キレート生成平衡nimura/as1_2016/2016as1_6.pdf1 キレート生成平衡...

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1 キレート生成平衡 錯体;配位結合により生成した(複合)化合物 配位結合;2つの原子が不対電子を出し合って結合する 錯体生成反応はルイスの定義に基く酸塩基反応 金属錯体;金属元素を含む錯体 配位子;金属イオンと配位結合する分子やイオン 非共有電子対(孤立電子対)を持つ窒素、酸素、 イオウ、ハロゲンなどの配位原子を含む (金属)キレート;複数の配位原子を含む分子(多座配 位子)と金属イオンとの錯体 metal chelate ルイスの定義;酸とは非共有電子対を受け取り錯体を生成する物質であり、 塩基とは非共有電子対を与えて錯体を形成する物質である。 ligand キレート生成平衡 M NH3 NH3 H3N H3N 単純な金属錯体のイメージ 1個の4配位の金属と 4個の単座配位子と による錯体形成 M N N N N H2 H2 C C H2 H2 H2 H2 C C H2 H2 金属キレートのイメージ 1個の4配位の金属と 2個の多座配位子と による錯体形成

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Page 1: キレート生成平衡nimura/as1_2016/2016as1_6.pdf1 キレート生成平衡 •錯体;配位結合により生成した(複合)化合物 •配位結合;2つの原子が不対電子を出し合って結合する

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キレート生成平衡

•錯体;配位結合により生成した(複合)化合物 • 配位結合;2つの原子が不対電子を出し合って結合する • 錯体生成反応はルイスの定義に基く酸塩基反応

•金属錯体;金属元素を含む錯体 •配位子;金属イオンと配位結合する分子やイオン 非共有電子対(孤立電子対)を持つ窒素、酸素、 イオウ、ハロゲンなどの配位原子を含む

•(金属)キレート;複数の配位原子を含む分子(多座配 位子)と金属イオンとの錯体

metal chelate

ルイスの定義;酸とは非共有電子対を受け取り錯体を生成する物質であり、 塩基とは非共有電子対を与えて錯体を形成する物質である。

ligand

キレート生成平衡

M

NH3

NH3 H3N

H3N

単純な金属錯体のイメージ

1個の4配位の金属と 4個の単座配位子と

による錯体形成

M

N

N N

N H2

H2

C

C H2

H2

H2

H2

C

C H2

H2

金属キレートのイメージ

1個の4配位の金属と 2個の多座配位子と

による錯体形成

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キレート生成平衡 錯体生成定数

金属Mと配位子Lの錯体形成は逐次進行する

M + L ML

ML + L ML2

ML2 + L ML3

ML3 + L ML4

K1 = [ML]/[M][L]

K2 = [ML2]/[ML][L]

K3 = [ML3]/[ML2][L]

K4 = [ML4]/[ML3][L]

K1~K4を逐次生成定数 または逐次安定度定数 と呼び、この数値が大きいほど安定な錯体が生成していることを示す。

M + 4L ML4 [ML4]/[M][L]4 = K1K2K3K4 前生成定数(全安定度定数)

逐次生成定数の積

キレート生成平衡 キレート滴定に汎用されるキレート試薬;EDTA(六座配位子)

ethylenediaminetetraacetic acid エチレンジアミン四酢酸

>N-CH2-CH2-N< CH2COOH

CH2COOH HOOCH2C

HOOCH2C

EDTAと金属との反応比は1:1

試薬としては 2Na塩を入手

M + Y MY KMY = [MY]/[M][Y]

キレート生成定数

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錯体生成まとめ

M

NH3

NH3 H3N

H3N

M

N

N N

N H2

H2

C

C H2

H2

H2

H2

C

C H2

H2

< 安定性

錯体

金属錯体

キレート

溶解・沈殿平衡

分配平衡

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溶解と沈殿(析出)

•溶解とは、溶質(固体)が溶媒(液体)中に分散して均一系を形成している状態。

•沈殿は、溶液中に存在している不溶物であり、溶媒に不溶な物質が集合・巨大化して沈降したもの。

•沈殿は、不溶物がAgClのような難溶性塩である場合には、イオン濃度積が溶解度積に達したときに生成する。

AgCl

Ag+ Cl-

代表的な難塩;AgCl、BaSO4、Ag2S、Zn(OH)2

AgCl

K =[Ag+][Cl-]/[AgCl]

解離平衡定数

K 溶けている 溶けているAgClは極めて少量で濃度は一定

K [AgCl] = [Ag+][Cl-] = Ks

Ks(Ksp);溶解度積

溶解度と溶解度積(1)

•難溶性電解質の飽和溶液saturated solution – その溶解度solbilityは、溶液中の陰・陽両イオンの濃度の積で

ある溶解度積(Ks)solbility productで表すことができる。

– 難溶性電解質BmAn(溶解度;Cs mol/L)はある温度で僅かに水に溶けてイオンとなり不溶の固体との間で平衡状態となる。

BmAn mBn+ + nAm- 溶解 K

析出 m x Cs n x Cs

K = [Bn+]m x [Am-]n / [BmAn]

(固体)

Ks = [Bn+]m・[Am-]n

= (m x Cs)m ・(n x Cs)n = mmnnCs(m+n)

BmAn

mBn+ nAm-

溶解度積は溶解度が大きくなれば大きくなる。溶解度積が小さいほど溶けにくい

AgCl、BaSO4、Ag2S、Zn(OH)2

AgCl;Cs2(mol2/L2)、BaSO4;4Cs3(mol3/L3)、Ag2S; 4Cs

3(mol3/L3)

(mol(m+n)/L(m+n))

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弱電解質の溶解度

分 分

分 分

固体

分 分

分 分

固体

イ 分

分 分

固体

イ 分

分 :分子形(R-COOH、R-NH2) イ :イオン形(R-COO- 、R-N+H3 )

溶解度 Cs = [分子形] + [イオン形]

溶液のpHで変化する

温度が一定で分子形の溶解度は一定 溶液のpHにより変化しない

飽和溶液の上清の濃度 g/dL、mol/L

pH変化 平衡が

ずれて

固体が

溶解

解離

遊離

弱電解質のpH、pKaの関係(1)

• 弱酸性物質

(固体) HA HA H+ + A- (イオン形)

(分子形)

Cs = [HA] + [A-] pH = pKa + log

[A-]

[HA]

[A-] = [HA] x 10pH - pKa

Cs = [HA](1+10pH - pKa)

Cs = [分子形](1+10pH - pKa)

Ka

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弱電解質のpH、pKaの関係(2)

• 弱塩基性物質

(固体) B B + H+ BH+ (イオン形)

(分子形)

Cs = [B] + [BH+] pH = pKa + log

[B]

[BH+]

[BH+] = [B] x 10pKa - pH

Cs = [B](1+10pKa - pH)

Cs = [分子形](1+10pKa - pH)

Ka

塩基化合物にpKaが記されて いる場合は、その共役酸のpKa を示す。

弱電解質のpH、pKaの関係(3)

• 弱酸性物質

[分子形]

2 [分子形]

Cs = [分子形](1+10pH - pKa)

pKa

pH = pKa のとき

Cs = 2 [分子形]

Cs

pH

イオン形が増加、溶解度増加

分子形とイオン形が1:1で存在するとき

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弱電解質のpH、pKaの関係(4)

• 弱塩基性物質

[分子形]

2 [分子形]

pKa

pH = pKa のとき

Cs = 2 [分子形]

Cs

pH

イオン形が減少、溶解度減少

Cs = [分子形](1+10pKa - pH)

弱電解質水溶液(まとめ-1)

基本

反応式

弱酸性物質 弱塩基性物質

HA H+ + A- Ka

B + H+ BH+

Ka

解離定数 Ka= = [H+][A-]

[HA]

[H+][イオン形]

[分子形] Ka= =

[H+][B]

[BH+]

[H+][分子形]

[イオン形]

Henderson- Hasselbalch の式

pH = pKa + log [A-]

[HA]

pH = pKa + log [イオン形]

[分子形]

pH = pKa + log

pH = pKa + log [分子形]

[イオン形]

[B]

[BH+]

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弱電解質水溶液(まとめ-2)

分子形

モル分率

弱酸性物質 弱塩基性物質

解離度α

(イオン形

の割合)

1 1 + 10pH-pKa

分子形分率= 1

1 + 10pKa-pH 分子形分率=

α= 1

1 + 10pKa-pH α= 1

1 + 10pH-pKa

溶解度

Cs

Cs = [分子形] + [イオン形]

= [分子形](1 + 10pH-pKa)

Cs = [分子形] + [イオン形]

= [分子形](1 + 10pKa-pH)

溶液のpHがpKaと同じとき

Cs = 2[分子形]

弱電解質水溶液(まとめ-3) 弱酸性物質 弱塩基性物質

分子形

分率曲線 50 %

100 %

分子形

イオン形

pKa

pKa-1

pKa-2

pKa-3 pKa+1

pKa+2

pKa+3

50 %

100 %

pKa

pKa-1

pKa-2

pKa-3

分子形

イオン形

pKa+1

pKa+2

pKa+3

1 :

1

1

:

10-2

1

:

10-1

1

:

10-3

1

:

10

1

:

102

1

:

103

分子形

イオン形

1 :

1

1

:

10-2

1

:

10-1

1

:

10-3

1

:

10

1

:

102

1

:

103

分子形

イオン形

-COOH -COO- -N+H3 -NH2

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共通イオン効果(沈殿促進)

沈殿を構成するイオンと共通なイオンを供給添加することにより、沈殿の解離平衡が沈殿生成方向に傾くため、溶質の溶解度が減少し沈殿生成が促進される。

例;AgCl溶液(飽和濃度以下)にNaClを加えると、総[Cl-]が増大するために[Ag+][Cl-]の値が溶解度積の値より大きくなり、AgClの沈殿が生じる。

異種イオン効果(溶解促進)

沈殿平衡(沈殿が存在している)にある(過)飽和溶液に溶液中のイオンとは異なるイオンから成る物質を溶液に添加すると、沈殿の溶解が起きる。

例;AgCl沈殿が生じているAgClの飽和溶液に、硝酸HNO3を加えると、これまで溶液中には存在しなかったNO3

-とAg+との溶解度積が極めて大きいために沈殿していたAgClが溶解し始める。

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溶解度と溶解度積(2)

問題 ある難溶性塩M2X(分子量 250)は、水中で解離し、次式のような平衡状

態にある。

(M2X) ⇔ 2M+ + X2-

M2Xは水 1 Lに 1.0 mg溶けた。溶解度(mol/L)と溶解度積の正しい組合せは

どれか。

溶解度 溶解度積

1 4.0 x 10-6 2.56 x 10-16

2 4.0 x 10-6 6.40 x 10-11

3 4.0 x 10-3 2.56 x 10-16

4 4.0 x 10-3 1.60 x 10-17

5 2.5 x 10-3 6.40 x 10-11

溶解度 = 1.0 mg/L = (1.0 x 10-3 / 250) mol/L = 4.0 x 10-6 mol/L

溶解度積 = [M+]2[X2-] = (2 x 4.0 x 10-6)2 x (4.0 x 10-6) = (8 x 10-6)2 x (4.0 x 10-6) = 64 x 10-12 x (4.0 x 10-6) = 256 x 10-18

= 2.56 x 10-16

溶解度と溶解度積(3)

問題 難溶性電解質MX2は水中では、次式の平衡状態で存在する。

MX2 ⇔ M2+ + 2X-

溶解度および溶解度積に関する記述の正誤について、正しい組合せ

はどれか。

a 難溶性電解質MX2の溶解度積Kspは、各イオンの濃度積[M2+][X-]で

表せる。

b 難溶性電解質MX2の溶解度積Kspは、 [M2+][X-]2で表せる。

c MX2の溶解度をCsatとすると、その溶解度積はKsp= Csat2である。

d MX2の溶解度をCsatとすると、その溶解度積はKsp= 4Csat3である。

e X-イオンを添加すると、MX2の溶解度は増加する。これを共通イオン

効果という。

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弱電解質物質

問題 pKa = 4.7の弱酸性薬物に関する次の記述の正誤は?

( ) pH = 5.7の場合、[分子形]:[イオン形] =1:10である。

( ) pH = 4.7の場合、分子形分率は50 %である。

( ) pH = 4.7の場合、溶解度は分子形のみである。

( ) [分子形]:[イオン形] =100:1の場合、pHは2.7である。

問題 弱電解物質に関する次の記述の正誤は?

( ) pKaの値は、解離している分子種と解離していない分子

種が等モル量存在している溶液のpHに等しい。

( ) 25℃における弱電解質水溶液では、pKa x pKb = 14と

して取り扱える。

( ) pKa = 8の塩基性薬物は、pH = 9の水溶液においては

ほとんどがイオン形で存在している。

x

x

x

x

弱電解質物質

問題 ある酸性医薬品の溶解度は pH 2以下で 0.010 mol/L で あった。また、pH 5 における溶解度は 0.020 mol/L であった。

この医薬品のpKaはいくらか。

また、pH 6 におけるイオン形濃度は、分子形濃度の約何倍か。

この医薬品の分子形の溶解度 [HA] = 0.010 mol/L

[HA]:[A-] = 1:1のときpH = pKaとなるので、[A-] = 0.010

mol/LのときのpH = pKa

Cs = [HA] + [A-] = 0.010 + 0.010 = 0.020

全体の溶解度が0.020 mol/LとなるpH = 5のときがpKa

→ pKa = 5

pKa = 5であることから、pH = 6では、分子形:イオン形 = 1:10 → 10倍

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弱電解質物質

問題 ある酸性医薬品(pKa = 8)の pH 4での溶解度は 0. 1

mg/mLである。この薬物の100 mg/mL濃度の水溶液を調製

するには、pHをどれほどにすればよいか。

この酸性薬物(pKa = 8)のpH 4での溶解度0.1 mg/mLは、

分子形の溶解度である。

Cs = [HA](1 + 10pH-pKa) であるから

100 mg/mL = 0.1 mg/mL (1 + 10X-8)

x ≒ 11

pH = 11 にすればよい。

弱電解質物質

問題 下の図はある酸性化合物の化学種(イオン形又は分子形)

のモル分率とpHとの関係を示したものである。次の記述 a ~ c の

正誤について、正しい組合せはどれか。

a.曲線の交点のpHは、その化合物

のpKaに等しい。

b.曲線の交点より低いpHでは、イ

オン形の濃度が分子形の濃度

より高い。

c.pH 8以上ではほぼ完全に分子形

として存在する。

分子形 イオン形

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分配平衡

•溶媒抽出solvent extraction – 分配平衡(distribution equilibrium)、分配係数

(distribution coefficient)、分配比(distribution ratio)

– 酸性物質を効率良く有機溶媒抽出するためには、その酸性物質のpKaよりも、溶液のpHを2程度( )設定する。

– 塩基性物質を効率良く有機溶媒抽出するためには、その塩基性物質のpKaよりも、溶液のpHを2程度( )設定する。

– 「 形」にすれば有機溶媒に溶けやすくなる。

分子

低く

高く

分子

分配平衡 分液ロートの実験をイメージして

混ざり合わない二つの溶媒系(例;有機溶媒と水)において、物質Aが分配平衡にあるとすると、平衡定数Kは

K = [A]o/[A]w = KD

D = = co/cw

有機相に存在するAの濃度

水相に存在するAの濃度

分配係数

分配比

E (%) = x 100 抽出(百分)率 D

D + (Vw/Vo)

Vw/Voの値が 小さいほど

抽出率がよい

抽出溶媒の容量が一定である場合、一回の抽出に全量を使用するよりも数回に分けて抽出操作を繰り返した方が効果的である。 溶質W gを含む水溶液V mLを有機溶媒V mLでn 回抽出を繰り返した場合のn 回抽出後の水相に残存する溶質の量をWn gとすると

Wn = W ( ) Vw KDVo+Vw

n

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化合物A 1 gが水100 mLに溶けている。有機溶媒100 mLを使って抽出する。 化合物Aの有機溶媒/水系における分配比Dは3.0とする。

①有機溶媒100 mLを全て用いて1回抽出

②有機溶媒50 mLづつを全て用いて2回抽出

E (%) = x 100 = x 100 = 75 D

D + (Vw/Vo) 3.0

3.0 + (100/100)

水層中1gのうち0.75 gが有機溶媒中に抽出された(抽出率75%)。

E (%) = x 100 = x 100 = 60 D

D + (Vw/Vo) 3.0

3.0 + (100/50)

一回目

水層中1gのうち0.6 gが有機溶媒中に転溶する。

E (%) = x 100 = x 100 = 60 D

D + (Vw/Vo) 3.0

3.0 + (100/50)

二回目

残っていた水層中0.4gのうち0.24 gが有機溶媒中に転溶する。

合計 0.84 gが有機溶媒に抽出されたことになる(抽出率84%)。

分子形⇔解離⇔イオン形 •分配係数;partition coefficient

– 真の分配係数(P真) •水層のpHによらず、温度が一定であれば常に一定

– みかけの分配係数(Pみ) •水層のpHにより変化する

P真 = [分子形]有機層

[分子形]水層

Pみ = [分子形]有機層

[分子形]水層 + [イオン形]水層

= x 分子形分率 [分子形]有機層

[分子形]水層

= P真 x 分子形分率

分子形分率; 水相中における 分子形の割合

⇔pHにより異なる

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問題 互いに混ざり合わない水相と有機溶媒相間での,溶質の

分配平衡に関する記述のうち,正しいものの組合せはどれか。

a 分配平衡では,溶質の各相での化学ポテンシャル(部分モル

自由エネルギー)は等しい。

b 親油性の溶質は,誘電率の小さい有機溶媒ほど分配係数が

小さくなる。

c 分配係数C(oil)/C(water)は,有機溶媒相と水相間の溶質

の標準化学ポテンシャル差によって決まる。

d 弱酸の見かけの分配係数は,水相のpHが低いほど小さくな

る。

水系 双極子モーメント、誘電率が大きい(高極性)→ 高極性溶媒に溶け易い 双極子モーメント、誘電率が小さい(低極性)→ 低極性溶媒に溶け易い 有機溶媒系

×

×

問題 pH 7.4における見掛けの分配比を求める目的で、pKa =

7.4の酸性薬物300 mgを秤量し、pH 7.4の緩衝液に完全に溶か

して50 mLとした。ついで、クロロホルム50 mLを加えて激しく振

り混ぜ、静置して分配平衡が成立した後、おのおのの相中の薬

物濃度を測定したところ、クロロホルム中の濃度は4 mg/mLで

あった。(薬物のイオン形はクロロホルムには移行しないものと

する)

見掛けの分配比(クロロホルム/緩衝液)に最も近い値はどれか。

1 4 2 3 3 2 4 0.66 5 0.5

水相中の分子形薬物の濃度に最も近い値はどれか。(単位:

mg/mL)

1 1 2 0.5 3 5 4 0.4 5 2

4x50=200 mg(ク)/100 mg(水)

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問題 物質の溶解に関する記述のうち,正しいものの組合 せはどれか。

a 溶媒の誘電率が大きいほど電解質は溶解しやすい。

b 溶媒分子と溶質分子間に双極子相互作用が働くと,溶

解しにくくなる。

c エタノールを水と混和する時,エタノールが水和するた

め発熱するが,エタノールおよび水の部分モル体積は

一定である。

d 硫酸バリウムが胃の造影剤として安全に用いられる理

由の一つは,その溶解度積が小さいことにある。

問題 溶解性に関する記述のうち,正しいものの組合せは どれか。

a エタノールは水酸基をもっているため,水にはよく溶け

るが,ジエチルエーテルには溶けにくい。

b グリセリンやグルコースは分子中に水酸基を多くもって

いるため,水によく溶ける。

c アミノ基やカルボキシル基は親水性基なので,分子量

の小さなメチルアミンや酢酸は水によく溶ける。

d 安息香酸ナトリウムはカルボン酸の塩なので水には溶

けにくい。

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酸化還元平衡

•酸化oxidationとは原子、分子或いはイオンが電子を失うことであり、

•還元reductionとは逆に電子を得ることである。

•反応する相手を酸化するものを酸化剤oxidizing agent、還元するものを還元剤reducing agentと呼ぶ

•反応すると、酸化剤自身は還元され、還元剤自身は酸化される。

•酸化還元反応redox reactionにおいて電子e-との反応は左辺に書くことになっている。

•酸化還元反応は酸性条件下で行う場合が多い。

Ox+ + ne- Red 還元

酸化

酸化還元平衡

M+ + ne- M

ある金属板Mを同じ金属イオンM+を含む溶液に浸けると、金属板と 溶液間には のような平衡が成立する。 金属のイオン化の程度が大きければ、溶液はプラス、金属板はマイナスに帯電し、両者間には電位差が生じる。これを半電池(電極)といい、電位差を電極電位或いは酸化還元電位と呼ぶ。

酸化還元反応 A + B C + D に伴う自由エネルギー変化ΔG は ΔG = ΔG0+ RT ln で表される。 nを反応に与る電子の数、Fをファラデー定数(1当量当たりの電気量)、 Eを半電池間の電極電位の差(電池の起電力)とすれば、関係式 ΔG = -nFE が得られる(反応が自発的に起こるためには自由エネルギー変化は負で ある必要がある)。

aC aD aA aB

R;気体定数 T;絶対温度 a;活量、ΔG;標準自由エネルギー ΔG0;a=1のときのΔG

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酸化還元平衡

ΔG = -nFE

ΔG0 = -nFE0 標準酸化還元電位をE0とすれば

標準酸化還元電位

standard redox potential

標準水素電極standard hydrogen

electrodeを基準電極(E0 = 0 V)として

求められた各種半電池反応の電極電位

であり、半電池反応における酸化剤と

還元剤の活量が夫々1のときの電位

-nFE = -nFE0 + RTln aC aD aA aB

両辺をーnFで割ると

E =E0– ln aC aD aA aB

RT nF

ネルンスト式

半電池反応の電極電位Eを与える重要な式

酸化還元平衡

E =E0– ln aC aD aA aB

RT nF

ネルンスト式

各物質の活量を各物質の濃度で表しても近似できる。

E =E0– ln RT nF

[C][D]

[A][B]

25℃における低数値、F=96.485 C/mol、R=8.314 J/K・mol、T=298.15 Kを 代入し、自然対数を常用対数に変換(ln x = 2.303log x)。

E =E0– log 0.059 n

[C][D]

[A][B] 単位はボルトV

E =E0 + log 0.059 n

[Ox]

[Red]

酸化還元反応にあてはめれば

Red

Ox

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•電池;半電池と半電池を組み合わせたもので、可逆的に進行する酸化還元反応の自由エネルギーを電気エネルギーに変える装置。

酸化還元平衡

ダニエル電池の例

Zn2+ + 2e- Zn E0zn = -0.763 V Cu2+ + 2e- Cu E0Cu = 0.337 V

Zn + Cu2+ Zn2+ + Cu Red Ox

E0の大きい方が強い酸化剤(正極)、 E0の小さい方が強い還元剤(負極)。

電子は負極から正極へ、電流は正極から 負極へ流れる。

電池の標準起電力は標準酸化還元電位の差 (正極-負極);0.337-(-0.763)=1.1 V

次の記述の正誤について答えなさい。

( )イオン、原子や分子などの化学種が電子を失う反応を 酸化という。 ( )電池の起電力は、両極の半電池反応の標準酸化還元電 位の差である。 ( )標準酸化還元電位とは、半電池反応において酸化体と 還元体の活量がそれぞれ1のときの電位である。 ( )半電池反応は2組の半電池反応の組合せであり、標準 酸化還元電位の小さい方が酸化剤となって進行する。 ( )半電池反応、Ox + e- Red におけるネルンスト式 は、25℃において である。 E = E0 + log

0.059 n [Ox]

[Red]

×

×

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イオン交換 イオン性化合物(電荷を有する化合物)を、 (イオン選択的に)分離・精製する目的でイオン交換体(固体膜、固体樹脂など)への吸着・脱離を実施する。

イオン交換体 -

-

-

-

- - -

- -

- - - -

- -

-

- -

-

- -

-

イオン交換体 -

-

-

-

- - -

- -

- - - -

- -

-

- -

-

- -

-

イオン交換体 -

-

-

-

- - -

- -

- - - -

- -

-

- -

-

- -

-

-

-

N

N

+ -

-

N

N

イオン交換体 -

-

-

-

- - -

- -

- - - -

- -

-

- -

-

- -

-

N

吸着

洗浄

脱離

+ +

イオン交換 •イオン交換体

– 無機イオン交換体;アルミノケイ酸ナトリウム等

– 有機イオン交換体;ポリスチレン系合成樹脂等

(スチレン-ジビニルベンゼン共重合体)

•陰イオン交換体と陽イオン交換体

– 陰イオン交換体;4級アンモニウム基、DEAE基等

– 陽イオン交換体;スルホ基、カルボキシ基等

支持体高分子

イオン交換基

-SO3H -COOH

-NH< -CH2CH2N(C2H5)2 R R

+

強 ⇔ 弱

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•イオン交換平衡

•イオン価とイオン半径

– イオンの電荷が大きいほど吸着性が高い

– (水和)イオン半径が小さいほど吸着性が高い

•イオン交換容量

– イオン交換体のイオン交換能力

– 単位;eq/g

イオン交換

R-SO3H + M+ R-SO3M + H+

[R-SO3M][H+] /[R-SO3H][M+] = KM イオン交換定数; 値が高いほどイオン交換体 への吸着性が高い