社会的適応,学校適応,問題行動)。また,ここに該当する全ての研究が研究方法

として量的研究(アンケート調査)を採用しているため,研究結果は主に独立変数とし

ての補償因子と従属変数間の関係を表している。そこで,ここでは 3つの従属変数を中

心に,それぞれの従属変数に影響を与える補償因子としての独立変数(3−2−1,ここで

は補償因子という)についてまとめる。

第一に,心理・社会的適応という従属変数に有効な影響を与える補償因子についてで

ある。心理・社会的適応を従属変数とした研究は 4本で少ない状況にはあるが,その中

で 3本の研究が親友と教師からの支持の高さを有効な補償因子としている(ハン・パク

2008;イ・ジュ 2005;ソク・シン 2010)。次いで,親子間の肯定的なコミュニケーシ

ョンが 2本の研究によって明らかになっている(ジョン 1993;ソク・シン 2010)。ま

た,ジョン(1993)によって離婚経過の長さや面会交流の多さ,自分で問題を解決する

方法の多さが,ハン・パク(2008)によって肯定的な対処方法の多さと養育態度に対す

る親のストレスの低さが補償因子として指摘されている。親の養育態度は心理・社会的

適応に影響を与えないという(ハン・パク 2008)。

第二に,学校適応という従属変数に有効な影響を与える補償因子についてである。学

校適応に対する補償因子は,学校適応を構成する因子によって相違が見られるため,こ

こでは,因子ごとに,影響を与える補償因子について述べる。学校への興味には家族凝

集力の高さと家族コミュニケーションの多さ,教師からの支持の多さ(ジャン 2010;

キム・イ・チェ 2012)が,学校成績には家族凝集力と自我尊重感の高さ,憂鬱感の低

さ(ジャン 2010;イ・ジ 2010)が補償因子として作用している。また,規範厳守には

親の愛情的な養育態度と教師からの支持の多さ,自我尊重感の高さ,憂鬱感の低さ(キ

ム・イ・チェ 2012;イ・ジ 2010)が,友達関係には親の愛情的な養育態度の多さが,

それぞれ有効な補償因子であることが明らかになった(イ・ジ 2010)。なお,チェ・イ

(2011)とナム(2010)は,学校適応を構成する因子ごとに,補償因子を言及してはい

ないが,ひとり親家庭の子どもと両親家庭の子どもを比較し,学校適応に社会的支持の

多さが補償因子として働きかけていると指摘した。だが,学校適応における両グループ

間の差異がなかったという結果(ナム 2010)とひとり親家庭の子どもの方が低かった

という結果から(チェ・イ 2011),再検証を行う必要性がうかがえる。

第三に,問題行動という従属変数に有効な影響を与える補償因子についてである。問

題行動に対する補償因子は,前述した学校適応と同様に,問題行動を構成する因子によ

って異なるため,ここでは,因子ごとに,影響を与える補償因子について述べる。ま

ず,憂鬱の補償因子については,3本の研究が言及しているが,それぞれ異なる補償因

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題170

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子が指摘されている。具体的に,憂鬱の補償因子として,ユ・イ・イ(2004)は親の穏

和的養育態度の多さ,親からの依存の少なさ,円満な友達関係を,イ・イ・キム

(2005)は自己効力感と仲間依存の高さ,親子の開放的なコミュニケーションの多さを

指摘している。また,ジ・イ(2012 b)は憂鬱に有効な影響力を持つ補償因子は,家庭

形態によってその順位が異なるというが,その内容をみると,親の養育態度や離婚に対

する知覚,自己調節感が共通していることが分かる。次に,対外的な攻撃性には自己統

制性と自我尊重感の高さが,内的問題には自我尊重感と教師との関係の高さが(キム

2011),不安には親子の開放的なコミュニケーションと自己効力感の高さ(イ・イ・キ

ム 2005)が補償因子として働きかけているという。最後に,シン・イ(2009)とジ・

イ(2012 a)は女児より男児が両親の離婚を否定的に感じ,それによるストレスで問題

行動を引き起こしやすいなど,性別によって補償因子も異なるという。より詳細に,男

児の補償因子をみると,ストレスには社会的支持が(ジ・イ 2012 a),遺棄不安と自己

非難には日常生活の変化の少なさ(シン・イ 2009)がある。また,女児の補償因子を

みると,ストレスには自我尊重感の高さが(ジ・イ 2012 a),遺棄不安と自己非難には

家族と友達支持の多さ及び日常生活の変化の少なさ(シン・イ 2009)が補償因子とし

て作用している。そして,経済的変化の少なさという因子は遺棄不安にのみ,補償因子

として働きかけているという(シン・イ 2009)。

3−2−(b).離婚を経験した子どもの適応に影響を与えるリスク因子の分析に関する研究

30本の中で離婚を経験した子どもの適応に影響を与えるリスク因子の分析に関する

研究は 7本であり,それぞれの研究概要を便宜上,研究対象や研究方法,研究内容に分

けて整理したものが[表 7]である。

表 7 韓国における離婚を経験した子どもの適応に影響を与えるリスク因子の分析に関する研究概要(発表年順)

研究者(発表年)

概要対象と方法 内容及び結果

心理・社会的適応

1ホ・ミファ(2002)

対象者なし文献研究

(先行研究の検討)

両親の離婚を経験した子どもの心理・社会的適応を妨害するリスク因子として分離不安症の深化,離婚による親の罪悪感,子どもの否定的な自我概念,環境変化の多さ,遊び経験の不足,核家族のシステムを指摘した。

2ジュ・ソヒ(2003)

ひとり親家庭の児童期の子 260名量的研究

(記述統計,f 検定,Scheffe 法,回帰分析)

離婚に対する知覚(遺棄不安,自己批判)は離婚当時の子どもの年齢及び離婚説明の不在と正の関係にあり,両方,心理・行動適応に影響を与えるという。

問題行動

3

ミン・ミヒ,イ・スンヒョン,イ・オクギョン(2005)

両親・ひとり親家庭の乳児期・児童期の子

178名量的研究

(記述統計,t 検定,分散分析,Scheffe 法,逐次的回帰分析)

ひとり親家庭の子どもが両親家庭の子どもに比べて内的問題(萎縮,憂鬱・不安)の水準が高く,内的問題と年齢の関係はひとり親家庭の子どもに限って年齢が低いほど深刻であるという結果が見られた。また,内的問題への社会的支持(情緒的支持,評価的支持,情報的支持,物質的支持)の影響をみると,両親家庭の子どもには影響がないのに対してひとり親家庭の子どもの場合は情緒的支持への知覚が内的問題を減少させる補償因子として働きかけていると指摘した。

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題 171

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[表 7]から分かるように,離婚を経験した子どもの適応に影響を与えるリスク因子

の分析に関する研究は,各研究が取り上げた従属変数に従って大きく 2つに分かれる

(心理・社会的適応と問題行動)。また,ホ(2002)を除いた全ての研究が研究方法とし

て量的研究(アンケート結果)を採用しているため,研究結果は主に独立変数としての

リスク因子と従属変数間の関係について導出されている。そこで,ここでは 2つの従属

変数を中心に,それぞれの従属変数に影響を与えるリスク因子としての独立変数(3−2

−2,ここではリスク因子という)についてまとめる。

第一に,心理・社会的適応という従属変数に有効な影響を与えるリスク因子について

である。心理・社会的適応を従属変数としたものは 2本で非常に少ない状況にあるた

め,研究の結果間に関する論議はできないだろう。ここに該当する研究の結果をみる

と,ホ(2002)は,分離不安症の深化,離婚による親の罪悪感,子どもの否定的な自我

概念,環境変化の多さ,遊び経験の不足,核家族のシステムを,ジュ(2003)は,離婚

当時の子どもの年齢の高さ,離婚説明への不在をリスク因子として指摘した。また,ジ

ュ(2003)によって離婚に対する知覚と離婚当時の子どもの年齢及び離婚説明への不在

が正の関係にあることが把握できた。

第二に,問題行動という従属変数に有効な影響を与えるリスク因子についてである。

問題行動という従属変数の用語は,ここに該当する 5本の研究が取り上げた変数によっ

問題行動

4

イ・スンヒョン,イ・オクギョン,ミン・ミヒ(2006)

両親・ひとり親家庭の乳児期・児童期の子

154名量的研究

(逐次的重回帰分析記述統計,分散分析)

ひとり親家庭の子どもは両親家庭の子どもに比べて親の養育態度を否定的に知覚しているが,子どもの性別には有意な差異が見られなかった。また,問題行動(萎縮,憂鬱・不安,攻撃性)もひとり親家庭の子どもの方が高く見られ,ひとり親家庭の子どもを含めて親の養育態度を否定的に知覚する子どもほど,萎縮すると指摘した。

5ジョン・ジヨン,ハン・ユジン(2007)

両親・ひとり親家庭の児童期の子 165名

量的研究(記述統計,t 検定,階層的重回帰分析)

ひとり親家庭の子どもが両親家庭の子どもに比べて社会的支持について低く認識しており,否定的な問題解決方法をよく用い,それは問題行動の発生に影響を与えると報告した。とりわけ,教師からの支持を低く認識して敵意的な問題解決方法を頻用するひとり親家庭の子どもほど,より多くの問題行動が見られるという。

6ジュ・ソヒ(2008)

父子・母子・祖父母家庭の児童期の子 476名

量的研究(頻度分析,相関関係,

回帰分析)

リスク因子が多ければ多いほど,離婚を経験した子どもの問題行動は増加すると報告した。また,親戚からの支持の低さや離婚後にも続く両親の葛藤,学業成績の低さは問題行動を引き起こす主なリスク因子であるという。

7パク・ジンア(2010)

乳児期(3~5歳)の子どもを持った

母子家庭の親 147人量的研究

(頻度分析,t 検定,偏相関係数,重回帰分析)

母子家庭の子どもの対外的・内面的問題行動を引き起こすリスク因子を家庭環境因子と乳児因子,母親因子という側面から分析した。その結果,共通リスク因子として,乳児の気難しい気質,社会的支持の少なさ,離婚後の養育期間の短さ,面会交流の不実施,養育ストレスの高さ,統制的な養育態度が明らかになった。また,対外的問題行動に厳格的な養育態度が,内面問題行動には干渉的な養育態度と母親の憂鬱状態がリスク因子として作用するという。

出典:姜(2013 b)より引用(一部修正)

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題172

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て,3つに分かれる。具体的にはミン・イ・イ(2005)とパク(2010)が取り上げてい

る内的問題,ジョン・ハン(2007)とジュ(2008)とイ・イ・ミン(2006)が取り上

げている問題行動,パク(2010)が取り上げている対外的問題である。そこで,ここで

は 3つの従属変数の用語に従って,そこに影響を与えるリスク因子についてまとめる。

まず,内的問題のリスク因子として,子どもの年齢の低さ(ミン・イ・イ 2005)と母

親の憂鬱状態,干渉的な養育態度の多さが指摘されている(パク 2010)。次に,問題行

動のリスク因子として,養育態度に対する子どもの否定的な認識(イ・イ・ミン

2006),親の敵意的な問題解決方法の多さ及び教師支持に対する認識の低さ(ジョン・

ハン 2007),親戚からの支持と学業成績の低さ,離婚前後における両親の葛藤が明らか

になった(ジュ 2008)。最後に,対外的問題のリスク因子である。パク(2010)は厳格

的な養育態度の多さを対外的問題のリスク因子として指摘しながら,乳児の気難しい気

質,社会的支持の少なさ,離婚後の養育期間の短さ,面会交流の不実施,養育ストレス

の高さ,統制的な養育態度を対外的問題と内面問題の共通リスク因子として結果を出し

た。

また,両親家庭の子どもと比較研究を行った研究によって,両親家庭の子どもに比べ

てひとり親家庭の子どもの方が,内的問題を高く(ミン・イ・イ 2005),親の養育態度

を否定的に(イ・イ・ミン 2006),社会的支持を低く認識することが分かる(ジョン・

ハン 2007)。

3−2−(c).離婚を経験した子どもの適応に影響を与える因子間のプロセス分析に関する

研究

30本の中で離婚を経験した子どもの適応に影響を与える因子間のプロセス分析に関

する研究は 8本であり,それぞれの研究概要を便宜上,研究対象や研究方法,研究内容

に分けて整理したものが[表 8]である。

表 8 韓国における離婚を経験した子どもの適応に影響を与える因子間のプロセス分析に関する研究概要(発表年順)

研究者(発表年)

概要対象と方法 内容及び結果

心理・社会的適応

1オ・ウンスン(1998)

父子・母子家庭の児童期の子 204名とその養育者

204名量的研究

(共分散構造分析,t 検定,要因分析)

個人因子,Microsystem, Mesosystem, Exosystem という因子間の関係を分析した。その結果,子どもの適応に直接的な影響を与える因子としては親の適応や社会的支持,学校-家庭関係が強く,親の葛藤や離婚後の経過期間,年齢は弱く作用しているという。間接的に影響を与える因子としては社会・経済的地位が学校-家庭関係,親子関係を媒介として影響を及ぼすと報告した。また,親子関係は直接的な影響を与えないが,社会・経済的地位,親の葛藤,親の適応,学校-家庭関係,年齢という因子から影響を受け,子どもの適応に大きく作用する重要な因子であると指摘した。

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題 173

Page 18: 両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する 研究課題 · く適応する子どもの気質,問題中心的対処,離婚に対する子どもの知覚,レジリエンスが

心理・社会的適応

2ホン・スンヘ(2004)

両親・ひとり親家庭の子 1,042名量的研究

(t 検定,経路分析重回帰分析)

ひとり親家庭の子どもは両親家庭に比べて自我尊重感と学校成績が低く,社会的萎縮と攻撃性が高いと報告した(憂鬱には差異が見られなかった)。また,離婚の経験は心理・社会的適応(自我尊重感,学校成績,社会的萎縮,憂鬱・不安,攻撃性)に直接的に影響を与えずに,養育親の経済水準を媒介として影響を与え,離婚の経験に影響を受けた養育親の経済水準が,再度親の養育態度に影響を与えて最終的に心理・社会的適応に影響を及ぼすという。養育親の経済水準は全ての心理・社会的適応に,親密・合理的養育態度は自我尊重感,学校成績,社会的萎縮に,過剰的養育態度は自我尊重感に,過剰・統制・放任的養育態度は憂鬱・不安と攻撃性にそれぞれ影響を与えると指摘した。

3キム・スンギョン,カン・ムンヒ(2005)

父子・母子家庭の児童期の子 209名量的研究(経路分析)

レジリエンスに影響を及ぼす因子間のプロセスを分析した。その結果,直接的に影響を与える因子として,明るくて変化によく適応する子どもの気質,問題中心的対処,親・友達からの支持の高さ,離婚後の経過期間の長さ,兄弟・成人支持者・相談経験のあることが補償因子として,また,学年(年齢)の高さ,情緒中心的対処がリスク因子として作用するという。さらに,間接的に影響を与える因子をみると,社会・経済的地位の高さが明るくて変化によく適応する子どもの気質を,養育親の性別(どちらでも)は社会・経済的地位の高さ及び明るくて変化によく適応する子どもの気質と問題中心対処を,教師からの支持は問題・情緒中心的対処を媒介とする補償因子として作用し,また,子どもの性別(女児の場合)は情緒中心的対処を媒介としたリスク因子として作用すると指摘した。

4シン・ソンヒ(2010)

父子・母子・祖父母家庭の児童期の子

219名量的研究

(要因分析,相関関係,

経路分析)

家族の回復力因子と個人の回復力因子が,子どもの適応に与える影響とプロセスを分析したところ,自我尊重感と離婚に対する知覚は子どもの適応に直接的な影響を与えると報告した。また,自我尊重感は家族のコミュニケーションや社会的支持,家族強靭性(Family hardiness)の媒介因子として,離婚に対する知覚は家族のコミュニケーションや内的統制信念(internalcontrol)の媒介因子として作用するという。

学校適応

5ソク・ジュヨン,パク・インジョン(2009)

両親・母子家庭の児童期の子 206名

量的研究(頻度分析,相関関係,

経路分析)

貧困の子どもの仲間依存(コミュニケーション,信頼,疎外)及びレジリエンスが仲間関係(情緒的支持,協同活動,共感的協同)に及ぼす影響を,家庭形態の視点から分析した。その結果,家庭形態に関係なく,コミュニケーションと信頼はレジリエンスと正の関係にあり,レジリエンスは情緒的支持,協同活動,交換的協同と正の関係にあるという。また,両親家庭の子どもに限って疎外はレジリエンスと負の関係をみせており,ひとり親家庭の子どもにおいて関係性が見られなかった。また,家庭形態に関係なく,レジリエンスは直接に情緒的支持に影響を与えつつ,コミュニケーションと信頼の媒介としても作用しており,ひとり親家庭の子どもに限って直接に交換的協同に影響を与え,また信頼の媒介として交換的協同に影響を及ぼすという。

問題行動

6ジュ・ソヒ,ゾ・ソンウ(2004)

父子・母子・祖父母家庭の児童期の子

261名量的研究

(構造方程式モデル,確認的要因分析,経路分析,

探索的要因分析)

行動適応問題(攻撃性,非行)に親の葛藤や親の拒否的な養育態度,離婚に対する子どもの知覚(遺棄不安,自己不安)が与える影響を分析した。その結果,離婚に対する子どもの知覚が攻撃性と非行へ直接的に,親の葛藤は離婚に対する子どもの知覚と親の拒否的養育態度に,また親の養育態度は離婚に対する子どもの知覚を媒介して間接的にそれぞれ影響を与えるという。

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題174

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[表 8]から分かるように,離婚を経験した子どもの適応に影響を与える因子間のプ

ロセス分析に関する研究は,各研究が取り上げた従属変数に従って大きく 3つに分かれ

る(心理・社会的適応,学校適応,問題行動)。また,ここに該当する全ての研究が研

究方法として量的研究(アンケート結果)を採用しており,因子間のプロセス分析に焦

点を当てているため,研究結果は主に独立変数(3−2−3,ここでは因子という)の究明

と因子の有効性について見出している。具体的にいうと,従属変数に影響を与える因子

が,直接的に影響を与えるのか,あるいは他の変数を媒介して間接的に影響を与えるの

か,他の変数を媒介するとすれば,その変数は何かなどを結果として導出しているとい

うことである。そこで,ここでは 3つの従属変数を中心に,それぞれの従属変数に影響

を与える因子を,直接的に影響を与える因子,間接的に影響を与える因子,媒介因子に

分けてまとめる。

第一に,心理・社会的適応という従属変数に関して直接的に影響を与える因子,間接

的に影響を与える因子,媒介因子についてである。まず,直接的に影響を与える因子と

しては,子どもの年齢や離婚後の経過期間,親・友達及び兄弟・成人からの支持などの

社会的支持(キム・カン 2005;オ 1998),明るくて変化によく適応する子どもの気質と

問題中心的対処(キム・カン 2005),親の適応,親の葛藤(オ 1998),養育親の経済水

準(ホン 2004),自我尊重感と離婚に対する知覚(シン 2010)がある。次に,間接的に

影響を与える因子としては,経済・社会的地位(キム・カン 2005;オ 1998;シン

2010)と離婚の経験(ホン 2004),家族のコミュニケーションと家族強靭性,内的統制

信念が指摘されている。最後に,媒介因子である。オ(1998)は,直接的な影響力は有

さないものの,親の適応や経済・社会的地位,学校-家庭,親の葛藤,子どもの年齢か

ら影響をうけ,最終的に心理・社会的適応に強力な影響を与える媒介因子として,親子

関係を明らかにした。また,ホン(2004)は,親の養育態度が養育親の経済水準の媒介

問題行動

7ソン・ビョンドク(2009)

両親・ひとり親・再婚家庭の児童期の子

1,159名量的研究

(頻度分析,t 検定,重回帰分析,経路分析)

両親家庭と離婚を経験した子どもにおける攻撃性・萎縮行動に心理的不安や虐待経験,友達からの支持,宗教活動が与える影響と因子間の関係を分析した。その結果,どの集団においても心理的不安は攻撃行動に直接的な影響を与え,攻撃行動は萎縮行動を増加させると報告した。また,虐待経験は心理的不安を媒介として,友達からの支持は両親家庭の子どもに限って心理的不安を媒介として攻撃行動に影響を与えるという。宗教活動は離婚を経験した子どもにのみ,友達からの支持に有効な影響を与えることが把握できた。

8

フォン・ヘジョン,チョン・ヒヨン,オク・ギョンヒ(2010)

両親・ひとり親家庭の児童期の子 356名とその担任教師量的研究

(共分散分析,経路分析)

両親家庭に比べてひとり親家庭の子どもに,低い自我尊重感,養育態度に対する否定的な知覚,高い攻撃性が見られたと報告した。また,離婚の経験が攻撃性に直接的な影響を与えつつ,親の養育態度や自我尊重感を媒介とした間接的な影響も与えているという。ただし,離婚の経験から影響を受けた親の養育態度が攻撃性に影響を与えるわけではなく,再度自我尊重感を媒介として攻撃性に繋がると指摘した。

出典:姜(2013 b)より引用(一部修正)

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題 175

Page 20: 両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する 研究課題 · く適応する子どもの気質,問題中心的対処,離婚に対する子どもの知覚,レジリエンスが

因子として存在し,最終的に心理・社会的適応に影響を与えるという。キム・カン

(2005)は,直接的な影響力をもつ因子である明るくて変化によく適応する子どもの気

質と問題中心的対処は,それぞれ社会・経済的地位と教師からの支持の媒介因子として

働きかけていると指摘している。シン(2010)は,自我尊重感と離婚に対する子どもの

知覚は直接的な影響力を有するのみならず,家族コミュニケーションと家族と家族強靭

性,内的統制信念の媒介因子としても作用するという。

第二に,学校適応という従属変数に関して直接的に影響を与える因子,間接的に影響

を与える因子,媒介因子についてである。学校適応を従属変数としたものは 1本しかな

いため,研究の結果間の論議はできない。ソク・パク(2009)によると,レジリエンス

が直接的に影響を与える因子でありながら,間接的に影響を与えるコミュニケーション

と信頼の媒介因子としても存在するという。

第三に,問題行動という従属変数に関して直接的に影響を与える因子,間接的に影響

を与える因子,媒介因子についてである。まず,直接的に影響を与える因子として,ジ

ュ・ゾ(2004)が離婚に対する子どもの知覚を,ソン(2009)が心理的不安を,フォ

ン・チョン・オク(2010)が離婚の経験を明らかにした。次に,間接的に影響を与える

因子としては,親の否定的な養育態度(フォン・チョン・オク 2010;ジュ・ゾ 2004),

夫婦の葛藤(ジュ・ゾ 2004),虐待経験(ソン 2009),離婚の経験と自我尊重感(フォ

ン・チョン・オク 2010)がある。媒介因子についてである。ジュ・ゾ(2004)による

と,離婚に対する知覚が直接的に影響を与えつつ,夫婦葛藤と親の否定的な養育態度の

媒介因子として作用するという。また,親の養育態度は夫婦葛藤(ジュ・ゾ 2004)と

離婚の経験(フォン・チョン・オク 2010)から影響を受けて,従属変数に影響を与え

る媒介因子である。自我尊重感は離婚の経験と親の養育態度の媒介因子として措定され

(フォン・チョン・オク 2010),心理的不安は虐待経験の媒介因子として働きかけてい

るという。

両親家庭の子どもとの比較視点に基づいた研究結果によれば,両親家庭の子どもに比

べてひとり親家庭の子どもは,自我尊重感の低さと攻撃性の高さを有し(ホン 2004;

フォン・チョン・オク 2010),学業成績の低さと社会的萎縮が見られる(ホン 2004)。

また,親の養育態度も否定的に知覚している(フォン・チョン・オク 2010)。

4.おわりに

4−1.考察

これまで,日韓における両親の離婚が子どもに与える影響に関する先行研究を分析し

てきた。ここではその結果に基づき,考察をおこなう。日本と韓国に分けて考察した上

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題176

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で,両国から得られる示唆に焦点を当てて今後の課題について提示したい。

4−1−(a).日本における先行研究から得られる示唆

日本における先行研究を,まず研究内容に従って大きく両親の離婚が子どもの発達に

与える影響に関する研究と両親の離婚に対する子どもの思いに関する研究に分けた上

で,分析をおこなった。

その結果,子どもは離婚だけではなく,離婚の前後において直面する出来事によって

否定的(内面・外面)及び肯定的な影響をうけることが明らかになった。また,子ども

は,直面する出来事とそれによる影響で混乱しながらも,それを乗り越えようとしてい

ることも指摘できた。それを,以下の[図 1]に示した。

[図 1]は,先行研究を分析し,その結果をまとめたものである。より具体的にいう

と,両親の離婚は,離婚紛争という出来事だけを意味しているのではなく,離婚前にお

ける両親の持続的な葛藤の結果であり,離婚後における両親の葛藤,転居,転校,面会

交流,遊びの不在,経済的な苦痛・苦労,親の再婚などの出来事をもたらす原因にもな

るとのことである。また,こういった出来事は寂しさ,苦しさ,悲しみ,怒り,恨みな

どの内面的問題と攻撃性,依存性,異性問題,学業問題などの外面的問題に繋がり,離

婚の理由によっては肯定的な影響をまねく場合もある。

このような状況の中で,多くの子どもは混乱しながら,両親の葛藤及び離婚が理解で

きず,自分のせいで両親が離婚するのではないか,これから自分はどうなるのか,自分

はどのような行動をとれば良いかなどについて悩んでいる。そして,離婚によって置か

出典:姜(2013 a)より引用(一部修正)図 1 子どもが両親の離婚によって直面する出来事及び受ける影響と思い

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題 177

Page 22: 両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する 研究課題 · く適応する子どもの気質,問題中心的対処,離婚に対する子どもの知覚,レジリエンスが

れた環境・状況を克服しようとしている。

このことから,第一に,子どもは離婚によって否定的な影響を受け,否定的な影響を

まねく出来事としては離婚紛争のみならず,離婚前後において多くの出来事が存在して

いること,第二に,子どもは離婚前後における出来事によって否定的な影響を受けたり

混乱したりしているが,その環境にそのまま順応する受動的存在ではなく,それを乗り

越えようとする能動的存在ということがいえるのではないだろうか。つまり,離婚を経

験した子どもを理解する上で,彼・彼女らがこれまでどのような出来事を経験してきた

のかを十分に考慮すべきであり,支援の提供にあたっても彼・彼女らを「支援をうける

受動的存在」ではなく「変化を願い,現在の状況を克服しようとする能動的存在」とし

て認識し,アプローチすべきであるということが示唆されたと考えられる。

4−1−(b).韓国における先行研究から得られる示唆

韓国における先行研究をまず,研究内容に従って大きく両親の離婚が子どもの発達に

与える影響に関する研究と両親の離婚を経験した子どもの適応に影響を与える因子分析

に関する研究に分けた。また,後者に該当する研究をその着眼点に従って,離婚を経験

した子どもの適応に影響を与える補償因子の分析に関する研究,離婚を経験した子ども

の適応に影響を与えるリスク因子の分析に関する研究,離婚を経験した子どもの適応に

影響を与える因子間のプロセス分析に関する研究に再分類して分析をおこなった。その

結果,心理・社会的適応や学校適応,問題行動という従属変数に強力な影響を与える因

子として以下のようなものが明らかになった。それは主に離婚を経験した子どもの適応

に影響を与える因子間のプロセス分析に関する研究の検討結果に基づくことを予め断っ

ておく。その理由は,ここに該当する 8本の主な分析方法は経路分析と共分散構造分

析,構造方程式モデルを採用している一方,それ以外の研究は因子間における相互影響

力の未確認と測定誤差の未反映という限界をもつ回帰分析と判別分析,要因分析を主に

採用していることによる(ジュ・ゾ 2004;イ・イム 2011)。

それぞれの従属変数に最も強力な影響力をもつ因子として,心理・社会的適応に自我

尊重感,明るくて変化によく適応する子どもの気質と問題中心的対処,離婚に対する子

どもの知覚が,学校適応にレジリエンスが,問題行動には離婚に対する子どもの知覚と

心理的な不安があげられる。それは,こういった因子がそれぞれの従属変数に直接に影

響を与えつつ,他の因子から影響をうけて最終的に,従属変数に影響を与える媒介因子

としても作用していることによる。ここで注目すべきところは,どのようなものが上記

の因子に影響を与えているのかという点である。言い換えれば,未だに,最も強力な因

子である自我尊重感と明るくて変化によく適応する子どもの気質と問題中心的対処,離

婚に対する子どもの知覚,レジリエンスに影響を及ぼす「先行因子」は,明らかになっ

ていないことであり,それは離婚を経験した子どもを対象とした研究を進める上で,解

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題178

Page 23: 両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する 研究課題 · く適応する子どもの気質,問題中心的対処,離婚に対する子どもの知覚,レジリエンスが

き明かす必要があるものと考えられる。

4−1−(c).両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題について

両国における先行研究の検討を通して得られた示唆点に基づき,これから離婚を経験

した子どもを対象とした研究を進めるにあたって次のような研究課題が考えられる。

まず,離婚を経験した子どもの心理・社会的適応,学校適応,問題行動に最も強力な

影響を与えている因子の先行因子として,離婚の前後における多様な出来事といった社

会的状況の設定である。その裏付けは,韓国における先行研究の検討にて自我尊重感と

明るくて変化によく適応する子どもの気質,問題中心的対処,離婚に対する子どもの知

覚,レジリエンスが最も強力な因子として明らかになった一方,それらに影響を与える

先行因子の検証はされていないことが指摘されたことと,日本における先行研究の検討

にて離婚を経験した子どもは両親の葛藤,離婚紛争,転居,転校,面会交流,遊びの不

在,経済的な苦痛・苦労,親の再婚などの多様な出来事に直面することが指摘されたこ

とにある。つまり,離婚の前後における多様な出来事といった社会的状況を先行因子と

して独立変数に,自我尊重感と明るくて変化によく適応する子どもの気質,問題中心的

対処,離婚に対する子どもの知覚,レジリエンスを従属変数に設定した研究を進める必

要があるということである。

次に,離婚を経験した子どもを対象とした支援の実態調査である。研究背景で簡単に

述べたように,両国においては離婚を経験した子どもを念頭においた社会的動きがみら

れる。しかし,厚生労働省(2012)の「ひとり親家庭の支援について」によると,面会

交流と養育費などが法的に子どもの権利として認められたのは 2011年と比較的に近年

である。また,ひとり親家庭に関する支援の中でも離婚を経験した子どもに焦点を当て

たものは十分ではないことが指摘されていることから(姜 2013 a),離婚を経験した子

どもを対象とした支援の実態調査の必要性を訴えることができるだろう。また,日本に

比べ,子どもの権利として面会交流と養育費の認定が早かった韓国であるが(2007年 12

月に民法改正),離婚を経験した子どもの支援先は不足している。より具体的に,離婚

を経験した子どもに対する支援先として,通所施設は健康家庭支援センターとひとり親

家族福祉相談所,ひとり親家族支援センターがあげられる(大部分の離婚を経験した子

どもは入所施設ではなく,地域に住んでいるため,入所施設については論外にする)。

全国に 151ヶ所ある健康家庭支援センターは少ない運営費でひとり親家庭を含んだ全て

の家庭を支援対象としており,ひとり親家族相談所は全国に 3ヶ所しかない(女性家族

部 2013 a ; 2013 b)。また,ひとり親家族支援センターは公による事業と NGO による事

業に分かれるが,公の事業として行われるところは 6ヶ所に過ぎず,それすらソウル市

による事業で,自治体レベルにとどまっている現状である。つまり,離婚を対象とした

子どもに対する関心が高まるとともに,彼・彼女らに対する支援の整備への声も広まっ

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題 179

Page 24: 両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する 研究課題 · く適応する子どもの気質,問題中心的対処,離婚に対する子どもの知覚,レジリエンスが

ているものの,実際に支援がどれほど行われているのかは疑問である。そこで,こうい

った点に焦点をあてた研究を進める必要があると考えられる。

4−2.研究のまとめと課題

これまで,本研究の目的である両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究の今後

の課題の提示を日韓の先行研究に焦点をあてて分析してきた。分析をおこなった研究は

日本が 15本,韓国が 35であった。その内容をまとめた後,本研究がもつ課題について

述べる。

第一に,分析結果として,まず,日本の研究から離婚のみならず,離婚の前後におい

て,子どもが直面する様々な出来事が否定的及び肯定的な影響をもたらすことが明らか

になった。また,子どもは,直面する出来事とそれによる影響で混乱しながらも,それ

を克服しようとしていることが分かった。次いで,韓国の研究から従属変数である心

理・社会的適応には自我尊重感と明るくて変化によく適応する子どもの気質と問題中心

的対処,離婚に対する子どもの知覚が,また,学校適応にはレジリエンスが,問題行動

には離婚に対する子どもの知覚と心理的な不安が最も強力な影響力をもつ因子であるこ

とが明らかになった。

第二に,上記した結果から得られた示唆として,まず,日本からは,離婚を経験した

子どもを理解する上で,彼・彼女らがこれまでどのような出来事を経験してきたのかを

十分に考慮すべきであり,支援の提供にあたっても彼・彼女らを「支援をうける受動的

存在」ではなく「変化を願い,現在の状況を克服しようとする能動的存在」として認識

し,アプローチすべきであるということが示唆された。次いで,韓国からは最も強力な

因子として自我尊重感と明るくて変化によく適応する子どもの気質,問題中心的対処,

離婚に対する子どもの知覚,レジリエンスが明らかになった。だが,それらに影響を及

ぼす「先行因子」は,未だに究明されていないため,それに着眼した研究の必要性が示

唆された。最後に,日韓の示唆から両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究の今

後の課題として以下の 2点を提示した。一つ目は,離婚を経験した子どもの自我尊重感

と明るくて変化によく適応する子どもの気質,問題中心的対処,離婚に対する子どもの

知覚,レジリエンスに影響を与える先行因子として,離婚の前後における多様な出来事

といった社会的状況を設定した研究,二つ目は,離婚を経験した子どもを対象とした支

援の実態調査に関する研究である。

第三に,本研究がもつ課題についてである。本研究は,日韓における両親の離婚を経

験した子どもを巡る社会的状況,対策の動き,学術研究の結果の類似点と両国における

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究の課題として,日本が量的研究の必要性

を,韓国が質的研究の必要性を指摘されたことに着眼して分析してきた。だが,両国間

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題180

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の経済的,社会的,文化的な相違は確実に存在しており,ひとり親家庭及び離婚に対す

る認識(偏見など)も違うため,今後はこういった側面を考慮した研究が必要であろ

う。

注⑴ 本研究でのひとり親世帯の定義として,日本は,父か母かのない児童(満 20歳未満の子どもであって,未婚のもの)が親のひとりによって養育される世帯であり(母子及び寡婦福祉法),韓国は,父か母かのない児童(満 20歳未満の子どもであって,就学中の場合は 22歳未満)が親のひとりによって養育される世帯である(ひとり親家族支援法)。また,ここで示した数値は,子どものいる世帯のうちひとり親世帯の割合で,上記した定義に従って計算したものではない。それは,調査報告書によって子どもの年齢が違ったりすることによる。そこで,日本の統計は,厚生労働省(2013)が出した「国民生活基礎調査」を,韓国の統計は,統計庁(2012)の「ひとり親世帯の比率」から引用,計算した。

⑵ 本研究で検討する全 50本(日韓を合わせた本数)の学術論文の中で,2000年代以前に 7本が,2000

年から 43本がなされた。⑶ 日本が 15本の中で文献研究 5本,質的研究が 7本,量的研究が 2本,量的・質的研究が 1本である一方,韓国は 35本の中で量的研究が 32本,量的・文献研究が 1本,質的・文献研究が 1本,文献研究が 1本である。

⑷ 従来,日本社会においてはラベリング論的視点からひとり親家庭にアプローチした研究が存在し,ひとり親家庭を欠損家庭という用語で表したことがある。だが,現在は,欠損家庭という用語は差別用語として認識され,使われていない。

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両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題 181

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(特集家事事件における子どもの地位「子ども代理人」を考える)」『自由と正義』61(4),49−54.

野田愛子(1998)「親の離婚の子どもに及ぼす長期的影響」『ケース研究』256, 2−14.

野口康彦(2006 a)「親の離婚が子どもの精神発達に及ぼす心理的影響の一考察-スクールカウンセラーの立場から」『中央学術研究所紀要』35, 80−89.

野口康彦(2006 b)「親の離婚が子どもの精神発達に及ぼす心理的影響に関する一考察-日本における離婚の統計資料の分析から」『法政大学大学院紀要』57, 79−87.

野口康彦(2007)「親の離婚が子どもの精神発達に及ぼす心理的影響に関する考察-文献研究を中心に」『静岡英和学院大学紀要』(5),135−148.

野口康彦(2009)「親の離婚を経験した大学生の将来に対する否定的な期待に関する一検討-親の仲の良い群,親の仲の悪い群,親の離婚群との比較から」『中央学術研究所紀要』(38),152−162.

野口康彦・櫻井しのぶ(2009)「親の離婚を経験した子どもの精神発達に関する質的研究:親密性への怖れを中心に」『三重看護学誌』11, 9−17.

野口康彦(2012)「親の離婚を経験した大学生の抑うつに関する一検討」『茨城大学人文学部紀要.人文コミュニケーション学科論集』(12),171−178.

小田切紀子(2005)「離婚家庭の子どもに関する心理学的研究」『応用社会学研究』15, 21−37.

小田切紀子(2011)「親が離婚した(特集子どもの悲しみを支える)(子どもの悲しみへの理解とかかわり)」『児童心理』65(17),1485−1489.

真田壯士郎(2003)「親の離婚と,子どもの心-親権者指定のモラルの確立を期待して(特集モラルの崩壊と立て直し)」『教育と医学』51(5),474−480.

棚瀬一代(2004)「離婚の子どもに与える影響-事例分析を通して」『現代社会研究』6, 19−37.

【海外文献】

両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題182

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両親の離婚が子どもに及ぼす影響に関する研究課題184

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The study is to suggest study project about the influence of parents’ divorce on children ; itfocused on implicates of Korean and Japanese studies. Analyzed literatur- es are 15 Japanesevolumes 35 Korean volumes. As a result, first, it was found from Japanese literatures thatchildren are influenced by not only the divorce, but also the events after and before the divorce,and though they are confused in such situation, they try to overcome the situation. In the Koreanliteratures, though children’s psychological・ social adaptation, school adaptation, brighttemperament to adapt to changes, self-worth about problematic behaviors, problem-focusedcoping, recognition about divorce, and resilience are acting as strong factors, the precedingfactors of them are not established. From such result, it was implied that the events childrenexperienced need to be considered to understand the children who experienced parents’ divorce,and they need to be recognized as active beings to provide sources. The necessity of study toestablish the preceding factors of influencing factors on psych- ological・social and schooladaptation, and problematic behaviors is implied also. That is, this study suggested the study,which set events before and after the divorce as preceding factors of bright temperament to adaptto changes, self-worth, problem-f- ocused coping, temperament about divorce and resilience ofchildren, who experienced parents’ divorce, as a study project about influence of parents’ divorceon children.

Key words : Parents, Divorce, Children, Influence

Study of Influence of Parents’ Divorce on Children :

Based on Implications Acquired from Japanese and Korean Studies

Minho Kang

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