カメラガンマの動向 - uniw400 asa 8 0 as 1600 asa 3200 asa linear signal 資料出所 arii...

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30 FDI・2015・11 川上 一郎  デジタルシネマ Now ! さて、先月号では映像表示側での EOTF (Electro-Optics Transfer Function : 電 気-光量変換特性)を巡る話題について 紹介したが、今月号では映像を電気信号 に変換する撮像手段で有るカメラのガン マ 特 性 : OETF(Optics-Electro Transfer Function:光量-電気変換特性 ) を巡る話 題について紹介していく。 図 1 に示しているのがブリティッシュ・ テレコムのメディア&放送部門が(日本で 言えば NTT に相当)が UHDTV の標準化 動向について調査したレポート (BT Media and Broadcast Research Paper : Ultra High Definition Video Formats and Standardisation) で紹介されているのが、 104 104 カメラガンマの動向 既存の表示デバイスによる黒レベルと入力 信号に対する輝度応答の特性である。電子 銃による電子線エネルギーで蛍光体を発行 させていたブラウン管では、掃引する電子 線の暗電流によりわずかな発光を伴ってお り、かつ蛍光体の残光時間特性の影響もあ り撮像素子であるカメラ側の光電変換特性 とブラウン管での電光変換特性が相殺され て直線的な輝度応答となるようにガンマ特 性が決定されていた。 したがって、既存のブラウン管を表示デ バイスとする映像メディアでは、この直線 的な光電・電光変換を前提として絵画りが 行われてきており、冷陰極管蛍光灯(CCFL) を光源とする既存の液晶ディスプレイも同 様な黒レベルと電光変換特性を持っていた。 これに対して、最近の主流製品となってい る液晶ディスプレイでは LED バックライト が使用されているために LED への駆動電流 がデジタル制御されることから直線的な電 光変換特性を表示側で持たせることが可能 となっている。また、数十画素単位での個 別輝度制御も表示映像の当該輝度制御ブロ ックに対してリアルタイムで行えることか ら、ドルビーが提唱している視覚特性に対 応した非線形 HDR 表示への対応も可能と なってきている。 なお、ドルビーによる視覚特性重視の EOTF 特性は既存表示デバイスでの EOTF とは単なる線形・非線形応答の差だけでは なく、全く互換性が無いので注意が必要で ある。 図 1 各種表示方式の黒レベルと視覚特性 -3 -2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 CRT CCFL-LCD LED-LCD 拡散黒色反射板 HVS Small Patch HVS Large Patch 夕闇 暗室 居間 事務室 資料出所 BT Media & Broadcast Resekakuarch Paper “Ultra High Definition Video Formats and Standrdisation”,figure 10 図 2 各種 EOTF 方式による 10 ビットコード値と出力輝度 0.0001 0.001 0.01 0.1 1 10 100 1000 10000 0 200 400 600 800 1000 BT.709 (8bit) BT.709 (10bit) DICOM Part 14 SMPTE ST2084:2014 BBC HDR Proposal (10bit) 出力輝度 [cd/m 2 ] 10ビットコード値 資 料 出 所 BT Media & Broadcast Research Paper “Ultra High Definition Video Formats and Standrdisation”,figure 8

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Page 1: カメラガンマの動向 - UNIW400 ASA 8 0 AS 1600 ASA 3200 ASA Linear Signal 資料出所 ARII ALEXA Log C Curve - Usage in VFX, “Reference Manual, 27 June 2012 図3 シネマ用カメラのLogガンマダイナミックレンジ

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FDI・2015・11

川上 一郎 

デジタルシネマ Now !

 さて、先月号では映像表示側での EOTF(Electro-Optics Transfer Function : 電気-光量変換特性)を巡る話題について紹介したが、今月号では映像を電気信号に変換する撮像手段で有るカメラのガンマ 特 性 : OETF(Optics-Electro Transfer Function:光量-電気変換特性 ) を巡る話題について紹介していく。   図 1 に示しているのがブリティッシュ・テレコムのメディア&放送部門が(日本で言えば NTT に相当)が UHDTV の標準化動向について調査したレポート (BT Media and Broadcast Research Paper : Ultra High Definition Video Formats and Standardisation) で紹介されているのが、

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カメラガンマの動向

既存の表示デバイスによる黒レベルと入力信号に対する輝度応答の特性である。電子銃による電子線エネルギーで蛍光体を発行させていたブラウン管では、掃引する電子線の暗電流によりわずかな発光を伴っており、かつ蛍光体の残光時間特性の影響もあり撮像素子であるカメラ側の光電変換特性とブラウン管での電光変換特性が相殺されて直線的な輝度応答となるようにガンマ特性が決定されていた。 したがって、既存のブラウン管を表示デバイスとする映像メディアでは、この直線的な光電・電光変換を前提として絵画りが行われてきており、冷陰極管蛍光灯(CCFL)を光源とする既存の液晶ディスプレイも同様な黒レベルと電光変換特性を持っていた。

これに対して、最近の主流製品となっている液晶ディスプレイでは LED バックライトが使用されているために LED への駆動電流がデジタル制御されることから直線的な電光変換特性を表示側で持たせることが可能となっている。また、数十画素単位での個別輝度制御も表示映像の当該輝度制御ブロックに対してリアルタイムで行えることから、ドルビーが提唱している視覚特性に対応した非線形 HDR 表示への対応も可能となってきている。 なお、ドルビーによる視覚特性重視のEOTF 特性は既存表示デバイスでの EOTFとは単なる線形・非線形応答の差だけではなく、全く互換性が無いので注意が必要である。

図 1 各種表示方式の黒レベルと視覚特性

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-2.5

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CRT

CCFL-LCD

LED-LCD

拡散黒色反射板

HVS Small Patch

HVS Large Patch

夕闇 暗室 居間 事務室

資料出所 BT Media & Broadcast Resekakuarch Paper “Ultra High Definition Video Formats and Standrdisation”,figure 10

図 2 各種 EOTF 方式による 10 ビットコード値と出力輝度

0.0001

0.001

0.01

0.1

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0 200 400 600 800 1000

BT.709 (8bit)

BT.709 (10bit)

DICOM Part 14

SMPTE ST2084:2014

BBC HDR Proposal (10bit)

出力輝度[cd/m

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10ビットコード値

資 料 出 所 BT Media & Broadcast Research Paper “Ultra High Definition Video Formats and Standrdisation”,figure 8

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 拡散反射面の黒色板の直線的な輝度応答に対して人間の視覚特性は高輝度側では低輝度領域に比べて識別できる感度が鈍くなることが知られており、図 2 に示しているように先月号で紹介した高輝度側で対数曲線的に入力信号に対する輝度応答を緩やかに変化させる様々な規格化の提案が行われている。既存の 8 ビット HD テレビ放送では、図 2 の左端に示されているように 0.1カンデラから 100 カンデラの帯域で限られた帯域で輝度情報を再現しているだけである。0 〜 255 の 256 諧調で上下限に同期信号用の帯域が設定されているために映像信号として実際に使用可能なのは 16 〜235 のわずか 220 諧調のみである。同様に 10 ビットでも映像信号として使用可能なのは 64 〜 940 の 877 諧調であり、次世代方法規格で話題となっている 12 ビッ

トへ下記調が拡大されれば 256 〜 3760の 3505 諧調が使用可能となる。  図 2 で DICOM Part4 と し て 紹 介さ れ て い る の は Digital Imaging and Communication in Medicine(医療用デジタル画像通信規格)であり、X 線画像診断や CT/MRI、超音波診断画像などでの諧調再現にかかわる輝度変調特性を示している。ドルビーが提唱して SMPTE ST2084 として規格化された視覚応答特性を EOTF とした輝度応答特性は図 2 でも明らかなように既存の起動応答特性との互換性はまったく無い。これに対して BBCが提唱している HDR 方式では輝度 50%付近までは現行 HDTV 放送の BT.709 と互換性のある輝度応答特性であり、高輝度側では対数曲線による輝度応答とすることで HDR 対応としている。

 このような表示デバイス側での EOTF 規格化動向に合わせて、シネマ用カメラもLog ガンマ採用による高ダイナミックレンジ対応が進んでいる。初期の CMOS イメージセンサでは暗いシーンでの残存電荷による不規則な雑音が目立っていたが電荷読み出し回路の改良や機械的シャッターにより完全な暗黒期間を作りだす工夫などで大きく改善されてきている。

 図 3 には代表的なシネマ用カメラのLog ガンマによるダイナミックレンジを示している。このデータはテクニカラーが Canon 5D MarkII を リ フ ァ レ ン ス として比較測定した結果である。人間の視覚特性は 16 ストップ相当といわれている が、ARRI の LogC で は 14.5 ス ト ップ、Sony の S-Log が 14.1 ストップ、キ

図 4 ALEXA (SUP 3.x) LogC

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Log

Sign

al 200 ASA

400 ASA

800 ASA

1600 ASA

3200 ASA

Linear Signal資料出所 ARII ALEXA Log C Curve - Usage in VFX, “Reference Manual, 27 June 2012

図 3 シネマ用カメラの Log ガンマダイナミックレンジ

14.5 14.1

11.8 11.7 11.4 10.9

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Arri Amira (Log C) Sony A75 (Slog2) Canon 5D MarkII

(Technicolor)

Canon 10C (Canon

Log)

Canon C300

(Canon Log)

Panasonic GH4

(Cine-Like)

資 料 出 所 BT Media & Broadcast Research Paper “Ultra High Definition Video Formats and Standrdisation”,figure 13

図 5 ALEXA (SUP 3.x) LogC の露光指数と出力

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200 ASA

400 ASA

800 ASA

1600 ASA

3200 ASA

資料出所 ARII ALEXA Log C Curve - Usage in VFX, “Reference Manual”, 27 June 2012

図 6 ALEXA(SUP 3.x) Log C

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Linear Signal

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資料出所 ARII ALEXA Log C Curve - Usage in VFX , “Reference Manual”, 27 June 2012

Page 2: カメラガンマの動向 - UNIW400 ASA 8 0 AS 1600 ASA 3200 ASA Linear Signal 資料出所 ARII ALEXA Log C Curve - Usage in VFX, “Reference Manual, 27 June 2012 図3 シネマ用カメラのLogガンマダイナミックレンジ

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FDI・2015・11

川上 一郎 

デジタルシネマ Now !

 さて、先月号では映像表示側での EOTF(Electro-Optics Transfer Function : 電気-光量変換特性)を巡る話題について紹介したが、今月号では映像を電気信号に変換する撮像手段で有るカメラのガンマ 特 性 : OETF(Optics-Electro Transfer Function:光量-電気変換特性 ) を巡る話題について紹介していく。   図 1 に示しているのがブリティッシュ・テレコムのメディア&放送部門が(日本で言えば NTT に相当)が UHDTV の標準化動向について調査したレポート (BT Media and Broadcast Research Paper : Ultra High Definition Video Formats and Standardisation) で紹介されているのが、

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カメラガンマの動向

既存の表示デバイスによる黒レベルと入力信号に対する輝度応答の特性である。電子銃による電子線エネルギーで蛍光体を発行させていたブラウン管では、掃引する電子線の暗電流によりわずかな発光を伴っており、かつ蛍光体の残光時間特性の影響もあり撮像素子であるカメラ側の光電変換特性とブラウン管での電光変換特性が相殺されて直線的な輝度応答となるようにガンマ特性が決定されていた。 したがって、既存のブラウン管を表示デバイスとする映像メディアでは、この直線的な光電・電光変換を前提として絵画りが行われてきており、冷陰極管蛍光灯(CCFL)を光源とする既存の液晶ディスプレイも同様な黒レベルと電光変換特性を持っていた。

これに対して、最近の主流製品となっている液晶ディスプレイでは LED バックライトが使用されているために LED への駆動電流がデジタル制御されることから直線的な電光変換特性を表示側で持たせることが可能となっている。また、数十画素単位での個別輝度制御も表示映像の当該輝度制御ブロックに対してリアルタイムで行えることから、ドルビーが提唱している視覚特性に対応した非線形 HDR 表示への対応も可能となってきている。 なお、ドルビーによる視覚特性重視のEOTF 特性は既存表示デバイスでの EOTFとは単なる線形・非線形応答の差だけではなく、全く互換性が無いので注意が必要である。

図 1 各種表示方式の黒レベルと視覚特性

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-1.5

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-0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5

CRT

CCFL-LCD

LED-LCD

拡散黒色反射板

HVS Small Patch

HVS Large Patch

夕闇 暗室 居間 事務室

資料出所 BT Media & Broadcast Resekakuarch Paper “Ultra High Definition Video Formats and Standrdisation”,figure 10

図 2 各種 EOTF 方式による 10 ビットコード値と出力輝度

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0 200 400 600 800 1000

BT.709 (8bit)

BT.709 (10bit)

DICOM Part 14

SMPTE ST2084:2014

BBC HDR Proposal (10bit)

出力輝度[cd/m

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10ビットコード値

資 料 出 所 BT Media & Broadcast Research Paper “Ultra High Definition Video Formats and Standrdisation”,figure 8

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FDI・2015・11

 拡散反射面の黒色板の直線的な輝度応答に対して人間の視覚特性は高輝度側では低輝度領域に比べて識別できる感度が鈍くなることが知られており、図 2 に示しているように先月号で紹介した高輝度側で対数曲線的に入力信号に対する輝度応答を緩やかに変化させる様々な規格化の提案が行われている。既存の 8 ビット HD テレビ放送では、図 2 の左端に示されているように 0.1カンデラから 100 カンデラの帯域で限られた帯域で輝度情報を再現しているだけである。0 〜 255 の 256 諧調で上下限に同期信号用の帯域が設定されているために映像信号として実際に使用可能なのは 16 〜235 のわずか 220 諧調のみである。同様に 10 ビットでも映像信号として使用可能なのは 64 〜 940 の 877 諧調であり、次世代方法規格で話題となっている 12 ビッ

トへ下記調が拡大されれば 256 〜 3760の 3505 諧調が使用可能となる。  図 2 で DICOM Part4 と し て 紹 介さ れ て い る の は Digital Imaging and Communication in Medicine(医療用デジタル画像通信規格)であり、X 線画像診断や CT/MRI、超音波診断画像などでの諧調再現にかかわる輝度変調特性を示している。ドルビーが提唱して SMPTE ST2084 として規格化された視覚応答特性を EOTF とした輝度応答特性は図 2 でも明らかなように既存の起動応答特性との互換性はまったく無い。これに対して BBCが提唱している HDR 方式では輝度 50%付近までは現行 HDTV 放送の BT.709 と互換性のある輝度応答特性であり、高輝度側では対数曲線による輝度応答とすることで HDR 対応としている。

 このような表示デバイス側での EOTF 規格化動向に合わせて、シネマ用カメラもLog ガンマ採用による高ダイナミックレンジ対応が進んでいる。初期の CMOS イメージセンサでは暗いシーンでの残存電荷による不規則な雑音が目立っていたが電荷読み出し回路の改良や機械的シャッターにより完全な暗黒期間を作りだす工夫などで大きく改善されてきている。

 図 3 には代表的なシネマ用カメラのLog ガンマによるダイナミックレンジを示している。このデータはテクニカラーが Canon 5D MarkII を リ フ ァ レ ン ス として比較測定した結果である。人間の視覚特性は 16 ストップ相当といわれている が、ARRI の LogC で は 14.5 ス ト ップ、Sony の S-Log が 14.1 ストップ、キ

図 4 ALEXA (SUP 3.x) LogC

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0.6

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Log

Sign

al 200 ASA

400 ASA

800 ASA

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3200 ASA

Linear Signal資料出所 ARII ALEXA Log C Curve - Usage in VFX, “Reference Manual, 27 June 2012

図 3 シネマ用カメラの Log ガンマダイナミックレンジ

14.5 14.1

11.8 11.7 11.4 10.9

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Arri Amira (Log C) Sony A75 (Slog2) Canon 5D MarkII

(Technicolor)

Canon 10C (Canon

Log)

Canon C300

(Canon Log)

Panasonic GH4

(Cine-Like)

資 料 出 所 BT Media & Broadcast Research Paper “Ultra High Definition Video Formats and Standrdisation”,figure 13

図 5 ALEXA (SUP 3.x) LogC の露光指数と出力

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資料出所 ARII ALEXA Log C Curve - Usage in VFX, “Reference Manual”, 27 June 2012

図 6 ALEXA(SUP 3.x) Log C

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資料出所 ARII ALEXA Log C Curve - Usage in VFX , “Reference Manual”, 27 June 2012

Page 3: カメラガンマの動向 - UNIW400 ASA 8 0 AS 1600 ASA 3200 ASA Linear Signal 資料出所 ARII ALEXA Log C Curve - Usage in VFX, “Reference Manual, 27 June 2012 図3 シネマ用カメラのLogガンマダイナミックレンジ

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ヤノン 5D MarkII のテクニカラー方式の処理では 11.8 ストップ、Canon10Cの Canon Log で 11.7 ス ト ッ プ、 同 じく C300 で 11.4 ストップ、パナソニック GH4 の Cine-like ガンマでは 10.9 ストップとなっている。実用的なダイナミックレンジの範囲については、単純にグレイスケールチャートの反射率差が識別できるか否かの測定から始まって、各種テスト撮影での質感再現や色再現性までを総合的に判断する必要があり、撮影監督による各種

比 較 撮 影 結 果 の サイ ト で あ る CML-Cinematography M a i l i n g L i s t

( h t t p : / / w w w .cinematography.net/) 等 を 参 照 して判断する必要がある。

 特にシーン内での暗部でテクスチャーが再現されているかについては機種ごとに大きな差があり、同様にカラーチャートの色再現にも機種ごとの固有のクセが見受けられる。前述の CML サイトでも露光を変えた場合の肌色の再現とカラー

チャートの映り込みに興味深い機種ごとの差があり、飽きることが無く見入ってしまう。

 図 4 には ARII 社の LogC カーブ特性を示しているが 200ASA 〜 3200ASA での 0 〜 1.0 に正規化した入力信号に対するLog 出力の特性であり、図 5 には露光指数に対する Log 出力の特性を示している。いまやハリウッドをはじめ映画撮影での標準機といえる地位を占めている ALEXA シリ

ーズでは、図 6 と図 7 に示しているようにEI 値 160 〜 1600 での LogC 関数にかかわる係数も公開されており、VFX 工程での CG 映像との親和性を高めている。 特に、黒色のクリッピング値公開と色管理を目的とした ACES では ASA800 における変換係数しか公開されていないがOpen-EXR に代表される VFX 工程が主流となるハリウッド映画では ALEXA の対応については特筆すべきものがある。 図 8 はソニーの S-Log 出力特性を示しており、当初の S-Log2 に対して最新のS-Log3 では中間調領域の応答を緩やかに変化させていることがうかがえる。 スチル写真のカメラマンによる動画撮影や独立系プロダクションでのデジタルシネマ撮影に主力を置いたキャノン EOS シネマカメラではスチル系 DSLR の特性ともいえる幅広い露光範囲を特徴としているが、図 9 に示しているように ISO850 が基準レベルとなっており S/N 比 2.5dbで 18%グレイから高輝度側が 5.3 ストップ、低輝度側が 6.7 ストップとなっている。ISO80000 まで設定可能となっているがS/N 比は 42db まで低下しており粒子ノイズが顕著となることは言うまでもない。

 写真 1 には前述の現職撮影監督によるカメラテスト映像の比較サイト CML に掲載されたテスト映像のクリップであるが、ARRIRAW や CANON C300MKII 等 ののっぺりとした映像となっているのが Logガンマによる映像であり、同じ+ 3 ストッ

図 7 ALEXA (SUP 3.x) Log C 関係式

EI Cut a b c d e f e*cut+f160 0.00468 40.0 -0.076072 0.269036 0.381991 42.062665 -0.071569 0.125266200 0.00460 50.0 -0.118740 0.266007 0.382478 51.986387 -0.110339 0.128643250 0.00452 62.5 -0.171260 0.262978 0.382966 64.243053 -0.158224 0.132021320 0.00444 80.0 -0.243808 0.259627 0.383508 81.183335 -0.224409 0.135761400 0.00437 100.0 -0.325820 0.256598 0.383999 100.295280 -0.299079 0.139142500 0.00431 125.0 -0.427461 0.253569 0.384493 123.889239 -0.391261 0.142526640 0.00425 160.0 -0.568709 0.250219 0.385040 156.482680 -0.518605 0.146271800 0.00420 200.0 -0.729169 0.247190 0.385537 193.235573 -0.662201 0.1496581000 0.00416 250.0 -0.928805 0.244161 0.386036 238.584745 -0.839385 0.1530471280 0.00412 320.0 -1.207168 0.240810 0.386590 301.197380 -1.084020 0.1567991600 0.00409 400.0 -1.524256 0.237781 0.387093 371.761171 -1.359723 0.160192

(x > cut) ? c * log10(a * x + b) + d: e * x + f

資料出所 ARII ALEXA Log C Curve - Usage in VFX , “Reference Manual”, 27 June 2012

図 8 Sony S-Log3 の比較

0

128

256

384

512

640

768

896

1024

-10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8

Cineon(Display)

S-Log2

S-Log3

LogC(EI800)

ACES Proxy10

資料出所 Technical Summary for S-Gamut3.Cine/S-log3 and A-Gamut3/S-Log3_V1_00.pdf

図 9 Cinema EOS C300&C500 の Canon-Log 露光特性

8.1 7.87.1 6.8 6.7 6.7 6.7 6.7 6.7 6.7 6.7 6.7 6.7

3.9 4.2 4.55.2 5.3 5.3 5.3 5.3 5.3 5.3 5.3 5.3 5.3

ISO 320 ISO 400 ISO 640 ISO 800 ISO 850 ISO 1600 ISO 3200 ISO 6400 ISO 12800 ISO 20000 ISO 25600 ISO 51200 ISO 80000

18%Gray

Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops

Stops StopsStops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops

-4db 0db 2db 2.5db 8db 14db 20db 26db 30db 32db 38db 42db

資 料 出 所 White Paper CINEMA EOS C300 & C500 , Canon-Log Cine Optoelectronic Transfer Function Figure 6

写真 1 CML(http://www.cinematography.net/) カメラテスト

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FDI・2015・11

プの映像でも通常のリニアガンマと比べて視覚的にはのっぺりとしてしまう問題がある。Logガンマは帯域圧縮の手段であることをしっかりと認識して、撮影現場でのモニターではこのようなのっぺりとした映像になることから、PCやスマートホン等のアプリを使用してLogをほどいた場合の階調再現は別途確認するひと手間が必要になる。

 そして前述しているように、Logガンマによる商業映像制作では12ビットが実用下限であり、10ビットや8ビットでのLog撮影では大画面上映に耐える映像とは成らないことを肝に銘じておく必要がある。中間調帯域での階調再現が非線形となると同時に、色相のズレも多発し、さらに4:2:2や4:2:0等での色信号ダウンサンプリングが加わるとさらに悲惨な結果となり、肌色再現での質感が失われた安物のマネキンを撮影したのかと疑われる映像をTVCMでも散見するが、DSLR撮影で中途半端なLogガンマを使用した場合では、この質感損失や肌色の色相ズレが頻発することとなる。 したがって、一見万能と見えるLogガンマの採用については、撮影時の想定露光範囲において24段階以上のグレースケールチャートで精密測定を行い、採用するLogガンマを決定する必要があるが、これはフィルム時代に使用するフィルムの銘柄選定と同様にカメラメーカ、機種毎に全く互換性が無いことが問題となってくる。ハリウッドでの映画撮影で標準機としての位置を確保しているALEXAは図表でも紹介しているように各撮影感度でのLogガンマに関わる演算係数を公開しており、VFXでの合成処理過程で必要となる各種演算マトリックスの値も含めて手厚いサポートが行われていることは、カメラメーカー・照明機材メーカーの二つの顔と、撮影スタジオやポスプロ部門も保有している総合性が遺憾なく発揮されているところである。

 さて、HDR映像が放送として行われるかどうかについては費用対効果の問題が最近数多く報道されている。MPEGはご承知のように使用される基本特許を関係各社が一括管理して技術的貢献度によりライセンス料の分配率を決定して各社にライセンス料が分配され新技術開発の資金や関係する技術者への有形・無形の報償となるわけであるが、当然のことながらライセンス料を負担するのはMPEGのエンコード・デコード回路やソフトを実装した機器メーカーである。HDR対応の拡張レイヤー処理機能をMPEGに追加したとして、実放送の中で何パーセントHDR対応のシーンが含まれるのかが読めないことに加えて、バックライト側での輝度対応が必要なのか、はたまた字幕合成のようにHDR対応の画素領域だけを通常映像にオーバーレイするのかが未定であり、H.264等のような低ビットレートでも高画質映像が伝送できる等のわかりやすい費用対効果が見えてこないとの意見が続出している。

 来年年明けのCESや春に開催されるNABで、どの程度民生用HDR対応表示機器が展示され、かつバックライトでの輝度対応が主流となるのか、HDR合成が主流となるのかは興味深いところである。 確実に技術開発が進みそうなのはスポーツ中継用HDRカメラの開発であろう。BBCが提案している輝度50%以上の部分にLogガンマを採用する手法であれば、サッカー中継での日陰となったグランド部分と、直射日光の当たっている観客席部分でガンマ特性を変化させ、このHDR対応シーンとなった部分だけメタデータでタグ付けを行う放送システムであればCMOS単板イメージセンサカメラでも輝度検出回路とHDR対応LUT切替を付加することによりスポーツ中継専用カメラの開発は可能となり、現行のスポーツ中継で見られるグランドの選手が暗くつぶれてしまい、スタンドが白飛びしてしまう現象が回避できる大

きな効果が出てくる。 デジタルシネマでのHDR導入については、“レンダリングをきちんとやれば良いだけ”との意見も多く、真っ暗にした映画館の鑑賞で14カンデラを超える高輝度のシーンが連続すればかえって視聴時の疲労となってしまう危惧も指摘されている。これ見よがしのHDR効果をうたった画像は、いわゆる夕間詰め・朝間詰めのマジックアワーと称される独特の広い諧調が感じられるシーンであるが、このようなシーンで映画全編を構成されても何の感動も無くなってしまう。

 長時間の映画鑑賞では12カンデラ程度のピーク輝度で調整された画面で、環境光を制御し、画面内コントラストを300:1以上に保っているほうが疲労も無く、かつ黒の締りがきっちりと感じられることから、映画館での足元灯や誘導灯のディマー制御とスクリーンに映りこまない配光制御、そしてシルバースクリーンの撤去が最大の効果であると考えている。国内でもプレミア大画面上映をうたった新規映画館が出現しだしているが、シルバースクリーン採用などと広告されると一挙に画質劣化を感じてさせてしまう。

 ドルビーがクリスティー・デジタルと提携して米国で展開を始めたHDR対応ドルビービジョンがどのような市場評価を受けるのかは明年4月にラスベガスで開催される映画興行関係者の総合展示会であるCinemaCon2016での反応次第であるが、最近の連載でも紹介したプレミア大画面スクリーンでの上映が映画興行界の業績を牽引する起爆剤となるかを含めて注目していきたい。 

Ichiro Kawakami デジタル・ルック・ラボ

Page 4: カメラガンマの動向 - UNIW400 ASA 8 0 AS 1600 ASA 3200 ASA Linear Signal 資料出所 ARII ALEXA Log C Curve - Usage in VFX, “Reference Manual, 27 June 2012 図3 シネマ用カメラのLogガンマダイナミックレンジ

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ヤノン 5D MarkII のテクニカラー方式の処理では 11.8 ストップ、Canon10Cの Canon Log で 11.7 ス ト ッ プ、 同 じく C300 で 11.4 ストップ、パナソニック GH4 の Cine-like ガンマでは 10.9 ストップとなっている。実用的なダイナミックレンジの範囲については、単純にグレイスケールチャートの反射率差が識別できるか否かの測定から始まって、各種テスト撮影での質感再現や色再現性までを総合的に判断する必要があり、撮影監督による各種

比 較 撮 影 結 果 の サイ ト で あ る CML-Cinematography M a i l i n g L i s t

( h t t p : / / w w w .cinematography.net/) 等 を 参 照 して判断する必要がある。

 特にシーン内での暗部でテクスチャーが再現されているかについては機種ごとに大きな差があり、同様にカラーチャートの色再現にも機種ごとの固有のクセが見受けられる。前述の CML サイトでも露光を変えた場合の肌色の再現とカラー

チャートの映り込みに興味深い機種ごとの差があり、飽きることが無く見入ってしまう。

 図 4 には ARII 社の LogC カーブ特性を示しているが 200ASA 〜 3200ASA での 0 〜 1.0 に正規化した入力信号に対するLog 出力の特性であり、図 5 には露光指数に対する Log 出力の特性を示している。いまやハリウッドをはじめ映画撮影での標準機といえる地位を占めている ALEXA シリ

ーズでは、図 6 と図 7 に示しているようにEI 値 160 〜 1600 での LogC 関数にかかわる係数も公開されており、VFX 工程での CG 映像との親和性を高めている。 特に、黒色のクリッピング値公開と色管理を目的とした ACES では ASA800 における変換係数しか公開されていないがOpen-EXR に代表される VFX 工程が主流となるハリウッド映画では ALEXA の対応については特筆すべきものがある。 図 8 はソニーの S-Log 出力特性を示しており、当初の S-Log2 に対して最新のS-Log3 では中間調領域の応答を緩やかに変化させていることがうかがえる。 スチル写真のカメラマンによる動画撮影や独立系プロダクションでのデジタルシネマ撮影に主力を置いたキャノン EOS シネマカメラではスチル系 DSLR の特性ともいえる幅広い露光範囲を特徴としているが、図 9 に示しているように ISO850 が基準レベルとなっており S/N 比 2.5dbで 18%グレイから高輝度側が 5.3 ストップ、低輝度側が 6.7 ストップとなっている。ISO80000 まで設定可能となっているがS/N 比は 42db まで低下しており粒子ノイズが顕著となることは言うまでもない。

 写真 1 には前述の現職撮影監督によるカメラテスト映像の比較サイト CML に掲載されたテスト映像のクリップであるが、ARRIRAW や CANON C300MKII 等 ののっぺりとした映像となっているのが Logガンマによる映像であり、同じ+ 3 ストッ

図 7 ALEXA (SUP 3.x) Log C 関係式

EI Cut a b c d e f e*cut+f160 0.00468 40.0 -0.076072 0.269036 0.381991 42.062665 -0.071569 0.125266200 0.00460 50.0 -0.118740 0.266007 0.382478 51.986387 -0.110339 0.128643250 0.00452 62.5 -0.171260 0.262978 0.382966 64.243053 -0.158224 0.132021320 0.00444 80.0 -0.243808 0.259627 0.383508 81.183335 -0.224409 0.135761400 0.00437 100.0 -0.325820 0.256598 0.383999 100.295280 -0.299079 0.139142500 0.00431 125.0 -0.427461 0.253569 0.384493 123.889239 -0.391261 0.142526640 0.00425 160.0 -0.568709 0.250219 0.385040 156.482680 -0.518605 0.146271800 0.00420 200.0 -0.729169 0.247190 0.385537 193.235573 -0.662201 0.1496581000 0.00416 250.0 -0.928805 0.244161 0.386036 238.584745 -0.839385 0.1530471280 0.00412 320.0 -1.207168 0.240810 0.386590 301.197380 -1.084020 0.1567991600 0.00409 400.0 -1.524256 0.237781 0.387093 371.761171 -1.359723 0.160192

(x > cut) ? c * log10(a * x + b) + d: e * x + f

資料出所 ARII ALEXA Log C Curve - Usage in VFX , “Reference Manual”, 27 June 2012

図 8 Sony S-Log3 の比較

0

128

256

384

512

640

768

896

1024

-10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8

Cineon(Display)

S-Log2

S-Log3

LogC(EI800)

ACES Proxy10

資料出所 Technical Summary for S-Gamut3.Cine/S-log3 and A-Gamut3/S-Log3_V1_00.pdf

図 9 Cinema EOS C300&C500 の Canon-Log 露光特性

8.1 7.87.1 6.8 6.7 6.7 6.7 6.7 6.7 6.7 6.7 6.7 6.7

3.9 4.2 4.55.2 5.3 5.3 5.3 5.3 5.3 5.3 5.3 5.3 5.3

ISO 320 ISO 400 ISO 640 ISO 800 ISO 850 ISO 1600 ISO 3200 ISO 6400 ISO 12800 ISO 20000 ISO 25600 ISO 51200 ISO 80000

18%Gray

Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops

Stops StopsStops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops Stops

-4db 0db 2db 2.5db 8db 14db 20db 26db 30db 32db 38db 42db

資 料 出 所 White Paper CINEMA EOS C300 & C500 , Canon-Log Cine Optoelectronic Transfer Function Figure 6

写真 1 CML(http://www.cinematography.net/) カメラテスト

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プの映像でも通常のリニアガンマと比べて視覚的にはのっぺりとしてしまう問題がある。Logガンマは帯域圧縮の手段であることをしっかりと認識して、撮影現場でのモニターではこのようなのっぺりとした映像になることから、PCやスマートホン等のアプリを使用してLogをほどいた場合の階調再現は別途確認するひと手間が必要になる。

 そして前述しているように、Logガンマによる商業映像制作では12ビットが実用下限であり、10ビットや8ビットでのLog撮影では大画面上映に耐える映像とは成らないことを肝に銘じておく必要がある。中間調帯域での階調再現が非線形となると同時に、色相のズレも多発し、さらに4:2:2や4:2:0等での色信号ダウンサンプリングが加わるとさらに悲惨な結果となり、肌色再現での質感が失われた安物のマネキンを撮影したのかと疑われる映像をTVCMでも散見するが、DSLR撮影で中途半端なLogガンマを使用した場合では、この質感損失や肌色の色相ズレが頻発することとなる。 したがって、一見万能と見えるLogガンマの採用については、撮影時の想定露光範囲において24段階以上のグレースケールチャートで精密測定を行い、採用するLogガンマを決定する必要があるが、これはフィルム時代に使用するフィルムの銘柄選定と同様にカメラメーカ、機種毎に全く互換性が無いことが問題となってくる。ハリウッドでの映画撮影で標準機としての位置を確保しているALEXAは図表でも紹介しているように各撮影感度でのLogガンマに関わる演算係数を公開しており、VFXでの合成処理過程で必要となる各種演算マトリックスの値も含めて手厚いサポートが行われていることは、カメラメーカー・照明機材メーカーの二つの顔と、撮影スタジオやポスプロ部門も保有している総合性が遺憾なく発揮されているところである。

 さて、HDR映像が放送として行われるかどうかについては費用対効果の問題が最近数多く報道されている。MPEGはご承知のように使用される基本特許を関係各社が一括管理して技術的貢献度によりライセンス料の分配率を決定して各社にライセンス料が分配され新技術開発の資金や関係する技術者への有形・無形の報償となるわけであるが、当然のことながらライセンス料を負担するのはMPEGのエンコード・デコード回路やソフトを実装した機器メーカーである。HDR対応の拡張レイヤー処理機能をMPEGに追加したとして、実放送の中で何パーセントHDR対応のシーンが含まれるのかが読めないことに加えて、バックライト側での輝度対応が必要なのか、はたまた字幕合成のようにHDR対応の画素領域だけを通常映像にオーバーレイするのかが未定であり、H.264等のような低ビットレートでも高画質映像が伝送できる等のわかりやすい費用対効果が見えてこないとの意見が続出している。

 来年年明けのCESや春に開催されるNABで、どの程度民生用HDR対応表示機器が展示され、かつバックライトでの輝度対応が主流となるのか、HDR合成が主流となるのかは興味深いところである。 確実に技術開発が進みそうなのはスポーツ中継用HDRカメラの開発であろう。BBCが提案している輝度50%以上の部分にLogガンマを採用する手法であれば、サッカー中継での日陰となったグランド部分と、直射日光の当たっている観客席部分でガンマ特性を変化させ、このHDR対応シーンとなった部分だけメタデータでタグ付けを行う放送システムであればCMOS単板イメージセンサカメラでも輝度検出回路とHDR対応LUT切替を付加することによりスポーツ中継専用カメラの開発は可能となり、現行のスポーツ中継で見られるグランドの選手が暗くつぶれてしまい、スタンドが白飛びしてしまう現象が回避できる大

きな効果が出てくる。 デジタルシネマでのHDR導入については、“レンダリングをきちんとやれば良いだけ”との意見も多く、真っ暗にした映画館の鑑賞で14カンデラを超える高輝度のシーンが連続すればかえって視聴時の疲労となってしまう危惧も指摘されている。これ見よがしのHDR効果をうたった画像は、いわゆる夕間詰め・朝間詰めのマジックアワーと称される独特の広い諧調が感じられるシーンであるが、このようなシーンで映画全編を構成されても何の感動も無くなってしまう。

 長時間の映画鑑賞では12カンデラ程度のピーク輝度で調整された画面で、環境光を制御し、画面内コントラストを300:1以上に保っているほうが疲労も無く、かつ黒の締りがきっちりと感じられることから、映画館での足元灯や誘導灯のディマー制御とスクリーンに映りこまない配光制御、そしてシルバースクリーンの撤去が最大の効果であると考えている。国内でもプレミア大画面上映をうたった新規映画館が出現しだしているが、シルバースクリーン採用などと広告されると一挙に画質劣化を感じてさせてしまう。

 ドルビーがクリスティー・デジタルと提携して米国で展開を始めたHDR対応ドルビービジョンがどのような市場評価を受けるのかは明年4月にラスベガスで開催される映画興行関係者の総合展示会であるCinemaCon2016での反応次第であるが、最近の連載でも紹介したプレミア大画面スクリーンでの上映が映画興行界の業績を牽引する起爆剤となるかを含めて注目していきたい。 

Ichiro Kawakami デジタル・ルック・ラボ