転写因子nf-κb p65をターゲットとした阻害剤の探索 :転写 …...キーワード...
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平成 23 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅱ
論文題目
転写因子 NF-κB p65 をターゲットとした阻害剤の探索
:転写活性化領域ペプチドの合成
Search for an Inhibitor targeted Transcription Factor NF-κB p65
:Synthesis of Transcription Activation Domain Peptide
薬品製造学研究室 6 年
06P010 石川 綾香
(指導教員:浅田 真一)
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要 旨
Nuclear factor-κB (NF-κB)は細胞質に存在し、炎症、細胞分化・増殖、免疫機能、アポトーシスなどの生体内の様々な機能を担う転写因子であり、ストレスやサイトカ
イン、UV 照射等、細胞外からの様々な刺激によって活性化される。その活性化異常は慢性炎症や動脈硬化、発がん等の様々な疾患の一因となっている。NF-κB は核内に移行しサイトカインの産生を誘導することが知られているが、核内における活性化/
非活性化調節機構については未だに明らかとなっていない。NF-κB 活性化機構の解明はこれらの疾患の治療薬開発の足がかりになると予想される。そこで、サイトカイン
産生に関与する要因因子 NF-κB をターゲットとし、新規に相互作用する核内転写調節因子について探索するとともに、相互作用阻害剤の創薬へとつながる研究を行うこ
と重要である。
転写因子には転写活性化領域中の α-ヘリックス接近のコアとなるφXXφφモチーフを介して転写調節因子と相互作用するものがあり、NF-κB は FSALL をコア配列として有している。そこで、本研究では、NF-κB p65 転写活性化領域と結合する核内因子探索を目的とし、探索プローブとなる NF-κB p65 TA 領域と、スペーサーとなるポリプロリンロッドの合成を行った。
NF-κB p65 TA領域および α-ヘリックス構造をとれる変異体である NF-κB p65 Ala置換体ペプチド、コントロールとして用いる ESX の合成は終了した。特に NF-κB p65 TA 領域は溶解しにくいこともあり、収率が低くなってしまったと考えられる。
Polyproline Rod は Fmoc 基除去の際に piperidine により Npys 基が外れてしまったため、目的のペプチドを得ることができなかった。この再合成を行った後、今後これらのペプチ
ドを用いて NF-κB p65 と相互作用する核内調節因子の探索を行う予定である。
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キーワード
1.転写因子 2.NF-κB p65 3.サイトカイン
4.相互作用 5.阻害剤 6.DNA-PK
7.Fmoc ペプチド合成 8.ESX 9.polyproline rod
10.Npys 11.HPLC 12.polyproline II ヘリックス
13.α-ヘリックス構造 14.φXXφφ 15.ペプチドプローブ
16.BP 反応 17.LR 反応 18.PCR
19.attB 20.タンパク質発現
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目 次
1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
1-1. NF-κB について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
1-2. 転写因子をターゲットとした創薬・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
2.実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
2-1. 試薬 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
2-1-1. ペプチド固相合成
2-1-2. 大腸菌株
2-1-3. プラスミドライブラリ
2-1-4. プライマー
2-3-5. 制限酵素
2-3-6. Buffer
2-3-7. 培地
2-2. Fmoc ペプチド固相合成 ・・・・・・・・・・・・・・ 4
2-2-1. ペプチド鎖の構築
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2-2-2. 樹脂からのペプチドの切り出し
2-2-3. ペプチドの精製・同定
2-3. DNA-PK (PRKDC)の作製 ・・・・・・・・・・・ 6
2-3-1. プライマーの設計
2-3-2. Gateway システムの利用
2-3-2-1. PCR
2-3-2-2. BP 反応を利用したエントリークローンの作製
2-3-2-2. LR 反応を利用した発現クローンの作製
2-3-2-4. 大腸菌での DNA-PK 発現
2-3-2-5. 制限酵素
2-3-2-6. Buffer
3.結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
3-1. ストラテジー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
3-2. ペプチドプローブの設計 ・・・・・・・・・・・・・・ 12
3-3. ペプチド固相合成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
3-3-1. NF-κB p65 TA1 の合成・精製
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3-3-2. NF-κB p65 TA1 Ala 置換体の合成・精製
3-3-3. NF-κB p65 TA2 の合成・精製
3-3-3. NF-κB p65 TA2 Ala 置換体の合成・精製
3-3-4. ESX の合成・精製
3-3-5. ESX Ala 置換体の合成・精製
3-3-6. ポリプロリンロッドの合成・精製
3-4. DNA-PK の作製 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
3-4-1. Gateway システムの利用
3-4-2. BP 反応を利用したエントリークローンの作製
3-4-3. LR 反応を利用した発現クローンの作製
3-4-4. 大腸菌での DNA-PK フラグメントの発現
4.考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27
4-1. ペプチド固相合成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28
4-2. DNA-PK 作製 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29
4-3. 今後の計画 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29
4-3-1. NF-κB p65 TA 領域と結合する核内タンパク質
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4-3-2. 結合部位の詳細解析
4-3-3. ペプチド性阻害剤の開発
5.おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31
謝 辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
引用文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33
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略語表
CHCA :α-Cyano-4-hydroxycinnamic acid DNA-PK:DNA dependent protein kinase HPLC :High performance liquid chromatography I-κB :Inhibitor-κB MALDI-TOF-MS, MS:
Matrix-assisted laser desorption / ionization-time of flight-mass spectrometry NF-κB :Nuclear factor-κB PCR :Polymerase chain reaction SA :Sinapic acid SDS-PAGE:Sodium dodesil sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis
試薬
Amp :Ampicilin CH3CN, MeCN:Acetonitrile DIC :N,N’-Diisopropylcarbodiimide DIPEA :N,N-diisopropylethylamine DMF :N,N’-Dimethyformamide EDT :Ethandithiol Ether :Diethyl ether HOBt :1-Hydroxybenzotriazole EtOH :Ethanol HATU :2-(1H-7-Azabenzotrazol-1-yl)-1,1,3,3-tetramethyl-uronium
hexafluorophosphate HBTU :O-Benzotriazole-N,N,N’,N’-tetramethyl-uroniumhexafluoro-phosphate HOAt :1-Hydroxy-7-azabenzotriazole HOBt :1-Hydroxybenzotriazole Hyp :Hydroxyproline Kana :Kanamicin
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TFA :Trifluoroacetic acid TIS :Triisopropylsilane
保護基
Boc :t-Butoxycarbonyl Fmoc :9-Fluorenylmethyloxycarbonyl Npys :3-Nitro-2-pyridinesulfenyl Pbf :2,2,4,6,7-Pentamethyl-dihydrobenzofurane-5-sulfonyl OtBu :t-Butoxy tBu :t-Butyl Trt :Trityl
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Figure 1 NF-κB 転写活性化機構 細胞質に存在する NF-κ/I-κB 複合体は細胞外から紫外線やサイトカイン等の活性化刺激が加わると、I-κB キナーゼにより I-κB がリン酸化される。さらに I-κB はユビキチン化で分解され、NF-κB が核内に移行し、転写が誘導される。
1.はじめに
1-1. NF-κB について Nuclear factor-κB (NF-κB)は 50kDa と 65kDa のヘテロダイマーを形成し、炎
症、細胞分化・増殖、免疫機能、アポトーシスなどの生体内の様々な機能を担う転
写因子である。NF-κB は細胞質に存在し、ストレスやサイトカイン、UV 照射等、細胞外からの様々な刺激によって活性化されるが、主要なものの一つに炎症性サイ
トカインの腫瘍壊死因子 (TNF-α)がある。その活性化異常は慢性炎症や動脈硬化、発がん等の様々な疾患の一因となっている (Figure 1)。従って、サイトカイン産生を抑制することで
動脈硬化やがん等
の予防につながる
ものと考えられる。
NF-κB の非活性化型は、細胞質で
Inhibitor-κB (I-κB)と複合体を形成し
ている。細胞に活性
化刺激が加わると
I-κB がリン酸化され分解される。この
分解により、NF-κBが核内に移行しサ
イトカインの産生
を誘導することが
知られているが、核
内移行後の活性化/
非活性化調節機構
については未だに
明らかとなってい
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ない。NF-κB 活性化機構の解明はこれらの疾患の治療薬開発の足がかりになると予想される。そこで、サイトカイン産生に関与する NF-κB をターゲットとし、新規に相互作用する核内転写調節因子について探索するとともに、相互作用阻害剤の
創薬の可能性を探究する。
1-2. 転写因子をターゲットとした創薬 転写因子はDNA結合ドメインと活性化ドメインからなる転写の引き金となるタ
ンパク質である。DNA 結合ドメインは転写される標的遺伝子の上流に存在するプロモーター配列と結合し、活性化ドメインは転写調節因子を介して RNA ポリメラーゼ複合体と結合することで転写が活性化される。転写調節因子には TAF、TFIIIA、TFIID や、DRIP 複合体などの存在が知られており、転写調節因子と特異的に相互作用することが知られている [1-4]。 転写調節では、形態や機能に関わる複数の遺伝子群の転写調節に対して、同一の
転写因子が関与することがあり、特定の転写因子の活性化調節は細胞や組織のダイ
ナミックな変化へつながると予想される。このため、転写をダイレクトに調節する
システムの構築は真核生物の機能発現に対して多大な影響を与えることができ、が
んや関節リウマチ、炎症性腸疾患、アトピー性皮膚炎、眼科疾患など、局所的疾患
への幅広い応用が期待されている。しかし、現在までの創薬のターゲットの多くは、
細胞受容体やホルモン、サイトカインといった「細胞の外に存在する」分子や、酵
素などの「その活性を直接阻害できる」分子である。核内転写因子をターゲットと
した創薬は合成した化合物がなかなか核内に移行しないことなどの理由で敬遠さ
れがちである。
本研究ではこれまでは創薬では敬遠されがちな核内転写因子をターゲットとし
た創薬を目指し、核内転写因子である NF-κB p65 の核内調節メカニズムの解明を行う。
NF-κB の 50kDa と 65kDa の 2 つのサブユニットのうち、転写活性化領域は65kDa サブユニットにのみ存在している [5]。また、この転写活性化領域にはさらに 2 つのサブ領域 (TA1, TA2)からなっているが、それら領域と相互作用して転写を活性化する核内調節因子は知られていない [6]。そこでまずこれらの領域に着目し、TA1 領域または TA2 領域と特異的に結合する核内タンパク質の分離・同定を
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試みる。これまでに NF-κB p65 の TA1 領域と結合する核内因子として DNA dependent protein kinase (DNA-PK)が同定されている (Asada ら、未発表)。
DNA-PK は DNA 二重らせん損傷の修復において中心的な役割を担うタンパク質リン酸化酵素である。しかし、核内における DNA-PK の活性化/非活性化に働く調節因子については明らかになっていない。また、DNA-PK と NF-κB の相互作用メカニズムについても報告されていない。DNA-PK と NF-κB の相互作用を明らかにすることにより、DNA や細胞に対するダメージに対する生体の防御システムの新たなシステムが明らかになることが期待される。 そこで本研究では、はじめに DNA-PK と NF-κB の相互作用の再確認を行うと
ともに、DNA-PK による NF-κB 活性化メカニズムの解明を行い最小の結合領域の同定を行う。次に、この領域のペプチド配列を持つペプチド性結合阻害剤を開発す
るとともに、これらペプチドの持つ、化学的構造を持つ小分子化合物ライブラリー
(フォーカスドライブラリー)をターゲットとしたドラッグスクリーニングを行うことで、NF-κB p65 の核内調節メカニズムの解明は医薬品への開発へとつながるものである。
2.実験
2-1. 試薬 2-1-1. ペプチド固相合成 ペプチド固相合成用試薬類はNovabiochem (USA)または、渡辺化学 (広島)より購入した。また、その他の試薬は特に記載のない限り、Nacalai Tesque (京都)またはWako (大阪)より購入した。
2-1-2. 大腸菌株
形質転換にはDH5α, BL21 (DE3), BL21 (Codon plus), Rosetta Gami (DE3), XL-1 Blue, Single Step (KXR), JM109 (Invitrogen, USA)のE.coliの菌株を用いた。
2-1-3. プラスミドライブラリ cDNA Library Human Brainはタカラバイオ (滋賀)より購入したものを使用した。
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2-1-4. プライマー Gatewayシステムに用いるプライマーはInvitrogen (USA)に合成を委託した。
2-1-5. 制限酵素 EcoR I, Kpn I, Pvu I, Pvu II, Sac I, Sph I, Xba Iはタカラバイオ (滋賀)より購入したものを使用した。
2-1-6. Buffer 使用したbufferの組成を以下に示す。 STETL:8% ショ糖, 0.5% triton X-100, 50mM tris, 50mM EDTA TE:10 mM Tris-HCl (pH 8.0), 1mM EDTA (pH 8.0) STETLには終濃度が0.5 ng/mLとなるようにリゾチームを、0.1 mg/mLとなる
ようにRNaseAを加えた。
2-1-7. 培地 使用したbufferの組成を以下に示す。
LB培地:1% bacto tryptone, 0.5% bacto yeast extract, 1% NaCl SOC培地:1% bacto tryptone, 0.25% bacto yeast extract, 0.025% NaCl,
2.5 mM KCl, 10 mM MgCl2, 20 mM glucose 寒天培地には1.5% の寒天を加えた。
LB培地には必要に応じて終濃度が0.1% となるようにAmpicilin (Amp)またはKanamicin (Kana)を加えた。
2-2. Fmoc ペプチド固相合成 2-2-1. ペプチド鎖の構築 各ペプチドは9-fluorenylmethyloxycarbonyl (Fmoc) 固相合成法により合成し
た。樹脂は、Rink Amide AM Resin LL (100-200 mesh, 0.36 mmol/g:Novabiochem (USA))またはRink Amide AM Resin (200-400 mesh, 0.68 mmol/g: Novabiochem (USA))を用いた。樹脂 0.2 mmol をPD-10 Empty Column (GE Healthcare (USA))に入れ、DMF中で2 hr 膨潤させた。続いて、樹脂を
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N,N’-Dimethyformamide (DMF)で3 回洗浄した。 Fmoc 基を、20% piperidine/DMF を用いて室温で15 min 攪拌することにより
除去した。続いて、DMFで7 回樹脂を洗浄した。縮合反応は、Fmoc-アミノ酸、N,N’-Diisopropylcarbodiimide (DIC)、1-Hydroxybenzotriazole (HOBt)をそれぞれ樹脂上のアミノ基に対して5 当量ずつ加え、DMF 中室温または37 ℃にて120 min以上攪拌してカップリングを行った (Table 1)。続いて、樹脂をDMF で4 回洗浄した。洗浄後はKaiser テストまたはクロラニルテストを行い、カップリングの完了を確認した。反応が不十分だった場合は、再度縮合を行った。カップリング
さ れ に く い 場 合 は 、 よ り 強 い 縮 合 剤 で あ る
O-Benzotriazole-N,N,N’,N’-tetramethyl-uronium hexafluoro-phosphate (HBTU), HOBt に 変 更 す る か 1-Hydroxy-7-azabenzotriazole (HOAt), 2-
(1H-7-Azabenzotrazol-1-yl)-1,1,3,3-tetramethyl-uronium hexafluorophosphate (HATU)に変更してカップリングを行った。Fmoc 基の脱保護反応とFmoc-アミノ酸の縮合反応を繰り返し、ペプチドを伸長した。
Table 1 使用したFmoc-アミノ酸
Fmoc-Ala-OH Fmoc-Arg (Pbf)-OH Fmoc-Asp (OtBu)-OH Fmoc-Cys (Npys)-OH Fmoc-Cys (Trt)-OH Fmoc-Gln (Trt)-OH Fmoc-Glu (OtBu)-OH Fmoc-Gly-OH Fmoc-Hyp (tBu)-OH Fmoc-Ile-OH Fmoc-Leu-OH Fmoc-Lys (Boc)-OH Fmoc-Met-OH Fmoc-Phe-OH Fmoc-Pro-OH Fmoc-Ser (tBu)-OH Fmoc-Thr (tBu)-OH Fmoc-Trp (Boc) Fmoc-Val-OH
*Pbf :2,2,4,6,7-Pentamethyl-dihydrobenzofurane-5-sulfonyl Trt :Trityl OtBu:t-Butoxy tBu :t-Butyl Boc :t-Butoxycarbonyl Npys :3-Nitro-2-pyridinesulfenyl
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2-2-2. 樹脂からのペプチドの切り出し ペプチド鎖の構築が終了した樹脂は、methanol で3 回、diethyl ether (ether)
で 3 回洗浄後、減圧下で乾燥した。乾燥後、樹脂にTrifluoroacetic acid (TFA):dH2O: Ethandithiol (EDT):Triisopropylsilane (TIS) =94:2.5:2.5:1 (v/v)を、またpolyproline rodの場合はTFA:dH2O: TIS =95:2.5:2.5 (v/v)を5 mL加え、室温で2 hr 攪拌し、ペプチド側鎖の保護基の切断と同時にペプチドを樹脂から切断した。反応終了後、冷ether 30 mLに樹脂を濾去したペプチド溶液を加え、ペプチドを析出させた。冷ether中で沈殿させた粗ペプチド試料を、遠心分離により(3000 rpm, 4 ℃, 10 min)上清を除き、再び沈殿物に冷ether 30 mLを加えてvortexで攪拌後、遠心分離した。この洗浄操作を3 回繰り返し、冷etherで洗浄した。洗浄後、沈殿物を風乾させた。風乾したものにdH2Oとacetonitrile (MeCN)を加えて溶解し、凍結乾燥により白色の粗ペプチドの粉末を得た。
2-2-3. ペプチドの精製・同定 得られた粗ペプチドはHigh performance liquid chromatography (HPLC)を用
いて精製を行った。分析用カラムは、COSMOSIL 5C18 AR-II (4.6×250 mm)を用い、溶媒の流出速度は1 mL/min に設定した。分取・精製用カラムは、COSMOSIL 5C18 AR-II (20×250 mm)を用い、溶媒の流出速度は5 mL/min に設定した。溶出は移動相に、0.05 (v/v)% TFA/dH2O と0.05 (v/v)% TFA/MeCN を用い、カラム温度42℃、波長220 nm におけるアミド結合の吸収を指標として直線濃度勾配により行い、ペプチドに応じて濃度勾配を変更した。精製したペプチド溶液を凍結乾燥し
たものに、dH2OとMeCNを加えて溶解し、それを凍結乾燥させて、得られた白色の粉末を、HPLC及びMatrix-assisted laser desorption / ionization-time of flight-mass spectrometry (MALDI-TOF-MS) で 確 認 し た 。 Matrix はα-Cyano-4-hydroxycinnamic acid (CHCA)またはSinapic acid (SA)を用いた。
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Figure 2 プライマー設計 A:黄色は B-zip 領域、赤色は活性化ドメインを示す。 B:attB1 配列と attB2 配列
2-3. DNA-PK (PRKDC)の作製 2-3-1.プライマーの設計 目的遺伝子を増幅するために、プライマーを設計した (Figure 2, Table 2)。
A
B
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Table 2 attB配列を含むプライマー
プライマー名 配列 (5'→3')PRKDC (1408) attB1 FW GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCTTTATGTCCCCATACAAAGATATCCTAPRKDC (1408) attB2 RV GGGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGTTGAGCTCCAATACAGCAAGATCCAG
PRKDC (2820) attB1 FW GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCTTTATGGATAAATTTAAGACACTGTCT
PRKDC (2820) attB2 RV GGGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGTTTTTTTCAATGTTTTTTTTATTTACPRKDC (3609) attB1 FW GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCTTTATGTATGAAAGAATGTATGCAGCCPRKDC (3609) attB2 RV GGGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGTTTTTCTGTTCAAAATTTTTCCAATCPRKDC (4020) attB1 FW GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCTTTATGCTGAAAAAAGGAGGGTCATGGPRKDC (4020) attB2 RV GGGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGTTCATCCAGGGCTCCCATCCTTCCCA
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2-3-2. Gatewayシステムの利用
2-3-2-1. PCR 氷上にてdH2O 34.25 μL, 10×EX Taq Buffer 5 μL, dNTP Mixture 4 μL, 各
attB アダプタープライマーをそれぞれ 2 μLずつ, プラスミド2.5 μLを混和して、thermal cycler (94℃ 15 sec―60℃ 30 sec―68℃ 2 min)を10サイクル行い、増幅した。 続いて、氷上にてdH2O 16.6 μL, 10×EX Taq Buffer 4 μL, dNTP Mixture 3.2
μL, 各attB アダプタープライマーをそれぞれ 8 μLずつ, 1 回目のPCR 反応液10 μLを加えたPCR 反応液を用意して、PRKDC (1408-1583)とPRKDC (4020-4128)についてはthermal cycler (94℃ 15 sec―45℃ 30 sec―68℃ 2 min)を、PRKDC (3609-4020)についてはthermal cycler (94℃ 15 sec―40℃ 30 sec―68℃ 2 min)を5サイクル行い、増幅した。 引き続き、PRKDC (1408-1583)とPRKDC (4020-4128)についてはthermal
cycler (94℃ 15 sec―55℃ 30 sec―68℃ 2 min)を、PRKDC (3609-4020)についてはthermal cycler (94℃ 15 sec―50℃ 30 sec―68℃ 2 min)を10サイクル行い、増幅し、アガロース電気泳動 (1.2% アガロースゲル)で、増幅産物を確認した。
2-3-2-2. BP反応を利用したエントリークローンの作製
PCR増幅産物をQIAGEN plasmid kitsを用いて精製した。PCR増幅産物のアガロース電気泳動を行ったゲルから目的のバンドを切り出して、ゲルにQG buffer 390 μLを加え、50℃で10 min加熱した。溶けた液体が黄色を呈していることを確認し、イソプロパノール 100 μLを加えて混和させ、回収用チューブをセットしたQIA quick spin Columnに移して、遠心して残留ethanol (EtOH)を完全になくした。これにPE buffer 750 μLを加え、1 min遠心して洗浄した。さらに1 min遠心した。遠心終了後、Spin Columnを外して、EtOHをとばした。新しいチューブにSpin Columnをセットし、TE buffer 50 μLを加えて1 min静置した。1 min遠心して残留EtOHを完全になくした。続いてPCR産物 7 μL, pDONR221 1 μL, BP Clonase II enzyme mix 2 μLを加えて、室温で1 hr incubationした。ここにProteinase K 1 μLを加えて、37℃で10 min incubationした。反応物をDH5α に形質転換し、LB (kana+)培地で培養し、培養した大腸菌からボイル法を用いてプラスミドの精製を
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行った。振盪培養した培養液を遠心分離して、上清を取り除いた。沈殿物にSTETL 300 μLを加えて溶解した。これを沸騰水中で45 sec ボイルした。その後、遠心分離 (4℃, 15000 rpm, 10min)した。沈殿物を取り除き、上清にイソプロパノール 300 μLを加えて転倒混和を数回行った。続いて、遠心分離 (4℃, 15000 rpm, 10min)し、上清を取り除いた。冷70% EtOH 200 μLを加えて混和して、遠心分離 (4℃, 15000 rpm, 10min)後、上清を取り除いた。Speed Vac.で乾燥後、TE buffer 30 μLに溶解した。精製したプラスミドDNAを制限酵素処理した。処理したものをアガロース電気泳動 (1.0% アガロースゲル)を行い、反応物を確認した。
2-3-2-3. LR反応を利用した発現クローンの作製
BP反応物のプラスミドDNAをQIAGEN plasmid kitsを用いて精製した。BP反応物 7 μL, pDEST24 1 μL, LR Clonase II enzyme mix 2 μLを加えて、25℃で1 hr incubationした。ここにProteinase K 1 μLを加えて、37℃で10 min incubationした。反応物をDH5α に形質転換し、LB (amp+)培地で培養した。培養した大腸菌からプラスミドDNAをQIAGEN plasmid kitsを用いて精製した。精製したプラスミドDNAを制限酵素処理した。処理したものをアガロース電気泳動 (1.0% アガロースゲル)を行い、確認した。
2-3-2-4. 大腸菌でのDNA-PK発現 LR反応物のプラスミドDNAをボイル法を用いて精製した。精製したLR反応物を
BL 21 (DE3), BL21 (Codon plus), Rosetta Gami (DE3), XL-1 Blue, Single Step (KXR), JM109に形質転換し、LB (amp+)培地で培養した。0.1 M IPTG 20 μLを加え、37℃, 200r/min, 1 hr培養後、遠心分離 (3500rpm, 4℃, 10 min)して、上清を除き、沈殿物にPBS 1mLを加えて攪拌後、再び遠心分離した。沈殿物に2×Sample Loading Buffer 200 mLを加えて攪拌後、1 M DTT 20 μL を加え、95℃で5 min 加熱した。加熱後、sonicationを行った。これを12%アクリルアミドゲルを用いてsodium dodesil sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis (SDS-PAGE)にてタンパク質の発現を確認した。
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3.結果
3-1. ストラテジー ESX や p53, NF-κB p65 の転写活性化領域中には相互作用分子と結合する α-ヘリックス構造のコア配列であるφXXφφ (φは疎水性、X は任意のアミノ酸)モチーフが存在している [7]。NF-κB p65 の転写活性化領域中における DNA-PK 結合φXXφφモチーフは、TA1 領域では Phe-Ser-Ala-Leu-Leu (542-546)であることが報告されている[7]。また、TA2 領域では Leu-Ser-Glu-Ala-Leu (436-440)およびAla-leu-Leu-Gln-Leu (439-443)の部分でTA1と同様の α-ヘリックス構造をとりうる φXXφφモチーフをもつことが予想される。そこで、この領域およびその前後のペプチドを Fmoc-固相合成法により合成し、このペプチドを探索用のプローブとしてアガロースビーズに固定し、このペプチドと結合するタンパク質を培養細胞核
抽出液よりプルダウンアッセイを用いて分離・精製する。この際、短くて小さいペ
プチド領域に対して、アガロースビーズは非常に大きな分子であるために、プロー
ブ付近に空間が少なく、細胞内で相互作用するタンパク質分子が立体障害により検
出しにくいことが予想される。そこで、より細長い構造をとる polyproline 鎖をスペーサーとして用いることでこの問題を回避する。Pro がペプチド結合で複数個つながった polyproline 鎖は、polyproline II へリックスと呼ばれる細長い構造をとることが知られており、探索用プローブであるφXXφφモチーフペプチドをアガロースビーズから「突出」させることが可能となる (Figure 3) [8]。 NF-κB p65 転写活性化領域 TA1 と GST の融合タンパク質を用いてこれと結合するタンパク質を HeLa 核抽出液より分離・精製し、SDS-PAGE にて得られたバンドを MS に解析した結果、DNA-PK であった。そこでこの結合を確認するため、[35]S メチオニンラベルを用いて in vitro で DNA-PK を合成し、NF-κB p65 TA1 領域との結合をプルダウンアッセイ系にて確認する。
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Figure 3 Polyproline rod と φXXφφモチーフペプチド A:polyproline rod と NF-κB p65 TA1 のジスルフィド架橋形成。太字は α-ヘリックス構
造をとると考えられるφXXφφモチーフを示す。 B:探索プローブとターゲットタンパク質の相互作用
3-2. ペプチドプローブの設計 コア配列のN末端側に8~11アミノ酸の配列をもつ配列を設計した。また、
φXXφφモチーフは、N末端およびC末端の疎水性アミノ酸をAla に置換することにより、α-へリックス構造をとることができなくなるため、転写調節因子との相互
作用を示さなくなることが知られている [7]。そこで、これらアミノ酸部位をAla に置換したAla 変異ペプチドの合成を行った。スペーサーとして用いるpolyproline rodは、Pro を9 つ含み、C 末端側にジスルフィド架橋の形成に選択的に反応させるための保護基であるNpys基をチオール基に共有結合させておく。また、このペプチドの親水性を獲得するため、polyproline配列のN末端側に10アミノ酸伸長した配列とした (Figure 4)。なお、コントロールとしてESXを用いる。
A
B
-
13
Figure 4 ペプチドの配列の設計 配列の赤字は Ala に置換した部分、太字は α-ヘリックス構造をとると考えられる φXXφφ
モチーフを示す。合成した NF-κB p65 TA1, NF-κB p65 TA2, ESX の Cys (青字 )とpolyproline rod の Cys (青字)でジスルフィド架橋を形成する。
3-3. ペプチド固相合成 各ペプチドはFmoc-固相法により0.2 mmolスケールで合成した。固相合成終了後、
1/4 量ずつ脱保護を行い、樹脂からの切り出しを行った後、HPLCにより分析、目的のペプチドの分取精製を行った。精製したものについてMSによる分析を行った。
-
14
Figure 5 合成した NF-κB p65 TA1ペプチドの HPLC による分析 A:脱保護後 B:分取精製後
Column : Cosmosil 5C18-ArII (4.6×250)Flow : 1.0mL/minOven temp. : 42℃Monitor : 220nmSolvent : A) 0.05% TFA/dH2O
B) 0.05% TFA/MeCNGradient B : 20-50%/30min
: 50-90%/5min: 90-20%/1min
HPLC condition
3-3-1. NF-κB p65 TA1 の合成・精製 NF-κB p65 TA1は、樹脂にRink Amide AM Resinを用いて各アミノ酸を縮合し、
TFA: dH2O: EDT:TISで脱保護を行い、HPLCで分析を行った (Figure 5A)。そこで見られた28分 (Figure 5A, Peak a)のピークを分取し、MALDI-TOF-MSにて質量を測定したところ、目的のペプチドであることを確認した (Table 3, NF-κB p65 TA1)。そこでこのピークを分取し、その精製度をHPLCで純度確認を行った結果 (Figure 5B)、目的とするペプチド以外に他のペプチドは含まれていないことを確認した。なお、最終的に得られた合成収量は16.0 mg (収率 14.1%)であった。分取精製後のPeakの溶出時間が脱保護後のPeakの溶出時間が異なっていたがこれらのピークは同一であることを確認している。
-
15
Figure 6 合成した NF-κB p65 TA1 Ala 置換体ペプチドの HPLC による分析 A:脱保護後 B:分取精製後
Column : Cosmosil 5C18-ArII (4.6×250)Flow : 1.0mL/minOven temp. : 42℃Monitor : 220nmSolvent : A) 0.05% TFA/dH2O
B) 0.05% TFA/MeCNGradient B : 20-50%/30min
: 50-90%/5min: 90-20%/1min
HPLC condition
3-3-2. NF-κB p65 TA1 Ala 置換体の合成・精製 NF-κB p65 TA1 Ala 置換体は、樹脂にRink Amide AM Resinを用いて各アミノ
酸を縮合し、TFA: dH2O: EDT:TISで脱保護を行い、HPLC で分析を行った (Figure 6A)。そこで見られた18分 (Figure 6A, Peak b)ピークを分取し、MALDI-TOF-MS にて質量を測定したところ、目的のペプチドであることを確認した (Table 3, NF-κB p65 TA1 Ala 置換体)。そこでこのピークを分取し、その精製度をHPLCで純度確認を行った結果 (Figure 6B)、目的とするペプチド以外に他のペプチドは含まれていないことを確認した。なお、最終的に得られた合成収量は
4.96 mg (収率 4.62%)であった。
-
16
Figure 7 合成した NF-κB p65 TA2ペプチドの HPLC による分析 A:脱保護後 B:分取精製後
Column : Cosmosil 5C18-ArII (4.6×250)Flow : 1.0mL/minOven temp. : 42℃Monitor : 220nmSolvent : A) 0.05% TFA/dH2O
B) 0.05% TFA/MeCNGradient B : 20-50%/30min
: 50-90%/5min: 90-20%/1min
HPLC condition
3-3-3. NF-κB p65 TA2 の合成・精製 NF-κB p65 TA2 は、樹脂にRink Amide AM Resin LLを用いて各アミノ酸を縮
合し、TFA: dH2O: EDT:TISで脱保護を行い、HPLCで分析を行った (Figure 7A)。そこで見られた24分 (Figure 7A, Peak c)のピークを分取し、MALDI-TOF-MSにて質量を測定したところ、目的のペプチドであることを確認した (Table 3, NF-κB p65 TA2)。そこでこのピークを分取し、その精製度をHPLCで純度確認を行った結果 (Figure 7B)、目的とするペプチド以外に他のペプチドは含まれていないことを確認した。なお、最終的に得られた合成収量は42.74 mg (収率 37.72%)であった。分取精製後のPeakの溶出時間が脱保護後のPeakの溶出時間が異なっていたがこれらのピークは同一であることを確認している。
-
17
Figure 8 合成した NF-κB p65 TA2 Ala 置換体ペプチドの HPLCによる分析 A:脱保護後 B:分取精製後
Column : Cosmosil 5C18-ArII (4.6×250)Flow : 1.0mL/minOven temp. : 42℃Monitor : 220nmSolvent : A) 0.05% TFA/dH2O
B) 0.05% TFA/MeCNGradient B : 10-40%/30min
: 40-90%/5min: 90-10%/1min
HPLC condition
3-3-4. NF-κB p65 TA2 Ala 置換体の合成・精製 NF-κB p65 TA2 Ala 置換体は、樹脂にRink Amide AM Resin LLを用いて各ア
ミノ酸を縮合し、TFA: dH2O: EDT:TISで脱保護を行い、HPLCで分析を行った (Figure 8A)。そこで見られた18分 (Figure 8A, Peak d)のピークを分取し、MALDI-TOF-MSにて質量を測定したところ、目的のペプチドであることを確認した (Table 3, NF-κB p65 TA2 Ala 置換体)。そこでこのピークを分取し、その精製度をHPLCで純度確認を行った結果 (Figure 8B)、目的とするペプチド以外に他のペプチドは含まれていないことを確認した。なお、最終的に得られた合成収量は
3.18 mg (収率 2.94%)であった。
-
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Figure 9 合成した ESX ペプチドの HPLC による分析
A:脱保護後 B:分取精製後
Column : Cosmosil 5C18-ArII (4.6×250)Flow : 1.0mL/minOven temp. : 42℃Monitor : 220nmSolvent : A) 0.05% TFA/dH2O
B) 0.05% TFA/MeCNGradient B : 30-50%/30min
: 50-90%/5min: 90-30%/1min
HPLC condition
3-3-5. ESXの合成・精製 ESX は、樹脂にRink Amide AM Resinを用いて各アミノ酸を縮合し、TFA:
dH2O: EDT:TISで脱保護を行い、HPLCで分析を行った (Figure 9A)。そこで見られた21分 (Figure 9A、Peak e)のピークを分取し、MALDI-TOF-MSにて質量を測定したところ、目的のペプチドであることを確認した (Table 3, ESX)。そこでこのピークを分取し、その精製度をHPLCで純度確認を行った結果 (Figure 9B)、目的とするペプチド以外に他のペプチドは含まれていないことを確認した。なお、
最終的に得られた合成収量は2.88 mg (収率 2.27%)であった。また、目的のピークが他のピークに比べて小さかったのは、ペプチド合成の段階で反応がうまくいって
-
19
Figure 10 合成したESX Ala置換体ペプチドの HPLC による分析 A:脱保護後 B:分取精製後
Column : Cosmosil 5C18-ArII (4.6×250)Flow : 1.0mL/minOven temp. : 42℃Monitor : 220nmSolvent : A) 0.05% TFA/dH2O
B) 0.05% TFA/MeCNGradient B : 20-50%/30min
: 50-90%/5min: 90-20%/1min
HPLC condition
3-3-6. ESX Ala 置換体の合成・精製 ESX Ala 置換体は、樹脂にRink Amide AM Resinを用いて各アミノ酸を縮合し、
TFA: dH2O: EDT:TISで脱保護を行い、HPLCで分析を行った (Figure 10A)。そこで見られた19分 (Figure 10A, Peak f)のピークを分取し、MALDI-TOF-MSにて質量を測定したところ、目的のペプチドであることを確認した (Table 3, ESX Ala 置換体)。そこでこのピークを分取し、その精製度をHPLCで純度確認を行った結果 (Figure 10B)、目的とするペプチド以外に他のペプチドは含まれていないことを確認した。なお、最終的に得られた合成収量は1.66 mg (収率 1.3%)であった。
-
20
Figure 11 合成した Polyproline rod ペプチドの HPLC による分析
A:脱保護後 B:分取精製後
Column : Cosmosil 5C18-ArII (4.6×250)Flow : 1.0mL/minOven temp. : 42℃Monitor : 220nmSolvent : A) 0.05% TFA/dH2O
B) 0.05% TFA/MeCNGradient B : 20-50%/30min
: 50-90%/5min: 90-20%/1min
HPLC condition
3-3-7. Polyproline rodの合成 Polyproline rodは、樹脂にRink Amide AM Resin LLを用いて各アミノ酸を縮合
し、TFA: dH2O: TISで脱保護を行い、HPLCで分析を行った (Figure 11A)。そこで見られた14分 (Figure 11A, Peak g)のピークを分取し、MALDI-TOF-MSにて質量を測定したところ、目的のペプチドであることを確認した (Table 3, NF-κB p65 TA1)。そこでこのピークを分取し、その精製度をHPLCで純度確認を行った結果 (Figure 11B)、目的とするペプチド以外に他のペプチドは含まれていないことを確認した。なお、最終的に得られた合成収量は2.67 mg (収率 2.41%)であった。
Polyproline rodはNpys基がチオールスカベンジャーに対して不安定であるため、樹脂からの切り離しの際にはチオール基を含むEDTを用いずに行った。MSによる同定を行った結果、本来Npys基がついた値 ([M] 2371.2772)が得られるはずだが、Npys基がついていない値が得られた (Table 3, polyproline rod)。これはNpys基がpiperidineに不安定であるため、ペプチド合成の段階においてFmoc基除去の際に
使用したpiperidineによってNpys基が外れてしまったのではないかと考えら
れる。
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21
Table 3 MSの結果
サンプル名 Found
NF-κB p65 TA1 [M]
[M+H]+
[M+Na]+
2263.99772265.00552286.9875
2266.282
NF-κB p65 TA1(A) [M]
[M+H]+
[M+Na]+
2145.91942146.92732168.9092
2168.874
NF-κB p65 TA2 [M]
[M+H]+
[M+Na]+
2266.04232267.05022289.0321
2289.784
NF-κB p65 TA2(A) [M]
[M+H]+
[M+Na]+
2139.90152140.90932162.8913
2162.992
ESX
[M]
[M+H]+
[M+Na]+
2535.28902536.29692558.2788
2536.251
ESX(A)
[M]
[M+H]+
[M+Na]+
2451.19512452.20302474.1749
2451.794
polyproline rod
[M]
[M+H]+
[M+Na]+
2217.02922218.13712240.1190
2240.137
Theor. Mono.
※polyproline rodはNpys基がついていない値を示す。
-
22
3-4. DNA-PKの作製 DNA-PKは分子量が大きいタンパク質であるため、一度に作製することができないのでいくつかのパーツに分けて作製する。B-zip領域はコントロールとして用いる。
3-4-1. Gatewayシステムの利用 本研究では、培養細胞系でDNA-PKをNF-κB p65などと融合させて発現させること想定している。そこで、より効率的に発現系を構築することが可能なgatewayシステム (Invitrogen)での発現系を構築することを検討した。Gatewayでは、目的遺伝子を持つエントリークローンを構築すれば、部位特異的な組み替え反応を利用し
て、様々なgateway対応の発現ベクター (デスティネーションベクター)に移入することが何度も可能であり、タグの導入も容易に行うことが可能である (Figure 12)。特に、制限酵素やリガーゼを用いずに部位特異的な組み替え反応 (attB x attP・attL x attR)を利用しているため、制限酵素種類によるクローニングの制限を受けることがない。
-
23
Figure 12 Gateway システムの概略 A;BP 反応 attB配列を有するDNA断片または発現クローンと attP配列を有するドナーベクター
との間の組み換え反応で、エントリークローンを作製する反応。 B:LR 反応 attL 配列を有するエントリークローンと attR 配列を有するデスティネーションベク
ターとの間の組み換え反応で、目的遺伝子を正しい方向とリーディングフレームで挿
入した発現クローンを作製する反応。
A
B
-
24
3-4-2. BP反応を利用したエントリークローンの作製 DNA-PKをBPクローニング用サイトであるattB1配列を含むプライマーであるPRKDC (1408-1582) attB1 FWおよびPRKDC (3609-4020) attB1 FW、PRKDC (4020-4128) attB1 FWを用いてPCR反応を行った。このPCR産物を用いて、エントリークローンを作製するためのドナーベクターであるpDONR221プラスミドとBP 反応を行い、プラスミド (PRKDC (1408-1582)/pDONR221, PRKDC (3609-4020)/pDONR221, PRKDC (4020-4128)/pDONR221)を得た (Figure 13)。PRKDC (1408-1582)/pDONR221を理論上1ヶ所で切断するXba IおよびPvu Iで処理したところ、Xba I, Pvu I処理ではそれぞれ3.0 kbpの断片が確認でき、Xba I+Pvu I処理では、0.9 kbp, 2.1 kbpの断片が確認できた。また、PRKDC (3609-4020)/pDONR221を理論上1ヶ所で切断するPvu IおよびSph Iで処理したところ、Pvu I, Sph I処理では3.8 kbpの断片が確認でき、Pvu I+Sph I処理では、0.9 kbp, 2.8 kbpの断片が確認できた。また、PRKDC (4020-4128)/pDONR221を理論上1ヶ所で切断するPvu IおよびKpn Iで処理したところ、Pvu I, Kpn I処理では2.8 kbpの断片が確認でき、Pvu I+Kpn I処理では、0.9 kbpと1.9 kbpの断片が確認でき た 。 い ず れ も 理 論 上 の 断 片 サ イ ズ で あ っ た こ と か ら 、 PRKDC
(1408-1582)/pDONR221, PRKDC (3609-4020)/pDONR221, PRKDC (4020-4128)/pDONR221の作製に成功していることが確認できた。
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25
Figure 13 BP 反応の結果 BP 反応物を制限酵素処理し、アガロース電気泳動を行った (1.0% アガロースゲル)。
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26
Figure 14 LR 反応の結果 LR 反応物を制限酵素処理し、アガロース電気泳動を行った (1.0% アガロースゲル)。
3-4-3. LR反応を利用した発現クローンの作製 それぞれのBP反応物を用いて発現クローンを作製するためのデスティネーショ
ンベクターであるpDEST24プラスミドとLR反応を行い、プラスミド(PRKDC (1408-1582)/pDEST24)を得た (Figure 14)。このプラスミドを理論上2ヶ所で切断するPvu IIおよび1ヶ所で切断するEcoR I, Sac Iで処理したところ、Pvu II処理では2.0 kbp, 3.7 kbpの断片が確認でき、EcoR I, Sac I処理では、5.8 kbpの断片が確認できた。いずれも理論上の断片サイズであったことから、 PRKDC (1408-1582)/pDEST24の作製に成功していることが確認できた。PRKDC (3609-4020)/pDEST24, PRKDC (4020-4128)/pDEST24では確認できなかった。
3-4-4. 大腸菌でのDNA-PKフラグメントの発現 LR反応物を用いて、大腸菌でのタンパク質発現を行い、PRKDC
(1408-1582)-GST/pDEST24を得た (Figure 15)。これをSDS-PAGE電気泳動した結果、PRKDC (1408-1582)-GST/pDEST24の作製に成功していることが確認できた。
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27
Figure 15 大腸菌での DNA-PK 発現の結果 大腸菌での DNA-PK 発現を SDS-PAGE にて確認した。
4.考察
これまでにHer2過剰発現性乳がん細胞に特異的に働く増殖抑制ペプチドおよび、小分子化合物のスクリーニングとそのメカニズムの解明が行われてきた。その結果、
Her2 の発現に関わる転写因子 ESX に結合する転写調節因子およびその結合部位が同定され、結合部位由来の化学合成ペプチドが Her2 の発現を抑制することが報告されている [9]。さらに、そのペプチドの構造情報に由来する小分子化合物ライブラリーの中から、この細胞特異的に増殖を抑制する化合物 (wrenchnolol)が見出された [10]。この結果は、転写因子が創薬のターゲットとなりうることを示唆するものであるが、これ以外の転写因子をターゲットとした創薬研究は、現在までに
ほとんど報告されていない。
本研究ではサイトカイン産生に関与する NF-κB をターゲットとし、新規に相互作用する核内転写調節因子について探索するとともに、相互作用阻害剤の創薬を目
-
28
指し、NF-κB p65 転写活性化領域と結合する核内因子を探すために、探索プローブとなる NF-κB p65 TA 領域とスペーサーとなる polyproline rod の合成、およびNF-κB p65 TA 領域と結合する核内因子である DNA-PK の作製を行った。
4-1. ペプチド固相合成
NF-κB p65 TA 領域および ESX については合成できたが、特に NF-κB p65 TA領域は溶解しにくいこともあり、収率が低くなってしまったと考えられる。また、
HPLC において純度確認を行った結果、NF-κB p65 TA1 および NF-κB p65 TA2の分取精製後の Peak の溶出時間が脱保護後の Peak の溶出時間と異なっていたことについては、脱保護後と分取精製後ではカラムが古くなってしまったため、カラ
ムを変更してしまったことが要因の一つとして考えられる。さらに、ESX Ala 置換体の脱保護後の純度確認における目的のペプチドのピークがマイナーピークで
あったことについては、メジャーピークを MS による同定を行った結果、目的のペプチドより分子量が 103 程度大きい値が得られた ([M+H]+ 2555.943)。これは Cys残基に相当する。ペプチド合成時、N 末端 Cys 残基を 1 回縮合した後に、再縮合を行う前に piperidine を混入させてしまった可能性が高く、Fmoc 基が除去されてしまい、余分に Cys 残基がついたペプチドが合成されたと思われる。今後は注意して実験を行いたい。
Polyproline rod については Npys 基が外れてしまった。そこで、N 末端に-Cys (Npys)基を縮合する場合に、酸で N 末端側の保護基を外すことが可能な Boc-Cys (Npys)-OH を導入することで piperidine 処理による Npys 基の脱離を防ぎながら、樹脂からの切り出しと脱保護が可能であると考えられる。また、polyproline は (Pro)n が polyproline II ヘリックス構造をとるため、立体障害が起こりやすいと思われる。そこで、Fmoc-Pro-Pro-OH や Fmoc-Pro-Pro-Pro-OH を Building Blockとして伸長反応を行う方法や、polyproline rod に代わるものを採用する等の検討が必要である。今後は合成した NF-κB p65 TA 領域等のペプチドを直接ビーズに結合させる方法も検討したい。
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29
4-2. DNA-PK 作製 はじめに、DNAPKを3つのフラグメントとして作製を試みた。しかし、PCRを
行う配列の範囲が長いとPCRでの増幅を確認することができなかったため、範囲を短くしてPCRを行った。その結果、PRKDC (1408-1582)の作製に成功した。 また、制限酵素処理の際に温度等の条件を徹底して行なわなかったことや、形質
転換の手法によってはバンドが得られないことがあったので、条件の徹底と適切な
手法を選択して実験を行いたい。 今後は残りの部分のフラグメントについてGene Racer Kitを使ったPCRを行い、
増幅を行う。
4-3. 今後の計画 4-3-1. NF-κB p65 TA 領域と結合する核内タンパク質
NF-κB p65 TA1 および TA2領域には α-ヘリックスを取りうるφXXφφモチーフが存在する。そこで、この領域及びその前後のペプチドを GST およびpolyproline rod との融合プローブを作成し、特異的に結合する核内タンパク質を同定する (Figure 16)。
4-3-1 で同定されたタンパク質が核内においてそれぞれ複合体を形成している場合には、TA 領域近傍のアミノ酸配列の中で結合と関与しないアミノ酸を光架橋性アミノ酸であるベンゾイルフェニルアラニン (Bpa)に変換し、UV 光を用いて細胞内架橋を行うことで直接相互作用するサブユニットタンパク質を同定する。
-
30
Figure 16 戦略 NF-κB p65 領域の TA1 と TA2 領域の α-へリックス部分と特異的に結合する核内因子を探索し、その相互作用の解析を行うことで阻害剤のデザインを行う。
4-3-2. 結合部位の詳細解析 NF-κB p65 の TA1 及び TA2 領域と 4-3-1 で同定された相互作用タンパク質との
結合部位の詳細な解析を行う。TA 領域のうち、相互作用に必要な部位を deletion mutant ペプチドを合成し、結合実験を行い、決定する。また、TA 領域の Ala 置換体を用いて、結合実験を行うことで、相互作用に直接関与するアミノ酸の同定を
行う。
4-3-3. ペプチド性阻害剤の開発 4-3-2 で得られた結果をもとに、NF-κB の活性を阻害するペプチド性阻害剤を化
学合成する。この活性の確認には、プルダウン結合阻害実験とともに、ルシフェラ
ーゼや SEAP 等のレポーターアッセイを用いた評価法を計画している。レポーターアッセイを行うためには、化学合成したペプチドが細胞内へと導入される必要が
ある。これまでにヒト免疫不全ウイルス由来 TAT 配列を融合したペプチドを培養細胞培養液中に添加することで、細胞核内へと導入できることが報告されている
-
31
[10]。本研究についても同様のペプチドを合成して実験を行う。 相互作用確認実験で用いるプルダウンアッセイでは、細胞核抽出液を用いる予定
であるが、細胞内での発現量が少ないタンパク質の場合、通常のCBB染色や銀染色であっても検出が困難である。この場合は培養細胞上清を[35]Sメチオニン加えることで、合成されるタンパク質をRIでラベルする等、検出感度を上げる工夫を行う。
5.おわりに
タンパク質―タンパク質の相互作用メカニズムを阻害 (または活性化)する薬の探索/開発を遂行するためには、立体構造に基づく相互作用部位の詳細な情報が必
要である。しかしながら、タンパク質によっては構造解析が困難な場合があり、時
間と費用が嵩むことが多い。本研究では機能単位として出来る限り小さい「ペプチ
ド」を使って相互作用の解析を行い、時間と費用の短縮化を狙う。さらに、これら
のペプチドの持つ小分子ライブラリー (フォーカスドライブラリー)をターゲットライブラリーとしたドラッグスクリーニングを行うことで、創薬プロセスを加速す
ることが可能となる。
転写因子をターゲット分子とした創薬はこれまであまり行われていない。本研究
は創薬の新たな局面への展開を行うものである。
-
32
謝 辞
本研究の終わりに、ご助言とご指導を頂きました新潟薬科大学薬学部薬品製造学研
究室 北川 幸己 教授に心から感謝いたします。 本研究を進めるに当たり、直接のご指導とご鞭撻を賜りました新潟薬科大学薬学部薬
品製造学研究室 浅田 真一 助教に深く感謝いたします。 本研究を進めるに当たり、ESX ペプチドを提供して頂いた新潟薬科大学薬学部薬品
製造学研究室 久間田 佳彦 氏に感謝いたします。 本研究を進めるに当たり、各ペプチドの分取精製の協力および DNA-PK の発現系の
作製をして頂いた新潟薬科大学薬学部薬品製造学研究室 樋口 晴香 氏に深く感謝
いたします。 本研究を進めるに当たり、協力して頂いた新潟薬科大学薬学部薬品製造学研究室
本間 繭鼓 氏に感謝いたします。 最後に研究生活を支えてくださった研究室の皆様に感謝いたします。
-
33
引 用 文 献
1. Hamil K., Nam H., Fried H. Mol. Cell. Bio. 8, 4328-4341 (1988). 2. Shastry B., Ng S., Roeder R. J. Biol. Chem. 257, 12979-12986 (1982). 3. Sawadogo M., Roeder R. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 82, 4394-4398 (1985). 4. Rachez C., Suldan Z., Ward J., Chang C., Burakov D., Erdjument-Bromage
H., Tempst P., Freedman, L. Genes. Dev. 12, 1787-1800 (1998). 5. Baeuerle P. A., Baltimore D. Genes Dev. 3, 1689-1698 (1989). 6. Schmitz M. L., Baeuerle P. A. THE EMBO Journal 10, 3805-3817 (1991). 7. Choi Y., Asada S., Uesugi M. J Biol Chem. 275, 15912-15916 (2000). 8. Sato S., Kwon Y., Kamisuki S., Srivastava N., Mao Q., Kawagoe Y., Uesugi
M. J. Am. Chem. Soc. 129, 873-880 (2007). 9. Asada S., Choi Y., Yamada M., Wang S., Hung M., Qin J., Uesugi M. Proc.
Natl. Acad. Sci. U S A. 99, 12747-12752 (2002). 10. Shimogawa H., Kwon Y., Mao Q., Kawagoe Y., Choi Y., Asada S., Kigosgi
H., Uesugi M. J. Am. Chem. Soc. 126, 3461-3471 (2004).