オーストリア林業視察研修 報告書 - seesaaブログ(シーサー...

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平成26年11月11日 オーストリア林業視察研修 報告書 掛川市森林組合 業務統括部長 尾崎友昭 オーストリア林業視察研修について、下記のとおり報告いたします。 1. はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 2. 研修の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 (1) 研修のねらい (2) 研修の日程 (3) 同行者 (4) 研修費 (5) オーストリアについて 3. 研修の成果①視察先ごとのまとめ・・・・・・・・・・・・・・ 4 4. 研修の成果②テーマごとの考察・・・・・・・・・・・・・・ 22 5. おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26

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平成26年11月11日

オーストリア林業視察研修 報告書

掛川市森林組合 業務統括部長 尾崎友昭

オーストリア林業視察研修について、下記のとおり報告いたします。

1. はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

2. 研修の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

(1) 研修のねらい

(2) 研修の日程

(3) 同行者

(4) 研修費

(5) オーストリアについて

3. 研修の成果①視察先ごとのまとめ・・・・・・・・・・・・・・ 4

4. 研修の成果②テーマごとの考察・・・・・・・・・・・・・・ 22

5. おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26

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1.はじめに

平成26年10月、静岡県森林組合連合会よりオーストリア林業の視察研修に参加させていただく機

会をいただいた。この視察研修は静岡県森連の職員と単位組合の若手職員が共に林業先進地を視

察することで、今後の県内の森林組合系統組織、および県内の林業の発展に資することを目的とし

て行われた。

研修は大変有意義で、今後業務の展開を考えていく上で大変参考になるものだった。このような貴

重な機会をいただいたことについて、県森連および系統各組合の皆様、そして当組合の代表理事お

よび職員の皆様に感謝を申し上げます。

2.研修の概要

(1)研修のねらい

オーストリア林業は急斜面を多く有する地形の中で、国の基幹産業として成り立っている。現在、

その技術の高さや資源活用の計画性、また国民の森林・林業に対する理解の高さにおいて、世界

の林業先進地のひとつと言われている。今回はこのオーストリア林業の概況を知ると共に、とくに

以下の点に注目し、日本の林業や、森林組合組織に参考になる点を探った。

・高い生産性の集材システム

・原木流通システム

(とくに小規模森林所有者に対する原木流通コーディネートの実態)

・フォレスターの業務(森林管理と施業提案)

・バイオマス利用の実態

(2)同行者

望月鉄彦(静岡県森林組合連合会)

植木達人(信州大学農学部教授)

守口海(信州大学農学部大学院生)

塩原豊(長野県林務部長)

高橋太郎(長野県林業総合センター主査)

モニカ・ツィグラー(現地通訳)

(3)研修費

今回の研修費は県森連のスタンレー㈱の「静岡県の森林保全のための寄付金」が活用された。

研修費は航空運賃・通訳・宿泊費ほかで1人 427,870円。うち、掛川市森林組合の負担は3分の1。

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(5)オーストリアについて

位置 : 中央ヨーロッパ

ドイツ・スイス・イタリア・チェコなど

8カ国と国境を接する。

気候 : 北部は温帯

中央から西部はアルプスの山岳気候

南部は地中海性気候

面積 : 8万 3879km2(北海道と同程度)

森林率 : 国土の 48%が森林

主要河川 : ドナウ川(350km)

最高峰 : グロースグロックナー山(3797m)

森林所有形態 : 5ha未満の森林所有者が

全体の約半分を占める

森林・林業・木材産業が国の基幹産業 : 第 1の産業が観光。第 2が森林・林業・木材産業

林業技術・バイオマス活用技術で世界のトップランナー : 近年日本からの視察が相次いでいる。

1987年国民投票で原発を否決 : 建設した原発を一度も稼働しないで閉鎖

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(4)研修の日程

2014年 10月 26日 (日)

成田空港発 フランクフルト経由 グラーツへ 18時着 タクシーでホテルへ

グラーツ泊

2014年 10月 27日 (月)

マイヤーメルンホフ・フォレストテクニック社を訪問 会社と現場 3箇所を視察

視察内容 : 大規模森林所有者の経営状況および先進的木材生産システム

グラーツ泊

2014年 10月 28日 (火)

ワルトヴァ―バンド(シュタイヤマルク州森林組合)訪問

視察内容 : 小規模森林所有者のコーディネートの仕組み

ピヒル森林研修所訪問

視察内容 : 研修所での森林・林業に関わる人材育成の仕組み

レオーベン生産森林組合訪問

視察内容 : 生産森林組合の概要

グラーツ泊

2014年 10月 29日 (水)

ツェヒナホルツ(ツェヒナ木材)訪問

視察内容 : 小規模製材所の現状

ホルツバウアー(バウワー木材)訪問

視察内容 : 小規模ペレット生産

グラーツ泊

2014年 10月 30日 (木)

ポッシュ(薪割り機メーカー)訪問

視察内容 : 薪割り機製造工場の見学と薪利用について

ヒッツェンドルフのバイオエネルギー協同組合訪問

視察内容 ; 協同組合による小規模チップボイラー経営と熱供給システム

熱利用協同組合の仕組み 早生樹種ヤナギの栽培とチップ化

視察後オシアッハへ移動 オシアッハ泊

2014年 10月 31日 (金)

オシアッハ森林研修所訪問

視察内容 : 研修所での森林・林業に関わる人材育成の仕組み

グラーツ市内 建築中 CLT集合住宅見学

視察内容 : CLT建築 グラーツ泊

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3.研修の成果①視察先ごと日程順に考察

視察の成果について視察先順に述べる。

2014年 10月 27日 (月)

マイヤーメルンホフ・フォレストテクニック社を訪問 会社と現場 3箇所を視察

視察内容 : 大規模森林所有者の経営状況および先進的木材生産システム

マイヤーメルンホフ・フォレストテクニック社概要

28,000haの森林を管理・経営する国内最大手の民間林業会社

森林管理のためフォレスターを雇用している

年間 18万 m3生産、間伐が 35%

2008年は雪害、風害、虫害で 20万 m3

車両系集材と架線系集材

森林経営

更新 カラマツ:植える(根が張るため、最近人気)

トウヒ:植えたり植えなかったり。種は国外産が多かった

ブナ:植えずに天然更新

原木価格と種類

製材用:1m396~100ユーロ(いいもの) 14cm上平均:60~65ユーロ

バイオマス用:1m3 3ユーロ(他地区 5ユーロ) ブナ(セルロース):40ユーロ

労働賃金

時間 15ユーロ(もらった資料では端数が高い)、税金が引かれると 11ユーロ程度

雨で中断の場合:実働 3hなら 6h、2hなら 4h分つける

フォレスターは森林管理を行う為の資格 賃金はあまり高くないが社会的には尊敬されている。

フォレスターは初任給 1600ユーロ、週 40h。実際は残業代でもう少し多い。昇級有り

参考:モニカさん(通訳)と同程度の年齢の小学校教員:3800ユーロ

ボーナス 2回、2 ヶ月固定

労働条件

月~木 9h、金 8h労働

時給制

最低賃金 10ユーロ弱(農林会議所が決める)

その他

地域熱供給:地域単位の温水暖房、チップボイラー稼働(平均 700kW)

地域熱供給にはブナが人気

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林道:大多数が賛成すれば反対する人の林地にも開設する

レオーベンのグループ会社製材所は丸太 120万 m3/年

1000ha以上の経営規模ではフォレスターが必要

オーストリアではゾーニングはない。保安林以外では全ての林地で、木材生産、レクリエーショ

ン、防災、環境の 4つの機能を発揮させる

200ha未満の林地には作業に応じて補助金が出る

マイヤーメルンホフ・フォレストテクニック社

Johannes Loschek氏

背後にあるのが当社事務所

MAYR-MELNHOF社製搬器

MM-SHERPA 3t(3t 仕様が最も汎用性が

高い。)

発売:1980年

横取り距離:12mm径で 64m

現場 1

現場概要

急斜面地の小面積皆伐

MM-SHERPA 3t

全搬出材積:340m3

計画生産性 12m3/時

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シンクロファルケ(トラックにタワーヤーダとプロセッサが搭載されたコンビマシン)

一式 40万ユーロ (約 5600万円)

空走最大 9.5m/sec、見学時 max7.8m/sec(見学時平均 6m/s) 架線架設に 3~4h

集材作業 2 名(伐倒は先行して実施)オペレーターは集材機操作、プロセッサによる造材作業及び

A材(製材工場用)B材(チップ工場(製紙工場)C材(バイオマス用材)の仕分けを実施。搬出コスト

は 25ユーロ/m3

トラック(10t)の輸送は、買取側(製材工場が手配)

4本の控え索は繊維ロープを使用している

周辺には小面積皆伐地がちらばっている。

(皆伐は 2haまでと法律で決まっている)

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現場 2

現場概要

初回間伐の現場

MM-SHERPA 3t 500m

当日朝回送、設置

14:30の時点で 34m3集材 製材用丸

太・チップ材に仕分中

3人作業、一人伐採、他二人が搬出

控え索は繊維ロープを根株に一巻し

てシャックルで止めている。

現場 3

8 輪走行のフォワーダ(グラップル付き)によ

る急斜面地の集材作業

ウインチでワイヤーを手繰り寄せながら登坂

走行路に枝条を敷き、林地を傷めないように

工夫

同形態の作業はウィンチなしで 40%、ありで

60%の斜度まで可能

オペレーターの技術が相当高くないと不可能

な作業方法(残存木を傷める。ミスが大事故

のつながる。)

山林内にちらばっている材を径級をみながら

集材。(仕分けながら集材)

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2014年 10月 28日 (火)

ワルトヴァ―バンド(シュタイヤマルク州森林組合)訪問 WALD VER BAND

視察内容 : 小規模森林所有者のコーディネートの仕組み

WALD VER BANDの概要

小規模森林所有者の素材の有利販売(材積が少ないため、買い取って製材所に有利に売払う)

が目的。

(木材生産量の 50%弱を 50ha 未満の小規模林家からの出材が占める。小規模所有者へのサポ

ートが必要。)

二つの業務

① 小規模林家の木材のマーケティング。林家と製材所を結ぶコーディネート。

② 小規模林家の代表 政治的なロビー活動。

有料のサービスも有り(伐採業者への伐採依頼など)

54の地域森林組合―各州の森林組合―全国森林組合 三階層の組織

林野庁や州政府との関係はあるが、行政から独立した民間の組織

事務所建物入口

シュタイヤマルク州 州都グラーツ中心部

農林会議所の近く

Maximilian Handios氏

WALD VER BAND 事務局長

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メンバー

森林所有者が任意加入。

現在 12,615名(対象 4万人)約1/3

毎年 300人ずつ増加。小規模製材業の倒産により小規模搬入が困難になったことが 1要因。森林

組合への木材の販売に対する依存度が高まる。

管轄する森林面積は 30万 ha/100万 ha その他は国有林(15%)500~3000haの大規模所有

者。

業務の流れ

各メンバーが年内の出荷計画量を提示。

(インターネットにメンバー専用のプラットフォームがあり、これを利用する。)

それを基に安定供給ができるよう計画、製材会社と交渉 100万㎥/年

毎週、社長が郡の代表と一緒に製材会社などと交渉をする。

また、どこに売れば有利かをアドバイスする。

各地区に森林ヘルパーがおり、森林組合の業務をサポート。森林ヘルパーの中に木材生産業者も

いる。

(森林ヘルパー → 大使館の資料では「森林管理員」と表記されている。)

製材会社の原木の品質と量を考慮し売り先と交渉

運搬業者が概算材積を記載した伝票を発行。山主と WVB と製材所が共有。

原木の品質,径級、長さ等を 1本ずつ表示、材積を確定(正確な材積は納入した製材工場で)

WVBを通して丸太を売れば、入金は保障される。(与信管理)

他の業務

各種イベントの実施

ex高付加価値材の入札会 カエデ、クルミ:化粧用で高いものがある(ほとんどはない)

11月に入札、開札は翌年 1月 600~1000㎥ 年 1回の入札

高付加価値材の生産のために施業するということはない

以前はだまされて安く買われることがあった

最高 1万ユーロ/m3

小規模製材所で専門に高価値材を挽くところがある

メンバーの為の広報誌の発行(3 ヶ月に 1度)

原木データ

製材所が管理、1本ずつ原木のデータあり。ある製材所は前後から写真をとる

需要・供給増減への対応

製材側の都合で材が必要なくなったとき:土場を確保、原木の 90%は支払い済。製材所も負担

風害時:価格の調整により供給量を平準化

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資金

会費と州からの金がメイン

以前から国からも出たが、今は出ない

収益の為、EUのプロジェクトなども実施している。

ロビー活動費として 25~35ユーロ/人・年 組合員から徴収

マーケティング活動費として 1.5ユーロ/㎥徴収(手数料)

その他

オーストリアの 3つの会議所の存在

加入が義務(代表を置くことが決まっている)、要会費。選挙 5年に 1回

経済会議所:自営業(素材生産業者はこちら)

農林会議所:農業者・林業者

商工会議所:

政府の決定に影響を与える。政策提言を行う。

森林組合は個人の代表としての立場で会議所に加入

オーストリアにおける林業者とは、森林所有し森林経営を行う者とし、いわゆる林業事業体とは区

別し、政策提言を行う。

ピヒル森林研修所訪問

視察内容 : 研修所での森林・林業に関わる人材育成の仕組み

Pichi森林研修所

1947設立

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Pichl森林研修所概要

第二次世界大戦後、木材の不足に悩まされた際、森林所有者を指導するために設立された。

現在では森林管理者・森林技術者・一般の人、様々な人を対象に森林の教育を行っている。

農林会議所がオーナー

植林から収穫まで林業全般を指導 大人の研修がメイン

305haの所有森林有り

制度

3600ha以上の森林ではForstacademiker(森林経営管理官)を雇用する必要がある(大学を卒業

して 2年実習、試験)

1000ha~3600haの森林管理・経営にはフォレスター(森林官)の資格が必要

~1000haは森林管理員(21歳以上、7年以上実習、11週の講習)

講習

森林作業者:18歳以上、定員 24名(教員 6名)、年 6回、5週/回

森林作業の方法、タワーヤーダ作業などの講習

専門森林作業者:経営、管理、売払い、林道作設等

バイオマス専門作業者:バイオマス施設管理・運用・経営

講師は常駐と臨時がある。

マイスターまでいっていないと講師にはなれない。

森林作業者講習の試験

試験 1日半(紙、口頭、実地)、前回合格率 50%、受講 3回まで(実際に出来るかどうかを重視)

タワーヤーダも張れるようになる(コンラッド・MM社とともに講習を行う。)

その他メニュー

チェンソー、タワーヤーダ講習、木に登る、高価値材の扱い、相続、女性の参入、建築加工、PR と

宣伝など

需要は参加者に聞いて考える

出張講習もある

法律に変更点等があればそれに対応して講習を行う。

所有森林

75%トウヒ、13%カラマツ

年 3000m3伐採、うち 1000m3講習

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所有山林での作業風景

ウインチ・グラップル付きトラクタ集材(ルードル

フ氏所有)

前後 25 度、左右 15 度の傾きでウインチがスト

ップするシステム

グラップル 1万ユーロ、

トラクタ 6万ユーロ、

ウィンチ 3万ユーロ、

傾きセンサー600ユーロ

オーストリアの小規模林家ではトラクター集材が

主流。

50%はトラクタ集材(トラクタは元々持っているこ

とが多い。(農業と兼用)

80馬力で OK

50ha 未満の林家が国全体の 50%弱の木材を

生産。

林道の通行止めは 4 ヶ月間までなら申請なし

でできる。

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レオーベン生産森林組合訪問

視察内容 : 生産森林組合の概要

歴史

4年前に 550周年

元々は鉄鋼産業が近くにあり、炭を売れば鉄が安く手に入ると考えて始まった

1813年に今の規定ができた。

所有森林の経営状況

6957ha。12の区域に分かれる、最遠 50km 斜度 58% トウヒ・モミ 78%、カラマツ 14%

年間 5万 m3生産(価格をみて伐採量を決める)

形態

森林は共有され、土地と人はリンクしない。組合員は権利を持つ。

入会林野の管理運営=生産森林組合

メンバー150人(権利数 152 ? )、任意加入は不可、105人は地区内

権利の比率は均等でない。また相続で分割される。分割されても権利者の管理は事務局が行う

組織

総会:年 1回、利益の処分との決定と 7人の代表選出。他の決定は代表

社長: Forest-meister 組合長ではない

Forester:3人、各 2000ha程度、1.5万~2万 m3

事務:1人 森林作業員:10人 他作業員:5人(トラック運搬、メンテナンス)

パート半日:1人 季節労働者:5人(植栽、獣害)

州に運営のチェック機能がある。(常例検査的なもの)

木材収穫だけでなく狩猟でも収益がある。

14世紀から続いている伝統のある組織。新たにメンバーには入れない。

収益

年間 100万ユーロの純利益、うち 3/4が木材売払い。以下バイオマス、賃貸料、石材等の収益

ここから税金、導入機械などの経費を引いて配当とする

風力発電へ投資も一部行う

Franz Prein氏 事務局長

隣が通訳の Dr.Monika Cigler氏

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2014年 10月 29日 (水)

ツェヒナホルツ(ツェヒナ木材)訪問

視察内容 : 小規模製材所の現状

1901開業の製材工場

トウヒ、アカマツ、カラマツ、モミ 3~14m

乾燥は 12m まで(長尺への対応が強み)

丸太 5000m3を挽く

製品 2500m3 出荷

丸太は 50km圏内から購入、期間 11月か

ら(冬期間のみ)

4 月以降は原木の仕入れは行わず、工場

敷地内に山積みし、年間を通して加工す

る。

リングバーカ

山主毎にバーカに原木を投入し、1本ずつ

丸太を計測(3D レーザー)し、径級、材質

毎仕分け表示し材積を確定。

林家は不定期に検知等を確認するが、大

概は製材工場を信頼している。

桟木もプレナーをかける(EU の梱包材の規

格)

一枚からでも挽く、断面が平行四辺形など、特

殊なものも対応

プレナー加工は1/3、粗挽き2/3 8割が乾燥

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天然乾燥も一部実施。新月伐採による原木を

仕入れ天然乾燥し仕上げ加工を行い販売。

小さな製材工場は他がやらないことをやらない

と生き残れない。

売り先は 80%が商社、20%が小売。主に住宅

用木材として

木材はカスケード利用することが大切。チップ

ボイラーを持っている(社長)

作業はフォークリフトではなくグラップルロ

ーダで

Monika Zechner氏(中央の女性)

州の製材所代表(経済会議所)

林業関係の女性組織の理事長

小規模林家と小規模製材工場を繋ぐコーディ

ネーターとして活躍中

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オーストリア製材業について

国内 1500、うち 1470は小規模で生産量の 12%

1960年には州内 1000以上→現在 160 うち 3カ所が大規模

小規模は家族経営

地域内から原木を仕入れて海外にも売る

EUの補助金は大規模工場に流れ、小規模はギリギリの経営をしている。(大規模製材所の設立には

補助金が入った)

半数の製材所は林道まで材を取りに行くトラックがある。他は林家や輸送会社に頼む

買い付け先

丸太は 50km圏内から購入、期間 11月から(冬期間のみ)、買付先は 8割が固定林家。

2008年の風害で買い付け先の 80%がダメに → 森林組合(WVB)や小さい林家から購入した。

固定でない林家の場合、山を見に行って交渉する

森林組合がないときは林家が売り込みに来た。前世代は山見に 8割の時間

丸太代金は 45日以内に支払う

原木価格は他地域より 3割高い(欧州で 1番)が地域外からは仕入しない。

林家は工場がどのような原木を欲しがっているか理解している。製材工場と林家はパートナー的関係

規格外の原木を仕入れることにより原木価格を上げることが出来、大規模工場との差別化を図る。

大規模製材工場の関係

大規模は買い付けの人員不要、材は連合から大規模製材所に流れる。

値段の交渉ができなくなった。値段の固定化、製材の淘汰を心配

WVB(森林組合)や大型製材工場が価格決定を主導してしまっている。

「大きな製材工場は国際的に商売をすればいい。小さな製材工場の存在意義は他のところにある」

市民への木材 PR制度

1m330セントの宣伝費を徴収(経済会議所)大規模工場は強制。小規模工場は任意。林家は農林会

議所へ納入

この宣伝費を活用した木材利用に関する PRが効果大

おしゃれな社長宅(手造りとのこと)

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ホルツバウアー(バウワー木材)訪問

視察内容 : 小規模ペレット生産

経営の状況

総売り上げの 4/5がペレット

チップボイラー40万ユーロ、 ペレット施設 160万ユーロ、 今の調子では 10年以内に返済

ただし去年温暖のため供給過剰状態

製材部門 大規模製材所は輸出がメインであったが、輸入規制が各国であったため競合するように

なった。価格の決定権が大手に握られるようになってしまっている。

・ ペレットを製造している製材工場

大規模製材工場で経営難となり、ペレット生産

に活路を求めた

トウヒ、カラマツを製材している

(10m、65cm まで挽ける)

輸出がなく地域内で消費

丸太 4000m3を消費

32haの山林所有でもある。

用水路を利用した水力発電も行っている。水力発電 85kW

動力を得る為、昔から製材所は川沿いに位置していた

ペレット工場及び 600kW のチップボイラー(工場

内熱供給、地域熱供給)

ペレットは 6000t(1000家庭分)製造

売り先は 50km圏内、農家の暖房に需要

オガ粉買値 14.5 ユーロ/m3、ペレット 1t あたり

7.5m3必要

本来は絶乾重量で取引する

規格は EUにある

借り賃 350ユーロ/hの移動式チッパーを利用

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2014年 10月 30日 (木)

ポッシュ(薪割り機メーカー)訪問

視察内容 : 薪割り機製造工場の見学と薪利用について

ヒッツェンドルフのバイオエネルギー協同組合訪問

視察内容 ; 協同組合による小規模チップボイラー経営と熱供給システム

熱利用協同組合の仕組み 早生樹種ヤナギの栽培とチップ化

薪割り機の製造メーカー 67年前創立

従業員数創立時 2~3人→200人、2シフト制

敷地面積 2万 m2

累積 1.1万機を販売 駆動方式別で 600種類

中澤アグリマシンが窓口

マイスター制度

高校に進学しない人が 3 年間民間で技術を

習得する制度

2008 年に小規模林家 27 人で協同組合を設立し、

補助金を受けチップボイラー事業を行う。

年間 3500MWh、5000m3のチップ消費

原木は 10~15km圏内から調達、全て間伐材

スクリュー型のボイラーとスクリューなしのボイラーの

2台

150kW と 700kW のボイラー+12m3のバッファタンク

(普通は 30~40m3)

組合員である森林所有者は自ら間伐を実施、広い

場所へ搬出しておく。その後協同組合調達の移動式

チッパーが巡回してこれらを破砕する。

組合員からチップを購入。事業収入分は原料購入

価格を上乗せして組合員に還元

Johann Reicht氏 組合代表者

3haの畑、2haの森林を持つ 本業は消防士

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チップの供給

2/3は針葉樹(トウヒ)

全プロジェクトで 150万ユーロ投資

うち 1/3は補助金(現在は 30%)、2割は供給される側の加入費、15%は自己資金、残りは銀行。自己

資金は 1口 500ユーロ、チップを供給する権利を買う

組合員の持ち山合計 650ha、その知り合い含めて 1000ha

供給時期は 12月~2月が好ましい

ボイラーの売り上げ 22万ユーロ、チップ購入費用で 10万ユーロ

チップボイラーと熱供給システム

灰はセメント会社に有償で引き取ってもらう

熱交換器は 2000ユーロ、補助金の関係でボイラー側持ち

ネットで各家庭の暖房のパラメータ変更が可能

契約している家庭や施設での熱利用状況がリアルタイムオンラインで把握できる仕組み

1000kWの発電に対して 11kWの管理用電力が必要

月当たり消費量は冬 700m3、夏 100m3

集合住宅における小型チップボイラーと熱供給

1kW当たりで支払いするので良いチップを供給する(また、ボイラーがスクリュー式)

配管込みで 4万 6000 ユーロ 2 万ユーロは補助、2 万ユーロは入居者、6000 ユーロを 3 人(共同事

業者)で折半

1kW8セント

国内 2400カ所、州内 300カ所に同じシステム

補助の内訳は EUが 50%、州と国が半々

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ヒッツェンドルフの風景 牧草地と森林

Johann Reicht氏所有 ヤナギ畑

チップボイラー用の早生樹の栽培

1 回目は 2007 年に植栽、1 年後の夏に

7~8m、2009 年秋に収穫し 100m3/年の

チップ

植栽 1ha2000ユーロ、施肥無し

一番良い畑を使う(リン酸が必要)

2回目植栽(2010年~)施肥、無施肥とも

成長に影響せず

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2014年 10月 31日 (金)

オシアッハ森林研修所訪問

視察内容 : 研修所での森林・林業に関わる人材育成の仕組み

研修生の宿泊施設を完備

森林・林業の理論と実践すべてを学ぶことが出来る

グラーツ市内 建築中 CLT集合住宅見学

視察内容 : CLT建築

オーストリア連邦森林・自然災害・景観研究研

修センター(BFW)との5カ年の覚書を根拠と

した林業技術に係る連携・交流を軸とした長

野県の林業技術導入基本計画を説明する長

野県林務部長塩原氏と信州大学農学部教授

植木氏

対応しているのが、OSSIACH 森林研究所の

Johann Zoscher校長

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4.研修の成果②テーマごとの考察

今回の研修でとくに注目したテーマ、以下の4点について考察する。

・高い生産性の集材システム

マイヤーメルンホフ・フォレストテクニック社の集材システムは、最新鋭のタワーヤーダー

を使用し、非常に高い集材効率であった。現場で目にしたのは、タワーヤーダーとプロセッ

サーが一体となってトラックに積載されているコンビマシン「シンクロファルケ」であるが、こ

の機械で急斜面にもかかわらず次々と集材作業を進めていた。この機械は自社で開発さ

れたもので、皆伐作業にも間伐作業にも使用することができ、長年開発を続けてきた同社

のノウハウと情熱が凝縮されていると感じた。とくに顧問を務められているロシェック氏の

説明からは数多くの現場作業に裏打ちされた機械であることを実感した。

具体的には、搬器を高速で行き来させる大型ドラム、3人で2時間ほどで索張りを完了で

きるシンプルな索張りシステム、搬器の停止箇所を記憶しこれを効率的に操作できる高

性能リモコン制御システム、そして訓練を重ね高い技術を身に付けたオペレーターの存在

などが、効率性を高めていると感じた。

この機械の価格は数千万円ということである。日本では岡山県の山陽商事㈱が代理店

となっており、高知県の香美森林組合が導入しているとのことだ。今後、静岡県において

森林資源の利活用の効率を高めていく上においては、このような高性能タワーヤーダーシ

ステムは必ず必要となってくるであろうが、機械を選定する場合には、このマイヤーメルン

ホフ・フォレストテクニック社のタワーヤーダも参考にすべきと思われる。オーストリアには

MMF 社の他に KONRAD 社など林業機械メーカーがいくつか存在するので、幅広い視野

で今後の集材システムや機械選定について検討すべきである。

しかしながら、オーストリアにおいて集材システムのすべてをこのような高性能な機械が

担っているわけではないことも忘れてはならない。だいたい高性能機械は高価であり、こ

れらを導入できるのは資金力のある大規模森林所有者に限られているようだ。多くの小規

模森林所有者は、効率性は低くても安価で汎用性のあるトラクターやウインチを使った集

材方法を採用しているようである。オーストリアの素材生産量の半分以上を 50ha 以下の

小規模所有者が担っていることを考えると、安価な機械を使ってコツコツと生産できる環

境が整えられていることも重要なことであると思われる。小規模所有者をサポートするシス

テムについては次項以降で取り上げる。

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・原木流通システム

(とくに小規模森林所有者に対する原木流通コーディネートの実態)

まず山側、森林所有者に目を向ける。先にも述べたが、オーストリア全体の素材生産量

のうち、小規模所有者の生産がその半分以上を占め、必ずしも大規模でなくても林業が

成り立つように小規模所有者をサポートするシステムが整っているといえる。その一端を担

っているのが WVB(ワルトヴァーバンド、日本で言う森林組合)という組織である。

WVB には小規模森林所有者が会費を払って加入し、そのサービスを利用する。具体的

には、組合員全体の年間の出材量をインターネットの専用フォームを使って把握し、全体

の生産予定量をもとに製材所と単価交渉を行う。また、WVB は各村の森林サポーターと

契約をしていて施業の提案を行うし、伐採業者の紹介も行う。WVB を通して原木を売れ

ば売上代金を確実に回収する与信管理の機能も有している。このほかに WVB は政府に

対するロビー活動、会員や消費者向けの森林・林業・木材のPRイベントの開催やPR誌の

発行、会員向けの高価値材入札会も行っている。

このWVBという組織は日本における森林組合に近い存在である。ただ大きく異なる点は、

日本の森林組合のように伐採作業の現業を持っていないことである。伐採の作業は基本

的には森林所有者が行うし、できない場合は伐採業者に委託するようだ。ほかに政府・行

政に対して大きな影響力を持っていることとも、日本の森林組合と異なる点かもしれない。

今後、日本の森林組合の組織のあり方を考える上では、この WVB という組織はおおい

に参考にすべき組織であると感じた。

次に製材所に注目する。製材所については年間120万 m3 の生産を行っている製材工

場の周りで、年間数千m3の規模の小規模製材所が存在し、共存していることが印象深か

った。もちろん小規模製材所は大規模製材所の影響を大きく受け、経営は非常に厳しい

ということであったが、地域に対して特殊な材料を供給することなどで大規模製材所と棲

み分けをし、また、地域の雇用の担い手になっているようであった。「大規模製材所は世

界を相手に商売をすればよい。小規模製材所の存在する意味は別のところにある。」とい

う小規模製材所の経営者の言葉が印象深かった。

原木の流れについては、大規模製材所は自社の山林部はもちろん小規模所有者を含

め、あらゆるところから材を集めていて、小規模製材所では、特定の森林所有者から仕入

れることが多いようであった。ここでも WVB が需給調整、コーディネート、価格形成の役割

を果たしていた。そして、この原木流通の中で大きな役割をはたしているのが各所に配置

されているフォレスターである。

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・フォレスターの業務(森林管理と施業提案)

オーストリアでは一定以上の面積の森林を管理・経営する場合、フォレスターと呼ばれる

国家資格者を配置しなければならないことになっている。フォレスターが法令に基づいて

森林管理を適正に行っているのだ。これは経営組織の形態や大小に関係なく配置され、

森林資源の管理、施業方法の検討、需要と供給のコーディネートを行っている。しっかりし

た教育を受けたフォレスターが随所に存在して、社会的信頼の元、林業から木材流通の

基幹部を担っている。このようなフォレスター制度を支えているのは、その有資格者を育て

るための教育制度と、フォレスターに対する社会的認知度・理解度の高さだと感じる。

フォレスターの育成システムについては視察したピヒル森林研修所・オシアッハ森林研

修所では理論と実践両面をサポートするカリキュラムで森林管理に関する教育を充実させ

ているし、オーストリア国内にはフォレスター学校と呼ばれる森林管理の専門学校がいくつ

か存在する。フォレスターには3段階のランクがあるが、最上級のフォレスターの資格(森

林経営管理官)は、オーストリアの農林業部門の最上級教育機関のオーストリア土壌大学

を卒業しなければ得ることができない資格となっている。

また、フォレスターに対する社会的理解度が高く、給与水準はそれほどは高くないが、自

然を良く知っている人、自然との共生や資源管理のスペシャリストという社会通念があり、

職業がフォレスターというと敬意を持たれているという。

一方、日本においてこのことに目を向けると、資格制度のばらつきが目立つ。主に公務

員が取得している林業改良普及員やフォレスターという資格、実際の技術や現場に近い

部分を担っている技術士、林業技士、フォレストマネージャー。最近は森林施業プランナー

などという資格制度もできた。しかし、いずれも社会的認知度は低いといわざるを得ない。

今後、日本の森林を適正に管理・経営を持続的に行っていく上においては、ばらついて

いる資格制度を整理し、高度な知識と技術を持った共通の有資格者が、国有林や林業経

営体や地域の森林管理を担う森林組合に適正に配置される方向性に向かうべきであると

考える。また、その資格や役割が社会的にしっかりと認知、理解されるべきであると考え

る。

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・バイオマス利用の実態

オーストリアには森林資源を余すことなく効率よく利活用するためのシステムが整備され

ている。

まず、バイオマス燃料の生産についてだが、木質バイオマスの形状は、薪、チップ、ペレ

ット様々で、森林があるところであればありとあらゆるところで製造され、流通しているよう

に感じた。郊外では民家の軒先には薪が山に積まれた風景をどこでも見ることができた。

またペレット製造で成功している製材所、協同組合を作りチップボイラー施設を経営して

いる地域、成長の早い柳を栽培している農家、伐出現場でバイオマス用材を仕分するとこ

ろなどを視察することができた。さらに、これらのバイオマス燃料を効率的に熱に変え、家

庭や施設などに熱が供給される仕組みがうまく機能していた。

次に、バイオマス燃料により生まれた熱を利用するシステムであるが、こちらも効率的な

仕組みが備えられている。チップボイラーを経営している地域の協同組合では、このボイ

ラーで生産された熱(お湯)が、地中より断熱パイプで家庭や施設のセントラルヒーティン

グシステムに効率よく供給され熱交換されていた。さらに驚いたのはこの協同組合から熱

を買っている家庭で、今どのくらい熱が消費されているかがオンラインで一元的にリアルタ

イムで把握る仕組みも整えられていた。この協同組合では、熱を売った分の利益は出さず、

組合員からのチップの購入価格を引き上げることで、組合員に利益の還元をはかってい

た。

日本においては薪炭の時代から石油の時代に急激に変化し、家庭や地域において木

質バイオマスを利用する仕組みはそれほど整っていない。現在は薪ストーブや、ペレットス

トーブ等が普及しているがわずかである。今後、企業のバイオマスボイラーや温泉施設の

ボイラー、温室のボイラー等から、少しずつ家庭でのバイオマス利用が増えていくといいと

思う。一方で森林バイオマス発電施設が全国あちこちで稼働を始めているが、こちらにつ

いては推移を見守っていく必要があると思われる。

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6. おわりに

今回の視察を通して、オーストリア林業は考え方がシンプルで一貫しているということを

強く感じた。森林・林業・木材産業が国の基幹産業であるという考え方のもと、森林資源の

成長分を十分に活用しようとしている。そしてそのために必要な技術開発を進め、それは

今世界の最先端を行っている。一方で、それを支える為の制度を整え、教育にも力を入れ

続けている。

最近、日本全国からオーストリア林業視察団が多数訪れているらしい。その多くが林業

機械やバイオマス事業の視察だと聞く。今回の視察はそういったハード面より、むしろ小規

模森林所有者を含む木材流通等のソフト面に注目したものであったが、視察の中で感じ

たことはオーストリアが林業・木材産業・バイオマス産業の先進地であるのは、林業機械や

大型製材工場、バイオマス事業等ばかりが優れているのではなく、WVB やフォレスターの

コーディネート機能の充実、教育システムの充実、そして国の基幹産業としての政府の指

針や森林・林業に対する社会的理解が充実していることなどの面が、根底を支えているか

らなのだということを理解できた。

このようなソフト面の整備は一朝一夕で成果を上げることはできず、時間がかかる部分

ではあるが着実に進めるべき部分である。今回学んだことの中では、すぐに取り組めること

は少なかったように思うが、今後どういう方向に進むべきかを大きく掴むことができた。

日本林業は森林資源の成熟期を迎え、今後この資源を活用しながら新しい循環を生み

出していく絶好の時を迎えている。ハードとソフト、両面を充実させ、日本林業に新しい循

環が生まれることを期待したい。そのために今回の視察を活かし、方向性を強く持って今

後の業務に臨みたい。

木の可能性を示す

オシアッハの木製タワー

「ピラミッドタワー」