流動電位検出/イオン会合滴定法による陰イオン界面 活性剤の...
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BUNSEKI KAGAKU Vol. 46, No. 10, pp. 763-770 (1997) 763
報 文
流動電位検出/イオン会合滴定法による陰イオン界面
活性剤の迅速定量,
脇 阪 達 司(R) *, 大藤 和 幸*, 石 原 進 介**, 本 水 昌 二***
Rapid determination of anionic surfactants in an aqueous medium by the ion-
association titration method coupled with a streaming potential detector
Tatsushi WAKISAKA, Kazuyuki DAITO * , Shinsuke ISHIHARA ** and Shoji MOTOMIZU***
*
Materials and Process Research Laboratories, Kao Corporation, 1334, Minato, Wakayama 640 ** K
yushu Laboratory, Kyoto Electronics Manufacturing Co., Ltd., 1-2, Nakabarusinmachi,
Tobata-ku, Kitakyushu-shi, Fukuoka 804 ***"Depa
rtment of Chemistry, Faculty of Science, Okayama University, 3-1-1, Tsushimanaka,
Okayama 700
(Received 4 April 1997, Accepted 9 June 1997)
An ion-association titration method coupled with a streaming potential detector was de-
veloped for the determination of anionic surfactants in a one-phase aqueous system. The
titrant, benzethonium chloride (Hyamine) ion, was added to an anionic surfactant solu-
tion. The potential then changed from negative to positive along with an increase in the
added titrant. The end point was read from an inflection point of a diffrential curve.
The usual samples were titrated within 10 min. Anionic surfactants at concentrations
from 10-5•`10-3 mol dm-3 could be determined by the proposed method. The relative
standard deviations of various anionic surfactants were 0.2•`0.6% . The proposed
method was applied to the determination of various anionic surfactants and anionic sur-
factants in commercial detergents. The results obtained for practical samples were in
good agreement with those of the JIS titration method (Epton method).
Keywords : determination of anionic surfactants; ion association titration; aqueous
medium; streaming potential detector.
1 緒 言
陰 イオ ン界面活 性剤 の定量 法 と して は,分 相滴定 法
(Epton 法) がJIS 法1), ISO2) 等 で広 く利 用 され てい
る.し か し,分 相滴定法 は他 の滴定法 に比べ分析 に長 時
間を要 し,多 大 な労力及 び熟練が要求 される.長 谷川 ら
は分相滴 定法 の 自動化 シス テムを構築 した3)~6). しか
し,分 相滴定法 は肝臓障害 を引 き起 こす と言われるクロ
ロホルムを用 いなければな らないとい う根本 的な問題点
もある.
Motomizu らは, 非 イオ ン界面活性剤存在下 での陽イ
オ ン界面活性剤 と酸性染料の テ トラブロモフェノールフ
*花王 (株) 素材 ・プロセス研究所: 640 和歌山県和歌
山市湊 1334* *
京都電子工業 (株) 九州研究所: 804 福岡県北九州市
戸畑区中原新町 1-2* * *
岡山大学理学部: 700 岡山県岡山市津島中 3-1-1
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764 BUNSEKI KAGAKU Vol. 46 (1997)
タ レインエチルエステルとの発色反応 を指示薬 と して利
用す る水溶液一相系 での光度滴定法 を考案 し,各 種陰 イ
オン界面活性剤及び陽イオン界面活性剤 の定量 の可能性
につ いて報告 した7)~11). これ らの方 法 は既存 の装置 を
用 いて測定で きる簡便 な自動化滴定法 であるが,親 水性
の高 い陰 イオ ン界面活性剤 や,一 部 の陽 イオン界面活性
剤 で はJlS 法 (Epton法) と定量 値 が一 致 しない もの
もあ り,JIs法 をすべて代替 する ことは困難 であった.
滴定剤 として高分子 多価 イオンを用 い,各 種指示薬 を
用 いたコロイ ド滴定法 はポ リマ ー,電 解質等幅広 い分野
で応 用 されてお り12),界 面活性 剤へ の応用 も報告 され
て いるが13)14),JIS 法との定量 値の一致 はあま りよ くな
い。又,コ ロイ ドや ミセルは電荷 を持つ粒子 で,溶 液 と
の相対的な運動か ら電気浸透,電 気泳動及 び流動電位 な
どの界面動 電現象 が起 こる15).そ の中で流 動電位 を終
点検 出に用 いる コロイ ド滴定法 が開発 されている16 )17 ).
しか し,従 来か ら報告 されている流動電位検 出器 は, 操
作性が よくないため実用化 の例 は少 ない.一 方,石 原 ら
が操作 性 の優 れ た流 動電位検 出器 を開発 し18),高 分子
電解質の測定 に応用 し,実 用的 な手法 であることを報告
した19).
本研究で は,こ の新 しい流動電位検 出器 を用 い, 滴定
剤 として高分子 多価 イオンの代 わ りに低分子一価 イオン
を用い たイオ ン会合滴定法 による,水 溶液一相系 での陰
イオ ン界面活性剤 の定量法 の基礎検討 を行 い,更 に陰イ
オン界面活性剤 の実 際試料へ の応用 の検討 を行 ったので
報告す る.
2 実 験
2・1 試 薬
滴定液: 塩化 ベ ンゼ トニ ウム{ベ ンジルジ メチル-2-
〔2-p (1,1,3,3一テ トラメ チル ブ チ ル)フ ェ ノ キ シ-エ トキ
シ〕-エチルア ンモニ ウム クロ リ ド,ハ イア ミンと略記,
米国Rohmand Hass 製,ハ イア ミン1622}溶 液 は, ハ
イア ミン4.480gを 精 ひょう し,水 に溶解 し,貯 蔵原液
と した (1× 10-2M). 使用 に際 して各 々一定量 を水で
正確 に希釈 して用 いた.
陰 イオ ン界面 活性剤溶 液:ラ ウ リル硫酸 ナ トリウム
(LS と略記,和 光純薬),ド デシルベ ンゼ ンスルホ ン酸
ナ トリウム (DBS と略記,和 光純 薬,ABS 測 定用),
ジオ クチルスルポコハ ク酸 ナ トリウム (SSS と略記, 関
東化学)ド デカンスルホ ン酸ナ トリウム (DS と略記,
東京化成)を 減圧下,50℃ で恒 量値 を得 るまで乾 燥 し
た後,必 要量 を正確 に量 り取 り,水 に溶か した.使 用 に
際 して,水 で正確 に希釈 して用 いた.
実 際試 料: 陰 イオ ン界面 活性剤 は市販 の各種製 品 を
用 いた。
2・2 装 置
新 しい流 動 電位 検 出器(京 都電 子 工 業製 PCD-500
型)を,同 社 製 自動 滴定装置AT-31(り 型(オ ー トサ ン
プラー付 き)に 接続 し用いた.流 動電位検 出器及 び装置
の構成 図をFig.1に 示 した.こ の流動電位検 出器 は10
mmφ × 50mm の大 き さで,PTFE製 シ リン ダー及 び
ピス トンか ら構成 されてお り,ピ ス トンが上下 に一定速
度(速 度可変)で 動き,ピ ス トンに装着 されている金電
極間の電位 を滴定装置本体で検 出できる ようになってい
る.又,オ ー トサ ンプラーに も簡単 に接続 でき,か つエ
タノールでの検 出器 の洗浄 も容易 で,連 続 自動滴定が可
能で ある.
2・3 標 準操作 法
イオン会合滴定法:50m1ビ ー カー に陰 イオン界面活
性剤 を含 む試 料水 溶液20mlを 採 り,陽 イオ ン界 面活
性剤 と してハ イ ア ミンの 5 ×10-3M 水溶 液 で滴定 す
る。本研究で は,終 点の決定 は装置 内蔵 の微分滴定曲線
の変曲点 より求めた。
Epton法: JISK 3362 1) を採用 した.
3 結 果 及 び考 察
3・1 イオン会合滴定 の原理及び滴定 曲線
流動電位 を終 点検 出に用 いる コロイ ド滴定法 は自動滴
定可 能な手法 と して既 に報告 されて いる16)17). この手
法 は試料 を満た した シリンダー内で,一 定速度で ピス ト
ンを上下 に運動 させて液体 の層流 を作 り,シ リンダー と
Fig. 1 A schematic diagram of ion-association
titration system with electrochemical cell for a
streaming potential detector
a: PTFE piston; b: PTFE cylinder; c: Au elec-
trode; d: motor
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報 文 脇阪, 大藤, 石原, 本水: 流動電位検出/イオン会合滴定法による陰イオ ン界面活性剤の迅速定量 765
ピス トンとの表 面 に吸着 した荷電粒 子 に よ り,シ リン
ダー内の電極 間に電位差 が生 じることを利用 したもので
ある.今 回 は,新 しく開発 され た流 動電位 検出器 を用
い,コ ロ イ ド滴定剤 の代 わ りに低分子一価 イオンを用 い
ることに より,陰 イオン界面活性剤定量 の可能性 を検討
した.陰 イオン界面活性剤(LS)を 含 む試料水溶液 を,
滴定剤 として一価 陽イオン界面活性剤 のハ イア ミンで滴
定 した.滴 定 曲線 をFig.2,Aに 示 した. Fig. 2 (a) の
モデル図の ように,滴 定前 の段階 では陰 イオン界面活性
剤 は流動電位検出器 の シリンダー及 び ピス トンの PTFB
表面 に親油基が吸着 し,表 面 が陰イオ ン基 とな り金電極
間の流動電位が負 を示 す.次 に陽イオン界面活性剤 で滴
定 してい くと,陽 イオ ン界面活性剤 と陰 イオン界面活性
剤 は反 応 し,電 荷 が 中和 され た イ オ ン会 合 体 と な る
(b),更 に加 え ると,陽 イオ ン界面活性剤 が吸着 し徐 々
に電位が正側 に移行 し,最 終 的にFi呂.2(c)の モ デル図
の ように表 面が陽イオ ン基 とな り正 の電位 を示 す.微 分
曲線 を Fig. 2, B に示 したが,滴 定終点 は電位 の変極点
(○印) で あ り,電 位 はほ ぼゼ ロ近傍 でPTFE表 面 は
Fig. 2 (b) のモデル図の ように考 え られ る.又,滴 定終
了後 は吸着 した陰イオ ン,陽 イオ ンのイオ ン会合体 を除
去す るために,エ タ ノールで自動洗浄 を行 った.電 極の
洗浄 により,長 期 間の連続測定 においてもなん ら問題 は
認 められなかった.
3・2 流動電位検 出条件 の最適化
流 動電 位 は式(1)17) で示 した ように,各 条件 の影響
を受 けると考 え られるため,そ の最適条件 について検討
した.
(1)
E: 流動 電 位, ζ: ゼー タ電 位, ε: 液 体 の誘 電率, P:
液体 を流動 させ る圧力, η: 液体 の粘性 係数, λ: 液体
の比伝導度
実際 の系 で式(1) の流動電位 検出 に影響 す ると考 え
られ る因子 として,流 動電位検 出器 のセル とピス トンと
の間隔等の装置 的製作精度,流 量 に影響す るピス トンの
回転数(ピ ス トンの上下 の往復数/分)の 影響等がある.
ピス トン速度 の影響:ピ ス トンの速 度 {式(1)の P}
のEに 対 する影響 につ いて検討 した.そ の結果 をFig.
3 に示 した.式(1)か ら考 え られ るように,ピ ス トン
の速度 が高 い ほど流動電位 は大 き く,電 位 の S/N も高
いことが分 か った.し か し,長 期的 な安 定性 も考慮 し
て,ピ ス トンの速 度 を300回 転/分 (電位, 700 mV)
として以下の実験 で使用 した.し か し,実 際の流動 電位
検出器 に機 差 もあるため,ピ ス トン速度 を一定 にして も
流動電位が必ず しも同一 とはな らないことか ら,現 実的
には流 動電 位が700mVを 示 す ように,ピ ス ト'ン速 度
を調節 して実用する ことと した.
溶液 の粘度 の影響:溶 液 の粘度{式(1)の η} の E
Fig. 2 Titration curve of anionic surfactant for the
ion-association titration method with a streaming
potential detector
A: potential couve ; B: differential curve. Circle
indicates end-point. Titrant: 5 •~ 10 3 M Hyamine;
Sample: 20 ml of 2 •~ 10 3 M LS
Fig. 3 Effect of rotation of piston on the potential
for a streaming potential detector
Titrant : 5•~ 10-3 M Hyamine; Sample: 20 ml of
2 •~10-3 M LS
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766 BUNSEKI KAGAKU Vol. 46 (1997)
に対 する影 響につ いて,グ リセ リンを添加 した グリセ リ
ン水溶液 系で検討 し,そ の結果 を Fig. 4 に示 した. 粘
度の影響 は式(1)か らも分か る ように,溶 液 の粘度 が
高 くなるほど流動電位 は小 さくな ることが分か った. し
か し,そ の場合 でも,滴 定の終点の位置 にはなん ら影響
な く,回 収実験の結果 はいずれもほぼ100%で あった.
実 際試料 に適用 する場合の粘度 を考える と,粘 度の流動
電位 に及 ぼす影響 は少な くほとん ど問題 とな らない こと
が分 かった.
3・3 共存成分の影響
流 動電位検 出 に影 響す る と考 え られ る因子 と して溶
媒,塩 及 び非 イオン界面活性 剤について,こ れ らの影響
を検討 した。
有機溶媒 の影響:流 動電位検出 を用 いるイオ ン会合滴
定法 で は,検 出器のPTFE表 面へ のイオ ン性 界面活性
剤 の吸着現象 を利用 しているため,有 機溶媒 は界面活性
剤 の吸着 を阻害す ると考え られる。典型 的な有機溶媒 と
してエ タノールの影響について検討 した.そ の結果, エ
タノール の添加量 とともに流動電位 は予想 どお り小 さ く
な り (水溶 液: 電位約 706 mV, エ タノール 10% 水溶
液: 電位 約500mV,エ タノール20%水 溶液: 電位 約
300 mV), 影 響 は大 きい ことが分 か った.し か もエ タ
ノー ル含有 量10%ま では回収実験 の結 果が ほぼ 100 %
で あるの に対 して,20%で は回収実験の結果が 95% と
低 くなることが分 か り,エ タノール含有量 は 10% まで
は定量 を妨害 しない ことが分 かった,
塩 の影響:塩 の種 類及 び濃度 の影 響 について検 討 し
た。 Fig. 5に は,一 価 イオンのNa+(NaCl) 添加系Ls
及 び二価 イオ ンの Ca2+ (CaCl2) 添 加系 LS の滴定曲線
を示 した.流 動電位の大 きさに対す る塩の影響 はほとん
どないが,塩 濃度が高 くな るほど,又 一価 イオンよりも
二価 イオンの ほうが流動電位の ノイズが大き くな り, 再
現性 に影響す ることが認め られた.し か し,一 価 イオ ン
の場合 は0.1Mま で,二 価 イオ ンの場合 は0.01 M まで
共存 して も再現 性よく定量 可能である ことが分か った.
非 イオン界面活性剤 の影響:非 イオン界面活性剤の影
響 につ いて検討 した.非 イオ ン界面活性剤 と して,ポ リ
オキ シエチ レンオクチ ル フェニ ルエー テル (平均 EO
付加モル数,10 モル),ポ リオキ シエチ レンス テアリル
エ ーテル (平均EO付 加 モル数20モ ル)及 びポ リオ
キ シエ チ レン ソル ビタ ンラウ リル エー テル (平均 EO
付加 モル数,,20モ ル)を 用い,濃 度0.02~0.1Mの 範
囲で それ らの影響について検討 した.そ の結果,各 非 イ
オン界 面活性剤 とも濃 度0.1M以 下 では,回 収実験 の
結果 が ほぼ100%で あ り,再 現性 も良好 で あった. し
か し,濃 度1Mと な ると回 収実 験 の結 果 が 90~ 95%
となり測定 に影響する ことが分 かった.
3.4 検 量線 の作成及び再現性
滴定剤 としてハイア ミンを用 い, 陰 イオン界面活性剤
のLSの 標準溶液 を,標 準滴定操作 に従 って滴定 し, 検
量線 を作成 した.得 られた検量線 に関す る結果 をTable
Fig. 4 Effect of viscosity on the potential for a
streaming potential detector
Titrant: 5•~ 10 - 3 M Hyamine; Sample: 20 ml of
2 •~10-3 M LS
Fig. 5 Effect of salt concentrations on the titration
courves of anionic surfactant for ion-association
titration method with a streaming potential detector
Titrant : 5•~ 10-3 M Hyamine; Sample: 20 ml of
2.5X 10 -3 M LS
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報 文 脇阪, 大藤, 石原, 本水: 流動電位検出/イオン会合滴定法による陰イオ ン界面活性剤の迅速定量 767
1 に示す.得 られ た検量線 の再現性及 び直線、性 は良好で
あった.な お,本 滴定法 による陰 イオ ン界面活性剤の定
量範 囲は10-5~10-3M で あった. 又, 2× 10-3 M LS
に対す る相対標 準偏差(測 定回数 n=10) は 0, 3% とな
り,か な り精度 よく測定で きる ことが分 かった.
3・5 実際試料分析 への応用
本滴定法 を種 々の陰 イオ シ界 面活性剤,市 販洗剤中の
陰 イオ ン界面活性剤 の定量 に応用 した.標 準的な陰 イオ
ン界面活性剤(ア ルキル基 の構造 が表示 されている陰 イ
オ ン界 面活性剤)に つ いて本滴 定法及 びJIS 法 によ り
定量 した結 果 をTable2に, 滴定曲線 をFig. 6 に示 し
た.両 者 の定量値 は非常 に良 い一致 を示 し, 滴定曲線 の
s/Nも 良好 で,微 分 曲線の変 曲点 もシャープであった.
更 にTable2の 標準 的 な陰 イオン界面活性剤 の測定 の
1) 2) 3) 4)
Table 1 Linearity of calibration graph
Table 2 Comparison of the proposed method with JIS method (Epton method) by using commercial detergents as samples
t : mean values of five measurements.
Fig. 6 Titration curves for various anionic surfactants for ion-association titration method with
a streaming potential detector
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768 BUNSEKI KAGAKU Vol. 46 (1997)
再 現性 は相対標 準偏差0.16~0.54%と な り,か な り精
度 よ く測定 できることが分かった.
Table3に は,種 々のアルキル鎖長 のものを含 む (ア
ルキル鎖長 は既報8)のTable4参 照)陰 イオ ン界面活性
剤 の実際試料 にういての定量結果 を示す. 又, Table 3
には既報8)で報告 した光度滴定法 に よる定量値 も同時 に
示 した.本 滴 定法 とJIs法 で得 られ た定 量値 は非常 に
良 い一致 を示 した.特 に既報8)の光度滴 定法で は定量値
の一致 しなかったTable3の 試料No.5,6に つ いても,
更 にか な り低 い定 量値 であ った試料No.8~11 の親水
性 の高 いポリオキ シエチ レン基 を含 む陰イオ ン界面活性
剤 についても非常に良い一致 を示 した.す なわ ち既報8)
で報告 した光度滴定 法において,親 水性 の高 いポ リオキ
シエ チ レン基 を含む陰イオ ン界面活性剤 ではポ リオキシ
エチ レン基が陽,陰 イオ ン問の疎水性相互作用 を妨 げる
ため,イ オ ン会合体 の ミセルへの抽 出が しに くくな り,
定量値が低 くな ったが,本 法 ではそのような系 において
も十 分定量可 能 であ ることが分 かっ た.こ の ように既
報8)の光 度滴定法 は,JIS法 と定量値 が一部一致 しな い
試料が あったのに対 し,本 滴定法 においては今回検討 し
た陰 イオ ン界面活性剤 のすべ ての試料 において良 い一致
を示 した.
しか し,Table3の 試料 No. 8, 9 の鎖長 の短 いポリオ
キ シエチ レン基(平 均EO 付加 モル数,3モ ル)を 含む
陰 イオン界面活性 剤 につ いては,定 量 値が40±0.3%,
25.8 ± 0.2% と再 現性 が 良好 で あっ た の に対 し,試 料
No. 10, 11の 鎖長 の長 いポ リオキ シエ チ レン基(平 均
EO 付加 モル数,17.5 モル) を含む陰 イオ ン界面活性剤
1) 2)
について は,定 量値 が 26.0 ± 0.5%, 24.2 ± 0.6% と再現
性が少 し悪 い結果 が得 られた.こ れ らのポ リオキシエチ
レン基 の鎖長 の短 い試料No.9 及 びポ リオキ シエ チ レ
ン基 の鎖 長 の長 い試料No.11 につ いて,滴 定 曲線 を
Fig.7に 示 した.前 者 は流動電位 も大 きく,滴 定 曲線 の
微分 曲線 もシャープであるのに対 し, 後者 は流動電位 も
小 さく,滴 定 曲線 の微分曲線 もブロー ドである ことが再
Table 3 Comparison of the proposed method with photometric titration and JIS method (Epton method) in the application to the analysis of commercial detergents
a) mean molecular weights; b) mean values of three measurements; c) reference 8.
Fig. 7 Titration curves for anionic surfactants for
ion-association titration method with a streaming
potential detector
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報 文 脇阪, 大藤, 石原, 本水: 流動電位検出/イオン会合滴定法による陰イオ ン界面活性剤の迅速定量 769
現性 に影響 していることが分か った.こ の原因 は,や は
りポ リオキ シエチ レン基 の鎖長が長 くな り, 親水性が高
くな った ことに よるものと考 えら れる.
更 に,そ の他の約 60 試料 につ いても同様 に本滴 定法
とJIS法 の定 量 値 の比 較 を検 討 した結 果,相 関係 数
R = 0.998 (既報11) の光 度滴定法 では相 関係 数 R= 0.991)
が得 られ,今 回検討 したほとんどの陰 イオン界面活性剤
について,JIS法 の定量値 と非常 に良 い一致 を示 した.
各種市販 洗剤(衣 料用 洗剤,食 器用 洗剤及 び シ ャン
プー)に つ いて,本 滴 定法及 び JIS 法 によ り定量 した
結果 を,Tables 4, 5 に示 した. これ らの試料 において
も両者 の定量値 は非常 に良 い一致 を示 してお り,本 法 は
通常 の市販洗剤 中に含 まれる陰 イオン界面活性剤の定量
に十分使用 できることが分 かった.
以上 の ように,本 滴定法 はほとんどの陰 イオン界面活
性剤及 び各種市販洗剤中の陰 イオン界面活性剤 の定量 に
応用で きた.又,既 報の光度滴定法で は定量 できなか っ
た親水性の高 いポ リオキ シエチ レン基 を含 む陰 イオン界
面活性剤 に関 しても定量可能で あり,定 量値 は従来一般
的 に用 い られ てい るJIS 法 (分相滴 定法) と良 い一致
を示 した.又,本 滴 定法 はJIS 法 に比較 して,操 作 の
簡便性,迅 速性,自 動化 の容易 さ等の利点がある.こ の
ような利点 に加 えて,現 在様 々な分野でハロゲンを含 む
有機溶媒 の使用 を控 える方向で時代が進んでいることを
考慮 すると,ク ロロホル ムを使用 しない本滴定法が JIS
法 に代 わ り得 る有力 な定量法で あると考え られる.
本研究 を進 めるに当たってご協力いただいた石村有佳子
女史ほか関係諸氏に感謝 します.
文 献
1) JIS K 3362, 合 成 洗 剤 試 験 方 法 (1990).
2)ISO2271-1972(E),界 面 活 性 剤 ― 合 成 洗 剤― 陰
イ オ ン界 面 活 性 剤 の定 量.
3) 長 谷 川 章, 山 中 実, 辻 和 郎, 田村 正 平: 分
析 化 学 (Buaseki Kagaku), 31, 509 (1982).
4) 長 谷 川 章, 山 中 実, 辻 和 郎: 分 析 化 学
(Bunseki Kagaku), 32, 474 (1983).
5) 長 谷 川 章, 山 中 実, 辻 和 郎: 分 析 化 学
(Becnseki Kagaku), 33, 656 (1984),
6) 高 野 敏, 長 谷 川 章, 大 塚 博 司: 分 析 化 学
(Bunseki Kagaku), 37, 136 (1988).
7) S. Motomizu, M. Oshima, Y. Gao, S. Ishihara, K. Uemura: Analyst (London) , 117, 1175 (1992) .
8) 本 水 昌二, 高 雲 華, 石 原 進 介, 上 村幸 治, 大 藤
和 幸, 脇 阪達 司: 分 析 化 学 (Bunseki Kagaku), 42,
T105 (1993).
9) S. Motomizu, M. Oshima, Y. Gao, S. Ishihara, K. Uemura: Analyst (London) ,119, 473 (1994) .
10) 高 雲 華, 本 水 昌 二: 分 析 化 学 (Bunseki Kagaku),
45, 1065 (1996).
11) 大 藤 和 幸, 脇 阪達 司, 石 原 進 介, 高 雲 華, 本 水
昌二: 分 析 化 学 (Bunseki Kagaku), 46, 593 (1997).
12) 服 部 敏 明: 同仁 ニ ュ ー ス, 74, 11 (1995).
13) 山 本 幸 一, 平 岩 慶 子: 分 析 化 学 (Bunseki Kagaku),
43, 679. (1994).
14) T. Ono, H. Miyata, K. Toei: Bull. Chem. Soc. Jpn., 52, 425 (1979).
15) 北 原 文 雄, 渡 辺 昌:" 界 面 電 気 現 象", p. 102
(1972), (共立 出版).
16) W. Schempp, H. T. Tran: Wochenbl Papierfabr, 109, 726 (1981).
17) J. P. Ficher, E. Noelken: Progr. Colloid & Polymer Sci., 77, 180 (1988).
18) 京 都 電 子 工 業: 日 本 特 許 公 開 公 報, 特 開 平 8-
152421 (1996. 6. 11).
19) 田 原 江 利 子, 田 中 浩 雄, 石 原 進 介: 第 62 回 紙 パ
技 術 研 究 会 講 演 要 旨集, p. 78 (1995).
Table 4 Comparison of the proposed method with
JIS method (Epton method) in the analy-sis of heavy duty detergents as samples
Table 5 Comparison of the proposed method with
JIS method (Epton method) in the analy-sis of commercial detergents as samples
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770 BUNSEKI KAGAKU Vol. 46 (1997)
要 旨
新 しい流動電位検 出器 を用 いた イオン会合滴 定法 による陰 イオ ン界面活性 剤の迅速定量 法を開発 し
た.陰 イオン界面活性剤 を陽 イオン界面活性剤で滴定する と,流 動電位 が負 か ら正 に変化 することを用
いて終 点検 出を行 うという非常 に簡単 なもので,更 にクロロホルム溶媒 を用 いない水溶液系 という特徴
を有す る.測 定条件 の最適化 を行 い, 10-5 ~ 10-3 M の濃度範囲の陰 イオン界面活性剤 を相対標準偏差
0.2 ~ 0.5% と高精度 で,迅 速 自動定量(10分/件) できる ことが分 かった.陰 イオ ン界面活性剤の各種
標準及び実 際試料 につ いて応用 した結果,定 量値 は JIS 法 (Epton 法) と非常 に良 い一致 を示 した.