ガラス状炭素 グラッシーカーボン の 用途拡大を目指して -...

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福島大学 共生システム理工学類 産業システム工学専攻 准教授 中村 和正 ガラス状炭素(グラッシーカーボン)の 用途拡大を目指して 2018/09/27

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  • 福島大学 共生システム理工学類

    産業システム工学専攻

    准教授 中村 和正

    ガラス状炭素(グラッシーカーボン)の用途拡大を目指して

    2018/09/27

  • 炭素層

    ・破断面がガラス状になり、発塵性がない・緻密な構造で閉気孔構造なので、比表面積が小さく、気体や液体をほとんど通さない・機械的特性に優れており、曲げ強さが大きく、耐摩耗性も高い・化学的安定性・耐食性に優れている

    ガラス状炭素

    2

    ガラス状炭素 (グラッシーカーボン)(GC or GLC:Glassy Carbon or Glass-like Carbon) とは、黒鉛系材料の基本構造である六角網面を保持しながら、ナノメーターサイズの網面を方向性無く(等方性に)集合させた炭素材料数層の炭素層が貝殻状構造を形成している⇔アモルファス(非晶質)では無い

    熱硬化性樹脂(プラスチック)の前駆溶液を成型後、重合・熱硬化させ、炭素化する(⇒ 固相炭素化) その後、高温処理を行うこともある

    高温安定性や低不純物性を利用した坩堝や型材、電気伝導性を利用した作用・エッチング電極、高温安定性や高機械特性を利用した航空宇宙用部材や炉材などに利用されている

    ・稲垣道夫 (1994)・森本清武ら (2002)・炭素材料学会 (2013)

  • 3

    炭素繊維強化炭素複合材料炭素繊維強化炭素複合材料(C/C composite: Carbon Fiber Reinforced Carbon Composite) とは、炭素からなる母材(マトリックス)を(数μm φの)炭素繊維で強化した複合材料である

    ・機械的特性に優れており、比強度・比弾性率が高く(強くて固く)、耐摩耗性も高い

    ・熱膨張が小さく(寸法安定性が高く)、金属に比べ軽量で高温での強度低下も小さい

    ⇒航空宇宙用部材(壁材やブレーキディスク)など、比較的大型の高温構造部材への適用が

    ほとんどである C/C Composite GLC

    密度 (g/cm3) 1.6~1.8 1.47~1.51

    弾性率 (GPa) 100~154 30

    曲げ強度 (MPa) 10~150 90~110

    熱膨張係数 (×10-6

    / K) 1~8 2.0~2.2

    熱伝導率 (W/m K) 10~30 5~7・S. Kikuchi et al. (1984)

    従来技術とその問題点

    ・繊維とマトリックス間の接合性・CNF (VGCF)の分散性⇒繊維への簡便な表面処理による

    接合性向上と超音波による分散性向上

    ・強化繊維を低添加量で機械的特性を改善・小型部材への適用の可能性⇒強化繊維としてのCNF(VGCF)の使用

    表面処理VGCFで強化したC/C compositeを作製することで、小型摺動部材(小型軸受・モーター・刷板・マイクロ-ナノ部材など)へも適用の可能性が拡大する

  • カーボンナノファイバー(CNF)と気相成長炭素繊維(VGCF)

    4

    気相成長炭素繊維気相成長炭素繊維(VGCF:Vapor Grown Carbon Fiber) とは、炭化水素の熱分解により生成される炭素繊維である・一般的に炭素層が同心円状に積層した多層構造をもつ

    繊維径数nm~数十μm、長さ数μm ~数cmの炭素繊維である・市販品(VGCF®)は、繊維径100 nm程度、長さ数μm程度であり、

    高結晶性・導電性・熱伝導性に優れている

    カーボンナノファイバーカーボンナノファイバー(CNF:Carbon NanoFiber)とは、ナノスケールの炭素繊維の総称である具体的には、炭素網面が同心円筒状の断面をなしているカーボンナノチューブ(CNT:CarbonNanoTube)以外の組織(同心円錐状や平板状の断面)をもつ繊維径数百nm以下の繊維状炭素や、同心円筒状の多層カーボンナノチューブでも繊維径数十nm~数百nmに達しているもの※ 黒鉛結晶の3次元的規則性がある場合はグラファイトナノファイバー(GNF:Graphite

    NanoFiber)と表現することもある⇔ CNT、CNF、GNFの言葉の用いられ方は未だ曖昧である

    ・カーボン材料実験技術(製造・合成編) (2013)・日経テクノロジー (2014/10/14)

  • VGCFの酸化性溶液による表面処理の効果

    VGCFの酸化性溶液処理による表面官能基の変化

    ・VGCFを硝酸(HNO3)で処理すると、表面に酸素を含む官能基量が増加し、表面は円弧状から角ばった組織へと変化した

    ・VGCFを過酸化水素水(H2O2 aq. )で処理すると、表面の酸素を含む官能基量には変化が無いが、表面は円弧状から荒らされたような筋状組織へと変化した

    5

    VGCFの酸化性溶液処理による表面組織の変化

    0.00

    0.01

    0.02

    0.03

    0.04

    0.05

    0.06 HNO3処理 C(=O)O

    C=O

    C-O

    O/C

    7654321

    Oxidation time/day

    00.00

    0.01

    0.02

    0.03

    0.04

    0.05

    0.06 H2O

    2aq. 処理 C(=O)O

    C=O

    C-O

    O/C

    7654321

    Oxidation time/day0

    HNO3処理VGCF

    200 nm

    未処理VGCF

    200 nm

    H2O2 aq. 処理VGCF

    200 nm

    ・K. Nakamura et al.,Diamond Relat. Mater. (2017)

    ・K. Nakamura et al.,Mater. Let. (2017)

  • VGCF強化C/C compositeの摩耗特性

    C/C compositeの比摩耗量

    ・VGCF強化C/C composite (1.1~2.0x10-9 mm2/N )は、従来の炭素繊維を用いたC/C composite (10-8 mm2/Nオーダー)よりも大変優れた耐摩耗性を有した⇔昨年度紹介したBC由来CNFで強化したC/C composite (1.0~9.0x10-10 mm2/N )

    よりは、耐摩耗性が低かった・ VGCFを過酸化水素水(H2O2 aq. )で処理し、5 wt.%添加したC/C composite

    (6.3x10-11 mm2/N ) は、 昨年度紹介したヨウ素処理BC由来CNFで強化したC/C composite(1.0x10-10 mm2/N )よりも、耐摩耗性が優れていた

    ・過酸化水素水(H2O2 aq. ) 処理VGCFは、筋状の繊維であるので、アンカー効果により繊維が引き抜け難くいため、比摩耗量が低くなったと推察される 6

    0.1 1 2 3 4 50.0

    5.0x10-10

    1.0x10-9

    1.5x10-9

    2.0x10-9

    2.5x10-9

    3.0x10-9

    Rela

    teiv

    e w

    ea

    r v

    olu

    me/m

    m2/N

    VGCF concentration/wt.%

    VGCF強化C/C composite HNO3処理VGCF強化C/C composite

    H2O2aq.処理VGCF強化C/C composite

    ・K. Nakamura et al., Mater. Let. (2017)・中村和正ら,炭素 (TANSO) (2016)

  • VGCF強化C/C compositeの摺動試験面

    ・摺動試験後の摺動面は、VGCFを過酸化水素水(H2O2 aq. )で処理し、5 wt.%添加したC/C composite が、一番滑らかであった

    ・ VGCFを過酸化水素水(H2O2 aq. )で処理し、5 wt.%添加したC/C compositeは、良潤滑性であり、凝着摩耗が支配的であると推察された 7

    ガラス状炭素

    10 μm 10 μm

    VGCF強化C/C composite

    HNO3処理VGCF強化C/C composite

    10 μm

    H2O2 aq.処理VGCF強化C/C composite

    10 μm

    ・K. Nakamura et al.,Mater. Let. (2017)

    ・中村和正ら,炭素 (TANSO) (2016)

  • ガラス状炭素のイオン注入による表面改質

    イオン注入イオン注入とは、超高真空中で、高電界により加速されたイオンを固体表面に衝突させることで、固体の表面特性を改質させる技術である⇒非熱平衡プロセスなので、熱力学的な制限が起こらないため、

    任意のイオンを注入でき、欠陥構造の形成、表面への異種(不純物)元素の添加などに利用される

    ⇒具体的な適用例として、材料硬度を向上、半導体材料への不純物添加、材料表面への被膜の形成などに利用される

    ガラス状炭素へのイオン注入・ガラス状炭素に、カリウムイオン(K+) 、窒素イオン(N+) 、フッ素イオン(F+) 、リチウム

    イオン(Li+)を注入すると、ガラス状炭素の耐摩耗性が向上する・ガラス状炭素に、チタンイオン(Ti+) 、亜鉛イオン(Zn+) 、アルゴンイオン(Ar+) 、

    カドミウムイオン(Cd+)を注入すると、電気化学的に不活性化し、ガラス状炭素の化学的安定性が向上する⇔ガラス状炭素へのイオン注入は、

    他の材料と同様に様々な表面特性が改質される

    ガラス状炭素は代替骨や代替歯への応用が期待されている⇔疎水性であるガラス状炭素の親水化、低摩擦係数化が必要となる

    ガラス状炭素に酸素イオン(O+)を注入することにより、代替骨への応用が拡大する

    ・岩木正哉,表面技術 (2000)

    ・M. Iwaki et al., Nucl. Instr. Meth. in Phys. Res. B

    (1995)

    ・無機材料必須300 (2008)・大西忠一ら 材料工学の基礎 (1995)

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    サファイアへのNiイオン注入と硬度

    ガラス状炭素へのイオン注入と耐摩耗性

  • 酸素イオン(O+)注入によるガラス状炭素の表面構造変化

    ・未注入のガラス状炭素の表面構造(R値:0.11)は、黒鉛の表面構造とほぼ一致した

    ・酸素イオン(O+)を1X1014 ions/cm2注入するとガラス状炭素の表面が平坦化し、その表面に欠陥構造が多数形成した

    ・酸素イオン(O+)を1X1015 ions/cm2以上注入するとガラス状炭素の表面は粗くなり、

    その表面はアモルファス化した9

    未注入

    Ra:9.7 nm

    1X1014 ions/cm2

    Ra:4.7 nm

    Ra:7.6 nm Ra:8.3 nm

    1X1015 ions/cm2 1X1016 ions/cm2

    1000 1500 2000

    R=0.11

    1X1016

    1X1015

    1X1014

    ions/cm2

    未注入

    Inte

    nsi

    ty/A

    .U.

    Raman shift/cm-1

    R=1.37

    表面組織と表面粗さ 表面構造

    ・ K. Nakamura et al., Nucl. Instr. Meth. in Phys. Res. B (2009)

    O+:35 keV注入深度:95.3 nm

  • 酸素イオン(O+)注入によるガラス状炭素の生体適合性の検討

    生体適合性は親水性とより低い摩擦係数が要求されるので、ガラス状炭素表面への酸素イオン(O+)の注入量が1x1014 ions/cm2のとき、もっとも生体適合性があると推察される

    ・ガラス状炭素表面への酸素イオン(O+)の注入量に対する、表面酸素量と親水性の変化の傾向が一致した

    ・酸素イオン(O+)を注入することで、ガラス状炭素表面が疎水性から親水性となり、1X1015 ions/cm2までは親水性が増加し、それ以上の注入量でほぼ一定となった

    ・ガラス状炭素表面への酸素イオン(O+)の注入量に対する、表面粗さと表面摩擦係数の変化の傾向が一致した

    ・酸素イオン(O+)を注入したとき、注入量1X1014 ions/cm2まではガラス状炭素表面の摩擦係数が減少し、それ以上の注入量ではそれが増加した

    10

    0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

    0.02

    0.04

    0.06

    0.08

    0.10

    0.12

    80

    84

    88

    92

    96

    [X1016

    ]

    Co

    nta

    ct a

    ng

    le/

    o

    Contact angle

    O/C

    ra

    tio

    O+ dose/ioncm-2

    O/C

    0.00 0.05 0.10 0.90 0.95 1.00

    0.02

    0.04

    0.06

    0.08

    0.10

    0.12

    0.14

    2

    4

    6

    8

    10

    12

    14 Friction coefficient

    Ra

    /n

    m

    Fric

    tio

    n c

    oeff

    icie

    nt

    [X1016

    ] O+ dose/ioncm-2

    Ra

    表面酸素量と親水性 表面粗さと表面摩擦係数

    ・ K. Nakamura et al., Nucl. Instr. Meth. in Phys. Res. B (2009)

  • VGCF強化C/C composite・VGCFを酸化性溶液で処理することにより、その表面を円弧状から、

    角ばった筋状の組織とすることができ、これらを使用して、C/C compositeを作製できた

    ・VGCF強化C/C compositeの比摩耗量は、従来の炭素繊維を用いたC/C compositeの比摩耗量の1/10程度とすることができた

    ・ VGCFを過酸化水素水(H2O2 aq. )で処理し、5 wt.%添加したC/C compositeの比摩耗量はさらに減少し、昨年度紹介したヨウ素処理したBC由来CNFで作製したC/C compositeよりも耐摩耗性が優れていた

    ・過酸化水素水(H2O2 aq. )で処理したVGCFで作製したC/C compositeは、摺動の際に良潤滑性であった

    ⇒酸化性溶液処理したVGCFで作製したC/C compositeは、大型の航空宇宙用部材、小型~微細型 耐摩耗部材、固体潤滑部材としての使用の可能性が高まった

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    新技術の特徴・従来技術との比較・想定される用途 1/2

  • ガラス状炭素のイオン注入による表面改質・ガラス状炭素に酸素イオン(O+)を注入すると、表面の酸素量が増加し、

    それに伴い親水化させることができた・ガラス状炭素に酸素イオン(O+)を1X1014 ions/cm2注入することにより、

    表面が平坦化し、それに伴い表面の摩擦係数を低下させることができた

    ⇒酸素イオン(O+)の注入量が1x1014 ions/cm2のとき、ガラス状炭素は親水性と低摩擦係数が両立することから、もっとも生体適合性があると推察され、代替骨や代替歯への応用が期待された

    12

    新技術の特徴・従来技術との比較・想定される用途 2/2

  • 実用化に向けた課題VGCF強化C/C composite・既存のC/C compositeの製品と同等の高温処理による供試体の作製および

    それらの摺動特性の解明・ナノレベルからマクロレベルでの摩擦挙動との関係性の解明・C/C compositeの部材化とその微細加工、または大型化

    ガラス状炭素のイオン注入による表面改質・更なる親水化への試み・所望の形状を考慮した材料作製 (収縮率なども考慮)

    企業への期待VGCF強化C/C composite・ 既存のC/C compositeの製品との同等品を想定するための高温処理技術・ミクロ~ナノ摺動部材へ適用のための微細加工技術、または大型部材へ適用を

    見据えた形体制御技術

    ガラス状炭素のイオン注入による表面改質・更なる表面改質を見据えたイオン注入技術・様々な形状へ対応するための加工技術

    ⇒上述の技術に関する共同研究ならびにそれらを踏まえた実証実験などの共同研究

    実用化に向けた課題・企業への期待

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  • 産学連携の経歴・博士課程学生時代 (2002年-2005年) 「バイオマスおよびポリマーの

    ヨウ素処理炭素化」において複数企業との共同研究を補佐⇒特許1件・2007年-2009年 (地独) 東京都立産業技術研究センターとの「炭素材料

    の表面処理」および「ナノ金型開発」について、共同研究ならびに中小企業支援⇒特許2件

    ・2008年 JST 広域多摩地域(TAMA)の大学発 新技術説明会にて(地独)東京都立産業技術研究センターと「オイルフリーナノ金型」についての共同発表

    ・2010年 福島市産学連携推進事業 産学連携セミナーにて、「実用化に向けた炭素材料の高機能化」について福島市近隣企業へ向けて講習ならびに発表

    ・2016年 福島市産学連携推進事業 産学連携セミナーにて、「ナノ~ミクロスケールにフォーカスした高機能性炭素材料の開発」について福島市近隣企業へ向けて講習ならびに発表

    ・2017年 JST新技術説明会にて、「バイオマスセルロースナノファイバー由来機能性炭素材料の作製」についての発表⇒他、研究資金獲得・大学間共同利用研究・産官学連携事業講師・学術

    講演会など多数 14

  • お問い合わせ先

    福島大学

    研究振興課 齊藤 裕

    TEL:024-548- 5248

    FAX:024-548- 5209

    e-mail:chizai@adb.fukushima-u.ac.jp

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