大型水槽によるフリー配偶体を使ったワカメの種苗生産水産増殖(aquacult.sci.)...

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大型水槽によるフリー配偶体を使ったワカメの種苗生産 誌名 誌名 水産増殖 = The aquiculture ISSN ISSN 03714217 著者 著者 二羽, 恭介 巻/号 巻/号 64巻2号 掲載ページ 掲載ページ p. 173-182 発行年月 発行年月 2016年6月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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Page 1: 大型水槽によるフリー配偶体を使ったワカメの種苗生産水産増殖(Aquacult.Sci.) 64(2), 173-182 (2016) 大型水槽によるフリー配偶体を使ったワカメの種苗生産

大型水槽によるフリー配偶体を使ったワカメの種苗生産

誌名誌名 水産増殖 = The aquiculture

ISSNISSN 03714217

著者著者 二羽, 恭介

巻/号巻/号 64巻2号

掲載ページ掲載ページ p. 173-182

発行年月発行年月 2016年6月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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水産増殖 (Aquacult.Sci.) 64(2), 173-182 (2016)

大型水槽によるフリー配偶体を使ったワカメの種苗生産

二羽恭介

Seedling production of Undaria pinnat併dausing

free-living gametophytes in a large indoor tank

Kyosuke NIWA

Abstract:百1isstudy examined a new method for mass production of Undaria pinnαt折daseed-

lings using free-living gametophytes in a large indoor tank. To attach the gametophytes onto

strings of seedling collectors and to promote fertilization and germination, the stirring and spray-

ing methods with flat vessels were used before culturing in the large tank. After the indoor culture,

many juvenile sporophytes grew on the strings with uniformity.官1ejuvenile sporophytes were

仕ansferredto the sea for nursery cultivation. After the cultivation, many seedlings were produced

on seedling collectors.τbus, this mass seedling production is considered to be a simple and practi-

cal method, and will be helpful for stable and high-quality production of ιpinnat併da.

Key words: Undaria pinnatifid,α;Free-living gametophyte; Seedling production

日本の海藻養殖のうち,ワカメ Undariα戸側αtift,da

は年間100億円程度の生産金額があり,水産上重要な

食用海藻である(二羽 2015)。本種は北海道から鹿児

島県まで養殖されており,ノリ養殖とは異なり日本海

側でも広く養殖されている。このうち,特に岩手県と

宮城県の三陸沿岸海域,兵庫県と徳島県が接する鳴門

海峡周辺海域でワカメ養殖が盛んで、,鳴門海峡に面し

た兵庫県南あわじ漁業協同組合(以下「南あわじ漁

協」と呼ぶ)の丸山地区では,養殖ロープを延べ約

450km設置した大規模なワカメ養殖が営まれている

(二羽・原田 2016)。兵庫県のワカメ養殖は 6次産業

化が進んでいるため生産量は公表されていないが,南

あわじ漁協は西日本最大のワカメ生産量を誇る漁協に

なっている。当漁協のワカメ生産者は鳴門地方で種屋

(たねや)と呼ばれる種苗生産漁業者(園ら 2015)か

らワカメ種苗を購入している。しかし,近年,当地方

におけるワカメの種苗生産が以前に比べ不安定になっ

ているため,ワカメ生産者は必要とする種苗を確保す

ることが困難になっており,当漁協のみならず瀬戸内

2016年2月5日受付; 2016年4月28日受理.

海のワカメ生産者にとって深刻な問題になっている。

通常,西日本におけるワカメの種苗生産(井伊

1964; Ohno and Matsuoka 1993;圏ら 2015)では,成

熟した多数の胞子体から胞子葉(メカブ)を切り取

り,これらの胞子葉から放出させた遊走子を採苗器に

着生させ,春から陸上水槽で培養し,着生した遊走子

から雌雄配偶体に生長させる。水温が低下してきた秋

口に,雌雄配偶体はそれぞれ成熟し,雄性配偶体から

放出された精子と雌性配偶体に形成された卵が受精

し,芽胞体が生じる。多数の芽胞体の発達を確認した

後,海で仮沖出しを行い,数 cmサイズの幼胞子体に

生長させることにより種苗生産が行われている。この

通常の手法では,多数個体の胞子葉から大量の遊走子

を容易に放出させることができるため,大量にワカメ

の種苗生産が行える。このため,西日本で養殖されて

いるワカメのほとんどは,この手法で種苗生産された

ものである。しかし,複数個体の胞子葉を使用するた

め,遺伝的に均一な種苗生産が困難で,交雑育種に取

り組むことも難しい。一方予め室内で胞子葉から 1

兵庫県立農林水産技術総合センター水産技術センター(FisheriesTechnology Institute, Hyogo Prefectural Technology Center for Agriculture, Forestry and Fisheries, Akashi, Hyogo 674-0093, Japan). 連絡先(Correspondingauthor) : Tel, (+81)78司941-8601;F:邸,(+81)78-941-8604;Email, [email protected] (K. Niwa).

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遊走子由来の雌性配偶体と雄性配偶体をそれぞれ分離

しておくと,フラスコ内で基質に着生していない無基

質配偶体(以下「フリー配偶体」と呼ぶ)の状態で長

期間保存培養することができる。このようなフリー配

偶体を使った種苗生産は通常の手法とは異なり,一

年に何度でも実施でき,養殖したい時期に合わせて

短期間で種苗生産することができる(秋山 1992;大野

ら2000;圏 2000;小河 2004;二羽 2015)。フリー配偶体

を使った種苗生産は, 1963年に京都府水産試験場で検

討され(秋山 1992),その後, 1980年代になると 1遊

走子由来の配偶体を使った交雑育種も取り組まれ(新

村 1982,1985;原・秋山 1985),ワカメでも一代雑種で

ヘテロシスを示すことが報告されている(原・秋山

1985)。さらに,本手法を活用してワカメと近縁種で

あるヒロメ Undariaund,αriodesやアオワカメ Undaria

peterseniα仰による種間交雑育種も取り組まれている

(新村 1982,1985)。また, 1遊走子由来の雌性配偶体

と雄性配偶体を用いて種百生産すると,つくられた種

百は全て同一の遺伝子型を持つため,遺伝的要因に基

づくワカメの形態変異について把握することが可能に

なり(鬼頭ら 1981;石川 1992),選抜育種も取り組み

やすくなる。このように,フリー配偶体を使った種苗

生産手法をワカメ養殖の現場へ普及させていくこと

は,ワカメの安定生産と高品質化を進めるうえで極め

て重要で、ある。

ワカメ養殖の盛んな鳴門海峡周辺地域において,こ

のフリー配偶体を使った種苗生産を養殖現場へ普及さ

せていくため,園(2000)は詳細な種百生産マニュア

ルを作成している。また,クレモナ糸(以下「タネ糸」

と呼ぶ)を巻き付けた採苗器に配偶体を筆で塗り付

け,この採苗器を入れた 3lのボトル容器を多数使用

することにより,大型恒温室でフリー配偶体による種

苗の大量生産が行われている(棚田ら 2015)0これら

の手法に改良を加え201の小型水槽を複数使用するこ

とにより,養殖現場でもフリー配偶体を使った実用化

規模の種苗生産が行えるようになってきている(二羽

2015)。しかし,これらの小型容器を使った種苗生産

は,培養条件が制御しやすく安定した種百生産は行え

るが,大量の種苗生産を行うためには数多くの小型容

器を使用し,それぞれ海水交換しながら培養しなけれ

ばならず,また,タネ糸を採百器からサイズの大きい

仮沖出し用の種枠(以下「タネ枠」と呼ぶ)に巻き直

すなどの手間もかかる(棚田ら 2015)。このため,タ

ネ枠に刷毛で直接配偶体を塗り付け,野外水槽で培養

することも行われ,これにより簡便に種苗の量産化が

行えるようになり,鳴門地方の種苗生産漁業者に技術

移転が進められている(棚田ら 2015)0

一方,配偶体を採苗器に散布し平容器で培養した

二羽

後,小型水槽に吊るして種苗生産することにより,配

偶体量を増やさず種苗着生密度の高い促成栽培用のワ

カメ種苗を生産する手法も考案されている(二羽・原

田 2016)。本研究では,さらにこの手法を応用し,サ

イズの大きいタネ枠を採苗器として用いても,これを

収容できる大きめの平容器を使用することにより,配

偶体量を増やさず簡便かっ効率的な配偶体の着生方法

を考案した。また,従来の手法とは異なり,大型水槽

で種苗生産する場合でも,配偶体の成熟促進と芽胞体

の生長促進を行うため,室内で水温と光条件を調整し,

平容器でしばらく静置培養した後,大型水槽で通気培

養を行った。さらに,市販の試薬のみを用いて大型水

槽用の培養海水を作成することにより,簡便かつ効率

的な大型水槽によるフリー配偶体を使ったワカメの種

苗生産が可能になったので報告する。

材料および方法

本研究では,兵庫県立農林水産技術総合センター水

産技術センター(以下「水産技術センター」と呼ぶ)

で保存培養していたワカメのフリー配偶体のうち,雌

性配偶体 AMEI-Cl-OlFSと雄性配偶体 TA羽TAl-OlM

を用いた(二羽・原因 2016)。種苗生産は2015年10

月 1日から開始し,以下のとおりに行った。タネ枠

(50×35 cm) 10個当たりに使用する配偶体液は,雌性

配偶体と雄性配偶体それぞれ 1g (水分を吸い取らず

に測定した湿重量)と200mlのNPM培地(愛知海苔

協議会1986;Niwa and Aruga 2003)を同時に入れ, ミ

キサー(IK-8200,泉精器製作所)で40秒程度細断し

て調製した。この配偶体液をタネ枠(タネ糸を巻き付

けたもの)に散布するため,撹排法と噴霧法で行っ

た。撹持法は,東日本地域などのワカメ人工種苗生

産現場で使用されている浸漬法(配偶体を細断した

懸濁液にタネ枠を浸漬して,タネ糸に配偶体を着生

させる方法)に基づき 配偶体の着生方法をより簡

便かっ効率的に改良して, 14lの NPM培地を入れた

平容器(大型ばんじゅう A, 64.3×41.7×16cm,三甲

株式会社)に調製した配偶体を注ぎ(Fig.lA),手で

よく撹拝し(Fig.lB),タネ枠10個を平容器に入れた

(Fig. lC)。噴霧法は,調製した配偶体液を霧吹きで

タネ枠10個にそれぞれ吹き付け(Fig.lD),別に用意

した平容器(上記と同じサイズ)に入れ,平容器の端

から14lの NPM培地を加えた(Fig.lE)。なお,噴

霧するときには,霧吹き容器の底に配偶体がi留まらな

いように撹枠しながら行うとともに,配偶体液を有効

に利用するためタネ糸にかからなかった噴霧液が平容

器の中に入るように吹き付け作業を行った。また,霧

吹きの残液は平容器に加えた。撹枠j去と噴霧法による

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大型水槽によるワカメの種苗生産 175

計2個の平容器は水産技術センター恒温室内の照明

棚に置き,雌雄配偶体を成熟促進させるため,温度

20℃,光量80μmol photons m-2 s 1,明暗周期12hL:

12 hDの中日条件下で静置培養した(Fig.lF)。4日後

に,平容器からタネ枠を持ち上げ,平容器の底に溜まっ

た配偶体を刷毛で、海水中に浮き上がらせながら撹#し

(Fig. lG),タネ枠を素早く上下反転させ再び平容器

に入れ(Fig.lH),再度4日間静置培養した。

平容器で静置培養した後取り出した計20個のタネ

枠を,水産技術センター飼育棟において, 2015年10月

9日から大型水槽に垂下して培養した(Fig.11)。なお,

この時,平容器の底にi留まっていた配偶体は刷毛で海

水中に浮き上がらせ,大型水槽に加えた。大型水槽は

兵庫県のノリ養殖で一般的に使用されているカキ殻糸

状体培養用の 1t水槽を用い,培養方法は以下のとお

りに行った。培養海水は,ノリ養殖におけるカキ殻糸

状体の培養方法を取り入れて,海水で、満水にさせた大

型水槽に次亜塩素酸ソーダ(12%,本町化学工業株式

会社)をlOOml加えエアレーションしながら 1晩殺

菌し,翌日にチオ硫酸ナトリウム(1級,和光純薬株

式会社) 12 gを溶かした水溶液(150ml)を添加し中

和させ,ノリ糸状体培養用栄養剤ポルフイラン・コン

コ(第一製網株式会社)を25ml加えて調製した。大

型水槽には冷却器(RX-750AS,株式会社イワキ)と

Fig. 1. Procedure for seedling production using free-living male and female gametophytes of Undariaρinnatijida in a large

indoor tank. The gametophytes were attached onto s廿ingscoiled around metallic frames (seedling collectors) by both of

the stirring method (A-C) and the spraying method (D, E) with flat vessels. (A)官iesuspension出atcontains both of female

and male gametophyte fragments cut by a blender was poured to a flat vessel containing NPM medium. (B) Stirring the

gametophyte suspension and NPM medium in the flat vessel. (C) After stirring, 10 collectors were immediately put into the

flat vessel.の) Spraying the gametophyte suspension on the strings of the seedling collector. (E) NPM medium was gently

poured to a flat vessel putting 10 seedling collectors sprayed the gametophyte suspension.σ) Indoor culture with the flat

vessels on shelves equipped wi出 fluorescentlights.百ieculture was conducted for 4 days. (G) Gametophyte fragments

attached onto the bottom were raised to the seawater by a paintbrush. (H) After using the paintbrush, the seedling collectors

were immediately reversed in the flat vessels and the culture was continued on the shelves for 4 days. (I) Indoor culture with

a large tank. Seedling collectors were transferred from仕ieflat vessels to the large tank equipped with a water cooler. The

culture was conducted with nutrient-enriched seawater and gentle aeration under artificially light condition for 5 weeks.

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循環用ポンプ(RMD-701,株式会社イワキ)を装着し,

培養海水が20℃を越えないように設定した。また, 大

型水槽の上から蛍光灯を吊し6時から18時まで照明を

付け,光量は30μmol photons m-2 s-1とし,大型水槽

の両端から弱めにエアレーションを行った(Fig.ll)。

大型水槽による培養は11月13日までの 5週間行い,

この期間中 2週間に 1回,ポルフイラン・コンコを

25ml 添加し,海水交換は行わなかった。大型水槽で

培養を開始してから 1週間ごとに垂下したタネ枠上部

からタネ糸を切り取り,観察した中で大型の幼胞子体

20個体の全長と葉幅を測定した。水槽内の水温はデジ

134" 30' E 135° 00' E

トlyogoPref.

34°40' N 品~ ¥,?

H山 ima-Nada

34‘’ 20・ N

.!)

Fig. 2. Map showing nursery cultivation site Eigashima

and another relevant location Maruyama in the Seto Inland

Sea. Open circle shows the measurement site for seawater

temperature.

二羽

タル水温計(SK-250WPII-N,佐藤計量器製作所)で

測定した。

仮沖出しは, 2015年11月13日~ 12月8日まで明石

市江井ヶ島地先のワカメ漁場で、行った(Fig.2)。タネ

枠には沈子と紐を取り付け (Fig.3A),ワカメ養殖施

設に水深 1~ l.5mの位置に垂下した(Fig.3B)。仮

沖出し 4日目(11月16日)から11月末までは,タネ

糸に付着珪藻などの汚れが付着しないようにほぼ毎

日海水によるポンプ洗いを行い,タ ネ糸を洗浄した

(Fig. 3C)。仮沖出しによる幼胞子体の生長を把握す

るため,仮沖出し12日目(11月24日)と仮沖出し終了

日(12月8日)に,生長の良い幼胞子体20個体の全長

と葉幅を測定した。仮沖出し期間中の水温は,隣接す

る水産技術センタ一地先(Fig.2)に設置した自動観

測装置で測定し算出された日平均水温を用いた。

結果

本研究では,タネ糸に配偶体を着生させる方法とし

て,平容器を使って撹持法と噴霧法の 2通りで、行った

(Fig. 1)。噴霧法では,霧吹きでタネ糸全体に配偶体

液を吹き付けたが,撹#法では,平容器にタネ枠を入

れた直後とタネ枠を反転させた直後,細断された配偶

体はしばらく海水中に浮遊していたが,ゆっくりと沈

下した。このため,両法で配偶体を着生させた後,し

ばらく時聞を置いてから肉眼と顕微鏡でタネ糸を観察

したが,両法で配偶体の着生量に大きな違いは認めら

れず,本研究で試みた撹持法と噴霧法(Fig.1)では,

いずれもタネ枠に巻き付けたタネ糸全体に配偶体を万

遍なく着生させることができた。

タネ枠は平容器から移植して, 2015年10月9日~

11月13日まで大型水槽で培養したが(Fig.ll),この

時の水温変化を Fig.4に示す。培養期間中の水温は

17.8~20.2℃で, 平均水温は19.4℃であった。室内培

養期間中の幼胞子体の生長を Fig.5に示す。大型水槽

で培養を開始して 3日目(10月11日)に撹井法と噴

Fig. 3. Nursery cultivation of Undaria pinnatifi,da at Eigashima, Akashi, Hyogo Prefecture. (A)τbe seedling collector tying a

weight just before nursery cultivation.但) The seedling collectors suspending at 1-1.5 m depth. (C) Washing by a water pump.

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れなかったため,この時期のタネ枠でも両法で幼胞子

体によるタネ糸の色づき方に違いが認められなかった

(Fig. 6A)。Fig.6Bには大型水槽培養終了時(11月13日)

の噴霧法によるタネ糸を示しているが,撹非法でも同

様に多数の芽胞体がタネ糸全体に生長していることが

肉眼で確認された。

仮沖出しは2015年11月13日~ 12月8日まで行った

が,この期間中の水温変化を Fig.7に示す。仮沖出

し開始日(11月13日)の水温は19.6℃であったが,こ

の年の水温降下は遅く 11月24日でも水温は19.4℃で

あった。その後,水温は徐々に降下し,仮沖出し終了

日(12月8日)には15.4℃まで低下した。仮沖出し開

始時の幼胞子体は,上述のとおり平均全長1.77mm,

平均葉幅0.34mmであった(Table1)。仮沖出し期間

中に,揖枠法のタネ枠から採取した幼胞子体は仮沖

出しを開始して12日目(11月24日)には,平均全長

大型水槽によるワカメの種苗生産

霧法によるタネ糸をそれぞれ顕微鏡で観察したとこ

ろ,この時も両法で配偶体の着生量に顕著な違いは認

められなかった。いずれの方法においても,同じ配偶

体を用いて同一条件下で培養を行ったところ,いずれ

のタネ糸からも同時期に形成された多数の芽胞体が確

認された。その後,両法のタネ糸を区別せず幼胞子体

の生長を測定した結果,大型水槽で、培養を開始して

1週間後(10月16日)と 2週間後(10月23日)には,

平均全長はそれぞれ0.13mmと0.33mmになり,その

後直線的に生長し, 5週間後の最終日(11月13日)に

は平均全長は1.77mm,平均葉幅は0.34mmになっ

た(Fig.5)。また,大型水槽で、培養を開始して32日

目(11月9日)のタネ枠を Fig.6Aに示しており,こ

のうち,左側のタネ枠は揖枠法,右側のタネ枠は噴霧

法で行われたものである。上述のとおり,撹持法と噴

霧法でタネ糸への配偶体の着生量に大きな違いが見ら

24

フ-

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7

2

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υ。)255un『

FZUHU芯ES∞

12 Oct. 8 Nov. 13

Fig. 4. Record of seawater temperature in the large

indoor tank (October 9, 2015-November 13, 2015).

2.0 i=

E

石1.6てコ>

号1.24コてコ" ~ 0.8 bl)

ii

吉 0.40 ト

Nov. I Oct. 20

Large tank

2015

モー一一一今Flat vessel

Fig. 6. Juvenile sporophytes of Undariaρinnatがdacul-

tured in the large indoor tank. (A) Juvenile sporophytes

growing on seedling collectors with uniform density after

32 days of the culture. Asterisks show seedling collectors

by the stirring method.但) Juvenile sporophytes a抗ach-

ing onto strings of the seedling collector by the spraying

method on the last day of indoor culture.

0 Oct. l Oct. 16 Oct. 23 Oct. 30 Nov. 6 Nov. 13

2015

Fig. 5. Growth in total length (closed circle) and blade

width (open circle) of juvenile sporophytes of Undaria pin-

natがdαinindoor culture (October 1, 2015 -November 13,

2015). Average士SD(匁 =20).

Oct. 9

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7.49 mm,平均葉I幅1.85mmに生長した。この時の撹

持法で、行ったタネ枠を Fig.SAに示す。タネ糸に付着

珪藻などの汚れが付着しないようにポンプ洗いを繰り

返し行ったこともあり, タネ糸全体に万遍なく幼胞子

体が生長していた。その後仮沖出し終了日の12月8

日には,平均全長30.07mm,平均葉幅9.07mmまで生

長した(Table1)。また,仮沖出し終了時の撹祥法と

噴霧法のタネ枠をそれぞれ Fig.8B, 8Cに示し,種苗

生産された幼胞子体の標本を Fig.SDに示す。Fig.SD

は撹持法で、行ったワカメ種首を示しており ,噴霧法で

も同様のワカメ種苗を生産することができた。これら

のことから,撹祥法と噴霧法のいずれの方法でも, タ

ネ糸全体に万遍なく幼胞子体が生長し,先端部分も先

枯れがほとんど見られないワカメ種苗を生産する こと

ができた。

二羽

Dec. 7

Fig. 7. Record of seawater temperature near the nurs-

ery cultivation site, Eigashima (November 13, 2015

-December 8, 2015).

Dec. I Nov. 25

2015

No、19

178

24

12 Nov. 13

ウ-

AU

OO

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A

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、,“ヮ-

’12

1

2

l

υ。)叫』コ】告主主主』U】司主

g∞

Table 1. Growth of juvenile sporophytes of Undaria pinnatifida during nursery cultivation in the sea

December 8, 2015 (the last day)

November 13, 2015 (the first day)

November 24, 2015

30.07±4.90

9.07±1.62

7.49±0.99

1.85±0.39

1.77±0.29

0.34±0.08

Total length (mm)

Blade width (mm)

Data are shown as average±SD (n = 20).

-ー一一一ー一『『

D

Fig. 8. Seedlings of Undaria pinnatifida produced by nursery cultivation. (A) Seedling collector by the stirring method on

November 24, 2015. (B) Seedling collector by the stirring method after nursery cultivation. (C) Seedling collector by the

spraying method after nursery cultivation. (D) Seedling samples by the stirring method after nursery cultivation.

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大型水槽によるワカメの種苗生産 179

考察

本研究では,平容器にタネ枠を入れて培養した後,

大型水槽にタネ枠を垂下して種苗生産を行った。本手

法は,配偶体量を増やさず種苗着生密度の高い促成

栽培用ワカメ種苗を生産する手法(二羽・原田 2016)

を応用したものである。促成栽培用の種首生産では,

採苗器(23×17cm) 1個当たり雌雄配偶体を各0.2g

散布し,平容器(26×17か

20 lの小型水槽に吊るして培養されている(二羽.原

田 2016)。この採苗器から 2個のタネ枠にタネ糸を巻

き直すことができるため,雌雄配偶体各O.lgでタネ

枠 1個分の種苗生産が行える。一方,本研究では,タ

ネ糸を巻き直す手聞を省くため,サイズの大きいタネ

枠(50×35cm)とこれを収容できる大きめの平容器

(64.3×41.7×16cm)を使用したが,本手法により小

型水槽(37x28×22cm)による種首生産(二羽 2015;

二羽・原田 2016)と同じ配偶体量で、大型水槽による

種苗生産も行えるようになった。

配偶体をタネ糸に着生させる方法として,本研究で

は撹持法と噴霧法の 2通りで行ったが,いずれの方

法でもタネ糸全体に着生したワカメ種苗を生産する

ことができた。このうち噴霧法では,霧吹きでタネ

糸全体に配偶体を吹き付ける必要がある。また,既

報の塗布法(棚田ら 2015)でも刷毛でタネ糸全体に

配偶体を塗り付ける必要がある。一方,撹持法では,

平容器に配偶体液を加えるだけで,同時に10個のタ

ネ枠に配偶体を着生させることができた。このこと

から,今後,本手法により種苗生産の量産化を行う

場合,より簡便な撹持法が実用的であると考えられ

る。また,平容器を使用することによって撹#法が

行えるほか,以下の理由により,受精促進,芽胞体

の生長促進も可能になると考えられる(二羽・原田

2016)。 Choiet al. (2005)は,短日・長日条件より

も中日条件下で配偶体の密度が高いほど,芽胞体の

個体数は増加することを報告している。また,光量

100 μmol photons m 2 s-1までは光量が高いほど成熟率

が高まり,幼胞子体の生長も速いことが報告されてい

る(Choiet al. 2005;馬場 2008)。これらのことから,

配偶体をタネ糸に着生させた直後にタネ枠を大型水槽

に垂下するよりも, しばらく平容器で培養する方が配

偶体の密度と光量も高くなるため,配偶体の成熟と受

精率を高め,さらに芽胞体の生長も促進させることが

できると考えられる。また,配偶体をタネ糸につけた

直後は,まだ配偶体の着生力がほとんどないため,平

容器を使わず、大型水槽に直接垂下させる場合には,振

動や水流がかからないようタネ枠の取り扱いに注意す

る必要がある。一方,本研究のようにしばらく平容器

で培養する方法であれば,配偶体がタネ糸に着生しな

がら生長するため従来の方法に比べてタネ糸からの脱

落を少なくすることができる。これらのことから,平

容器を使った本研究の手法により,より安定して大型

水槽による種苗生産が行えると考えられる。

本研究では,平容器で8日間培養し大型水槽で35日

間培養したところ,幼胞子体の平均全長はl.77mm,

平均葉幅は0.34mmに生長した。一方,小型水槽によ

る種苗生産(二羽・原田 2016)では,平容器で6日

間培養し小型水槽で29日間培養したところ(光量は

80 μmol photons m-2 s-1),平均全長は4.99mm,平均

葉幅は0.88mmに生長した。前述のとおり光量が高い

ほど幼胞子体の生長は速いため(Choiet al. 2005;馬

場 2008),大型水槽で幼胞子体の生長が遅かった主な

原因は,小型水槽に比べて光量が低かったためと考え

られる。また,小型水槽は透明な容器のため側面から

も光が入るが,大型水槽の側面は透明で、はなく小型水

槽に比べ水深もあるため,タネ枠上部に比べ下部の幼

胞子体の生長が遅くなったと考えられる。このことか

ら,今後,タネ枠に着生した幼胞子体を均等に生長さ

せるためには,大型水槽に垂下したタネ枠を上下反転

させる必要もあると考えられる。

これまで,小型水槽を使った種苗生産では,エアレー

ションしながら培養されている(二羽 2015;二羽・原

田 2016)。エアレーションすることにより,タネ糸に

着生しなかった懸濁中の配偶体を再度着生させること

が可能になる。また,雌雄配偶体の受精能力を確認す

る芽胞体発芽試験は静置培養によるが(二羽 2015)'

その時に比べてエアレーションした方が幼胞子体の生

長は速くなる傾向が見られる。ワカメ養殖の現場でも,

湾奥よりも湾口の潮流のある漁場で胞子体の生長は

速くなる(Nanbaet al. 2011; Peteiro and Freire 2011)。

このため,大型水槽でもエアレーションによる海水の

流れがある方が幼胞子体の生長は速くなると考えられ

る。しかし,大型水槽の場合,小型水槽で、使用した採

首器とは異なり,タネ枠には間隔を空けてタネ糸が巻

かれているため,エアレーションを強くするとタネ糸

から配偶体や幼胞子体が脱落しやすくなる。これらの

ことから,本研究では,配偶体を脱落させず幼胞子体

を生長促進させるため,大型水槽の両端から弱めにエ

アレーションを行い,培養海水をゆっくりと循環させ

ながら種苗生産を行った。また,既報(二羽 2015;二羽・

原田 2016)の小型水槽を使った種百生産を取り組む

中で,室内培養で幼胞子体を 1ヶ月以上培養し続ける

と,サイズの大きい幼胞子体ほど敏が増え,顕微鏡下

で観察すると異形細胞も目立ってくるため,健苗育成

が困難になってくる傾向が見られた。一方,兵庫県の

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180

明石海峡周辺海域では,仮沖出し開始時に全長 Imm

以下のサイズの小さい幼胞子体の場合は,タネ糸につ

く付着珪藻などの汚れに巻かれ生長してこない危険性

が高まることも経験的に知られている。これらのこと

を考慮すると,大型水槽で安定した種苗生産を行うた

めには,小型水槽と同様に大型水槽でも 1ヶ月程度の

培養期間で,できる限り幼胞子体を生長させることも

重要であると考えられる。幼胞子体の生長最適温度に

ついては,生育地域によっても違いがみられるが,温

度条件を細かく設定した培養実験により 15~ 20℃の

範囲であることが報告されている(Moritaet al. 2003;

馬場 2008)。このため,本研究では,冷却器を使って

大型水槽の水温を18~ 20℃の範囲に保って培養した

が,今後,大型水槽で安定した種苗生産を行うために

は,本研究で、行ったように室内で水温や光条件などを

人為的に調整し,さらに幼胞子体の生長に適した培養

条件にしていくことも必要であると考えられる。

陸上水槽で安定したワカメの種苗生産を行うため

には,健苗育成が行える培養海水を作成することも

重要で、ある。小型水槽や平容器の培養では,滅菌海

水や沸騰させた海水を使って NPM培地を作成してい

る(二羽 2015;二羽・原田 2016)。一方,本研究のよ

うに 1t水槽を使った種苗生産では,オートクレーブ

二羽

によって滅菌海水を作成することは現実的には困難で

ある。兵庫県の瀬戸内海側で、は,チリメンやイカナゴ

Ammoのtesρersonatusの釘煮などの水産加工が盛んな

ため,ボイル加工できる大窯を持った水産加工施設が

多く存在する。このため,これらの施設で 1t程度の

海水であれば加熱殺菌することも可能だが,海水量が

増えるほど手間と労力がかかる。野外水槽を使った既

報の種首生産では(棚田ら 2015),UV殺菌ろ過した

海水を種苗生産現場まで運搬して使用している。本研

究では,ノリ養殖におけるカキ殻糸状体培養用海水の

作成方法を取り入れることにより,市販の試薬を添加

するだけで簡便かっ大量に大型水槽用培養海水の作成

ができるようになった。

仮沖出しでは,タネ糸に付着珪藻や浮遊物質などの

汚れが大量に付着すると,芽胞体や幼胞子体が生長せ

ず脱落し,ワカメ種苗の生産が不能になることが経験

的に知られている。高水温(24℃前後)から仮沖出し

する促成栽培では,特にタネ糸の汚れがひどくなるた

め,仮沖出し期間中に繰り返しポンプ洗いが行われて

いる(二羽・原田 2016)。本研究の仮沖出しは,水温

が十分低下した19.6℃から開始し,促成栽培の手法を

取り入れ,ポンプ洗いを繰り返し行った。このため,

ポンプ洗いによりタネ糸から多数の幼胞子体が脱落し

Fig. 9. Example of fishermen’s trail for seedling production using free-living gametophytes of Undariaρinnat併dain

Maruyama, Awaji Island, Hyogo Prefecture. (A) Fishing warehouse used for seedling production of Undaria pinnat併da.The

warehouse’s room was put in an air conditioner to maintain room temperature at 20°C. (B) Method using a sprinkling can to

attach gametophyte企agmentsonto the strings of the seedling collectors, in addition to the stirring method and the spraying

method. (C) Indoor culture with flat vessels before culturing in large water tanks. (D) Indoor culture with large tanks. On the

shelves equipped with fluorescent lights Oeft side), seedling production using small water tanks was also conducted by the method of Niwa (2015). (E) Nursery cultivation in the sea adjacent Maruyama Port, Awaji Island. (F) Seedlings of Undaria ρinnatifida produced by fishermen of Maruyama.

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大型水槽によるワカメの種苗生産 181

たが,タネ糸全体に着生個体数の多いワカメ種苗を生

産することができた。このことは,ポンプ洗いで着生

力の弱い幼胞子体は脱落するが,サイズが小さくても

着生力のある芽胞体や幼胞子体はタネ糸の汚れに巻か

れることなく生長し,タネ糸全体に多数の幼胞子体が

生長してきたと考えられる。従って,瀬戸内海での通

常の開始水温(23℃以下)から仮沖出しする場合でも,

確実にワカメ種苗を生産するためには,ポンプ洗いな

どタネ糸の汚れを防ぐ管理もしていく必要がある。

本研究の種苗生産方法を養殖現場に技術移転してい

くため,本研究と同時期に,ワカメ養殖の盛んな南

あわじ漁協でも種首生産に取り組んだ(Fig.9)。南あ

わじ漁協では,漁具倉庫の一室にエアコンを取り付

け,室温を20℃に設定し,種苗生産施設として利用し

た(Fig.9A)。配偶体の着生方法や室内培養の方法は

本研究とは異なる方法も試し(Figs9B-D),仮沖出し

期間中(Fig.9E)もポンプ洗いは行わず3日に 1回

程度,タネ枠を強く揺すってタネ糸の汚れを落としな

がら養成したが,養殖現場でも撹枠法による本研究の

種苗生産方法により,簡便かつ実用的にワカメ種苗を

生産することができた(Fig.9F)。これらのことから,

従来からの種苗購入に加えて,今後,さらに大型水槽

の個数を増やしフリー配偶体を使った種苗生産に取り

組むことによって,ワカメ種苗の安定供給が可能にな

ると考えられる。また,南あわじ漁協では,同一系統

のワカメから繰り返し種苗生産された胞子体を主力養

殖株として使用している。しかし,当漁協のワカメ生

産者から以前に比べて単位養殖ロープ長当たりの収穫

量が減少していることも聞かれるため,近交弱勢が生

じている可能性もある。このため,今後,ワカメの品

種改良も重要になってくるが,上述のとおりフリー配

偶体を使った種苗生産では,効率的に選抜育種や交雑

育種に取り組むことができる。また,こうした手法に

より育成された優良株を産業規模で活用していくため

には,養殖現場でフリー配偶体を使ったワカメ種苗の

量産化が必要不可欠になってくる。従って,養殖ワカ

メの安定生産と品質向上を目指していくためにも,今

後,本研究の手法をさらに簡便かつ効率的に改良し,

ワカメ生産者に技術移転を進めていくことは極めて重

要である。

要約

大型水槽を用いてフリー配偶体によるワカメ種苗の

量産化に取り組んだ。安定した種苗生産を行うため,

室内でフk温と光条件を調整し,平容器で静置培養した

後,大型水槽で、通気培養した。タネ糸への配偶体の着

生方法は,本研究で考案した撹枠法と噴霧法で行い,

大型水槽の培養で、は,海水に次亜塩素酸ソーダを加え

殺菌し,チオ硫酸ナトリウムで中和させた培養海水を

用いた。その結果,撹枠法と噴霧法のいずれの方法で

も,タネ糸全体に万遍なく配偶体を着生させることが

でき,その後,芽胞体が形成され,幼胞子体に生長し

た。室内培養を約 6週間行った後,明石市江井ヶ島地

先のワカメ漁場で仮沖出しを行ったところ,タネ糸全

体に着生したワカメ種苗を生産することができた。こ

のことから,本研究で考案した種苗生産技術は,簡便

かっ効率的に種首の量産化が行え,ワカメ生産者にも

普及できる実用的な手法であると考えられる。

謝辞

本研究の種苗生産技術は,兵庫県のワカメ生産者の

方々と意見交換しながら考案された手法も含まれてお

り,本研究の遂行にあたり,全面的に協力を頂いた江

井ヶ島漁業協同組合の橘広洋氏,南あわじ漁業協同組

合ワカメ協議会の亀井一明会長と同協議会種苗部の西

田和伸部長をはじめワカメ生産者の方々に感謝いたし

ます。また,本原稿を取りまとめるにあたり,有益な

助言を頂いた兵庫県立農林水産技術総合センター水産

技術センターの反田賓博士に感謝いたします。

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