フィンランド republic of finland...フィンランド republic of finland 2006年 2007年...

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第 2 部 国・地域別編 308 2008 年はかろうじてプラス成長を達成 2004年以来好調を持続してきた景気は,2008年9月の 金融危機以降急速に悪化した。財務省は2008年8月まで 2008 年の実質 GDP 成長率を 2.8%と見込んでいたが,12 月に 1.7%に,最終的には0.9%まで下方修正するに至り, かろうじてプラス成長を達成した。フィンランド経済を 牽引してきた輸出が前年比1.1%減と落ち込んだ影響が 大きい。好調だった個人消費も経済の先行き不透明感か ら年末にかけて急速に冷え込み,前年比2.0%増と前年の 3.3%増から低下した。企業の設備投資も前年の9.0%増か ら1.3%増へと減退した。実体経済の悪化に伴い,失業率 も上昇するとみられるが,2008年の統計には影響は及ば ず 6.4%と近年で最良の値だった。 2009年の実質GDP成長率について,財務省はマイナス 5.0%と予測しているが,1月は前年同月比マイナス9.8% と落ち込んでおり,さらに厳しい数値が予想される。ま た失業率も2月時点で前年同月比 1.2 ポイント増の 7.6% と急上昇しており,財務省が予測した年平均数値の9% に達するのは時間の問題とみられる。 輸出に急ブレーキ,貿易収支黒字幅がほぼ半減 2008年の貿易(通関ベース)は,輸出が前年比0.2%減 の655億8,000万ユーロ,輸入は前年比4.7%増の624億200 万ユーロだった。貿易収支の黒字幅は1992年以来最も小 さい 31 億 7,800 万ユーロと,前年からほぼ半減した。 輸出は10月までは毎月,前年同月比数パーセント増の ペースで堅調に推移していたが,金融危機以降,急ブレー キがかかり,11月には前年同月比20%減,12月に15%減 となった。品目別にみると,機械・輸送用機器が前年比 3.4%増で輸出全体の43.8%を占めた。2007年が同7.0%増 だったことと比較すると伸び率の鈍化が著しいが,これ は通信・映像機器(携帯電話を含む)が3.9%減となった 影響が大きい。同品目は輸出全体の 13.8%を占める重要 な柱だが,携帯電話大手ノキアが携帯電話用端末の生産 を国外に移管していることもあって2005年をピークに3 年連続で減少している。機械・輸送用機器の中で増加が 著しかったのは自動車で13.8%増となり,輸出全体の 2.9%を占めた。自動車の輸出台数は 2007 年の 10 万 9,761 台から 12 万 7,688 台へと増加したが,そのうち約 11 万台 が他国で生産され,フィンランド経由でロシア,バルト 三国に再輸出された。このほか,ドイツ向けに約1万 7,000台が輸出されている。フィンランドは国内資本の自 動車会社を持たないが,ヴァルメットがポルシェのス ポーツカーを受託生産し,ドイツに納品している。フィ ンランドはロシアへの物流拠点となっており,ロシアへ はこのほかに74万台が通関なしで中継輸出されたと税関 は推計している。 紙・パルプは,伝統的な重要輸出品目だが,近年のユー ロ高や燃料・輸送コストの高騰,欧州市場の供給過剰, ロシアによる木材への輸出税課税などによる競争力低下 や景気後退による需要減と相まって7.7%減という前年 を上回る大幅減となった。紙・パルプと同様に森林産業 に位置するコルク・木材も世界的な景気悪化による建設 需要減退の影響を受け前年比 21.3%減となった。 国・地域別では輸出の55.9%を占めるEU27向けが前年 比1.8%減と小幅な落ち込みだったが,国別ではこれまで 最大の輸出先だったドイツが同8.4%減で構成比10.0%と なり3位に転落した。ドイツに代わり首位に躍り出たの はロシアで,自動車,携帯電話用端末,紙・パルプなど フィンランド Republic of Finland 2006 2007 2008 ①人口:533 万人(2008 年末 ④実質GDP 成長率(%) 4.9 4.2 0.9 ②面積:30 3,901km 2 ⑤貿易収支(ユーロ) 91 3,300 87 4,600 61 9,200 1 人当たりGDP5 1,989 ドル ⑥経常収支(ユーロ) 75 5,400 74 5,500 37 8,900 2008 年) ⑦外貨準備高(米ドル) 64 9,423 70 6,315 69 7,937 ⑧為替レート(1 米ドルにつき, ユーロ,期中平均) 0.797141 0.730638 0.682675 〔出所〕①②:フィンランド統計局,③⑦⑧:IMF,④:フィンランド財務省,⑤⑥:フィンランド中央銀行 2008 年のフィンランド経済は,世界的な経済危機の影響を受け,実質 GDP 成長率が 0.9%と,近年にない低成長となった。 貿易は,輸出が秋以降,急減したことから低迷したが,輸入は前年に引き続き堅調だったことから,貿易収支の黒字幅が前年 からほぼ半減した。直接投資は,対内投資が 92 年以来,初めて引き揚げ超過に転じたが,対外投資では IT,エネルギー部門 で大型投資がみられた。対日貿易は,輸出が前年並みだったが,輸入は円高などにより大幅減となり赤字幅が縮小した。

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Page 1: フィンランド Republic of Finland...フィンランド Republic of Finland 2006年 2007年 2008年 ①人口:533万人(2008年末 ) ④実質GDP成長率(%) 4.9 4.2

第2部 国・地域別編

308

■2008年はかろうじてプラス成長を達成2004年以来好調を持続してきた景気は,2008年9月の

金融危機以降急速に悪化した。財務省は2008年8月まで2008年の実質GDP成長率を2.8%と見込んでいたが,12月に1.7%に,最終的には0.9%まで下方修正するに至り,かろうじてプラス成長を達成した。フィンランド経済を牽引してきた輸出が前年比1.1%減と落ち込んだ影響が大きい。好調だった個人消費も経済の先行き不透明感から年末にかけて急速に冷え込み,前年比2.0%増と前年の3.3%増から低下した。企業の設備投資も前年の9.0%増から1.3%増へと減退した。実体経済の悪化に伴い,失業率も上昇するとみられるが,2008年の統計には影響は及ばず6.4%と近年で最良の値だった。2009年の実質GDP成長率について,財務省はマイナス

5.0%と予測しているが,1月は前年同月比マイナス9.8%と落ち込んでおり,さらに厳しい数値が予想される。また失業率も2月時点で前年同月比1.2ポイント増の7.6%と急上昇しており,財務省が予測した年平均数値の9%に達するのは時間の問題とみられる。

■輸出に急ブレーキ,貿易収支黒字幅がほぼ半減2008年の貿易(通関ベース)は,輸出が前年比0.2%減

の655億8,000万ユーロ,輸入は前年比4.7%増の624億200万ユーロだった。貿易収支の黒字幅は1992年以来最も小さい31億7,800万ユーロと,前年からほぼ半減した。輸出は10月までは毎月,前年同月比数パーセント増の

ペースで堅調に推移していたが,金融危機以降,急ブレーキがかかり,11月には前年同月比20%減,12月に15%減となった。品目別にみると,機械・輸送用機器が前年比

3.4%増で輸出全体の43.8%を占めた。2007年が同7.0%増だったことと比較すると伸び率の鈍化が著しいが,これは通信・映像機器(携帯電話を含む)が3.9%減となった影響が大きい。同品目は輸出全体の13.8%を占める重要な柱だが,携帯電話大手ノキアが携帯電話用端末の生産を国外に移管していることもあって2005年をピークに3年連続で減少している。機械・輸送用機器の中で増加が著しかったのは自動車で13.8%増となり,輸出全体の2.9%を占めた。自動車の輸出台数は2007年の10万9,761台から12万7,688台へと増加したが,そのうち約11万台が他国で生産され,フィンランド経由でロシア,バルト三国に再輸出された。このほか,ドイツ向けに約1万7,000台が輸出されている。フィンランドは国内資本の自動車会社を持たないが,ヴァルメットがポルシェのスポーツカーを受託生産し,ドイツに納品している。フィンランドはロシアへの物流拠点となっており,ロシアへはこのほかに74万台が通関なしで中継輸出されたと税関は推計している。紙・パルプは,伝統的な重要輸出品目だが,近年のユーロ高や燃料・輸送コストの高騰,欧州市場の供給過剰,ロシアによる木材への輸出税課税などによる競争力低下や景気後退による需要減と相まって7.7%減という前年を上回る大幅減となった。紙・パルプと同様に森林産業に位置するコルク・木材も世界的な景気悪化による建設需要減退の影響を受け前年比21.3%減となった。国・地域別では輸出の55.9%を占めるEU27向けが前年比1.8%減と小幅な落ち込みだったが,国別ではこれまで最大の輸出先だったドイツが同8.4%減で構成比10.0%となり3位に転落した。ドイツに代わり首位に躍り出たのはロシアで,自動車,携帯電話用端末,紙・パルプなど

フィンランド Republic of Finland2006年 2007年 2008年

①人口:533万人(2008年末 ) ④実質GDP成長率(%) 4.9 4.2 0.9②面積:30万3,901km2 ⑤貿易収支(ユーロ) 91億3,300万 87億4,600万 61億9,200万③1人当たりGDP:5万1,989ドル ⑥経常収支(ユーロ) 75億5,400万 74億5,500万 37億8,900万 (2008年) ⑦外貨準備高(米ドル) 64億9,423万 70億6,315万 69億7,937万

⑧為 替レート(1米ドルにつき, ユーロ,期中平均)

0.797141 0.730638 0.682675

〔出所〕①②:フィンランド統計局,③⑦⑧:IMF,④:フィンランド財務省,⑤⑥:フィンランド中央銀行

2008年のフィンランド経済は,世界的な経済危機の影響を受け,実質GDP成長率が0.9%と,近年にない低成長となった。貿易は,輸出が秋以降,急減したことから低迷したが,輸入は前年に引き続き堅調だったことから,貿易収支の黒字幅が前年からほぼ半減した。直接投資は,対内投資が92年以来,初めて引き揚げ超過に転じたが,対外投資では IT,エネルギー部門で大型投資がみられた。対日貿易は,輸出が前年並みだったが,輸入は円高などにより大幅減となり赤字幅が縮小した。

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■ フィンランド ■

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欧 

を中心に13.3%増と大幅な伸びを示し,全体の11.6%を占めた。スウェーデンは前年に引き続き2位だったが6.3%減と不振だった。また,金融危機の打撃により深刻な経済危機に陥っているバルト三国向けは,エストニア17.8%減,ラトビア14.5%減,リトアニア7.7%減など,いずれも不振だった。輸入を品目別にみると,輸入増に貢献したのは原油と

その関連品を中心とする鉱物性燃料で,年前半の原油価格の高騰に伴う燃料需要増により前年比33.5%増と大幅な伸びを示し,輸入全体の17.6%を占めた。輸出同様,機械・輸送用機器が全体の34.8%を占めているが,前年比0.5%減と低調だった。これは電気・電子機器(構成比5.7%)が集積回路,トランジスタなどの電子部品と家電製品の輸入減により18.0%減と低迷したことと,船舶の輸入減少により「その他輸送用機器」(構成比0.8%)が48.3%減と落ち込んだためである。一方,同部門で最大の品目である自動車は5.5%増と堅調だった。自動車の販売台数は2007年の24万台から2008年は25万2,000台と5%増となった。これは2008年1月に環境車優遇税制が

導入されたことから前年末に買い控えていた消費者が一斉に購入したことと,上半期の景気が好調だったことによる。このほか,携帯電話用端末(構成比5.8%)も,ノキアの韓国工場からの輸入増により14.3%増となった。コルク・木材も11.3%増となった。最大の輸入先であるロシアが自国の木材加工産業保護・育成のため,2007

表1 フィンランドの主要品目別輸出入<通関ベース>(単位:100万ユーロ,%)

輸  出(FOB) 輸  入(CIF)2007年 2008年 2007年 2008年金 額 金 額 構成比 伸び率 金 額 金 額 構成比 伸び率

食 料 品 1,134 1,171 1.8• 3.3 2,332 2,589 4.1• 11.0原料品類(食用,燃料除く) 3,854 3,241 4.9• △15.9 6,330 5,374 8.6 △15.1鉱 物 性 燃 料 3,516 4,489 6.8• 27.7 8,213 10,967 17.6 33.5化 学 品 4,973 5,399 8.2• 8.6 6,050 6,474 10.4 7.0原 料 別 半 製 品 20,202 18,299 27.9• △9.4 7,742 7,698 12.3 △0.6機 械 ・ 輸 送 用 機 器 27,796 28,729 43.8• 3.4 21,853 21,733 34.8 △0.5家具・衣料品ほか工業製品 3,259 3,337 5.1• 2.4 5,166 5,262 8.4 1.9合 計 65,688 65,580 100.0• △0.2 59,616 62,402 100.0 4.7

〔出所〕表2,7とも,フィンランド税関。

表2 フィンランドの主要国・地域別輸出入<通関ベース>(単位:100万ユーロ,%)

輸  出(FOB) 輸  入(CIF)2007年 2008年 2007年 2008年金 額 金 額 構成比 伸び率 金 額 金 額 構成比 伸び率

E U 27 37,332 36,668 55.9 △1.8 33,460 34,247 54.9 2.4ユ ー ロ 圏 19,821 19,623 29.9 △1.0 19,428 19,262 30.9 △0.9ド イ ツ 7,162 6,560 10.0 △8.4 8,416 8,787 14.1 4.4オ ラ ン ダ 3,650 3,372 5.1 △7.6 2,726 2,604 4.2 △4.5フ ラ ン ス 2,331 2,290 3.5 △1.8 2,134 2,110 3.4 △1.1非 ユ ー ロ 圏 17,312 16,880 25.7 △2.5 14,032 14,985 24.0 6.8ス ウ ェ ー デ ン 7,035 6,593 10.1 △6.3 5,900 6,303 10.1 6.8英 国 3,824 3,594 5.5 △6.0 2,903 2,571 4.1 △11.4エ ス ト ニ ア 1,750 1,438 2.2 △17.8 1,253 1,380 2.2 10.1

ロ シ ア 6,724 7,618 11.6 13.3 8,411 10,174 16.3 21.0米 国 4,194 4,148 6.3 △1.1 2,010 1,858 3.0 △7.6中 国 2,161 2,060 3.1 △4.7 4,458 4,371 7.0 △2.0韓 国 582 571 0.9 △1.9 1,085 1,555 2.5 43.3日 本 1,174 1,181 1.8 0.6 1,606 1,258 2.0 △21.7合 計( そ の 他 を 含 む ) 65,688 65,580 100.0 △0.2 59,616 62,402 100.0 4.7

〔注〕EU27の数値には,加盟国の特定できない数値が含まれるため,ユーロ圏と非ユーロ圏の輸出額の合計はEU27とは一致しない。

表3  フィンランドの業種別直接投資 <国際収支ベース,ネット,フロー>

(単位:100万ユーロ)対内直接投資 対外直接投資2007年 2008年 2007年 2008年

製 造 業 4,027 △4,017 3,120 △2,427林 産 - - △2,149 21金 属 ・ 機 械 3,220 332 5,348 735化 学 587 533 △600 962そ の 他 220 △4,881 521 △4,145サ ー ビ ス 業 5,399 1,000 1,411 2,335商 業 ・ 貿 易 326 △71 1,545 186金 融 ・ 保 険 2,563 621 △509 880そ の 他 2,510 450 375 1,269合 計 9,024 △2,867 5,593 1,112

〔出所〕表4とも,フィンランド中央銀行。

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第2部 国・地域別編

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年2月以降,丸太の輸出関税を段階的に引き上げた結果,丸太価格の上昇によって輸入額が増加した。また,2008年11月にプーチン首相がフィンランドとの二国間首脳会議で丸太の輸出関税の追加引き上げ延期を発表したことによる駆け込み輸入増の影響も大きいとみられる。国・地域別では,輸出同様,EUが輸入全体の54.9%を

占めて最大で,国別ではロシアが前年比21.0%で輸入全体の16.3%を占め,前年に引き続き首位となった。同国からの輸入は資源や原料が大部分を占める。伸び

率では韓国の43.3%増という大幅な増加ぶりが目立つが,これは前述の携帯電話用端末輸入の増加による。

■対内対外ともに低調だった2008年の直接投資2008年の対内直接投資額(国際収支ベース,ネット,

フロー)は28億6,700万ユーロの引き揚げ超過となった。このネット減は「その他製造業」での48億8,100万ユーロの引き揚げ超過,英国による52億5,500万ユーロの引き揚げ超過が主因である。2008年には対外投資でも,スウェーデンに37億1,200万ユーロの引き揚げ超過を計上

しているが,これについてフィンランド銀行では,個別情報は公開できないとしながらも,英国企業がフィンランド子会社を通じてスウェーデンの孫会社を整理したためではないかと説明している。対内投資を促進しているインベスト・イン・フィンランド(フィンランド対内投資局)によると,2008年の対内投資の新規案件数は過去最高だった2007年の300件から185件に減少した。その半数が小売り・サービス業で,中でも情報通信関連企業は全体の21%を占めた。2008年の対内直接投資案件を金額の大きい順にみると,南アフリカ共和国のサッピ(製紙)がMリアルのグラフィック紙製造工場のうち,国内2工場とドイツ,スイスの2工場を買収した。これに次ぐのが英国プロテゴ不動産によるカンピ・ショッピングセンター買収である。金額の大きい案件は不動産部門が多く,シンガポール政府傘下のGIC不動産によるノキア本社のあるエスポー市のイソオメナ・ショッピングセンター株式40%取得が続く。一方,2008年の対外直接投資額は11億1,200万ユーロで,前年の55億9,300万ユーロから大幅減となった。2008年の対外投資案件のうち,最大のものは2007年に発表されたノキアによる米国のIT企業ナブテック(デジタル地図ソフト設計)買収で,2008年7月に買収が完了した。次いで電力会社フォルトゥムによるロシアのウラル地域電力会社TGC-10の買収である。同社の買収は分割して進められており,全株式を取得すれば総額27億ユーロの投資になる予定である。フォルトゥムは世界4位の電力市場であるロシアの将来性を高く評価しており,ロシアでの地位確立を目指している。これに次ぐ大型投資案件もロシア向けで,製紙大手UPMキュンメネによるスヴェザ・グループとの合弁事業への投資である。ロシア北部のヴォログダに近代的なパルプ工場,製材所などを建設する計画で投資額は10億ユーロとなる予定。同社は近年,フィンランドや西欧の工場を閉鎖し,ロシア,中国など新興市場に生産拠点を移しており,2008年2月に中国・広州でRFID(無線IC)タグの生産を開始した。

表5 フィンランドの主な対内直接投資案件(2008年)(単位:100万ユーロ)

業 種 企業名(国籍) 金 額 実施時期 概  要製 紙 サッピ(南アフリカ共和国) 750 9月 Mリアルの国内2工場と,ドイツ,スイスの2工場を買収不 動 産 投 資 プロテゴ不動産(英国) 426 2月 ヘルシンキにあるカンピ・ショッピングセンターを買収エ ネ ル ギ ー マスダーPV(アラブ首長国連邦) n.a. 10月 風力発電機製造 ウィンウィンDの株式の大半を取得不 動 産 投 資 GIC不動産(シンガポール) 132 2月 エスポーにあるイソオメナ・ショッピングセンターを買収金 融 OAO•VTB銀行(ロシア) 77 2月 ルクセンブルクのプロコメックスと合同でリューッキの株式

10.07%取得食 品 アーラ(デンマーク,スウェーデン) n.a. 8月 イングマン(乳製品)を買収流 通 ALSO(スイス) n.a. 6月 GNTの残りの株式49.9%を取得

〔出所〕表6とも,証券取引所発表および新聞報道などから作成。

表4  フィンランドの国・地域別直接投資 <国際収支ベース,ネット,フロー>

(単位:100万ユーロ)対内直接投資 対外直接投資2007年 2008年 2007年 2008年

E U 27 8,196 △2,305 4,104 484ユ ー ロ 圏 2,542 2,277 5,986 3,561オ ラ ン ダ 1,330 951 1,112 319ド イ ツ △79 936 △345 △125フ ラ ン ス 202 83 △246 △273ベ ル ギ ー 1,164 △48 4,340 3,861

非 ユ ー ロ 圏 5,654 △4,582 △1,882 △3,077スウェーデン 595 689 △1,475 △3,712デ ン マ ー ク 4,324 79 95 82エ ス ト ニ ア △28 △39 △318 105英 国 712 △5,255 △294 23

ノ ル ウ ェ ー 135 △352 △10 296ロ シ ア 20 △101 358 579米 国 31 △100 △276 4,053日 本 △79 △24 △12 △33中 国 △3 △43 499 △269合 計 9,024 △2,867 5,593 1,112

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■ フィンランド ■

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欧 

■対日輸入2割減で対日貿易赤字が縮小2008年の対日貿易は,輸出が前年比0.6%増の11億8,132

万ユーロ,輸入が21.7%減の12億5,760万ユーロとなった。対日貿易収支は近年赤字が続いているが,赤字幅は7,627万ユーロに急減した。対日輸出は非鉄金属が最大の品目でそのほとんどがコ

バルトである。フィンランドは日本にとって最大のコバルト輸入先で,近年の希少金属の価格高騰により非鉄金属が前年比49.0%増と大幅な伸びを示した。コバルトに次ぐ品目はコルク・木材だが,住宅建設需要の減退により未加工品が26.6%減(構成比14.2%),加工品が16.4%減(同5.5%)とともに不振だった。紙・板紙も景気後退に伴う需要減から19.6%減と振るわなかった。対日輸入を品目別にみると,多い順に道路輸送機器,

通信・録音機器,電気・電子機器が続き,この3品目で約6割を占めるが,それぞれ前年比23.4%減,29.7%減,46.0%減と激減した。いずれも,日本企業が欧州での生産を拡大しているためとみられる。自動車の対日輸入台数は2008年には2万1,600台と前年の3万1,000台から

9,000台以上も減少したが,フィンランド自動車情報センターによると,日本メーカーの販売台数は2万6,301台と前年の2万4,993台から増加している。円高などの理由により,欧州現地生産車が日本からの輸入品に代替したと考えられる。2008年のフィンランドの対日直接投資額(国際収支ベース,ネット,フロー)は3,300万ユーロの引き揚げ超過で低調だった。また日本からの対フィンランド直接投資額も2,400万ユーロの引き揚げ超過だった。対日投資ではノキアが2008年11月,日本市場向けの携帯電話用端末の販売・開発を打ち切ると発表した。日本国内の研究開発拠点における海外向け製品の開発や,国内での部品調達事業は続けるとしているが,世界的に携帯電話の需要が減少する中での選択だ。一方,日本からフィンランドへの投資では,三菱重工業が2008年12月に屋内物流機器メーカーのロックラーを約4,000万ユーロで買収した。ロックラーは同分野では欧州5位のシェアを持ち,これにより,三菱重工業は屋内物流機器において最大市場である欧州での展開の足掛かりを築いたことになる。

表6 フィンランドの主な対外直接投資案件(2008年)(単位:100万ユーロ)

業 種 企業名 投資対象国 金 額 時 期 概  要電気・電子 ノキア 米国 5,700 7月 ECがナブテック(IT)買収を承認電 力 フォルトゥム ロシア 2,700 2月 TGC-10(地域電量会社)を買収製 紙 UPMキュンメネ ロシア 1,000 4月 スヴェザ(製紙)と合弁会社設立,ヴォログダに新設備建設予定石 油 ネステオイル オランダ 670 6月 再生可能ディーゼル燃料工場建設開始。2011年完成予定金 属 オウトクンプ イタリア 335 7月 ソージェパル(金属)を買収通 信 テリアソネラ ネパール,

カンボジア330 9月 スパイスネパール(通信)とアプリフォン(通信)を買収

電気・電子 ノキア 英国 264 8月 シンビアン(IT)を買収電気・電子 ノキアシーメンズネットワーク 英国 140 1月 アパーティオ(IT)を買収投 資 キャップマン スウェーデン n.a. 7月 セデロース(歯科衛生用品)を買収舶 用 機 械 ワルツィラ ノルウェー 132 7月 ヴィク・サンドビック(船舶デザイン)を買収不 動 産 スポンダ ロシア 109 3月 モスクワにあるショッピング・センターを買収電気・電子 ノキア ノルウェー 104 6月 トロルテック(IT)を買収

表7 フィンランドの主要品目別対日輸出入〈通関ベース〉(単位:1,000ユーロ,%)

輸  出(FOB) 輸  入(CIF)2007年 2008年 2007年 2008年金 額 金 額 構成比 伸び率 金 額 金 額 構成比 伸び率

非 鉄 金 属 198,580 295,805 25.0 49.0 道 路 輸 送 機 器 483,282 370,054 29.4 △23.4コ ル ク ・ 木 材 228,724 167,843 14.2 △26.6 通 信 ・ 録 音 機 器 300,964 211,617 16.8 △29.7特 殊 産 業 機 械 166,542 139,776 11.8 △16.1 電 気 ・ 電 子 機 器 308,299 166,527 13.2 △46.0紙 ・ 板 紙 122,540 98,493 8.3 △19.6 事 務 用 機 器 63,766 70,723 5.6 10.9無 機 化 学 品 65,376 82,260 7.0 25.8 一 般 機 械 69,254 66,602 5.3 △3.8コ ル ク ・ 木 製 品 78,174 65,333 5.5 △16.4 特 殊 産 業 用 機 械 59,307 59,480 4.7 0.3一 般 機 械 36,596 50,748 4.3 38.7 そ の 他 雑 製 品 70,366 54,768 4.4 △22.2発 電 用 機 械 49,393 40,597 3.4 △17.8 発 電 用 機 械 48,947 48,734 3.9 △0.4そ の 他 輸 送 用 機 器 1,102 36,513 3.1 3,214.0 光 学 ・ 医 療 用 機 器 27,878 26,577 2.1 △4.7光 学 ・ 医 療 用 機 器 38,819 30,675 2.6 △21.0 金 属 加 工 機 械 22,432 25,845 2.1 15.2合 計 1,173,889 1,181,324 100.0 0.6 合 計 1,606,237 1,257,597 100.0 △21.7