ウニ幼生に於ける骨片の生長 - square'collagen symposium, viii (1 970) 113...

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'CollagenSymposium VIII (1 970) 113 ウニ幼生に於ける骨片の生長 f 東京都立大学理学部生物学教室) はじめに 発生学の分野では,ウニ卵は既に 100 年も前から研究の好材料として使われて来た.それは, 産卵期になれば成熟未受精卵と精子を容易に且つ相当多量に採る事ができ, 卵と精子を海水中 でまぜるだけで、簡単に人工受精ができ, 受精後の卵割や発生過程が同調してすすみ, 透明で受 精・卵割・匝の発生過程を生きたままの状態で観察できる等の利点があるためである. 歴史の 長さに比例してそれ相応の成果もあがっているが, 元来発生学的興味にもとずいた仕事である ため,受精・卵割・発生機構の解訴に主力が注がれ, 骨片形成の問題が研究の目的として真正 面から取り上げられた例は少い. しかもそれらの研究内容は, 発生の進行に伴う骨の形の変化, 種類による骨の形のちがい, 雑種をつくった時の骨の形に関する遺伝子の影響, 実験条件下で の骨の形の奇型など, できてくる骨の形に関するものが多く, 石灰化の機構に関する問題は, W oodland (1906 1 つ以来真剣にとりあげられた事がないのではないかと思う.カルシウム塩を 沈着させる有機母床の存在さえ,確認されたのは最近の事 (Okazaki 1960 2 つであれ今でも, 有機母床の関係しない骨の生長があると考えている人もないわけではない. その有機母床に関 しても,化学的分析はもとより, 電子顕微鏡による研究も発表されたのは, 只一篇 (Gibbins eta l., 1969 3 つあるだけで,かゆい所に手の届かない様なもどかしさがあるし ,collagenの様 な繊維構造もみつかっていない. この様に, 骨片形成の機構解訴という面から見ると, 多くの問題が未知のま L残されている 状態であるが, 種々の現象や過程を観察するのに必ずしも固定・切片としみ手段に頼る必要が ないとし、う材料の上の強みを生かして, 硬組織形成の問題に何等かの寄与が出来るならばと願 い,此所に今までの成果のあらましを報告して,批判を切望する次第である. 2 ウニ腔発生過程のあらまし 骨片形成に関連して一 卵割:ウニの種類によって, また温度によって多少のずれはあるが, いずれにしても媒精後 数分以内に受精膜があがり, 30 分から 2 時間位の聞に殆ど全部の卵がし、っせいに卵割を始める. 第一及び第二卵割面は,卵軸を含み,第三卵割面は卵軸に直角である (Fig.1 u : B C). これま での卵割は等割で 8 個の等大の割球が出来るが, 次の第四卵割は非常に特長的な不等割で, Lで大きさを異にする三つの細胞層が出来る (Fig.1 : D).すなわち,動物極側の 4 個の細胞 (Fig. 1 :C の上段〉は, 縦に等割されて環状にならぶ 8 個の等大の細胞 (Fig.1:Dmeso- meres ,中割球〉になり,植物極側の 4 個の細胞 (Fig.1: C の下段〕は,横に割れて 4 伺づっ

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'Collagen Symposium, VIII (1970) 113

ウニ幼生に於け る 骨 片 の 生 長

岡 崎 嘉 代

f東京都立大学理学部生物学教室)

はじめに

発生学の分野では,ウニ卵は既に100年も前から研究の好材料として使われて来た.それは,

産卵期になれば成熟未受精卵と精子を容易に且つ相当多量に採る事ができ, 卵と精子を海水中

でまぜるだけで、簡単に人工受精ができ, 受精後の卵割や発生過程が同調してすすみ, 透明で受

精・卵割・匝の発生過程を生きたままの状態で観察できる等の利点があるためである. 歴史の

長さに比例してそれ相応の成果もあがっているが, 元来発生学的興味にもとずいた仕事である

ため,受精・卵割・発生機構の解訴に主力が注がれ, 骨片形成の問題が研究の目的として真正

面から取り上げられた例は少い. しかもそれらの研究内容は, 発生の進行に伴う骨の形の変化,

種類による骨の形のちがい, 雑種をつくった時の骨の形に関する遺伝子の影響, 実験条件下で

の骨の形の奇型など, できてくる骨の形に関するものが多く, 石灰化の機構に関する問題は,

W oodland (19061つ以来真剣にとりあげられた事がないのではないかと思う.カルシウム塩を

沈着させる有機母床の存在さえ,確認されたのは最近の事 (Okazaki,19602つであれ今でも,

有機母床の関係しない骨の生長があると考えている人もないわけではない. その有機母床に関

しても,化学的分析はもとより, 電子顕微鏡による研究も発表されたのは, 只一篇 (Gibbins

et al., 19693つあるだけで,かゆい所に手の届かない様なもどかしさがあるし,collagenの様

な繊維構造もみつかっていない.

この様に, 骨片形成の機構解訴という面から見ると, 多くの問題が未知のま L残されている

状態であるが, 種々の現象や過程を観察するのに必ずしも固定・切片としみ手段に頼る必要が

ないとし、う材料の上の強みを生かして, 硬組織形成の問題に何等かの寄与が出来るならばと願

い,此所に今までの成果のあらましを報告して,批判を切望する次第である.

2 ウニ腔発生過程のあらまし 骨片形成に関連して一

卵割:ウニの種類によって, また温度によって多少のずれはあるが, いずれにしても媒精後

数分以内に受精膜があがり, 30分から 2時間位の聞に殆ど全部の卵がし、っせいに卵割を始める.

第一及び第二卵割面は,卵軸を含み,第三卵割面は卵軸に直角である (Fig.1u: B,C). これま

での卵割は等割で8個の等大の割球が出来るが, 次の第四卵割は非常に特長的な不等割で, こ

Lで大きさを異にする三つの細胞層が出来る (Fig.1 : D).すなわち,動物極側の 4個の細胞

(Fig. 1 : Cの上段〉は, 縦に等割されて環状にならぶ 8個の等大の細胞 (Fig.1: D, meso-

meres,中割球〉になり,植物極側の 4個の細胞 (Fig.1: Cの下段〕は,横に割れて 4伺づっ

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Diagram of the normal development of sea urchin larva巴 Indicationof the layers:

an" continuous lines; an2, dotted; veg" crosses; veg" broken lines; micromeres, black. A, uncleaved 巴gg. B, 4-cell stage. C, 8-cell stage. D, 16-c巴11stage. E, 32-cell stage. F, 64-c巴11stage. G, young blastula. H, later blastula with apical

organ, b巴forethe formation of th巴 primary mesenchyme. 1, blastula after the for-mation of the primary mesenchyme. K" gastrula: secondary mesenchyme and the

two tri-radiate spicules formed. K2, transverse optical section of the same gastrula: bilateral symmetry being 巴stablish巴d.L, the so-call巴dprism stage: stomodaeum

invaginating. M, pluteus larva from the left side; the broken line indicat巴sthe position of th巴巴ggaxis. N, plut巴usfrom the anal side: aa, anal arm; ar, anal rod; br, body rod; oa, oral arm; or, oral rod; stom, stomodaeum; vtr, ventral transverse rod (after Horstadius, 1939' ')

Fig. 1

の二つの細胞層をつくる.しかも此の卵割は極端な不等割で,上段が大きく (Fig.1: D, mac-

romeres大割球λ 下段が小さい細胞 (Fig.1: D, micromeres) になる.この下段の 4個の細

胞は小割球と呼ばれ, その子孫は後に第一次間充織細胞になって骨をつくる役割を持つ. (小

割球の子孫は約40個できるが, その中の 8個は第一次間充織細胞にならず, 将来咽頭の部分を

つくる.詳しくは遠藤 (19665つを参照されたい.)

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胞匪,熔イと 16細胞期以後, 中割球・大割球・小割球はそれぞれ一定の方式に従って卵割を

つづけp 細胞は球面上に一層にならんで,胞腔と呼ばれる時期に達する. やがて癖化酵素が分

泌され,細胞には繊毛が生えて,幼生は受精膜の外に出て泳ぎはじめる (Fig.1: G).このとき

の細胞数は800余りである.受精後勝化までの時聞は,種類によって多少のちがいがあり,また

温度によってもかわるが,室温で育てていて, 夏のウニなら数時間から十時間位, 冬のウニな

ら十数時間から二十時間位である.

第一次間充織細胞の出現:16細胞期の小割球の子孫は, その後ずっと植物極側の壁の中央部

に局在しつ工ける (Fig.1: G, H で黒く塗りつぶしてある部分〕が,やがて植物極側の壁から

争1

しJ50μ

Fig. 2 Camera lucida drawing showing process of d巴V巴lopmentof the spicule and its matrix

in ClyteasteγjaPonicus (after Okazaki, 1960'弘 Capital letters d巴not巴 orderof developmental st耳ges. Numeral on each sketch indicates hour after ins巴mination

at room temperature (24-250C): al, ant巴ro-Iateralrod (or in Fig.1); b, body rod

(br in Fig.1); dvc, dorso-ventral connecting rod; po, post-oral rod (ar in Fig.l); pr, primary recurrent rod; vt, ventral transverse rod (vtr in Fig.l).

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割腔の中に落ちこんで第一次問。充織細胞になる (Fig.1: 1, Fig. 2: A).割腔内に落ち込む細

胞の数は約30であるが, その後殆どの細胞が一度分裂し, 骨片がや L大型の三矢の形になる嚢

旺後期 (Fig.1: K, Fig.2: F)には約60個の細胞を数える事が出来る.その後細胞数の増加は

なく,約60個の細胞の休みない活躍によって, フ。ルテウス期 (Fig.1: N, Fig.2: H)の立派

な骨がっくりあげられて行し ついでに細胞数の事にふれておくが, プルテウス期の総細胞数

は1,500から1,700位だと言われている. この事から考えると, 第一次間充織細胞のみならず,

他の細胞も鮮化してからブ。ルテウス期までの聞に一一この聞に幼生は, 形態的生化学的に大へ

んな変化をとげ,体積も増大するのだが一大体一度しか分裂していない勘定になる.

嚢匪:割腔内に落ちこんだ第一次間充織細胞は, やがて細い虚足を出し, その虚足の伸長と

収縮を使って動物極の方向に向って移動する (Fig.2・ B,C,O). そして植物極から或る一定

の距離に達すると一時移動をやめ, 一定のパターンに配列して骨片形成の作業にとりか L る

(Fig.2: E).一方,植物極側の壁が陥入して円筒状の原腸ができ,幼生は嚢匹と呼ばれる段階

に達する (Fig.1: K, Fig.2: F). この頃になると,今まで卵軸に関して放射相称であった匹

の形が変化して,腹側が扇平になる一方,背側は丸く響曲して左右相称形になって来る.

第一次問充織細胞の独特な配列のパターン:その先の発生にす Lむ前に, こLで,第一次問

充織細胞の配列についてや L くわしい説明をしておきたいと思う. 植物極から動物極の方向に

動き出した第一次間充織細胞は, 或る一定の距離に達した所で植物極側の壁に平行な円陣をつ

くるくFig.2:D,E,F). 各細胞は細い虚足を出し,それによって一方で、は外怪葉の壁につかま

;!??Fill h! 十iz--d

行JC:位ZL+T ¥'entral strand 0

dorsal strand

Fig. 3 Diagram representing topographical relationshipbetween spicular matrices (skeletal

envelope十strands)and arrangement of the primary mesenchyme cells. B品ωsi詑cpat“tern百nm 巴凶s巴nchyma凶a叫 ring+ a pair of longitudinal chains. Mesenchymal ring: a pair of

mesenchymal aggr巴gates+ dorsal chain + ventral chain (after Okazaki, 19602>)

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り,他方ではおたがい同志手をつなぎあっているので, この円陣というのは外旺葉の内壁に沿

ってつくられた環状の細胞のくさりであり,このくさりを rnesenchyrnalringと呼ぶ. Fig.3

に模式的に示してある様に, このくさりには, 嚢腔の腹側の左右両隅に十数個の細胞がほ x三

角形の集団をつくって密集している場所がある.この集団を rnesenchyrnalaggregateとよび,

骨の原基はこの集団の中央部でつくられる.三角形の二つの頂点は rnesenchyrnalringに連っ

ているが (rnesenchyrnalringの腹側の部分を ventralchain,背側の部分を dorsalchainと

呼ぶ),残る一つの頂点は動物極の方に向いていて p そこから動物極の方向に向って数個の細胞

が一本のくさりをつくっている.此の細胞の列を longitudinal chainと呼んでいる.

プリズム期:嚢眼期の終りに近づくと, 次第に背側がのび, 動物極の部分が腹側に曲って来

るのでp 横から見るとプリズムの様な形になって来る (Fig.1:L,Fig.2:G). この形からこ

の時期をプリズム期或いはピラミツド期と呼ぶ. 此の時期に腹側の動物極よりに口陥と呼ばれ

る一つのくぼみができ, 同時に円筒状だった原腸は食道・胃・腸の三つの部分にくびれ, 原腸

の先端部に左右二つの袋ができてくる. この袋は体腔と呼ばれ, 後に左側が発達し,将来のウ

ニの原基になる.嚢匪期に rnesenchyrnalaggregateの中央部にできた骨片原基は,最初小さ

な頼粒にすぎないがp やがて三本の枝を出して三矢型になる. プリズム期になると, 三矢の或

る枝が轡曲したり, 或いは途中から新らしい枝が出たりして, プルテウス期の骨憾のもとがで

き上って来る.

ブルテウス期:プリズム期に続くブロルテウス期は, 外見上はプリズム期の延長である. 骨片

が著しく伸びて植物極側に二本の長い腕 (Fig.1:M, N の aa,Fig.2 : Hの po),動物極側に

二本の短い腕 (Fig.1: M, N の oa,Fig.2: H の al)が発達する.口陥は更に深くなって,

食道の先端部と連り,消化管が完成する. 受精後フ。ルテウス期までの時聞は, 夏のウニで 1日

から 2日,冬のウニで 2日から 3日,室温が十度近くまで下がると 4日位か Lる.

3 骨片の生長過程

嚢匹期になると, rnesenchyrnal aggregateの中央部に一個の小さな頼粒があらわれる (Fig.

2: E, Fig.4: A). これが光学顕微鏡で見る事のできる骨の原基の最初の姿である. やがて此

の穎粒から三本の校が伸び,骨片は三矢型になって来る (Fig.2:F,Fig.4:B). この三矢の

三本の枝は, Runnstr(加 (19316))が指摘しているとおり, 一平面上にあり, 夫々の校は大体

120度づっ聞いている.

しばらくの間, 骨片は三矢型のま L大きくなってゆくが, やがてこの三矢を基本にして将来

のブ。ルテウスの骨をつくるために形が変化して来る.この形の変化を Fig.4及び Fig.5を使っ

て説明しよう.先ず基本となる三矢の三本の枝に x.y.zの記号をつけておく. 動物極の方

に伸びている校を x, 腹側の壁にそって左右から互いに近づく様に伸びている校を y,背側に

向って伸ひ、ている枝を Zとする. こLで, X.y.Zの三本の校の伸びる方向が前章で、述べた

第一次間充織細胞の配列のパターンと全く同じである事に気付かれたと思うが, 骨片は細胞の

列に密着して生長してゆく.Longitudinal chainに沿って伸びる枝が X,ventral chainに沿

って伸びる枝が y,dorsal chainに泊って伸びる校が Zである (Fig.3と Fig.4を比較参照

のこと).

Fig.4では,基本の三本の枝 x・Y・Zをや L太めの実線であらわし, それから伸びた部分

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ぶ〉

Fig. 4 Schematic drawing of the developmental proc巴ss of the spicule. Capital letters denote order of developmental stages. Num巴ralsattached :to capital lett巴rs: 1, ventral view; 2, side vi巴w.Rudimental granule (A" A,) develops into a tri-radiate spicul巴 (B"B,), thrωarms (X, Y, Z) b巴ing laid on th巴 sameplane. Antero-lateral rod (al) and body rod (b) of the plut巴usare form巴dby curved巴xt巴nsionof X and Z, shown by dotted line in C and D. Y lengthens straight (dotted line) on th巴 sam巴 plan巴 asth巴 originalarm, forming ventral-transverse rod (vt). Post-oral rod (po) is a side branch of Z.

同 1

I P

:=2竺」芝辺三了主立(", -..,~~. -ム二三~'l.以

b

Fig. 5 Diagram representing th巳 relationshipbetween an initial tri-radiate spicule and plut巳usskeleton. On th巴 plan巴 indicated by p three arms (X, Y, Z) of th巴 initialtri-radiate spicule are laid. Optic axis of the spicule shown by arrow is perpendicular to p: al, antero-Iateral Tod; b, body rod; po, post-oral rod.

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を点、線であらわしてある.Yは基本の枝のま L真直ぐ伸びて ventraltransverse rodを形成し

(Fig.4・D1 のvt),プルテ ウス期になると,腹側の中央で左右が連り一本になる. しかし, xと Zは,或る所まで伸びると轡曲して,基本の三矢の面からとび出してしまう. この様子を模

式的に示したのが Fig.5である .Fig.5の四角の板 Pは x.y.zを含む商をあらわ してい

る.xは, 今までの部分と鈍角をなす様に轡曲してプルテウスの短かい腕の骨になり (Fig.4.

および 5の al),Zは,面 Pに関して alの反対側に直角だけ轡曲しプルテウスの胴体の骨にな

る (Fig.4および 5のめ.zが轡曲しはじめる所で新ら しい枝が芽を出し,之は bと平行で,

しかも全く反対の方向に伸び,フ。ルテウスの長い腕の骨になる (Fig.4および Fig.5の po).

以上が骨片の原基からプルテウスの骨が出来るまでのあらましであるが, 一見これとは異な

る骨が出来る場合でも , 本質的には同じ過程を辿っている. アカウニ・ パフンウニでは,今述

べたとおりの骨が出来てくるが, ムラサキウニ ・タコノマクラ等では, 長い腕の骨に窓の様な

穴があき,また胴部に網目状の骨ができる.しかし腕の骨について云えば, Zの曲り角の所にで

きる新ら しい校が一本ではなく三本でき (Fig.2),そqコ三本の校が検校で、連って窓があいた様な

見え方をするにすぎないし, また胴部の網目状の骨~t.後者にだけ出来る primary recurrent

rodに細い横校が沢山でき,それらがまた検校を出して連ったものである.

4 骨片の結晶学的性質

骨片の主要な構成成分は炭酸カルシウムであり(安増,19597)), そのカルシウム源は消化管

に関係なく ,周囲の海水中から外眠薬壁を通して直接割腔内にとり入れられる(Nakanoet al. ,

19638¥Fig.6参照).この骨片の生長について,古くから何人もの研究者達が殆ど直観的に感じ

っxけて来たのは, “ウニ幼生の骨片が生長する時には, 生物学的要因と結晶学的要因の二つ

が複雑に関係しあっているに相違ない"と し、 う事であった. しかし, それらの要因が具体的に

ど、んな点で、どんな具合に関係しあっているのかと L、う問題は, 今まで殆ど研究された事がなか

った.そこで,この問題について解析の第一歩をふみ出すために,先づ X線を使って骨片の結

A B

由 骨? 式 A

D

C , y ぜや

Fig. 6 Autoradiographs of the spicules. Pseudocentrotus la1'vae are incubated in Ca"-containing sea water (1μc/ml) fo1' 2 hou1's at va1'ious stages of d巴velopment:

at early gastrula (A), mid gastrula (B), late gastrula (C), p1'ism (D) and pluteus stage (E). Ca'; is directly incorpo1'ated into the spicule from environ-

mental sea wate1' th1'ough ectodermal wall, digestive t1'act having no pa1'ticipa-tion in it (aft巴rNakano et al.η.

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晶形を決め, 次に骨片原基ができてからブルテウスになるまでの種々の発生段階の幼生を偏光

顕微鏡下で観察してみた.

骨片の結品形

骨片の炭酸カルシウムがカルサイト形のものかアラゴナイト形のものかを知るには, X線回析

が最もよい.そこで先づ相当多数のフ3ルテウスを育て, それらから骨だけを分離した. それに

は, 1)プルテウスを手廻し遠心機で集め, 2) NaOHで pH8にした純水で、2回洗い, 3)約10

倍量の N/10NaOHを加えると,間もなく細胞質は完全にとけ,白い骨だけが残る.4)これを

pH 8の純水で数回洗い, 5)エタノールを通して乾燥する.先づ純粋のカルサイトとアラゴナ

イトをコントロールにして,今のベた様な方法で分離したアカウニ Pseudocentrotusdeρressus とムラサキウニ Anthocidariscrassisρi仰のフ3ノレテウスの骨について X線の回析図をかいて見

た (Fig.7). ピークのバターンから一見して明らかな様に, アカウニもムラサキウニもブルテ

、へ叫~•

. JO

Cale1 te

Fig. 7 X-ray diffraction patterns (copper K-αradiation) of calcite, isolated

pluteus skeletons and aragonite. Ordinate relative intensity. Abscissa: diffraction angle (degrees 2θ).

ウスの骨はカルサイト形である. ところが更に詳細な検討を加えてゆく中に, プルテウスのピ

ークの位置が純粋のカルサイトより僅かに右にずれ, マグネシウムを含んでいるのではなし、か

と思われたので, 化学分析を行ってみた. その結果,数パーセントのマグネシウムが含まれて

いる事がはっきりし, カルサイトの結晶格子の中のカルシウムがところどころマグネシウムで

置き換えられたマグネシアン・カルサイトである事がわかった(岡崎・林, 19679】).

偏光顕微請による観察

幼生をカバーグラスとスライドグラスの聞にはさみ, 顕微鏡の載物台を回転しながら骨片を

観察してみると,どんな発生段階の骨片でも←一一頼粒状の原基でも, 三矢型の骨片でも,フツレ

テウス期の複雑な形をした骨格でも一 360度載物台を回転する聞に4日光ったり黒くなった

りする. 一対の骨のそれぞれは, 恰かも一つの大きな結晶からその形のものをくり抜いたもの

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ででもあるかの様に,骨の全部の部分が同時に点滅し,しかも左右の骨は別々に点滅する(Fig.

8, Fig.9). この事実から,1)幼生の左右の骨の光軸の方向は別々であるが, 2)片方の骨につ

いてはすべての部分の光軸方向が皆同じである, ということができる. つまり骨の生長の過程

で,骨がどんな具合に轡曲しようと , どんな方向に校を出そうと, 光軸は最初からかわってい

ないわけである.

Fig. 8 Bir巴fringenceof a pair of tri-radiate spicules of a gastrula.

When the gastrula is rotated between crossed nicols. the spicules alternately brighten and darken, each independently.

Fig. 9 A pair of skeletons in a pluteus observ巴dby polarization microscope. Note that each skeleton behaves as a single crystal in spite of its complicated architecture.

そこで次に, 骨の形と光軸の方向との関係をしらべて見る事にする. 光軸の定義によって,

骨の光軸と顕微鏡の光軸之が一致した時, 骨は複屈析性を示さない答である. 偏光顕微鏡の裁

物台を回転しながら観察して, 骨が光ったり消えたりせず, 普通の光学顕微鏡で、見た時の様に

何時も同じ見え方をする場合があるかどうか探して見る. 骨片が三矢型を している時期には,

これはすぐ見付かる (Fig.10). 三矢の三本が枝が 120度づっ聞き,三本が同じ様な見え方をす

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Fig. 10 Tri-radiate spicule observed from the direction of the optic axis of the spicule (middle of the gastrula). The spicule does not show birefringence, while another spicule at left corner, out of fOClIS, glows and darkens when the gastrula is rotated

る時,つまり三矢を含む平面が顕微鏡の載物台の平面と平行になる時,その骨は複屈折性を示さ

ない. この事から, 三矢型の骨片の光軸は三矢を含む商に垂直であるということができる .プ

ルテウスの骨は, 1)三矢をもとに してできるものであり, 2)骨の各部分の光軸方向は全部同じ

であり, 3) post-oral rodと bodyrodは三矢を含む面に直交しているのであるから,プルテ

ウスの骨の光軸は post-oralrodゃ bodyrodの形態的長軸に平行である筈である (Fig.5

参照).しかしプルテウスをはじめの三矢の面から見る,すなわち post-oralrodや bodyrod

の長軸が顕微鏡の光軸と一致する様な面から見る事は, フ。ルテウスの形の上から至難の業であ

る. そこで、次の様な方法を使って, 光軸の方向をたしかめて見た.フ。ルテウスをメタノ ーノレで

固定,キシロールを通してまるのま Lバルサムで封じる . これを, 例によって偏光顕微鏡下で

載物台を回転しながら観察する.まず post-oralrodや bodyrodがスライ ドグラスの面に平

行に固定されたプルテウスを選ぶ. その様なサンフ。ルで、は, 骨の輝きが消える位置は,これら

の骨の長i触が顕微鏡のポラライザーおよびアナラ イザーを通って入って来る光の振動方向 (以

後 Pおよび A と書く〕と一致 している.この事は,骨の光軸の方向が Pまたは Aの何れかと

平行である事を示している .次に顕微鏡のアナライ ザーを抜いて, これらの骨の長軸が Pと一

致した時と, 直交した時について, 骨の見え方を比較してみる.Pと一致した時, 骨のりんかく

はうすく見えにくくなり ,直交した時,黒くはっきり見える .バルサムと骨の屈折率の差から s

骨の光軸の方向は, 予期した様に post-oralrodや bodyrodの長軸に平行であるということ

ができる. (パルサムの屈折率は 1.53,カルサイトの屈折率は ne1.486, no 1.658であり,

1. 53-1. 486く 1.658-1. 53であるから, 骨片を通る光の振動方向 Pと noの方向が一致した

時骨はくっきり見えるJ このほかに,光軸の方向は,偏光顕微鏡のコンデンサーの下に水品の,

模を入れてた しかめることもできるが,この方法を使った場合にも,結論は同じであった.

前にも述べた様に, Y;h生には一対の骨があり ,骨の光軸の方向は左右別々 である. ところが

フ。ルテウス期になると, 左右の骨は腹側の中央部で連なる. この連結部の光軸はどうなってい

るのであろうか. 偏光顕微鏡の載物台を回転しながら観察してみると, この部分は常に光って

いて,消える時がない. この事は, ウニ幼生の骨片が小さな結晶のあつまりによってできてい

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ると考えると ,容易に説明がつく"すなわち,左右の骨の中では, これらの結晶は皆光軸を揃

えてな白んでし、 るが, 連結部では結晶の光軸が揃わず, さまざまの光軸方向をもった小結晶の

aggregateができていると考えればよいわけである. 因みにこの小結晶の大きさであるが,結

晶学で云う unitcellよりはるかに大きし 電子顕微鏡で観察可能な大きさ, 'ひょっとすると

光学顕微鏡でもみとめ得る程大きなものではないかと思うが, 今の所はっきりした証拠がある

わけで、はない.

骨の中では小さな結晶が皆光軸を揃えてならんでいるとし、う考え方をとると , 結晶の並び方

についてもう一つ気になる事がある. つまり , 全部の小結晶が光軸ばかりでなく ,面も揃えて

整然とならんでいるのか, それとも面に関 しては全く規則性がないのか(光事hを回転軸に して

結晶を回転すると, 光軸はかわらないが面の 向きがかわる), ということである .この点を検

討する手段と して, 非常に都合のよい事実が既にわかっている . 海水中で飼育 していた幼生が

護l毘期に達し, 三矢型の骨片ができた時, 嚢匪を海水からカルシウム ・マグネシウム低波度海

水(海水とカルシウム ・マ グネシウム欠如海水を 1: 9の割合に混ぜたもの, 以下 0.1CaMg

と記す〉に移すと , 骨片はそれ以上伸長せず, 三矢型のま L専ら肥厚する .やがて校の部分が

角ばって四角になり , 校の先端部には方解石の様な形をした平行六面体ができて, 三矢の先に

大学帽をかぶせた様な状態になる (Fig.11 : A, Okazaki, 1961'0', 1962'1)).この現象は,骨

片形成に関与している生物学的要因が働き得なくなって, 硝子器内と同じ様な結品の生長が,

B

C

Fig, 11 A : thickened tri-radiate spicule formed in the larva transferred into a medium of low calcium and magnesium from normal sea water at gastrula stage with tri-radiate spicule, B: tracing of A, C: drawing turned B over. D: model indicating the arrangement of tiny crystals in the tri-radiate spicule, Optic axis of each crystal is shown by stick, and faces of the crystals are' characterized by 0,

l:::. and x

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もとあった三矢を核にしておこったものであろうと思われる. そうだとすれば, 三矢の先端部

に出来る三個の方解石は, もとの三矢の先端にあった結晶が大きくなったものであろうし, こ

れら三個の方解石の面を比べて見れば, 骨片をつくっている小さい結晶のならび方がわかるの

ではなかろうか. 骨片の中の小さな結晶が, もし光軸だけを揃えて,面に関しては勝手な方向

を向いているとしたら, 先端部の三個の方解石は, バラパラの方向を向いているであろうし,

逆に光軸のみならず面も揃えてきちんと並んで九、るとしたら, 三個の方解石の同じ面は, 同じ

方向を向いているであろう.結果はp 後者の様になっている (Fig.ll: A,B).今までのことが

らを総合して,骨片の中では, マグネシアン・カルサイトの小さな結晶が光軸を揃え, 面を揃

えて〈光軸のみならず結晶軸も揃えて), ぎっしりならんでいると考える事ができる.此の様な

結晶の配列は,全く結晶の特性によるものであり, 骨片形成に関与する結品学的要因によるも

のとし、う事ができょう.

しかし, 小さな結晶が光軸を揃え面を揃えてつぎつぎ堆積してゆくだけでは, 嚢眠にできる

様な三矢型の骨片はできないであろう. 三矢型になるためには, 小さな結晶は三つの特定の方

向に積み重なって行かなければならない. 果して三矢の中で, 結晶はどんな方向にならんでい

るのであろうか. 0.1 CaMg中でできる骨の先端部の三個の方解石と, 枝の部分の関係から推

察すると, 小さな結晶はマグネシアン・カルサイトの三つの結晶軸の方向につぎつぎ積み重な

って行くものらしい. 小さな結晶のならび方について今まで考えてきた事をもとにして作った

モデル,および,そのモデ、ルと 0.1CaMg中で実際に出来る骨との関係を, Fig.11に示した.

この図で, Aまたは Bの面とモデルの面とが逆になっているが,それは, Aが骨の顕微鏡写真

(Bはそのトレース〉で実際のものと上下左右が逆になっているからである.Fig. 11のモデル

ではp 小さな結晶をかりに三稜の長さの等しい平行六面体としたが, 三稜の長さが等しい必要

はないし,更に平行六面体の形をしている必要もない.頼粒状であっても一向差し支えないしp

個々の結晶の大きさが同じである必要もない.

5 有機母床

再三のベた様に, 骨の原基の光軸は単結晶と同じ様に一つであり, 一個の原基からできる骨

は, それがどんな複雑な形に生長しようとも, 光軸を異にする部分はできてこない.この事実

は,骨が小さな結晶の積み重ねによって生長して行くと考えれば容易に説明のつく事で, 骨を

構成しているマグネシアン・カルサイトの結晶学的性質によるものだと考える事ができる. し

かし, 硝子器の中である一つの核をもとにして結品が生長する場合には, 特殊な条件を与えな

い限り,三矢型になったり, フ。ルテウスの骨の様に樹枝状になったりはしない. そうし、う形の

ものをつくるためには, 細い繊維なり, 結晶の形成に関係ある物質の規則正しい配列なり,結

晶の沈着して行く方向を controlする様な何かが必要であろう. 幼生の骨の形成にあたってそ

の様な役割を果すものがあるとすれば, 母床の中にあるにちがいない.

先ずで、き上った骨の中に有機物が含まれているかどうかしらべて見る事にしよう.前に述べ

た様な方法でプルテウスから骨片を単離し,その骨片を pH3前後の酸で処理すると,無機質

は忽ちとけてしまって, そのあとに骨と全く同じ形をした有機質のものが残る. この残笹は,

トルイヂンブルーでメタクロマジーを示すので, 多糖類を多量に含んでいるものと思われる.

アカウニのプルテウスの骨を材料にして分訴した所, 骨 950mgから 10mgの残澄がとれ,

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その中にヘキソース 0.23mg,アミノ糖 0.24mg,還元糖 0.36mgを含み,おどろいた事に,

3.6mgもの蛋白が入っていた(上村未発表). この骨質をとかしたあとに残るものは,母床の

中にあってカルシウム塩の沈着に何等かの役割を果したものと考えてよかろう.

骨片は, 規則正しくならんだ第一次間充織細胞の列に泊って生長するという事を前に述べた

が,実は, 細胞の列に密着して透明なやや屈折率の高いひも状のものがあり, 骨片はその中を

仲びてゆく. つまり, そのひも状のものが骨の母床であるわけであるが,母床の正体を知るた

めに,その生いたちからやや詳細な追跡をしてみることにする.

骨片原基の出来る 2時間程前 (Fig.2 : D)から,やがて骨片原基が出来て来る筈の部分,つ

まり mesenchymalaggregateの部分の細胞を高倍の位相差顕微鏡で観察してみると,細胞は

細長い虚足を出して紡錘形をしている. そして,その虚足の一部に原型質の癌の様なものがで

きている (Fig.12: A). この癌から更に細い糸の様な虚足が放射状に出ていて,やがてそれら

の細い虚足で,別々の細胞に由来した癌同志が連ってくる (Fig.12 : B).発生がす Lむにつれ

て,癌をつくる細胞の数も, 細い虚足による癒同志の連りも,ふえて来る.癌と癌を連いでい

る細し、虚足が収縮すると,二つの癌は融合してーつになり,大きさを増す.そこに,また一つ,

(a! ,¥

~c

lvJ

Fgi. 12 Process of formation of organic matrix for the spicule by fusion of pseudopodial material of the primary mesenchyme cells: (a), animal pole side; (v), ventral side; (d), dorsal side. Broken line arrow in E and F shows precursor of the matrix, being later amalgamated to the matrix by contraction of fine strand indicated by solid line arrow.

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またーっと,次々に癌がついて,癌の融合体は次第に大きくなっ℃行し ある細胞のつくった

癌が癌の融合体に吸収されてしまうと, その細胞は虚足の一部にまた新らしく癌をつくるO こ

の痛もやがて癌の融合体に吸収され, 細胞はまた新らしい癌をつくる. この様にして癌の新生

と融合がくり返されるうちに mesenchymalaggregateの中央部に相当大きな癌の融合体が

でき, 間もなくその中心部に屈折率の高い小頼粒が骨の原基として誕生する. この様にLてで

きた若い母床は, 正面から見ると不規則な多角形をし (Fig.12:C),側面から見ると帝国い鞘型

をしている (Fig.12:D).骨片が三矢型になって来る頃には, 母床は骨にぴったりついてしま

うので, 骨の周辺部では非常に観察しにく与なるが, 骨の先端部では骨に連る屈折率の高い鞘

型の構造としてはっきり観察する事ができる (Fig.12:E,F).前に述べた様な虚足の癌の新生

と癌の融合は, 間断なくつづき, それらによって骨の有機母床は,骨の生長に少しずつ先立つ

て生長してゆく. Fig.12の Eおよび Fをみると,骨片の先端部に骨片に連る鞘型の有機母床

が見えるが, そのすぐ先の所に点線の矢印で示してあるのが, 未だ母床に融合していない癌ま

たは糟の融合体で、ある. 実線の矢印で示した部分が収縮すると, 癌或いは癌の融合体が有機母

床と融合し, 新らしく母床の先端部になる. 言葉をかえれば,その分だけ母床が生長した事に

なる.

今まで研究された多くの材料で骨の組織がつくられて行くときの母床 (matrix)は,細胞の

分泌物で構成されていると考えられて来ているので, ウニの幼生の場合は, 非常に特異な感じ

を与えるかも知れない. しかし, 母床や骨片の生長過程は,透明な材料と適当な方法を選ぶな

ら連続的に観察することができるので,先ず間違いはないものと思う (Okazaki,196513)).

/

~k

Fig. 13 Relation between the primary mesenchym巴 cellsand th巴 organicmatrix of the spicul巴', E,ecto-

dermal wall; m, organic matrix for the spicule; sp, spicul巴 1,precursor of the matrix which is united into the matrix sooner or lat巴r.

母床をつくる細胞と出来た母床との関係は, Fig.13に模式的に示してある.ここに示した10

個の丸い細胞は,第一次間充織細胞であり p その中の 7個の細胞は,細し、小枝(虚足〕で母床と

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連っている. したがって見方を変えれば, ζれらの細胞は母床を介してお互いに連り合ってい

るわけで, 母床は特殊な多核体の一部であると考えられない事もない. ただ常識的な考え方を

した場合の多核体と異る点は, これらの細胞が適宜母床との連りを切って移動したり,、またも

ど、って来て母床との連りを回復したりする事である.Fig.13を眺めながら,骨の母床が細胞の

分泌物で、つくられるという考え方をウニの場合にも当てはめようとすると, 次の様な考え方が

出て来る.つまり, ウニの場合の母床(虚足の癌の融合体〉は, カルシウム塩を沈着させるの

に必要な有機物質の容器であるとしみ見方である. ウニ幼生の体制は非常に簡単で細胞数も少

いので, 脊椎動物の骨組織の様に細胞が密につまっていない. たとえ第一次間充織細胞が骨質

の沈着に必要な有機物質を分泌したとしても, 忽ち割腔の中に散ってしまうであろう. この拡

散を防ぐための容器が今まで母床として述べて来たもので, この容器の中に第一次間充織細胞

が特定の物質を送りこんでいるのかも知れない. 各細胞と母床とをつないで、いる細L、虚足は,

細胞がものを送り込む管なのだという解釈も不可能ではない.

こうしてできる母床の中に, マグネシアン・カルサイトの小さな結晶がならんで行く方向を

controlする様な構造が何かあるのであろうか. 最近アメリカの研究者達 (Gibbinset al. ,

19693っとお茶の水女子大の小泉義子氏〈未発表〕が電子顕微鏡を使って,この点に関する興味

ある観察をしている. 両方の研究者達は,材料と固定法を異にしているが,1)母床と第一次間

充織細胞の聞に細胞質の連がりがあること, 2)母床と連っている細胞には,核の母床よりによ

く発達したゴルヂ体があること, 3)骨片は母床の細胞質の中にある特殊な vacuoleの中にある

こと, 4)その vacuoleの内側には電子密度の高い層が,外側には小さな vesiclesが沢山あり,

それらの vesiclesの中には vacuoleの内側にあるものと同じ電子密度の物質が入っていること

等は,同じ様に観察している.更に Gibbins等は,母床の中には多数の microtubulesが母床

の長軸に治って平行に走っていること, 細胞と母床をつなぐ柄の部分にも microtubulesが柄

の長軸にそってみられ, それらはそのま L母床の中に流れこんでいること等を強調している.

これらの観察をもとにして, 骨片が生長する時の様子に就いて想像をたくましうすれば, 次の

様な事が考えられる.小さな vesiclesが細胞のゴルヂ体の部分でつくられ, それらが micro-

tubulesにそって母床の中に送りこまれる. 次に母床の中の microtubulesの列にそって移動

し,やがて骨片をその中に容れている vacuoleV,こくっつき,それによって vacuoleは大きくな

る. もしかすると vesicleの中にはマグネシアン・カノレサイトの微小な結晶ができていて,

vesicleが vacuoleにくっついたとたんに,骨質の部分もその分だけ生長するのかも知れない s

もしこうし、う事が本当だとすると, 母床の中の microtubulesは骨の伸長方向を controlして

いるものとして,脊椎動物の collagenと同じ様な役割を果しているのかも知れない.

しかし, microtubulesは母床の長軸に平行に走り,母床は第一次間充織細胞の配列のパター

ンに治ってつくられる.そう考えて来ると,骨の伸長方向を controlしているのは細胞の配列で

あって, 問題の根源は, 細胞の配列を規定しているものは何であるかとし、う事に戻りそうであ

る. この点は古くからウニ学者達が等しく興味を持った点で、あれ 外腔葉細胞の粘着性に地域

的な差があるのではなし、かとし、う考えも出されてはいる (Okazakiet al., 196214): Gustafson

& W olpert, 196215)) がp まだまだ想像の域を脱してはいない. 思えば既に数十年,どれだけ

多くの研究者達がこの問題のとりこになった事であろうか. いきものを知る事は至難の業の様

である.

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6 む ナ び

以上ウニ幼生の骨片形式について, 今までにわかって来た事のあらましを述べたが, カルシ

ウム塩の沈着機構に関してふれなかったのは, その部分をさけたのではなく, 未だ研究されて

いなし、からである. この方面をす Lめて行くための第一歩として, 母床の組織化学,電顕によ

る観察,同位元素の使用等が考えられる. しかしこれらの仕事には, ウニ旺の透明で、あるとい

う強みは生かす事ができず, 逆に小さいとし、う事が弱みになる. 匪全体を使う限り,固定・切

片とし、う手段によらなければならないからである.骨のでき始めた頃の嚢匹は,直径 100μ余り

の小さいものであるし, その頃の母床の太さは 1乃至2μ 位のものである. しかも左右一対し

かない. この不便をさける只一つの方法は, 第一次間充織細胞を硝子器内で培養し p 骨片をつ

くらせる事であると考え,数年来その努力をつ三け漸くある程度まで成功した(岡崎, 196916)).

未だ未だ培養法に改良すべき点は多々あるが, 一応カバーグラスの上に細胞をつけたまま骨片

をつくらせる事ができる様になったので, 現在の段階でできる部分から少しづっ解訴をすすめ

てみたいと考えている.

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Growth of the Spicules in Sea U rchin Larvae

Kayo Okazaki

(Department of Biology, Faculty of Science, Tokyo Metropolitan University)

1) The primary mesenchyme cells, which are the spicule forming cells,

arise by inward migration of the cells of the blastular wall, being derived from th巴 micromeresof the 16-cell stage. The migrated ceIls move by pseudopodial

activity until they arrange themselves in a well defined pattern.

2) Following the pattern of the arrangement, the primary mesenchyme cells

form an organic matrix for the spicule by the fusion of their pseudopodial mate司

rial.

3) Within the organic matrix, an initial caJcareous granule develops into a

tri-radiate spicule, which finally becomes dendriform by curved extension of the

original rays and by the addition of the side branches.

4) Th.e spicule is composed of magnesian ca1cite and behaves optically as

a single crystal, irrespective of the shape of the spicule. The fact shows that

the optic axis of the spicule is not changed at a11 through the course of growth,

having no relation to the curvature or the angle of bifurcation of th巴 spicule.

5) When gastrulae with tri-radiate spicules are put into a medium of low

calcium and magnesium, a rhombohedral crystal is formed at every tip of the

original spicule. The rhombohedral crystals are also magnesian calcite, and all bear the same crystallographic ori巴ntation as the original spicule. Using such a

fact as a means of analysis, mode of growth of the spicule is considered. The

spicule seems to grow by uninterrupted piling of tiny crystaIs in the uniform

orientation in regard to the optic axis and the face of th巴 crystal. The direction

of piling of the tiny crystals might be controlled by microtubules running parallel

to the long axis of the organic matrix.