薄型テレビ業界の現状と課題 -...

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経営センサー 2008.12 36 36 経済・産業/トピックス 経済・産業/業界展望 はじめに 日本発で普及が始まった薄型テレビは、価格 の急速な下落、画質向上、先進国におけるアナロ グ放送からデジタル放送への移行、新興国の生活 水準向上に伴い市場が拡大してきた。 日本では、2005 年 5 月、液晶テレビの出荷台 数が初めてブラウン管テレビを抜いた 1 。世界市 場でも、2007 年 10 ~ 12 月期に液晶テレビの出 荷台数がブラウン管テレビを初めて上回り、2008 年 7 ~ 9 月期には、液晶テレビとプラズマテレビ の出荷台数(合計)が全テレビ出荷台数の 57 % を占めるに至っている 2 薄型テレビ市場は、今後も成長を続けるのだ ろうか。メーカーは急速な価格下落、国内外での 競争激化にどう対応すればよいのだろうか。ここ では、液晶とプラズマに的を絞り、薄型テレビ市 場の今後を展望したい。 薄型テレビ業界の現状と課題 成長続くも視界不良、海外市場をどう攻略するか永井 知美(ながい ともみ) 産業経済調査部 産業アナリスト 1986 年山一証券経済研究所入社。外国企業調査部で主に欧米医薬品・化学業界 の調査を担当。その後翻訳業を経て、1999 年(株)東レ経営研究所入社。日本 証券アナリスト協会検定会員。2005 年 1 月から金融庁企業会計審議会委員。 E-mail : [email protected] Point 1 日本発で普及が始まった薄型テレビは、価格の急速な下落、画質向上、先進国におけるアナログ放 送からデジタル放送への移行、新興国の生活水準向上に伴い市場が拡大してきた。中でも出荷台数 を急激に伸ばし、薄型テレビの主役となっているのが液晶テレビである。現在、北米と欧州が、液 晶テレビとプラズマテレビの世界の二大市場となっている。 2 薄型テレビは、市場の急拡大にもかかわらず値下がりが激しく、セットメーカーとして同事業だけ で利益を出すのは既に困難となっている。 3 日本国内の薄型テレビ市場では、日本メーカーの存在感が圧倒的だが、海外ではサムスン電子、LG 電子といった韓国メーカーも強い。設備投資の姿勢や収益面で強い存在感を見せているのは、サムス ン電子、パナソニック、シャープ、LG 電子といった垂直統合型企業である。 4 日本の薄型パネル業界では、資金負担の重さとパネル製造のリスク等を背景に、2007 年以降、大 規模な再編が進展した。 4 今後、薄型テレビ市場としての日本の相対的地位低下が予想される中、海外市場開拓の重要性が高ま っている。薄型テレビ業界で生き残りを図るには、価格下落に対応するとともに、海外展開に成功す ることが必須となるだろう。 1 電子情報技術産業協会(JEITA)調べ。 2 ディスプレイサーチ調べ。

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Page 1: 薄型テレビ業界の現状と課題 - TORAY...の優位性が薄れつつあり市場が縮小している。次 世代薄型テレビとして有望視されている有機EL

経営センサー 2008.123636

経済・産業/トピックス経済・産業/業界展望

はじめに

日本発で普及が始まった薄型テレビは、価格

の急速な下落、画質向上、先進国におけるアナロ

グ放送からデジタル放送への移行、新興国の生活

水準向上に伴い市場が拡大してきた。

日本では、2005 年 5 月、液晶テレビの出荷台

数が初めてブラウン管テレビを抜いた 1。世界市

場でも、2007 年 10 ~ 12 月期に液晶テレビの出

荷台数がブラウン管テレビを初めて上回り、2008

年 7 ~ 9 月期には、液晶テレビとプラズマテレビ

の出荷台数(合計)が全テレビ出荷台数の 57 %

を占めるに至っている 2。

薄型テレビ市場は、今後も成長を続けるのだ

ろうか。メーカーは急速な価格下落、国内外での

競争激化にどう対応すればよいのだろうか。ここ

では、液晶とプラズマに的を絞り、薄型テレビ市

場の今後を展望したい。

薄型テレビ業界の現状と課題―成長続くも視界不良、海外市場をどう攻略するか―

永井 知美(ながいともみ)産業経済調査部 産業アナリスト

1986年山一証券経済研究所入社。外国企業調査部で主に欧米医薬品・化学業界の調査を担当。その後翻訳業を経て、1999年(株)東レ経営研究所入社。日本証券アナリスト協会検定会員。2005年 1月から金融庁企業会計審議会委員。E-mail : [email protected]

Point1 日本発で普及が始まった薄型テレビは、価格の急速な下落、画質向上、先進国におけるアナログ放

送からデジタル放送への移行、新興国の生活水準向上に伴い市場が拡大してきた。中でも出荷台数

を急激に伸ばし、薄型テレビの主役となっているのが液晶テレビである。現在、北米と欧州が、液

晶テレビとプラズマテレビの世界の二大市場となっている。2 薄型テレビは、市場の急拡大にもかかわらず値下がりが激しく、セットメーカーとして同事業だけ

で利益を出すのは既に困難となっている。3 日本国内の薄型テレビ市場では、日本メーカーの存在感が圧倒的だが、海外ではサムスン電子、LG

電子といった韓国メーカーも強い。設備投資の姿勢や収益面で強い存在感を見せているのは、サムス

ン電子、パナソニック、シャープ、LG電子といった垂直統合型企業である。4 日本の薄型パネル業界では、資金負担の重さとパネル製造のリスク等を背景に、2007年以降、大

規模な再編が進展した。4 今後、薄型テレビ市場としての日本の相対的地位低下が予想される中、海外市場開拓の重要性が高ま

っている。薄型テレビ業界で生き残りを図るには、価格下落に対応するとともに、海外展開に成功す

ることが必須となるだろう。

1 電子情報技術産業協会(JEITA)調べ。2 ディスプレイサーチ調べ。

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今後の景気の焦点は設備投資の持続力

2008.12 経営センサー37

薄型テレビ業界の現状と課題

37

1.薄型テレビ市場の現状(1)主役は液晶テレビ

薄型テレビは一般にフラットパネル・ディス

プレイを使ったテレビを指し、液晶テレビ、プラ

ズマテレビ、リアプロジェクションテレビ 3(以

下リアプロテレビ)、有機 EL テレビが商品化さ

れている。液晶テレビは高精細化、プラズマテレ

ビは動画・大画面化、リアプロテレビは価格・大

画面化、有機 EL テレビは画質・薄型化に強みを

持っている(図表 1)。

テレビの主役は長らくブラウン管テレビだっ

たが、2000 年代半ばに日本で液晶テレビ、プラ

ズマテレビの本格普及が始まり、北米、欧州、中

国等でも市場が拡大していった。液晶テレビの世

界出荷台数がブラウン管テレビを初めて上回った

のは、2007 年 10 ~ 12 月期である(図表 2)。大

画面サイズでの展開となるプラズマテレビも、液

晶テレビほどではないが高成長を続けている(図

表 3)。ただ、同じ薄型テレビでも、リアプロテ

レビは、液晶・プラズマテレビに対する価格面で

主要サイズ

特徴

主要メーカー

32~65型 10~60型 50~60型 11型 動画に強い 省電力・軽量 低価格 画質が鮮明・省電力 画質(特にコントラスト) 高精細化が容易 大画面化が容易 応答速度速い に強み 動きの速いシーンで ある程度奥行きがある 薄型化可能 フルHD化に課題 残像感がある場合も 寿命が短く大型化困難 パナソニック サムスン電子、ソニー サムスン電子 ソニー サムスン電子、LG電子 LG電子、フィリップス 三菱電機 日立製作所 シャープ

マイクロディスプレイタイプ リアプロジェクションテレビ プラズマテレビ 液晶テレビ 有機ELテレビ

図表 1 薄型テレビの特徴

出所:ディスプレイサーチ資料等を参考に作成

液晶テレビ

リアプロテレビ プラズマテレビ

ブラウン管テレビ

05,001,0001,5002,0002,5003,0003,5004,0004,5005,0005,5006,000

04年1~3月

4~6月

7~9月

10~12月

05年1~3月

4~6月

7~9月

10~12月

06年1~3月

4~6月

7~9月

10~12月

07年1~3月

4~6月

7~9月

10~12月

08年1~3月

4~6月

7~9月

万台

図表 2 世界のテレビ出荷台数推移

注:リアプロテレビはブラウン管方式を除く出所:ディスプレイサーチ

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500液晶テレビ プラズマテレビ リアプロテレビ ブラウン管テレビ

04年1~3月

4~6月

7~9月

10~12月

05年1~3月

4~6月

7~9月

10~12月

06年1~3月

4~6月

7~9月

10~12月

07年1~3月

4~6月

7~9月

10~12月

08年1~3月

4~6月

7~9月

図表 3 方式別テレビ出荷台数伸び率の推移(世界)

注: 04年 1~ 3月期の出荷台数を 100 として計算出所:ディスプレイサーチ

3 リアプロジェクションテレビは、テレビの画面の後ろから画像を投影する方式。ブラウン管リアプロテレビと薄型のマイクロディスプレイタイプリアプロテレビがあるが、薄型でもある程度厚みがあるのが難点。住宅が広く低所得層が一定数いる米国では人気があった。

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の優位性が薄れつつあり市場が縮小している。次

世代薄型テレビとして有望視されている有機 EL

テレビも商品化が緒に就いたばかりである 4。し

たがって、ここでは液晶テレビとプラズマテレビ

を中心に話を進めたい。

薄型テレビの市場拡大の背景には、急速な価

格下落、画質の向上、先進国のアナログ放送から

デジタル放送への移行、新興国の生活水準向上が

ある(図表 4)。

薄型テレビの中でも成長著しいのが液晶テレビ

である。液晶テレビは、かつては動きの速いシー

ンになると映像がぶれるうえ大型化が困難とされ

ていたが、日韓メーカーのブランド品を中心に画

質の向上と大型化が進展、大

型サイズでプラズマテレビの

シェアを侵食している。液晶

テレビ優位の背景には、中小

型からの品揃えが可能である

ことやプラズマに比べて参入

企業が多く、家電量販店等小

売店での存在感が大きいこ

と、プラズマに比べ中小型で

のフルHD 5 化が容易なこともある。

(2)北米と欧州が二大市場

日本発で普及が進展した液晶テレビとプラズマ

テレビだが、北米、欧州、中国でも市場が拡大し、

現在、北米と欧州が世界の二大市場になっている。

液晶テレビを例にとると、2008 年 7 ~ 9 月期

時点で最大の市場は欧州(西欧+東欧)、次いで

北米である(図表 5、6)。日本が世界最大の液晶

テレビ市場であったのは 2004 年 4 ~ 6 月期まで

で、その後は欧米市場の成長が目覚ましい。

プラズマテレビの地域別出荷台数推移は図表 7

の通りである。

経営センサー 2008.12

経済・産業/トピックス

38

経済・産業/業界展望

38

4  2008年 11月現在で商品化されている有機 ELテレビはソニーの 11型だけである。5 フルHD(full high definitionの略)は、高精細のフル規格ハイビジョンのこと。家庭用テレビの場合、BSデジタルハイビジョン放送の横 1,920×縦 1,080 画素の信号を圧縮しないで表示するパネルを「フルHD対応」と呼ぶ。

日本 米国 英国 フランス ドイツ イタリア スペイン

国名 98年 99年 00年 01年 02年 03年 04年 05年 06年 07年 08年 09年 10年 11年 12年

図表 4 各国のアナログ・テレビ放送から地上波デジタル・テレビ放送への移行時期

出所:テクノアソシエーツ HD Processing FORUM「ハイビジョン化:先行する日本、遅れる米国・欧州 CEATEC JAPAN 2008 にみる技術動向④」

南米 6.0%

中東・アフリカ 2.9%

北米 29.8%

西欧 23.1%

中国 13.9%

東欧 9.0%

日本 8.0%

アジア太平洋 7.3%

図表 5 液晶テレビ出荷台数の地域別内訳

注: 2008 年 7~ 9月期。世界出荷台数は 2,676 万台。出所:ディスプレイサーチ

0

200

400

600

800

1,000

1,200

04年1~3月

7~9月

05年1~3月

7~9月

06年1~3月

7~9月

07年1~3月

7~9月

08年1~3月

7~9月

欧州

北米

日本

中国

万台

図表 6 地域別・液晶テレビ出荷台数推移

出所:ディスプレイサーチ

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今後の景気の焦点は設備投資の持続力

2008.12 経営センサー39

薄型テレビ業界の現状と課題

39

2008 年 7 ~ 9 月期時点で、薄型テレビがテレ

ビ出荷台数に占める比率は日本が 98 %、北米

91 %、欧州 88 %に達している。先進国に比べ所

得水準が低く、本格普及は先と見られていた中国

でも、薄型テレビが占める比率は既に 4割近くに

なっている(図表 8)。

世界という視点で見ると、薄型テレビ市場に

おける日本の存在感は徐々に低下している。日本

市場が世界の薄型テレビ市場 6 に占める比率は、

2004 年の 1 ~ 3 月期の 25 %から、2008 年 7 ~ 9

月期には 8%程度に低下した。

(3)値下がり続く薄型テレビ

薄型テレビの価格推移を液晶テレビの主力であ

る 32型で見ると、新製品発売や高機能化で下落幅

が縮小する局面もあったものの、ここ 2年余りで

半値以下の 623 ドルになっている(図表 9)。2004

年 1 ~ 3 月期時点で、30 ~ 34 型液晶テレビの平

均販売価格が 4,265 ドルであったことに比べると、

過去数年の価格下落の凄まじさがよく分かる。

なぜ、薄型テレビは値下がりが激しいのだろ

うか。一つにはパネルの価格下落がある。国内外

のパネルメーカーは最新鋭工場を相次ぎ稼働さ

せ、供給能力を高めてきた。

薄型テレビのメーカーが生産性の高い大規模

工場を稼働させ、価格下落を先導して需要を喚起

してきた面もある 7。

メーカーより立場が強い小売業者が価格形成

で主導権を握ることが多く、安売りに走りがちと

いう点も価格下落の要因となっている。

欧州

北米

日本 中国

04年1~3月

7~9月

05年1~3月

7~9月

06年1~3月

7~9月

07年1~3月

7~9月

08年1~3月

7~9月

0

20

40

60

80

100

120

140

160万台

図表 7 地域別・プラズマテレビ出荷台数推移

出所:ディスプレイサーチ

日本 欧州 北米 中国

2004年1~3月期 2008年7~9月期

日本 欧州 北米 中国

リアプロ他

プラズマ

液晶

ブラウン管

0%

20%

40%

60%

80%

100%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

図表 8 地域別・テレビ出荷台数の方式別内訳

注 1:リアプロ他はリアプロテレビ(マイクロディスプレイタイプとブラウン管の合計)と有機ELテレビの合計注 2: 2004 年 1~ 3月期の各市場の出荷台数(合計)は日本: 217 万台、欧州: 841 万台、北米: 685 万台、中国: 837 万台注 3: 2008 年 7~ 9月期の各市場の出荷台数(合計)は日本: 243 万台、欧州: 1,105 台、北米: 1,002 万台、中国: 1,176 万台

出所:ディスプレイサーチ

6 液晶、プラズマ、リアプロの合計。7 パネル製造から組み立てまで一貫して行う垂直統合型の場合は特に資金を要するので、投資できる企業は限られる。ブラウン管テレビの時代に比べ、薄型テレビ業界は上位企業の寡占が進展している。

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(4)利益なき繁忙

値下がりは消費者の購入意欲を喚起し市場拡

大を促すという側面もあるが、メーカーにとって

はマイナス面が大きい。

市場の急拡大にもかかわらず、薄型テレビで

利益を出すのは既に困難となっており、主要メー

カーの中でも利益を確保しているのは、ごく一握

りのメーカーと見られている 8。

各メーカーの製品別業績は公表されていない

ので、市場全体の動向を見ると、2006 年 1 ~ 3

月期から 2008 年 7 ~ 9 月期にかけて、液晶テレ

ビ市場(数量ベース)は 3.6 倍に拡大したにもか

かわらず、金額ベースでは 2.4 倍にとどまってい

る。同時期に大型化と性能・機能の向上が進展し

たことも勘案すると、薄型テレビ市場の環境がい

かに厳しいかがよく分かる。

2.パネル分野で大規模な国内再編(1)薄型テレビの有力企業

-日本企業は内弁慶?-

さて、ここで薄型テレビ業界の勢力図を再確

認しておきたい。日本国内では、薄型テレビと言

えばソニー、パナソニック、シャープ等日本メー

カーの存在感が圧倒的だが、海外市場はどうだろ

うか。

日本の液晶テレビとプラズマテレビのシェア

は図表 10 の通りである。液晶テレビではシャー

プ、プラズマテレビではパナソニックが圧倒的な

シェアを占めているが、とりわけ、プラズマテレ

ビはパナソニックと日立製作所の 2 社でシェア

98 %という寡占市場になっている。液晶・プラ

ズマいずれでも海外メーカーの存在感はほぼゼロ

である。

世界市場になると大きく様子が変わる(図表

11)。プラズマテレビではパナソニックがシェア

経営センサー 2008.12

経済・産業/トピックス

40

経済・産業/業界展望

40

623.0

1,439.4

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

06年1~3月

4~6月

7~9月

10~12月

07年1~3月

4~6月

7~9月

10~12月

08年1~3月

4~6月

7~9月

ドル

図表 9 液晶テレビ(32 型)平均販売価格の推移

注: 1,366 × 768 出所:ディスプレイサーチ

8 世界第 2位の薄型テレビメーカーであるソニーですら、テレビ事業は赤字である。ただ、テレビ事業では赤字でも、パネル事業や関連する半導体事業では利益を上げているメーカーもあるので、収益性を見る際は、総合的に判断する必要がある。

液晶テレビ プラズマ

45%

15%

15%

5%

3%

13%

4%

71%

27%

2%

パナソニック

東芝

その他

三菱電機

ソニー

日立製作所

パナソニック

日立製作所

パイオニア

シャープ

図表 10 日本のテレビ出荷台数シェア(2008 年 7~ 9月期)

注:出荷台数は液晶213万台、プラズマ 26万台 出所:ディスプレイサーチ

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今後の景気の焦点は設備投資の持続力

2008.12 経営センサー41

薄型テレビ業界の現状と課題

41

1 位だが、液晶テレビではサムスン電子、LG 電

子の韓国勢も強い。日本メーカーでは、ブランド

力の高いソニーが液晶テレビでシェア 2位と健闘

している。

韓国のサムスン電子、LG電子は、日本メーカー

に先駆けて新興国市場を開拓してきた。韓国は

日本に比べて国内市場が小さく所得水準も低い

ため、海外に進出せざるを得なかったためだが、

先進国は基本的に日本メーカーが押さえていた

ため、中国、インド等新興国に積極展開してい

った 9。

近年、サムスン電子、LG 電子は、欧米先進国

でも高級携帯電話機メーカーとしてブランド力を

高め、薄型テレビの分野でも存在感を増している。

両社の日本での知名度は低いが、海外では日本製

品と並ぶプレミアムブランドである。いずれも薄

型テレビ事業ではパネルから手掛ける垂直統合型

企業であり、中でもサムスン電子のパネルのコス

ト競争力は世界最高水準とされている。

韓国勢以外の薄型テレビ有力メーカーにフィ

リップス(オランダ)がある。フィリップスは、

パネルを台湾メーカーから調達し安売りを仕掛け

るなどして、一時は欧米市場で高シェアをとって

いたが、収益悪化に伴い、軸足をデジタル家電か

ら照明や医療機器事業に移しつつある。2008 年 9

月、フィリップスは北米でのテレビ事業から完全

撤退した 10。

フィリップスの地位低下もあり、世界の薄型

テレビ市場は、日本メーカー対韓国メーカーの様

相を呈しつつある。

(2)日本メーカーはパネルを中心に再編が進展

薄型テレビの主要部材であるパネルの量産ラ

イン新設には、数百億~数千億円の巨額投資が必

要である。

図表 12 のように、テレビ向け液晶パネルでは

韓国・台湾メーカーが 8割近いシェアを握ってい

る。液晶パネルはコモディティー化が進展してお

り、大規模な設備投資を行ってシェアをとらなけ

れば負けるが、需給も価格も変動が大きく、ギャ

ンブル的側面が強い。

かつて、日本の薄型テレビ業界では、パネル製

造から組立まで一貫して行う垂直統合型のビジネ

スモデルが主流だった。しかし、近年、競争激化、

船井電機 3%

ビジオ 3%

長虹(中国)

ビジオ

ハイセンス(中国)

プラズマ 液晶

サムスン電子 20%

ソニー 14%

LG電子 9%フィリップス

7%

シャープ 10%

東芝 7%

パナソニック 4%

その他 23%

パナソニック 38%

22%

LG電子 16%

日立製作所 4%

4%

3%

3%その他 10%

サムスン電子

図表 11 世界のテレビ出荷台数シェア(2008 年 7~ 9月期)

注:出荷台数は液晶2,676 万台、プラズマ 339万台 出所:ディスプレイサーチ

9 サムスン電子、LG電子の新興国進出成功の背景には、派手な広告による認知度向上、現地消費者の嗜好に合わせた製品作りがある。

10 フィリップスは、米国及びカナダにおける民生用テレビ事業のブランド使用権のライセンス契約を、船井電機と締結した。

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価格下落による収益悪化、資金負担の重さにより、

パネル製造から距離を置くメーカーが増えている。

2007 年以降、日本ではパネルを中心とした大

規模な業界再編が進展した。

① 薄型パネルはシャープ・パナソニック・ソニーを

軸に再編が進展

2007 年 12 月、松下電器産業(現パナソニッ

ク)・日立製作所・キヤノンが薄型パネルで包括

提携した。松下は共同出資会社 11 だった液晶パネ

ルメーカーの IPS アルファテクノロジを傘下にお

さめ、姫路に新工場を新設して液晶パネルに本格

展開する 12。同じく 2007 年

12 月、東芝とシャープは液

晶パネル事業での提携を発表

した。東芝は液晶パネルを自

社生産中心からシャープ等か

らの外部調達に切り替える。

世界第 2 位の薄型テレビ

メーカーであるソニーは、液

晶パネルを韓国サムスン電子

との合弁企業 S-LCD 等から

調達していたが、シャープが

堺に建設する液晶パネルを中

心とするコンビナートにも共同出資し、シャープ

からも調達する 13。

薄型パネルを巡っては、シャープとパイオニ

アの提携もあり、シャープ、パナソニック、ソニ

ーを軸とした 3陣営に集約された(図表 13)。

再編の急速な進展の背景には、資金負担とパ

ネル製造のリスクの大きさ以外に、①パネル製造

に大規模な設備投資を行うシャープ、パナソニッ

クはリスク分散のため外販先を確保する必要があ

る、②ソニーは調達先を増やすことでパネルの安

定・低コスト調達を図りたい、③中下位メーカー

はパネルの安定した調達先がほしい、などの理由

がある。

② プラズマパネルはパナソニックの独壇場

プラズマテレビは台数ベースの市場規模で液

晶テレビに大差をつけられるものの、ここにきて

37 型以上の大型市場では、液晶 75 %、プラズマ

25 %の比率で安定してきた。そのような中、プ

ラズマパネルは、パナソニックが孤高の大型投資

という状況である。日立製作所とパイオニアがパ

ナソニックからのパネルや部材の調達を計画、

LG 電子もプラズマパネルへの新規投資は予定し

ていない。

経営センサー 2008.12

経済・産業/トピックス

42

経済・産業/業界展望

42

21%

19%

18%

2%5% 20%

15%

CMO(台湾)

LGディスプレイ

AUO(台湾)

CPT(台湾) IPS

サムスン電子

シャープ

/S-LCD

図表 12 テレビ向け大型 TFT 液晶パネル出荷シェア(世界 2008 年 7~ 9月期)

出所:テクノ・システム・リサーチ

11 日立ディスプレイズ、松下電器産業(当時)、東芝の 3社が出資していた。12 従来、プラズマテレビを中心に据えていたパナソニックにとっては、大きな方向転換である。13 ソニーは、サムスン電子との液晶パネル合弁工場にも追加投資する。

液晶事業で協業 プラズマ部材を供給

プラズマパネル供給

液晶パネル共同生産

液晶パネル 共同生産へ

液晶パネル  供給

液晶パネル供給

液晶 プラズマ

ソ ニ

シャープ

パナソニック

日立製作所

サムスングループ

LGグループ

東芝

パイオニア

図表 13 薄型パネルをめぐる勢力図

出所:報道等をもとに作成

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今後の景気の焦点は設備投資の持続力

2008.12 経営センサー43

薄型テレビ業界の現状と課題

43

(3)垂直統合・水平分業・ファブレス企業

日本の薄型テレビメーカーは、パネルを巡る

再編を経て、パネルからの一貫生産を行う垂直統

合型とパネルを外部から購入する水平分業型に分

かれた。これに加えて、米国には組立すら行わな

いファブレス企業も登場している。

① 垂直統合型企業

大規模投資を行い、パネル製造から組立まで一

貫して行う企業で、日本ではパナソニックとシャ

ープがこれに該当する。合弁企業からパネルを調

達しているソニーは、擬似垂直統合型とも言える。

垂直統合型の利点は、パネル調達が容易である、

製品全体に関する統合的な技術知識を蓄積できる、

外部調達型に比べて利幅が厚い等がある。パネル

製造から組立まで一貫して作り込む分、性能向上

の点で有利なだけでなく、コスト削減対象が幅広

いことからコスト面でも強みがあるとされる。

短所としては巨額投資が必要、不況期にパネ

ルの外販先からキャンセルが出る恐れがあるなど

自社ブランドの販売力が弱い場合は、景気変動に

対するリスクの大きさ等が挙げられる。金融危機

による需要減少・価格下落の再加速という厳しい

状況下、莫大な設備投資資金を必要とする垂直統

合型のリスクは高いように思われるが、多額の資

金を要することが参入障壁になっている面もあ

る。外販先からのキャンセルについても、パナソ

ニックやシャープのパネルは評価が高いため、最

初にキャンセルされるような立場にはないとの声

もある 14。パネル調達先として優先順位が高けれ

ば、不況期にも外販事業が大きな変動を受けるこ

とはないとのことである。

垂直統合型の問題点は、むしろ別のところにあ

ると語る業界関係者もある。垂直統合型のメリッ

トを生かして更に高性能・高機能の製品を開発し

ても、一般消費者では判別できないような高レベ

ルに達してしまっているために、性能差をうまく

価格差に結び付けられない傾向にある点である。

② 水平分業型企業

パネルを外部から調達して、制御プログラム

による画質や性能・機能の差異化を図るビジネス

モデルで、日本メーカーでは東芝等がこれに当た

る。設備投資のリスクを負わない半面で、垂直統

合型に比べて統合的な技術蓄積で劣る、同質化に

陥りがちで価格競争に巻き込まれやすい、好況期

にはパネルが思うように調達できない恐れがある

などの短所がある。

③ ファブレス企業

米国では、組立すら行わず企画・設計、マー

ケティング、販売等のみを行うファブレス企業も

一定のシェアをとっている。代表例は、2007 年

に米国の薄型テレビ市場で一時トップシェアをと

ったビジオである。

ファブレス企業の最大の武器は、低コスト経営

による低価格である。ビジオは企画・設計のみを

行い、生産は中国企業等に委託して、32 型標準

ハイビジョン液晶テレビ約 530 ドル(2008 年 10

月店頭価格)という破格の値段で販売している。

ただ、ここへきてファブレス企業の勢いに陰

りが見える 15。ソニー、サムスン電子といったプ

レミアムブランドのメーカーが低価格攻勢をかけ

ていること、財務体質の弱さ、家電量販店の PB

ブランド販売によるもので、「安い」が訴求点の

ファブレス企業のビジネスモデルは岐路に差し掛

かっている。

3.薄型テレビ市場の展望(1)先進国は成長鈍化へ 高成長が期待される

新興国市場

米調査会社ディスプレイサーチによると、薄型

14 薄型テレビメーカーは、通常、複数のパネルメーカーからパネルを調達している。15 2008年 7月、米国有力ファブレス企業の一角シンタックス・ブリリアン社が経営破たんした。

Page 9: 薄型テレビ業界の現状と課題 - TORAY...の優位性が薄れつつあり市場が縮小している。次 世代薄型テレビとして有望視されている有機EL

テレビ市場は今後も液晶テレビを中心に数量ベー

スで拡大する見通しである(図表14)。先進国では

ブラウン管テレビの代替需要、価格下落による追

加需要、アナログ停波需要、新興国では代替需要

に加え新規需要も期待できるためだが、金額ベー

スでは市場は今後 2~ 3年で頭打ちになると見ら

れる(図表 15)。価格下落が激しいためである。

地域別に見ると、主要市場は足元の北米・西

欧から、北米、西欧、中国、アジア太平洋に拡大

すると見られる(図表 16)。北米、西欧が大市場

であることに変わりはないが、成長率は中国、ア

ジア太平洋、南米、東欧等新興市場のほうが高い。

2012 年 10 ~ 12 月期には、日本が東欧以下の市

場になっているのも注目される。

(2)海外市場をどう攻略するか

このように薄型テレビの主要市場は既に北米、

欧州等であり、薄型テレビ業界で生き残るには海

外市場攻略が必須である。日本の主要メーカーは

どのような対応策をとっているのだろうか。

経営センサー 2008.12

経済・産業/トピックス

44

経済・産業/業界展望

44

04年1~3月

7~9月

05年1~3月

7~9月

06年1~3月

7~9月

07年1~3月

7~9月

08年1~3月

7~9月

09年1~3月

7~9月

10年1~3月

7~9月

11年1~3月

7~9月

12年1~3月

7~9月

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000万台

液晶テレビ

プラズマテレビ

ブラウン管テレビ

図表 14 方式別テレビ出荷台数推移

注: 08年 7~ 9月期以降は予想値出所:ディスプレイサーチ

ブラウン管テレビ

プラズマテレビ

液晶テレビ

万台

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

04年1~3月

7~9月

05年1~3月

7~9月

06年1~3月

7~9月

07年1~3月

7~9月

08年1~3月

7~9月

09年1~3月

7~9月

10年1~3月

7~9月

11年1~3月

7~9月

12年1~3月

7~9月

図表 15 方式別テレビ出荷金額推移

注: 08年 7~ 9月以降は予想値出所:ディスプレイサーチ

2008年4~6月期 2012年10~12月期

百万ドル 百万ドル

北米

西欧

中国

日本

東欧

アジア太平洋

南米

中東・アフリカ

北米

中国

西欧

アジア太平洋

南米

東欧

日本

中東・アフリカ

0 200 400 600 800 0 500 1,000 1,500

図表 16 液晶テレビの地域別出荷台数(現状と見通し)

注: 2012 年 10 ~ 12 月期は予想値 出所:ディスプレイサーチ

Page 10: 薄型テレビ業界の現状と課題 - TORAY...の優位性が薄れつつあり市場が縮小している。次 世代薄型テレビとして有望視されている有機EL

今後の景気の焦点は設備投資の持続力

2008.12 経営センサー45

薄型テレビ業界の現状と課題

45

①先進国は付加価値戦略?

北米、欧州は成長性という点では新興市場に

劣るものの、市場の大きさ、ブランド構築の際の

重要性から見て非常に重要な市場である。

北米市場は、①所得格差が大きく高額品から

安物まで幅広く売れる、②家が広いので大型(50

型以上)もよく売れる、という点が特徴である。

日本メーカーは、プラズマテレビではパナソニッ

クがシェア 1位であるものの、液晶テレビでは韓

国サムスン電子の後塵を拝している(図表 17)。

LG 電子や格安品を販売するビジオ等ファブレス

企業も一定のシェアをとっている。

北米市場での日本メーカーの戦略としては、

まず高付加価値路線がある。例えば、パナソニッ

クでは、YouTube 対応テレビ等、新たなテレビ

の使い方を提案することで、パナソニック製品の

付加価値を高める取り組みを行っている。消費者

がテレビを購入する際のポイントは、画質、1 イ

ンチ当たりいくらなのか、どのブランドの製品な

のかという点に集約されつつある。パナソニック

は既にテレビの 8 割を海外で販売しているが、

「松下電器産業」から「パナソニック」への社名

変更、テレビブランドの「ビエラ」への統一で、

ブランド価値の一層の向上を図る。

マス層を狙った格安品投入の動きもある。米

国市場ではウォン安を背景にサムスン電子が低価

格攻勢を強めているが、ソニーも廉価版を投入し

た。ただ、この手法はシェア拡大には寄与する可

液晶テレビ プラズマテレビ

ソニー 14%

東芝 8%ビジオ 8%

その他 17% サムスン電子

19%

シャープ 10%

ビジオ 13%

サムスン電子 24%

その他 3%

パナソニック 39%

LG電子 11%

パイオニア 4%

日立製作所 2%

三洋電機 4%

船井電機 9%

LG電子 8%

三洋電機 4%

TCL(中国) 3%

図表 17 北米の薄型テレビシェア(数量ベース 2008 年 7~ 9月期)

注:2008年 7~ 9月期の北米液晶テレビ出荷台数は798万台、プラズマテレビは105万台出所:ディスプレイサーチ

液晶テレビ プラズマテレビ

サムスン電子 32%

LG電子 17%

パナソニック 43%

その他 14%

その他 2%フィリップス

3%サムスン電子 27%

フィリップス 15%

ソニー 15%

LG電子 10%

パナソニック 6%

東芝 7%

シャープ 6% パイオニア

3%

図表 18 欧州の薄型テレビシェア(数量ベース 2008 年 7~ 9月期)

注:2008年 7~ 9月期の欧州液晶テレビ出荷台数は860万台、プラズマテレビは108万台出所:ディスプレイサーチ

Page 11: 薄型テレビ業界の現状と課題 - TORAY...の優位性が薄れつつあり市場が縮小している。次 世代薄型テレビとして有望視されている有機EL

能性が高い一方で、ブランド価値を毀損する恐れ

もある。

欧州市場は、①米国に比べ家が狭いので大型

はあまり売れない、②欧州・韓国メーカーが強い、

という特徴がある(図表 18)。日本の有力メーカ

ーは、東欧での組立によるコスト削減、地域性へ

の対応、迅速な出荷、積極的な広告展開による認

知度向上などを図り、シェア拡大を狙っている。

② 新興市場では地域性への対応必要

新興市場は、所得格差が大きいため高額の大

型テレビと低価格小型テレビに二極化する傾向が

あるが、やはり売れ筋は低価格中小型テレビであ

る。ただ、中国は高所得者が一定数存在すること、

テレビ購入の際、たとえ家が狭くてもリビング等

人目につきやすいところにはプレミアムブランド

の大型テレビを置きたい見栄購入の傾向があるこ

とから、日韓メーカーのテレビも一定数売れると

いう面白い市場になっている(図表 19)。

中国に加え、アジア太平洋、東欧、南米市場等

も高成長が期待されている。日本メーカーは新興

市場開拓でサムスン電子、LG電子に遅れをとった

感があるが、どのような戦略が有効なのだろうか。

テレビは新興市場に最初に入る商品であること

が多く、メーカーの知名度向上にも貢献する。か

つての日本の大手電機メーカーでは、「日本市場で

受け入れられた製品は、海外でも競争力があるは

ず」という考えが主流だったが、欧米先進国、新

興国いずれにしても国・地域によって購買力、嗜

好、テレビに対する要求水準は大きく異なる。先

進国向け製品から単純に機能を落としたローエン

ド製品を一律に投入していくのではなく、エリア

ごとの状況に応じてブランド戦略を立て、最適の

製品を販売していくと語る業界関係者もあった。

(3)価格下落にどう対応するか

中長期的には成長が期待される薄型テレビ市

場だが、足元ではサブプライムローン問題に端を

発した金融危機で、米国を中心に価格下落の再加

速が伝えられている。日本メーカーも需要減少、

価格下落、円高の三重苦の直撃を受け、2008 年

度上半期の大手電機メーカー業績は、多くが減

益・赤字に沈んだ。需要減・価格下落の局面で、

高品質ではあるが高コストの日本メーカーはどの

ような手を打てばよいのだろうか。

価格が下落したとはいえ、他のデジタル AV製

品に比べるとまだ高価格の薄型テレビには、コス

トダウンの余地があるともいえる。例えば、パナ

ソニックでは、製品に使う材料を板金などの「イ

タ」や樹脂などの「コナ」まで突き詰めて原価低

減の方法を探る「イタコナ」活動、物流コスト見

直し、グローバル規模での安価で効率的な部材調

経営センサー 2008.12

経済・産業/トピックス

46

経済・産業/業界展望

46

液晶テレビ プラズマテレビ

スカイワース(中国) 14%

ハイセンス(中国) 12%

康佳(中国) 9%

TCL(中国) 9%

サムスン電子 8%

ソニー 8%

シャープ 8%

長虹(中国) 7%

LG電子 6%

東芝 5%

その他 14%

長虹(中国) 23%

パナソニック 21%

ハイセンス(中国) 20%

その他 3%

スカイワース(中国) 5%

康佳(中国) 8%

ハイアール(中国) 8%

日立製作所 12%

図表 19 中国の薄型テレビシェア(数量ベース 2008 年 7~ 9月期)

注:2008年 7~ 9月期の中国液晶テレビ出荷台数は373万台、プラズマテレビは58万台出所:ディスプレイサーチ

Page 12: 薄型テレビ業界の現状と課題 - TORAY...の優位性が薄れつつあり市場が縮小している。次 世代薄型テレビとして有望視されている有機EL

今後の景気の焦点は設備投資の持続力

2008.12 経営センサー47

薄型テレビ業界の現状と課題

47

達などにより、年率 20 ~ 30 %のコストダウンを

実現している。同社は、ほぼ 9割のパネルを内製

する垂直統合型企業である。垂直統合型企業の方

がコスト削減対象の幅が広いという利点 16 を上手

く生かしていると言えるだろう。

差別化戦略も重要である。有力薄型テレビメー

カーでは、高級品からスタンダード品まで高品質

の製品を地域に合わせて届けるという戦略が主流

になっているが、こうしたスタイルは垂直統合型

の企業の方がとりやすい。ファブレス企業にはグ

ローバル展開は難しく 17、パネルを外部購入に頼る

企業には継続的なコストダウンは難しい面がある。

薄型テレビ市場では、先進国を中心に大型化

が進展すると見られる(図表 20)。中でもフル

HD対応による高画質化の差異がはっきりと分か

る 50 インチ以上の大型テレビは、製造に高い技

術を要することから、液晶テレビではソニー、シ

ャープ、サムスン電子、プラズマテレビではパナ

ソニック等、メーカーが限られる。高画質化によ

る差別化が図れる大型テレビは、富裕層向けの商

品であるため利幅も厚い。成長性が高く、高い技

術力で差別化が図れる大型分野でブランドを確立

し、シェアを押さえていくことが重要だろう。

(4)プラズマテレビの今後

プラズマテレビの 2008 年 7 ~ 9 月期世界市場

規模(台数ベース)は、液晶テレビの 14 %にと

どまっている。パナソニックが一人勝ちを続ける

一方で、パイオニアはプラズマパネル事業から撤

退、プラズマパネルで世界第 2 位(2007 年)18 の

LG電子も新規の設備投資を行わないと表明した。

日立製作所も、パナソニックとの提携でパネル生

産から距離をとりはじめているようである。プラ

ズマテレビは今後どうなるのだろうか。

プラズマテレビは、自発光で目に優しい、液

晶テレビに比べて動画応答性にすぐれ大型化も容

易という利点がある一方で、液晶テレビに比べて

消費電力が多い、プレーヤ数が少なくプラズマ陣

営そのものの存在感が低下している、などの問題

点がある。

しかし、液晶テレビの攻勢に押されて、今後

プラズマテレビが駆逐されてしまうようなことは

ないだろう。ブラウン管テレビの時代も、シャド

ーマスク方式とトリニトロン管方式の 2つが並存

していた。消費者が薄型テレビを購入する際も、

液晶かプラズマかというよりは、画質、1 インチ

当たりいくらなのか、どのブランドの製品なのか

という点が重視されている。プラズマテレビも、

今まで以上に薄く軽く安価になれば、大型テレビ

が売れる米国、中国、ロシア以外の市場での需要

も期待できる。当面、プラズマテレビは、薄型テ

レビ市場において、一定の存在感を維持していく

ことが見込まれる。

(5)次世代薄型テレビの本命は有機ELテレビか

液晶・プラズマテレビに続く次世代薄型テレ

ビとしては、有機 EL テレビが本命との呼び声が

0%

20%

40%

60%

80%

100%

2008年4~6月 2012年10~12月

45インチ以上

40~44

35~39

25~34インチ

24インチ以下

図表 20 薄型テレビ出荷のインチ別構成(金額ベース)

注: 2012 年 10 ~ 12 月以降は予想値液晶テレビとプラズマテレビの合計

出所:ディスプレイサーチ

16 薄型テレビ製造の際は、新しいデバイスを使うことでコストダウンできることが多い。垂直統合型であれば、バリューチェーンの上流の部材まで含めたコストダウンが図れる。

17 米国でファブレス企業が一定のシェアをとっているのは、一部大手量販店等、特定の販路を使って販売していることが一因だが、他国で同様に販売網を確保できるかどうかは疑問符が付く。

18 ディスプレイサーチ調べ。数量ベース。

Page 13: 薄型テレビ業界の現状と課題 - TORAY...の優位性が薄れつつあり市場が縮小している。次 世代薄型テレビとして有望視されている有機EL

高い。実力のほどはどうなのだろうか。

有機 EL テレビはプラズマテレビと同じく自発

光で、鮮明な画質、省電力、速い応答速度等の長

所を持つ一方で、寿命が短く大型化が困難、高コ

ストという課題も抱えている(図表 1)。薄型化

が容易であるため、「真の薄型テレビ」と見る向

きもあったが、最近の液晶・プラズマテレビの高

画質化 19、省エネ化、大幅な価格下落により、よ

ほどの特徴を打ち出さない限り、液晶・プラズマ

テレビを代替するのは難しいのではないかとの見

方も出てきている。

いち早く有機 EL テレビを商品化したソニーの

他に、パナソニック、シャープなど有力各社も有

機 EL テレビの可能性を探っているが、次世代薄

型テレビとしての勝算があるかどうかは、現時点

では微妙である。「技術は日進月歩なので、意外

に普及にこぎつけられるかもしれない」という見

方がある一方で、「有機 EL テレビは、事業とし

ての絵が描きづらい。大きな可能性があることは

否定しないが、まだ幼稚園児の段階で、薄型テレ

ビの本命になるのか期待外れに終わるのか予測が

つかない」と語る関係者もあった。

おわりに

薄型テレビ市場は、世界第 2 位の液晶テレビ

メーカー・ソニーですら赤字という異常な状況に

ある。折からの金融危機による需要減・価格下落

の再加速により、業界を取り巻く環境は一段と厳

しさを増している。

日本では薄型パネルを中心に再編・撤退の動

きが続いた。今後、薄型テレビの分野で一定の利

益を確保し生き残れるのは、高画質や大画面でブ

ランドを確立できるメーカーに限られるだろう。

現在、薄型テレビ業界では上位企業の寡占化

が進展している。中でも、設備投資の姿勢や収益

面で強い存在感を見せているのが、サムスン電子、

パナソニック、シャープ、LG 電子といった垂直

統合型企業である。合弁企業からパネルを調達し

ている擬似垂直統合型のソニーは、世界第 2位の

薄型テレビメーカーでありながら、価格下落にコ

スト削減が追いつかず、テレビ事業の黒字化を実

現できていない。

ハイリスク/ハイリターンの垂直統合型が勝

つのか、擬似垂直統合型のソニーが強いブランド

力を生かして一段とシェアを伸ばし、コスト削減

にも成功して収益を上げるのか、ローリスク/ロ

ーリターンの水平分業型のメーカーが不況期をう

まくくぐり抜けるのか、現時点では判然としない

が、世界的に見て中下位メーカーのシェアは低下

傾向にある。上位プレミアムブランドとビジオの

ような低価格ブランドにはさまれて、存在感が薄

くなっているためだが、今後も中下位メーカーに

とっては厳しい状況が続くだろう。

上位企業も安泰ではない。金融危機の薄型テ

レビ需要への影響がどの程度になるかは分からな

いが、上位企業、特に莫大な設備投資を行う垂直

統合型が、一段の需要減少や価格下落、円高、信

用収縮に直面した場合どう乗り切るのか、これか

らが正念場と言える。

テレビは家庭の中心に位置し、消費者の目に

触れることが多いことから、電機メーカーにとっ

ては、ブランドを象徴する特別な製品である。だ

が、環境悪化が進めば上位企業の一段の寡占化が

進み、パネルに始まった業界再編が、テレビに及

ぶ可能性が高いだろう。

参考文献1)野村総合研究所 情報・通信コンサルティング部『これから情報・通信市場で何が起こるのか IT 市場ナビゲーター 2008年版』東洋経済新報社(2008)

2)丸川知雄『現代中国の産業 勃興する中国企業の強さと脆さ』中公新書(2007)

3)榊原清則、香山晋編著『イノベーションと競争優位コモディティ化するデジタル機器』NTT出版(2006)

経営センサー 2008.12

経済・産業/トピックス

48

経済・産業/業界展望

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19 最近の液晶テレビでは、コントラスト、色再現性、動画性能のいずれでも有機 ELテレビを上回る性能の製品が登場している。有機 ELテレビより、液晶テレビに研究開発投資をした方がコストパフォーマンスが高いとの声もあった。