三菱重工技報 Vol.57 No.2 (2020) インダストリー＆社会基盤特集

製 品 紹 介 1

EVOL5084TR ツインロータリーダイカッター

-高品質な打抜き箱の高効率生産を実現- Twin Rotary Die Cutter “EVOL5084TR”

-High Productivity with High Quality Die Cutting Boxes-

三 菱 重 工 機 械 システム株 式 会 社

営 業 本 部 印 刷 紙 工 機 械 営 業 部

紙 工 機 械 営 業 課

代 表

段ボール箱は最も身近な包装資材として全世界の物流を支えている。また現代社会の大きな

課題である地球環境問題に対しても，リサイクル可能な循環型包装資材として地球にやさしい製

品といえる。

三菱重工機械システム（株）（以下，当社）の主力製品である製函機 EVOL は世界的なネット通

販市場の拡大等による段ボール市場の堅調な成長に沿って全世界に販路を広げ，シリーズ累計

で約 500 台の販売実績を誇っている。製函機 EVOL シリーズには大別して折り曲げ，糊付けした

段ボール箱を製造するフレキソフォルダグルアと，打抜き箱を製造するロータリーダイカッターの２

機種がある。本報では多種多様な打抜き箱を高精度かつ高速で作ることができる新型のロータリ

ーダイカッター“EVOL5084TR”を紹介する。

なお打抜き箱とは，長方形の段ボールシートに印刷を施し，箱形状に打抜き・罫入れ（折れ線

入れ）した箱である。折りたたまず平板のままでエンドユーザに納入し，商品を箱詰めする時に組

み立てて使用するタイプの箱である。

|1. ロータリーダイカッターとは

段ボールシート打抜き機とは，図１に示すように段ボールシートに印刷，打抜き・罫入れを行

い，箱に加工する機械である。これには，回転するナイフシリンダと受けシリンダ（アンビルシリン

ダ）の間に段ボールシートを通して打抜くロータリーダイカッターと，往復動する刃物台と受け台の

間で段ボールシートを打抜く平板打抜き機とがある。ロータリーダイカッターの特徴は，回転機械

のため生産性に優れていることである。一方平板打抜き機の特徴は，罫圧（罫線の折り曲げに必

要な力）精度等の箱精度には優れるが，運転速度が遅いことである。同図は従来型の当社製ロ

ータリーダイカッターの構成図である。

図１ 従来型ロータリーダイカッターの構成図

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包装工程の自動化のための自動箱詰め機（オートケーサ）の普及に伴って，打抜き箱には高

い箱精度が求められるようになり，当社は 1995 年にセミハードロタリーダイカッターを開発して商

品化した。近年，更なる箱の高精度化，高生産性の要求に応えるため，新型ツインロータリーダイ

カッターを開発した。

|2. ロータリーダイカッターの打抜き方式

段ボールシートに打抜き・罫入れを行うダイカット部には，外周にウレタンを巻いたアンビルシリ

ンダに刃を喰込ませて打抜くソフトカット方式と，外周にステンレス板を巻いたアンビルシリンダに

刃を喰込ませて打抜くセミハードカット方式があり，それぞれに一長一短がある。セミハードカット

方式とソフトカット方式の比較表を表１に示す。

表１ ソフトカット方式とセミハードカット方式の比較表

切断方式 ソフトカット セミハードカット

切

断

メ

カ

ニ

ズ

ム

アンビル素材 ウレタン ステンレス板

レイアウト

特

徴

刃物寿命 〇 △

罫圧精度 △ 〇

刃物高さ調整 不要 必要

2.1 ソフトカット方式

ソフトカット方式とは，刃物の切断圧を受ける面がウレタンであり，これに刃物を１～２mm 喰込ま

せて段ボールシートを打抜く方式である。本方式では刃物を軟らかいウレタンに喰込ませるため，

刃物の寿命は長く，また刃物の微妙な高さ調整は不要である。しかし，打抜き毎に刃物の喰込み

跡が発生し，ウレタンが偏摩耗するため，罫圧精度にばらつきが生じやすい。特にオートケーサ

用の打抜き箱には，高い罫圧精度が求められるため，性能上のボトルネックとなっている。

2.2 セミハードカット方式

セミハードカット方式とは，刃物の切断圧を受ける面がアンビルシリンダ表面に巻付けた低硬度

のステンレス板であり，これに 0.1mm 程度の僅かな喰込み量を与えて段ボールシートを切断す

る。本方式ではソフトカット方式のようなウレタンの偏摩耗が無く，高い罫圧精度が得られる。しか

しながら，ステンレス板へ刃物を全面に渡ってむら無く喰込ませることが困難であり，刃物高さの

凸凹を均一にする作業（むら取り）が必要となる。また，この調整作業が不十分な場合，切断不良

を生じやすい。

|3. ツインロータリーダイカッター“EVOL5084TR”の開発

3.1 ツインロータリーダイカッターの狙い

そこで当社は，セミハードカット方式（罫圧精度が高い）とソフトカット方式（刃物の高さ調整が不

要）のユニットを並べて配置し，それぞれに独立した役目を持たすことで，両者の長所を兼ね備え

たツインロータリーダイカッターの開発に取り組んだ。

3.2 ツインロータリーダイカッター“EVOL5084TR”の構成

図２にツインロータリーダイカッターの構成を示す。前述の課題に対して，２つのダイカットユニ

ットを並べて“罫入れ”と“打抜き”を独立した別々のダイカットユニットで行う，ツインロータリーダイ

カット形式とした。すなわち，罫入れには罫圧精度の高いセミハードカット方式を，打抜きには刃

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物の高さ調整が不要なソフトカット方式を使用することにより，高い罫圧精度と刃物高さ調整不要

の打抜き加工を両立させることができ，高品質な打抜き箱の高効率生産が可能となった。

EVOL5084TR の開発にあたり最大の技術課題は，ダイカットユニット間での段ボールシート搬

送ずれである。これは，従来１つのユニットで同時に行ってきた罫入れと打抜きを，独立した別々

のユニットで行うことに起因するもので，このユニット間の搬送中に段ボールシートがスリップして

ずれると罫線と打抜きの相対位置がずれ，箱の寸法精度が損なわれる。

この両ダイカットユニット間での段ボールシート搬送ずれ対策にはサクションボックス式ロール

搬送を採用し，搬送ロールの駆動ギアバックラッシュ低減やロール表面への特殊加工によるスリッ

プ防止など，製函機 EVOL シリーズの開発と改善の長い歴史の中で培われた様々な技術を盛り

込んでいる。

図２ ツインロータリーダイカッターの構成図

|4. EVOL5084TR の仕様と製品品質

表２に EVOL5084TR と従来機種である EVOL-RC（セミハードカット方式）/EVOL5084（ソフトカ

ット方式）の仕様比較表を示す。最高速度は，従来のEVOL5084と同様に250枚/分（平板打抜き

機の２倍以上の速度）を実現している。また，製品品質については下記のとおりの高品質，高精

度を得ることができた。

表２ EVOL5084TR と EVOL-RC/EVOL5084 の仕様比較表

EVOL-RC EVOL5084 EVOL5084TR

72” 84”

ダイカット

方式

セミハード

カット方式

セミハード

カット方式 ソフトカット方式

ソフトカット方式

＋

セミハードカット方式

最高速度

（枚/分） 230 200 250 250

最大給紙

シート寸法

（mm）

1520×1840 1520×2140 1140×2140 1140×2050

最小給紙

シート寸法

（mm）

350×650 350×690 350×690

最大打抜き

面積

（mm）

1450×1780 1450×2010 1200×2000

ソフトカット方式

1200×2000

セミハードカット方式

1040×1780

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・罫圧精度

セミハードカットユニット採用の目論見とおり，平板打抜き機と同等の高い精度を達成（図３）。

図３ 罫圧精度

・罫線位置精度及び，罫線～打抜き位置精度

罫線位置精度及び，懸案であった罫線～打抜き位置精度は，各対策の効果によりオートケー

サで要求される高い箱精度に合致する良好な結果を得た（図４及び図５）。

図４ 罫線位置精度

図５ 罫線～打抜き位置精度

こうして高品質の打抜き箱を高効率で生産することができる EVOL5084TR が完成した。

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|5. 今後の展開

多種多様な打抜き箱を高精度かつ高速で作ることができるツインロータリーダイカッター

“EVOL5084TR”の開発により，高品質な打抜き箱の高効率生産が可能となった。当社は，今後も

更にお客様のニーズに応えるべく改善と新しい開発課題に取組み，お客様の生産性向上に貢献

していく。