金属ナノ構造による 表面プラズモン共鳴を用いた光...
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金属ナノ構造による 表面プラズモン共鳴を用いた光学素子
三重大学 大学院工学研究科 電気電子工学専攻 三重大学 極限ナノエレクトロニクスセンター 准教授 元垣内 敦司(もとがいと あつし)
本日の発表内容
• はじめに • 表面プラズモン共鳴とは
• 半導体基板と金属薄膜を用いた表面プラズモンセンサー • 金属ナノ周期構造を用いた2層型ワイヤーグリッド偏光子 • 最後に
• 企業への期待 • 所有する知的財産 • 産学連携の経歴 • お問い合わせ先
はじめに(表面プラズモン共鳴とは)
表面プラズモンとは • 表面での自由電子の集団的振動を表面プラズモンという。 • 表面(厳密には、2つの媒質の界面)に局在(どちらの媒質にも指数関数的に減衰
する)し、表面プラズモンと結合した電磁波(表面電磁波)のことを表面プラズモンポラリトンという。(以下、表面プラズモンまたはSPPと呼ぶ。)
• 表面プラズモンポラリトンは、媒質の界面に沿って伝搬し、界面に垂直な方向には、減衰する。
• このような表面プラズモンを伝搬型表面プラズモンという。
• 自由電子が必要なので、片方の媒質は金属である。金属と誘電体媒質が接触している界面で考える。
4
金属
誘電体
表面プラズモンポラリトンは界面に沿って伝搬
界面に垂直な方向には減衰
金属と誘電体の界面で、光の電界振動と金属中の自由電子の集団振動が結合し、表面プラズモンポラリトンが発生。
誘電体媒質
プリズム
Kretschmann配置
伝搬型SPP
表面プラズモンの励起方法 • 空気から金属に光を照射しても表面プラズモンは励起しない
• 分散曲線から理論的に説明されている。
• 全反射減衰法 • 金属表面にプリズムを配置し、プリズムから光を入射させる。(Kretschmann配置) • プリズムと金属の界面で全反射を起こさせる。 • 一部の光がエバネッセント波となって、金属薄膜中を透過する。 • 金属と誘電体媒質の界面で、エバネッセント波の電界振動と金属の自由電子の集団
振動が結合し、表面プラズモンが励起される。 • ある入射角で、反射光のエネルギーがなくなり、全て表面プラズモンに変換される。
(表面プラズモンの励起条件)
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金属
半導体基板と金属薄膜を用いた表面プラズモンセンサー
検出したい媒質
プリズム
Kretschmann配置
伝搬型SPP
従来技術とその問題点
• 表面プラズモンセンサーについて • クレッチマン配置を用いたセンシング • 金属微粒子を用いたセンシング
• 伝搬型表面プラズモンを用いた化学センサー • 金属表面に接触している媒質のセンシングが可能 • 屈折率変化を高感度に測定可能 • 一般的に全反射減衰法が利用されており、プリズムと金属薄膜からなるKretschmann
配置が知られている。
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金属
入射角度θ
反射率
媒質検出 θ
従来技術とその問題点
• ガラスプリズムを用いた伝搬型表面プラズモンセンサー • ガラスの屈折率は1.45(石英)、1.52(BK7)である。 • 全反射を発生させるためには、被検出の屈折率はプリズムに使われる材料の
屈折率より小さくする必要がある。 • ガラスプリズムでは、重金属化合物、ハロゲン化合物のような屈折率が1.5を超
える媒質を検出できない。
• 微粒子による局在型表面プラズモンを用いたセンサー • 作製は簡便であるが、微粒子のサイズ、配置の正確な制御が難しい。 • 作製及び測定の再現性に問題がある。 • 散乱による迷光の影響を受けやすい。
• FT-IRを用いた全反射測定法(表面プラズモンは用いていない) • 赤外吸収がない物質は測定できない。 • FT-IR装置が必要になるので、簡便に測定できない。
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新技術の特徴・従来技術との比較、想定される用途
• 屈折率の高い化合物半導体基板をガラスプリズムの代わりに利用 • GaP基板(屈折率3.32)を用いることで、屈折率が1.5を越える高屈折率媒質の
検出が可能 • 可視光線(半導体レーザー)での評価が可能で、小型の光学系で測定が可能。
装置の小型化を目指したい。 • 想定される用途:環境計測用のセンサー
• 重金属やハロゲンを含んだ毒性のある危険物の検出 • 海に沈む細かいプラスチック(マイクロプラスチック)の検出
Kretschmann配置
半導体
本技術のモデル
金属
検出したい媒質
金属
検出したい媒質 伝搬型SPP 伝搬型SPP
RCWA法による反射率の入射角度及び膜厚依存性
• 2,4-ジクロロトルエン(C7H6Cl2、屈折率1.55の検出) • 31.5°で反射率がもっとも最小になる。
• 理論から求まる値とほぼ一致。
• Auの膜厚が50nmのとき、もっとも反射率が小さくなる。
10
20 25 30 35 40 45 500.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Au 10 nm Au 20 nm Au 30 nm Au 40 nm Au 50 nm Au 60 nm Au 70 nm
Refle
ctan
ce
Incident Angle (deg.)
31.5°
24 26 28 30 32 340.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.070nm
50nm
30nm
Refle
ctan
ce
Incident Angle (deg.)
10nm
シミュレーション結果 実験結果
GaP/Au/C7H6Cl2 反射率の入射角度依存性(TM波)
• シミュレーションの結果と実験結果で、臨界角、SPP励起角度、SPP励起角度での反射率は、ほぼ一致した。
• Au膜厚を最適化することで、反射率を0にすること(高感度化)は可能。 11
24 26 28 30 32 340.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
SPP excitation angle31.1o
Au thickness 30nm
Refle
ctan
ceIncident Angle (deg.)
Au thickness 70nm
Critical angle28.1oGaP基板
被測定媒質 Au薄膜
反射光
エタノール希釈溶液での評価
• エタノール希釈の2,4-ジクロロトルエン(C2H5OH-C7H6Cl2)とエタノール希釈の1-ブロモナフタレン( C2H5OH-C10H7Br)の検出結果
• C2H5OH-C7H6Cl2については、屈折率1.36~1.55(C7H6Cl2濃度0~100%)で検出可能。
• ( C2H5OH-C10H7Brについては、屈折率1.36~1.62(C7H6Cl2濃度0~90%)で検出可能。
1.35 1.40 1.45 1.50 1.55 1.60 1.6525.0
27.5
30.0
32.5
35.0 Simulation C2H5OH-C10H7Br (Experiment) C2H5OH-C7H6Cl2 (Experiment)
SP
R a
ngle
(deg
.)
Index of refraction for mixed solution
実用化に向けた課題
• センサーの高感度化 • 分解能の向上 • 低入射角度での励起方法の検討
• 光源、センサー部、受光素子を一体化したセンシングシステムの開発
金属ナノ周期構造を用いた2層型ワイヤーグリッド偏光子
従来技術とその問題点、期待される用途 • 偏光子の想定される用途
• カメラ、プロジェクターなどで鮮明な画像を得る。 • 偏光計測用機器に使用。 • 半導体露光装置の解像、度の向上させる。 • 光通信用光アイソレータなどに使用。
• 本研究では、ワイヤーグリッド偏光子に着目
偏光子 プリズム型 複屈折または全反射を利用
フィルター型 光の吸収または電界の反射を利用
○ 素子の薄型化○ 広い入射角度× 消光比が小さい
○ 偏光特性良好× 素子が厚い× 入射角度制限
polarization
polarization
ワイヤ-グリッド偏光子の利点
• ワイヤーグリッド偏光子に着目 • 金属細線を周期的に並べた回折格子構造 • 金属細線の長さ方向と長さ方向と垂直な方向では、長さ方向の方が自由電子が集団振動しやすい。
• TE偏光の光を反射、TM偏光の光を透過する。(光学異方性が発生する。) • 微細加工の制約から可視~赤外領域で利用されている。
• 同じフィルター型偏光子で光の吸収を利用したものもある。 • ハロゲン化銀粒子をガラス基板に混ぜ込んで圧延する。しかし、紫外領域で透明な蛍石やフッ素ドープ石英硝子では圧延できない。紫外領域の偏光子が実現できない
• ポリビニルアルコール(PVA)を用いた偏光子は、吸湿性があるため、】保護フィルムが必要。
金属回折格子構造を利用
ワイヤ-グリッド偏光子TM polarizationtransmittance
incident light
TE polarizationreflection
plane of incidence
WGP
2層型ワイヤーグリッド偏光子の特徴
• 2層型ワイヤーグリッド偏光子を作製する。 • 金属材料を選ぶことで紫外~赤外まで対応可能。 • プリズム型に比べ、入射角度制限が小さい。 • 構造を最適化することで、消光比を改善することが可能。 • 電子線描画と金属膜のスパッタだけで作製可能
• 量産化の場合、ナノインプリントでガラス基板に直接パターン転写をしてもよいと考えられる。
p:周期
w
t
t h
t:Auの厚さ h:レジストの厚さ w:レジストの幅
EB レジスト
Au
ガラス基板
p:周期
w
t
t h EB レジスト
Au
ガラス基板
研究目的と実施内容
• 二層型ワイヤーグリッド偏光子(WGP)を用いて、表面プラズモンによる異常透過現象を実験的、理論的に解明する
• 実施内容 • WGPの作製 • 垂直入射による偏光特性評価 • 偏光特性の入射角度依存性 • 偏光特性の解析(分散曲線及びRCWA)
t:Auの厚さ h:レジストの厚さ w:レジストの幅
電子線描画でパターンを作製し、Auをスパッタで成膜して2層型WGPを作製
表面SEM像
600nm
200 400 600 800 100018
20
22
24
26
28
30
32
消光
比 (
dB
)
周期 (nm)200 400 600 800 1000
0.00
0.01
0.02
0.03
0.04
0.05
0.06
0.07
0.08
周期 (nm)
TM
透過
率
TE 透
過率
×10
-3
TM
TE0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
0.30
垂直入射による偏光特性
• 波長635nmのレーザー光を照射した。 • TM偏光の透過率は、周期によって変化する。周期400nmでピークをもつ
• TE偏光の透過率は、周期によらず0.05×10-3で、TM偏光の透過率より3桁低い。
• 消光比は、周期400nmで、30.4dBとなった。
二層型WGPの偏光特性の入射角依存性 • 波長635nmのレーザー光を照射した。 • TM偏光の透過率だけ、周期と共にピークになる入射角度が変化する。
• 垂直入射時は、400nmでTM偏光透過率はピークとなる。
• TE偏光は、TM偏光より3桁透過率が低く、入射角度依存性がなかった。
• 周期318nmのとき、消光比33.8dBであった。
0 10 20 30 40 50 60 700.00
0.05
0.10
0.15
0.20
p=300 nm
p=318 nm
TM tr
ansm
ittan
ce
Incident Angle (deg.)
p=400nm
0 10 20 30 40 50 60 700.00
0.02
0.04
0.06
0.08
0.10
p=1000 nmp=800 nm
p=600 nm
p=400 nm
TM tr
ansm
ittan
ce
Incident Angle (deg.)
二層型WGPの偏光特性の入射角依存性
• TM偏光透過率のピーク角度は、周期によって変化 • 周期400nm付近では、垂直入射の時にピークとなる。 • 周期が400nm未満、400nm以上では、ピーク角度が高角度側にシフトする。
200 400 600 800 1000 1200-10
0102030405060708090
Pea
k A
ngle
(deg
.)
Period (nm)
周期に対する表面プラズモン励起角度とTM偏光透過率のピーク角度の関係
• 計算による表面プラズモン共鳴角度と測定によるTM透過率のピーク角度が一致 • 周期に対して、TM偏光透過率ピーク角度が変化するのは、表面プラズモン共鳴に
よる異常透過現象と考えられる。 • 周期と入射角度で偏光特性を制御できる偏光子である。
200 400 600 800 1000 1200-10
0102030405060708090
Experiment Calculation
SP
P E
xciti
ng A
ngle
(deg
.)
Period (nm)
実用化に向けた課題
•特性に関する課題 • 消光比の改善 • 損失の評価 • 短波長領域(近紫外~緑色)や近赤外領域での特性
•実用化に向けて
• 周期構造の寸法や使用する波長は、ニーズに合わせて調整は可能であるが、ニーズに合わせた設計が必要。
• 研究では電子線レジストを用いたが、ニーズによってはガラス基板表面に直接凹凸加工を施すことも可能である。但し、ドライエッチング工程が必要になる。
• 大面積、大量生産のためには、ナノインプリントやフォトリソグラフィ技術などの技術が必要になる。
最後に(企業への期待、所有する知的財産、産学連携の経歴など)
企業への期待
•表面プラズモン共鳴を利用した光学デバイスの実用化は、センサー以外はまだこれからである。
• 基礎研究を続けながら、企業のニーズに応えられるような技術にしていきたいと考えている。
• 企業のニーズを知るところから始め、共同研究を行っていきたいと考えている。
• 光計測、光通信、フォトリソグラフィ、医療・バイオ、環境の分野での応用が期待できる。
•ナノ構造作製技術に関して • 電子線描画は、大面積、大量生産には向かないので、量産化技術を持っている企業の協力をお願いしたい。
• 試作レベルであれば、ナノテクプラットフォームの活用も可能と考えられる。
本技術に関する知的財産権
• 発明の名称 :光学装置の製造方法及び光学装置 • 出願番号 :特願2014-024746 • 出願人 :三重大学 • 発明者 :元垣内敦司、平松和政、森下雄太
産学連携の経歴 • 平成16年度~平成18年度 文部科学省 都市エリア産学官連携促進事業 • 平成18年度 三重県科学技術振興センター みえ研究交流サロン「感性系照明開発
技術研究会」 • 三重県の伝統工芸品とLED照明を組み合わせたLED感性系照明の共同開発を行った。
• 平成20年度~平成25年度 文部科学省 知的クラスター創成事業 • 地元企業とLED照明に関する共同研究を行った。
• 平成23年度~平成24年度 JST 研究成果最適支援プログラムFSステージ探索タイプ • 地元企業とバイナリ型回折レンズを用いたLED照明用光学素子の共同研究を行った。(特
開2012-123371)
• 平成23年度~現在 三重県産業支援センター みえハイテクフォーラム 光応用技術研究会
• アドバイザーとして研究会に参加し、光技術に関する地域貢献活動を行う。
• 平成25年度~平成26年度 中小企業中央会 平成24年度補正 ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援補助事業からの委託
• 東海地方の中小企業(光技術応用研究会のメンバー企業)と光学フィルムを用いた配光制御LED光源に関する共同研究を行った。
お問い合わせ先
国立大学法人三重大学 社会連携研究センター 知的財産統括室 TEL: 059 - 231 -5495 FAX: 059 - 231 -9743 e-mail: chizai-mip@crc.mie-u.ac.jp