ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ......

24
ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料としての応用 九州大学 先端融合医療レドックスナビ 九州大学 医学研究院 先端医療医学 村田 正治

Upload: others

Post on 03-Oct-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

ナノ空間の構造制御による機能化と生体適合性材料としての応用

九州大学 先端融合医療レドックスナビ九州大学 医学研究院 先端医療医学

村田 正治

Page 2: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

多様な組成からなるナノ材料が開発され、その特性を活かして様々な分野で応用が広がっている

様々なナノ材料

金ナノ粒子 量子ドット カーボンナノチューブ

カーボンナノファイバー フラーレン デンドリマー

これまでのナノ材料の多くは無機材料であり、生体適合性に課題が残る

1

Page 3: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

ナノカプセルの立体構造 ナノカプセルの電子顕微鏡観察(直径12nm )

種を超えて普遍的に存在するタンパク質であり、通常は球状のオリゴマー構造として存在する。熱ストレスなどの環境変化に応じて解離し、分子シャペロン機能を発現する。

天然のナノカプセル:

新しいナノ材料 〜 タンパク質ナノカプセル〜 2

Page 4: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

・24量体からなるナノ球状構造体 ・自己組織化による構造形成・熱的に極めて安定な構造 ・内部に空洞を有するカプセル・低い細胞毒性と免疫原性 ・高い血中安定性・完全な配列制御、構造制御が可能であり、分子量分布がない

タンパク質ナノカプセルの特徴

製剤材料(ドラッグデリバリーシステム, DDS)

想定される用途

ナノ触媒・ナノリアクター コーティング材 その他

化粧品添加剤診断用造影剤

3

Page 5: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

タンパク質ナノカプセルのDDSキャリアとしての課題

・臓器選択性が無い・疾患特異性が無い・細胞膜透過性が無い・カプセル内部の空間が狭い・極めて安定で、自己崩壊しにくい

タンパク質ナノカプセルの改良・インテリジェント化が必要

4

Page 6: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

タンパク質ナノカプセルのインテリジェント化

III. カプセル崩壊、疾患特異性の付与特定の条件が揃ったときのみカプセルが崩壊する機能

I. 特定の細胞や臓器に対する特異性の付与カプセル表面に様々なシグナルペプチドを導入

・膜透過性の向上・臓器特異性の向上・細胞特異性の向上・特定のレセプターに対する親和性の向上

II. 医薬品の内包カプセルの内孔に様々な薬物を内包可能

・造影剤(MRI,CT)・蛍光分子プローブ・光増感剤・抗癌剤等・遺伝子(siRNA)・その他

5

Page 7: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

I. ナノカプセルを特定細胞へ送り込む

分子標的化によるナノカプセルの指向性制御

肝特異的ナノカプセル、脳神経細胞特異的ナノカプセル、膵癌特異的ナノカプセル、肝星細胞特異的ナノカプセル、および肝癌特異的ナノカプセルの設計

6

Page 8: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

肝細胞特異的なナノカプセルの設計

ウイルスをモデルとして特定の細胞を標的化

E. Hildt et.al, PNAS, 103, 6730(2006)

B型肝炎ウイルスの感染機序

B型肝炎ウイルス(HBV)

B型肝炎ウイルスは、ウイルスカプシド表面に

存在するPreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵

入・感染する。

ナノカプセルを人工ウイルス化

7

Page 9: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

肝特異的ナノカプセルの細胞選択性

HeLa(ヒト子宮頚癌細胞)

HepG2(ヒト肝癌細胞)

Huh7(ヒト肝癌細胞)

MCF7(ヒト乳癌細胞)

野生型ナノカプセル 肝特異的ナノカプセル

ヒトB型肝炎ウイルス(HBV)をモデルにしたナノカプセルは細胞実験でも動物実験でもHBVと同じ肝特異性を示した

HeLa(ヒト子宮頚癌細胞)

HepG2(ヒト肝癌細胞)

Huh7(ヒト肝癌細胞)

MCF7(ヒト乳癌細胞)

肝特異的ナノカプセル

心臓肺

肝臓脾臓腎臓

野生型ナノカプセル

投与前 3時間後 6時間後 24時間後

in vitro in vivo

8

Page 10: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

脳特異的なナノカプセル

Neuro2a神経芽細胞腫

[AchR +]

HeLa子宮頸癌細胞[AchR -]

Alexa488[RVG capsule]

Hoechst 33342[Nucleus] Merg

e

Scale bar: 10 μm

LN29-RVG

LN71-RVG

未投与

コントロールナノカプセル RVGナノカプセル

アセチルコリンレセプターを分子標的とするナノカプセルを作成したところ、脳への高い集積性を示した

in vitro in vivo

9

Page 11: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

その他の分子標的型ナノカプセル

ペプチドを表面に化学修飾したナノカプセルはヒト肝癌細胞特異的に取り込まれた

肝癌特異的ナノカプセル

緑色:ナノカプセル青色:細胞核Huh-7

(ヒト肝癌由来細胞)

HeLa(ヒト子宮頸癌由来細胞)

RLN-8(ラット正常肝由来細胞)

HepG2(ヒト肝癌由来細胞)

ファージディスプレー法で発見された肝癌特異的なペプチドをPEGリンカーを介してナノカプセル表面に固定化した肝癌特異的ナノカプセルを合成

膵癌特異的ナノカプセル

膵癌標的化ナノカプセルはNrp-1発現株に集積する

膵癌細胞表面のIntegrinおよびNeuropilin-1(Nrp-1)を標的とするペプチドを表面に導入したナノカプセルを合成

AsPc-1細胞 [Nrp-1 +] MIA-paca2細胞 [Nrp-1 −]

ナノカプセルは移植した癌細胞のうち増殖活性の高い部分に集積した

癌部(発光)

ナノカプセル(蛍光)

移植した膵癌

10

Page 12: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

II. ナノカプセルに薬物を内包する

ナノカプセルの内孔に抗癌剤、遺伝子(siRNA)、造影剤、蛍光プローブなど多様な薬剤を内包

11

Page 13: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

ナノカプセルに薬物を内包する方法

●カプセル内孔の疎水性環境を利用して物理的に内包

●カプセル内孔にシステイン残基を変異導入し、化学的に固定化

CCC C

CC カプセル内孔にシステイン残基を変異導入し、そ

のチオール基を介して薬物を化学的に結合する。親水性のものも含め、様々な薬剤に対応可能。

疎水性の薬物10〜20分子を内包可能

6.5 nm

ジェムザール ドキソルビシン ヒトインスリン

12

Page 14: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

ナノカプセルによる薬物の内包とその効果

0

20

40

60

80

100

120

0nM 10nM 20nM 40nM 80nM 160nM 320nM

ヒト正常膵管上皮細胞

ヒト膵癌細胞(Suit2)

細胞

生存

率/ %

内包したGemsitabine濃度

●ジェムザール内包ナノカプセルをヒト膵癌細胞へ投与

・ジェムザール内包ナノカプセル(IC50 15nM)はフリーのジェムザール(IC50 50nM)よりも 効果的にアポトーシスを誘導した。

抗癌剤内包ナノカプセルは正常な細胞にはほとんど影響を与えず、標的とする癌細胞へより効果的に抗癌剤を送達可能

13

Page 15: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

カプセルの大型化とsiRNAの内包

●ナノカプセルへのsiRNAの封入と細胞への導入

遺伝子操作によってナノカプセルの粒径を増大させることが可能。これによってペイロードを増加できる。

●内孔のアミノ酸配列を改変してカプセル径を増大(薬物ペイロードの増加)

12.5 nm 14.4 nm22.7 nm

32.6 nm

体積比 1 1.5 6.017.7

野生型

0 10 20 30

ナノカプセルのDLS

ナノカプセルのGPC

保持時間/min.

フリーのsiRNA

カプセル内包siRNA

050

100150200250300350400 10倍

siRNA粒径を増大させたカプセルに内包したsiRNA

野生型ナノカプセルにはsiRNAのような核酸医薬は内包できなかった

カプセル粒径を拡大することにより、siRNAの内包が可能になった

siRNAを内包したナノカプセルは培養細胞へトランスフェクション可能

細胞に形質転換された

siR

NA

(蛍光ラベル化)

14

Page 16: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

ナノカプセル型MRI造影剤 〜内包による高感度化〜

●1.5 T MRI ●9.4 T MRI5倍19倍

ナノカプセルへの内包により造影剤の感度(緩和度)が飛躍的に向上した。特に、カプセル内孔を疎水性ヘリックスで強化したナ

ノカプセル(1〜4)は、最大19倍に高感度化した

320 160 80 40 20 10 5Gd/µM

DTPA-Gd

ナノカプセル1

4.9 mM-1s-1

29.7 mM-1s-1

33.0 mM-1s-1

69.2 mM-1s-1

緩和度r1

92.7 mM-1s-1

4.6 mM-1s-1

10.6 mM-1s-1

11.8 mM-1s-1

16.7 mM-1s-1

21.8 mM-1s-1

ナノカプセル2

ナノカプセル3

ナノカプセル4

320 160 80 40 20 10 5Gd/µM 緩和度r1

●内孔のアミノ酸配列を改変したナノカプセルにMRI造影剤を内包

15

Page 17: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

ナノカプセル型造影剤による膵癌移植マウスのMRI

投与前 投与後

ナノカプセル型造影剤の投与によって癌部のコントラストが向上し、境界が明瞭なMRI画像が得られた。

雄性SHOマウスの皮下にヒト膵癌細胞(AsPC-1)を移植して担癌マウスを作成した。その尾静脈から100uMのナノカプセル型造影剤(カプセル3)100ulを投与し24時間後にMRI撮影(9.4T)した。

16

Page 18: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

III. ナノカプセルから薬物を放出する

細胞内におけるナノカプセルからの能動的薬物放出システムの開発1. 細胞内のpH変化に応答する薬剤2. 細胞内のタンパク質分解システムを使った薬剤放出

17

Page 19: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

細胞内で分解するナノカプセル

②ナノカプセルの細胞へのトランスフェクション

① 分解シグナルを付加したナノカプセルの作製

③ ナノカプセルのユビキチン化

④ ユビキチン化ナノカプセルのプロテアソームへの輸送

⑤ カプセルの分解と内包薬物の放出

細胞内に普遍的に存在するタンパク質分解システム(ユビキチン-プロテアソーム系)を使った新しい薬物放出法

18

Page 20: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

0102030405060708090

100

分解型ナノカプセルの崩壊とドラッグリリース

●細胞内での分解型ナノカプセルの経時変化蛍光ラベルした分解型ナノカプセルをHela細胞にトランスフェクションし、その経時変化を追跡した

0h 3h 6h 12h 24h 0h 3h 6h 12h 24h

RO 31-8220 メタンスルホン酸塩

分解型ナノカプセル

野生型ナノカプセル

β-アクチン β-アクチン

分解型ナノカプセルは24時間後にほぼ分解・消失した

●分解型ナノカプセルからの薬物放出分解型ナノカプセルの内孔にアポトーシス誘導剤(RO 31-8220)を内包し、Hela細胞にトランスフェクションした。24時間後の細胞生存率をトリパンブルー染色によって評価した

細胞生存率

(%)

細胞のみ 野生型ナノカプセル

+RO31-8220

分解型ナノカプセル

+RO31-8220

分解型ナノカプセル

アポトーシス誘導

RO 31-8220を内包した分解型ナノカプセルはHela細胞にアポトーシスを誘導した

RO31-8220

19

Page 21: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

天然のナノカプセル を機能化することにより、サイズや安定性、指向性、生分解性を制御することが可能

ナノカプセルの内孔には、様々な物質を内封可能ナノカプセルの内部空間の環境を変えることにより、内封する物質の特性を増強できる(例: MRI造影剤の感度向上)

タンパク質ナノカプセルの性能と今後の展開

・ドラッグデリバリーシステム ・診断薬、造影剤・遺伝子導入剤(in vivoでの応用)・化粧品添加剤 ・ナノ触媒、ナノリアクター・その他

20

Page 22: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

・分子間距離や立体的な空間の制御が鍵となる触媒反応系の共同開発

・皮下への浸透性の検証と有効成分のデリバリーに関する共同開発

・動物用造影剤、ノックアウトキットの共同開発

・大量合成法の確立

・有機溶媒耐性の向上(DMSOやDMF等には安定)

今後の課題と共同研究への期待 21

Page 23: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

発明の名称:ナノカプセル、組成物、ポリヌクレオチド、組換えベクター及び形質転換体

出願番号 :特願2013-065627出願人 :九州大学発明者 :村田 正治、橋爪 誠

本技術に関する知的財産権 22

Page 24: ナノ空間の構造制御による機能化と 生体適合性材料として ... …...PreS1ペプチドで肝細胞を認識して侵 入・感染する。ナノカプセルを人工ウイルス化

お問い合わせ先九州大学産学官連携本部

知的財産グループ

TEL 092-832-2128FAX 092-832-2147e-mail [email protected]

23