ビッグデータの活用に向けた組織...
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ビッグデータの活用に向けた組織のあり方
元橋一之
東京大学工学系研究科(技術経営戦略学専攻)&文部科学省科学技術・学術政策研究所・経済産業研究所
http://www.mo.t.u-tokyo.ac.jp/
ビッグデータ時代のビジネスチャンス
• 利用可能となるデータの量的・質的変化
– Volume: Twitterの1日の情報量:12TB、100MB/sで読みだした場合2.7時間
– Variety:データの多様性(テキスト、画像、音声など)
– Velocity: データの新鮮さ(Web情報、センサーデータなどのリアルタイム性)
• データ化(Datafication) と新たなビジネスモデルの可能性
– 電子商取引の広がり(Consumer Generated Media)→SNSデータ(テキストデータ(非構造化データの構造化)
– センサーの広がり(スマートフォン、車載ネット、機器稼働状況..)
– セグメンテーションから個のマーケティング、場所・時間を特定した四次元プロモーション
• ビッグデータを支える技術の進展
ビッグデータを活用した新ビジネス可能性の広がり
これまでのIT活用と何が違うのか?
企業内情報(人事・財務、既存顧客データ、
SCM等)
センサー情報:機器モニタリング、生産プロセス、バイタルなど
(企業内・顧客・サプライヤー、外部購入)
行動・表現情報:SNS、
ウェブ購買履歴、移動データなど(オープンデータ、小売流通業者、外部
購入)
What
見える化、問題発見
Why->How
原因分析、対策
広範囲・網羅的
深層・間接的影響
ビッグデータの活用事例
元データ
所有・コントロール
利用
所有・コントロール
利用
利用 提供
• 大阪ガス(メンテ携行品の最適化) • JR東日本のメンテナンス利用
• 岐阜医大病院の医療プロセスシステム
• マツダ(スカイアクティブ設計開発)
• コマツ(コムトラックス等) • ダイキン(エアネット) • キャノン(NETEYE)
• GE,日立等(プラント保守点検)
• 日本調剤(処方箋データ)→製薬メーカー
• ローソン→食品メーカー等
• 日産(車両通行D)→損保ジャパン(PAYD保険)
企業内
企業+α
企業+企業
BDイノベーション類型と事例
元データ
事例1:コマツのDB活用
建設機械
(ex. パワーショベル) 鉱山機械
(ex. 大型トラック)
KOMTRAX データ:GPS、稼働時間→
燃料ゲージ、部品・オイル・フィルタセンサー
価値:盗難防止、省エネ→部品交換時期、製品開発(環境対策)
KOMTRAX Plus データ:GPS、稼働時間、燃
料ゲージ、部品・オイル・フィルタセンサー
価値:省エネ→部品交換時期
ICT建機 データ:建設機械の運転記録データ
価値:建機の半自動運転
GEとの戦略提携
スマートコンストラクション(地表、地中データを加えた施工計画)への展開
展開
AHS(Automated Haulage
System (無人ダンプトラック運行システム)
データ:GPS
価値:無人運転
事例2:日本調剤+製薬企業
元データ:日本調剤 処方箋データ、患者に対するアンケート調査など
所有・コントロール:日本医薬品総合研究所(*) 処方箋データ、患者に対するアンケート調査など
データの匿名化
提供 フィードバック
(薬の継続利用、併用、切り替え情報)
利用:製薬メーカー(主に他社製品情報) 創薬(競合先行薬の市場情報)、ジェネリック薬品(先行品にはない服用方法等)、マーケティング
自社製品情報との組み合わせ
(*)日本調剤の100%子会社
事例3:ローソンイノベーションラボ
ローソン:コンビニ小売情報
• 約12000店舗、平均800人の利用→1日1000万人近い購買データ
• 商品ライフサイクル:1週間~1ヶ月
• 新商品開発(PB商品)のためのデータ解析技術に関するノウハウ
イノベーションラボ
• 15名程度の事業部横断組織(商品本部マネジャークラスが兼務)
• 取引先企業約140社の技術情報
商品(事業)部内の製品開発ニーズへの対応
事例:鳥越製粉(ブランパン)、ロッテ(ウォーキングプラスガム)
他社データとの組合せによる経営戦略への活用
メーカーとの協業に展開
BDによるイノベーションのポイント
データ所有者 データ利用者
① ニーズ(*)
② 提供
③ 他用途、他社への提供
(GPD: General Purpose Data)
ベンダー・コンサル
データ所有者
• どのようなデータがあるか?
• どのように使えるのか?(社内ユーズも含めて)
データ利用者
• どのようなデータがあれば、自社ビジネスに価値が生まれるか? *ニーズについては、自社内、社外の両方あり
具体的ニーズから開始→適用拡大(自社内プロセス) →データ提供、データ利用などOIへの拡大(組み合わせ)
元データ
所有・コントロール
利用
提供
データ利用に関するイノベーション
• コンベンションでのプレゼンテーション(ITSジャパン)
• データマイニングコンテスト(カグル)などクラウドソーシング
データベースの強化
• データ化(Datafication)、データ量の増大(ビッグデータ) • 大量のユーザーベースの確保、ユーザーサービスの向上(two sided
market)
• 公開データの利用、組み合わせ
獲得
OI型(企業+企業)のBD活用の進展
情報系システムの進化系
レポーティング 分析(アナリティクス)
業務オペレーションの一環 イノベーションのための探索的活動
財務データ、ビジネスの「見える化」 パターンの発見
判断のための材料の提供 「答え」の提供
機械による自動化 人が介在(試行錯誤)
定型作業 カスタムメイド
既存業務の改善(漸進的) 新たな事業創出への貢献(急進的)
データドリブン・インテリジェント経営
アナリティクス
データの蓄積・組み合わせ、ITシステム(EDBS)、クラウドの活用
レポート
(定型フォーム)・オペレーション
イノベーション(新ビジネスモ
デル)
サンドボックス
新たなフォーム
「分析テーマ」
「気づき」 事業提案
経営者、ビジネスリーダーの経験、
勘
Web、SNS等
社内オペレーション
顧客データ
センサー
データ
例:リクルート 例:JR東、ドコモ 例:コマツ 例:マツダ
アナリティクスを支える人材: データサイエンティスト
• The sexiest job in 21st century (Davenport and Patil)
• FacebookやLinkedInにおける「つながり」に関する研究者を示す言葉として作られた
• ビッグデータの特徴:Volume, Variety and Velocity
→「問題を説く」のではなく「データから価値を見つける活動」、「全体の把握と問題の細分化」
• コーディングスキル(Data parsing, Visualization)、確率、統計学(データ分析)などの知識+ビジネスのフロントラインとのコミュニケーション能力
• 「ビジネスセンス」(Design Thinking)
BD時代のイノベーション戦略を考える上での論点
• 組織のあり方:CIOとCTOの役割分担、IT戦略とITインフラの切り分け
• 人材育成のあり方:データサイエンティスト育成(IT専門知識+業務知識)、イノベーション戦略部門
• OIを進めるための外部リソースの活用方法:デ
ータサプライヤー(自社データとの組み合わせ、サプライヤーとの協業)、ベンダーの活用
参考資料:サイエンス経済と技術経営戦略のあり方
日本の産業競争力の現状
「強み」は持続
• モノづくり(生産技術、知財、サプライヤーネットワーク)
• 企業内人材育成→現場力
• 旺盛な海外活動
ビジネスモデルの視点欠落
戦略的視点の軽視・自前主義
本社(本国)中心の活動
グローバル経済環境の変化
(需要・供給両面での新興国の台頭)
経済発展の国際比較(GDPシェア) (1990年購買力平価ドル)
(Angus Maddison, Long term economic growth database)
一人当たりGDP(1000ドル・対数スケール)
英国、スペイン
米国
日本 韓国、ブラジル
中国、インド
タイ、エジプト
競争力の源泉(生産要素)と経済の特徴
農耕経済
(17世紀まで) 工業経済
(18世紀~20世紀) サイエンス経済(*)
(21世紀)
競争力の源泉となる生産要素=経済成長の源泉
労働力・土地 資本設備・工業技術・輸送インフラ
高度知識人材・サイエンス(汎用技術)・IT
インフラ
外的要因 産業革命によって、機械(資本)が人力を代替
サイエンス革命(IT,バ
イオ、ナノテク)、新興国のキャッチアップ
一人当たりGDPのパターン
国間格差なし: 人口=GDP
国間格差の拡大:工業技術、インフラ整備の普及プロセスの差
国間格差の収斂
サイエンス経済、投資貿易レジーム(WTO等)→キャッチアップ速度の上昇
(*)自然科学に関する科学的知見だけでなく、社会現象を科学的に究明し、それを
経済価値化していく活動がベースになる経済社会システム
工業経済とサイエンス経済のイノベーション
技術的発見(発明) (蒸気機関、鉄道、電力シ
ステム)
科学的発見
(IT、バイオ、ナノ)
製品・技術(知財)
ユーザー・社会
プロセスイノベーション
プロダクトイノベーション
技術プラットフォーム(製品・技術群)
ユーザー・社会
サイエンスベースイノベーション
ビジネスイノベーション
モノづくり→ビジネスモデル構築
顧客ニーズ
モノ
自社技術
顧客ニーズ
モノ
顧客ニーズ
モノ ソリューション
技術プラットフォーム(自社+他社)
サイエンス基盤
顧客ニーズ
サイエンス経済のイノベーションの特徴
工業経済時代 サイエンス経済時代
プロダクト+プロセス サイエンス+ビジネス
技術プッシュor市場プル ビジネスモデル設計(価値デザイン)
(技術に裏付けされた)モノづくり (サイエンスに裏付けられた)コトづくり
自前主義(自主開発) オープンイノベーション サイエンスイノベーション:産学連携
ビジネスイノベーション:顧客(企業)との協業
事例
・ コマツのコムトラックス(ビッグデータの活用) ・ アパレル分野におけるユニクロと東レの協業
顧客にとっても「価値(意味)」を科学的に分析(データサイエンス)+先進技術(サイエンス)による差別化
ビッグデータ活用と
Key
Stone
(B2C)
Key
Stone
(B2B)
ビッグデータと(技術)経営戦略
顧客ニーズの変化・不確実性の増大
ビジネスイノベーター
(B2Cキーストーン企業) • 顧客価値の把握(製品機能→意味的価値、Unmet Needs)
• 収益モデル(モノ→ソリューション)
技術プラットフォーマー
(B2Bキーストーン企業) • 技術シーズドリブン→事業ドリブン(リードカスタマーの動向)を
• 固有技術→オープンイノベーションも活用した技術プラットフォーム
顧客価値の追求、ソリューションを創出するためのBデータ
顧客業界情報、外部技術シーズ把握のためのBデータ
工業経済モデル→
サイエンス経済モデル、その中でのビジネスイノベーションに関するオープンイノベーション、技術経営戦略にあり方については、拙著(2014年2月刊行)も参考にしてください。