ジオテキスタイルを用いた堤防侵食防止に関する実...

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技術資料 ジオテキスタイルを用いた堤防侵食防止に関する実験 船木淳悟* 馬場仁志** 佐々木靖博*** 1.はじめに 近年の氾濫原への都市機能や住宅などの集積が、災 害ポテンシャルを増大させているという背景から、平 成8年6月の河川審議会答申において、「堤防の質的強 化技術の開発」を21世紀に向けた河川整備の推進方法 の一つとして位置付けている。一方で、治水事業の進 捗に合わせて伸長する河川堤防に対し、年数回の除草 や見回り点検作業を要し、今後の低コスト化や高齢化 社会に対応した効率的な河川構造物の維持管理技術の 開発要請も高まっている。さらに、良好な河川環境の 創出という点では、除草が周辺在来植生の侵入を阻み、 芝生単一の人工的な植生が生み出されるという課題も 指摘されている。 こうした背景から、本研究は堤防の質的強化ととも に維持管理の軽減化を満足する堤防保護工法の開発を 目的とし、近年土木分野で補強材として利用されてい るジオテキスタイルに着目して、水理実験により検討 したものである。 2.土木分野におけるジオテキスタイルの利用 土木工事の分野では構造物の安定性や強度の向上、 環境保全等の観点からジオテキスタイルを利用した施 工が数多く試みられている。ジオテキスタイルとは、 Geo(=土地、大地)とTextile(=織物)の合成語で、 『土や岩などの土質工学的材料と共に用いられ、土構造 物の強化や安定性の増大に寄与する合成高分子材料』 という意味から、織布や不織布などの繊維材のほかに、 プラスチックメッシュやメンブレンなども含めて指す こともある 1) 。主なジオテキスタイルの種類と物性の特 徴は表-1のとおりであり 2) 、使用用途に応じた使い分 けが必要となる。 ジオテキスタイルを土や安定処理土等と組み合わせ た複合体として用いたときの工学的特性は次のようで ある。 1)せん断抵抗の増大、変形防止などの土構造物の 力学的特性の向上機能 2)耐侵食・洗掘性の向上機能、排水・止水などの 浸透・排水特性向上機能 3)粒径の異なるような土質材料の分離機能 これらの機能を活用した土木工事の例として、盛土 構造物や路盤の強化、軟弱地盤対策、耐震補強などが あり、河川堤防や河岸の強化を目的としたものとして は、軟弱地盤上の築堤盛土の安定化やサンドマットの 代替、浸透路長を長くするためのブランケット工法、浸 透水の遮水、護岸等が考えられ、多くはすでに実用段 階に至っている。最近では、ジオテキスタイルを袋状 にし中詰め材を充填したものを多自然型護岸工や護床 工などに使用する事例が増えてきている 3) 3.堤防補強材として期待する効果 堤防補強材として期待される効果は以下のとおりで ある。 1)引張強度や引裂抵抗を有する特性を生かし、堤 防表面を被覆して雨水や流水による侵食、モグ ラ等の動物による劣化を防止する 2)ジオテキスタイルの上に覆土することで、芝等 の植生が十分活着し、かつ植物の根がジオテキ スタイルと一体となって表土の流出を防ぎ、堤 防保護効果を高める 3)堤体表面植生との一体化により、河川景観の向 上や堤体の植生に多様性が生み出される 4.実験方法 4.1 実験に用いたジオテキスタイルの特性 堤防法面の補強材として要求されるシート材の特性 は、強度、透水性、土砂吸い出し防止性、土中耐久性、 耐薬品性、通根性などである。これらの要件を勘案し、 素材としてポリオレフィン系繊維を用いニードルパン チ法による結合と熱接着により作られた不織布を選定 した。不織布の物性値は、引張強度(N/5cm 幅)が タテ397、ヨコ286、また透水係数(cm/sec)は0.87で あった。 4.2 実験方法 実験は、ジオテキスタイルを敷設した堤防表法面の 開発土木研究所月報 №540 1998 年 5 月 13

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Page 1: ジオテキスタイルを用いた堤防侵食防止に関する実 …Geo(=土地、大地)とTextile(=織物)の合成語で、 『土や岩などの土質工学的材料と共に用いられ、土構造

技術資料

ジオテキスタイルを用いた堤防侵食防止に関する実験 船木淳悟* 馬場仁志** 佐々木靖博***

1.はじめに

近年の氾濫原への都市機能や住宅などの集積が、災

害ポテンシャルを増大させているという背景から、平

成8年6月の河川審議会答申において、「堤防の質的強

化技術の開発」を 21 世紀に向けた河川整備の推進方法

の一つとして位置付けている。一方で、治水事業の進

捗に合わせて伸長する河川堤防に対し、年数回の除草

や見回り点検作業を要し、今後の低コスト化や高齢化

社会に対応した効率的な河川構造物の維持管理技術の

開発要請も高まっている。さらに、良好な河川環境の

創出という点では、除草が周辺在来植生の侵入を阻み、

芝生単一の人工的な植生が生み出されるという課題も

指摘されている。

こうした背景から、本研究は堤防の質的強化ととも

に維持管理の軽減化を満足する堤防保護工法の開発を

目的とし、近年土木分野で補強材として利用されてい

るジオテキスタイルに着目して、水理実験により検討

したものである。

2.土木分野におけるジオテキスタイルの利用

土木工事の分野では構造物の安定性や強度の向上、

環境保全等の観点からジオテキスタイルを利用した施

工が数多く試みられている。ジオテキスタイルとは、

Geo(=土地、大地)とTextile(=織物)の合成語で、

『土や岩などの土質工学的材料と共に用いられ、土構造

物の強化や安定性の増大に寄与する合成高分子材料』

という意味から、織布や不織布などの繊維材のほかに、

プラスチックメッシュやメンブレンなども含めて指す

こともある1)。主なジオテキスタイルの種類と物性の特

徴は表-1のとおりであり2)、使用用途に応じた使い分

けが必要となる。

ジオテキスタイルを土や安定処理土等と組み合わせ

た複合体として用いたときの工学的特性は次のようで

ある。

1)せん断抵抗の増大、変形防止などの土構造物の

力学的特性の向上機能

2)耐侵食・洗掘性の向上機能、排水・止水などの

浸透・排水特性向上機能

3)粒径の異なるような土質材料の分離機能

これらの機能を活用した土木工事の例として、盛土

構造物や路盤の強化、軟弱地盤対策、耐震補強などが

あり、河川堤防や河岸の強化を目的としたものとして

は、軟弱地盤上の築堤盛土の安定化やサンドマットの

代替、浸透路長を長くするためのブランケット工法、浸

透水の遮水、護岸等が考えられ、多くはすでに実用段

階に至っている。最近では、ジオテキスタイルを袋状

にし中詰め材を充填したものを多自然型護岸工や護床

工などに使用する事例が増えてきている3)。

3.堤防補強材として期待する効果

堤防補強材として期待される効果は以下のとおりで

ある。

1)引張強度や引裂抵抗を有する特性を生かし、堤

防表面を被覆して雨水や流水による侵食、モグ

ラ等の動物による劣化を防止する

2)ジオテキスタイルの上に覆土することで、芝等

の植生が十分活着し、かつ植物の根がジオテキ

スタイルと一体となって表土の流出を防ぎ、堤

防保護効果を高める

3)堤体表面植生との一体化により、河川景観の向

上や堤体の植生に多様性が生み出される

4.実験方法

4.1 実験に用いたジオテキスタイルの特性

堤防法面の補強材として要求されるシート材の特性

は、強度、透水性、土砂吸い出し防止性、土中耐久性、

耐薬品性、通根性などである。これらの要件を勘案し、

素材としてポリオレフィン系繊維を用いニードルパン

チ法による結合と熱接着により作られた不織布を選定

した。不織布の物性値は、引張強度(N/5cm 幅)が

タテ397、ヨコ286、また透水係数(cm/sec)は0.87で

あった。

4.2 実験方法

実験は、ジオテキスタイルを敷設した堤防表法面の

開発土木研究所月報 №540 1998 年 5 月 13

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耐侵食効果を確認するための水路実験、越流時の堤防

裏法の保護効果を検証するための越流実験、シート材

の雨水浸透に対するドレーン効果を確認するための降

雨実験からなる。

4.2.1 水路実験

図-1のような幅3.Om、深さ1.0m、長さ40m、勾

配1/50の矩形直線水路に、法勾配1:2の疑似堤防

法面を設置し、法の表面にジオテキスタイルを敷設し

た。

この水路を最大能力1㎥/secの給水系に接続し、出

水時の堤防近傍流速に近い3m/sec程度の流速を発生さ

せ、ジオテキスタイルの高流速下での挙動や堤防表面

の侵食について実験を行った。

実験ケースは図-2に示すように、法面を流下方向

に各5mのブロックに区切り、それぞれ敷設方法を変

えて12ケースについて行った。水路長が40mと限られ

ているため、ケース1~3を実験1、ケース4~8を

実験2、ケース9~12を実験3として分割した。

実験1はシート材の固定方法として図-2に示す固

定金具(径6mm丸棒鋼,引抜抵抗力15kg)を用いたと

き、その配置による挙動の違いを確かめることを目的

とした。継手部は、15cm幅の重ね部分をステープラー

で密に接合した。また、各敷設ケースの間は現象を独

立させるためと、一部の破壊が全体に及ばないように

との配慮から、間仕切り壁(鋼板製)を設置した。な

お、水路の上流部15m、下流部10mを実験区間から除

外し、この区間は固定金具を密に打ち込んだ。そのほ

かの各ケースの条件は以下のとおりある。

・ケース1(測線No.15~20):四隅、中央部、および水

路床設置部で計12点固定

・ケース2(測線No.20~25):敷設面の四隅のみ金具で

固定

・ケース3(測線No.25~30):敷設面に対し固定金具を

用いない

通水量はまず0.5㎥/secを約25分通水し、その後1.O

㎥/secに流量を上げ、合計約80分間通水した。

実験2は、固定金具を押えブロック(重量8kg)にか

えて実験した。また継手部のステープラー止め間隔を

30cm程度に粗くするとともに、各敷設ケースの上流側

の巻き込み処理を袋状にし、土を詰めた。さらに各区

間の境界部の間仕切り固定壁はない方が良いと判断さ

れたので撤去した。そのほかの条件は次のとおりであ

る。

・ケース4(測線No.10~15):押さえブロックを四隅

と中央部に計5個配置

・ケース5(測線No.15~20):敷設区間の後ろ側に重

点的に計5個配置

・ケース6(測線No.20~25):敷設区間の後ろ側の両

隅と中央部の計3個配置

開発土木研究所月報 №540 1998 年 5 月 14

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・ケース7(測線No.25~30):ブロックを配置しない

・ケース8(測線No.30~35):ブロックを敷設せず実験

1と同様の巻き込み処理

実験は流量0.5㎥/secを約30分通水した後1.O㎥/sec

を約80分間通水した。

実験3は、流水下のシート材の動揺を制御するため、実

験1、2のような固定方法から、以下のようなジオテ

キスタイル自身による固定方法とした。

・ケース9(測線No.10~15):ブロックをさらに鉛直方

向に仕切るようにシート材を堤体内に長さ

0.5m差し込んだ

・ケース10(測線No.15~20):ブロックを水平方向に仕

切るように0.5m差し込んだ

・ケース11(測線No.20~25):シート材を土嚢状にした

袋(70×50×20cm、重量30~35kg)を縦方

向に帯状に連結し隙間なく法面に敷設した

・ケース12(測線No.25~30):法面をシート材で覆った

上に、この袋を敷設した

通水はまず0.5㎥/secで83分実施し、その後流量を

0.65㎥/secに増やして90分行った。

4.2.2 越流実験

長さ40m、幅1m、深さ1.2m、勾配1/1,500の直

線矩形水路に図-3に示すような疑似堤防を設置し、

上流側から水を供給して越流させ、法面の侵食状況を

観察した。実験は以下に示す3ケースで実施した。ケ

ース1は堤防土にじかに不織布を敷設し、堤防天端か

ら0.5mのところで水平に0.5m不織布を差し込んだ。

このときの堤防法勾配は1:2である。ケース2およ

び3は法の表面0.lmを砂利層(最大粒径40mm)で被覆

したのち不織布を敷設した。法勾配はケース2を1:

2、ケース3を1:3とした。また、ケース1では堤

防高と水路天端高との間に余裕が無く、十分な越流水

深が確保できなかったため、ケース2、3においては

堤防高を0.2m低くして実験している。

通水条件は、ケース1がまず0.l㎥/secで71分、つい

で0.17㎥/secにして39分行った。ケース2と3につい

ては、はじめに0.2㎥/sec、その後0.4㎥/secに流量を

増やして各70分程度通水した。

4.2.3 降雨実験

実験施設は図-4に示すような、堤高1m、法勾配

1:2の3面を有する試験堤防である。堤体の盛土材

は関東ローム(江戸崎1号)を用い、A面はシート材

なし、B面はシート材の上に10cmの堤体土、C面はB

面の条件に加え、シート材を二層とし、シート間は20

cmの砂質土層とした。表面はどの面も張芝(野芝)を

している。

散水装置は、広角フルコーンノズルを天端上2.Omの

高さに、1.7m間隔の格子状に12個設置した。浸透水の

集水は法尻に集水樋を各斜面毎に設置し、排水管で散

水系外のドラム管(内径567mm,地中に設置)に受け、

水位上昇量を測定する施設とした。なお、もう一方の

面は透明なアクリル製の壁とし、浸透水の観測窓とし

てある。

降雨強度は,平均60mm/hrに設定し、散水円の外周面

積40.5㎡に対して40.51/分を送水して5時間(総降雨

量300mm)散水した。実験時は天端を被覆して降雨を実

験法面外へ流し、天端からの浸透水の無い条件で実験

した。

降雨量の確認は、1時間毎に各法面の重複円の位置

で、415mm×495mmのトレーで5分間受けて測定した。

流出量の測定は、各々の法面毎にドラム缶に集水し

開発土木研究所月報 №540 1998 年 5 月 15

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た水位を実験開始後2時間までは1分間隔、その後は

3分間隔で㎜単位で測定した。

5.実験結果と考察

5.1 水路実験結果

流れは射流領域にあり、水面は動揺の激しい流況と

なっている。これに伴いシートも波動的に振動した。

実験1では、固定金具は堤体土表層の湿潤化と流れの

振動等による弛みから殆んどの金具が浮き上っており、

効果が十分発揮されなかった。実験2ではシートとと

もに押えブロックが振動しており、大きな圧力変動が

生じていると推察された。ケース5で押えブロックを

3個並べた箇所ではやや縮流効果が現われ、下流に強

い流れが見られた。また、堤体変形に伴い押えブロッ

クの座りが不安定となって底面に流水を受けて一部ブ

ロックが流出した。

次に各実験について堤防の変形状況を見てみる。

(実験1)

各ケース間に仕切壁を設置していたため、仕切壁の

箇所では図-5(a)の測線No.20に見られるように、

その前面で著しい洗堀傾向が見られるが、それ以外の

測線上の洗堀量に大きな差はなく、断面形状は図-5

(b)に示したように法面の上方からの崩れ、あるいは

上流側からの流送土砂の堆積によって法面の下方には

らみ出しが生じ、見かけ上平均洗掘深が小さくなって

いる。

(実験2)

押えブロックを敷設した測線No.10~25の区間で実験

1と逆の結果となった。すなわち、敷設パターンの境

界付近(測線No.15,20,25)よりも中央部の方が相対

的に洗掘量が大きくなっている(図-6)。このことは、

押えブロックによって、洗掘による法面の変形に追随

してシート材を法面に密着させたことで、かえって両

者の間を通過する流れが強まったためと考えられる。

(実験3)

図-7はシート材の仕切方向の異なるケース9と10

での、法面変形の違いを示したものである。仕切を法

面鉛直方向にした測線No.14(ケース9)では、法肩部

で侵食、法尻部で堆積によるはらみ出しが生じており、

斜面下方への土砂の流動が発生していると考えられる。

一方、水平方向に仕切を入れた測線No.16(ケース10)

では、仕切位置で法面の変形が一旦規制され、測線

No.14のような法面の侵食-堆積という変形が仕切の上

面で発生し、側壁からの距離1.0m付近に侵食から堆積

への移行点が形成されている。また、全体的にケース

9で生じたような変形に比べ変形量が小さくなってい

る。このことから、水平仕切は法肩部からの崩落土砂

が法尻まで到達するのを抑制し、さらに法面の中間部

分に侵食に耐える固定点を形成することで、法面全体

にわたって侵食が拡大するのを抑制する働きがあるよ

うである。

上記で仮定したような法尻部の堆積が主に法面上部

からの崩落・流動であるならば、堤防土の構成材料の

中でも相対的に粒度の大きなものが堆積物中に多く含

まれていると考えられる。そこで、測線No.14の断面に

おいて、洗掘部と堆積部からそれぞれ試料を取り、実

験水路の堤防造成に用いた土とともに粒度分析を行っ

た(図-8)。堆積部の粒度分布は洗掘部に比べ細粒分

の割合が小さく逆に粗粒分の割合が大きくなっている。

また実験に使用した堤防土に比べどちらも細粒分の割

合が小さくなっている。このことから流れにより全体

的に細粒分が流出していること、法肩部から法尻部へ

開発土木研究所月報 №540 1998 年 5 月 16

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粒径の大きなものが移動したことが確かめられた。

次に、各敷設パターンによる法面変形の程度を比較

するため、初期河床からの変形量を図-9に示す。図

中の側壁から0.3m地点とは、ケース9で見られた堆積

が顕著な法尻部であり、同じく1.2mは侵食が目立った

法肩付近である。まず目に付くのはケース9の変形量

が他の3ケースに対し非常に大きいことである。鉛直

方向の仕切が入っている測線No.13付近では堆積・侵食

ともに小さく、仕切の効果が現れているものの、その

下流区間では法肩部が大きく侵食し、法尻部に堆積し

ている。測線No.10~12で法面の全面が侵食傾向にある

のは、水路の上流助走区間が非侵食性の河床であるこ

とから、この境界部において侵食が集中したためであ

る。

ケース10は、侵食量・堆積量ともにケース9に比べ

て小さく、両者を平均した断面平均変形量は-0.05m

未満となっている。

これに対し、不織布袋を敷設した区間ではほとんど

変形が生じていない。とくにシート材と不織布袋とを

組み合わせたケース11では、法面は極めて安定してい

る。ケース12で法尻部が大きく侵食されている箇所が

見られるが、これは、実験開始前に不織布袋の最下流

列を法面にしっかり固定していなかったことから、流

水によって不織布袋がずれ、激しい乱流が生じてしま

ったためである。

法面変形に対する効果を敷設方法で評価すると、ジ

オテキスタイルをシート状と袋状にした二層構造が最

も優れており、法面はほとんど侵食されない。不織布

袋だけでも敷設方法を工夫し隙間やゆるみが発生しな

いようにすれば、二層構造と同等の効果が期待できる

と考えられる。シート材だけを敷設した場合は、不織

布袋よりも効果は劣るが、水平方向に仕切を入れるこ

とにより侵食量をかなり抑えられることがわかった。

5.2 越流実験結果

通水後の各ケースの法面形状を比較すると(図-

10)、砂利層のないケース1において、法肩直下の側壁

際で強い侵食が生じている。砂利層があるケース2や

3では局所的な強い侵食が見られず、侵食深は平均的

で小さい。また、当然ながら法勾配の緩いケース3の

侵食量が最も小さくなった。実河川において堤防越流

が生じた場合、まず破壊が発生する箇所は堤内側の堤

防法肩であり、ケース1はこの現象をよく再現してい

る。したがって、シート材と砂利層との層構造である

ケース2、3においてこうしたタイプの侵食が顕著で

なかったことから、本手法は堤防越流に対して効果が

あるものと考えられる。

また、本実験の観察中に認められた興味深い現象と

して、流量を0.2㎥/secから0.4㎥/secに増加した段階

で、むしろ堤体材料のシート材の隙間からの流出が止

まった。流量を増したことによってシート材が越流水

に強く押し付けられ、結果的に堤体を安定させる作用

が働いたのではないかと考える。

5.3 降雨実験結果

流出量の測定結果は,集水樋に直接降ったと推定さ

れる量を差引いて示すと図-11のようである。シート

材なしの法面では最後まで全量が堤体内へ浸透したこ

とを示している。これに対してシート材ありは、一層、

二層ともに流出があり、ほぼ10分後には定常状態に達

している。実験時間内の水収支でみると、一層の法面

では41%が流出し、59%が浸透した結果となっている。

二層にした場合でも一層に対して若干多い結果にとど

まっており、一層目からの排水効果が非常に大きいこ

とが示された。

6.まとめ

流水の侵食作用から堤防を保護する工法としてジオ

テキスタイルに着目し、効果的な敷設方法を探る実験

を行った。その結果、高速の流水下ではシート材が激

しく振動し、またシート材と堤体表面との間に流水が

生じることで、堤体材料のうち細粒分の掃流と、堤体

材料の崩落による堤体の変形が発生した。この変形の

程度はシート材の固定方法によって違い、最も効果が

開発土木研究所月報 №540 1998 年 5 月 17

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高いのは不織布袋を用いた工法であった。シート材の

みでも水平方向に仕切を入れて堤体に差し込むことで、

堤体の法尻方向への崩落と侵食の拡大を防ぐ効果が確

認され、侵食防止工法として有効であることが示され

た。

堤防越流に対しては堤体表面を砂利層とシート材と

の層構造にすることによって、侵食防止効果が高めら

れること、とくに越流時に弱点となる堤防法肩部の保

護に高い効果を発揮することがわかった。

さらに堤防への雨水浸透に対しては、ジオテキスタ

イルのドレーン機能が高く、一層でも充分その効果が

発揮されることが示され、雨水の堤体内への浸透によ

る弱体化を防止する工法として非常に有効であると考

えられた。今後は、今回得られた工法の有効性を現地

施工に展開していくため、芝生やその他在来植生とジ

オテキスタイルとを組み合わせた実験を重ねていくこ

ととする。

謝 辞

本研究を進めるにあたって、貴重なご意見ご協力を

いただいた(財)河川環境管理財団河川環境総合研究所吉

川秀夫先生はじめ研究所諸氏、ならびに日本バイリー

ン㈱に謝意を表します。

参考文献 1)吉岡淳;ジトテキスタイル-土質安定用繊維材-、月刊建

設1986年2月 2)久楽勝行、青山憲明;建設分野へ利用される新素材・新材

料(その6)-盛土・地盤用新材料-、土木 技術資料33- 5,1991年

3)吉川秀夫、立石芳信;テンダーバックによる河川環境の創 出、河川環境総合研究報告第1号、pp.103-106,1995年7月

開発土木研究所月報 №540 1998 年 5 月 18

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開発土木研究所月報 №540 1998 年 5 月 19