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PFU Tech. Rev., 28, 1,pp.19-25 (06,2017) 19 タブレット端末とカメラ OCR 技術の活用による窓口 業務の革新 ~本人確認作業を,より速く・正確に・安全に~ Innovative Over-the-Counter Services Using Tablet Devices and Camera OCR Technology - Faster, Safer, and More Accurate Identification Procedure - 岩瀬光博 * Mitsuhiro Iwase 稲見真樹 * Masaki Inami 谷崎裕紀 ** Hiroki Tanizaki 佐藤政治 *** Masaharu Sato 大山貞重 **** Sadashige Oyama * ドキュメントイメージビジネスユニット ドキュメントソリューション事業部 第四開発部 ** 先行技術開発統括部 先行技術開発部 *** 営業部門 第二営業統括部 第一営業部 **** 営業部門 第三営業統括部 金融営業部 窓口業務における本人確認作業の更なる効率化と顧客満足度の向上へのニーズを背景として,PFU は,2016 年 8 月より,「DynaEye 運転免許証カメラ OCR」および「DynaEye マイナンバーカメラ OCR」の提供を順 次開始した.これらの製品の活用により,タブレット端末のカメラを使用した本人確認証の撮影から文字認識,更 には,本人確認証に記載された項目を入力データとした業務システムの構築が簡単に実現できる. PFU has provided "DynaEye Driver's License Camera OCR" and "DynaEye Individual Number Camera OCR" since August 2016 to streamline the identification procedure even further with over-the-counter services and to satisfy the increased customer's needs. These products enable character recognition by taking a photo of the identification with the tablet's camera. In addition, a business system can be easily created using the gathered information as input data. 1 まえがき 窓口業務の形態やシーンは多岐にわたる.自治体にお ける書類の申請や届け出,金融機関における入出金の受 付などがその一例である.こうした窓口業務における重 要な作業の一つに本人確認作業がある.本人確認作業と は,申請や届け出の際にお客様が本人であることを確認 する作業である.本人確認には正確さが要求されること から,窓口業務の現場では恒常的に二つの課題が存在す る.一つは,慎重な手続きが必要になるために,一定の 時間,お客様を待たせてしまうという課題である.もう 一つは,処理の一部が手作業であるために煩雑になり作 業が非効率にならざるを得ないという課題だ. PFU では,顧客満足度の向上というお客様視点と, 作業の効率化という現場視点の二つのアプローチから, 上記の課題の解決を目指してきた.今般,これまでの 実績と独自の技術力を応用した「DynaEye 運転免許証 カメラ OCR」および「DynaEye マイナンバーカメラ OCR」(以降,カメラ OCR または本製品)の提供を開 始した 参1),参2) この結果,本人確認作業を含む窓口業務の改善および 効率化を支援し,お客様の待ち時間を大幅に短縮するこ とで顧客満足度を向上する新たなソリューションを提案 することができた. 本稿では,まず,カメラ OCR の開発の背景と狙いを 述べ,本製品の概要と特長を説明するとともに,導入事 例について紹介する.

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PFU Tech. Rev., 28, 1,pp.19-25 (06,2017) 19

タブレット端末とカメラOCR技術の活用による窓口業務の革新~本人確認作業を,より速く・正確に・安全に~Innovative Over-the-Counter Services Using Tablet Devices and Camera OCR Technology - Faster, Safer, and More Accurate Identification Procedure -

岩瀬光博 *Mitsuhiro Iwase

稲見真樹 *Masaki Inami

谷崎裕紀 **Hiroki Tanizaki

佐藤政治 ***Masaharu Sato

大山貞重 ****Sadashige Oyama

* ドキュメントイメージビジネスユニット ドキュメントソリューション事業部 第四開発部** 先行技術開発統括部 先行技術開発部*** 営業部門 第二営業統括部 第一営業部**** 営業部門 第三営業統括部 金融営業部

窓口業務における本人確認作業の更なる効率化と顧客満足度の向上へのニーズを背景として,PFU は,2016

年 8 月より,「DynaEye 運転免許証カメラ OCR」および「DynaEye マイナンバーカメラ OCR」の提供を順

次開始した.これらの製品の活用により,タブレット端末のカメラを使用した本人確認証の撮影から文字認識,更

には,本人確認証に記載された項目を入力データとした業務システムの構築が簡単に実現できる.

PFU has provided "DynaEye Driver's License Camera OCR" and "DynaEye Individual Number

Camera OCR" since August 2016 to streamline the identification procedure even further with

over-the-counter services and to satisfy the increased customer's needs. These products

enable character recognition by taking a photo of the identification with the tablet's camera. In

addition, a business system can be easily created using the gathered information as input data.

1 まえがき窓口業務の形態やシーンは多岐にわたる.自治体にお

ける書類の申請や届け出,金融機関における入出金の受

付などがその一例である.こうした窓口業務における重

要な作業の一つに本人確認作業がある.本人確認作業と

は,申請や届け出の際にお客様が本人であることを確認

する作業である.本人確認には正確さが要求されること

から,窓口業務の現場では恒常的に二つの課題が存在す

る.一つは,慎重な手続きが必要になるために,一定の

時間,お客様を待たせてしまうという課題である.もう

一つは,処理の一部が手作業であるために煩雑になり作

業が非効率にならざるを得ないという課題だ.

PFU では,顧客満足度の向上というお客様視点と,

作業の効率化という現場視点の二つのアプローチから,

上記の課題の解決を目指してきた.今般,これまでの

実績と独自の技術力を応用した「DynaEye 運転免許証

カメラ OCR」および「DynaEye マイナンバーカメラ

OCR」(以降,カメラ OCR または本製品)の提供を開

始した参1),参2).

この結果,本人確認作業を含む窓口業務の改善および

効率化を支援し,お客様の待ち時間を大幅に短縮するこ

とで顧客満足度を向上する新たなソリューションを提案

することができた.

本稿では,まず,カメラ OCR の開発の背景と狙いを

述べ,本製品の概要と特長を説明するとともに,導入事

例について紹介する.

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タブレット端末とカメラOCR技術の活用による窓口業務の革新~本人確認作業を,より速く・正確に・安全に~

PFU Tech. Rev., 28, 1, (06,2017)

2 開発の背景と狙い窓口業務における「待ち時間」は,顧客満足度に直結

する重要なポイントである.この待ち時間をいかに短く

するか,また,待ち時間を有効活用して,いかにお客様

に長いと感じさせないようにするかという課題に対して

は,各社とも創意と工夫により業務の効率化を図ること

で対応しているのが現状である.

2.1 PFUのこれまでの取り組み待ち時間が長くなる要因の一つに本人確認作業があ

る.本人確認作業では,お客様から運転免許証やマイナ

ンバーカードといった本人確認証の提示を受け,氏名や

住所などの情報が正しいことを確認した上で,必要な情

報を顧客データベースに入力するといった手順を踏むこ

とが一般的である.しかも,データベースへの入力は

記載情報を目視で確認しながら手動で行われることが多

く,情報の正確性に対する問題もある.更には,本人確

認のエビデンス(証拠)として本人確認証のコピーを取

る際,お客様から離れた場所にあるコピー機を使用する

ケースもあり,作業効率を阻害していた.

こうした課題に対して,これまで,PFU は,世界シェ

ア No.1注1)の実績を持つイメージスキャナ fi シリーズ

と,国内シェア No.1注2)の OCR(光学式文字認識)ソ

フトウェアを組み合わせることで,入力時間の短縮や入

力ミスの防止を実現してきた参3),参4).この,スキャナ

をベースとした,本人確認作業支援システムは,従来の,

目視での確認,コピー機で行っていたエビデンスの取得,

顧客データベースへの手入力といった一連の作業の効率

を格段に向上させ,導入していただいたお客様から高い

評価を得てきた.

2.2 今回の取り組みその一方で,お客様のニーズは年々多様化しており,

より一層の業務の効率化に対する要求が高まっている.

そして,この要求は特に携帯電話キャリア業界において

顕著であった.

注1) 業務用スキャナ fi シリーズは,ドキュメントスキャナの主要市場である北米,欧州,日本でそれぞれシェアトップである.詳細は,業務用イメージスキャナ「fi シリーズ」紹介ページを参照されたい.

http://imagescanner.fujitsu.com/jp/concept/feature-story/page2.html

注2) 日本市場トップシェア:帳票用 OCR ソフトウェアにおいて,2014 年,一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の集計に基づき,PFU にて推計.

近年,同業界では,接客フロアの有効活用の一環と

して可搬性の高いタブレット端末を業務で利用する機会

が増えており,本人確認をしたエビデンスの取得方法と

して,タブレット端末のカメラを活用したいというニー

ズが高まっている.また,同業界固有の特徴として,契

約者数の頭打ちに加えて,携帯電話番号ポータビリティ

制度(MNP)の定着に伴い,他社への乗り換えの垣

根が低くなっているという状況がある.更に,MVNO

(仮想移動体通信事業者)の新規参入もあり,限られた

シェアの奪い合いとなり,競争が激化している.熾烈な

状況の中で競争に打ち勝つためには,業務の効率化はも

とより,更なる顧客満足度の向上が火急のテーマとなっ

ている.待ち時間の増大が顧客満足度の低下を招き,場

合によってはお客様の流出にもつながりかねないからで

ある.

こうした背景を踏まえて,PFU では,タブレット端

末のカメラを活用し,本人確認作業の更なる効率化と

待ち時間短縮を実現する新たなソリューションを提案

した.

3 カメラOCRの概要と特長本人確認作業における新たなソリューションとして提

案したのが PFU の「カメラ OCR」である.

3.1 カメラOCRの概要カメラ OCR は,タブレット端末のカメラで撮影した

運転免許証またはマイナンバーカードの情報を文字認識

し,本人確認や入力支援に活用できる開発者向けソフト

ウェアである.読み取った本人確認証の情報を,顧客の

システムやソフトウェアパッケージに直接取り込むこと

ができるので,本人確認証のデータと連動した業務アプ

リケーションが迅速に開発でき,業務システムの構築も

簡単に行える.

カメラ OCR を使用したアプリケーションを開発する

ことで,本人確認作業を伴う窓口業務の効率化が期待で

きる.活用シーンとしては,クレジットカードやポイ

ントカードの申込み窓口業務や,金融機関における口座

開設業務などがあり,お客様に直接応対して本人確認

作業を行う場面で幅広く活用できる.図-1に,カメラ

OCR の活用による効率化の一例を示す.

カメラ OCR を導入する前は,窓口カウンターにおい

て申込み用紙を手書きで記入し,運転免許証やマイナン

バーカードの控えをとるなど,手続きに時間を要するこ

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タブレット端末とカメラOCR技術の活用による窓口業務の革新~本人確認作業を,より速く・正確に・安全に~

とが多かった.また,受付が窓口カウンターに限定され

ていたこともあり,必然的に待ち時間が増大する傾向に

あった.導入後は,タブレット端末のカメラで撮影した

本人確認証の情報を文字認識することで入力作業の軽減

や手続き作業の時間短縮が図られる.また,タブレット

端末の特長を活かした接客フロアでの応対も可能となる

ため,待ち時間を意識させない接客につながり,お客様

に対するサービスの質が向上する.

3.2 カメラOCRの特長ここでは,カメラ OCR の特長について説明する.

(1) 撮影時間を短縮

カメラ OCR は,タブレット端末を本人確認証にかざ

すだけで自動的に撮影できる特長を持つ.しかも,認識

エラーの原因となる,手ブレによるピンボケや照明の映

り込み(テカリ)などを判定および抑制するとともに,

斜めから撮影しても真上から撮影した場合に近い画像に

自動補正することができる.

OCR に適した状態で自動撮影するため,手ブレやテ

カリなどによる撮り直しが不要になり,大幅に撮影時間

を短縮することができ,窓口業務においてもお客様を待

たせることがない.

(2) 情報漏えいリスクを低減

特長の二つ目は,お客様の個人情報に対して配慮して

いる点である.

本人確認作業では,本人確認のエビデンスとして,お

客様から本人確認証を預かってバックヤードなどでコ

ピーを取る場合があり,お客様が不安を感じることも

ある.

カメラ OCR は,タブレット端末のカメラを使って大

切な本人確認証をお客様の目の前で撮影するため,こう

した不安を解消できる.また,カメラで撮影したデータ

はメモリ領域で処理されるため,タブレット端末にデー

タが残ることもない.突然の電源断や業務アプリケー

ションの途中終了など不測の事態が生じても,個人情報

の漏えいリスクを低減できるため,安心である.

(3) 効率的なアプリケーション開発への対応

業務アプリケーションの開発環境が充実している点も

特長の一つである.

カメラ OCR では,iOS注3)および Android™注4)端

末上で動作するアプリケーションを開発するための環

境を用意している.API注5)としては,iOS と Android

それぞれに固有の Native インターフェースをサポート

するとともに,両者が混在するシステムにおいて効率

的なアプリケーション開発ができるように,Apache

Cordova注6)インターフェース(JavaScript 言語)も

用意している.これにより,iOS 版,Android 版を意

識せずに利用できるため,双方のプログラムを共通化す

ることで,操作性の統一や開発の短縮が実現できる.

3.3 カメラOCRを使用した動作の流れカメラ OCR では,運転免許証またはマイナンバー

カードをタブレット端末のカメラで撮影するだけで,そ

れぞれの本人確認証のレイアウトを自動的に判断し,

券面情報を効率的に取得して最適な OCR 結果を抽出

する.

カメラ OCR を使用した動作の流れを図-2に示す.

以降の丸付き番号は,図 - 2の番号と対応している.

なお,ここでは,運転免許証の例で説明する.

① タブレット端末のカメラを起動

カメラ OCR の API を呼び出すと,タブレット

端末のカメラが自動的に起動され,画像が映し出さ

れる.

② 運転免許証を自動撮影

タブレット端末に運転免許証が映し出されると,

手ブレの判定やテカリの低減処理を行い,OCR に

最適な状態を検知し,自動的に撮影が行われる.

注3) iOS は,iPad や iPhone に搭載されている Apple 社製の独自OS である.

注4) Android は,Google Inc. の商標または登録商標である.

注5) Application Programming Interface(アプリケーションプログラミングインターフェース)の略.あるプログラム(ソフトウェア)が保持する機能やデータを,外部のプログラムから呼び出して利用するための規約のこと.

注6) Apache Cordova とは,iOS と Android など,複数の環境で動作するアプリケーション(ハイブリッドアプリケーション)の開発フレームワークである.HTML,JavaScript といったWeb ベースのテクノロジーで,タブレットやスマートフォン用のアプリケーションを作成できる.

◆図 -1 カメラOCRの活用による窓口業務の効率化◆

(Fig.1-Streamlinedover-the-counterserviceswith

cameraOCR)

窓口カウンターにて対応

手作業が多く,お客様の待ち時間が発生受付も窓口カウンターに限定

タブレット端末の活用により作業効率が向上接客フロアの有効活用も可能

窓口カウンターまたは接客フロアにて対応

導入前 導入後

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タブレット端末とカメラOCR技術の活用による窓口業務の革新~本人確認作業を,より速く・正確に・安全に~

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③ 運転免許証を文字認識

矩形の位置を検出し,更にそれが運転免許証であ

ると判定されると,自動的に認識が開始される.

④ 認識結果を抽出

認識が正常に終了すると,認識結果がメモリ領域

に格納される.

⑤ 認識結果を出力

認識結果は,運転免許証に記載されている各項目

や顔写真の位置情報,運転免許証の画像データとと

もに,API を呼び出したアプリケーションに通知

される.

以降は,お客様の基幹業務システムと連携した情

報の利活用が可能となる.

図 - 2では運転免許証の例で説明したが,マイナン

バーカードの場合も,読み取りできる項目が異なるだ

けで,流れは同じである.カメラ OCR で読み取りでき

る項目については表-1を参照されたい.表 - 1に示す

とおり,本人確認処理に必要な項目はすべて認識可能で

ある.

4 技術の特長カメラ OCR では,タブレット端末に映し出された

運転免許証またはマイナンバーカードを,OCR に適し

た状態で自動的に撮影するという特長があるが,OCR

に最適な画質を取得するためには,いくつかの課題が

あった.

ここでは,課題を解決するために PFU が適用した技

術の特長について説明する.なお,ここでは運転免許証

の例で説明する.

一般に,OCR に失敗する原因の多くは以下の三つに

集約される.

1) 斜め方向から撮影されたために運転免許証が正

しく検出できない(図-3参照).

2) 蛍光灯などが運転免許証に映り込んでテカリが

発生し,文字が読めない(図-4参照).

3) 手ブレによるボケのために文字が判読できない

(図-5参照).

上記の現象はどれも撮影環境やタブレット端末の精度

◆表 -1 カメラOCRで読み取りできる項目◆

本人確認証 読み取りできる項目

運転免許証 氏名,生年月日,住所,運転免許証番号,交付日,有効期限と有効期限帯色,免許の条件等,顔写真の座標,取得日(二・小・原,他,二種),運転免許種類

マイナンバーカード(表面)

氏名,住所,性別,生年月日,有効期限

◆図 -3 斜め方向から撮影された例◆

(Fig.3-Driver'slicenseshotatanangle)

◆図 -4 テカリにより文字などが読みづらい例◆

(Fig.4-Exampleshowingthedifficultyofreading

charactersduetoglare)

◆図 -2 カメラOCRを使用した動作の流れ◆

(Fig.2-WorkflowusingcameraOCR)

ユーザーアプリケーション

①タブレット端末の カメラを起動 ⑤認識結果を出力

②運転免許証を 自動撮影

③運転免許証を 文字認識

④認識結果を抽出

カメラOCR

name    免田 一郎111,32,635,80nameKana メンダ イチロウbirthday  昭和37年5月1日生635,32,978,79  ・  ・  ・

name  birthday  免田一郎 昭和37年5月1日生

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タブレット端末とカメラOCR技術の活用による窓口業務の革新~本人確認作業を,より速く・正確に・安全に~

に左右されるため,撮影者自身が制御しにくい要因であ

る.こうした課題に対して,PFU では,OCR の失敗

を招く原因の状態をリアルタイムで検知する方式を採用

することで OCR に最適な画質を判定している.

具体的な取り組みについて以下に紹介する.

(1) 斜め撮影の対応

撮影された矩形が確かに運転免許証であることを判定

するには,運転免許証固有のレイアウトや縦横比「1.59

(縦:54.0mm,横:85.6mm)」を元に照合すること

で可能である.しかし,斜め方向から撮影した場合など

は運転免許証が台形で撮影されるため,適切な照合がで

きなくなる.

カメラ OCR では,検出した矩形の 4 点(図 -6の

●の部分)に対して,傾きを示すパラメーターや,焦点

距離および矩形座標の情報を元に正しいアスペクト比

(縦横比)を復元している.これにより,運転免許証固

有のレイアウトのチェックや縦横比の照合が可能とな

り,一定の差異の範囲内であれば運転免許証として判定

している.

(2) テカリへの対応

照明などの撮影環境によって発生するテカリは,文字

や罫線の欠落の要因となり,何度も撮り直しを余儀なく

される.

カメラ OCR では,図-7に示すように,運転免許証

の背景の白色(背景推定)よりも明るい部分を検出した

場合にテカリと判定し,当該部分のテカリ低減を行うこ

とで輝度のムラを補正している.これにより,テカリ文

字も高精度に二値化注7)できるようになり,OCR 認識率

注7) 二値化は,基本的な画像処理の一つで,濃淡のある連続階調の画像を白と黒の 2 階調に変換する処理である.

を向上させている.なお,テカリ低減処理でも復元が難

しい場合は,最適な画像を取得するまでテカリ判定を繰

り返している.

(3) 手ブレへの対応

手ブレによるボケも OCR の失敗原因になる.そのた

め,手ブレが発生している状態での自動撮影を極力抑制

することが求められる.こうした課題に対応するため

に,カメラ OCR では,運転免許証が映し出される位置

が安定しているかどうかを,複数の動画フレームからリ

アルタイムで検知し,一定の時間,位置が安定していれ

ば手ブレがないと判断し,その時点で自動的にカメラの

シャッターを切る仕様にしている.これにより,ボケの

ない OCR に適した画像が取得できる.

このように,単に自動撮影するのではなく,OCR に

最適な画質であることを判定した上で自動撮影している

ため,撮り直しがほぼ不要である.OCR に適した画像

が得られるまでの撮影回数は使い勝手を大きく左右す

◆図 -5 手ブレが原因で文字が判読できない例◆

(Fig.5-Exampleshowingthedifficultyofreading

charactersduetoblurring)

◆図 -6 アスペクト比の復元◆

(Fig.6-Restoringtheaspectratio)

◆図 -7 テカリの判定◆

(Fig.7-Glaredetection)

撮影対象の運転免許証

f:焦点距離

カメラのレンズ カメラのセンサー

f

fV-Angle

T-Angle

H-Angle

輝度

運転免許証の位置

背景推定 背景よりも明るい部分(テカリ)

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る.当社の検証では,カメラ撮影の非熟練者でも,ほぼ

1 回の撮影で済むという結果が出ている.これにより,

画像の撮影から OCR 処理までの全体の操作時間の短縮

を実現している.

5 導入事例この章では,カメラ OCR を活用したシステムを導入

されている,株式会社 NTT ドコモ様の事例について紹

介する.

NTT ドコモ様は,かねてより,顧客満足度を向上さ

せるための活動を積極的に展開しており,特にお客様の

声を活かす仕組みづくりに力を入れている.例えば,コー

ルセンターに寄せられたお客様のご意見やご要望を分析

し,お客様に満足していただける商品やサービスの開発

および改善の実現に向けて検討するといった取り組みを

継続的に実践している.また,直接お客様に応対するド

コモショップなどの部門においても,お客様に快適に過

ごしてもらうために,待合コーナーの設備の充実を図っ

たり,店舗内での勉強会を定期的に実施したりすること

により応対力の向上に努めている参5).こうした取り組

みにより,競争が激化している携帯電話キャリア業界に

おいて,国内の契約者数のシェアは常にトップを堅持し

ている参6).

NTT ドコモ様は,2.1 節で紹介した,スキャナと

OCR ソフトウェアを組み合わせた PFU のスキャン入

力ソリューションにより,すでに,窓口カウンターの効

率化を実現し,待ち時間の短縮も実現していた.しかし,

現状に満足することなく,お客様の待ち時間をもっと短

くしたい,待ち時間を活用してお客様にとってより有意

義な提案がしたい,といった更なる顧客満足度の向上と

効率化を模索されていた.そうしたニーズに応えたのが,

PFU の「カメラ OCR」である.

カメラ OCR は,現在,全国のドコモショップ(約

2,400 店舗)に導入されており,窓口業務の大幅な効

率化,スピードアップに貢献している.NTT ドコモ様

からは,撮影の取り直しが不要となった操作性の改善に

より,本人確認作業の効率化や接客時間の短縮化が図ら

れたことに対して好評価をいただいている.図-8に,

NTT ドコモ様における導入事例を示す.

「カメラ OCR」の導入により,タブレット端末の柔

軟性を活かして,窓口カウンターに加えて接客フロアで

の本人確認作業も可能となり,業務の改善を図ることが

できた.

6 今後の取り組みカメラ OCR は窓口業務における本人確認作業の効率

性,安全性,容易性を実現するソリューションであり,

現在,携帯電話キャリア業界に限らず,窓口業務を行っ

ている多くのお客様から引き合いをいただき,様々な分

野で採用していただいている.

今後も,お客様からの要望を基に以下の取り組みを進

め,更に使いやすい製品にしていく予定である.

(1) 本人確認証のバリエーション拡大

本人確認証の種類は多岐にわたるが,その中でも,利

用の割合が多いとされる運転免許証とマイナンバーカー

ドについては,今回のカメラ OCR で対応できた.これ

により,本人確認作業における大部分の効率化を実現で

きている.しかし,上記以外の本人確認証(在留カード

など)にも対応できないかとの要望も多い.これらにつ

いては,お客様の現場の要望を勘案しながら,技術的な

検証を踏まえて取り組んでいく.

(2) 動作オペレーティングシステムの拡大

カメラ OCR を提供した背景には,近年,企業や自治

◆図 -8 NTTドコモ様における導入事例◆

(Fig.8-CasestudyatNTTDOCOMOInc.)

fi-65F

窓口カウンター

カメラOCRの導入前 スキャナとOCRソフトウェアの組み合わせによる窓口カウンターでの本人確認作業

スキャナを活用した本人確認証のスキャニングとOCRで効率化を実現

□お客様の待ち時間をもっと短くしたい□タブレット端末を業務に活用したい□接客フロアを有効活用したい

窓口カウンター

接客フロア

カメラOCRの導入後 自動撮影で撮り直し不要

接客フロアの有効活用

従来のスキャナとカメラOCRの並行運用による迅速な本人確認作業

カメラOCRによる本人確認作業を先行して接客フロアで行うことで

待ち時間を有効活用

待ち時間を活用してお客様にとって有意義なプランなどをご提案

個人情報漏えいのリスク低減

お客様

新たなニーズ

ドコモショップスタッフ

ドコモショップスタッフ

ドコモショップスタッフ

ドコモショップスタッフ

お客様

上記の運用に加えて

お客様お客様

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タブレット端末とカメラOCR技術の活用による窓口業務の革新~本人確認作業を,より速く・正確に・安全に~

体の窓口業務においてタブレット端末を使うケースが

多くなっているという点が挙げられる.タブレット端

末は,比較的,iOS 端末や Android 端末が多いことか

ら,今回のカメラ OCR では,iOS および Android 端

末上で動作するアプリケーションを開発するための環境

(API)を用意した.しかし,金融業界や保険業界では,

Windows注8)端末の利用が主流になっていることもあ

り,今後は,Windows 上で動作するアプリケーション

のための開発環境もサポートしていく.

(3) ペーパーレス対応

窓口業務において発生する書類のペーパーレス化を検

討されているお客様は多い.一口に窓口業務といっても,

業態によって扱う帳票も大きく異なり,本人確認証と

併せて申請書などの固有の帳票を提示するケースもある

が,こうした帳票自体をペーパーレス化することで,業

務効率を向上したいという強いニーズがある.

こうしたニーズに対しては,本稿で紹介したカメラ

OCR の活用に加えて,PFU が展開している帳票ソ

リューションとの連携を推進していく予定である参7).

窓口業務全体の最適化に向けて,カメラ OCR と,

タブレットを活用した帳票業務のペーパーレスを実現す

る帳票ソリューションを効果的に組み合わせた提案活動

を進めていくことで,お客様のニーズに確実に対応して

いく.

7 むすびPFU では,これまでも,世界 No.1 の実績を持つイ

メージスキャナfiシリーズと帳票識別およびOCRを行

うソフトウェアを組み合わせて,業務を効率化するため

のソリューションを提供してきた.これを支えてきたの

が PFU のスキャナ画像処理技術である.今回紹介した

注8) Windows は,米国 Microsoft Corporation の,米国,日本およびその他の国における登録商標または商標である.

「DynaEye 運転免許証カメラ OCR」および「DynaEye

マイナンバーカメラ OCR」で採用したカメラ画像処理

技術は,このスキャナ画像処理技術のノウハウの蓄積が

ベースになっている.

カメラ OCR の提供により,従来のスキャナに加えて

タブレット端末のカメラが,文字認識のための入力デバ

イスとして新たに追加された.このことは,本人確認作

業の多様なシーンに応じて入力デバイスが柔軟に選択で

きることを意味している.

今後,本人確認作業で扱う対象帳票が,定型帳票は

もとより,準定型帳票注9),非定型帳票注10)へと拡大す

ることも考えられる.こうした状況を鑑みると,今後,

PFU の帳票 OCR 技術をお客様の業務に活用していた

だけるシーンがますます広がることが考えられる.

PFU は,これからもお客様のニーズを取り込んだ,

利用価値の高い製品を提供し続けるとともに,新たなス

キャン入力ソリューションを創造していく.

参考文献参1) DynaEye 運転免許証カメラ OCR 紹介ホームページ

http://www.pfu.fujitsu.com/dlcamocr/

参2) DynaEye マイナンバーカメラ OCR 紹介ホームページ

http://www.pfu.fujitsu.com/mncamocr/

参3) 業務用スキャナ fi シリーズ紹介ホームページ

http://imagescanner.fujitsu.com/jp/

参4) ソフトウェア帳票 OCR DynaEye EX(ダイナアイイーエックス)紹介ホームページ

http://www.pfu.fujitsu.com/dynaeye/

参5) 株式会社 NTT ドコモ:お客様満足度の向上に向けた活動

https://www.nttdocomo.co.jp/support/cs/promotion/

参6) 一般社団法人 電気通信事業者協会:事業者別契約数 2016年度

http://www.tca.or.jp/database/index.html

参7) 帳票ソフトウェア BIP Smart 紹介ホームページ

http://www.pfu.fujitsu.com/bip/bipsmart/

注9) 同じ種類の帳票でも 1 枚ごとに罫線や枠の位置などが微妙に異なる帳票.例えば「源泉徴収票」,「診療報酬明細書」など.

注10) 領収書などのように,同じ種類の帳票でも書式も記載内容も異なる帳票.