ビジョンシステムにおける テレセントリックバックライト照明法 ·...

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eizojoho industrial 1 November 2009バックライト照明法は、ビジョンシステムにおいて、 不透明物体(検査対象物)のシルエット像を得るた めに広く用いられる。しかしながら、より高いスルー プットや検査精度を要求する場合、この照明法には 自ずと限界がある。その問題は、拡散光源が通常 用いられるために、不透明物体の背後から照明す ると、一部の光が拡散反射を起こす点だ。その結 果、不透明物体の輪郭部がソフトに描写され、同部 の検出により多くの時間が必要となる。輪郭部の ソフトな描写は、ビジョンシステムがより微細な部 分を検出・評価することを難しくしてしまう。 テレセントリック照明を用いた特殊なバックライト 照明法は、拡散光源による上述の問題を取り除く ことを可能にする。テレセントリック照明は、テレセン トリックレンズにファイバー照明やLEDスポット照 明を光源に用いることで可能となる。高品質光学 ガラスを用いた光学系を搭載するテレセントリック レンズは、上述の光源から発した光線をコリメートし、 検査対象物やその背後にあるカメラに向かって直 進する。光源からの出射光のほぼすべてを取り込ん でいるため、光束内の光強度が高い。また平行光 束のため、大抵の作動距離において均一な光強度 分布となる。不透明物体がその光路を遮ることに よって、輪郭部のシャープな画像を形成することが できる。 多くの場合において、ビジョンシステムの中に広く 用いられている拡散バックライト照明器を、テレセン トリックイルミネーターに置き換えることは容易に可 能だ。またこの置き換えにより、カメラの露光時間 を短縮することも可能になる。拡散バックライト照 明より強い光が得られるテレセントリック照明は、 カメラのゲイン設定を下げることを可能にするため、 映像ノイズを減らすことも可能となる。 テレセントリックレンズを用いなくても、同照明と 同じ効果を得ることは可能だろうか? 一部の読者 マシンビジョンのための照明とレンズ エドモンド・オプティクス・ジャパン株式会社/新井 大典 マシンビジョンの実践者がほのめかす格言めいた文言に、「よりシャープな画像こそ、より速 いシステム(The sharper the image, the faster the system.)」という言葉がある。この言葉は、 シャープな画像が得られれば、マシンビジョンシステムにおける検査対象物の認識が容易にな ることを想像させる。 テレセントリック光学系を用いた特殊なバックライト照明法が、拡散光源を使用することによ り生じていた諸問題を解決する。これによりビジョンシステムの性能を改善し、システムの処 理速度を速めることが可能になる。 ビジョンシステムにおける テレセントリックバックライト照明法 テレセントリックバックライト 照明法 1

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Page 1: ビジョンシステムにおける テレセントリックバックライト照明法 · 2011-11-11 · マシンビジョンのための照明とレンズ eizojoho industrial

eizojoho industrial 1November 2009―

バックライト照明法は、ビジョンシステムにおいて、

不透明物体(検査対象物)のシルエット像を得るた

めに広く用いられる。しかしながら、より高いスルー

プットや検査精度を要求する場合、この照明法には

自ずと限界がある。その問題は、拡散光源が通常

用いられるために、不透明物体の背後から照明す

ると、一部の光が拡散反射を起こす点だ。その結

果、不透明物体の輪郭部がソフトに描写され、同部

の検出により多くの時間が必要となる。輪郭部の

ソフトな描写は、ビジョンシステムがより微細な部

分を検出・評価することを難しくしてしまう。

テレセントリック照明を用いた特殊なバックライト

照明法は、拡散光源による上述の問題を取り除く

ことを可能にする。テレセントリック照明は、テレセン

トリックレンズにファイバー照明やLEDスポット照

明を光源に用いることで可能となる。高品質光学

ガラスを用いた光学系を搭載するテレセントリック

レンズは、上述の光源から発した光線をコリメートし、

検査対象物やその背後にあるカメラに向かって直

進する。光源からの出射光のほぼすべてを取り込ん

でいるため、光束内の光強度が高い。また平行光

束のため、大抵の作動距離において均一な光強度

分布となる。不透明物体がその光路を遮ることに

よって、輪郭部のシャープな画像を形成することが

できる。

多くの場合において、ビジョンシステムの中に広く

用いられている拡散バックライト照明器を、テレセン

トリックイルミネーターに置き換えることは容易に可

能だ。またこの置き換えにより、カメラの露光時間

を短縮することも可能になる。拡散バックライト照

明より強い光が得られるテレセントリック照明は、

カメラのゲイン設定を下げることを可能にするため、

映像ノイズを減らすことも可能となる。

テレセントリックレンズを用いなくても、同照明と

同じ効果を得ることは可能だろうか? 一部の読者

マシンビジョンのための照明とレンズ

エドモンド・オプティクス・ジャパン株式会社/新井大典

マシンビジョンの実践者がほのめかす格言めいた文言に、「よりシャープな画像こそ、より速いシステム(The sharper the image, the faster the system.)」という言葉がある。この言葉は、シャープな画像が得られれば、マシンビジョンシステムにおける検査対象物の認識が容易になることを想像させる。テレセントリック光学系を用いた特殊なバックライト照明法が、拡散光源を使用することにより生じていた諸問題を解決する。これによりビジョンシステムの性能を改善し、システムの処理速度を速めることが可能になる。

ビジョンシステムにおけるテレセントリックバックライト照明法

テレセントリックバックライト照明法1

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は疑問に思うかもしれない。たとえば、LED照明器

に非球面レンズを用いてコリメートすれば、同じ効

果が得られるのではと考えてもおかしくない。この

アイディアを複雑にする問題の1つに、LEDアレイ

を構成する各ランプの寸法が一個一個わずかなが

らにばらついているという事実がある。これは、レン

ズによるコリメーション時に問題を引き起こす原因

となる。加えてテレセントリック光学系の採用によ

り、コリメーターレンズ1枚でコリメーションするより

も大きな径の平行光束を得ることができる。当社

が開発したテレセントリックイルミネーター(写真1)には、アイリス絞り(開口絞り)を装備しているため、

LED素子自体の光出力を変えなくても、光量調節が

可能というメリットもある。当社のテレセントリックイ

ルミネーターは、ファイバーライトガイドも接続できる

デザインのため、LED光源だけでなく、ファイバー光

源にも使用することが可能である。写真2に紹介する2枚の写真は、テレセントリック照明をオプション

に用いた場合と拡散バックライト照明を用いた場合

のねじ部品の画像の違いを表す。テレセントリック

照明を使用した時の画像は、画像処理ソフトウェア

であたかも2値化処理したような画像を得ることが

できる。またねじ部についたバリを鮮明に捉えるこ

とができる。

2.1 検査事例当社米国本社では、ねじ部品のメーカと、同部品

の検査システムに用いる照明部を開発する機会を

持った。そのメーカでは、同部品の選別のため、ね

じ径やピッチを計測する必要があった。

マシンビジョンのための照明とレンズ

eizojoho industrial2―November 2009

検査装置への導入例2

写真1 テレセントリックバックライト・イルミネーター

写真2 テレセントリックバックライト・イルミネーター使用時(左)vs 拡散バックライト照明器使用時(右)

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マシンビジョンのための照明とレンズ

eizojoho industrial 3November 2009―

テレセントリックバックライト照明法の基礎標準的なバックライト照明は、検査対象物の輪郭部の画像を得るために、その寸法をカバーするだけの大きさを持つ照明器が必要である。またランプから発光される光のホットスポット状態を防止する目的のため、拡散板を利用している。これにより、発光面全体の光強度プロファイルがほぼ均一となる。しかしながら、拡散板の使用は、0°から180°近くに至るまで、実に様々な角度で光線が検査対象物に当たることを意味する。発光面の外周から大きな角度(斜めの角度)で対象物の輪郭部に当たった光線は、その一部が同部で反射し、カメラレンズ内に入射することになる。これは、検査対象物の輪郭を「シルエット化」するというよりは、むしろ「照明」していることになり、画像のコントラストを低くする要因となる(図1)。テレセントリックバックライト照明法は、光源から出射したどの光線も、非常に小さな角度で対象物に当たる。光線間に進行角度に差がないため、迷光が間接的にカメラレンズに入射することがほとんどどない。加えてこの照明法を用いれば、より多くの光がカメラレンズ内に直接入射することになる。従来の拡散バックライト照明器の比ではない(代表的なアプリケーションでは、カメラのシャッタスピードを3~5倍短くした時と等価の明るさになる(同一口径比ベース))(図2)。

図1 別枠内画像(拡散バックライト照明)

図2 別枠内画像(テレセントリックバックライト照明)

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元々のシステムには、照明部にLED拡散バックラ

イト照明器が使用されていた。カメラはVGAクラス

のCCDカメラ、レンズには当社の「Silverシリーズテ

レセントリックレンズ(0.6×)」を使用し、ねじ部先

端10mmのエリアを検査する。2台あるピックアップ

ロボットのうち、1台が対象部品を製造エリアから検

査システム内のターンテーブル上に運び、上述のバッ

クライト照明器の照明によりその画像を捉える。画

像取り込みと合否判定後、もう1台のロボットにより、

合否各々の選別エリアにその部品を運ぶ。

2.2 問題点残念なことに現状のシステムでは、そのメーカが

製造する新たなパーツの検査ができなかった。パー

ツの合否を判定するのに十分な細部の画像が得ら

れなかったためである。またその検査スピードも遅

く、わずか10ppmで処理していた。次回、新たに作

る検査システムでは、少なくとも40ppmで検査・選

別するシステムを希望していた。

既存のバックライト照明器は問題の1つだった。

生産ラインのスピード化に対応するため、ビジョン

システムもより高速に合否判定する必要があった

が、迅速に画像を得るための適切な光量が得られ

なかったからだ。光量不足をカバーするには、CCD

イメージセンサの集積時間を長くする必要があった。

また動きのある検査対象部品のねじピッチの大き

さを正確に計測するために、像ボケは使用CCDセン

サの半画素程度までしか許容できなかった。生産

ラインのスピード化のために部品を素早く移動する

必要があったが、与えられたイメージセンサの集積

時間から、像ボケのない画像を得るために許された

露光時間はわずか800μsしかなかった。

このような短い露光時間では、光強度の高いラ

イティングが必要となる。しかしながら、バックライ

ト照明法で得られる光量は一般に限定的といえる。

代表的な拡散バックライト照明器は、物体を明るく

照らすことに重きを置いていないためだ。拡散バッ

クライト照明器の場合、光源から出射するすべての

光は拡散板を通過しなければならない。通過後の

光線は色々な角度を持って出射されるため、カメラ

レンズに入ることのない光線が数多く存在してしま

う。イメージセンサに実際に到達する光線は、全光

量中のわずかな割合でしかない。センサの露光時

間を延ばさなくてはいけない理由がここにある。カ

メラの露光時間を短く抑えるために、ゲイン設定を

高く設定して対処することも考えられる。しかしなが

ら、これを行うことにより、より多くの映像ノイズが

発生し、信号をひずませる結果となる。拡散バック

ライト照明器を用いた本アプリケーションでは、カ

メラのゲインを最大に設定したとしても、2.5msの露

光時間が必要になる。これは、上述の要求限界露

光時間の3倍近く長い時間になってしまう。

また既存のバックライト照明器で用いられる“拡

散”という光の性質は、システムの計測精度に制限

を与える。今日のソフトウェアのアルゴリズムは、シ

ルエット像の白黒の境界のコントラスト差から、その

輪郭部を決定する。像が高コントラストであるほど、

ソフトウェアは輪郭部をより正確に決定することが

できる。イメージセンサの画素のラインプロファイル

に沿って、光強度の変化の閾値を見つけ出し、輪郭

の位置を決定する。像コントラストが低いと、画素

間の階調の変化が緩やかなために、輪郭部と見な

す領域が必然と大きくなる。この領域が大きくなる

と、輪郭部を正確に判断するためにより複雑なソフ

トウェアアルゴリズムが必要となり、より多くの演算

時間が必要になる。この場合、コンピュータによる

演算の限界のため、システム全体の精度に影響を

およぼすことになる。

2.3 解決策上述の状況から、このシステムは明らかにより光

強度の高いバックライトを必要としており、異なるタ

イプのバックライティング技術が望まれた。より大

きくて、よりパワフルな拡散バックライト光源を採用

マシンビジョンのための照明とレンズ

eizojoho industrial4―November 2009

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する選択肢もあったが、サイズの問題からシステム

への組み込みの問題が懸念された。そこで拡散バッ

クライト照明の代わりに、当社のテレセントリックイ

ルミネーターを使用する解決法が考えられた。

この結果、検査対象物であるねじのシルエット像

は非常に高コントラストなものとなり、システムソフ

トウェアは、160μm幅のバリを検出することも可能

となった。またねじのピッチや角度、幅を今まで以

上に正確に計測できるようになった。メーカが製造

する最小寸法のねじ製品の計測や、従来のシステ

ムでは見落としていた欠陥部までが検出できるよう

になった。さらに検査処理スピードも高速化し、よ

り短い時間で検出できるようになった。

テレセントリックイルミネーターの代わりに拡散

バックライト照明を用いることは、性能やスピードへ

の妥協を表すことになる。優れた結果を生み出す

テレセントリックイルミネーターは、カメラやレンズを

別のものに置き換える必要性を不要にする。生産

スピードと製品品質の向上により、カメラ/レンズ

システムをアップグレードにする以上の効果を得る

ことができる。

☆エドモンド・オプティクス・ジャパン株式会社

営業部

TEL.03-5800-4751 FAX.03-5800-4733

http://www.edmundoptics.jp/

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