広範囲な電圧出力を実現するリバーシブルインダイ...

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SPC19059 MD19059 16 広範囲な電圧出力を実現するリバーシブルインダイレクト マトリックスコンバータ 奥園 広大 芳賀 仁(長岡技術科学大学) Reversible Indirect Matrix Converter with Wide Output Voltage Range Kodai Okuzono , Hitoshi Haga (Nagaoka University of Technology) This paper proposes a reversible indirect matrix converter that features buck-boost functionality of AC to AC power conversion. The proposed circuit configuration is combining an indirect matrix converter and a reverse matrix converter in order to achieve the buck-boost function. The proposed circuit has two operation modes. One is a step-down mode that supplies the output voltage lower than the input voltage. The other is a boost mode that supplies the output voltage higher than the input voltage. However, the efficiency of the proposed circuit is low due to the extra loss from the switches for mode switching. In this paper, the efficiency of the proposed circuit and the buck to buck systems is evaluated in the simulation. キーワードAC/AC 変換,インダイレクトマトリックスコンバータ,リバースマトリックスコンバータ,電圧利用率, 昇降圧動作 (AC/AC Power Conversion, Indirect Matrix Converter, Reverse Matrix Converter, Voltage Transfer Ratio, buck- boost mode) 1. はじめに マトリックスコンバータ(MC)は,大容量のエネルギーバ ッファを用いずに交流から交流へ変換できるため,従来の Back to Back(BTB)システムと比較して電力変換器の長寿 命,小型化,軽量化の点で有利である。また,追加回路なく 回生動作が可能であることからモータドライブシステムへ の応用にも有効である (1)-(3) 一方, MC の特徴として重要なことは,電圧利用率が 0.866 に制限されることである。そのため,永久磁石同期モータを 低速から高速まで広範囲な可変速駆動を行う場合は,BTB システムよりも低い速度から弱め磁束制御を用いる必要が ある。これにより,BTB システムと同等の出力電力を得た い場合,出力電流は BTB システムよりも増加するため,導 通損,銅損の要因にもつながることから好ましくない。さら に,比較的容量の大きなモータでは,同期インダクタンスが 小さいため,出力電圧に含まれる PWM などの高調波成分 が無視できなく,高調波損失として影響が現れる。このよう に, MC をモータドライブシステムへ適用して拡大普及する には電圧利用率の向上と波形改善によるモータの高効率化 が重要になる。 これら MC の問題を解決する手法としてマトリックスコ ンバータを過変調領域で動作させる方法が挙げられる (4) 。し かし,この手法では電圧利用率は改善可能であるが,昇圧す ることはできない。一方, MC に昇圧機能を持たせる手法と して,インダイレクトマトリックスコンバータ(IMC)の直流 リンクに補助回路を接続したシステム, LC フィルタを Z ース構成とした回路,交流チョッパを追加する回路などが 提案されている (5)-(7) 。しかし,従来の電圧利用率を向上する 方式は昇圧機能を持たせるための受動素子の追加や制御の 複雑化などの問題がある。そして,従来の IMC の電力フロ ーを逆とすることで昇圧を実現するリバースマトリックス コンバータ(RMC)も検討されている (8)(9) RMC は追加素子 なしで昇圧を行うことができるが,RMC の電圧利用率は 1/0.866 に下限が制限されるため,負荷の要求電圧が電源電 圧よりも低い場合は適用することができない。 そこで筆者らは電圧利用率を拡大して,幅広い電圧利用 率を実現する一手法として,降圧動作(表)と昇圧動作(裏) の回路トポロジを表と裏に切り替えられる構造をもつリバ ーシブルインダイレクトマトリックスコンバータ(R-IMC) を提案する (10) 。提案回路は負荷の要求電圧が電源電圧より も低い場合は従来の IMC として降圧動作を行う。また,負 荷の要求電圧が電源電圧よりも高い場合は RMC として動 作し昇圧動作を行う。これらの動作はシステムを停止する ことなく切り替えを行う。

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SPC-19-059

MD-19-059

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広範囲な電圧出力を実現するリバーシブルインダイレクト

マトリックスコンバータ

奥園 広大* 芳賀 仁(長岡技術科学大学)

Reversible Indirect Matrix Converter with Wide Output Voltage Range

Kodai Okuzono*, Hitoshi Haga (Nagaoka University of Technology)

This paper proposes a reversible indirect matrix converter that features buck-boost functionality of AC to AC

power conversion. The proposed circuit configuration is combining an indirect matrix converter and a reverse

matrix converter in order to achieve the buck-boost function. The proposed circuit has two operation modes. One

is a step-down mode that supplies the output voltage lower than the input voltage. The other is a boost mode that

supplies the output voltage higher than the input voltage. However, the efficiency of the proposed circuit is low

due to the extra loss from the switches for mode switching. In this paper, the efficiency of the proposed circuit and

the buck to buck systems is evaluated in the simulation.

キーワード:AC/AC変換,インダイレクトマトリックスコンバータ,リバースマトリックスコンバータ,電圧利用率,

昇降圧動作

(AC/AC Power Conversion, Indirect Matrix Converter, Reverse Matrix Converter, Voltage Transfer Ratio, buck-

boost mode)

1. はじめに

マトリックスコンバータ(MC)は,大容量のエネルギーバ

ッファを用いずに交流から交流へ変換できるため,従来の

Back to Back(BTB)システムと比較して電力変換器の長寿

命,小型化,軽量化の点で有利である。また,追加回路なく

回生動作が可能であることからモータドライブシステムへ

の応用にも有効である(1)-(3)。

一方,MCの特徴として重要なことは,電圧利用率が0.866

に制限されることである。そのため,永久磁石同期モータを

低速から高速まで広範囲な可変速駆動を行う場合は,BTB

システムよりも低い速度から弱め磁束制御を用いる必要が

ある。これにより,BTB システムと同等の出力電力を得た

い場合,出力電流は BTBシステムよりも増加するため,導

通損,銅損の要因にもつながることから好ましくない。さら

に,比較的容量の大きなモータでは,同期インダクタンスが

小さいため,出力電圧に含まれる PWM などの高調波成分

が無視できなく,高調波損失として影響が現れる。このよう

に,MCをモータドライブシステムへ適用して拡大普及する

には電圧利用率の向上と波形改善によるモータの高効率化

が重要になる。

これら MC の問題を解決する手法としてマトリックスコ

ンバータを過変調領域で動作させる方法が挙げられる(4)。し

かし,この手法では電圧利用率は改善可能であるが,昇圧す

ることはできない。一方,MCに昇圧機能を持たせる手法と

して,インダイレクトマトリックスコンバータ(IMC)の直流

リンクに補助回路を接続したシステム,LCフィルタを Zソ

ース構成とした回路,交流チョッパを追加する回路などが

提案されている(5)-(7)。しかし,従来の電圧利用率を向上する

方式は昇圧機能を持たせるための受動素子の追加や制御の

複雑化などの問題がある。そして,従来の IMCの電力フロ

ーを逆とすることで昇圧を実現するリバースマトリックス

コンバータ(RMC)も検討されている(8)(9)。RMC は追加素子

なしで昇圧を行うことができるが,RMC の電圧利用率は

1/0.866に下限が制限されるため,負荷の要求電圧が電源電

圧よりも低い場合は適用することができない。

そこで筆者らは電圧利用率を拡大して,幅広い電圧利用

率を実現する一手法として,降圧動作(表)と昇圧動作(裏)

の回路トポロジを表と裏に切り替えられる構造をもつリバ

ーシブルインダイレクトマトリックスコンバータ(R-IMC)

を提案する(10)。提案回路は負荷の要求電圧が電源電圧より

も低い場合は従来の IMCとして降圧動作を行う。また,負

荷の要求電圧が電源電圧よりも高い場合は RMC として動

作し昇圧動作を行う。これらの動作はシステムを停止する

ことなく切り替えを行う。

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2. 回路構成

〈2・1〉 BTB システム 図 1 に BTB システムの回路構

成を示す。BTB は電圧形整流器(VSR)と電圧形インバータ

(VSI)で構成される。直流リンクには安定した直流電圧を得

るために大容量の電解コンデンサが接続される。

VSR は安定した入力電流と直流電圧を得るために

ACR(Automatic Current Regulator) と AVR(Automatic

Voltage Regulator)が適用される。一般的に,ACR及び AVR

の制御応答の点から,直流リンク部の電解コンデンサは大

容量のものが用いられる。

〈2・2〉 マトリックスコンバータ 図 2(a)は MC の回路

構成,図 2(b)に IMCの回路構成,図 3に RMCの回路構成

を示す。IMC は電流形整流器(CSR)と VSI で構成されてお

り,MCよりも損失が増加するが,制御構成が簡単であり従

来の整流器やインバータで検討されてきた制御方式を適用

することが可能である。RMC は従来の IMC の電圧利用率

を改善する一手法であり,VSRと電流形インバータ(CSI)で

構成されている。RMC は IMC と同様に損失の増加につな

がるが制御構成が簡単であり,追加素子なく昇圧が。また,

IMC ではスイッチングによる入力電流の高周波成分を取り

除くために電源とスイッチの間に LC フィルタを含む。一

方,RMCではスイッチと負荷の間にフィルタが含まれる。

〈2・3〉 提案回路 図 4 に提案回路構成を示す。R-IMC

は従来の IMCや RMCと同様に整流器段とインバータ段か

ら構成されているが,両段とも双方向スイッチを用いてい

る。提案回路では三相電源と主回路の間にコンデンサ Cinが

双方向スイッチ Sr-St を介して接続されている。また,出力

側も同様に主回路と負荷の間にコンデンサ Cout が双方向ス

イッチ Su-Swを介して接続されている。これにより,提案回

路では運転状態に応じてコンデンサの位置を切り替えるこ

とが可能であり,回路トポロジの切り替えを行うことがで

きる。これらのコンデンサは必ず入力相のみ,もしくは出力

相のみの接続となり,入出力相のコンデンサが同時に接続

されることはない。提案回路では回路トポロジの切り替え

と制御方式を切り替えることで昇降圧動作を実現する。

3. 制御方法

〈3・1〉 提案回路 提案回路の制御は AC/DC/AC 変換で

考える(11)。式(1),(2)に IMCのスイッチングパターンを示す。

式(1)はインバータ段において入力電圧が直流リンク電圧と

考えることができることを示しており,式(2)は三相電圧を

入力とする整流器を示している。ここで,Sxyは各スイッチ

のスイッチング関数を示し,Sxy=1のときはスイッチがオン,

Sxy=0のときはスイッチがオフしていることを示す。ここで, t[Edcp Edcn]は直流リンク電圧,t[vu vv vw]は出力電圧をそれぞ

れ示している。

図 1 BTBシステム回路構成

Fig. 1. Circuit configuration of BTB.

(a) Direct Matrix Converter

(b) Indirect Matrix Converter

図 2 マトリックスコンバータ回路構成

Fig.2. Circuit configuration of Matrix Converter.

図 3 リバースマトリックスコンバータ

Fig.3. Circuit configuration of Reverse matrix

converter.

VSR VSIElectrolytic

capacitor

CSR VSI

VSR CSI

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[

𝑣𝑢

𝑣𝑣

𝑣𝑤

] = [

𝑆𝑢𝑝 𝑆𝑢𝑛

𝑆𝑣𝑝 𝑆𝑣𝑛

𝑆𝑤𝑝 𝑆𝑤𝑛

] [𝐸𝑑𝑐𝑝

𝐸𝑑𝑐𝑛] (1)

[𝐸𝑑𝑐𝑝

𝐸𝑑𝑐𝑛] = [

𝑆𝑟𝑝 𝑆𝑠𝑝 𝑆𝑡𝑝

𝑆𝑟𝑛 𝑆𝑠𝑛 𝑆𝑡𝑝] [

𝑣𝑟

𝑣𝑠

𝑣𝑡

] (2)

〈3・2〉 降圧動作 提案回路では負荷の要求電圧が電源電

圧よりも低く,降圧動作が必要な場合は入力側コンデンサ

Cinを接続し,出力側コンデンサ Coutを開放することで回路

構成を従来の IMCとして動作させる。そのため,降圧動作

では IMCと同様の特性となるため提案回路においても降圧

時の線形領域での電圧利用率は 0.866に制限される。また,

降圧動作での出力線間電圧制御では,CSRと VSIで行う。

図 5 に降圧動作時の制御ブロック図を示す。入力電流制御

を CSR,出力電圧制御を VSIで行う。

図 4 提案回路

Fig.4. Proposed circuit.

〈3・3〉 昇圧動作

負荷の要求電圧が電源電圧よりも高く昇圧動作が必要な

場合は入力側コンデンサ Cinを開放し,出力側コンデンサ

図 5 降圧動作時の制御ブロック図

Fig.5. Control block diagram of the proposed circuit in buck mode.

図 6 昇圧動作時の制御ブロック図

Fig.6. Control block diagram of the proposed circuit in boost mode.

4

iu

iwiv

dq/3ΦCarrier based PWM

Input current

command

dq/3Φ

CSR VSI

4 4 4 4 4

uvw/αβ

carrier

Output voltage

command

4

iu

iwiv

Output current

command

dq/3ΦCarrier based PWMdq/3Φ

VSR CSI

4 4 4 4 4

uvw/

αβ

carrier

PI

3Φ/dq

PI+-

+-Input current

command

ir

it

iu

iw

vr

vs

vt

irisit

Cin Cout

Ll Rl

iv

Srp Ssp Stp

Srn Ssn Stn

Sup Svp Swp

Sun Svn Swn

Lin

Sr Ss St Su Sv Sw

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Cout を接続することで従来の RMC として動作を行うこと

で昇圧動作を実現する。昇圧動作を行う場合,出力特性は

CSI の特徴をもつため出力波形には PWM による高調波が

少ない。また,電圧利用率は 1/0.866に制限される。図 6に

昇圧動作時の制御ブロック図を示す。

昇圧動作において出力電圧制御を考える場合は VSR と

CSI を考える。そのため,入力電流制御を VSR,出力電圧

制御を CSI で行う必要がある。よって,昇圧動作時は入力

電流制御,出力電圧制御の二つの独立した制御系が必要と

なり,これら二つの制御系でそれぞれフィードバック制御

が必要となる。これら二つのフィードバック制御をそれぞ

れ独立した制御系で構成した場合,動作が不安定となる。マ

トリックスコンバータは回路内にエネルギーバッファを持

たないため入出力の瞬時有効電力は等しくなくてはならな

い。入出力の各制御系に独立した制御系が存在する場合は

瞬時入力有効電力と瞬時出力有効電力に差が発生してしま

う。これにより入出力制御間において干渉が発生すること

で動作が不安定となる。このことから,制御間の干渉を防ぐ

必要があるため,出力電圧制御系の CSIに一定値を与える。

これにより,CSI はフィードバックを持たなくなるため入

力電流制御との干渉を防ぐことができる。

〈3・4〉 切り替えアルゴリズム 提案回路の昇降圧動作

の切り替えは,動作切り替えの瞬間に過電流,過電圧が発生

しないように切り換えることでシステムを停止させること

なく行える。提案回路では,各コンデンサと直列に切り替え

のための半導体スイッチを設けており,個別に制御可能で

ある。本論文では,降圧動作から昇圧動作への切り替えは以

下に示す手順で行う。まず,入力電流がゼロクロス付近にな

った相から順次入力側コンデンサを開放する。入力側コン

デンサが全相切り離されるまでは降圧動作で待機し,入力

側コンデンサが全相切り離されると出力側コンデンサを接

続し,昇圧動作として制御を開始する。昇圧動作から降圧動

作への切り替えも同様に行う。

4. 実験結果

〈4・1〉 基本動作実験 図 7に入力電圧 200V,入力周波

数 50Hz,出力周波数 50Hzとしたときの降圧動作時の実験

結果を示す。ここで,入力電圧,出力電圧はともに線間電圧

を示す。表 1 にその他の実験時の回路パラメータを示す。

ダンピング抵抗及びダンピング制御は適用していない。実

験結果より,LCフィルタの共振成分により入力電流にひず

みが確認できるが,入力電流は出力電流よりも小さく,出力

線間電圧には PWM による高調波成分が見られており,従

来の IMC と同様の降圧動作が行えていることが確認でき

る。

次に,同様の回路パラメータでの昇圧動作時の実験結果を

図 8 に示す。このとき,出力電圧の昇圧比は 1.2 としてい

る。実験結果より,出力線間電圧は入力線間電圧よりも昇圧

されており,この時の昇圧比は 1.2となっていることが確認

図 7 降圧動作時実験結果

Fig.7. Experimental results in buck mode.

図 8 昇圧動作時実験結果

Fig.8. Experimental results in boost mode.

できる。このことから,提案回路において昇圧動作を用いる

ことで電圧利用率が改善できることを確認した。また,この

時出力特性は CSI と同様となるため,出力線間電圧におい

て PWM による高調波成分がフィルタコンデンサにより除

去されていることが確認できる。この時の出力線間電圧の

50 次までの THD は 5.45%,出力電流の 50 次までの THD

は 4.95%と良好な出力波形を得られていることが確認でき

る。

〈4・2〉 切り替えアルゴリズム 図 9 に提案回路におい

て入力電圧 100V,入力周波数 50Hz,出力周波数 50Hz,RL

Input line voltage [500V/div]

Output line voltage [500V/div]

Input current [10A/div]

Output current [10A/div]

20ms

Input line voltage [500V/div]

Output line voltage [500V/div]

Input current [20A/div]

Output current [10A/div]

20ms

表 1 実験パラメータ

Table 1. Experimental parameter

Input voltage 200V Input reactor 2mH

Input frequency 50Hz Input capacitor 20μF

Carrier frequency 10kHz Output capacitor 10μF

Output frequency 50Hz Boost ratio 1.2

Output power 1.5kW Load R-L

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負荷において降圧動作から昇圧動作へと切り替えた場合の

実験結果を示す。この時の切り替え法として,入力側コンデ

ンサ切り替えスイッチ Sr-St を同時にオフとすることで入力

側コンデンサ Cinを開放する。次に,入力側コンデンサ切り

替えスイッチ Su-Sw を三相同時にオンとすることで出力側

コンデンサ Coutを接続する。また,このとき入出力コンデン

サ短絡防止用のデッドタイムは 2μsとした。図 9より,動作

が切り替わるまでは入力電流は出力電流よりも小さく,出

力線間電圧には PWM による高調波成分が含まれているこ

とが確認できる。一方,動作を降圧から昇圧へとステップ的

に切り替えた後は,出力線間電圧は PWMによる高調波成分

が少なく,また入力線間電圧よりも高くなっており昇圧さ

れていることが確認できる。また,出力電流も昇圧動作に従

い入力電流より小さくなっていることが確認できる。この

ことより,降圧動作から昇圧動作への切り替えが行えてい

ることが確認できる。しかし,降圧から昇圧動作へと切り替

えを行った瞬間に出力線間電圧に最大 500V のオーバーシ

ュートが発生している。

図 10 に同様の実験条件で,切り替えアルゴリズムを変更

したときの実験結果を示す。この時の切り替えアルゴリズ

ムは以下に示す手順で行った。まず,入力電流が閾値を下回

りゼロクロス付近になった相から順次入力側コンデンサを

開放する。入力側コンデンサが全相切り離されるまでは降

圧動作で待機し,入力側コンデンサが全相切り離されると

出力側コンデンサを接続し,昇圧動作として制御を開始す

る。このような切り替えアルゴリズムを用いることで,電流

の急峻な変化を抑えることが可能である。図 9より,切り替

え時の過電圧はほとんど発生しておらず,降圧動作から昇

圧動作へ過電圧,過電流なく切り替えが行えることが確認

できる。このことより,切り替えアルゴリズムにより切り替

えをスムーズに行えることが確認できる。

5. 損失解析

提案回路は整流器段,インバータ段とも IGBTを逆直列に

した双方向スイッチを用いているため,一般的な IMC に比

べ電流の通過素子数が増加するため損失が大きくなる。ま

た,動作切り替え用に各コンデンサに直列に双方向スイッ

チを追加しているため,切り替え用スイッチによる導通損

が発生し,効率の低下につながる。この問題の解決策とし

て,回路構成にダイレクト形を適用することが挙げられる。

提案回路をダイレクト形で構成することで通過素子数を半

分にすることが可能である。図 11にダイレクト形を適用し

た提案回路降圧動作時において負荷を変化させたときの効

率特性,図 12に昇圧動作において負荷を変化させたときの

効率特性を示す。

図 13 に入力電圧 200V,入出力周波数 50Hz,1.5kW での

提案回路と BTB システムの損失解析結果を示す。それぞれ

効率は 95.70%と 95.35%となった。ただし,フィルタ損失お

よび鉄損は考慮していない。また,BTB システムと提案回

路の損失を同じ条件で比較するために,同じスイッチング

図 9 提案回路動作切り替え実験結果

Fig.9. Experimental results of mode switching.

図 10 提案回路動作切り替え実験結果

Fig.10. Experimental results of mode switching.

素子(GT50J324)を使用すると仮定して損失を解析した。図

13 より,提案回路にダイレクト形を適用することにより,

BTB システムに比べてトータルの損失を 5.25W 低減でき,

0.35%の効率改善が期待できる。

図 14 に負荷 1.5kW,シミュレーションにより分離した提

案回路の損失内訳を示す。MC部分の損失は全損失に対して

72.64%(49.48W),動作切り替え用スイッチによる損失

27.36%(18.64W)と分離できる。双方向スイッチは IGBTを逆

直列としているため,IGBTの逆バイアスを防止する還流ダ

イオード(FWD)において導通損失が発生するため,効率低下

につながる。この問題の解決策として,逆耐圧を有する RB-

IGBTを適用することが挙げられる。RB-IGBTを適用するこ

とで,FWD の導通損失が発生しないため,さらなる高効率

化が実現可能となる。

6. まとめ

本論文では,マトリックスコンバータの出力電圧範囲を改

善し,幅広い電圧利用率を実現する一手法として,降圧動作

(表)と昇圧動作(裏)の回路トポロジを切り替えられる構

Input line voltage [200V/div]

Input current [20A/div]

Output current [10A/div]

20ms

Output line voltage [500V/div]

Input line voltage [200V/div]

Input current [10A/div]

Output current [10A/div]

20ms

Output line voltage [500V/div]

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造をもつリバーシブルインダイレクトマトリックスコンバ

ータ(R-IMC)を提案した。提案回路は負荷の要求電圧に対し

て,昇降圧動作を切り替えることで幅広い電圧出力を実現

する。

提案回路の基本動作をシミュレーション及び実験結果に

より確認した。その結果,昇圧動作時において出力電圧およ

び出力電流 THD はそれぞれ 5.45%および 4.95%で,良好な

波形が得られた。また,損失解析の結果,負荷 1.5kW にお

いてダイレクト形を適用することで提案回路で効率は

95.7%となり,BTB システムと比較して 0.35%改善できるこ

とを確認した。また,損失解析によりマトリックスコンバー

タの損失は 72.64%,動作切り替え用スイッチ損失は 27.36%

となることを確認した。以上のことより,提案回路の有効性

を確認出来る。

今後の課題として,ダイレクト形への変更,双方向スイッ

チに RB-IGBTの採用により,効率の改善を図った上で,モ

ータドライブへシステムへの適用を図る。

文 献

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図 11 降圧動作における効率特性

Fig.11. Efficiency characteristic in buck mode.

図 12 昇圧動作における効率特性

Fig.12. Efficiency characteristic in boost mode.

図 13 損失解析結果

Fig.13. Loss analysis

図 14 提案回路の損失内訳

Fig.14. The property of loss in proposed circuit

84

86

88

90

92

94

96

98

100

0 500 1000 1500

Converter efficiency

total efficiency

Output power[W]

Eff

icie

ncy[

%]

95

96

97

98

99

100

600 800 1000 1200 1400 1600

Converter efficiency

total efficiency

Eff

icie

ncy[

%]

Output power[W]

Efficiency of proposed system95.70%

0

10

20

30

40

50

60Recovery loss

Switching loss

Conduction loss

Efficiency of BTB system95.35%

Rectifer Inverter MCSwitch for mode switching

0

10

20

30

40

50

60

Switch for mode switching Matrix converter

Loss

[W]

Recovery loss

Switching loss

Conduction lossof IGBT

Conduction lossof FWD