ホームレスの起居する公園の管理・整備実態と支援 の課題に ...6章...

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【表1】研究対象 ※赤字は公園整備が行われた公園 【表2】ヒアリングの概要 【表3】公園に関する法律と条例 ホームレスの起居する公園の管理・整備実態と支援 の課題について Management and improvement of parks homeless living and problem of support for homeless 時空間デザインプログラム 09-23615 村上 良 Ryo Murakami 指導教員 齋藤 潮 Adviser Usio Saito 1章 序論 1 −1背景と目的 ホームレスが公園で起居することは都市公園法や自治体の 条例に抵触する。とくに近年は「公共空間の適正化」が促進さ れ、ホームレスの退去をともなう公園整備や夜間施錠する公園 も目立ち、生活困窮者のセーフティネットとしての公園機能は 失われてきた。ホームレス対策は単に公園から彼らを排除して 済む問題ではなく、関わる主体が適切に対応する必要が有る。 そこでホームレスが起居する(していた)公園を①行政の支援 体制、②活動する支援団体の特徴、③管理と整備の実態の側面 から比較し、公園管理や整備、ホームレスへ支援のあり方を考 察することを目的とする。 1- 既往研究 公園のホームレスの生活実態を明らかにした金ら 1) 杉本ら 2) の研究や公園整備のホームレスへの影響を明らかにした永橋 3) の研究があるが、本研究ではホームレスが起居する公園 を行政の支援体制、活動する支援団体の特徴、管理と整備の実 態の側面から分析する点で独自性がある。 1 3 対象 地区新宿区と渋谷区のホームレスが起居する公園を本研究の 対象とする。両区とも似た都市構造を持ち、近年ホームレスの 退去を伴う公園整備が行われ、その過程に相違がみられる。 支援団体公園管理者、福祉課へのヒアリングや団体のホーム ページ等の資料調査より区内で影響力があると思われる団体 を対象とする。 1 −4 構成と方法 2章で全国及 び公園で起居す るホームレス事 情を把握する。3 章で各区の福祉 支援体制、4章で 支援団体の特徴と支援体制、5章で公園の管理•整備と支援の 実態をヒアリング調査、資料調査で明らかにし、6章で総合的 考察、7章で結論とする。 2章 全国及び公園で起居するホームレス事情 2-1 全国的なホームレスの実態 厚生労働省が実施したホームレスの実態に関する全国調 査(概数調査と実態調査)によるとホームレス数は全国的に 減少傾向で、主な生活場所は公園、河川、道路である。また 年々高齢化、野宿歴の長期化の傾向があり、ホームレス本人 の今後の希望としても「今のままでいい」とする割合が増加 している。 2 2 ホームレスの公園居住に関する法制度 2-2-1 ホームレスの抵触する法律 公園での起居 は法律や自治体 の条例等で認め られていない。 2-2-2 ホームレスの自立支援法(2002 年施行第十一条に公共施設の「適正化」について明記され、ホー ムレス排除を正当化するとも解釈できるが、自治体や公園管 理者は自立支援することなくホームレスを排除できない。 2-3 東京都における路上生活脱却のプロセス 路上生活脱却のシステムは「自立支援システム」と「生活 保護」の二つが柱である。基本的に施設に入所することが前 提で、敬遠するホームレスもいる。施設を経由せず直接アパ ートへ移行させたものとして「地域生活移行支援事業(H16 H21 に実施)」がある。都内の公園を対象に行われた。し かし、「公園の適正化」を前提とした実施だとされる。また 自治体や支援団体よっては独自に中間施設を運営する。 3章 各区のホームレス支援体制 3−1都区共同の支援施策 【表4】 23区に共通して都区共同の支援事業が行われている。 3−2新宿区のホームレス支援体制 【表4】 新宿区は「新宿区ホームレスの自立支援等に関する推進計 画」を策定し態様・段階のニーズの違いに対応する総合的な ホームレス支援を展開する。【表4】 3−3渋谷区のホームレス支援体制 渋谷区はホームレスに対して宿泊施設を用意はするが積 極的に活用せず、生活保護につなげてしまうのが現状である。 3−4比較と考察 区によりホームレス問題への積極性と支援団体との関係 に違いが見える。新宿区は支援団体等と連携体制が整い、現 場の声が施策に反映されているためニーズに対応した多様 な支援施策を展開できていると考えられる。 4章 各区で活動する支援団体の特徴と支援体制 4−1新宿連絡会の支援体制 【表5】 新宿連絡会は 1994 年結成,2002 NPO 部門を立ち上げる。 4−2のじれんの支援体制 【表5】 1998 年結成する。 4−3比較と考察 支援団体の支援体制、態度、行政のホームレス対策への見 解に差がみられる。新宿連絡会は独自に中間施設を運営する など、ホームレスへ幅広い支援をおこなう。のじれんはホー ムレスと共同炊事する等、当事者運動の色が濃い。また「公 共空間の適正化」に対しても、新宿連絡会は行政や管理者と 連携し解決していく姿勢だが、のじれんはホームレス排除を 前提にした「適正化」に対抗する姿勢である行政のホーム レス対策への見解にも違いがあり、新宿連絡会は自立支援法 や地域生活移行支援事業を評価するが、のじれんは「公園の 適正化」が前提にあることを理由にどちらに対しても否定的 である。 5章 ホームレスが起居する公園の管理と支援実態 5−1公園管理整備と支援実態 【表6】 5−2比較と考察 現在ホームレスが起居する公園には支援施策にのらずテ ントで生活する固定層が存在する。戸山公園では公園整備が 固定層の路上生活脱却のきっかけとなった。また公園管理者 によってホームレスへの対応の姿勢や支援団体との関係が 異なり、公園整備にあたっての管理者、福祉、支援団体の対 応とその結果にも反映されている。

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Page 1: ホームレスの起居する公園の管理・整備実態と支援 の課題に ...6章 総合的考察 新宿区は行政と支援団体が連携し、多様なニーズに対応す

【表1】研究対象

※赤字は公園整備が行われた公園

【表2】ヒアリングの概要

【表3】公園に関する法律と条例

【表4】区の支援体制

ホームレスの起居する公園の管理・整備実態と支援

の課題について

Management and improvement of parks homeless living and problem of support for homeless

時空間デザインプログラム

09-23615 村上 良 Ryo Murakami指導教員 齋藤 潮 Adviser Usio Saito

1章 序論

1−1背景と目的 ホームレスが公園で起居することは都市公園法や自治体の

条例に抵触する。とくに近年は「公共空間の適正化」が促進さ

れ、ホームレスの退去をともなう公園整備や夜間施錠する公園

も目立ち、生活困窮者のセーフティネットとしての公園機能は

失われてきた。ホームレス対策は単に公園から彼らを排除して

済む問題ではなく、関わる主体が適切に対応する必要が有る。

そこでホームレスが起居する(していた)公園を①行政の支援

体制、②活動する支援団体の特徴、③管理と整備の実態の側面

から比較し、公園管理や整備、ホームレスへ支援のあり方を考

察することを目的とする。

1-2 既往研究 公園のホームレスの生活実態を明らかにした金ら1)杉本ら2)

の研究や公園整備のホームレスへの影響を明らかにした永橋

ら3)の研究があるが、本研究ではホームレスが起居する公園

を行政の支援体制、活動する支援団体の特徴、管理と整備の実

態の側面から分析する点で独自性がある。

1−3 対象 地区新宿区と渋谷区のホームレスが起居する公園を本研究の

対象とする。両区とも似た都市構造を持ち、近年ホームレスの

退去を伴う公園整備が行われ、その過程に相違がみられる。

支援団体公園管理者、福祉課へのヒアリングや団体のホーム

ページ等の資料調査より区内で影響力があると思われる団体

を対象とする。

1−4 構成と方法 2章で全国及

び公園で起居す

るホームレス事

情を把握する。3

章で各区の福祉

支援体制、4章で

支援団体の特徴と支援体制、5章で公園の管理•整備と支援の

実態をヒアリング調査、資料調査で明らかにし、6章で総合的

考察、7章で結論とする。

2章 全国及び公園で起居するホームレス事情

2-1 全国的なホームレスの実態 厚生労働省が実施したホームレスの実態に関する全国調

査(概数調査と実態調査)によるとホームレス数は全国的に

減少傾向で、主な生活場所は公園、河川、道路である。また

年々高齢化、野宿歴の長期化の傾向があり、ホームレス本人

の今後の希望としても「今のままでいい」とする割合が増加

している。

2−2 ホームレスの公園居住に関する法制度 2-2-1 ホームレスの抵触する法律 公園での起居

は法律や自治体

の条例等で認め

られていない。

2-2-2 ホームレスの自立支援法(2002年施行) 第十一条に公共施設の「適正化」について明記され、ホー

ムレス排除を正当化するとも解釈できるが、自治体や公園管

理者は自立支援することなくホームレスを排除できない。

2-3 東京都における路上生活脱却のプロセス 路上生活脱却のシステムは「自立支援システム」と「生活

保護」の二つが柱である。基本的に施設に入所することが前

提で、敬遠するホームレスもいる。施設を経由せず直接アパ

ートへ移行させたものとして「地域生活移行支援事業(H16〜H21 に実施)」がある。都内の公園を対象に行われた。しかし、「公園の適正化」を前提とした実施だとされる。また

自治体や支援団体よっては独自に中間施設を運営する。

3章 各区のホームレス支援体制

3−1都区共同の支援施策 【表4】

23区に共通して都区共同の支援事業が行われている。

3−2新宿区のホームレス支援体制 【表4】

新宿区は「新宿区ホームレスの自立支援等に関する推進計

画」を策定し態様・段階のニーズの違いに対応する総合的な

ホームレス支援を展開する。【表4】

3−3渋谷区のホームレス支援体制

渋谷区はホームレスに対して宿泊施設を用意はするが積

極的に活用せず、生活保護につなげてしまうのが現状である。 3−4比較と考察

区によりホームレス問題への積極性と支援団体との関係

に違いが見える。新宿区は支援団体等と連携体制が整い、現

場の声が施策に反映されているためニーズに対応した多様

な支援施策を展開できていると考えられる。

4章 各区で活動する支援団体の特徴と支援体制

4−1新宿連絡会の支援体制 【表5】

新宿連絡会は 1994年結成,2002年 NPO部門を立ち上げる。 4−2のじれんの支援体制 【表5】

1998年結成する。 4−3比較と考察

支援団体の支援体制、態度、行政のホームレス対策への見

解に差がみられる。新宿連絡会は独自に中間施設を運営する

など、ホームレスへ幅広い支援をおこなう。のじれんはホー

ムレスと共同炊事する等、当事者運動の色が濃い。また「公

共空間の適正化」に対しても、新宿連絡会は行政や管理者と

連携し解決していく姿勢だが、のじれんはホームレス排除を

前提にした「適正化」に対抗する姿勢である。行政のホーム

レス対策への見解にも違いがあり、新宿連絡会は自立支援法

や地域生活移行支援事業を評価するが、のじれんは「公園の

適正化」が前提にあることを理由にどちらに対しても否定的

である。

5章 ホームレスが起居する公園の管理と支援実態

5−1公園管理整備と支援実態 【表6】

5−2比較と考察

現在ホームレスが起居する公園には支援施策にのらずテ

ントで生活する固定層が存在する。戸山公園では公園整備が

固定層の路上生活脱却のきっかけとなった。また公園管理者

によってホームレスへの対応の姿勢や支援団体との関係が

異なり、公園整備にあたっての管理者、福祉、支援団体の対

応とその結果にも反映されている。

【表4】区の支援体制

Page 2: ホームレスの起居する公園の管理・整備実態と支援 の課題に ...6章 総合的考察 新宿区は行政と支援団体が連携し、多様なニーズに対応す

6 章 総合的考察 新宿区は行政と支援団体が連携し、多様なニーズに対応す

る支援施策を展開する。また戸山公園では管理者と当事者の

人間関係、管理者と支援団体と新宿区の福祉との連携体制が

形成され、ホームレスの対応にあたっていた。結果的に戸山

公園の改修の際には支援団体と福祉が公園生活者の受け皿と

なり、平和的な解決にいたった。 一方で、渋谷区は十分な支援体制が整っていないため、既

存のシステム(自立支援システム、生活保護)に乗せようと

する。そこからあぶれてしまったホームレスは路上生活を強

いられる。宮下公園整備の際に支援団体が公園占拠等の反対

運動により、システムからあぶれたニーズへの対応を勝ちと

ろうとした。結果マスコミ等にも取り上げられ、公共空間の

ありかたを社会に問題提起させた。しかし、その運動が美竹

公園の改修の際の行政の対応には反映されず、宮下公園と同

様に行政代執行によりホームレスは排除された。渋谷区のホ

ームレス排除の姿勢とホームレス排除に対し徹底的に対抗す

る支援団体の姿勢は相容れないことは明らかである。行政、

支援団体共々、あぶれたニーズに対応できる妥協点を模索す

る必要がある。 現在ホームレスが起居する公園では「適正化」への管理が

され、ホームレス退去をともなう公園整備も行われうる。ホ

ームレス問題はけして行政の対応によってのみ解決に至る問

題ではなく、行政、管理者、支援団体が公園生活者に対し生

活が向上する選択肢を与えることのできる環境を作ることが

必要である。そのために公園のホームレスに関わる主体間で

問題解決へのネットワーク形成する必要があると考えられる。 7章 結論 新宿区と渋谷区のホームレスが起居する公園を比較する

ことで以下のことわかった。 ・ 公園に関わる、行政と支援団体の支援の姿勢と支援体制、

管理者の姿勢や管理の仕方、またその主体間の関係に違

いがみられる。主体間の関係はその主体の主義やホーム

レス問題への姿勢に大きく左右されていると考えられる。 新宿区では主体間でネットワークを形成し、問題解決

へ取り組んでいる。渋谷区ではネットワーク形成どころ

か行政と支援団体は対立している。 ・ 上記の違いが公園管理・整備にあたっての公園生活者へ

の対応と結果に反映されている。 戸山公園では管理者、福祉、支援団体が連携し、問題

解決にあたった。宮下・美竹公園では行政は支援団体と

対立しながら行政代執行によって公園生活者を排除した。

〈参考文献•資料〉 1)「ホームレスによる公園占用の実態とそのメカニズムに関する研究 : 都立戸山公園の ホームレスを事例に」杉本ジョージら 日本建築学会計画系論文集 1999 2)「ホームレスコミュニティの共生型居住に関する研究 : 渋谷区宮下公園における当事者参加型調査を中心として」金 泓奎ら 日本建築学会計画系論文集 2003 3)「大阪市天王寺公園の管理の変遷と有料化が及ぼした野宿者排除の影響に関する研究」永橋為介他 日本造園学会論文集 1996 新宿連絡会 HP のじれん HP 第1期・第2期新宿区ホームレスの自立支援等に関する推進

【図1】公園における主体間の関係とホームレスへの対応

【表6】公園管理・整備と支援実態

【表4】各区の支援体制

【表5】支援団体の態度と支援体制