グローバル戦略と...
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グローバル戦略と
リバース・イノベーションの視点
「経営戦略」第2学期 第11回
なぜ企業はグローバル化するのか?
• グローバル化がもたらす価値
ADDING (Ghemawat, 2007)
– Adding volume
– Decreasing costs
– Differentiating/Increasing WTP• 差別化の源泉の獲得(現地、本国)
– Improving industrial attractiveness• 業界の魅力度の向上(利益ポテンシャル増)
– Normalizing risk
– Gaining Knowledge
• 新しい技術的知識の獲得
• 新しい市場ニーズへの接触
• 自社の能力や強みに関する価値の再解釈
Volume
Margin
Risk Hedge
Knowledge
Cost ↓Differentiation ↑
Industry Attractiveness
+
Economic Value
グローバリゼーションの戦略課題
• グローバリゼーションを通じた利益の最大化のために…
– グローバルな効率性の追求• グローバル統合
• 標準化
• 規模の経済
• コストダウン
– ローカル・ニーズへの適応• 現地適応
• カスタマイゼーション
• WTP(Willingness to Pay)の向上
• 差別化
グローバル統合の方法
• 製品・サービスの標準化– 国ごとに機能、品質、価格等を変えるのではなく、原則として同じ機能、品質水準、価格でグローバル展開する
• 規模の経済性、コスト効率
• ブランド・イメージの維持
– 本社によるコントロール
• 遠心力に対する求心力の問題– グローバル経営では、遠心力(現地企業の自律性)と求心力
(本社による統制)のバランスが重要となる
– グローバル統合は「求心力」に関係している• 理念の重要性
– Johnson &Johnsonの”Our Credo”
– コマツの“コマツウェイ”
• 人材の派遣、予算管理などを通じた統制
様々な現地化
• 製品・サービスの現地化
– 機能、品質、価格等をそれぞれの国の状況に合わせて適合させる
• 経営の現地化
– 労務管理の方法の現地化• 生産システムは日本式を踏襲しつつ、労務管理は現地方式に合わせている企業が少なくない
– 意思決定方法の現地化• トップダウン方式 vs. ボトムアップ方式
• 人の現地化
– 現地法人の社長は、その国の人材に任せる• 日系企業では、社長が日本であることが多い
High
Low
グローバル戦略の類型
• グローバル統合 vs. 現地適応
Global Transnational
International Multi-domestic
現地適応Low High
グローバル統合
Source:Bartlett and Ghoshal(1989)
輸出(本国外での投資はない)
本国本社による調整のもとに、すべての海外市場に統一の製品・サービスの販売
(規模、コスト、効率)
一部はグローバル統合を図りつつ、他の部分で現地市
場に適応させる
個々の現地市場に製品・サービスを 適応させる(グローバルな調整なし)
トランス・ナショナルからメタ・ナショナルへ
• トランス・ナショナル戦略 (Bartlett & Ghoshal, 1989)
– 世界規模での効率性の追求と現地適応力のミックス
– グローバル戦略の理想形
• メタ・ナショナル戦略 (Yves Doz, et.al., 2001)
– それぞれの国・地域で創造される新しい知識のグローバルな共有と活用
• 先進国だけでなく、途上国を含む
▶戦略のタイプ分けに過ぎない⇒本社と現地との間の相互作用など、ダイナミックなプロセスの理解が必要
・グローバルな知識の創造・グローバルな知識のやり取り
Doz, Santos and Williamson( 2001)
メタ・ナショナル経営
• Doz, Santos and Williamson
From Global to Metanational
Harvard Business School Press, 2001
– メタ・ナショナル経営の視点
• 世界中に分散する重要な知識や資源への接近と組み合わせ
• 本国だけでなく途上国を含む全世界での知識・価値の創造
• 新しい知識や価値のグローバルな共有と活用
リバース・イノベーション
• Govindarajan & Trimble
Reverse InnovationHarvard Business Review Press, 2012
(邦訳『リバース・イノベーション』)
– 途上国で最初に生まれ、先進国に移転され、利用されるイノベーション
– ローカル・イノベーションからリバース・イノベーションへ
– 過去の蓄積を「忘れることから始まる」(白紙状態からのイノベーション)
– マインドセットの転換
リバース・イノベーション
• リバース・イノベーションとは何か– 途上国で最初に生まれ、先進国に移転・
利用されるイノベーション
• 新興国・途上国へのグローバル展開伝統的な視点
– イノベーションは既成のもの(先進国発)
– 自国の顧客向けに開発されたグローバル
製品に修正を加え、主に機能を落とした
低価格モデルを輸出する
– 上流から下流への浸み出し
新しい視点– 知識/価値の創造は、本国だけでなく途上国を含む全世界で行われる
– 世界中で生み出される新しい知識/価値のグローバルな共有と活用
– 下流から上流への逆流
Doz, Santos and Williamson( 2001)
グローバル戦略の進化
本国で開発された製品・サービスの全世界市場での販売
本国で開発された製品・サービスを、個々の国の現地ニーズに合うように改良する
「その国のために、その国で」、現地ニーズに合う製品・サービスを開発・販売する
「その国で」開発した製品・サービスを、「世界で」販売する(現地開発、グローバル適応)
Source:Govindarajan(2009), “What is Reverse Innovation?” (http://www.vijaygovindarajan.com/2009/10/what_is_reverse_innovation.htm)
Globalization
Glocalization
Local Innovation
Reverse Innovation
リバースイノベーションへの流れ(1)
• フェイズ1: グローバリゼーション– 製品・サービスを世界中の市場で販売することによる規模の経済の実現
– イノベーションは本国で生まれ、その後、他の国の市場で販売していく
• フェイズ2: グローカリゼーション– 現地のニーズに合うように製品・サービスを適応させることで、マーケットシェアを勝ち取る
– イノベーションは本国で生まれるが、その後現地市場に向けて改良する。発展途上国向けには、その国の顧客の懐具合(budget)に合うように、既存の製品・サービスの機能を削減する。
Souece:Govindarajan(2009), “What is Reverse Innovation?” (http://www.vijaygovindarajan.com/2009/10/what_is_reverse_innovation.htm)
リバースイノベーションへの流れ(2)
• フェイズ3: ローカル・イノベーション– 「その国向けの」製品・サービスを、「その国で」
開発する– すでに開発済みの製品・サービスを改良するのではなく、ゼロ・ベースで現地のニーズをとらえ、開発する
– リバース・イノベーションの第一段階に相当
• フェイズ4: リバース・イノベーション– フェーズ3は「その国向けに」「その国で」開発・販売すること(“in
country, for country”)であるとすれば、フェーズ4は「その国で」開発したものを「全世界で」販売する(“in country, for the world”)
– 途上国向けに開発したイノベーションを、スケールアップして世界中に展開する
Souece:Govindarajan(2009), “What is Reverse Innovation?” (http://www.vijaygovindarajan.com/2009/10/what_is_reverse_innovation.htm)
LG’s Mecca Phone
リバース・イノベーションの例
• GE :ポータブル型心電図記録装置– インドの地方の診療所向けに開発
– その後、アメリカで販売され、大きな売上を記録
– 日本の東日本大震災後の被災地での利用された
• Nestlé:ローファット乾麺「Maggi」
– インドの田舎市場向けに開発された乾麺が、その後オーストラリアやニュージーランドで健康食品として販売
• Procter & Gamble:風邪薬「Vicks Honey Cough」
– メキシコで、子供たちに飲みやすい薬として開発され、その後ヨーロッパ、アメリカで収益を生み出す
• Walmart:小規模店舗
– 中央アフリカや南米で現地の生活(e.g. 大量に買い込むだけの所得がない、バイクで自転車で持ち帰る量には限度がある)に適応するように開発された小型ストアが、大規模小売店市場が飽和していたアメリカに逆輸出された
なぜ途上国がイノベーションの源泉たりうるか
• 先進国(自国)とは異なる経済・社会制度への適応が新たな価値創出の契機となる
– 顧客・消費者ニーズの違い
– 所得水準の違い
– 生活・事業環境や慣習等の違い
– 制度的不備(Institutional voids) (Khanna & Palepu, 2006)
• 市場を効率的に機能させるための制度やインフラの欠如
– 企業法(Business law)
– 規制(Regulatory systems)
– 銀行やベンチャーキャピタル、会計事務所、人材採用・派遣会社、コンサルティング会社等の専門的仲介業者
– サプライヤー・物流・販売ネットワーク
グローバリゼーションは文脈転換のプロセスであり、異なる文脈への適応が新しい価値を生み出す
ローカル・イノベーションの創出
• リバース・イノベーションの出発点としてのローカル・イノベーションの創出
– 「地域専門家」(regional specialist)の育成
• サムソンにおけるグローバル化に対応した人材育成制度
– 派遣先の国に1年間滞在
» 仕事の義務はなし
» その国の言語・社会文化・習慣・市場ニーズ等を学ぶため、自主的に計画を立て、実行(住居探し、語学学習、人脈作り等は会社を頼らない
» 期間終了後、その国の嗜好やニーズに合った商品作りや事業運営を現地の視点から遂行できる能力を身につける
– 1990年開始、これまで年間200~300人を60カ国以上に派遣、4200人以上を育成
– 現地人・現地企業とのパートナーシップの確立
• 優秀な現地人スタッフの採用
• 現地企業との戦略提携
– 意思決定の仕組みの変革
• 現地拠点に、設計、品質、マーケティング機能についての権限を委譲する
ローカルからリバースへ
• 途上国で生まれたイノベーションの先進国への適用
– 阻害要因
• 途上国で生まれたイノベーションは旧態依然としたものであり、先進国に適用できるはずがないという先入観
• 実際に先進国の主流となる顧客ニーズは満たさない
• NIH(Not-Invented-Here)症候群
• 本国本社の意思決定の不備(自国優先主義、収益性評価の困難さ)
– リバース・イノベーションはいわゆる「破壊的イノベーション」• 当初は性能・機能が低く、先進国の主流となる顧客ニーズを満たさないが、時間の経過とともに性能・機能が向上し、既存の製品・サービスを凌駕する可能性がある
• ニッチ市場での適用
• 性能・機能・品質のスケールアップ
• 既存の組織からの隔離
グローバリゼーションに係る主要な論点1
• 内なる国際化– 国際事業展開の最大の敵は「本社」
• グローバル事業の重要性の認識• 日本の常識・商習慣からの発想を排除する• 共通言語としての英語• 外国人社員比率(留学生の積極採用 e.g. ローソン)
• 地域専門家– それぞれの国・地域の言語のみならず、生活習慣や文化、風土、政治・社会体制などを自ら体得し、ビジネスに結び付けられるスペシャリスト
• サムソン– 海外派遣後1年間は仕事から完全に離れて現地に「棲み込む」
• アサヒビール– 半年間の現地生活からビジネスヒントをつかむ
グローバリゼーションに係る主要な論点2
• 現地人・現地企業とのパートナーシップの確立– 優秀な現地人スタッフの採用、現地企業との戦略提携– 相互信頼が鍵
• 意思決定の仕組みの変革– 現地拠点に、設計、品質、マーケティング機能についての権限を委譲する
• モノの開発と生活インフラ等の開発– ユニリーバ
• バングラディシュ:「手を洗う習慣」の普及(BOPの開発)
– ヤマハ発動機• インドネシア:BAFと連携して「ローン」の仕組みの普及
– イトーヨーカ堂• 中国:「ちらし」の普及
– 冷凍食品メーカー• インドネシア:「冷蔵庫」の普及