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学部共通科目 「科学と人間」 第1セッション 優生思想:自分の中の差別意識 第一回総括

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Page 1: 学部共通科目 「科学と人間」 第10回 「優生思想の歴史と生物学」 · 質問で、「明確な答えはない」という答えだっ たが、それは当然だ。なぜなら、どこからが人

学部共通科目

「科学と人間」 第1セッション 優生思想:自分の中の差別意識

第一回総括

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今日の予定

1.4回の授業の復習

'小テストの解答はウェブで(

2.パネルディスカッション

3.第一セッション復習小テスト

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といいつつ、小テストについて

• 今回の小テスト、自宅でしっかり復習してからやるからみんな満点かと思いきや、

平均正解率79%。

• 問5「新優生学について」の正解率

• 問8「優生保護法では親の遺伝的異常を理由にした中絶を認めていた」の正解率

60%

49%

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1.4回の授業の復習

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【授業の目的】 • 現代社会において科学技術と付き合っていくために必要な、多面的な思考方法を学ぶ。

=メタ思考'「正しい」とされていることが本当に正しいかどうかを検証する能力(。

【授業の目標】 • この授業では,情報リテラシーを身につけることを目標とします.

• また,「日本語で論理的文章を書く能力」の基礎を身につけることを目標とします.

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授業のウェブサイトを活用しているか?

46%

48%

6%

1 2 3

1. 毎回かならずウェブで復習している。

2. 今回は自宅小テストがあったので、今回に限りウェブを見た。

3. いまだに一度も見ていない。

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第一セッションの復習

• 優生学とナチスの犯罪'今井(

• 「優生学=ナチス」か?'今井(

• 遺伝子操作と生殖補助技術'渡部(

• 第二次大戦後の優生学の展開'山口(

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ナチスと優生思想

• 消極的優生学'Negative Eugenics(と積極的優生学'Positive Eugenics(。

• ナチスは「ドイツ民族の改良」のために抑制的優生学に加えて、積極的な優生学を実践した。

–消極的優生学:精神病患者・同性愛者・ユダヤ人の虐殺。

–積極的優生学:ナチス親衛隊「レーベンス・ボルン'命の泉協会(」の活動など。

⇒ナチスの政策は、アメリカ・カリフォルニア州の優生法を参考にしていた。

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なぜ優生学は「正しい」思想だ

と考えられたか?

遺伝病、遺伝的精神病が減れば、

• 社会保障費が減少する。

• 各種産業の生産性があがる。

• 軍隊も優秀になる。

=社会・国家全体の観点から見ると、大きな利益が得られる。

・・・実は、今でもこういう考え方の人は多いのでは?

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遺伝子操作と生殖補助技術

生殖補助医療と

出生前診断・遺伝子改造

• 一般の親が、遺伝子検査をして「ダウン症」などの有無を調べる。

• 遺伝病を持っている親が、胚の遺伝子検査をして選別する。

• 病気の子供を救うために、胚の遺伝子検査をして、遺伝子型が適合する子供を産む。

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誤解を訂正

• 体細胞や生殖細胞についての話の受精卵について、どこからをヒトとして見るのか、という質問で、「明確な答えはない」という答えだったが、それは当然だ。なぜなら、どこからが人

か、というのは個人の解釈によって異なってくるからである。

⇒どこからが人かが法律によって異なると言ったのであって、個人が勝手に決めてよいわけがありません。

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補足:自然と人為

• 弟や妹が移植が必要な病気を抱えている場合、兄や姉は救世主兄弟となる可能性があります。その場合、最初から救世主兄弟として生まれてきたわけではありません。この差はどう説明されるのでしょうか。

⇒問題は、胚を選別する意志的な行為の倫理性です。

• 倫理とは可能な行為の中でよい行為、悪い行為を区別しようとするもので、偶然の事象については倫理を論じる意味がありません。

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第二次大戦後における

優生学の展開

日本における「優生学」:優生保護法

• 遺伝病やハンセン病の人に対して強制的な断種を可能とする法律。

• 人工妊娠中絶の要件を定めた法律でもあっ

たため、1996年まで廃止されなかった。

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らい予防法

• ハンセン病の患者を療養所に隔離することを定めた法律。

• 療養所は日本のアウシュビッツなどと言われることもある。

• 1996年に法律が廃止されたが、療養所は現在も存続している。

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「優生学」の流れ

• 戦前:「優生学」の誕生と流布。

–社会や国家全体の利益のために個人の遺伝的素質を改善する。

• 戦後:強権的側面の否定。「修正優生学」 –社会・国家中心的発想からの遺伝的改善という思想は残る。

• 1970年ごろ:優生学は「悪の思想」に。

• 1990年代以降:「新優生学」の台頭。

–個人主義的。分子生物学を背景に。

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問題提起

• 自分自身でなく子供の遺伝子を改造することについて、どう考えるか。

• 病気の子供に組織や臓器を提供するためにきょうだいを産むことについてどう考えるか。

⇒どのような社会が人間にとってよい社会'正しい社会(なのか。

• 社会的な事柄について「人それぞれ」ではありえない。

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今回の「メールでコメント」は、

1(「子供を改造したい」「他人がやるのは止められない」「社会的に禁止すべきだ」と答えた

理由・根拠を書く。

2(先週の、「骨髄移植のドナーになるためにDちゃんを生んだ」話について、考えたことを書く。

いずれにせよ、反対意見を考慮して、自分の意見を根拠を示しながら書いてください。

⇒みんな「自分の意見」を言いっぱなしで、反対意見を考慮している人がほとんどいなかった。

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パネルディスカッション

講義担当者の相互コメント

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渡部先生から今井先生へコメント

• 今井先生へ:ナチ・ドイツにおいて、消極的優生政策が「強制断種」から「安楽死」へエスカレートしたのはなぜでしょうか?

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今井先生⇒渡部先生

• 授業では、強制断種から安楽死へと、あたかも一続きのできごとのように語った。たしかにナチの幹部たちの意識の中では一続きのことであっただろう。

• しかし、1939年9月1日,ドイツ軍がポーランドに侵

攻したまさにその日,断種手術は原則的に中止された。また,時同じくしてヒトラーは「安楽死計画」の実行を命じている。

=つまり戦争の開始とともに一種の政策転換が行われたとみることができる。

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• 優生学者たちの多くは,実は「安楽死」には反対の立場をとっていた。

–彼らは「淘汰」というものを,生命個体が成長した段階ではなく,その出生前に行うことこそ優生学の課題と考えていた。

• つまり優生学とは「低価値者」とされた人々が

生まれないようにするために,遺伝の仕組みを解明しようとした学問だった。

– もし生後の殺害という形で淘汰できるのならば,それは即ち,優生学はもはや不要ということになってしまうであろう。

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• 断種手術のような優生政策と「安楽死」とを区別することで、優生学,特に「消極的(抑制的)

」優生政策の問題を,他の国や時代のそれを

含めて,近現代社会に広く共通する問題として考察することが可能になるであろう。

• ただし、近年の「新優生学」では国家や民族の未来が問題なのではなく,問題の焦点は個人の意思の尊重=「個人の自己決定権」ということになってきたことに注意すべきだ。

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渡部先生から山口へのコメント

• 学校や会社で行う「健康診断」も、優生政策といえるのでしょうか?

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山口⇒渡部先生へ

• 生殖を直接管理しようとする政策ではないので「優生政策」ではないでしょうが、「国民管理政策」であるとはいえるでしょう。

• 本来、「病気」というのは自分が調子が悪くなって病院に行く、というものだったのでしょうが、「検診」は、本人が自覚していない「病気」を発見し、それを「治療」することになります。

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• それでたとえば「初期のガンが見つかった」という場合、いままで「健康」だと思っていた人が、手術によって、ある意味、かえって具合が悪くなる。'体にメスを入れるのだから、「大怪我をする」のと同じことになる。(

• そのときに、「あなたの健康のためだ」と言われると反論しにくいが、なぜ国家が私の健康にそんなに気を使ってくれるのかというと、私が本格的に病気になったら医療費が高くつく、生産性が低下する、などの理由です。

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• ちなみに、「未成年者喫煙禁止法」という法律

があります。これは1900年に成立した法律です。

⇒どういう目的で作られたか知っていますか?

知っている人!

手を挙げて答えてください!

• 根本正、「徴兵するべき若者の健康を維持するため」と国会で演説。

• ちなみに「飲酒禁止法」'1922(も根本が提案。

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• 現代では徴兵制は廃止されていますが、「国民の健康管理政策」は継続している。

• 生活習慣病という概念がありますが、医学からでてきた言葉ではなく、厚生省の「公衆衛生審議会」が名づけた行政用語です。

• 国家は、国民が健康であるように、生活習慣の規範を定め、それに即した健康な生活をしない人にはペナルティを与えるような仕組みを作っているわけです。

• 人間の家畜化に合致する話とも言えるでしょう。

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山口から今井先生へ

• 日本においては、江戸時代などでは「養生」など、個人の健康に着目した概念があるが、明治維新後、「国民の健康」という考え方に転換したのではないかと思われます。

• さまざまな「国民統合ツール」が開発され、国民の国家管理が進められてきました。

• ヨーロッパにおける近代国家の誕生と、国民管理との関係についてはどのような流れがあるのでしょうか?

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今井先生⇒山口へ

• おおむね19世紀後半以後,西洋先進諸国は

次第に福祉国家という特徴をもつようになっていく。 – それまでむき出しの「弱肉強食」自由主義・資本主義の下,人びとには,成功をつかみ社会的にのし上がる自由も,競争に敗れ貧しさの中で死ぬ自由もあったのだが,下層の労働者たちが団結して国家に対し様々な福祉政策を要求する運動が強まった。

– あるいは市民層も公衆衛生などを求めるようになった。そし

てそれらは少しずつ実現されていった。

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• ところがそうなると,それと引き換えに国家の側も,福祉の供与と引き換えに,また公衆衛生の徹底という形で,人々の生活の仕方に介入するようになってきた。

• 言い換えれば,健康や生殖の問題は単に個人的・私的な問題ということでは済まされなくなっていった。

– このことを近年の歴史学では「国民の身体」ないし「国民の健康」の誕生などと呼ばれたりしている。

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山口⇒今井先生

• 近代福祉国家では、健康や生殖の問題は単に個人的問題でなく、国家の関心事になったということですが、他方、近年の「新優生学」は「個人の自由」を強調しています。

• 近代国家の統合と個人の自由とのあいだには緊張関係があるわけですが、優生学について考えると、現代の新優生学と20世紀半ばの優生学の間の連続性と差異はどのようにまとめられるでしょうか。

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今井先生⇒山口

• ナチ・ドイツに先立つ時代のドイツの優生学者たち,とりわけA・プレッツは,今日の出生前診断,着床前診断,生殖細胞や受精卵に対する遺伝子治療といったことが可能になる時代が来ることを予見し,待ち望んでいた。

• つまりこれらの技術の実用化は,まさに20世紀前半の優生学者たちが夢見ていたことでもあったのである。

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• 今日イギリスでは,すべての妊婦に対して各種の出生前診断についての情報を提供し,希望者には全額公費で検査を実施している。

• それは圧倒的に多くの場合,選択的中絶に結びついており,それによって障害者のケア

にかかる福祉コストを削減するという行政側の意図が見事に実現される結果になっているという。

• つまり,もっぱら個人の自己決定権との関わりでのみ問題となりうると考えたい場合も,それは20世紀前半の優生学が夢見たことに属するということがいえる。

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山口⇒今井先生

• では、前回のアンケートで、多くの学生さんが「個人の自由だからOK」と回答しましたが、

実はそれは「自分の自由意志で決めている」と錯覚させられたうえで、行政の思惑通りに行動させられているという側面があるということですね。

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山口から渡部先生へ

• 前回、「生物学的3要素」として、卵子、

精子、子宮が挙げられていましたが、人工子宮はどうして作れないんでしょう?

• 単なる培養器で哺乳類の胚を育てあげるには何が足りないんでしょうか?

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渡部先生⇒山口

• 一言で言えば、子宮の持つ機能が複雑なので、人工的に作ることが難しいのです。

• 体内発生をするヒトの胎児は、子宮の中で臍帯・胎盤を通じて母体から酸素や栄養素を供給してもらい、老廃物を処理してもらっています。

• このような複雑な機能を持った臓器を人工的に作ることは大変困難です。

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山口⇒渡部先生

• 胎盤は胚の細胞から作られますよね?それで胎盤から「根っこ」'絨毛(が子宮壁に伸びて酸素や栄養素を交換するわけですが、「水栽培」'あるいは人工透析(みたいにして胎盤を育てようとしたら、何がいるんだろうかと思って。

• 現在の技術で不可能なのはわかりますが、未来永劫不可能というわけではないのでは?

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渡部先生⇒山口

• たしかに、子宮の中の胎児は、臍帯を胎盤へ伸ばしています。胎盤は基本的には胎児由来で、胎盤で胎児の血液と母体の血液の間で栄養や酸素のやり取りが行われます。

• 単純に言えば、人工子宮は物質交換とガス交換さえできればいいので、胎盤との関係もありますから構造的には大変複雑になるでしょうが、機能的にはそんなに複雑ではないかもしれません。だんだんできるような気がしてきました。

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• ただ常識的に考えて、受精卵から胎児までを体外で、ということにはすごく遠い道のりがあるように思えます。

• 例えば、胎児と母体の間での物質交換では、胎児の成長に合わせて交換する物質の微調整が行われていますが、そのメカニズムなどはほとんどわかっていません。どんなシグナルが母子の間でやり取りされているされているかなどは、まだブラックボックスです。。

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• ここのあたりの生化学的な問題点が解決しないと、人工子宮は難しいと思います。逆にここがある程度わかってくれば、道は拓けるかもしれません。

• ですから、うんと遠い将来には可能かもしれないけれど、それ以前に例えば代理母'つまり代理子宮(の問題が法的にある程度クリアされるのではないでしょうか?

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前回の問題提起

①自分自身でなく子供の遺伝子を改造することについて、どう考えるか。

②病気の子供に組織や臓器を提供するためにきょうだいを産むことについてどう考えるか。

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子供の遺伝子を改造する理由 学生の意見:

• 自分の子供が自慢できるようなすばらしい人間であってほしいから。

• 自分ができなかったことを子供にはできるようになってほしいから。

• 家系を存続させるため。

• 子供には幸せになってほしいから。

• 自分が改造されるのは怖いから。

• できることなら自分を改造したい!

• 自分を改造しておいてほしかった…

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渡部先生からのコメント

• 改造をしても、どんな分野でも努力しなければ本当に優秀な人になれるかどうかは疑問。

• 「自分が改造されるのが怖い」ということと関連して、遺伝子改造でなく塾や習い事について考えるなら…

• 自分ではなく自分の子供を改造したいという

のは、結局自分が努力をしたくないだけの話ではないか。

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人間の遺伝子改造について

• 遺伝子の改造とは、遺伝子組換え作物を作るようなもの。遺伝子組換により、進化のスピードを人為的に加速させることになる。したが

ってヒトがヒト以外の生物へ短期間で進化してしまう可能性があるので、容認するべきではない。

⇒より進化した超人類が出現したら

よいことなのでは?

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山口コメント

⇒みんな親の立場だけに立って考えている。

• 「哲学的に考える方法」その7

他人事にするな!

• みなさんは'たぶん(まだ「親」ではないのだから、改造された子供の立場に立って考えたほうがリアルなはず。

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たとえば、

• あなたは、自分の親が、「こいつはおれが改造したから優秀な人間になったんだ」といって自慢したら、うれしいですか?

• 親ができなかったことをやるように強制されたら、「自分もできないことをなんで私がやらんといかんねん」とか思いませんか?

• 親から、「自分がやるのは怖いからあんたを改造したんや」と告白されたら、どう思いますか?

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それから、「メタ思考」がない。

メタ思考=ある判断の前提についての判断

• 「改造して能力を付ければ幸せになれる」というのは「職業選択の自由」が保障された、「競争社会」なればこそ。

• 競争することを是とするような'資本主義的・アメリカ的な(価値観そのものが問題ではないでしょうか。

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• たとえば江戸時代のお百姓さんであれば、子供の幸せを願いこそすれ、「改造」しようとは思わなかったのではないか。いくら優れていても基本的にお百姓さんになるしかないのだから。

• ところが、自由主義社会では、いろいろ金をかけ手間をかけた子供は巣立って

どっかへ行ってしまう。

• 「新優生学」は、自由主義社会が生み、肯定し、結局それに裏切られる思想であるといえよう。

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ちなみに「競争社会」について、

69%

31%

1 2 3

1. 努力して勝った者が利益や幸福を得

るのは当然だ。

2. 努力して勝った者だけが幸せになる

仕組みはおかしいのではないか。

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「競争社会」について'2(

37%

29%

25%

9%

1 2 3 4

1. 自分は勝ち抜ける!

2. 負けそう。

3. 既に負けている。

4. 既に勝ち組である。

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自分にとって不利な価値観を

植え付けられていると思いませんか?

…それで、誰がトクするんだ?

⇒「自由だ」と思い込まされて、その実、行政側の思惑通りに行動させられているのでは、という先の今井先生の話も思い出してみよう。

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自分はしたくないが

他人がやるのは止められない。

自分はしたくない理由

• 改造すると自分の子供でないような気がするから。

• 子供は授かりものであり、手を加えるべきではないと考えるから。

• 完全な人間として生まれてくると向上心がなくなるから。

• 同じような人間ばかりの社会になるから。

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他人がやるのを止められない理由

• 個人の自由だから。

• 価値観は「人それぞれ」だから。

~~~~~~~~

• 大多数の人がこのような意見。書いていることがほとんど一緒!

• みんな同じ答えを書きつつ、どうして価値観は人それぞれなんて思えるのか?

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• 自分たちが「自分で考えている」と思いこみな

がら'思い込まされながら(、知らず知らずのうちにある方向に考えを向けさせられていることを自覚してほしい。

• しかもそれが行政の思惑通りだったり、金持ちの利益に都合がよいようにだったりで、自分たち自身には不利だったりする。

⇒「メタ思考」の訓練が必要。

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今の話を聞いて、自分は自由か?

14%

26%

18%

33%

9%

1 2 3 4 5

1. 何ものにも縛られ

ない自由人だ。

2. どちらかというと自由だと思う。

3. どちらとも言えない。

4. どちらかというと社会に束縛されていると思った。

5. 家畜なみ。

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内海先生からコメント

• 多くの人が「自分はしたくないが他人は止め

られない」と答えていますが、逆に、「自分はしたいが他人はしてほしくない」という人はいないのでしょうか。

• そうすれば自分の子供だけが勝ち抜けることになるはずです。 どうしてそう考えないのでしょう?

• 私だったらそうするわ。

⇒権力者が実行に移しても、「他人がやることは止められない」と言いますか?

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三好先生からコメント

• 遺伝子改造を他人事にしたあなたへ。

• 会社では、平社員→課長→部長→常務→専務→社長、とピラミッド構造になっています。

• 「遺伝子改造はしたくない」という親から生まれたあなたは努力の甲斐あって一流企業に就職、出世の階段を駆け上がりました。

• しかしあなたには、遺伝子改造を受けた優秀な同期がいて、出世ではいつも後塵を拝していました。

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• あなたもいよいよ社長候補の一人として名前が挙がりましたが、やはりその同期が社長に就任、ライバルのあなたは子会社に出向させられることになりました。

⇒そうなってもあなたは、「他人の考えは人それぞれ」、「他人のやることは止められない」と考えますか?

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山口より仲裁

• 自分に直接被害が及ぶなら、「無危害原則」からして、やめさせるべき場合に該当するでしょう。

• でも、直接被害が及ばないなら、何をしてもよいのか?

⇒前回「自由主義社会の価値観」を書いたが、それが「正しいものだ」とは言ってない。

⇒自分なりに検討して、それを正しいものとして他人に説得できるものにすること。

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じゃあ、なぜ「他人がやるのは止められない」のかというと、

しょせん他人だから と一言、書き捨てている学生がいました。

「人それぞれ」は他人を切り捨てる言葉!

しかし…「自分はしたくないが、自分の配偶者が改造したいという考え方だと困る」と書いている学生が一名。

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みなさん、どうしますか?

• ちなみに、先ほどの学生さんは、「だから社会的に規制してほしい」ということでした。

• しかし、自分にとって大切な判断を、他人'国会・政府(にゆだねてよいのですか?

• 「しょせんは他人」という考えでは、対立する考えの人とどうしても付き合っていかなければならない時に、話し合って双方が合意するというプロセスに入れない。

⇒「意見を根拠づけて説明する能力」が必要。

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今の話を聞いてなお、

43%

57%

1 2

1. 正しさは人それぞれだ思う。

2. 正しさは人それぞれであるという考え方は他人を切り捨てる間違った考え方だと思う。

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社会的に禁止すべきだと答えた理由

• 自分が改造されていると知った子供がショックを受けるかもしれないから。

• 改造できる人とできない人との社会的・経済格差が固定するおそれがあるから。

• 同じような人間ばかりの社会になってしまうから。

• 改造される子供自身の意思が尊重されていないから。

• ドーピングと同じで、公平ではなくなるから。

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三好先生のコメント

• MLBで、ステロイド剤を使ったホームラン世界新記録保持者?がいましたね。

• かなり批判されていますよね。禁止事項ですが、健康面だけでなく本人努力以外の公平性の観点からも禁止されているのではなかったでしたっけ?

• でも、'精子&卵子バンクはさておいて(遺伝子操作に比べればはるかに罪が軽いと思うのは、私だけ?

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要するに、

• 個人の行為が社会全体を悪い方向に変容させる恐れがあるときには禁止される。

• 社会の中で行動すると、ほとんどすべての行為が他人に影響を及ぼす。

• ある行為を法的に規制するかどうかはともかくとして、「人それぞれ」という考え方は、事実として誤りであり、人と人とを断絶させる点で倫理的にも間違いであり、社会的に有害である。

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「人それぞれ」が社会的に有害なのは、

• 「人それぞれ」という考えの人は、他人と対話せず、他人から学ばず、それゆえに何の根拠もない自分の思い込み'感情(を「人それぞれなのだから尊重されるべきだ」と信じてしまい、しかも対話の技術がないので誤りを指摘されると逆ギレするしか能がない。

• 努力しない、プライドは高い、すぐ逆ギレする人間が量産される社会はとても住みにくい。

• というわけで「人それぞれ」はやめてください。

• 対話により合意形成する努力をしてください。

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皆さん自身は、

• 「人それぞれ」と口では言うが、実際はそのようには行動していないのではないか?

• 「所詮は他人」というなら、震災ボランティアに行ったり、少なくとも心配したりはしないはず。

• 「正しさは人それぞれだ」とムキになって主張することは、「正しさは人それぞれ」という主張と矛盾する。

⇒どっかで聞いたような言葉を繰り返すのではなく、自分自身のリアルなあり方を踏まえて考えてみてください。他人事にしないこと!

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もう一度考え直して、自分は

11%

22%

45%

23%

1 2 3 4

1. 子供を遺伝子改造したい。

2. 自分はしたくないが、他人がするのは止められない。

3. 社会的に禁止すべき。

4. その他。

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前回は…

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「その他」を選んだ人、

ではどうするのですか?

挙手して発言してください。

• という時間がありませんでした。

• 今回の「メールでのコメント」では、授業を受けたうえで、「改造したい」「他人は止められない」「社会的に禁止すべきだ」と答えた理由を書く。「その他」と答えた人は、具体的にどうするのか、理由をつけて説明する。

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• 以下は授業で取り上げられなかった部分です

• 参考に見ておいてください。

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救世主きょうだいについて。

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賛成する理由

学生の意見

• Dちゃんにも愛情を示してあげればよい。

→産んだ以上は、ほとんどの人は'本能的に(愛情を注いでしまうのではないですか。

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つづき

• ただし、「愛情を注ぐべき」という発想に転化しないほうがよい。事実として多くの親は子供に愛情を注ぐが、その事実から「注ぐべき」という道徳的命題が正当化されるわけではない。'いわゆる「自然主義的誤謬」(

• そもそも、愛情は感情で、感情は意志的にコ

ントロールできないので、愛情を感じられないときに「愛情を感じるべきだ」と言われたって感じるようにはならない。

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• Cちゃんを助けるためにDちゃんを産んだからといって、骨髄移植にはDちゃんの同意が必要である。

「救世主兄弟」に関する各国の規定

イギリス:血液疾患に限り、救世主兄弟を認める。

アメリカ:病気に制限はない。親の判断による。

日本:議論にすらなっていない。

実際には、赤ちゃんの臍帯血'へその緒に含まれる血液(を移植に用いることができる。もちろん映画のように、その後に骨髄移植が必要な場合も当然起こりうる。

反対する理由

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• 自分がDちゃんなら、姉が健康だったら自分は生まれてきてなかったのだろうかと、とてつもなく大きなショックを受けるだろう。

どうしても男の子が欲しい夫婦がいました。この夫婦は男の子が生まれるまで子供を産みました。

女 女 女 男 → → →

二女や三女は、自分の前に男の子が生まれていたら、自分は生まれてこなかったと感じるかもしれません。

しかしそれで大きなショックを受けるでしょうか。。。

産んでくれてありがたいと感じるのではないでしょうか。。。

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• Cちゃんを助けるための「手段」とか「道具」のようにしか扱っていない。

渡部先生のコメント

• 両親がDちゃんを道具としてのみ扱って愛情を注がないとも思いませんし、DちゃんもC

ちゃんを助けることができて幸せかもしれません。

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つづき

• 私はここでは少し迷っています。私自身はDちゃんを産まないでしょう。

• しかし他の人が着床前診断で免疫の型のあった胚を選んでDちゃんを産む、と言っても別に「とんでもないことをする」とは決して思いません。

• 現在の技術・法律ともにDちゃんを産むことの障害にはなりませんので、私は他の人がDちゃんを産むことを受け入れます。

• もっともこのようなことが出来るのは、世界中のほんの一握りの国なのでしょうが。

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山口コメント

• Cちゃんが死んでしまいそう'あるいは死んでしまった(ので、「子孫を残したい」ということで単にもう一人産んだとしたら、どう考えますか?

• それも子孫を残すための「手段」?

だとしたらすべての子供は「手段」では?

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• うちの母は5人きょうだいだったが、終戦直後、母の妹'私の叔母(が赤痢になった。

• そのとき医者いわく、「ストレプトマイシンを入手できれば治るが、大変なお金がかかる。5人もきょうだいがいますからね、どうしますか?」

…という戦略で人類は五万年

やってきたんだと思います。

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つづき

• もちろん、「だからCちゃんを助けなくてもよい」などというつもりは全くないですが、「人の命は地球よりも重い」というような

スローガンが流布し、「命を守るためだったら何をしてもよい」→「他人の

命を削ることさえかまわない」という言説に異議を唱えにくい状況になっているのであれば、それはグロテスクな状況というべきでしょう。

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つづき

• 「Cちゃん問題」は、少子化が進み、ひとりの子供に過剰な期待と費用をかける先進国ならではの事態であるということでしょう。

• もちろん、だからといって「Cちゃんを助けなくてよい」ということにはなりませんが、少なくとも自分たちが前提にしている価値観'努力・自由・自己決定・子供は愛すべき・命は何より貴重(などの観念が、現代社会特有のものだということを自覚したほうがよいでしょう。

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ここまでの議論を聞いて、もう一度。

あなたがAさんBさんであった場合、どうしますか?

0%0%0%0%0%

1 2 3 4 5

1. 遺伝子検査をしてD

ちゃんを産む。

2. 検査はせずにもう1人産む。

3. 産まずにドナーを探しまくる。

4. 特に何もしない

5. その他。

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ちなみに前回は…

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「その他」を選んだ人、

ではどうするのですか?

挙手して発言してください。

• 今回の「メールでのコメント」では、授業を受けたうえで、「骨髄移植のドナーになるためにDちゃんを生んだ」話について、考え直したことを書く。

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今日のまとめ

• 自分たちが「正しい」と思っている価値観の背後にあるものに気付く。

– 「自由」「競争社会」「人それぞれ」などなど。

–本当に自分は自由なのか?

–それで誰がトクするんだ?

– 「人それぞれ」というと一見相手を尊重しているようだが、その実、相手を切り捨てているのではないか。

=メタ思考。

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今日の分の「メールでコメント」は、

今日の授業を受けたうえで「子供を改造したい」「したくない」「社会的に禁止すべきだ」「その他」と答えた理由を書く。

前回と同じことを書かないように。「自分で考えた」と真に言えるように、今回の授業の内容を踏まえたうえで、自分が前回書いた内容が妥当なものだったかどうか、考え直すこと。