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海外放送ビジネスにおける IP 化とマルチデバイス市場動向 についての調査総括 IPDC Forum Report 2014 IPDC Forum 調査員 田中勇樹

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海外放送ビジネスにおける IP

化とマルチデバイス市場動向

についての調査総括 IPDC Forum Report 2014 IPDC Forum 調査員 田中勇樹

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海外放送ビジネスにおける IP化とマルチデバイス市場動向についての調査総括

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目次

はじめに ......................................................................................................... 3

放送の IP化 .................................................................................................... 4

コネクテッド TV(スマート TV)の進化 .............................................................. 4

セカンドスクリーン市場の形成 ............................................................................. 6

モバイル TVという新しい視聴形態 .................................................................... 10

視聴形態の変化 – パーソナル化とマルチデバイス化.................................... 12

テレビはどこへ向かうのか? ........................................................................ 16

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海外放送ビジネスにおける IP化とマルチデバイス市場動向についての調査総括

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海外放送ビジネスにおける

IP化とマルチデバイス市場動向

についての調査総括

作成者:IPDC Forum調査員 田中勇樹

作成日:2014/3/20

はじめに

2013 年度の IPDC Forum における海外事例調査レポートとして、計4回にわ

たり主に米国放送業界を中心とした「IP 化とマルチデバイス化」の最新トレン

ドを報告してきた。本書は、それらを総括するかたちで、現在放送ビジネスの

世界で起きている変革の現状を復習するとともに、近未来に向けた展望を試み

るものとする。

2013年度における調査レポート:

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放送の IP化

海外の放送市場(調査では主に米国および欧州の放送市場を対象とした)では、

放送サービスとインターネットの融合が着実に進行中である。この傾向を加速

するドライバー(牽引役)として挙げられるのが、「コネクテッド TV(スマー

ト TV)の進化」「セカンドスクリーン市場の形成」「モバイル TVという新しい

視聴形態」という3つのトレンドである。

コネクテッド TV(スマート TV)の進化

「インターネットにつながる次世代テレビ」として喧伝されたスマート TV は、

テレビ受像機の出荷台数は着実に増えているものの、「テレビ画面でインターネ

ットを利用する」という放送業界や家電メーカーが当初意図したスマート TV本

来の使用形態が市場になかなか浸透せず、その存在意義が長らく問われていた。

しかし、スマートフォンやタブレットが登場し、Roku や AppleTV といったテ

レビをインターネットに接続する「スマート STB」の普及、インターネット接

続が常識化した家庭用ゲーム機(出力先はテレビ)の浸透などによって、「テレ

ビ画面でインターネットのコンテンツやサービスを楽しむ」という利用形態が

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視聴者の間で一般化するにつれ、「デバイス」としてのスマート TV ではなく、

「視聴形態」としてのスマート TVという概念が着実に市場に定着してきている。

このような傾向を踏まえ、2013〜14 年の業界トレンドとして、「スマート TV」

という表現に代わり、「インターネット・サービスを利用できるテレビ環境」を

指す言葉として「コネクテッド TV」という呼称が一般化するに至っている。

「スマート TVからコネクテッド TV」への進化の過程で、以下の2つの傾向を

現在見てとることができる:

1. スマート STB ベンダーによる統合型コネクテッド TV の発売(米 STB 市

場の大手 Rokuによる RokuTV発表、Appleによる iTV計画、ほか)

2. 家電メーカーによる STB 関連技術&プラットフォームの取り込み

(Samsungが Boxeeを買収、LGによる旧 Palm社WebOS買収、ほか)

「コネクテッド TV」は、従来の放送型サービス(地上波、衛星、ケーブル)に

対応しつつも、各メーカーが差別化の柱としているのは、OTT サービスとの接

続性をいかに他社よりも高めるか、という点である。例えば、Sonyが CES2014

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において発表した OTT ベースのスマート TV サービス構想(2014 年下半期に

サービスを開始する計画)は、同社のコネクテッド TV製品の競争力を飛躍的に

高めるとして注目されている。「スマート TV」から「コネクテッド TV」への進

化の過程で起きたパラダイムシフトは、この「放送メインから OTT メインへ」

のビジネス戦略の重心のシフトにあるといえる。

一方で、従来の「スマート TV」市場の成長を阻害する要因の 1つとされてきた

アプリ開発コスト(メーカー間で技術仕様や開発プラットフォームが統一され

ておらず、アプリやサービス開発企業の ROIが見合わないという問題)の問題

は、HTML5、HEVC、MPEG Media Transport(MMT)等の規格統一化が進

み、「コネクテッド TV」上でのブラウザ・アプリを使ったテレビ視聴方式が一

般化することで、少しずつ解消されつつある。このように開発から流通に至る

までの「コネクテッド TV」をめぐる業界エコシステムのビジネスモデルが徐々

に確立に向かっているといえる。

なお、米市場では現在インターネットに接続したテレビシステムを保有する世

帯のうち53%がスマートSTBや家庭用ゲームコンソール等の外部ストリーミン

グ装置経由でテレビを使用しており、スマート TV 単体での使用世帯の 47%を

上回っているが、この比率は今後出荷されるテレビ受像機の多くがスマート TV

であることを踏まえ、早ければ 2014年中に逆転すると見られている1。

セカンドスクリーン市場の形成

2013年は「セカンドスクリーン」市場をめぐる議論がマネタイズのための方法

論にシフトした年であった。どのようにしてセカンドスクリーン市場をビジネ

スにするか、というテーマが、米テレビ広告業界の一大関心事となっている。

例えば、全米の地方放送局グループが提供するセカンドスクリーン・サービス

Connectvの場合、次のようなビジネスモデルを構築している:

1 Smart TVs Are About To Overtake Streaming Devices In The US -

http://www.businessinsider.com/the-connected-tv-landscape-why-smart-tvs-and-streaming-gadgets-are-conquering-

the-living-room-2-2014-3

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・ 「AdSync」技術による TVメインスクリーンとの CM同期。関連情報を連動表示。

・ 番組メタ情報(Watchwith社と提携)&ソーシャル画面 → 「TV Words」技術に

よるキーワード発火 → CM起動。

・ キャッチアップ&DVR対応(CMをスキップしてもセカンドスクリーン上でCM連

動)。

・ 広告は ConnecTVと全米ローカル TVネットワーク 250局が販売(セールス担当約

2,000人)。

・ セカンドスクリーンでの映画チケット購入(Skyfall)や新車試乗予約(Ford)等。

・ 広告料は一般の TVCMよりも 10%上乗せ。

・ 「インタラクティブ広告は TVスクリーンではなく、セカンドスクリーンで」

また、セカンドスクリーン広告市場向けの広告配信・売買プラットフォームの

整備も米国内で着実に進んでいる。セカンドスクリーンに対応した動画広告コ

ンテンツの管理・配信プラットフォームを FOX、NBCUniversal、AOL等に提

供する Freewheel 社は、2014 年 3 月 Comcast に 3 億 2000 万ドルで買収され

た。また、同様のサービスを欧州で展開する英 Videoplaza社は、IPTV、HbbTV

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等への対応を早くから進め、Canal+(仏)、RTL(独)、TV4(スウェーデン)

等の欧州主要放送事業者にサービスを提供している。

今後セカンドスクリーン市場は成長を続け、2017 年には 59 億ドル市場になる

と予測されている(2012年は 4億 9000万ドル)。現在の売上比率は広告とコマ

ースがほぼ同規模(50/50)で、当面はその傾向が続くと見られている。レベニ

ューソースとしては、次のようなものがある:

・ スポンサーシップ(ブランディング広告)

・ ディスプレイ広告(セカンドスクリーン広告は一般の広告よりも 5-10%の売上増)

・ インタラクティブ広告(同 10%の広告売上増)

・ ビデオ広告(オンラインビデオは TV広告よりも効果的2。2012年は前年比 40%増)

・ モバイルコマース(商品価格の 5-8%のトランザクションフィー)

・ コンテンツ販売(シンジケーション)

・ アプリ販売(例:£20で販売されている F1公式アプリ)

2 米 BrightRoll社による調査。全米の広告会社経営者の 75%が TV広告よりもオンラインビデオ広 告のほうが有効であ

るとアンケート回答。http://www.emarketer.com/Article/Ad-Agencies-See- Effectiveness-Online-Video/1009912

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モバイル TVという新しい視聴形態

携帯電話の「スマート」化および同回線のブロードバンド化と WIFI 環境の整

備が進んだことで、スマートフォンやタブレット上で動作するアプリを使った

IP ストリーミングによる動画コンテンツ視聴がもはや一般的なものとなりつつ

ある(2012年時点で、米国の携帯電話契約者の約 35%が、英国では約 71%が「モ

バイルテレビ」を視聴可能なユーザーである3)。

「モバイルテレビ」というと、家庭ではリビングルームの大画面テレビモニタ

による視聴、外出時に手元のスマートフォンでアプリを起動してモバイル視聴、

という図式を想像しがちであるが、スマートフォンやタブレットを使用したテ

レビ視聴の多くは自宅で行われていることが調査から判明している(英国では

37%、米国では 48%のモバイルテレビ・ユーザーが自宅で視聴している)。

3 Quickplay Media - 2012 UK/US Mobile TV Survey 本項の引用調査データも同様。

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この分野で他国に先行する英国では、BBC が展開する iPlayer サービスの市場

への浸透が先導するかたちで、71%のモバイルテレビ視聴者が放送事業者のサ

ービスを利用しているという調査結果が出ている。一方、米国では Netflixに代

表される OTTサービス事業者、AT&Tや Verizon等の携帯電話事業者、そして

NBC 等の放送事業者が約 30%ずつの市場シェアを分け合うかたちで三つ巴の

戦いを繰り広げている。

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視聴形態の変化 – パーソナル化とマルチデバイス化

モバイル TVという概念の登場によって、視聴者のテレビ・コンテンツの利用形

態が本質的に変化しつつあることも明らかになってきた。前項においてモバイ

ル TVの視聴場所のトップが「自宅」であることを指摘したが、このことは、テ

レビの視聴形態がもはやリビングルームに置かれたテレビ受像機を中心とした

ものではなく、スマートフォンやタブレット、さらにはスマート TVなどの「ス

マートデバイス」を複数使い分ける「マルチデバイス化」の傾向が強まってい

ることを意味する。

このような「マルチデバイス化」は、さらにテレビ視聴形態の変化をもたらし、

テレビ受像機を持たない「ゼロ TV」世帯(スマートフォンやタブレットのみで

の視聴に満足するユーザー)を増加させるほか、「ビンジ・ウォッチング」(VoD

サービスにおいてドラマ・シリーズなどを一度に連続して視聴するコンテンツ

消費スタイル)や「アラカルト・ウォッチング」(ケーブル事業者等が提供する

従来の複数チャンネル契約を嫌い、見たいチャンネルのみを契約して視聴する

というスタイル)といった新しいテレビ視聴のカタチを生み出すようになった。

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視聴者のこのような志向性の変化は、米放送市場においてはコードカッティン

グ等の事態を引き起こし、ケーブルテレビ事業者(MSO)の契約者数が減少に

転じるなど、業界全体を巻き込む大きな問題となっている。MSO 最大手の

Comcast は、このような市場の変化に対して、以下のような対策を講じて、市

場の溶解をなんとか食い止めようと必死である(詳細は別紙調査資料「コムキ

ャストのマルチデバイス戦略に見る米放送ビジネスの未来形」を参照):

・ OTTとの共存前提でビジネスモデルを強化

・ クラウド&チューナーレスの次世代ホームゲートウエイのインフラ構築

・ スマートデバイスをサービスのタッチポイント(入口)として位置付け

・ WIFIを活用した利用者の囲い込み

・ ライブ(リニア)コンテンツのストリーミング配信

・ セカンドスクリーン・コンテンツの拡充

・ ミドルウエアのオープン化による開発者コミュニティの取り込み

・ R&Dと先行投資による地力強化

また、放送コンテンツの供給側であるネットワーク各社も、マルチデバイス化

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による「放送ビジネスのパラダイムシフト」への対応を進めている。例えば ABC

の場合、2014 年から同社の全番組を対象に放送と OTT 配信を統合した広告販

売パッケージ ABC Unifiedの提供を開始することを発表しているほか、Nielsen

社とマルチデバイス視聴者の測定データ標準化へ向けて提携している。また、

放送・広告業界が進める IPベースの広告配信プラットフォームであるDynamic

Advertising Insertion (DAI) を 2014年から本格導入することも明らかにして

いる。

ABC Television Network社デジタル広告セールス担当副社長リック・マンドラ

ー氏は、「我々の合言葉は、すべてのスクリーンを1つ広告キャンペーンでカバ

ーすることだ」と言明している。同氏によれば、ABC Unified を利用した広告

キャンペーンは、ウエブやスマートデバイスを対象に組み込むことで、近年特

にテレビによるリーチが難しいと言われていた 18〜24歳の「レイト・ミレニア

ム」世代(テレビ離れが著しい若者世代)への広告効果を高め、18〜49歳を対

象とした総合的な広告キャンペーンのプラットフォームとして他社を凌ぐ精度

の実現に成功しているという。4

5

4 ABC proves the value of the unified TV/digital ad buy -

http://www.v-net.tv/abc-proves-the-value-of-the-unified-tvdigital-ad-b

5 ABC Video Insight

(http://abcallaccess.com/wp-content/uploads/2013/06/Video-Insight-Unified_XCR-V38-reduced.pdf)より抜粋。

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テレビ視聴におけるマルチデバイス&マルチスクリーン市場は、今後次のよう

な展開を見せると予想される:

・ 2017年には 20億人がモバイル&タブレットでテレビとビデオを視聴する。

・ 若年層ほどモバイル端末をファーストスクリーンとして使用。

・ Zero TV世帯の増加。

・ Netflix 等の IPTV サービスの普及によって視聴者のビデオ視聴時間はより細分化

される。

・ Twitter / Facebook 等のソーシャルプラットフォームがビデオ広告市場を浸食 or

拡大?

・ ペイ TV事業者はシェア維持のため今後もマルチスクリーン化を推進。

・ コンテンツホルダー、放送事業者、STB ベンダーもビジネスモデル多元化のため

マルチスクリーン化。

・ YouTube の有料チャンネル導入や Amazon によるドラマ配信等に象徴されるよう

なコンテンツ課金やサブスクリプションモデルが増える可能性。

・ 広告市場の高度化によりマルチスクリーン化が広告機会増加+売上増をもたらす

可能性。

・ STB機能のアプリ化の議論。マルチスクリーン&マルチチャンネル市場。

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テレビはどこへ向かうのか?

米経済紙 Quartzは、「テレビの未来(The future of TV is coming into focus, and

looks pretty great)」と題した記事の中で、これからのテレビの姿について、次

のような 13の予測をしている。6

It will be cheaper テレビは安価になる

テレビを視聴するための契約料はこれまでよりも安いオプションが出

てくる(Aereo 等の OTT サービスの登場、CATV 事業者による対抗措置、等に

より)。20〜30ドルで有料テレビ放送が視聴できるようになる。

Limited channel lineup チャンネル数を限定したサービス

旧来の「すべてが見れる」パッケージ方式から、「見たいものだけを見

れる」というアラカルト方式へのシフト。

Organized by subject タイトルがチャンネルに置き換わる

「チャンネル」の概念はなくなり、番組タイトルやキーワードなどに

よる検索&発見のインターフェイスがより洗練される。

Personal subscriptions 世帯契約から個人契約へ

世帯(家族)ごとの契約ではなく、個人単位(複数アカウントを保有

できる「家族」アカウントの登場)での契約が主流になる。

Viewable on any screen あらゆるスクリーンが対象に

リビングルームのスマート TVから手元のスマートフォンまで、あらゆ

るスクリーンで視聴できる。

A better remote リモコンが賢くなる

リモコンもスマートデバイス化される(LED画面付き、等)。スマート

フォンやタブレットがリモコンとして利用できるようになる。

6 The future of TV is coming into focus, and looks pretty great -

http://qz.com/184378/the-future-of-tv-is-coming-into-focus-and-looks-pretty-great/

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No more switching inputs 複雑な接続設定は過去のものに

スマート TV とスマート STB がより洗練され、接続が容易になる。チ

ャンネルや放送サービスがスマート TV/STB上でアプリとして実装される。

Netflix is just another channel ネットフリックスのチャンネル化

OTT サービスは、旧来のチャンネルと同じ位置付けになる。

HBO gets more accessible 「HBOだけ見たい」が可能に

HBO等のコンテンツプロバイダーが、独自のアプリを提供することで、

これまでよりも容易に視聴ができるようになる(HBO単体での契約も可能にな

る)。

On-demand that’s not awful オンデマンドの品質が満足のいくものに

VoD サービスの品質がさらに向上し、従来のテレビ放送と同等のもの

に近づく。

New channels emerging all the time 登場し続ける新規参入チャンネル

コンテンツをアプリで提供できるようになり、新規参入が容易になる。

これによって新しいチャンネルが次々と登場する。

Not as reliable サービスの信頼性が今後の懸念要素に

ブロードバンドの帯域需要が増大し、ネットワーク・トラフィックが

逼迫する。

Not so cheap 最終的にはコストはユーザー負担に

テレビを視聴するためにはブロードバンド・インターネットを契約す

ることが必須条件になる。結局コストはユーザーが負担することになる。

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上図は、Comcast + NBCグループの立場から見た米放送業界における勢力図で

ある。従来からの競合各社に加えて、ブロードバンド化によって勢いを増す通

信事業者、さらには Netflix、Google(YouTube)、Amazon、Aereo、Appleとい

った IT系の強大なライバル達との競争を余儀なくされている。さらには、HBO、

VIACOM(MTV)等といった、従来は相互依存関係にあったコンテンツ・プロ

バイダーとも、放送の IP化によって市場を直接食い合う競合同士になってしま

う、という複雑な業界エコシステムが形成されつつある。

「放送の IP化」「マルチデバイス化」「パーソナル化」という三大潮流の中、米

放送業界は生き残りをかけて、以下のような方向性を模索しているようである。

1. アウトプットはマルチデバイス

2. ブロードバンド前提のサービス(WIFI/LTE etc.)

3. 視聴者=ユーザーが主役

4. ライブ(リニア)と VODの棲み分け

5. タイムシフト(byクラウド)視聴の一般化

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6. インターネット広告技術の取り込み(世帯視聴から個人視聴・行動分析へ)

7. コンテンツ価値の逓減は再利用機会増大で相殺

最後の7については、「放送の IP 化」「マルチデバイス化」「パーソナル化」と

いう3つの潮流いずれもがコンテンツ再配信機会の増大という方向を示してい

ることを念頭に置くことで、最終的にコンテンツ価値は「増大」する方向にあ

るという可能性に着目すべきである。

「放送の IP化」「マルチデバイス化」「パーソナル化」によるコンテンツ流通市

場のチャンネル多角化とリーチの拡大は、「良質なコンテンツに対するニーズ」

を今後高めることになると見られている。すでに米国では、HBO や MLB とい

った優良「コンテンツ・プロバイダー」の相対的な業界内ポジションが高まっ

ており7、Netflix 等の「プラットフォーマー」とともに、今後の米放送業界にお

ける勢力図の重要な鍵を握っている。

「コンテンツ」と「プラットフォーム」をいかにして握るか、という点が現在

の米放送業界における最大の命題であるといえる。我が国における放送ビジネ

スの未来を展望する上でも、同じことが当てはまる。特に「放送の IP 化」「マ

ルチデバイス化」「パーソナル化」によって放送ビジネスにおける「プラットフ

ォーム」が急激に変質してきており、この変化を取り込まない限り、小売業界

における Amazon による業界破壊と同じことが、放送業界においても起きる恐

れがある。

欧州最大の民間放送事業者である独 ProSiebenSat.1 は、2014 年 1 月、スウェ

ーデンの OTT プラットフォームベンダーMagine 社と契約し、同社のプラット

フォーム技術を使ってOTTによるリニア放送サービスを今年度中に開始するこ

とを明らかにした。Magine はすでにドイツの主要放送局である ARD、ZDF、

RTL にもプラットフォームを提供していることから、ドイツでは主要チャンネ

ルがすべて OTT でリニア番組配信されることになった。8

7 Why the future of live sports is in ESPN's hands | The Verge -

http://www.theverge.com/2012/11/14/3643700/live-sports-tv-streaming-online-espn-war-for-tv/in/3404219

CEO: HBO has ‘ability to pivot’ and go OTT direct to consumers -

http://videomind.ooyala.com/blog/ceo-hbo-has-ability-pivot-and-go-ott-direct-consumers 8 Sweden Helps Define The Future Of TV - http://www.informilo.com/20131112/sweden-helps-define-future-tv-928

Magine is an example of what pure Cloud TV looks like -

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ProSiebenSat.1 はさらに、2014 年 3 月に YouTube の番組制作配信ネットワー

ク最大手の 1つである Collective Digital Studio(通称 The Collective)の株式の

20%を取得すると発表。Magine との提携による「プラットフォーム」戦略の強

化とともに、「コンテンツ」戦略でも布石を打っている。YouTubeネットワーク

に関しては、米ディズニーが同時期に Maker Studios を 5億ドル買収しており、

欧米の放送コンテンツ市場における YouTubeの存在感が無視できない規模にな

っていることを暗示している。9

このようなドイツと同様の動きが我が国でも起きても良い潮時である。今春開

始予定といわれる 24時間総合編成のインターネット有料チャンネル「フジテレ

ビ NEXTsmart」10はその先駆けであるといえるが、他の放送局もこれに追随す

るか、もしくはより先進的な OTT サービスの実現が求められている。

http://www.v-net.tv/magine-is-an-example-of-what-pure-cloud-tv-looks-like/

TVPlayer offers best of free-to-air in a single app -

http://www.v-net.tv/tvplayer-offers-best-of-free-to-air-in-a-single-app/ 9 ディズニー、「YouTube」動画制作の Maker Studiosを買収へ--オンライン動画を強化 -

http://japan.cnet.com/news/business/35045630/ 10 フジテレビ、“第 4のテレビ”ネット有料チャンネル開設 - http://www.oricon.co.jp/news/2034134/full/