問題解決の能力の育成を目指す理科学習 · 2010. 11. 17. ·...

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【第3学年】 【第4学年】 ○ チョウをそだてよう ○ 月の動き ○ こん虫をしらべよう ○ 星の動き ○ 明かりをつけよう ○ もののかさと温度 ○ 水のすがたとゆくえ ○ もののあたたまりかた 【第5学年】 【第6学年】 ○ 植物の発芽と成長 ○ 大地のつくりと変化 ○ 花から実へ ○ 水よう液の性質とはたらき ○ 流れる水のはたらき ○ もののとけかた 平成 20 年度 初等理科研究グループ 専門研究員 大和町立小野小学校 千葉 潤一 岩沼市立岩沼中学校 軽部 敦子 栗原市立築館小学校 八巻 石巻市立石巻小学校 武田 真弥 指導主事 企画研究班 主幹 狩野 孝信 企画研究班 主幹 和宏 科学巡回訪問とは,宮城県内(仙台市を 除く)の小学校を科学巡回車(なかよし号) で訪問し,午前は児童対象の実験教室,観 察教室,ものづくり教室などの理科教室を 行い,午後は教員を対象とした研修会で理 科の授業の提案,理科教育相談などを行っ ている。 今年度は,午後の研修会の場で,授業案 を基に考察する場面の模擬授業を行った。 このことにより,問題解決の能力を育成す るための授業づくりを提案することができ た。そして,実際の授業において授業案を 活用してもらった。 (1) 問題解決の過程を,「つかむ」「調べる」「考察する」ととらえたことで,教師の働き掛けのポイ ントを大きな流れでつかみ,授業を焦点化することができた。 (2) 「考察する」場面を,「結果を整理する」「考える」「結論を得る」の3つの段階に設定し,児童 の意識に応じて適切な発問や指示を行ったことで,思考の連続性を図ることができた。 (3) 授業づくりについて,授業案の実践・検証を通して,問題解決の能力を育成するための授業づく りの一方策を提案することができた。 科学巡回訪問と授業づくりの提案 問題解決の能力の育成を目指す理科学習 考察する場面を重視した授業づくりを通して 主題,副題について 「児童が自然の事物・現象に親しむ中で興味・関心 をもち,そこから問題を見いだし,予想や仮説の基 に観察,実験などを行い,結果を整理し,相互に話 し合う中から結論として科学的な見方や考え方をも つようになる過程*」を通して育成する力 *新小学校学習指導要領解説理科編 問題解決の過程を「つかむ」「調べる」「考察 する」の3つの場面とし,授業案を作成し,授 業実践,検証を行っていく一連の流れ 問題解決能力とは 平成 20 年度初等理科研究グループ ダイジェスト版 主題設定の理由 (1) 国の教育課程実施状況調査や TIMSS 調査,PISA 調査の結果から ・理科の学習の必要感の意識が低い ・科学的に考えたり説明したりすることが苦手 (2) 本県の学習状況調査の結果から,児童に身に 付けさせたい力 ・観察,実験の結果を記録,処理する力 ・条件や結果を比較したり,関連付けたりして 考える力 ・考察したことを文章で表現する力 (3) 昨年度までの研究の成果と課題 ・児童の興味・関心を膨らますことができた ・教員の理科指導への意欲を高めることができた ・授業づくりの支援はできたが,授業の実際は 把握できなかった (4) 理科指導に関するアンケート調査から これからの理科指導において,「結果をまとめ る」「考察する」段階を充実させたいと考えてい る教員が多い 4つの理由から,理科学習において,問題解決の過程を児童の意識の流れから見直し,考察する学習活動の 充実を図るために教師の働き掛けを工夫していくことにより,問題解決の能力の育成を目指していく。 本研究は,問題解決の能力の育成を目指して,問題解決の過程の考察する場面を重視し,児童の意識の流れを 踏まえた教師の働き掛けを工夫した授業づくりを検証し,提案していく。 所属校での 授業実践 授業案作成 科学巡回訪問校での 模擬授業実践 授業づくり 第3学年 比較する能力 第4学年 変化とその要因を関係付ける能力 第5学年 条件を制御する能力 第6学年 推論する能中 学 校 分析・解釈・表現する能授業づくりとは 研究の成果 授業案2009 宮城県教育研修センター 〒980-0845 仙台市青葉区荒巻字青葉 393 TEL 022-227-2626 FAX 022-213-8635 URL http://www.edu-c.pref.miyagi.jp/

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Page 1: 問題解決の能力の育成を目指す理科学習 · 2010. 11. 17. · 問題解決の過程を「つかむ」「調べる」「考察 する」の3つの場面とし,授業案を作成し,授

【第3学年】 【第4学年】

○ チョウをそだてよう ○ 月の動き

○ こん虫をしらべよう ○ 星の動き

○ 明かりをつけよう ○ もののかさと温度

○ 水のすがたとゆくえ

○ もののあたたまりかた

【第5学年】 【第6学年】

○ 植物の発芽と成長 ○ 大地のつくりと変化

○ 花から実へ ○ 水よう液の性質とはたらき

○ 流れる水のはたらき

○ もののとけかた

平成 20 年度 初等理科研究グループ

専門研究員 大和町立小野小学校 千葉 潤一

岩沼市立岩沼中学校 軽部 敦子

栗原市立築館小学校 八巻 秀

石巻市立石巻小学校 武田 真弥

指導主事 企画研究班 主幹 狩野 孝信

企画研究班 主幹 金 和宏

科学巡回訪問とは,宮城県内(仙台市を

除く)の小学校を科学巡回車(なかよし号)

で訪問し,午前は児童対象の実験教室,観

察教室,ものづくり教室などの理科教室を

行い,午後は教員を対象とした研修会で理

科の授業の提案,理科教育相談などを行っ

ている。

今年度は,午後の研修会の場で,授業案

を基に考察する場面の模擬授業を行った。

このことにより,問題解決の能力を育成す

るための授業づくりを提案することができ

た。そして,実際の授業において授業案を

活用してもらった。

(1) 問題解決の過程を,「つかむ」「調べる」「考察する」ととらえたことで,教師の働き掛けのポイ

ントを大きな流れでつかみ,授業を焦点化することができた。

(2) 「考察する」場面を,「結果を整理する」「考える」「結論を得る」の3つの段階に設定し,児童

の意識に応じて適切な発問や指示を行ったことで,思考の連続性を図ることができた。

(3) 授業づくりについて,授業案の実践・検証を通して,問題解決の能力を育成するための授業づく

りの一方策を提案することができた。

科学巡回訪問と授業づくりの提案

問題解決の能力の育成を目指す理科学習 ― 考察する場面を重視した授業づくりを通して ―

主題,副題について

「児童が自然の事物・現象に親しむ中で興味・関心

をもち,そこから問題を見いだし,予想や仮説の基

に観察,実験などを行い,結果を整理し,相互に話

し合う中から結論として科学的な見方や考え方をも

つようになる過程*」を通して育成する力

*新小学校学習指導要領解説理科編

問題解決の過程を「つかむ」「調べる」「考察

する」の3つの場面とし,授業案を作成し,授

業実践,検証を行っていく一連の流れ

「問題解決の能力」とは

平成 20 年度初等理科研究グループ ダイジェスト版

主題設定の理由

(1) 国の教育課程実施状況調査や TIMSS 調査,PISA

調査の結果から

・理科の学習の必要感の意識が低い

・科学的に考えたり説明したりすることが苦手

(2) 本県の学習状況調査の結果から,児童に身に

付けさせたい力

・観察,実験の結果を記録,処理する力

・条件や結果を比較したり,関連付けたりして

考える力

・考察したことを文章で表現する力 (3) 昨年度までの研究の成果と課題

・児童の興味・関心を膨らますことができた

・教員の理科指導への意欲を高めることができた

・授業づくりの支援はできたが,授業の実際は

把握できなかった

(4) 理科指導に関するアンケート調査から

これからの理科指導において,「結果をまとめ

る」「考察する」段階を充実させたいと考えてい

る教員が多い

4つの理由から,理科学習において,問題解決の過程を児童の意識の流れから見直し,考察する学習活動の

充実を図るために教師の働き掛けを工夫していくことにより,問題解決の能力の育成を目指していく。

本研究は,問題解決の能力の育成を目指して,問題解決の過程の考察する場面を重視し,児童の意識の流れを

踏まえた教師の働き掛けを工夫した授業づくりを検証し,提案していく。

所属校での 授業実践

授業案作成 検 証

科学巡回訪問校での模擬授業実践

授業づくり 小

第3学年 比較する能力

第4学年 変化とその要因を関係付ける能力

第5学年 条件を制御する能力

第6学年 推論する能力

中 学 校 分析・解釈・表現する能力

「授業づくり」とは

研究の成果

授業案2009

宮城県教育研修センター

〒980-0845 仙台市青葉区荒巻字青葉 393

TEL 022-227-2626 FAX 022-213-8635

URL http://www.edu-c.pref.miyagi.jp/

Page 2: 問題解決の能力の育成を目指す理科学習 · 2010. 11. 17. · 問題解決の過程を「つかむ」「調べる」「考察 する」の3つの場面とし,授業案を作成し,授

調

自然事象と出会う

気付き・疑問をもつ

問題を見いだす

予想する

方法を考える

観察,実験をする

広げる

結論を得る

考える

結果を整理する

問題解決の過程

本時のねらい

・新小学校学習指導要領解説理科編に示されている

内容をもとに,本時で身に付けさせたい内容

学習活動

・問題解決の過程の「自然事象

と出会う」から「広げる」ま

での段階に合わせた学習活動

児童の意識

・児童がそれまでにもっている意識

や高まっていく意識,最終的に期

待する意識

教師の働き掛け

・児童の意識を高めていくため

の,教師の働き掛け

考察するための発問

段階

・項目(比較,要因,条件など)を

吟味した表やグラフなどに記録さ

せる指示をする

段階

・問題解決の能力につながる発問を

する

段階

・問題文を振り返って分かったこと

を簡潔に文にまとめる指示をする

比較【3年】

「~と同じ(違う)ところはどこ

でしょう」

変化と要因の関係付け【4年】

「~が変わったとき~はどうな

ったでしょう」

条件制御【5年】

「~の条件のとき,どうなったで

しょうか」

推論【6年】

「~から,どんなことが言えるで

しょうか」

つかむための発問

・自然事象からもった気付きや疑問を,

問題意識まで高めるための発問

調べるための発問

・見る観点や条件をとらえさせ,焦点化し

た観察,実験をさせる発問や指示

1単位時間の板書

・板書の項目

問題→予想→実験(観察)→結果

→分かったこと,結論

・児童の考えや意見

・観察,実験方法の言葉や図

・結論の内容

授業案

アルミニウム箔を塩酸に溶かし

た水溶液を,蒸発させて出てきた

粉は,もとのアルミニウムと同じ

ものかを調べさせた。児童は粉を

塩酸と水に入れ,溶け方を調べた。

段階

・食塩水の蒸発実験の経験をもと

に問題意識をもたせた。

段階

・どうなればどんなことが言える

のか見通しをもたせた。

その結果,「水に溶けたのでもと

のアルミニウムではない」と考え

ることができた。

授業づくり 3 第6学年「水よう液の性質とはたらき」

問題を見いだす

方法を考える

授業づくり 2 第4学年「もののかさと温度」

水も温めるとかさが大きくな

るのかを調べさせた。児童は,水

温を変えて,ガラス管の水位の動

きを見る実験を行った。

段階

・水面の動きがよく分かるような

実験器具を工夫し,水面の動き

だけに着目させた。

段階

・水面の上下の動きとかさの変化

を結び付けて表に整理させた。

その結果,水のかさの変化と温

度を関係付けることができた。

観察,実験をする

結果を整理する

授業づくり 1 第5学年「流れる水のはたらき」

流れる水は地面をどのように

変えるかを,校庭で調べさせた。

児童は,山やカーブを作って水を

流す実験を行った。

段階

段階

・地面のどこが,どうなったかを

2 段階で整理させ,削られた土

はどうなったかを考えさせる

発問をした。

その結果,流れる水の3つの働

きに気付くことができた。

結果を整理する

考える

「考察する」場面の「結果を整理する」「考える」段階で,教師の働き掛けを工

夫してきたことで,自分の力で結論を得て,問題解決の能力の育成に迫らせるこ

とができた。また,「つかむ」「調べる」場面の大切さも明らかになった。

授業づくりで明らかになったこと

結果を整理する

考える

結論を得る