小型ハイブリッド車向け 第3世代パワーコントロールユニット...-88-...

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-88- 野 中 賢 一 *1 池 田 晃 二 *1 石 井   隆 *1 植 野 修 吾 *1 黒 川 和 成 *1 重 政 盛 史 *1 鈴 木 高 見 *1 瀬野尾 和 隆 *1 長 澤 一 哉 *1 中 村 一 樹 *1 中 村 優 太 *1 高 嶋   譲 *1 竹 中   渉 *1 灰 岡 辰 訓 *1 大 塚 勇 樹 *2 樫 村 之 哉 *1 武 林 賢 一 *1 *1 開発本部 電動技術統括部 PCU 開発部  *2 生産技術本部 生産技術三部 ※ 2019 年 9 月 3 日受付 小型ハイブリッド車向け 第3世代パワーコントロールユニット 技術紹介 ベースとして小型ハイブリッド車向けに新た に開発した小型・低コストを特徴とする第3世 代PCU(GEN3-PCU)を紹介する. 2.製品概要 新開発した GEN3-PCU は,駆動用と発電 用のふたつのモータとモータ駆動電圧を可変 する昇圧機能を備え,低燃費と高い走行性能 を両立する小型のストロングハイブリッド車 に搭載されるものである.そのため,GEN3- PCU は,ふたつのモータを制御するインバー タと昇圧回路,さらには車載補器用の DC-DC コンバータを搭載している.これらの多くの 電力変換機能を搭載する一方で,小型車に搭 載するため,GEN2-PCU に対してサイズダウ ンと大幅な低コスト化が求められた. GEN3-PCU の外観図を Fig. 1 に,主要 諸元,回路構成および構成部品展開図を Table 1,Fig. 2 およびFig. 3 に示す.GEN3- PCU は,モータ用インバータ・発電機用イン バータ・リアクトル/コンデンサ/パワーデバ イスから成る昇圧回路(Voltage Control Unit: VCU)とで構成される主回路,主回路を制御す るゲートドライブ回路部と制御回路部,三相 出力および昇圧回路部の電流を検出する電流 センサおよび高圧部の電圧センサ,さらに補 1.はじめに 近年,地球温暖化や大気汚染問題の解決に 向けて,世界各国が自動車への厳しい燃費規 制や排出ガス規制を打ち出しており,多くの 自動車メーカーが急速に電動車比率を引き上 げる方針を表明している.2016年に発効され たパリ協定では,地球の温度上昇を産業革命 前の2℃ 以下に抑えることを目標として定め ており,これを達成するためには 2050年に 90% 以上の自動車を電動化する必要があると の試算結果が IEA から公表されている (1) .電 動車を広く普及させるためには,電動車が従 来のガソリン車と同等以上の性能と利便性を 備え,かつユーザーに受け入れられる価格で 販売されることが必須の条件と考えられる. しかし,自動車を電動化するためには電動車 特有のバッテリー,モータ,パワーコントロー ルユニット(PCU)等の部品を追加することが 必要であることが,車室スペースの減少やコ ストの増加に繋がっており,普及の妨げの一 因となっている.この電動車普及に向けての 課題は,小型車において特に顕著となる.わが 社では,2016 年に独自の All-in-One 型パワー モジュールを搭載した中型2モータハイブ リッド車向け第2世代 PCU(GEN2-PCU)を 製品化した (2), (3) .本稿では,GEN2-PCU を

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Page 1: 小型ハイブリッド車向け 第3世代パワーコントロールユニット...-88- 小型ハイブリッド車向け第3世代パワーコントロールユニット 野

-88-

小型ハイブリッド車向け第3世代パワーコントロールユニット

野 中 賢 一*1 池 田 晃 二*1 石 井   隆*1 植 野 修 吾*1

黒 川 和 成*1 重 政 盛 史*1 鈴 木 高 見*1 瀬野尾 和 隆*1

長 澤 一 哉*1 中 村 一 樹*1 中 村 優 太*1 高 嶋   譲*1

竹 中   渉*1 灰 岡 辰 訓*1 大 塚 勇 樹*2 樫 村 之 哉*1

武 林 賢 一*1

*1開発本部電動技術統括部PCU開発部  *2生産技術本部生産技術三部

※2019年9月3日受付

小型ハイブリッド車向け第3世代パワーコントロールユニット※

技術紹介

ベースとして小型ハイブリッド車向けに新たに開発した小型・低コストを特徴とする第3世代PCU(GEN3-PCU)を紹介する.

2.製品概要

新開発した GEN3-PCU は,駆動用と発電用のふたつのモータとモータ駆動電圧を可変する昇圧機能を備え,低燃費と高い走行性能を両立する小型のストロングハイブリッド車に搭載されるものである.そのため,GEN3-PCU は,ふたつのモータを制御するインバータと昇圧回路,さらには車載補器用のDC-DCコンバータを搭載している.これらの多くの電力変換機能を搭載する一方で,小型車に搭載するため,GEN2-PCUに対してサイズダウンと大幅な低コスト化が求められた.GEN3-PCU の外観図を Fig . 1 に,主要

諸元,回路構成および構成部品展開図をTable 1,Fig. 2 および Fig. 3 に示す.GEN3-PCU は,モータ用インバータ・発電機用インバータ・リアクトル/コンデンサ/パワーデバイスから成る昇圧回路(VoltageControlUnit:VCU)とで構成される主回路,主回路を制御するゲートドライブ回路部と制御回路部,三相出力および昇圧回路部の電流を検出する電流センサおよび高圧部の電圧センサ,さらに補

1.はじめに

近年,地球温暖化や大気汚染問題の解決に向けて,世界各国が自動車への厳しい燃費規制や排出ガス規制を打ち出しており,多くの自動車メーカーが急速に電動車比率を引き上げる方針を表明している.2016年に発効されたパリ協定では,地球の温度上昇を産業革命前の2以下に抑えることを目標として定めており,これを達成するためには 2050年に90% 以上の自動車を電動化する必要があるとの試算結果が IEAから公表されている(1).電動車を広く普及させるためには,電動車が従来のガソリン車と同等以上の性能と利便性を備え,かつユーザーに受け入れられる価格で販売されることが必須の条件と考えられる.しかし,自動車を電動化するためには電動車特有のバッテリー,モータ,パワーコントロールユニット(PCU)等の部品を追加することが必要であることが,車室スペースの減少やコストの増加に繋がっており,普及の妨げの一因となっている.この電動車普及に向けての課題は,小型車において特に顕著となる.わが社では,2016年に独自のAll-in-One 型パワーモジュールを搭載した中型2モータハイブリッド車向け第2世代 PCU(GEN2-PCU)を製品化した(2),(3).本稿では,GEN2-PCU を

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ケーヒン技報 Vol.8 (2019)

技術紹介PCU

Motor

Current sensorsCurrent sensors

Reactor

ECU GD

Current sensorCurrent sensorCurrent sensorsCurrent sensorsCurrent sensors

GeneratorGenerator

IPM

C1HVbattery

DC-DCconverter

V2

+B

C2V1

Hybridsystem

PCU

System maximum voltage [V]

Motor maximum output torque [Nm]

Motor maximum output power [kW]

Maximum total output power [kVA]

Maximum boost voltage [V]

Motor maximum output current [Arms]

Generator maximum output current [Arms]

DC-DC converter maximum output current [A]

Volume [L]

Weight [kg]

GEN2

700

315

135

388

700

320

155

-

8.9

14.3

GEN3

570

253

80

267

570

270

155

140

8.5

13.4

Fig. 2 Circuit block diagram of the GEN3-PCU

Fig. 1 External view of the GEN3-PCU

Table 1 Comparison of specifications between GEN2 and GEN3

DC-DCコンバータをPCUに内蔵している.また,トランスミッションにPCUを直接搭載する構造についてもGEN2-PCUを踏襲している.

機用のDC-DCコンバータを備えている.主回路とその制御回路の構成は GEN2-

PCU と同様であるが,車格の違いによりモータの出力は GEN2-PCU に対して小さい一方で,GEN2-PCUが搭載されたハイブリッド車ではバッテリー近傍に配置されていた補機用

Fig. 3 Exploded view of the GEN3-PCU

IPM

Condenser

Reactor

DC-DCconverter

Upper case

Middle case

Lower case

3.開発の主な狙いと技術ポイント

GEN2-PCU が中型の Cカテゴリー車向けであったのに対して,GEN3-PCUが搭載されるのは Bカテゴリーに属する小型車であるため,GEN3-PCUの開発に当たっては小型化と低コスト化が求められた.本開発では,GEN2-PCU で採用した小型

化に適した独自開発のAll–in-One 型インテリジェントパワーモジュール(Intelligent PowerModule:IPM)構造を踏襲した.GEN2All-in-One 型パワーモジュールの特

徴は,モータ駆動用インバータ・発電機用インバータ・昇圧機のすべての主回路のパワーデバイスを一つのパワーモジュールに統合していること,パワーデバイスがサーマルコンパウンドなどの高熱抵抗の材料を介さずに冷却される直接冷却型であること,パワーデバイスのエミッタと外部バスバ等を接続する主回路配線に一般的なAl ワイヤではなく銅の薄板か

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小型ハイブリッド車向け第3世代パワーコントロールユニット

GEN2

Integrated

Integrated

Separated

Separated

Separated

Not incorporated

GEN3

Integrated

Integrated

Integrated

Integrated

Integrated

Incorporated

1124

236

273

19.3

2,200

250

4

17

4

566

340

184

9.7

1,300

160

3

3

2

Capacitance[µF]

High voltage

Low voltage

Resistance [mΩ at 20ºC]

Power module

Gate driver circuit

Electric control unit

Current sensor

Discharge circuit

Inductance [µH at 0A]

IPMcomponents

Condenser

Reactor

DC-DC converter

Number of parts on ECU/gate driver

Number of parts on power module

Number of PCU cases

Number of harnesses

Number of bus bars

らなるリードフレームが採用されていること等である.これらの特徴により,コンパクトで冷却能力の高いパワーモジュールと PCU の小型化を実現している.GEN3-PCUでは,このAll-in-One 型 IPM

構造を踏襲しつつ,下記の新技術を投入することで,PCUの小型化と低コスト化を目指した.1.機能集約All-in-One 型 IPM2.パワーデバイスの低損失化・小型化3.VCUの小型化と効率向上4.小型化パッケージング5.製造工程の高効率化Tab l e 2 に,PCU 構成部品の GEN2 と

GEN3 の比較を示す.GEN3-PCU では,GEN2-PCUに対して大幅な構成部品の集約・小型化・削減を推し進め,PCUの小型化と低コスト化を実現した.次章以降で,GEN3-PCUに投入した技術の詳細を述べる.

4.機能集約 All-in-One 型 IPM

GEN3 の機能集約All-in-One 型 IPMの特徴は,GEN2 の All-in-One 型 IPMをベースにして高機能化を図っている点にある.Fig. 4に示すように,GEN2-IPMはパワー半導体で構成される大電力主回路とゲート駆動機能および電圧検出機能等を備えていたが,GEN3-IPMには,上位ECUからの指令を受けてゲー

ト駆動状態を制御する制御機能と出力電流をモニターする電流検出機能が追加されている.ハードウエアの観点で見ると,GEN2 ではパワーモジュール・ゲート駆動回路基板(Gatedriver: GD)・3モジュールとハーネスで構成されていた電流センサ Assy・制御回路基板(Electricalcontrolunit:ECU)・常時放電抵抗・パネルロックコネクタ/ハーネスAssy・ECU-GD 間ハーネスの9部品で構成されていた部分を GEN3 ではすべて IPM に統合している(Fig.5).また,新規 ICの採用,回路機能の統

Table 2 Breakdown for parts of GEN2-PCU and GEN3-PCU

Gatecontrol

Gatedrive

Mainswitches MOTCurrent

sensingVoltagesensing

GEN2 IPM

GEN3 IPM

Fig. 4 Comparison of integrated functions in IPM between GEN2 and GEN3

GEN3GEN2Power module

Gate driver

ECU

Current sensor assy

Panel lock connector assy

Discharge resistor

GD-ECU harness

Fig. 5 Integrated components in the GEN3-IPM

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ケーヒン技報 Vol.8 (2019)

技術紹介

GEN2

GEN3CS: current sensorVS: voltage sensor

: low-voltage area: high-voltage area

Dis

char

geci

rcui

t

GEN MOTVCUGate driverupper arm

Gate driverlower arm

GEN MOTVCU

CS (VCU)

CS (GEN) CS (MOT)

Control circuit,power supply, etc. V

S

DC Bus

CS core

CS core (GEN) CS core (MOT)

GEN MOTVCU

GEN VCU MOT

RC-IGBTupper arm

RC-IGBTlower arm

(A) PCB

(B) PM

合・削減等により,GD 基板および ECU に実装する部品点数も約40% 削減できた.さらに,この機能集約により,各機能間の電気的接続がハーネスを介さずに構成されノイズ耐性が高められたため,ノイズフィルタの削除あるいは定数低減ができ回路応答性の向上が図れた.具体的には,電流,電圧および温度検出の精度と応答性が高まり,制御性を向上させることができた.GEN3-IPMを実現する上での主な技術ポイ

ントは下記の3点である.1.機能集約に適したパワーモジュールと回路基板設計

2.回路基板の小型化技術3.電流センサ集積技術

4.1. 機能集約に適したパワーモジュールと回路基板設計

Fig. 6 にパワーモジュールと回路基板の構成を示す.GEN3 のパワーモジュールでは,中央に高電圧の DC バスラインが配置され,その両側にインバータの主回路の上下のアーム,さらにその外側に電流センサの磁気コアが配

Fig. 6 Configurations of PM and PCB in the GEN3-IPM

置されている.一方,回路基板では,中央に低圧の制御回路部,その両側に高圧のドライブ回路部,さらにその外側に電流センサを構成するホール ICなどからなる電流検出回路部が配置されている.また,回路基板の短辺の一方に低圧の外部インターフェース部品,もう一方の短辺に高圧の電圧検出回路および放電回路部が配置されている.このような構成とすることで,回路基板に多くの機能を搭載しつつ,コンパクトな IPMを実現することが可能となった.

4.2. 回路基板の小型化技術4.1. で述べた回路基板構成を実現するため

には,回路基板の限られた面積内に制御回路,ゲート駆動回路,電流センサ回路等を集積するための部品点数の削減と実装密度の向上が必要であった.一例として,GEN2 の電圧検出回路は,抵抗アレイとオペアンプで構成され,部品点数が約180点,実装面積が約2,500mm2

であったが,GEN3 ではこれらの部品を IC化することにより,部品点数18点,実装面積約270mm2 まで大幅に削減できた(Fig . 7).また,各アームを駆動するゲート駆動用の複数の電源,制御回路とゲート駆動回路の電源の共有化などを取り入れた.さらに,制御回路・ゲート駆動回路・電流センサ回路を一体化することにより,ノイズフィルタ回路・コネクタ等の点数を大幅に削減することができた

Fig. 7 Integration of voltage sensing circuit

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小型ハイブリッド車向け第3世代パワーコントロールユニット

CoreBus bar

Hall IC PCB

Water jacket

(Fig. 8).実装技術の観点では,車載部品に求められる高い信頼性を保ちつつ,絶縁距離の短縮やハンダ付け実装の高密度化により実装面積の削減を実現している.

4.3. 電流センサ集積技術Fig. 2 で示した通りGEN3-PCUには7相

分の電流センサが搭載されている.GEN2-PCU の電流センサは,モータ用3相分,発電機用3相分,VCU用1相分の3個の電流センサAssy と ECU間の接続ハーネスで構成されていた.GEN3 では,これらをすべて IPMに集積した(Fig.9).Fig.10 に IPM集積電流センサの断面構造図を示す.電流センサを構成

する磁性体コアをパワーモジュールケース内にバスバを囲むように配置し,ホール IC は回路基板に実装する.この構成によって IPMに電流センサが集積されるため,GEN2 で用いていた電流センサ専用のハーネス,Assy ケース,回路基板などが不要となり,大幅な小型化と部品点数の削減が可能となる.この IPM 集積電流センサを実現する上で

は,動作環境と製造工程で加わる温度を考慮した構造とすること,IPM 状態での特性補正を可能とすることが課題であった.電流センサが曝される動作温度範囲は非常

に広いが,温度変化に起因する応力によるコアギャップ長の変化が電流センサの特性に大きな影響を与える.また,Fig. 11 の製造工程フローに示すように,磁性体コアはパワーモジュールケースに実装された後に,他の部品のハンダ付けをするリフロー工程で高温状態に曝されるため,その熱ストレスの影響でコア固定部の剥離などの構造上の不良が発生しないよう考慮する必要がある.そのため,磁性体コアをパワーモジュールケースに固定する材料および構造は,動作環境での温度変化に

Filter

Filter

Control circuitLV-PS

FilterFilter

Filter

CN CN

CN CN CN

12V power linefilter

LV-PS VS

CN

CN

Filter

LV-PS12V power line

filter

CS CS

CS

Control circuit VS

Ext

erna

l I/F

conn

ecto

r

Dis

char

ge c

ircu

it

Filte

r

ECU Gate-drive circuit

ECU/Gate-drive circuitCSVSGDPSCN

: Current sensor: Voltage sensor: Gate driver: Power supply: Connector

(A) GEN2

(B) GEN3

Fig. 8 Comparison of component layouts on PCB between GEN2 and GEN3

ECU/GD

ECU

Current sensor

Hall IC × 7

Core × 7

(A) GEN2

(B) GEN3

Fig. 9 Comparison of current sensor configuration between GEN2 and GEN3

Fig. 10 Cross-sectional view of integrated current sensor

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ケーヒン技報 Vol.8 (2019)

技術紹介

0

20

40

60

80

100

GEN2 A B C D GEN3

Dev

ice

area

[%

]

: Specification change from GEN2 to GEN3: Power loss reduction in RC-IGBT: High-temperature operation: Use of RC-IGBT

ABCD

Fig. 12 Comparison of power device areas between GEN2 and GEN3

よるコアギャップ長の抑制とリフロー工程での熱ストレスに対する構造上の耐性を考慮して設計される.また,ホール IC は基板の部品実装工程で基

板に実装される.その後,パワーモジュールと回路基板が接続される IPM工程で電流センサの構造が完成する.電流センサを高精度化するためには,磁性体コアと磁界を検出するホール IC の個体間バラツキを補正する必要がある.これは,電流センサ完成後に実際に電流を流して行うゲイン調整により可能である.そのため,GEN3 では,回路基板上にゲイン調整が可能な回路を搭載して IPM状態でのゲイン調整を可能にしている.

1.RC-IGBTの採用2.パワーデバイス損失の低減3.高温動作化4.デバイス保護機能の高精度・高速化その結果,GEN2 と GEN3 の車格の違いに

よる出力差を差し引いても,GEN2 に対してパワーデバイスの面積を 1/2以下に低減することができた(Fig.12).

5.1. RC-IGBT の採用RC-IGBT(ReverseConducting IGBT)は,

IGBT とダイオードの二種類のデバイスを一体化したものである.Fig. 13 に RC-IGBTチップの平面図と断面構造図,Fig . 14 にパワーモジュールに搭載される1アーム分のパワーデバイスと関連部品を実装した状態の平面図を示す.これまで幅広く使われてきたIGBT/ダイオードペアからRC-IGBTへの変更は,デバイスの面積低減,パワーモジュールの小型化と実装部品点数の削減の観点で大きなメリットがある.先にデバイス面積の低減について述べる.

従来の IGBT/ダイオードペアの場合には,デバイス温度検出用の感温ダイオードは IGBTにのみ設けられている.そのため,ダイオードの面積を決定する際には,温度が計測できな

Gaincorrection

Coremount

PM process

PM-boardsolder connection

Soldering of power devices etc.

Circuit board process

Hall ICmount

IPM process

Fig. 11 Production flow of integrated current sensor

5.パワーデバイスの低損失化・小型化

車載モータ駆動インバータ用のスイッチング回路には,通常,シリコンパワー半導体スイッチである IGBT(InsulatedGateBipolarTransistor)と整流特性を有する二端子素子のダイオードが使われる.パワー半導体デバイスは,PCUの出力電力や効率に大きな影響を与える重要部品であると共に高コストな部品でもある.デバイス面積を減らすことで低コスト化ができるが,同時に損失が増えて最大出力電力が低下する.必要とされる出力電力や効率を確保しながら,いかにデバイス面積を縮小できるかがポイントとなる.これを実現するために本開発では,下記の取り組みを実施した.

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小型ハイブリッド車向け第3世代パワーコントロールユニット

p+p+ n+n+

Emitter

GateGate

Collector Cathode

Anode

IGBT area Diode area

(A) Top view of RC-IGBT chip

(B) Cross-sectional view of RC-IGBT cell

Guard ring

Temperature sensingdiodeTemperature sensingdiode

(A) IGBT/Diode pair (B) RC-IGBT

Diode

IGBTRC-IGBT

DCB substrate

Lead frame

い分のマージンを見込んで広めに設定する必要がある.それに対して,RC-IGBTではひとつの感温ダイオードで IGBT 部とダイオード部の両方の温度を検出できるため,ダイオード部の面積を大幅に削減することができる.また,Fig . 15 に示すようにダイオードのスイッチング損失は,デバイス面積を縮小することで低減できるため,RC-IGBT化によりスイッチング損失も低減することができる.さらに,特にVCUにおいては,IGBTかダ

イオードの一方のみが動作するモードが多い

が,RC-IGBTの場合には発生する熱が IGBT部とダイオード部の両方の領域を通じて放熱されるため熱抵抗が下げられ,この点もデバイス面積の低減に貢献する(Fig.16).加えて,従来の IGBT/ダイオードペアでは,

各々のデバイスの外周部に耐電圧性を確保するためのガードリングを有していたが,RC-IGBT では1チップ化によりガードリング面積も削減できる.これらの効果により,IGBT/ダイオードペアの場合と比較して約10% 程度の面積削減が可能となる.また,RC-IGBTの採用により,デバイス数

の大幅削減に加えて,それに付随するハンダ材料数の削減,リードフレームおよびDCB基板の小型化が可能となる(Table 2,Fig. 14).その結果,パワーモジュールの小型化・低コスト化も実現できる.

Fig. 13 Top view and schematic cross-sectional view of RC-IGBT

Fig. 14 Layout structures of power devices and related parts in PM

987654321

10

010080604020 1200

Dio

de S

witc

hing

loss

Err

[m

J]

Diode area [mm2]

Fig. 15 Diode switching loss vs. device area

Fig. 16 Heat generation and dissipation in RC-IGBT

Heat generation(Diode or IGBT area)

DCB

RC-IGBT

Heat dissipation

Page 8: 小型ハイブリッド車向け 第3世代パワーコントロールユニット...-88- 小型ハイブリッド車向け第3世代パワーコントロールユニット 野

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ケーヒン技報 Vol.8 (2019)

技術紹介

5.2. パワーデバイスの損失低減パワーデバイスの損失を低減するためには,

パワーデバイス自体の特性を向上させ損失を低減させる方法とパワーデバイスに印加する電力負荷(電流・電圧やスイッチング周波数)を低減する方法が考えられる.GEN3 では,パワーデバイスメーカーの最新世代のデバイスを採用してデバイス自体の損失を低減すると共に,OEM の協力を得て車両に求められる走行性能を満たす範囲でパワーデバイスに印加する電力負荷を極力低減することに取り組んだ.Fig. 17 に,VCU を例にその概念図を示す.VCU は,車両の上位要求に応じてモータのトルクと回転数が出力できるように電圧と電流を制御する.エンジンも含めたハイブリッド車としての動作の最適化により,モータに印加する電圧,電流,スイッチング周波数を最適化することで,出力特性と低損失化を両立させた.これらにより,約30% のデバイス面積削減効果が得られた.

5.3. 高温動作化パワーデバイスをより高温で動作させる

こともデバイス面積を低減する有効な手法である.高温動作化させる手段としては,デバイス自体の許容最高動作温度を上げることとパワーデバイス温度の検出精度向上および検出速度の高速化が考えられる.パワーデバイ

スの温度は,RC-IGBT の中央に設けられている感温ダイオードを使って検出している.Fig. 18 に示すように,GEN3 では,ECU とゲート駆動回路を一体化しさらに感温ダイオードの情報をデジタル信号としてマイコンで読み込むことで,温度検出精度と速度の向上が図られ,デバイス温度換算で5以上の高温動作化が実現できた.また,VCU の下アームで RC-IGBT を2並列で使用しているが,あらかじめマイコンに両方の感温ダイオードの特性を記憶させ,両方のデバイスの温度を常時計測することで,検出精度を5以上向上することができた.以上の高温動作化の取り組みにより,デバイス面積を 10% 以上低減できた.

5.4. デバイス保護の高精度化・高速化これまで述べてきたように,デバイスの損

失低減や動作温度の向上を進めてデバイス面積を縮小していくと,デバイス温度ではなく安全動作領域でデバイス面積が制限される場合が生じる.そのような状況に対応するためには,電流/電圧の検出速度を高めて保護動作の高速化を図ることが有効な手段である.GEN3 では,電流センサ・ゲート駆動回路・制御回路を一体化したことで回路応答性が向上

Fig. 18 Comparison of the device temperature sensing circuit between GEN2 and GEN3

(A) GEN2

Inte

grat

or

Mic

ro c

ompu

ter

AD

C

GD

ICG

DIC

Mic

ro c

ompu

ter

AD

C

(B) GEN3

SEL

Before

BeforeAfter

I

V

700

600

500

400

300

200

100

01086420

Vol

tage

[V

]/C

urre

nt [

A]

Time [s]

After

Fig. 17 Suppression of heat generation during the VCU operation

Page 9: 小型ハイブリッド車向け 第3世代パワーコントロールユニット...-88- 小型ハイブリッド車向け第3世代パワーコントロールユニット 野

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小型ハイブリッド車向け第3世代パワーコントロールユニット

し,過電流の保護動作においては,過電流を検出し RC-IGBT を遮断するまでの遅延時間(Tdelay)を 1/2以下に低減できた.このことにより,一例としては 200A 程度の過電流抑制が図られ(Fig. 19),安全動作領域でデバイス面積が制限を受けない状態を作り出すことができた.

正なスイッチング周波数を設定することで,VCU全体としての損失を低減することができた.また,リアクトルのサイズも2割程度低減できた.また,コンデンサの小型化のためにはコン

デンサの容量を低減することが必要だが,容量の低減は PCU 内部と外部負荷が持つインピーダンスの共振による電圧変動を増大させる懸念がある.さらに,コンデンサに流れる電流密度が上がり温度が上昇しすぎることが課題となる.このふたつの課題を解決することがコンデンサ容量を低減し小型化を達成するためには必要である.電圧変動の増大に対しては,電流制御,電圧制御のカスケード制御,および外乱オブザーバ,Duty 推定演算器,Duty 相殺演算器を新たに開発し(Fig. 22),これらを用いることで広い周波数領域に渡って電圧共振ゲインを抑制し負荷電流の AC 成

Fig. 19 Schematic waveforms in overcurrent protection operations of GEN2 and GEN3

IC

Vg

GEN3

Tdelay

IC

Vg

GEN2

Tdelay

Ith

~200A

Time

Col

lect

or c

urre

nt: I

c

Gat

e vo

ltage

: Vg

Fig. 20 Circuit diagram and components of the VCU

C1HV

battery

V1P

N

V2P

C2

ResistanceInductance

Ripple current

LargeSmall

Ripple currentIron loss

Conduction loss Switching loss

LargeSmall Frequency

Fig. 21 Ripple and loss dependence on the VCU parameters

6.VCU の小型化と効率向上

VCU の回路図を Fig. 20 に示す.GEN3-VCU の開発に当たっては,求められる電圧・電流制御特性を備えた上で,主にリアクトルとRC-IGBTで発生する電力損失を抑制し,また,PCU構成部品の中でも大きな体積を占めるコンデンサおよびリアクトルを小型化することに主眼を置いた.VCUの電力損失の大半は,主にリアクトル

の巻き線で発生する銅損と磁気コアで発生する鉄損,そしてパワー半導体スイッチで発生するオン損失とスイッチング損失で占められる.また,VCUの機能としてリップル電流・電圧を一定以下に抑制することが求められる.これらの損失とリップル電流は,リアクトルの巻き線抵抗値と VCU の動作周波数によってFig. 21 のように変化する.さらに,これらの値の大小関係は VCU の動作点によって変化する.GEN3-VCUでは,リアクトルの巻き線抵抗値を GEN2 に対して 1/2以下として銅損を低減した上で,VCUの動作モード毎に適

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ケーヒン技報 Vol.8 (2019)

技術紹介

7.小型化パッケージング

GEN3-PCUは,GEN2-PCUと同様にエンジンルーム内のトランスミッション上に直接搭載されている.また,GEN3-PCU は,小型ハイブリッド車向けであることとGEN2-PCUにはないDC-DCコンバータ(Fig. 25)を内蔵していることから,GEN2 に対してより厳しいパッケージング上の制約を受ける.DC-DCコンバータは,車載12V 系の電気機器に電力を供給する電力変換器であり,スペースと熱・振動の厳しい条件下で,高効率を保ちながら最大出力2.1kW の能力を有するよう設計されている.Fig. 24 に,GEN2-PCUと GEN3-PCUの

断面構造の模式図を示す.トランスミッション直載に対応するためには,エンジンとモータから PCU に伝わる熱と振動を考慮する必要がある.熱の観点では,主な発熱部品であるパワーモジュール,リアクトル,DC-DC コンバータが直接水冷されるよう配置され,コンデンサは周囲温度が低く保たれるよう上下を冷却水路が囲むように配置されている.このような冷却構造の強化により,コンデンサ,リアクトルや DC-DC コンバータなどの部品の小型化が実現できている.また,振動の観点では,低い PCU 重心位置,エンジン・モータから PCU が受ける振動周波数と部品固有振動周波数の分離,応力緩和構造,部品固定の強化などを考慮した設計となっている.

GD PCB

ECU PCB

PM

Condenser Reactor

R

W/J

3PN

C

PC

DC

CS

CS DC-DCconverter Reactor

Condenser

ECU/GD PCB

PM CSW/J

3PN

C

PC

DC

(A) GEN2 (B) GEN3

PCDCRW/J

: External I/F connector: DC power line connector: Discharge resistor: Cooling water jacket

IP 3PCN

: Current sensor: 3-phase connector: Harness: Bus bar

Fig. 24 Comparison of schematic configurations of PCU between GEN2 and GEN3 Fig. 25 External view of the DC-DC converter

Fig. 22 Control block diagram of ripple suppression during the VCU operation

iLf

vpf

vSf

iL

vp

vS

iS = iSdc + iS

ac

Voltagecontroller

Dutycompensation

operator

Currentcontroller

Approximatedisturbance

observer

Duty estimationoperator

Current targetgenerator

Hi Lo

Gat

e/PW

MC

PU/A

D I1 sensor

V1 sensor

V2 sensor

vS*

vL* Don

*iL*

vbvS

vp

iL

iS

Fig. 23 Magnitude plots with and without applying ripple suppression

Frequency [Hz]

Gai

n [d

B]

15

10

5

0

−5

−10

−15

−20

−25

20

−301000100101 10000

With new control With new control

With conventional control(Different duties)

With conventional control(Different duties)

分を低減することを可能とした(Fig. 23).また,温度上昇に対しては,次節で述べるようにコンデンサの上下を冷却水路で覆いコンデンサの温度上昇を抑える構造を採用した(Fig.24).これらの対策によって,コンデンサ容量を GEN2-PCU に対してほぼ半減することができた.

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小型ハイブリッド車向け第3世代パワーコントロールユニット

し,パワーデバイスと絶縁基板,リードフレームからなるサブ・コンプと呼ぶ部分のハンダ付けを1回目のリフローで実施し,サブ・コンプの検査後に,2回目のリフローで残りの部分のハンダ付けを実施していた.GEN3 では,GEN2 の量産実績から得られたノウハウを活かし,リフロー前のパワーデバイス検査やリフロー工程を改善し,かつパワーデバイスの個数・面積を大幅に削減できたことなどにより,リフロー工程を一括して実施することを可能とした.以上の取り組みにより,GEN3 では PCU製

造工程の大幅な高効率化が実現でき,低コスト化に寄与した.

9.まとめ

小型の2モータハイブリッド車向けにGEN3-PCUを新開発した.小型車用PCUであることから,特に小型・低コスト化が強く求められたため,小型化に優位性のある GEN2-PCUの All-in-One 型 IPMをベースとして,構成部品の集約・小型化・削減と工程短縮や自動化などの製造工程の高効率化を推し進めた.その結果,GEN2-PCU に対して,DC-DC コンバータを新たに追加した上で小型・軽量かつ低コストなPCUを実現することができた.

参考文献

(1)IEA“EnergyTechnologyPerspectives2015”

(2)Y.Kashimura,Y.Negoro,“Transmission-MountedPowerControlUnit withHighPowerDensity forTwo-MotorHybridSystem”,SAETechnicalPaper2016-01-1223,2016.

(3)松本栄伸,他“ハイブリッド車向けパワーコントロールユニット” K e i h i nTechnicalReviewVol.5,P.32-35(2016)

さらに,サージ電圧の抑制のため,パワーモジュールと高圧コンデンサ間の距離を短縮している.上記の熱,振動,電気の観点を考慮した上

で,GEN3-PCUでは,これまでに述べた IPMへの機能集積,RC-IGBTの採用およびVCU新制御方式などによる大幅な部品の点数削減と小型化を実現していることにより,DC-DCコンバータを内蔵した上で,GEN2 に対して小型・軽量なPCUを実現している(Table2).

8.製造工程の高効率化

GEN3-PCU では,組み立て時に人手に頼る必要があったハーネスなどの部品を含め,大幅な部品点数の削減を実現できたため,製造工程の短縮と自動化を進めることが可能となった.また,GEN2 では2回のリフロー工程で実

施していたパワーモジュール内の部品のハンダ付け工程を,GEN3 では1回のリフローで完了する工程短縮を取り入れた(Fig. 26).パワーモジュール内には,パワーデバイス・リードフレーム・絶縁基板・水冷ジャケット・パワーモジュールケース内バスバ間を接続する 70箇所以上(GEN2 では 110箇所以上)のハンダ付け部分がある.GEN2 では,歩留まりを考慮

Fig. 26 Comparison of power module production processes between GEN2 and GEN3

(A) GEN2

(B) GEN3

2ndreflow

Powerdevice

inspectionSub-assyinspection

Powermodule

inspection

1st reflow 2nd reflow

Powerdevice

inspection

Powermodule

inspection

Combined reflow

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技術紹介

これから到来する本格的なクルマの電動化社会に向けて,その実現の一助となる製品が開発できたと考えています.要素技術の開発から量産までの長期間にわたり様々な形でお世話になりました本田技術研究所様,本田技研工業様,部品メーカー様,社内の関係者の皆さまに深く御礼申し上げます.(野中)

著 者

野 中 賢 一