川上ゼミ卒業論文講評 - senshu-u.ac.jpoff0065/2_shakaigakka/2.5_thesis/2016(2017.3... ·...

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1 川上ゼミ卒業論文講評 比較文化史社会学の研究を中心とするゼミナール 担当 川上周三 2016年度の川上ゼミで、卒業論文を提 出したのは、鈴木かおり、松村美穂、柏木真里 子、里吉加奈、赤川祥子、柳郁美、高田侑奈、 赤崎瑞樹、坂口円花、岩下芽以、木村潤哉、山 川裕太、竹田菜々、島田侑希の14名であった。 鈴木の卒論、「現代女性の美意識について」 は、最初に美の歴史から研究を開始し、次に、 その現代的展開をデータに基づき、詳細に論じ た論文である。現代においては、キレイ・イデ オロギーに女性が拘束されている面もあるが、 他方で、女性の美に対する価値観が多様化もし ているので、その多様な価値観が互いに作用す ることによって、キレイ・イデオロギーから解 放される面もあるということを、カール・マン ハイムのイデオロギー論を使って論究している。 女性の美意識を、イデオロギーとその解放と いう視点から論じることにより、美の社会学的 研究を成し遂げている。着眼点の光る論文であ る。 松村の卒論、「ロックミュージック-社会学 的な視点からみる洋ロックと邦ロック-」は、 洋ロックの歴史と邦ロックの歴史を、ピエー ル・ブルデューの場の理論とポール・ギルロイ の経路の理論を使って、社会学的分析を行った 論文である。アウトサイド指標・アート指標・ エンタテインメント指標の3面と経路は、洋ロ ックでも邦ロックでも当てはまるが、洋ロック には洋ロックの社会的歴史的地政学的背景があ り、邦ロックにも同様の背景があるので、その 枠組みのため、邦ロックは、洋ロックに接近し たかと思えば、遠ざかるディレンマを抱えてい ると論じている。 ロックミュージックを、社会的歴史的地政学 的な側面から、歴史社会学的研究を行った優れ た論文である。 柏木の卒論、「若者のコミュニケーション- キャラ分析による実態調査-」は、現代の若者 のキャラコミュニケーションの役割が、対立を 避け人間関係を円滑にすること、居場所を確保 すること、自己存在を確認することにあると論 じている。 他方で、いじられキャラを例に挙げ、閉鎖的 集団の中で、一度ついてしまった自分のキャラ に傷つきながらも、閉鎖的集団であるが故に、 そこから脱出できない問題点もあることを指摘 している。 現代若者のコミュニケーションの特徴を、キ ャラという視点から俯瞰した優れた論文である。 キャラの成立史に言及すると、さらに良い論文 になったと考えられる。 里吉の卒論、「東京ディズニーリゾートとカ リフォルニアディズニーランド」は、アメリカ 生まれのディズニーランドと日本の東京ディズ ニーリゾートを比較し、アメリカでは、ディズ ニーの生みの親ウォルトの信念に忠実なのに対 し、日本の場合は、独自の文化変容を遂げ、日 本風の物語を生み出すことによって、ウォルト 離れを起こしていると論じている。 この文化変容を、アンソニー・ギデンズの脱 埋め込み概念(ミッキーマウスの無国籍性や安 全で衛生的なことにより、アメリカから日本へ 文化が流入したこと)と再埋め込み概念(ディ ズニーシーから生まれた新たな物語〔統辞〕と ジャンル〔範列〕の入れ子構造により、日本流 文化に変容したこと)を使って説明している。 ディズニーランドを例に挙げ、そのグローバ ルな文化変容を詳細に論じた優れた論文である。 脱埋め込みと再埋め込みの例示をもっと徹底 して集中的に論じれば、さらに説得力のある論 文になったと考えられる。 赤川の卒論、「人間の内と外をつなぐファッ ション-ファッションに関する社会学的考察 -」は、ファッションが人間内部の心理や感情 と人間の外にある社会とをつなぐ役割を持って

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Page 1: 川上ゼミ卒業論文講評 - senshu-u.ac.jpoff0065/2_shakaigakka/2.5_thesis/2016(2017.3... · 建築の歴史とその種類、その具体例と特徴、文 化変容の概念、西洋風建築への概念の適用、そ

1

川上ゼミ卒業論文講評 比較文化史社会学の研究を中心とするゼミナール

担当 川上周三

2016年度の川上ゼミで、卒業論文を提

出したのは、鈴木かおり、松村美穂、柏木真里

子、里吉加奈、赤川祥子、柳郁美、高田侑奈、

赤崎瑞樹、坂口円花、岩下芽以、木村潤哉、山

川裕太、竹田菜々、島田侑希の14名であった。

鈴木の卒論、「現代女性の美意識について」

は、最初に美の歴史から研究を開始し、次に、

その現代的展開をデータに基づき、詳細に論じ

た論文である。現代においては、キレイ・イデ

オロギーに女性が拘束されている面もあるが、

他方で、女性の美に対する価値観が多様化もし

ているので、その多様な価値観が互いに作用す

ることによって、キレイ・イデオロギーから解

放される面もあるということを、カール・マン

ハイムのイデオロギー論を使って論究している。

女性の美意識を、イデオロギーとその解放と

いう視点から論じることにより、美の社会学的

研究を成し遂げている。着眼点の光る論文であ

る。

松村の卒論、「ロックミュージック-社会学

的な視点からみる洋ロックと邦ロック-」は、

洋ロックの歴史と邦ロックの歴史を、ピエー

ル・ブルデューの場の理論とポール・ギルロイ

の経路の理論を使って、社会学的分析を行った

論文である。アウトサイド指標・アート指標・

エンタテインメント指標の3面と経路は、洋ロ

ックでも邦ロックでも当てはまるが、洋ロック

には洋ロックの社会的歴史的地政学的背景があ

り、邦ロックにも同様の背景があるので、その

枠組みのため、邦ロックは、洋ロックに接近し

たかと思えば、遠ざかるディレンマを抱えてい

ると論じている。

ロックミュージックを、社会的歴史的地政学

的な側面から、歴史社会学的研究を行った優れ

た論文である。

柏木の卒論、「若者のコミュニケーション-

キャラ分析による実態調査-」は、現代の若者

のキャラコミュニケーションの役割が、対立を

避け人間関係を円滑にすること、居場所を確保

すること、自己存在を確認することにあると論

じている。

他方で、いじられキャラを例に挙げ、閉鎖的

集団の中で、一度ついてしまった自分のキャラ

に傷つきながらも、閉鎖的集団であるが故に、

そこから脱出できない問題点もあることを指摘

している。

現代若者のコミュニケーションの特徴を、キ

ャラという視点から俯瞰した優れた論文である。

キャラの成立史に言及すると、さらに良い論文

になったと考えられる。

里吉の卒論、「東京ディズニーリゾートとカ

リフォルニアディズニーランド」は、アメリカ

生まれのディズニーランドと日本の東京ディズ

ニーリゾートを比較し、アメリカでは、ディズ

ニーの生みの親ウォルトの信念に忠実なのに対

し、日本の場合は、独自の文化変容を遂げ、日

本風の物語を生み出すことによって、ウォルト

離れを起こしていると論じている。

この文化変容を、アンソニー・ギデンズの脱

埋め込み概念(ミッキーマウスの無国籍性や安

全で衛生的なことにより、アメリカから日本へ

文化が流入したこと)と再埋め込み概念(ディ

ズニーシーから生まれた新たな物語〔統辞〕と

ジャンル〔範列〕の入れ子構造により、日本流

文化に変容したこと)を使って説明している。

ディズニーランドを例に挙げ、そのグローバ

ルな文化変容を詳細に論じた優れた論文である。

脱埋め込みと再埋め込みの例示をもっと徹底

して集中的に論じれば、さらに説得力のある論

文になったと考えられる。

赤川の卒論、「人間の内と外をつなぐファッ

ション-ファッションに関する社会学的考察

-」は、ファッションが人間内部の心理や感情

と人間の外にある社会とをつなぐ役割を持って

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川上周三ゼミ

2

いることを社会学的に探求した論文である。

このテーマに接近するために、ファッション

と流行理論、近代社会におけるファッションと

いう社会現象とその機能、ファッションが人間

内部に作用する力、消費社会とファッションの

関係について論じている。

その結果、ファッションの意義は、個人の生

活に充足をもたらすこと、他者からの評価を得

ることにあることが分かったと論じている。

人間の欲求とファッションの関係、社会とフ

ァッションの関係の両面を解明した優れた論文

である。

柳の卒論、「箱根駅伝~メディアが視聴者と

選手に与える影響~」は、箱根駅伝を事例とし

て取り上げ、テレビが視聴者と選手に与える影

響を社会学的に研究した論文である。

このテーマに接近するために、テレビ報道事

業と視聴者理論、箱根駅伝の歴史とテレビ中継、

視聴者から見た箱根駅伝、選手から見た箱根駅

伝とテレビ中継が選手に与える影響について論

じている。

視聴者から見た箱根駅伝と箱根駅伝が選手に

与える影響については、アンケート調査を行い、

その結果、視聴者はスポーツ中継ではなく、「ド

キュメンタリー」としてドラマのように見てい

る人が多いこと、選手にはモチベーションを高

める面がある反面、緊張感やプレッシャーを与

えている面もあることが分かったと論じている。

箱根駅伝の事例を通して、テレビが視聴者と

選手に与える影響について検討した優れた論文

である。

他のスポーツ中継にもこの研究結果が当ては

まるかどうかを検討すれば、さらに良い論文に

なったと考えられる。

高田の卒論、「ギャンブルと共存する日本-

カジノ法案を機に見直すギャンブルの問題点

-」は、ギャンブルの社会学的研究をすること

により、ギャンブルの問題点を明るみに出し、

それによって、問題点を克服し、ギャンブルと

社会との共存を探求した論文である。

このテーマに接近するために、ギャンブル

の歴史、ギャンブルが社会に与える影響、カジ

ノ法案の内容と目的の紹介、アンケート調査に

よる若者のギャンブル観やカジノへの関心につ

いて論じている。

その結果、現在の日本人がギャンブルに悪い

イメージを持っているにも関わらず、国全体で

は、ギャンブルに依存していることが分かった

と結論づけている。

歴史的に見れば、日本人はギャンブルを娯楽

として社会的に不可欠のものとして肯定的に捉

え、ギャンブルと共存してきたので、ギャンブ

ル依存症対策をしてその問題点を克服し、ギャ

ンブルと共存していくことが今後の日本の取る

べき道であると主張して、その論のまとめとし

ている。

ギャンブルを歴史社会学的に研究することに

より、社会とギャンブルとの共存可能性を解明

した優れた論文である。

赤崎の卒論、「スポーツメンタルについて」

は、スポーツにおいて選手が実力を十二分に発

揮するためには、メンタルトレーニングをする

ことやコーチ及びチームとの信頼関係を確立す

ることが必要であるということを明らかにした

論文である。

このテーマに接近するために、メンタルトレ

ーニングの概要説明、その具体的実践内容であ

るイメージトレーニングやセルフトーク、選手

とコーチの信頼関係、チームとの信頼関係につ

いて説明し、最後に、専修大学の選手100名

に、メンタルトレーニングの実践内容・コーチ

との信頼関係・試合で実力を発揮するのに必要

なものについてのアンケート調査を行っている。

アンケート結果では、代表的なメンタルトレ

ーニング法の内、目標設定・プラス思考・集中

力・イメージトレーニング・試合に対する心理

的準備が多数を占めていること、コーチとの信

頼関係は、大多数が重要であると考えているこ

と、実力を発揮するためには、練習が一番重要

であること、次に気持ちの安定、精神面の強さ、

リラックス等の精神面が重要であると考えてい

ることが分かったと述べている。

スポーツにおける精神面の重要性を、スポー

ツ心理学の面から解明し、併せて、選手とコー

チや選手とチームの信頼関係の重要性を、社会

学的に説明した優れた論文である。

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2016年度 卒業論文講評

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坂口の卒論、「ディズニーランドはなぜ人気

なのか」は、ディズニーランドの人気の秘密に

社会学的視点から解明を行った論文である。

このテーマに接近するために、テーマパーク

の概要説明、東京ディズニーリゾートの歴史、

ディズニーランドの分析枠組みとその適用、デ

ィズニーランドにおける空間作りの工夫、誕生

シール・隠れミッキー・モップアートの演出に

ついて論じている。

その結果、東京ディズニーランドには、ソフ

トパワーの側面・観光における巡礼としての側

面・ハイパーリアルな側面・ハレとしての祭礼

の側面・承認欲求の側面・無意識に作用する音

楽の側面・巧みな演出の側面があるので、その

多面的な作用により、人気があることが分かっ

たと結論づけている。

民俗学的分析や社会学的分析及び社会心理学

的分析を駆使することによって、東京ディズニ

ーランドの魅力を解明した優れた論文である。

岩下の卒論、「近代西洋風建築に見る日本の

異文化受容」は、明治時代の西洋風建築を対象

にして、近代日本における異文化受容を探求し

た論文である。

このテーマに接近するために、明治の西洋風

建築の歴史とその種類、その具体例と特徴、文

化変容の概念、西洋風建築への概念の適用、そ

の他の文化である文部省唱歌との比較について

論じている。

その結果、西洋風建築は、お上の系譜とお雇

外国人、民の系譜、役人技術者の系譜の種類に

まとめられること、文化変容の概念は、文化変

容・同化・統合の3概念であること、この概念

を上記の系譜に適用すると、文化変容は、お上

の系譜・お雇い外国人、同化は、役人技術者の

系譜、統合は、民の系譜になること、唱歌との

比較では、唱歌には、同化の側面があることが

論じられている。

明治の西洋風建築を対象にして、近代日本の

異文化変容の諸類型を解明した優れた論文であ

る。

異文化変容の諸類型だけでなく、諸類型間の

移動や文化変容の3概念がクロスする側面もあ

ることを論じれば、さらに良い論文になったと

考えられる。

木村の卒論、「チームスポーツにおけるコミ

ュニケーションの役割」は、チームスポーツに

おけるコミュニケーションの重要性について論

じた論文である。

このテーマに接近するために、コミュニケー

ションの概念・方法・種類や上下関係のコミュ

ニケーション・レギュラーと控えのコミュニケ

ーションや日常生活でのコミュニケーションに

ついて述べ、次に、チームワークについて論じ

ている。これを受け、コミュニケーションとチ

ームワークの関係を具体的に検討するため、専

修大学、日本大学、帝京大学のラクロス部の1

01人にアンケート調査を行っている。

アンケート調査は、先輩後輩の別なく、選手

間のコミュニケーションがとれているという問

いに、大部分の学生(94人)がそう思うと回

答し、また、チームの適切な目標が設定されて

いるという問いには、全員がそう思うと回答し

ている結果となった。選手間のコミュニケーシ

ョンが円滑に行われるチームは、チームワーク

がとれており、これにチームの適切な目標が設

定されれば、強いチームができると結論づけて

いる。

チームにおけるコミュニケーションの役割に

ついて、社会調査を行って具体的に論じた優れ

た論文である。

山川の卒論、「日米の文化の違いから見える

アメリカ人と日本人の性格」は、日本とアメリ

カの歴史や文化を検討し、そこから出てくる日

米人の性格について考究した論文である。

このテーマに接近するため、日本文化では、

日本文化の歴史(鎌倉時代から明治時代)、自然

や風土から見た日本人論、生活文化、家族から

見た日本人論、対人関係論、集団心理論、恥の

文化を検討し、アメリカ文化では、アメリカ文

化の歴史と日本との関わり、罪の文化と恥の文

化を検討している。それを受けて、両文化から

見える現代の日本とアメリカの違いを、王権論

の違い、民衆の発生の仕方の違いやタテ社会と

ヨコ社会の違い、子育ての違い、甘えの違い、

経営の違いを論じている。

本論文のポイントは、第3章の日米比較文化

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川上周三ゼミ

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論に集約的に示されている。それは、ルース・

ベネディクト、丸山真男、土居健郎、中根千枝

の4者をリンクさせた日米比較論となっている。

これに比べると、第1章の日本文化論は、日

本文化論を多数詰め込んだ寄せ集めの論となっ

ている。第1章をもっと焦点づけて絞り込んだ

方がすっきりした論文になったと考えられる。

ともあれ、本論文は、ルース・ベネディクト

の『菊と刀』論を深めた内容となっており、そ

の意味で、刺激的な好論文である。

竹田の卒論、「酒の歴史とその役割について」

は、酒の歴史を概観し、その役割が家族でも職

場でもない憩いの場である第3の場の役割を果

たしていることを、社会学的に解明した論文で

ある。

本論では、酒の種類と起源、世界の酒の歴史、

日本の酒の歴史を概観し、次に、酒の役割には、

食生活における役割とコミュニケーションツー

ルとしての役割があると述べ、最後に、レイ・

オルデンバーグのサードプレイス論とその論を

日本の居酒屋に適用したマイク・モラスキーの

諸事例を挙げ、それによって、酒が楽しい語ら

いの場としての第3の場の役割を果たしている

ことを実証的に論じている。

酒の歴史を概観し、酒が、楽しい語らいの場、

憩いの場としての第3の場を生み出す役割を果

たしていることを、実証的事例を提示すること

によって、社会学的に解明した優れた論文であ

る。

島田の卒論、「日本のマナーは悪化している

のか」は、日本のマナーの過去と現在について、

データに基づいて歴史社会学的に解明した論文

である。

このテーマに接近するために、まず最初に、

マナーの定義、マナーの起源とその日本への伝

播について説き起こし、次に、日本のマナーで

ある小笠原流礼法・江戸しぐさ・儒教について

述べ、その後、戦前と戦後のマナーを、鉄道マ

ナーと花見会場の定点観測を事例として挙げ、

戦前と戦後のマナーを比較している。

その結果、戦前に比べて、戦後はマナーが向

上していることが分かったと述べている。

では、現在、何故マナーが低下していると感

じるのかという問いを立て、その理由として、

マナー違反のテレビの映像を視聴者全員が見る

ことにより、マナー違反を代理体験してしまい、

それによって、マナーが低下していると感ずる

のだと論じている。

日本のマナーの過去と現在を、歴史社会学的

に解明し、併せて、現在、日本のマナーが低下

していると感じる原因を、マスメディアの理論

である議題設定機能仮説とカルティベーション

効果を使って説明した優れた論文である。

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2016年度 卒業論文要旨

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現代女性の美意識について

HS25-0002A 鈴木 かおり

現代の美意識のあり方を明らかにした。はじめ

に古代から 20世紀に至るまでの女性と化粧と

美意識に関する歴史を一気に振り返り、様々な

美の様式があることを学んだ。その中には現代

と共通する考えも見受けられ、美の理想像は繰

り返し巡っていくものであると解釈できた。次

に具体的な現代社会の美の様相に迫った。調査

データを基に考察を進めると、男性の美意識の

高まりや中性的ファッションの流行など新しい

美のあり方が生まれていることが分かった。ま

た、女性はほとんどの人が「キレイ」を目指す

姿勢を見せているが、それぞれ重要視する点が

異なるということも明らかになった。そして、

それらはバランスよく分配され均衡を保ちつつ、

互いに影響を与え年代ごとに推移していること

が見てとれた。さらに、男女ともに「若さ」や

「肌」が見た目の印象に与える影響は大きく、

「美しさ」を感じさせる基準となっていること

も分かった。そして、現代社会では情報検索機

能としても利用されている「インスタグラム」

に焦点を当てて現代社会の若者のリアルな興味

関心を探った。モデルや女優などの私生活やフ

ァッション関連、また食事や有名企業などの注

目度が高かった。また、「インフルエンサー」と

いう存在に言及し、それが社会に「美」を押し

出していると論じた。この存在によって「キレ

イ」のトレンドが作られる。そして現代女性は

社会から供給される「キレイ」のイメージを目

指すことを当然とされる。これを「キレイ・イ

デオロギー」と呼び、カール・マンハイムのイ

デオロギー定義を基に考察を試みた。キレイ・

イデオロギーは確かに存在するが、現代の美意

識は多様化によって相関主義の状態にあり一元

化することなく全体的イデオロギーの形を留め

ているとした。また、現代女性に「浮遊するイ

ンテリゲンチャ」の立場に立った見解を期待し

た。

ロックミュージック

―社会学的な視点からみる洋ロックと邦ロック―

HS25-0010A 松村美穂

まず、ロックミュージックとはロックンロー

ルを前段階に持ち、後の経由からロックと呼称

され完成した音楽を指す。また、「十代の反抗」

を示す音楽としての意義を獲得し、ロックは対

抗文化の象徴的存在となった。このロックミュ

ージックには、社会学的な視点から見ると、三

つの指標がある。それは、アウトサイド指標、

アート指標、さらに、エンターテイメント指標

である。また、これらの指標以外にロック理論

も存在した。それが、ピエール・ブルデューが

唱えた<場>の概念である。この<場>の社会

的な空間から生まれる差異を他者との比較にお

いて自己を見出していく、これがピエール・ブ

ルデューの言う概念である。この<場>の概念

の中では、差異から生まれる階級に関係する、

「資本」、「象徴闘争」の力も働いている。そし

て、ポール・ギルロイが提示した「経路(routes)」

もロック理論に当てはまる。「経路(routes)」

とは、どこの出身かという起源ではなく、民族

や人種という枠組みで語ることには意味がある。

つまり、今自分は民族や人種のどこに向いてい

るのか、どういう表現を何のために今この場で

しようとしているのか、といった自分が今立っ

ている道に注視することが重要であることを指

す概念である。第四章では、アメリカ南部の地

域の特色、そこのロックンロールの歴史、ロッ

クンロール界で英雄となったエルヴィス・プレ

スリーの人生を述べた。アメリカ南部では人種

問題が絶えなかったが、ロックンロールが流行

り、若者の間で文化となることで昔にあった考

え方、固執した習慣を揺るがし、変化を生み出

せた。第五章では、日本のロックミュージック

の歴史を一九六○年から、十年ごとに述べた。

これら第四章のアメリカのロックミュージック

の歴史と第五章の日本のロックミュージックの

歴史を比較していくと、前述した三つの指標と

ロック理論が言える。エルヴィス・プレスリー

は「経路(routes)」の概念、日本のロックの歴

史はアメリカの本物のロックを追求するために、

エンターテイメント指標から始まり、アウトサ

イド指標やアート指標へ行くなど、あらゆる変

遷を辿ってきた。これらの変遷は、「経路

(routes)」が当てはまる。

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川上周三ゼミ

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若者のコミュニケーション

―キャラ分析による実態調査―

HS25-0015B 柏木真里子

現代の若者たちは社会で生きていく中で必要

不可欠なコミュニケーションをどのように営ん

でいるのだろうか。近年出現したキャラという

要素も分析しながら問題点を見つけ出したいと

思う。

若者たちは閉鎖的な小グループで楽しさや面

白さを重視するコミュニケーションを行い、な

るべく対立を避けて人間関係を円滑にしようと

する姿勢を示していた。そしてそのグループ内

で居場所を確保するためにキャラをつけ合って

いる。他者からキャラをもらえないと自分で自

分の存在が確認できない。代え難い個性的な人

間として、自分や仲間が存在していることを認

識し合うことが必要だからこそ、自分の一面を

強調し、お互いを分かりやすくするのが「キャ

ラ」なのである。

しかし、その一度ついてしまったキャラと自

分の考える自己が食い違うことによって傷付い

ている者がいることは若者のコミュニケーショ

ンにおける問題点であると言える。この問題の

原因の一つに、若者が雰囲気に流されることが

考えられる。若者の間には雰囲気や空気が絶大

な支配を誇っており、常に空気を読んで雰囲気

を壊す言動はしてはいけないという考えが根底

にあると思われる。また、最近は SNS が普及

し、ネット上でも空気を読んで仲間に敏感に気

を遣う優しい関係が求められている。

「若者のコミュニケーション能力は低下して

いるのか」という議論をよく見かけるが、本論

文においては、若者のコミュニケーションが高

度化したという結論に至った。その結果、キャ

ラという文化が生まれたのだと考える。

東京ディズニーリゾートと

カリフォルニアディズニーランド

HS25-0020G 里吉加奈

日本で大人気のテーマパークである東京ディ

ズニーリゾート。もともとは、ウォルト・ディ

ズニーがアメリカ・カリフォルニア州につくっ

たディズニーランドが始まりであるが、アメリ

カと日本という文化の違いもあるなかでどのよ

うに浸透し、日本で受け入れられたのか。アン

ソニー・ギデンズの脱埋め込み・再埋め込みの

概念や統辞と範列の入れ子構造を使って明らか

にしていく。ウォルトは貧しい家庭に生まれ、

幼少期から新聞配達などの労働を強いられ、さ

らにミズーリ州マーセリーンという夏は暑く、

冬は寒い内陸性気候で、冬は日中でも氷点下と

いう厳しい自然環境で生活していた。そのため、

自分が思い描いていた夢のような国“ディズニ

ーランド”をつくった。反自然的であることや

安全性、衛生的であることを徹底し、無国籍的

な“ミッキーマウス”のようなキャラクターを

生み、世界へ人気が広がり、脱埋め込みを果た

した。その後、1983 年東京ディズニーランド、

2001 年東京ディズニーシーがグランドオープ

ンした。日本での人気を定着させるため、パー

ク内のあちこちにテーマがあり、範列(ジャン

ル)が統一された環境におかれ、その中で一連

の統辞(物語)を理解して、さらにジャンルと

物語のつながりを感じることでテーマ性の中に

引き込まれる。この、統辞と範列が入れ子構造

的に配置されテーマ性を強く感じることができ

ることが、日本人に受け入れられ、再埋め込み

を果たした。東京ディズニーリゾートは、年月

が経つにつれ、テーマの一貫性を失い、“ウォル

ト離れ”が起こっているが、年間入場者数は年々

増加している。それに対し、カリフォルニアデ

ィズニーランドはウォルトの信念に忠実で精神

を守ろうとする志向が強い。東京ディズニーリ

ゾートは、ウォルト離れというが日本人に合っ

たサービスをするために努力した結果なのでは

ないか。

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2016年度 卒業論文要旨

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人間の内と外をつなぐファッション

― ファッションに関する社会学的考察 ―

HS25-0035D 赤川祥子

この論文では、ファッションの持つ人間の内

にある心理や感情と人間の外に広がっている社

会をつなぐ力について考察する。第一章では、

ファッションを語るうえでかかすことのできな

い「流行」という概念や機能、今後の展開につ

いて様々な研究者の文献を援引しながら考えて

いく。第二章では、ファッションの持つ社会と

いう外部に働きかける力について、第三章では、

自己をつくりあげるために人間の内にはたらき

かける力についてそれぞれ検討した。第四章で

は消費社会とファッションの関係について現代

の日本に焦点を当てて考察した。その結果、フ

ァッションの意義を以下のようにふたつにまと

めることができた。

第一の意義は、個人の生活に充足をもたらす

ことである。元来ファッションは、固定化され

た階級の中で自分の地位を表すための記号でし

かなかった。しかし、経済成長に伴い、社会が

発展するにつれてその一義的な意味は姿を消し、

ファッションは多様化の方向へ向かっていく。

人々はファッションによって、アイデンティテ

ィに関することや、自身の感情など内面的なも

のも自由に表現するようになったのだ。ファッ

ションが人々の欲望の表現や解消の役割を果た

していることが明らかになった。第二の意義は、

他者からの評価を得ることである。人々はそれ

ぞれの生活環境や生活圏のなかにある「常識」

をひとつの基準として、自分のファッションを

その基準に照らし合わせる作業を無意識のうち

に行っている。わたしたちが、人々によってつ

くりあげられた社会に身を置いている限り、他

者の視線や評価を無視することは絶対にできな

いのである。

ファッションはわたしたちが快適な生活を送

り円滑な対人関係を築くために必要不可欠なも

のなのである。わたしたちは、そのようなファ

ッションを人間の内にある心理や感情と、人間

の外に広がる社会とをつなぐものとして、これ

からも最大限に活用していくべきであろう。

箱根駅伝 ~メディアが視聴者と選手に与える影響~

HS25-0064E 柳 郁美

「新春の風物詩」として知られている箱根駅

伝は駅伝ファンや陸上競技者はもちろん、普段

はスポーツなど全く見ない人でも、箱根駅伝な

ら見たことがあるという人が多い。毎年様々な

ドラマを生むこの競技は、現在では日本を代表

する人気スポーツになっている。箱根駅伝がこ

んなにも有名で人気になったのはテレビ放送が

始まってからである。本論文ではメディアは箱

根駅伝を走る選手・箱根駅伝を視聴する視聴者

にどのような影響をもたらしているのかを分析

している。

マスメディアは昔に比べ大きく発達している。

メディアの進化は大きく分けて「活版印刷以前」

「活版印刷の登場」「ラジオの登場」「テレビの

登場」以上 4つに分類できる。今では当たり前

のように見られるテレビも様々な進化を遂げて

生まれたのである。また、マスメディアが発展

していくように、テレビ視聴者のスタイルも変

化していっている。1950年~70年代は「見物・

鑑賞的テレビ視聴」、1980 年代に入ると「能動

的テレビ視聴」、それ以降になると「相互作用的

テレビ視聴」と変化していった。この 3つの視

聴スタイルの中で、箱根駅伝のテレビ側は走っ

ている選手・学校の情報を細かく実況をする、

今までの練習映像を流す、あえて負けた選手・

アクシデントが起こった映像を流すなど、視聴

者に感動を与えられるように工夫する。それを

見た視聴者は仕掛けと知りながらも感動し、見

ず知らずの人でも応援したくなる。箱根駅伝の

テレビ視聴スタイルはこのようにテレビ側が仕

掛け、視聴者がノル“相互作用的テレビ視聴”

に値する。また、アンケート調査によりメディ

アは選手にも多くの影響を与えていることがわ

かった。メディアによって気持ちが高まりモチ

ベーションが上がったり、現地ではなくても走

っている姿を見てもらえるというメリットがあ

る反面、メディアに取り上げられすぎてプレッ

シャーになったり、アップなど直前の準備の時

に気が散るなど悪い影響もある。メディアに取

り上げられることは選手にとって非常に大きな

重圧を与えている。箱根駅伝のテレビ放送(メ

ディア)は視聴者にも選手にも多くの影響を与

えている。

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川上周三ゼミ

8

ギャンブルと共存する日本

―カジノ法案を機に見直すギャンブルの問題点―

HS25-0077F 高田侑奈

長らく先送りされてきたカジノ解禁案。2020

年東京オリンピック開催と共に、カジノを含む

統合型リゾート施設の設置に向けて、ついに“カ

ジノ法案”が動き出した。しかし、カジノの目

的であるギャンブルというのは、日本人の多く

が嫌悪するものである。

本論文では、日本人がギャンブルに対し悪の

イメージを抱きながら、世界の国々の中でも特

にギャンブルに依存していることを明らかにし

ていった。日本のギャンブルには問題も多く潜

んでいる。カジノが注目される中、改めて、既

存ギャンブルに向き合うべきではないだろうか。

第一章では、ギャンブルの起源から、現在の

世界のカジノ及び日本のギャンブルについて紹

介している。ギャンブルが太古より人々に愛さ

れ、繁栄してきたものであるかを明らかにして

いる。また、特に日本の公営賭博及びパチンコ

の問題点について注目してもらいたい。

第二章では、ギャンブルが社会に及ぼす影響

についてまとめている。ギャンブルは様々な面

で私達の生活に影響をもたらしているのである。

この章の第一節では、ギャンブルがそもそも規

制とされるのは何故かを考察している。宗教や

民族によるギャンブル観の違いも面白いもので

ある。現在の日本人の持つギャンブル観の形成

もここで明らかになっている。

第三章は、カジノ法案の内容やその主とした

目的の紹介から始まる。第二節において、実施

したアンケート調査を基に若者のギャンブル観

やカジノへの関心について考察している。論末

では、日本人がキャンブルに対し悪いイメージ

を持っているにも関わらず、国全体で依存しき

っていることを明示した。そして、私達はそこ

に潜む問題を見直していく必要がある。そのタ

イミングは、カジノ法案によってギャンブルそ

のものが注目され出した今なのである。

スポーツメンタルについて

HS25-0080E 赤崎瑞樹

本論文では、スポーツメンタルについて分析

した。これまでの卓球経験から、実力を最大限

に発揮するためには、技術や体力だけでは難し

く、そこに強い精神面も持つことが大事だと感

じた。スポーツ心理学を踏まえて、精神面はど

んな場面で大きく現れるか、それを改善するた

めにはどのようなメンタルトレーニングを行っ

ていくべきか、実際にスポーツ選手はどのよう

なメンタルトレーニングや自分に打ち勝つため

の解決法を見出しているのかについて考察して

いく。

メンタルトレーニングとは、自分の可能性を

引き出し「心をコントロールする」方法である。

技や体をコントロールしている心が土台になり、

一流選手は土台をしっかり保つことに力を注い

でいる。強いメンタルを作るために集中力・プ

レッシャー・イメージトレーニング・セルフト

ークが重要とされる。

コーチの存在は、選手の持っている才能を発

揮させ成績を大きく左右させる。コーチの仕事

は、多面的な条件の絡み合いによって決まり、

豊富な知識や経験を持っていることが必要とな

る。完璧な人間である必要はなく、あらゆる面

で自分自身の向上に努めていることを、選手に

示す必要がある。

チームの信頼関係では、一人の行為により、

グループがその地位を失う可能性を克服させる

のに何らかの役に認められているときである。

いろんな方法で一人一人に役割を与えてやるこ

とは個人のモラールを高め、チームをより一体

感のあるものにするのに大切なことである。強

いチームは、選手は自分が協力できるものと協

力できないものとにチームメイトをはっきり識

別できるが、弱いチームでは、選手はチームメ

イトを全て同質に見ており、区別できない。

アンケート調査では、試合や練習前に実施し

ているメンタルトレーニングを 2章で説明した。

実力発揮のためは監督・コーチとの信頼関係が

9割以上が必要と答えた。実力発揮で一番重要

だと考えるものは多くの選手が心理的な部分で

あった。

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2016年度 卒業論文要旨

9

ディズニーランドはなぜ人気なのか

HS25-0081C 坂口円花

本論文では、様々な社会学視点や心理学的視

点を使って分析、またディズニー側が行ってい

る工夫点、サービスを記述し、東京ディズニー

ランドがなぜこれほどまで人気を集めているの

かをまとめた。第 1章ではディズニーランドが

属しているテーマパークの定義や歴史について、

第 2章ではディズニーランドの成り立ちをまと

めていく。第 3章では、ディズニーランドを構

成する社会学的枠組みを記述し、第 4章ではそ

の枠組みをディズニーランドにあてはめ読み解

いていった。第 5章・第 6章では実際にディズ

ニーランドが行っている空間づくりの方法や工

夫を記述した。結果からディズニーランドは、

完全に日常を排除した空間を作り上げることで

ゲストに普段の生活では体験することのできな

い「非日常の体験」を与える。また、ささいな

驚きと感動のサービスを与えることによってゲ

ストが自らの物語の主役となれる。これこそが

ディズニーランドの人気を高まらせている要因

となることが分かった。

近代西洋風建築に見る

日本の異文化受容

HS25-0089J 岩下 芽以

現代の日本社会は様々な国や地域の文化、習慣

を受け入れて成り立っている。そんな日本が外

国文化を受け入れるようになった大きな転機の

一つに 1854年の開国がある。その後明治政府の

欧化主義政策も進められ、日本人の生活に西洋

文化が広がり、街の様子も変わっていった。建

築もその一つである。明治初期の西洋風建築は、

「お上の系譜・お雇い外国人」、「民の系譜」、「役

人技術者」の三つの系統の建築家によって建設

された。西欧の建築技術に主観を置き、それを

もって日本の建築を近代化しようとする「お上

の系譜・お雇い外国人」。見よう見まねで西欧建

築を学習し、民間の建築に応用した大工たちで

ある「民の系譜」。官庁に勤めていた日本人下級

官僚技術者である「役人技術者」。この三者がそ

れぞれの立場から西洋風の建築物が建てられて

いった。本論文ではこの三者を水上徹男の異文

化社会適応の理論を用いて社会学的視点から分

析した。その結果、「アカルチュレイション(文

化変容)」=「お上の系譜・お雇い外国人」、「ア

シミレイション(同化)」=「役人技術者」、「イ

ンテグレイション(統合)」=「民の系譜」と当

てはめることができた。また、唱歌にもこの概

念が適用できたことから、建築だけでなくその

他の文化にもこの理論が応用できることがわか

った。興味深いのは、この三者ともが、西洋の

文化を受け入れる姿勢をとっていることだ。も

ちろん、国の方針が大きな要因であると考えら

れるが、新しいものに興味を持ち、柔軟に受け

入れていこうという態度は、現代の日本人、日

本社会に通じるものがあるのではないだろうか。

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川上周三ゼミ

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チームスポーツにおける

コミュニケーションの役割

HS25-0094D 木村潤哉

私は大学に入りラクロスを始めたことで、チー

ムスポーツにおいてコミュニケーションがいか

に大切かを知ることができた。まずは参考文献

を用いてコミュニケーションやチームについて

考察を行い、先行研究の知見とアンケート調査

が一致したかどうかをまとめていく。アンケー

ト調査は専修大学、日本大学、帝京大学(合計

101 人)のラクロス部員に行い、チームワーク

を向上させるためには、コミュニケーションの

技術を向上させればよいと考え、コミュニケー

ション能力と信頼関係は比例するかどうか。ま

た、その間にはどのような影響があるかを考え

た。先行研究で「チームワークというものは、

チームのメンバーがお互いの考えを理解し合う

ことで築かれるものである。お互いが言いたい

ことを言い合えないような上下関係はコミュニ

ケーションを悪くする。」と述べた。これに対し

てのアンケート調査結果として「先輩・後輩関

係なく、選手間のコミュニケーションがとれて

いる」という問いで、とてもそう思う、そう思

うと答えた人は 94 人であった。また「チーム

の誰もが全体の目標を共有し、理解しているか

について、チームの可能性を最大限に引き出す

には、メンバーが共通の目標を掲げ、同じ意識

を持つことが大切である」と考えたことの結果

として「チームの適切な目標が設定されている」

という問いに対し、とてもそう思う、そう思う

と答えた人は 101人すべての人であった。一方

で、強いチームを作るうえでグランドや指導者

の指導力が重要と考えていたことに対しての結

果としては、あまりそう思わないと考える人が

2,3割いたことに意外性を感じた。このような

結果から、コミュニケーションをとればとるほ

ど良い信頼関係を築くことができると考察する

ことができた。

日米の文化の違いから見える

アメリカ人と日本人の性格

HS25-0097J 山川 裕太

本論文では、アメリカと日本の時代背景や行動

様式の違いから見えるアメリカ人と日本人の性

格を分析した。まず、アメリカでは、キリスト

教の信仰によりピューリタンが植民し各地に出

現した。それにより「キリスト的個人主義」が

基調となり、一挙一投足が神の御心に叶ってい

るかを内面的に吟味する「罪の文化」が根付い

た。

また、日本では、タテ社会、天皇の権威が強く

現れてきた封建制度の強まる鎌倉時代から明治

時代までを分析している。鎌倉時代は、階層制

度が強く現れ、「四民平等」「エタ、ヒニン」な

どの階級が出現した。明治時代では、様々な日

本人論が現れた。中でも、「対人関係論」「集団

心理論」は日本人の性格を理解するのに大きな

役割を果たしている。「対人関係論」では丸山真

男が、「ササラ型」と「タコツボ型」を述べてお

り、無思想無構造の日本は「タコツボ型」にな

り、キリスト教が基盤にあるアメリカは「ササ

ラ型」になると述べた。また同時に、中根千枝

は、上下関係を気にする日本はタテ社会が基調

とされており、キリスト教の唯一神であるイエ

ス・キリストと個人との関わりを大事にするア

メリカはヨコ社会であると述べた。「対人関係

論」は、仲間意識について述べており、「ウチと

ソト」を考えて行動するのが日本人の特徴であ

り、個人ではなく「場」を気にするのが特徴だ

と述べている。また、この二つの日本人論に特

徴しているのが、日本人は、周りからの評価を

気にする「恥の文化」が根付いているとルース

の「菊と刀」などで述べられている。「恥の文化」

は、H・スペンサーによると、「軍事型社会」の

「軍事的要請」から生まれたものと考えており、

敵に尻込みしていることは「恥」という思考が

出現し、武士の時代が長かったため根付いたと

述べている。このアメリカと日本の違いから、

子育ての違い、王権制の在り方の違いなどが出

現するようになる。

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2016年度 卒業論文要旨

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酒の歴史とその役割について

HS25-0100J 竹田菜々

本論では、日本の酒の歴史や文化、役割につい

て述べてきた。第 1章では、酒の起源について

言及したうえで、世界(主に西洋)の酒の歴史、

日本の酒の歴史に触れながら、日本の酒文化の

成立についてみてきた。酒の歴史は様々な逸話

があり、すべて明記できなかったが、日本でも

西洋でも共通して言えることは、酒は人間の歴

史や生活に深い関わりがあり、人類の発展と並

行して酒も発展しているということがわかった。

第 2章では、人々の生活の中で酒が果たしてい

る役割について、日本の食文化に触れながら、

食生活における役割を明らかにした。また、酒

が人々に与える影響やコミュニケーションツー

ルとしての役割についても触れた。日本では土

地や環境、季節に合わせた料理に合う酒が造ら

れ、さらに発展していった料理様式や芸能の背

景には、それらを楽しむための酒と深い関係に

あり、それらが日本の飲酒文化の一要因であっ

た。また、お酒は、時代の変化と共に増えてい

った社会的地位の、それぞれの属する集団から

感じる緊張から一時的に抜け出す手段として飲

まれていることがわかった。文化の発展ととも

に複雑になっていった人間関係や社会でのスト

レスや心労から逃れるために集まる場で、集ま

った人々とコミュニケーションをとる際の手段

として、酒は重要な役割を果たしている。第 3

章では、第 2章でみてきた酒の役割が、どのよ

うな場所でどんなふうに発揮されているのか、

社会学者レイ・オルデンバーグのサードプレイ

スの理論を参考にしながら、日本文化研究者の

マイク・モラスキーの居酒屋でのフィールドワ

ークの事例と照らし合わせ、人々のコミュニケ

ーションにおける酒の重要性を明らかにした。

オルデンバーグが述べたサードプレイスの 8つ

の特徴とモラスキーの居酒屋探索の事例を照ら

し合わせて考察した結果、どの事例も 3つ以上

当てはまっていて、常連客にはその店に自分の

居場所ができており、客同士のコミュニケーシ

ョンの空間がしっかりと成立していた。酒を通

して人間関係が築かれており、酒は人間の社会

的行為の手助けとしての役割を持っていること

が明らかになった。本論全体を通して、人と酒

は深い関係性があり、ただ単に飲み物であるだ

けでなく、人の歴史、生活、そして社会の中で

も酒は重要な存在であることがわかった。第 3

章のコミュニケーションにおける酒の役割の部

分において、モラスキーの東京の居酒屋の事例

のみしかあげられなかったため、日本全体の居

酒屋がサードプレイスとしての役割を果たして

いるかは検証できなかったが、人々のコミュニ

ケーションが薄くなり、個人が孤立してしまい

がちな現代社会において、こういった居酒屋の

ようなサードプレイスは非常に重要で、そのよ

うな事態を改善していくうえで必要なものであ

り、今一度見直されることが今後の日本社会の

課題であると私は考える。

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川上周三ゼミ

12

日本のマナーは悪化しているのか

HS25-0125B 島田侑希

私は大学に通う際に電車を利用する。その際

に人のマナーの悪さが目に付くことが多い。ま

た、世の中でも、電車内の化粧はマナー違反で

あるかどうか、など、マナーに関する話題がよ

くあがる。そんな中、海外から見た日本は礼儀

の国とも思われている。そこで、本論文では、

実際に日本のマナーは悪化しているのか、昔と

比べ良くなっているのか、現在と過去を比べ論

じていった。

本論文の前半では、そもそもマナーとはなん

なのか、どこから来たのか論じている。さらに、

日本独自のマナーである「小笠原流礼法」「江戸

しぐさ」や、古くから東アジア人の心の基盤で

あり続ける「儒教」について紹介している。

マナー悪化を嘆く人は「昔はよかった」と言

うことが多いことから、後半では、本当に昔は

よかったのか、主に戦後の鉄道の状況、そして

先行研究である花見会場の定点観測の両者を用

い論じた。その結果実際にはマナーは良くなっ

ている傾向があることがわかった。

ではどうしてマナーは向上したのか。その理

由には「世間」の拡大があり、他人と関わる機

会が増えた人々が気を遣うようになったとわか

った。

最後に、実際に日本のマナーは良くなってい

るのに、なぜ悪化していると感じるのか。私は

「マスメディア」の存在があると仮説をたてた。

「議題設定機能仮説」と「カルティベーション

効果」という二つの理論を使った。結果、テレ

ビ普及に伴い、マナー違反者に対する不快感を

その場にいた人しか感じなかったものが、視聴

者全員が代理体験することになったため、マナ

ーが悪化していると感じるようになったと結論

づけた。