悪性リンパ腫における遺伝子変異 ―その意義と治療...

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悪性リンパ腫における遺伝子変異 ―その意義と治療開発への応用― 冨田章裕 Key words : Malignant lymphoma, Genetic mutations, Molecular targeting therapy 1.はじめに 悪性リンパ腫には数多くの病型が存在する 1) 。生検組 織標本の形態学や免疫組織染色,表面抗原解析の情報な どを参考に診断がなされ,それをもとに治療法が選択さ れている。しかし形態学による診断は時に困難なことも あり,また例えばびまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫 DLBCL)と診断される患者の中にも,予後の明らかに 異なる患者群が存在することも経験されている。 Alizadeh らは 2) DLBCL 細胞における遺伝子発現を cDNA マイクロアレイで網羅的に解析することによっ て,その遺伝子発現のパターンから DLBCL GCB- like (GCB)と activated B-like (ABC)の 2 つに分類し, ABC 群は GCB 群に比べて有意に予後不良を示すことを 報告した。また後に Hans らは 3) ,免疫組織染色におい CD10BCL6MUM1 の陽性パターンから,より簡 便に GCB non-GCB を分類できることを示し,non- GCB GCB に比べ有意に予後不良であることを示し た。CD10BCL6MUM1 などの蛋白の発現を含む「表 現形」は,mRNA の発現パターンによって規定され, mRNA の発現パターンは,腫瘍細胞のゲノムやエピゲ ノムの差異に起因することが推測される。言い換えるな らば,遺伝子変異や染色体異常などの「ゲノム異常」が, リンパ腫の病型決定や予後に深く関わっている可能性が 容易に推測される。 Single nuclear polymorphism (SNP)アレイ解析や, 全ゲノムシークエンス,全エクソンシークエンスなどの 方法論の進歩によって,悪性リンパ腫における遺伝子異 常も 2009 年以降次々と報告されるようになった 48) 。本 項では,これまでに報告されたリンパ腫における遺伝子 変異について,特に解析の進んでいる DLBCL に注目し て,その機能と臨床的意義,また治療標的としての可能 性について概説したい。また,DLBCL 以外のリンパ増 殖性疾患において特に重要と思われる遺伝子変異につい ても触れておきたい。 2DLBCL に認められる遺伝子変異 DLBCL において同定されている遺伝子変異を Table 1 に示す。Morin らは 7) B 細胞性リンパ腫 226 症例の解 析から再現性を持って変異を認める 109 の遺伝子を同定 している。また,Pasqualucci らは 8) DLBCL 48 例から 再現性をもって変異を認める 56 の遺伝子を同定した Fig. 1A)。興味深いことには,変異の頻度が数十パー セントまでの遺伝子がいくつか存在すること,また特定 の変異は ABC もしくは GCB タイプのどちらかに偏っ て認められる点である。ABC タイプに比較的頻度が高 く観察される変異の多くは「NFkB シグナル伝達経路」 関連因子をコードする遺伝子(A20CARD11CD79BMYD88 など)であった 9, 10) (Fig. 1AB)。一方,ヒスト ン修飾酵素などの「エピゲノム」関連因子をコードする 遺 伝 子(MLL2EZH2CREBBPEP300 な ど) 11) の変 異は,GCB タイプに集積する傾向であった(Fig. 1AC)。NFkB 関連因子とエピゲノム関連因子の,それぞ れの遺伝子変異の存在は,一部を除いて互いに排他的 mutually exclusive)の傾向であった。このような観点 で遺伝子変異の存在率を検討すると,NFkB 関連因子の 変異は ABC-DLBCL 症例の 67.1%に(Fig. 1B),またエ ピゲノム関連因子の変異は DLBCL 47.8%に存在する ことが確認され(Fig. 1C),DLBCL の病態としてこれ 2 系統の異常が極めて重要である可能性が推測され る。具体的にどの遺伝子変異の重複が重要であるのか, また特異な染色体転座との関連性などについては未だ明 −臨 液− 242 1788名古屋大学医学部附属病院 血液内科 75 回日本血液学会学術集会 リンパ系腫瘍ALL/ML EL-30 プログレス

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Page 1: 悪性リンパ腫における遺伝子変異 ―その意義と治療 …...ABC群はGCB群に比べて有意に予後不良を示すことを 報告した。また後にHansらは3),免疫組織染色におい

悪性リンパ腫における遺伝子変異

―その意義と治療開発への応用―

冨 田 章 裕

Key words : Malignant lymphoma, Genetic mutations, Molecular targeting therapy

1.はじめに

悪性リンパ腫には数多くの病型が存在する1)。生検組

織標本の形態学や免疫組織染色,表面抗原解析の情報な

どを参考に診断がなされ,それをもとに治療法が選択さ

れている。しかし形態学による診断は時に困難なことも

あり,また例えばびまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫(DLBCL)と診断される患者の中にも,予後の明らかに異なる患者群が存在することも経験されている。

Alizadeh らは2),DLBCL 細胞における遺伝子発現をcDNA マイクロアレイで網羅的に解析することによって,その遺伝子発現のパターンから DLBCL を GCB-like (GCB)と activated B-like (ABC)の 2つに分類し,ABC群は GCB群に比べて有意に予後不良を示すことを報告した。また後に Hansらは3),免疫組織染色におい

て CD10,BCL6,MUM1 の陽性パターンから,より簡便に GCB と non-GCB を分類できることを示し,non-GCB が GCB に比べ有意に予後不良であることを示した。CD10,BCL6,MUM1などの蛋白の発現を含む「表現形」は,mRNA の発現パターンによって規定され,mRNAの発現パターンは,腫瘍細胞のゲノムやエピゲノムの差異に起因することが推測される。言い換えるな

らば,遺伝子変異や染色体異常などの「ゲノム異常」が,

リンパ腫の病型決定や予後に深く関わっている可能性が

容易に推測される。

Single nuclear polymorphism (SNP)アレイ解析や,全ゲノムシークエンス,全エクソンシークエンスなどの

方法論の進歩によって,悪性リンパ腫における遺伝子異

常も 2009年以降次々と報告されるようになった4∼8)。本

項では,これまでに報告されたリンパ腫における遺伝子

変異について,特に解析の進んでいる DLBCLに注目して,その機能と臨床的意義,また治療標的としての可能

性について概説したい。また,DLBCL以外のリンパ増殖性疾患において特に重要と思われる遺伝子変異につい

ても触れておきたい。

2.DLBCLに認められる遺伝子変異

DLBCLにおいて同定されている遺伝子変異を Table 1に示す。Morinらは7),B細胞性リンパ腫 226症例の解析から再現性を持って変異を認める 109の遺伝子を同定している。また,Pasqualucciらは8),DLBCL 48例から再現性をもって変異を認める 56 の遺伝子を同定した(Fig. 1A)。興味深いことには,変異の頻度が数十パーセントまでの遺伝子がいくつか存在すること,また特定

の変異は ABCもしくは GCBタイプのどちらかに偏って認められる点である。ABCタイプに比較的頻度が高く観察される変異の多くは「NFkBシグナル伝達経路」関連因子をコードする遺伝子(A20,CARD11,CD79B,MYD88など)であった9, 10)(Fig. 1A,B)。一方,ヒストン修飾酵素などの「エピゲノム」関連因子をコードする

遺伝子(MLL2,EZH2,CREBBP,EP300 など)11) の変異は,GCB タイプに集積する傾向であった(Fig. 1A,C)。NFkB 関連因子とエピゲノム関連因子の,それぞれの遺伝子変異の存在は,一部を除いて互いに排他的

(mutually exclusive)の傾向であった。このような観点で遺伝子変異の存在率を検討すると,NFkB関連因子の変異は ABC-DLBCL症例の 67.1%に(Fig. 1B),またエピゲノム関連因子の変異は DLBCLの 47.8%に存在することが確認され(Fig. 1C),DLBCL の病態としてこれら 2系統の異常が極めて重要である可能性が推測される。具体的にどの遺伝子変異の重複が重要であるのか,

また特異な染色体転座との関連性などについては未だ明

−臨 床 血 液−

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名古屋大学医学部附属病院 血液内科

第 75回日本血液学会学術集会

リンパ系腫瘍:ALL/MLEL-30 プログレス

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臨 床 血 液 54:10

243(1789)

Table 1 Genetic mutations in B-cell malignancies

Gene name Chromosome Frequency of mutations Function References

NF

B p

athw

ay r

elat

ed fa

ctor

s

A20(TNFAIP3)

6q23.3DLBCL 7.8─15.3%MALT 21.8HL-NS 33.3

Negative regulator of NF B pathway(protein ubiquitylation related protein)

Kato M, Nature 2009Compagno M, Nature, 2009Honma K, Blood 2009Pasqualucci L, Nature Genet, 2011Dong G, Clin Cancer Res, 2011

CARD11 7p22 (DLBCL(ABC 9.6%, GCB 3.8%)BCL 7.5%

NF B related membrane scaffold protein

Lenz G, Science 2008

Nature Genet 2011

CD79B 17q23DLBCL ABC 18%DLBCL 11.7%

Ig-beta protein in B-cell receptor protein complex

Davis RE, Nature 2010Ngo VN, Nature, 2011Pasqualucci L, Nature Genet 2011

MYD88 3p22

DLBCL(ABC 41.4%, GCB 8.8%)MALT 9.0%DLBCL 8.1%WM 90.7%WM 100%, IGM-MGUS 47%

Adaptor protein of Toll/IL1 receptors

Ngo VN, Nature 2011

Pasqualucci L, Nature Genet 2011Treon SP, NEJM 2012Varettoni M, Blood 2013

TNFRSF14 1p36.32

FL 18.3%FL 46%DLBCL 11.9%DLBCL(ABC 8.1%, GCB 2.3%)

TNF receptor

Cheung KJJ, Cancer Res 2010Launay E, Leukemia 2012Morin RD, Nature 2011Compagno M, Nature 2009

Epi

gene

tics

rela

ted

fact

ors

MLL2 12q13.12DLBCL 24%DLBCL 32%FL 89%

Histone H3K4 methyltransferase

Pasqualucci L, Nature Genet 2011Pasqualucci L, Nature 2011

EZH2 7q35-36DLBCL 21.7%FL 7.2%DLBCL 14.6%

Histone H3K27 methyltransferase

Pasqualucci L, Nature Genet 2010

Morin RD, Nature 2011

CREBBP(CBP)

16p13.3

DLBCL 29%(GCB 41.5, ABC 17)FL 32.6%DLBCL 18.0%

Histone/transcription factor acetyltransferase

Morin RD, Nature 2011

Pasqualucci L, Nature Genet 2011

EP300(p300)

22q13.2DLBCL 10%FL 8.7%DLBCL 5.4%

Histone/transcription factor acetyltransferase

Morin RD, Nature 2011

Pasqualucci L, Nature Genet 2011

Tra

nscr

iptio

n re

gula

tors BLIMP1/

PRDM1 6q21

DLBCL(ABC 27%, non-GC 17%)DLBCL(ABC 21.6%, GCB 0%)DLBCL 11.7%

Transcription corepressor(Arginine histone methyltransferase interacting protein)

Pasqualucci L, J Exp Med 2006

Mandelbaum, Cancer Cell 2010

Pasqualucci L, Nature Genet 2011

MEF2B 19p13.11 B-MHL 17.3% A member of the MADS/MEF2 family of DNA binding proteins

Morin RD, Nature 2011

FOXO1 13q14.1DLBCL 8.6%B-NHL 11.0%

Transcription factor that belongs to forkhead family

Trinh DL, Blood 2013Morin RD, Nature 2011

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らかにされておらず,今後の重要な検討課題と考えられる。

DLBCLで変異を認める因子が,細胞内のどの部位で機能するかについて,Fig. 2に示した。細胞表面に存在する B細胞受容体(BCR)複合体やその他の膜型受容体蛋白は,それぞれのシグナルを細胞質内に伝達する

が,その中の重要な一経路が NFkB 経路である12, 13)。

IKKによってリン酸化を受けた IkBaが IkB複合体から解離すると,p65/p50複合体(NFkB)が細胞質内に移行し,転写因子として機能し,標的遺伝子発現を調節す

る。変異 A20,CARD11,CD79B,MYD88 は,この経路の各々の部分で関与して,NFkB経路の恒常的活性化を引きおこすことが推測されている。また,MLL2,EZH2,

−臨 床 血 液−

244(1790)

Fig. 1 Recurrent genetic mutations in DLBCL.(A) Pasqualucci et al. indicated this figure8). Percentage of DLBCL primary cases harboringmutation in 56 candidate genes after targeted resequencing of an expanded screening data set.The final number of mutated samples over total samples analyzed is indicated for each gene.Red asterisks indicate putative tumor suppressor genes as suggested by the presence ofpredominantly inactivating mutations (stop codons, frameshift mutations and experimentallyvalidated missense mutations). Green asterisks denote genes where the oncogenic activity ofthe mutation was functionally proven. Black asterisks indicate genes harboring mutations ofunclear pathogenic role but which are predicted to truncate the encoded protein in at least onecase. (B) Overlapping of the genetic mutations in NFkB pathway related genes. Ngo et al.indicated this figure9). Overlap of MYD88 mutations with other recurrent genetic alterations inABC DLBCL tumor specimens in indicated. Genetic subsets were defined by somatic mutationsand, in the case of the A20 subset, by homozygous deletion or epigenetic silencing. (C)Overlapping of the genetic mutations in histone modification enzymes related genes.Pasqualucci et al. indicated this figure11). Of the three cases with MLL2 mutations showingsimultaneous lesions at CREBBP, one harbored an amino acid substitution whose functionalrelevance is currently unclear.

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CREBBP (CBP),EP300 (p300)などはヒストン修飾酵素であり,標的遺伝子プロモーター部分のヒストンのメ

チル化やアセチル化を通して遺伝子発現を調節するが,

遺伝子変異によって酵素活性が低下,もしくは活性化さ

れることによって,遺伝子発現調節の脱制御をひき起こ

すと推測されている。

3.NFkB細胞シグナル伝達経路関連因子の変異

NFkBシグナル伝達経路は細胞内外の種々の刺激を受けて活性化される経路で,炎症,細胞の増殖や生存,細

胞死,血管新生,転移など,広範な生命現象に関与する

(Fig. 3)。NFkBは核内で転写因子として機能し,多くの遺伝子の発現を調節することが確認されている12, 13)。

以下に,NFkB関連因子のそれぞれの機能と変異の意義について概説する。変異の頻度や遺伝子座などの情報は

Table 1に,各因子の機能ドメインと変異の部位を Fig. 4に示した。

1)CARD11 (Caspase recruitment domain family, member11)CARD11は,BCRや T細胞受容体の下流に存在する,

細胞膜足場蛋白である。BCL10, MALT1と複合体を形成し,抗原刺激を受けて蛋白の構造変化をおこし,下流の

IkBキナーゼ(IKK)を活性化する14, 15)。N端に存在するコイルドコイル(C-C)ドメインは多量体形成に重要であるが,DLBCLにおいてミスセンス変異はここに集中する(Fig. 4)4, 16)。CARD11は変異によって構造変化をおこし,NFkB経路の恒常的活性化が誘導される14)。

CARD11変異がリンパ腫細胞の不死化に重要であることが in vitroの解析で示されている4, 17)。変異のある症例

臨 床 血 液 54:10

245(1791)

Fig. 2 NFkB signal pathway and transcription regulation by histone modifying enzymes.Factors that are involved in genetic mutations in DLBCL are indicated in this figure. BCRsignal is transmitted to several signaling pathways, such as NFkB, MAPK, PI3 K, and NFAT,through ITAM phosphorylation. IkB is dissociated from p65/p50 complex after phosphoryla-tion by IKK complex. Then, p65/p50 heterodimer (NFkB)move into the nucleus, and act asa transcription factor. CARD11 is a molecular scaffolds for the assembly of BCL10/MALT1protein complex. A20 is a negative regulator of NFkB signaling pathway. MYD88 is a adaptorprotein that are associated with TLR-4 and IL-1R. Mutations, resulting in amino acidsubstitution in CD79, CARD11, A20, and MYD88, induce constitutively activation of NFkBpathway. Histone methyltransferase (HMT) MLL2 and EZH2 form Trx and PRC2 proteincomplexes, respectively. Histone acetyltransferases (HAT) CBP/p300 and deacetylases(HDACs) also form large protein complexes. HMT, HAT, and/or HDAC complexes arerecruited to promoters through specific transcription factors, and histone tales can bemodified by methylation or acetylation, resulting that the transcription of the target genesare regulated.

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は変異を持たない症例に比べ無病生存率(EFS)が短い傾向が示されているが16),症例数が少なく今後の報告が

待たれる。

2)A20 (Tumor Necrosis Factor, Alpha-induced Protein 3(TNFAIP3))A20 は,蛋白のユビキチン化を調節する機能を持つ

Zn フィンガー蛋白で,Tumor necrosis factor 受容体(TNFR)や Toll-like 受容体(TLR)刺激による NFkB経路の活性化を負に調節する因子である18)。N端は脱ユビキチン化の酵素活性を,C端は E3ユビキチンリガーゼの酵素活性を持つ。DLBCLにおける変異は,A20の全長にわたって認められるが,終止コドンの入るナンセ

ンス変異やアミノ酸配列を全く変えてしまうようなフ

レームシフト変異が確認されており,それによって C端が欠失した異常蛋白が発現することが予想されてお

り5, 6, 16, 19),欠失による蛋白ユビキチン関連酵素活性の

脱制御が,NFkB経路の活性化に関与していることが予想される。変異の頻度は,GCBに比べ ABC-DLBCLにおいて高いと報告されている。変異保有症例は変異の無

い症例に比べて全生存率(OS),PFS共に有意に不良であることが報告されている16)。

3) CD79B (Igb; Immunoglobulin-associated beta)CD79B (Igb)は,CD79A (Iga),抗原特異的免疫グ

ロブリンとともに BCR蛋白複合体を形成する膜蛋白であ る20, 21)。C 端 に ITAM (immunoreceptor tyrosinebased activation motif)を持ち,ITAM に存在するチロシンはリン酸化を受けて SYK,BTK,PLCg,PKC にシ

グナルを伝達し,最終的に NFkB経路を活性化させる。DLBCL において,CD79B の ITAM にミスセンス変異が集中して認められ9, 21, 22),この変異によって NFkBシグナル伝達が恒常的に活性化されると考えられている。

頻度は低いが,CD79Aの ITAMにも変異が確認されている21)。CD79 ITAM変異は,GCBに比べ ABC-DLBCLにおいて頻度が高い9, 21)。ABC-DLBCLの細胞株を用いた in vitroの解析では,CD79のノックダウンにより細胞の増殖能力が低下することが確認されている21)。

CD79変異と予後との関連ついては未だ報告がない。

4)MYD88 (Myeloid differentiation primary responsegene (88))MYD88は,Toll-like/インターロイキン 1受容体の細

胞内ドメインに結合するアダプター蛋白で,二量体を形

成することで IRAK4 (interleukin-1 receptor-associatedkinase 4)の自己リン酸化を誘導し,IRAK1,TRAF6を介して NFkB 経路を活性化する23∼25)。ABC-DLBCL の30∼40%程度の患者に L265P変異を認め,一方 GCBにおいては 10%未満と報告されている9)。L265P変異により NFkB経路が恒常的に活性化されることが確認されており,MYD88変異細胞株において MYD88をノックダウンすると,細胞の増殖能が阻害される9)。MYD88L265P変異と予後との関連ついては現時点においては報告がない。

最近になり,原発性マクログロブリン血症(WM)/リンパ形質細胞性リンパ腫(LPL)において MYD88L265P 変異が 90∼100%に認められることが報告された23, 26∼28)。また,IgM-MGUSにおいては 47∼56%に同

−臨 床 血 液−

246(1792)

Fig. 3 NF-kB target genes involved in cancer development and progression.NFkB target genes and the related functions are indicated. (Adapted from areference by Baud et al.12))

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臨 床 血 液 54:10

247(1793)

Fig.

4Fu

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ofproteins

that

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from

themutated

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CL.

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変異が確認されたが23, 28),多発性骨髄腫や辺縁細胞帯 B細胞リンパ腫においては変異の頻度は極めて低いことが

報告された27, 28)。WM における L265P 変異保有率は極めて高度であることから,WMの病態に重要であることが示唆されるばかりでなく,疾患の診断に今後必須の

情報となることが予想される。

5)TNFRSF14 (Tumor Necrosis Factor ReceptorSuperfamily,member 14,HVEM (Herpesvirus entrymediator),CD270)TNFRSF14 は,TNF 関連サイトカイン(LIGHT,

Lymphotoxin)や免疫グロブリン関連膜蛋白(BTLA,CD160)などをリガンドとする,膜型受容体蛋白である29, 30)。ヘルペスウイルスの細胞内進入や免疫応答に関

与し,リガンドの種類によって活性,抑制シグナルを細

胞内に伝達する。TRAF2 を介して,NFkB シグナル伝達を活性化する。変異は GCBに比べ ABC-DLBCLにおいて頻度が高い傾向にあり,ろ胞性リンパ腫(FL)においても変異が報告されている6, 7, 31, 32)。N端の細胞外ドメインにミスセンス,もしくはフレームシフト変異が

認められ,これによって細胞外からの刺激が正しく細胞

内に伝えられなくなる可能性が示唆される。FLにおける変異症例の予後が報告されているが,良好,不良双方

の報告があり,今後の検討が待たれる32, 33)。

4.エピゲノム関連因子の変異

ゲノム DNAは,核の中でヒストン 8量体に規則正しく巻き付いてクロマチン構造をとって存在している。ヒ

ストンテール(N端)のリジン(K),アルギニン(R)残基のアセチル化,メチル化,遺伝子プロモーター部分

における CG配列のシトシンメチル化などの状態によってクロマチン構造が変化し,遺伝子の発現が緻密に調節

される34, 35)(Fig. 2)。このような,遺伝子配列によらない遺伝子発現調節機構を広い意味で「エピジェネティク

ス」「エピゲノム」と呼ぶ。DLBCL においては,ヒストンメチル化酵素(MLL2,EZH2),ヒストンアセチル化酵素(CREBBP,EP300)における変異が確認されている。

1)MLL2 (Myeloid/lymphoid or mixed-lineage leukemia2)MLL2は,ヒストン H3K4メチル化酵素で,遺伝子発

現調節に重要であるトリソラックスグループ複合体にお

ける酵素活性因子である35, 36)。特徴的な顔貌の先天奇形

等を来す Kabuki症候群の原因遺伝子としても知られている37)。DLBCL,FLにおいては,C端に存在するヒストンメチル化酵素(HMT)活性部位(SET ドメイン)

部分のミスセンス変異のほか,全長に渡ってナンセン

ス,もしくはフレームシフト変異も確認され,いずれの

場合においても HMT 活性が低下することが推測される11, 38)。H3K4のトリメチル化(me3)は転写活性化と関連するが,変異 MLL2によって H3K4me3が低下し,標的遺伝子発現が異常に抑制される可能性が示唆され

る。MLL2変異は DLBCLの 22∼33%程度に確認されているが,FLにおいては 88.6%に変異を認め38),t(14;18)転座と共に FLの病態形成に極めて重要である可能性が示唆される。MLL2変異と予後との関連については未だ報告がない。

2)EZH2 (Enhancer of Zest Homolog-2)EZH2は,Polycomb repressive complex 2 (PRC2)の酵素活性因子で,ヒストン H3K27 の HMT 活性を持つ39)。H3K27me3により標的遺伝子発現が抑制される。C端の HMT酵素活性部位における Y641変異が,GCB-DLBCLに集積することが報告されている38, 40, 41)。この

変異によって,H3K27me3活性が向上することが in vi-troの解析で確認されており42),また実際の変異症例の

腫瘍細胞においても H3K27me3の割合が上昇していることが確認されている43)。EZH2変異はMDSにおいても報告されているが,全長に渡るナンセンス,フレーム

シフト変異や,C端の酵素活性部位におけるミスセンス変異で,酵素活性が低下する機能低下型の変異とされて

おり41, 44),リンパ腫における変異と機能的に大きく異

なっている。変異と予後との関連は FLにおいて報告されているが,OSや形質転換までの期間に関しては,野生型症例と比べて有意差は示されていない45)。

3)CREBBP (CREB binding protein)/EP300 (E1A bind-ing protein p300)

CREBBP/EP300はいずれもヒストンアセチル化酵素(HAT)で,転写因子と結合してヒストンのリジン残基をアセチル化し,標的遺伝子の発現を活性化する34, 46)。

CREBBPの変異は,DLBCL全体の約 30%に認められるが,GCB-DLBCLにおいては 40%以上に認められる8, 11)。

変異は HAT酵素活性部位のミスセンス変異の他,全長に渡るナンセンス,フレームシフト変異で,これらに

よって HAT 活性の低下を引きおこすと考えられている11)。現時点においては,変異により影響を受ける標的

遺伝子は同定されておらず,今後の課題と考えられる。

また,予後との関連についても未だ報告がない。

5.その他の変異

上に示した,NFkB経路およびエピゲノム関連因子以外にも,いくつかの遺伝子変異が報告されている。

−臨 床 血 液−

248(1794)

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1)BLIMP1/PRDM1(PR domain containing 1, with ZNFdomain)BRIMP1/PRDM1は,ヒストンアルギニンメチル化酵

素(PRMT5)などと結合して,遺伝子発現を抑制する因子で,B細胞が形質細胞に最終分化するために重要な役割を果たす47)。PRDM1の変異は,GCB (0%)に比べABC-DLBCL (21.6%)に多く確認される48, 49)。N端付近にフレームシフト変異やスプライス部位の変異が認めら

れ,C端欠失による機能喪失が推測される。また,染色体の両アレル欠失による機能障害も報告されている。変

異の臨床的意義に関しては未だ報告がないが,マウスモ

デルを用いた検討では,NFkB 経路の恒常的活性化とPRDM1 の機能阻害を導入することにより,ABC-DLBCL様リンパ腫が発症したと報告されている50)。

2)MEF2B (Myocyte enhancer factor 2B)MEF2B は MADS/MEF2 ファミリーに属する転写因子で,HAT やヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)などと結合して標的遺伝子の発現を調節する7, 51)。N端のMADS boxと MEF2ドメインにおけるミスセンス変異(K4,D83 に特に集積)が報告されているが7)。本遺伝

子変異の分子生物学的,臨床的意義については,未だ報

告がない。

3)FOXO1 (Forkhead box O1)FOXO1は,フォークヘッドファミリーに属する転写因子で,pre-pro Bから early pro-Bへの分化,末梢 B細胞の分化やクラススイッチ再構成に重要な役割を果た

す52, 53)。DLBCL において,T24 リン酸化部位近傍とDNA結合部位である Folkhead boxに集中してミスセンス変異が認められる。変異によって T24リン酸化の阻害や 14-3-3蛋白との結合阻害が誘導される53)。R-CHOP療法を施行された初発 DLBCL 193例の解析では,変異症例は野生型に比べて有意に OSが不良(P=0.037)であることが示されている53)。

4) その他の遺伝子変異DLBCL以外のリンパ系腫瘍においても,最近注目すべき遺伝子変異が幾つか報告されている。

BRAF (v-raf murine sarcoma viral oncogene homologB1)は RAF-MEK-ERKシグナル経路に関与するキナーゼであるが,V600E変異がヘアリー細胞白血病(HCL)の 100%に検出されることが明らかとなった54, 55)。この

変異は脾臓辺縁細胞帯リンパ腫や脾臓リンパ腫・白血病

を含む,他の末梢性 B細胞リンパ腫・白血病患者においては検出されないことから,HCLの診断に今後必須な情報となると考えられる。また,マントル細胞リンパ

腫や慢性リンパ性白血病(CLL)においては,NOTCH1変異がそれぞれ 12%程度報告されている56, 57)。CLLにおいては,他に SF3B1 変異(15%)も報告されている58)。また,バーキットリンパ腫においては,MYCの他,転写因子 TCF3 (E2A)とその抑制因子である ID3に変異が報告され,約 70%の症例はいずれかの変異を持つと報告されている59)。

6.変異を標的とした分子標的治療の可能性(Fig. 5)

BCRや NFkB経路には,種々のキナーゼ(Syk,BTK,PKCb,IKK)が関与するが,これらの機能を阻害する標的薬が種々開発され,一部では臨床試験も施行されて

い る10, 60)。Syk 阻 害 剤 と し て fostamatinib (R788),PRT062607が,BTK阻害剤として ibrutinib (PCI-32765)が61),PKCb阻害剤として sotrastauerin,enzastaurinが,PI3Kd阻害剤として idelalisibが,既に臨床試験によってリンパ系腫瘍に対する有効性が検討されている。また

in vitro ではあるが,IKKb 阻害剤として AFN700,MLN120Bなども報告されている22)。また,bortezomibは IkBaの分解を抑制することから NFkB経路を抑制する効果が期待されており,ABC-DLBCLに対する効果について既に臨床試験で検討されている(REMoDL-B第III相試験)。また,MYD88の 2量体形成を阻害するペプチドによって,NFkBの核内移行が阻害されることがin vitroの検討で示されており,今後の臨床応用が期待される23)。

また,ヒストン修飾酵素に対する阻害剤も種々開発さ

れている。特に,EZH2に対する阻害剤である GSK12662),EPZ00568763)が 2012 年に相次いで報告され,今後の展開が期待される。

DLBCLにおける遺伝子変異は,患者ごとに異なるプロファイルをもつ。このため,これらの分子標的薬の使

用を考慮する際に,それぞれの遺伝子変異情報を把握す

ることは極めて重要であると思われる。臨床試験を施行

する際に,適切な症例を抽出して期待される治療効果を

得るために,ターゲットとなる遺伝子の変異解析を施行

した上で適格症例を選択することも,今後考慮しなくて

はならないであろう。

7.終わりに

最近の 5年間で,リンパ系腫瘍における遺伝子変異の情報が急速に蓄積してきた。ごく最近の報告では,網羅

的遺伝子変異解析を経時的に行い,いかにしてクローン

が選択され病勢が進行したかという解析もなされてい

る64, 65)。また,MYD88や BRAFなど一部の変異が,特定の疾患に集積することも確認されてきていることか

ら,今後の診療において遺伝子変異解析の重要性が増し

臨 床 血 液 54:10

249(1795)

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てくる可能性が高い。臨床医における,遺伝子変異情報

の正しい理解も今後ますます求められてくるであろう。

著者の COI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連

して特に申告なし

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−臨 床 血 液−

250(1796)

Fig. 5 Molecular targeting drugs to NFkB pathway related factors and histonemodification enzymes.Molecular targeting drugs that are utilized in clinical trials and/or only in vitroanalyses (*black asterisks) are indicated in the orange bursts. Factors that holdgenetic mutations in BCL are indicated in red characters.

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