デジタル型ペルチェ素子コントローラー ver.1.0 取...
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デジタル型ペルチェ素子コントローラー ver.1.0 取説 '13/4 細田
(0)概要
ペルチェ素子で温度制御をする場合、その制御回路はこれまでアナログ型がほとんどであっ
た。また、デジタル型にしても単純な ON/OFF 制御などであり、精密な制御を行うものはほと
んど無かった。今回、レーザー結晶の精密な温度制御を行いたい学生の要望に応え、デジタル
型のペルチェ素子制御回路を作成したので、その使用法を記す。デジタル型のペルチェ素子制
御による温度コントローラーは、従来のアナログ型と比べ、以下の長所がある。
・ペルチェ素子のパワー制御は PWM (Pulse Width Modulation) 方式によって行うため、デ
ジタル的に発生したパルスを使用するので、温度変化等が少なく、高精度の制御が可能である。
・アナログ型にありがちな、大きく重い電源部や、そこからと制御出力段のトランジスター
からの発熱が少なく、加えて PWM 方式で Power-MOS FET のスイッチングで制御を行うため、
低消費電力化や装置の発熱を抑えることができ、かつ軽量化できる。
・AVR マイコンの制御ソフトにより、広い範囲の PID 制御パラメーターを実装できる。(ア
ナログ型では広い範囲の積分時間や微分制御は難しい。)
・Power-MOS FET の Full-bridge 回路を採用したため、ペルチェ素子に対し、+電源のみか
ら逆方向電流も流す事ができ、発熱による温度制御も可能となった。加えて、逆極性の電流供
給に対応するための+ーの2電源は不要であり、+のみの1電源で済む。
・デジタル型のため、プログラムの書き換えによって、任意の追加機能を持たせられる。ま
た、非線形制御も可能。加えて、USB ポートによる PC との通信インターフェースを持っており、
外部 PC からも制御温度等の設定が可能であり、3段階の設定温度を時間的に順次変化させて
いくこと等も可能。また、サーミスターで読み取った温度を1時間分、記憶しておく事ができ、
後で PC に USB 経由で出力できるので、PID 制御の実習・実験の結果をチェックできる。
・デジタル型であるので、グラフィック液晶に温度変化のグラフを表示でき、その場で制御
が良好か等を見る事ができる。また、最適な PID 値をすぐに知る事ができる。
(1)使用上の注意
ペルチェ出力信号どうしをショートさせたり、どちらか片側を GND にショートさせたままに
して制御をスタートすると出力段の Power-MOS FET が壊れるので、注意。
制御を開始してしばらく経つとヒートシンクの温度が上昇し、その温度をモニターしている
Th の数値が50〜60度 C を超えるような場合、放熱器が熱を十分に放熱できていないので、
使用を中止し、放熱器を再設計してください。このような状態を続けているとさらに温度が上
がり、ペルチェ素子が劣化します。放熱器を大型にするか、空冷するか液冷すると良いでしょう。
冷却の装置としては、最近はやっている CPU クーラーを利用すると便利です。または、制御負
荷が小さい場合は、制御温度を室温より高めにすると解決する場合もあります。
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(2)仕様
温度設定範囲
10度〜40度 C(なお、プログラム変更によって任意の範囲にできる)
PWM パルス出力
電圧レベル:12V または、外部 DC 電源を使用する事により 3V 〜 20V
電流値:内部 12V 電源の場合は max. 8.5A。外部電源の場合はその電源による。
発生パルス幅:0 ~ DC、pulse 幅可変単位= 61 us.
パルス周期:62.5ms.
Power-MOS FET:Rhom SH8M4 を使用して Full-bridge 構成
2個並列接続により、電流 max. = 14A (なお、内蔵の 12V 電源は 8.5A max)
温度計測部
10k ohm サーミスター+ 10k ohm 金属皮膜抵抗器の直列回路による。
温度制御部の読み取り=上記回路の中点電圧を 16-bit ADC で読み取り。
上記直列回路への印可電圧= 3.3V。
温度分解能:実際の回路で実験したところでは、0.01C 程度。
ヒートシンク部の温度読み取り= 10k ohm サーミスターと 10k ohm の直列
読み取り分解能= 10-bit (AVR マイコン内部の ADC を使用。)
グラフィック液晶部
128 x 64 dot 液晶(Topway LM6063CFW:共立デジット)
BASCOM の液晶制御コマンドで使用可能
ユーザーインターフェース
パラメーター設定は、わざとボリュームからのアナログ値を AD 変換して
設定するようにしてある。この方が分かりやすいし、高速に変えられる。
USB 入出力
FTDI 社の FT232RL を搭載した基板(共立デジット USB-UART232RS)
仕様は FT232RL を参照。
転送モード:Virtual COM ポート方式。
USB-UART232RS ボードの設定:
ハードウエア通信制御なしで使用。(DTR# 線は GND に接続)
AVR との入出力電圧は 3.3V (VCCIO に AVR 基板から 3.3V 供給)。
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FT232R の +5V は USB のバスパワー。リセットは自動。
AVR 側には +3.3V は供給しない。以上のようにジャンパー設定。
PC 側通信ソフト= Hyper Terminal on Windows XP、
または TeraTerm (Free soft) on Windows7
(3)動作原理(詳細はプログラムソース Peltie_Controller_tst2.bas を参照)
制御のスタートスイッチが押されると、AVR は Timer1 の PWM 動作を開始する。
Timer1 は 10-bit PWM モードで Phase correct PWM であり、OC1A ピンに PWM パルスを出
力する。BASCOM での具体的な設定は以下。
Config Timer1 = Pwm , Prescale = 256 , Clear Timer = 0 , Pwm = 10 , Compare A Pwm = Clear
Up
これで 62,5ms おきの周期で PWM パルスが OC1A から出る。パルス幅は OCR1A(別名、
Compare1A)レジスターに設定する値で決まり、0でパルス幅0、1023 で最大パルス幅であ
る DC が出力される。
ついでに、Timer1 の PWM 宣言をする際に、以下のインタラプトを定義しておく。
On Ovf1 Tm1_int ' Interrupt subroutine definition
Disable Ovf1
これは、Timer1 が 10-bit PWM モードで 1023 に到達すると (Timer1 overflow、通常は 16-bit
だが、pwm=10 の場合は 10-bit 幅が適用される)、それごとにインタラプトを発生するという
宣言で、Enable Ovf1 とすると、上記に定義した Tm1_int ラベルのインタラプト処理に飛ぶ。
制御の開始で、Start Timer1 および Enable Ovf1 とする。
制御を始めると AVR は 62.5ms ごとの OVf1 インタラプトで 16-bit ADC で制御部の温度を読み
取る。
設定温度値との差を計算し、その値を dT とする。
制御値を Y とし、パルス周期= 62.5e-3 を dt とする。
Kp, Ki, Kd を PID 制御のゲイン(係数)とすると、Y は以下のように算出される。
Y = Kp * dT + Ki * (Sigma ( dT * dt)) + Kd * (dT - dT( 1つ前の値)) / dt)
ここで、Sigma ( dT * dt)) はインテグラル [ dT dt] に、(dT - dT( 1つ前の値)) / dt) は dT の微
分= dT/dt に相当する。これで制御値 Y が求まる。
制御値 Y(単位は温度の C)から PWM パルス幅は Y に Punit = 100 をかけて得られる。Punit
は1度ごとにどの程度パルス幅を変えるかの倍率で、Punit=100 なら Y が1度だけ変化すると
パルス幅は 100 変化する。すなわち、10.23 度の Y 変化で 1023 の最大パルス幅となる。なお、
1023 以上を OCR1A にセットすると 10 ビットの折り返しによって変なパルス幅になるので、
ソフトで判別して、1023 以上の場合は 1023 をセットする。
Y の値が負の場合は、PortD.7 を H にして、Power-MOS FET 部の電流方向信号を制御して逆
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電流方向に電流を流すようにする。すなわち、PortD.7 = L ならペルチェの動作は制御部を冷却
するように(電流方向=正)、PortD.7 = H なら、逆に発熱するよう(電流方向=負)になる。
Full-bridge 部の動作は、電流方向が正なら Peltier+ 線に+電圧が流れるように、そこにつな
がれた SH8M4 IC 内部の p-MOS が ON し、n-MOS は OFF する。それと同時に Peltier- 線につ
ながれた SH8M4 の内部の p-MOS は OFF し、n-MOS は ON して、Peltier- 線を GND にする。
これで Peltier+ 線に+、Peltier- 線に GND となって、+から−に電流が流れ、ペルチェを冷却
させる事になる。逆電流の場合は上記と逆の制御をすれば、Peltier+ 線に GND、Peltier- 線に+
となって、ペルチェに逆に電流が流れ、発熱させる事ができる。
以上を 62,5ms おきに行っている。62.5ms としたのは、熱的な時間応答は遅いので、これで
十分と判断したためである。なお、Config Timer1 = Pwm , Prescale = 256, ... の prescale を小
さくすれば(例、64)、より速い周期でインタラプトを起こすこともできる。
追補:制御部の温度読み取りに AVR 内部の 10-bit ADC ではなく、外部の 16-bit ADC を使っ
たのは、10-bit だと少し分解能が足りないためである。アバウトな制御を行う場合は 10-bit で
も良いが、それだと、PWM パルス幅の増減値が数十カウント以上の飛び飛びになってしまう。
まー、これでも ON/OFF 制御よりはましな制御ができるが。
(4) 使用法(図1参照)
4-1 本機の動作
以下のモードを有す。SW3 を押すごとに切り替わる。(SW 群はパネル右下)
Mode0:PID 制御値を設定する。PID 範囲は 0~0.1, 0~1, 0~10, 0~100 の範囲を選べる。
図1 パネル面
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Mode1:制御部の温度をサーミスターで読み取り、フィードバックをかけた PWM パルスを発
生し、温度制御を行う。(その際、設定温度や PID パラメーター値をリアルタイムに変化させ
る事ができる。)設定温度と制御部の温度差はリアルタイムにグラフ表示される。
Mode2:USB を経由して PC に記憶した温度変化値を出力できる。
4-2 Mode0
PID セレクトボタン(SW4)を押すと、液晶上の*マークが移動し、PID が選択される。選
択されている項目で、SW1 で可変範囲が増加、SW2 で可変範囲が減少する。例えば、Kp の可
変範囲が 10 の場合、Kp は0〜10の範囲で変化できる。Kp、Ki、 Kd の連続変化はパネル左
下のスライドボリュームで行う。Kp、Ki、 Kd のスライドボリュームによる変化はリアルタイム
制御モードである Mode1 下でも可能。なお、可変範囲の設定は Mode0 のみで可能。
パネル下にある回転ボリュームは設定温度を設定する。連続変化で設定できる。設定温度は
Mode1 下でも可能。
4-3 Mode1(温度制御のスタート/ストップ)
SW3 によって Mode0 よりこのモードに入る。SW1 でスタート、SW2 で停止。
スタートすると液晶には温度変化のグラフが出る(図2参照)。縦軸の中央の線が設定温度。
縦軸の刻みは 1C/div である。
表示の1行目は T =制御部の現在温度、Ts =設定温度、Th = Heatsink 部の温度である。ヒー
トシンクにサーミスターを貼付けておく事により、ペルチェ素子の過剰な発熱をモニターでき
る。(ヒートシンク=放熱板の温度が 60 度を超えるようだと、ペルチェ素子は劣化してくる事
図2 温度制御開始時の液晶ディスプレイ
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があるので注意する事。)
2行目に出ている数値は、PWM パルス幅の制御値のモニターで、左側が0〜 1023 までの値。
右が PID パラメーターによって計算された値であり、1023 以上の値や負の値も表示されたり
する。この値が常に 1023 以上になっているようだと制御不足や過大ゲインなので、そうなら
ないように PID 値を調整する事。
一番下に表示されるのは PDI の各ゲイン係数である Kp, Ki, Kd の値。制御中でもスライドボ
リュームで可変できる。
また、設定温度も制御中に可変できる。例えば、制御温度の設定を突然、2 度下げたりすれば、
自動制御理論におけるインディシャル応答の例をグラフ上で見る事ができる。さらに、Kp のゲ
インを上げたりすれば、自動制御における不安定な発振現象等も見る事ができる。
グラフ表示は X 方向に100点しかないので、100点以上の範囲に時間進行すると、再度、
左側に折り返して表示される。その際はグラフ中央に現在のグラフ位置を表示する短い縦棒が
表示されるようになっている。
4-4 Mode2(USB 出力)
SW3 を押して、このモードに入ると、グラフと USB 転送スタート/ストップの表示が出る。
なお、グラフは蓄積バッファーの最初から100点のみが出る。
蓄積バッファーには制御部の温度データーが 3600 秒分=1時間、一秒ごとに蓄積可能である。
なお、3600 秒を超えるとリングバッファーの折り返しが始まり、最近 3600 秒の分のみが蓄
積されている。
このモードで SW1 を押すと、データーが PC へ USB 経由で送られる。終了すると End と表示
が出る。途中で転送を止めたければ SW2 を押す。
Mode1 で蓄積されたデーターは Mode1 で再度スタートスイッチ(SW1)を押すまで消され
図3 サーミスターとペルチェの接続
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ない。いつでも Mode2 に入る事で蓄積データーを見る事ができる(ただし、最初の 100 点のみ。)
(5)コントローラーと外部との接続
5-1 サーミスターとペルチェの接続
図3のように 10k ohm のサーミスターからの配線をパネル右のラグ板にハンダ付けする。ラ
グ板の右の端子に温度制御部からのサーミスター配線を、左の端子にはヒートシンク上のサー
ミスターからの配線を行う。図ではサーミスターはセロテープで温度計測部に貼付けられてい
る。(これぐらいでも十分な事が多い。なお、ヒートシンクが相当に発熱する場合には、アルミ
板等によって外れないようにネジ押さえをした方が安全である。)温度制御部は写真右の銀色の
小さなシャーシのふた。その下の黒い部分がヒートシンク。図の構成では+− 0.2C 程度に制
御できる。
サーミスターは単なる抵抗体なので、極性は無い。したがって、+ と GND は気にせずでよい。
GND を使う場合は、シールド線を使ってサーミスターに配線する場合に GND を取るため。
ペルチェ素子はパネル右上のスピーカー端子を使って接続する。赤い端子にペルチェの赤が
つながった際に、温度制御部で冷却が起きるように接続する。ペルチェのどちらの面が冷却に
なるかは、ペルチェに 1.5V 電池をつないで赤い線に+を与え、冷えてくる面がそれ。
5-2 USB ポート(図4参照)
コントローラーの裏面には写真で左側に USB コネクターがある。PC にデーターを出力する
のに使用する。まず、コントローラーの電源を入れ、USB で PC につなぐ、FT232R のドライ
バソフトが既にインストールされていれば、何も言ってこない。もし、新しいハードウエアが
見つかったと行ってくれば、FTDI 社のサイトからダウンロードしておいたソフトをインストー
ルする。CD-ROM からインストールするように言ってくるが、無視して HDD の FTDI インストー
図4 コントローラー裏面
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ルフォルダーからインストールしても良い。または、CR-ROM に FTDI のソフトを焼いて、そ
こを指定して行うと楽かもしれない。
HyperTerminal または TeraTerm ソフトにおける COM ポートの設定は、以下のようにする。
まず、新規接続を選択する。USB ポートに他のものがつながっていなければ、現在つないでい
るペルチェコントローラーの USB のみが COM ポートとして認識され、その接続が新規で行わ
れる。そこで、以下を設定。
ボーレート= 9600、8-bit non parity, 1stop bit。
注:ボーレートは BASCOM のプログラムを書き直せば速くできる。
設定は適当な名前をつけてセーブしておけば、次からはそれを開けばよい。ファイルはけっこ
う変な場所にセーブされるので、名前をメモしておいて、後でサーチする。その場所からエイ
リアスをデスクトップに作っておくとよい。接続のウインドを開いておいて、実際の温度制御
を少し行ってデーターを蓄積した後、Mode2 に行って、データー転送を開始し、データー文字
列が送られてくれば OK である。
5-3 ペルチェドライブ電圧の切り替え(図4参照)
今回試作したペルチェコントローラーは 15V 前後の最大ドライブ電圧のペルチェ素子を想定
して設計されている。そのため、12V 8.5A のスイッチング電源を内蔵している。
もし、その他の低い許容電圧のペルチェ(例:4.5V)を使う場合は、12V では高すぎるため、
以下のオプションが用意されている。図4のパネル裏面中央に大きなスイッチがあり、写真で
は左側に倒れているが、この場合はコントローラー内部の 12V 電源がペルチェ用の電圧源とし
て使用される。この大きなスイッチを写真で右側に倒すと、写真右にある赤と黒の端子に入力
された電源がペルチェのドライブ電源として使用される。したがって、ここに外部の DC 電源
をつなげば、必要な電圧を供給できる。なお、電圧範囲には以下の注意がいる。1. 最大電圧は
30V を超えないように。Power-MOS FET モジュールである SH8M4 の仕様のため。2. 最小電
圧は 3V 程度。というのは、SH8M4 のドライブ回路の問題で、3.3V よりもあまりに低い電圧
だと制御できないかもしれないから。(注:どこまで可能かは試していない。)
5-4 ファン等の 12V 電源コネクター
後で改造したので、図4には出ていないが、シャーシ裏側には2ピンのコネクターが出てお
り、装置内部の 12V スイッチングレギュレーターから分配された +12V が出ている。この電源
は 6-2 節、6-3 節で述べている CPU クーラーのファンの電源などに使用できる。
5-5 その他のコネクター
後で改造したので図1には出ていないが、学生実験で PWM モーターの回転制御の実習もで
きるように少しコネクターをパネル面に追加してある。また、シャーシを開けなくてもマイコ
ンのプログラムをできるように 6-pin の AVR プログラム用コネクターをパネル面に追加してあ
る。
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(6)ペルチェの放熱
6-1 放熱器の概要
ペルチェ素子は冷却に使用した場合、逆の面は発熱する。この熱をどこかで逃がしてやらな
いと、どんどん温度が上がってペルチェが壊れる。従って、吸い取る熱量以上の熱をヒートシ
ンクで逃がしてやる必要がある。吸い取る熱量以上との理由は、ペルチェ自身も動作時に発熱
するから。今回のコントローラーではヒートシンク部の温度もモニターできるようにしてある
ので、その温度がじりじり上がり、50 〜 60 度を超えてくるようなら放熱器を大きくするか、
放熱器をファンで空冷するか、それでも足りない場合は水冷するという事になる。
なお、吸い取る熱量はヒートシンクの初期温度と設定温度との温度差に依存し、差が大きい
ほど厳しくなる。従って、ヒートシンクの初期温度である室温近傍に設定温度を設定すれば、
非常に負荷が少なく済む。今回作成したコントローラーはペルチェを発熱させる事もできるの
で、ヒートシンクとの温度差がゼロ近傍でも制御できる。なお、発熱体が温度制御部に存在す
る場合はその発熱を考慮して少し設定温度を室温より上げてやると負荷が楽になる。
6-2 実際的な放熱器1:空冷型 CPU クーラー
図3、4に示した放熱器では空冷をしていないため、実際に使った場合は数十分程度で放熱
器の温度がかなり上がり、そのまま放っておくと 6-1 節に示したような、ますますペルチェ素
子の負荷が増えて正帰還が生じ、ペルチェ素子の劣化に進んでしまう。これを避けるためには
以下のような放熱器を使うと楽である。一番推奨できるのは、市販されている CPU クーラーな
図5 空冷型 CPU クーラー(ヒートパイプ式、サイドフロータイプ)
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るものを使うと良い。場合によって大きな放熱器とファンを買うよりも安く済むし、かつ、そ
のような放熱システムよりも非常に熱放散効率が良い。以下に実際に試した例を示す。
図5はサイドフロータイプの空冷型 CPU クーラーを上下逆にして、CPU に接触する部分に
ペルチェを乗せたものである。最近の空冷型 CPU クーラーのほとんどはヒートパイプで熱を効
率よく放熱フィンに伝え、それをファンで空冷している。前記した普通の放熱器を使うよりも
非常に熱効率がよく、かつ静音である。また、振動も少ない。ファンのコネクターが4ピンの
ファンは回転数制御機構を持っており、コネクターの黒い線のピンを1番と仮定すると、1番
= GND、2番(赤い線)を +12V につないだ場合は最高回転数で回転する。(それでも靜音性
に優れている。)ファンは 12V で動くので、ペルチェコントローラー内部の 12V スイッチング
電源から給電している。(電流は 0.5A 程度。)ファンの回転数を最低にするには、4番目のピ
ンを GND に落とすと回転数が最低となり、ほとんど振動が感じられなくなる。これでも放熱は
非常に良い。なお、4番ピンは PWM 信号入力であり、解放で最高回転、GND で最低回転となる。
注意として、ここに 12V などをつないではいけない。(ファンが壊れる。)実験では1V もかけ
ると相当に大きな電流が流れ込むので、3.3V 信号で PWM をかける場合には 1k ohm の直列抵
抗を入れる必要があった。(ファンの規格によって異なるかもしれないが。) この空冷ファンで
ペルチェの冷却設定温度を室温から10度 C にして実験したところ、1時間経ってもペルチェ
素子の放熱側の温度はほとんど室温と同じ温度になっており、熱暴走は全くなかった。
CPU クーラーの空冷冷却器はヒートパイプが放熱板を下にして放熱フィンが上になるように
設置して、CPU IC の上にマウントするのが一番効率が良いらしい。すなわち、図5とは上下逆。
その理由はヒートパイプ内部の揮発液が重力の影響を受けて、放熱フィン部から落ちてきやす
くなるためであるが、最近のちゃんとしたヒートパイプは毛細管現象で揮発部に戻ってくるた
め、重力とは逆向きでもあまり効率は落ちないらしい。今回の実験でも通常の設置方向とは逆
図6 簡易水冷型 CPU クーラー。右の CPU に接触する丸く黒い部分の銅板上にペルチェ部をマウント。
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向きであるが、放熱効率は良かった。
6-3 実際的な放熱器2:簡易水冷型 CPU クーラー
このタイプもそれほど高くなく入手可能である。空冷タイプと比べ、ペルチェマウント部近
辺の容積を少なくできる。図6にその実際を示す。黒い円形の部分が通常は CPU IC に上から
接触する部分である。今回は上下逆にして、上からペルチェを接触してある。(当然、高熱伝導
のグリスを塗ってある。)冷却部から黒いゴムパイプが2つ伸びており、冷却水が循環して、写
真左のフィンとファンで放熱されて循環している。冷却モジュールから黒い電線が伸びている
が、これは冷却部に内蔵された水ポンプの電源線である。ファンとも 12V で動くので、ペルチェ
コントローラー内部の12Vスイッチング電源から給電している。(電流値は合計でも0.5A以下。)
6-2 節で述べたように赤い線に +12V で黒い線が GND。今回利用した製品は3ピンのコネクタ
であり、回転制御は直接にはできないタイプ。
このタイプも非常に熱放散効率が良く、6-2 と同等な性能が得られた。なお、冷却ヘッド部
分に水ポンプが内蔵されているので、微小な振動が感じられる。もし、この振動が問題なら、
簡易型ではなく、本格水冷型にするとよい。インターネットで「CPU クーラー 本格水冷」とキー
ワードで探すと売っているショップが見つかる。別の手として、ファンレスの完全空冷型とい
う CPU クーラーも市販されている。なお、この場合はけっこうフィンが大型ではあるが。この
タイプはフィンに遠方より、そよ風程度の風を当てるだけで良い。
以上のように、無理にチラーなどのシステムを自作するよりは市販の CPU クーラーやその部
品を利用すると簡単に安くできる。最近の CPU クーラーは日々進歩しており、そうとうに高性
図7 水冷 CPU クーラーのヘッド部。ペルチェ素子が放熱のために接触している。
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図8 コントローラー内部。中央= Power-MOS FET (SH8M4)基板。左= AVR 基板。
奥に 12V スイッチング電源。奥右= 6.3V 0.3A トランスとブリッジ整流器。(AVR 部電源。
AVR 部には ADC があるため、アナログ電源。3.3V 化は AVR ボード上で。)
能になってきている。従って、できるだけ最近の製品を買った方が良い。インターネットの「価
格 .com」の CPU クーラーのページにいろいろある。人気度や満足度などのボタンでいろいろ
分かる。空冷型などは3千円程度で入手可能なようである。
(7)プログラムの拡張
現在のプログラムメモリー占有率は、おおよそ ATMega1284 で12%程度である。したがっ
て、まだまだ、機能追加可能である。また、SRAM 容量は 8kB ほど余っている。
機 能 拡 張 の 例 と し て は、 例 え ば、PWM 制 御 値 な ど を 記 憶 し て お き USB に 出 力 す る
と い う も の も あ る が、 実 は そ の 値 や 制 御 量 で あ る Y 変 数 の 値 な ど は USB 出 力 す る 温
度 値 か ら PC 側 で 計 算 可 能 で あ る。(Kp, Ki, Kd 値 は USB 出 力 時 に 出 力 さ れ る の で。)
その他の拡張としては、USB I/F を使った PC からの制御等である。現在は PC 制御モードは
インプリメントされていないが、将来、必要になった段階で、AVR プログラムの書き換えを行
えばよい。
(8)学生実験での利用
本システムは自動制御の学習に向いている。PID パラメターによる変化がダイレクトにグラ
フから分かる。それらの結果は PC にも吸い取れるため、そこでのグラフ化や解析も可能であり、
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レポートの作成もしやすい。また、あまり大掛かりなセットでないため、狭い面積の机上で簡
便に実験を行える。加えて、現代のパワー制御技術である PWM 制御という例題にもなってい
る。また、もし学生が現代的制御理論をソフト的に実装できればさらなる高度な課題とできよう。
ソフト開発には簡便な BASCOM-AVR を使用したが、AVR-Studio 上の C でも可能である。
今回は実験室で実際に温度制御に使えるように少しコンパクトに作ったため、シャーシへの
実装に少し苦労したが、より大きなシャーシや開放型のシャーシに組めばより製作は楽だと思
われる。図8に実装の写真を示す。P 板は感光基板で作成したが、ユニバーサル P 板でも十分、
作成可能である。なお、部品は大阪日本橋の共立シリコンハウス(SH8M4 等)、デジット(グ
ラフィック液晶と Mega1284 等)、マルツ、千石電子(2SK2961、ペルチェ等)、パーツラン
ド(大きなスイッチとシャーシ)などですべて揃う。ただし、AD7680 16-bit ADC SPI I/F は
RS-Components。
追記:SH8M4 はダイセンの変換基板で実装したが、その基板上の配線は細いため、アンペアー
レベルでは少し危ないので、少し太めの電線で補強してある。変換基板上での配線距離は短い
ので、これで十分と思う。
最後に、次ページからの図9と図10に回路図を示す。
以上。
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図9 AVR 部回路図
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図10 Power-MOS FET 部回路図