インターネットを活用した 新しいテレビ体験の実現を目指して ·...

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研究発表 ■ 2 インターネットを活用した 新しいテレビ体験の実現を目指して WorkingTowardsaNewTVExperience UsingtheInternet 山村千草 ChigusaYAMAMURA ABSTRACT 概 要 WiththedevelopmentoftheInternetandthe widespreaduseofsmartphones,themedia environmentsurroundingusandourlifestyles is changing dramatically. In order for television tocontinuetoliveuptopeople'sexpectations asafamiliarandreliablemediumamidthe diversificationofinformationmedia,webelieve itisnecessarytoredesignwhatTVoughttobe intheInternetandmobileera.NHKSTRLaims toexpandtherangeofTV-linkedexperiences toincludenotjustonesinfrontoftheTVsets butalsooutdoorsandinvariousotherscenes ofourdailylivesbycombiningtheuseof mobiledeviceswith"Hybridcast,"whichisa serviceplatformfortheconvergenceof broadcastingandtelecommunications.This reportdescribestheconceptofa"newTV experience,"whichbringsnewdiscoveriesand valuestoeverydaylifebyprovidingTV programsandrelatedinformationtomobile usersdependingontheirsituations.Wealso presenttwokeytechnologiestorealizethe concept:Onetechnologyis"mediaunifying technology"thatautomaticallyselectsthe appropriatevideoviewingmethodaccordingto user’sreceptionenvironmentandavailable broadcast/Internetchannelsfortheintended program.Theothertechnologyis"content matchingtechnologyfordailylife"thatoffers usersthetopicsandinformationprovidedinTV programsinconnectionwiththeirdailylife. インターネットの発展やスマートフォンの急速な普及に伴 い,人々を取り巻くメディア環境や生活スタイルは大きく変 化している。情報メディアが多様化する中,今後もテレビが 身近で信頼されるメディアとして期待に応えていくには,ネッ ト・モバイル時代におけるテレビの在り方を改めてデザイン していく必要があると考える。当所では,これまで研究開 発に取り組んできた放送通信連携システム“ハイブリッド キャスト”をベースにしながら,モバイル端末を活用し,テ レビ受信機の前だけでなく,屋外も含めたさまざまな生活 シーンの中でテレビ視聴とつながった体験を広げていくこと を目指している。本研究発表では,番組で提供された話題 や情報が,日常の行動と連動して生活の中に新たな気付き や価値をもたらす“新しいテレビ体験”のコンセプトについ て,これまでに検討したサービス例を交えながら説明する。 また,それを支える技術として,伝送路や視聴環境を意識 せずに最適な動画視聴を自動的に選択する「メディア統合 技術」と,番組で提供された話題や情報を日常の行動と連 動させて提供する「行動連携技術」を紹介する。 36 NHK技研 R&D No.158 2016.8

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研究発表 ■2

インターネットを活用した新しいテレビ体験の実現を目指して

Working�Towards�a�New�TV�Experience��Using�the�Internet

山村千草

Chigusa�YAMAMURA

ABSTRACT概 要

With�the�development�of�the� Internet�and�the�widespread�use�of� smartphones,� the�media�environment�surrounding�us�and�our� lifestyles�is�changing�dramatically.� In�order�for�television�to�continue�to� live�up�to�people's�expectations�as� a� familiar� and� reliable�medium�amid� the�diversification�of�information�media,�we�believe�it�is�necessary�to�redesign�what�TV�ought�to�be�in�the�Internet�and�mobile�era.�NHK�STRL�aims�to�expand�the�range�of�TV-linked�experiences�to�include�not�just�ones�in�front�of�the�TV�sets�but�also�outdoors�and� in�various�other�scenes�of� our� daily� lives� by� combining� the� use� of�mobile�devices�with� "Hybridcast,"�which� is�a�service� platform� for� the� convergence� of�broadcasting�and� telecommunications.� This�report�describes� the�concept�of� a� "new�TV�experience,"�which�brings�new�discoveries�and�values� to� everyday� l i fe� by� providing� TV�programs�and� related� information� to�mobile�users�depending�on� their�situations.�We�also�present� two�key� technologies� to� realize� the�concept:�One� technology� is� "media�unifying�technology"� that� automatically� selects� the�appropriate�video�viewing�method�according�to�user’s� reception� environment� and� available�broadcast/Internet�channels� for� the� intended�program.� The�other� technology� is� "content�matching�technology�for�daily� life"� that�offers�users�the�topics�and�information�provided�in�TV�programs�in�connection�with�their�daily�life.�

インターネットの発展やスマートフォンの急速な普及に伴い,人々を取り巻くメディア環境や生活スタイルは大きく変化している。情報メディアが多様化する中,今後もテレビが身近で信頼されるメディアとして期待に応えていくには,ネット・モバイル時代におけるテレビの在り方を改めてデザインしていく必要があると考える。当所では,これまで研究開発に取り組んできた放送通信連携システム“ハイブリッドキャスト”をベースにしながら,モバイル端末を活用し,テレビ受信機の前だけでなく,屋外も含めたさまざまな生活シーンの中でテレビ視聴とつながった体験を広げていくことを目指している。本研究発表では,番組で提供された話題や情報が,日常の行動と連動して生活の中に新たな気付きや価値をもたらす“新しいテレビ体験”のコンセプトについて,これまでに検討したサービス例を交えながら説明する。また,それを支える技術として,伝送路や視聴環境を意識せずに最適な動画視聴を自動的に選択する「メディア統合技術」と,番組で提供された話題や情報を日常の行動と連動させて提供する「行動連携技術」を紹介する。

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が,それに加えて2015年10月,在京民放5局が連携して広告付き無料見逃し番組配信サービスTVer5)を新たに立ち上げた。また,Hulu6)やdTV7)に加え,昨年にはNetflix8)やAmazonプライム・ビデオ9)など,大手OTT(Over The Top)*1事業者の定額見放題VODサービスが日本で次 と々開始され,インターネット上には,数多くの高品質な動画コンテンツが提供されている。

これらのサービスは,テレビ,パソコン,スマートフォンなどでの利用を想定したマルチデバイス環境に対応しており,ユーザーは自分の見たいコンテンツを,自分の好きなタイミング,かつ,自分の好きな環境で楽しむことができる。時間や場所の制約を受けずに自分のペースでコンテンツを楽しむスタイルは,インターネット環境では広く定着してきている10)。

また,モバイル端末を活用したコンテンツ接触により,例えば,電車の中ではテキスト文で書かれた短めのニュースを読み,キッチンでは料理の作り方を動画で視聴するといったように,ユーザーは生活シーンに応じた適切なコンテンツや情報を求めるようになった。膨大なコンテンツから,いかに適切なコンテンツを発見できるかは大きな課題であり,各事業者ともレコメンドエンジン*2の開発などに注力している11)。

3.�ネット・モバイル時代における�“新しいテレビ体験”

3.1 テレビ受信機のIoT化インターネット接続機能を活用したスマートテレビ12)13)の

市場が拡大し,テレビ受信機のIoT(Internet of Things)化*3が進んでいる。テレビ受信機を安価にスマートテレビ化できるGoogle Chromecast14)の登場や,他の端末との 連携を容易にするDIAL(Discovery And Launch)15)プロ トコルなどの広がりも影響し,テレビ画面上でインターネッ ト動画を視聴することは身近になった。また,放送と連携 したスマートテレビとしては, 欧 州のHbbTV(Hybrid Broadcast Broadband TV)16)があり,2015年12月時点で,欧州の15か国において電子番組表や見逃し番組視聴を中心としたサービスが展開されている。

当所でもこれまで,インターネットを活用した豊かな放送サービスを実現するための放送通信連携システム「ハイブリッ

1.まえがき

近年,メディアを取り巻く環境や人々の生活スタイルは大きく変化している。テレビや新聞,雑誌など従来型メディアへの接触が減少傾向にある一方で,インターネットメディアへの接触は着実に増加している1)。特に,スマートフォンやタブレット端末などの急速な普及によって,モバイル端末からのメディア接触は大幅に伸びており,いわゆる「モバイルシフト」の流れは顕著である2)。また,少子高齢化や共働き家庭の増加などの社会環境の変化を背景に,家族がそろってリビングのテレビを楽しむ機会は減り,「お茶の間の家族団らんの象徴」として親しまれてきたテレビは徐々に姿を変えつつある。

その一方で,今でもテレビから得られる情報には高い信頼が寄せられている3)。また,「番組で紹介されたお店や商品がはやる」「番組で取り上げられた内容がインターネット上で多く検索される」「SNS(Social Networking Service)上で番組に関する話題が盛り上がる」といったように,テレビはマスメディアとして強い話題性を持ち,多くの視聴者(以下,ユーザー)の興味や関心を引き付けている。インターネット空間上ではコミュニティー化や集団分極化が進む中で4),マスメディアは共通の話題を提供し,人々の間につながり感や安心感をもたらす一定の効果を生んでいると言える。テレビが今後も共通の話題の源泉として,身近で信頼できるメディアであり続けるためには,インターネットやモバイル端末の利用が日常となった生活空間の中でテレビのサービスに触れられる機会を増やし,ユーザーにとって価値ある体験を提供していく必要がある。そこで当所では,放送通信連携システム「ハイブリッドキャスト」をベースに,屋内のテレビ受信機の前だけではなく,屋外を含むさまざまな生活シーンの中で,モバイル端末を用いて番組や関連の話題に身近に接することができる“新しいテレビ体験”の実現を目指し,研究開発に取り組んでいる。

本研究発表では,近年のコンテンツ接触スタイルの変化について触れるとともに,今回提案する“新しいテレビ体験”のコンセプトを,それを支える2つの技術「メディア統合技術」と「行動連携技術」と併せて紹介する。最後に,今後の課題と展望について述べる。

2.コンテンツ接触スタイルの変化

近年,インターネットによる動画配信ビジネスは急速に発展してきている。これまでもNHKや各放送事業者は,見逃し番組や過去の視聴要望の高い番組を提供するVOD

(Video On Demand)サービスを事業者ごとに行ってきた

*1 通信事業者やインターネットサービスプロバイダーとは無関係に,インターネット回線を通じて,動画や音声などのコンテンツを提供するサービス,またそのサービスを行う事業者。

*2 ユーザーが興味を持つと思われる情報やコンテンツを提案する仕組み。

*3 さまざまなモノをインターネットに接続すること。

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向上させることができる。現行の端末連携機能は,メーカー独自のプロトコルで実装されているため,受信機メーカーが配布する専用のアプリケーション(以下,コンパニオンアプリ)が必要となるが,現在,オープンなウェブ技術を用いた端末連携プロトコルの共通化が進められており,今後は1つのコンパニオンアプリで各メーカーのテレビと連携することが可能となる見込みである(2図)。

このように,ハイブリッドキャストはオープンな技術を採用したことで,インターネット上の膨大な資産を有効に活用できるとともに,他の端末とも容易につながることが可能になった。これによって,テレビはさまざまなインターネットサービスやユーザー行動とも深く連携できる端末へと進化したと言える。

3.2 ユーザー体験の重要性近年,さまざまなサービス分野において,ユーザー体験

(UX:User Experience)25)やユーザー中心設計(UCD:User Centered Design)26)の重要性が注目されている。継続的に利用されるサービスを目指すには,機能や性能面の技術の進展はもとより,ユーザーのうれしさや快適さ,満足度を追求するサービスデザインが必要とされ,多くの企業がユーザー体験をデザインすることに注力している。また,

「テレビで動画を視聴する」「番組表などの画面を操作する」といった個別の動作の利便性や使いやすさを向上させるだ

ドキャスト」(1図)の研究開発および標準規格化に取り組んできた。2013年3月にはハイブリッドキャスト技術仕様1.0版がIPTVフォーラム*4で策定され17)18),ARIB(Association of Radio Industries and Businesses:電波産業会)での標準規格の改定19)を経て,2013年9月に,NHKによるハイブリッドキャストサービスが開始された20)。

ハイブリッドキャストは,HTML5(HyperText Markup Language 5)をベースにした放送通信連携サービスであり,高品質かつ高信頼なコンテンツを一斉に送り届けることができる放送の特性と,ユーザーの個別の要求に応えることができる通信の特性を生かして,表現力とインタラクティブ性を兼ね備えた豊かなサービスを実現することができる。ハイブリッドキャスト対応受信機は,現在8社のメーカーから発売されている。2015年12月時点での累積出荷台数は340万台に上り,今後も順調な出荷台数の推移が見込まれている21)。

2014年 6月 に は,MPEG-DASH(Dynamic Adaptive Streaming over HTTP)*5による動画再生や,放送局以外の事業者がサービスを提供できる放送外マネージドなどの高度なサービスを実現するために,ハイブリッドキャスト技術仕様2.0版が策定され22)23),現在,運用規定24)に合わせた段階的な実用化が進められている。

ハイブリッドキャストの特長の1つに,端末連携機能がある。端末連携機能は,家庭内のネットワーク上で,モバイル端末をテレビに接続することにより,放送番組を視聴しながら手元のモバイル端末で番組の関連情報を閲覧することや,テレビ上で再生された動画をモバイル端末で制御することなどを可能にする。これにより,モバイル端末を放送通信連携サービスのセカンドスクリーンとして,表現性や利便性を

*4 ネットにテレビを接続して映画や番組を視聴するIPTVの国内規格を策定している民間の標準化団体。

*5 ISO/IEC(InternationalOrganization for Standardization /InternationalElectrotechnicalCommission:国際標準化機構/国際電気標準会議)で国際標準化された動画配信方式。

1図 ハイブリッドキャストの概要

映像・音声・データアプリ制御信号

アプリケーション・ネット動画

サーバー

アプリケーション

放送

スマートフォン・タブレット端末

※ Application Programming Interface

通信

ハイブリッドキャスト受信機

アプリケーション

ブラウザー

受信機機能API※

端末連携機能

アプリケーション実行環境

ネット動画再生機能

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欠となる。

3.3 “新しいテレビ体験”のコンセプトインターネットやモバイル端末によるコンテンツ視聴環境が

整った今,我々は改めてユーザーの視点からテレビのサービスを捉え直し,日常生活の中で価値の高い番組や情報に身近に接してもらえるテレビ体験を実現していく。そのためには,これまでリビングのテレビ受信機の前で果たしてきたテレビ

けではなく,その前後の行動も含めた一連の時間の流れの中でどのような価値を提供できるのかが,ユーザーの心をつかむうえでポイントとなる27)。

メディア環境が変化し,ユーザーのコンテンツ接触スタイルが変化する中で,今後もテレビが親しまれるメディアであり続けるためには,テレビによるユーザー体験をより豊かなものとし,ユーザーの満足度を向上させることが必要不可

2図 ハイブリッドキャスト端末連携プロトコルの共通化

3図 “新しいテレビ体験”のコンセプト

※コンパニオンアプリ

ハイブリッドキャスト受信機(A社)

A社仕様

A社CA※

ハイブリッドキャスト受信機(B社)

B社仕様

B社CA

ハイブリッドキャスト受信機(C社)

… …

C社仕様

C社CA

ハイブリッドキャスト受信機(A社)

ハイブリッドキャスト受信機(B社)

共通CA

ハイブリッドキャスト受信機(C社) スマートフォン・

タブレット端末

端末連携共通仕様

現 状 端末連携プロトコルの共通化

テレビ受信機

放送 通信

(1) いつでもどこでも,簡単・快適なコンテンツ視聴(2) 個人の行動や状況に合わせた話題や情報の提供

モバイル端末

持ち出し

モバイル端末

- 共通の話題によるつながり感- 情報の信頼性- 多岐にわたる情報や多様な価値観

テレビ(マスメディア)の価値

生活に寄り添うテレビ

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もう1つは,「多くの人と共有できる話題に接することができる」というテレビの特性を,日常生活空間の中に広げていくアプローチである。テレビには,「社会や他者とつながる感覚」を得られる効果があり,特に「住んでいる場所など自分に関係すること」に対してはその効果が強いと報告されている28)。ユーザーの日常の生活や行動に密着した共通の話題を提供することで,強い「つながり感」を生みだす体験を提供していく。

次章では,上記の各アプローチから進めている2つの技術「メディア統合技術」と「行動連携技術」について,より具体的に述べる。

の役割を,屋外も含めたさまざまな生活シーンの中に拡張していく(3図)。当所では,“新しいテレビ体験”の実現に向けて取り組むべき課題として,2つのアプローチに着目した。

1つは,テレビが本来持つ「電源をつけるだけの簡易な操作で,必ず番組が映る」という気楽さを,モバイル端末を含む多様な視聴環境にも拡張するアプローチである。現状では,配信メディアや利用端末ごとにコンテンツ視聴のための操作が異なり,ユーザーにとって快適な視聴環境が実現できているとは言い難い。今後は,コンテンツの視聴環境が多様化する状況下においても,ユーザーが簡単かつ快適にコンテンツを視聴できる環境を整えていかなければならない。

4図 メディア統合技術の動作例

5図 状況に応じた番組視聴の例

①高校野球が見たい!

視聴環境(信号品質・端末機能など)

配信状況リスト(伝送路・配信形式など)

高校野球の配信状況④③

②高校野球の 配信状況を 問い合わせ

⑥コンテンツ要求

メディア統合エンジン

通信放送

同時配信(通信)

フルセグ(放送)

配信メディアコンテンツ配信状況を管理するサーバー

番組リンク

番組リンク

⑤最適な配信 メディアを決定!

自宅でテレビ

自宅でタブレット

外出先でスマートフォン

視聴環境 配信状況フルセグで高画質!

フルセグ(放送)

ワンセグ(放送)

同時配信(通信)

VOD(通信)

フルセグ(放送)

ネットでリアルタイム視聴!

ワンセグで手軽に視聴!

VODではじめから!

ワンセグ(放送)

同時配信(通信)

VOD(通信)

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番組視聴

ハイブリッドキャスト受信機

モバイル端末 モバイル端末

屋内 屋 外

端末連携

テレビ体験の持ち出し

番組視聴が屋外での実生活シーンで役立つ

行動をきっかけに価値のある番組と出会う

インターネット行動(検索・SNS・購買など)

リアルな行動(訪問・店舗での購買など)

この近くで,番組で紹介されていた美術展やっているんだ!♪

近くの美術展情報

技術の動作例を示す。4図において,受信端末上で動作するメディア統合エン

ジンは,番組コンテンツを示すURL(Uniform Resource Locator)形式で記述された「番組リンク」を基に,サーバー上で管理されているコンテンツの配信状況(配信メディア,配信形式,配信ビットレートなど)を参照し,ユーザーの視聴環境(受信信号の品質,受信端末の機能など)に合わせた最適な配信メディアを自動的に選択する。これによって,ユーザーは配信メディアや利用端末を特段意識することなく,番組リンクをワンクリックするだけの簡易な操作で,視聴したいコンテンツを最適な条件で視聴できるようになる(5図)。

4.“新しいテレビ体験”を支える2つの技術

4.1 メディア統合技術現在,番組コンテンツは,放送,インターネット同時配信,

VODサービスなど多様な方法で視聴されているが,配信メディアや利用端末によってコンテンツを視聴するための操作が異なり,その使いづらさがユーザーのコンテンツ視聴機会を失う要因となっている。そこで,配信メディアや利用端末に依存せず,ユーザーが視聴したいコンテンツを統一的な操作で選択し,利用状況に応じて最適な受信方法で視聴するための技術を開発している29)。4図に,メディア統合

6図 行動連携技術

7図 番組視聴とリアルな行動とをつなぐ行動動線

放送局 サービス事業者

ハイブリッドキャスト受信機

番組データ

視聴データ

各種データ

ハイブリッドキャストアプリ コンパニオンアプリを拡張

(モバイル端末)

提示・通知手法

プライバシー保護

端末間認証連携

Linked Data

Web API

端末連携

行動や状況に合わせたデータのマッチング

行動に合わせた情報や話題の提供

行動連携機能

VOD機能

行動データ

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供の価値を最大化していく。そのためには,放送事業者だけではなく,さまざまなサー

ビス事業者との連携が重要となる。今後,外部の事業者とも連携しながら,共通フレームワークの検討を進めるとともに,端末間の認証連携手法,行動に合わせたデータの構造化およびデータマッチング手法,事業者間でのデータ交換手法,パーソナルデータの安全な管理手法など,個別の技術検討を進めていく。

5.むすび

本研究発表では,インターネットやモバイル端末を活用し,日常生活の中でテレビの価値に身近に触れられる“新しいテレビ体験”のコンセプトを示し,それを支える2つの技術「メディア統合技術」と「行動連携技術」について紹介した。

今後は,“新しいテレビ体験”のコンセプトを具現化したサービスについて,フィールド実験などの場を通して評価を得ながら,ユーザーである視聴者にとって価値の高いテレビ体験の提供を目指して研究開発を行っていく。

4.2 行動連携技術番組の視聴データとユーザーの行動データ,番組に関連

するデータと外部事業者のデータを連携させることで,テレビの話題や情報をユーザーの行動や状況に合わせてマッチングして提供する技術を開発している(6図)。

番組に関連するさまざまなデータを人々の行動(例えば位置情報など)に合わせて構造化しておき,ユーザーの外出先や購買などの行動に合わせた番組情報を提供することにより,日常生活の中で価値のある番組や情報との出会いを創出できる30)。また,テレビのIoT化によって,テレビでの番組視聴とその後のインターネット行動(検索やSNS共有など),実空間上のリアルな行動(訪問,購買など)が一連のユーザー行動としてつながることで,ユーザーの行動動線を意識したサービス提供が可能となる(7図)。ウェブの世界では,インターネット上のユーザーの行動を分析して情報提供の価値を高める研究が盛んに行われているが,我々はハイブリッドキャストと連携可能なモバイル端末上のコンパニオンアプリを用いることで,テレビの視聴からリアルな行動までを含めた一連のユーザー行動において,番組や情報提

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参考文献

1) 木村,関根,行木:“テレビ視聴とメディア利用の現在~「日本人とテレビ・2015」調査から~,” 放送研究と調査,2015年8月号,pp.18-47 (2015)

2) 博報堂DYメディアパートナーズ:“メディア定点調査2015,” http://www.media-kankyo.jp/news/media/ (2015)

3) 総務省:“平成26年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査,” http://www.soumu.go.jp/main_content/ 000357570.pdf (2015)

4) キャス・サンスティーン:インターネットは民主主義の敵か,毎日新聞社 (2003)

5) TVer,http://tver.jp/

6) Hulu,http://www.hulu.jp/

7) dTV,http://video.dmkt-sp.jp/

8) Netflix,https://www.netflix.com/jp/

9) Amazonプライム・ビデオ,https://www.amazon.co.jp/gp/video/primesignup/

10) 電通総研:情報メディア白書,ダイヤモンド社 (2016)

11) 西田:ネットフリックスの時代 配信とスマホがテレビを変える,講談社 (2015)

12) AndroidTV,https://www.android.com/intl/ja_ jp/tv/

13) Apple TV,http://www.apple.com/jp/tv/

14) Chromecast,https://www.google.com/intl/ja_ jp/chromecast/

15) DIAL,http://www.dial-multiscreen.org/dial-protocol-specification/

16) HbbTV,http://www.hbbtv.org/

17) IPTVFJ STD-0010:“IPTV規定放送通信連携システム仕様1.0版” (2013)

18) IPTVFJ STD-0011:“IPTV規定HTML5ブラウザ仕様1.0版” (2013)

19) 電波産業会:“デジタル放送におけるデータ放送符号化方式と伝送方式(5.8版)第四編,” ARIB STD-B24 (2013)

20) NHK Hybridcast,http://www.nhk.or.jp/hybridcast/online/

21) 電子情報技術産業協会CE部会:“AV&IT機器世界需要動向~2020年までの展望~ ” (2016)

22) IPTVFJ STD-0010:“IPTV規定放送通信連携システム仕様2.0版” (2014)

23) IPTVFJ STD-0011:“IPTV規定HTML5ブラウザ仕様2.0版” (2014)

24) IPTVFJ STD-0013:“ハイブリッドキャスト運用規定2.2版” (2016)

25) The Definition of User Experience,https://www.nngroup.com/articles/definition-user-experience/

26) ISO9241-210:“Human-centred Design for Interactive Systems”

27) 朝岡:エクスペリエンス・ドリブン・マーケティング,ファーストプレス (2014)

28) 西,舟越:“人々は,テレビを見ながら何を共有しているのか~「つながり感覚とメディア調査」から~,” 放送研究と調査,2014年6月号,pp.18-47 (2014)

29) 遠藤,大亦,松村,藤澤,加井:“放送通信統合型コンテンツ視聴プラットフォームの提案,” FIT2015,M-021 (2015)

30) 山村,大亦,上原:“屋外行動位置を利用した番組情報提示システムの提案と試作,” 信学技報,Vol.115,No.295,LOIS2015-38,pp.53-58 (2015)

山やま

村むら

�千ち

草ぐさ

2005年入局。名古屋放送局を経て,2008年から放送技術研究所において,アイデンティティー管理,情報セキュリティー,放送通信連携サービスの研究・開発に従事。現在,放送技術研究所ネットサービス基盤研究部に所属。

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