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2015- 9「車両技術 250 号」142
ロサンゼルス郡都市圏交通局向け P3010 形 LRV※染
そめ
川かわ
日ひ
出で
雄お
※※杉すぎ
山やま
直なお
樹き
※※石いし
田だ
将まさ
彦ひこ
※※井
い
谷たに
岳たけ
志し
※※ダニエル ロドリゲス
写真 1 外観
要旨近畿車輛株式会社(近畿車輛)は、約 30 年に渡ってボストン、ダラス、ニュージャージなどの米国主要 6 都市
に、計 568 両にも及ぶ路面電車を製造し納入してきた。2012 年 8 月に全米第 2 位のライトレール路線長をもつロサンゼルス郡都市圏交通局(LA メトロ、Los Angeles County Metropolitan Transit Authority)から、LA メトロのライトレール全路線で使用する新形高床式 2 車体連接ライトレール車両(LRV)を近畿車輛の米国現地法人である KINKISHARO INTERNATIONAL L.L.C を通じて受注した。受注車両数は、ベース契約の 78 両に加えて、4 次に渡るオプション契約を含めると合計 235 両となり、LRV としては最大規模の案件である。新形車両となる P3010 形 LRV は、客先の厳しい安全性能及び走行性能などの要求仕様を満足しつつ、近畿車輛の米国向けLRV では、初となるスポット溶接による自動化が可能なステンレス構体の採用など、多くの新規開発及び検証を行いながら設計製作した車両である。以下に本車両の概要を紹介する。
1 はじめにロサンゼルス郡都市圏交通局(LA メトロ)は、全米第 2
の規模を誇る交通事業者であり、1990 年代から、都市中心部での慢性化する道路渋滞解消のため、地下鉄及びライトレールの路線を整備して運行している。このうち、ライトレールは、ロサンゼルスの中心街から近隣の街へ延びる“ブルーライン”、“グリーンライン”、“ゴールドライン”及び“エキスポライン”の総延長 113 ㎞に及ぶ 4 路線(図 2参照)があり、3 世代の高床式 2 車体連接 LRV が運行されている。今回、近畿車輛は、ゴールドライン及びエキスポラインの延伸に伴う増備用の車両及び老朽化の進む既存車両の代替用として、ベース契約 78 両及び 4 次に渡るオプション契約で総合計 235 両の新形車両 P3010 形 LRV を受
注し、米国内で構体の製作も行うオプション契約を含めて2020 年までに完納する計画である。
P3010 形は、LA メトロ当局との契約に基づいて、主要機器及び部品を現地調達しつつ、厳しい重量制限の中での“車体強度要求”、“1 時間床耐火及び 30 分屋根耐火の要求”、“スポット溶接による自動化が可能なステンレス構体の採用”などの要求を満たすため、従来の当社アメリカ案件よりも新規開発及び検証要素の多い車両となった。
2 編成及び車両性能と主な特徴P3010 形は、McA 車(A 車)及び McB 車(B 車)からなる
全長 27.1 m の 2 車体連接構造の LRV で、A 車及び B 車の運転室寄りに動台車を配置し、A 車及び B 車の間には
※ 近畿車輛㈱ 営業本部 海外事業室※※ 近畿車輛㈱ 技術本部
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図1
形式
図
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会社・車両形式 ロサンゼルス郡都市圏交通局(LA メトロ)・P3010 形使用線区 LA メトロ・ライトレール路線全線 軌間(㎜) 1 435基本編成 McB 車 -McA 車 使用線区の最急勾配 6 %用途 通勤、通学用 電気方式 架空線直流 750 V車体製作会社 近畿車輛㈱ 製造初年 2014 年台車製作会社 近畿車輛㈱ 製作予定両数 235 両主回路装置製作会社 東洋電機製造㈱ 車両技術の掲載号 250
基本編成及び主な機器配置
凡例 ●;駆動軸 ○;付随軸 VVVF;主制御装置 APS;補助電源装置 CP;空気圧縮機 <;パンタグラフ ▽;密着式電気連結器 -;連接装置
個別の車種形式 -車種記号(略号) McB McA空車質量(t) 46.3(A / B 車合計)定員(人) 211(AW3)うち座席定員(人) 32 36
特記事項
電気駆動系主要設備
集電装置
形式/質量(㎏)方式 シングルアーム式パンタグラフ
制御装置
形式/質量(㎏)制御方式 2 レベル VVVF インバータ制御仕様 1C2M 制御
主電動機
形式 / 質量(㎏)方式 三相かご形誘導電動機1 時間定格(kW) 150回転数(min-1)特記事項
最大限流値
力行(A)ブレーキ(A)
電気ブレーキの方式 回生ブレーキ、発電ブレーキ併用ブレーキ抵抗器
形式 / 質量(㎏)
補助電源設備
補助電源装置
形式 / 質量(㎏)
方式高周波絶縁方式、インバータ、コンバータ
出力
蓄電池種類 / 質量(㎏) ニッケルカドミウム蓄電池容量(Ah)主な用途
車両性能
最高運転速度(㎞/h) 105加速度(m/s2) 1.34(4.8 ㎞/h/s)減速度
(m/s2)常用 1.56(5.6 ㎞/h/s)非常 2.3(8.3 ㎞/h/s)
ユニット当りの定格
ユニット構成 Mc+Mc出力(kW) 600速度(㎞/h) 105引張力(kN)
ブレーキ制御方式回生・発電ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ、トラックブレーキ付き
制御回路電圧(V) DC 750
抑速制御
運転保安装置 ATP / TWC / ATO
列車無線
非常時運転条件
その他
表 1 ロサンゼルス郡都市圏交通局向け P3010 形 LRV 車両諸元
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その他の主要設備
空調装置形式/質量(㎏)方式容量(kW) 28
暖房装置容量(kW) 13形式/質量(㎏) 空調装置内蔵ヒータ方式
標識灯前部標識灯 LED後部標識灯 LEDその他
その他
空気ブレーキ設備
電動空気圧縮機
形式/質量(㎏)圧縮機容量圧縮機方式 レシプロ方式
空気タンク元空気タンク 115 ㍑供給空気タンク 48.5 ㍑
ブレーキ制御装置
形式/質量(㎏) 電子制御方式
台 車
形式動台車 KD242付随台車 KD243
車体支持装置 インダイレクトマウント式けん引装置 心皿方式枕ばね方式 空気ばね上下枕ばね定数 /台車片側(N/㎜)
動台車付随台車
軸箱支持方式 シェブロン式軸ばね方式 シェブロンゴム
上下軸ばね定数 / 軸箱(空車時)(N/㎜)
コイルばね動台車付随台車
ゴムばね動台車付随台車
総合動台車付随台車
軸距(㎜) 2 150台車最大長さ(㎜)
動台車 3 480付随台車 3 400
車輪径(㎜) 711
基礎ブレーキ
動台車1 軸 1 ディスク空圧キャリパ方式駐車ブレーキ付き
付随台車 1 軸 2 ディスク空圧キャリパ方式ブレーキ倍率
制輪子動台車 -付随台車 -
ブレーキシリンダ×個数
動台車 2付随台車 4
駆動方式 2 段減速駆動装置歯数比(減速比)継手 フレックスカップリング軸受 密封式円すいころ軸受
質量(㎏)動台車付随台車
記事
車体の構造・主要寸法
構体材料 / 構造 ステンレス鋼、高張力耐候性鋼車両の前面形状 非貫通形運転室 全室
長さ(㎜)先頭車間 26 574.8
(13 273.9+13 273.9)中間車連結面間距離(㎜)
先頭車27 094
中間車
心皿間距離(㎜)8 675
(動台車-付随台車中心間)車体幅(㎜) 2 652
高さ(㎜)屋根高さ 3 285屋根取付品上面 3 810(前頭部屋根覆い)
床面高さ(㎜) 996
車体特性・構造及び主要設備
相当曲げ剛性(MN・m2)相当ねじり剛性(MN・m2/rad)曲げ固有振動数(Hz)ねじり固有振動数(Hz)内装材 FRP側窓構造 固定窓妻引戸 -
側扉構造 両引戸片側数 4
戸閉め装置形式 -方式 電気式両引戸
腰掛方式 片持ち式クロスシート車体連結装置
先頭車 密着式電気連結器中間車 -
空調換気システム
冷房方式 屋根置形ユニットクーラ暖房方式 空調装置内蔵ヒータ換気方式 空調装置内蔵送風方式 -
室内灯照明方式 グローブ付き直流灯灯具方式 LED 照明
移動制約者設備 車椅子スペース
便所主要設備 -汚物処理 -
その他の主要設備
主幹制御器形式/質量(㎏)方式 カム式電気接点ポテンショメータ付き
速度計装置 電子式表示器(LCD)
車両情報制御システム
モニタ装置コンピュータ、イーサーネット制御
モニタ表示器 タッチパネル式 LCD
非常通報装置乗客対話式非常通報機能付き
(4 箇所 / 両)
行先表示器前面 LED側面 LED
車内案内表示 LCD
放送車内向け 側天井埋込形スピーカ車外向け 屋根覆い搭載形スピーカ
車両間連結電気系 ジャンパケーブル空気管系 空気ホース
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連接装置を介して付随台車を設けている。LA メトロのLRV は、日本国内の低床式 LRV とは異なり、プラットホームの高さが高いため、客室の床面はレール上面から 996㎜となっている。客室内の基本レイアウトは、既存の 1 次車(日本車輌製造株式会社製)、2 次車(Siemens AG 製)及
び 3 次車(AnsaldoBreda S.p.A. 製)のレイアウトを踏襲した片側 2 人掛けの片持ち式クロスシート配置を採用している。
最高運転速度は、105 ㎞/h(性能上は 113 ㎞/h)で、加速度は、1.34 m/s2、減速度は、1.56 m/s2(常用)及び 2.3 m/s2
図 2 路線図
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(非常最大)である。営業時は、最大 3 編成(非常時は最大6 編成)を連結して運行するため、両先頭部には、電気連結器付きの連結器を装備して、P3010 形同士の併結運転に対応している。なお、既存車両との連結は、非常時の機械連結器での対応のみとなる。
3 外観デザインP3010 形は、LA メトロの LRV の新しいイメージデザ
インを確立することを目指し、前頭部のデザインは、既存車両に比べて、より強烈に目立つイメージを採用した。また、LA メトロ当局から前頭部のデザインに求められた優先項目は、“安全(Safety)”であった。このため、P3010 形は、“歩行者や自動車の運転手からの視認性を著しく改善すること”及び“夜間の視認性向上”を目的に、明るい黄色を配色した塗り分けを採用したほか、反射フィルムを前頭部から側面の広範囲に渡って貼り付けることとした。これらを考慮した結果、前面窓の上下に黒色を配して、その左右に大きな曲面の黄色の帯を屋根覆いから側スカートにかけて連続させるとともに、前面の腰部に黄色の円弧上の帯と標識灯及び LA メトロのシンボルマークとを組み合わせて、車両を正面から見たときに、“スマイル”の表情を表現
図 3 車体断面
写真 2 運転室モックアップ(木製)
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することで、より強いエクステリアデザインイメージとした。
4 車体構造4.1 構体
車体構造の主要部材は、ステンレス鋼及び高抗張力耐候性鋼(LAHT)を使用して、米国溶接協会(AWS:Ameri-can Welding Society)の規格に従って溶接組立を行なった。また、客先指定の各種荷重条件に対しては、有限要素法(FEM)を用いた解析によって、確認及び修正を行いながら設計を進め、最終的には構体荷重試験によって、妥当性を検証している。その結果、P3010 形の構体は、車端圧縮荷重 2G(空車重量の 2 倍)の荷重条件を初めとして、各種荷重条件に耐えうる構造となっている。特に前頭構体は、衝突柱及び隅柱とそれらを受ける柱受(Structural Shelf)とで構成した部材をアンチクライマ付きの端ばりを含めた端台枠部に埋め込んで強固に結合している。また、側構体は、自動車などが側面に衝突した場合についても検討して設計を行った。4.2 耐火要求及び耐燃焼性能
床及び屋根の基本構造は、ASTM インターナショナルの規 格 ASTM E119(Standard Test Methods for Fire Tests of Building Construction and Materials)に基づいた試験方法で原寸供試体による耐火試験を実施して、要求仕様を満足していることを確認している。試験時間は、それぞれ床が 1 時間及び屋根が 30 分であり、これまでの当社アメリカ案件の 2 倍の試験時間となっている。また、使用してい る 各 部 の 材 料 は 全 て、ASTM E162(Standard Test Method for Surface Flammability of Materials Using a Radiant Heat Energy Source)及 び E662(Standard Test Method for Specific Optical Density of Smoke Generated by Solid Materials)並びにボーイング社の安全規格 BSS 7239(Test method for toxic gas generation by materials on combustion)などに規定する試験を実施して、耐燃焼
性能、発煙量及び有毒ガス量の規制についても、要求仕様を満足するもののみを使用している。
5 客室5.1 客室構造
客室の床面は、運転室へと続く客室端部のスロープ部を除き、レール上面から 996 ㎜と全て均一な高さとしており、車椅子の乗客も含めて駅プラットホームからの容易な乗車を可能としている。床は、サブフロア、断熱材及び床敷物と一体の床板で構成される。サブフロアの構造並びに断熱材の選定及び配置は、床耐火性能の確保及び車内騒音の低減のため、特に配慮した設計となっている。また、側窓きせ及びその直下の腰板は、FRP 製の一体構造を採用して、継目及び押え面を極力減らした設計としている。さらに、戸袋パネルも FRP 製とすることで、側窓きせとの一体感を高めている。
室内灯は、LED を採用して、客室天井面の全長に渡って 2 列に配置している。また、連接部の照度を確保するため、左右の機器ロッカー間の天井にもこれらと直交する向きに灯具を備えている。車内スピーカは、左右の側かもい部に千鳥掛けに配置して、客室内に音声案内が均等に広がるように配慮している。なお、車内セキュリティ対策として、車内監視カメラを側かもい下面に取り付けた。監視カメラは、死角がないように位置及び角度を配慮して取り付けている。5.2 室内設備
座席は、片持ち式 2 人掛クロスシートを側出入口間に通路を挟んで各 5 脚ずつを設けたほか、A 車及び B 車に各 1箇所ずつ設けた車椅子スペース部に跳ね上げ式の 2 人掛腰掛(写真 3)を配置した。また、連接部付近には、片持ち式2 人掛クロスシートを通路を挟んで各 2 脚ずつ(B 車は片側 2 脚のみ)を配置したほか、運転室と客室との仕切りパネル(運客仕切りパネル)の背面にシートボックス式の 2 人掛クロスシート(写真 4)を通路を挟んで各 1 脚ずつ配置し
写真 3 ハンディキャップ設備及び跳ね上げ式腰掛 写真 4 室内(シートボックス式腰掛部)
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ている。腰掛は、クッションを内蔵したファブリック生地の着脱式座ぶとん及び背ずりをステンレス製の本体にはめ込んだ構造を採用している。また、運客仕切りパネル背面に設けたシートボックス式の腰掛の内部には、台車の砂まき装置に供給する砂をためておくステンレス製の砂箱を納めており、腰掛全体を回転させて前へ倒すことで、砂箱にアクセスできる構造となっている。
各出入口の両側には、防風のため、ウィンドスクリーンを取り付けた。ウィンドスクリーンの一端には、天井まで伸びたステンレス製パイプのスタンションポール(握り棒)を設けている。また、腰掛背もたれ部にも同様に天井まで続くスタンションポールを設けた。スタンションポール間は、レール方向に平行なグラブレール(水平握り棒)で接続して、立っている乗客が容易につかまることができるように配慮している。なお、B 車の連接部脇に設けた機器ロッカーの前には、乗客が自転車及びベビーカーを車内に持ち込んだ際に置くためのスペースを設けている。5.3 窓及び扉
側窓ガラスは、合わせガラスを採用した。側窓ガラスは、H ゴムを使用して取り付ける方式を採用することで、ガラス破損時に車外からの補修交換作業を容易にしている。また、室内側のガラス表面には、いたずら防止のための保護フィルムを貼り付けている。
側出入口は、両引式の側引戸を A 車及び B 車の各車に片側当たり 2 箇所ずつ設けた。出入口付近のスタンションポールには、扉開操作押しボタンスイッチを設けたほか、各側出入口の戸袋パネルには、非常時に使用する側引戸手動開放装置のレバーを装備している。側引戸は、アルミハニカム構造を採用して、引戸の窓ガラスは側窓と同様に Hゴム支持方式で取り付けている。5.4 連接部
連接部は、当社の車体連接 LRV で実績のある特殊合金製の連接装置によって結合している。室内側は、ターンテーブル式の連接床及び固定パネルとゴム板とを組み合わせ
た側・天井部の連接内装板で構成しており、曲線走行時の車体間の動きに追従できる構造となっている。5.5 ハンディキャップ設備
A 車及び B 車の各車に配置した跳ね上げ式腰掛部は、座面を跳ね上げることで車椅子スペースとして使用できる。また、同スペースの周囲は、車椅子での通行に支障がないように十分なクリアランスを確保するとともに、車椅子スペース部の戸袋パネルには、乗務員と直接通話のできる非常通報装置を装備した。なお、同スペースの床は、車椅子スペースであることを明確に示すため、周囲の床と色を変えるとともに、車椅子を表わすピクトグラムを表示している(写真 3)。
6 運転室設備運転室は、運転室モックアップ(写真 2 及び 5)を製作し
て、人間工学に基づいてデザインした。運転室は、中央に運転台腰掛を配置し、アルミニウム合金製のユニット方式の運転台デスクを左右及び正面に取り付けた。運転台デスクの上に配置した運転台コンソールは、乗務員を囲むように 3 面形状で構成している。運転台コンソールの左右には、TOD(TRAIN OPERATOR DISPLAY)を搭載して、運行及び保守に必要な情報を表示する。また、左右の隅柱には、12.1 インチのモニタを取り付けて、車両の側面に設置した後方監視カメラからの映像を映し出す(写真 6)。なお、前方監視カメラ、運転室監視カメラ及び客室監視カメラで撮影した映像は、DVR(DIGITAL VIDEO RECOD-ER)に録画される。
運転台腰掛の後方左右には、機器ロッカーを設けた。ロッカー内には、ECU(電子制御ユニット)及び TCN(車両通信ネットワーク)装置などのネットワーク関連装置を取り付けている。その他の設備としては、ワイパ装置及び乗務員がロサンゼルスの強い日差しを避けるための大形ロールカーテンを設置している(図 4 参照)。
7 機器配置7.1 床下機器配置
A 車の床下には、主制御装置、補助電源装置及び蓄電池箱を搭載した。B 車は、主制御装置及び空気圧縮機装置を搭載した。
写真 5 運転室モックアップ
写真 6 運転台
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放送制御装置
図4
運転
室機
器配
置
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7.2 屋根上機器配置A 車には、パンタグラフ、空調装置、ブレーキ抵抗器
及び GPS アンテナを搭載した。B 車は、空調装置、ブレーキ抵抗器及び無線 LAN アンテナを搭載した。これらの機器は、車体側面と一体感をもたせた屋根覆いによって、プラットホームの乗客から極力見えないようにした。
8 主要機器8.1 主制御装置
主回路システムは、A 車に搭載した高速度遮断器並びに A 車及び B 車の各車に搭載したフイルタリアクトル、主制御装置、ブレーキ抵抗器及び主電動機から構成する。主制御装置は、2 レベル VVVF インバータの 1C2M 方式を採用して、フィルタユニット、IGBT インバータユニット、ブレーキチョッパユニット、制御ユニット、ラインスイッチなどから構成している。IGBT の冷却は、強制空冷方式である。インバータのゲート制御は、センサレスベクトル制御にてトルク演算を行う方式である。また、ブレーキシステムは、回生ブレーキ及び発電ブレーキを併用するシステムである。なお、力行、ブレーキ制御などの信号は、TCN のネットワークを用いて伝送する。8.2 主電動機
主電動機は、1 時間定格出力 150 kW の 4 極三相かご形誘導電動機を採用した。主電機は、IEC-60349-2(Electric traction-Rotating electrical machines for rail and road ve-hicles-Part 2:Electronic converter-fed alternating cur-rent motors)に基づいて設計されている。主回路制御装置は、主電動機に取り付けられた速度センサから生み出される速度信号を読み取り、固定子の磁束を制御する。冷却方式は、空冷方式である。冷却に用いる空気は、主電動機に取り付けられたエアーフィルタを通して取り入れている。8.3 集電装置
集電装置は、ばね上昇・モータ下降式のシングルアーム式パンタグラフで、A 車に搭載している。なお、パンタグラフは、パンタグラフ故障時に備えて、室内からハンドクランクによって昇降を可能としている。8.4 ブレーキ装置
ブレーキシステムは、電気指令式空気ブレーキ方式で、ECU 及び BCU(ブレーキ制御装置)によって、動台車及び連接部の付随台車のブレーキを制御する。これらのブレーキ装置と運転室ロッカー内に搭載した TCN 装置とは、イーサネットを介して制御信号のやり取りを行っている。8.5 電動空気圧縮機
B 車の床下には、LA メトロ当局で実績のあるレシプロ方式の電動空気圧縮機を搭載した。電動空気圧縮機の電動機は、三相交流電源で駆動する。8.6 補助電源装置
A 車の床下に搭載した補助電源装置は、故障時の冗長性を考慮して、独立した 2 つのパワーユニットと 1 つのLVPS(低圧電源装置)とを装備している。パワーユニットは、IVPS(中間電圧電源供給装置)及び IGBT モジュールを採用したインバータから構成している。各パワーユニットは、直流 750 V の入力を受けて、208 V 65 kVA の三相交流 60 Hz 及び室内コンセント用の 120 V 2.4 kVA の単相交流 60 Hz を出力する。また、LVPS は、蓄電池の充電用
電源及び車両低圧電源供給用として、直流 28.5 V 10 kWを出力する。なお、コンバータの冷却は、ファンによる強制空冷方式である。8.7 蓄電池
蓄電池箱は、A 車の床下に搭載した。蓄電池は、ニッケルカドミウムタイプで、5 セル 4 列の合計 20 セルから構成され、200 Ah の容量をもっている。なお、蓄電池は、ステンレス製の蓄電池箱の内部に設けたスライド式のトレー上に収納している。8.8 空調装置及び暖房装置
空調装置は、A 車及び B 車の屋根上中央部に定格能力28 kW(96 000 BTU/h)の空調機を配置した。空調された空気は、車体中心部に設けたメインダクトから両側のプレナムダクトに導かれて、客室全長に渡って配置した吹出口から室内に吹き出される。暖房は、この空調機の暖房能力だけでまかなうことができる。なお、冷暖房能力は、環境試験室(クライメートルーム)において実車での試験を行い、要求仕様された冷暖房能力が確保できていることを確認している(写真 7)。8.9 戸閉め装置
戸閉め装置は、さまざまな制御に対応が容易な電気式を採用している。側引戸の開閉は、モータの回転をスピンドルに伝え、スピンドルナットを介してアームに直結した側引戸を駆動する方式である。また、戸挟み検知は、側引戸の戸先ゴム内にセンサを設け、これによって戸挟みを検知する方式となっている。8.10 車両情報制御システム(VMS)
VMS(車両情報管理システム)は、通信・放送システム、MDS(車両状態監視・診断システム)及び TCN(車両通信ネットワーク)を含む全ての車両内の通信ネットワークを包括した車両情報管理システムである。MDS は、TOD(運転士及び保守用タッチスクリーン式モニタディスプレイ)の車両状態の表示及び設定機能、CCTV(車内ビデオ監視システム)及び APC(乗客数カウンタ)のもつ各機能のほか、MDS 及び APC のデータを地上側設備とデータ通信する機能をもつ。TCN(車両通信ネットワーク)は、イーサネットを通じて行われる。イーサネットによるネットワークは、E-VNC(イーサネット車両ネットワーク制御装置)の機器によって制御され、TCN は、T-VNC(TCN 制御装置)によって制御される。なお、TCN は、IEC-61375
写真 7 環境試験室での試験の様子
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(Electronic railway equipment-Train communication network)に準拠した WTB(ワイヤ・トレイン・バス)及びMVB(マルチ・ビークル・バス)から構成されている。8.11 運転保安装置
P3010 形は、LA メトロ当局から、全てのメトロの路線で走行可能であることを求められているため、次の 3 種類の異なる運転保安装置に対応している。
・ ATP(自動列車保護システム)・ TWC(列車-地上間通信制御システム)・ ATO(自動列車運転システム)
8.12 車内案内表示装置車内案内表示装置は、運客仕切りパネル及び連接妻の点
検扉にそれぞれ、19 インチ液晶ディスプレイを用いたPID(乗客情報表示装置)を設け、行先表示、次駅案内、乗換案内といったさまざまな情報をリアルタイムに乗客に提供することが可能となっている(写真 8)。8.13 行先表示器
行先表示器は、車外から列車の行先が確認できるように、前面窓ガラス上部及び客室側窓ガラス上部にそれぞれ各 2 台の LED 式の表示器を備えている。8.14 放送装置及び非常通報装置
放送装置は、自動放送装置を備えており、車内及び / 又は車外に対して、自動又は手動での放送案内が可能なシステムとなっている。放送装置は、進行方向の前方にいる歩行者及び自動車への警報音(ゴング)を電子式で発する機能のほか、車両がハイジャックなどされた場合に地上へ非常通報信号を発するサイレントアラーム機能も含まれる。放送制御装置は、自動放送用音声データとともに、PIS(乗客情報提供システム)への表示文字データの提供及び制御機能も有する。また、非常通報装置は、客室内の出入口横にA車及びB車の各 2箇所ずつに設置した。同装置には、押しボタンを押すことで運転室と双方向通話が可能なシステムを備えている。
9 台車台車は、車両の両先頭部に動台車、連接部に付随台車を
配している。いずれの台車についても、極力、共通の部品を使用することで保守の容易化を図った。車輪は、Bochum形弾性車輪を採用して、騒音及び振動の低減を図っている。一次ばねは、実績のあるシェブロンゴムばね式を採用して、インサイドフレーム方式の台車枠を支持する。また、二次ばねは、空気ばねをインダイレクト配置として、併用軌道区間に見られる急曲線の通過に対応している。
台車枠は、耐候性圧延鋼材による溶接組立構造とした。従来の当社 LRV 用台車枠から板構造を見直し、更なる軽量化を図っている。主電動機及び二段減速駆動装置は、側ばり間に納まるように、フレックスカップリングを用いた半つり掛け構造としている。なお、電動台車の全車輪には、固形式フランジ塗油器と踏面摩擦調整装置とを装備している。また、車端寄りには、排障板、信号用アンテナ及び砂まき装置も装備している。
基礎ブレーキ装置は、ディスクブレーキ方式とした。車軸マウントブレーキディスクを駆動軸に 1 枚、付随軸に 2枚を配置している。空圧式のブレーキキャリパを台車枠端ばりに取り付け、駆動軸用のキャリパは、ばね作用式の駐車ブレーキ付きである。また、ブレーキ解除ハンドルは、台車の左右に配置して、どちら側からでも解除可能な構成とした。さらに、非常制動用として、電磁吸着式のレールブレーキを装備している。
10 おわりに現在、P3010 形の先行車両が LA メトロの各本線にて試
運転を行っている。また、現地最終組立工場(写真 9)では、順次車両製作が行われている。来年には、ロサンゼルスの澄んだ青空のもと、この新しい P3010 形 LRV が、多くの人を乗せて、ロサンゼルスのダウンタウンから、南はロングビーチ、東はパサデナ丘陵、西はサンタモニカまで軽快に走り、人々の手頃な足となることを切に願う。
最後に LA メトロ当局並びに本 LRV 車両の設計、製作、納入、試験等に御協力いただいた関係各位に、本紙上をお借りして御礼申し上げます。
写真 8 車内案内表示装置(PID)の表示例 写真 9 現地最終組立工場