海岸・港湾構造物の損壊の過程と 今後の海岸防災 · 25/10/2011 ·...
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東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
九州建設技術フォーラム2011 2011.10.25
東北地方太平洋沖地震津波による
海岸・港湾構造物の損壊の過程と
今後の海岸防災
東京大学
大学院新領域創成科学研究科
社会文化環境学専攻
磯部雅彦
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
津波の発生機構と
津波の伝播
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
海の波の周期による分類例
[Kinsman, B., 1965, Wind Waves, Prentice-Hallを修正]
106 105 104 103 102 10 1 10-1 10-2
風
暴風、地震 月、太陽
エネルギー
波の周期 (s)
作用外力
高潮 津波 潮汐 湾水振動 波浪 表面張力波
24 h
12 h
5 min
30 s
1 s
0.1 s
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地震による津波の発生
地震 ↑
地殻のずれ ↓
海底面の凹凸 →水面の凹凸 → 津波
津波の伝播 ghc
• 地震(すべり)が大きい
• すべり方向が鉛直に近い
• 震源が海底から浅い
• 震源の水深が深い
=>津波の波高が高い
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地震による津波の発生
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GPS波浪計による沖合での津波波形
[ 国土交通省港湾局による観測・港湾空港技術研究所による処理データ (2011) ]
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プレート境界と地震の発生
[渡辺偉夫(1998):日本被害津波総覧(第2版),248p および藤井・佐竹モデル(2011、Ver. 4.2)より作成]
0 200 400 (km)
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津波の波速
水深(m) (m/s) (km/h)
海水浴場 1 3 11防波堤 10 10 36大陸棚 200 44 160太平洋 4,000 200 710
例波速 速度
(km/h)歩行 5市街地の車 40新幹線 300ジェット旅客機 900
参考例
ghc 津波の波速
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津波の伝播・増幅・遡上
ob 1b
oh1h(Greenの法則)
2
1
1
4
1
1
1
b
b
h
h
H
H oo
o
運動エネルギー
位置エネルギー 津波の遡上高
11
2
1
2
8
1
8
1bghgHbghgH ooo
1
bEcbEc gog
津波の増幅
ghcncg
水深が1/16 (1,600m→100m) => 波高が2倍
幅が1/4 (1,000m→250m) => 波高が2倍
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東北地方の過去の大津波
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過去の津波の波源分布
[渡辺偉夫(1998):日本被害津波総覧(第2版),248pから作成]
貞観(869)
慶長三陸(1611)
明治三陸(1896)
昭和三陸(1933)
東北地方
太平洋沖
(2011)
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東北地方の過去の大津波
[渡辺偉夫(1998):日本被害津波総覧(第2版),248p、中央防災会議HP(2011.10.18)資料]より作成
年月日 名称 マグニチュー
ド
最大遡上高
(T.P. m)
死者(不
明)
(人)
家屋
全・
半壊、
流出
(戸)
床上・
下浸水
(戸)
地震
M
津波
m
869.7.13 貞観津波
8.6 4 1,000
1611.12.2 慶長三陸地震津波 8.1 3 15-20
(岩手県田老等)
田老、小湊、
下摂待、
宮古・・・
1896.6.15 明治三陸地震津波 6.8 4 24.4
(岩手県三陸町)
22,072 10,393 3,694
1933.3.3 昭和三陸地震津波 8.1 3 23.0
(岩手県綾里村)
1,522
(1,542)
5,851 4,018
2011.3.11 東北地方太平洋沖
地震津波
9.0 38.4
(岩手県宮古市重茂)
15,824
(3,824)
301,075
比率
2
0.5
0.065 (0.16) (/全壊)
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津波の浸水高・遡上高
東北地方太平洋沖地震津波と明治・昭和三陸地震津波の比較
[東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループ(http://www.coastal.jp/ttjt/)による速報値(2011年4月30日参照)に基づいて作成]
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計画堤防天端高と津波痕跡高との比較
[社会資本政策審議会・交通政策審議会交通体系分科会計画部会資料]
計画堤防
天端高
津波
痕跡高
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海岸・港湾構造物の効果
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
津波が越えなかった津波防潮堤
[ AH714_247s, BB416_0400s]
津波前
岩手県洋野町平内
津波後
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水門や防波堤による防災・減災効果
[右上: BB416_0945s, 左上: BB417_0057s, 下:Google Earth]
水門によって集落被害なし 多重防波堤によって背後の浸水高軽減
越流しても
破壊しない
構造物の開発
岩手県普代水門 岩手県普代村太田名部漁港
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釜石湾口防波堤の効果
[中央防災会議「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」資料]
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津波の陸上浸水高の増大と減衰
[ 「海岸における津波対策検討委員会」、中央防災会議「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」資料(東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループ、東北地方整備局、国土技術政策総合研究所の速報値に基づく) ]
岩手県陸前高田市 宮城県山元町
岩手県宮古市田老地区
平野部では
二線堤が有効
遡上高
遡上高 浸水高 浸水高
緩勾配 急勾配
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海岸構造物の被害
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波返しの破損
[BB416_0264s, BB416_0542s]
設計上不要だが、
鉄筋を配置を入れることで、強度を増せば津波に有効
数多くの波返しが破損
青森県八戸市蕪島 岩手県久慈市白前漁港本波地区
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海岸堤防の被災過程
[BB417_0619s, BB417_0624s, BB417_0649s, BB417_0628s]
① 裏法の剥離
裏法尻の洗掘
②中込土砂の流出 ③表法の崩壊
④堤防の全壊
裏法の強化
3面の一体化
堤体幅の増大
水たたきの延長
岩手県宮古市金浜
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海岸堤防の被災過程
[ BB702_0930s, BB702_0722s, BB702_0883s, BB702_0783s]
表法
裏法・天端の剥離→中込土砂の流出
天端 裏法
表法の破損
表法下部の海側への倒壊
裏法の強化
3面の一体化
堤体幅の増大
水たたきの延長
岩手県野田村十府ヶ浦
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堤防の裏法の剥離
BB702_0641s, BB702_0102s, BB702_0130s, BB702_0608s
連結されたブロックの滑落 ブロックの剥離・散乱
堤防天端高と背後の被害の差
青森県三沢海岸
青森県おいらせ海岸
青森県八戸市市川海岸
青森県三沢海岸
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護岸の海側への倒壊
背後の洗掘→引き波で倒壊 護岸背後の洗掘
護岸の海側への滑り出し
岩手県大槌町吉里吉里海岸
青森県八戸市八戸港北
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胸壁の破壊
[BB703_0102s, BB703_0393s]
岩手県山田町 岩手県大槌町
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海岸林の倒伏・幹折れ・流出
[Google Earth, BB416_0955s, BB416_0927s]
砂丘の大型化との
組み合わせ
浸水深2-5m程度で倒伏・流出
岩手県普代村
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
港湾構造物の被害
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
コンクリートブロックの流出
θ Ww
Ww ・cosθ
Ww ・sinθ
Fs ・sinθ
L
V
D
ここに、Ww:ブロックの水中重量 θ:斜面の傾き L:揚力 CL:揚力係数 Al:ブロック底面積 D:抗力(流れによる力) CD:抗力係数: Ad:流れを受ける面積 V:流速
AVCL Lw
2
2
1
dDw AVCD 2
2
1
ブロック名称 リーフロック 4t
ストーンブロック 4t
パラクロス 4t
ビーハイブ 4t
セッカブロック 6t
ストーンブロック 6t
移動時の流速(m/s) 4.4 3.9 10.3 5.8 4.8 4.2
CD 0.07 0.06 0.03 0.06 0.08 0.06
CL 0.04 0.05 0.00 0.02 0.03 0.05
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岸壁の倒壊
[BB705_1040s, BB705_1086s, BB705_1058s]
福島県相馬港
地震時の液状化
押し波時のエプロン洗掘
→ 引き波時の岸壁倒壊
エプロンの液状化・洗掘防止
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
地形変化
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
津波後
津波前
海岸堤防前面の砂浜の防護
左:蒲生干潟、右:深沼海水浴場
津波前
津波後
砂浜と堤防の連携で守る
蒲生干潟 深沼海水浴場
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
直立護岸と傾斜護岸の差
[BB705_0249s]
名取川河口左岸(宮城県仙台市)
コンクリート直立堤
コンクリートブロック
傾斜堤
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
復旧・復興に向けて
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
復興の目標
巨大津波に耐えられる施設建設は技術的には可能だが、 膨大な費用がかかる。
その前に、 — 構造物の耐用年数(一般に50年、維持管理しても100年)との不整合
— 建設したとしても、巨大津波を超過する津波来襲の可能性が否定できない
— 防護されない堤外地での活動は依然として存在する
— 海と陸との連続性を断ち切ってよいのか?
最大クラス津波には、避難して生命を守る — 高地移転、盛土、津波避難ビルの指定・建設などを組み合わせる
— 低地にも津波避難施設となる建物を積極的に建てる
— 数多くの「無駄な」避難の中で1回でも命が救えれば大成功という認識の普及が重要
— 最大クラス津波を超える可能性を考慮した、安全の多重化を目指す
設計津波には、堤防・防波堤で生命・財産を守る — 一生に一度程度の津波からは守られる
— 設計津波を超えても、破壊しにくい「粘り強い」構造物を目指す
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
構造物の被災過程と粘り強さの向上手段
波返し:堤防本体との接合部で折損 → 配筋の強化
堤防:裏法の剥離>中込土砂の吸い出し>表法の倒壊 → 3面被覆の一体化、水たたき
の延長、堤体幅の延長
護岸:引き波による海側への倒壊 → 海側の根固の強化
胸壁:地上部の折損 → 地上接合部の強化
防波堤:堤体の滑動>マウンドからの滑落 → 根固工による滑動抵抗の増強
海岸林:流出・折損 → 砂丘の大型化
砂浜:砂嘴など地形の凸部の侵食が深刻 → 堤防との一体機能を利用
二線堤:津波の減衰との組み合わせが、より効果的
高地移転:避難路の確保による生命の安全性の向上
避難ビル:ネットワーク化による避難安全性の向上
津波のリアルタイムモニタリングの高密度化と、避難行動との連携
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
避難とハザードマップ
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
ハザードマップと実際の浸水範囲の比較
[中央防災会議「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」資料]
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
津波のリアルタイムモニタリング
[http://www.jamstec.go.jp/jamstec-e/maritec/donet/index.html, http://www.pari.go.jp/bsh/ky-skb/kaisho/report/20050434sangitaisho/20050434sangitaisho.htm ]
GPS 津波計
(港湾空港技術研究所)
津波 l
oh
DONET(海洋研究開発機構)
o 0
2
gh
l
gh
dx l
(例) 沖合100km、水深1kmで観測 → 30分以上の余裕
離島のないところには
洋上観測基地を設置
多目的海洋基地の建設
新しい防災の技術開発
(沖合との連携)
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
気仙沼市の津波避難ビル等
[中央防災会議「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」資料に追加]
高地移転が基本だが、
漁港・港湾・海岸での活動の再開を考慮すると、
海岸付近に避難施設が必要
(避難のための橋頭保が必要)
施設の耐用年数(50-100年)と
巨大津波の再現期間(1000年)との違いから、避難専用施設の維持は保証されないので、
避難施設と日常的利用との併用が鍵
公共施設、漁港・港湾施設の利用に加え、高く堅牢な住宅を積極的に建設することも必要ではないか
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
国・自治体での検討状況
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東日本大震災復興構想会議 復興への提言 ~悲惨のなかの希望~ (2011.6.25)
「減災」という考え方
— たとえ被災したとしても人命が失われないことを最重視し、また経済的被害ができ
るだけ少なくなるような観点から、災害に備えなければならない。
— この「減災」の考え方に基づけば、これまでのように専ら水際での構造物に頼る防
御から、「逃げる」ことを基本とする防災教育の徹底やハザードマップの整備など、
ソフト面の対策を重視せねばならない。
— さらに、防潮堤等に加え、交通インフラ等を活用した地域内部の第二の堤防機能
を充実させ、土地のかさ上げを行い、避難地・避難路・避難ビルを整備する。
— 加えて、災害リスクを考慮した土地利用・建築規制を一体的に行うなど、ソフト・ハ
ードの施策を総動員することが必要である。
既存復興関係事業の改良・発展
— 防波堤・防潮堤については、比較的頻度の高い津波、台風時の高潮・高波などか
ら陸地を守る性能を持ったものとして再建する。
— 今回の災害のような大津波に際しては、水が乗り越えても倒壊はしない粘り強い
構造物とすることについての技術的再検討が不可欠である。
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
中央防災会議「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」(2011.6.26中間とりまとめ、2011.9.28最終報告)
津波対策を構築するにあたってのこれからの想定津波の考え方
— 東北地方太平洋沖地震や最大クラスの津波レベルを想定した津波対策を構築し、
住民の生命を守ることを最優先として、どういう災害であっても行政機能、病院等
の最低限必要十分な社会経済機能を維持することが必要である。このため、住民
の避難を軸に、土地利用、避難施設、防災施設などを組み合わせて、ソフト・ハー
ドのとりうる手段を尽くした総合的な津波対策の確立が必要である。
— 人命保護に加え、住民財産の保護、地域の経済活動の安定化、効率的な生産拠
点の確保の観点から、引き続き、比較的頻度の高い一定程度の津波高に対して
海岸保全施設等の整備を進めていくことが求められる。
— なお、海岸保全施設等については、設計対象の津波高を超えた場合でも施設の
効果が粘り強く発揮できるような構造物の技術開発を進め、整備していくことが必
要である。
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
海岸における津波対策検討委員会(2011.6.27)
設計津波(津波レベル1)の水位の設定方法
平成23年東北地方太平洋沖地震による津波の対策のための津波浸水
シミュレーションの手引き
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
岩手県沿岸の海岸堤防高の設定
[岩手県沿岸における海岸堤防高さの設定について(第2回):岩手県、2011.10.20]
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
宮城県沿岸の海岸堤防高の設定
[東日本大震災の記録(暫定版)、宮城県土木部、2011.9]
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻
復興の目標
巨大津波に耐えられる施設建設は技術的には可能だが、 膨大な費用がかかる。
その前に、 — 構造物の耐用年数(一般に50年、維持管理しても100年)との不整合
— 建設したとしても、巨大津波を超過する津波来襲の可能性が否定できない
— 防護されない堤外地での活動は依然として存在する
— 海と陸との連続性を断ち切ってよいのか?
最大クラス津波には、避難して生命を守る — 高地移転、盛土、津波避難ビルの指定・建設などを組み合わせる
— 低地にも津波避難施設となる建物を積極的に建てる
— 数多くの「無駄な」避難の中で1回でも命が救えれば大成功という認識の普及が重要
— 最大クラス津波を超える可能性を考慮した、安全の多重化を目指す
設計津波には、堤防・防波堤で生命・財産を守る — 一生に一度程度の津波からは守られる
— 設計津波を超えても、破壊しにくい「粘り強い」構造物を目指す