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リーダーシップ Copyright ©Masahiko Fujimoto この3人の人物に共通する影響力の特徴とは何か 坂本龍馬 1836年~1867年) マハトラ・ガンジー 1869年~1948年) ルーサー・キング牧師 1929年~1968年)

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リーダーシップ

Copyright ©Masahiko Fujimoto

この3人の人物に共通する影響力の特徴とは何か

オーソリティ(権限)を持たないリーダーシップはじめは全くオーソリティを持たないが、次第に広範な非公式のオーソリティを獲得し,人々に対して「価値観を明確にし、厳しい現実に面と向かい、新たな可能性をつかむように仕向ける」

出所) Heifetz, R. A. (1994) Leadership without easy answers, Harvard University Press(幸田シャーミン訳『リーダーシップとは何か』産能大学出版部、1996年)

坂本龍馬(1836年~1867年)

マハトラ・ガンジー(1869年~1948年)

ルーサー・キング牧師(1929年~1968年)

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リーダの種類:リーダーシップとオーソリティの関係

リーダーシップ オーソリティ(権限・権威)

人々の心を動かす影響力 人々の体を動かす影響力

フォロワーが、リーダーが示すビジョンや指示の価値を判断し、喜んでそれに従うべく主体的

に行動させるような影響力

フォロワーが、リーダーのビジョンや指示の価値を無批判的に受け入れて、それに従って強制的に行動させるような影響力 ※面従腹背

「任命されたリーダー」もしくは「選挙で選ばれたリーダー」

リーダーシップ オーソリティ

「自然発生的なリーダー」

House, R.J. and Baetz, M.L. (1979) “Leadership: Some Empirical generalizations and new research directions,” Research in Organizational Behavior, Vol.1, pp.341-423を参照して作成

「人間の集団的努力を喚起して集団の目的を効果的に達成していくためにリーダーが集団成員に対して行使する対人的な影響力」(占部都美編『経営学辞典』中央経済社)

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リーダーシップ理論研究の系譜

出所)南隆男ほか(1993) 『組織・職務と人間行動』ぎょうせい、p.97より作成

特性発見論的アプローチ 行動記述論的アプローチ 状況適合論的アプローチ

定義と前提条件

「リーダーシップ=人間に先天的に賦与された特殊な能力ないし資質」(→優れたリーダーシップを発揮できる人間は、“生まれながらにして決まっている”)

「リーダーシップ=人間に後天的に学習された行動のスタイル」(→優れたリーダーシップを発揮できる人間を“育て創り出して”いくことができる)

「リーダーシップ=対人的な影響づけの社会交換プロセス」(→優れたリーダーシップの発揮は、リーダーそのひとの側の条件だけでうんぬんすることはできない)

研究アプローチ

その特殊な能力ないし資質とはいかなるものか。“偉人”や“天才”と目される人々に特有な生物学的そして心理学的な諸特性があるはずだ。それを発見していこう

その行動スタイルとはどんなものか。実際に“優れたリーダー”と目されている人々の現実行動には共通した特定のスタイルがみられるはずだ。それを観察し記述していこう

その社会交換プロセスはどうなっているのか。リーダーそのひとの諸特性、メンバーの側の諸特性、両者を取り囲んでいる環境的状況の諸特性との相互作用のあり方を解析していこう

実践的な応用

そういう諸特性を“早期に鑑別していく方法”を開発して、リーダーたるべき人間を発掘して組織に採り入れていかなければよいではないか

その特定スタイルを学習させていく“訓練プログラム”を開発して、リーダーの位置にある人間に訓練を施していけばよいではないか

その相互作用のダイナミックスに合わせて、人事配置や職務デザインを適合化させていく“組織開発”を推進していけばよいではないか

リーダーシップ研究の視点と方法

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英雄としてのリーダー偉人説

「偉人には、何らかの神の如き或るものがある」

本来、人間は誰でも同一の材質で成り立っているが、「『生』の神聖な深意に通じる偉大な霊魂」が与えられ、それを悟ることによって英雄としての偉人となる(ex. マホメット、シェークスピア、ルター、ナポレオンなど)。

出所)トーマス・カーライル著(柳田泉譯訳)『英雄及び英雄崇拝』春秋社、1949年(原著:1841年;1907年)より

リーダーシップ「偉人説」とは、「偉大なリーダーは何らかの特殊な特性をもち、それにより場面・状況にかかわらず重要な地位に昇りつめることができる」 という前提に立つ( Chemers, M. M. (1997) An integrative theory of leadership, Lawrence Erlbaum(白樫三四郎訳『リーダーシップの統合理論』北大路書房、1999年、p27

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リーダーシップ行動(スタイル)の研究

リーダーシップ行動(スタイル)の研究(クルト・レヴィン、1939)

小集団でのリーダーシップスタイルによる実験

民主的

→個々人の満足度が最高で、積極的かつ規律正しく目的遂行

専制的

→攻撃的活動が最も高い

自由放任的

→リーダーがいるときは目標志向行動は高いが、いなくなると著しく低下

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普遍的なリーダーシップ行動(スタイル)

主な実証研究

オハイオ研究 ミシガン研究 PM理論(三隅二不二)

実証研究の方法

リーダー行動を把握するために、150項目のリーダー行動記述質問票(Leader Behavior Description Questionnaire; LBDQ)による因子分析

工場管理者の部下からのヒアリング調査によって管理者のリーダーシップスタイルの特徴を導出

5000人以上もの日本人従業員と管理者の調査(24項目のリーダーシップ行動記述質問票)からの因子分析

仕事志向軸

構造づくり(Initiation of structure):集団活動の系統化、構造化、関係の明確化、部下を課題達成に向かわせる

生産性指向(Production-oriented):計画、管理、生産性を重視

業績達成(performance):集団目標を形成し達成することを含む課題遂行機能

人間志向軸

配慮(Consideration):上司と部下のオープンなコミュニケーション、相互信頼と尊敬、部下の意思決定参加、相互の思いやり

従業員指向(Employee-oriented):部下との調和、オープンな関係、他の容認、部下の問題や課題への関心

人間関係維持(maintenance):集団の社会的安定を維持する機能

実証研究で導出された普遍的な2つの基軸(1950年代~60年代)

出所) Chemers, M. M. (1997) An integrative theory of leadership, Lawrence Erlbaum(白樫三四郎訳『リーダーシップの統合理論』北大路書房、1999年、pp.31-32、pp.182-183を参照して作成)

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職場における管理者行動スタイルのパターン

業績に対する関心

人間に対する関心

1 5 9

9・9チーム型

1・1不毛型

9・1カントリークラブ型

1・9権威従順型

5・5

マネジリアル・グリッド(R.B.ブレーク&J.ムートン、1969)

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リーダーシップ行動スタイルのチェック

下の選択肢の中から該当する項目の点数を白い空欄のセルにつけてください。全然していない  めったにしない  ときどきしている  よくしている  いつもしている     1          2          3          4         5

No. P M1 あなたは規則に決められた事柄に部下が従うことをやかましく言いますか2 あなたは職場に気まずい雰囲気があるとき、それをときほぐすようなことがありますか3 あなたは部下の仕事に関して厳しく指示命令を与えますか4 あなたは仕事のことで部下と気軽に話し合うことができますか5 あなたは部下に仕事を与えるときに、いつまでに仕上げればよいかを明確に示していますか6 あなたは仕事に必要な設備の改善などを部下が申し出るとその実現のために努力しますか7 あなたは仕事量のことをやかましく言いますか8 全般的にみてあなたは部下を支持していますか9 あなたは部下に所定の時間までに仕事を完了するように要求しますか

10 あなたは部下の個人的な問題に気をくばっていますか11 あなたは部下を最大限に働かせようとすることがありますか12 あなたは部下を信頼していると思いますか13 あなたは部下がまずい仕事をやったとき、部下を責めるのではなく仕事ぶりのまずさを責めますか14 あなたは部下が優れた仕事をしたとき、それを認めていますか15 あなたは部下が担当している機械、設備のことを知っていますか16 職場で問題が起こったとき、あなたは部下の意見を求めますか17 あなたは部下にその日の仕事の計画や内容を知らせていますか18 あなたは部下の立場を理解しようとしていますか19 あなたは部下の仕事の進み具合について報告を求めていますか20 あなたは部下の昇進や昇給など、部下の将来について気を配っていますか21 あなたの計画、手順がまずいために作業時間が無駄になるようなことがありますか22 あなたは部下を公平に取り扱っていますか23 あなたは毎月の目標達成のための計画を綿密に立てていますか24 あなたは部下に対して好意的ですか

縦軸の点数を合計してください。※出所)三隅二不二(1978)『リーダーシップ行動の科学』有斐閣、pp.96-97を一部加筆修正

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職場での管理者行動の診断チェック

Pm型

PM型

M:人間関係維持

pm型

pM型高

高低

P:業績達成

出所)三隅二不二のPM理論より

60

6030

30

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状況適合的リーダーシップとパフォーマンスの関係

Fiedler, F. E. (1972) “The Effects of Leadership Training and Experience: A Contingency Model Interpretation,” Administrative Science Quarterly, Vol.17, pp453-470

好ましい状況 普通の状況 好ましくない状況

リーダーと成員の関係 良い 良い 良い 良い 悪い 悪い 悪い 悪い

タスク構造度 構造的 非構造的 構造的 非構造的

職位パワー 強い 弱い 強い 弱い 強い 弱い 強い 弱い

高LPC(関係動機型):課題を達成する際に人間関係および集団の参画に頼る傾向がある。全てが上手く運ぶ高い統制力の状況では、退屈感を感じて他に挑戦できるものを探索しはじめ、結果的に統制や賞罰に関心が向けられて集団成員に対する配慮が薄くなる。統制力が低い状況では、集団の支持を必要とする欲求が高くなり、その結果、課題がおろそかになりがちとなる。統制力が普通の状況では、仕事に挑戦する気持ちと集団成員との良い関係に対する欲求が上手くバランスがとれて生産性が向上する。

低LPC(課題動機型):課題を達成することに最もパワーを注ぎ込む傾向がある。全てが上手く運ぶ高い統制力の状況では、愉快な人間で、他人に対する配慮もあり、集団成員の意見や感情も大切にする。統制力が低い状況では、仕事が楽しみに優先するので集団の感情を無視しがちになる。統制力が普通の状況では、課題に焦点を絞り込んで集団成員の感情を無視するので、集団に葛藤が生じて課題遂行の妨げとなることもある。

パフォーマンス

高い

低い

低LPCリーダー(課題志向型)

高LPCリーダー(関係志向型)

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LPC尺度による測定

これまでの人生で最も苦手で一緒にやりにくかった人について、以下の問に答えてください。右端と左端には両極端な形容詞が並べてありますが、その度合を表現する位置にある数字を丸で囲んでその数値を右のボックスに記入してく

楽しい 8 7 6 5 4 3 2 1 楽しくない

友好的である 8 7 6 5 4 3 2 1 友好的でない

拒絶的である 1 2 3 4 5 6 7 8 受容的である

緊張度が高い 1 2 3 4 5 6 7 8 ゆとりがある

遠い(疎遠) 1 2 3 4 5 6 7 8 近い(親近)

冷たい 1 2 3 4 5 6 7 8 暖かい

支持的である 8 7 6 5 4 3 2 1 敵対的である

退屈である 1 2 3 4 5 6 7 8 興味深い

口論好きである 1 2 3 4 5 6 7 8 協調的である

陰気である 1 2 3 4 5 6 7 8 朗らかである

開放的である 8 7 6 5 4 3 2 1 警戒的である

陰口をきく 1 2 3 4 5 6 7 8 忠実である

信頼できない 1 2 3 4 5 6 7 8 信頼できる

思いやりがある 8 7 6 5 4 3 2 1 思いやりがない

卑劣である(きたない) 1 2 3 4 5 6 7 8 立派である(きれい)

愛想がよい 8 7 6 5 4 3 2 1 気むずかしい

不誠実である 1 2 3 4 5 6 7 8 誠実である

親切である 8 7 6 5 4 3 2 1 不親切である

合計点が64点以上=高LPC(関係動機型):課題を達成する際に人間関係および集団の参画に頼る傾向があります。合計点が57点以下=低LPC(課題動機型):課題を達成することに最もパワーを注ぎ込む傾向があります。※58点~63点の場合は、どちらのスタイルがより自分に適当なのかを判断してください。

合計

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SL (Situational Leadership)理論

ハーシー=ブランチャードのSL(Situational Leadership)理論(1969)

部下の成熟度

低高

指示的

協同的

低 高

委任的

参加的 説得的

教示的

出所)Hersey, P and Blanchard, K. H. (1969) Management of organizational behavior, Prentice-Hall(山本成二、水野基、成田攻訳『行動科学の展開』生産性出版、1978年p.232)より大幅に加筆修正

M1M2M3M4

業務遂行能力 高い 高い 低い 低い業務遂行意欲 高い 低い 高い 低い

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マネジャーとリーダーは何が違うのか?

マネジャー (変革型)リーダー

目標に対する態度

合理性を尊重し非人格的な態度で、環境変化や目標に対して受動的な態度をとる

環境変化や目標に対して主体的で能動的な態度をとる

仕事の概念

様々なコンフリクトを調整して選択肢を制限することによって問題解決を図る

高度のリスクを伴うような新しいアプローチや選択肢を創造することによって問題解決を図る

他者との関わり

意思決定では実態(何を)よりも手続き(いかにして)を尊重して他者に注意を払う

Win-Win関係を尊重し、曖昧で含蓄のある「シグナル」を用いて部下の感情を傷つけない

時間との競争に追われているために妥協的な意思決定によって勝ち負けを曖昧にする

アイデアに興味があり、直感的で感情移入的な方法で他者と関わろうとし、各人にとって「何を」意味するかに関心がある

集団に対する自己の一体感と孤独や感情と憎悪というような強烈な感情が支配し、しばしば人間関係が荒々しく緊張し無秩序でさえある

自己概念 秩序によって既定された環境に従属し、その規制者でもあろうとする(ex.生まれたときに与えられた人生をそのまま肯定して生きる「人生一毛作型」)

自分をとりまく環境から分離独立した存在であり、環境に従属することはなく、革新によって環境を創造しようとさえする(ex.生まれつきの人生をそのまま受け入れず、自分の努力で変えていく「人生二毛作型」)

出所)Zaleznik, A.(1977) “Managers and Leaders : Are They Different?” Harvard Business Review 9-10,1977より作成

リーダーを育成するためには、才能ある個人を理解し彼らと意思疎通する能力を持った恩師が、思い切って彼らに賭けることである

マネジャーとリーダーの相違

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交換型リーダーシップから変革型リーダーシップへ

出所)Bass, B. M. (1990) From Transactional to Transformational Leadership: Learning to Share the Vision, Organizational Dynamics, Winter, Vol. 18 Issue 3, pp.19-31より作成

変革型リーダーシップ(Transformational Leadership) VS. 交換型リーダーシップ(Transactional Leadership)

変革型リーダーの下では、交換型リーダーの下よりも、部下は言われたこと以上の仕事を進んでやる

変革型リーダーシップ(Transformational Leadership)

交換型リーダーシップ(Transactional Leadership)

カリスマ性 ビジョンやミッションを提示し、誇りの植え付け、尊敬や信頼を獲得する

状況に応じた報酬

努力と報酬を交換することを前提に、優れた成果に報酬を約束し、達成を承認する

鼓舞 高い期待を掲げ、努力を集中させるための象徴を利用し、シンプルな方法で重要な目的を表現する

(能動的)例外によるマネジメント

ルールや標準からの逸脱行為を探し出し、正された行為をとる

知的刺激 知性や合理性や入念な問題解決を促進する

(受動的)例外によるマネジメント

標準的な行為がとられない場合にだけ介入する

個別配慮 個人に注意を払い、個人として従業員を扱い、コーチし、アドバイスする

放任 責任を放棄し、意思決定を忌避する

変革型リーダーシップは先天的なものではなく、後天的に訓練可能なものである

Cf. 交換型リーダーシップ:フォロワーに何らかの見返りを与えることを前提にして、彼らに影響力を与える手段的かつ打算的なリーダーシップ

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卓越したリーダーの特性

成功した企業経営者60人と非営利組織の卓越したリーダー30人のリーダーシップ特性

組織変革におけるリーダーとマネジャーの相違

「「マネージする」とは、「物事を成し遂げ、責任を引き受け、実行すること」であり、「リードする」とは、指示を与えて、方向、手順、行動、意見を導くこと」である。肝心なのはこの違いである。マネジャーは、物事を正しく行う人であり、リーダーは正しい物事を行う人である。この違いは、ビジョンと判断という行為(成果)と、仕事の実践能力、つまり効率との違いである」(Bennis, W.G. and Nanus, B. (1985) Leaders: the strategies for taking charge, Collins Business(小島直記『リーダーシップの王道』新潮文庫、1987年、p.35)

自己開発

ビジョンによる結束(焦点化)

コミュニケーションによる説得

方向づけによる信頼獲得

4つの課題・能力・人間管理法

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マネジメント機能VS. リーダーシップ機能

マネジメント(権威的) リーダーシップ(変革型)

課題の創造

プランニングと財務計画

必要とされている成果を達成するための詳細なステップとタイムテーブルを作り、その上でこれらの行動を進めていくために必要なリソースを割り付ける

方向を定める

将来(多くの場合かなり先の将来)に向けてのビジョンを作り、さらにそのビジョンを達成するのに必要な変革を進める戦略を生み出す

課題達成のための人的ネットワークの開発

組織化と人材配置

計画に伴う要求を満たしていくための組織構造を生み出し、組織に人材を配置し、計画を遂行していくために必要な責任と権限を委譲し、人材の行動を導く制度や方法を定め、さらに実施をモニターしていく方法やシステムを作り出す

人材を目標に向けて整合する

設定した方向を協力が必要とされる人々の全員に言葉と行動でコミュニケートする。その結果、ビジョンと戦略を理解し、その妥当性を承認するチームを同盟を生み出すことに影響を及ぼすことが可能になる

実行 コントロールと問題解決

計画と達成を詳細に比較検討し、差を見つけ出し、そのうえでこれらの問題を解決するための計画と組織化をはかる

人材をモチベートし、鼓舞する

変革の行く手に立ちふさがる大規模な政治的、官僚主義的、資源的な障害を乗り越えるために人材を鼓舞する。この際基本的でありながらなお無視されがちな人材のニーズを満たしていく

成果 正確な予測性と秩序を生み出し、様々なステークホルダーの期待する主要な成果をつねに達成し得る能力を備える(たとえば顧客に対して時間通りに製品を届ける、株主に対してつねに予算を守り利益をあげる、といった例)

かなり劇的なレベルの変革を巻き起こし、きわめて効果的な変革を推進していく能力を備える(たとえば、顧客の欲する製品を生み出す、企業の競争力を高めるために労使関係に対して新しい方法を適用するといった例)

出所)Kotter, John P.(1990) A force for change: how leadership differs from management, The Free Press, p.6(梅津祐良訳『変革するリーダーシップ』ダイヤモンド社、p.8)より一部改編

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組織変革に必要なリーダーシップとマネジメント

変革の努力はしばらく成功を収めるが、短期的成果が不確実になったあと全体的努力も停滞しがちになる

変革の努力が頓挫する

きわめて大きな成功を収める変革の進行によって、リーダーシップとマネジメントが効果的に統合される

コスト削減、企業合併や買収を通じて短期的成果は達成される。しかし本格的変革が開始に手間取り、大規模で長期にわたる変革はほとんど進まない

リーダーシップ

マネジメント

++

++

出所)Kotter, J. P. (1996) Leading change, Harvard Business School Press(梅津祐良訳『企業変革力』日経BP出版センター、2002年、p.215)

現実には多くのマネジャーに対して真のリーダーの数は限られている。優れたリーダーとは、20代もしくは30代からリーダーとしての成功や失敗の経験を通して広範なリーダーシップスキルや広い視野を習得している。したがって、早期からリーダーとしての資質を見極めて、彼らをリーダーとして成長させる機会を意図的に与えることが重要となる。

組織変革に要求されるリーダーシップとマネジメントの役割

Cf. マネジャー/リーダー:現実の経営者はマネジメントとリーダーシップの両方をバランスよく持ち合わせている。「経営に携わる人たちはまず仕事の内容に熟達していなければならないし、他の人たちを鼓舞するモチベーションの起爆力(またはカリスマ性)も備えていなければならない。職務遂行能力、カリスマ性、組織感得力といったこれらの特性は優れた経営者には併せて備わっている」(Neuschel, R. P. (2005) The Servant Leadership: Unleashing the Power of Your People, Kogan Page Ltd.(梅津祐良訳『ケロッグMBAスクールで教えるリーダーシップ・エッセンシャルズ』社会経済生産性本部、2006年)邦訳、pp.55-56)

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これらの二人のコンビに共通する関係とは何か?

豊臣秀吉と豊臣秀長

井深大と盛田昭夫

本田宗一郎と藤沢武夫

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自分のスタイルをチェックしてみる

以下の質問に「はい」ならば「○」,「いいえ」ならば「×」を白い空欄のセルにつけてください。

1 大量の課題や仕事を抱えているとき,納期に合わせて優先順位をつけて仕事を整理する2 どうしても納得できない状況に陥ると,あきらめずに解決するまで徹底的に話し合う3 他の人々と多くの時間を費やすよりもコンピュータの前で座っていたい4 行動や議論の際に他の人々を巻き込むように接触を広げる5 キャリアや家族などの諸活動について自分なりの長期的な見通しをもっている6 問題を解決する際に人々の集団と一緒に物事を検討することを好む

7 部下に対して目標を識別させ,いかにしてそれらを達成することができるかを支援する8 人々にミッションの意味とより高い目標を提供する9 納期通りに仕事が片付くことを確認する

10 新たな製品やサービスの機会を探しだす11 問題解決のための政策と手続きを開発する12 型破りな信念や価値観を支援する13 部下の好業績に対して金銭的な報酬を提供する14 部門内の誰からも信頼を集める15 重要な仕事を遂行するためには一人で取り組む16 物事を実行するための新しくてユニークな方法を提案する17 上手く仕事をこなす人間を信頼する18 自分と組織が支持するハイレベルな価値観を言葉で表現する19 部門がスムーズに運営できるような手順を確立する20 他人を動機づけるために物事の「何故かという意味」を問う21 新たな手段に関してリーズナブルな(もっともな)限界を設ける22 変化を促進させる方法として社会的な不条理を表明する

縦軸の「○」の数を記入してください。※出所)Daft, R. L. (2005) The Leadership Experience, Third Edition , South-Western, p.17 M L

現在のあなたの状況について

あなたが主要部門の責任者だとしたら

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自社の管理職像を分析してみる

リーダーシップ(L)

マネジメント(M)

自分自身のスタイルについて調査票の結果をプロットしてみてください

① ②

10

5

105

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状況次第でフォロワーが求めるリーダーシップは異なる

フォロワーのリーダーシップ認知 平常時 危機

交換型リーダーの顕在化と評価 ○ ×

カリスマ型リーダーの顕在化と評価 × ○

■フォロワーが認知するリーダー属性に与える構造的影響

交換型リーダーの顕在化 交換型リーダーの評価

カリスマ型リーダーの顕在化 カリスマ型リーダーの評価

平常時

危機

※出所)Pillai, R. 1996 “Crisis and the emergency of charismatic leadership in groups : an experimental investigation” Journal of Applied Social Psychology 26 pp.543-239(渕上克義(2002)『リーダーシップの社会心理学』ナカニシヤ出版、p.58より転載して加筆修正)

交換型リーダーシップ:フォロワーに何らかの見返りを与えることを前提にして、彼らに影響力を与える手段的(用具的)かつ打算的なリーダーシップ ex. 政権政党内の派閥リーダーと派閥メンバーの関係

カリスマ型リーダーシップ:神の恩寵のような個人的な資質に基づく影響力によって、社会や組織にポジティブもしくはネガティブな変化をもたらすリーダーシップ ex. ナポレオンやシーザーなどの歴史上の偉人

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カリスマ型リーダーの一般的な特徴

1. 既存の秩序を超越するビジョンやイデオロギーを有する

2. 自信にみなぎる

3. リスク志向的である

4. 英雄的な行動をとる

5. 環境変化に敏感である

6. フォロワーの欲求を理解するセンスに長ける

7. 彼らの自信を鼓舞する能力に優れる

8. 革新的で、しばしば危険な理想を主張する

9. 言葉巧み

10.強力なオーラをまとう

出所)田尾雅夫編著(2010)『よくわかる組織論』ミネルヴァ書房、p.110-111より

カリスマ的リーダーは、閉塞した現状を変革する必要に迫られた場合に誕生する傾向が強く、フォロワーが受け入れ可能な構想を示すが、その影響力が受容されなければ消失してしまう

Copyright ©Masahiko Fujimoto

カリスマ型リーダーシップの行動特性

Ⅰ ビジョンと表現(1~6の平均点=     )1 リーダーは、私達が刺激を受けるような内容の話をする2 リーダーは、私達の前で話をする技術が身についている3 リーダーは、私達の仕事の重要性を私達に話し、仕事へのやる気を出させる4 リーダーは、しばしば経営における将来の可能性について話す5 リーダーは、私達にやる気をおこさせる戦略と目標を与える6 リーダーは、今後の経営についての新しい考えを常に生み出す

Ⅱ 環境感受性(7~12の平均点=     )7 リーダーは、目標の達成を妨げる、不景気などの社会的・文化的な問題をすぐに察知する8 リーダーは、目標の達成を妨げる、設備・人手などの物質的な問題をすぐに察知する9 リーダーは、私達の能力や技術を知っている

10 リーダーは、私達の仕事の限界を知っている11 リーダーは、目標達成を促す新しいチャンスをすぐに察知する12 リーダーは、起業家的で、目標を達成するための新たな機会を決して見逃さないⅢ 型にはまらない行動(13~15の平均点=     )13 リーダーは、目標達成のために型破りな行動をとる14 リーダーは、目標達成のために非伝統的な手段を用いる15 リーダーは、私達が驚くような独特な行動をしばしばみせるⅣ 個人的リスク(16~19の平均点=     )16 リーダーは、目標達成のために相当な危険を冒す17 リーダーは、目標達成のために相当な犠牲を払う18 リーダーは、組織のために相当な危険を冒す19 リーダーは、組織のために自己犠牲をいとわないⅤ メンバーのニーズに対する感受性(20~22の平均点=     )20 リーダーは、私達のニーズや感情を敏感に察知する21 リーダーは、私達に好意や敬意を抱かせる事で私達に影響を与える22 リーダーは、私達のニーズや感情についてしばしば関心を示すⅥ 現体制の非維持(23~24の平均点=     )23 リーダーは今の経営体制や普通のやり方を維持しようとしない24 リーダーは、目標達成に向けてリスクのない無難なやり方に従う事を主張しない

以下のリーダーの行動に関する質問に回答してください1:全くそう思わない,2:あまりそう思わない,3:どちらともいえない,4:ややそう思う,5:全くそう

ⅠからⅥの平均点を記入してください

出所)Conger & Kanungo (1994) "Charismatic leadership in organizations : percievedbehavioral attributes and their measurement" Journal of 0rganizational Behavior 15 pp.439-452(渕上克義(2002)『リーダーシップの社会心理学』ナカニシヤ出版、p.57)より作成

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社会的な不安や苦悩が高まると、権威的な指導者を希求する

出所) Heifetz, R. A. (1994) Leadership without easy answers, Harvard University Press(幸田シャーミン訳『リーダーシップとは何か』産能大学出版部、1996年)

不均衡の時代には、解答を求める人々の切実さが強まる

「苦痛の時代には、私たちはオーソリティ(権力、権威)の方を向く」

組織パフォーマンスとリーダーシップの関係一般的に、組織的なパフォーマンスが顕著であればあるほど、リーダーシップとの因果関係が強調され、フォロワーによって幻想化される傾向がある。出所)Meindl, J. R., Ehrlich, S. B., Dukerich, J. M. (1985) The Romance of Leadership, Administrative Science Quarterly, Vol.30, No.1, pp.78-102

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解決すべき課題の相違:技術的状況VS.適応的状況

社会的機能 技術的状況

問題や解決策が明確な日常的な問題に直面した状況(フォロワーが、公式的なオーソリティに全面的に依存する)

適応的状況

問題や解決策が曖昧で異なる価値観が対立し、新たな価値観に従って学習を必要とする状況(フォロワーが、非公式的なオーソリティとしてのリーダーシップの支援を受けて、価値観や行動様式を学習し適応することが求められる)

方向性 問題の定義と解決を提供する 適応的挑戦は何かを明確にし、状況の診断をし、そして問題の定義と解決についての問いを作る

保護 外からの脅威に対して守る 外からの脅威に対して明らかにする

役割指示 示す 現在の役割分担を混乱させるか、あるいは新しい役割を早急に示してほしいとの圧力に抵抗する

対立のコントロール

秩序を回復する 対立を表面化させるか、それが起きるように仕向ける

規範維持 規範を維持する 規範に挑戦するか、あるいは規範への挑戦を認める

状況の種類 タイプⅠ タイプⅡ タイプⅢ

問題の定義 明確 明確 学習が必要

解決策と実践 明確 学習が必要 学習が必要

主な責任の所在 オーソリティ リーダーとフォロワー リーダー<フォロワー

仕事の種類 技術的 技術的および適応的 適応的

出所)Heifetz, R. A. (1994) Leadership without easy answers, Harvard University Press(幸田シャーミン訳『リーダーシップとは何か』産能大学出版部、1996年、p.116)より加筆修正

出所)同上p.199を基にして改編)

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リーダーシップのスタイルは状況に応じてどう変わるのか?

出所) Daft, R. L. (2005) The Leadership Experience, Third Edition, South-Westernを参照して作成

権威的リーダービジョンやミッションにフォロワーを従わせる

受動的なフォロワーそのビジョンやミッションに、やや無批判的に受動的についていってしまう

適応を促すリーダーフォロワーが困難な課題に立ち向かって学習できるように奉仕する能動的なフォロワーリーダーのビジョンの意味を理解し、主体的に困難な課題に取り組む

安定性とコントロール 変化・危機管理とエンパワーメント

競争と均一性 協調と多様性

自己中心的なヒーロー(私は・・・) 高貴な目的と謙虚さ(我々は・・・)

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サーバント・リーダーシップ

Cf.サーバントリーダーシップ:「リードされる者の利益のためにリードする」(Neuschel, R. P. (2005) The Servant Leadership: Unleashing the Power of Your People, Kogan Page Ltd.(梅津祐良訳『ケロッグMBAスクールで教えるリーダーシップ・エッセンシャルズ』社会経済生産性本部、2006年)

尽くす(サーバント)

導く(リーダー)

一人の人間としてサーバント(召使)とリーダーは共存可能である

「生まれつきサーバントとしての資質を備えた人に、リーダーシップが授けられた」

出所)Greenleaf, R. K. (2002) Servant Leadership a journey into the nature of legitimated power and greatness 25th anniversary Edition, Paulist Press(金井真弓訳、金井壽宏監訳『サーバントリーダーシップ』英治出版、2008年)邦訳、p.45

「サーバント・リーダーとは、そもそもサーバントである。(中略)まず奉仕したい、奉仕することが第一だという自然な感情から始まる。それから、意識的な選択が働き、導きたいと思うようになるのだ。そうした人物は、そもそもリーダーである人、並々ならぬ権力への執着があり、物欲を満足させる必要がある人とはまったく異なっている。そもそもリーダーである人にとって、奉仕は後回しにされる---リーダーシップが確立されてからになる。つまり、そもそもリーダーである人と、そもそもサーバントである人とは両極端なのだ。ただし人の性格はさまざまだから、その度合いは異なるし、両方の性質が混ざった部分もある」(同上、p.53)

出所)同上、監訳者解説、p.564

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困難な適応課題の解決に求められるリーダーシップのスタイル

問題や解決策が曖昧で異なる価値観が対立し、新たな学習を伴う適応課題の解決を必要とする状況

受動的なフォロワーそのビジョンやミッションに、やや無批判的に受動的についていってしまう

権威的なリーダービジョンやミッションにフォロワーを従わせる自己中心的なヒーロー(私は・・・)

人々は不安や葛藤から逃れようとして強いリーダーを求める傾向が強くなると、

リーダーは、フォローワーを魅了するための顕著なパフォーマンスを演出するが、フォロワー自身が学習を伴う適応課題に立ち向かう機会を失う

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何故、戦前のドイツはヒトラーに従ったのか?

戦前のドイツ国民は苦境に喘ぐ中で、権威的なカリスマ型指導者に無批判的に従った

指導者は、フォロワーが魅了される顕著なパフォーマンスを創出し続けるために暴走し崩壊

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困難な適応課題の解決に求められるリーダーシップのスタイル

能動的なフォロワーリーダーのビジョンの意味を理解し、主体的に困難な課題に取り組む

適応を促す(サーバント型)リーダーフォロワーが困難な課題に立ち向かって学習できるように奉仕する:高貴な目的と謙虚さ(我々は・・・)

尽くす(サーバン

ト)

導く(リーダー)

リーダーは、フォローワーが困難な適応課題に対峙し、フォロワー自身が学習することによって新たな環境への適応を促す

人々は不安や葛藤から逃れようとして強いリーダーを求める傾向が強くなるが、しかし

問題や解決策が曖昧で異なる価値観が対立し、新たな学習を伴う適応課題の解決を必要とする状況

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状況に応じて有効なリーダーシップのスタイルは異なる

自己中心的なヒーロー(私は・・・)から高貴な目的と謙虚さ(我々は・・・)へ

VS.

VS.

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適応課題を解決するためのリーダ-シップを発揮する方法

問題提起に伴う不均衡状態を切り抜ける方法

バルコニーに上がる(ダンスフロアから一歩出てバルコニーと往復することで視点を変えて全体像をつかむ)

物事を一人で完結せずに協力できるパートナーを見つける

適応を促す環境を確保して、衝突や適応のエネルギーを適度に制御する

急激な変化のスピードをコントロールして適度なペースをつくる

人々が想像しているものとは異なる将来像を見せる

リーダーシップを発揮するためにリーダーが直面する個人的な挑戦課題

個人的な渇望や欲望(権力、慢心、賞賛、親密さ、性欲など)をコントロールする

「役割」と「自己」を区別して自分らしさを見失わずに自己に自らをつなぎ止めておく聖域をつくる

リーダーシップの原動力は愛情と絆(人々の幸福に貢献)であることを認識する

「無邪気さ」、「好奇心」、「愛情(哀れみ)」をもつこと

技術的な問題 適応を必要とする問題

なすべき仕事は何か? 既存の知識を適用する 新たな方法を学ぶ

仕事をすべき人は誰か? 上に立つ人・権威ある人 問題を抱える人たち自身

出所) Heifetz, R. A. and M. Linsky (2002) Leadership on the line, Harvard Business School Press(ハーバード・MIT卒業生翻訳チーム訳『最前線のリーダーシップ』ファーストプレス、2007年、p.30)

問題の状況に応じた対処の相違

出所) Heifetz, R. A. and M. Linsky (2002) Leadership on the line, Harvard Business School Press(ハーバード・MIT卒業生翻訳チーム訳『最前線のリーダーシップ』ファーストプレス、2007年)

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リーダーとフォロワーの関係

出所)Daft, R. L. (2005) The Leadership Experience, Third Edition, South-Western, p.227

段階1コントロール

段階2参加

段階3権限委譲

段階4サービス

能動的

受動的

権威的マネジャー

従順な部下

参加的マネジャー

チーム・プレイヤー

自己責任の貢献者

任務としての権限委譲リーダー

健全な従業員

サーバント・リーダー

リーダー

フォロワー

コントロールの中心:リーダー/組織

コントロールの中心:フォロワー

Cf. 価値観の変化を伴う不確実な環境変化⇒リーダーシップ=人々を動かして難しい問題に取り組ませる

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リーダーシップ開発のライフ・ストーリー

年齢 30歳 60歳 90歳

人間形成

世界に対して磨きをかける

リードするために立ち上がる

リーダーシップのピーク

再生期知恵/還元

段階Ⅰリーダーシップへの準備

段階Ⅱリードする

段階Ⅲ還元する

私から我々への転換期

リーダーシップはライフ・ストーリーによって形成される

「成功を収めるリーダーシップには、意識的な開発努力、さらに自らのライフ・ストーリーに忠実であることが求められる」(ビル・ジョージ、ピーター・シムズ(2007、原著:2007)『リーダーへの旅路』生産性出版、p.8)

George, B. and P. Sims (2007) True north: discover your authentic leadership, Jossey-Bass(梅津祐良訳リーダーへの旅路』生産性出版、2007年、p.71)

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本物のリーダーの要件とキャリア開発

リーダーシップ開発の要件 本物のリーダーの要件

情熱をもって目的を追及する

確固たる価値観を実践する

真心をもってリードする

永続的な人間関係を築く

厳しく自己統制を実践する

自己認識:ライフストーリーと強み・弱みの認識

価値観と原則:根源的な価値観やモットーは何か

モチベーション:自分の内発的・外発的動機づけ要因の均衡

支援チーム:自分をガイドし支援する信頼すべきは人は誰か

統合された人生:人生の全ての側面を統合し、充実させる

私から我々への転換

個人的なライフストーリー

目的を発見し、それに適応する

他のリーダーたちをエンパワーする

スタイルとパワーの活用の仕方を磨く

影響を及ぼし、成果を生む

George, B. and P. Sims (2007) True north: discover your authentic leadership, Jossey-Bass(梅津祐良訳リーダーへの旅路』生産性出版、2007年、p.252より一部改編

本物のリーダー125人に共通するリーダーの要件とキャリア開発

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リーダーシップの発生プロセス

「はじめから立派なリーダーである人は存在しない。人は、行動を通じて、リーダーに成長する」

社長になろうと思って社長になった人はいても、リーダーになろうと思ってリーダーになった人はいない。リーダーは自らの行動の中で、結果としてリーダーになる。はじめからフォロワーがいるわけではなく、「結果としてリーダーになる」プロセスにおいて、フォロワーが現れる。リーダーシップは、本を読んで修得するものでも、だれかから教わるものでもない。それは私たち一人一人が、自分の生き方の中に発見するものだ。出所)野田智義、金井壽宏(2007)『リーダーシップの旅―見えないものを見る』光文社より

出所)野田 智義「ISL(Institute for Strategic Leadership)」ホームページ(http://www.isl.gr.jp/about/leader.php)より

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リーダーシップ開発のモデル(ベニス&トーマス)

Geeks(騒がしい若者:新世代)とGeezers(偏屈な老人:旧世代)のリーダーの共通点

経験

意味づくり

時代

個人的な因子

厳しい(crucible)試練

リーダーシップ能力

適応力•意志が固い•第一級の認識力を持つ•学ぶ術を身につける•機会を先取りする•創造性が高い

意味の共有化と他者の巻き込み•意見の相違を奨励する•共感する•異常なまでに情報を共有化する

意見と表現•目的が明確である•自己を認識し、自信がある•EQが高い

高潔さ•大志を抱く•能力を発揮する•倫理性が高い

出所)Bennis, W. G. and Thomas, R. J. (2002) Geeks & Geezers, Harvard Business School Press(斎藤彰悟監訳『こうしてリーダーはつくられる』ダイヤモンド社、2003年)邦訳、p.168

時代を超えて共通する優れたリーダーに共通することは、優れた適応力、楽観主義、客観的な分析能力などの資質や能力だが、厳しい試練を乗り越えて、内省的な省察によって経験的学習を通して体得する部分が少なくない。

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リーダーシップ開発のモデル(モーガン・マッコール)

才能 経験

メカニズム

触媒

事業戦略

適切な資質(right stuff)

+ =

出所) McCall, M. W. Jr. (1998) High flyers: developing the next generation of leaders, Harvard Business School Press(リクルートワークス研究所訳『ハイ・フライヤー』プレジデント社、2002年p.261を加筆修正)

■早期から継続的に「成長を促す経験」を積ませることが重要であり,「多様な経験から学習する能力が人材開発の中心になるため,学習能力を評価することが早期選抜の核心となる」(同上,p.198)

■「人は他者を開発させることはできない。しかし、組織は人材開発が支持される環境を創造し、人材開発が期待される環境を設計し、環境を形成する。そして最終的には責任をもって面倒をみることができる。成長しない人は、その企業にいることはできない」(同上、p.275)

■「リーダーは生まれつきもあり,つくられることもあるけれども,たいていはつくられるものだ」

つまり,「リーダーシップは,主に学習できるものであり,「経験」こそが学校だと考えるならば,リーダーの「コンピテンシー」は,「経験」の積み重ねから得られるものであり,祖先から受け継がれるものではないといえる。潜在能力とは持っている資質ではなく,むしろ将来に必要な資質を習得する能力であると,私は確信している。すべてのリーダーにぴたりとあてはまる特徴やコンピテンシーはひとつではない。リーダーになろうとしている人にとって重要なことは,事業戦略を遂行する際に出会う障害を乗り越えるために,いかに備えるかということである。急速に変化する世界では,リーダーシップを測る基準は状況の変化に応じて必要とされる新しいスキルを得る能力である」( McCall, M. W. Jr. (1998) High flyers: developing the next generation of leaders, Harvard Business School Press(リクルートワークス研究所訳『ハイ・フライヤー』プレジデント社、2002年p.25)

経験から学ぶ能力

事業戦略に必要なリーダーシップの課題とは何か,どのような経験が要求されるのか

困難な経験が人を育てる

•フィードバック情報の改善•インセンティブとリソースの提供•変化のための努力を支援する

有能な人材に理想的な経験を与える

リーダーシップ

※困難な経験からの学習機会に積極的に挑戦

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成長を促す経験

課題 初期の仕事経験(初期の非管理的業務)

最初の管理経験(初めて人を管理する)

ゼロからのスタート(何もないところから何かを築き上げる)

立て直し(破綻している事業を立て直す/安定させる)

プロジェクト/タスクフォース(独立したプロジェクトと課題を単独あるいはチームで実施する)

視野の変化(管理する人数,予算,職域が増える)

ラインからスタッフへの異動(現場のラインから会社のスタッフ職への異動)

他の人とのつながり

ロールモデル(良きにつけ悪しきにつけ並外れた資質を持つ上司からの影響)

価値観(個人や会社の価値を示す行動の「スナップショット」)

修羅場 事業の失敗とミス(失敗したアイデアや取引)

降格/昇進を逃す/惨めな仕事(切望した仕事に就けない,あるいは左遷)

部下の業績の問題(パフォーマンスに重大な問題を抱える部下に直面する)

規定路線からの逸脱(現在の仕事への不満に応じて,新しいキャリアに挑戦する)

個人的なトラウマ(離婚,病気,死などの個人的な危機やトラウマ)

その他 コースワーク(公式の研修プログラム)

個人的な問題(仕事以外の経験)

出所) McCall, M. W. Jr. (1998) High flyers: developing the next generation of leaders, Harvard Business School Press(リクルートワークス研究所訳『ハイ・フライヤー』プレジデント社、2002年p.110)