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『品質事故はなぜなくならないのか?』
~本質的原因と再発防止策を阻む陥穽にせまる~
2016 ソフトウェア品質保証部長の会 G3
1
一般財団法人 日本科学技術連盟
ソフトウェア品質保証部長の会
エプソンアヴァシス㈱ 江口 達夫
㈱メタテクノ 高田 真吾
日本システム㈱ 川原 章義
㈱ニコン 榊原 康之
アドバイザ
元 ㈱日立製作所 大島 啓二
2016年 09月
わ な はば
「ソフトウェア品質保証部長の会からの情報発信!」 第1部
ソフトウェア品質シンポジウム2016
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はじめに
2
企業活動の現場では、品質低下に起因する事故や問題が後を
絶ちません。 この状況に対し、原因分析、再発防止策の
検討/策定/実施、さらにこれらを形式知として集積し、教育と
いった形で活用するなどの品質活動がなされています。
しかし、類似原因の品質事故を解消するまでに至っていないのが
現実です。 なぜ、同様の品質事故はなくならないのでしょうか?
本グループでは、このような事故を少しでも減らすために、
①「なぜ再発するのかその本質的な原因」
②「再発防止策を阻む陥穽(わな)」
③「再発防止のための解決策」
を検討しました。
本発表が、皆様の活動の一助になれば幸いです。
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失敗事例 1
3
とあるプロジェクトでの失敗
•先祖返りが発生
•原因はソースをSVNにコミットし忘れ
対応策
•ソースを修正したら、SVNにコミットし、最新版でテスト
•当たり前の事を今一度現場で確認
別プロジェクトで再発
•現地でソースを修正し、トラブル解決
•次のリリース後に同じトラブル発生し発覚 orz
注) 先祖返り:プログラムやデータを更新する際に、何らかの理由で過去のプログラムやデータに
書き換えられてしまうこと SVN(Subversion):CollabNet社が開発したバージョン管理システム(オープンソース)
コミット:修正確認が完了したファイル(ソースプログラムやデータ)をリポジトリに保存すること
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失敗事例 2
4
恐怖のデグレード
•ソフトウェアの大規模化
•度重なる仕様変更により、複雑度は増す一方
対応策
•ベテランを中心とした勉強会
•回帰テストの導入、自動化
止まらないデグレード
•自動化されたテストツールへの慢心
•テストケースから外れた部分でのデグレード orz
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失敗→再発防止 で行われている工夫
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よく行われている再発防止検討の手順
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教育 教育資料
原因究明 対応処置 真因分析 再発/未然防止
手順策定 事故発生
教育資料教育資料 形式知
経験を教育資料の形で 形式知化する
個人に知識として 積み上げる
教育 教育
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形式知を生かす工夫
■再発・未然防止教育のコンテンツ
教育資料は、一般的に
• 抽象度を上げると
広く使いやすいが、一般論に終始し個々の仕事に活かせない可能あり
• 抽象度を下げると
生々しく伝わるが、具体化すぎて「うちには関係ない」となりがち
→ 受け止める側に、自らの業務との関連に想像をめぐらす能力が必用
抽象化と共に、事例を「生」で、発生時の背景も交え伝える その上で個々人の業務に置き換え考えさせることが重要
<某社の実践事例>
テキスト: 具体的な事例⇒抽象化(教訓)
教育参加者は、自職場ではこんなことが当てはまると具体的に考えさせ
発表してもらう
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教育には、上記以外にも問題がある。工夫が必要
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社内教育の問題点とその解決 (1)
1. 教育方法
• e-learning
(効率的だが、顔が見えないので効果がわかりにくい)
• 大部屋教育(全員にしっかりと伝わったかわからない)
• 少人数*複数回 (時間的制約があり難しい)
一般的にラーニング ピラミッドで示されるように
取組方で習熟度に大きく差が出る
PPT10枚の自習時間(某社の実データ)
多人数、画一的な教育をしても効果は薄い 効果を上げるには対象者、教育内容の絞り込みが重要 理解しているのと実践できることは違うことを認識すべき
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社内教育の問題点とその解決 (2)
<某社の実践事例> 品証はファシリテーター • 各部門の代表が、トラブルの深堀を行い、それを元に教訓集を作り、各部門で、
代表がメンバに直接伝える。• 品証はフォローをする⇒ 各部門での教訓集となるので、教育効果が高い
各部門単位で教育なので、品証部門の時間的制約が解消される
2. リソース(時間、人員)の制約
品証部門が全部門(全員教育)するには、
• 対象者の人員数と品証部門の人数から無理
• 品証部門が部門代表を教育し、各部門に任せることもできるが全員にしっかり
と伝わったか疑問
「教育する」のではなく、「検討をしてもらう(考えてもらう)」ことで教訓は身につきます。品証は、参加者や組織に対して、良心に基づいた達成イメージへの情熱と信念を持って、GOALに導きましょう。
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再発してしまう本質的な原因、 その解決策
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再発してしまう本質的な原因
■ 組織の問題 たとえばレガシーなシステムに機能追加やリプレースを行うと、技術継承ができて
おらず、品質問題が発生するケースがある。
①管理対象の整理:ドキュメントやソースプログラムの体系的管理
②ルールの整備:作業規準やマニュアルの整備(形式知化)
③教育と継承:
・業務知識やスキルの実践教育
・事例教育(事故事例、システム開発事例、プロジェクトマネージメントなど)
11
教育 ?
!
経験
個人の問題 ①基本技術力
・基本知識、ツールや技法の知識と活用力
②応用力
・問題形成力(認識する力、考える力):あれ?いつもと違う?何が起きてる?・・・
・課題解決力(解決に導く力);あれ?これって前のあの状態に・・・
など経験を活かすことができるか?
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個人の応用力
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「あれ?おかしいな」、「問題だ」と気づく (問題形成:人のレベルによっても気づくべきことが異なる)
例) 担当者 : いつもと違う動きがする、いつもより処理時間がかかっている
リーダ : 問題が増えていく、片付かない
管理者 : いつも同じ問題が起きている、 期初に話したことがされていないのでは?
問題形成力を高めるには
目標の状態 あるべき状態
今の状態
俯瞰して見る
管理者は
おりに触れて、担当者と話しをし
担当者に気づきを与える場を作る
個人の目標管理や、育成面談、
週報などへのReplay
課題解決力(応用力)を高めるには
管理者は
担当者にやらせる、OUTPUTさせる
失敗を恐れずに経験させる度量を持つ
PJ管理などは絶好の機会
たくさん、問題を解く
管理者は担当者と向き合って聴く、管理者・担当者ともに考える、自分の考えを話す
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組織の問題 (教育と継承)
技術の継承
全てを網羅的に継承することは難しく、また網羅的なドキュメントが仮に
あっても何が重要なのかをドキュメントだけでは伝えることは難しい。
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<解決策> 事故を貴重な経験として
・ 継承すべき事項を定める
継承不要:時代とともにいらなくなるもの(変わってしまうもの)、 ITスキル
継承必要:時代が変わっても必要となるもの(変わらないもの)
システムの狙い、業務知識、異常系など安全、安心に関わる事項
全てを継承するのはとても無理
⇒事故に関連した部分を中心に継承ポイントを絞る
・ 継承方法 ドキュメントが信じられない → OJTの中で継承
ただし、こんなことを継承してほしいとしっかりと上長が要請することが重要
伝えられた側は、ドキュメントに残して、自分で理解したことも確認要
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再発防止策を阻む陥穽(わな)、 その解決策
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再発防止策を阻む陥穽(わな)
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自分の問題と思っていない、自分の責任と思っていない
本人とその周辺に潜む陥穽
組織の肥大化・官僚化で、重要な事柄が伝わらない
組織とその周辺に潜む陥穽
自分のところは大丈夫と思っている、自分の問題と考えない 本質まで追及することをしない
現場は忙しい ちゃんとやろうとするとコストがかかりすぎる
経営者の発言とのすれ違い
従来のやり方に固執
【品質部門】
自部門のミッションを狭くとらえがち
【開発部門】
解決策1
解決策2
解決策3
解決策4
解決策5
解決策6
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陥穽(わな)と解決策 ①
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自分の問題と思っていない、自分の責任と思っていない
自分のところは大丈夫と思っている、自分の問題と考えない 本質まで追及することをしない
本人とその周辺
組織とその周辺
〔解決策〕
組織としての人の育て方
・(組織面)権限と責任の明確化(Toは一人に!)
・(組織文化)信賞必罰、褒めて育てる、適切な自責奨励と他責排除の文化
・(信頼関係)部下の痛みを受け止めつつ叱る(心で泣いて)
・日常業務におけるOJT、率先垂範、背中を見せる、そして教育
・「明日は我が身」と捉えることができる「想像力」
他人のことでも自分と同じくらいに大事と考えることができる組織 (J.ウェルチ)
問題や、事柄の本質を正しく認識し自分の問題として受け止める必要がある
誰かがやってくれるだろう では ダメ
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陥穽(わな)と解決策 ②
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組織とその周辺 組織の肥大化・官僚化で、重要な事柄が伝わらない
(風通しが悪い)
〔解決策〕
・組織全体を通しての情報共有
・本質的原因の究明と再発防止策の検討会
(失敗事例の発表は、本人ではなく責任者(部長以上)が行う)
・「失敗」のデータベース化とそれを基にした教育(形式に流れないことが肝要)
失敗事例のコンテンツ化などここまでは多くの企業で行われている。
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陥穽(わな)と解決策 ③
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組織とその周辺 現場は忙しい ちゃんとやろうとするとコストがかかりすぎる
部門の実務、現場の課題解決、設計や製造の品質やコストが適切か? ついつい、コスト優先になりがちである。 また、解決すべきマネージメント自らが問われるのを嫌う傾向にある
〔解決策〕
・正しい価値観を身に着ける(身に着けさせる)
社内外、同業異業に関わらず、品質を真面目に考えるメンバーとの交流
・忙しさを解消する行動(人を増やす、ツール導入、IT化などの投資)
管理職ともなると全社的な経営状態などが判ってくるので答申しにくい
部下のことを考え、解決に向けて行動する
(部下のことを考えるのは、管理職の責務)
・品証部門が良い取り組みを他部署へ展開
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陥穽(わな)と解決策 ④
19
経営者の発言とのすれ違い 組織とその周辺
経営層は、損益視点の発言が多くなる
ただし、これらは、会社のビジョン・品質が各部門で正しく保たれていることが大前提で
発言している。(売上や損益のみならず、品質も、権限と責任を現場に委譲している)
しかし、権限と責任を委譲されている部門側は、この大前提が抜けた活動になりがち。
〔解決策〕
品証部門は、経営層と現場をつなぐ重要な役割を担っている
・ 経営層の想いを現場につなげる
・ 現場からのボトムアップに応える経営判断(コストバランスなど考えた施
策)をしてもらえるように、現場の生の声を経営層につなげる
・ 顧客の声を、経営層と現場の両方につなげる
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陥穽(わな)と解決策 ⑤、⑥
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従来のやり方に固執
自部門のミッションを狭くとらえがち
〔解決策〕
・正しい価値観で判断する
守るべきもの : 法律・法令、倫理
変えてはいけないもの : 品質の最後の砦の意識
変えても良いもの : 上記以外全て
〔解決策〕
・誰のための品証部門なのか 再認識
【品質部門】
【品質部門】
ルールに縛られ、現場の意見を取り入れない (近い将来、機能不全?)
品質部門も忙しい
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価値観の共有
21
いろんな問題を解決するにあたって、重要なことは価値観を共有できているかです。 価値観が違えば、議論も進みませんし、皆がバラバラの方向に行ってしまいます。
• 「高機能・高性能」より「安全・安心」を重視する
• 「コスト、納期」より「品質」が優先する
品質が悪ければ、絶対に出荷を許可しない、確固たる基準、安直に妥協しない
• 「推測」でなく「事実」で判断する
その上で、良いことは良い、悪いことは悪いと公平な目で見る
特に、品証部門として強く持つべき価値観
• 「儲けや損得」より「顧客満足」「従業員の幸せ」が優先する
• 「理解される」前に「相手を理解する」様に努める
• 「他人(他社)より上に」ではなく、「Win-Win」でありたいと思う
全員が持っていたい価値観
・ 「短期的な成功」より、「継続的な成長」を優先する
・ 「貴重な失敗」には成長の種であり、価値がある
・ 「企業の利益」も重要だが、「社会の発展」に貢献する
・ 「目標や理想」に対してあきらめない
特に、管理者として強く持つべき価値観
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価値観で重要なこと
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日本人がもっている価値観
仁 : 人を思いやる
義 : 利欲にとらわれない、正義を貫く 礼 : 敬意を表す 智 : 正しい判断をする
忠 : こころに偽りがない 信 : 信実である、信頼する 孝 : 思いはかる 悌 : 仲間
+ しなやかさ
仁に過ぎれば弱くなる、義に過ぎれば固くなる、礼に過ぐれば諂(へつらい)となる。
智に過ぐれば嘘を吐く。信に過ぐれば損をする。 (伊達 政宗)
日本的価値観も断捨離しないと、これからの世界はやっていけないかも・・・
日本的価値観 世界的価値観 GAP
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まとめ
23
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本日 お話ししたこと
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発生した品質事故は「教育」という形式知になり現場に展開されるが、 教育の仕方にも問題点がある
• 手段や対象者数によって理解度に大きな差がでる
• 単純な「教育」ではなく「体験」のような方法をとったほうが理解度が上がる
再発してしまう原因と解決策 • 技術継承も、継承すべきものを絞り込んでしっかり継承する
• 個々人の応用力を高めるには、
管理者は担当者と向き合って聴く、考える、話す
再発防止策を阻む陥穽への解決策 • 組織として人の育て方
• 組織全体で情報共有
• 管理者は、部下のことを考え、解決に向けて行動する
• 品証部門は、経営層と現場をつなぐ
• 正しい価値感を身に着ける (ただし、価値観も時代とともに見直しが必要)
:
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最後に
25
日常の品質保証の業務をこなしながら、仕組みを変更、さらに企業の風土まで
といったことを考えると、いきなり全社改革なんて到底無理でしょう。
小さな単位で成功事例を作り、それを横展開して・・・というステップを考えると、
部門全体に活動の輪を広げるにはやはり数年はかかります。その間にはいろいろ
な抵抗に遭遇します。
「やり続ける」、「やり遂げる」という使命感を持ち、「仲間づくり」、「抵
抗勢力の説得」、「上位職制の巻き込み」、・・・など、信じるところに
従って地道に活動していくことが重要でしょう。
リーダに求められる姿とマインド
ソフトウェア品質シンポジウム2016
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