トンネル工事における近接交差部の計画・施工について -...

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まえがき 一般国道230号青葉トンネル ( 仮称 ) は、 2000 3 月の有珠山噴火に伴い通行不能 となった国道 230 号の復旧ルートに新設 される延長 1,719 mのトンネルである。 復旧ルートは、将来想定される噴火によ る被害を受けないエリアに計画された。そ れにより、洞爺湖水を導水して発電を興す 目的で、昭和14年に建設された内径 3.5 mの導水路トンネルと鉛直離隔約 11 m、 平面角度約 25 °で交差する箇所が生じた。 このため既設導水路トンネル(以下導水路 トンネルと称す)に青葉トンネル掘削の影 響が及ぶ可能性があるため、三次元 FEM 解析を行い補助工法の計画や、管理基準値 の及び、計測管理手法などを設定し、無事 掘削工が完了したので、その計画と施工事 例について報告するものである。 図-1 現場位置図 1 地形・地質概要 当該箇所は、火山観光地帯である。青葉 トンネルの起点側坑口は比較的なだらか な斜面に位置し、坑口から約 450 m区間は、 土かぶり 2D 以下と小さく住宅地や河川な どが分布している。地質的には第四紀更新 世の安山岩等を基盤とし、それらを覆う形 で未固結堆積物が分布している。新期溶岩 類は、月浦溶岩に区分されるもので、トン ネル縦断方向に緩く傾斜した地質構造を 示し、凝灰岩や凝灰角礫岩を主体とし、下 部には溶岩が存在する。起点側においては、 熱水変質作用を被っており、重金属類の存 在が確認されている。 導水路トンネル交差区間においては、月 浦溶岩の変質岩(明ばん石帯、鉱化帯、ス メクタイト帯等)から構成され、変質の程 度や分布が複雑で地山性状も不均一なこ とから、塑性地圧の発生や掘削時の緩み等 に起因した導水路トンネルへの悪影響が 懸念された。 図-2 導水路交差部地質断面図 トンネル工事における近接交差部の計画・施工について ―既設導水路トンネルと交差する青葉トンネルの事例― 室蘭開発建設部 有珠復旧事務所 ○高橋 渉 荒野 広 甲斐 明 洞爺湖 噴火湾 三豊トンネル 青葉トンネル 新国道 230 号 被災した国道 230 号 Ta(p) 非変質部 Ta(l) スメクタイト帯 , 褐鉄鉱鉱染部 Ta(p) 珪化帯 , 明ばん石帯 Ta(l) 珪化帯 , 明ばん石帯 Ta(p) 珪化帯 , 明ばん石帯 , カオリン帯 Ta(l) カオリン帯 , スメクタイト帯 Ta(p) スメクタイト帯 , 明ばん石帯 Ta(p) スメクタイト帯 青葉トンネル 既設導水路トンネル Wataru Takahashi Hiroshi Arano Akira Kai 起点 終点 導水路トンネル 破砕帯

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Page 1: トンネル工事における近接交差部の計画・施工について - ceri.go.jpthesis.ceri.go.jp/db/files/GR0002200042.pdf · 2018-11-29 · まえがき 一般国道230号青葉トンネル(仮称)は、

まえがき 一般国道230号青葉トンネル (仮称 )は、

2000 年 3 月の有珠山噴火に伴い通行不能

となった国道 230 号の復旧ルートに新設

される延長 1,719mのトンネルである。 復旧ルートは、将来想定される噴火によ

る被害を受けないエリアに計画された。そ

れにより、洞爺湖水を導水して発電を興す

目的で、昭和14年に建設された内径 3.5mの導水路トンネルと鉛直離隔約 11m、

平面角度約 25°で交差する箇所が生じた。

このため既設導水路トンネル(以下導水路

トンネルと称す)に青葉トンネル掘削の影

響が及ぶ可能性があるため、三次元 FEM解析を行い補助工法の計画や、管理基準値

の及び、計測管理手法などを設定し、無事

掘削工が完了したので、その計画と施工事

例について報告するものである。

図-1 現場位置図

1 地形・地質概要 当該箇所は、火山観光地帯である。青葉

トンネルの起点側坑口は比較的なだらか

な斜面に位置し、坑口から約 450m区間は、

土かぶり 2D 以下と小さく住宅地や河川な

どが分布している。地質的には第四紀更新

世の安山岩等を基盤とし、それらを覆う形

で未固結堆積物が分布している。新期溶岩

類は、月浦溶岩に区分されるもので、トン

ネル縦断方向に緩く傾斜した地質構造を

示し、凝灰岩や凝灰角礫岩を主体とし、下

部には溶岩が存在する。起点側においては、

熱水変質作用を被っており、重金属類の存

在が確認されている。 導水路トンネル交差区間においては、月

浦溶岩の変質岩(明ばん石帯、鉱化帯、ス

メクタイト帯等)から構成され、変質の程

度や分布が複雑で地山性状も不均一なこ

とから、塑性地圧の発生や掘削時の緩み等

に起因した導水路トンネルへの悪影響が

懸念された。

図-2 導水路交差部地質断面図

トンネル工事における近接交差部の計画・施工について ―既設導水路トンネルと交差する青葉トンネルの事例―

室蘭開発建設部 有珠復旧事務所 ○高橋 渉

荒野 広

甲斐 明

洞爺湖

噴火湾

三豊トンネル

青葉トンネル

新国道 230 号

被災した国道 230 号

Ta(p)非変質部

Ta(l)スメクタイト帯 ,褐鉄鉱鉱染部

Ta(p)珪化帯 ,明ばん石帯

Ta(l)珪化帯 ,明ばん石帯

Ta(p)珪化帯 ,明ばん石帯 , カオリン帯

Ta(l) カオリン帯 , スメクタイト帯

Ta(p)スメクタイト帯 , 明ばん石帯 Ta(p)スメクタイト帯

青葉トンネル

既設導水路トンネル

Wataru Takahashi,Hiroshi Arano,Akira Kai

起点

終点

導水路トンネル 破砕帯

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起 点起 点 終 点終 点

2 既設導水路近接交差部の検討 青葉トンネルの掘削が導水路トンネル

へ与える影響や掘削時の対策工法を検討

するため有識者で構成される『一般国道

230 号洞爺道路トンネル技術検討会』(以

下検討会と称す)において、三次元 FEM解析による影響解析を実施した。この結果、

青葉トンネルの変位が導水路トンネルに

与える影響が大きいことが確認され、青葉

トンネルの変位を抑えるための補助工法

が不可欠となった。このため、青葉トンネ

ルの掘削による変位と導水路トンネルの

沈下との関係を分析、管理基準値を設定し、

施工時における計測管理計画を策定した。

図-4 交差部施工管理までの作業フロー

3 FEM 解析による影響解析

三次元 FEM 解析の解析対象範囲は、導

水路トンネル方向に SP3150~SP3400 の

250m、導水路トンネル直角方向に 240mとした(図-5,図-6)。また、施工時に

おける逆解析や三次元 FEM 解析で表現で

きない詳細な施工ステップを評価するた

め、二次元 FEM 解析を実施した。二次元

FEM 解析は導水路トンネルと青葉トンネ

ルが交差する断面(SP3314,図-3)でモ

デル化した。解析は地質、コンクリートお

よびグラウト(AGF 工法による改良部)を

全て弾性体と仮定した。地質区分を表-1に示す。

解析は、現在の応力状態を適切に表現す

るため、実工程を模擬して段階的に計算を

進めた。

図-5 解析対象腑瞰図

図-3 青葉トンネル縦断図・平面図

三次元 FEM 解析による既設水路トンネ

ルへの影響把握

施工における管理基準の策定 (計測値に対する管理基準値の設定)

補助工法、対策工の設定

試験施工区間での計測値を用いた管理計

画の設定(二次元 FEM 解析による逆解

析及び交差部での予測解析)

導水路トンネル影響区間での現場管理

方法の設定

二次元 FEM 解析と三

次元 FEM 解析の結果

の分析

起 点

起 点

終 点

終 点

国道37号国道37号

洞 爺 湖 側

噴 火 湾 側

導 水 路 トンネル

導 水 路 トンネル

交 差 測 点 SP=3,314

SP3400 側

SP3150 側 240m

250m

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図-6 三次元 FEM モデル要素分割状況

また、解析ケースについてはAGF(長

尺鋼管フォアパイリング)工法による改良

範囲を変えて表-2 のように設定し解析を

実施した。

表-1 地質区分および使用物性一覧

*グラウトの物性は AGF により改良された地盤物

性を示す

表-2 解析ケース

AGF なし 支保工のみ

AGF120°

AGF180°(改良厚 t=0.5m)AGF あり

AGF180°(改良厚 t=1.0m)

表-3 に解析ケースごとの三次元 FEM 解

析結果を示す。また、青葉トンネルの天端 変位と導水路トンネルの底面変位、発生応

力、最大傾斜角それぞれの関係を図-7~9に示す。導水路トンネルの底面変位・発生

応力の関係については、導水路トンネルと

の交差部断面での二次元弾性 FEM 解析に

よる結果も併せて図示する。 すべての結果について青葉トンネルの

天端変位と相関関係があることがわかる。

また、二次元 FEM 解析と三次元 FEM 解

析の結果は、ほぼ傾向として同様の結果と

なっている。三次元 FEM 解析の方が小さ

めの結果となっているのは、トンネルが軸

方向に伸びる連続的な梁の剛性の三次元

効果によるものである。 表-3 三次元 FEM 解析結果

図-7 青葉トンネル天端沈下と

導水路トンネル底面変位の関係

図-8 青葉トンネル天端沈下と

導水路トンネル発生応力の関係

修正地質および 使用材料

単位体積質量 ρ (g/cm3)

変形係数 E (MPa)

ポアソン比 ν

厚さ (mm) 色分け

S 1.60 300 0.35 P 2.00 1,200 0.30 L 2.40 8,000 0.25 D 1.50 80 0.40

青葉トンネル 600 北電導水路トンネル

2.35 20,600 0.20 350

グラウト 2.35 9,310 0.20 1000

地質区分 岩種 変質帯区分 単位体積質量 ρ? (g/cm3)

変形係数 E (MPa)

ポアソン比

ν 修正後

地質区分

硬質珪化帯 A-Si 1.70 8,000 0.30 L 珪化帯 Si 1.50 160 0.35 S

珪化帯(破砕帯) F 1.50 10 0.40 D 明ばん石帯 Al 1.60 150 0.40 S カオリン帯 Ka 1.90 120 0.40 S

スメクタイト帯 Sm 1.90 110 0.40 S

火山砕屑岩類 ( Ta ( p ) )

非変質部 - 2.00 1,400 0.35 P 珪化帯 Si 1.60 180 0.40 S

珪化帯(破砕帯) F 1.60 10 0.40 D 明ばん石帯 Al 1.60 180 0.40 S 褐鉄鉱鉱化帯 Or 2.30 1,100 0.30 P カオリン帯 Ka 2.00 1,000 0.35 P

スメクタイト帯 Sm 2.00 1,000 0.35 P

月浦溶岩 ( Ta )

溶岩 ( Ta ( l ) )

非変質部 - 2.40 8,200 0.30 L 洞爺二次堆積物 ty - - - S 崖錐堆積物 dt - - - S

解析ケース青葉トンネル

天端変位(mm)

北電導水路トンネル底部変位

(mm)

北電導水路トンネル発生応力

(MPa)

最大傾斜角(rad)

AGF無し 支保工のみ -25.1 -11.0 3.1 0.29

AGF120° -18.3 -10.0 2.6 0.24

AGF180°(t=0.5m) -17.5 -8.9 2.3 0.21

AGF180°(t=1.0m) -15.1 -8.3 2.0 0.19

※変位: +隆起、- 沈下、応力: +引張、-圧縮 

AGF有り

青葉トンネル天端変位と導水路トンネル底面変位の関係

-18

-16

-14

-12

-10

-8

-6

-4

-2

0

-30 -25 -20 -15 -10

青葉トンネル天端沈下(mm)

導水

路ト

ンネ

ル底

面沈

下(m

m)

  三次元FEM解析

  二次元FEM解析

青葉トンネル天端沈下と導水路覆工応力の関係

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

4.5

5

-30 -25 -20 -15 -10

青葉トンネル天端沈下(mm)

導水

路覆

工応

力(M

Pa)

  三次元FEM解析

  二次元FEM解析

-15.1

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上半施工時

下半施工時

先行変位 6.0mm

安 全 管 理 体 制通常体制 注意体制 要注意体制 厳重注意体制

管理レベルⅠ管理レベルⅡ管理レベルⅢ

7.2mm 10.0mm

A計測管理基準値

7.2mm 8.5mm 12.0mm

9.0mm 10.8mm 15.0mm

天端沈下の全体値 15.0mm 18.0mm 25.0mm

図-9 青葉トンネル天端沈下と

導水路トンネル最大傾斜角の関係

4 管理基準値の策定 導水路トンネルは昭和初期に建設され、

現在覆工に発生している応力状態が不明

確であり、導水路トンネルに計測器を設置

することができないため、導水路トンネル

の覆工発生応力と傾斜角に着目して、これ

らを管理基準とした。この設定根拠につい

て以下に示す。

4-1.導水路トンネル覆工発生応力によ

る管理基準 導水路トンネルから採取したコアを用

い一軸圧縮強度試験を行った結果、覆工コ

ンクリート強度は 23.1MPa であった。青

葉トンネルの掘削に伴い、導水路トンネル

の底部には引張応力が発生するため、圧縮

強度の 1/10 に当る 2.31MPa 以下に増加発

生引張応力を確保することで、導水路トン

ネルの健全性が確保されるものとしてこ

れを管理する上での目標値とした。 三次元 FEM 解析の結果、導水路の発生

応力と青葉トンネルの天端沈下には相関

性があることから、導水路トンネルの発生

応力が 2.0MPa 発生した時の青葉トンネル

天端沈下量を、管理基準値の一つとして採

用した(表-4)。

4-2.導水路トンネルの傾斜角による管

理基準 導水路トンネルはブロック施工されて

おり、縦断方向に発生する応力はこの継ぎ

目で解放されることから、三次元 FEM 解

析で得られた発生応力よりは小さいもの

と考えられる。 導水路トンネルのように、ブロック間の

目違いによる漏水が重要視される構造物

においては相対変位も重要となるが、この

影響を反映した解析モデルを構築するこ

とは困難である。 このような背景において近年施工され

た近接交差工事では、「建築基礎構造物設

計指針」(日本建築学会)の下限変形角(0.3×10-3rad)を基準管理基準値として施工

し、良好な結果を得ている事例がある。 青葉トンネルにおいては、三次元 FEM

解析により詳細な傾斜角の算出が可能で

あり、より精度の高い基準値となり得ると

考えられることから、管理基準値の一つと

して採用した(表-4)。 4-3.施工時の管理基準値

解析で求められた青葉トンネルの天端

沈下量は、初期変位も含めた全変位量であ

るため一般的に用いられる先行変位量を

全体の 40%と仮定し、さらに上下半の分

割 表-4 管理基準値

表‐5 施工時の管理基準

青葉トンネル天端沈下と導水路傾斜角の関係(三次元FEM解析)

0.00

0.05

0.10

0.15

0.20

0.25

0.30

0.35

0.40

-30 -25 -20 -15 -10

青葉トンネル天端沈下(mm)

導水

路傾

斜角

(×10

-3 r

ad)

  三次元FEM解析

-25.1

3 次管理値 2 次管理値 1 次管理値

青葉ト

ンネル

天端部絶対沈下量 (mm)

+:隆起 -:沈下 ‐25 ‐18 ‐15

覆工発生応力 (MPa)

+:引張 -:圧縮 ― ― 2.0

導水路トンネル

縦断方向最大傾斜角

(10‐3rad) 0.29 ― ―

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計測種別 断 面 数量 測定点数

A計測SP3,215.5~SP3,352.3

坑内 天 端 沈 下 ・ 内 空 変 位 30断面天 端 沈 下 : 30 点内空変位:120測線

坑外 地 中 沈 下 計 1本 6点

地 中 変 位 計 6本 36点

吹 付 け コ ン ク リ ー ト 応 力 計 7箇所 7点(1点/箇所)

鋼 製 支 保 工 応 力 計 7箇所 14点(2点/箇所)

SP=3,252.0 坑外 地 中 沈 下 計 1本 6点

ス ラ イ デ ィ ン グ ミ ク ロ メ ー タ

デ ジ タ ル Q テ ィ ル ト

SP=3,299.0 坑外 地 中 沈 下 計 1本 6点

1箇所

坑内

仕 様

PM-100G-6 45.0m・6測点

PV-100-6SG 10.0m・6測点

GK-20N-202

ライカジオシステムズTPS1100

B計測

SP=3,228.0

SP=3,267.0 坑外 3成分地中沈下計

KM-100B

PM-100G-6 54.5m・6測点

PM-100G-6 73.0m・6測点

項 目

施工の影響を考慮し、施工時の管理基準

値を策定した(表‐5)。 5 対策工

三次元 FEM 解析上見込まれていた補助

工法は、AGF工法のみであるが、地山は

非常に不均一であり、解析では考慮されな

い脚部の沈下や、支保工と地山の馴染み等

が発生する可能性があった。そのため、許

容沈下量を満足するためには、更なる補助

工法の採用が必要であった。 捕縄工法は図-10 の「標準で行う補助

工法」を基本として施工を行った。また、

導水路トンネルからの漏水による出水が、

沈下を助長する可能性があるため、多量の

出水が発生した場合は止水対策補助工法

を、沈下が許容値を超えることが想定され

た場合は、状況に応じて補助工法の追加や

見直しを行うこととした。 また、施工においては三次元 FEM 解析

の結果より、導水路トンネル交差部の前後

40mが掘削の影響が大きく重点管理を必

要とする区間として、影響区間を 80mと

し設定した。また、補助工法の妥当性や沈

下量の程度を把握し、地山物性値の評価を

実施する区間として、試験施工区間および

再確認区間を設定した。(図‐12) 6 計測計画

交差部の施工においては、通常の坑内 A計測の他に坑外から地中沈下計や傾斜計

を設置し影響を監視するとともに、得られ

た値を二次元FEM解析による逆解析に

よって地山及び、補助工法の評価に活用し

た。 図-12 に計測平面位置を示す。また、

各断面での計測項目を表-6に、計測頻度

を表-7に示す。

図-10 変形抑制に対する対策工メニュー

図-11 補助工法概念図

図-12 計測位置図

表-6 計測項目一覧表

導水路トンネルへの影響の抑制

青葉トンネルの変形の抑制

・AGF(長尺鋼管フォアパイリング)180°2 段 等 ・ウィングリブ ・鏡吹付け ・長尺鏡ボルト ・プレロードシェル ・高強度吹付けコンクリート

(さらなる内空変位の抑制が必要な場合)

・早期併合 ・ミニベンチによる掘削 ・上半仮インバート

(さらなる沈下抑制が必要な場合) ・脚部補強工

標準で行う補助工法

状況に応じた追加対策

・薬液注入工法(改良範囲 0.5D 程度)

止水対策補助工法

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表-7 計測頻度

3Dまで 3D~5D 5D以上

A計測 3時間毎 12時間毎 24時間毎

坑内B計測 2時間毎 3時間毎 4時間毎

坑外B計測 30分毎

計測断面と切羽の離れ計測種類

※D :トンネル掘削径 (D≒12m) A 計測は、内空変位及び天端沈下の状況

を迅速に察知するため、測定方法はオンラ

イン方式とした。A計測のオンライン方式

は坑内に三次元測定器を固定し、3時間間

隔に測定を行い、現場内のパソコンに集約

し、専用回線にて工事事務所内のパソコン

に転送しモニタリングした。 坑外地中沈下計測においても、トンネル

掘削に対し、先行変位の挙動を迅速に察知

するため絶対沈下量をリアルタイムで監

視することなどを目的としてオンライン

方式で行った。 7 計測結果 7-1.補助工法の差異による計測結果 試験施工区間は、前述の「標準で行う補

助 工 法 」 を 全 て 実 施 し た 。 そ の 結 果 、

SP=3228 断面においては、先行変位は微

小であり、切羽通過後も変位は進行せず、

緩み領域も最大でも 4m程度と小さく、沈

下量も 5.7mm程度と管理レベルⅠ(15mm)を下回る良好な結果となった(図‐13)。

図-13 SP3228 断面の緩み領域の模式図 この結果、実施した補助工法の有効性は

確認出来たものの、過大な補助工法になっ

ている可能性があるため、先行変位防止目

的で実施した長尺鏡ボルト工及び地山の

早期支保の目的で実施したプレロードシ

ェル工を省略し施工を試みた。この結果

SP=3252 断面においては先行変位が 6.5mm程度確認され、最終沈下量も 16.2mm

と管理レベルⅠを超える値となった。又、

緩み領域もトンネル上方 13mにまでおよ

び、導水路トンネルに影響を及ぼす危険性

が生じた。このため長尺鏡ボルトを再施工

し、先行変位を防止することとした(図‐

14)。

図-14 SP3252 断面の緩み領域の模式図

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図-15 SP3299 断面の緩み領域の模式図

長尺鏡ボルト再施工後の SP3299 断面に

おいては、先行変位 3.4mm、最終沈下量

8.6mm と小さく抑制することが出来た。 又、緩み領域もトンネル上方 6mと小さ

く良好な結果よなった(図‐15)。

7-2.A 計測結果

4.5m間隔 30 断面において実施した A 計

測の結果は、天端・脚部沈下量ともに 6mm程度に抑制することが出来た。また、変

位も切羽離れ 2D までに収束する傾向にあ

った。図-16 に切羽離れ 0.5D 及び 1D~

2D 時の天端沈下の進行状況を示す。

図-16 切羽離れと天端沈下量の進行

図-17 導水路内測量点

⑰80m⑮60m

⑬40m

⑪20m

⑨0m

(交差部直下)⑦-20m

⑤-40m

③-60m

①-80m

-5mm

-4mm

-3mm

-2mm

-1mm

0mm

1mm

2mm

3mm

4mm

5mm

図-18 導水路トンネル底面沈下量 7-3.導水路トンネルの沈下測量

掘削前、掘削中の解析上最大沈下量が予

測される位置及び、掘削完了後において、

通水を一時中止し、導水路内部の測量を実

施した。測量点は交差部前後 80mとし、

内空変位・底面沈下量及び多角測量を実施

した。 掘削完了後の測量の結果、交差部近傍で

2mm程度の沈下が観測されたが、新たな

クラックの発生等も見られず、健全性が確

認された。

おわりに

当該交差部は、複雑な変質帯が混在する

不均一な地山であったが、事前調査で想定

し三次元FEM解析に用いた物性値は、

A・B計測結果を利用した逆解析での物性

値とほぼ整合がとれ、又、坑外沈下計計測

の結果と比較しても大凡整合がとれてい

た。このことから、本工事においては適切

な補助工法を選択し、導水路トンネルに影

響を与えることなく施工することができ

た。さらに導水路トンネルが圧力トンネル

であることから、導水路からの漏水による

~0.5D掘削時の天端沈下量

-6.0-4 .3

-2 .0

-5 .5

-2 .8-3 .6-4 .1-4 .2-4 .0-3 .1-3 .5-3 .2-2 .8

-8 .1-6 .1

-3 .8-4 .7-3 .5

-4 .6

-1 .5-2 .9-2 .4-1 .7

-3 .2-3 .8-5 .2-5 .3

-3 .5-2 .3

-7 .2

-10.0

-8.0

-6.0

-4.0

-2.0

0.0

2.0

4.0

3215.5 3220.0 3224.5 3229.0 3233.5 3238.0 3243.4 3247.9 3252.4 3256.9 3261.4 3265.9 3270.4 3274.9 3279.4 3283.9 3288.4 3292.9 3299.2 3303.7 3309.1 3314.5 3319.9 3325.3 3329.8 3334.3 3338.8 3344.2 3347.8 3352.3

変位

量(m

m)

1 .0D~2.0D掘削時の天端沈下量

0.2 0 .5-1 .9

0 .7 0 .3 -0 .3 0 .4 0 .1 -0 .9-2 .7

-0 .9

-3 .5

-0 .4-0 .2-0 .2-0 .9-0 .9 0 .1-1 .7-0 .7 0 .1

-1 .4-1 .9-1 .40 .2

1 .5

-10.0

-8.0

-6.0

-4.0

-2.0

0.0

2.0

4.0

3215.5 3220.0 3224.5 3229.0 3233.5 3238.0 3243.4 3247.9 3252.4 3256.9 3261.4 3265.9 3270.4 3274.9 3279.4 3283.9 3288.4 3292.9 3299.2 3303.7 3309.1 3314.5 3319.9 3325.3 3329.8 3334.3 3338.8 3344.2 3347.8 3352.3

変位

量(m

m)

Page 8: トンネル工事における近接交差部の計画・施工について - ceri.go.jpthesis.ceri.go.jp/db/files/GR0002200042.pdf · 2018-11-29 · まえがき 一般国道230号青葉トンネル(仮称)は、

突発的湧水の可能性があったことから、掘

削時の湧水にも注意したが、AGF施工に

よる改良帯が遮水効果をもたらしたため

と考えられるが、湧水量の増加はわずかで、

無事に掘削を終えることができた。

今回は既設トンネルと近接交差する新

設トンネルの掘削という特異な事象では

あるが、3次元において解析を行い、2次

元において現場施工管理をするという手

法は他の箇所においても十分生かせる手

法と考えている。

おわりに、近接交差部の解析・ご検討頂

いた「洞爺道路トンネル技術検討会」の各

委員の皆様はじめ、ご指導・ご尽力を賜っ

た関係各位に深く感謝いたします。