アメリカ合衆国 united states of america 通 信米 国 1 アメリカ合衆国 (united...

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1 アメリカ合衆国 United States of America Ⅰ 監督機関等 米国では、連邦法と州法、裁判所による関連判例が通信分野及び放送分野を規 律している。連邦レベルでは、連邦通信委員会( Federal Communications Com- missionFCC )が「 1934 年通信法 」( 1996 年電気通信法により改正。以下、「通 信 法 」)に 基 づ い て 、通 信・放 送 分 野 を 所 掌 し て い る ほ か 、商 務 省 国 家 電 気 通 信 情 報庁( National Telecommunications and Information Administration NTIA が大統領の主要諮問機関として情報通信政策に関する大統領への助言や連邦政府 用の無線局免許付与と周波数管理等を行っている。また、連邦取引委員会 Federal Trade CommissionFTC )が競争促進政策の推進や消費者保護行政を 所掌している。その他、国際的な調整に関しては国務省( Department of State DOS )が、また通商関連では米国通商代表部( Office of the U.S. Trade Repre- sentative USTR )も関係する。州レベルでは、各州の公益事業委員会( Public Service Commission/Public Utilities Commission PSC/PUC )が電気通信事業 等の公益事業を所掌している。 1 連邦通信委員会( FCC Federal Communications Commission Tel. 1 888 225 5322 Fax 1 866 418 0232 URL https://www.fcc.gov/ 所在地 445 12 th Street, SW., Washington, D.C. 20554, U.S.A. 幹 部 Ajit Pai (委員長/ Chairman Michael ORielly (委員/ Commissioner Brendan Carr (委員/ Commissioner Jessica Rosenworcel (委員/ Commissioner 所掌事務 委員会組織の独立規制機関であり、電気通信・放送分野における規則制定、行 HTML

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米 国

1

アメリカ合衆国

(United States of America)

通 信

Ⅰ 監督機関等

米国では、連邦法と州法、裁判所による関連判例が通信分野及び放送分野を規

律している。連邦レベルでは、連邦通信委員会(Federal Communications Com-

mission:FCC)が「1934 年通信法」(1996 年電気通信法により改正。以下、「通

信法」)に基づいて、通信・放送分野を所掌しているほか、商務省国家電気通信情

報庁(National Telecommunications and Information Administration:NTIA)

が大統領の主要諮問機関として情報通信政策に関する大統領への助言や連邦政府

用の無線局免許付与と周波数管理等を行っている。また、連邦取引委員会

(Federal Trade Commission:FTC)が競争促進政策の推進や消費者保護行政を

所掌している。その他、国際的な調整に関しては国務省(Department of State:

DOS)が、また通商関連では米国通商代表部(Office of the U.S. Trade Repre-

sentative:USTR)も関係する。州レベルでは、各州の公益事業委員会(Public

Service Commission/Public Utilities Commission:PSC/PUC)が電気通信事業

等の公益事業を所掌している。

1 連邦通信委員会(FCC)

Federal Communications Commission

Tel. +1 888 225 5322

Fax +1 866 418 0232

URL https://www.fcc.gov/

所在地 445 12th

Street, SW., Washington, D.C. 20554, U.S.A.

幹 部

Ajit Pai(委員長/Chairman)

Michael O’Rielly(委員/Commissioner)

Brendan Carr(委員/Commissioner)

Jessica Rosenworcel(委員/Commissioner)

所掌事務

委員会組織の独立規制機関であり、電気通信・放送分野における規則制定、行

HTML 版

米 国

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政処分の実施を所掌している。FCC の組織と所掌に関しては、主に「通信法」第

1 条(連邦通信委員会の設置)、第 4 条(委員会に関する規定)、第 5 条(委員会

の組織及び機能)に規定されている。また同法には、制定した規則を FCC が定期

的に見直すことが規定されている。

FCC の電気通信に関する所掌には、料金(制度を含む)の審理・設定、事業の

拡大・縮小・廃業の認可、事業報告書の聴取、会計記録方法の制定、一般調査等

がある。なお、州内通信への参入や料金にかかわる規制は各州に設置された公益

事業委員会も所掌しているが、無線通信は通信法第 301 条により FCC の所掌と

規定されており、また、同第 332 条では、州又は地方政府が商用移動無線業務や

自営移動無線業務にかかわる参入や料金について規制するいかなる権限も持たな

いと規定している。有線による州際・国際通信及び無線通信に関する FCC の主な

所掌事務は以下のとおりである。

・周波数管理(連邦政府用周波数を除く)

・無線局の免許付与及び規制

・州際・国際通信事業者に対する規制

FCC は、準司法機関的性格も有し、係争者による主張や反論に対して聴取した

うえで裁定を下す権限が認められている。なお、審理には利害が対立する当事者

からの申請や請願を裁定する審判的審理と、規則案を提示し関係者の意見を求め

て裁定する規則制定審理がある。規則の制定手続の主な順序は次のとおりである。

①規則制定案告示(Notice of Proposed Rule Making:NPRM)

②利害関係者からの意見書提出(Comment/Reply Comment)

③報告と命令(Report and Order)

組織

委員会並びに 7 局(Bureau)と 8 室(Office)によって構成されている。委員

会は、上院の助言・同意を得て、大統領が任命する 5 名の委員(Commissioner)

で構成され、大統領はそのうち 1 名を委員長(Chairman)に指名する。各委員の

任期は 5 年であり、同一政党に属する委員の上限は 3 名である。

・7 局

消費者政府関係局(Consumer and Governmental Affairs)

執行局(Enforcement)

国際局(International)

メディア局(Media)

公共安全・国土安全保障局(Public Safety and Homeland Security)

無線通信局(Wireless Telecommunications)

有線通信局(Wireline Competition)

・8 室

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行政法審判官室(Administrative Law Judges)

通信事業支援室(Communications Business Opportunities)

工学・技術室(Engineering and Technology)

法律顧問室(General Counsel)

監察長官室(Inspector General)

総務室(Managing Director)

広報室(Media Relations)

経済・分析室(Office of Economics and Analytics)

なお、2018 年 10 月に、上下院の歳出委員会と行政管理予算局(Office of Man-

agement and Budget:OMB)は、FCC に経済・分析室を新設することを承認し

た。FCC は、2018 年 12 月に経済・分析室を創設し、運用を開始した。経済学者、

弁護士、データ・スペシャリスト等を含めて、100 人程度が所属する予定で、オー

クションの監督権も同室に移された。また、経済・分析室の新設に合わせて、こ

れまであった戦略策定・政策分析室(Office of Strategic Planning and Policy

Analysis:OSPP)は廃止された。

2 商務省国家電気通信情報庁(NTIA)

National Telecommunications and Information Administration

Tel. +1 202 482 2000

URL https://www.ntia.doc.gov/

所在地 1401 Constitution Ave. NW, Washington, D.C. 20230, U.S.A.

幹 部

David J. Redl(次官補/Assistant Secretary for Communica-

tions and Information)

Diane Rinaldo(副次官補/Deputy Assistant Secretary for

Communications and Information)

所掌事務

「機構改革計画第 1 号」(1977 年 10 月)及びそれを実施に移した「行政命令

第 12046 号」(1978 年 3 月)に基づき、商務省(Department of Commerce:DOC)

の内部部局として 1978 年 4 月に設置された。同庁は、国内及び国際情報通信政

策における大統領の主要諮問機関である。長官は、大統領により指名され、上院

の承認を得た後、宣誓就任を行う。同庁では国家の情報通信基盤の維持・発展を

促すために、以下を所掌する。

・情報通信政策に関する大統領への助言

・FCC 規則制定過程での意見表明

・情報通信政策の策定(連邦政府用周波数の有効利用等)

・連邦政府用の無線局免許付与と周波数管理

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・電気通信科学研究所( Institute for Telecommunications Science:ITS)に

おける技術開発

3 連邦取引委員会(FTC)

Federal Trade Commission

Tel. +1 202 326 2222

URL https://www.ftc.gov/

所在地 600 Pennsylvania Avenue, NW, Washington, D.C. 20580,

U.S.A.

幹 部

Joseph J. Simons(委員長/Chairman)

Noah Joshua Phillips(委員/Commissioner)

Rohit Chopra(委員/Commissioner)

Rebecca Kelly Slaughter(委員/Commissioner)

所掌事務

「反トラスト法(Antitrust Law)」及び関連法に基づく競争促進政策の推進、

更に、「FTC 法」や消費者保護関連各法に基づく消費者保護等を目的とする法執

行機関である。なお、電気通信分野における主な規制分野として、テレマーケティ

ング、個人情報の保護、スパム・メール等があり、最近では移動電話上の商取引

やオンライン行動ターゲット広告についても関心を高めている。

FTC は、上院の助言・承認を経て、大統領が任命する 5 名の委員により構成さ

れ、大統領はそのうち 1 名を委員長として指名する。各委員の任期は 7 年で、同

一政党に属する委員の上限は 3 名とされている。また FTC の組織構成は以下の

とおりである。その他、地方局(Regional Office)がある。

4 司法省(DOJ)

Department of Justice

Tel. +1 202 514 2000

URL https://www.justice.gov/

所在地 950 Pennsylvania Avenue, NW, Washington, D.C. 20530-0001,

U.S.A.

幹 部

Matthew G. Whitaker(司法長官代理/Acting Attorney Gen-

eral)

Rod J. Rosenstein(副司法長官/Deputy Attorney General)

Makan Delrahim(反トラスト局副長官/Antitrust Division,

Assistant Attorney General)

所掌事務

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連邦法の順守を司法的手段により確保する機関である。電気通信分野は、主に

反トラスト局(Antitrust Division)が所掌している。反トラスト局の電気通信分

野における活動の事例として、1974 年の「対 AT&T 反トラスト訴訟」が挙げら

れる。AT&T に対する反トラスト訴訟は、1984 年に AT&T の再編成(解体)を

もたらし、米国の電気通信産業を大きく変化させることになった。

近年では、2011 年 8 月に、AT&T と T-モバイル USA(T-Mobile USA、現 T-モ

バイル US)の合併差止めの提訴を実施、AT&T は同社の買収を断念した。2013

年 6 月には、日本のソフトバンクによる米国第 3 位の加入者数を有する通信事業

者、現スプリント(Sprint)の買収を承認し、2013 年 7 月に買収が完了した。ま

た、2013 年には通信分野だけでなく、放送分野でも、シンクレア(Sinclair)に

よるフィッシャー(Fisher)所有のテレビ局の買収も承認している。その他、司

法省が認可した近年の買収事案としては、 2012 年 2 月に承認したグーグル

(Google)によるモトローラ・モビリティ(Motorola Mobility)の事案、2013 年

12 月に承認したマイクロソフト(Microsoft)による機器メーカーのノキア(Nokia)

の事案、2015 年 7 月に承認した AT&T による衛星放送事業者の DirecTV の事案、

2016 年 4 月に承認したケーブルテレビ事業者チャーター(Charter)によるタイ

ム・ワーナー・ケーブル(Time Warner Cable)及びブライト・ハウス・ネット

ワークス(Bright House Networks)の事案がある。

なお、2016 年 10 月に発表された AT&T とタイム・ワーナー・ケーブルの合併

については、司法省は、同合併を阻止するため、2017 年 11 月に提訴した。これ

について、連邦地裁は、司法省の訴えを 2018 年 6 月に棄却したが、翌 7 月に司

法省は上訴した。同裁判の審理は、2018 年 12 月に開始された。

5 国土安全保障省(DHS)

Department of Homeland Security

Tel. +1 202 282 8000

URL https://www.dhs.gov/

所在地 U.S. Department of Homeland Security Washington, D.C.

20528, U.S.A.

幹 部 Kirstjen M. Nielsen(長官/Secretary)

所掌事務

2001 年 9 月 11 日の同時多発テロを受け、ブッシュ大統領(当時)は、2002 年

11 月に国土安全保障に関する各省庁・部局等を一元化する「国土安全保障法

(Homeland Security Act of 2002)」法案に署名、同法が発効した。同法に基づ

き、税関局、財務省の要人警護組織、移民局、運輸省の沿岸警備隊など 8 連邦省

庁 22 部局を統合して、DHS は設立された。DHS は、2003 年 1 月 24 日に正式

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に業務を開始し、平時・戦時にかかわらず、大統領の命令によって 24 時間体制で

業務を行う。

DHS は、重要インフラ防護対策を総括する役割を担っている。2006 年には、

「国家インフラ防護計画(National Infrastructure Protection Plan:NIPP)を

策定、17 の重要インフラ分野を指定した。ただし、関連法整備が難航したことを

踏まえ、オバマ政権(当時)では、2013 年 2 月に二つの大統領令を発出し、官民

でのサイバーセキュリティ関係の情報共有体制構築に向けた作業を、DHS を含む

関連省庁に指示した。

DHS には、重要インフラ等のサイバー情報集約機関である国家サイバーセキュ

リティ通信統合センター(National Cybersecurity and Communications Inte-

gration Center:NCCIC)が設置されている。その他、米国連邦政府のサイバー・

インシデント対応組織である US-CERT(United States Computer Emergency

Readiness Team)を統括している。また、2018 年 11 月 16 日の大統領による法

案署名に伴い、DHS の国家保護・プログラム総局(National Protection and Pro-

grams Directorate:NPPD)のミッションを継承するサイバーセキュリティ・イ

ンフラストラクチャ・セキュリティ庁(Cybersecurity Infrastructure Security

Agency:CISA)が発足した。

6 その他の関連機関

(1)州公益事業委員会(Public Service Commission/Public Utilities Commis-

sion:PSC/PUC)

公益事業委員会が各州に設置されている。州法により、組織、所掌範囲、規制

手続等が規定されている。その規制の対象は公益事業全般にわたり、電気通信事

業、ケーブルテレビ事業のほか、電気、ガス、水道、陸運、水運、航空等が含ま

れる。公益事業委員会の組織構成は州によって異なるが、委員は最大 7 名により

構成されている。委員会の職員数も幅が大きく、小規模なものは 20 名程度、大規

模なものでは 1,000 名に上る。

(2)議会(Congress)

連邦議会は、立法機関として、電気通信関連法令の制定により米国の電気通信

の基本的枠組を設定するほか、行政機関に対する予算割当を含む監督権限を持つ。

提出された電気通信関連法案は、情報通信政策を所掌する上院の商業・科学・運

輸委員会(Senate Committee on Commerce, Science, and Transportation)及

び通信・技術・イノベーション・インターネット小委員会(Subcommittee on Com-

munications, Technology, Innovation, and the Internet)、下院のエネルギー・

商業委員会(House Committee on Energy and Commerce)及び電気通信小委員

会(Subcommittee on Communications and Technology)を中心に審議される。

議会はその立法権のほか、行政組織の決定や個々の行政の監督等についての権

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限を持つ。また、FCC の委員や省庁幹部職員の指名・任命は大統領が行い、上院

の承認を必要とする。

(3)大統領府(Executive Branch)・行政機関(Executive Agencies)

その他、監督権限はないが、政策立案・調整を行う組織としては、大統領府科

学技術政策局(Office of Science and Technology Policy:OSTP)がある。OSTP

局長については、大統領は 2018 年 7 月 31 日に同氏を局長に指名する意向を発表

しており Kelvin Droegemeier が上院承認待ちとなっている。なお、2018 年 12

月現在、副 CTO の Michael Kratsios が実質、OSTP を率いている。また、予算

調整という観点から、行政管理予算局(OMB)が情報通信分野の行政にかかわっ

ている。また、オバマ政権時に以下の責任者を置いた。

・OSTP

-連邦政府最高技術責任者( Federal Chief Technology Officer of United

States:連邦 CTO)。初代は Aneesh Chopra、2 代目は Todd Park、3 代目は Megan

Smith(2014 年 9 月から 2017 年 1 月まで)。

・OMB

-連邦政府最高情報責任者(Chief Information Officer of United States:連

邦 CIO)。初代は Vivek Kundra、2 代目は Steven VanRoekel、3 代目は Tony

Scott(2015 年 2 月から 2017 年 1 月まで)。トランプ政権に入り、1 年以上連邦

CIO のポストは空席となっていたが、2018 年 1 月 26 日、Suzette Kent が指名

された。

-連邦政府最高情報セキュリティ責任者(Federal Chief Information Security

Officer:連邦 CISO)、2016 年 9 月に新設。初代に Gregory J. Touhill(2017 年

1 月まで)。2018 年 7 月に 2 代目の Grant Schneider が指名された。

(4)国務省(Department of State:DOS)

外交政策の策定及び実施に当たり、大統領への助言を含み、全面的な責任を有

する。電気通信分野における国際政策は、経済・企業局(Bureau of Economic and

Business Affairs)の国際コミュニケーション・情報政策( International Commu-

nications and Information Policy:CIP)グループが所掌しており、米国代表と

して、各国政府及び国際機関(ITU、OECD、APEC 等)との協議などを行ってい

る。

(5)米国通商代表部(Office of the U.S. Trade Representative:USTR)

当初、USTR は、通商協定プログラムの管理や通商政策の調整に関する責務を

有していたが、1979 年の「機構改革計画」第 3 号及び同計画を実施に移した「行

政命令第 12188 号」(1980 年 1 月)により、全般的な通商政策の策定とその管理

責任が課された。更に、「1988 年包括通商・競争力強化法(Omnibus Trade and

Competitiveness Act of 1988)」により「1974 年通商法(Trade Act of 1974)」

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第 301 条が改正され、不公正な貿易慣行に関して、調査結果に基づき貿易障壁を

除去するための当該国との交渉及び必要な報復措置を実施する権限が、大統領府

から移管された。

(6)農務省(Department of Agriculture, Rural Development:RD)

主な役割は、ルーラル地域の居住者が、都市部の居住者と同様に電気、電話、

水道サービスを受けられるように援助することにある。

RD は「電気通信プログラム(Telecommunications Program)」を通じて、通

信基盤整備のための資金貸付等を行い、電気通信基盤整備を行っている。1995 年

以降は、ブロードバンド・サービスも支援対象となっている。また、ルーラル公

共サービス(Rural Utility Service:RUS)がルーラル地域の開発関連政策の立

案等を担っている。

Ⅱ 法令

電気通信にかかわる法規として、「合衆国憲法」(特に言論、出版の自由を規定

する憲法修正第 1 条)が頂点に位置し、その下に「1934 年通信法」があり、それ

を受けて「FCC 規則(FCC Rules and Regulations)」が制定されている。同規則

は連邦規則集(Code of Federal Regulations:CFR)第 47 編「電気通信」に収

められている。

1 1934 年通信法(Communications Act of 1934)

1934 年に制定された電気通信事業に関する根拠法である。同法により、州際通

商委員会(Interstate Commerce Commission:ICC)が保有していた電気通信事

業者に対する規制権限と、連邦無線委員会(Federal Radiocommunication Com-

mission:FRC)が保有していた無線通信に対する免許付与権限、公衆電気通信事

業の規制と放送事業の規制が統合され、FCC が設立された。

2 1996 年電気通信法(Telecommunications Act of 1996)

1996 年 2 月、「1934 年通信法」を改正する「1996 年電気通信法」(改正後の同

法を以下、「通信法」とする)が成立した。

「通信法」は、電気通信、放送、ケーブルテレビ等の市場における競争を促進

することを目的に、市内通信事業者による長距離通信市場への参入及び長距離通

信事業者等による市内通信市場への参入、電気通信事業者によるケーブルテレビ・

サービスの提供、放送局所有等に関する従来の規制の緩和を図っている。また、

電気通信事業者の相互接続要件、ベル系地域通信事業者(Regional Bell Operat-

ing Company:RBOC)が長距離通信を提供する場合等の分離子会社要件等の規

定による公正な競争環境の整備のほか、ユニバーサル・サービス条項により電気

通信の高度化に伴う公共性の確保も考慮するなど、その規定は広範囲にわたって

いる。同法の主な内容は以下のとおりである。

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(1)「通信法」の構成

第Ⅰ編 総則(改正) *

第Ⅱ編 電気通信事業者

第1章 公衆電気通信事業者の規制(改正)

第2章 競争市場の発展(新設)

第3章 ベル系地域通信事業者に関する特別規定(新設)

第Ⅲ編 無線に関する規定

第1章 総則(改正)

第2章 船舶の無線設備及び無線従事者(改正)

第3章 対価を得て乗客を運ぶ船舶の無線設備(改正)

第4章 公衆電気通信設備に対する支援、電気通信技術の実験、公共放送機構

(Corporation for Public Broadcasting:CPB)の所掌

第Ⅳ編 司法手続及び行政手続に関する規定(改正)

第Ⅴ編 罰則-課徴金

第Ⅵ編 ケーブル通信

第1章 総則(改正)

第2章 ケーブル・チャンネルの使用及びケーブル所有の制限(改正)

第3章 フランチャイズの付与及び規制(改正)

第4章 雑則(改正)

第5章 電気通信事業者による映像番組配信サービスの提供(新設)

第Ⅶ編 雑則(改正)

*各章の「改正」は、条項の新設によるものも含む。

(2)主要規定

規定事項 条項

定義に関する規定 第3条 定義

FCCに関する規定

第4条 委員会に関する規定

第5条 委員会の組織及び機能

第6条 予算の授権

料金に関する規定

第201条 サービス及び料金

第202条 差別及び優遇

第203条 料金表

第204条 新しい料金の適法性についての聴聞、停

第205条 公正かつ合理的な料金を指定するFCCの

権限

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線路敷設権に関する規定 第214条 線路の延長

第224条 電柱添架の規制

相互接続 第251条 相互接続

相互接続協定の締結・認

可 第252条 交渉、仲裁及び協定の承認の手続

ユニバーサル・サービス 第254条 ユニバーサル・サービス

RBOCによるLATA*

サービス規定 第271条 RBOCのLATA間サービスへの参入

RBOCに課されている要

件 第272条 分離関連会社:保障措置

RBOCによる通信機器の

製造、電子出版、警報監

視サービス

第273条 RBOCによる製造

第274条 RBOCによる電子出版

第275条 警報監視サービス

外資規制 第310条 免許の所有及び移転についての制限

通信事業者・ケーブルテ

レビ関係

第651条 映像番組配信サービスの規制上の取扱い

第652条 買収の禁止

第653条 オープン・ビデオ・システムの設置

* LATA(Local Access and Transport Area):ベル系地域通信事業者の業務区域

出所:「通信法」

3 1962 年通信衛星法(Communications Satellite Act of 1962)

ケネディ大統領(当時)が 1961 年に発表した「米国の通信衛星政策に関する

声明」に基づき制定された。同法では、商業通信衛星システムの導入を規定して

おり、同法により 1962 年に民間衛星通信会社コムサット(COMSAT)が設立さ

れた。

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

(1)認証制度

「通信法」第 214 条「線路の延長」の規定により、「電気通信事業者は、電気通

信サービス提供用の線路を敷設することが、公共の便宜及び必要に資することに

ついて、FCC の認証(Certificate)を取得しなければ、当該線路を建設してはな

らない」と規定されている。

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なお、同規定は、1996 年の改正により導入されたもので、同法では、「電気通

信事業者(Telecommunications Carrier)」の概念は、「電気通信サービスを提供

するいかなる者」をも含むものと定義された。無線通信事業者は、これに加えて、

同法第 309 条に規定される無線局の免許を取得しなければならない。

(2)相互接続義務

AT&T の分割以降、米国の長距離通信市場の競争は進展したものの、市内通信

市場では、市内網への設備投資が巨額となるため、競争は進展しなかった。そこ

で、市内通信市場での競争促進のために、公正な条件での相互接続の確保が必要

不可欠であるという認識から、既存市内通信事業者( Incumbent Local Exchange

Carrier:ILEC)に対する相互接続義務と接続協定の仲裁手続について「通信法」

により制度整備が実施された。「通信法」の第 251 条では、すべての電気通信事

業者に対して、相互接続義務が課されている。加えて、ILEC に対しては、追加的

義務として、市内通信サービスを幾つかのネットワーク構成要素に細分化し

(Unbundled Network Elements:UNE)、指定された UNE を競争的市内通信事

業者(Competitive Local Exchange Carriers:CLEC)に対して提供することが

義務付けられている。なお、同条に関する規則として、FCC は、1996 年 8 月に

「相互接続規則」を制定した。同規則については、電気通信事業者から行政裁判

が起こされたが、最終的に、光ファイバ等の UNE に関する義務付けが緩和され

た。

(3)外資規制

外資規制関連法としては、すべての外国企業に適用する通称「エクソン・フロ

リオ条項(Exon-Florio Provision)」及び電気通信サービスを提供する米国企業を

取得・合併・買収する外国企業に適用する「通信法」の二つがある。

「エクソン・フロリオ条項」は、国家安全保障の観点から外資による投資に対

する規制を行うものである。同条項は、2007 年に「2007 年外国投資安全保障法」

(2007 年 10 月施行)によって改正され、審査基準項目の追加や情報分析活動の

強化が盛り込まれた。

「通信法」第 214 条は、参入する外国企業の審査に関して規定し、同法第 310

条では外国企業による無線局免許の取得に関して規定している。なお、第 214 条

及び第 310 条は電気通信サービスを提供する米国企業を取得・合併・買収する外

国企業に対して適用される場合がある。第 310 条の規定は以下のとおりである。

・外国政府、外国人、外国人が役員である会社及び外資比率が 20%(直接投資

の上限)を超える会社に対しては無線局免許が付与されない。

・FCC の認定により、外国人が役員である会社若しくは外資比率が 25%(間

接投資の上限)を超える会社の子会社に対しては無線局免許を付与しない。

・間接投資の場合は、相手国の市場開放度に応じて、また、公共の利益に合致

米 国

12

すると判断した場合、FCC は上限を上回る投資を認める裁量権を持つ。

なお、FCC は 2011 年 11 月、公衆電気通信事業者にかかる外資所有率規制につ

いて、一部規制緩和を実施する案を公表した。同規制緩和案では、外資が経営に

関与しない米国組織を通じて公衆電気通信事業者を所有している場合には、一律

に外資比率 20%までの制限を適用せず、事例ごとに公益性の審査を実施し、外資

所有が公益に一致していると判断される場合には外資所有率規制を適用しないと

している。FCC はこの改正により、国家安全保障や司法当局の利益を守り、米国

貿易方針に合致しながら、公衆電気通信事業者がより柔軟に外資を受け入れるこ

とができるようになるとしている。同案に基づき、FCC は、2013 年 11 月に、同

規制緩和案を採択する決定を実施した。また、外資が米国の放送局に対して 25%

以上を出資する場合、個別案件ごとに判断することとなった。更に、2016 年 9 月、

FCC は満場一致で、外資が米国の放送局に対して 25%以上を出資する場合の手

続を簡素化する規則改正案を採択し、放送局に対しても公衆電気通信事業者と同

様の手続を導入することを決定した。

同規制緩和のもと、FCC は、2017 年 2 月に、非米国民によるラジオ局の完全

保有を初めて認めた。その後、2018 年 5 月と同年 8 月にも非米国民によるラジ

オ局の完全保有を認める決定を行った。

2 競争促進政策

(1)長距離通信事業者と地域通信事業者の変遷

1984 年に旧 AT&T は、七つの RBOC に分割された。その後、買収・合併を経

て、RBOC は 3 社に再編されている。

(2)移動体通信事業者間の合併審査

全国規模で移動体通信事業を操業しているのは、AT&T、ベライゾン・ワイヤレ

ス(Verizon Wireless)、T-モバイル US、スプリントとなっている。このうち、

市場シェア第 3 位と第 4 位である T-モバイル US とスプリントは、合併協議を進

めたものの合意に至らなかったことが、2017 年 11 月に公表された。その後、2018

年 4 月に、T-モバイルはスプリントを買収することで合意したと発表したが、FCC

は、同年 9 月に、審査には時間がかかるとして、180 日間以内となっている同合

併審査を一時停止したが、同年 12 月に審査を再開した。

3 情報通信基盤整備政策

(1)ユニバーサル・サービス制度の概要と制度改革

ユニバーサル・サービスの制度枠組は、「通信法」第 254 条に規定されており、

FCC 規則により詳細規定が定められている。ユニバーサル・サービスの対象範囲

は、公衆交換網への音声サービス(通話の発着信機能を有するもの、すなわち一

般の電話サービス)、2 周波トーン信号(プッシュホン)機能を有するサービス、

911 及び E911 を含む緊急通報サービス、オペレータ・サービス、長距離通信サー

米 国

13

ビス、電話帳及び番号案内、学校・図書館、ルーラル地域の医療機関への高度電

気通信サービスである。これらのサービスを対象に、FCC 規則に基づき、「ユニ

バーサル・サービス基金(Universal Service Fund:USF)」が設立された。同基

金は、州際・国際通信サービス提供事業者(長距離通信事業者、移動体通信事業

者、衛星通信事業者、IP 電話事業者等)による負担金によって維持され、ユニバー

サル・サービス管理会社(Universal Service Administrative Company:USAC)

が管理・運用している。

同基金により、①高コスト地域支援、②低所得層支援、③学校・図書館支援、

④ルーラル地域の医療機関支援の四つを柱とする支援プログラムが実施されてい

る。なお、USF からの支援は、各州が指定する「適格電気通信事業者(Eligible

Telecommunications Carrier:ETC)」のみが受けることが可能である。

当初、ユニバーサル・サービス基金の高コスト地域支援プログラムは固定電話

サービスを補てんするために利用されてきたが、固定電話サービスが廃れてきて

いる現状を踏まえ、FCC は、2010 年初頭、同基金をブロードバンド・サービス

の普及推進に充てる方針へと切り替えた。その結果、2010 年 3 月に発表された

「国家ブロードバンド計画(National Broadband Plan)」において、ユニバーサ

ル・サービス基金の抜本的な制度改革が提案された。同計画では、10 年間かけて

ユニバーサル・サービス基金によるブロードバンド・サービス支援を実現すると

して、学校・図書館を支援する「E-rate プログラム」のアップグレード、ルーラ

ル地域の医療機関を支援する「ルーラル・ヘルスケア・プログラム」の改革とアッ

プグレード、ブロードバンド未提供地域等を支援する「コネクト・アメリカ基金」

の創設、すべての州で一定水準以上の 3G(又はそれ以上)サービスを利用可能と

する「モビリティ基金」の創設が盛り込まれた。

2011 年 10 月には、上記にかかる「ユニバーサル・サービス制度改革命令(USF

改革命令)」(FCC 11-161)(FCC の非公式な略称は、USF/ICC Transformation

Order)を採択した。同規則は、以下を目的としている。

・音声サービスの維持と高度化

・世帯、企業、コミュニティ、機関的な組織に対して、音声サービスとブロー

ドバンドのユニバーサルな利用可能性を確保

・米国人の生活、仕事、旅行時におけるモバイル通話とモバイル・ブロードバ

ンドの利用可能性を確保

・ブロードバンドと音声サービスの妥当で比較可能な料金の提供を確保

・消費者と企業のユニバーサル・サービスへの拠出を最小化

同規則により、既存のすべての高コスト地域支援を、遠隔地域におけるブロー

ドバンド網整備とモバイル・サービスの高度化のために新設されるコネクト・ア

メリカ基金からの支援に置き換えることが規定された。また、コネクト・アメリ

米 国

14

カ基金から資金が拠出されるモビリティ基金により、3G と 4G 拡大を支援するこ

とも規定された。

(2)コネクト・アメリカ基金

FCC は、2012 年 4 月に、USF 改革命令で新設された「コネクト・アメリカ基

金」から、ブロードバンドにアクセスできる環境にないルーラル地域の一般家庭、

企業、アンカー施設 40 万戸にブロードバンドを提供するために 3 億 USD を交付

すると発表した。2012 年 7 月には、コネクト・アメリカ基金からの第 1 フェーズ

の支援として、1 億 1,500 万 USD の公的資金の交付を開始した。また、2013 年

5 月には、第 1 フェーズでは 2 回目となる公的資金の交付手続を開始した。FCC

は、2 回目の公的資金交付から「高速ブロードバンドがカバーしていない地域」

の定義を従来の下り 768kbps/上り 200kbps から、高速アクセス(最低下り

3Mbps/上り 768kbps)が整備されていない地域とし、対象範囲を拡大した。最

終的に、2 回目の公的資金交付では米国 44 州及びプエルトリコにサービスを提供

する事業者などから総額 3 億 8,500 万 USD に及ぶ公的資金の交付申請があった。

2015 年 9 月には、第 2 フェーズとして、同基金から、AT&T のほか、センチュ

リーリンク(CenturyLink)を含めた 10 社に対し、6 年間で総額 90 億 USD が

配分されることが決定された。更に、2016 年 6 月には、小規模な通信事業者によ

るルーラル地域へのブロードバンド整備に対して、同基金から 10 年間で総額 20

億 USD を拠出する計画を発表した。

トランプ政権に交代後も、同基金からの拠出は続けられており、2017 年 1 月に

は、FCC は、ニューヨーク州ルーラル地域のブロードバンド普及拡大に、コネク

ト・アメリカ基金から 1 億 7,000 万 USD を交付することを決定した。更に、2017

年 2 月には、コネクト・アメリカ基金の第 2 フェーズとして、大手通信事業者が

受給を辞退した 20 億 USD 分の補助金を交付するためのリバース・オークション

規則にかかる決定を採択した。同決定により、FCC は、辞退分の資金を競争事業

者にオークションで交付する。同オークションは、2018 年 8 月に修了し、14 億

8,800 万 USD で 70 万超の地点を接続するブロードバンド網が構築されることに

なった。なお、同オークションで余った 5 億 USD 分の用途としては、ブロード

バンド構築を補助する遠隔地域基金に組み込まれる可能性もある。補助金は、45

州のブロードバンド・サービスが提供されていない地域を対象に 10 年間交付さ

れる。

(3)ライフライン・プログラムの見直し

2016 年 3 月、FCC はユニバーサル・サービス基金によって運営されている「ラ

イフライン・プログラム」を現代の通信サービスに即したものに改革する計画を

採択した。同プログラムは 1985 年に創設されたプログラムであり、連邦政府の

支援プログラムを受給する低所得者に対して、固定電話の利用に対して助成金を

米 国

15

出すものである。2008 年には移動電話の通話サービスも助成対象に加えられてい

る。新プログラムにおいては、ブロードバンド・サービスを助成の対象として含

むこととしている。この結果、2016 年 12 月 1 日より、ライフライン・プログラ

ムの登録者は、下り 10Mbps、上り 1Mbps、容量 150GB を最低基準とする固定

ブロードバンド・サービスに対して、月 9.25USD の助成を受けることができる。

助成対象のブロードバンドのサービス基準は毎年段階的に見直しが行われること

とされた。FCC では、2021 年までのサービス基準と助成金額を定めている。同

プログラムの 2018 年 1 月からの 1 年間の予算は、22 億 7,900 万 USD である。

(4)モビリティ基金

FCC は、2012 年 9 月にモビリティ基金にかかる第 1 フェーズとして、移動体

通信サービスの提供範囲が全国平均を下回る地域で 3G/4G の移動体通信インフ

ラ構築を支援する一回性の資金として合計 3 億 USD を交付するリバース・オー

クション方式による入札を実施した。同オークションには、 52 社が応札、33 社

が総額 2 億 9,999 万 USD を落札した。同オークションでは、792 件の落札につ

いて、段階的に資金を割り当てた。これにより、合計 31 州の最大 8 万マイル長

以上の地域で 3G と 4G 整備が進められたものの、57 万 5,000 平方マイル(約 148

万 9,243 平方キロ)の未整備地域が残ったことから、FCC では、2017 年 2 月に

モビリティ基金第 2 フェーズにかかる命令を採択した。第 2 フェーズでは、継続

的な支援なしではモバイルの音声及びブロードバンド・サービスの提供又は拡大

が不可能な地域で操業するプロバイダに対して、4 億 5,300 万 USD がリバース・

オークションを通じて交付される。なお、同基金で支援の対象となるモバイル・

ブロードバンドの速度や料金の条件は以下となっている。

・下りと上りの伝送速度の中央値がそれぞれ 10Mbps、1Mbps であること

・遅延が 100 ミリセカンド以下であること

・料金が都市部と比較しても妥当であること

また、2017 年 8 月には、モビリティ基金第 2 フェーズの実施規則を採択した。

同年 10 月には、同規則で提出を求める 4G のカバレッジ情報の提出期限が、2018

年 1 月に設定された。収集した情報に基づき、2018 年 2 月には、補助対象地域の

電子地図が公表され(同年 8 月等にアップデート)、対象地域の見直し手続も行わ

れている。

(5)E-rate プログラムの改革

FCC は、2014 年 7 月に E-rate プログラムの改革にかかる命令を採択、以下の

三つの取組みを行うことを決定した。

・E-rate プログラムにより学校内の Wi-Fi 接続整備を支援

・すべての学校と図書館を高速ブロードバンド・サービスに接続

・E-rate プログラムの財務的な安定性を確立

米 国

16

同取組みの 2015 年から 2016 年にかけての成果についての報告書によると、

2015 年には 5 万校が Wi-Fi 接続支援を受け、総額 13 億 USD が配分された。ま

た、2016 年には、総額 10 億 USD 分が配分された。光ファイバ網に接続してい

なかった学校数は、2015 年の 9,500 校から 2016 年には 3,723 校に減少した。

FCC では、補助対象となるサービス・機器のリストを毎年更新し、公表している。

その他、FCC は、2017 年 9 月に上陸したハリケーンで被害を受けた地域の学校・

図書館に E-rate プログラムから緊急支援を提供することを決定した。

4 ICT 政策

(1)ネット中立性に関する動向

オバマ大統領(当時)は、ネット中立性と呼ばれる上位レイヤ・サービスの非

差別的な伝送を確保するための規則整備を後押ししており、FCC では、2009 年

から「オープン・インターネット規則」の策定によるネット中立性の規則整備を

進めた。同規則に対しては、ブロードバンドへの規制強化に反対する共和党系の

FCC 委員の反対や通信事業者からの反対が根強く、通信事業者が控訴裁判所に提

訴、同規則は 2014 年の判決で FCC が敗訴した。

これを受け、FCC では、2015 年 2 月に新たなオープン・インターネット規則

を公表した。同新規則では、ブロードバンド・アクセス・サービスを「通信法」

第二編の規制が適用される電気通信サービスに分類することで、FCC の規制権限

下に置き、特定のアプリケーションやサービスの伝送をブロックするブロッキン

グ、伝送速度に制限を加えるスロットリング、有料で特定の伝送を優先化する有

料優先措置の三つを禁止した。また、ブロードバンド・アクセス・サービスを提

供する事業者によるコンテンツ等の不当な妨害又は不当に不利な取扱いを禁止す

る一般行為規則を設け、その違反行為についてはケース・バイ・ケースで判断す

ること等を定めた。同規則を含む FCC 決定に対しても、ブロードバンド事業者等

から連邦控訴裁判所に提訴されたが、2016 年 6 月に、控訴裁判所は、FCC のネッ

ト中立性規則が合法であるとの判決を下した。なお、同判決を不服とする訴えが

最高裁に上告されていたが、最高裁はその訴えを棄却する判断を 2018 年 11 月に

下した。

同規則のもと、FCC は、大手通信事業者の AT&T やベライゾン・ワイヤレスが

提供していた特定のアプリケーションやサービスの伝送にかかる通信料を無料に

するゼロ・レーティングについて調査を開始、2017 年 1 月には、上院民主党の

マーキー議員に対して、両社の上述のサービスについてネットワークを保有する

事業者による競争阻害的な行為であるとの懸念があると報告した。しかし、同年

1 月に就任したアジト・パイ新 FCC 委員長は、翌 2 月にはゼロ・レーティングに

かかる調査の終了を公表した。

また、FCC は、ブロードバンド・アクセス・サービスの分類変更に伴い、同サー

米 国

17

ビスにかかるプライバシー保護も管轄となったことから、規則制定を進め、2016

年 10 月にブロードバンド・プライバシー規則を採択した。同規則は、ウェブ閲覧

やアプリ利用履歴など機密を要するとされるユーザ情報を、ブロードバンド・イ

ンターネット・サービス事業者( ISP)が第三者と共有する場合はユーザ本人の承

諾を得ることを義務付けた。また、情報流出時の通知期限を定め、どのようなデー

タが収集され、どのように利用されているか等について開示することも義務付け

た。ISP が加入者に対し、データ共有の許可を促すため、料金割引などのインセ

ンティブを提供する、いわゆる「ペイ・フォー・プライバシー」は認められるが、

FCC はケース・バイ・ケースで調査を行うとした。同規則については、パイ FCC

委員長は、同規則発効の期日である 2017 年 3 月 2 日の前日の 1 日に、同規則を

暫定的に停止すると採択した発表した。また、議会においても、本規則は見直し

対象とされ、2017 年 3 月には、上下両院でそれぞれ Congressional Review Act

に基づく決議案が可決され、4 月に大統領が署名したことにより、同規則の廃止

が決定した。なお、前トム・ウィーラー委員長は、ビジネス・データ・サービス

(BDS)にかかる規則についても改正を推進していたが、トランプ候補の当選後

には、改正は進まず、2017 年 1 月の FCC の議題からも削除された。

パイ FCC 委員長は、オープン・インターネット規則の再検討に取り組み、2017

年 5 月に、規制案である「インターネットの自由の回復(Restoring Internet Free-

dom)」を公示し、同年 8 月まで意見を募集した。同規制案では、ブロードバンド・

アクセスの分類を、「通信法」により規制が課せられる公衆電気通信ではなく、「情

報サービス」に再分類し、ブッシュ政権時の非規制の枠組みに戻すことを意図し

ている。また、「通信法」第二編の規律の対象を、伝統的な意味での公衆回線交換

網(public switched network)に限ることを提案した。規制案に対しては、期限

の 2017 年 8 月末までに 2,200 万件以上のコメントが提出されるなど、社会的に

も高い関心を集めた。意見募集後、2017 年 11 月に、「インターネットの自由の回

復」にかかる命令案が公表されており、同年 12 月に FCC 委員による採決が行わ

れ、採択された。同命令では、ブロードバンド・インターネット・アクセス・サー

ビス(Broadband Internet Access Service:BIAS)を情報サービスに再度分類す

ることで規制対象から除外した。また、伝送速度に制限を加えるスロットリング、

有料で特定の伝送を優先化する有料優先措置、ブロッキングの三つを禁止する規

制も廃止し、苦情処理手続についても廃止した。一方で、透明性については、2015

年の規制を緩和し、2010 年の規則の水準まで戻した。なお、同 FCC 決定に対し

ては、2018 年 1 月に、22 州等の検事総長等が訴訟を提起した。

一方、州政府では、独自のネット中立性規則制定の動きが広がった。全米州議

会議員連盟(National Conference of State Legistatures:NCSL)のまとめによ

ると、2018 年 10 月時点で、30 州において関連法案が提出され、13 州で決議が

米 国

18

採択されているが、6 州の知事が関連する行政命令(Executive Order)に署名、

4 州(カリフォルニア州、オレゴン州、バーモント州、ワシントン州)がネット

中立性規則を成立させている。

(2)「ゼロ・レーティング」に対する議論

移動体通信事業者の T-モバイル US が 2015 年 11 月に「アン・キャリア(Un-

carrier)」(脱キャリア)戦略の第 10 弾として発表した新サービス「Binge On」

では、月 3GB 以上のデータプランの加入者の動画サービスによるデータ通信量

を無料にすることから、同サービスがネット中立性規則に抵触するかについて議

論が行われている。同サービスのようなデータ通信量を無料にするサービスは、

「ゼロ・レーティング」と呼ばれており、同様なサービスは、2015 年 11 月に多

チャンネル配信事業者のコムキャスト(Comcast)も自社の動画配信サービス

「Stream TV」において実施している。前ウィーラー委員長は、2015 年 11 月の

コメントで市場競争を促す創造的なものとして、ネット中立性規則で禁ずる有償

優遇措置には当たらないとの見方も出しつつも、翌 12 月から T-モバイル US、

AT&T、ベライゾン・ワイヤレスらが提供する関連サービスの調査を開始した。

2017 年 1 月 11 日には、前ウィーラー委員長の下、約 1 年にわたった同調査の報

告書を公表し、各社のサービスへの懸念を改めて示したものの、政権交代後の

2017 年 2 月 3 日、パイ新委員長はゼロ・レーティングのプランは消費者に支持

されており、市場の競争を促すものであるとして、同調査の終了を公表した。

(3)サイバーセキュリティ政策

①サイバーセキュリティに関する大統領命令(2017 年)

トランプ大統領は、2017 年 5 月、サイバーセキュリティに関する大統領命令に

署名した。同命令は、連邦省庁のトップにサイバーセキュリティ確保の責任を負

わせる等の内容が含まれている。また、各省庁に米国標準・技術研究所(National

Institute of Standards and Technology:NIST)の定める枠組みに従うサイバー

セキュリティ戦略案を 90 日以内に策定するよう指示した内容となっている。そ

の他、商務省、DHS、国防総省(Department of Defence:DOD)、労働省、教育

省、人事管理局(Office of Personnel Management:OPM)に対しては、サイバー

セキュリティ人員を拡充する計画の立案も命令した。なお、DHS は、重要インフ

ラのセキュリティに対する広範な監査を実施し、OMB と共に、リスク評価の監査

を策定することにもなっている。

同命令は、リスク管理を重視していることが大きな特徴となっており、DHS と

OMB は、リスクを評価するための恒常的な監査体制を開発することが義務付け

られている。

その後、上述の大統領令の要請を受け、2017 年 11 月には、DHS の国家安全保

米 国

19

障電気通信諮問委員会(National Security Telecommunications Advisory Com-

mittee:NSTAC)が、ボットネット対策のための勧告を承認した。同勧告では、

政府が官民提携を拡大し、他国との連携も強化すべきだとした。また、コンピュー

タがボットネットに取り込まれることを防ぐサイバーセキュリティ基準やベスト

プラクティスの普及に力を入れ、連邦・州・地方自治体レベルでのサイバー基準

をすり合わせることも呼びかけている。更に、スマート家電やコネクテッド・カー、

ネット接続型カメラなどインターネットに接続する機器のためのサイバーセキュ

リティ基準策定を推進することも勧告している。

その他、トランプ政権は、2017 年 11 月 15 日、一般には知られていないが政

府が把握しているサイバーセキュリティの脆弱性について発表するか否かを判断

するための手続規則を公表した。ホワイトハウスのウェブサイトで公表された同

規則は「Vulnerabilities Equities Process(VEP)」と呼ばれるもので、元々はオ

バマ政権(当時)が制定していたものである。トランプ政権は、今回これがどの

ように機能しているかを説明するとともに、国家安全保障局(National Security

Agency:NSA)をはじめとする情報機関、商務省、財務省、エネルギー省、国務

省などが審査にかかわっていることを明らかにした。また、この規則は、発見さ

れた脆弱性の数、その中から公表・秘匿された数などについて指標を提供する年

次報告の作成を義務付け、その一部は公開されることになっている。

上述の大統領令を受け、2018 年 5 月には、商務省と DHS が、ボットネット報

告を大統領府に提出した。同報告では、現在のインターネット・インフラは極め

て回復力が高いが、2016 年に起きた「Mirai」ボットネット攻撃などに見られる

ように、その限界が試されようとしていると指摘した。

同報告は、インターネット・インフラは単に回線やトランスミッタ、衛星リン

クだけを指すのではなく、ルータ、スイッチ、ISP、DNS(Domain Name System)

プロバイダ、CDN(Contents Delivery Network)、ホスティング/クラウド・サー

ビス事業者などを含む広い概念だとし、このエコシステムに含まれるインフラ・

プロバイダがサイバー脅威に対する共通の防衛手段、ベストプラクティスを講じ

ることの利点を理解する必要があるとしている。

また、同報告では、現状の課題として、以下の 6 点を列挙した。

・問題が世界規模であること

・有用なツールが存在するが、十分活用されていないこと

・製品の寿命期間全体にわたる防衛手段が必要であること

・一層の啓発活動が必要であること

・市場インセンティブの改善が必要であること

・問題はエコシステム全体にかかわるので、防衛対策はすべての関係者を含め

なければならないこと

米 国

20

また、目標として、以下の 5 点を挙げた。

・適応性、持続性があり安全な技術市場に向けた道筋を明示すること

・高度化する脅威に動的に対応するため、インフラのイノベーションを促進す

ること

・自動化、分散化された攻撃を予防、検出及び緩和するため、ネットワークの

利用者側におけるイノベーションを促進すること

・国内外における、セキュリティ、インフラ、運用技術コミュニティ間の協力

を促進、支援すること

・エコシステム全体で啓蒙や教育を拡大すること

②国家安全保障戦略

トランプ政権は、2017 年 12 月、「国家安全保障戦略(National Security Strat-

egy)」を公表した。同戦略において、米国第一主義を掲げ、米国の対応能力を刷

新する領域として、軍、防衛産業基盤、核による力、宇宙、サイバー領域、諜報

を挙げている。同安全保障戦略では、サイバー空間対策にかなりの重点を置いて

おり、犯罪者がオンライン・マーケットプレイス、電子通貨などを犯罪行為に用

いることを防ぐために、高度な捜査ツールを用いる必要があるとしたうえで、米

国の今後の発展と安全保障は、サイバー時代の課題、チャンスにどう対応してい

くかにかかっているとした。

③DHS のサイバーセキュリティにかかる取り組み

DHS では、2018 年 5 月に、国家の支援を受けるハッカーやサイバー犯罪組織

からの高まる脅威に対応するための新たなサイバーセキュリティ戦略を発表した。

国土安保長官は、システマティックなリスクを緩和し、組織的防衛を強化すると

いうコンセプトに基づいたものとして、政府の全階層及び民間セクターのセキュ

リティと重要インフラの回復力を強化するとしている。

同戦略は、米国内デジタルシステムに対する脅威を制限し、対応することを目

標とし、次の五つの柱を基盤としている。

・サイバー空間上における重要な米国資産に対する脅威や脆弱性の理解を深め

・米国ネットワークのシステム的脆弱性を減らす

・サイバー犯罪を取り締まる

・大規模に拡大する可能性のあるサイバー・インシデントの影響を食い止める

・デジタルシステム全般のセキュリティを強化する政策を支援する

また、トランプ大統領は、2018 年 11 月に、DHS のサイバーセキュリティ任務

を昇格する法案に署名した。同法案は、DHS に CISA を設置する内容を含むもの

で、新設される新たな組織は、電力システム等の重要インフラを非友好的な外国

政府やサイバー犯罪者、その他敵対的な勢力からの脅威から保護する省の中心的

米 国

21

な部分となる。同立法により、DHS の NPPD を新たな庁に再編し、米国におけ

るサイバー及び物理的なインフラの安全性を確保するための業務により焦点を

絞って取り組む。

④国家サイバー戦略

トランプ政権は、2018 年 9 月、国家サイバー戦略を発表した。同戦略では、連

邦政府のサイバーセキュリティを強化し、米国に対するサイバー攻撃を抑止する

手段の概要を明らかにした。同戦略の主な目標は以下の四つである。

・連邦政府コンピュータ・ネットワークと国内重要インフラを保護することで

国家安全保障を改善する。これには、国土安全保障省が民間のサイバーセキュリ

ティを監視する権限を拡大することやサイバー犯罪対策で他国と連携することを

含む。

・テクノロジー・セクタのイノベーションを促進し、政府のサイバーセキュリ

ティ人員を増強することでデジタル経済を活性化する。政府は、新製品のサイバー

セキュリティ・テストでテクノロジー企業と協力して、サイバーセキュリティ人

員の採用や維持を改善する方針も示している。

・容認できない行為を定め、サイバー空間上における国際的な規範を推進する

ことでサイバー脅威に対応する。政府は、サイバー攻撃抑止に国家が持つあらゆ

る力を駆使し、悪意ある者には迅速かつ明らかな結果を与える。また、大規模な

サイバー攻撃に対して、同盟国間でサポートし合う「Cyber Deterence Initiative」

を提案している。

・世界でインターネットの自由を唱導し、同盟国が米国と共有する利益への脅

威に対応するサイバー能力を獲得することを支援する。

その他、2018 年 11 月には、大統領諮問機関である NSTAC は、今後 10 年間以

上にわたり、米国がサイバーセキュリティの国際的なリーダーであるための計画

として、サイバーセキュリティを連邦政府や経済界、市民にとっての最優先課題

とする諮問委員会やエグゼクティブ・ディレクターを設置するよう提言する 56

ページの報告書を大統領府に提出した。同報告書では、米国は、今後 10 年間でよ

り深刻で物理的被害も大きなサイバー攻撃にさらされるようになるだろうとも警

告し、サイバー脅威が米国民の生活様式の根幹を脅かすものとして捉えるべきと

している。なお、NSTAC は、2018 年 2 月より、月面探査計画に倣って国家を挙

げて画期的なサイバーセキュリティ対策に取り組む「サイバーセキュリティ・ムー

ンショット」計画を発足している。同報告は、テクノロジー業界やサイバーセキュ

リティ専門家からなる「ムーンショット」小委員会がまとめ、NSTAC が承認した

内容となっている。同報告書の勧告がすべて実現された場合には、新設される「サ

イバーセキュリティ・ムーンショット諮問委員会」が大統領府内に設置されるこ

ととなる。

米 国

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(4)情報通信分野の人材育成策

オバマ政権(当時)は、2015 年 3 月に、IT 分野の雇用創出・雇用推進を目的

とする「TechHire イニシアチブ」を発表した。同イニシアチブは、全国で 50 万

人分が不足していると見られる IT 職務を埋められる人材の育成、採用に 1 億 USD

の補助金を交付するもので、その半分は 17~29 歳を対象にしている。補助金は、

労働省から交付され、サイバーセキュリティやソフトウェア開発、ネットワーク

管理といった従来的な教育分野だけでなく、コーディング・ブートキャンプやオ

ンライン・コースなどの新たな教育方法にも補助金が付与される。なお、同イニ

シアチブに関連して、全国 20 以上の自治体が企業と協力して人材の育成・採用

を進めていく方針を打ち出している。オバマ大統領(当時)は、2016 年 2 月に公

表された 2018 年度予算案でコンピュータ・サイエンスを学校の正式科目とする

総額 40 億 USD の計画に、4,000 万 USD を割り当て、その後 5 年間で予算額を

増やしていくことを求めた。「Computer Science for All」と名付けられたこの計

画は、幼稚園から高校でコンピュータ・サイエンスを取り入れるもので、教師の

研修や学校の基盤更新、オンライン授業の提供等に予算が必要。また、民間セク

ター企業も協力するとしている。

トランプ政権においても、コンピュータ・サイエンス教育は重視されており、

2017 年 9 月には、幼稚園から小学校(K-12)の児童・生徒にコンピュータ・サイ

エンスを教える学校への補助金を増やし、教えない学校への補助金を減らすよう

教育省に求める大統領覚書に署名した。米国では、学校に毎年少なくとも 2 億

USD の補助金が交付されているが、今回の覚書は、その額を増やさず、コンピュー

タ・サイエンス教育への補助金の割当てを増すことになる。米国では、スキルが

十分でないために空席となっている職は 600 万に上り、うち 50 万はコンピュー

タ・サイエンス関連であるとされている。なお、科学・技術・工学・数学(STEM)

分野における米国のティーンエイジャーの学力は低下傾向にあり、3 年ごとに 15

歳の学力をテストする OECD「生徒の学習到達度調査 (Programme for Inter-

national Student Assessment:PISA)」でも、2015 年の米国の順位は科学で 71

か国中第 24 位、数学で 38 位にとどまっている。なお、高校の卒業要件としてコ

ンピュータ・サイエンス課程を組み込む州は 32 州となっており、2013 年の 12 州

から拡大している。

また、トランプ政権は、2018 年 12 月に、STEM 教育強化の 5 年計画を発表し

た。政府は、同計画を STEM 教育を経済的競争力と「力による平和」のかぎにな

るものと位置付けており、国家科学技術会議(National Science and Technology

Council:NSTC)は、この計画を、全国的な連携を緊急に呼びかけるものと説明

している。同計画は、以下の 4 点を骨子としている。

・教育機関、雇用主、コミュニティ間の新たな提携や、既存の提携の発展

米 国

23

・科学フェアやロボットのワークショップ、発明コンテストなどを通じた

STEM 教育の魅力発信

・デジタル・リテラシーの養成

・透明性があり、説明責任に基づく STEM 関連のプログラム、投資の実施

(5)人工知能(AI)にかかる政策動向

人工知能にかかる政策動向としては、オバマ政権時に、NSTC と OSTP が中心

となり取りまとめた報告書「人工知能の未来に備えて」が 2016 年 10 月に公表さ

れた。同報告書では、AI にかかる規制・制度、研究開発、経済・雇用、公正性・

安全性、安全保障等について、連邦政府機関等に対する 23 の提言を行った。ま

た、同年同月、「米国人工知能研究開発計画」が公表された。2016 年 12 月には、

大統領府は、AI 駆動型の自動化が経済に与えうる影響について検討した「人工知

能・自動化と経済」を公表した。

また、トランプ政権でも、2018 年 5 月に、大統領府主催の AI サミットを開催、

産官学で政策のあり方等が議論された。2019 年 2 月には、トランプ大統領は、AI

技術を推進する大統領命令に署名した。同大統領命令は、AI プログラムを優先化

し、予算を割り当てるとともに、研究者や開発者がより多くの政府データにアク

セスできる手段を提供するものとなっている。

(6)インターネット・ガバナンス

インターネット資源の管理は、長らく米国政府の援助の下で、技術者や研究者

のボランティアによる活動により実施されてきた。1998 年 10 月、インターネッ

ト基盤資源を世界規模で管理・調整するために非営利公益法人として Internet

Corporation for Assigned Names and Numbers(ICANN)が設立された後も、

ICANN は NTIA との間で締結した「 Internet Assigned Numbers Authority

(IANA)機能」運用委託契約(覚書)に基づき、管理業務を行ってきた。2014 年

NTIA はこうした米国主導の体制からの脱却を図るため、ICANN の管理業務に対

する監督権を放棄し、インターネット資源の管理体制を ICANN が創設する国際

的なステークホルダーによる管理体制に移行する方針を決定した。この方針に対

しては、抑圧的国家によるインターネットの締め付けを許すとの共和党の反対を

受け実施が延期されていたが、2016 年 6 月 NTIA は正式に移行決定を公表し、

2016 年 9 月の米政府と ICANN との運用委託契約終了をもって移行が完了した。

一方でトランプ大統領は大統領選挙期間中より、このオバマ政権の決定に反対の

姿勢を示している。ただし、NTIA 長官に指名されたデビッド・レドル氏は、2017

年 6 月、上院の承認公聴会でインターネット・ガバナンスにおける米国政府の権

限を ICANN に移譲したことについては、現状では移譲を進めるほかはないとし

た。

5 消費者保護関連政策

米 国

24

(1)プライバシー保護

①ネットワーク上における消費者データ・プライバシー

ホワイトハウスは、2012 年 2 月に、オンライン上の消費者プライバシーについ

ての政策枠組である「ネットワーク上における消費者データ・プライバシー」を

公表した。この政策枠組は、FTC の個人情報保護強化の取組みを踏まえた内容と

なっており、公表時点では法的拘束力はないものの、政策内容の法制度化に向け、

議会と協力していくことが盛り込まれている。同文書は、以下の 7 編で構成され

ている。

・第Ⅰ編:枠組全体の概要

・第Ⅱ編:「消費者プライバシー権利章典」

・第Ⅲ編:「行動規範」

・第Ⅳ編:FTC の権限

・第Ⅴ編:国際的な相互運用性の促進

・第Ⅵ、Ⅶ編:議会・政府の対応

また、2012 年 3 月に、FTC は、同枠組みに沿った内容の「急速に変化する時

代の消費者プライバシー保護」と題する一連の勧告を出した。同勧告では、個人

情報保護の 3 原則として、デフォルトでプライバシーが保護される仕組みである

プライバシー・バイ・デザイン、利用者が選択できるシンプルな仕組み、透明性

の向上が挙げられている。また、ウェブサイトへの「行動データの追跡拒否(Do

Not Track)」機能の搭載も勧告された。

②ブロードバンド・ユーザのプライバシー保護

2016 年 10 月 FCC は、ブロードバンド・サービスを提供する ISP 向けのプラ

イバシー・ガイドラインに関する規則を採択した。この規則は、通信法第 222 条

に基づいて ISP 向けのプライバシー要件を追加するもので、ブロードバンド・

ユーザに対して、 ISP が保有するユーザのデータに関するコントロールを与える

とともに、ISP に対してはデータに対するセキュリティ対策を義務付けるもので

あった。

ただし、この規則は 2017 年 3 月 2 日の発効を予定していたが、トランプ政権

成立後、この規則に反対する動きが活発化し、同月 1 日に行われた FCC の採決

によって撤回された。同日、FTC と FCC の委員長は、FCC の管轄でもあるプラ

イバシー保護を、FTC 単体の管轄に戻すこと等を求める合同書簡を発表した。ま

た、同規則自体も議会で見直しの対象とされ、2017 年 3 月に上下両院が決議案を

採択、同年 4 月に大統領が署名したことにより、同規則の廃止が決定している。

③ビッグデータ及び IoT 関連のプライバシー保護

オバマ政権(当時)は、2014 年 5 月、「ビッグデータとプライバシーに関する

報告書(Big Data: Seizing Opportunities, Preserving Values)」を公表した。同

米 国

25

報告書では、プライバシーについて、(1)個人のコントロール権、(2)透明性、

(3)収集条件の尊重、(4)セキュリティ、(5)アクセス権と正確性、(6)収集制

限、(7)説明責任の七つの原則を挙げた。その他、同報告書では、2012 年の「消

費者プライバシー権利章典」を連邦議会が法制度化すること等を提言している。

IoT については、FTC が、2015 年 1 月に、スタッフ・レポート「 Internet of

Things: Privacy & Security in a Connected World」を公表、2013 年 11 月に開

催した同名のワークショップでの議論では、 IoT が持つ潜在的なリスクとして、

個人情報の悪用や設備の攻撃等があることが指摘されたことや、 IoT での情報利

用に関する公平情報利用原則(Fair Information Practice Principle)のあり方に

ついて議論が持たれたことを報告している。最近の動きとしては、2015 年 2 月に

は、上院通商・科学・交通委員会では、行き過ぎの規制を回避しつつ、消費者保

護を図ることを目的として、 IoT に関する公聴会が開催された。

また、FTC は、2016 年 1 月、どのようなビッグデータの利用形態が消費者の

権利を侵害するかについて企業に指針を示す「Big Data: A Tool for Inclusion or

Exclusion? Understanding the Issues」と題する報告を発表した。同報告は、ビッ

グデータが教育環境の改善やクレジットの拡大、特殊医療へのアクセス、就職と

いった面で消費者に大きな効用をもたらす可能性を持つ反面、特定の層の誤情報、

機密情報の流出、詐欺行為への悪用、低所得層が利用する物品の価格上昇、消費

者の選択肢削減といった悪効果も考えられるとしている。FTC は、企業に対して、

ビッグデータの良い面だけを活用するよう呼びかけ、不正な利用には FTC が取

り締まる権限を持っていると警告した。同年 6 月、FTC は NTIA に提出した IoT

の発展を助成するうえでの政府の役割に関する報告書において、消費者の健康や

安全を保護するためには IoT に関するプライバシーやデータ・セキュリティに特

化した法律ではなく、より一般的で技術的に中立なプライバシー法が必要である

と述べたうえで、そのような法律が確立される前の段階においても適切なセキュ

リティ対応を怠る企業は FTC 法違反として摘発されかねない点も指摘した。

なお、NTIA では、2016 年 6 月から、ボットネット、DDoS 攻撃やその他のサ

イバー脅威に関する意見を募集、2017 年 9 月に同課題にかかる報告書を公表し

た。その後、NTIA のほか、NIST、DHS の NSTAC がまとめた IoT セキュリティ

に関する報告草稿が、2018 年 1 月 5 日に発表された。同草稿では、現在の IoT 市

場について、製品のセキュリティを確保したり効果的なアップデートする十分な

インセンティブがないこと、また、セキュリティが突破された場合の罰則がない

ことを指摘した。その結果、インターネットに接続された機器が簡単にボットネッ

トに取り込まれており、セキュリティと利便性との間のバランスをとることが重

要とした。政府は、このバランスをとるために新たな規制を設けるのではなく、

セキュリティ強化が投資回収率の向上やコスト低下につながるインセンティブを

米 国

26

設けることで、事態の改善を図るべきとした。また、関連業界に向けたセキュリ

ティ基準を策定し、国際的な普及を促進していくよう呼びかけることも勧告した

ほか、セキュリティ基準に違反したり、セキュリティ対策について虚偽の広告を

行った企業は、FTC 及び食品医薬品庁(Food and Drug Administration:FDA)

が取り締まることを提案している。

④IoT、コネクテッド・カー関連の動向

米国では、自動車メーカーと IT 企業、通信事業者が、相次いで、新サービスや

新端末を開発、コネクテッド・カー市場が立ち上がりつつある。一方で、コンピュー

タやスマートフォン等の端末と同様に、ソフトウェア化した車にもサイバーセ

キュリティ上のリスクがあることが明らかになりつつある。

2015 年 9 月には、民主党のエド・マーキー、リチャード・ブルメンサール両上

院議員が、自動車メーカーに対して、コネクテッド・カーのハッキングやプライ

バシー侵害から保護するための対策について最新情報を提供するよう求める書簡

を送付した。なお、下院においても、車のハッキングに対して 10 万 USD の罰金

を科すことを含む法案が 2015 年 10 月に提出されたほか、2017 年 1 月には、

「SPY Car Study Act」が提出されているが、審議は進展していない。その他、

上院では、「SPY Car Act」が 2015 年 7 月と 2017 年 3 月に提出されているが、

同様に審議が進んでいない。

その他、FTC では、旧モバイル・テクノロジー部の後継組織として、2015 年 3

月に、テクノロジー研究調査室(Office of Technology Research and Investigation)

を設置、プライバシーやデータ・セキュリティ、コネクテッド・カー、スマート

ホーム、アルゴリズムの透明性、新種の決済手段、ビッグデータ、 IoT 等の新技

術にかかる消費者への影響について調査を行っていくとしている。このように、

米国においても、議論や体制整備が開始された段階ではあるものの、自動車業界

の側でも、米国自動車工業会と世界自動車メーカー協会が共同で、2014 年 12 月

に、自動車テクノロジー・サービスのためのプライバシー保護原則を策定してお

り 、官民双方での取組みが進展していくと思われる。

⑤NTIA の消費者データ・プライバシーに関する意見募集

消費者のデータ・プライバシーについては、NTIA が、2018 年 9 月に、消費者

データ・プライバシー保護枠組み案を発表した。また、次の 7 項目で構成される

同枠組案について、コメントの募集も開始した。

・組織は、どのように利用者の個人情報を収集、利用、共有、蓄積するのかに

ついて、透明性を持たせるべきであること

・利用者は、組織に提供する個人情報について自分で管理できること

・個人データの収集、利用、蓄積、共有は、プライバシー・リスクの範囲に応

じて、合理的に最小限に抑えるべきこと

米 国

27

・組織は、収集、蓄積、利用又は共有するデータを守るために、安全措置を講

ずるべきであること

・利用者は、自ら提供した個人データに対して、合理的にアクセスし修正でき

るようにされているべきであること

・組織は、個人データの開示や害のある使用のリスクを管理する手段を講じる

べきであること

・組織は、収集、蓄積又はその組織のシステムで使用される個人データの利用

について説明責任を持つべきであること

⑥NIST による消費者プライバシー保護する枠組策定

NIST は、企業による消費者・従業員の個人情報保護を支援するプライバシー・

フレームワークの策定を進めている。2018 年 10 月にテキサス州オースティンで

開催した公開ワークショップから、この枠組みに対する意見を集めている。プラ

イバシー・フレームワークは、企業・団体が事業目的に合わせて個人情報を収集・

保管・使用・共有することで生まれるプライバシー・リスクへの対応が主眼とな

る。また、家庭内で使われる機器や個人の端末などインターネットに接続する機

器の増加で、製品・サービスを使った際に収集される情報についても懸念が強まっ

ているため、プライバシー・フレームワークはこのような情報への対応も示すも

のとなる見込みである。

⑦連邦データ・プライバシー法の検討状況

米国では、複数の連邦議会委員会、FTC、テクノロジー企業の間で、消費者を

大規模なデータ流出から守る全国共通のデータ・プライバシー法を制定すること

が必要との認識が高まっている。欧州のデータ保護規則とある程度協調を図り、

カリフォルニアをはじめ州レベルで異なる規則が作られることによる混乱を避け

るためである。しかし、実際に新法が制定されるまでの道筋は、不透明となって

いる。FTC 委員が、2018 年 11 月の上院商業委員会消費者保護・製品安全・保険・

データ・セキュリティ小委員会で証言したところによると、FTC には消費者デー

タ悪用の責任を追及するリソースや権限が不足しているとの見解が示された。ま

た、シモンズ FTC 委員長は、連邦プライバシー法が含むべき三つの構成要素とし

て、不法行為に対する民事罰を求める権限、非営利団体や通信事業者に対する管

轄権限、規則制定の権限を挙げた。

(2)災害情報・警報システムの整備

FCC は、2011 年 5 月、ハリケーンや竜巻などの災害警報を移動電話で受信で

きる新たな警報ネットワーク「Personal Localized Alerting Network(PLAN)」

を発表した。PLAN は、その後、「商業モバイル警報システム(Commercial Mobile

Alert System:CMAS)」と名称を変更し、更に、2013 年 2 月に FCC は、CMAS

の名称を「無線緊急通報(Wireless Emergency Alerts:WEA)」に変更すること

米 国

28

を決定している。PLAN は 2012 年 4 月に、AT&T、スプリント、T-モバイル US、

ベライゾン・ワイヤレスの移動体通信大手 4 社のほか、PLAN への参加移動体通

信事業者が行政と協力し、開始された。警報を発令するのは地方自治体、州、連

邦政府機関のいずれかで、連邦緊急事態管理庁(Federal Emergency Manage-

ment Agency:FEMA)と PLAN が警報の正当性を確認した後、各移動体通信事

業者に転送される。

その他、米国国立気象局(National Weather Service:NWS)が、2012 年 6 月、

危険な天候についてテキスト・メッセージで移動電話に警報を発する WEA の運

用を開始した。同アラートでは、竜巻やハリケーン、吹雪などの警報がある郡内

で発令された場合、90 文字以内の警報がその郡内にあるスマートフォンに発信さ

れる。この警報は、新しいスマートフォンであればすべて受信でき、事前の登録

などは不要。受信時には特別な警報音が鳴り、振動することになっている。また、

警報が不要と考えるユーザは受信を拒否することもできる。

FCC は 2016 年 9 月、WEA の更新、強化を目指す規則を採択した。この規則

は適切なユーザに適切な通報を届けることを目的としており、4G や次世代ネッ

トワークにおける緊急通報メッセージの最大文字数を増やすことや、通信事業者

に対して僻地にいるユーザへの通報伝達を徹底させること、スペイン語の通報を

導入すること等の具体的な施策が盛り込まれている。

その他、米国では、ブッシュ政権(当時)では、2005 年のハリケーン・カトリー

ナの被害を踏まえて、2006 年 6 月に、大統領令 13407 号を発出し、DHS に対し

て、テロ攻撃、自然災害等の緊急時のための効果的・統合的で柔軟性と信頼性を

もつ警報システムを整備することを求めた。同命令を受け、DHS 傘下の FEMA

が、統合型公衆警報システム( Integrated Public Alert and Warning System:

IPAWS)を開発した。IPAWS の基本的な仕組みは、連邦政府、州政府、自治体、

部族事務所( tribal officials)から発信された警報を、IPAWS 経由で、全国と地

域の警報システム(EAS(Emergency Alert System)、CMAS、NWR(NOAA

Weather Radio)を含む)伝達され、更に、放送メディア(EAS 経由)、モバイル

端末(CMAS 経由)、ラジオ(NWR 経由)に警報が送信される。なお、IPAWS は、

自然災害等の警報のほか、誘拐警報、大統領から発出される全国警報に対応して

おり、連邦政府(大統領)と州政府・自治体の 2 系統の警報を統合するものとし

て設計されている。また、2016 年 4 月に成立した「 IPAWS 近代化法」では、IPAWS

における地理情報やリスク情報の提供、複数のコミュニケーション・システムや

技術への対応に加えて、標準化、用語整理、運用手順の整備、障がい者対応、訓

練・試験、3 年に 1 度以上の全国試験、レジリエントでセキュアなシステム、一

般市民への教育、将来技術への対応、官民連携の促進、重層的な警報の発出メカ

ニズム、同法成立後 1 年以内と 2018 年以降は毎年報告を実施・公開、同法成立

米 国

29

以降 90 日以内の IPAWS 小委員会の設置(設置期間 3 年間)と会合開催、同委員

会による勧告作成と報告が盛り込まれた。なお、IPAWS 小委員会の委員は、2017

年 7 月に委員が任命された。

6 スマートシティ関連

NIST の主導で 2014 年から開始されたスマートシティ・プログラム「Global

City Teams Challenge(GCTC)」は、世界各地で再現可能なスマートシティ手法・

技術を確立することを主な目的としている。参加する自治体は、交通渋滞やエネ

ルギー管理、防災といった課題を解決するため、技術を持つ企業や大学等とスマー

トシティ・プロジェクトを推進するチーム(アクション・クラスター)を作成し、

その取組みを共有する。

2017 年 8 月に開催された取りまとめのためのイベント「GCTC EXPO 2017」

では、世界から約 120 のアクション・クラスターが参加し、海外からは、日本、

フィンランド、フランス、アイルランド、イタリア、韓国、ナイジェリア、ポル

トガル、台湾、英国が参加した。

このイベントの中で、スマートシティ構築の中核となる IoT では、サイバーセ

キュリティが大きな課題となっており、スマートシティはサイバーセキュリティ

に関する取組みを実践する場として理想的であることから、NIST と DHS 科学技

術局(Science and Technology Directorate:S&T)は、GCTC の次期フェーズを

「Smart and Secure Cities and Communities Challenge (SC3)」と名付け、こ

の課題に取り組んでいくこととした。この SC3 には、AT&T やベライゾン、モト

ローラ・ソリューションズ(Motorola Solutions)等も参加を表明している。

GCTC は、2017 年・2018 年のトランプ政権においても継続して実施されてい

る。また、同チャレンジでは、スマートシティの各取組分野のハブとなるプロジェ

クトをスーパークラスター、各プロジェクトをアクション・クラスターと呼んで

いる。2018 年のスーパークラスターは、以下の八つが設定されている。

・交通スーパークラスター(TSC)

・データ・スーパークラスター(DSC)

・公共安全スーパークラスター (PSSC)

・公益事業スーパークラスター (USC)(エネルギー、水、廃棄物管理)

・無線スーパークラスター (WSC)

・農業とルーラル・スーパークラスター (ARSC)

・教育スーパークラスター (ESC)

・サイバーセキュリティとプライバシーアドバイザリ委員会(CPAC)

Ⅳ 関連技術の動向

基準認証制度

米 国

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(1)通信端末機器

公衆通信網に接続する電気通信端末機器の認証については、FCC 規則第 68 部

(パート 68)で定められている。技術基準は、補聴器との両立性については同部

が規定するが、その他については端末接続管理協議会(Administrative Council

for Terminal Attachment:ACTA)が定める。ACTA は、FCC が 2001 年 1 月 24

日に採択した「報告と命令」に基づき設立され、それまで FCC が所掌していた端

末機器認証を引き継いだ。ACTA は技術基準の策定、技術基準に適合している認

定機器のデータベース作成と維持、ナンバリング及びラベリングに対する要請事

項の確立、証明のための書類要求事項の確立等を所掌する。すべての認証された

機器は ACTA のデータベースに登録される。

通信端末機器の認証手続には、供給者適合宣言(Supplier’s Declaration of Con-

formity:SDoC)方式による認証と電気通信認証機関(Telecommunication Cer-

tification Bodies:TCB)による認証がある。

①SDoC 方式

SDoC 方式は、端末機器供給者が SDoC 宣言書を作成し、端末機器が「FCC 規

則」及び ACTA の技術基準に適合していることを保証する認証手続である。端末

機器供給者は、SDoC 宣言書を ACTA 事務局に提出し、同宣言書を ACTA が採択

することによって認定端末機器として登録される。

②TCB による認証

TCB は、FCC により指定された民間の認証機関であり、端末機器の「FCC 規

則」及び ACTA の技術基準の適合性を認証する。TCB は、該当端末機器を認定し

た後、認証書面の写し、製品情報、免責及び責任に関する宣言情報を ACTA に提

出する。TCB の情報が ACTA に提出され、ACTA が同認定を承認することによっ

てデータベースに登録される。

(2)無線機器

すべての電波を放射する機器(無線通信機器を含む)は、原則として認証

(Certification)を受けなければならない。例外となるのは受信装置等及び通信

を行わない ISM 機器(適合宣言(Declaration of Conformity)が必要)及び放送

用送信機、固定マイクロ設備、ELT 等の一部送信設備(自己確認(Verification)

が必要)である。無線通信機器の認可の技術基準は、使用する無線サービスごと

に FCC 規則で規定される。認証は、提出された機器及び測定データに基づき FCC

が認定、又は FCC が指定する TCB による認定が行われる。また、適合性宣言制

度が適用される機器についてのみ認証を行うことができる機関も存在する。TCB

はすべての機器について認証ができるのではなく、最新技術機器で測定方法の確

立していない場合等は、FCC が認証を行う。そのリストは FCC のサイトに掲載

米 国

31

されている。また、現在の TCB については、FCC の工学・技術室(Office of En-

gineering and Technology : OET ) の ウ ェ ブ サ イ ト ( https://gull-

foss2.fcc.gov/tcb/index.html)で検索することが可能である。

2014 年 11 月 26 日に成立した「電子ラベル法(E-LABEL Act)」(PL113-197)

に基づき、FCC は、2014 年 12 月 17 日に、新たな機器を迅速に導入できるよう

にすることを目的に、TCB にかかる「報告と命令」を発出した。その後、FCC は、

2015 年 7 月 21 日に、E-Labeling にかかる NPRM を発出、適合宣言と自己確認

の手続を統合し、自己認証プログラム(Product Self-approval Program)とする

こと、また、モデム通信機器認証にかかる規則の明確化を提案した。本提案は 2017

年 7 月 13 日に採択され、2017 年 11 月 2 日に無線機器認可(Authorization of

Radiofrequency Equipment)規制が改正、同日施行された。これによって SDoC

や電子ラベリング等が導入された。

Ⅴ 事業の現状

1 固定電話

回線交換網による固定電話(VoIP を含む)を提供している主な事業者は、AT&T、

ベライゾン、センチュリーリンクとなっている。その他、固定電話を提供してい

る主な事業者としては、ケーブルテレビ事業者のコムキャスト等がある。ただし、

こうした大手通信事業者やケーブルテレビ事業者に加えて、中小規模の通信事業

者も多い。

2 移動体通信

(1)加入数等

移動体通信事業者団体である Cellular Telecommunications and Internet As-

sociation(CTIA)によると、2017 年の移動体通信サービス全体の売上高は、約

1,790 億 9,114 万 USD で前年の 1,885 億 2,426 万 USD から減少した

(2)主要事業者の概要

米国で全国展開を行っている大手移動体通信事業者は、AT&T モビリティ

(AT&T Mobility)、ベライゾン・ワイヤレス、スプリント、T-モバイル US の 4

社である。2018 年 4 月には、T-モバイル US が、スプリントを買収することで合

意したと公表した。同合併については、2018 年 9 月、FCC は審査に時間を要す

るとしている。

なお、米国では、全国展開を行っている移動体通信事業者のほかに、特定の市

場のみで操業する地域事業者、再販事業者(Resale Providers)若しくは仮想移

動体通信事業者(MVNO)、データサービス事業者、衛星移動体通信事業者等の多

様な事業者が、移動体通信サービスを提供している。主な MVNO 事業者として

は、複数の事業者からネットワークを借りてサービスを提供しているトラック

米 国

32

フォンがある。その他、設備ベースのプリペイド事業者であり、2013 年 7 月に

AT&T による買収契約に合意、2014 年 3 月に同買収が完了したリープ(Leap

Wireless International)も移動体通信サービスを提供している。その他、グーグ

ルが、MVNO サービスである「Project Fi」を 2015 年から提供している。スプリ

ントのネットワークを利用する MVNO は、ブームモバイル(Boom Mobile)や

ブーストモバイル(Boost Mobile)、ヴァージン・モバイル USA(Virgin Mobile

USA)等がある。T-モバイル US のネットワークを利用する MVNO としては、メ

トロ PCS(MetroPCS)等がある。

スマートフォンについては、アップル(Apple)が提供する iOS 搭載端末と、

グーグルがオープンソースとして提供しているモバイル OS の Android 搭載端末

が主流となっている。

(3)次世代移動体通信の動向

2018 年 10 月には、ベライゾン・ワイヤレスの商用サービスを開始するなど、

5G 技術の実用化が進展しつつある。

①ベライゾン・ワイヤレス

2015 年 9 月、ベライゾンは 5G 技術に関する積極的なロードマップを公表し、

アルカテル・ルーセント(Alcatel-Lucent、当時)、シスコ(Cisco)、エリクソン

(Ericsson)等、複数の世界的技術ベンダと提携し、2020 年の 5G 技術の商用運

用を目指し、2016 年にフィールドテストを開始し、11 都市で 5G 試験を実施し

た。2018 年 10 月から、カリフォルニア州のサクラメントとロサンゼルス、テキ

サス州ヒューストン、インディアナ州インディアナポリスで、「5G Home」の名

称で、固定系の 5G サービスの商用展開を開始した。

なお、2016 年 7 月、ベライゾンは同社の CDMA2000 1x 網を 2019 年末までに

停止する計画を明らかにした。

②AT&T

2016 年 2 月、AT&T は 5G ソリューションの研究開発において、エリクソンと

インテル(Intel)と提携することを明らかにし、同年 12 月にはテキサス州オー

スティン及びニュージャージー州ミドルタウンにおいて、15GHz と 28GHz 帯に

おける 5G のテストを開始した。

また、AT&T は 2017 年 1 月、2017 年以降の 5G 関連技術の開発と実用化の目

安となるロードマップを発表した。この中で AT&T は、2017 年内にピーク速度

1Gbps の達成を見込んでいることや、2017 年前半にテキサス州オースティンに

て 5G を利用した DirecTV Now のストリーミングテストを行うこと等を示した

(なお、このテストは同年 2 月に終了した)。また、AT&T は、2017 年 8 月に、

5G 固定無線サービスのトライアルを年内にウェイコ、カラマズー、サウスベンド

に拡大することを発表した。2017 年 12 月には、テキサス州ウェイコのマグノリ

米 国

33

ア・マーケットで 5G トライアルを実施した。同トライアルでは、ミリ波帯を使

う 5G システムにより、同マーケットを訪れる 1 日 5,000 人の客や従業員に無線

通信機能を提供するもので、モバイル端末から Wi-Fi で接続することで、5G の

トライアル・サービスを体験することができる。また、2018 年 9 月現在、ダラ

ス、アトランタ、ワコ、シャーロット、ローリー、オクラホマシティ、ヒュース

トン、ニューオリンズ、サンアントニオ、ジャクソンビル、ルイビルで 2018 年

末までに 5G サービスを開始するとしているほか、ラスベガス、ロサンゼルス、

ナッシュビル、オーランド、サンディエゴ、サンフランシスコ、サンノゼで 2019

年初頭に開始予定である。

③スプリント

2016 年 6 月、スプリントはノキアと共に米国内のイベントにおいて、73GHz

帯ビーム・ステアリング対応のミリ波システムを使い、5G 網において 4K UHD

動画を伝送するデモを行った。2018 年 2 月には、5G サービスを 2019 年上半期

に提供する計画を発表した。同年 8 月には、5G 端末提供で LG と提携、同年 11

月には HTC との提携を発表した。

④T-モバイル US

2016 年 8 月、T-モバイル US とエリクソンは、LTE と 5G 間の音声通話など

の試験を行ったことを明らかにした。2016 年 9 月、サムスンは T-モバイル US と

の 5G のデモや試験における提携を公表した。同月には T-モバイル US とノキア

が、T-モバイル US の 28GHz 帯とノキアの「AirScale radio platform」を用い

て、4 本の 4K 動画を同時にストリーミングしつつ、数 Gbps の高速伝送と 1.8 ミ

リ秒の低レイテンシを確認したとしている。なお、同社は、2017 年 5 月、600MHz

帯での 5G 商用網を提供する予定であることを公表した。また、同年 11 月には、

5G 網を 2020 年までに展開する展望も示した。また、2018 年 7 月には、機器メー

カーのノキアと、5G 網敷設にかかる 35 億 USD の複数年契約を締結した。その

後、2018 年 8 月には、5G 網を 2018 年内に 30 都市に展開し、2020 年には全国

カバレッジとする計画を明らかにした。2018 年 9 月には、複数年での 5G 網整備

について、エリクソンと 35 億 USD 規模の契約を締結したと公表した。

⑤各社のモバイル・ブロードバンドの人口カバレッジ

以下の表は、主要事業者のモバイル・ブロードバンドの人口カバレッジの推移

を示している。各社が取得した周波数帯を利用するモバイル・ブロードバンド網

を整備したことから、2009 年 11 月現在と比較して、各社の人口カバレッジは拡

大している。

モバイル・ブロードバンドの人口カバレッジの推移

米 国

34

2011 年

4 月

2012 年

1 月

2012 年

10 月

2014 年

1 月

2015 年

7 月

2016 年

12 月

AT&T 88.3% 92.8% 94.9% 97.8% 99.3% 99.3%

ベライゾン・

ワイヤレス 95.4% 95.7% 96.1% 96.8% 97.3% 97.3%

スプリント 88.4% 87.6% 88.0% 89.3% 89.7% 92.1%

T-モバイル

US 68.7% 72.8% 75.3% 78.8% 91.6% 95.1%

出所:FCC

3 インターネット

(1)利用者数・加入者数

OECD の公表した統計によると、2017 年 12 月現在、固定ブロードバンドの接

続数は約 1 億 983 万 8,000 となっている。固定ブロードバンドの人口普及率は、

ケーブルモデムが 20.6%、ADSL が 7.7%、光ファイバが 4.2%、その他接続方式

(衛星、固定無線等)が 1.1%である。なお、FCC では、2015 年 1 月に、ブロー

ドバンドの定義について、下りを従来の 4Mbps から 25Mbps、上り 1Mbps から

3Mbps に引き上げた。

なお、近年、大手通信事業者が光ファイバ網への投資を活発化していることか

ら、光ファイバ網の加入世帯数は増加している。

(2)ブロードバンド接続提供事業者

ブロードバンド接続を提供している事業者は、ADSL 接続や光ファイバ・衛星

接続を提供する大手通信事業者と、ケーブルモデムを提供するケーブルテレビ事

業者とで構成されている。

(3)モバイル・ブロードバンドの動向

米国では、レストラン、コーヒーチェーン店、ホテル、空港、国際会議場、公

園等での Wi-Fi 技術を利用した有料、無料のホットスポットが普及している。

Wi-Fi 専業事業者の大手は、1996 年に設立された法人向けサービスを提供する

iPass である。iPass は、150 以上の通信事業者と提携し、2018 年 11 月現在、世

界 160 か国以上の 140 社以上のネットワーク事業者経由で、6,400 万か所以上の

Wi-Fi ホットスポットへのアクセスを提供している。その他、個人向けサービス

の Wi-Fi 専業事業者としては、2001 年設立の Boingo が挙げられる。Boingo は、

世界 100 万か所のホットスポットへのアクセスを提供している。米国内では、月

額 9.95USD で全国の Wi-Fi ホットスポットが利用できる。

その他、コムキャストは、積極的に独自の Wi-Fi 網の整備を進めている。なお、

米 国

35

コムキャストは、テキサス州の一部で提供しているブロードバンド接続サービス

「Xfinity」の加入者の Wi-Fi モデムを公衆 Wi-Fi ホットスポットとするサービス

を 2014 年 6 月に開始している。その他、ベライゾンのセルラー網を利用して、

コムキャストとチャーターが、MVNO 事業に参入している。コムキャストは、

2017 年 4 月に、Xfinity のブランド名で、モバイル・サービスの提供を開始した。

チャーターの「Spectrum Mobile」は 2018 年 6 月 30 日から開始された。

4 新成長サービス

(1)モバイル・アプリ市場

米国におけるモバイル・アプリ市場は、2008 年 7 月にアップルによる「App

Store」が開始されてから、グーグルやマイクロソフト、アマゾン(Amazon)が

市場に参入し、市場が拡大している。なお、グーグルが 2008 年 10 月に開始した

「Android Market」は、2012 年 3 月に「Google Play」に名称が変更されている。

マイクロソフトは、2009 年 7 月に、「Windows Marketplace for Mobile」を開設

し、モバイル・アプリ市場に参入した。その他、アマゾンが、Android 向けのア

プリ配信サービスである「Amazon Appstore for Android」を 2011 年 3 月に米国

で開始、2012 年 6 月には、同サービスを英国、ドイツ、フランス、イタリア、ス

ペインでも提供開始している。

(2)モバイル決済市場

モバイル決済サービスは、移動体通信事業者、ネット・サービス事業者共に近

年、利用環境整備やサービス開発に力を入れている分野となっている。2010 年 11

月には、AT&T モビリティとベライゾン・ワイヤレス、T-モバイル US が、モバ

イル・コマース関連事業のための合弁会社「 Isis」の設立を発表した。同サービス

は、NFC チップを搭載したスマートフォン等の移動体端末をリーダー機器にタッ

プすることで決済が行われるものとなっている。2013 年 11 月には、全米で Isis

のサービスが開始された。なお、サービス名称は、イスラム国( ISIS)の略称と

同じであったことが問題となり、2014 年 9 月に「Softcard」に名称が変更された。

その後、同サービスは、2015 年 3 月でサービスを停止した。

一方、ネット・サービス事業者側のモバイル決済サービスとしては、2011 年 9

月に、グーグルが「Google Wallet」を開始した。その後、2015 年 5 月に、決裁

サービスの名称は「Android Pay」に変更され、2018 年 2 月には「Google Pay」

の名称となった。その他、アップルは、2014 年 9 月にモバイル決裁サービスの

「Apple Pay」を公表、同年 10 月に提供を開始したほか、韓国のサムスンが、2015

年 9 月に「Samsung Pay」を、同年 12 月には小売大手のウォルマート(Walmart)

が「Walmart Pay」を開始した。

また、個人間決裁サービスとしては、eBay が 2012 年に買収した Venmo のほ

か、2013 年に Square が開始した Square Cash、アップルの Apple Pay Cash、

米 国

36

銀行系の決裁アプリ等が提供されている。2018 年 1 月には、Square Cash の利

用者は、ビットコインの取引が可能になった。

(3)モバイル動画配信市場

2015~2016 年にかけて大手モバイル事業者がモバイル向け動画配信事業に参

入している。ベライゾンは 2015 年 10 月、モバイル端末向けに特化した動画配信

サービス「go90」をリリースした。go90 はテレビ番組のほか、Comedy Central

や NFL Network 等の専門チャンネルの配信も行い、広告収益を基に運営されて

いるため、利用は無料であった。だが、go90 は、十分な視聴者が獲得できずに、

2018 年 7 月末で提供が終了した。

AT&T は 2016 年 11 月インターネット経由の動画ストリーミング・サービス

「DirecTV NOW」の提供を開始した。DirecTV Now は、2015 年の DirecTV 買

収後に AT&T が計画を発表したインターネットを介したテレビ配信サービスで、

2016 年 11 月から AT&T の顧客は同サービスを月々のデータ通信量にカウントさ

れることなく利用できるとする、いわゆるゼロ・レーティングを導入したことか

らネット中立性への抵触が問題視されたが、トランプ政権になって以来、同問題

を懸念する見解は FCC より一掃された。DirecTV Now の加入者は増加傾向にあ

り、2018 年 9 月末現在、190 万であるが、有料動画配信サービスの加入者数(同

月末現在で 3,880 万)全体では、前年同期比で 29 万 7,000 減少した。

Ⅵ 運営体等

1 AT&T Corp.(AT&T)

Tel. +1 210 821 4105

URL https://www.att.com/

所在地 208 S. Akard St. Dallas, Texas 75202, U.S.A.

幹 部 Randall L. Stephenson(会長兼最高経営責任者 /Chairman and

CEO)

概要

2005 年 1 月 31 日、AT&T は RBOC の SBC コミュニケーションズ(SBC

Communications(SBC))による買収に合意。2005 年 11 月 18 日、SBC と AT&T

の合併が正式に完了し、新 AT&T が設立された。同社は、米国内におけるブロー

ドバンド、固定通信、無線通信の総合通信事業者であり、国際通信サービスとし

ては、世界 220 か国との音声通信が可能な国際通信を提供しており、約 200 か国

とデータ・ローミングを行っている。また、IP ベースの多チャンネル配信サービ

スである「U-verse TV」を提供している。なお、2016 年 10 月には、タイム・ワー

ナー・ケーブルとの合併を発表したが、司法省から提訴されており、2018 年 12

米 国

37

月時点で裁判中である(Ⅰ-4 の項参照)。

事業分野としては、AT&T コミュニケーションズが固定、移動、映像配信のコ

ミュニケーション事業を手がけているほか、ワーナーメディア(WarnerMedia)

がコンテンツ事業、AT&T Latin America が南米事業、Xandr が広告事業を担っ

ている。

なお、AT&T は、2014 年 11 月、メキシコの移動体通信事業者のイウサセル

(Iusacell)を買収することで同社と合意したと発表、2015 年 1 月に買収を完了

した。更に、2015 年 1 月には、メキシコの移動体通信事業者のネクステル(Nextel)

の買収も発表、同年 5 月に買収を完了した。

2 ベライゾン

Verizon Communications

Tel. +1 212 395 1000

URL https://www.verizon.com/

所在地 140 West Street, NY 10007, U.S.A.

幹 部 Hans Vestberg(会長兼最高経営責任者/Chairman and CEO)

概要

2000 年 6 月、RBOC のベル・アトランティックと独立系通信事業者 GTE との

合併により設立された。1999 年 12 月 22 日に、同社は RBOC として初めて長距

離通信事業への参入が承認され、2003 年 3 月、営業区域での長距離通信への進出

が完了した。また、2005 年 10 月には長距離・国際・データ通信事業者大手の MCI

買収を完了している。なお、同社は、世界 60 か国の 228 か所に設置されたルー

タで構成されるグローバル網を通じて国際通信サービスも提供している。同社は、

ブロードバンド、固定通信、無線通信の総合通信事業者である。無線事業は、ベ

ライゾン・ワイヤレスの名称で提供している。2013 年 9 月、ベライゾンは英ボー

ダフォンが保有するベライゾン・ワイヤレスの株式 45%を 1,300 億 USD で取得

し、ベライゾン・ワイヤレスを完全子会社化することに合意、同買収を 2014 年 2

月に完了した。2015 年 5 月には、ネット事業者の AOL の買収を発表(総額 44 億

USD)、翌 6 月には買収を完了した。

2016 年 7 月、ベライゾンは米ヤフー(Yahoo!)を 48 億 USD で買収すること

で合意したことを発表、2017 年 6 月に買収を完了した。なお、買収したヤフーの

事業を再編し、メディア企業の Oath を設立した。だが、Oath の事業は不振で、

2018 年 11 月には、Oath をベライゾンに統合して、2019 年 1 月から Verizon

Media Group の部門とすることを発表した。また、同年 12 月には、46 億 USD

相当の Oath ののれん代を償却することを発表した。

3 スプリント

米 国

38

Sprint Communications, Inc.

Tel. +1 800 829 0965

URL https://www.sprint.com/

所在地 6200 Sprint Parkway, Overland Park, KS 66251-4300, U.S.A.

幹 部 Marcelo Claure(会長/Executive Chairman)

概要

ネクステルとの合併前の旧スプリントは、1938 年に設立された長距離、市内、

移動、データ通信サービスを提供する総合通信事業者である。1992 年 2 月、長距

離通信事業者 US スプリント(US Sprint)を共同所有していた GTE から株式を

取得したのを契機に、社名をスプリントに変更した。なお、固定電話事業に関し

ては、2006 年 6 月 1 日に別会社(EMBARQ)として分離、上場した。

なお、2012 年 10 月に日本のソフトバンクによる同社の買収が発表され、2013

年 7 月 11 日に総額約 216 億 USD の取引が完了した。本取引では、スプリント株

式の約 72%は 1 株当たり 7.65USD の現金と交換され、残りの株式はスプリント

を承継してニューヨーク証券取引所の上場会社となったスプリント・コーポレー

ション(Starburst II, Inc.から社名変更、以下「新スプリント」)の株式に 1 対 1

の割合で転換された。本取引の結果、ソフトバンクは米国持株会社を通じてスプ

リントの完全親会社である新スプリントの株式の約 78%を保有することになり、

スプリントを子会社化した(2015 年 9 月現在の持株比率は 82%)。なお、買収

後、スプリントはスプリント・コミュニケーションズ・インク(Sprint Commu-

nications, Inc.)に社名を変更した。なお、旧スプリント・ネクステルはソフトバ

ンクによる買収に先立ち、2013 年 7 月にクリアワイヤ(Clearwire)株を買収し、

完全子会社化を完了している。

4 センチュリーリンク

CenturyLink

Tel. +1 800 833 1188

URL https://www.centurylink.com/

所在地 100 CenturyLink Drive, Monroe, Louisiana 71203, U.S.A.

幹 部 Jeff Storey(最高経営責任者/CEO)

概要

2009 年 7 月、独立系地域通信事業者のセンチュリーテル(CenturyTel)によ

る EMBARQ 買収により設立された。2010 年 4 月には、クエスト(Quest)の買

収に合意し、同年 7 月には FTC からの認可、2011 年 3 月に FCC からの認可を

取得し、2011 年 4 月には買収を完了している。同社は従来の音声通話サービスに

米 国

39

加え、ブロードバンド・インターネット、MVNO による移動体通信サービス等も

提供している。同社は、敷設したギガビット級の光ファイバ網を利用した映像配

信サービスの「Prism IPTV」を 2015 年 10 月に開始した。2016 年 10 月に、Level

3 Communications を買収すると発表、2017 年 11 月には、Level 3 Communica-

tions との合併を完了した。

5 T-モバイル US

T-Mobile US

Tel. +1 800 318 9270

URL https://www.t-mobile.com/

所在地 12920 SE 38th

Street, Bellevue, Washington 98006, U.S.A.

幹 部 John L. Legere(最高経営責任者/CEO)

概要

ドイツの T-モバイル・インターナショナル(T-Mobile International)の米国

法人で、ドイツテレコム(Deutsche Telekom)の子会社である。2002 年に、ボ

イスストリーム・ワイヤレス(VoiceStream Wireless)を買収し、T-モバイル USA

として設立、カリフォルニア州とネバダ州で移動体通信サービスを開始した。

2012 年 9 月に CEO に就任した John Legere 氏は、他社からの乗替促進キャン

ペーンである「アン・キャリア」を展開、加入者増を実現した。2013 年 5 月にメ

トロ PCS と合併を完了し、新たに T-モバイル US となった。「アン・キャリア」

戦略はそれまで業界標準とされてきた契約年数の縛りを撤廃したほか、端末アッ

プグレードに関する制約や海外 140 か国における国際データ・ローミング料を廃

止するなど、数々の斬新な料金体系を導入、若者層を中心とした加入者増に貢献

した。

6 主な通信機器メーカー

事業者名 URL 概要

シスコ https://www.cisco.com/ インターネット関連機器、通

信機器メーカー

クアルコム

(Qualcomm) https://www.qualcomm.com/

移動体用半導体、コンピュー

タ・ソフトウェア・メーカー

モトローラ・ソ

リューションズ

https://www.motorolasolutio

ns.com/

通信機器関連メーカー。前身

のモトローラの移動体通信端

末部門はグーグルに売却され

たのちLenovoが買収

7 主な IT 企業

米 国

40

事業者名 URL 概要

グーグル https://www.google.com/

検索ポータル・サービス、コ

ンテンツ配信等、広告販売、

端末事業等

フェイスブック https://www.facebook.com/ ソーシャル・ネットワーキン

グ・サービス(SNS)大手

マイクロソフト https://www.microsoft.com/

ポータル・サービス、コンテ

ンツ配信等、広告販売等、ソ

フトウェア関連事業等、移動

電話・タブレット事業(ノキ

アから買収)

eBay https://www.ebay.com/ オークション、電子商取引等

アマゾン https://www.amazon.com/ 電子商取引、クラウド・サー

ビス等

アップル https://www.apple.com/ 音楽・映像販売、ソフトウェ

ア・ハードウェア開発販売等

放 送

Ⅰ 監督機関等

1 連邦通信委員会(FCC)

(通信/Ⅰ-1の項参照)

所掌事務

放送分野を所掌している主要部局は 2002 年 3 月の組織再編により設立された

メディア局であるが、衛星放送の免許付与は国際局が行う。

FCC の主な所掌事務は以下のとおりで、州のフランチャイズ付与当局と連邦と

の関係を維持する責任も有する。

・放送関連サービスの規制監督

・放送施設の建設認可

・放送免許の付与・更新及び譲渡の許可

・ケーブル・システムの登録

米 国

41

・告示及び申請についての処理等

2 商務省国家電気通信情報庁(NTIA)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

所掌事務

放送メディアに関する政策立案や分析、非商業放送事業者に交付される連邦政

府基金の管理等を行う。地上デジタル放送移行支援も担当した。

3 連邦取引委員会(FTC)

(通信/Ⅰ-3の項参照)

所掌事務

虚偽の内容を含む広告放送の監視・規制、番組視聴率に関する調査などを行う。

4 司法省(DOJ)

(通信/Ⅰ-4の項参照)

所掌事務

メディア企業の M&A については反トラスト法に基づき反トラスト局が、刑法

に抵触する猥褻な内容などについては犯罪局(Criminal Division)が規制を担当

する。

5 州公益事業委員会(PSC/PUC)

(通信/Ⅰ-6(1)の項参照)

所掌事務

ケーブル・フランチャイズ免許の付与等、州レベルでのケーブルテレビの規制

監督を行う。

Ⅱ 法令

1 1934 年通信法(Communications Act of 1934)

(通信/Ⅱ-1の項参照)

2 1996 年電気通信法(Telecommunications Act of 1996)

(通信/Ⅱ-2の項参照)

同法による「通信法」改正で、電気通信、ケーブルテレビ、地上放送等の各市

場への相互参入や放送局の所有規制が緩和された。

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

(1)地上放送に関する規定

①放送免許

FCC は「通信法」第Ⅲ編「無線に関する特別規定」に基づき、有効期間 8 年の

無線局免許(放送免許等)を付与する。放送免許付与の細則は、FCC 規則第 73

米 国

42

部と第 74 部に規定されている。新規の放送免許の付与基準は、コミュニティが

追加的な放送局を必要としているかどうか、技術的な基準に則して放送局間の干

渉を防ぐ必要があるかどうかである。免許更新の際には、FCC が「公共の利益」

にかなっているかどうかを審査する。ただし、特定の放送局の免許更新や売却に

対して請願書を提出することで異議申立てを行うことが可能となっており、一般

からの意見も反映される。

「通信法」により、FCC は放送番組を含む無線通信・信号に対する検閲を行う

ことが禁止されていることから、FCC の番組内容に関する監督範囲は限定されて

いる。ただし、子どもが視聴する可能性がある場合の下品な言葉や不適切な言葉

の放送、特定の宝くじに関する情報の放送、虚偽の情報に基づく集金活動の放送

が行われた場合には、放送免許事業者に対して罰金を科すか放送免許の取消しを

行うことができる。

通常、連続 12 か月間放送を実施しなかった放送事業者の免許は失効されるが、

2017 年のハリケーン・アーマ/マリアの被害を受けて放送を再開できていないプ

エルトリコや米領ヴァージン諸島の放送事業者については、追加的な 6 か月間の

猶予を与えられている。ただし、1 年以上放送が再開できない見込みの放送事業

者は、その理由を説明した特別暫定免許(Special Temporary Authority:STA)

の申請書を提出しなければならない。

なお、放送事業者は免許交付地区内又はその近郊にメインスタジオを設置する

ことを義務付けられてきたが、FCC は 2017 年 10 月に同規則を廃止した。ただ

し、地区内で無料通話番号を提供することや、オンラインで開示されていない公

開文書を免許交付地区内の一般市民がアクセスできる場所に保管することは義務

付けられる。

②商業放送と非商業・教育放送

FCC は、ラジオ局とテレビ局のそれぞれに、商業放送と非商業・教育放送の区

別を設けている。通常、商業放送局は広告によって事業が運営されており、非商

業・教育放送は視聴者による分担金か政府による基金により運営されている。非

商業・教育放送局は、営利組織からの分担金や寄付を受け取り、その名称を放送

することは可能であるが、営利組織のための広告を行ってはならない。

③外資規制

外国資本が米国の放送局に対して 25%以上を出資する場合、個別条件ごとに判

断することとなっていたが、2015 年 10 月、FCC はこの規則を効率化する NPRM

を採択した。同案はコモンキャリアの外国資本の出資率規制を地上テレビ・ラジ

オ局にも拡大するもので、FCC の公益審査及び省庁間審査機関による安全保障審

査において問題ないと判断されれば、外国資本が局の親会社の最大 100%を所有

できるようになる。また、経営に関与しない外国資本の出資率は、FCC に懇願す

米 国

43

ることなく 49.99%まで引き上げることが可能となる。外国資本による非支配持

ち分については、5%以下(特定の状況では 20%以下)は FCC の認可が不要とな

る。2016 年 9 月、FCC は上記の改定に関する命令を採択した。

(2)ケーブルテレビに関する規定

①ケーブル・フランチャイズ

ケーブルテレビ事業への参入は「通信法」第 621 条に基づき、フランチャイズ

付与当局からフランチャイズの付与を受けなければならない。同法第 622 条に基

づき、フランチャイズ料が課される。そのほか、同法にはフランチャイズに関し

て、第 617 条(ケーブル・システムの売却)、第 625 条(フランチャイズ義務の

修正)、第 626 条(更新)、第 627 条(売却の条件)といった規定がある。市や郡

なども条例でケーブルテレビ事業に関して定めているほか、当局が条例の実施に

関する規則を定めている例もある。

放送番組の再送信については、「通信法」第 614 条及び第 615 条(更に FCC 規

則 76.55~76.62)に基づき、ケーブルテレビ事業者がその地域の商業テレビ及び

非商業・教育テレビの信号を送信する義務(「マストキャリー」)を負う(②の項

参照)。同法第 325 条(及び FCC 規則 76.64~76.65)に基づき、ケーブルテレビ

事業者は地上放送局の明示の同意を得るか、送信する商業テレビ事業者を選択す

る場合は送信権利の確認をしなければ、再送信してはならない。

②マストキャリー規則

小規模独立ローカル局の保護・育成を目的に、ケーブルテレビ事業者( IPTV 含

む)には、原則として、その地域で視聴できるすべての地上テレビ局のチャンネ

ルを無料で再送信することが義務付けられている。

アナログ地上放送の停止期限(当時)だった 2009 年 2 月の 3 年後の 2012 年 2

月までは、デジタルによる再送信に加え、デジタル地上波をアナログ変換して再

送信も行う二重のマストキャリーが義務付けられていた。その後、アナログ放送

の停波が 2009 年 6 月に延期されたため3年の期限も 2016 年 6 月に延期された

が、6 か月の移行期間を経て、二重義務に関する同規定は 12 月に廃止された。規

定廃止に伴い、ケーブルテレビ事業者には、アナログ変換された放送の配信中止

とコンバータ料金を値上げする場合、その旨を 90 日前に加入者に通知すること

が義務付けられた。

なお、衛星放送事業者も 2014 年 12 月に成立した「2014 年 STELA 再授権法

( Satellite Television Extension and Localism Act Reauthorization Act of

2014:STELAR)」に基づいて、地上放送を視聴できないルーラル地域の加入者の

ために地区外の地上放送を配信することができる。

③競争規制

2015 年 6 月、ケーブルテレビ市場における効果的な競争に関する FCC 規則が

米 国

44

見直された。旧規則は「市場は競争的ではない」という前提に立ち、当該市場で

ケーブルテレビ・サービスを提供する事業者がベーシック料金規制の免除を求め

る場合には、審査手続をケース・バイ・ケースで行っていたが、新規則は「市場

は競争的である」という前提に立ち、ベーシック料金の規制を行う場合はフラン

チャイズ当局からの当該市場が競争的ではないという具体的な反証を必要とする。

放送事業者は同決定に反発しており、全米放送事業者協会(National Association

of Broadcasters:NAB)や NATOA(National Association of Telecommunications

Officers and Advisors)などが 2015 年 8 月に裁判所に提訴し、2016 年 11 月に

ワシントン D.C.を管轄する連邦 D.C.巡回区控訴裁判所において口頭弁論が行わ

れた。同控訴裁は 2017 年 7 月 7 日、FCC の決定を支持する判決を下した。

④料金規制

「通信法」第 623 条において、基本サービス層(Basic Service Tier:BST)や

特定契約者のみが視聴できるケーブル番組サービス層(Cable Programming Ser-

vice Tier:CPST)の料金規制が定められている。しかし、ケーブルテレビ事業者

とほかの多チャンネル映像番組配信事業者(Multichannel Video Programming

Distributor:MVPD)との市場競争が活発化していることを理由に、FCC は 2018

年 10 月、ケーブルテレビ事業の料金規制を見直すための NPRM と報告及び命令

を採択した。今後、小規模ケーブルテレビ事業者の料金規制廃止や、大手ケーブ

ルテレビ事業者にかかる料金規制の一部緩和を念頭に見直しが進められる予定で

ある。

(3)メディア所有規制

①メディア所有規制の見直し

米国では、言論の多様性や地域の独自性を確保する観点から、メディア企業に

対してメディア所有規制が課されている。メディア所有規制は、多数局保有の制

限(multiple ownership rule)と異なるメディア所有の制限(クロス所有規制、

cross ownership rule)から構成される。

メディア所有規制は 4 年ごとに見直しが実施されるが、FCC は 2016 年 8 月に

2010 年度分と 2014 年度分の見直しをまとめて実施し、同年 12 月に新しいメディ

ア所有規制を発効した。小規模事業者の放送業界への参入促進や地方のテレビ市

場の透明性向上を目指すことを明示したほか、2014 年 3 月末までに締結された

テレビ局の共同販売合意(Joint Sales Agreement:JSA)については 2025 年 9

月末までは JSA 規則の免除対象とすることを定めた。

そのほか、2017 年 11 月には、地上放送の所有規制の一部を廃止及び改正する

ことが発表された。同命令により、新聞と地上放送及びラジオ局とテレビ局のク

ロス所有規制が廃止される。テレビ局の複数所有規制についても、同地域で最低

八つの独立局がなければ合併を認めない条件(Eight-Voices Rule)を廃止すると

米 国

45

ともに、一つの地区でシェア上位 4 局のうち 2 局が合併することを禁じる条件

(Top-Four Prohibition)を修正し、ケース・バイ・ケースで判断するプロセスを

新たに組み込む。その他、JSA を結んでいる場合に相手の地上放送局を所有して

いるとみなすルールを廃止するほか、インキュベーター・プログラム(②の項参

照)を創設することも決定した。一方、JSA を FCC に通知する義務や、二つの

ネットワーク所有の禁止に関してはこれまでどおり維持し、ラジオ局の複数所有

にかかわる規則も変更しない。

翌 12 月には、1 社が所有するテレビ局の全国視聴可能世帯率の上限を 39%と

するテレビ局所有上限規制( National Television Ownership Cap)を見直す

NPRM が公表された。FCC は今後、この上限を変更することが可能かどうか検討

し、もし可能であるならば、上限の引上げ/引下げ、廃止のいずれが望ましいか

を判断していく。また、これに合わせて、UHF 局の放送が到達する世帯数を半分

に割り引いて報告することを認めたいわゆる「UHF 局割引(UHF Discount)」を

維持すべきかどうかも検討する。

なお、2018 年 12 月には、2018 年度分のメディア所有規制の見直しを実施する

ことが決定された。現行規則では NBC、ABC、CBS、Fox の 4 大ネットワーク間

の合併は禁止されているが、FCC は反トラスト法等によって 4 大ネットワークの

不適切な統合を抑止することが可能なのではないかとの考えを示しており、合併

禁止規則が市場競争や地域の独自性、意見の多様性を促進するために今後も必要

かどうかコメントを募集したうえで、その存廃について検討していく。また、FCC

は、特定の状況を除いて 1 社が同一地区で二つのテレビ局を所有することを禁じ

る規則を維持する必要性についてもコメントを募集しているほか、単一市場にお

けるローカルラジオ局の数を制限する規則を廃止することも検討している。

②インキュベーター・プログラム

FCC は 2018 年 8 月、既存地上放送事業者がマイノリティや女性の放送事業主

に経営上の助言や財政的援助を提供した場合、あるいは経営難に陥った放送事業

者の財政安定化に貢献した場合に、既存地上放送事業者のローカルメディア所有

規制を免除するという「インキュベーター・プログラム」の実施枠組を承認した。

同プログラムは、まずはラジオ放送事業者を対象に開始される。

2 コンテンツ規制

(1)放送番組に関する規定

「憲法」修正第 1 条の規定に基づき、FCC は、放送局の放送内容や情報収集、

編集、告知、ニュースのコメントに関する関与を原則として行うことはできず、

放送局は、批判、哄笑、滑稽な内容を放送することができる。ただし、卑猥な言

説については規制され得ることとされており、放送局はどの時間帯においてもこ

れを放送することはできない。下品な言説は同条で保護されるが、子どもが視聴

米 国

46

する可能性がある場合には規制される。

その他、以下のような規定が設けられている。

・「通信法」の規定に基づき、選挙の立候補者に対しては平等に放送の機会を提

供しなければならない。

・放送局が政治的な立候補者に対して政治的見解を提示した場合、そのことを

立候補者に 24 時間以内に通知し、その立候補者若しくはその広報官に対して放

送の機会を提供しなければならない。

・すべてのテレビ局は、子どもの教育的・情報的なニーズに関し、全般的な番

組や特に同ニーズを満たすべく制作された番組の両方を通じて、対応しなければ

ならない。教育的・情報的とは 16 歳以下の子どもを想定したもので、そのような

ニーズを満たすべく制作された番組には、特定の目的を持ち、午前 7 時から午後

10 時までに放送され、平日に放送される 30 分以上の長さの番組が該当する。商

業放送局がこうした番組を放送する場合、そのことを番組の最初に告知しなけれ

ばならない。

・連邦法では、暴力的な番組を選別する V チップの導入が規定されている。

・犯罪や災害に関して虚偽の放送をしてはならない。

(2)広告規制

地上放送局による広告放送に関しては、以下の枠組みで規律されている。

・FCC は広告料等について関与しない。

・番組の広告主を明示しなければならない。

・故意に大音量の広告を放送してはならない。

・虚偽若しくは誤解を招く広告については FTC が管轄し、食と薬物に関しては

FDA が管轄する。

・連邦法によりたばこ類の広告放送は禁止されているが、酒類の広告は禁止さ

れていない。

主要 50 市場で放送される政治広告については、2014 年 7 月以降、その料金情

報をインターネットで開示することが全地上テレビ局に義務付けられている。

2016 年 1 月には、ケーブルテレビ事業者、衛星放送事業者、地上ラジオ局、衛星

ラジオ局にも同様の義務を課す決定を行った。

広告放送の音量規制は 2015 年 6 月に施行された「商業広告音量軽減法

(Commercial Advertisement Loudness Mitigation Act:CALM Act)」の下で厳

格化された。同法はテレビの CM 音量が番組本編を大幅に上回ることを禁止する

もので、デジタル地上放送、デジタルケーブルテレビ、衛星放送事業者が適用対

象である。

12 歳以下の子どもを対象とする番組については、FCC 規則で広告の上限が規

定されており、週末の番組では 1 時間当たり 10.5 分まで、平日の番組は 12 分ま

米 国

47

でとなっている。

(3)「2005 年放送品位執行法」

2006 年 15 日に発効した「2005 年放送品位執行法(Broadcast Decency En-

forcement Act of 2005)」により、ラジオやテレビにおいて品位に問題のある内容

や猥褻な内容の番組を放送した放送事業者に対する課徴金が最高 2 万 7,500USD

から 50 万 USD にまで引き上げられた。また、違反行為が繰り返された場合には

放送免許を取り消すことも規定された。

(4)子ども番組規制

1990 年に成立した「子どもテレビ法(Children’s Television Act)」に子ども向

け教育・情報番組の制作を促進、普及させる規定が盛り込まれた。同法に基づい

た FCC 規則では、放送局に対し、両親と消費者に主要番組の放送情報を提供する

ことや、主要番組となる番組タイプを定義することを義務付けている。なお、主

要番組は、30 分以上の番組であること、午前 7 時から午後 10 時の間に放送する

こと、週のレギュラー番組として放送すること、という要件を満たさなければな

らない。

子ども向け教育番組の放送時間については、1 週間に 3 時間放送することが義

務付けられおり、2006 年 1 月からはマルチキャストを行うデジタルテレビ(DTV)

放送局にも同様の義務が適用されている。

子ども番組放送中のウェブサイト・アドレスの表示については、商業的なサイ

トのアドレスを表示するプロモーション素材を広告放送の一つとし、番組枠から

明確に切り離すことが規定されている。番組と適切な隔離措置がとられたウェブ

サイト上では、番組関連キャラクターを使った商品を販売することができる。

ただし、現行規則で定められている義務のうち、子ども向け教育・情報番組を

最低 30 分間とすること、及び同番組を週に最低 3 時間放送することについては、

見直しを開始することが 2018 年 7 月に決定した。FCC は規則改定の理由として、

子ども向け番組が MVPD サービスや OTT(Over The Top)サービスを通じて豊

富に提供されていることや、地上放送局が子ども向け番組を放送するための柔軟

性を拡大する必要があることを挙げている。

(5)障がい者向け放送サービス規制

1990 年 7 月に成立した「障がいを持つアメリカ人法(The Americans With

Disabilities Act :ADA)」において、テレビ受像機に字幕を表示する機能を組み

込むことが義務化された。しかし、同法ではデジタル化やブロードバンド及びモ

バイル・デバイス経由の映像配信に十分に対応できないとして、2010 年 10 月、

新たに「21 世紀の通信と映像アクセシビリティ法(21st Century Communica-

tions and Video Accessibility Act :CVAA)」が制定された。

2 編構成の CVAA は、第 1 編で通信アクセスに関する規定、第 2 編で映像番組

米 国

48

に関する規定を設けている。第 2 編の第 202 条では、テレビ局に週 4 時間の音声

解 説 付 与 を 義 務 付 け る 「 映 像 番 組 の 映 像 解 説 に 関 す る 報 告 及 び 命 令

(Implementation of Video Description of Video Programming Report and Or-

der(15 F.C.C.R. 15,230(2000)))」を一部修正のうえ、復活させること、字幕

付きテレビ番組をインターネットで配信する際に字幕の付与を義務付けること、

緊急情報を全盲又は弱視の人々のために副音声で提供することを映像番組配信事

業者、映像番組供給事業者、映像番組所有者に義務付けること等が記されている。

ただし、アナログ・システムしか持たないケーブルテレビ事業者は副音声による

緊急情報提供義務が免除される。そのほか、映像番組の受信、再生あるいは録画

用に設計された機器についても、第 203 条(クローズドキャプション・デコーダー

及び映像解説機能)、第 204 条(デジタル機器のユーザ・インターフェイス)、第

205 条(ナビゲーション機器上で提供される映像番組のガイド及びメニューへの

アクセス)といった規定がある。

(6)映像コンテンツの再送信にかかわる問題

①新サービスにおける著作権の扱い

Fox と他の複数のテレビ局が、地上テレビ放送を月額 8USD でパソコンやモバ

イル端末に有料ストリーミング配信するアエレオ(Aereo)に対し、正式にライセ

ンスを取得せずに著作権のある番組を放送して収益を得ていることは不当である

と訴えたことを受け、連邦最高裁判所は 2014 年 6 月、控訴裁の判断を覆し、著

作権侵害を認めるアエレオ敗訴の判決を言い渡した。判決を受けて、同社は 3 日

後にサービスを中止した。

一方、衛星放送事業者ディッシュ・ネットワーク(Dish Network)が 2012 年

3 月に開始したサービス「Hopper」の AutoHop 機能を巡っても裁判が行われた。

AutoHop 機能は DVR で録画した地上ネットワークの放送を広告抜きで視聴でき

るサービスで、広告収入に頼る地上ネットワークがディッシュ・ネットワークに

サービス中止を求めて裁判に訴えたが、カリフォルニア州控訴裁判所は 2013 年

7 月、ネットワーク側の訴えを退けた。最終的に、ABC の親会社であるウォルト・

ディズニー・カンパニー(Walt Disney Company)が 2014 年 3 月に訴訟を取り

下げたほか、2016 年には Fox と NBC が放送後 7 日間は AutoHop 機能を提供し

ないことでディッシュ・ネットワークと和解した。

②再送信交渉を巡る争い

ディッシュ・ネットワークは 2017 年 11 月から、ニューヨーク、ロサンゼルス、

ダラス、シカゴ等の 200 万世帯で地上波再送信料を巡って対立している地上放送

大手の CBS Television Network(CBS)や同ネットワークが所有するローカル局

のほか、ケーブルテレビ・ネットワークの CBS Sports Network や Pop、Smith-

sonian の配信を停止した。ディッシュ・ネットワークは一定の条件を満たす加入

米 国

49

者に対して、ローカル・チャンネルの配信を停止する代わりに月額料金を 10USD

割引し、地上放送を受信するためのアンテナを無料で設置するオファーを提供中

で、既に数千人の加入者がローカル・チャンネルを視聴プランから落とす選択を

行っている。なお、ディッシュ・ネットワークと CBS は 2014 年にも合意するこ

とができず、CBS チャンネルが配信されない事態に陥っていた。

全米テレビ同盟(American Television Alliance)によれば映像コンテンツの再

送信停止や視聴者への受信料返還等が相次いでおり、2015 年と 2016 年にはそれ

ぞれ 193 件と 104 件の放送停止が発生したという。ウィーラー前 FCC 委員長は

2016 年 7 月、この問題に対する FCC 新規則の導入を否定したが、全米テレビ同

盟は 2016 年 12 月以降、FCC に対し、規則導入を求める書簡を複数提出してい

る。

3 公共放送関連政策

(1)公共放送機構(Corporation for Public Broadcasting:CPB)

CPB は、公共放送の促進のため、「1967 年公共放送法(Public Broadcasting

Act of 1967)」によって設立された非政府機関である。予算は連邦政府交付金に

よって賄われており、CPB を通じて公共放送関係機関に配分される。CPB の 2018

年度の一般予算額は 4 億 4,500 万 USD となっている。そのほか、デジタル移行

支援関連予算や無線相互接続関連予算、就学前児童向け教育支援予算を議会に申

請、計上している。

(2)公共放送サービス(Public Broadcasting Services:PBS)

「1967 年公共放送法」に基づき、CPB と全国各地の局の出資によって、1969

年に公共放送サービスを提供する PBS が設立された。PBS は全米 50 州及びプエ

ルトリコ、アメリカ領ヴァージン諸島、アメリカ領サモア、グアム島の 350 以上

(2017 年 9 月現在)の加盟局からなる、非商業テレビ放送事業者の全国ネット

ワークである。

PBS 自体は番組制作を実施せず、制作会社及び PBS 加盟局から調達した番組

を編成・伝送することが主な業務である。番組内容は教育・教養番組が中心で、

番組編成権も各加盟局が持つ。加盟局を運営しているのは、地域の非営利団体、

大学、州政府、地方自治体で、主な放送局に WGBH、WNET、WETA などがあ

る。

PBS の財源は連邦政府資金(CPB を通して分配される非商業放送予算、DOC

から支出される非商業放送施設改善交付金)、視聴者寄付金、州/自治体政府資金、

企業協賛金、オークション売上金など多岐にわたっている。

4 デジタル放送

(1)デジタルテレビ移行政策

「2005 年財政赤字削減法(Deficit Reduction Act of 2005)」に定められた期限

米 国

50

までに消費者の準備が整わないことを背景に、オバマ大統領(当時)の署名によ

り、同期限を延期する法案「DTV 延期法(DTV Delay Act)」が成立し、地上デジ

タル放送への移行期限が 2009 年 6 月 12 日まで延期された。延長期限である 2009

年 6 月 12 日、米国におけるアナログ放送は停波し、地上デジタル放送への移行

が完了した。ただし、承認を受けた一部の局は、視聴者に対する移行手順の説明

や緊急放送等の「アナログ・ナイトライト・サービス」提供を移行期限後も 30 日

間に限り実施した。

なお、デジタル化を義務付けられたのは全国約 1,760 の高出力局のみで、約

2,900 局の低出力局や約 4,400 局の中継局は期限後もアナログ放送を継続するこ

とが認められている。

(2)ATSC 3.0 の自主的導入

米国の地上デジタルテレビ放送方式「ATSC(Advanced Television Systems

Committee)」の次世代規格である「ATSC 3.0」を自主的に運用開始することを

認める案が 2017 年 11 月に FCC によって採択された。採択に伴い、ATSC 3.0 の

運用を開始する地上放送局には、現行規格と新規格による両方の放送を 5 年間維

持することが義務付けられた。

地上放送大手のシンクレアとネクスター(Nexstar)は 2017 年 3 月に ATSC

3.0 を活用するコンソーシアムを結成し、同規格によるイノベーションの促進、

関連製品・サービスの開発、周波数の効率的な利用や MVPD、マルチキャスト、

自動車への応用などに取り組んでいくことを発表した。

Ⅳ 事業の現状

1 ラジオ

(1)地上ラジオ放送

2017 年 3 月現在、地上アナログ放送を行うラジオ局の総数は 1 万 5,532 であ

る。商業放送と非商業放送の両方が存在するが、サービスは商業放送を中心に行

われている。

商業放送の主要ネットワークには、アイハートメディア( iHeartMedia、旧ク

リアチャンネルが 2014 年 9 月に名称変更)、キュミュラス・ラジオ・グループ

(Cumulus Radio Group)、アメリカン・アーバン・ラジオ・ネットワーク(Amer-

ican Urban Radio Networks)、プレミア・ラジオ・ネットワーク(Premiere Radio

Networks)、ウェストウッド・ワン(Westwood One)等がある。

このうち米国第 1 位のアイハートメディアと第 2 位のキュミュラスは、近年の

聴取率と売上げの低下を背景に、2018 年 3 月と 2017 年 11 月にそれぞれ「連邦

破産法」第 11 章(Bankruptcy Code)の適用を申請した。アイハートメディア

は、100 億 USD 超の負債について債権者と債務再編で原則的に合意しているが、

米 国

51

同社子会社で世界最大の屋外広告会社の一つであるクリアチャンネル・アウトド

ア・ホールディングス(Clear Channel Outdoor Holdings)は、その事業部門も

含めて、第 11 章の適用を申請していない。一方キュミュラスは、タームローンの

70%近くの債権を持つ有担保債権者から再建に向けての支持を取り付けており、

債務を 10 億 USD 以上軽減するとの同意も得られている。ただし、その交換条件

として、2018 年 5 月を目標とする破たん手続からの脱却後、これらの債権者が同

社の 84%を所有することになる。

一方、非商業放送には、1970 年に設立された全米公共ラジオ(National Public

Radio:NPR)がある。PBS とは異なり、NPR は番組の調達、編成、伝送に加え、

独自の取材や番組制作も実施する。音楽番組とともに、「Morning Edition(朝の

ニュース番組)」「All Things Considered(午後のニュース番組)」といったニュー

ス番組の質の高さに定評がある。2017 年 9 月末現在、994 の加盟局と 120 の非

加盟局に番組を提供している。

地上デジタルラジオ放送は 2003 年から実験放送が開始され、2004 年 1 月に受

信機の販売が開始された。伝送方式はアナログ波にデジタル波を重ねる米国独自

の In Band on Channel(IBOC)である。

(2)衛星デジタルラジオ放送

2001 年 9 月にサービスを開始した XM サテライト・ラジオ(XM Satellite Radio)

と、2002 年 7 月にサービスを開始したシリウス・サテライト・ラジオ(Sirius

Satellite Radio)が提供していたが、2008 年 7 月に合併し、新しくシリウス XM

(Sirius XM)としてサービスの提供を開始した。長距離トラックなどのドライ

バーが主要ターゲットで、2017 年 9 月現在、加入者数は約 3,220 万となってい

る。

(3)インターネットラジオ放送

各リスナーの嗜好に合わせた音楽を配信するインターネットラジオの「パンド

ラ(Pandora)」が人気を集めている。また、「Apple iTunes」のような買取型聴

取が減少傾向にある代わりに、「スポティファイ(Spotify)」に代表されるような

ストリーミング型聴取が増加するなど、配信方法や聴取スタイルに変化が現れ始

めている。

なお、ストリーミング型インターネットラジオのユーザ数ではスポティファイ

が長らく首位を独占してきたが、2018 年 2 月に「Apple Music」がスポティファ

イを初めて追い抜いた。Apple Music は 2015 年 7 月に提供が開始された定額制

音楽配信サービスで、スポティファイにはない、ミュージックビデオ視聴機能を

導入している。

2 テレビ

2017 年 3 月末現在、テレビ局の総数は 1,777 である。商業放送と非商業放送

米 国

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が存在するが、サービスは商業放送を中心に行われている。

(1)商業放送

商業局の総数は 1,383 局に上り、その 80%以上が 4 大ネットワークである ABC、

CBC、NBC、Fox、及び CW をはじめとする後発のネットワーク直営局、又は加

盟局(いずれかのネットワークの系列に属するが、別のテレビ所有会社が所有す

る)となっている。

番組を放送するネットワーク加盟局とテレビ局を所有する親会社(テレビ・グ

ループ)は基本的に別で、様々な企業・団体がテレビ局を所有している。したがっ

て、各テレビ・グループが傘下に複数の異なるネットワーク系列局を保有する場

合や、番組編成時期ごとにネットワーク系列を変更することもある。

最近の動向としては、2017 年 5 月に発表されたシンクレア・ブロードキャス

ト・グループ(Sinclair Broadcast Group)による約 39 億 USD 規模のトリビュー

ン(Tribune)買収計画がある。シンクレアは中小規模の国内地区で 173 のテレ

ビ局を保有しており、トリビューンが持つ 42 局を加えると、ニューヨークやロ

サンゼルス、シカゴを含むほぼすべての大都市でテレビ局を所有することになる。

FCC の現行規則は、1 社が所有するテレビ局の全国視聴可能世帯率の上限を 39%

と規定しているが、シンクレアとトリビューンの持つテレビ局を合わせると、全

国視聴可能世帯率は 50%に上るため、両社の合併に対しては、市民団体やテクノ

ロジー企業、MVPD 等を中心に、ローカルニュースの多様性の減少や地上波再送

信料の高騰を懸念する声が上がっていた。シンクレアはその後、23 のテレビ局を

売却することを新たに提案したが、FCC は、同社がその番組編成や広告事業につ

いて一部支配権を維持する方針であることについて深刻な懸念があるとし、同買

収計画を行政法判事の審理に回す命令(Hearing Designation Order:HDO)を

2018 年 7 月に採択した。最終的に、シンクレアは同年 8 月、FCC に提出してい

た買収申請を取り下げ、この件に関する行政法判事の審理を取り止めるよう FCC

に求めた。これにより、シンクレアのトリビューン買収計画は正式に中止された。

トリビューン側はシンクレアとの合併合意を破棄した後、シンクレアに契約違反

があったとしてデラウェア州衡平法裁判所に同社を提訴し、 10 億 USD の賠償を

請求しているが、シンクレアはそれに反訴している。

なお、2018 年 12 月には、ネクスターが新たなトリビューン買収計画を明らか

にした。ネクスターは総額約 41 億 USD を支払う方針で、負債を含めた買収総額

は約 64 億 USD に上るが、買収が実現した場合、ネクスターは米国で最も多くの

地上波ローカルテレビ局を所有する事業者となる。

(2)非商業放送

非商業局は、公共放送の PBS を中心とした非商業局と独立系の非商業局を合

わせて 394 局存在する。

米 国

53

PBS はワシントンの本部と全米 350 余りの加盟局で構成されている。本部は番

組を制作せず、外部から調達した番組や加盟局が制作した番組を加盟局へ配信す

るが、加盟局に本部が配信する全番組を放送する義務はない。加盟局は非商業・

教育局として免許を付与されている。

3 衛星放送

1994 年の DirecTV のサービス開始で本格化し、M&A を経て、DirecTV グルー

プとディッシュ・ネットワークの 2 社体制となっている。ただし、2015 年 7 月に

DirecTV が通信事業者の AT&T に買収され、その傘下に入った。事業は DirecTV

の名義で継続されている。

4 ケーブルテレビ

難視聴地域向けの事業として発足し、1970 年代のケーブル専門チャンネルの登

場や通信衛星を利用した番組供給によって普及が進んだが、衛星放送に契約変更

する世帯の増加、電気通信事業者の動画配信事業への参入、インターネットの無

料動画配信サービスの普及などを背景に有料放送の契約を打ち切る世帯が増加し

ており、加入世帯数は 2001 年の 6,690 万をピークに年々減少している。2018 年

9 月現在、主なケーブルテレビ事業者 6 社の加入世帯数は約 4,712 万である。

ケーブルテレビは、全米に 600 以上あるケーブル・ネットワーク事業者(番組

供給事業者)が衛星を使って、MSO(Multiple System Operator)と呼ばれるケー

ブルテレビ事業者に番組を供給する形で行われている。MSO の加入者ベースで

は、最大手はコムキャスト、二番目にタイム・ワーナー・ケーブルとブライト・

ハウス・ネットワークスを 2016 年 5 月に買収した新生チャーター・コミュニケー

ションズ(Charter Communication)が続き、以下、アルティス USA(Altice USA

(ケーブルヴィジョンとサドンリンク(Suddenlink)を買収))とコックス・コ

ミュニケーションズとなっている。

最近の動向としては、ケーブルテレビ事業者を中心に、衛星放送事業者や通信

事業者の買収や統合が盛んになっており、業界再編が本格化しつつある。例えば、

コムキャストは 2018 年、全国ネットワーク Fox Networks Group の映像部門で

ある 21st Century Fox との間で英国の衛星放送大手であるスカイ(Sky)を巡る

買収競争を、ウォルト・ディズニーとの間で 21st Century Fox が持つメディア資

産を巡る買収競争をそれぞれ繰り広げた。最終的に、スカイについてはコムキャ

ストが総額 400 億 USD で買収し、21st Century Fox のメディア資産については

ウォルト・ディズニーが 713 億 USD で買収することが決定した。ただし、ウォ

ルト・ディズニーは DOJ の指示に従い、買収完了から 90 日以内に 22 の地域ス

ポーツ・ネットワークを売却しなければならないほか、世界各国の行政承認も必

要とするため、これらの手続が完了するのは 2019 年前半になると見られている。

その他、2016 年に発表された AT&T によるタイム・ワーナー買収も、DOJ に

米 国

54

よる提訴があったものの、連邦地裁が同買収計画を無条件で認める判決を下した

ため、2018 年に完了した。AT&T はこの買収で 1,800 億 USD 以上の負債を抱え

る代わりに、CNN や HBO といったケーブルテレビ・ネットワークやワーナー・

ブラザースの映画・テレビ制作会社を獲得し、タイム・ワーナーという社名もワー

ナーメディアに変更する。ただし、DOJ は買収を承認した連邦地裁の判決を不服

として上訴することを通達しており、現在その準備を進めているところである。

そのため、AT&T は DOJ の上訴に備え、2019 年 2 月末まではタイム・ワーナー

の資産を合併しないままにしておくことで合意している。

NCTA インターネット・テレビ連盟(NCTA - The Internet & Television Asso-

ciation)によると、2018 年 6 月現在の主な多チャンネル配信サービス事業者は

以下のとおりで、ネットフリックス(Netflix)や hulu のようなオンライン動画

配信事業者が加入者数を増やしている。

主なビデオサービス事業者 (2018 年 6 月現在)

事業者名 種類 加入者数

ネットフリックス オンライン動画配信 5,740 万

Amazonプライム・ビデオ オンライン動画配信 2,600 万

DirecTV 衛星放送 2,550 万

コムキャスト ケーブル 2,210 万

hulu オンライン動画配信衛星 2,000 万

チャーター・コミュニケーションズ ケーブル 1,670 万

ディッシュ・ネットワーク 衛星放送 1,070 万

Verizon FIOS 通信 460 万

コックス・コミュニケーションズ ケーブル 380 万

アルティスUSA ケーブル 340 万

出所:NCTA

5 国際放送

連邦政府が実施している Voice of America(VOA)、キューバ向けの Radio-TV

Martí、欧州向けの Radio Free Europe/Radio Liberty(RFE/RL)、アジア向けの

Radio Free Asia(RFA)、中東向けの Radio Sawa と AlhurraTV があり、いずれ

も「1994 年国際法(International Broadcasting Act of 1994)」によって設置さ

れた放送管理委員会(Broadcasting Board of Governors:BBG)が管理している。

このうち VOA は、47 言語で多様なジャンルの番組を放送しており、週当たりの

米 国

55

視聴者数は 2 億 3,660 万人である。近年は、オンラインニュースの 24 時間配信

やソーシャルメディアの活用にも注力している。

Ⅴ 運営体

1 ABC, Inc.(ABC)

Tel. +1 212 456 7777

Fax +1 212 456 2795

URL https://abc.go.com/

所在地 77 West 66th

Street, New York, NY 10023, U.S.A.

幹 部 Ben Sherwood(共同会長/Co-Chairman)

概要

1948 年に NBC から分割され、放送を開始した。1986 年に Capital Cities と

合併して Capital Cities/ABC となったが、1996 年に大手映画スタジオのウォル

ト・ディズニー・カンパニーに 190 億 USD で買収され、ディズニーの地上テレ

ビ放送ネットワーク部門となった。

直営局は 8 局あり、人気番組としては視聴者参加型の「Dancing with the Stars」

やドラマ「Grey’s Anatomy」「Castle」がある。

2 CBS Corporation(CBS)

Tel. +1 212 975 4321

URL https://www.cbs.com/

所在地 51 West 52 St., New York, NY 10019, U.S.A.

幹 部 Joseph Ianniello(社長兼最高経営責任者代行/President and

Acting CEO)

概要

ウェスティングハウス(Westinghouse Electric Co.)の傘下にあったが、2000

年 5 月にユナイテッド・パラマウント・ネットワーク(United Paramount Net-

work:UPN)を傘下に持つバイアコム(Viacom)と合併し、同グループの地上

ネットワーク部門となった。しかし、同部門の業績が悪化するなど、合併は期待

された相乗効果を生み出せなかったため、2006 年 1 月に事業分割した。CBS、

UPN、サイモン・シュスター、インフィニティ・ブロードキャスティング、パラ

マウント・テレビジョンを含むテレビ・ラジオ事業が、CBS のブランド名を継承

している。

直営局は 16 局で、犯罪ドラマ「CSI」やコメディー番組「Two and Half Men」

が高視聴率を獲得した。2014 年 10 月には、4 大ネットワークで初めて OTT-V

米 国

56

サービス「CBS All Access」を開始しており、2017 年 8 月にオーストラリアの商

業局 Network Ten の買収を発表するなど、海外英語圏における同サービスの展開

にも意欲を示している。

3 NBCUniversal(NBCU)

Tel. +1 212 664 4444

Fax +1 212 664 5830

URL http://www.nbcuniversal.com/

所在地 30 Rockefeller Plaza, New York, NY 10112, U.S.A.

幹 部 Steve Burke(最高経営責任者/CEO)

概要

1941 年に CBS とともに放送を開始した。ゼネラル・エレクトリック(General

Electric Co.:GE)の地上テレビ放送ネットワーク部門として、2002 年 4 月に全

米第 2 位のスペイン語ネットワークの Telemundo を、2004 年 5 月にビベンディ・

ユニバーサル(Vivendi Universal)の娯楽事業部門であるビベンティ・ユニバー

サル・エンタテインメント(Vivendi Universal Entertainment)をそれぞれ買収

した。しかし、2009 年 12 月に経営権が GE からケーブル最大手コムキャストに

売却され、2013 年 2 月にはコムキャストの完全子会社となった。

直営局は 10 局あり、「Law & Order」「ER」「30 Rock」「Heros」などの人気番

組を放送してきた。また、長年にわたりオリンピックを独占放送しており、2018

年平昌冬季大会をはじめ、2032 年までの六つの大会の放送権も既に 77 億 5,000

万 USD で獲得している。2016 年のリオデジャネイロ大会では、コムキャスト傘

下の放送局とインターネットで過去最高の 6,700 時間を超えるコンテンツを放

送・配信した。

4 Fox Networks Group(Fox)

Tel. +1 310 369 1000

Fax +1 310 969 3300

URL https://www.fox.com/

所在地 10201 West Pico Blvd., Los Angeles, 90035, U.S.A.

幹 部 Peter Rice(会長兼最高経営責任者/Chairman and CEO)

概要

1986 年にルパート・マードック氏によって設立された全国ネットワークであ

る。2013 年 6 月、ニューズ・コーポレーション(News Corporation、ニューズ・

コープ)が、傘下の英国大衆紙の盗聴事件や出版部門の収益の伸び悩みなどを受

け、同社を映像部門の新会社 21st Century Fox と新聞雑誌部門の新ニューズ・

米 国

57

コープに分社化した。Fox Network Group は、21st Century Fox のテレビネッ

トワーク部門に当たる。ただし、21st Century Fox のメディア資産は、DOJ の条

件付承認を受けてウォルト・ディズニーが 2018 年に 713 億 USD で買収した。

世界各国の行政承認も必要とするため、すべての買収手続が完了するのは 2019

年前半になると見られる。

5 コムキャスト

Comcast Corporation

Tel. +1 215 665 1700

URL https://corporate.comcast.com/

所在地 1701 John F. Kennedy Blvd., Philadelphia, PA 19103, U.S.A.

幹 部 Brian L. Roberts(会長兼最高経営責任者/Chairman and

CEO)

概要

1963 年に設立された最大手ケーブルテレビ事業者で、国内最多のケーブルテレ

ビ加入者数、地上放送局、ケーブルテレビ局、映画会社、動画配信プラットフォー

ム(hulu)、テーマパークなどを擁する一大複合メディア企業である。2013 年 2

月には、NBCU を完全子会社化した。

同社は長年にわたり固定電話、インターネット、放送のトリプルプレイを提供

していたが、2017 年に新事業となる移動電話サービス「X フィニティ・モバイル」

を発表したほか、チャーター・コミュニケーションズとワイヤレス事業での提携

で合意に至っている。更に 2018 年には、トリプルプレイ・サービスに OTT-V 大

手のネットフリックスをバンドルして提供することを発表した。ネットフリック

スのサービスが米国のケーブル・サービスと統合されるのはこれが初めてである。

6 全米放送事業者協会(NAB)

National Association of Broadcasters

Tel. +1 202 429 5300

Fax +1 202 429 4199

URL https://www.nab.org/

所在地 1771 N St. N. W., Washington, D.C. 20036, U.S.A.

幹 部 Gordon H. Smith(社長兼最高経営責任者/President and

CEO)

概要

1923 年に設立された商業放送事業者の全国組織で、業界の利益保護を目的に、

議会や FCC に対する働きかけを行うほか、番組内容の向上を目的に独自の自主

米 国

58

規制を実施している。

7 NCTA インターネット・テレビ連盟

NCTA - The Internet & Television Association

Tel. +1 202 222 2300

URL https://www.ncta.com/

所在地 25 Massachusetts Avenue, NW - Suite 100 Washington, D.C.

20001, U.S.A.

幹 部 Michael Powell(社長兼最高経営責任者/President and CEO)

概要

1952 年に設立されたケーブル事業者の代表組織である。2001 年に、ブロード

バンドの普及による通信・放送の融合を反映し、名称をケーブル電気通信連盟

(National Cable & Telecommunications Association)から現在の名称に変更し

た。

8 その他の主な事業者

事業分野 事業者 URL

衛星放送

AT&T/DirecTV https://www.directv.com/

ディッシュ・ネット

ワーク https://www.dish.com/

ケーブルテレビ

タイム・ワーナー・

ケーブル https://www.warnermediagroup.com/

チャーター・コミュ

ニケーションズ https://www.spectrum.com/

コックス https://www.cox.com/

電 波

Ⅰ 監督機関等

1 監督機関

(1)連邦通信委員会(FCC)

(通信/Ⅰ-1の項参照)

米 国

59

電波監理に関連する主な部局は無線通信局(WTB:ほとんどの無線通信サービ

ス)、メディア局(MB:放送サービス)、国際局( IB:衛星通信及び軌道位置)、

執行局(EB:電波監視)、公共安全・国土安全保障局(PSHB:公共安全通信)及

び工学・技術室(OET:免許不要機器、技術支援)である。

(2)商務省国家電気通信情報庁(NTIA)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

所掌事務

NTIA における電波監理は周波数管理室(Office of Spectrum Management:

OSM)が中心となる。OSM の主な役割は以下のとおり。

・連邦政府用周波数の割当てに関する政策立案

・平時・戦時における周波数利用計画の策定

・国際的な無線会議への参加、決定事項の実施

・周波数分配

OSM は、省庁間無線諮問委員会(Interdepartment Radio Advisory Committee:

IRAC)の支援の下、連邦政府用周波数管理を実施する。IRAC に参加する連邦政

府機関は以下のとおり。農務省、空軍、陸軍、放送管理委員会、沿岸警備隊、商

務省、エネルギー省、連邦航空局、国土安全保障省、内務省、法務省、国立航空

宇宙局、国立科学財団、海軍、国務省、運輸省、財務省、郵便公社、退役軍人省。

2 標準化機関

(1)米国標準・技術研究所(NIST)

National Institute of Standards and Technology

Tel. +1 301 975 2000

URL http://www.nist.gov/

所在地 100 Bureau Drive, Gaithersburg, MD 20899, U.S.A.

幹 部 Dr. Walter G. Copan(局長/Director)

所掌事務

1988 年に商務省の米国標準局(National Bureau of Standards:NBS)が改組

して設立された。「1995 年国家技術移転促進法(National Technology Transfer

and Advancement Act of 1995)」の規定により、連邦政府における任意規格の利

用促進に向けた調整権限が NIST に付与された。

(2)米国国家規格協会(ANSI)

American National Standards Institute

Tel. +1 202 293 8020

URL http://www.ansi.org/

米 国

60

所在地 1899 L Street, NW, 11th

Floor, Washington, D.C. 20036, U.S.A.

幹 部 S. Joe Bhatia(会長/President and CEO)

所掌事務

国家規格制定権限を独占的に付与された指定法人である。ANSI 理事会に NIST

等関係省庁の代表者が理事として参加し、標準化活動を実施している。

Ⅱ 電波監理政策の動向

1 電波監理政策

(1)周波数管理

周波数の管理は、FCC と NTIA が分担し、NTIA は連邦政府の周波数管理を担

当する。一方、FCC は個人、企業、地方自治体、公共安全(警察、消防、救急な

ど)を含む非連邦政府の利用を管理する。共用する周波数帯については両者が協

力する。

FCC は周波数管理に関連する戦略的な目標として以下を挙げている。

・市場志向の周波数分配政策及び割当ての改善政策を立案・実施することに

よって、周波数改革を進める。

・有害な電波干渉の積極的な防止と公共安全規則の厳密な適用。

・周波数有効利用につながる適切かつ時宜を得た免許発行。

・公共安全及び商用のために十分な周波数資源の提供と相互運用性の改善。

(2)無線局免許

「通信法」第 301 条では、米国内でのすべての無線通信チャンネルをコント

ロールし、その有用性を確保するために、すべての無線機器(通信を行うもの又

はエネルギー伝送を行うもの)に対して、別に定める場合を除いて、FCC の発行

する免許を取得することを義務付けている。また、同第 302 条は FCC に、免許

を受けて運用される無線通信に対して障害となる干渉を引き起こす可能性のある

機器の製造・販売を規制する権限を与えている。

連邦政府の各省庁(米軍を含む)の無線局は NTIA を通じて周波数の使用許可

を得る。連邦政府専用の周波数については NTIA が使用を許可するが、非連邦政

府用との共用周波数帯の免許に関しては、NTIA が申請を受け付け FCC と協議を

行う。逆の場合でも同様に協議される。この目的で NTIA と FCC はオンライン

での迅速な調整を行うシステムを構築している。

(3)免許不要機器

「通信法」は明示的には小電力の免許不要機器の存在を認めていないが、FCC

は FCC 規則 15 部で規制される免許不要機器が同法と十分な整合性を持っている

と主張している。免許手続が免除される無線局の運用を規定する規則には、低出

米 国

61

力無線機器(免許不要で運用できる機器)を規制する FCC 規則 15 部、高周波無

線設備(ISM)機器について規制する同 18 部、公衆電話回線に接続される端末機

器を規定する同 68 部、同 90 部で規定される簡易な無線機を使用する無線サービ

ス等がある。使用される無線通信機器は、原則、認証(Certification)を取得し

なければならない。

(4)周波数割当

米国では、周波数割当方式として、比較聴聞(Comparative Hearing:1927 年

導入)及び無差別選択(Random Selection:1984 年導入)が用いられてきた。そ

の後、1986 年から周波数割当におけるオークション方式の検討が開始され、

「1993 年包括財政調整法」により、翌 1994 年から同制度が導入された。同制度

導入に際し、通信法第 309 条が改正され、第 i 項「無差別選択の適用」に代わり、

第 j 項「競争入札の適用」の項が拡張された。これにより、新規に付与される免

許の多くがオークションにより付与されることとなった。同法の規定により、オー

クション方式は、比較聴聞方式の例外規定として、「電波を使用する事業者が、そ

の提供するサービスの対価を利用者から徴収する場合」の初期免許に対し、申請

が競合する場合に限り適用される。そのため、同方式は、電力、交通、警察等へ

の周波数割当には適用されない。

1994 年の開始以来、2017 年 12 月 31 日までに 88 回の周波数オークションが

実施されている。これまで実施されたすべてのオークションの落札額の合計は約

1,146 億 USD に達する。オークション収入は通信法の規定によって財務当局に納

められる。

(5)指定事業体認定制度

競争入札において入札適格申請者として認められた者は、小規模事業者として

の入札クレジットを要求することができる。これは指定事業体(Designated En-

tities:DE)の認定を受けることによって可能となる。指定事業体とは、小規模

事業者、マイノリティ・グループや女性のメンバーによって所有されている事業

者及びルーラル電話会社である 。指定事業体の資格(DE 資格)を認められた落

札者は、支払額の割引という優遇措置を受けることができる。小規模事業者の場

合は売上高の規模に応じて、落札額から一定割合の入札クレジットが適用される。

①過去 3 年間の平均売上高(average gross revenues)が 400 万 USD 以下の場

合は 35%、②同 2,000 万 USD 以下の場合は 25%、③同 5,500 万 USD 以下の場

合は 15%がそれぞれ割り引かれる。

指定事業体規定によると、DE 資格の認定において、「帰属持分(attributable

interests)」と呼ばれる、資本を巡る所有関係が審査の対象となる。競争入札にお

いて DE 資格の認定を受けようとする小規模事業者は、当該事業者の企業支配権

(controlling interests)を、法律上又は事実上、誰が持っているかが審査される。

米 国

62

法律上の支配とは、当該事業者の議決権株式を 50%以上持っていることが根拠と

なる。一方、事実上の支配については、ケース・バイ・ケースによって判断され、

①当該事業者の取締役会又は経営委員会の 50%以上を任命又は指名する者、②当

該事業者の日常業務を管理する上級役員の指名、昇格、降格及び解任する権限を

持っている者、③当該事業者の経営上の意思決定において不可欠な役割を担って

いる者が誰なのかが審査される。審査に先立ち、当該事業者は資本関係の詳細な

情報 を FCC に提出する義務を負う。

また、DE 資格の認定では、「重要な帰属関係(Attributable Material Relation-

ships:AMR)」と呼ばれる、特定の周波数リース及び再販(卸売を含む)におけ

る帰属関係も審査の対象となる。AMR 規則は、小規模事業者やマイノリティに対

して、オークションを通じて、周波数ベースの小売サービスの提供機会を与える

ことを保証するために、2006 年に FCC が制度化したものである。本規則によれ

ば、競争入札において DE 資格の認定を受けようとする小規模事業者が、独立し

た事業体との間で一つ以上の周波数リース又は再販の卸売契約を締結し、それが

累積ベースで小規模事業者が保有する免許の周波数容量の 25%を超える場合は、

独立した事業体との間において「重要な帰属関係」があると見なされ 、原則的に

DE 資格を得ることができない。

(6)免許移転

米国では、企業結合、事業譲渡、周波数の二次取引などによって、無線局の免

許や権利(周波数を使用する権利や、無線局の設置許可などを含む)を保有する

法人が変わったり、株式取得によって無線局免許を保有する法人の支配権が変わ

る場合には、その旨を書面で FCC に申請し、事前に FCC の承認を得なければな

らない。

このような FCC の審査権限は「通信法」第 310 条(Limitation on Holding and

Transfer of Licenses)(d)項に規定され、FCC に申請し、かつ、「公共の利益、

便宜及び必要(public interest, convenience and necessity)」にかなうと FCC が

認めた場合を除いて、建設許可若しくは、局の免許、又は、これらに基づく権利

を、任意に若しくは意に反して、直接若しくは間接に、又は、当該許可若しくは

免許を保有する法人の支配の移転により、他の者に移転し、譲渡し、その他いか

なる方法によっても処分してはならないと定められている。

(7)外資規制

米国では、外国人及び外国政府による無線局免許保有には、「通信法」第 310 条

により、放送局、公衆電気通信事業者、航空機無線局又は航空固定無線局の免許

(broadcast or common carrier or aeronautical en route or aero nautical fixed

radio station license)の免許人を直接的又は間接的に支配する企業に対して、外

国人投資家が 25%を超える投資を行うことを禁止する一方で、FCC が公共の利

米 国

63

益の観点から、外国人投資家にこれを超える投資を認めることができる。

2 電波開放戦略

(1)「国家ブロードバンド計画」

FCC は 2010 年 3 月 16 日、国家ブロードバンド計画「Connecting America:

The National Broadband Plan(NBP)」を議会に提出した。NBP はオバマ政権

(当時)が唱える「すべての米国人に 21 世紀のブロードバンドへのアクセスを」

という理念を実現すべく、経済刺激策として 2009 年 2 月に施行された米国再生・

再投資法の規定により策定されたもの。

無線通信分野における NBP の目標は「米国が、世界最速かつ世界で最も規模

の大きな無線網を持ち、モバイル・イノベーションで世界一となること」で、こ

の目標を実現するために、計画書の第 5 章で周波数管理の方策として以下を挙げ

ている。

①周波数の割当て及び利用に関して一層の透明性を確保

・FCC は、周波数の利用状況を明らかにする「周波数ダッシュボード」を創設

し、改善を続けていくべき。

・FCC と NTIA は、周波数の利用状況について測定する手法を作成すべき。

・FCC は、3 年ごとの周波数割当に関する評価を含む、現行の戦略的周波数計

画を維持すべき。

②周波数の再分配又は利用目的の再設定のためのインセンティブとそのメカニ

ズムの整備

・議会は、既存の免許人が周波数にかかわる権利を他者又は FCC に譲り渡す

ことを促進するインセンティブ・オークションを、FCC が行うことができるよう、

FCC の権限の明確な拡大を考慮すべき。インセンティブ・オークションとは、既

存免許人が周波数割当にかかわる権利を返上し、当該周波数帯域のオークション

収益の一部を受け取るスキームを指す。

・議会は、2004 年「商用周波数拡大法」(Commercial Spectrum Enhancement

Act:CSEA)の成功を踏まえ、既存の割当ての再配置を可能とする新たなアプロー

チへの財政支援の創設について考慮すべき。

・議会は、FCC に対して免許人に電波使用料(spectrum license usage fees)

を、NTIA に対して政府利用人に使用料を課す権限を認めることを考慮すべき。

・FCC は、未利用及び低利用の周波数へのアクセスを促進するため、二次市場

に関する政策及び規則について、その効果を評価すべき。

③10 年以内にブロードバンド向けにより多くの周波数を利用可能とする

・FCC は、今後 10 年以内にブロードバンド向けに新たに 500MHz を利用可能

とすべき。そのうち、225MHz 帯と 3.7GHz 帯の間の 300MHz を、5 年以内にモ

バイル向けに利用可能とすべき。

米 国

64

・FCC は、隣接する政府・非政府の航空移動テレメトリ(AMT)及び衛星ラジ

オ向け利用を保護しつつ、2.3GHz 帯のワイヤレス通信サービス(WCS)向け周

波数のうち 20MHz を、モバイル・ブロードバンド向けに利用可能とすべき。

・FCC は、700MHz 帯 D ブロックを、公共安全ブロードバンド・サービスと共

用できる商用向けにオークションすべき。

・FCC は、可能であれば、連邦向けに配分された 20MHz を含めた 60MHz ま

でを高度無線サービス(AWS)向けとしてオークションにより利用可能とすべき。

・FCC は、移動衛星サービス(MSS)向けの 90MHz 幅について地上局の設置

が促進されるようにすべき。

・FCC は、テレビ放送向け周波数から 120MHz を再分配するための規則制定

手続に着手すべき。

④ポイント・ツー・ポイント向けのワイヤレス・バックホール・サービスの柔

軟性、容量、費用効率性の増大

・FCC は、共用可能なポイント・ツー・ポイントのマイクロ波サービス間の周

波数共用の拡大を可能とするため、FCC 規則 74 部、78 部及び 101 部を改正すべ

き。

・FCC は、ワイヤレスのバックホールの設置における柔軟性と費用効率性を高

めるため、FCC 規則を改正すべき。

⑤革新的な周波数アクセスモデルに関する機会の拡大

・FCC は、今後 10 年以内に、新しい、切れ目ない全国規模の周波数帯を免許

不要での利用向けに開放すべき。

・FCC は、テレビ・ホワイトスペースにかかわる手続について、早急に結論を

得るべき。

・FCC は、その他より多くの周波数上で、動的な空きチャンネルの機会利用に

ついて開発及び導入を促すべき。

・FCC は、周波数アクセスの技術を発展させる研究開発を強化するための手続

を開始すべき。

⑥米国の周波数政策をより包括的にするための、更なるステップ

・FCC 及び NTIA は、モバイル及び固定ブロードバンド向けに、独占/共用、

免許/免許不要に基づき利用可能な周波数候補について、連邦と非連邦の周波数

から識別するためのロードマップを作成すべき。

・FCC は、国際電気通信連合( ITU)内で、国際的なブロードバンド・サービ

スを可能とする国際周波数分配に対し、様々な無線通信サービスの融合について

考慮しつつ、革新的で柔軟なアプローチを促進すべき。

・FCC は、この章の勧告を実行する際には、米国の部族コミュニティにおける

特殊な周波数需要を考慮すべき。

米 国

65

2010 年 4 月に FCC は NBP に沿った周波数管理分野での 2010 年の具体的な

アジェンダ「2010 ブロードバンド・アクション・アジェンダ」を発表した。「世

界最高のモバイル・ブロードバンド基盤の構築とイノベーションの促進」を目的

に、次の表に示す具体的な作業項目が挙げられた。

案件 内容

(1)2.3GHz

WCS/SDARS(命令)

隣接帯の既存事業者による利用を保護しつつ、2.3GHz

WCS帯から20MHzを無線ブロードバンド利用に割り

当てるため技術規則を改正。

(2)Dブロック

(命令/NPRM)

700MHz高帯域Dブロックの周波数10MHzのオーク

ションを2011年に実施するための道筋を付けるため、

命令及びNPRMを採択。

(3)MSS(NPRM) MSS向けの90MHzで、地上ブロードバンドの整備を促

すための規則を提案。

(4)テレビ放送用周

波数イノベーション

(NPRM)

自由な地上放送を維持し、干渉を防止し、多様なメ

ディア所有規制を確保しつつ、テレビ放送用周波数の

革新的な利用を促進し、その価値を最大化するための

コメントを募集。

(5)AWS帯の分析及

び潜在性(命令)

・現在連邦政府が利用している1.7GHzがAWS-3帯

20MHzと組み合わせて運用できるかどうかについて、

NTIAと調整。

・連邦政府の周波数の再分配が難しい場合は、AWS-3

帯単独でのオークションを2011年Q2に行うための規

則を提案。

(6)テレビ・ホワイ

トスペース再考及び

データベース意見(意

見及び命令)

他の周波数利用者を妨害することなく、テレビチャン

ネルの「ホワイトスペース」にアクセスする機器の導

入を促進するため、最終規則を完成し、データベース

管理者を選定。

(7)免許不要での利

用向けの連続した周波

数帯の配分

・免許不要で利用可能な周波数の候補に関する初期ア

イデアを収集するための関係者の会議を開催。

・今後10年以内に全国規模で連続した周波数帯を新た

に開放するための勧告を作成。

(8)機会利用型の動

的な周波数の利用

(NPRM)

FCCが有する周波数帯(オークション不落札帯等)で

他の利用も可能なスマート無線を利用可能とするため

の規則を提案。

米 国

66

(9)実験局免許

(NPRM)

より柔軟な実験局免許規則を確立するため、規則を提

案。

(10)無線ローミン

(命令及びFNRPM)

・音声サービスにおいて、合理的な自動ローミングを

確保するための規則を採択。

・無線ブロードバンド・サービスにおけるローミング

に関するコメントを募集。

(11)周波数共用及

び無線バックホール

(NPRM及びNOI)

・ポイント・ツー・ポイントのマイクロ波サービス間

の周波数共用の拡大を可能とする規則を提案。

・無線のバックホール設置の柔軟性を高めるための規

則を提案。

(12)二次市場内部

レビュー

既存免許人から第三者へ免許を移転、リースする等、

二次市場を利用するに当たっての障壁について内部分

析を実施。その成果は2011年に更なるアクションが必

要かどうかの判断に活用。

(13)周波数ダッシュ

ボード2.0

FCCが2010年3月に立ち上げた周波数ダッシュボード

のベータ版を改善。

(14)戦略的周波数

計画及び3年ごとの評

・NTIAと調整のうえ、国家ブロードバンド計画第5章

(「周波数」)に記された戦略的計画の継続的なアッ

プデートを開始。

・周波数の供給、利用、需要に関する分析を3年ごと

に実施するための準備を開始。

注:NOI;調査告示、NPRM;規則提案・制定公示、FNPRM;規則提案・制定追加公示

出所:「2010 ブロードバンド・アクション・アジェンダ(FCC)」

(2)「2012 年中間層課税控除及び雇用創出法」

2012 年 2 月 22 日、「2012 年中間層課税控除及び雇用創出法(The Middle Class

Tax Relief and Job Creation Act of 2012)」(Public Law No.112-96)が米国議

会で成立した。本法は、第Ⅰ編「所得減税の延長」、第Ⅱ編「失業給付の継続」、

第Ⅲ編「メディケアの延長」、第Ⅳ編「貧困家庭向け一時援助金プログラムの延長」、

第Ⅴ編「連邦職員の退職」、第Ⅵ編「公共安全通信と周波数オークション」の全 6

編で構成されるが、その大半を第Ⅵ編が占めていることから、別名「電波法」と

も称されている。

第Ⅵ編には、公共安全用周波数の再編、全国公共安全ブロードバンド網の構築、

FCC のオークション実施権限の 2022 年までの延長、次世代 9-1-1 サービスの導

入、連邦政府用周波数の再編などの規定が盛り込まれている。

米 国

67

公共安全通信を巡っては、米国の第一応答者及びその他公共安全職員が使用す

るための、管轄区域を超えた相互運用可能な最先端のブロードバンド全国網を構

築するため、独立機関としての「第一応答者ネットワーク庁」(First Responder

Network Authority:FirstNet)の創設と、FirstNet による相互接続可能な単一

の全国公共安全ブロードバンド網(Nationwide Public Safety Broadband Net-

work:NPSBN)の建設が、NITA に対して指示された。これに伴って、公共安全

用の周波数配分が、以下のように規定された。

・FCC は、本法律の規定に従って、公共安全機関が使用する 700MHz 帯 D ブ

ロック(758-763/788-793MHz)の再割当を行う。

・ナローバンド周波数(769-775/799-805MHz)を、FCC が定める技術的な干

渉保護要件に従うことを条件に、公共安全ブロードバンド通信の利用を含め、柔

軟な方法で利用することを認める。

・本法律の制定から 9 年以内に、FCC は、CFR 第 47 編第 90.303 が定める公

共安全適格者が、現在使用している 470-512MHz 帯(通称、T-Band 周波数)の

周波数を再編し、T-Band 周波数の新たな免許付与のための競争入札システムの

策定に着手する。競争入札から得られる、落札者が支払うデポジットや前金支払

額は、公共安全機関が T-Band 周波数から移転するための移転費用を満たさなけ

ればならない。また、競争入札が終了してから 2 年以内に、周波数移転を完了し

なければならない。

FCC は、700MHz 帯 D ブロックと、既存の公共安全ブロードバンド周波数(763-

768/793-798MHz)の合計 20MHz(758-768/788-798MHz)を、FirstNet に対し

て、単一免許として付与する。本免許の最初の免許期間は 10 年間で、FirstNet

は免許が切れる前に、FCC に対して免許の更新を申請することができ、更新期間

は 10 年を超えない期間となっている。

NPSBN 構築に必要な初期費用として 70 億 USD の財源が確保され、その原資

として周波数オークションの収入が充当される。オークションを実施するために

新たに確保することが規定された帯域は以下のとおりで、地上デジタルテレビ放

送の周波数再編に伴い開放される予定の 600MHz 帯では、①リバース・オーク

ション、②テレビチャンネルのリパッキング、③フォワード・オークション、で

構成されるインセンティブ・オークションの実施が規定されている。

・連邦政府が使用している 1675-1710MHz のうちの 15MHz 幅

・商用の 1915-1920MHz、1995-2000MHz 及び 2155-2180MHz

・FCC が特定する連続した 50MHz 幅

・地上デジタルテレビ放送が使用している 600MHz 帯

オークション収入は財務省が設立する「周波数再編基金(Spectrum Relocation

Fund)」「公共安全信託基金(Public Safety Trust Fund)」「テレビ放送再編基金

米 国

68

(TV Broadcaster Relocation Fund)」に繰り入れられる。周波数再編基金は、

AWS-3 の既存の連邦免許人の移転費用等に充当される。公共安全信託基金は、

FirstNet による NPSBN 構築費用のほか、公共安全網の研究開発資金や、緊急通

話(9-1-1、E9-1-1 及び次世代 9-1-1)導入の補助金、財政赤字削減などに充当さ

れる。テレビ放送再編基金は、インセンティブ・オークションによって放送を廃

止する事業者への補償や、UHF 帯から VHF 帯にチャンネル変更(リパッキング)

するための移行費用などに充当され、残金が生じた場合には財政赤字削減目的の

みに使用される。

その他、第Ⅵ編が定める周波数管理に関する主な規定は以下のとおり。

・5GHz 帯の免許不要帯域の拡大

- FCC は 本 法 施 行 後 1 年 以 内 に 、 5350-5470MHz で の 免 許 不 要 機 器

(Unlicensed National Information Infrastructure:U-NII)の利用を認めるた

めに「FCC 規則」15 部を改正する。

-NTIA は、国防総省やその他関係省庁と協議し、5350-5470MHz 及び 5850-

5925MHz で U-NII 機器が使用される場合に連邦政府ユーザに影響を及ぼすリス

クや周波数共用技術の評価検討を実施する。

・受信機性能と周波数効率の向上に関する研究における会計検査院(General

Accounting Office:GAO)の責務

-周波数効率を高めるための受信機性能の向上、隣接周波数のサービス運用の

向上及び隣接帯域間のガードバンドの縮小化に関する研究を実施する。

-送信システム及び隣接周波数の使用に関して、製造メーカー、商用免許人及

び政府ユーザの役割について検討する。

-隣接周波数の合理的な使用と、送信システムの設計と運用要件に関する、業

界の自主基準の実行可能性について検討する。

-互いに隣接する周波数の一部の合理的な利用に関して、非連邦政府及び連邦

政府の利用にかかわる技術条件や技術標準を策定するための FCC 等の措置を評

価する。

・11GHz、18GHz 及び 23GHz 帯の有効利用に関する検討

-FCC は、本法施行後 9 か月以内に、下院エネルギー・商務委員会及び上院商

務・科学・交通委員会に対して、10700-11700MHz、17700-19700MHz 及び 21200-

23600MHz における拒否率(rejection rate)を報告する。拒否率とは、当該帯域

の公衆電気通信事業者による使用申請が、利用可能な帯域の不足や既存免許人へ

の干渉影響を理由に、認められなかった件数ないし割合。

-GAO は、公衆電気通信事業者が当該帯域を使用する需要の高いエリアにおい

て、市場原理を用いて配分するかどうかを評価し、有効利用に向けた適切なイン

センティブの提供と、「通信法」第 309 条( j)に基づく競争入札による当該帯域

米 国

69

の収入を極大化することを保証する。

(3)PCAST 勧告書

大統領科学技術諮問委員会(President’s Council of Advisors on Science and

Technology:PCAST)は 2012 年 7 月、連邦政府用周波数の開放に関する勧告書

(「Realizing the Full Potential of Government-held Spectrum to Spur Eco-

nomic Growth」)(以下、PCAST 勧告書) をオバマ大統領(当時)に提出した。

連邦政府が使用している周波数を民間に明け渡すのは、高コストで実行に移すの

に時間を要し、かつ連邦政府の業務を中断させることから、長期的に見れば相応

しい周波数政策とはいえないと判断し、連邦政府が使っている周波数から、官民

が共同で利用可能な帯域を 1000MHz 幅(“周波数スーパーハイウェイ”)創出す

ることを提案した。

PCAST は、連邦政府の共用帯域へのアクセスをすべてのユーザに適用するた

め、帯域ごとに利用者の使用登録及び使用条件に関する情報を管理する「連邦周

波数アクセスシステム(Federal Spectrum Access System:SAS)」を新設するこ

とを勧告した。SAS は、政府機関が直接運用するか又は認可された商用プロバイ

ダを通じて導入することが可能である。SAS の導入によって、連邦政府の運用を

干渉から保護する一方で、非連邦政府ユーザの連邦帯域での未使用周波数へのア

クセスを認めることが可能となる。

連邦政府用周波数の官民共用は、三つの階層構造に基づいて管理され、すべて

の連邦政府機関はこれらの共用アクセスの実行に協力することが求められる。連

邦政府の一次業務システム(Primary Access)は、最も優先度が高く、有害な干

渉から完全に保護される。二次業務の免許人(Secondary Access)は、地理位置

データベースに無線局の置局データと使用状況を登録し、「電波利用料( fee for

spectrum use)」と引き換えに、サービス品質の保護を受けることができる。一般

認可アクセス(General Authorized Access:GAA)ユーザは、連邦政府の一次業

務や、二次業務のユーザが、特定の地理的エリアや時間帯において所与の周波数

帯を使用していない限りにおいて、未使用周波数への機会利用型アクセス

(opportunistic access)が認められる。GAA は低出力利用となるため、周波数

を使用するための免許は不要となるものの、SAS への登録が義務付けられる。

PCAST は、周波数共用を連邦政府機関に促すために、インセンティブを与える

メカニズムの構築を提案し、連邦政府用周波数資源の機会費用(連邦政府用周波

数を民間に使用させることによって得られるであろう利益)を確実に得る必要が

あるとしている。また、連邦政府の周波数移転費用の原資となっている現行の周

波数再編基金(Spectrum Relocation Fund)を周波数有効利用基金(Spectrum

Efficiency Fund)として再定義し、民間セクターから徴収した電波手数料収入を

プールし、連邦政府機関が進める周波数共用や周波数効率向上のための必要な投

米 国

70

資に充当することを勧告した。

(4)連邦政府用周波数の見直し

NBP の議会への提出後の 2010 年 6 月、オバマ大統領(当時)は、米国の国際

市場における競争力、技術的リーダーシップは、ブロードバンド用に周波数を確

保できるかどうかにかかっているとし、今後 10 年間で連邦政府と民間セクター

が現在保有している周波数から、新たに 500MHz 分を商業無線通信用として確保

する目標を掲げる大統領覚書に署名した。本覚書では、連邦省庁が返還可能な周

波数を検討するため NTIA と協力することが指示されたほか、周波数共用技術に

ついて NTIA と連邦省庁が協議することや、一部周波数を Wi-Fi 利用などのため

に無料かつ免許不要で利用できるようにすることも指示された。このために、連

邦政府用周波数の再編を進める目的で、周波数を利用する連邦政府各機関が参加

する検討グループ(Policy and Plans Steering Group:PPSG)を活用すること

が指示された。また、2013 年 6 月には、無線ブロードバンドと技術革新を後押し

するイニシアチブに関する大統領覚書にオバマ大統領(当時)が署名し、連邦政

府に割り当てられる周波数を民間と共用することを推進する等が盛り込まれた。

NTIA は 2010 年 10 月、オバマ大統領(当時)の指示を受けて、早急に開放が

可能な連邦政府用周波数を明らかにする作業に着手、今後 10 年間で 500MHz 幅

を新たに確保するための工程表を策定し、その候補対象となる官民周波数

2200MHz 幅を特定した(「無線ブロードバンド周波数 500MHz 創出計画・工程表

(Plan and Timetable to Make Available 500 Megahertz of Spectrum for Wire-

less Broadband)」)。NTIA は、2010 年 10 月に第 1 次検討の結果として、5 年以

内に合計 115MHz の開放が可能であることをオバマ大統領(当時)に報告した。

NTIA が 2016 年 6 月 17 日に発表した、最新の検討結果(「第 6 次中間進捗報

告書(Sixth Interim Progress Report on the Ten-Year Plan and Timetable)」)

によると、2014 年 9 月から 2015 年 9 月の間に、合計で最大 245MHz 幅が、商

用無線ブロードバンド・サービス向けの周波数として利用可能となった。このう

ち 140MHz は連邦政府帯域又は非連邦政府との共用帯域から、105MHz は非連邦

政府帯域から新たに確保された。その後、2017 年 3 月にインセンティブ・オーク

ションが完了し、512-698MHz から 84MHz 幅が確保された。

NTIA による新たな周波数の確保の状況(2016 年 6 月の第 6 次中間報告書)

周波数 割当済みの

周波数

割当中の

周波数

検討中の

周波数

検討が見込

まれている

周波数

米 国

71

2305-2320MHz、

2345-2360MHz(注

1)

30MHz

1915-1920MHz、

1995-2000MHz(注

2)

10MHz

2000-2020MHz、

2180-2200MHz(注

3)

40MHz

1695-1710MHz

1755-1780MHz

2155-2180MHz(注

4)

65MHz

3550-3650MHz(注

5) 100MHz

512-698MHz(注 6)

84MHz

(2017 年 3

月)

1675-1680MHz 5MHz

2020-2025MHz 5MHz

5350-5470MHz(注

7) 120MHz

5850-5925MHz(注

8) 75MHz

1300-1390MHz 90MHz

1680-1695MHz 15MHz

2700-2900MHz(注

9) 200MHz

米 国

72

2900-3100MHz(注

10) 200MHz

3100-3550MHz(注

11) 450MHz

合計 245MHz 42-126MHz 205MHz 955MHz

(注 1) 2.3GHz 帯(2320-2345MHz)を使用する衛星デジタル音声ラジオ放送

(Satellite Digital Audio Radio Service:SDARS)の地上ギャップフィラーとの混信問題

のために利用が進んでいなかったワイヤレス通信サービス(Wireless Communications Ser-

vice:WCS)の帯域(2305-2320/2345-2360MHz)の技術的条件が変更され、FDD-LTE の

導入が可能となった(2012 年 10 月)。当該帯域のほとんどは AT&T が保有している。

(注 2) 1900MHz 帯 H ブロック(1915-1920/1995-2000MHz)のオークションは

2014 年 2 月に実施され、American H block Wireless(ディッシュ・ネットーワークがオー

クションに参加するために創設した会社)が 176 件の免許すべてを、最低落札価格の 15 億

6,400 万 USD で落札した。

(注 3) 2000-2020/2180-2200MHz(AWS-4)は、移動衛星サービス(Mobile Satel-

lite Service:MSS)から高度無線サービス(Advanced Wireless Service:AWS)に用途が

変更されたもので(2012 年 12 月)、ディッシュ・ネットワークが当該帯域の免許を保有し

ている。

(注 4) 1695-1710MHz(アンペアバンド)及び 1755-1780/2155-2180MHz(ペアバ

ンド)の合計 65MHz 幅で構成される AWS-3 オークションが 2015 年 1 月に実施され、落札

総額は米国オークション史上最高額の 448 億 9,900 万 USD を記録した。上位落札者はベラ

イゾン、AT&T、ディッシュ・ネットワーク、次いで T-モバイル US。

(注 5) 海軍レーダー等との共用ベースでの無線ブロードバンド用途として、

3550MHz から 3700MHz までの 150MHz 幅を、市民ブロードバンド無線サービス(Citi-

zens Broadband Radio Service:CBRS)に割当て(2015 年 4 月)。

(注 6) 地上テレビ放送事業者から周波数を回収するリバース・オークションと、回

収した周波数を競売にかけるフォワード・オークションで構成されるインセンティブ・オー

クションが、2016 年 5 月から 2017 年 3 まで実施。合計 84MHz 幅をテレビ放送事業者から

回収し、そのうちの 70MHz 幅がフォワード・オークションにかけられ、約 200 億 USD で

落札された。

(注 7) 5GHz 帯の免許不要全国情報インフラストラクチャ(Unlicensed National

Information Infrastructure:U-NII)の U-NII-2B として割当てを検討中。

(注 8) 1999 年から車両間通信の DSRC(Dedicated Short Range Communica-

tions)に割り当てられていた帯域を、Wi-Fi と共用することを検討中。

(注 9) 既存業務は航空管制や気象レーダー。

米 国

73

(注 10) 沿岸警備隊の海上レーダーが使用する帯域で、干渉保護基準( Interference

Protection Criteria: IPC)や干渉軽減技術に関する技術報告書(NTIA Report TR-15-

513)が発表(2015 年 4 月)。

(注 11) 既存業務は国防総省レーダー。

(5)新たな周波数の確保

2018 年 3 月 23 日に成立した「2018 年度包括歳出法(PL115-141)」の第 P 部

「2018 年レイバーム法(Repack Airwaves Yielding Better Access for Users of

Modern Services Act of 2018: RAY BAUM’S ACT OF 2018)」の第 6 編「モバ

イルナウ法(Making Opportunities for Broadband Investment and Limiting

Excessive and Needless Obstacles to Wireless Act: MOBILE NOW Act)」では、

移動及び固定の無線ブロードバンド利用のために、連邦政府及び非連邦政府の周

波数から合計で最低 255MHz 幅を特定することが規定されている。そのうち

100MHz 幅は 8000MHz 以下で免許不要で、6000MHz 以下で特定された 100MHz

幅は免許制で、残る 55MHz 幅は 8000MHz 以下から特定し免許制、免許不要、

又は両者の組合せで利用できるようにする。

また、トランプ政権では、2018 年 10 月 25 日に、アメリカの未来のための持

続可能な電波戦略の開発に関する覚書が、トランプ大統領の署名によって発効し

た。これは 2010 年 6 月と 2013 年 6 月にオバマ大統領(当時)が署名した覚書を

廃止して、新たな国家周波数戦略を策定するもの。現在使用されていない連邦政

府用周波数を民間セクターに開放するための国家戦略を策定することで、高速無

線データ・ネットワークへの投資を促進することを連邦省庁に指示する覚書と

なっている。覚書の日付から 270 日以内に、NTIA は、OMB、OSTP、FCC、そ

の他連邦政府機関と協議し、国家経済評議会、国家安全保障問題担当大統領補佐

官を通じて、長期的な国家周波数戦略(立法、規制、その他政策勧告を含む)を

大統領に提出しなければならない。これを受けて NTIA は 2018 年 12 月 20 日、

周波数のアクセス拡大、共用体制の改善、周波数管理の拡大、研究開発の活用な

どを含む、アメリカの将来の持続可能な周波数戦略の策定に関する意見募集

(Request for Comments:RFC)の開始を発表した。

3 周波数オークション

(1)1900MHz 帯 H ブロック

FCC は、1900MHz 帯 H ブロック(上り回線 1915-1920MHz/下り回線 1995-

2000MHz)のオークションを 2014 年 1 月 22 日に開始し、同年 2 月 27 日に完了

した。オークションに参加したのは 34 社であったが、最終的にアメリカン H ブ

ロック・ワイヤレス(ディッシュ・ネットワークがオークションに参加するため

に創設した会社)が 176 件の免許すべてを、最低落札価格の 15 億 6,400 万 USD

米 国

74

で落札した。ディッシュ・ネットワークは、H ブロックに隣接する周波数(AWS-

4:2000-2020/2180-2200MHz)を持っており、その周波数の技術的条件を一部免

除することを条件に、FCC に対して 15 億 6,400 万 USD を最低落札総額とする

ことを保証し、FCC も同意していた。

(2)AWS-3(1.7/2.1GHz)

①オークション結果

1695-1710MHz(アンペアバンド:15MHz)及び 1755-1780/2155-2180MHz(ペ

アバンド:25MHz×2)の合計 65MHz 幅で構成される AWS-3 オークションは、

2014 年 11 月 13 日に開始された。免許は地域単位でオークションにかけられ、

六つある周波数ブロックのうちの G ブロックは、小規模事業者向けの免許として

割り当てることを想定し、セルラー・マーケット・エリア(Cellular Market Area:

CMA)免許として 734 件の地域免許が入札にかけられた。

AWS-3 オークションは 45 日間にわたり 341 ラウンド実施され、2015 年 1 月

29 日に終了した。1,614 件の免許に 70 社が入札に参加し、31 社が 1,611 免許を

落札した。売れ残った免許はわずか 3 免許であった。落札総額は 448 億 9,900 万

USD(指定事業者に対する割引適用後のオークション収入額は 413 億 2,900 万

USD)で、最低落札総額 105 億 8,700 万 USD を大きく上回り、2008 年に実施さ

れた 700MHz 帯オークションの落札総額 191 億 USD を倍以上も上回る過去最高

額を記録した。また、人口一人当たりの 1MHz の平均単価は 2.16USD であった

が、ペアバンドについては 2.65 USD となり、特に J ブロックでは 2.84USD と

高騰した。

AWS-3 のバンドプラン及びブロック別の落札総額と人口一人当たりの 1MHz 単

ブロック

周波数

(上り/下

り運用)

帯域幅

免許

地域

区分

免許

件数

落札総額(USD)

(全体に占める割

合)

人口一人当たり

の1MHz単価

(MHz/POP)

(USD)

A1

1695-

1700MHz

(上り)

5MHz

×1 EA* 176

172,598,700

(0.4%) 0.108

B1

1700-

1710MHz

(上り)

10MHz

×1 EA 176

2,264,873,400

(5%) 0.707

米 国

75

G

1755-1760/

2155-

2160MHz

5MHz

×2 CMA* 734

7,411,721,500

(16.5%) 2.314

H

1760-1765/

2160-

2165MHz

5MHz

×2 EA 176

8,446,974,000

(18.8%) 2.638

I

1765-1770/

2165-

2170MHz

5MHz

×2 EA 176

8,402,420,000

(18.7%) 2.624

J

1770-1780/

2170-

2180MHz

10MHz

×2 EA 176

18,200,864,000

(40.5%) 2.842

* EA:Economic Area、CMA:Cellular Market Area

出所:http://wireless.fcc.gov/services/aws/data/AWS3bandplan.pdf 等

AWS-3 オークションの上位落札者の概況

上位落札者 入札者名 落札総額(USD) 落札免許

件数

人口一人当たりの

1MHz 単価

(MHz/POP)

(USD)

AT&T

AT&T Wire-

less Services

3 LLC

18,189,285,000 251 2.88

ベライゾ

ン・

ワイヤレス

Cellco Part-

nership

d/b/a Veri-

zon Wireless

10,430,017,000 181 2.92

ディッ

シュ・ネッ

トワーク*

Northstar

Wireless、

SNR Wire-

less Licen-

seCo

13,327,423,700 702 1.68

T-モバイル

US

T-Mobile

License LLC 1,774,023,000 157 1.63

米 国

76

その他すべての落札者

(U.S. Cellular、John A.

Dooley and TerreStar and

Jarvinian、America Mo-

bil and Carlos Slim Fam-

ily、William M. Mounger

II、Francis J. DiRico、

Joseph Sofio等)

 941,000,000

(全体の

2.27%)

320 -

合計 44,661,748,700 1,611 2.16

*ディッシュ・ネットワークが資本参加している入札者(Northstar Wireless 及び

SNR Wireless)が、指定事業体(Designated Entities:DE)資格を得ているため、落札総

額から 25%の割引が適用される。そのため、実際の支払総額は 99 億 9,556 万 7,775 USD

となる。

出所:http://transition.fcc.gov/Daily_Releases/Daily_Business/2015/db0130/DA -15-

131A3.pdf 等

②ディッシュ・ネットワーク傘下企業の免許返上

今回の AWS-3 オークションにおいて、ディッシュ・ネットワークは、共同入札

協定( joint bidding arrangements)に基づいて、DE 資格を得た傘下企業を利用

して、協調行動により価格をつり上げた可能性が高いとの批判にさらされていた。

FCC 規則では、入札者が事前に情報開示する限り、協調行動をすることが認めら

れている。ディッシュ・ネットワークはオークションに先立ち、DE 資格を得た

Northstar 及び SNR Wireless との共同入札協定の内容について事前に情報開示

していたし、これら 2 社の資本構成は DE 規則に従って FCC 承認を得たもので、

何ら問題はないと主張していた。実際、ディッシュ・ネットワークは、Northstar

及び SNR Wireless それぞれについて、85%の経済的利益持分(economic interest)

を保有しているものの、支配的株式持分( controlling interest)は全く保有して

いない。また、Northstar については、アメリカ先住民が所有するアラスカの企

業である Doyon が支配持分を保有している。つまり、ディッシュ・ネットワーク

の持分は、DE 規則で定める議決権株式 50%以上の保有には該当せず、法律上の

支配には当たらないことから、ディッシュ・ネットワークと Northstar 及び SNR

Wireless との間には「帰属持分」を巡る支配関係はないと判断され、これら 2 社

に対して DE 資格が付与された。

FCC は 2015 年 4 月より、AWS-3 落札者への免許付与を順次実施していたが、

ディッシュ・ネットワークが過半数の株式を所有している Northstar 及び SNR

米 国

77

Wireless に対しては、DE 資格制度を不当に利用して割引適用を受けようとした

との批判があったことから、免許付与が留保。FCC は、FCC スタッフ分析を踏ま

え、2015 年 8 月、ディッシュ・ネットワークが Northstar 及び SNR Wireless の

財政の大半を支援し、かつ、両社の無線ネットワークの構築・運営を請け負って

いたことから、ディッシュ・ネットワークが両社の経営権を握っていると判断、

DE 資格を満たしていないとし、25%の割引適用申請(Northstar の割引額 19 億

USD、SNR Wireless の割引額 14 億 USD)を却下した。本却下を受けて Northstar

及び SNR Wireless は、2015 年 10 月、落札した AWS-3 免許のうち約 35 億 USD

分を返還し、残りの約 98 億 USD 分の免許は維持する。

Northstar 及び SNR Wireless が返還した AWS-3 免許は再オークションにかけ

られる予定で、落札額が前回を下回った場合は両社が差額を負担しなければなら

ないが、ディッシュ・ネットワークがその差額を保障するとも伝えられている。

なお、Northstar 及び SNR Wireless は、割引適用を却下した FCC の決定を不服

として連邦控訴裁に上告、2018 年 6 月には入札クレジットの適用を受けるため

にディッシュ・ネットワークとの改訂契約に基づき AWS-3 オークション申請の

修正を FCC に提出した。

③周波数共用条件

AWS-3 の一部は、1.7GHz を使用する既存の連邦政府ユーザが別帯域に移転す

ることが条件となるが、移転できない連邦政府ユーザが同帯域にとどまる場合は、

事前の周波数使用調整等、連邦政府ユーザを保護しつつ共用ベースで利用が可能

となる。また、周波数移転や周波数共用に必要なコストは、連邦政府ユーザの場

合はオークション収入で賄われ、商用ユーザの場合は新たな免許人が負担する。

既存ユーザに対する帯域ごとの主な保護措置は次の表のとおり。

帯域 官民の既存ユーザの保護

1695-1710

MHz

既存ユーザ 連邦政府の気象観測衛星地球局レシーバー(47

基)

事前調整

27か所の「プロテクション・ゾーン」内で、移動又

はポータブル局の通信を管理する基地局は、運用開

始前に、既存ユーザと事前の調整が必要

1755-1780

MHz 既存ユーザ

国防総省の小型無人航空システム、戦術目標捕捉

ネットワーク技術等や、その他省庁のビデオ監視シ

ステム等

米 国

78

1755-1780

MHz

周波数移転

既存ユーザは、1780-1850MHzの連邦政府帯や、

2025-2110MHzの商用帯(Broadcast Auxiliary

Service(BAS)等が主に使用)への移転が想定さ

れているが、これら帯域に収容できない一部ユーザ

は引き続きとどまる見込み

費用負担

「移転計画」で承認された移転費用は、「商用周波

数拡大法」が設置した「周波数再編基金」によって

賄われ、AWS-3オークション収入が充当される

2155-2180

MHz

既存ユーザ 2110-2180MHzで運用する商用の固定マイクロ波免

許人及びブロードバンド無線サービス免許人

事前調整

固定又は基地局により運用を開始するすべてのAWS

免許人は、同一又は隣接するチャンネルを用いる既

存ユーザとの周波数使用の調整が必要

費用負担 既存ユーザの保護措置に要する共用又は移転にかか

わる費用は、AWS免許人が負担

出所:http://transition.fcc.gov/Daily_Releases/Daily_Business/2014/db0401/FCC-14-

31A1.pdf

(3)600MHz 帯

2014 年 5 月 15 日、FCC は UHF 帯の周波数について、テレビ放送からモバイ

ル・ブロードバンド等の移動体通信への利用移行を促すための「インセンティブ・

オークション」の規則を採択し、同年 6 月 2 日に規則制定文書を公表した。これ

により、同オークション実施方法の大枠が確定した。

インセンティブ・オークションは、次の三つのプロセスを一体的に実行し、テ

レビ放送からモバイル・ブロードバンド等の移動体通信への周波数再割当を実現

するもの。

①リバース・オークション:リバース・オークションに先立ち、初期価格を FCC

が公示し、その価格にて各放送局が周波数を返上する意思があるかどうかを集計

する(オークション参加申請手続)。それを基に FCC がリバース・オークション

において目標とする周波数開放量を設定する。オークション・プロセスでは、FCC

が放送局に周波数返上の対価を提示し、放送局が返上の可否の意思表示をする。

放送局は周波数返上に際して、①放送を廃止する、②VHF 帯へ移行する、③他社

とチャンネルを共用する、の三つの選択肢がある。全放送局からの合計の返上周

波数量が開放目標を上回っている間は、提示価格を段階的に下げていき(これに

より周波数返上希望者が減少する)、それ以下に価格を下げると周波数の開放目

米 国

79

標が達成できなくなる時点で周波数返上者が決定される。

②リパッキング:リバース・オークション後、UHF 帯の放送を継続する放送局

の利用チャンネルを必要に応じて変更し、移動体通信用のまとまった周波数ブ

ロックを確保する。リパッキングにより周波数変更を求められるテレビ局に対し

ては、フォワード・オークションによる収益の中から 17 億 5,000 万 USD を全体

の上限として移行費用が補償される。ただし、補償される費用の詳細は FCC が個

別に査定する。

③フォワード・オークション:周波数再編後、移動体通信向けに上下 5MHz ず

つのペアバンドを基本単位として合計 20-120MHz を確保し、全国を 416 区域に

分けて周波数を割り当ててオークションを実施する。再編後のバンドプランは全

国共通となるよう最大限努めるものの、一部地域において移動体通信用の割当て

が少なくなる場合も許容する。各地域において開放された周波数量に基づき、フォ

ワード・オークションにかけられる周波数ブロック数(1 ブロックは上下各 5MHz

幅のペア)が決定される。フォワード・オークションにおいてはブロック当たり

の価格が提示され、参加者は提示価格において購入を希望するブロック数を応札

する。この時点では、どの周波数ブロックが割り当てられるかは決まっていない。

提示価格を段階的に引き上げていき(これにより購入希望数が減少する)、購入希

望数が用意されたブロック数と一致した時点で落札者が決定する。この時点で収

益が一定の条件(1MHz 当たり及び人口当たり平均価格が事前に設定された価格

を上回ること、全体の収益が必要な費用を賄うに足ること)を満たすかどうかを

チェックし、満たされなかった場合は、リバース・オークションからやり直す(周

波数開放目標を引き下げる)。上記の条件が満たされた場合、落札者を対象として

どの周波数帯を獲得するかの追加入札を実施し、落札価格を決定する。

アップ/ダウンリンク間ギャップ(デュプレックス・ギャップ)は 11MHz、チャ

ンネル 37(電波天文等)とのガードバンドは 3MHz、放送帯とのガードバンドは

7-11MHz とし、合計 20-34MHz の周波数帯で免許不要局の運用を認める。また、

新たなテレビ放送周波数帯では、ワイヤレス・マイクとホワイトスペース機器が

共用するチャンネル(テレビ放送局には割り当てない)を各区域において設ける。

新しい 600MHz 帯での移動体通信サービスについて、電波出力等の技術条件

は、FCC 規則 27 部に規定されている 700MHz 帯の規則を流用し、機器価格の低

廉化、一体的サービスの展開を促進する。また、電気通信事業、自営網など用途

は自由とし、必要に応じて FCC 規則の該当ルールに従うこととしている。また、

地域によりバンドプランが異なる可能性を考慮して、端末には 600MHz 帯のどの

チャンネルでも対応が可能であることを義務付ける。免許期間は初期 12 年で、

更新時 10 年とする。免許付与から 6 年後までに各地域において人口の 40%、12

年後までに 75%に対してサービス展開することを義務付ける。免許付与から 6 年

米 国

80

間は、二次市場での取引について、モバイル周波数保有規則により制限が課され

る。

フォワード・オークションによる収入は、オークション実施により FCC に発生

した費用、周波数を返上する放送局への金銭的対価、放送継続局の周波数移行に

かかわる費用の補償、NPSBN の構築、公共安全通信網構築に向けた地方政府支

援プログラム、高度公共安全無線通信に関する研究開発、次世代 9-1-1 の展開費

用、国家予算赤字の補てんに充てられる。

FCC は、2014 年 12 月 17 日に最終的なオークション設計等に対する意見を求

める公告(FCC 14-191)を発出し、利害関係者の意見を踏まえて 2015 年 8 月 11

日に、インセンティブ・オークションの開始日を 2016 年 3 月 29 日とする一連の

手続規定を採択した(FCC 15-78)。周波数の回収目標は 42MHz から 144MHz の

間で、ブロック数(2×5MHz)は 2 ブロックから 12 ブロックを確保する方針で

ある。FCC が採択した入札開始価格算出方法では、地上放送事業者から周波数を

買い取る際のリバース・オークションの開始価格は最高で 9 億 USD(ニュー

ジャージー州のテレムンド系列局 WNJU)になる。

2016 年 5 月末から開始された第 1 段階のリバース・オークションでは、FCC

が目標としていた 126MHz 帯を確保したことを明らかにし、その価値は合計 864

億 2,000 万 USD にのぼると評価している。第 2 段階のフォワード・オークショ

ンでは、モバイルに利用可能な 1GHz 以下の周波数全体の 3 分の 1 以下しか保有

していない事業者向けに、最大 30MHz 幅のリザーブ周波数が確保されているも

のの、3 分の 1 以上を保有しているベライゾンと AT&T がリザーブ周波数に入札

できる地区が一部設定されている。フォワード・オークションへは、T-モバイル

US、AT&T、ベライゾン・ワイヤレス等の移動体通信事業者に加え、コムキャス

ト、ディッシュ・ネットワーク、シンクレア・ブロードキャスト・グループや地

方の事業者など 100 社以上が参加を表明している。2016 年 8 月、FCC はフォワー

ド・オークションの第 1 段階が 27 ラウンド目で終了し、落札総額が 231 億 803

万 USD にとどまり、放送事業者への支払金額に満たない結果となった。同年 10

月、FCC は第 2 回目のリバース・オークションを終えた。ここでは、対象となる

周波数は 126MHz から 114MHz に縮小され、それらに対してテレビ局側が求め

る金額も約 550 億 USD に引き下げられた。同月半ばに行われた第 2 回目のフォ

ワード・オークションでは第 1 ラウンドの入札額が第 1 回目の入札額を下回る結

果となり、早々に打ち切られた。

2016 年 11 月に行われた第 3 回目のリバース・オークションとフォーワード・

オークションでも、それぞれ入札額は 403 億 USD と 197 億 USD にとどまり、

不成立となった。同年 12 月に始まった第 4 回目のオークションでは、競売対象

が 84MHz まで縮小され、2017 年 1 月 13 日に終了し、買取り幅は 84MHz 幅で、

米 国

81

落札総額は 100 億 5,467 万 6,822USD となった。これに対し、同月 18 日に、移

動体通信事業者等が地上放送事業者の周波数に入札するフォワード・オークショ

ンの入札額が第 4 ラウンドで 100 億 USD を突破したことから、リバース・オー

クションが終了した。フォワード・オークションの獲得フェイズ(Clock Phase)

は 2017 年 2 月 10 日終了し、その落札総額は 196 億 USD に達した。3 月 6 日か

ら実施されていた割当フェーズ(Assignment Phase)の落札結果を加えると、

オークション収入総額は 197 億 6,843 万 7,378USD となった。このうち 100 億

5,467 万 6,822USD は、周波数を返還した地上放送事業者に支払われ、リパッキ

ングによってチャンネルを移動する地上放送事業者の補償に最大 17 億 5,000 万

USD が充てられる。また、60 億 USD 超は国の負債返済に充てられる。上位落札

事業者は、T-モバイル US(80 億 USD)、ディッシュ・ネットワーク(62 億 USD)、

コムキャスト(17 億 USD)となっている。

(4)3.5GHz 帯

FCC は、PCAST の勧告に基づき、2012 年 12 月、政府が使用している 3.5GHz

帯(3550-3650MHz)を商業利用と共用可能な新たな「市民ブロードバンド無線

サービス(Citizens Broadband Radio Service:CBRS)」として割り当てる規則

制定提案・命令書を公表し、FCC 規則の改正に着手した。これにより、高出力ス

モールセル(商用セルラー網含む)や免許不要局など、二次アクセスや一般認可

アクセスの用途として、周波数共用をベースとした周波数の有効利用を図る。

当初、3.5GHz 帯を使用する海軍レーダーと、無線ブロードバンドとの間の周

波数共用を実現するために、海軍レーダーの「排他的ゾーン( exclusive zone)」

は、NTIA の試算に基づき、海岸から平均 450km と設定されていた。これは米国

人口の 60%(約 1 億 9,000 万人)に相当する。これに対して、ベライゾンや AT&T

のほか、グーグルなども排他的ゾーンを縮小するよう FCC に要請した。グーグル

は、国防総省(DOD)や海軍(Navy)と協力して、海軍が使用する航空管制用の

SPN-43 レーダーシステムを対象に実験を行い、3.5GHz 帯のレーダーシステムの

近傍でも LTE と Wi-Fi が動作することを確認した実証実験の結果を FCC に提出

した。本実験には、バージニア工科大学(Virginia Polytechnic Institute and State

University)と Federated Wireless がパートナーとして参加した。こうして排他

的ゾーンは最終的に、当初よりも 77%縮小された。

FCC が 2015 年 4 月に公表した規則制定提案では、二次アクセスを優先アクセ

ス免許(Priority Access License:PAL)と定義し 3550-3650MHz(100MHz 幅)

を配分、全国を国勢調査統計区に基づく約 7 万 4,000 地区に分割した地域免許を、

チャンネル幅 10MHz 単位でオークションにより割り当て、免許期間を原則 3 年

間とすることが提案された。GAA には、3550-3700MHz(150MHz 幅)が割り当

てられた。そのうち 3650-3700MHz(50MHz 幅)は GAA 専用帯域として配分さ

米 国

82

れ、3550-3650MHz は未使用 PAL がある場合に GAA も利用することができる。

その後 FCC は 2018 年 10 月 24 日に、同帯域への投資とその効率的な利用を促

すことを目的に、PAL の免許単位をこれまでの国勢調査統計区からより大きな郡

の規模へ拡大、免許期間を 3 年から 10 年へ延長、免許更新時の運用要件の確立、

各免許区域で七つの PAL 免許を確保、農村及び部族組織への入札クレジット(落

札額の割引)の適用、PAL 免許の帯域及び地域分割の許容(二次市場向け)、CBRS

登録情報保護のためのセキュリティ要件の更新等を含む規則の変更を発表した。

PAL 及び GAA へのチャンネルの動的割当は、SAS 管理者が運用するデータ

ベース・システムによって行われる。SAS は、他の SAS、FCC データベース、及

び電波環境検知機能(Environmental Sensing Capability:ESC)からの情報に

基づき、ある地域において固定局である市民ブロードバンド無線サービス・デバ

イス(Citizens Broadband Radio Service Device:CBSD)が利用できるチャン

ネルを判断し、その最大許容伝送出力を設定して、CBSD にその情報を伝達する。

SAS は、CBSD の ID 情報と位置情報の登録及び認証を行い、該当するチャンネ

ルでの PAL 又は GAA の利用者による CBSD の運用を管理する。NTIA の ITS に

よる ESC 機器の性能を確認するラボ・テストが 2018 年 12 月に完了したことか

ら、2019 年初頭には 3.5GHz 帯での免許不要による利用が開始される予定で、

2020 年までには同帯域のオークション実施も見込まれている。

(5)28GHz 帯及び 24GHz 帯オークション

5G 周波数として配分されたミリ波帯の周波数オークションは、28GHz 帯につ

いては 2018 年 11 月から 2019 年 1 月に実施され、2,965 件の免許が総額 7 億 257

万 2,410USD で落札された。続けて 24GHz 帯の周波数オークションが 2019 年 3

月 24 日より開始される予定である。

ミリ波帯のオークション規則は、FCC は 2018 年 8 月 3 日に発表した、次世代

無線サービスのための 28GHz 帯及び 24GHz 帯の UMFUS(Upper Microwave

Flexible Use Service)免許のオークション規則に関する告示において規定されて

いる。主な内容は下表のとおりとなっている。

米国 UMFUS 免許のオークション規則の概要

項 目 内 容

免許期間 10年間(免許更新期待性あり)

免許更新要件

モバイル又はポイント・ツー・マルチポイントの免許人は、免

許更新の申請時において、免許エリアの人口の少なくとも40%

に対して信頼性のあるカバレッジ及びサービスを提供し、か

つ、顧客又は自家利用のために設備を使用していることを示さ

米 国

83

なければならない。

免許数(合計

5,984件)

28GHz

(3,072件)

周波数 ブロック1:27.5-27.925GHz

ブロック2:27.925-28.35GHz

帯域幅 425MHz幅

免許区分 郡(County)単位

免許数

1,536件/ブロック(全国3,232郡の

うち既存免許が郡全域をカバーする

1,696郡を除く)

24GHz

(2,912件)

周波数 24.25-25.25GHz

帯域幅 100MHz幅

ブロック数 7(A~G)

免許区分 PEA(Partial Economic Area)単

免許数 416件/ブロック

オークション

方式

28GHz SMR(simultaneous multiple-round)オーク

ション

24GHz クロック(clock)オークション

前金支払額

(Upfront

Payments)

28GHz ブロック 10,174,460USD

合計 20,348,920USD

24GHz ブロック 21,057,850USD

合計 147,404,950USD

入札開始価格

(Minimum

Opening

Bids)

28GHz ブロック 20,336,350USD

合計 40,672,700USD

24GHz ブロック 42,108,640USD

合計 294,760,480USD

入札開始価格

の根拠

PEA番号1-50及び域内郡 0.002USD/MHz/人

PEA番号51-100及び域内

郡 0.0004USD/MHz/人

その他及び域内郡 0.0002USD/MHz/人

二次市場での 上限値 1850MHz

米 国

84

モバイル周波

数保有制限 対象帯域

24GHz、28GHz、37GHz、

39GHz、47GHz

落札額の割引

(Bidding

Credit)

小規模事業者 割引比率

過去3年間の平均売上高(attributed

average annual gross revenues)

5,500万USD以下:15%

2,200万USD以下:25%

農村サービ

ス・プロバイ

適用条件 契約数:25万以下

人口密度:100人以下/平方マイル

割引比率 15%

割引額の上

限 1,000万USD

注:SMR オークションとは、入札対象となるすべての免許が同時に提供され、連続入札

ラウンド(successive bidding rounds)で構成されるもので、適格入札者(qualified bid-

ders)は個々の免許に入札することができる。特段の発表がない限り、入札は、各免許で入

札が停止するまで、オークションの各ラウンドのすべての免許で、受け入れられる。クロッ

ク方式とは、ラウンドごとに、オークション主催者(FCC)が、各地域の各ブロックの価格

をつり上げていき(価格を引き上げる主体は FCC)、入札者は、その価格で入札を希望する

ブロック(場所を特定していないという意味で、Generic Block と称される)の数を指定す

る。これによってブロック数の需給の一致を図り、需給が均衡したところでクロック・フェ

イズを終了する。その後、どの場所のブロックの割当てを希望するかについて決める割当段

階に移行する。

出所:Title 47: Telecommunication

PART 30—UPPER MICROWAVE FLEXIBLE USE SERVICE

https://www.ecfr.gov/cgi-bin/text-

idx?SID=ab40b1ce35e668ff9e4dc828b5499ec3&mc=true&tpl=/ecfrbrowse/Ti-

tle47/47cfr30_main_02.tpl

(6)37GHz、39GHz 及び 42GHz 帯オークション

FCC は 2018 年 12 月、2019 年後半に 37GHz 帯、39GHz 帯、47GHz 帯の三つ

のバンドを 100MHz 幅のブロック単位で一度にオークションにかけ、インセン

ティブ・オークションの手法を採用することを決定した。インセンティブ・オー

クションの対象となるのは 39GHz 帯で、当該帯域の既存免許人に対しては、そ

の周波数をオークションのために返還することで、補償金を受けとることが可能

となっている。オークション方式は、周波数の量(ブロック数)を決定する「ク

ロック段階」と割当場所を決定する「割当段階」の二段階方式で実施される。

米 国

85

4 周波数保有規制

(1)二次市場における周波数スクリーン制度

FCC は、周波数の二次取引や、企業結合等によって生じる無線局免許の移転に

かかわる申請に対して、市場競争の促進、サービスの高度化、免許人の多様化、

適切な周波数の利用といった幅広い観点から、公共の利益にかなうかどうかにつ

いて、個別案件ごとに審査を行う(“ケース・バイ・ケース”の審査)。

FCC はまず、競争への影響が懸念されるローカル市場を特定するために、「一

次審査(Initial Screen)」を実施する。一次審査は、二つのパートで構成され、

一つがハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス(Herfindahl-Hirschman

Index:HHI)に基づく審査(以下「HHI スクリーン」)である。取引後に、HHI

の指標が 2,800 以上となり、かつ 100 以上増加する市場、あるいは、HHI の指標

にかかわらず 250 以上増加する市場を特定する。もう一つの審査は、周波数保有

量に関する審査(以下「周波数スクリーン」)で、取引後に、利用可能な周波数全

体のうちの約 3 分の 1 以上を保有する市場を特定する。

HHI スクリーンによって特定された市場、周波数スクリーンによって特定され

た市場、双方のスクリーンによって特定された市場が重複している市場、あるい

は、これらの市場が全米上位 100 市場以内にランクインしている市場が、市場の

集中や周波数の集中の拡大の恐れがあるとして、詳細な競争分析の調査対象とな

る。また、取引によってもたらされる競争への影響が全国レベルに及ぶ場合には、

地域市場に加えて、全国市場での審査が実施される。

(2)周波数スクリーンの対象となる総周波数量の見直し

FCC は、一部事業者による保有周波数の過度な集中を防ぐため、2014 年 5 月

15 日に周波数保有規制の見直しに関する決定を採択し、同年 6 月 2 日に公表し

た。

周波数スクリーンの対象となる周波数量の合計を 645.5MHz とし、より詳細な

調査の契機となるトリガーを 215MHz 以上(又は利用可能な周波数のおよそ 3 分

の 1 以上)の保有に設定したほか、10%以上のすべての支配的、非支配的持分は

保有として帰属可能という整理を維持した(ただし、10%未満でも、事実上の支

配に相当する場合は帰属可能)。

周波数の帯域や市場により異なる基準の適用は見送るが、今後 FCC が審査す

る個別の取引案件で提示される潜在的な競争阻害性の分析において、一定水準を

超える 1GHz 以下周波数の更なる集積については、二次市場取引審査における重

点的な審査要件とした(申請者はより詳細な立証が必要)。

周波数保有に関する「一次審査」で周波数スクリーンの対象となる帯域

米 国

86

周波数帯

帯域幅の

割当て

(MHz)

対象となる

帯域幅

(MHz)

備考

セルラー

(850MHz) 50 50 変更なし

SMR

(800MHz、

900MHz)

26.5 26.5-12.5=14

減免:商用利用不可となった

800MHz SMRの7.5MHzとブロー

ドバンド利用に不適な900MHz

SMRの5MHzを削除

BPCS

(1900MHz) 130 130 変更なし

700MHz 80 80-10=70 減免:公共安全機関に割り当てら

れたDブロックの10MHzを削除

AWS-1

(1.7/2.1GHz) 90 90

変更なし(利用可能性は市場区域

ごとに判断)

BRS

(2.5GHz) 73.5 55.5+12=67.5

追加:レガシーの映像運用向け保

護を廃止(利用可能かどうかは市

場区域ごとに判断)

WCS

(2.3GHz) 30 20 変更なし

AWS-4

(2GHz) 40 40 新規追加

Hブロック

(1900MHz) 10 10 新規追加

AWS-3*

(1.7/2.1GHz) 65 65

新規追加(利用可能性は市場区域

ごとに判断)

EBS

(2.5GHz) 107 89

新規追加:EBS帯ホワイトスペー

スと教育目的利用を考慮して

16.5%割引

600MHz 84 70 新規追加

合計* *

786 715.5

新たなトリガーは215MHz以上又

は適正を有する利用可能な周波数

のおよそ3分の1以上保有

米 国

87

* AWS-3 の 65MHz は、2014 年 7 月 23 日に周波数スクリーンの対象に追加された

(DA 14-1018)。

* * 215MHz 以上という新たなトリガーは、AWS-1 及び BRS/EBS 周波数が共に当該市

場で利用可能な場合に限定(AWS-1 又は BRS/EBS 周波数が当該市場で利用できない場合、

これら帯域は対象から除外)。

出所:https://apps.fcc.gov/edocs_public/attachmatch/FCC-14-63A1.pdf 等

(3)600MHz 帯インセンティブ・オークションにおける応札制限

1GHz 以下の周波数が持つ特性や希少性を踏まえ、複数の事業者による十分な

量の 1GHz 以下周波数へのアクセス確保はサービス向上に資すると判断し、

600MHz 帯のインセンティブ・オークションにおいては、各市場で一定の周波数

量を小規模事業者等向けにリザーブする(他方、AWS-3 オークションには適用な

し)。

各市場で 10-30MHz がリザーブ免許となり(帯域幅は放送事業者から回収され

る周波数量により異なる)、この免許の割当ては、PEA ベースで 1GHz 以下の周

波数(セルラー(50MHz)、700MHz(70MHz)、SMR(14MHz)の合計 134MHz)

のうち 45MHz(およそ 3 分の 1)以上を保有しない者又は地域事業者(非全国事

業者)に限定される。

免許交付後 6 年間は、1GHz 以下の周波数の 3 分の 1 以上を保有する結果とな

る 600MHz 免許の移転、割当て、地域/帯域分割、長期リースを禁止することに

加え、免許交付後 6 年間、600MHz リザーブ免許への応札が認められなかった者

に対して 600MHz リザーブ免許を移転、割当て、地域/帯域分割、長期リースす

ることを禁止する。

FCC によると、ベライゾンと AT&T の 2 社を合わせると、1GHz 以下の周波数

免許の 73%を保有(セルラー免許の 90%、700MHz 免許の 72%)していること

から、600MHz 帯のインセンティブ・オークションは、実質的に、ベライゾンと

AT&T の応札を制限するものとなっている。

5 5G 周波数の配分

(1)24GHz 以上のミリ波帯の配分

①周波数配分等

FCC は 2016 年 7 月、24GHz 以上のミリ波帯の 5G 周波数向けに、28GHz 帯、

37GHz 帯、39GHz 帯を免許帯域として、64-71GHz 帯を免許不要帯域として、そ

れぞれ配分した。加えて、八つのバンド(24GHz、32GHz、40GHz、47GHz、50GHz、

70GHz、80GHz、95GHz 以上)を 5G 等の次世代無線サービス向けに追加配分す

ることを提案し、2017 年 11 月に 24GHz 帯(24.25-24.45GHz、24.75-25.25GHz)

と 47GHz 帯(47.2-48.2GHz)を追加配分することを決定した。また、2018 年 5

米 国

88

月には、26GHz 帯(25.25-27.5GHz)と 42GHz 帯(42-42.5GHz)を 5G 周波数

として追加配分するための検討が開始された。

5G を含む次世代無線システムは、コネクテッド・カー、スマートシティ、遠隔

医療等の社会基盤への幅広い実装が想定されており、サイバーセキュリティに対

する対策が必要不可欠となっている。そのため、5G 周波数の運用開始に先立ち、

免許人に対してセキュリティ計画や関連する情報の提出を求めることが提案され

ていたが、FCC は、2017 年 11 月に採択された決定において、サイバーセキュリ

ティ報告要件にかかる規則を無効化し、代わりに、通信セキュリティ信頼性相互

運用性 委員会 ( Communications Security, Reliability and Interoperability

Council:CSRIC)手続を通じて情報提供を求めることとしている。

②カバレッジ確保

FCC は 5G 免許付与に関連し、免許更新時における成果要件(Performance

Requirements)規定を設けている。成果要件策定の目的は、①周波数の生産的利

用の促進、②免許人による顧客への適時のサービス提供の促進、③特にルーラル

地域でのサービス未提供地域における革新的サービスの促進、となっている。

FCC は、サービスが公衆に実際に提供されていることを保証するために、免許人

に対して周波数利用の明確かつ迅速な報告説明を課すことで、運用上の柔軟性を

免許人に提供しつつ、周波数が休閑中でないことを保証することの適切なバラン

スを維持している。

(2)ミッドバンド(3.7-24GHz)の配分を巡る検討

FCC は 2017 年 8 月、ミッドバンド周波数での無線ブロードバンドのサービス

機会を拡大するための方法についてコメントを求める新たな情報請求告示

(Notice of Inquiry:NOI)を発表した。これまで FCC は無線サービスに利用可

能な周波数の確保に向けて主として 3.7GHz 以下や 24GHz 以上の帯域にフォー

カスしてきたが、今回の NOI では拡大する周波数需要に対応するため潜在的な

あらゆるオプションを踏まえて 3.7-24GHz 帯の活用方法を評価する。具体的には

3.7-4.2GHz、5.925-6.425GHz、6.425-7.125GHz の三つのバンドを特定してコメ

ントを求めるとともに、その他の非連邦政府用のミッドバンドについても柔軟な

利用に適した帯域の拡大についてコメントを募る。

これに対して、2017 年 10 月、アップル、シスコ、グーグル、フェイスブック、

ブロードコム(Broadcom)、インテル、クアルコム、ヒューレット・パッカード・

エンタープライズ(Hewlett Packard Enterprise:HPE)を含む約 30 社が、6GHz

帯での免許不要利用の帯域を拡大するよう、FCC に要求した。具体的には 5925-

7125MHz 帯を次世代無線ブローバンド・サービスの需要に対応するために免許

不要で利用する。これによってコンシューマ機器、インターネット・メディア、

ソフトウェア、クラウド、セミコンダクタ、エンタープライズ、サービス・プロ

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バイダ、ルーラル・アクセスといった幅広い産業分野での利活用が期待されてい

る。FCC への提案では、6GHz 帯に複数のサブバンドを設け、当該帯域で運用さ

れている既存免許人を適切に保護するために、各セグメントの技術条件や干渉保

護規定を定めることを FCC に要請してた。

これらの意見を反映し FCC は 2018 年 10 月 23 日、6GHz 帯(5.925-7.125GHz)

の 1200MHz 幅を、免許不要での利用に開放する提案を満場一致で採択した。今

回採択されたのは、規則制定提案告示(NPRM)で、今後、意見募集したうえで、

既存利用者(一次分配業務)を保護しつつ、当該周波数帯を免許不要で開放する

枠組みの最終案を改めて採決にかける。免許不要での利用が可能となる 6GHz 帯

は、四つのサブバンドに区分され、標準出力と低出力の 2 種類のデバイスでの利

用が想定されている。標準出力のデバイスが使用する合計 850MHz 幅の帯域(U-

NII-5 及び 7)では、既存の固定リンクへの干渉を防ぐために、自動周波数調整

(Automated Frequency Coordination:AFC)システムを導入することが検討さ

れている。AFC とは、該当するデータベースに基づいて、免許されたシステムの

コーディネーションコンターを決定し、これらのシステムへの有害な干渉を回避

するために使用可能な周波数を特定するメカニズムである。免許不要デバイスは、

AFC システムが指定した周波数帯のみで運用が可能となる。

免許不要での利用が可能となる 6GHz 帯の四つのサブバンド

周波数

(MHz) 帯域幅

サブバンド

区分 一次分配業務 免許不要のデバイス

5925-6425 500MHz U-NII* -5 固定業務

FSS**

標準出力アクセスポイント

(屋外利用)

6425-6525 100MHz U-NII-6 移動業務

FSS

低出力アクセスポイント

(屋内利用)

6525-6875 350MHz U-NII-7 固定業務

FSS

標準出力アクセスポイント

(屋外利用)

6875-7125 250MHz U-NII-8

固定業務

移動業務

FSS

低出力アクセスポイント

(屋内利用)

* U-NII:Unlicensed National Information Infrastructure

* * FSS:Fixed-Satellite Service

出所:https://docs.fcc.gov/public/attachments/FCC-18-147A1.pdf

3.7-4.2GHz 帯の C バンドについては、現在、ケーブルテレビや地上放送の番

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組伝送等に使用されているが、FCC は 2018 年 7 月、当該帯域での 5G 利用(固

定及び移動)を可能とするため、周波数の再編や共用に向けた検討を開始した。

具体的には、周波数移転や共用について地上放送やケーブルテレビ事業者から情

報を収集し、現在非独占的な固定衛星業務に割り当てられている 500MHz 幅すべ

てを移動通信へ割当追加することを提案、また、一部帯域の共用やサービス及び

技術規則についてコメントを募集している。

6 全国公共安全ブロードバンド網(NPSBN)

「2012 年中間層課税控除及び雇用創出法」に基づき、NTIA の配下に創設され

た FirstNet が、700MHz 帯の免許のを割当てを受け、第一応答者及びその他公

共安全機関が使用する、管轄区域を超えた相互運用可能な単一の NPSBN を、LTE

技術に基づいて構築する責務を負っている。

FirstNet は 2017 年 3 月 30 日、第一応答者専用の NPSBN の構築で、AT&T を

請負事業者として選定したことを発表した。NPSBN は、全米 50 州と五つの領土

及びコロンビア特別区における数百万以上の公共安全ユーザに特化した高速ネッ

トワークで、既存の第一応答者の通信網を近代化し、現在の無線ネットワークで

は利用できないような特殊な機能を提供する。また、災害対応・復旧や大型イベ

ント等での安全確保において、警察、消防、救急医療サービス(Emergency Med-

ical Services:EMS)等に対して、管轄区域を超えたシームレスな通信能力を提

供する。

AT&T は FirstNet との官民インフラ投資契約によって、向こう 2 年間で 1 万

人以上の雇用を生むとし、2017 年後半からネットワーク整備を開始している。

FirstNet と AT&T との間の契約は 25 年間に及ぶもので、以下の内容を含む。

・FirstNet が 700MHz 帯の 20MHz 幅(Band 14:758-768/788-798MHz)の

高価値の電波を付与し、ネットワーク構築に必要な向こう 5 年間の設備投資費用

として 65 億 USD を供与する。

・AT&T はネットワークの構築・展開・運用・維持管理に、25 年間で 400 億

USD を投じ、公共安全ユーザのために安定したカバレッジを保証する。

・AT&T は FirstNet ユーザに対して、同社の通信ネットワーク資産(1,800 億

USD の価値に相当)への接続を可能とする。

AT&T は NPSBN のコア・ネットワークや無線アクセス・ネットワーク(Radio

Access Network:RAN)等を構築する計画であるが、各州政府は州内の RAN 構

築を自前で行うことが可能となっている(オプトアウト方式)。各州知事は 2017

年 12 月 28 日までにオプトイン方式(FirstNet に RAN 構築を委託)又はオプト

アプト方式のいずれかを選択することが求められていたが、56 のすべての州・領

がオプトイン方式の採用を表明した(2018 年 1 月 19 日)。

2019 年 2 月現在、5,250 以上の公共安全機関が FristNet に参加し、契約数は

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42 万 5,000 件以上に達している。

7 電波監視体制

FCC の執行局(EB)が電波監視を所掌。電波監視は、周波数執行部門と 24 か

所の事務所(3 か所の地域事務所(Regional Office)と 21 か所の地方事務所(Field

Office))が実施している。違法局探査は、FCC の地方事務所が主体的に行う。機

器の押収については FCC 職員だけの権限で行えるが、家宅捜索及び容疑者の拘

束については、警察等他の法執行機関の協力を得て実施される。2015 年夏にコス

ト削減等を目的として上述の 24 か所に設置された地域事務所、地方事務所のう

ち 11 か所を閉鎖する計画が発表された。2017 年 1 月より順次、閉鎖に移ること

とされ、今後、近隣に地域事務所がない地域で重大な干渉問題が発生した際には、

メリーランド州コロンビア、及びコロラド州デンバーに常駐する精鋭部隊(Tiger

Team)が 24 時間以内に出動し混信解決に当たる予定となっている。

8 電波利用料制度

FCC は、その規制活動に関する事務経費を賄うことを目的に、行政手数料を無

線局、放送局及び有線系電気通信事業者から徴収する。FCC が賦課する行政手数

料は、行政経費の回収を目的に電波利用者以外も対象としており、電波の経済的

価値を反映した電波利用料とは異なる。

「1993 年包括財政調整法(Public Law 103-66)」第Ⅵ編「通信に関する免許及

び周波数配分の改善」によって、「1934 年通信法」に「行政手数料(Regulatory

Fees)」に関する第 9 条が追加され、FCC が事務経費回収のために行政手数料を

徴収することが定められた。また、それ以前の電波利用料(Charge)を規定して

いた第 8 条は申請手数料(Application Fees)と改名された。2018 年度は、議会

承認額に基づき、行政手数料総額として 3 億 5,400 万 USD を、申請手数料総額

として 2,300 万 USD を徴収した。

連邦政府各機関による周波数利用の対価については、NTIA による認可が必要

な周波数の利用に関して、周波数の管理、解析及び運用等にかかわる費用の回収

のために連邦政府各部局から徴収される。本制度の背景となったのは、1990 年代

に大きな政治問題となった米国の財政危機に対して打ち出された、行政経費は

ユーザから回収するという方針である。NTIA による利用料額の決定は、単純に

議会が承認する額を認可無線局数で割った数値となる。開始時(1996 年)には 1

局 25USD であったが、2012 年度には 122USD となり、47 省庁の支払総額は約

3,000 万 USD となった。なお、2015 年予算年度の周波数使用料(spectrum fees)

の徴収総額は 4,167 万 7,000USD となった。

9 電波の安全性に関する基準

実効輻射電力(ERP)100 ワット以上の実験施設や移動無線用アンテナ等、「FCC

規則」1.1307 で規定される諸設備については、免許申請・変更時に電波環境アセ

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スメント(Environmental Assessment:EA)を用意しなければならない。電磁

環境の規制値は、米国規格協会(ANSI)と米国電気電子学会( Institute of Elec-

trical and Electronics Engineers:IEEE)、国際非電離放射線防護委員会( Inter-

national Commission on Non-Ionizing Radiation Protection:ICNIRP)、米国放

射線防護測定審議会(National Council of Radiation Protection and Measure-

ments:NCRP)により規定されているものを基準として、「FCC 規則」1.1310 で

規定されている。

「FCC 規則」2.1091 及び 2.1093 では移動及び携帯端末機器に対する規制を

行っている。身体から 20cm 以内の距離で使用される機器では、上述の「FCC 規

則」1.1310 の基準に従うと同時に、比吸収率(Specific Absorption Rate:SAR)

として、一般公衆の場合に、全体 0.08W/kg、局所 1.6W/kg(手、手首等の部位で

は 4W/kg)と規制値が決められている。これらの基準値は ANSI/IEEE C95.1-1992

及び NCRP の規定する値に準じている。

Ⅲ 周波数分配状況

米国における無線通信周波数は、3kHz から 300GHz までの帯域に割り当てら

れている。そのうち 225MHz から 3700MHz までの帯域について、独占的に割り

当てられている割合は連邦政府機関が 32%、非連邦政府機関が 33%で、連邦政

府と非連邦政府が共に一次業務として共用している割合が 35%となっている。

・ 周 波 数 分 配 表 ( 2018 年 10 月 5 日 改 訂 版 ) ( FCC 規 則 2.106 ) :

https://transition.fcc.gov/oet/spectrum/table/fcctable.pdf