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【はじめに】Leclercia adecarboxylata は腸内細菌科の菌種で あり、過去、Escherichia 属に分類されていたが、DNA の相 違により Leclercia 属となった経緯がある。今回、我々は臨 床材料からの検出は非常に稀であるこの菌種を血液培養か ら検出したので報告する。 【症例】40 女性。主訴として慢性腎不全(透析)・自 己免疫性疾患(Budd-Chiari 症候群・シューグレン症候群・ 抗リン脂質抗体症候群)にて加療の為に入院。入院中に 39℃の発熱あり。血液培養、生化学検査、血液検査の各種 を行う。発熱初日の検査結果は CRP 2.00/dl WBC 4600/μL BT39℃。初日のうちに血液培養陽性。グラム 陰性桿菌を検出。発熱 3 日目には CRP 22.45/dl WBC 18100/μL BT37.4℃。培養同定及び感受性結果より抗生 CFPM が開始となった。抗生剤 CFPM 2 週間投与。そ の後、CAZ に切り替え徐々に BT 36℃台に安定した。感 染巣は不明。 【微生物学的検査】発熱時に採取した血液培養 BD バクテ ックレズンボトル TM (日本 BD 社)の好気ボトル・嫌気ボ トル 2 セット(計 4 本)から培養 1 日目にグラム陰性桿菌 を検出した。その後、羊血液寒天培地(栄研化学)に黄褐 色コロニーを認めた。オキシターゼ(-)。BD フェニッ クス TM システムにて菌同定及び感受性テストを実施し、 Leclercia adecarboxylata を同定した。 【追加確認試験】同菌を簡易同定システム・クリスタル細 菌同定検査(日本 BD 社)及び微生物分類同定分析装置 MALDI Biotyper(ブルカー・ダルトニクス社)にて同定試 験を行い、結果は Leclercia adecarboxylata であった。 【考察】Leclercia adecarboxylata は色素産生能をもち 37℃培養より 25℃培養で黄色色素産生能が増強される菌で あり、腸管などにも存在すると manual of Clinical Microbiology(米国)に記載されている。自己免疫性疾患の 患者から単独で検出されたという報告もあり、イタリアで は既に ESBL を産生する Leclercia adecarboxylata の報告も ある事から今後、本菌の抗生薬の選択については注意して いく必要性を感じた。 【連絡先:025-777-3200Leclercia adecarboxylata 坂西 1) 、高橋 周汰 1) 、芳賀 博子 2) 、小池 1) 新潟大学地域医療教育センター 魚沼基幹病院 1) 、新潟県立加茂病院 2) 【はじめに】B 群レンサ球菌(Group B Streptococcus;以下 GBS)は、ヒトの膣内や腸管内などの常在菌であり、妊婦 から垂直感染した際には新生児に敗血症や髄膜炎などの重 篤感染症を引き起こす。当院では、妊婦の GBS スクリーニ ング検査に血液寒天培地を使用していたが、3 社の GBS 択分離培地で比較検討を実施し、クロモアガー Strep B(関 東化学)をルーチン検査に導入した。導入後の陽性率の変 化と選択分離培地の有用性を報告する。 【導入後の陽性率変化】選択分離培地導入後の 2015 9 2016 5 月の 209 検体における陽性率は 20.6%であった。 導入前の 4 年間の陽性率は 8.0%、4.5%、6.7%、9.6%であ り、選択分離培地導入後では陽性率は上昇した。 【選択分離培地の有用性】血液寒天培地では、常在菌の影 響により GBS の菌量が極少数の検体では検出が困難な場合 がある。導入前に実施した比較検討では、94 検体中 3 検体 で極少数の GBS を血液寒天培地から継代培養し同定した。 しかし、選択分離培地では常在菌の発育が抑制されるため 継代培養せずに同定できた。また、多くの GBS は β 溶血 を示すが、非溶血性の GBS も選択分離培地ではコロニーの 色調から容易に検出することができる。比較検討の際には、 1 検体で非溶血株を経験したが選択分離培地での判定は容 易であった。 【考察】日本の妊婦の GBS 保菌率は 1030%である。選 択分離培地導入前の陽性率は 4.59.6%であり、選択分離 培地導入後では 20.6%と陽性率が上昇した。これは血液寒 天培地で見落としていた検体を判定できるようになったた めと考えられる。技師の経験に依存せずに GBS を検出する ことができ、継代培養の頻度も低下し、コスト削減と結果 報告までの時間短縮にもつながる GBS 選択分離培地はスク リーニング検査に有用である。 連絡先:0256-33-1551(内線 1250GBS B 群レンサ球菌スクリーニング検査において 渡邉 亮太 1) 、斎藤 典男 1) 、高橋 英花 1) 、飛田 賢一 1) 新潟県済生会 三条病院 1) 46 45

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Page 1: EntryNo. 71 45【はじめに】Leclercia adecarboxylata は腸内細菌科の菌種で あり、過去、Escherichia 属に分類されていたが、DNA の相 違によりLeclercia

【はじめに】Leclercia adecarboxylataは腸内細菌科の菌種であり、過去、Escherichia属に分類されていたが、DNAの相違により Leclercia属となった経緯がある。今回、我々は臨床材料からの検出は非常に稀であるこの菌種を血液培養か

ら検出したので報告する。

【症例】40歳 女性。主訴として慢性腎不全(透析)・自己免疫性疾患(Budd-Chiari症候群・シューグレン症候群・抗リン脂質抗体症候群)にて加療の為に入院。入院中に

39℃の発熱あり。血液培養、生化学検査、血液検査の各種を行う。発熱初日の検査結果は CRP 2.00㎎/dl・WBC 4600/μL・ BT39℃。初日のうちに血液培養陽性。グラム陰性桿菌を検出。発熱 3日目には CRP 22.45㎎/dl・WBC 18100/μL・ BT37.4℃。培養同定及び感受性結果より抗生剤 CFPMが開始となった。抗生剤 CFPMは 2週間投与。その後、CAZに切り替え徐々に BTも 36℃台に安定した。感染巣は不明。

【微生物学的検査】発熱時に採取した血液培養 BDバクテックレズンボトル TM(日本 BD社)の好気ボトル・嫌気ボ

トル 2セット(計 4本)から培養 1日目にグラム陰性桿菌を検出した。その後、羊血液寒天培地(栄研化学)に黄褐

色コロニーを認めた。オキシターゼ(-)。BDフェニックス TMシステムにて菌同定及び感受性テストを実施し、

Leclercia adecarboxylataを同定した。【追加確認試験】同菌を簡易同定システム・クリスタル細

菌同定検査(日本 BD社)及び微生物分類同定分析装置MALDI Biotyper(ブルカー・ダルトニクス社)にて同定試

験を行い、結果は Leclercia adecarboxylataであった。【考察】Leclercia adecarboxylataは色素産生能をもち37℃培養より 25℃培養で黄色色素産生能が増強される菌であり、腸管などにも存在すると manual of Clinical Microbiology(米国)に記載されている。自己免疫性疾患の患者から単独で検出されたという報告もあり、イタリアで

は既に ESBLを産生する Leclercia adecarboxylataの報告もある事から今後、本菌の抗生薬の選択については注意して

いく必要性を感じた。

         【連絡先:025-777-3200】

血液培養より検出された Leclercia adecarboxylata の一症例

◎坂西 清 1)、高橋 周汰 1)、芳賀 博子 2)、小池 敦 1)

新潟大学地域医療教育センター 魚沼基幹病院 1)、新潟県立加茂病院 2)

EntryNo. 16

【はじめに】B群レンサ球菌(Group B Streptococcus;以下GBS)は、ヒトの膣内や腸管内などの常在菌であり、妊婦から垂直感染した際には新生児に敗血症や髄膜炎などの重

篤感染症を引き起こす。当院では、妊婦の GBSスクリーニング検査に血液寒天培地を使用していたが、3社の GBS選択分離培地で比較検討を実施し、クロモアガー Strep B(関東化学)をルーチン検査に導入した。導入後の陽性率の変

化と選択分離培地の有用性を報告する。

【導入後の陽性率変化】選択分離培地導入後の 2015年 9月~2016年 5月の 209検体における陽性率は 20.6%であった。導入前の 4年間の陽性率は 8.0%、4.5%、6.7%、9.6%であり、選択分離培地導入後では陽性率は上昇した。

【選択分離培地の有用性】血液寒天培地では、常在菌の影

響により GBSの菌量が極少数の検体では検出が困難な場合がある。導入前に実施した比較検討では、94検体中 3検体で極少数の GBSを血液寒天培地から継代培養し同定した。

しかし、選択分離培地では常在菌の発育が抑制されるため

継代培養せずに同定できた。また、多くの GBSはβ溶血を示すが、非溶血性の GBSも選択分離培地ではコロニーの色調から容易に検出することができる。比較検討の際には、

1検体で非溶血株を経験したが選択分離培地での判定は容易であった。

【考察】日本の妊婦の GBS保菌率は 10~30%である。選択分離培地導入前の陽性率は 4.5~9.6%であり、選択分離培地導入後では 20.6%と陽性率が上昇した。これは血液寒天培地で見落としていた検体を判定できるようになったた

めと考えられる。技師の経験に依存せずに GBSを検出することができ、継代培養の頻度も低下し、コスト削減と結果

報告までの時間短縮にもつながる GBS選択分離培地はスクリーニング検査に有用である。

連絡先:0256-33-1551(内線 1250)

GBS選択分離培地の有用性

B群レンサ球菌スクリーニング検査において

◎渡邉 亮太 1)、斎藤 典男 1)、高橋 英花 1)、飛田 賢一 1)

新潟県済生会 三条病院 1)

EntryNo. 71

【はじめに】好中球の核左方移動は、感染症や炎症性疾患

などにみられ、特に炎症初期のマーカーとして有用である

ことが報告されている。日常検査においては、末梢血中の

桿状核球の増加と定義されるが、そのカットオフ値に一定

の見解はない。また、桿状核球と分葉核球の目視分類基準

は、日本臨床検査技師会勧告法、米国臨床検査標準協議会

勧告法や日本検査血液学会案(旧 JSLH法)などがあり、施設ごとに異なる方法が用いられている。最近、日本検査

血液学会は、標準化を目指し、新しい好中球目視分類基準

(新 JSLH法)を発表した。そこで、新 JSLH法と従来法を比較検討し、炎症性疾患における核左方移動のカットオフ

値の設定を試みた。

【方法】非炎症例(57例)と CRP高値例(107例)のEDTA加末梢血から塗抹標本を作製後、5名の技師が旧および新 JSLH法で白血球 200細胞を分類し、桿状核球の割合を算出した。

【結果】1. 非炎症例と CRP高値例の平均桿状核球比率は、それぞれ新 JSLH法が 2.2%、19.8%、旧 JSLH法が 12.6%、

34.8%であった。2. CRP高値例の桿状核球比率と 5名の技師の変動係数(CV%)から precision profileを作成した。回帰式より桿状核球比率 20%における CV%を比較したところ、新 JSLH法は 24.8%であり、旧 JSLH法の 39.0%に比べ低値であった。3. 両法における相関係数(r)は、0.95と良好であったが、回帰式は y=0.80x-8.01と新 JSLH法が低値となった。4. 新 JSLH法の ROC曲線下面積は、0.995と旧JSLH法の 0.971に比べ有意に高値であった。【結語】新 JSLH法は、旧 JSLH法に比べ再現性が良好であった。炎症性疾患におけるカットオフ値を 5.2に設定した時、特異度は 1.000、感度は 0.972であった。連絡先:011-611-2111(内線 3644)

新しい目視分類基準を用いた好中球核左方移動の評価

◎近藤 崇 1)、遠藤 明美 1)、盛合 亮介 1)、望月 真希 1)、山田 暁 1)、淺沼 康一 1)、髙橋 聡 1)

札幌医科大学附属病院 検査部 1)

EntryNo. 7

【はじめに】予後不良といわれている t(16;21)(p11;q22)FUS-ERG(以下 FUS-ERG)を伴う AMLは稀で,形態学的特徴が様々であり,時に白血病細胞による血球貪食や空胞形成などを生じることがあると報告されている.今回我々は診断に

苦慮した FUS-ERGを伴う小児 AMLを経験したので報告する.

【症例】9歳男児,2016年 4月,他院にて膿瘍形成を伴う穿孔性虫垂炎術後の経過観察中に芽球様細胞を末梢血中に

認めたため当院へ紹介となった.

【結果】骨髄検査にて芽球様細胞 23.0%(細胞所見:大小不同,N/C比中~大,細胞質好塩基性,核網繊細で湾入や核分葉などの核形不整を伴う細胞が認められた.一部空胞形

成や血球を貪食する芽球様細胞も混在した.)顆粒球系には偽ペルゲル核異常や好中球顆粒減少などの異形成も認めら

れた.POX染色,EST染色は共に陰性であった.細胞表面マーカーは CD11b・ CD13・ CD33・ CD34・ CD41・CD42・ CD56・ CD61・ CD117・MPO陽性であった.RT-PCRでは FUS-ERG mRNAが検出されたが G分染法に

おいて-16,add(17)(p11.2),add(21)(q22)という複雑核型が検出され RT-PCRの結果と一致しなかった.後日追加したSKY法により t(16;21)(p11;q22)の転座が検出された.これらの所見により FUS-ERGを伴う急性巨核芽球性白血病(AML-M7)と診断された.【結語】FUS-ERGを有する白血病の病型はM1・ 2・ 4・5・ 7の形態をとるものが多く,特有な病型はないとされる.本症例でも形態学的所見では芽球の増殖が緩慢で分化

傾向や異形成なども認められたため,確定診断に至らなかった.一方で RT-PCRにおいて FUS-ERGキメラ遺伝子が検出されたため,G分染法の結果解釈を改めて見直し SKY法を追加したことで確定診断に結びついた症例であった.

  連絡先:宮城県立こども病院ビー・エム・エル検査室 

022-302-8755(直通)

FUS-ERG遺伝子変異を伴う小児 AMLの一例

◎金澤 雅代 1)、大窪 信夫 1)、武田 敦子 1)、井上 千春 1)、栗原 幸孝 1)、齋藤 香菜 1)、秋元 悠未 1)

地方独立行政法人 宮城県立こども病院ビー・エム・エル検査室 1)

EntryNo. 36

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Page 2: EntryNo. 71 45【はじめに】Leclercia adecarboxylata は腸内細菌科の菌種で あり、過去、Escherichia 属に分類されていたが、DNA の相 違によりLeclercia

【はじめに】迅速発育抗酸菌(Rapidly-Growing Mycobacteria:以下 RGM)は、土壌や水道水など環境中に分布している。皮膚軟部組織や呼吸器感染症としての報告例が多いが、今

回我々は血液培養より RGMが分離された症例を経験したので報告する。

【症例】79歳男性。20XX-2年に健診で貧血を指摘され、当院を受診しMDSと診断。20XX年 1月に加療目的で入院となった。入院時身体所見に特記すべき異常はなく、血液

検査では汎血球減少を認め、CRP値は 0.32mg/dLであった。MDSに対する免疫抑制と G-CSF補充、VCZの予防投与を続けていたが、第 54病日に 39℃台の発熱と、CRP値が3.15mg/dLと上昇を認めたため血液培養 2セットが提出された。

【細菌検査所見】培養 4日目で好気 FAボトル(バクテアラート、シスメックス・ビオメリュー)のみ 2セットとも陽性となった。グラム染色では、分岐はなく斑状に染まったグ

ラム陽性桿菌が観察された。グラム染色性から抗酸菌を疑

い、抗酸菌染色(Ziehl-Neelsen染色)を行ったところ抗酸性を

示す菌体が確認できた。血液培養陽転時間から RGMも視野に入れ、ヒツジ血液寒天培地M58(栄研化学)に加えて、2%小川培地、2%ビット培地(極東製薬)にもサブカルチャーを行った。培養 2日目にヒツジ血液寒天培地で微小集落が発育したため、集落を染色して抗酸菌であることを確認し

た。培養 3日目でヒツジ血液寒天培地では白色の滴状集落となり、2%小川培地、2%ビット培地では S型集落が発育した。発育したコロニーから PCR(コバス TaqMan48、ロシュ)を行ったところ結核菌群、MACとも陰性であった。DDH(極東製薬)は Mycobacterium abscessusとなった。(現在、M. abscessus groupについて菌種同定の精査依頼中。)【結語】今回我々は、血液培養から RGMが分離された症例を経験した。本来、抗酸菌は専用ボトルでのみ発育する

と認識していたが、今回のように RGMが検出可能であることが分かった。グラム陽性桿菌の場合、グラム染色性か

ら抗酸菌の可能性も視野に入れ、積極的に抗酸菌染色を追

加することの重要性を再認識することができた。

連絡先 0258-28-3600 (内線 2311)

血液培養より迅速発育抗酸菌が分離された一例

◎酒井 俊希 1)、星 周一郎 1)、永井 久美子 1)、田村 優子 1)、高野 美菜 1)、森 陽子 1)

長岡赤十字病院 1)

EntryNo. 130

【はじめに】Mycobacterium tuberculosisは、全身の臓器や組織に感染し結核症を引き起こす。その多くは肺結核であ

り、結核性髄膜炎の割合は少ない。結核性髄膜炎は死亡

率・後遺症残存率が高く重篤な疾患であるが、菌の証明に

至らず診断・治療に難渋することが多い。今回我々は、

PCR検査により髄液から M. tuberculosisを検出し早期診断に至った症例を経験したので報告する。

【症例】22歳男性、インドネシア人。2013年 11月に入国し、溶接作業に従事していた。既往歴:特記事項なし。   

現病歴:2015年 4月 7日から頭痛、後頚部痛、39℃台の発熱が出現した。近医内科を受診し、抗生剤や解熱鎮痛薬を

処方されたが、解熱せず頭痛が持続するため 4月 13日に当院神経内科を受診し同日入院となった。

【臨床経過】入院時体温 39.5℃、項部硬直・ケルニッヒ徴候・ジョルトサイン陽性。髄液検査で多核球優位に細胞数

増多があり、髄液糖も低下しているため細菌性髄膜炎を疑

い、MEPMの投与が開始された。第 2病日では検査室側で抗酸菌も疑い抗酸菌塗抹を実施した結果、塗抹陽性のため

直ちに報告した。その後胸部 X線・ CTで粟粒結核が疑われると連絡があった。当検査部のコバス TaqMan48にてPCR検査を実施したところ、髄液から M. tuberculosisが検出されたため粟粒結核による結核性髄膜炎と診断された。

PZA、RFP、INH、EBの 4剤治療が開始され、4月 16日に結核病床を有する他院へ転院となった。

【細菌検査所見】髄液・胃液ともに Ziehl-Neelsen染色にてガフキー1号、PCR検査で M. tuberculosisが検出された。喀痰の抗酸菌塗抹・ PCR検査は陰性で、培養から同一菌種が分離された。中間尿からは本菌は認められなかった。

【まとめ】結核性髄膜炎において本菌の証明は、確定診断

に繋がる重要な要素であり、髄膜炎の起炎菌には抗酸菌も

視野に入れ検査をする必要性がある。外部委託では自施設

で行う PCR検査に比べて結果報告が遅くなる。本例では、当検査部で PCR検査を施行したことで臨床側へ迅速的に結果報告を行えた。また、今回髄液中に本菌が存在すること

を証明でき、PCR検査が早期診断の大きな役割を果たした症例となった。   連絡先 0256-64-5111(内線 2540)

PCR検査が早期診断に結び付いた結核性髄膜炎の1例

◎荒木 諒太 1)、樋口 元弥 1)、渡辺 実 1)

独立行政法人 労働者健康安全機構 燕労災病院 1)

EntryNo. 125

【はじめに】当院では抗酸菌培養を 2%小川 PS培地(小川

法)と BDミジット TM抗酸菌培養・検査システム(ミジット

法)の併用により行っている。当院開院後 1年間の抗酸菌培

養結果をまとめることで小川法とミジット法の併用による

抗酸菌検出成績を評価した。

【方法と結果】2015 年 6月 1日から 2016年 5月 31日まで

に実施した 587件 388名の培養結果、小川法(+),ミジット

法(+)(Ⅰ群)小川法:(-),ミジット法:(+)(Ⅱ群)小川

法:(+),ミジット法:(-)(Ⅲ群)の 3群を対象として評価を

行った。培養期間は小川法 8週、ミジット法 6週であり、

培養期間中に陽性と判定されたものに対して当院では栄研

化学 LoopampEXIA及び RocheCOBASTaqMan48を用いて

M.tuberculosis, M.avium, M.intracellulareの鑑別を行

っている。培養依頼の中には M.tuberculosisが否定された

段階でそれ以降の鑑別が行われなかったものや院内での検

査により上記の 3菌種が否定された場合に外部委託が行わ

れなかったものが含まれているためそれらは全て非結核性

抗酸菌群(NTM)として扱っている。該当期間中の依頼で培養

陽性となったもののうち、(Ⅰ群)が 50%,(Ⅱ群)が

36.5%,(Ⅲ群)が 11.5%であり、結核菌群 7.7%・ NTM

92.3%という結果になった。

【考察】小川法とミジット法の併用による抗酸菌検出成績

に関してみると、それぞれ陰性となった結果が少なからず

存在している。特に(Ⅱ群:小川法(-))の割合は培養陽

性のうちおよそ 4割を占めており、その中には

M.tuberculosisが分離されたものも含まれている。このこ

とから 2法の併用、特にミジット法の導入により抗酸菌検

出成績が上昇すると考えられる。また、1年間の培養結果

の集計から地域における正確な抗酸菌分離状況を述べるこ

とは難しいが、今後は検査材料及び性状や塗抹成績を加味

したうえでデータを蓄積し研究を進めていきたい。

【今後の課題】(Ⅰ群)に関しては小川法でのコロニー数と

ミジット法陽性の関連性(菌量)の検討、(Ⅱ群) (Ⅲ群)に関

しては培養手技の精度や検査材料の性状、塗抹成績を同時

に考慮しなければならないと思われる。(連絡先:025-777-

3200)

小川法・ミジット法を用いた抗酸菌培養成績を振り返って

◎高橋 周汰 1)、坂西 清 1)、芳賀 博子 2)、小池 敦 1)

新潟大学地域医療教育センター 魚沼基幹病院 1)、新潟県立加茂病院 2)

EntryNo. 70

【はじめに】Rothia mucilaginosa(R. mucilaginosa)は口腔内に常在する通性嫌気性グラム陽性球菌で、心内膜炎、髄膜炎

などの感染症を引き起こす日和見感染の原因菌である。今

回我々は、胸水から分離された R. mucilaginosaによる感染症例を経験したので報告する。【症例】80歳女性。脳梗塞、虚血性腸炎の既往あり。入院前日から下血しており平成

27年 10月 31日に当院内科に入院となった。11月 18日にCVを抜去し、経過良好の為近日退院を予定していたが11月 19日に心不全を起こし 11月 20日に両側気胸の出現を認めたため胸腔ドレナージが留置され、ドレーン留置後

に CT撮影を施行した。CTで腸管虚血が認められたため当院外科に転科され、11月 21日に容体が悪化し死亡退院となった。【微生物学的検査】11月 20日に胸水が滅菌スピッツ 1本と血液培養ボトルで 1セット 2本提出された。滅菌スピッツで提出されたものからは菌の発育を認めなかっ

たが血液培養ボトルで 22日に好気ボトル、25日に嫌気ボトルが陽転し、2本ともグラム染色でグラム陽性球菌を認めた。ボトルからのサブカルチャーは 24時間炭酸ガス培養

下でヒツジ血液寒天培地及びチョコレート寒天培地に灰白

色、非溶血性の粘着性の強い集落を認め、24時間好気培養下ドリガルスキー寒天培地、48時間嫌気培養下ブルセラHK寒天培地でも菌の発育を認めた。同定感受性試験は、カタラーゼテストが陽性の為 Staphylococcus spp.を疑い、PC3.1Jパネル(ベックマンコールター)を用いたが同定不能となった。BBL CRYSTAL GP(日本 BD)で再検査を行ったところ Stomatococcus mucilaginosusと同定された。また後日MALDI Biotyper(BRUKER)で分析したところ、R. mucilaginosaとなった。【まとめ】今回の症例ではカタラーゼテストが陽性だった事により Staphylococcus spp.と類似した結果が同定を困難とさせた要因であった。また、R. mucilaginosaが胸水からの分離例は極めて珍しいためコロニーからのグラム染色で R. mucilaginosaの特徴的な大きめ四連のグラム陽性球菌である事が同定検査を進めていく上

で重要と思われた。【謝辞】MALDI Biotyperで分析して頂きました北海道大学病院検査・輸血部の岩崎澄央技師に深

謝致します。       連絡先:011-890-1610

胸水から検出された Rothia mucilaginosaの一症例

◎佐藤 美香 1)、和田 直樹 1)、新田 久美子 1)、斉藤 和司 1)

医療法人 徳洲会 札幌徳洲会病院 1)

EntryNo. 57

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Page 3: EntryNo. 71 45【はじめに】Leclercia adecarboxylata は腸内細菌科の菌種で あり、過去、Escherichia 属に分類されていたが、DNA の相 違によりLeclercia

【はじめに】迅速発育抗酸菌(Rapidly-Growing Mycobacteria:以下 RGM)は、土壌や水道水など環境中に分布している。皮膚軟部組織や呼吸器感染症としての報告例が多いが、今

回我々は血液培養より RGMが分離された症例を経験したので報告する。

【症例】79歳男性。20XX-2年に健診で貧血を指摘され、当院を受診しMDSと診断。20XX年 1月に加療目的で入院となった。入院時身体所見に特記すべき異常はなく、血液

検査では汎血球減少を認め、CRP値は 0.32mg/dLであった。MDSに対する免疫抑制と G-CSF補充、VCZの予防投与を続けていたが、第 54病日に 39℃台の発熱と、CRP値が3.15mg/dLと上昇を認めたため血液培養 2セットが提出された。

【細菌検査所見】培養 4日目で好気 FAボトル(バクテアラート、シスメックス・ビオメリュー)のみ 2セットとも陽性となった。グラム染色では、分岐はなく斑状に染まったグ

ラム陽性桿菌が観察された。グラム染色性から抗酸菌を疑

い、抗酸菌染色(Ziehl-Neelsen染色)を行ったところ抗酸性を

示す菌体が確認できた。血液培養陽転時間から RGMも視野に入れ、ヒツジ血液寒天培地M58(栄研化学)に加えて、2%小川培地、2%ビット培地(極東製薬)にもサブカルチャーを行った。培養 2日目にヒツジ血液寒天培地で微小集落が発育したため、集落を染色して抗酸菌であることを確認し

た。培養 3日目でヒツジ血液寒天培地では白色の滴状集落となり、2%小川培地、2%ビット培地では S型集落が発育した。発育したコロニーから PCR(コバス TaqMan48、ロシュ)を行ったところ結核菌群、MACとも陰性であった。DDH(極東製薬)は Mycobacterium abscessusとなった。(現在、M. abscessus groupについて菌種同定の精査依頼中。)【結語】今回我々は、血液培養から RGMが分離された症例を経験した。本来、抗酸菌は専用ボトルでのみ発育する

と認識していたが、今回のように RGMが検出可能であることが分かった。グラム陽性桿菌の場合、グラム染色性か

ら抗酸菌の可能性も視野に入れ、積極的に抗酸菌染色を追

加することの重要性を再認識することができた。

連絡先 0258-28-3600 (内線 2311)

血液培養より迅速発育抗酸菌が分離された一例

◎酒井 俊希 1)、星 周一郎 1)、永井 久美子 1)、田村 優子 1)、高野 美菜 1)、森 陽子 1)

長岡赤十字病院 1)

EntryNo. 130

【はじめに】Mycobacterium tuberculosisは、全身の臓器や組織に感染し結核症を引き起こす。その多くは肺結核であ

り、結核性髄膜炎の割合は少ない。結核性髄膜炎は死亡

率・後遺症残存率が高く重篤な疾患であるが、菌の証明に

至らず診断・治療に難渋することが多い。今回我々は、

PCR検査により髄液から M. tuberculosisを検出し早期診断に至った症例を経験したので報告する。

【症例】22歳男性、インドネシア人。2013年 11月に入国し、溶接作業に従事していた。既往歴:特記事項なし。   

現病歴:2015年 4月 7日から頭痛、後頚部痛、39℃台の発熱が出現した。近医内科を受診し、抗生剤や解熱鎮痛薬を

処方されたが、解熱せず頭痛が持続するため 4月 13日に当院神経内科を受診し同日入院となった。

【臨床経過】入院時体温 39.5℃、項部硬直・ケルニッヒ徴候・ジョルトサイン陽性。髄液検査で多核球優位に細胞数

増多があり、髄液糖も低下しているため細菌性髄膜炎を疑

い、MEPMの投与が開始された。第 2病日では検査室側で抗酸菌も疑い抗酸菌塗抹を実施した結果、塗抹陽性のため

直ちに報告した。その後胸部 X線・ CTで粟粒結核が疑われると連絡があった。当検査部のコバス TaqMan48にてPCR検査を実施したところ、髄液から M. tuberculosisが検出されたため粟粒結核による結核性髄膜炎と診断された。

PZA、RFP、INH、EBの 4剤治療が開始され、4月 16日に結核病床を有する他院へ転院となった。

【細菌検査所見】髄液・胃液ともに Ziehl-Neelsen染色にてガフキー1号、PCR検査で M. tuberculosisが検出された。喀痰の抗酸菌塗抹・ PCR検査は陰性で、培養から同一菌種が分離された。中間尿からは本菌は認められなかった。

【まとめ】結核性髄膜炎において本菌の証明は、確定診断

に繋がる重要な要素であり、髄膜炎の起炎菌には抗酸菌も

視野に入れ検査をする必要性がある。外部委託では自施設

で行う PCR検査に比べて結果報告が遅くなる。本例では、当検査部で PCR検査を施行したことで臨床側へ迅速的に結果報告を行えた。また、今回髄液中に本菌が存在すること

を証明でき、PCR検査が早期診断の大きな役割を果たした症例となった。   連絡先 0256-64-5111(内線 2540)

PCR検査が早期診断に結び付いた結核性髄膜炎の1例

◎荒木 諒太 1)、樋口 元弥 1)、渡辺 実 1)

独立行政法人 労働者健康安全機構 燕労災病院 1)

EntryNo. 125

【はじめに】当院では抗酸菌培養を 2%小川 PS培地(小川

法)と BDミジット TM抗酸菌培養・検査システム(ミジット

法)の併用により行っている。当院開院後 1年間の抗酸菌培

養結果をまとめることで小川法とミジット法の併用による

抗酸菌検出成績を評価した。

【方法と結果】2015 年 6月 1日から 2016年 5月 31日まで

に実施した 587件 388名の培養結果、小川法(+),ミジット

法(+)(Ⅰ群)小川法:(-),ミジット法:(+)(Ⅱ群)小川

法:(+),ミジット法:(-)(Ⅲ群)の 3群を対象として評価を

行った。培養期間は小川法 8週、ミジット法 6週であり、

培養期間中に陽性と判定されたものに対して当院では栄研

化学 LoopampEXIA及び RocheCOBASTaqMan48を用いて

M.tuberculosis, M.avium, M.intracellulareの鑑別を行

っている。培養依頼の中には M.tuberculosisが否定された

段階でそれ以降の鑑別が行われなかったものや院内での検

査により上記の 3菌種が否定された場合に外部委託が行わ

れなかったものが含まれているためそれらは全て非結核性

抗酸菌群(NTM)として扱っている。該当期間中の依頼で培養

陽性となったもののうち、(Ⅰ群)が 50%,(Ⅱ群)が

36.5%,(Ⅲ群)が 11.5%であり、結核菌群 7.7%・ NTM

92.3%という結果になった。

【考察】小川法とミジット法の併用による抗酸菌検出成績

に関してみると、それぞれ陰性となった結果が少なからず

存在している。特に(Ⅱ群:小川法(-))の割合は培養陽

性のうちおよそ 4割を占めており、その中には

M.tuberculosisが分離されたものも含まれている。このこ

とから 2法の併用、特にミジット法の導入により抗酸菌検

出成績が上昇すると考えられる。また、1年間の培養結果

の集計から地域における正確な抗酸菌分離状況を述べるこ

とは難しいが、今後は検査材料及び性状や塗抹成績を加味

したうえでデータを蓄積し研究を進めていきたい。

【今後の課題】(Ⅰ群)に関しては小川法でのコロニー数と

ミジット法陽性の関連性(菌量)の検討、(Ⅱ群) (Ⅲ群)に関

しては培養手技の精度や検査材料の性状、塗抹成績を同時

に考慮しなければならないと思われる。(連絡先:025-777-

3200)

小川法・ミジット法を用いた抗酸菌培養成績を振り返って

◎高橋 周汰 1)、坂西 清 1)、芳賀 博子 2)、小池 敦 1)

新潟大学地域医療教育センター 魚沼基幹病院 1)、新潟県立加茂病院 2)

EntryNo. 70

【はじめに】Rothia mucilaginosa(R. mucilaginosa)は口腔内に常在する通性嫌気性グラム陽性球菌で、心内膜炎、髄膜炎

などの感染症を引き起こす日和見感染の原因菌である。今

回我々は、胸水から分離された R. mucilaginosaによる感染症例を経験したので報告する。【症例】80歳女性。脳梗塞、虚血性腸炎の既往あり。入院前日から下血しており平成

27年 10月 31日に当院内科に入院となった。11月 18日にCVを抜去し、経過良好の為近日退院を予定していたが11月 19日に心不全を起こし 11月 20日に両側気胸の出現を認めたため胸腔ドレナージが留置され、ドレーン留置後

に CT撮影を施行した。CTで腸管虚血が認められたため当院外科に転科され、11月 21日に容体が悪化し死亡退院となった。【微生物学的検査】11月 20日に胸水が滅菌スピッツ 1本と血液培養ボトルで 1セット 2本提出された。滅菌スピッツで提出されたものからは菌の発育を認めなかっ

たが血液培養ボトルで 22日に好気ボトル、25日に嫌気ボトルが陽転し、2本ともグラム染色でグラム陽性球菌を認めた。ボトルからのサブカルチャーは 24時間炭酸ガス培養

下でヒツジ血液寒天培地及びチョコレート寒天培地に灰白

色、非溶血性の粘着性の強い集落を認め、24時間好気培養下ドリガルスキー寒天培地、48時間嫌気培養下ブルセラHK寒天培地でも菌の発育を認めた。同定感受性試験は、カタラーゼテストが陽性の為 Staphylococcus spp.を疑い、PC3.1Jパネル(ベックマンコールター)を用いたが同定不能となった。BBL CRYSTAL GP(日本 BD)で再検査を行ったところ Stomatococcus mucilaginosusと同定された。また後日MALDI Biotyper(BRUKER)で分析したところ、R.mucilaginosaとなった。【まとめ】今回の症例ではカタラーゼテストが陽性だった事により Staphylococcus spp.と類似した結果が同定を困難とさせた要因であった。また、R.mucilaginosaが胸水からの分離例は極めて珍しいためコロニーからのグラム染色で R. mucilaginosaの特徴的な大きめ四連のグラム陽性球菌である事が同定検査を進めていく上

で重要と思われた。【謝辞】MALDI Biotyperで分析して頂きました北海道大学病院検査・輸血部の岩崎澄央技師に深

謝致します。       連絡先:011-890-1610

胸水から検出された Rothia mucilaginosaの一症例

◎佐藤 美香 1)、和田 直樹 1)、新田 久美子 1)、斉藤 和司 1)

医療法人 徳洲会 札幌徳洲会病院 1)

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