fast-wood forestry: myths and realities...

66
Christian Cossalter and Charlie Pye-Smith Forest Perspectives

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  • クリスチャン・コサルター、チャーリ・パイスミス著

    クリスチャン・コサルター、チャーリ・パイスミス著

    Christian Cossalter and Charlie Pye-Smith 著ク

    リス

    チャ

    ン・コ

    サル

    ター

    、チ

    ャー

    リ・パ

    イス

    ミス

    F o r e s t P e r s p e c t i v e s

    早生樹林業:神話と現実(Fast-Wood Forestry – Myths and Realities)は、早生樹林業

    に対する肯定的ならびに否定的な主張を総合的に分析したものである。本書は、作

    り話から事実を、憶測から科学を、誤った情報から真実をより分けている。環境保護

    論者はしばしば早生樹林業の悪影響を誇張して主張してきた。一方で植林企業は、

    これまで早生樹林業が実際に環境や地域社会に与えてきた悪影響を過少に評価し

    てきた。本書は早生樹林業が生物多様性、土壌および水資源に与える影響を詳細

    に検証している。また早生樹林業が地域社会に雇用、社会基盤整備そして富といっ

    たさまざまな社会的利益をもたらすという、植林企業の主張にも分析を加える。さら

    に、早生樹林産業を振興するため、国や国際開発機関が実施する補助金および奨

    励策の利点と問題点について検討する。本書は、早生樹産業の環境および社会的

    な役割をいかに改善すべきかの一連の提案を結論として提示している。総合的で信

    頼でき、しかも生きいきと平易な文章で書かれた同書は、環境保護論者から植林擁

    護論者まで、学界からNGOまで、そして政策決定者から資源利用立案者まで、開発

    問題に興味をもつ全ての人々の期待に応えるだろう。

    Forest Perspectives シリーズの各書は、重要な森林問題に関する論議や論争を促進するために出版されている。これらの出版物は国際社会における対話と情報の交換

    を助けるためにCIFORから出版されている。これら出版物のPDF版がCIFORのウェッブサイト(www.cifor.cgiar.org)からダウンロードできる。

    早生樹林業−神話と現実−

    早生

    樹林

    業 −

    神話

    と現

    実−

  • 国際林業研究センター(Center for International Forestry Research: CIFOR)は、森

    林減少及び森林劣化の社会的、経済的、環境的影響に対する世界的な懸念の

    高まりをうけ、国際農業研究協議グループの一機関として1993年に設立された。

    CIFORは、森林に依存して暮らす人々の福祉を向上させ、また、熱帯諸国が将来

    にわたって森林資源から便益を受けることができるよう、適切な情報と森林管理手

    法を提供することを目的に研究活動を実施している。 CIFORは数百にのぼる研究

    パートナーと協力し24ヵ国以上で研究を行い、その設立以来、世界レベル・国家レ

    ベルでの森林政策の改善のための提言を行う役を担っている。

    ドナー

    CIFORは、国家政府機関、国際開発機関、民間財団、地域組織機関などから、活

    動資金供与を受けています。2004年にCIFORは次の組織・機関から活動資金の供

    与を受けました。Australia, African Wildlife Foundation (AWF), Asian Development

    Bank (ADB), Belgium, Brazil, Canada, Carrefour, China, CIRAD, Conservation

    International Foundation (CIF), European Commission, Finland, Food and Agricul-

    ture Organization of the United Nations (FAO), Ford Foundation, France, German

    Agency for Technical Cooperation (GTZ), German Federal Ministry for Economic

    Cooperation and Development (BMZ), Indonesia, International Development Research

    Centre (IDRC), International Fund for Agricultural Development (IFAD), Innovative

    Resource Management (IRM), International Tropical Timber Organization (ITTO),

    Italy, Japan, Korea, Netherlands, Norway, Organisation Africaine du Bois (OAB),

    Overseas Development Institute (ODI), Peruvian Institute for Natural Renewable

    Resources (INRENA), Philippines, Sweden, Swedish University of Agricultural

    Sciences (SLU), Switzerland, The Overbrook Foundation, The Nature Conservancy

    (TNC), Tropical Forest Foundation, United States, United Kingdom, United Nations

    Environment Programme (UNEP), Waseda University, World Bank, World Resources

    Institute (WRI), World Wide Fund for Nature (WWF).

    Forest Perspectives Series1. Fast-Wood Forestry: Myths and Realities. 2003. Christian Cossalter and Charlie Pye-Smith

    CIFORと日本

    CIFORの活動は日本の政府開発援助(ODA)によって支援されています。

    ODAによる活動資金の拠出に加え、日本人理事によるCIFORの意思決定への

    参加、派遣研究者による研究プロジェクトの実施等がなされています。

    CIFORは、持続可能な森林経営の実現を目的にヨハネスブルグ・サミット

    (WSSD)のタイプ2プロジェクトとして日本政府とインドネシア政府が立ち上げ

    たアジア森林パートナーシップ(AFP)の事務局として情報の公開と共有に貢

    献していることをはじめ、日本の国際協力と連携をとった活動を実施していま

    す。AFPホームページ http://www.asiaforests.org/

    CIFORは、平成15年よりインドネシア林業省研究開発庁との共同研究の実施および成果

    普及に当たる青年海外協力隊隊員を受け入れていること、また日本人大学院生をインター

    ンとして受け入れていること等、日本人若手研究者の人材育成にも力を注いでいます。日本

    との協力関係をさらに強化することにより、熱帯林の持続的利用と熱帯林に依存して暮らす

    人々の生活の向上に貢献できるようになることを期待しています。

  • 早生樹林業−神話と現実−

    クリスチャン・コサルター、チャーリ・パイスミス著Christian Cossalter and Charlie Pye-Smith 著

    監訳者

    太田 誠一(京都大学大学院農学研究科 教授)藤間 剛(国際林業研究センター 研究員) 訳者一覧(あいうえお順)

    荒井 聖子(京都大学大学院農学研究科修士課程2年) 鳥山 淳平(京都大学大学院農学研究科修士課程1年)原 真司(京都大学大学院農学研究科修士課程2年)平松 玲子(元京都大学農学部4年;現村田機械株式会社)福島 万紀(京都大学大学院農学研究科修士課程2年)向井 由紀子(元京都大学農学部4年;現株式会社リクルート)屋代 直樹(京都大学大学院農学研究科修士課程2年)

    編集協力

    倉光 宏明(国際林業研究センター プロジェクト支援員)島本 久美子(国際林業研究センター インターン)久保 英之(国際林業研究センター インターン)

    ISBN 979-3361-63-8

    © 2005 by CIFORAll rights reserved. Published in 2005Printed by Indonesia Printer, Indonesia

    Cover and inside photos by Christian Cossalter

    Published by Center for International Forestry Research Mailing address: P.O. Box 6596 JKPWB, Jakarta 10065, Indonesia Office address: Jalan CIFOR, Situ Gede, Sindang Barang, Bogor Barat 16680, Indonesia Tel.: +62 (251) 622622; Fax: +62 (251) 622100 E-mail: [email protected] Web site: http://www.cifor.cgiar.org

  • 早生樹林業−神話と現実−

    クリスチャン・コサルター、チャーリ・パイスミス著Christian Cossalter and Charlie Pye-Smith 著

    監訳者

    太田 誠一(京都大学大学院農学研究科 教授)藤間 剛(国際林業研究センター 研究員) 訳者一覧(あいうえお順)

    荒井 聖子(京都大学大学院農学研究科修士課程2年) 鳥山 淳平(京都大学大学院農学研究科修士課程1年)原 真司(京都大学大学院農学研究科修士課程2年)平松 玲子(元京都大学農学部4年;現村田機械株式会社)福島 万紀(京都大学大学院農学研究科修士課程2年)向井 由紀子(元京都大学農学部4年;現株式会社リクルート)屋代 直樹(京都大学大学院農学研究科修士課程2年)

    編集協力

    倉光 宏明(国際林業研究センター プロジェクト支援員)島本 久美子(国際林業研究センター インターン)久保 英之(国際林業研究センター インターン)

    ISBN 979-3361-09-3

    © 2005 by CIFORAll rights reserved. Published in 2005Printed by Indonesia Printer, Indonesia

    Cover and inside photos by Christian Cossalter

    Published by Center for International Forestry Research Mailing address: P.O. Box 6596 JKPWB, Jakarta 10065, Indonesia Office address: Jalan CIFOR, Situ Gede, Sindang Barang, Bogor Barat 16680, Indonesia Tel.: +62 (251) 622622; Fax: +62 (251) 622100 E-mail: [email protected] Web site: http://www.cifor.cgiar.org

  • iii

    目次

    Author’s Preface for the Japanese Translation iv日本語版前書き v

    謝辞 vi

    前書き vii

    はじめに 1

    第1章 植林の歴史 5

     さまざまな早生樹植林 10

    第2章 環境問題 13

    植林と生物多様性 13

    水に関する論議 18

    植林と土壌 22

    害虫-植林のアキレス腱? 24

    遺伝子組み換え樹木−好機か脅威か? 26

    植林と地球温暖化 28

    第3章 社会問題 31

    雇用;競争議論のバランスシート 31

    土地所有と対立 33

    第4章  経済問題 35

    急増する需要 35

    奨励金と補助金 36

    規模の経済 38

    地球をかけて 41

    第5章  結論 43

    文末脚注(原文より) 47

    付録

    「ユーカリは子供を食べるか?」 51

    言語の壁を乗り越えて 読み手のことを考えて 53

  • iv

    Authors’ Preface for the Japanese Translation

    We are delighted that Fast-Wood Forestry—Myths and Realities has been translated into

    Japanese. The issues discussed in this publication are very relevant to Japan. Being a

    sophisticated country with a high standard of living, Japan is a significant consumer of

    many products made with raw material from fast-wood plantations, including pulpwood,

    paper and plywood. Nearly all this material is sourced from plantations outside Japan,

    and it is important that Japanese retailers and the Japanese public understand the complex

    issues and sensitivities raised by this sort of forestry. This is a highly controversial subject,

    and has led to bitter debates between environmentalists on one hand and plantation

    companies and their supporters on the other. Neither side has a monopoly on the truth,

    and in this book we seek to provide an objective view of the problems associated with

    fast-wood plantations, as well as their virtues.

    We are extremely grateful to the large number of people who played a part in the production

    of the Japanese version of Fast-Wood Forestry. We are particularly gratified that the

    students who decided to translate this book - Seiko Arai, Junpei Toriyama, Shinji Hara,

    Reiko Hiramatsu, Maki Fukushima, Yukiko Mukai and Naoki Yashiro - did so of their own

    accord. The Japanese translation was corrected and proof-read by Professor Seiichi Ohta

    and Dr. Takeshi Toma. Editorial assistance was provided by Hiroaki Kuramitsu, Kumiko

    Shimamoto and Hideyuki Kubo. Layout was by Gideon Suharyanto. The printing cost

    for the Japanese translation was provided by the Japan Paper Association and the Japan

    Overseas Plantation Center for Pulpwood. During the translation process, the entire project

    was jointly overseen by Dr Toma, based at the Center for International Forestry Research

    (CIFOR), in Indonesia, and Professor Ohta at the Kyoto University in Japan. Our thanks

    go to all of them for the splendid job they have done.

    Christian Cossalter & Charlie Pye-Smith

    Bogor, Indonesia, 2005

  • v

    日本語版前書き

    私達は、「早生樹林業:神話と事実」が日本語に翻訳されたことについて大いに感

    激しています。同書で検討されている議論は、日本にとっても大変関係の深いもので

    す。先進国の一つとして高い生活水準をもつ日本は、パルプ材、紙および合板など

    原材料が早生樹植林地から得られた様々な製品を大量に消費しています。これらの

    製品の多くは日本国外の植林地から生産されているため、日本の販売業者や国民は

    早生樹林業のもたらす繊細かつ複雑な問題を理解することが大切です。早生樹植林

    は賛否両論の問題で、環境保護論者と植林企業およびその賛成者の間に激しい論

    争を招いています。どちら側も真実を独占することはできません。私達は、同書を通じ

    て早生樹植林に関する問題と長所の両方を客観的な視点より描くことを目指します。

    私達は、Fast-wood日本語版の出版に参画して下さった方々に感謝の意を表しま

    す。荒井聖子さん、鳥山淳平さん、原真司さん、平松玲子さん、福島万紀さん、向井由

    紀子さん、屋代直樹さんという学生達が自発的に翻訳してくれたことに、特に喜びを感

    じています。添削および監訳は太田誠一教授および藤間剛研究員、編集協力は倉光

    宏明さん、島本久美子さん、久保英之さん、そして本書のレイアウトはギデオン・スハル

    ヤントさんによってなされました。日本語版の印刷費は、日本製紙連合会と社団法人海

    外産業植林センターに補助いただきました。藤間研究員はインドネシアにある国際林業

    研究センター(CIFOR)で、太田教授は京都大学で翻訳作業全般を共同して進められ

    ました。私達は同出版プロジェクトに関わった全ての方々に感謝します。

    クリスチャン・コサルター、チャーリー・パイスミス

    2005年、ボゴール、インドネシア

    (訳:倉光)

  • vi

    謝辞

    「早生樹林業」を執筆することは、多くの人々とどのように共調するかへの挑戦でした。

    多くの人々が意見や考えを下さり、少なからぬ時間と労力をかけて草稿を読み、コメント

    を頂いきました。特に、出版過程に参画して頂いた次の方々に感謝の意を表します。

    Grahame Applegate (URS Forestry), Michael Bazett (forestry expert), Chris Brown

    (Food and Agriculture Organization of the United Nations - FAO), Jim Carle (FAO),

    Ricardo Carrere (World Rainforest Movement), Mafa Chipeta (FAO), Mary Clarke

    (New Zealand Institute of Economic Research), Marcus Colchester (Forest People

    Programme), Nigel Dudley (World Wide Fund for Nature - WWF), Chris Elliott (WWF),

    Julian Evans (forestry expert), Ken Gales (Barito Pacific Group), James Griffiths (New

    Zealand Forest Industries Council), Philippe Guizol (Centre de coopération international

    en recherche agronomique pour le développement - CIRAD), David Kaimowitz (Center

    for International Forestry Research - CIFOR), Miguel Lovera (Global Forest Coalition),

    Lu Wenming (Chinese Academy of Forestry - CAF), Ken MacDicken (PT Riau Andalan

    Pulp and Paper), Stewart Maginnis (The World Conservation Union - IUCN), Tage

    Michaelson (FAO), E.K.S. Nambiar (Commonwealth Scientific and Industrial Research

    Organisation - CSIRO), Robert Nasi (CIFOR), Christel Palmberg-Lerche (FAO), Murray

    Parrish (Carter Holt Harvey), John Parrotta (United State Department of Agriculture -

    USDA Forest Service), Reidar Persson (Swedish International Development Cooperation

    Agency - SIDA), Jeff Sayer (WWF), Sara Scherr (Forest Trends), Gill Shepherd (Overseas

    Development Institute - ODI), Wink Sutton (Plantation Focus Ltd), 藤間 剛 (CIFOR),

    John Turnbull (forestry scientist), Rob Vertessy (CSIRO), David Victor (Stanford

    University), Andy White (Forest Trends), and Sean White (IUCN).

    また、この出版事業の好機を与えて頂いたBill FinlaysonとCherukat Chandrasekharanに

    も謝意を表します。

    本書の内容についての責任は全面的にに著者が負うものです。

    2003年5月、ボゴール、インドネシア 

    (訳:倉光)

  • vii

    前書き

    世界中で毎年、約100万haずつ早生樹植林地の面積が増加している。ユーカリ、ア

    カシア、マツ、ポプラによる大面積植林は、特に発展途上国で激しい議論を引き起こ

    している。植林地が環境破壊や小農の立ち退きを余儀なくさせるという批判がある。植

    林は天然林の保護を助け経済発展を促すという主張もある。多くの人々は、何を信じ

    ていいかわからないのが現状である。

    森林に関わる4つの主要な国際組織として私達は、広い知見に基づいた論議を促

    進する任務を担っている。Christian ClossalterとCharlie Pye-Smith著、「早生樹林業:

    神話と事実(Fast-Wood Forestry – Myths and Realities)」は、上の議論に大いに貢献

    すると信じる。本書は、早生樹植林に関する最新かつ確かで偏りのない報告である。

    様々な専門分野の30人を越える世界の先導的専門家が本書を査読し、詳細に論評

    を行った。査読にかかわった人がすべて、本書の内容に賛同しているわけではない

    が、本書は専門家達が共通して持つ認識を反映しているといえる。

    紙およびその他木材製品の急激な需要増加に伴い、早生樹植林地は今後もある

    程度は造成が続くだろう。本書は専門家にとっても門外漢にとっても有益であると信

    じる。良い政策の立案には確固とした証拠が必要である。本書は早生樹植林につい

    て、今日までに知り得たすべて知見を要約している。まだ不明なことも多くあり、また早

    生樹植林については異なる意見もあるが、本書は植林の真実を知りたいと思う人が必

    ず通る出発点となるものと信じる。

    David Kaimowitz Claude Martin Achim Steiner Michael Jenkins Director General Director General Director General PresidentCIFOR WWF International IUCN Forest Trends

    (訳:倉光)

  • viii

    植林地は様々な理由で造成され、樹種構

    成や林分構造そして管理の強度も異なっ

    ている。ここで我々は、「早生樹」植林に

    注目することにする。早生樹植林は、強

    度に管理された商業植林で、あるブロッ

    クには単一の樹種が植栽され、高い成長

    速度(年平均成長速度15m3ha-1以上)で

    工業用の丸太材が生産され、そして植栽

    から20年以内に収穫される。早生樹植林

    地は、企業による大規模団地のこともある

    し、多数の小規模経営者が保持する小、

    中規模の土地の集合体のこともある。

    4年生ユーカリ交配種植栽地、Pointe-Noire, Congo

  • 1

    植林地を造成するという事は称賛に値する行為のように聞こえる。森林が多くの長

    所をもっているからである。森林は水と太陽光と二酸化炭素を、酸素と木材に変換し、

    水循環を調整し、急斜面を浸食から守り、洪水を防ぐということがよく言われる。森林

    はまた、無数の生物や微生物に住処を提供し、そして何億人という人々が森林から得

    られる木材、燃材、果物、木の実、樹脂、他の様々な産物に依存している。樹木を植

    えることは無条件に良いことのように見える。

    しかし、本当にそうだろうか? 近年、特に発展途上地域において大規模早生樹植

    林地をめぐって多くの議論が繰り広げられている。「早生樹」植林地に批判的な人々

    の中には環境保護論者が含まれ、かれらは植林地が天然林に取って替わることで、

    野生動物、水資源、土壌、さらには地域社会に悪影響を及ぼすと主張している。また

    以前は地域社会の住民に生活の糧と収入をもたらしていた土地を植林地が奪いつつ

    あると訴えている。さらに植林地造成が公的資金の使い道として妥当かどうかという点

    についても議論が分かれている。

    早生樹を巡る論争はブラジルとインドネシアを除く国々では、政府、植林地所有者

    ならびにパルプ企業と小農の対立を招いている。特にチリ、インド、ポルトガル、タイで

    は環境保護団体による抗議デモが活発で通りに繰り出した事もあり、非常に激しくな

    っている。こうした事態のために開発機関はその方針の再検討を余儀なくされており、

    いくつかの国では当局と地元社会の間で武力衝突が発生したケースもある。特に早

    生樹植林地が重要な土地利用となっている地域では、この事が大きな問題となって

    いる。

    早生樹植林がかくも急速に拡大しつつあるのは驚くに値しない。人口増加と、木

    材、紙のように木材に由来する製品の一人当たりの消費―特に都市部居住者による

    消費―の恒常的な増加が、早生樹植林などから生産される木材の需要を増加させて

    いるのである。木質繊維パネルや紙など早生樹材生産物の国際取引も恒常的に増

    加しており、いまではブラジルやチリで生産された紙の多くが発展途上国の市場に輸

    出されている。また、特に発展途上国における所得増と人口増加は、耕作地や放牧

    地を拡大させ、広大な天然林を消失させている。産業界と政府が、急増する木材需

    要に対して早生樹植林によって応えようとしてきたのは必然であった。

    はじめに

  • 2

    過去半世紀の間に、産業に木材を供給するための植林が大きなビジネスとなり、

    早生樹植林地が比較的少数の先進国、発展途上国で特に急速に拡大した。約30年

    前、ブラジルは南アメリカで大規模な早生樹植林地を造成した最初の国となった。チ

    リ、アルゼンチン、ウルグアイがその後に続いた。現在この4カ国で集約的に管理され

    ているパルプ生産を目的とするユーカリ植林地は約200万haに及び、ブラジルはさら

    に工業用木炭の生産に特化したユーカリ植林地を200万ha保有している。この30年

    間に、ポルトガル、スペインは100万haを越えるパルプ生産用ユーカリ植林地を造成

    し、そのうちの3分の2が早生樹植林である。南アメリカと南ヨーロッパで起きたこのよう

    な変化とほぼ同じ状況が、この10年間に東南アジア特にインドネシアで見られるように

    なっている。現在、インドネシアには100万haを超えるパルプ用植林地があり、そのほ

    とんどがアカシアマンギウムである。

    現在、全世界でおよそ1千万haの早生樹植林地が存在すると推定されている。そし

    て毎年80万haから120万haずつ増加している。早生樹植林地は当分の間拡大が続く

    と考えられる。 製紙産業は大量の新しい木質繊維を継続的に必要とし、その大部分を

    早生樹植林から得ることになるだろう。近年、紙の再利用が環境保護団体やいくつか

    の国家政府で推奨されているが、それだけでは増加する紙の需要に応えきれない。

    さらに製鉄業界も鉄を熔融させるため、早生樹材を原料とした大量の木炭を継続的に

    必要とするだろう。早生樹植林は南アメリカ、東アジア特に中国で急速に拡大すると

    予想される。早生樹植林は我々が好むと好まざるとに関わらず、確実に存在し続ける

    ものである。

    本書は早生樹植林に対する賛成派と反対派のさまざまな主張を検討している。こ

    れは非常に複雑な論題である。樹木の植栽は、優れた土地利用となる場合もそうで

    ない場合もある。ある土地では早生のユーカリ植林が野生生物に大きな悪影響を与

    え、住民が利用する水資源を減少させてしまう可能性もある。しかし、同じような植林

    でも野生生物や水資源にほとんど、あるいは全く害を及ぼさない可能性もある。早生

    のマツ類による植林は社会的、経済的に重要な利益をうみだす可能性がある。しか

    し土地によっては同種の植林が地元社会に損害を与えるような変化を引き起こすか

    もしれない。

    早生樹植林が野生生物、水、土壌に及ぼす影響に加え、我々は早生樹植林に賛

    同する人々の「早生樹植林は比較的短期間で大量に木質繊維を生産することが可

    能なため、天然林への利用圧を軽減させる」という主張についても検討を加える。さ

    らに早生樹林業の推進のために公的資金を投入する事の是非についても詳しく検

    討する。

  • 3

    本書の主な目的は作り話から事実を選別し、憶測と科学を分離することである。

    科学的な知見が世間一般の認識と異なる例がいくつかあり、それについても言及す

    る。しかし、科学は倫理、政治、社会といった側面を持つ複雑な問題に対して答えを

    与えることはできない。むしろ科学は情報を提供するものであり、その情報のみを拠り

    所とするのではなく、その情報を適切な決定を下すための補助として活用するために

    最大の努力を行わねばならない。我々は本書が早生樹林業をめぐる論争に建設的に

    寄与し、政策決定者の有効な指針となることを望む。

    まずは、早生樹とは正確には何を意味するのかを明らかにし、早生樹植林地が他

    の植林地とどう違うのかを定義する事が重要である。植林地には多くの形態、外観が

    あり、多様な目的のために造成される。例えば、家畜への避難場所、日陰、飼料提

    供、家庭への燃材提供、そして家具や建設産業への木材提供などである。時には野

    生生物保全やレクリエーション目的で造成されることもある。植林地が都会の人々にと

    って価値ある貢献をする事さえある。特に乾燥地帯では雨水や汚水を吸収することで

    役立っている。さらに植林地が、小農には飼料を、村民には燃材を、産業には高品質

    の木材を提供するといったようにあらゆる役割を果たしている事も多い。

    これとは対照的に、早生樹植林地の造成の主目的は、大量の小径丸太を低価格

    でできるだけ早く供給することのみにある。そのために、少なくともhaあたり年間15m3

    の収量が必要である。植林地からの生産物は多岐にわたるが、大半の植林地はひと

    つの機能しか持たない。ある植林地は木材パネルや再構成ボード用の木材を供給

    し、また別の植林地は木炭を供給し、少数ではあるが製材用丸太を生産するものもあ

    る。早生樹植林の最大の目的は紙の原料であるパルプ用材を供給することにある。

    本書では、早生樹植林の代表例であるユーカリ、ポプラ、アカシア、マツの短伐期

    の単一樹種植林がもたらす影響について検討する。これらの植林は、一般的にその

    地域での主な土地利用となっているか、あるいは、少なくともそこでの景観を優占して

    いる。これらの植林は、一つの企業が所有する場合や多数の農家が所有する場合も

    ある。後者の場合、個人の植林で育成された樹木は大企業に売られることが多い。こ

    れらは最も集約的な植林林業であり、また多くの議論の対象となっているものである。

    早生樹植林からの木材製品に抵抗してきた主な団体や個人について手短に述べ

    る。彼らの議論の全てあるいは一部に同意するとしても、あるいは全く同意しないにし

    ても、早生樹植林が人間と自然の双方に与える潜在的な影響について人々が関心を

    持っている事は間違いない。

    植林反対運動の最前線にいるのはWorld Rainforest Movementである。熱帯地域

    の早生樹植林に対して盛んに発言を行っている。そのほかの環境保護団体としては

  • 4

    Greenpeace、Environmental Investigation Agency、Native forest Network、Rainforest

    Action Networkなどを挙げることができる。自分たち自身では早生樹植林への反対運

    動に多くの時間は割かないものの、彼らの主張に共鳴している団体は他にもある。そ

    れらの団体は全て、多かれ少なかれRicardo Carrere、Larry Lohmannらが 「Pulping

    the South」のなかで繰り広げた「土地固有の森林、草原、農耕地、牧草地に外来樹種

    が侵入した結果、地域は次々に衰え、環境は劣化し、地元社会には争いが生じるよう

    になる 1」という主張に賛同している。

    早生樹植林の推進を目的とした国際的なレベルでのロビー活動はない。しかし国

    によっては業界団体が植林を認めるよう政府に働きかけ、早生樹林業に反対する主

    張に異議を唱えているところもある。多くの企業、林務官、学者、開発機関もまた早生

    樹植林が社会に有益なものだと信じており、我々は植林への反対運動と同様に根気

    よく彼らの主張も検討していこうと考えている。

    (訳:向井)

    アカシアマンギウムの苗畑、インドネシア、リアウ州(スマトラ島)

  • 5

    第1章 植林の歴史

    植林という活動は古代にまでさかのぼることができ、数千年にわたり多くの経済的

    に重要な樹種が自生地外の広い範囲に植林されてきた。西暦1900年以前は、人口密

    度も低く利用できる天然林が多く存在したため、産業資源として広範囲に植林をおこ

    なう必要はなかった。しかし、20世紀の前半にはいくつかの国で天然林の不足が徐々

    に危惧されるようになり、西ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、南

    アフリカなどで植林が盛んに行われはじめた。発展途上国でもインド、チリ、インドネシ

    ア、ブラジルなど少数の国で植林が始まった。その後、1950年代には日本や韓国、中

    国も大規模な森林再生事業を開始した2。

    1960年代には熱帯、亜熱帯地域の多くの国々で大規模植林事業が始められ、

    1965年から1980年の間に熱帯で植林にあてられた面積は3倍に増えた。この時

    期、国連食料農業機関 (Food and Agriculture Organization of the United Nations:

    FAO)は、技術の普及と植林の促進に重要な役割を果たした。ほとんどの植林は海外

    からの資金援助、あるいは低利子の借り入れによって造成された。植林はまた、直接

    的な補助金による恩恵を受けることが多く、それら補助金の大半は国家政府機関の

    管理下にあるものであった。販売力が脆弱で、植林地と消費者である木材産業の間

    に適切なつながりを構築できなかったため、外部からの援助が無くなれば多くの植林

    事業は破綻を余儀なくされた。しかし、植林によって覆われた土地は急速に拡大を続

    けた。FAOのGlobal Forest Resource Assessment 2002によると、植林地の面積は世界

    全体で、1980年の1780万haから1990年の4360万haを経て、2000年には1億8700万

    haまで拡大した3。

    今日、植林地の3分の1は熱帯地域に、3分の2が温帯地域と北方地域に分布して

    いる。植林事業は比較的少数の国に独占されており、それぞれ1千万ha以上の植林

    地を保有する5カ国が世界の植林地の65%を占めている。これらの国とは中国、アメリ

    カ、ロシア、インド、日本である。しかしこれらの国々が保有する植林地で早生樹植林

    と区分されるものはほとんどない。

    FAOによると全世界で1年間に新規に植林される面積は450万haと見積もられ、そ

    のうちアジアが79%を占め、南アメリカが11%を占めるとされる。1991年から2000年に

    かけて民間セクターの参入が増加した結果、早生樹植林地を含む産業目的の植林

  • 6

    面積は劇的に拡大した。以前は北アメリカ、ヨーロッパ、南アメリカの南部、南アフリ

    カ、ニュージーランド、オーストラリアの企業が植林産業の民間投資を独占していた。

    しかし、1990年代に入るとアジアの多国籍投資家が主役として台頭しはじめた。

    植林地に関する統計の記録方法と、FAOへの報告方法は極めて多様で、比較検

    討するのは容易ではない。しかしながら、FAOのGlobal Forest Resource Assessment

    2002は人工林、天然林の両方を含む世界の森林区分の特徴や広がりについて、最も

    理解しやすく、役に立つ統計である。同報告では植林を次の3種に分類している。一

    つ目は産業植林、これは木材加工産業に木材や木材繊維、また産業用の木炭を供

    給する。二つ目は非産業植林、これは地域で消費する燃材を供給し、土壌や水資源

    を守るために造成される。三つ目は、目的や最終産物が特定されていないものであ

    る。早生樹植林は産業植林に分類される。しかし、FAOの統計では早生樹とそれ以外

    の種類の植林の区別を行っていない。

    早生樹植林がおこなわれているのは、比較的限られた地域であり、相対的に少数

    の国、経営者しか関わっていない。しかし、その割には経済的に重要な位置を占めて

    いる。おそらくこのことがFAOによるGlobal Forest Resource Assessment 2002に早生樹

    植林地に相当するものが存在しないことの説明になるのだろう。早生樹植林地の所在

    地、面積、所有形態、量的ならびに経済的実績に関する情報の多くは、民間の調査

    会社が行う市場情報調査や資源調査、実行可能性調査によって把握されている。し

    かしほとんどの場合、情報は外部に漏れないようになっている。

    しかし、我々は上記調査のいくつかを調べ、現在における早生樹植林地の広がり

    の全体像をできるだけ正確に描き出することを試みた。その結果が表1で、主要な形

    態ごとに早生樹植林地の特徴を、その面積および分布と共に示した。熱帯あるいは

    亜熱帯の樹種を扱っている国はブラジル、インドネシア、中国、インド、南アフリカ、タ

    イ、ベトナム、マレーシア、ベネズエラ、スワジランドであり、温帯の樹種を扱うのは中

    国、チリ、スペイン、アルゼンチン、ウルグアイ、南アフリカ、オーストラリアである。

    データを編集していくと明らかに情報が不明確な地域が2箇所あることに気づく。ひ

    とつはブラジルと中国、南アフリカ以外の熱帯・亜熱帯地域に存在する1125万haのユ

    ーカリ植林地に関してである。この資源のうちのどれだけが早生樹植林地なのであろ

    うか? インドは一国で800万haのユーカリ植林地を保有するが、このうち大半は、生産

    性があまりに低すぎ、早生樹林とは定義できないのだ。二つ目に不明確な地域は中

    国のポプラ植林地である。植林地の区画外縁にポプラを植えるのは中国では一般的

    な施業法であり、最新(1998年)の全国森林資源調査で報告されている370万haのう

    ちどれだけが実際に早生樹で、どれだけが大区画の外側に植えられたポプラなのか

    我々にはわからないのである。

  • 7

    表1.高収量、短伐期植林林業:主要樹種とおもな植栽国

    樹種施業規模での平均成長速度

    (m3/ha/year)

    成熟に要する時間(年)

    早生樹植林推定面積

    (千ha)

    主な植栽国(重要度の高い国順)

    Eucalyptus grandisとユーカリ交配種(1)

    15 – 40 5 – 15 + 3,700ブラジル、南アフリカ、ウルグアイ、インド、コンゴ、ジンバブエ

    その他の熱帯産ユーカリ(2)

    10 – 20 5 – 10 + 1,550中国、インド、タイ、ベトナム、マダガスカル、ミャンマー

    温帯産ユーカリ(3) 5 – 18 10 – 15 + 1,900チリ、ポルトガル、スペイン、アルゼンチン、ウルグアイ、南アフリカ、オーストラリア

    熱帯産アカシア(4) 15 – 30 7 – 10 + 1,400インドネシア、中国、マレーシア、ベトナム、インド、フィリピン、タイ

    カリビアマツ(5) 8 – 20 10 – 18 + 300 ベネズエラ

    Pinus patula と P. elliottii

    15 – 25 15 – 18 + 100 スワジランド

    Gmelina arborea 12 – 35 12 – 20 + 100 コスタリカ、マレーシア、ソロモン諸島

    Paraserianthes falcataria 15 – 35 12 – 20 + 200

    インドネシア、マレーシア、フィリピン

    ポプラ(6) 11 – 30 7 – 15 + 900中国、インド、アメリカ、中央および西ヨーロッパ諸国、トルコ

    (1) 交配種を構成する主な樹種: E. grandis, E. urophylla, E. tereticornis, E. camaldulensis, E. pellita.

    (2) 主として、E. camaldulensis, E. tereticornis, E. urophylla, E. robusta, E. pellita, E. deglupta.インド一国で800万haのユーカリ植林地がある(FA0 2001)。著者らの推定では、そのうちの多くは成長速度が中庸であるため、早生樹とは見なせない。

    (3) 特にEucalyptus globulusが多いが、耐霜性をもつ樹種(主にE. nitens)も含まれる。(4) 特にAcacia mangium しかしA. auriculiformisとA. crassicarpaもある。(5) 特に Pinus caribaea var. hondurensis. (6) 中国の最新の統計では、370万haのポプラ植林地がある。著者らの推定によると、その大半

    が列状植栽によるもので、植栽区全体を早生樹植林地と見なすことはできない。

  • 8

    早生樹植林地の急速な拡大は純粋に経済的理由による。早生樹植林地はより伐

    期の長い針葉樹の植林地と比べ、haあたり1年間に1.5~2倍もの木材を生産すること

    ができるうえ2~3倍も速い速度で、成熟期に達する。(表2参照) 

    パルプや再構成木材製品の原料としてチップやフレークにするための木材を生産

    する場合には、生産量が特に問題となる。収量が高ければ高いほど原料コストは下

    がる。同じ量の木材を生産するのに必要な土地が少なくなり、それにより土地購入、

    生産、運搬などのコストが下がる。また、早生樹木材を利用することにより、企業は最

    も生産性の高い土地に投資を集中することが可能となる。生産量が多ければ多いほ

    ど低コスト化が可能となるという簡単な方程式が、なぜヨーロッパや他地域の市場が

    早生樹植林地で生産された木質繊維類に対する需要を著しく高めてきたのかという

    説明に大いに役立つ。つまり早生樹木材は他の木材よりも安価なのである。

    材質も重要で、そのかなりの部分は樹木の品種改良の成功に依っている。良質な

    早生樹植林地では樹木サイズと形が均一な木材が生産される。このことが安くて効率

    のよい収穫につながり、輸送や加工のコストを低く抑えることになる。最終産物に高品

    質を求める場合には、特定の性質の均一化が図られることになる。製材用木材の内

    部ひずみを低減させたり、パルプ用材の不透明度を高めたりする。

    安い土地、低い人件費、樹木の成長速度が潜在的に高いため、熱帯や亜熱帯の

    発展途上国は、より冷涼な温帯地域に比べ植林から木材を生産する上で有利な条

    件を持っている。しかし、多くの投資家はこれら以外の条件にも関心があり、これまで

    のところ植林への投資は限られた数の途上国に集中している。その中で熱帯、亜熱

    帯に位置するのは少数に過ぎない。投資家の中には土地確保に伴うリスク、複雑な投

    資を支援できる法律や商取引の条件が欠如していることへの懸念、またインフラの未

    整備によって投資を見合わせるものもある。しかし投資家の中には、強力な法律的枠

    組みを持ち、経済が比較的開放されており、自由な資本の流れを許容するような国

    々に強く惹きつけられるものがいる一方、中には国家が企業の収益性を保障するな

    らば、どこででも喜んで事業を行うものもいる4。

    表2. 早生樹植林地と長伐期針葉樹植林地の比較例

    植林型施業面積

    (千ha)施業規模での平均成長速度(m3/ha/year)

    成熟に要する時間 (年)

    年生産量(m3/年)

    早生樹Aracruz Celulose S.A社 180 43 6.5 - 7

    第4伐期(28年目)+ 1,000

    長伐期針葉樹ニュージーランドの平均

    1,650 20 25 - 30第1伐期(28年目)

    + 560

  • 9

    発展途上国の中でも、早生樹植林地の造成が他の国に比べて明らかに有利な国

    がある。それらの国々は時間をかけ、自分たちが持つ優位性を活かして低生産コスト

    を実現させ、ますます価格競争力を増しつつあるように見える。しかし、債務返済の負

    担が新規参入者の初期段階での生産コストを相対的に引き上げることになる。

    本書は早生樹植林とその影響を検討するものである。その詳細を検証する前に、

    早生樹植林は集約度から見れば最も極端な例であることを指摘しておかなければな

    らない。大規模植林地を生産性の高いものから順に並べれば、早生樹植林のすぐ次

    に来るのは製材用木材を20-35年伐期で生産する針葉樹植林である。最も生産性の

    高いこのタイプの植林は早生樹植林の2-3倍の面積を占めている。アメリカ南部諸

    州だけで、Pinus taeda, P. echinata, P. paluwtris, P. ellottii の4種類の商業用のマツ植

    林地が1160万haある。ニュージーランド、チリ、オーストラリア、スペイン、南アフリカに

    はPinus radiataが410万haにわたって植林され、南アフリカ、アルゼンチン、ウルグア

    イでは、Pinus patula, P.elliotti植林地が130万haを占めている。

    この種の植林地は温帯だけでなく熱帯や亜熱帯地域にもみられる。ブラジルには

    40万ha のPinus caribaea とP.oocarpaの植林地があり、中国では16の省に中国原産

    のモミCunninghamia lanceolataの植林地が875万ha存在している。ブラジル、オースト

    ラリア、ジンバブエ、マラウイにはP. ellottii, P. taeda, P. patulaの植林地が約170万ha存

    在している。

    これら長伐期の針葉樹植林も、大規模な単一種植栽であるため環境保護団体の

    批判を免れえない。しかし、これらは早生樹植林に比べれば許容しやすい土地利用

    であると一般には認識されている。より長い植栽の歴史があり、地域経済にとって非

    常に重要である事が多いという事実が、針葉樹植林が植林の批判者からより寛容な

    見方をされるということを多少は説明するだろう。

    長伐期の針葉樹植林地の拡大は先進国で特に顕著である。これには相応の理由

    がある。長い伐期は長い投資期間を意味し、裕福な先進国の方がより貧しい途上国

    にくらべて相対的に有利なのである。良い企業ガバナンスとリスク削減という点でも、

    温帯地域の先進国は熱帯地域の不安定な発展途上国よりもうまく投資家を惹きつけ

    ることができる。より長い伐期はまた、生産する丸太の質を向上させ、その価値を高め

    る可能性を持つ。価格でみれば、パルプ材は木材の中で最も低い位置にある。製材

    用丸太や合板用丸太はそれよりはるかに高い収益をもたらすため、早生樹植栽者の

    中には、より高い価値を生む長伐期による経営に関心を示しすものも出始めている。

    これらの長伐期植林は本書の中心的な話題ではないが、いくつかの点には言及

    する。早生樹植林に関する問題には、長伐期の針葉樹植林と共通するものがあり、ま

    たその発展の初期段階で起きたものがあるからである。

  • 10

    さまざまな早生樹植林

    ブラジルの植林企業Aracruz Celulose SA社が典型的な早生樹植林企業であるのは多くの植林

    の専門家が認めるところである。同社はユーカリの成長記録を保持しており、それによれば、平均成

    長速度はhaあたり年間43m3で、伐期は6-7年である。三つの地域に18万haのユーカリの植林地

    を保有し、さらに2200人の外部の植栽者と契約し3万7千haの農地でパルプ用木材を生産しいる。

    2002年、同社は6,100万m3のユーカリ材から1,600万トンのパルプを生産した。

    しかしすべての早生樹植林地が大企業によって所有されているわけでもなければ、大企業のた

    めに植栽されているわけでもない。マダガスカルのアンタナナリヴォ周辺の台地上には10万haの

    Eucalyptus robusta植林地がある。この植林地のほとんどすべては小規模農家が50 - 100年前に造

    成したもので、そのほぼ全てが小規模な農地で植栽されている。それらは地域経済の重要な要素

    になっており、そこで生産される木炭はアンタナナリヴォの家庭および産業用エネルギー需要の大

    半をまかなっている。またこれらの植林地は、何百もの小規模な木炭製造会社や運送会社に何千

    人もの雇用を生み出している。2003年現在、これらの植林の多くが3年伐期の萌芽林として経営され

    ている。

    早生樹植林地は熱帯・亜熱帯地域の外にも存在する。ポプラは植林のほとんどが温帯地域に

    限定されている樹種の好例である。ポプラは特に川岸やデルタで植栽され、伐期は20年以下であ

    る。南ヨーロッパやアメリカ北部、中国南部には集約的なポプラ植林地が多く存在する。ルーマニア

    やユーゴスラビアではhaあたり年20m3以上の成長速度が記録されている。トルコでは、ポプラは一

    般的な植林樹種で、5-10年という短い伐期で経営されており、年成長速度は比較的緩やかである

    が、それでもhaあたり年15m3を超える。

  • 11

    早生樹植林地からの主要生産物はパルプと木炭であるがであるが、それだけではない。早

    生樹植林地は、むく板、パーティクルボード、中密度繊維板(MDF)、配向性ボード(OSB)、

    LSL(Laminated Standard Lumber)など再構成木材製品の商業用途が増加している。近年、ユーカリ

    を小径丸太として利用したり、またユーカリを無垢材として利用したりするための技術が進歩したのに

    伴い、早生樹ユーカリ植林で見栄えの良い木材を生産するといった傾向も見られる。こうした木材は

    家具や床、建具を作るのに用いられる。最近、Aracruz Celulose SA社の子会社、Aracruz Produtos de

    Madeira社は “Lyptus”という高品質ユーカリ材を新商品として販売する目的で設立された。インドネシ

    ア、ジャワ島で栽培されているParaserienthes falcatariaはもう1つの高収量植林樹種の例であり、今後

    約10年間のうちに輸出競争力を持ったさまざまな木材製品を生産することが可能となるだろう。

    早生樹植林のすべてで広葉樹が植栽されているわけではない。スワジランドではPinus patulaや

    P. elliottiなどの針葉樹植林が15~18年伐期で経営されている。その生産物の大部分は木材チップ

    となる。

    そして、すべての早生樹種が早生樹植林を構成するわけではない。Paulownia属の樹木は東ア

    ジアの温帯、熱帯、亜熱帯地域に広く分布している。なかでも最もよく知られるのはP. tomentosaであ

    り、高品質木材を生産する目的で中国北部に植栽されている。成長は早いものの、土地が肥沃な場

    合に限られる。それゆえ、まとまった区画で植えられるよりも耕作地の周辺や道路や運河沿いに農

    作物と共に列状に植えられることが多い。P. tomentosaは、多くのヨーロッパ諸国とアメリカに、観賞用

    として導入された。しかし、ブラジル、パラグアイ、アルゼンチン、オーストラリアでは、P. tomentosaを木

    材生産の目的で植栽する試みはほとんど成功していない。また別の2樹種、P. elongataとP. fortuneiも

    成長は早いが、ブロックで植栽される事はめったにない。

    (訳:向井)

    植栽後7ヶ月目のユーカリ交配種植林地。Pointe-Noire, Congo

  • 12パルプ材生産目的で二次林が皆伐されたのち、アカシアマンギウムが植林された。インドネシア、スマトラ島リアウ州

  • 13

    早生樹植林に対する批判の多くは、それが環境に悪影響をもたらすという確信に

    根ざしている。早生樹植林はさまざまな問題について非難されている。特に生物多様

    性や水資源、また土壌肥沃度に対する脅威であるとみなされている。また多くの環境

    団体はまた、遺伝子組換樹木の植栽が将来問題になることを危惧している。さらに単

    一樹種による植林では害虫の大発生も懸念される。樹木が大気中の二酸化炭素を吸

    収する能力をもつことから、地球温暖化対策のために早生樹植栽を擁護する国や団

    体がある。しかし環境保護論者の多くは、先進工業国が、排出源である自国で炭素

    排出量を削減すべきであると信じ、また植林は環境にも社会にも有害であると見なし

    ているため、早生樹植林の推進には反対の立場を取っている。

    この章では上記の問題全てについて検討する。しかし、早生樹植林の環境あるい

    は地域社会への影響を一般化することは誤解をまねく事が少なくないことに注意しな

    ければならない。植林に関する問題は地域に固有であることが多く、さらに重要な影

    響を持つのは植林がどのように計画・管理されているかなのである。

    植林と生物多様性早生樹植林地造成のために大面積の天然林が伐り開かれると、生物多様性の消

    失がおこる。実際に南アフリカやウルグアイ、アルジェリアでこれまでしばしば起こった

    ように、天然サバンナ生態系が外来樹種植林地に置き換えられた場合にも同じことが

    起こる。しかし同じような早生樹植林が劣化した土地に造成された場合、植林が生物

    多様性の増加をもたらす可能性がある。言い換えれば、植林が生物多様性に与える

    影響は、植林によって代替された土地がどのような土地であったかによって異なる。

    他の重要な要素として、植林地の位置、大きさ、伐期の長さ、樹種構成が挙げられ

    る。空間的連続性もまた重要である。既存の天然林の近くに植林地が新しく造成され

    た場合、その植林地は天然林の生物多様性からの利益を受けるかもしれない。こうし

    た場合、動物や鳥や昆虫が新しい植林地に容易に侵入することができるであろう。し

    かしそうした生物多様性の高い場所が近くに存在しない場合、また多様性に富む場

    所からの距離が遠くなればなるほど、植林地が外部から移入した野生生物の新しい

    生息地となる可能性は低くなる。

    第2章 環境問題

  • 14

    生物多様性という用語は、ある地域内の全ての生物学的要素の集合を示してい

    る。つまりこの言葉は、遺伝的な多様性と種の多様性、そして生物学的プロセスの多

    様性の全てを包含しており、種を異にする生物間、そして生物と非生物的環境との間

    に存在する複雑で多様な相互作用という意味も含んでいる。生物多様性は通常、湿

    潤熱帯低地で最も高く、南北両極に向かって、また海抜が高くなるにつれて連続的に

    低下していく。例えばコスタリカやインドネシアで植林地が天然林に置き換われば、チ

    リ南部やカナダでそれが起こるよりも、より大きな生物多様性の消失を招くことになる。

    ただしこれは、亜寒帯地域での自然生息地の破壊は、湿潤熱帯における生息地の破

    壊よりも被害が小さいということではない。

    FAOによる最近の統計は、熱帯地域の天然林が警戒すべき速さで他の土地利用

    へと転換され、毎年フィンランドの半分の面積の天然林が失われていることを示してい

    る。天然林の植林地への転換は天然林消失全体の6~7%を占める。他方残りの93~

    94%は農業用地と工業用地への転換によっている5。

    あらゆる生態系の中で最も生物多様性の高いとされる熱帯雨林が、どれほど早生

    樹植林地造成のために消失しているかを示す正確な数字はない。1980年代後期に

    行われた推定によると、熱帯諸国の全植林地のうち15%が閉鎖天然林を犠牲にして

    造成されたとされている6。

    インドネシアは熱帯林から早生樹植林への大規模な転換が起きている国の一つで

    ある。インドネシアには2001年末の時点でパルプ生産目的のための植林地が140万

    ha存在したが、そのうちおよそ半分は過去20年間に閉鎖天然林を伐採した土地に造

    成されたものである。天然林の中、あるいはその周辺にパルプ工場がよく建設される。

    これは、生産が軌道に乗るまで少なくとも10年はかかるとされる早生樹植林地を造成

    する前に、天然林での収穫を行うことを目的にしているからである。植林地からの生産

    が軌道にのるまでパルプ工場は天然林から収穫した大量の木材を利用し続ける。こ

    れは近年インドネシアに建設された5つの巨大パルプ工場のうち、南スマトラのBarito

    Pacificパルプ材植林地が材を供給しているTanjung Enim Lestari工場を除く、4つの大

    工場にあてはまる。

    パルプ会社はしばしば多様な生物の生息地内に新しい植林地を造成する。スマ

    トラ島のRiau州とJambi州で操業しているSinar Mas Group 社を例に挙げよう。2001年

    末までに、Sinar社は21万7千haの植林地を造成した。草地や雑木林に造成されたとこ

    ろもあるが、圧倒的な面積を占めるのは天然林を伐開して造成された植林地である。

    Sinar社はさらに29万haの植林地を今後10年間で造成する予定である。そしてその大

    半はインドネシアで激減した生態系である泥炭湿地林を転換して造成される。

  • 15

    このような植林地の造成による天然林の消失は、過去のものも計画中のものも全

    て、熱帯雨林への脅威となっている様々な人間活動と切り離して考えることはできな

    い。インドネシアでは、パルプ・製紙産業に木材を供給するための森林伐採および早

    生樹植林と、それに付随する社会的インフラ整備のために使われた土地が過去20年

    間の天然林消失の5~7%を占めている。ただし、天然林の油ヤシや林産物のプラン

    テーションそして農耕地(増加する新たな耕作者の農地も含む)への転換は、さらに

    大きな森林消失を引き起こしてきた。

    植林地造成のための天然林伐採は、世界各地で行われてきた。例えばチリでは、

    1978年から1987年にかけて、海岸地域の天然林の31%が植林地に転換された。しか

    し国全体で見ると、農地と牧草地の拡大がそれ以前から続いており、今なお天然林

    減少の主な原因となっている。チリの人々は、林業が年間20億ドルを生み出す輸出

    産業であり、多くの人々が利益を得ていることを指摘するだろう。森林や地域社会を

    犠牲にしているにも関わらず、チリでは植林は経済的繁栄を意味するのである7。

    早生樹植林用地として天然林が故意にターゲットにされているという批判がある。

    「企業は生物多様性の高い森林を早生樹の単一な森林へと転換しようとしている」と

    Native Forest Network8は主張する。植林地は「大体の場合、天然林に取って代わる」

    という主張がどこにでもある。しかし、これは誤解を招くものである。確かにインドネシ

    アのように政府と企業が天然林をターゲットにしてきた国もあるが、ブラジルのように、

    主として農民によってすでに天然林が伐採された跡地に、早生樹植林地が造成され

    てきた国もある。ブラジルの植林企業が天然林を伐採しなかったというわけではない。

    実際、企業は天然林を伐採してきたのである。しかし一般的には農地に産業植林地

    を造成するよりも、天然林を伐採して植林地を造成するほうが莫大な費用がかかるの

    である。

    新たな早生樹植林地を造成する際、閉鎖林や低木林、草地などの植生状況にか

    かわらず既存の植生を取り除かなければならない。そして樹木が植栽されるまでに多

    くの哺乳類や鳥類などの生物は逃げ出すことを余儀なくされる。さらに植林企業が新

    しい道路を建設することで、周囲にある天然林へのアクセスが容易になり、そのため

    天然林は森林開発や違法伐採に対してますます無防備になるだろう。これはインドネ

    シアの多くの地域で実際に起こっている。

    湿潤熱帯では、新たに植林地に転換される天然林の面積が大きければ大きいほ

    ど、影響を受ける生物種の数が増える。たとえば、インドネシアの東カリマンタン州で

    は、Kiani Kertasというパルプ工場に原料を供給するための早生樹植林が生物多様

    性の非常に豊かな熱帯雨林への脅威の一つとなっている。最近の研究によると、東

  • 16

    カリマンタンでは1haの調査区内に200種、5haの調査区内にはその2倍、10haの調査

    区には500種以上の樹種が確認されている。つまり天然林を転換して造成する植林地

    面積が大きければ大きいほど、生物多様性に与える影響は強くなるのである。もちろ

    ん天然林が農地およびその他の生産活動のために伐開される場合にも、同じことが

    当てはまる9。

    ところで、植林が生物多様性に及ぼす影響には2つの側面がある。早生樹植林は

    生物多様性に良い影響を与える場合もある。たとえば、伐採、非持続的な農業、過放

    牧などにより天然植生がすでに破壊されている、あるいは深刻な被害を受けている場

    合には、もともとの種組成とは多少異なるとしても、植林がもとの植物相、動物相の残

    存種を保護し、それらを繁殖させ、生物多様性を回復させたり、あるいは新たな生態

    系を作り出す可能性がある。実際にインドと中国の多くの地域では、植林地はやせ地

    や荒廃した農地に造成されている。農作物を生産する地力もないような土地で植林を

    行っても、低質な木材しか得られず、また大量の施肥が必要になるが、そのような土

    地での植林地造成は全体として生物多様性に良い影響を与えている10。コンゴ人民

    共和国では、毎年起こる火災で樹木の稚樹が死滅し、樹木がまばらにしか群生しなく

    なったサバンナにユーカリ植林地が造成され、近くの天然林から侵入した他の生物種

    を保護する役割を果たしている11。多くの国から劣化した土地では植林が森林生態系

    の再生に貢献するという「触媒効果」が、早生樹を含む様々なタイプの植林地におい

    て報告されている12。伐期が長いほど、また管理が粗放になるほど、植林の触媒効果

    は大きくなる。

    環境保護論者は「不毛の土地」という言葉を嫌う。不毛の土地と分類されていても、

    非持続的な農業による劣化から徐々に回復しつつある土地だと主張するのである。そ

    のような土地はそのまま放置すれば、早生樹植林地に転換された場合よりも高い生物

    多様性をもつ、価値のある生態系へと発展するかもしれない。しかし、そのような回復

    が起きるのは、政府や他機関がそのような土地を保護するために十分な資金と人手を

    投入した場合に限られるだろう。

    植林地のなかには、高い生物多様性を保持するものがある。同じ樹種であっても、

    在来種として原産地に植栽された場合は、外来種として植えられた場合よりも必然的

    にはるかに多くの野生動物を引きつけて保護するようになる。例えばオーストラリアの

    在来ユーカリ樹種による植林地は、豊かな生物多様性を維持している。この生態系に

    含まれる動植物は植栽されたユーカリとともに進化してきたからである。しかし、同じユ

    ーカリが他の熱帯地域に単一樹種植林として植えられた場合、下層植生は非常に貧

    弱か皆無となり、保持できる動植物の種数も激減する。

  • 17

    植林企業は、一連のガイドラインに忠実に従うことで生物多様性をより高く保つこと

    ができる。生物多様性は次の条件下で最大限に維持される。隣接しない天然林区画

    が緑の回廊によって結ばれていること、植生に階層があり様々な生態系が含まれてい

    ること、また陸水生態系が保全されていること、などである13。CIFORは現在、スマトラ

    において早生樹植林地での生物多様性保全のために、自然回廊の配置と管理に関

    する研究を行っている。この研究の目的は、残存する天然林区画間の連続性を維持

    ・強化し、そのような方法による産業植林地造成の可能性を評価することである。すで

    にいくつかの植林企業は、植林地の内部あるいは周囲に残存する天然林を保護する

    計画を実施している。例えばブラジルの植林企業Aracruz社は、川沿いの残存天然林

    に生息する樹種を保全するとともに植栽活動も行っている。

    植林地、特に早生樹植林地は木材やパルプを生産することによって、天然林が維

    持され、あるいは生物多様性を失わないように管理されるようになり、天然林への利用

    圧力を軽減させる補償的効果を持つとよくいわれる。この主張を裏付けている経済的

    な論理は以下のようなものである。すなわち、植林が拡大するにつれて植林の木材生

    産コストが天然林からの木材生産コストよりも低くなるため、天然林からの木材生産は

    採算が合わなくなるということである。今後、木材市場は徐々に植林木に移行し、拡大

    する植林地が大量の木材を安定的に供給するようになるといわれている。

    国によってはこうしたことが起こりうる。例としてよく取り挙げられるのは、木材の99%

    が植林地で生産されているニュージーランドである14。しかし、現在の多くの発展途上

    国と同じように、過去におこなわれた天然林の開発がこの国の経済成長を支えてきた

    ことは記憶に留めておかねばなるまい。マオリ族統治以前、西暦900年から1350年に

    かけて、ニュージーランドの土地の75~80%は天然林で覆われていた。その後、ヨー

    ロッパ人の入植が進みつつあった1840年までに天然林の被覆率は53%にまで低下

    した。そして現在、天然林は全土の23%を占めるにすぎない15。同国の木材需要が植

    林によって満たされ、木材輸出による収入も多額であるのは事実だが、これはごく最

    近の現象なのである。

    いくつかの国で植林が天然林への利用圧力を軽減しているからといって、他の国

    でもそうなると考えるのは間違いであろう。ニュージーランドの例は一般的というよりも

    むしろ例外的なもので、植林を天然林の保全と結びつける単純な法則は存在しない

    という指摘もある。事実、天然林からの木材よりも早生樹植林からの木材のほうが市場

    で優遇されていても、天然林の減少が深刻な問題となっている国は多い16。これは発

    展途上地域においては、農地拡大のための森林開発の方が商業伐採よりも天然林

    消失のはるかに重大な原因となっているためである。

  • 18

    さらに木材生産だけを目的とする植林では、天然林の代用としての機能は著しく劣

    っている。発展途上国では地元住民は、必要な木材、果実、繊維、樹脂といった幅広

    い林産物を植林地から得ることができないため、残存する天然林からの採集を続ける

    であろう。天然林が多くの土地を占めている所では、天然林伐採が市場競争力を失う

    ほどに木材価格が低下することはないようである。例えばニュージーランドでは、天然

    林伐採を政府が禁止する必要があった。これは市場競争によるものではなく、天然林

    を更なる開発から守るための法的規制であった。

    天然林の保全が国家の優先事項とされている国は、経済発展に成功しているか、

    あるいは天然林の面積がすでに著しく減少しているか、もしくはその両方の要素をも

    つ国である。このことは早生樹植林およびその他の植林が主な林業形態であり、木材

    の90%以上を植林が供給しているチリとウルグアイを見るとわかりやすい。商業伐採

    による森林減少は、ウルグアイではすでになく、チリでも急速に減少している。長年に

    わたる森林減少により、天然林の被覆率がウルグアイで3.8%、チリでは18%にまで低

    下した結果、両国政府が厳しい保護政策を採ったためである。両国が残存する天然

    林の保護へ動いたのは植林木への需要が市場で高まったためではなく、天然林があ

    まりにも減少したためというのが実情である。

    林産業者や政府関係者の大多数は、これまで以上に天然林を早生樹植林および

    その他の植林地に転換することを正当化するのは難しいと認めるだろう。とりわけこれ

    は農業をはじめとする人間活動のために、その多くがすでに失われてしまった種の豊

    富な熱帯雨林について言えることである。

    (訳:平松)

    水に関する論論

    樹木のもつ水文学的な影響、特に植林地が水収支と洪水に与える影響は、非常に

    俗説を生みがちな話題であった。大きな洪水が発生すると必ず、洪水が起き、洪水が

    悪化したのは森林減少のせいであるという声があがる。そしてその主張とともに、樹木

    は過剰な水を吸収するから、洪水の再発を防ぐために適切な対策として、集水域に

    木を植えるべきであるという主張がなされる。これらのことはしばしば木を植える格好

    の理由になる。しかし、どんな気候条件であろうと、植林地が安定した流水量を保証

    することはほとんどない。

    この俗説を作り上げた人々はまた、森林が降雨を呼び寄せると信じ続けてきた。こ

    の考えは、原因と結果を取り違えていることに起因する。山地では普通、隣接する低

    地よりも降雨も森林も多いが、だからといって森林が降雨を呼び寄せているわけでは

  • 19

    ない。こうした考え方は、教科書にも書かれており、何世代にもわたって林業従事者

    の信頼するところとなってきた。しかしながら、多くの俗説と同じように、一粒の真実

    は含んでいる。つまり、ときとして森林の存在が降雨量の増加をもたらすこともある

    のである。確かに雲霧林は、霧や雲の中に存在する水分を水滴として捕捉すること

    で、集水域の水量を増加させるのである。しかしこれは、一般的法則というよりむしろ

    例外である17。

    森林と水資源の関係を理解するためには、様々な環境プロセスの理解はもとより、

    水文学と植物生理学に関する基本的な知識が必要である。森林や植林地の水収支

    への真の寄与は林地ごとに異なるため、森林と水資源との関係は複雑なものとなる。

    地形、土壌、局地的な気象条件、植生型など様々な要素が独自の影響を持つので

    ある。

    豊富な降雨量が成長速度を最大にすることから、最も普通に早生樹の植林の対象

    となる場所は、降水量の多い所である。しかし早生樹植林の一部、および他のタイプ

    の植林地多くのが、少なくとも乾季の間は水が不足するような所に造成される。

    環境保護論者は、集水域の流量を減少させるという理由で大規模植林を批判す

    る。世界熱帯雨林運動(World Rainforest Movement: WRM)は、ブラジルのEspirito

    Santo州、南アフリカ、南チリ、東北タイ、さらに他の多くの場所で、早生樹であるユー

    カリとマツの植林が水不足を引き起こしていると主張している。そしてこの水不足が、

    農耕地の放棄、漁獲量の減少、地下水の枯渇、渓流や井戸の干上がりなどにつなが

    ったとしている18。

    WRMの主張が妥当であるかどうかを検証する前に、天然林や植林地で降雨時に

    何が起きているかを正確に記述するのは意味があることだろう。雨水の一部は直接

    樹冠に捕捉され蒸発して大気へ戻る。残りの水は地表に落下する。土壌は可能な限

    り水を吸収するが、過剰な水は土壌表面を流去する。土壌中に浸透した雨水の一部

    は、樹木や他の植物に吸収され、その一部は気孔を通して蒸散し大気へもどる。蒸発

    と蒸散の二つのプロセスは、あわせて蒸発散と呼ばれる。直接大気へ蒸発したり、植

    物に吸収されたり、表面流出によって失われたり、あるいは、土壌に保持されなかった

    水は地下水面へ到達し水路や湧水地へ移動する。大気中に失われた水は結局最後

    には再び地表へ降ってくる。雨水は普通、蒸発した所から遠く離れたところで降るた

    め、この過程を植林と関連づけることはほとんど無意味である。しかしアマゾンのように

    広大な天然林では重要な循環効果が存在している。

    異なる土壌はそれぞれ異なる保水力をもつ。保水力は土性と植被に大きく依存し

    ている。ほとんどの熱帯天然林の有機物に富んだ表層土は、一般に高い吸水能力と

  • 20

    保水力を持っている。その他の土壌、例えば粘土含量の高い土壌は吸水能力がはる

    かに小さく、そのため豪雨時に鉄砲水が起きる原因となることがある。

    樹木もまた樹種によって雨水の遮断、消費、貯留の特徴が異なり、同じ属のなかで

    も相当な違いがある。たとえば、ユーカリ属のある種は、単位消費水分に対してより大

    量の現存量生産が可能である。また別の種は乾燥条件下でも蒸散量を減らすことが

    できない可能性があり、この樹種は水効率が低く水ストレスを受けやすくなる。また例

    外的に乾燥した環境において、深いところにある地下水を求めて急速に根を伸長す

    ることができる樹種もある。

    植林を造成すれば必ず水循環の変化が起こる。植林地がどのような種類の生態系

    に置き換わるかによってこの変化の特徴が異なってくる。天然林を植林に転換する場

    合、伐採および植栽から2、3年の間に最大の変化が起きるであろう。これとは逆に、

    草原に植林を造成した場合、当初の水文学的変化はわずかであるが、植林地が成熟

    期に近づくにつれてその変化は次第に顕著になるだろう19。

    仏領ギアナの低地熱帯雨林を皆伐して行われた実験は、植生によって水量を調節

    する役割が異なるという有効な証拠を提供している。天然林を伐採した後にユーカリ

    林を造成した場合、1年目は河川流出量が60%以上増加した。流出量はその後減少

    し、6年目には天然林よりも約10%少ないものになった。森林がメヒシバ(Digitaria)草原

    に置き換わったところでは、流出量は最初の年に100%以上増加し、5年を経てもなお

    天然林より約30%多かった。

    仏領ギアナのような湿潤熱帯環境下で森林が草原へと置き換えられると、河川水

    の流出量が増加することをこの実験は示している。つまり皆伐は下流への水の供給を

    増大させるが、減少させることはない。また皆伐後に新しい植林地を造成しても流出

    量は劇的に増加する。しかし植林地、特に早生樹植林地では、すぐに天然林よりも多

    くの水を保持するようになり、結果的に下流域に住む人々が利用可能な水を減少させ

    る。このことは、植林が下流域の人々から水を奪うというWRMの批判が、場合によって

    は正しいことを示唆している。しかし、多くの早生樹植林がそうであるように、もし7年程

    度で収穫される場合には、植林地が水を保持するという特性は一時的に気づく程度

    にすぎないだあろう。実際、収穫後には天然林を皆伐した時と同程度まで、流出量は

    再び増加するであろう。

    気候条件もまた、新しく造成された植林地が流水量に与える影響を正確に判断す

    る際の重要な要素である。様々な気候下の集水域でおこなわれた実験によると、湿潤

    条件下では、丈の低い作物よりも森林の方が遮断・蒸発による水分損失が大きい。一

    方、乾燥条件下では、蒸散による水分損失の方が大きくなる可能性がある。このこと

  • 21

    は、非常に湿潤または乾燥した気候条件では、非森林植生よりも森林の方で河川流

    出量が少なくなる可能性があることを意味している。

    より乾燥した気候下では、利用者にとって乾季の河川水量が重要となる。乾季には

    河川が唯一の水源となることがあり、特に草原が植林に置き換えられた場合、早生樹

    植林による水分保持が、深刻な問題を引き起こす可能性がある。南アフリカにその古

    典的な例がある。1950年代から60年代にかけて河畔の広大な土地にユーカリ、アカ

    シア、マツが植栽され、そのことで、はるか下流域における利用可能な水資源量が劇

    的に減少した。その結果、1990年代半ばに南アフリカ政府は、問題の植林地を取り除

    くために何千人もの人々を雇用するはめになった。今日では、水資源森林局から「水

    利権」を取得することが、植林造成の必要条件となっている。また蒸発散を減らすため

    の植林的手法、例えば水消費の少ない樹種を選択したり、強度の間伐を行うことなど

    も推奨されている。

    森林は雨季の間に保持した水を乾季にゆっくりと放出することで、流量を調節する

    能力をもつとよく言われる。科学者の多くはこれが概念的にはある程度正しいと考え

    ている。まず根系活動が土壌構造を発達させ、土壌の保水力を高める。理論的には、

    こうした森林土壌は急速にではなくむしろゆっくりと水を放出する。しかしこのことが実

    証的な解析で裏付けられることはまれで、こうした見解を支持する証拠が存在する事

    例は限られている。

    木材産業に携わる人々は、植林は洪水被害を減らす潜在能力をもつとよく主張す

    る。植林は水を保持することで水流出量を減少させるのだから、洪水を防ぐこともでき

    ると推論する。これは論理的であろうか、それとも非論理的であろうか。端的に言うな

    ら、我々はその答えを知らない。森林や植林が比較的少ない量の水をどのように利用

    しているのか、また大量の降雨が非常に短期間に発生するなど例外的な状況下にお

    いて、水の挙動がどう異なるかを区別することが必要なのは確かである。

    ある地域が大量の雨に見舞われた際、森林や植林が洪水を防止できるという証拠

    はまったく存在しない。近年、世界の多くの地域で洪水被害が顕著に増加している

    が、それは集水域の森林被覆の減少よりもむしろ氾濫原での人間活動が増大したこ

    とによることが多い。今日、ガンジス川の洪水によるバングラディシュでの死者数は過

    去に比べはるかに多いが、それはもともと洪水の起きやすい土地に住む人がはるか

    に多くなったからにほかならない。さらには河川を運河化し、湿地を排水し、洪水の起

    こりやすい地域に街とインフラをつくったことによって、洪水被害の程度と頻度がさら

    に増大した。豪雨に見舞われる地域では、森林の果たす役割がないと言っている訳

    ではない。ネパールの山地民は水文学者と同様に、森林が洪水の際に地すべりを防

  • 22

    ぐこと、段々畑や棚田を安定させていることを知っている。ただしそのような森林も大

    規模な洪水を防ぐことはできない。

    森林と水の関係に関する誤った認識は、土地と資金、双方の誤用を引き起こす。

    下流域の住民の水供給がすでに限られているようなところでは、それまでにあった植

    生よりも多くの水を消費する植林に、何百万ドルもの投資をすることは無意味である。

    一方、早生樹植林による水消費が増加した結果、乾季の河川流量が減少したとして

    も、他の利用者にとって重大な問題とはならないこともある。ただし早生樹植林と流水

    量との関係を一般化することは不可能である。植林および新規植林計画のそれぞれ

    について、個別に評価・検討することが必要である。

    (訳:鳥山)

    植林と土壌

    土壌の劣化は深刻さを増しつつあり、特に多くの土壌がもともと貧栄養で、土壌浸

    食の危険性が高い熱帯や亜熱帯で顕著である。土壌劣化の主な原因は、不適切な

    農業活動、森林減少、そして過放牧であるが、早生樹植林もまた、計画や管理が不

    適切な場合には、浸食の増大と養分の損失を引き起こす可能性がある。早生樹は短

    い伐期で育成され、しばしば重機による皆伐施業によって収穫される。早生樹生産の

    ために管理される土地は、成長が遅い樹種の生産に使われる同様の土地に比べ、間

    違いなくより高頻度で撹乱を受け、土壌浸食も大きくなるに違いない。

    ある種の地拵え技術、例えば等高線に沿った低い畝への植栽や小集水域を設け

    たりする手法により、表面流去水をかなりの程度減少させ、そして土壌浸食も減少さ

    せることができる。しかし、これらの技術は乾燥の強い地域において例外的に考案さ

    れたものであり、早生樹植林で用いられることは稀である。通常、土壌が風や雨にさら

    される地拵えの段階や、樹木成長の初期の数年間に、浸食が増加する傾向がある。

    土壌浸食量は、傾斜、土壌タイプ、降水量、土壌が直接雨風にさらされる裸地状態の

    期間、そして樹冠の性質に依存している。特に地表の植被がほとんどないところ、傾

    斜地、そして葉のサイズが大きな水滴の形成を促進するような植林では�