イオンアグリ創造株式会社 -...

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21 17 調ha 9 90 11 10 a600011 33 1 54 7000湿使調千葉県に本社を構えるイオンアグリ創造株式会社。 全国に店舗をもつイオン株式会社のグループ企業とし て、農産物の生産供給を担っています。全国に21の自 社農場をもち、地産地消に根差した安全・安心な野菜 生産に取り組む同社が、2017年6月から本格的に出荷 を開始したのが、この度訪問した埼玉久喜農場です。 この農場は、農林水産省の次世代施設園芸導入加速化 支援事業の一つとして、埼玉県、久喜市とイオンが提 携して設立したもので、高度環境制御ハウスによるト マトの高品質安定生産が行われています。国の次世代 施設園芸拠点10カ所のうちの一つにも数えられるこの 施設、一企業であるイオンアグリ創造がこの国家戦略 に参画した狙いとその具体的な取り組みについて、社 長室ブランディング・広報担当の牧紳太郎さんと埼玉 久喜農場の宮﨑直行農場長、栽培担当の後藤千彩音さ んにお話を伺いました。 ↑埼玉久喜農場の宮﨑直行農場長(左から2人目)と社員の皆さん。 ↑埼玉久喜農場で生産、出荷される「イオン農場 のまるまる赤トマト」は糖度6度を目指し、ぎ りぎりまで色づかせてから収穫したトマト。タ キイの「桃太郎ヨーク」が使用されている。 ↑広報担当の牧紳太郎さん(左)と宮﨑農場長。 総栽培面積 3 . 3 ha、全部で11棟の低コスト耐 候性ハウス前で。 ~着実に一歩ずつ、地域の人とともに地域の農業を~ (編集部) イオンアグリ創造株式会社 埼玉久喜農場 次世代園芸施設によるトマト栽培 2018 タキイ最前線 秋種特集号 27

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Page 1: イオンアグリ創造株式会社 - TAKIIための施設の設立始まった安定供給の売り場の要望から イオンアグリ創造埼玉久喜農場は、 全国 21カ所にあるイオンの自社農場の

売り場の要望から

始まった安定供給の

ための施設の設立

 

イオンアグリ創造埼玉久喜農場は、

全国21カ所にあるイオンの自社農場の

中で17番目に作られた施設です。自社

農場は基本的に地元エリアのイオン店

舗に出荷するための施設で地産地消の

実現が狙いです。埼玉県は一番拠点が

多く、この久喜農場を含めて4つの農

場があります。しかし、他の農場は露

地栽培がメインで、今回、久喜農場で

初めて高度環境制御ハウスによるトマ

ト栽培を導入することとなりました。

「今まで露地がメインだったので、や

はり天候の影響を受けやすいという問

題がありました。安定供給という観点

から環境制御ハウスの導入を検討して

いたところ、国の次世代施設園芸導入

加速化事業に参入できるチャンスがあ

ったので手を挙げた次第です」と経緯

をお話しくださったのは埼玉久喜農場

の宮﨑農場長です。  

 

また、トマトの施設栽培を導入した

のには、トマト自体の需要も増加傾向

であったからといいます。

「店舗にて売上構成比に占めるトマト

の割合、また、店頭でもトマトの品目

数が拡大傾向にあり、そうした観点か

らもお客さまの声を反映した独自の商

品を生産するための自社農場があると

いうのはすごく価値のあることだと思

っています」と広報担当の牧さん。イ

オン全体でも店頭における高品質で安

定したトマトの調達は、欠かせないテ

ーマとなっているようです。

高度環境制御ハウスに

よる低段密植トマト栽培

 

埼玉農業試験場の土地を利用したこ

の農場は、栽培面積3・3ha、従業員

数は社員9名、パート90名でイオン自

社農場の中でも従業員数が一番多い施

設です。人数からも、その規模の大き

さがうかがえます。

 

低コスト耐候性ハウス11棟で、10a

当たり6000株、3~4段摘芯での

低段密植栽培。年間の作付け回数は1

ハウス当たり3回、ハウス11棟で年間

33回転栽培が行われることになります。

 

1年で3回転の栽培に必要な苗は約

54万7000株。これらを低コストで

供給するため、施設内に発芽室と育苗

施設(苗テラス)を設置し、一定の気温

湿度で完全管理し、生育時期を少しず

つずらすことで大量の苗生産を実現し

ています。

 

培地はヤシ殻培地を使用した根域制

限栽培(Dトレイ栽培)です。潅水につ

いては排液率を目安とし、排液率から

成分がどれくらい入ったかを調べて、

 千葉県に本社を構えるイオンアグリ創造株式会社。全国に店舗をもつイオン株式会社のグループ企業として、農産物の生産供給を担っています。全国に21の自社農場をもち、地産地消に根差した安全・安心な野菜生産に取り組む同社が、2017年6月から本格的に出荷を開始したのが、この度訪問した埼玉久喜農場です。この農場は、農林水産省の次世代施設園芸導入加速化支援事業の一つとして、埼玉県、久喜市とイオンが提

携して設立したもので、高度環境制御ハウスによるトマトの高品質安定生産が行われています。国の次世代施設園芸拠点10カ所のうちの一つにも数えられるこの施設、一企業であるイオンアグリ創造がこの国家戦略に参画した狙いとその具体的な取り組みについて、社長室ブランディング・広報担当の牧紳太郎さんと埼玉久喜農場の宮﨑直行農場長、栽培担当の後藤千彩音さんにお話を伺いました。

農 業 羅 針 盤

↑埼玉久喜農場の宮﨑直行農場長(左から2人目)と社員の皆さん。

↑埼玉久喜農場で生産、出荷される「イオン農場のまるまる赤トマト」は糖度6度を目指し、ぎりぎりまで色づかせてから収穫したトマト。タキイの「桃太郎ヨーク」が使用されている。

↑広報担当の牧紳太郎さん(左)と宮﨑農場長。総栽培面積3.3ha、全部で11棟の低コスト耐候性ハウス前で。

~着実に一歩ずつ、地域の人とともに地域の農業を~(編集部)

イオンアグリ創造株式会社埼玉久喜農場 次世代園芸施設によるトマト栽培

2018 タキイ最前線 秋種特集号 27

Page 2: イオンアグリ創造株式会社 - TAKIIための施設の設立始まった安定供給の売り場の要望から イオンアグリ創造埼玉久喜農場は、 全国 21カ所にあるイオンの自社農場の

排液量がだいたい全体の20~30%にな

るように、計算をして給液を行ってい

ます。循環式だと根部病害などの病害

リスクがあるので、「ピュアキレーザー」

というオゾンでの殺菌をメインとする

殺菌装置を活用するなど予防防除を欠

かしません。

「低段密植は病害のリスクが低いと言

われていますが、まったく出ないわけ

ではないので常に予防的防除に努めて

います。けれど、低段の利点としては

病害が出ても栽培期間が短いため逃げ

切れることにある。早く終わらせてリ

セットすることができるのがいいです

ね」

「あとは年間33回転するので学習効果

が高い。長段栽培だと振り返りをして

もほぼ1年1作しかできませんが、低

段密植だと33回ですから、次作でリカ

バーがしやすいですね」

 

栽培担当の後藤さんからは低段密植

栽培の利点を説明いただきました。

「病害を避けやすい、低段で株の高さ

が低いので作業がやりやすい。周年栽

培なので安定雇用が見込める。といっ

たことも利点でしょうね」と宮﨑農場

長。

 

目標年間収量10a当たり30tを目指

していて、宮﨑農場長によると初年度

は目標に近い収量が確保できる見込み

とのことです。

新たに得た知見を地元に

フィードバックする

 

国や県、市と連携した埼玉次世代施

設園芸コンソーシアムの取り組みは一

般の生産農家に栽培の仕組みを普及さ

せることも目的の一つで、コンソーシ

アムのメンバーである埼玉県次世代施

設トマト研究会などの地元のトマト生

産組合などと、栽培技術を一からシェ

アしていくことを目指しています。環

境制御システムがあっても、そこにど

んなデータを打ち込むかは経験によっ

て培われた知識が必要になります。そ

れをシェアしようというもので、一企

業の営利活動だけでなく、地元の農業

を発展させるための取り組みも行って

いるのです。

「イオン農場の

まるまる赤トマト」

ブランドで品質をアピール

 

この農場で現在栽培されている品種

はすべて「桃太郎ヨーク」です。

「『桃太郎ヨーク』は着果がよく、裂果

しにくい。季節の境目に草姿のバラン

スの崩れが少ないなど、年間を通して

安定性があることが長所ですね」と後

藤さんは低段密植栽培においての「ヨ

ーク」の特性に高い評価をいただいて

います。同農場では高糖度トマト栽培

↑1~3花房程度を残して摘芯する短期栽培を繰り返す、低段密植栽培を実施している。

↑ヤシ殻培地を使用した根域制限栽培(Dトレイ栽培)を採用。

←栽培を担当する技術者の一人、後藤千彩音さん。後藤さんいわく「低段密植は学習効果が高く早いサイクルでやり直しが可能なことが利点」とのこと。

↑この農場で栽培されるトマトは全て「桃太郎ヨーク」。着果がよく裂果しにくい夏季でも色がつきやすいなど年間をとおしての安定感が魅力。

28 2018 タキイ最前線 秋種特集号

Page 3: イオンアグリ創造株式会社 - TAKIIための施設の設立始まった安定供給の売り場の要望から イオンアグリ創造埼玉久喜農場は、 全国 21カ所にあるイオンの自社農場の

は謳っていませんが、通常大玉トマト

の糖度は平均値で5度なのに対し、常

時糖度6度を目指しぎりぎりまで熟さ

せてから収穫、出荷しています。ブラ

ンド名は「イオン農場のまるまる赤ト

マト」。その位置付けは定番商品とは

差別化を図ったワンランク上の商品と

いう狙いで地元埼玉県のイオンを中心

に本年(取材時2017年)6月より販

売、好評を博しています。

「1年を通じて同じ品質で、一人でも

多くのお客さまに買っていただけるよ

うに安定周年生産を心掛けたいですね。

価格を維持して安定して出す。品質の

こだわりとしてはぎりぎりまで熟させ、

糖度6度を目指すということを保てる

ように。収量と味と見た目にこだわっ

ていきたいと思っています」と宮﨑農

場長。

「いつ行っても購入できて、いつ食べ

てもおいしい。やはり販売側からいっ

ても、常にお店に一定レベルの商品が

あるということがアピールのポイント

になりますね」と広報の牧さんも周年

安定生産で出荷するこの施設での「ま

るまる赤トマト」に大きな魅力を感じ

ておられます。

 

現在イオンではこの「まるまる赤ト

マト」以外にも大分臼杵農場の「赤採

りトマト」、北海道三笠農場の「三笠

メロン」など地元のJAや生産者とと

もに作り上げたブランドを展開し、そ

れぞれ成功しているといいます。

先見の明で創業時より

GGAPを取得

 

イオンアグリ創造では全部の自社農

場で、GLOBA

LG.A.P.

(以下GGAP)

を取得しています。GGAPは202

0年開催の東京五輪にともない、選手

村で提供される食材への取得が条件と

なるなど現在注目を集めていますが、

同社は設立当初より国際規格であるG

GAPに着目し全農場での取得を進め

てきました。

「当社のGGAP取得の取り組みは本

年7月で9年目を迎えて、丸8年とな

ったのですが、これまでにそのノウハ

ウを生かして、グループ内外で7法人

7団体に対して取得支援を行ってきま

した。今年に入って23団体に増え、近

ごろでは行政の方も弊社の農場に見学

に来られるなど、一気に注目されてき

たのを感じますね」と牧さん。

 

埼玉久喜農場でも昨年中に本審査を

終え、まもなく認証取得予定とのこと。

ほかには、設備のトラブルやハウス内

作業での熱中症の予防など、施設園芸

特有のリスクを洗い出し、対策、作業

の平準化に向け作業マニュアルの整備

を進めています。

地域に根差した

イオン農場に

 

イオンアグリ創造では2009年の

設立当初より、全農場において社員が

直接現地に入って栽培を行うというス

タンスで進めてきました。それには、

「地域の伝統文化である農業を地元の

生産者とともに守りたい」という想い

があります。

「各地域にイオンの店舗は出店されて

いますし、その地域の農家の方も大切

なお客さまです。農家の間では高齢化

が問題になっていて、耕作放棄地が増

えている。農業は地域の伝統文化なの

で、地域によって作り方や生育環境が

違います。その地域の食を支える文化

を絶やさないためにも、私たちが直接

現地に入ってやる必要があると思って

います」と牧さん。

 

技術をもった生産者と直接契約して

仕入れる方法もありますが、「担い手」

を育てるとなると一朝一夕では成り立

ちません。そこで社員が一定期間入っ

て、その地域での作り方を学んでいく

ということを重要視しているのです。

 

また、社員が実際に栽培を行うこと

で、バイヤーとしての知見を上げると

いうメリットもあります。大規模な流

通を担うときに産地との交流は非常に

重要です。その際に、生産者の悩みや

苦労を理解し共感できることが役立っ

てくるといいます。実際、イオングル

ープ各社からの出向者がアグリ創造で

経験を積み、バイヤーとして売り場に

戻るという人材の交流も活発に行われ

ており、教育機関としても大切な役割

を担っています。

若い力による農業の

活性化を目指す

 

もう一つ目指していることは、「若

い力」を農業に参入させることです。

実はイオンアグリ創造の昨年度(20

17年度)新卒の入社倍率は100倍

近く。同社では設立から2014年ま

ではイオンでの社内公募で人員を確保

してきましたが、2014年春より新

規で社員の採用を始め、まもなく新卒

入社の社員数が上回る勢いです。一方、

同社では年間1920時間の労働時間

で、土日祝に代わる代休を設定し、産

↑イオンアグリ創造では全農場でGGAPを取得している。埼玉久喜農場では環境制御ハウスでの作業をスムーズに行うための作業マニュアルの整備を進めている。

2018 タキイ最前線 秋種特集号 29

Page 4: イオンアグリ創造株式会社 - TAKIIための施設の設立始まった安定供給の売り場の要望から イオンアグリ創造埼玉久喜農場は、 全国 21カ所にあるイオンの自社農場の

休・育休が取得できるなど社内制度を

整えています。こうした労働条件を整

えることが、若い人たちの中で農業と

いう職業が選択肢に入る必要条件にな

ると考えています。社員の中には農学

部などの理系学部の出身者だけでなく、

社会学系の出身者も多く4割程度は在

籍しているということで、農業生産法

人が普通に就職先の一つとして学生の

視野に入ってくるまで時代は変化して

きています。

着実に一歩、一歩、

地域の方とともに地域

の農業を盛り上げたい

 

こうした若い力は各地で地元を活性

化させる原動力になっています。

「2010年の10月に稼働した埼玉県

の羽生農場は稼働時3・5haで始まっ

て、現在全国のイオン農場の中で一番

広い32

haになっています。2009年

に企業参入が一気に始まり、当初は保

守的な地元農家の方からは『この人た

ちはちゃんと農業のことを考えてやっ

ているのか』と不安視されていたと思

います。そんな中で悩んで困った時に

は、地域の生産者の方にも相談して助

けていただきながら、コミュニケーシ

ョンを図っていくと、『この人たち意外

と真面目にやっているな』ということ

が地元の人たちに伝わって発展してき

たんだと思っています」と牧さん。広

報的な活動としてもこれら地元との交

流は喜ばしいと考えています。

 

ほかにも、地域の祭の実行委員長を

農場長が務めたり、若い従業員が参加

することで途絶えていた神輿を出せた

と喜ばれた事例もあるとか。地元行事

にかかわることで、地域に受け入れら

れたのだと実感できるそうです。

 

雇用の拡大や経済の活性化とともに、

地域の活動を支えていくことも重視し

ているのです。そこにはイオンアグリ

創造の抱く「地域に根差した農業の存

続と継承。若者が職業の一つとして憧

れを抱く産業に育てたい」との夢、ド

リームが現れています。

「社長の福永の言葉を借りますと、『夢

ではなくドリーム』だと。夢は辞書で

調べると儚いものとか、現実離れした

ものという意味が出てきます。そうで

はなくてドリームは叶えるものだと。

着実に一歩、一歩、地域の方とともに

地域の農業を盛り上げたい。それが当

社の想いです」と熱く語る牧さん。今

回の次世代環境制御ハウスの取り組み

もそんな思いも込められたものです。

若い人が就職先としてドリームをもて

る、これからの農業へ着実な一歩を進

めていくイオンアグリ創造の取り組み

にこれからも業界内外の注目が集まり

ます。

農業羅針盤

↑出荷に当たっては、厳密な選別基準を定めている。

→集荷された「まるまる赤トマト」。ぎりぎりまで熟させたトマトは赤くつやつやとしている。

↑「当農場では、同じ品質で、一人でも多くのお客様に買って頂けるように安定周年生産を心掛けていきたいですね。収量と味と見た目にこだわってしていきたいと思っています」と宮﨑農場長。

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