コンテナ輸送における鉄道利用と情報化:...

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OCDI QUARTERLY 78 19 1. はじめに 近年、地球温暖化対策、輸送システムの効率化等 の観点から、わが国においても海上コンテナの鉄道 輸送に対する関心が高まっている。本稿においては、 欧州最大の海上コンテナの鉄道輸送量を実現してい るハンブルグ港について、その鉄道利用の近況を紹 介するものである。 2. ハンブルグ港の概要 ハンブルグ港は北海の最東端にあり、中・東欧、バ ルト海諸国への重要な中継拠点となっている。また、 海だけでなく、陸・空に関してもヨーロッパの交通 動脈の交差点に位置するという地理的利点を活かし て発展してきた。高容量の高速道路、近代的な鉄道 システム、内陸水路そして縦横に飛んでいる航空路 などが世界各地とリンクしている。 ハンブルグ港におけるコンテナ貨物の取扱いは 1960 年代後半から開始され、その後急激に取扱量を 拡大し、2007 年のコンテナ取扱量の世界ランキング は第 9 位となっている。ヨーロッパでは第 7 位のロッ テルダム港に次いで、2 番目に取扱量の多い港になっ ている。さらに、ハンブルグ港はヨーロッパの港湾の 中でも、アジア諸国とのコンテナ貨物の多い港湾で、 取扱量の約半分以上を占めており、欧州最大の規模 を誇っている。また、スカンジナビア諸国との取扱 量も多く、特にバルト海沿岸諸国との間の取扱量が 大きな伸びを見せている。 3. ハンブルグ港におけるコンテナの背 後圏輸送とモーダルスプリット 2007 年におけるハンブルグ港のコンテナ取扱量は 9.89 百万 TEU に達している。このうち、アジア・北 米等遠海輸送され輸出入貨物として背後圏に輸送さ れるコンテナは 4.35 百万 TEU44.0%)、トランシッ プ貨物として本船とフィーダー船との間で積替えら れ背後圏輸送の対象とならないコンテナが 2.25 百万 TEU(取扱量としては 4.5 百万 TEU 2 倍に計上さ れるため 45.5%)、近海輸送されハンブルグ港で揚積 された後、背後圏に輸送されるコンテナが 1.04 百万 TEU10.5%)に分類される。従って、遠海輸送、近 海輸送合わせて 5.39 百万 TEU のコンテナが背後圏 に輸送されている(図 1 参照)。 背後圏に輸送されるコンテナのうち、3.47 百万 TEU 64.3%)がトラックで、 1.83 百万 TEU 34.0%が鉄道で輸送されている。バージによりエルベ川を 遡って輸送されるコンテナは 9 TEU1.7%)と未 だ少なく、背後圏輸送機関としては未だ十分市民権 を得ていない。 鉄道輸送、フィーダー船輸送、バージ輸送等ハンブ ルグ港の背後圏への輸送網を図 2 に示している。こ の図からも容易に判るように、ドイツ・東欧諸国へ の鉄道輸送とスカンジナビア半島およびバルト海沿 岸諸国へのフィーダー船輸送が、この港の背後圏輸 送において大きな位置を占めている。ハンブルグ港 においてはトラック輸送と鉄道輸送の分岐点は、“200 ㎞から 300 ㎞までの距離までなら輸送コストの面か らもトラック輸送が有利であり、400 ㎞から 500 を超えると鉄道輸送が有利である”と言われている。 バージ輸送はエルベ川上流のドレスデン迄である。 ( 出典:ハンブルグ港港湾局提供 ) 図1 ハンブルグ港のモーダルスプリット (2007 年 ) コンテナ輸送における鉄道利用と情報化: ハンブルク港の事例 一之瀬 政男 <国際物流事情>

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Page 1: コンテナ輸送における鉄道利用と情報化: ハンブルク港の事例ン港とのシャトル運行をする等、運行領域は多方面 に亘っている。コンテナ鉄道輸送事業者の事業形態については、大

OCDI QUARTERLY 78

19

1. はじめに

近年、地球温暖化対策、輸送システムの効率化等

の観点から、わが国においても海上コンテナの鉄道

輸送に対する関心が高まっている。本稿においては、

欧州 大の海上コンテナの鉄道輸送量を実現してい

るハンブルグ港について、その鉄道利用の近況を紹

介するものである。

2. ハンブルグ港の概要

ハンブルグ港は北海の 東端にあり、中・東欧、バ

ルト海諸国への重要な中継拠点となっている。また、

海だけでなく、陸・空に関してもヨーロッパの交通

動脈の交差点に位置するという地理的利点を活かし

て発展してきた。高容量の高速道路、近代的な鉄道

システム、内陸水路そして縦横に飛んでいる航空路

などが世界各地とリンクしている。

ハンブルグ港におけるコンテナ貨物の取扱いは

1960 年代後半から開始され、その後急激に取扱量を

拡大し、2007 年のコンテナ取扱量の世界ランキング

は第9位となっている。ヨーロッパでは第7位のロッ

テルダム港に次いで、2番目に取扱量の多い港になっ

ている。さらに、ハンブルグ港はヨーロッパの港湾の

中でも、アジア諸国とのコンテナ貨物の多い港湾で、

取扱量の約半分以上を占めており、欧州 大の規模

を誇っている。また、スカンジナビア諸国との取扱

量も多く、特にバルト海沿岸諸国との間の取扱量が

大きな伸びを見せている。

3. ハンブルグ港におけるコンテナの背

後圏輸送とモーダルスプリット

2007 年におけるハンブルグ港のコンテナ取扱量は

9.89 百万 TEU に達している。このうち、アジア・北

米等遠海輸送され輸出入貨物として背後圏に輸送さ

れるコンテナは 4.35 百万 TEU(44.0%)、トランシッ

プ貨物として本船とフィーダー船との間で積替えら

れ背後圏輸送の対象とならないコンテナが 2.25 百万

TEU(取扱量としては 4.5 百万 TEU と 2倍に計上さ

れるため 45.5%)、近海輸送されハンブルグ港で揚積

された後、背後圏に輸送されるコンテナが 1.04 百万

TEU(10.5%)に分類される。従って、遠海輸送、近

海輸送合わせて 5.39 百万 TEU のコンテナが背後圏

に輸送されている(図 1参照)。

背後圏に輸送されるコンテナのうち、3.47 百万

TEU(64.3%)がトラックで、1.83 百万 TEU(34.0%)

が鉄道で輸送されている。バージによりエルベ川を

遡って輸送されるコンテナは 9万 TEU(1.7%)と未

だ少なく、背後圏輸送機関としては未だ十分市民権

を得ていない。

鉄道輸送、フィーダー船輸送、バージ輸送等ハンブ

ルグ港の背後圏への輸送網を図 2に示している。こ

の図からも容易に判るように、ドイツ・東欧諸国へ

の鉄道輸送とスカンジナビア半島およびバルト海沿

岸諸国へのフィーダー船輸送が、この港の背後圏輸

送において大きな位置を占めている。ハンブルグ港

においてはトラック輸送と鉄道輸送の分岐点は、“200

㎞から 300 ㎞までの距離までなら輸送コストの面か

らもトラック輸送が有利であり、400 ㎞から 500 ㎞

を超えると鉄道輸送が有利である”と言われている。

バージ輸送はエルベ川上流のドレスデン迄である。

( 出典:ハンブルグ港港湾局提供 )

図 1 ハンブルグ港のモーダルスプリット (2007 年 )

コンテナ輸送における鉄道利用と情報化:ハンブルク港の事例

一之瀬 政男

<国際物流事情>

Page 2: コンテナ輸送における鉄道利用と情報化: ハンブルク港の事例ン港とのシャトル運行をする等、運行領域は多方面 に亘っている。コンテナ鉄道輸送事業者の事業形態については、大

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フィーダー船輸送、近海輸送は週に146便出ており、

対象国別にはデンマーク / スウェーデン、フィンラン

ド、ロシアへの便数が多い。フィーダー輸送の主要港

はゴーテンブルグ(スウェーデン)、ヘルシンキ(フィ

ンランド)、セントピータースブルグ(ロシア)である。

1999 年以来、ハンブルグ港における鉄道貨物は約

80% 増加し、年間約 4,000 万トンに達している。コ

ンテナの鉄道輸送量は約 170% 増加し、1.83 百万

TEU(2007 年)に達している。現在 1日に 200 本に

及ぶ貨物列車が発着している。このうち半分はコンテ

ナ専用列車である。これは、欧州で 大の港湾鉄道貨

物列車数でありドイツを始め、スイス、オーストリア、

チェコ、ポーランド、ハンガリー等の東欧諸国への

高密度の鉄道輸送ネットワークが確立していること

が寄与している。(図3参照)

ハンブルグ港港湾局(Hamburg Port Authority:HPA)は、20015 年にはさらに貨物列車の運行量は

増加し、1 日に 450 本から 500 本に達するものと予

測している。その結果、成長の原動力であるコンテ

ナは、4.50 百万 TEU にまで及ぶものと予測している。

今後、ハンブルグ港からのコンテナ鉄道輸送は益々

その重要性が増すものと想定される。

4. コンテナの鉄道輸送事業者

ハンブルグ港に関係する貨物鉄道輸送企業は 40 社

近くあり、夫々の取扱貨物の専門性、輸送ネットワー

クの地域的な優位性等により、事業分野・運行領域は

幾つかに分かれている。事業専門分野については、鉄

鉱石・セメント・穀物等のバルク輸送事業者、石油製

(出典:ハンブルグ港港湾局提供)

図 2 ハンブルグ港の背後圏への接続輸送網(出典:ハンブルグ港港湾局提供)

図 3 ハンブルグ港の背後圏への鉄道輸送接続

品・液体化学薬品・危険物等を専門に扱う輸送事業者、

自動車メーカーと提携して自動車部品を専門に輸送

する事業者、およびコンテナ輸送を専門とする輸送事

業者等に別れる。この中でもコンテナ鉄道輸送事業

者の数が も多く比較的大型の企業でも 10 社を超え

ている。輸送ネットワークの地域優位性についても、

EU 統合および東方拡大による欧州市場の一体化の影

響もあり、ドイツ国内を始めスイス・オーストリア、

イタリア、ポーランド、チェコ、ハンガリー等に夫々

拠点を持つ鉄道輸送会社がハンブルグ港、ブレーメ

ン港とのシャトル運行をする等、運行領域は多方面

に亘っている。

コンテナ鉄道輸送事業者の事業形態については、大

別して3形態がある。これはドイツにおける鉄道輸

送事業形態全般に共通していて、所謂上下分離型の

事業形態をそのまま反映している(表 1参照)。

第 1に、基礎になるインフラに関する事業分野で、

軌道の保守、駅の運営管理等を担当する「鉄道ネット

ワーク事業者(Rail Network Provider)」である。代

表的な企業としては、ドイツ鉄道ネットワーク(DB Rail Network Company:DB Netze)、ハンブルグ港

港湾鉄道会社(Port Railway Company- Hamburg)がある。前者は港湾以外の鉄道軌道ネットワークの保

有者管理者である。後者はハンブルグ港の港湾区域

にある鉄道施設の保有者であり、運営管理者でもあ

る。全長330㎞に及ぶハンブルグ港内の路線網、1,000箇所を越えるスイッチ、5ステーション等のハンブル

グ港内のネットワークの管理運営を行っている。こ

の鉄道ネットワーク事業会社の所有者はドイツにお

いては政府若しくは公的機関であり、顧客は鉄道運

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行事業 者である。DB Netze の保有者は

ドイツ連邦政府であり、Port Railway Company- Hamburg の所有者はハンブ

ルグ市である。

第 2 の事業形態は、「鉄道運行事業

者(Railway Company)」である。この

事業は、機関車、貨車、運転手、現業

オペレ-ターを擁し運行サービスを提

供する。代表的な企業としては、ドイ

ツ鉄道貨物(DB-Container Railways:Railion/DB Schenker)、BoxXpress 等

がある。事業の所有者は、DB Schenkerの様に連邦政府保有の国有企業もある

が、BoxXpress を始め数多くの民間企

業の参入も見られる。この鉄道運行事

業者の顧客は「コンテナ鉄道輸送会社」

(Container Transport Operator)」である。

この鉄道運行事業者は、鉄道ネットワー

ク事業者から路線使用権を購入し、その

上に自身の経営資源を使用して運行ダイ

ヤを設定し、顧客であるコンテナ鉄道輸送会社に列車

ごと販売し、列車運行サービスを提供している。

第 3 の事業形態は、「コンテナ鉄道輸送会社

(Container Transport Operator)」である。この事業

は原則として運行施設・要員を保有せず、運行事業者

からダイヤおよび運行サービスを長期的(列車単位)

に仕入れると共に、コンテナターミナルから、鉄道ス

テーションのタイムスロットを予約し、それらを組み

合わせて安定 ・ 安全・ 短・ 経済的なコンテナ鉄

道輸送サービスを提供(小売)する事業である。こ

の事業の顧客は、 終需要家である船社、フォーワー

ダー等である。顧客は原則貨車 1 台毎に発注・予

約(Booking)・購入が可能である。この事業分野の

代表的な企業としては、TFG Transfracht、Eurogate Intermodal、Polzug Intermodal、Metrans 等多くのコ

ンテナ専業の民間事業者がある。

この事業形態の事業者は多くの場合、トラック輸送

事業会社を傘下に持ち顧客に対してドアツードアの

サービス、即ち複合輸送事業者(Combined Transport Operator)としてのサービスをも提供している。

ハンブルグ港における、2 大ターミナルオペレ-

ターである HHLA 社(HHLA Container Terminals GmbH) お よ び ユ ー ロ ゲ ー ト 社(EUROGATE Container Terminal Hamburg GmbH)は共にコンテ

ナ鉄道輸送事業に積極的に資本参加しており、単に

船社に対する荷役作業の提供者でなく、効率的な背

後圏輸送サービスの事業主体としての側面を強く持

ち始めている。

5. HHLA 社 CTA における鉄道荷役

ハンブルグ港におけるコンテナオペレ-ターであ

る HHLA 社のアルテンヴェルダーターミナル(CTA)

における鉄道輸送用コンテナの荷役について紹介す

る。CTA は 2001 年 4 月に稼動を開始した世界 新

鋭の全自働化ターミナルで、2007 年には 200 万 TEUを超えた取扱量を記録している。

① CTA のターミナルレイアウト

このターミナルは岸壁長 1,400m 奥行 600m のほぼ

長方形の地形に、海側から奥に向かって(図 4の右

から左に向かって)、エプロン、AGV(無人搬送台車)

走行エリア、コンテナ蔵置ヤード、トラック走行エ

リア、鉄道ステーションの各施設が配置されている。

鉄道施設(鉄道ステーション)は、全長 800m 幅

表 1 コンテナ鉄道輸送事業形態と事業会社:ハンブルク港関連

Business Field

(事業分野)

Name of the Company

(事業会社の例)

Ownership

(所有者)

Customer

(顧客)

1

Container Transport

Operator(コンテ

ナ鉄道輸送会社)

TFG Transport DB Shenker + HHLA

Forwarders,

Ocean Carrieers

Eurogate Intermodal

Owned by private

company

Kombiverkehr

ICL Intermodal Container

Logistics

Contargo/NeCoss

Polzug Intermodal

Metrans a.s.

Prague (Czacho)

CSKD-Intrans

ICF Intercontainer-

Interfrigo

Owned by several

E u r o p e a n s t a t e

railways

2

Railway

Company

(鉄道

運行事

業者)

Pure Railway

Operator

DB-Container Railwasy

(Railion/DB Schenker)

Stae owned

(Germany)

Combined

Transport

operators

OHE, Ost-Hannoversche

EisenbahnOwned by private

companyBoxXpress

EVB,

Eisenbahnverkehrsbetriebe

Elbe Weser

Stae Owned,

Lower Saxony

Railway Company

and Container

Transport

Operator

European Rail Shuttle B.V.

(ERS) Owned by private

company

Combined

transport

Forwarders,

Ocean carriers

TX Logistic

HGH Hafen Und Guterverkehr

3

Rail Network

Provider(鉄道ネッ

トワーク事業者)

DB Rail Network (DB Netze)Stae Owned

Railway

companies

Port Railway (Hamburg)City of Hamburg

owned

Port Railways(Bremen)City of Bremen

owned

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100m で、コンテナ蔵置ヤードの 陸端から約 100m離れて、ターミナル長さ方向に平行にレイアウトさ

れており、 長 720m のブロックトレインが 6 列停

車出来る線路が敷設されている(図 5参照)。

②鉄道ステーションでの搬出入コンテナの荷役

この鉄道施設には、6列の線路に跨りレ-ルスパン

41.5m、定格荷重 42.8 トン、90 度旋廻式トロリーを

持つ RMG が 4基設置されている(図 6参照:将来 2

基増設の予定)。鉄道線路の蔵置ヤード側線路脇に直

角方向に、約 200 台のシャーシを収容出来るシャー

シーの仮置き場(駐車場)が配列され、蔵置ヤード

ブロックとのコンテナの搬送を行う内部シャーシー

の荷揃場に供用されている。旋廻式トロリーにより

鉄道線路の方向と構内輸送用トレーラーの駐車方向

が直行していてもコンテナの方向を変更し荷役する

ことが出来る。

(出典:HHLA 提供)

図 6 鉄道クレーン荷役状況

(出典:Eurogate 社提供)

図 7 ユーロゲートターミナルの俯瞰図

図 5 CTA 自動ターミナルにおけるコンテナフロー

(出典:HHLA 提供)

図 4 CTA の俯瞰図

③構内輸送用トレーラー

ヤードブロック陸側端と鉄道ターミナル間の鉄道

コンテナの運搬は 15 台のトラクターヘッドと 200 台

のシャーシーで行う。トラクターヘッドとシャーシー

部分はトラクター運転席からの操作で自動的に着脱

することが出来る。トラクター運転室には無線端末

が設置されていて、運転手は鉄道ターミナルのシャー

シー駐車位置を構内トレーラー運行システムにより

直接指示を受ける。蔵置ブロックの陸側端には外部

トレーラーの受渡しゾーンに加えて、あと 3レーン

の鉄道用コンテナ輸送用構内トレーラーのための専

用受渡しゾーンが設置されている。

6. ユーロゲート社のターミナルにおける鉄

道荷役

ハンブルグ港ユーロゲートターミナルの俯瞰図を

図 7に示す。このターミナルでも鉄道ステーション

は蔵置ヤードの直背後にあり、ストラドルキャリヤー

若しくは構内トレーラーで運搬出来る距離に配置さ

れている。鉄道ステーションの長さは、CTA と同様

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に 大 720m のブロックトレイン 6 列車の荷役が出

来るステーションが 2施設、ヤードと平行に配置さ

れている。ユーロゲートの場合、ターミナルの直背

後に列車の待機レーンが配置されていて、これは、

ハンブルグ港港湾鉄道会社によって運営されている。

7. コンテナの内陸鉄道輸送

コンテナの内陸鉄道輸送事業者の事業領域につい

ては、取扱貨物の専門性および地域優位性等により事

業分野・運行領域が幾つかに分かれていることは前

述の通りである。代表的な例として、ハンブルグ港

に関係する有力なコンテナ鉄道輸送会社である TFG-Transfracht 社と Polzug Intermodal 社の輸送ネット

ワークを比較しても、その違いははっきりしている。

前者は、DB Shenker と HHLA が 50% ずつ出資した

ドイツ 大手のコンテナ鉄道輸送会社(年間輸送量

90 万 TEU)であり輸送ネットワークは、ドイツ・オー

ストリア・スイスに展開している。後者は、ポーラン

ド国有鉄道と、HHLA および DB Mobility Logisticsが 1/3 ずつ出資した合弁会社(輸送量 15 万 TEU)で

あり、ポーランドを拠点として東欧諸国に輸送ネッ

トワークを展開している(図 8参照)。

①コンテナの内陸鉄道輸送方法

コンテナの内陸鉄道輸送の場合、大きく分けて 2

つの輸送方法がある。第 1は、港湾の特定のターミ

ナルから、 終仕向地である内陸の特定の都市の鉄道

ステーションまで車両編成替えを行うことなく直接

ブロックトレインによって鉄道輸送する方法である。

第 2は、途中の鉄道ハブで編成替えし 終目的地

の鉄道ステーションまでブロックトレインで輸送す

る方法である。前者は、輸送ロットが大きい目的地

との間では有効であるが、ハンブルグ港の場合コン

テナターミナルも 4ターミナルあり 終目的地も数

多くあるため、鉄道ハブを利用した後者の輸送方法

が多くの輸送会社により採用されている。

ハンブルグ港から約20km 離れた場所に北欧州 大

の鉄道ハブ (Maschen Railway Hub) があり、ハンブ

ルグ港およびブレーメン港の鉄道輸送コンテナを対

象に、多くの輸送会社が利用している(図 9参照)。

②コンテナ鉄道輸送のスケジュールと所要時間

ハンブルグ港の各コンテナターミナルと背後圏の鉄

道ターミナルの間の輸送スケジュールについては、各

鉄道輸送会社はインターネットのホームページ等を通

じて時刻表を広く公表している。その代表的な例とし

て、ハンブルグ港 大のコンテナ鉄道輸送会社である

TFG-Transfracht 社の時刻表の要約を表2に示す。

TFG 社は、ハンブルグ港の 4ターミナルおよびブ

レーメルハーフェン港の 2 ターミナル、合計海港 6

ターミナルと内陸 21 鉄道ターミナル(ドイツ国内で

16 ターミナル、オーストリアで 3ターミナル、スイ

ス 2でターミナル)をほぼ毎日1便のダイヤで輸送

サービスを行っている。

表 2はドイツおよびスイス・オーストリア各都市の

鉄道ターミナルから、ハンブルグ港のコンテナターミ

ナルに向けて運行される輸出用コンテナ専用列車の出

発締切時刻、到着日と到着時刻を表している。輸入コ

ンテナに関しても同様の時刻表が公表されている。

一例として、オーストリアのウィーンからハンブル

グ港に向けて、毎週月曜日から金曜日にかけて、毎

日 17:00 に専用列車が出発し、翌早朝 5:30 から 9:

00 の間に同港の各ターミナルに到着する。この運行

時間には、ハンブルグ港での税関への輸出申告手続

の所要時間も含まれている。

表からも判るように、ドイツ国内の 16 鉄道ターミ

ナルから少なくとも週に 93 便、またオーストリアお

よびスイスの 5鉄道ターミナルから週に 27 便の専用

列車を同社は運行している。

同様にブレーメルハーフェン港の 2ターミナルに

Maschen

Brmerhave

LinzUlm

Dresden / Riesa

RegensburgAugusburg

Dortmund

MannheimKornwestheim

Basel

Karlsruhe

TotzGliwice

Katowice

To Moldova

To Ukraine

To Russia

To Lithuania

注:        TFG-Transfracht社の輸送ネットワーク           Polzug Intermodal社の輸送ネットワーク

図 8 TFG-Transfracht 社および Polzug Intermodal社の鉄道輸送ネットワーク

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図 9 Maschen Railway Hub の鳥瞰図

締切 到着 到着 到着 到着 到着 到着 到着 到着月 火 水 木 金 土 日 時刻 日*5 時刻 日*5 時刻 日*5 時刻 日*5 時刻

1 Augsburg x x x x x 18:00 B 13:30 B 11:30 B 12:30 B 11:302 Bamberg Hafen x x x 18:00 B 13:30 B 11:30 B 12:30 B 11:30

x x x x x 15:30 B 9:00 B 6:15 B 10:30 B 5:30x 12:00 B 15:00 B 18:45 C 3:00 B 15:30

x x x x x 18:00 B 11:15 B 10:15 B 12:30 B 11:30x x x x 20:00 B 22:00 B 23:45 C 0:30 B 23:00

5 Grossbeeren x x x x 19:30 B 9:00 B 6:15 B 8:45 B 5:30x 15:00 C 11:15 C 10:15 C 12:30 C 11:30

x 15:00 B 22:00 B 23:45 C 0:30 B 23:00x 15:00 C 15:00 C 18:45 Mon 0:30 C 15:30

x x x x x 18:45 B 13:30 B 11:30 B 12:30 B 11:30x 14:45 B 1:45

x 12:15 A 21:458 Kormwestheim x x x x x 19:30 B 13:30 B 11:30 B 12:30 B 11:30

x x x 15:15 B 16:30 B 16:30 B 16:30 B 16:30x x 19:00 B 11:15 B 10:15 B 12:30 B 11:30

x 10:00 B 15:00 B 18:45 Mon 0:30 B 15:30x x x x x 20:30 B 17:15 B 17:15 C 0:30 B 16:00

x 20:00 B 22:00 B 23:45 B 0:30 B 23:00x 10:30 C 6:15 C 7:00 C 1:30 C 7:00

x x x x x 15:15 B 11:15 B 10:15 B 12:30 B 11:30x x x x x 18:30 B 13:30 B 11:30 B 12:30 B 11:30

x 12:00 C 6:15 C 7:00 C 0:30 C 7:00x x 10:00 B 9:00 B 6:15 B 5:30 B 5:30x x x 21:30 B 17:15 B 17:15 C 0:30 B 16:00

x x 21:30 B 13:30 B 11:30 B 12:30 B 11:3013 Regensburg Ost x x x x x 19:00 B 17:15 B 17:15 C 0:30 B 16:0014 Riesa Hafen x x x x 21:00 B 13:30 B 11:30 B 12:30 B 11:30

x x x x 20:30 C 11:15 C 10:15 C 12:30 C 11:30x 20:30 B 16:30

x x x x x 19:30 B 17:15 B 15:30 C 0:30 B 16:00x 19:30 C 6:15 C 2:15 C 0:30 C 7:00

17 Linz Stadthafen x x x x x 17:00 B 22:00 B 23:45 C 0:30 B 23:00

18 Salzburg x x x x x 16:30 B 17:15 B 17:15 C 0:30 B 16:00

19 Wien Freudenau x x x x x 17:00 B 9:00 B 6:15 B 10:30 B 5:30

x x x x x 17:45 B 17:15 B 17:15 C 3:00 B 16:00x 11:00 B 6:15 Mon 7:00 Mon 0:30 Mon 7:00

21 Rekingen x x x x x 14:00 B 17:15 B 17:15 C 0:30 B 16:00

*4 EKOM: EUROGATE Terminal  *5 到着日:A=当日、B=翌日、C=翌々日  *6 上記時刻表は2009年3月現在

注: *1 CTT: HHLA Tollerort Terminal *2 CTA: HHLA Altenwerder Terminal *3 CTB: HHLA Buchadkai Terminal

ドイ

ツオ

ース

トリア

スイ

DortmundWesterholz

3

Frankfurt Ost4

Karlsruhe6

鉄道ターミナル名

No.地域 出発日

鉄道ターミナルハンブルグ港 海港ターミナル

CTT *1CTA *2 CTB *3 EKOM *4

7Koeln NiehlHafen

Leipzig-Wahren9

Mannheim10

Munchen-Reim11

Nurnberg12

Saarbrucken15

Ulm16

Basel20

表 2 T FG-Transfracht 社のコンテナ鉄道輸送時刻表(輸出)

向けても、ほぼ同数の専用列車がコンテナ輸送サー

ビスを行っている。これらの便数を単純に合計する

と、膨大な数のコンテナ専用列車が運行されている

計算になるが、実際には鉄道ターミナルから港に向

けて出発する列車には、ブレーメルハーフェン港も

含め各ターミナル向けの貨車は混合して連結されて

Maschen 鉄道ハブに向かう。そこで再編成され、ター

ミナル毎に再度列車が仕立てられて輸送されて行く。

8. コンテナの海上輸送と鉄道輸送との連携

のための IT システム整備状況

①コンテナ鉄道輸送会社の IT システム

ハンブルグ港に関連するコンテナ鉄道輸送会社は

自身のインハウス IT システムを持ち、インターネッ

トのウエブサイトを開設し顧客に対して情報サービ

スを行っている。その主な機能は、1)価格見積機能、

2)時刻表情報サービス機能、3)ブッキング機能、4)

コンテナおよび貨物のトラッキング・トレーシング

機能、5)ドキュメント機能(船積み電子書類の作成、

通関電子書類の作成等)、6)インボイスおよびビリン

グ機能(請求機能)等多岐にわたっている。顧客はイ

ンターネット画面を通して輸送スペースの予約、コ

ンテナのトレース等が 365 日 24 時間、何処からでも

可能である。

また、このシステムは船社をはじめ、コンテナター

ミナル、税関、その他大手のフォーワーダー等大量・

多頻度・高速のデータ交信を必要とする相手に対して

は専用回線による EDI 接続がなされている。外航船

社の場合、自身の持つグローバルネットワークシステ

ムを通して提携している鉄道会社のシステムにアク

セスし、ブッキングが直接出来るのみならず、コンテ

ナ番号・ブッキング番号をキーにして道路輸送状況、

鉄道輸送状況、ターミナル到着時刻等のコンテナの

ステータスのトレース、更に鉄道輸送代金の決済等

が可能である。

②公的機関が運営する IT システム

ハンブルグ港の鉄道輸送に関係する主な公共シス

テムは 2つある。一つはハンブルグ港の共通データ

プラットフォームとしての機能を持つ「UNIKAT」であり、もうひとつはハンブルグ港内の鉄道オペレー

ションシステムである「HABIS」である。その概要

を以下に紹介する。特に前者はハンブルグ港全体の

共通情報プラットフォームである「DAKOSY(Data Kommunikations System)」の機能の一部をなしてい

る。

1)「UNIKAT」このシステムは、コンテナの鉄道輸送に関係する事

業者・公的機関等関係者相互の情報交換業務を支援す

るシステムであり、船社 / 船舶代理店の持つインハウ

スシステムと鉄道輸送会社、港湾鉄道会社(ハンブ

ルグ港、ブレーメン港)、コンテナターミナル、税関

Page 7: コンテナ輸送における鉄道利用と情報化: ハンブルク港の事例ン港とのシャトル運行をする等、運行領域は多方面 に亘っている。コンテナ鉄道輸送事業者の事業形態については、大

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等のシステムとの間の電子情報交換機能を有してい

る。これにより、顧客は鉄道輸送事業者への輸送指示、

ステータスモニターリング、過去の履歴等の照会が

可能となる(図 10 参照)。

需要家である船社 / 船舶代理店は自身の持つインハ

ウスシステムと「UNIKAT」をEDI接続(1チャンネル)

することにより、複数の鉄道輸送会社のインハウスシ

ステムと EDI 接続することが出来る。それに伴って、

更に 「UNIKAT」 自身が持っている、LPK(ドイツ鉄

道(DB)の情報システム)、HABIS(ハンブルグ港

鉄道会社の情報システム)、WADIS(ブレーメン港鉄

道会社の情報システム)、税関、港湾ターミナルのオ

ペレーションシステム、またドイツ鉄道が持つ内陸鉄

道ターミナルとの接続が可能になる。これらのネット

ワークを活用して需要家(船社 / フォーワーダー)は、

上記の鉄道輸送会社へのアクセス、輸送の発注、およ

び発注後の貨物のステータスのモニター等をマルチ

チャンネルで広範囲に行うことが可能になる。

2)「HABIS」ハンブルグ港の広大な港内鉄道線路と港内鉄道

駅、および構内を通行する貨物列車の運行を管理

する、ハンブルグ港港湾鉄道会社(Hamburg Port Railway Company)のオペレーションを支援する ITシステムであり、ハンブルグ港港湾局 (Hamburg Port Authority: HPA)により開発され、現在は「DAKOSY」

社によって情報システムの維持・運営がなされている。

コンテナ専用列車に対する港内でのオペレーショ

ンは、①外部からハンブルグ港に入ってきた列車を外

部の鉄道輸送会社の機関車から受け取り、②ターミ

ナルごとに分割・再編した後、③所定の時刻に所定

のターミナルのステーションのレーンに送り入れる、

若しくは既に荷役の終了した列車を引き出し、再び外

部の鉄道輸送会社の機関車に引き渡することであり、

「HABIS」 はこれらのオペレーションを管理する機能

を持っている。

更に 「HABIS」 は、「UNIKAT」 を通じて各鉄道輸

送会社のシステムに接続されていると同時に、ター

ミナルのオペレーションシステム、ハンブルグ港税

関のシステムとも接続されており夫々からのステー

タス情報を、利用者であるコンテナ鉄道輸送会社等

に伝送する機能を有している。

8. まとめ

ハンブルグ港はその取扱コンテナの 34%(1.83百万 TEU:2007 年)は鉄道利用して背後圏に輸送さ

れている。この比率は今後更に増えるものとハンブル

グ港関係者は予想している。このような鉄道輸送量

増大の背景としては、第 1に、欧州大陸では貨物輸

送における鉄道の重要性が極めて高いことから、長

年にわたる鉄道インフラ構築が行われ、その結果イ

ンフラのストックが大きいことが挙げられる。

第 2に、EU 発足以来、環境保護および次世代輸送

システム構築の観点から、欧州大陸における効率的

な輸送機関として鉄道・内陸水運重要性が強く認識

され、その充実が重点的に推進されて来ている。

更に、社会政策としてドイツ国有鉄道(DB)をは

じめ各国の国有鉄道が分離民営化され、多数の民間

資本の参入が奨励されたことも大きく影響している。

わが国においても、JR コンテナの鉄道輸送は定着

し、その情報システムは欧州に比肩し得る水準の技

術が実現している。

今後海上コンテナ輸送における鉄道利用の拡大の

ためには、わが国の国土、歴史的経緯を踏まえ、国

全体での基本的な認識の統一、合意の形成が必要で

あろう。

(いちのせ まさお 調査役)

(出典:Dakosy 社提供)

図 10  船社/船舶代理店と鉄道輸送システムとのリンケージ(「UNIKAT」)