クラウド画像解析エンジンにおけるレイテンシを考慮した...

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クラウド画像解析エンジンにおけるレイテンシを考慮した DCNN の自動分割法 EP13021 猪子弘康 指導教授:藤吉弘亘 1. はじめに ロボットの処理をクラウド上のコンピュータで行うクラ ウドロボティクス [1] への関心が高まっている.これまで に, Deep Convolutional Neural Network(DCNN) による クラウドロボティクスのための顔画像認識エンジン [2] 提案されているが,DCNN を分割する層を事前に決定す る必要があり,状況に応じた負荷分散を効率的に行うこと ができなかった.本研究ではクラウド型顔画像解析エンジ ンにおけるレイテンシを考慮した DCNN の自動分割法を 提案する. 2. レイテンシを考慮した DCNN の自動分割 自動で分割層を決定するには,クライアント,またはサー バの計算不可を低減する,通信量を低減する,など何らか の条件を設定する必要がある. しかしながら,これらの単独の条件では分割層が一意に 決まらない場合がある.そこで本研究では,これらの条件 に加え,要求レイテンシを導入する.要求レイテンシは, 画像が入力されてから,解析結果を受け取るまで待つこと ができる許容時間のことである.クラウド型顔画像解析エ ンジンにおけるレイテンシを考慮した DCNN の自動分割 法について以下で詳細を述べる. 2.1. システムの構成 本システムの構成を図 1 に示す.ロボット側では入力画 像から検出した顔領域を DCNN に入力し,中間層の特徴 マップ,ユーザが設定した要求レイテンシと共にクラウド サーバに送信する.クラウドサーバ側では,受け取った特 徴マップを DCNN の下位層に入力し,顔画像解析結果を 出力する.また,要求レイテンシを元に分割層を決定し, 顔画像解析結果と次回選択する分割層の情報をロボットに 送信する. 入力画像 ロボット(ROS) ・特徴マップ クラウドサーバ(ROS) Conv 1 Conv 2 Conv 3 Conv 4 Conv 5 Conv 6 Conv 7 Conv 8 Pool 1 Pool 2 Pool 3 Pool 4 リクエスト レスポンス ・出力結果送信 出力画像 Conv 9 顔画像解析結果 ( 人種,年齢,性別,表情,器官点 ) 生活支援ロボット 1: クラウドによる顔画像の属性推定の流れ 2.2. 分割層決定の方針 DCNN の分割層を自動的に決定する方法は幾つか考え られるが,我々はクライアントの計算時間 tc,サーバの計 算時間 ts,通信時間 tt の他に要求レイテンシ R の合計 4 つの要素から,DCNN を自動的に分割する.これにより, ユーザのリクエストに可能な限り応えられるシステムとな る.ただし,サーバの負担を小さくするために,要求レイ テンシを満たしている場合には,サーバの計算量を小さく するように DCNN の分割層を決定する.これらの条件を (1) に示す.この式を用いて次の時刻の分割層 I を決定 する. I = arg min i ts(i) (1) s.t. (tc(i)+ ts(i)+ tt (i)) <R 3. 予備実験 通信帯域やロボットの性能によって,総処理時間がどの ように変化するか調査する.図 2(a) はクライアントの処 理性能が低いが,通信帯域が広い場合,図 2(b) はクライ アントの処理性能が高いが,通信帯域が狭い場合の総処理 時間の関係を示したものである.まず,図 2(a) および図 2(b) より通信帯域が狭いほど通信時間は長くなり,クライ アントの処理性能が高いほど処理時間は短くなることがわ かる.また,総処理時間は分割層によって差が出ることが 確認できる. (a)処理時間:遅,通信時間:速の場合の処理時間 (CPU0.8GHz,帯域50Mbps) (b)処理時間:速,通信時間:遅の場合の処理時間 (CPU2.8GHz,帯域5Mbps) 2: 各条件での処理時間 4. 評価実験 提案システムの有効性を検証するために,評価実験を 行う. 4.1. 実験環境 クライアント,クラウドサーバ共に OS Ubuntu14.04 LTS で,ROS Indigo を使用する.クライアントとクラ ウドサーバはルータを介し 1Gbps で接続する.異なる通 信状況下を想定するため,帯域制限を行う.クライアント は,異なる性能の計算機が搭載されたロボットを想定する ため,CPU のクロック周波数を変化させる. 4.2. 実験結果 要求レイテンシを考慮した分割が理想的にできるかどう か検証する表 1 および表 2 に処理時間及び通信時間を変化 させた際の分割結果を示す. 1 は,クライアントの処理時間が長く,通信時間が 短い場合を示している,これにより,要求レイテンシを満 たしつつ,可能な限り出力層側を選択できていることがわ かる. 1: ロボット性能:低,通信帯域広の場合 (CPU 0.8GHz50Mbps) 分割層 i 要求レイテンシ [ms] 60 100 120 300 500 7 6 5 4 3 2 1 0 2 は,示すクライアントの処理時間が短く,通信時間 が長い場合の結果である.この条件下では要求レイテンシ を満たすことができない場合がある.このような場合には, 応答時間が最も短くなるような分割層を決定できている. 2: ロボットの性能:高,通信帯域:狭の場合 (CPU 2.8GHz5Mbps) 分割層 i 要求レイテンシ [ms] 60 100 120 300 500 7 6 5 4 3 2 1 0 5. おわりに 本研究では,ユーザのリクエストに可能な限り応え,ク ラウドサーバの負荷を減らすレイテンシを考慮した自動分 割法を提案した.今後の展開として,より最適な分割が可 能なモデルの検討などが挙げられる.また,このシステム を基盤とした顔画像解析エンジンの公開を行なった. 参考文献 [1] O. Zweigle, et al, Roboearth: connecting robots worldwide , ICIS ACM, pp. 184-191, 2009. [2] 山内悠嗣 等,“クラウドロボティクスのための画像認識エン ジンの提案”, 電子情報通信学会技術報告,パターン認識・ メディア理解,Vol. 115No. 456pp. 91-962016.

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Page 1: クラウド画像解析エンジンにおけるレイテンシを考慮した …mprg.jp/data/FLABResearchArchive/Bachelor/B16/Abstract/...[1] O. Zweigle, et al, “Roboearth: connecting

クラウド画像解析エンジンにおけるレイテンシを考慮した DCNNの自動分割法

EP13021 猪子弘康 指導教授:藤吉弘亘

1.はじめにロボットの処理をクラウド上のコンピュータで行うクラ

ウドロボティクス [1]への関心が高まっている.これまでに,Deep Convolutional Neural Network(DCNN)によるクラウドロボティクスのための顔画像認識エンジン [2]が提案されているが,DCNN を分割する層を事前に決定する必要があり,状況に応じた負荷分散を効率的に行うことができなかった.本研究ではクラウド型顔画像解析エンジンにおけるレイテンシを考慮した DCNNの自動分割法を提案する.2.レイテンシを考慮したDCNNの自動分割自動で分割層を決定するには,クライアント,またはサー

バの計算不可を低減する,通信量を低減する,など何らかの条件を設定する必要がある.しかしながら,これらの単独の条件では分割層が一意に

決まらない場合がある.そこで本研究では,これらの条件に加え,要求レイテンシを導入する.要求レイテンシは,画像が入力されてから,解析結果を受け取るまで待つことができる許容時間のことである.クラウド型顔画像解析エンジンにおけるレイテンシを考慮した DCNNの自動分割法について以下で詳細を述べる.2.1.システムの構成本システムの構成を図 1に示す.ロボット側では入力画

像から検出した顔領域を DCNNに入力し,中間層の特徴マップ,ユーザが設定した要求レイテンシと共にクラウドサーバに送信する.クラウドサーバ側では,受け取った特徴マップを DCNNの下位層に入力し,顔画像解析結果を出力する.また,要求レイテンシを元に分割層を決定し,顔画像解析結果と次回選択する分割層の情報をロボットに送信する.

入力画像

ロボット(ROS)

・特徴マップ

クラウドサーバ(ROS)

Conv 1 Conv 2 Conv 3 Conv 4

Conv 5 Conv 6

Conv 7 Conv 8

Pool 1Pool 2

Pool 3Pool 4

リクエスト

レスポンス

・出力結果送信

出力画像

Conv 9

顔画像解析結果( 人種,年齢,性別,表情,器官点 )

生活支援ロボット

図 1 : クラウドによる顔画像の属性推定の流れ

2.2.分割層決定の方針DCNN の分割層を自動的に決定する方法は幾つか考え

られるが,我々はクライアントの計算時間 tc,サーバの計算時間 ts,通信時間 tt の他に要求レイテンシ Rの合計 4つの要素から,DCNNを自動的に分割する.これにより,ユーザのリクエストに可能な限り応えられるシステムとなる.ただし,サーバの負担を小さくするために,要求レイテンシを満たしている場合には,サーバの計算量を小さくするように DCNNの分割層を決定する.これらの条件を式 (1)に示す.この式を用いて次の時刻の分割層 I を決定する.

I = arg mini

ts(i) (1)

s.t. (tc(i) + ts(i) + tt(i)) < R

3.予備実験通信帯域やロボットの性能によって,総処理時間がどの

ように変化するか調査する.図 2(a) はクライアントの処理性能が低いが,通信帯域が広い場合,図 2(b) はクライアントの処理性能が高いが,通信帯域が狭い場合の総処理時間の関係を示したものである.まず,図 2(a) および図2(b)より通信帯域が狭いほど通信時間は長くなり,クライアントの処理性能が高いほど処理時間は短くなることがわかる.また,総処理時間は分割層によって差が出ることが確認できる.

(a)処理時間:遅,通信時間:速の場合の処理時間 (CPU0.8GHz,帯域50Mbps)

(b)処理時間:速,通信時間:遅の場合の処理時間 (CPU2.8GHz,帯域5Mbps)

図 2 : 各条件での処理時間4.評価実験提案システムの有効性を検証するために,評価実験を

行う.4.1.実験環境クライアント,クラウドサーバ共にOSはUbuntu14.04

LTSで,ROSは Indigoを使用する.クライアントとクラウドサーバはルータを介し 1Gbps で接続する.異なる通信状況下を想定するため,帯域制限を行う.クライアントは,異なる性能の計算機が搭載されたロボットを想定するため,CPUのクロック周波数を変化させる.4.2.実験結果要求レイテンシを考慮した分割が理想的にできるかどう

か検証する表 1および表 2に処理時間及び通信時間を変化させた際の分割結果を示す.表 1 は,クライアントの処理時間が長く,通信時間が

短い場合を示している,これにより,要求レイテンシを満たしつつ,可能な限り出力層側を選択できていることがわかる.表 1 : ロボット性能:低,通信帯域広の場合 (CPU 0.8GHz,50Mbps)

分割層 i 要求レイテンシ [ms]

60 100 120 300 500

7 ◎ ◎

6 ◎ ◯ ◯

5 ◯ ◯ ◯

4 ◯ ◯ ◯

3 ◯ ◯ ◯

2 ◎ ◯ ◯ ◯

1 ◎ ◯ ◯ ◯ ◯

0 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯

表 2は,示すクライアントの処理時間が短く,通信時間が長い場合の結果である.この条件下では要求レイテンシを満たすことができない場合がある.このような場合には,応答時間が最も短くなるような分割層を決定できている.

表 2 : ロボットの性能:高,通信帯域:狭の場合 (CPU 2.8GHz,5Mbps)

分割層 i 要求レイテンシ [ms]

60 100 120 300 500

7 ◎

6 ◯

5 ◎ ◎ ◎ ◎ ◯

4 ◯

3 ◯

2

1 ◯

0

5.おわりに本研究では,ユーザのリクエストに可能な限り応え,ク

ラウドサーバの負荷を減らすレイテンシを考慮した自動分割法を提案した.今後の展開として,より最適な分割が可能なモデルの検討などが挙げられる.また,このシステムを基盤とした顔画像解析エンジンの公開を行なった.参考文献[1] O. Zweigle,   et al, “Roboearth: connecting robots

worldwide”, ICIS ACM, pp. 184-191, 2009.

[2] 山内悠嗣 等,“クラウドロボティクスのための画像認識エンジンの提案”, 電子情報通信学会技術報告,パターン認識・メディア理解,Vol. 115,No. 456,pp. 91-96,2016.